説明

車両用サスペンションメンバ支持装置

【課題】サイドメンバとサスペンションメンバの相対移動方向の制限を低く抑え、衝撃力の入力時、サスペンションメンバの落下機能の作動を確保することができる車両用サスペンションメンバ支持装置を提供すること。
【解決手段】車両用サスペンションメンバ支持装置は、フロントサイドメンバ1と、サスペンションメンバ3と、締結ボルト4,5と、メンバ締結構造6と、を備える。フロントサイドメンバ1は、車体左右位置に配置され、車両前後方向に延びて車体骨格構造を形成する。サスペンションメンバ3は、フロントサイドメンバ1に固定される。締結ボルト4,5は、フロントサイドメンバ1に対してサスペンションメンバ3を締結固定する。メンバ締結構造6は、フロントサイドメンバ1の箱断面のうち対向する二つの面11a,11bの間に設けられ、二つの面11a,11bの対向面間距離L1が拡大することにより、締結ボルト4,5によるサスペンションメンバ3の締結固定を解除する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両のサイドメンバに対しサスペンションメンバを締結により支持する車両用サスペンションメンバ支持装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、締結部の穴をU字型スリットとし、衝突時、フロントサイドメンバとサスペンションメンバの前後方向相対移動をきっかけとしてサスペンションメンバを落下させるようにした車両におけるサブフレーム支持構造が知られている(例えば、特許文献1参照)。
そして、衝突時、サスペンションメンバを落下させることにより、それに支持されたエンジンや電動モータ等の車室への進入量を低減させることを狙っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平11−171046号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、従来の車両におけるサブフレーム支持構造にあっては、フロントサイドメンバとサスペンションメンバが共に後退すると、サスペンションメンバの落下機能が作動しないなど、両者の相対移動方向に制限がある、という問題があった。
【0005】
本発明は、上記問題に着目してなされたもので、サイドメンバとサスペンションメンバの相対移動方向の制限を低く抑え、衝撃力の入力時、サスペンションメンバの落下機能の作動を確保することができる車両用サスペンションメンバ支持装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため、本発明の車両用サスペンションメンバ支持装置は、サイドメンバと、サスペンションメンバと、締結ボルトと、メンバ締結構造と、を備えた手段とした。
前記サイドメンバは、車体左右位置に配置され、車両前後方向に延びて車体骨格の一部を構成する。
前記サスペンションメンバは、前記サイドメンバに固定され、サスペンションリンク部材を支持する。
前記締結ボルトは、前記サイドメンバに対して前記サスペンションメンバを締結固定する。
前記メンバ締結構造は、前記サイドメンバの箱断面のうち対向する二つの面の間に設けられ、前記二つの面の相対距離が拡大することにより、前記締結ボルトによる前記サスペンションメンバの締結固定を解除する。
【発明の効果】
【0007】
よって、衝撃力の入力時、サスペンションメンバがサイドメンバに対して離れる方向に移動すると、サイドメンバの箱断面のうちサスペンションメンバが取りついた側の面が引っ張られる。そうすると二つの面が離れ、二つの面の相対距離が拡大することにより、締結ボルトとメンバ締結構造によるサスペンションメンバの締結固定が解除される。このサスペンションメンバの締結固定解除によって、サスペンションメンバが落下する。
このように、サイドメンバの箱断面のうち対向する二つの面の間にメンバ締結構造を設けた。このため、サスペンションメンバがサイドメンバから離れる方向が、下方向であっても前後方向を含んだ斜め方向であっても、サイドメンバの箱断面の二つの面の距離は、離れる方向(二つの面の相対距離が拡大する方向)となる。
