説明

車両用シートの昇降機構

【課題】車両用シートの昇降機構において、少ない部品点数で簡素に構成することができながら、回動ストッパ機構としての強度を向上させる。
【解決手段】規制用当接部48の配設位置は、リフタリンク41の回動軸支点となる軸支部材49に対して、長孔45の前面側端部451の配設位置よりも回動径方向外側の位置するように設定されている。このため、リフタリンク41の回動規制により規制用当接部48にかかる荷重は、長孔45の前面側端部451の位置とはずらされた位置にかかることとなり、リフタリンク41の回動規制により規制用当接部48にかかる荷重は、長孔45とは異なる切り欠かれていない中実(金属の肉有り)部分となる前面延在部46にて支持できるものとなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両用シートの着座高さ位置を調節するために車両用シートに設けられる車両用シートの昇降機構に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車等の車両には、乗員が着座する車両用シートが設置される。この車両用シートは、乗員が着座する座としてのシートクッションと、このシートクッションに乗員が着座した場合の背凭れとなるシートバックとを備える。このような車両用シートは、着座者の任意で、着座前後位置や着座高さ位置を調節できるものが知られている。このため、このような車両用シートには、上下に昇降調節させるための昇降機構が配設されるものが知られている。ここで、着座高さ位置を上下に調節する昇降機構は、例えば車両フロアに固定設置された適宜の部材(以下、「フロア側部材」と言う)上に対して配設され、シートクッションやシートバック等の着座のための着座側構成部を支持するものが知られている。この昇降機構は、着座側構成部を支持するほか、シートクッションに着座する着座者の体重も支持することとなる。
【0003】
上記した車両用シートが設置された自動車等の車両にあっては、車両前側から衝突(以下、「車両前突」と称する)されたり、車両後側から衝突(以下、「車両後突」と称する)されたりすることがある。このように車両前突や車両後突された場合には、車両用シートは、慣性の法則より前面側や背面側に突発的な荷重をかけることとなる。このため、このような昇降機構には、突発的な荷重がかかる場合であっても、着座側構成部の荷重方向への傾きを支持する回動ストッパ機構が配設されるものが知られている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009−208737
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、上記した車両前後突に対して突発的な荷重を支持する回動ストッパ機構にあっては、製造上の観点から少ない部品点数で構成しておきたい。このため、少ない部品点数で構成する場合でも、上記した突発的な荷重を充分に支持できるように、構成部品の各部分を強化しておきたいという要請がある。
しかしながら、上記した特許文献1に開示される車両前後突用の回動ストッパ機構を構成するリンクには、車両後突用の回動ストッパ機構の一部をなす長孔が設けられており。、この長孔に隣接する部位には、車両後突用の回動ストッパ機構の一部をなす当接部が設けられている。ここで、当接部は、車両前突された場合のリンクの回動を規制するようにフロア側部材のストッパ部が当接する部分となっているのに対し、この当接部と隣接する長孔は、金属肉を切り欠いた(金属の肉無し)形状にて形成されている。このため、車両前突によって当接部に荷重がかかると、隣接する長孔部分は、この荷重を支持することができずに変形してしまって着座側構成部を傾かせてしまう恐れがある。
【0006】
本発明は、このような事情に鑑みなされたものであって、本発明が解決しようとする課題は、車両用シートの着座高さ位置を調節するために車両用シートに設けられる車両用シートの昇降機構において、少ない部品点数で簡素に構成することができながら、回動ストッパ機構としての強度を向上させることにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記した課題を解決するにあたって、本発明に係る車両用シートの昇降機構は、次の手段を採用する。
