説明

車両用シートのスライドレール

【課題】ロアレールに設けられる移動規制凸部の強度を従前のものと変わりのない強度としつつ、ロアレールを形成する金属板の板厚を従前より薄いものを選択することができるようにしてスライドレールの軽量化を図る。
【解決手段】第1切込み孔43は、アッパレールのスライド移動方向に沿って延びるように形成されている。第2切込み孔44は、第1切込み孔43のうちアッパレールの規制当接側に位置する一孔端部431から一孔端部431と連なりレール幅方向外側に延びるように形成されている。なお、第1切込み孔43のうち他孔端部432側には、レール幅方向外側に延びるような切込み孔が設けられていない。このため、移動規制凸部40がアッパレール側からの当たり荷重を受けた場合でも、折曲部分47にせん断応力が集中させることなく、当たり荷重の応力を分散させることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両用シートを車室内にスライド移動可能に設置するための車両用シートのスライドレールに関する。
【背景技術】
【0002】
自動車等の車両には、乗員が着座する車両用シートが設置される。この車両用シートには、例えば運転席シートのように前後方向にスライド移動できるように構成されるものが知られている。このような車両用シートは、脚部分にスライドレールが配設されている。このスライドレールは、車室フロア側に固定されるロアレールと、このロアレールに対して相対的にスライド移動でき且つ車両用シート側が固定されるアッパレールとを備える。このアッパレールは、ロアレールに対して相対的にスライド移動することにより、例えば運転席シートのような車両用シートを車室内前後方向にスライド移動させることができる。なお、これらのロアレールおよびアッパレールは、長尺の金属板を適宜に折曲加工することにより形成されるものであり、このように形成されたアッパレールは、ロアレールに対してスライド移動可能に収納されるものとなっている。
ところで、上記したスライドレールでは、ロアレールに対するアッパレールのスライド移動を所定のスライド移動範囲内に収めることができるように、ロアレールに対するアッパレールのスライド移動を規制する機構が設けられている(例えば、特許文献1参照)。具体的には、ロアレールとアッパレールの両者には、上記したスライド移動範囲の限界個所で互いに当接してロアレールに対するアッパレールの相対的なスライド移動を規制する移動規制凸部が設けられている。このロアレールとアッパレールの両者に設けられる移動規制凸部は、ロアレールに対するアッパレールのスライド移動を所定のスライド移動範囲内に収めることができ、さらにこの収納されるロアレールの収納内部からアッパレールを外部に抜け出てしまわないようにする。
【0003】
図10は、従来の移動規制凸部105を形成するにあたっての切込み孔102,103,104を示すロアレール100の上面図である。なお、図10においては、移動規制凸部105となる折曲加工前の切起し片106を図示している。ロアレール100側に配設される移動規制凸部105は、図10に示すように、ロアレール100に切起し孔101を設けることによって切起し片106を形成し、この切起し片106を起立させるように折曲加工することによってロアレール100に対して形成される。この切起し孔101としては、不図示のアッパレールのスライド移動方向に沿って延びる1つの切込み孔102と、この1つの切込み孔102の両端部分から幅方向外側に向けて延びる2つの切込み孔103,104とにより略コ字状に形成される。切起し片106は、この略コ字状に形成された切起し孔101(切込み孔102,103,104)により形成される。なお、切起し片106を折曲加工する際の折曲部分107は、切起し片106のうち切起し孔101が設けられていない連接部分となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009−73399
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記した移動規制凸部105は、スライド移動を規制する際に、アッパレールに設けられた移動規制凸部から当たり荷重を受けた場合には、移動規制凸部105の折曲部分107に当たり荷重によるせん断応力が集中するものとなる。このため、この折曲部分にあっては、せん断応力集中に対しての強度を確保させておくべく、折曲部分を含めたロアレールの板厚を厚くしなくてはならなかった。
しかしながら、昨今、スライドレールの軽量化を図るために、このようなスライドレールの板厚を従前の板厚よりも薄くしておきたいものにしておきたいという要請がある。