この結果、サイドメンバとサスペンションメンバの相対移動方向の制限を低く抑え、衝撃力の入力時、サスペンションメンバの落下機能の作動を確保することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】実施例1の車両用サスペンションメンバ支持装置を示す分解斜視図である。
【図2】実施例1の車両用サスペンションメンバ支持装置におけるメンバ締結構造を示す分解斜視図である。
【図3】実施例1の車両用サスペンションメンバ支持装置によるサスペンションメンバの支持状態をあらわし、(a)はサスペンションメンバ支持状態断面図を示し、(b)はサスペンションメンバ支持状態におけるフロントサイドメンバの対向面間距離を示す。
【図4】実施例1の車両用サスペンションメンバ支持装置によるサスペンションメンバの落下状態をあらわし、(a)はサスペンションメンバ落下状態断面図を示し、(b)はサスペンションメンバ落下状態におけるフロントサイドメンバの対向面間距離を示す。
【図5】実施例2の車両用サスペンションメンバ支持装置を示す分解斜視図である。
【図6】モータルームに電動モータを装備した電気自動車(EV)におけるサスペンションメンバの衝突時変形モードを示す側面図である。
【図7】車輪のハブ内部に電動モータを装備した実施例2の電気自動車(IWM−EV)におけるサスペンションメンバの支持状態を示す側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の車両用サスペンションメンバ支持装置を実現する最良の形態を、図面に示す実施例1および実施例2に基づいて説明する。
【実施例1】
【0010】
まず、構成を説明する。
図1は、実施例1の車両用サスペンションメンバ支持装置を示す分解斜視図である。以下、図1に基づき全体構成を説明する。
【0011】
実施例1の車両用サスペンションメンバ支持装置は、図1に示すように、フロントサイドメンバ1(サイドメンバ)と、サスペンションメンバ3と、締結ボルト4,5と、メンバ締結構造6と、を備えている。
【0012】
前記フロントサイドメンバ1は、車室より前方の車体を構成するため、車体左右位置に配置され、車両前後方向に延びて車体骨格構造を形成する。このフロントサイドメンバ1は、車両前方に突出する左右対称の一対のメンバにより構成されているが、図1では片側のメンバのみを示す。このフロントサイドメンバ1には、走行用駆動源(エンジンや電動モータ)やサスペンションメンバ3などが取り付けられる。このフロントサイドメンバ1は、衝突時の衝撃を吸収する役割を与えられている場合がある。
【0013】
前記サスペンションメンバ3は、フロントサイドメンバ1の下面に固定され、図外のサスペンションリンク部材を支持する。
【0014】
前記締結ボルト4,5は、フロントサイドメンバ1の下面に対してサスペンションメンバ3を締結固定する。なお、図1の4a,5aは締結ボルト4,5の雄ネジ部である。
【0015】
前記メンバ締結構造6は、フロントサイドメンバ1の箱断面のうち対向する二つの面の間に設けられ、二つの面の相対距離が拡大することにより、締結ボルト4,5によるサスペンションメンバ3の締結固定を解除する構造である。ここで、フロントサイドメンバ1は、本体部11のフランジと蓋部12のフランジをスポット溶接することにより箱断面に構成されている。
【0016】
図2は、実施例1の車両用サスペンションメンバ支持装置におけるメンバ締結構造を示す分解斜視図である。以下、図2に基づいて、実施例1のメンバ締結構造6を詳細に説明する。
【0017】
前記メンバ締結構造6は、図2に示すように、溶接ナット8の位置規制をする位置規制ブラケット7(位置規制部材)と、締結ボルト4が螺合する溶接ナット8と、を有して構成されている。
【0018】
