説明

車両用サスペンションアーム

【課題】 厚さの異なる板材が溶接されて製作されたテーラードブランク材が素材として用いられていながら、耐久性の高いサスペンションアームを提供する。
【解決手段】 サスペンションアーム16が成形される前に直線であった溶接部44が、圧縮応力および引張応力のほとんど発生しない、車体側軸受部30および車輪側軸受部32のそれぞれの回動軸線を含む基準平面に対して、長手方向の中央部において上方と下方との一方に、両端部において上方と下方との他方に位置するようサスペンションアームに成形される。したがって、溶接部を、基準平面、または、その近傍に位置させることができるため、疲労強度の低下している溶接部に発生する応力が比較的小さくなり、サスペンションアームの耐久性は高くなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、テーラードブランク材を用いた車両用サスペンションアームに関する。
【背景技術】
【0002】
一般的に、車両のサスペンション装置に用いられるサスペンションアームは、下記特許文献に記載されているように、鋼板等の板材を素材として使用し、その板材をプレス成形することによって製作されている。また、サスペンションアームは、車体と車輪とを連結しており、車体に対して、車輪と共に揺動する。そのため、サスペンションアームは軽量であって、かつ、大きな外力にも耐える強度がなければいけない。ただし、サスペンションアームの全ての部位において、同じ強度が求められるわけではないため、サスペンションアーム全体が、板厚の均一な板材から構成されている必要はない。テーラードブランク材は、一枚の板材でありながら、板厚の厚い部位と薄い部位とを有しており、そのテーラードブランク材を使用することで、強度を必要とする部位では板厚が厚く、強度をさほど必要としない部位では板厚が薄くなるように、サスペンションアームを製作することが可能となる。そのため、サスペンションアームは軽量でありながら、かつ、必要な強度を有することができる。下記特許文献においても、テーラードブランク材がサスペンションアームの素材として用いられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2005−152975号公報
【特許文献2】実開平6−61513号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
テーラードブランク材は、一般に、突き合わされた複数の板材が、溶接によって接合されることで製作される。テーラードブランク材の溶接が行われた部分においては、熱の影響による疲労強度の低下等が起きている可能性がある。接合部分の疲労強度が他の部分よりも低い場合には、サスペンションアームの耐久性が損なわれてしまう可能性もある。このような実情に鑑み、本発明は、テーラードブランク材が素材として用いられていながら、耐久性の高いサスペンションアームを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するために、本車両用サスペンションアームは、(A)長手方向に延びる両辺が直線をなす第1の板材と、(B)幅方向においてその第1の板材を挟んで配置され、それぞれが、その第1の板材に溶接にて突合せ接合され、その第1の板材と厚さの異なる1対の第2の板材とからなるテーラードブランク材を用い、そのテーラードブランク材を、長手方向における中央部が両端部よりも幅広な形状を有する舟形に成形してなるアーム部と、一方がアーム部の長手方向における一端部に、他方が他端部に設けられ、それぞれが互いに平行な回動軸線を規定する1対の軸受部とを備えた車両用サスペンションアームであって、1対の第2の板材の各々と第1の板材との突合接合線が、1対の軸受部の各々によって規定される2つの回動軸線を含む平面に対して、長手方向の中央部において上方と下方との一方に、両端部において上方と下方との他方に位置するように、アーム部が成形されている。
【発明の効果】
【0006】
突合接合線が直線となっている上記テーラードブランク材が、長手方向における中央部が両端部よりも幅広な舟形をなすサスペンションアームに成形させられると、突合接合線は、直線から曲線に変形させられる。一方、サスペンションアームにおいて、後で詳しく説明するが、アーム部の上記2つの回動軸線を含む平面(以下、「基準平面」という場合がある)上に位置する部位では、圧縮応力および引張応力がほとんど発生しない。本発明の車両用サスペンションアームにおいては、曲線となった突合接合線が、基準平面に対して、上方あるいは下方に位置させられる。したがって、突合接合線を、基準平面、または、その近傍に位置させることができるため、突合接合部には、比較的小さな応力しか発生しないようにすることができる。したがって、本発明のサスペンションアームによれば、テーラードブランク材がサスペンションアームの素材として用いられていながら、疲労強度の低下している突合接合部に発生する応力が比較的小さく、耐久性の高いサスペンションアームを実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【図1】本発明の実施例であるサスペンションアームを含んで構成されたサスペンション装置の概略図である。