【0006】
本発明は、このような事情に鑑みなされたものであって、本発明が解決しようとする課題は、車両用シートを車室内にスライド移動可能に設置するための車両用シートのスライドレールにおいて、ロアレールに設けられる移動規制凸部の強度を従前のものと変わりのない強度としつつ、ロアレールを形成する金属板の板厚を従前より薄いものを選択することができるようにしてスライドレールの軽量化を図ることにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記した課題を解決するにあたって、本発明に係る車両用シートのスライドレールは、次の手段を採用する。
すなわち、本発明の第1の発明に係る車両用シートのスライドレールは、車両用シートを車室内にスライド移動可能に設置するための車両用シートのスライドレールであって、車室フロア側に固定される第1レールと、該第1レールに相対的にスライド移動可能に収納されつつ車両用シート側が固定される第2レールとを備え、前記第1レールと前記第2レールとの両者には、該第1レールに対する該第2レールの相対的なスライド移動範囲の両端となる双方の限界個所で互いに当接することにより、該第1レールに対する該第2レールの限界を超えるスライド移動を規制する移動規制凸部がそれぞれ配設されており、前記スライド移動範囲の両端となる双方の限界個所で当接するように前記第1レールに配設される双方の前記移動規制凸部は、該第1レールに設けられた切起し孔を利用して折曲加工して形成されており、前記切起し孔は、前記第2レールのスライド移動の方向に沿って延びる第1切込み孔と、該第1切込み孔のうち前記第2レールの規制当接側の一孔端部から該一孔端部と連なりレール幅方向外側に延びる第2切込み孔とを備えて形成されており、前記折曲加工は、前記切起し孔のうち前記第1切込み孔と前記第2切込み孔との両者に跨って結んだ部分を、前記第2レールのスライド移動側に向けて起立させるように折曲させるものであることを特徴とする。
【0008】
この第1の発明に係る車両用シートのスライドレールによれば、折曲加工は、切起し孔のうち第2レールのスライド移動の方向に沿って延びる第1切込み孔と、第1切込み孔のうち第2レールの規制当接側の一孔端部から一孔端部と連なりレール幅方向外側に延びる第2切込み孔との両者に跨って結んだ部分を折曲部分に設定するものとなっているので、形成される移動規制凸部は、第1切込み孔のうち第2レール規制当接側の一孔端部とは反対側に位置する孔端部(他孔端部)には、レール幅方向外側に延びるような切込み孔が設けられないものとなる。また、形成される移動規制凸部の折曲部分は、第2レール側からの当たり荷重の方向とはズレた傾斜方向に延在することとなる。
これによって、第1レールに設けられた移動規制凸部に、第2レールに設けられた移動規制凸部が当たって第2レール側からの当たり荷重を受けた場合であっても、折曲部分にせん断応力が集中させることなく、当たり荷重の応力を分散させることができる。これによって、第1レールを形成する金属板の板厚を従前よりも薄いものを選択した場合であっても、この第1レールに設けられた移動規制凸部の強度を従前のものと変わりのない強度とすることができる。
もって、第1レールに設けられる移動規制凸部の強度を従前のものと変わりのない強度としながらも、第1レールを形成する金属板の板厚を従前より薄いものを選択することができるようになり、スライドレールの軽量化を図ることができるものとなる。
【0009】
第2の発明に係る車両用シートのスライドレールは、前記第1の発明に係る車両用シートのスライドレールにおいて、前記第1切込み孔は、前記規制当接側の前記一孔端部から、該一孔端部の反対側に位置する他孔端部に向かうにしたがって、レール幅方向内側に向いて傾斜して延在していることを特徴とする。
この第2の発明に係る車両用シートのスライドレールによれば、第1切込み孔は、当接規制側の一孔端部から一孔端部の反対側に位置する他孔端部に向かうにしたがって、レール幅方向内側に向いて傾斜して延在しているので、折曲加工することにより移動規制凸部を形成するにあたって、移動規制凸部の連接範囲を拡大させることとなる。また、形成される移動規制凸部の折曲部分は、第2レール側からの当たり荷重の方向(スライド移動方向)との交差角度を拡大させることとなる。
これによって、第1レールに設けられた移動規制凸部に、第2レールに設けられた移動規制凸部が当たって第2レール側からの当たり荷重を受けた場合であっても、この当たり荷重の応力を拡大された範囲に分散させることができるようになり、移動規制凸部の強度をより向上させることができる。
【発明の効果】
【0010】