前記位置規制ブラケット7は、フロントサイドメンバ1の本体部11における上下に対向する二つの面11a,11bのうち上面11aに固定される。そして、二つの面11a,11bの相対距離L1が拡大することにより溶接ナット8の位置規制を解除する位置規制部材である。この位置規制ブラケット7は、図2に示すように、本体部11の上面11aに溶接固定するフランジ部7a,7bと、両フランジ部7a,7bを連結する台形状に折り曲げ形成されたブラケット本体7dと、ブラケット本体7dの上底部を貫通して形成したナット穴7cと、を有する。そして、溶接ナット8の先端部分に対し、溶接ナット8の外径と同等、もしくは、少し小さい内径を持つナット穴7cを差し込み嵌合することにより、溶接ナット8を上下2階建ての位置規制をする。
【0019】
前記溶接ナット8は、フロントサイドメンバ1の本体部11における上下に対向する二つの面11a,11bのうち下面11bに溶接される。この溶接ナット8は、ナット軸方向の切り欠きによるスリット8aと、ナット周方向の全周溝8b(周溝)と、溶接フランジ部8cと、雌ネジ部8dと、を有する。スリット8aは、図2に示すように、周方向等間隔に4本設けられ、溶接ナット8を4分割する。全周溝8bは、図2に示すように、U字断面溝であり、溶接されるフランジ部8c側の下部位置に有する。そして、全周溝8bより上部領域に締結ボルト4の雄ネジ部4aと螺合する雌ネジ部8dを設定している。
【0020】
次に、作用を説明する。
まず、「サスペンションメンバ支持構造の課題について」の説明を行う。続いて、実施例1の車両用サスペンションメンバ支持装置における作用を、「通常時のサスペンションメンバ支持作用」、「衝突時のサスペンションメンバ落下作用」に分けて説明する。
【0021】
[サスペンションメンバ支持構造の課題について]
車体とサスペンションメンバの固定部に、前後方向の差込みピンを用いる自動車のサスペンションメンバの取り付け構造が知られている(特開平9−66718号公報の図1参照)。また、メインフレームとサブフレームの締結部の穴をU字型スリットとし、衝突時、フロントサイドメンバとサブフレームの前後方向相対移動をきっかけとしてサブフレームを落下させるようにした車両におけるサブフレーム支持構造が知られている(特開平11−171046号公報の図2参照)。
【0022】
上記構造は、何れの構造も、衝突時、サイドメンバ(=車体、メインフレーム)からサスペンションメンバ(=サブフレーム)を落下させることにより、サスペンションメンバに支持されたエンジンや電動モータ等の車室への進入量を低減させ、乗員の衝突安全性の向上を図ることを狙っている。
【0023】
しかしながら、上記構造にあっては、サイドメンバとサスペンションメンバが共に後退すると、サスペンションメンバの落下機能が作動しないなど、両者の相対移動方向に制限がある。このように、サイドメンバとサスペンションメンバの相対移動方向に制限があると、例えば、正面衝突時であって、両メンバの相対移動方向が車両前後方向でない限り、サスペンションメンバの落下機能が作動しないことになる。言い換えると、両メンバの相対移動方向が車両前後方向となり難い衝突時(例えば、オフセット衝突時や側面衝突時や斜め方向からの衝突時等)においては、サスペンションメンバの落下機能が作動しない。
【0024】
したがって、両メンバの相対移動方向に制限があるということは、衝突時、サスペンションメンバに支持されたエンジンや電動モータ等の車室への進入量を低減させるという本来の意義を失ってしまうことになる。すなわち、両メンバの相対移動方向の制限を低く抑えて、サスペンションメンバの落下機能を確実に作動させることは、乗員の衝突安全性の向上を図る上で重要な技術課題である。
【0025】
[通常時のサスペンションメンバ支持作用]
図3は、実施例1の車両用サスペンションメンバ支持装置によるサスペンションメンバの支持状態をあらわし、(a)はサスペンションメンバ支持状態断面図を示し、(b)はサスペンションメンバ支持状態におけるフロントサイドメンバの対向面間距離を示す。以下、図3に基づき通常時のサスペンションメンバ支持作用を説明する。
【0026】
サスペンションメンバ3は、図3(a)に示すように、締結ボルト4によりフロントサイドメンバ1に締結されている。この時、締結ナット8は、フランジ部8cがフロントサイドメンバ1の本体部11に溶接固定されており、先端部が位置規制ブラケット7のナット穴7cとの差し込み嵌合により保持されている。
【0027】