すなわち、本発明の第1の発明に係る車両用シートの昇降機構は、車両用シートの着座高さ位置を調節するために車両用シートに設けられる車両用シートの昇降機構であって、一側が車両フロアに設置されたフロア側部材に対して回動可能に軸支持され且つ他側が着座するための着座側構成部のフレーム部材を回動可能に軸支持するリフタリンクと、一側が前記フロア側部材に対して回動可能に軸支持され且つ他側が前記リフタリンクに設けられた長孔に遊嵌されるストッパリンクとを備え、前記着座側構成部がシート背面側に向けて荷重をかけることによる前記リフタリンクの背面方向への回動は、前記長孔内部に遊嵌される前記ストッパリンクの遊嵌部位が該長孔内周部に当接することによって回動規制されるものとなっており、前記着座側構成部がシート前面側に向けて荷重をかけることによる前記リフタリンクの前面方向への回動は、前記リフタリンクに設けられる規制用当接部が前記フロア側部材に配設されるストッパ部に当接することによって回動規制されるものとなっており、前記規制用当接部は、前記リフタリンクの一側の回動軸支点に対して、前記長孔の前面側端部の配設位置よりも回動径方向外側に位置するように設定されて設けられていることを特徴とする。
【0008】
この第1の発明に係る車両用シートの昇降機構によれば、リフタリンクの背面方向への回動は、長孔内部に遊嵌されるストッパリンクの遊嵌部位が長孔内周部に当接することによって回動規制されるものとなっているので、着座側構成部がシート背面側に向けて荷重をかけた場合でも、リフタリンクの背面方向への回動を規制することができる。また、この第1の発明に係る車両用シートの昇降機構によれば、リフタリンクの前面方向への回動は、リフタリンクに設けられる規制用当接部がフロア側部材に配設されるストッパ部に当接することによって回動規制されるものとなっているので、着座側構成部がシート前面側に向けて荷重をかけた場合でも、リフタリンクの前面方向への回動を規制することができる。
ここで、この第1の発明に係る車両用シートの昇降機構によれば、規制用当接部の配設位置は、リフタリンクの一側の回動軸支点に対して、長孔の前面側端部の配設位置よりも回動径方向外側に位置するように設定されている。このため、長孔の前面側端部のリフタリンクの回動径距離と、規制用当接部のリフタリンクの回動径距離とは、相違する距離に設定されることとなる。このため、リフタリンクの回動規制により規制用当接部にかかる荷重は、長孔の前面側端部の位置とはずらされた位置にかかることとなる。つまり、リフタリンクの回動規制により規制用当接部にかかる荷重は、長孔とは異なる切り欠かれていない中実(金属の肉有り)部分にて支持できるものとなる。これによって、切り欠かれた(金属の肉無し)形状の長孔に荷重のかからないものとすることができ、長孔部分の変形を防止することができる。また、リフタリンクの回動規制により規制用当接部にかかる荷重は、切り欠かれてはいない中実(金属の肉有り)部分にて支持できるので、回動を規制するストッパ機構としての強度も向上させることができる。
さらに、この第1の発明に係る車両用シートの昇降機構によれば、規制用当接部の回動軸支点からの距離(回動径距離)は、従前まで設定されていた距離よりも長い距離に設定されるものとなる。このため、梃子の原理によって、回動規制にて規制用当接部にかかる荷重は従前よりも小さい負荷とすることができ、荷重に対するリフタリンク41の耐久性を向上させて回動ストッパ機構全体としての強度の向上にも繋がることとなる。
もって、この第1の発明に係る車両用シートの昇降機構によれば、少ない部品点数で簡素に構成することができながら、車両後突によるリフタリンクの背面方向への回動を規制することができ、車両前突によるリフタリンクの前面方向への回動を規制することができ、さらに車両前突によっての長孔部分の変形を防止して、回動ストッパ機構としての強度を向上させることができる。
【0009】
第2の発明に係る車両用シートの昇降機構は、前記第1の発明に係る車両用シートの昇降機構において、前記長孔は、前記リフタリンクに設けられる前記規制用当接部が前記フロア側部材に配設されるストッパ部に当接した場合であっても、前記ストッパリンクの前記遊嵌部位が該長孔内周部に対して非当接となる長孔形状として形成されていることを特徴とする。
この第2の発明に係る車両用シートの昇降機構によれば、長孔は、リフタリンクに設けられる規制用当接部がフロア側部材に配設されるストッパ部に当接した場合であっても、ストッパリンクの遊嵌部位が長孔内周部に対して非当接となる長孔形状として形成されているので、例えばストッパリンクの遊嵌部位が長孔の内周部の背面側端部に当たることによって長孔部分を変形させてしまう問題を防止することができる。もって、車両前突による長孔の変形を防止して、回動ストッパ機構としての強度を向上させることができる。