第1の発明に係る車両用シートのスライドレールによれば、第1レールに設けられる移動規制凸部の強度を従前のものと変わりのない強度としながらも、第1レールを形成する金属板の板厚を従前より薄いものを選択することができるようになり、スライドレールの軽量化を図ることができる。
第2の発明に係る車両用シートのスライドレールによれば、第2レール側からの当たり荷重の応力を拡大された範囲に分散させることができるようになり、移動規制凸部の強度をより向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】車室内にスライド移動可能に設置される車両用シートを模式的に示す側面模式図である。
【図2】組付け状態にあるスライドレールを示す斜視図である。
【図3】分離させた状態にあるスライドレールを示す斜視図である。
【図4】図2におけるIV−IV断面矢視を示すスライドレールの断面図である。
【図5】ロアレールの移動規制凸部について拡大して示す拡大断面図である。
【図6】移動規制凸部を形成するにあたっての切起し孔(第1形態)を示すロアレールの上面図である。
【図7】図6に示す切起し片とは異なる第2形態を示すロアレールの上面図である。
【図8】図6に示す切起し片とは異なる第3形態を示すロアレールの上面図である。
【図9】図6に示す切起し片とは異なる第4形態を示すロアレールの上面図である。
【図10】従来の移動規制凸部を形成するにあたっての切起し孔を示すロアレールの上面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
[第1の実施の形態]
以下、本発明に係る車両用シートのスライドレールを実施するための形態について、図面を参照しながら説明する。
図1は、車室内にスライド移動可能に設置される車両用シート10を模式的に示す側面模式図である。図1に示す車両用シート10は、自動車等の車両車室内に設置されるものである。この車両用シート10は、乗員が着座する座としてのシートクッション11と、シートクッション11に乗員が着座した場合の背凭れとなるシートバック12と、シートクッション11に乗員が着座した場合の頭凭れとなるヘッドレスト13とを備える。この車両用シート10は、この車両車室内でスライド移動可能に設置されるために、スライドレール20を具備して構成されている。
図1に示すように、車両用シート10は、脚部としての脚ブラケット15により車室フロアFに固定設置されるものとなっている。ここで、この脚ブラケット15とシートクッション11のフレーム(不図示)との間には、スライドレール20が介在されるように配設される。なお、この脚ブラケット15およびスライドレール20は、スライド移動方向とは交差方向となる車両用シート10の幅方向の両側それぞれに1つずつ配設されている。また、脚ブラケット15は、適宜のボルトナットにより車室フロアFに締結されるものであり、スライドレール20のスライド移動方向の両側それぞれに1つずつ配設されている。
このスライドレール20は、車両用シート10を車両車室内にてスライド移動可能とするためのものである。このスライドレール20は、概略、車室フロアF側に固定されるロアレール30と、このロアレール30に相対的にスライド移動可能に収納されつつ車両用シート10側が固定されるアッパレール50とを備える。なお、ロアレール30は本発明に係る第1レールに相当するものであり、これに対し、アッパレール50は本発明に係る第2レールに相当するものである。具体的には、ロアレール30は、上記したように、車室フロアFに固定設置される脚ブラケット15に対して、適宜のスポット溶接により固定されている。なお、これに対して、アッパレール50は、上記したように、シートクッション11(車両用シート10)の骨組みをなすフレーム(不図示)に対して、適宜のスポット溶接により固定される。
【0013】
図2は、ロアレール30とアッパレール50とが組み付けられた状態にあるスライドレール20を示す斜視図である。図3は、ロアレール30とアッパレール50とを分離させた状態にあるスライドレール20を示す斜視図である。図4は、図2におけるIV−IV断面矢視を示すスライドレール20の断面図である。