このように、位置規制ブラケット7による上下2階建ての位置規制構造とした。このため、締結ボルト4の傾きによる転び方向の変形力が加わっても、位置規制ブラケット7を変形させることなく力を受け、サスペンションメンバ3を、フロントサイドメンバ1に対して強固に締結固定することができる。この時、フロントサイドメンバ1の本体部11の対向する上下面11a,11bの対向面間距離は、図3(b)に示すように、対向面間距離L1を保っている。
【0028】
以上説明したように、実施例1は、メンバ締結構造6は、本体部11の上面11aに固定された位置規制ブラケット7と、本体部11の下面11bに溶接され、締結ボルト4が螺合する溶接ナット8と、を有する構造を採用している。
したがって、下部を溶接ナット8、上部を位置規制ブラケット7という上下2階建てのメンバ締結構造6により、通常時における溶接ナット8の位置規制を保つ作用を示す。
このため、通常時、溶接ナット8の傾きによる転び方向の変形にも強く、サスペンションメンバ3を強固に締結固定することができる。
【0029】
実施例1では、位置規制ブラケット7として、溶接ナット8の先端部をナット穴7cに差し込み嵌合することで位置規制するブラケットを採用した。
したがって、位置規制ブラケット7に差しまれた状態で締結ボルト4の締結力を維持するが、その差込み代の調整によりサスペンションメンバ3の落下に至る入力荷重を調整することができる。すなわち、差込み代を大きくするほど、サスペンションメンバ3の落下に至る入力荷重を大きく調整することができる。
このため、サスペンションメンバ3の落下に至る入力荷重を、溶接ナット8の長さ設定、または、位置規制ブラケット7の形状設定というように、簡単で小規模な設定変更により調整することができる。
【0030】
[衝突時のサスペンションメンバ落下作用]
図4は、実施例1の車両用サスペンションメンバ支持装置によるサスペンションメンバの落下状態をあらわし、(a)はサスペンションメンバ落下状態断面図を示し、(b)はサスペンションメンバ落下状態におけるフロントサイドメンバの対向面間距離を示す。以下、図4に基づいて衝突時のサスペンションメンバ落下作用を説明する。
【0031】
衝突時のサスペンションメンバ落下作用の概要は、衝突時、箱断面によるフロントサイドメンバ1の下面11bを変形させながら移動し、フロントサイドメンバ1の上面11aとの位置関係が変化することにより、締結力失いサスペンションメンバ3を落下させる。そして、サスペンションメンバ3を落下させることにより、それに支えられたエンジンや電動モータ、等が、車室への進入量を低減するものである。
【0032】
衝突時、衝撃力の入力によりサスペンションメンバ3は、フロントサイドメンバ1から離れる方向(図4では、一例として右下方向)に移動すると、締結ボルト4を介して締結ナット8が、フロントサイドメンバ1の下面11bを変形させながら下方向に引っ張られる。この時、位置規制ブラケット7は、フロントサイドメンバ1の上面11bに接合されているため移動せず、結果として、締結ナット8の上部と位置規制ブラケット7のナット穴7cの嵌合が外れる。そして、締結ボルト4からの引っ張り力により、嵌合が外れた締結ナット8は、全周溝8bを基点として、上部がテーパー状に広がり、締結ボルト4およびサスペンションメンバ3を落下させる。この時、締結ナット8上の全周溝8bおよびスリット8aがナット上部をテーパー状に拡大するのを補助する。
【0033】
このように、サスペンションメンバ3がフロントサイドメンバ1から離れる方向が何れの方向(例えば、下方向、前後方向を含んだ斜め方向、等)であっても、フロントサイドメンバ1の箱断面の二つの面11a,11bの相対距離は拡大する方向となる。つまり、衝突時の入力によりサスペンションメンバ3がフロントサイドメンバ1から離れる方向に移動さえすれば、二つの面11a,11bは、対向面間距離L1から対向面間距離L2(>L1)に拡大することになる。
【0034】
以上説明したように、実施例1は、フロントサイドメンバ1の箱断面の二つの面11a,11bの相対距離は拡大することにより、締結力が失われサスペンションメンバ3を落下する構造を採用した。