【0010】
第3の発明に係る車両用シートの昇降機構は、前記第1または前記第2の発明に係る車両用シートの昇降機構において、前記規制用当接部は、前記長孔の延在方向とは異なる方向に延びた前記リフタリンクの端縁をシート幅方向に折り曲げるようにして形成されたフランジ状支持部の側端部にて構成されており、前記ストッパ部は、前記規制用当接部が延びる方向と交差する方向に該規制用当接部が当接する当接面が形成されるように、前記フロア側部材からシート幅方向にフランジ状に突出して形成されていることを特徴とする。
この第3の発明に係る車両用シートの昇降機構によれば、ストッパ部は、フロア側部材からシート幅方向にフランジ状に突出して形成されているので、このストッパ部をフロア側部材と別部品で構成することがなくなる。これによって、部品点数を少なくして、製造コストを抑えることができるとともに製造作業性を向上させることができる。
また、規制用当接部は、長孔の延在方向とは異なる方向に延びたリフタリンクの端縁をシート幅方向に折り曲げるようにして形成されたフランジ状支持部の側端部にて構成されており、ストッパ部への当接面は規制用当接部が延びる方向と交差する方向に形成されているので、この規制用当接部がストッパ部から受ける荷重を、長孔の延在方向とは異なる方向に向けたものとすることができる。これによって、規制用当接部がストッパ部から受ける荷重を、切り欠かれた(金属の肉無し)形状となる長孔に向かないものとして、長孔部分の変形を効果的に防止することができ、回動ストッパ機構としての強度を向上させることができる。
【発明の効果】
【0011】
第1の発明に係る車両用シートの昇降機構によれば、少ない部品点数で簡素に構成することができながら、車両後突によるリフタリンクの背面方向への回動を規制することができ、車両前突によるリフタリンクの前面方向への回動を規制することができ、さらに車両前突による長孔部分の変形を防止して、回動ストッパ機構としての強度を向上させることができる。
第2の発明に係る車両用シートの昇降機構によれば、車両前突による長孔の変形を防止して、回動ストッパ機構としての強度を向上させることができる。
第3の発明に係る車両用シートの昇降機構によれば、部品点数を少なくして製造コストを抑えることができるとともに製造作業性を向上させることができ、規制用当接部がストッパ部から受ける荷重を長孔に向かないものとして、長孔部分の変形を効果的に防止することができ、回動ストッパ機構としての強度を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】車両用シートの昇降機構の設置構造を模式的に示す側面模式図である。
【図2】組付け状態にある昇降機構を示す拡大斜視図である。
【図3】分解状態にある昇降機構を示す拡大斜視図である。
【図4】下限位置状態にある昇降機構を示す拡大側面図である。
【図5】上限位置状態にある昇降機構を示す拡大側面図である。
【図6】上限位置状態にある昇降機構においてリフタリンクが前面方向へ突発的に回動した際の力の作用を示す拡大側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明に係る車両用シートの昇降機構を実施するための形態について、図面を参照しながら説明する。
図1は、車両用シートの昇降機構30の設置構造を模式的に示す側面模式図である。なお、図1は、昇降機構30の設置構造を分かり易くするため、図示する車両用シート10は、シートクッションの骨格となるクッションフレームについてのみを示している。このため、図1は、クッションフレーム11のうちサイド部分片側をシート外側から視た側面を模式的に示すものとなっている。
図1の下側に付される符号Fは、自動車等の車両車室内の車両フロアを示している。車両用シート10は、車両フロアFに対して、車両車室内で車両用シート10をスライド移動可能とするためのスライド機構15と、車両車室内で車両用シート10の着座高さ位置を調節するための昇降機構30とを介在させて設置されるものである。
なお、この車両用シート10は、全体外観については図示していないが、乗員が着座する座としてのシートクッションと、シートクッションに乗員が着座した場合の背凭れとなるシートバックとを備えて構成されるものであり、図1においては、シートクッションの骨組みをなすクッションフレーム11のみを図示している。ここで、シートクッションとシートバックとは、乗員が着座するための構成をなすものであり、本発明に係る着座側構成部に相当する。このため、このシートクッションの骨組みをなすクッションフレーム11は、本発明に係る着座するための着座側構成部のフレーム部材に相当することとなる。