図2および図3に示すように、脚ブラケット15に固定されるロアレール30は、不図示のシートクッションフレームに固定されるアッパレール50を相対的にスライド移動可能となるように収納するものとなっている。このため、これらロアレール30とアッパレール50との両者には、ロアレール30に対するアッパレール50の相対的なスライド移動が、所定のスライド移動範囲内に収められるように、移動規制凸部40,55がそれぞれ配設されている。このロアレール30に配設される移動規制凸部40と、アッパレール50に配設される移動規制凸部40とは、このロアレール30に対するアッパレール50のスライド移動範囲の両端となる双方の限界個所で、互いに当接するようになっている。このロアレール30とアッパレール50との両者の移動規制凸部40,55がスライド移動範囲の両端となる双方の限界個所で互いに当接することにより、ロアレール30に対するアッパレール50の限界を超えるスライド移動を規制するものとなっている。なお、ロアレール30に配設される移動規制凸部40は、図2および図3に示すように、ロアレール30においてスライド移動範囲の両端として規定する部分に、レール幅方向に並ぶ2個ずつの合計4個が配設されるものとなっている。これに対して、アッパレール50に配設される移動規制凸部55は、図2および図3に示すように、アッパレール50においてスライド移動範囲の両端として規定する部分に片側1個ずつの合計2個が配設されるものとなっている。
このロアレール30とアッパレール50との両者に配設された移動規制凸部40,55の両者は、図4に示すように、ロアレール30に対するアッパレール50の相対的にスライド移動方向の重なる位置に互いに位置している。これによって、ロアレール30に対してアッパレール50が相対的にスライド移動したスライド移動範囲の両端となる双方の限界個所で互いに当接して、ロアレール30に対するアッパレール50の限界を超えるスライド移動を規制するものとなっている。もって、ロアレール30に対するアッパレール50の相対的なスライド移動は、所定のスライド移動範囲内に収められるものとなっている。
これらロアレール30とアッパレール50とは、適宜の金属板を適宜に切欠き加工を施した後に適宜に折曲加工をすることにより形成されるものであり、以下に詳述する。
なお、スライドレール20は、上記したように車両用シート10の幅方向の両側それぞれに1つずつ配設されるものであるため、次に説明するロアレール30は、車両用シート10の幅方向の両側の何れ側にも利用できる共通部品として構成される。このため、次に説明する移動規制凸部40は、ロアレール30のスライド移動範囲の両端として規定する部分に、レール幅方向で中心線対称となる2個1組で配設されるものとなっている。
【0014】
まず、上記したスライドレール20のうちアッパレール50について説明する。アッパレール50は、上記したように車両用シート10のシートクッション11のフレーム(不図示)が固定される。このアッパレール50は、図2および図4に示すように、長手方向に延びる中間部が断面視コ字状をなすように折曲加工されるとともに、その両側部が外に折り返されるように折曲加工されている。このため、アッパレール50は、図示上側の外部露出部分はフレーム取付け部51として形成されており、図示両側部分は外折返し部52,52として形成されている。フレーム取付け部51は、シートクッション11のフレーム(不図示)が固定取付けされる部分である。外折返し部52,52は、次に説明するロアレール30の内折返し部32,32内に収納されて、ロアレール30に対するアッパレール50のスライド移動をガイドするものである。この外折返し部52,52には、適宜切欠いて適宜折曲されて切り起こすことにより、移動規制凸部55が形成されるものとなっている。
次に、上記したスライドレール20のうちロアレール30について説明する。ロアレール30は、上記したように車室フロアFの脚ブラケット15に固定される。このロアレール30は、図2および図4に示すように、長手方向に延びる中間部が断面視コ字状をなすように折曲加工されるとともに、その両側部が内に折り返されるように折曲加工されている。このため、ロアレール30は、図示下側底部分は脚ブラケット取付け部31として形成されており、図示両側部分は内折返し部32,32として形成されている。脚ブラケット取付け部31は、車室フロアFに固定設置された脚ブラケット15に固定取付けされる部分である。内折返し部32,32は、適宜の収納空間を有して形成されるものであり、上記したアッパレール50の外折返し部52,52をスライド移動可能に収納して、ロアレール30に対するアッパレール50のスライド移動をガイドする。
【0015】
図5は、ロアレール30の移動規制凸部40について拡大して示す拡大断面図である。図6は、移動規制凸部40を形成するにあたっての第1形態の切起し孔42を示すロアレール30の上面図である。図5に示すように、上記したロアレール30のうち図示下側底部分となる脚ブラケット取付け部31には移動規制凸部40が設けられる。この移動規制凸部40は、スライド移動範囲の端となる限界個所で上記したアッパレール50の移動規制凸部55を当接させることができるように、脚ブラケット取付け部31の限界規定個所に2個1組で配設される。なお、この2個1組で配設される移動規制凸部40は、スライド移動範囲の双方の端となる両端に配設されるものであり、双方の限界個所で上記したアッパレール50の移動規制凸部55を当接させて、ロアレール30に対するアッパレール50の限界を超えるスライド移動を規制することができるようになっている。