したがって、衝突時に入力により、フロントサイドメンバ1とサスペンションメンバ3の相対距離(=対向面間距離L1)が離れる方向になれば、サスペンションメンバ3の落下に至る。この離れる方向は、上下方向でも前後方向成分を含んだ斜め方向でも良く、従来構造に対し方向の自由度が高い。
このため、フロントサイドメンバ1とサスペンションメンバ3の相対移動方向の制限が低く抑えられ、衝撃力の入力時、サスペンションメンバ3の落下機能の作動を確保することができる。
【0035】
実施例1では、締結ナット8に、全周溝8bおよびスリット8aが設ける構成を採用した。
したがって、締結ナット8は、全周溝8bおよびスリット8aによりナット先端部を狭めることができるため、位置規制ブラケット7のナット穴7cへ嵌め込むのが容易となり、アッセンブリー時間を短縮できる。その後、締結ナット8に締結ボルト4が締結されることにより、ナット先端部の外径は元に戻り、狭めることができなくなる。
このため、位置規制ブラケット7のナット穴7cのサイズ調整により、容易な組付け性を確保しながら、ボルト締結後は適度な摩擦をもった嵌合状態にすることができる。
【0036】
実施例1では、締結ナット8は、下部に全周溝8bを設けると共に、全周溝8bより上部に雌ネジ部8dを設定する構成を採用した。
したがって、全周溝8bを基点として、締結ナット8の上部がテーパー状に広がり易くなり、雌ネジ部8dをナット上部に設定することにより、テーパー状に広がった際に締結ボルト4が抜け易くなる。
このため、衝突時、確実に締結ボルト4およびサスペンションメンバ3を落下させることができる。
【0037】
次に、効果を説明する。
実施例1の車両用サスペンションメンバ支持装置にあっては、下記に列挙する効果を得ることができる。
【0038】
(1) 車体左右位置に配置され、車両前後方向に延びて車体骨格構造を形成するサイドメンバ(フロントサイドメンバ1)と、
前記サイドメンバ(フロントサイドメンバ1)に固定され、サスペンションリンク部材を支持するサスペンションメンバ3と、
前記サイドメンバ(フロントサイドメンバ1)に対して前記サスペンションメンバ3を締結固定する締結ボルト4,5と、
前記サイドメンバ(フロントサイドメンバ1)の箱断面のうち対向する二つの面11a,11bの間に設けられ、前記二つの面11a,11bの相対距離(対向面間距離L1)が拡大することにより、前記締結ボルト4,5による前記サスペンションメンバ3の締結固定を解除するメンバ締結構造6と、
を備えた。
このため、サイドメンバ(フロントサイドメンバ1)とサスペンションメンバ3の相対移動方向の制限を低く抑え、衝撃力の入力時、サスペンションメンバ3の落下機能の作動を確保することができる。
【0039】
(2) 前記メンバ締結構造6は、前記サイドメンバ(フロントサイドメンバ1)の上下に対向する二つの面11a,11bのうち上面11aに固定された位置規制部材(位置規制ブラケット7)と、前記サイドメンバ(フロントサイドメンバ1)の上下に対向する二つの面11a,11bのうち下面に溶接され、前記締結ボルト4,5が螺合する溶接ナット8と、を有する。
このため、上記(1)の効果に加え、上下2階建てのメンバ締結構造6により、通常時、溶接ナット8の傾きによる転び方向の変形にも強く、サスペンションメンバ3を強固に締結固定することができる。
【0040】
(3) 前記位置規制部材は、前記サイドメンバ(フロントサイドメンバ1)の上下に対向する二つの面11a,11bのうち上面11aに固定したブラケット本体7dと、前記ブラケット本体7dに形成したナット穴7cと、を有し、前記溶接ナット8に前記ナット穴7cを差し込み嵌合することで位置規制する位置規制ブラケット7である。
このため、上記(2)の効果に加え、サスペンションメンバ3の落下に至る入力荷重を、溶接ナット8の長さ設定、または、位置規制ブラケット7の形状設定というように、簡単で小規模な設定変更により調整することができる。
【0041】
(4) 前記溶接ナット8は、ナット周方向の周溝(全周溝8b)とナット軸方向の切り欠きによるスリット8aを有する。
このため、上記(3)の効果に加え、位置規制ブラケット7のナット穴7cのサイズ調整により、容易な組付け性を確保しながら、ボルト締結後は適度な摩擦をもった嵌合状態にすることができる。