【0014】
まず、スライド機構15について説明する。
スライド機構15は、図1に示すように、車両フロアFに固定設置された脚ブラケット13に対して固定設置されている。すなわち、スライド機構15は、脚ブラケット13に固定設置されるロアレール16と、このロアレール16に対して相対的にスライド移動するアッパレール17とを備える。このアッパレール17の下側部分は、ロアレール16に対してスライド移動可能に収容されている。また、アッパレール17の上側部分は、固定側サイドフレーム20が固定された状態で設置されている。
このスライド機構15には不図示の操作機構が設けられており、この操作機構を着座者が操作することによりアッパレール17はロアレール16に対してスライド移動可能な状態とすることができる。なお、この操作機構を着座者が操作していない場合には、アッパレール17はロアレール16に対してスライド移動不可の固定された状態に維持されるようになっている。つまり、上記した固定側サイドフレーム20を含むスライド機構15は、本発明に係るフロア側部材に相当するものであり、車両フロアFに固定設置された脚ブラケット13に対して固定設置されるものとなっている。
【0015】
図2は、組付け状態にある昇降機構30を示す拡大斜視図である。図3は、分解状態にある昇降機構30を示す拡大斜視図である。
図1に示すように、固定側サイドフレーム20は、スライド機構15のアッパレール17に対して固定された状態で設置されるものである。このため、図2および図3に示すように、固定側サイドフレーム20には第1連結孔21と第2連結孔22とが設けられている。第1連結孔21は、次に説明する昇降機構30のストッパリンク31を回動可能に支持するための軸支部材34を挿通させるためのものである。第2連結孔22は、次に説明する昇降機構30のリフタリンク41を回動可能に支持するための軸支部材49を挿通させるためのものである。
また、この固定側サイドフレーム20には、リフタリンク41に設けられる規制用当接部48が当接することとなるストッパ部25が配設されている。この固定側サイドフレーム20のストッパ部25にリフタリンク41の規制用当接部48が当接した場合には、リフタリンク41の突発的な前面方向への回動を規制する。なお、リフタリンク41の突発的な前面方向への回動は、車両前突等によってシートクッション等の着座側構成部がシート前面側に向けて荷重をかけた場合に、突発的に前面方向への回動しようとするものである。このストッパ部25は、固定側サイドフレーム20において、リフタリンク41が配置される側(シート幅方向外側)に向けてフランジ状に突出して形成されるように配設されている。なお、このストッパ部25には、規制用当接部48が当接する当接面251が形成されている。この当接面251が延びる面方向は、規制用当接部48が当接する当接方向(フランジ状支持部47の延在方向)と交差する方向に設定されている。
【0016】
次に、昇降機構30について説明する。
図4は、下限位置状態にある昇降機構30を示す拡大側面図である。図5は、上限位置状態にある昇降機構30を示す拡大側面図である。図6は、上限位置状態にある昇降機構30においてリフタリンク41が前面方向へ突発的に回動した際の力の作用を示す拡大側面図である。なお、図2〜図6は、図1とは異なり、骨格となる部分についてのサイド部分片側をシート内側から視た図面となっている。
図4および図5に示すように、昇降機構30は、上記した固定側サイドフレーム20に対して、上記したクッションフレーム11の相対的な上下位置を変更可能に設定できるように構成されている。このように、固定側サイドフレーム20に対するクッションフレーム11の相対的な上下位置を設定することにより、不図示のシートクッションおよびシートバックの着座高さ位置を調節できるものとなっている。この昇降機構30は、これら固定側サイドフレーム20とクッションフレーム11との間に介在されるように配設されるものであり、概略、ストッパリンク31と、リフタリンク41とを備える。なお、図1に示すように、昇降機構30は、固定側サイドフレーム20とクッションフレーム11との間の背面側部分において配設されるものとなっている。これに対して、固定側サイドフレーム20とクッションフレーム11との間の前面側部分においては、前面側支持リンク51が配設されている。この前面側支持リンク51は、一端側となる下側が固定側サイドフレーム20に対して回動可能に軸支持されており、他端側となる上側がクッションフレーム11に対して回動可能に軸支持されている。