この移動規制凸部40は、ロアレール30の脚ブラケット取付け部31に設けられた切起し孔42により切起し片41を形成し、この切起し片41を起立させるように折曲加工することによってロアレール30の脚ブラケット取付け部31に形成されるものとなっている。
まず、脚ブラケット取付け部31に設けられる切起し孔42について説明する。切起し孔42は、図6に示すように、概略、一方向に延びる第1切込み孔43と、この第1切込み孔43とは交差方向に延びる第2切込み孔44とを備えて形成される。第1切込み孔43は、脚ブラケット取付け部31に対して、アッパレール50のスライド移動方向に沿って延びるように形成されている。これに対して、第2切込み孔44は、第1切込み孔43のうちアッパレール50の規制当接側に位置する一孔端部431から一孔端部431と連なりレール幅方向外側に延びるように形成されている。この第1切込み孔43と第2切込み孔44とは、互いに交差する方向となる直交方向に延びて形成されている。なお、第1切込み孔43のうち、上記した一孔端部431とは反対側に位置する他孔端部432には、上記した第2切込み孔44に相当するような切込みは存していないものとなっている。
【0016】
次いで、上記した切起し孔42が設けられていない脚ブラケット取付け部31の連接部分のうち、第1切込み孔43と第2切込み孔44との両者に跨って結んだ部分(図示破線にて示す符号47部分)については、折り曲げられる折曲部分47として設定する。これにより、この折曲部分47と切起し孔42(第1切込み孔43および第2切込み孔44)とより囲われる部分が、上記した切り起し片41として設定されることとなる。
なお、図示するように、折曲部分47は、第1切込み孔43の他孔端部432の近傍部分から、第2切込み孔44の外孔端部442の近傍部分へと跨る線分にて設定されている。ここで、この折曲部分47は、アッパレール50の移動規制凸部55からの当たり荷重の方向と一致するアッパレール50のスライド移動方向とは、ズレた傾斜方向に延在するものとなっている。
また、折曲加工としては、折曲部分47を適宜に挟み込んだ状態で、切起し片41部分を、アッパレール50のスライド移動側に適宜に押圧することによって折曲するものとなっている。このように折曲加工した場合には、図5に示すように、折曲部分47が折曲して、切起し片41がアッパレール50のスライド移動側に向けて起立したような突出状態となる。
【0017】
上記したように構成される車両用シート10のスライドレール20によれば、次のような作用効果を奏することができる。
すなわち、上記した車両用シート10のスライドレール20によれば、第1切込み孔43のうち他孔端部432側にはレール幅方向外側に延びるような切込み孔が設けられず、折曲部分47はアッパレール50側からの当たり荷重の方向とはズレた傾斜方向に延在することとなる。このため、ロアレール30の移動規制凸部40にアッパレール50の移動規制凸部55が当たって、この移動規制凸部40がアッパレール50側からの当たり荷重を受けた場合であっても、折曲部分47にせん断応力が集中させることなく、当たり荷重の応力を分散させることができる。これによって、ロアレール30を形成する金属板の板厚を従前よりも薄いものを選択した場合であっても、このロアレール30に設けられた移動規制凸部40の強度を従前のものと変わりのない強度とすることができる。もって、ロアレール30に設けられる移動規制凸部40の強度を従前のものと変わりのない強度としながらも、ロアレール30を形成する金属板の板厚を従前より薄いものを選択することができるようになり、スライドレールの軽量化を図ることができるものとなる。
【0018】
[第2の実施の形態]
なお、本発明に係る切起し片は、上記した第1の実施の形態の切起し片41に限定されるものではなく、次のような構成が採用されるものであってもよい。以下、上記した第1の実施の形態の切起し片41とは相違する構成を有した切起し片41a,41b,41cについて説明する。なお、上記した第1の実施の形態と同一に構成される部分については、同一符号を付して説明を省略する。
第2の実施の形態の切起し片41aについて説明する。図7は、図6に示す切起し片41とは異なる第2形態の切起し片41aを示すロアレール30の脚ブラケット取付け部31の上面図である。