【図2】実施例のサスペンションアームの外観図である。
【図3】テーラードブランク材から実施例のサスペンションアームが製作されるまでの工程を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明を実施するための形態として、本発明の一実施例を、図を参照しつつ詳しく説明する。なお、本発明においては、下記の実施例に限定されるものではなく、当業者の知識に基づいて種々の変更、改良を施した種々の形態で実施することができる。
【実施例】
【0009】
図1は、非駆動輪である後輪に対して設けられた車両用サスペンション装置10の外観図である。サスペンション装置10は、独立懸架式であって、ダブルウィッシュボーン方式となっている。車輪12は、アクスルキャリア14に回転可能に保持されている。そのアクスルキャリア14は、ロアアーム16、アッパーアーム18、トレーリングアーム20等の各サスペンションアームの一端に、回動可能に保持されている。また、各サスペンションアーム16、18、20の他端は、車体に回動可能に保持されている。したがって、車輪12およびアクスルキャリア14は、車体に対して揺動することができる。ロアアーム16には、サスペンションスプリング22、ショックアブソーバ24、トーションバー26の各部品の一端が取り付けられている。これらの部品は、車輪12およびアクスルキャリア14の揺動によるロアアーム16の動作に依拠して、それぞれの機能を発揮する。ちなみに、ロアアーム16が、本発明の実施例としてのサスペンションアームである。
【0010】
図2に、ロアアーム16の外観図を示す。図2(a)は平面図であり、図2(b)は側面図である。ロアアーム16は、アーム部28、車体側軸受部30、車輪側軸受部32から構成されている。サスペンションスプリング22の一端をアーム部28に取り付け可能とするため、アーム部28は、長手方向における中央部が両端部よりも幅広であって、その上方に開口する舟形に成形されている。また、その開口の縁に沿って、フランジ34a,34bが形成されている。
【0011】
ロアアーム16は、車体側軸受部30において、車体に対して回動可能となっており、また、車輪側軸受部32において、アクスルキャリア14に対して回動可能となっている。つまり、車輪12およびアクスルキャリア14は、車体側軸受部30と車輪側軸受部32とによって構成される1対の軸受部によって、車体に対して揺動可能とされているのである。車体側軸受部30および車輪側軸受部32のそれぞれの回動軸線は、互いに平行となっている。なお、これら回動軸線を含む平面を、基準平面と呼ぶことにする。
【0012】
ロアアーム16には、テーラードブランク材38が素材として使用されている。図3(a)には、テーラードブランク材38を構成する第1の板材と、1対の第2の板材とを示す。1対の第2の板材が厚板材40であり、第1の板材が薄板材42である。それらはいずれも炭素鋼鋼板である。また、厚板材40の板厚は、薄板材42の板厚より厚くなっている。テーラードブランク材38の幅方向において、薄板材42は、中央部に配置される。1対の厚板材40は、薄板材42に、それの長手方向に延びる両辺において、突き合わされ、レーザ溶接によって接合される。この溶接接合された部分を、溶接部44と呼ぶことにする。溶接部44は、テーラドブランク材38における突合接合線上に位置している。その突合接合線は、図3(b)に示すように、板材の切断、および、板材どうしの位置合わせが容易であるため、直線形状となっている。
【0013】
テーラードブランク材38は、絞り加工によって所定の形状に成形され、その後、余分な部分が切り落とされて、アーム部28が製作される。図3(b)では、テーラードブランク材38のうちアーム部28として残る部分、つまり、絞り加工される前のアーム部28の外形が、仮想線(2点鎖線)によって模式的に示されている。このアーム部28に、さらに、孔加工が施され、その後に、車体側軸受部30、車輪側軸受部32が両端部に溶接されて、図3(c)に示すロアアーム16が完成する。
【0014】
ロアアーム16において必要とされる強度は、ロアアーム16の部位によって異なる。そのため、必要な強度に応じて、厚板材40と薄板材42とが適切な部位に配置されるように、厚板材40および薄板材42の寸法があらかじめ決められている。ロアアーム16においては、フランジ部34a、34bでは高い強度が必要とされるため、フランジ部34a、34bには厚板材40が配置される。また、フランジ部以外の部位では高い強度が必要とされないため、その部位には薄板材42が配置される。このように構成されたロアアーム16は、軽量でありながら、必要な強度を有している。
【0015】
なお、図2(b)に示すように、溶接部44、すなわち、突合接合線が、中央部において基準平面の下方にあって、両端部において基準平面の上方にある曲線へと変形されている。以下に、このような曲線に変形された溶接部44における応力の発生について説明する。