【0017】
まず、ストッパリンク31について、図3および図5の配置状態で説明する。
図3および図5に示すように、ストッパリンク31は、長尺矩形の金属板を打抜き加工等を行うことにより形成される。このストッパリンク31は、一側が車両フロアF側に設置された固定側サイドフレーム20(フロア側部材)に対して回動可能に軸支持されるとともに、他側が次に説明するリフタリンク41に設けられた長孔45に遊嵌されるものとなっている。
具体的には、図3に示すように、ストッパリンク31の形状としては長尺矩形の金属板にて形成されており、ストッパリンク31の一側となる下側部分には、回動可能に固定側サイドフレーム20に軸支連結させるための下部連結孔32が配設されている。この下部連結孔32は、固定側サイドフレーム20に配設された第1連結孔21との間に軸支部材34が挿通されて互いを軸支連結されている。この軸支部材34は、これら下部連結孔32と第1連結孔21とを軸支連結することにより、固定側サイドフレーム20に対してストッパリンク31を相対的に回動可能に軸支するものとなっている。なお、この軸支部材34は、ストッパリンク31の下部連結孔32と、固定側サイドフレーム20の第1連結孔21との互いに対して挿通された状態で、適宜にカシめることにより互いに回動可能な連結状態を保持している。
これに対して、ストッパリンク31の他側となる上側部分には、次に説明するリフタリンク41の長孔45に遊嵌される遊嵌部位36を設けるための上部連結孔33が設けられている。遊嵌部位36は、適宜の円柱形状部分を有する鋲状部材35を長孔45に遊嵌させた状態で、上部連結孔33に結合させることにより形成される。つまり、上部連結孔33に結合した鋲状部材35は、リフタリンク41の長孔45に遊び有しつつ嵌められる円柱形状部分が遊嵌部位36として機能するものとなっている。なお、この遊嵌部位36は、リフタリンク41の長孔45の内部をスムーズに移動することができつつ、長孔45の内部に形成される凹凸部453の凹状の一部に対して嵌り込むことができるようになっている。
【0018】
次に、リフタリンク41について、図3および図5の配置状態で説明する。
図3および図5に示すように、リフタリンク41は、略矩形の金属板を打抜き加工および折曲加工等を行うことにより形成される。このリフタリンク41は、一側が車両フロアFに設置された固定側サイドフレーム20(フロア側部材)に対して回動可能に軸支持されるとともに、他側がシートクッション(着座側構成部)の骨組みをなすクッションフレーム11(フレーム部材)を回動可能に軸支持するものとなっている。
具体的には、図3に示すように、リフタリンク41の形状としては、略矩形の金属板にて形成されており、リフタリンク41の一側となる下側部分に、回動可能に固定側サイドフレーム20に軸支連結させるための下側連結孔42が配設されている。この下側連結孔42は、固定側サイドフレーム20に配設された第2連結孔22との間に軸支部材49が挿通されて互いを軸支連結されている。この軸支部材49は、これら下側連結孔42と第2連結孔22とを軸支連結することにより、固定側サイドフレーム20に対してリフタリンク41を相対的に回動可能に軸支するものとなっている。なお、この軸支部材49は、リフタリンク41の下側連結孔42と、固定側サイドフレーム20の第2連結孔22との互いに対して挿通された状態で、適宜にカシめることにより互いに回動可能な連結状態を保持している。つまり、リフタリンク41は、この軸支部材49を回動軸支点として、固定側サイドフレーム20に対して相対的に回動することができる。
これに対して、リフタリンク41の他側となる略矩形の金属板の上側部分には、上記したクッションフレーム11を回動可能に軸支連結するための上側連結孔43が配設されている。この上側連結孔43は、クッションフレーム11に配設された連結孔111との間に連結ロッド19が挿通されて互いを軸支連結されている。この連結ロッド19は、これら上側連結孔43と連結孔111とを軸支連結することにより、リフタリンク41に対してクッションフレーム11を相対的に回動可能に軸支するものとなっている。なお、この連結ロッド19は、リフタリンク41の上側連結孔43と、クッションフレーム11の連結孔111との互いに対して挿通された状態で、適宜に螺子締結することにより互いに回動可能な連結状態を保持している。