この第2の実施の形態の切起し片41aは、折曲部分47aに関して上記した第1の実施の形態の切起し片41と相違するものとなっている。すなわち、この第2の実施の形態にあっても、上記した第1の実施の形態と同一に形成される切起し孔42(第1切込み孔43および第2切込み孔44)が脚ブラケット取付け部31に設けられている。ここで、第2の実施の形態の折曲部分47aにあっては、上記した第1の実施の形態の折曲部分47と異なり、第1切込み孔43の他孔端部432から、第2切込み孔44の外孔端部442へと跨る線分にて設定されている。このため、この折曲部分47aと切起し孔42(第1切込み孔43および第2切込み孔44)とより囲われる部分が、切り起し片41aとして設定されることとなる。
このような第2の実施の形態によれば、折曲部分47aを上記した第1の実施の形態の折曲部分47と比較して長い範囲に亘るものとできるので、アッパレール50の移動規制凸部55がロアレール30の移動規制凸部40aに当たった場合でも、より効率良く、当たり荷重による応力を分散させることができる。
【0019】
[第3の実施の形態]
次に、上記した第1および第2の実施の形態の切起し片41,41aとは相違する構成を有した第3の実施の形態の切起し片41bについて説明する。なお、上記した第1および第2の実施の形態と同一に構成される部分については、同一符号を付して説明を省略する。図8は、図6に示す切起し片41とは異なる第3形態の切起し片41bを示すロアレール30の脚ブラケット取付け部31の上面図である。
この第3の実施の形態の切起し片41bは、切起し孔42bに関して上記した第2の実施の形態の切起し片41aと相違するものとなっている。つまり、この第3の実施の形態では、切起し孔42bのうち第1切込み孔43bの配設構造のみが相違するものとなっている。具体的には、上記した第2の実施の形態の第1切込み孔43は、単にアッパレール50のスライド移動方向に沿って延びるように形成されているが、第3の実施の形態の第1切込み孔43bは、図8に示すように、アッパレール50のスライド移動方向に沿って延びつつ、規制当接側の一孔端部431から他孔端部432に向かうにしたがってレール幅方向内側に向いて僅かに傾斜するようになっている。このため、第3の実施の形態の折曲部分47bにあっては、上記した第2の実施の形態の折曲部分47aと異なり、第1切込み孔43bの他孔端部432から、第2切込み孔44の外孔端部442へと跨る線分は、より長い範囲にて設定されるものとなっている。そして、この折曲部分47bと切起し孔42b(第1切込み孔43bおよび第2切込み孔44)とより囲われる部分が、切り起し片41bとして設定されることとなる。
このような第3の実施の形態によれば、第1切込み孔43bは、当接規制側の一孔端部431から他孔端部432に向かうにしたがって、レール幅方向内側に向いて傾斜して延在しているので、折曲加工することにより移動規制凸部40bを形成するにあたって、移動規制凸部40の連接範囲を拡大させることとなる。また、形成される移動規制凸部40の折曲部分47は、アッパレール50側からの当たり荷重の方向(スライド移動方向)との交差角度を拡大させることとなる。
これによって、ロアレール30の脚ブラケット取付け部31に設けられた移動規制凸部40bに、アッパレール50に設けられた移動規制凸部55が当たってアッパレール50側からの当たり荷重を受けた場合であっても、この当たり荷重の応力を拡大された範囲に分散させることができるようになり、移動規制凸部40bの強度をより向上させることができる。
また、この第3の実施の形態によれば、上記した第2の実施の形態の折曲部分47aと比較して折曲部分47bを長い範囲に設定することができるので、アッパレール50の移動規制凸部55がロアレール30の移動規制凸部40bに当たった際の当たり荷重の応力を、より効率良く分散させることができることとなる。
【0020】
[第4の実施の形態]
次に、上記した第1〜第3の実施の形態の切起し片41,41a,41bとは相違する構成を有した第4の実施の形態の切起し片41cについて説明する。なお、上記した第1〜第3の実施の形態と同一に構成される部分については、同一符号を付して説明を省略する。図9は、図6に示す切起し片41とは異なる第4形態の切起し片41cを示すロアレール30の脚ブラケット取付け部31の上面図である。