【0042】
(5) 前記溶接ナット8は、前記ナット周方向の周溝(全周溝8b)を溶接部側の下部位置に有し、前記ナット周方向の周溝(全周溝8b)より上部領域に前記締結ボルト4,5の雄ネジ部4a,5aと螺合する雌ネジ部8dを設定した。
このため、上記(4)の効果に加え、衝突時、確実に締結ボルト4およびサスペンションメンバ3を落下させることができる。
【実施例2】
【0043】
実施例2は、実施例1のメンバ締結構造をインホイールモータによる電気自動車に適用した例である。
【0044】
まず、構成を説明する。
図5は、実施例2の車両用サスペンションメンバ支持装置を示す分解斜視図である。以下、図5に基づき全体構成を説明する。
【0045】
実施例2の車両用サスペンションメンバ支持装置は、インホイールモータによる電気自動車(IWM−EV)に適用されたもので、図1に示すように、フロントサイドメンバ21,21(サイドメンバ)と、第1サスペンションメンバ22(サスペンションメンバ)と、第2サスペンションメンバ23(サスペンションメンバ)と、フロント締結部24と、リア締結部25と、センター締結部26と、を備えている。
【0046】
前記インホイールモータによる電気自動車とは、車輪のハブ内部に装備された電気モータ、あるいは、ハブと一体化して同軸で繋がっている電動モータを備えた電気自動車をいう。このインホイールモータによる電気自動車の場合、モータルームに電動モータを装備した電気自動車に比べ、サスペンションのバネ下重量が遙かに高くなる。このため、駆動輪を車体に支持するサスペンション形式が、2リンクタイプ(IWM−EV)と1リンクタイプ(EV)というように異なる。
【0047】
前記フロントサイドメンバ21,21は、車両前方に突出する左右対称の一対のメンバにより構成され、車両前方側がクロスメンバ31により連結され、車両後方側がダッシュメンバ32により連結されている。このフロントサイドメンバ21,21には、第1サスペンションメンバ22と第2サスペンションメンバ23が取り付けられる。
【0048】
前記第1サスペンションメンバ22は、方形状フレームあるいは台形状フレームにより構成され、左右のロアリンク33,33を支持する。
【0049】
前記第2サスペンションメンバ23は、第1サスペンションメンバ22の車両前後方向中央部位置を車幅方向に横断するフレームにより構成され、左右のアッパーリンク34,34を支持する。
【0050】
前記フロント締結部24と前記リア締結部25は、フロントサイドメンバ21,21に対して第1サスペンションメンバ22を締結固定する。このフロント締結部24とリア締結部25は、締結ボルト35,36を有し、衝撃力の入力時、第1サスペンションメンバ22を下に折る変形モードとなるように締結している。
【0051】
前記センター締結部26は、フロント締結部24とリア締結部25との中間部の位置において、フロントサイドメンバ21,21に対して第2サスペンションメンバ23を締結固定する。このセンター締結部26は、締結ボルト37,37とメンバ締結構造38を有し、衝撃力の入力時、第2サスペンションメンバ23を下に落下させるように締結している。すなわち、締結ボルト37,37とメンバ締結構造38は、一対構造であるものの、実施例1の締結ボルト4とメンバ締結構造6と同様の構成であり、詳しい構成の説明を省略する。
【0052】
次に、作用を説明する。
図6は、モータルームに電動モータを装備した電気自動車(EV)におけるサスペンションメンバの衝突時変形モードを示す側面図である。図7は、車輪のハブ内部に電動モータを装備した実施例2の電気自動車(IWM−EV)におけるサスペンションメンバの支持状態を示す側面図である。以下、図6および図7に基づいて、衝突時のサスペンションメンバ落下作用を説明する。
【0053】
まず、モータルームに電動モータを装備した電気自動車(EV)におけるサスペンションメンバの場合、実施例2の第2サスペンションメンバ23とアッパーリンク34が無い構成である。このEVでの衝突時変形モードは、図6に示すように、第1サスペンションメンバ22を下に折ることで、衝突時、車室内に入力される衝突エネルギーを吸収するものである。