【0016】
車両の走行時、ロアアーム16が車体側軸受部30を中心として揺動する。つまり、ロアアーム16には、車輪12から、それを揺動させる外力が作用する。一方、サスペンションスプリング22、ショックアブソーバ24、トーションバー26からアーム部28に対して、反対向きの外力が作用する。例えば、図2(b)に示すように、車体側軸受部30を支点として、車輪12から車両側軸受部32に上向きの外力が作用した場合、アーム部28には、サスペンションスプリング22等からの反対向きの外力が作用する。その結果、ロアアーム16には曲げ力が作用しており、その曲げ力に起因して、ロアアーム16の上部には、基準平面と平行に圧縮方向の応力が発生し、一方、ロアアーム16の下面には、基準平面と平行に引張方向の応力が発生する。また、車両側軸受部32に下向きの外力が作用した場合には、逆に、ロアアーム16の上部には、基準平面と平行に引張応力が発生し、ロアアーム16の下部には、基準平面と平行に圧縮応力が発生する。ただし、いずれの場合においても、基準平面においては、圧縮方向および引張方向の応力はほとんど発生しない。このように、ロアアーム16に曲げ力が作用する場合、圧縮応力および引張応力は、基準平面においてはほとんど発生しないが、基準平面から離れるにつれて大きくなる。
【0017】
このような圧縮応力および引張応力が、ロアアーム16に発生することを考慮すると、疲労強度の低下している溶接部44が応力の大きい部位に配置されれば、サスペンションアーム16の耐久性が損なわれてしまう。本ロアアーム16においては、溶接部44が、車体側軸受部30および車輪側軸受部32の付近では、基準平面に対して上方に位置し、車体側軸受部30と車輪側軸受部32との中央部では、基準平面に対して下方に位置する曲線となるように、厚板材40および薄板材42の寸法があらかじめ決められている。したがって、溶接部44を、圧縮応力および引張応力のほとんど発生しない基準平面、および、その近傍に位置させることができるため、疲労強度の低下している溶接部44に発生する応力は、比較的小さくなるのである。その結果、本ロアアーム16は、テーラードブランク材が素材として用いられていながら、耐久性が高いのである。
【0018】
なお、上記サスペンションアームは、上部が開口するようにし使用されていたが、下方に開口するサスペンションアームとして用いること等も可能である。つまり、上記と同様に製作されたサスペンションアームを、上下逆さにして使用することもできるのである。その場合、溶接部は、長手方向の中央部において上方に、両端部において下方に位置させられる。その場合においても、溶接部を、基準平面、または、その近傍に位置させることができるため、溶接部に発生する応力を比較的小さくなるのである。
【0019】
また、上記サスペンションアームでは、中央に薄板材、その両側に1対の厚板材を配置したテーラードブランク材が使用されていたが、中央に厚板材、その両側に1対の薄板材を配置したテーラードブランク材を用いること等も可能である。その場合であっても、突合接合線が、サスペンションアーム長手方向の中央部において上方と下方との一方に、両端部において上方と下方との他方に位置するように、アーム部が成形されていれば、溶接部に発生する応力を比較的小さくなるのである。
【符号の説明】
【0020】
16:ロアアーム 28:アーム部 30:車体側軸受部 32:車輪側軸受部 34a、34b:フランジ部 38:テーラードブランク材 40:厚板材 42:薄板材 44:溶接部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
長手方向に延びる両辺が直線をなす第1の板材と、幅方向においてその第1の板材を挟んで配置され、それぞれが、その第1の板材に溶接にて突合せ接合され、その第1の板材と厚さの異なる1対の第2の板材とからなるテーラードブランク材を用い、そのテーラードブランク材を、長手方向における中央部が両端部よりも幅広な形状を有する舟形に成形してなるアーム部と、
一方がアーム部の長手方向における一端部に、他方が他端部に設けられ、それぞれが互いに平行な回動軸線を規定する1対の軸受部と
を備えた車両用サスペンションアームであって、
前記1対の第2の板材の各々と前記第1の板材との突合接合線が、前記1対の軸受部の各々によって規定される2つの回動軸線を含む平面に対して、長手方向の中央部において上方と下方との一方に、両端部において上方と下方との他方に位置するように、前記アーム部が成形されていることを特徴とする車両用サスペンションアーム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−241259(P2010−241259A)
【公開日】平成22年10月28日(2010.10.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−92024(P2009−92024)
【出願日】平成21年4月6日(2009.4.6)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】