この第4の実施の形態の切起し片41cは、切起し孔42cに関して上記した第2の実施の形態の切起し片41aと相違するものとなっている。つまり、この第4の実施の形態では、切起し孔42cのうち第2切込み孔44cの配設構造のみが相違するものとなっている。具体的には、上記した第2の実施の形態の第2切込み孔44は、単に第1切込み孔43の一孔端部431から一孔端部431と連なりレール幅方向外側に延びるように形成されているが、第4の実施の形態の第2切込み孔44cは、図9に示すように、アッパレール50収納側へ傾斜しながら、第1切込み孔43の一孔端部431からレール幅方向外側に延びるように形成されている。このため、第4の実施の形態の折曲部分47cにあっては、上記した第2の実施の形態の折曲部分47aと異なり、第1切込み孔43の他孔端部432から、第2切込み孔44cの外孔端部442へと跨る線分は、より長い範囲にて設定されるものとなっている。そして、この折曲部分47cと切起し孔42c(第1切込み孔43および第2切込み孔44c)とより囲われる部分が、切り起し片41cとして設定されることとなる。
このような第4の実施の形態によれば、折曲部分47cを上記した第2の実施の形態の折曲部分47aと比較して長い範囲に亘るものとできるので、アッパレール50の移動規制凸部55がロアレール30の移動規制凸部40cに当たった場合でも、より効率良く、当たり荷重による応力を分散させることができる。
【0021】
なお、本発明に係る車両用シートのスライドレールにあっては、上記した実施の形態に限定されるものではなく、次のように適宜個所を変更して構成するようにしてもよい。
例えば、本発明に係る折曲加工としては、上記した実施の形態の態様に限定されることなく、例えばロアレール30に対する脚ブラケット15の相対位置を決める際に、適宜になされる位置決め加工と同時に行われるようにした折曲加工であってもよい。
【符号の説明】
【0022】
10 車両用シート
11 シートクッション
12 シートバック
13 ヘッドレスト
15 脚ブラケット(脚部)
20 スライドレール
30 ロアレール(第1レール)
31 脚ブラケット取付け部
32 内折返し部
40,40a,40b,40c ロアレールの移動規制凸部
41,41a,41b,41c 切起し片
42,42b,42c 切起し孔
43,43b 第1切込み孔
431 一孔端部
432 他孔端部
44,44c 第2切込み孔
47,47a,47b,47c 折曲部分
50 アッパレール(第2レール)
51 フレーム取付け部
52 外折返し部
55 アッパレールの移動規制凸部
F 車室フロア

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両用シートを車室内にスライド移動可能に設置するための車両用シートのスライドレールであって、
車室フロア側に固定される第1レールと、該第1レールに相対的にスライド移動可能に収納されつつ車両用シート側が固定される第2レールとを備え、
前記第1レールと前記第2レールとの両者には、該第1レールに対する該第2レールの相対的なスライド移動範囲の両端となる双方の限界個所で互いに当接することにより、該第1レールに対する該第2レールの限界を超えるスライド移動を規制する移動規制凸部がそれぞれ配設されており、
前記スライド移動範囲の両端となる双方の限界個所で当接するように前記第1レールに配設される双方の前記移動規制凸部は、該第1レールに設けられた切起し孔を利用して折曲加工して形成されており、
前記切起し孔は、前記第2レールのスライド移動の方向に沿って延びる第1切込み孔と、該第1切込み孔のうち前記第2レールの規制当接側の一孔端部から該一孔端部と連なりレール幅方向外側に延びる第2切込み孔とを備えて形成されており、
前記折曲加工は、前記切起し孔のうち前記第1切込み孔と前記第2切込み孔との両者に跨って結んだ部分を、前記第2レールのスライド移動側に向けて起立させるように折曲させるものであることを特徴とする車両用シートのスライドレール。
【請求項2】
請求項1に記載の車両用シートのスライドレールにおいて、
前記第1切込み孔は、前記規制当接側の前記一孔端部から、該一孔端部の反対側に位置する他孔端部に向かうにしたがって、レール幅方向内側に向いて傾斜して延在していることを特徴とする車両用シートのスライドレール。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate


【公開番号】特開2012−1172(P2012−1172A)
【公開日】平成24年1月5日(2012.1.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−140395(P2010−140395)
【出願日】平成22年6月21日(2010.6.21)
【出願人】(000241500)トヨタ紡織株式会社 (2,945)
【出願人】(000000011)アイシン精機株式会社 (5,421)
【出願人】(000110321)トヨタ車体株式会社 (1,272)
【Fターム(参考)】