【0054】
一方、車輪のハブ内部に電動モータを装備した電気自動車(IWM−EV)におけるサスペンションメンバの場合、第2サスペンションメンバ23とアッパーリンク34が追加されることで、第2サスペンションメンバ23をフロントサイドメンバ21,21に対して締結固定する必要がある。このとき、通常のボルト・ナットによる締結構造を採用すると、衝突時、フロントサイドメンバ21,21から第2サスペンションメンバ23が離脱落下せず、上記EVでの衝突時変形モードを阻害することになる。
【0055】
これに対し、衝突時、サスペンションメンバを下方に折れ曲がらせることによりエネルギーを吸収するサスペンションメンバ支持構造において、実施例2では、追加された第2サスペンションメンバ23に対し、実施例1の本発明の構造を適用した。すなわち、フロント締結部24とリア締結部25との中間部の位置のセンター締結部26に対し、実施例1と同様の締結ボルト37,37とメンバ締結構造38を採用した。
【0056】
したがって、衝突時、第2サスペンションメンバ23が下方に曲がることで、第2サスペンションメンバ23とフロントサイドメンバ21,21との締結が容易に解除され、第2サスペンションメンバ23を下に折れやすくすることになる。このため、図7に示すように、IWM−EVとしながらも、狙いのEVでの衝突時変形モードを実現することができる。
なお、他の作用は、実施例1と同様であるので、説明を省略する。
【0057】
次に、効果を説明する。
実施例2の車両用サスペンションメンバ支持装置にあっては、下記の効果を得ることができる。
【0058】
(6) 前記サイドメンバは、電動車両(IWM−EV)のフロントサイドメンバ21,21であり、
前記サスペンションメンバは、ロアリンク33,33を支持する第1サスペンションメンバ22と、アッパーリンク34,34を支持する第2サスペンションメンバ23と、を有し、
前記フロントサイドメンバ21,21に対して前記第1サスペンションメンバ22は、フロント締結部24とリア締結部25により、衝撃力の入力時、前記第1サスペンションメンバ22を下に折る変形モードとなるように締結し、
前記フロントサイドメンバ21,21に対して前記第2サスペンションメンバ23は、前記締結ボルト37,37と前記メンバ締結構造38によるセンター締結部26により、衝撃力の入力時、前記第2サスペンションメンバ23を下に落下させるように締結した。
このため、実施例1の(1)〜(5)の効果に加え、ロアリンク33,33とアッパーリンク34,34を有するサスペンション形式の電気自動車としながらも、衝突時、両サスペンションリンク22,23を下に折るという衝突時変形モードを実現することができる。
【0059】
以上、本発明の車両用サスペンションメンバ支持装置を実施例1および実施例2に基づき説明してきたが、具体的な構成については、これらの実施例に限られるものではなく、特許請求の範囲の各請求項に係る発明の要旨を逸脱しない限り、設計の変更や追加等は許容される。
【0060】
実施例1,2では、メンバ締結構造として、溶接ナットと位置規制ブラケットによる例を示した。しかし、サイドメンバの箱断面のうち対向する二つの面の間に設けられ、二つの面の相対距離が拡大することにより、締結ボルトによるサスペンションメンバの締結固定を解除する構造であれば、具体的な構成は、実施例1,2に限られない。
【0061】
実施例1,2では、フロントサイドメンバにサスペンションメンバを締結支持する構成の例を示した。しかし、リアサイドメンバにサスペンションメンバを締結支持する例としても良い。
【0062】
実施例2では、インホイールモータによる電気自動車への適用例を示したが、モータルームに電動モータを装備した電気自動車、ハイブリッド車、燃料電池車、等の電動車両にも適用できる。さらには、ガソリンエンジンやディーゼルエンジン等を搭載したエンジン車に対しても本発明のサスペンションメンバ支持装置を適用することができる。
【符号の説明】
【0063】
1 フロントサイドメンバ(サイドメンバ)
11 本体部
11a 上面