また、図示していないが、上側連結孔43の上側に隣接する部分には、レバー連結孔44が配設されている。このレバー連結孔44は、このリフタリンク41を操作する操作レバー(不図示)の一部が軸支連結される部分となっている。この不図示の操作レバーを操作することにより、このリフタリンク41の回動位置を操作することができるようになっている。
【0019】
ところで、図3および図5に示すように、上記したリフタリンク41のうち下側連結孔42と上側連結孔43との間には、長孔45が配設されている。この長孔45は、上記したストッパリンク31の上側部分に配設される遊嵌部位36を遊嵌する部分である。この長孔45は、上側を凸とするように円弧を描く長孔形状にて形成されている。ここで、この長孔45の内周部分のうち前面側の端部が前面側端部451として規定されており、この長孔45の内周部分のうち背面側の端部が背面側端部452として規定されている。この前面側端部451と背面側端部452との間の内周部分の円弧を描くように長く延びる上側内周部分には、凹凸が交互に複数形成されることにより波打ち形状とされる凹凸部453が設けられている。なお、この凹凸部453には、上記したようにストッパリンク31の遊嵌部位36が嵌り込む部分であり、このストッパリンク31の遊嵌部位36の形状に対応した適宜の大きさにて形成されている。
遊嵌部位36は、凹凸部453に対するストッパリンク31の遊嵌部位36の嵌り込みによって、長孔45の内周部分に当接するものとなっている。これによって、車両後突等によってシートクッション等の着座側構成部がシート背面側に向けて荷重をかけることにより、突発的にリフタリンク41が背面方向への回動しようとした場合には、ストッパリンク31の遊嵌部位36が長孔45の内周部分となる凹凸部453に嵌り込むように長孔45の内周部分に当接することとなる。これによって、リフタリンク41の背面方向への回動を回動規制するものとなっている。
【0020】
また、この長孔45は、図6に示すようにリフタリンク41に設けられる規制用当接部48が固定側サイドフレーム20に配設されるストッパ部25に当接した場合であっても、ストッパリンク31の遊嵌部位36が長孔45の内周部に対して非当接となるような長孔形状として形成されている。言い換えれば、昇降機構30が上限位置状態の場合(図5参照)にリフタリンク41が突発的に前面方向へ回動しようとして、リフタリンク41の規制用当接部48が固定側サイドフレーム20のストッパ部25に当接した場合(図6参照)であっても、ストッパリンク31の遊嵌部位36が長孔45の背面側端部452に対して非当接となるように設計されている。つまり、車両後突等によって、シートクッション等の着座側構成部がシート背面側に向けて荷重をかけた場合であっても、長孔45の内周部分に対してストッパリンク31の遊嵌部位36の非当接状態を維持するように、長孔45の背面側端部452の位置は設計されている。
【0021】
また、図3および図5に示すように、このリフタリンク41の前面側には、規制用当接部48を設けるための前面延在部46が形成されている。この前面延在部46は、上記した長孔45の前面側かつ上側の部分に、切り欠かれていない中実(金属の肉有り)部分を延在させることにより形成されるものとなっている。この前面延在部46は、長孔45の背面側端部452における長孔45の円弧接線方向の前面側に向かって中実(金属の肉有り)部分が延在するように形成されている。
図3および図5に示すように、このリフタリンク41の前面側端縁は、固定側サイドフレーム20が配置される側(シート幅方向内側)に折り曲げるようにしてフランジ状支持部47が形成されている。つまり、このフランジ状支持部47は、シート幅方向内側に向けてフランジ状に突出して形成されている。このフランジ状支持部47は、長孔45の延在方向とは交差する異なる方向に延びる凸条状に設計されている。具体的には、フランジ状支持部47は、長孔45の前面側端部451の隣接位置から、回動軸支点となる軸支部材49から離れていくようにリフタリンク41の略回動径方向に沿って延びている。そして、このフランジ状支持部47の側端部が、上記した固定側サイドフレーム20に配設されるストッパ部25に当接する規制用当接部48として構成されている。つまり、この規制用当接部48は、フランジ状支持部47の側端部となる折曲形状部分にて形成されている。このため、この規制用当接部48の配設位置は、リフタリンク41の一側に位置する軸支部材49を回動軸支点として、上記した長孔45の前面側端部451の配設位置よりも、回動径方向外側に位置するように設定されたものとなっている。なお、この規制用当接部48は、上記した前面延在部46の端縁部分に形成されたフランジ状支持部47の側端部で構成されているため、この規制用当接部48が当接することにより受けるを圧力をフランジ状支持部47にて支持することができるものとなっている。ここで、フランジ状支持部47が延在する方向は、規制用当接部48がストッパ部25の当接面251に当接する当接方向と略一致する方向に設定されている。