11b 下面
12 蓋部
3 サスペンションメンバ
4,5 締結ボルト
4a,5a 雄ネジ部
6 メンバ締結構造
7 位置規制ブラケット(位置規制部材)
7d ブラケット本体
7c ナット穴
8 溶接ナット
8a スリット
8b 全周溝(周溝)
8d 雌ネジ部
21 フロントサイドメンバ(サイドメンバ)
22 第1サスペンションメンバ(サスペンションメンバ)
23 第2サスペンションメンバ(サスペンションメンバ)
24 フロント締結部
25 リア締結部
26 センター締結部
33 ロアリンク
34 アッパーリンク
37 締結ボルト
38 メンバ締結構造

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車体左右位置に配置され、車両前後方向に延びて車体骨格の一部を構成するサイドメンバと、
前記サイドメンバに固定され、サスペンションリンク部材を支持するサスペンションメンバと、
前記サイドメンバに対して前記サスペンションメンバを締結固定する締結ボルトと、
前記サイドメンバの箱断面のうち対向する二つの面の間に設けられ、前記二つの面の相対距離が拡大することにより、前記締結ボルトによる前記サスペンションメンバの締結固定を解除するメンバ締結構造と、
を備えたことを特徴とする車両用サスペンションメンバ支持装置。
【請求項2】
請求項1に記載された車両用サスペンションメンバ支持装置において、
前記メンバ締結構造は、前記サイドメンバの上下に対向する二つの面のうち上面に固定された位置規制部材と、前記サイドメンバの上下に対向する二つの面のうち下面に溶接され、前記締結ボルトが螺合する溶接ナットと、を有することを特徴とする車両用サスペンションメンバ支持装置。
【請求項3】
請求項2に記載された車両用サスペンションメンバ支持装置において、
前記位置規制部材は、前記サイドメンバの上下に対向する二つの面のうち上面に固定したブラケット本体と、前記ブラケット本体に形成したナット穴と、を有し、前記溶接ナットの先端部に前記ナット穴を差し込み嵌合することで位置規制する位置規制ブラケットであることを特徴とする車両用サスペンションメンバ支持装置。
【請求項4】
請求項3に記載された車両用サスペンションメンバ支持装置において、
前記溶接ナットは、ナット周方向の周溝とナット軸方向の切り欠きによるスリットを有することを特徴とする車両用サスペンションメンバ支持装置。
【請求項5】
請求項4に記載された車両用サスペンションメンバ支持装置において、
前記溶接ナットは、前記ナット周方向の周溝を溶接部側の下部位置に有し、前記ナット周方向の周溝より上部領域に前記締結ボルトの雄ネジ部と螺合する雌ネジ部を設定したことを特徴とする車両用サスペンションメンバ支持装置。
【請求項6】
請求項1から請求項5までの何れか1項に記載された車両用サスペンションメンバ支持装置において、
前記サイドメンバは、電動車両のフロントサイドメンバであり、
前記サスペンションメンバは、ロアリンクを支持する第1サスペンションメンバと、アッパーリンクを支持する第2サスペンションメンバと、を有し、
前記フロントサイドメンバに対して前記第1サスペンションメンバは、フロント締結部とリア締結部により、衝撃力の入力時、前記第1サスペンションメンバを下に折る変形モードとなるように締結し、
前記フロントサイドメンバに対して前記第2サスペンションメンバは、前記締結ボルトと前記メンバ締結構造によるセンター締結部により、衝撃力の入力時、前記第2サスペンションメンバを下に落下させるように締結したことを特徴とする車両用サスペンションメンバ支持装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−11900(P2012−11900A)
【公開日】平成24年1月19日(2012.1.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−150780(P2010−150780)
【出願日】平成22年7月1日(2010.7.1)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【Fターム(参考)】