【0022】
上記したように構成される車両用シートの昇降機構30によれば、次のような作用効果を奏することができる。
すなわち、上記した車両用シートの昇降機構30によれば、リフタリンク41の背面方向への回動は、長孔45の内部に遊嵌されるストッパリンク31の遊嵌部位36が長孔45の内周部となる凹凸部453に嵌合当接することによって回動規制されるものとなっている。このため、車両後突等によりシートクッション等の着座側構成部がシート背面側に向けて荷重をかけた場合でも、リフタリンク41の背面方向への回動を規制することができる。また、上記した車両用シートの昇降機構30によれば、車両前突等により着座側構成部がシート前面側に向けて荷重をかけた場合でも、リフタリンク41の前面方向への回動は、リフタリンク41に設けられる規制用当接部48が固定側サイドフレーム20に配設されるストッパ部25の当接面251に当接することによって回動規制されるものとなっているので、リフタリンク41の前面方向への回動を規制することができる。
【0023】
ここで、上記した車両用シートの昇降機構30によれば、規制用当接部48の配設位置は、リフタリンク41の回動軸支点となる軸支部材49に対して、長孔45の前面側端部451の配設位置よりも回動径方向外側の位置するように設定されている。このため、長孔45の前面側端部451のリフタリンク41の回動径距離と、規制用当接部48のリフタリンク41の回動径距離とは、相違する距離に設定されることとなる。このため、リフタリンク41の回動規制により規制用当接部48にかかる荷重は、図6にて示すハッチング矢印方向の基端部分ように、長孔45の前面側端部451の位置とはずらされた位置にかかることとなる。つまり、リフタリンク41の回動規制により規制用当接部48にかかる荷重は、長孔45とは異なる切り欠かれていない中実(金属の肉有り)部分となる前面延在部46にて支持できるものとなる。これによって、切り欠かれた(金属の肉無し)形状の長孔45に荷重のかからないものとすることができ、長孔45部分の変形を防止することができる。また、リフタリンク41の回動規制により規制用当接部48にかかる荷重は、切り欠かれてはいない中実(金属の肉有り)部分となる前面延在部46にて支持できるので、回動を規制する回動ストッパ機構としての強度も向上させることができる。
さらに、上記した車両用シートの昇降機構30によれば、規制用当接部48の回動軸支点からの距離(回動径距離)は、従前まで設定されていた距離よりも長い距離に設定されるものとなる。このため、梃子の原理によって、回動規制にて規制用当接部48にかかる荷重は従前よりも小さい負荷とすることができ、荷重に対するリフタリンク41の耐久性を向上させて回動ストッパ機構全体としての強度の向上にも繋がることとなる。
もって、上記した車両用シートの昇降機構30によれば、少ない部品点数で簡素に構成することができながら、車両後突によるリフタリンク41の背面方向への回動を規制することができ、車両前突によるリフタリンク41の前面方向への回動を規制することができ、さらに車両前突によっての長孔45部分の変形を防止して、回動ストッパ機構としての強度を向上させることができる。
【0024】
また、上記した車両用シートの昇降機構30によれば、長孔45は、リフタリンク41に設けられる規制用当接部48が固定側サイドフレーム20に配設されるストッパ部25の当接面251に当接した場合であっても、ストッパリンク31の遊嵌部位36は長孔45の内周部に対して非当接となる長孔形状として形成されているので、例えばストッパリンク31の遊嵌部位36が長孔45の内周部の背面側端部452に当たることによって長孔45部分を変形させてしまう問題を防止することができる。もって、車両前突による長孔45の変形を防止して、回動ストッパ機構としての強度を向上させることができる。
また、上記した車両用シートの昇降機構30によれば、ストッパ部25は、固定側サイドフレーム20からシート幅方向外側にフランジ状に突出して形成されているので、このストッパ部25を固定側サイドフレーム20と別部品で構成することがなくなる。これによって、部品点数を少なくして、製造コストを抑えることができるとともに製造作業性を向上させることができる。
また、図6に示すように、規制用当接部48は、長孔45の延在方向とは異なる方向に延びたリフタリンク41の端縁をシート幅方向に折り曲げるようにして形成されたフランジ状支持部47の側端部にて構成されており、さらにストッパ部25への当接面251は規制用当接部48が延びる方向と交差する方向に形成されている。このため、この規制用当接部48がストッパ部25から受ける荷重を、長孔45の延在方向とは異なる方向に向けた図6にて示すハッチング矢印方向とすることができる。これによって、規制用当接部48がストッパ部25から受ける荷重を、切り欠かれた(金属の肉無し)形状となる長孔45に向かないものとして、長孔部分の変形を効果的に防止することができ、回動ストッパ機構としての強度を向上させることができる。
【0025】
なお、本発明に係る車両用シートの昇降機構にあっては、上記した実施の形態に限定されるものではなく、次のように適宜個所を変更して構成するようにしてもよい。
例えば、上記した実施の形態における車両フロアに設置されたフロア側部材としては、脚ブラケット13を介して車両フロアFに固定設置されるスライド機構15に対して固定設置される固定側サイドフレーム20となっていた。しかしながら、本発明に係るフロア側部材としては、これに限定されることなく、脚ブラケット13やスライド機構15を設けることなく、車両フロアFに直で固定設置される部材であってもよい。さらに言えば、本発明に係るフロア側部材としては、車両フロアを一部変形させて取付け構造が構成されるものも含まれる。
また、本発明に係る車両用シートの昇降機構としては、上記したリフタリンクやストッパリンクのほか、適宜の部材が加えられて構成されるものであってもよい。
【符号の説明】
【0026】
10 車両用シート(着座側構成部)
11 クッションフレーム(着座側構成部のフレーム部材)
111 連結孔
13 脚ブラケット
15 スライド機構
16 ロアレール
17 アッパレール
19 連結ロッド
20 固定側サイドフレーム(フロア側部材)
21 第1連結孔
22 第2連結孔
25 ストッパ部
251 当接面
30 昇降機構
31 ストッパリンク
32 下部連結孔
33 上部連結孔
34 軸支部材
35 鋲状部材
36 遊嵌部位
41 リフタリンク
42 下側連結孔
43 上側連結孔
44 レバー連結孔
45 長孔
451 前面側端部
452 背面側端部
453 凹凸部
46 前面延在部
47 フランジ状支持部
48 規制用当接部
49 軸支部材(リフタリンクの回動軸支点)
51 前面側支持リンク
F 車両フロア

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両用シートの着座高さ位置を調節するために車両用シートに設けられる車両用シートの昇降機構であって、
一側が車両フロアに設置されたフロア側部材に対して回動可能に軸支持され且つ他側が着座するための着座側構成部のフレーム部材を回動可能に軸支持するリフタリンクと、一側が前記フロア側部材に対して回動可能に軸支持され且つ他側が前記リフタリンクに設けられた長孔に遊嵌されるストッパリンクとを備え、
前記着座側構成部がシート背面側に向けて荷重をかけることによる前記リフタリンクの背面方向への回動は、前記長孔内部に遊嵌される前記ストッパリンクの遊嵌部位が該長孔内周部に当接することによって回動規制されるものとなっており、
前記着座側構成部がシート前面側に向けて荷重をかけることによる前記リフタリンクの前面方向への回動は、前記リフタリンクに設けられる規制用当接部が前記フロア側部材に配設されるストッパ部に当接することによって回動規制されるものとなっており、
前記規制用当接部は、前記リフタリンクの一側の回動軸支点に対して、前記長孔の前面側端部の配設位置よりも回動径方向外側に位置するように設定されて設けられていることを特徴とする車両用シートの昇降機構。
【請求項2】
請求項1に記載の車両用シートの昇降機構において、
前記長孔は、前記リフタリンクに設けられる前記規制用当接部が前記フロア側部材に配設されるストッパ部に当接した場合であっても、前記ストッパリンクの前記遊嵌部位が該長孔内周部に対して非当接となる長孔形状として形成されていることを特徴とする車両用シートの昇降機構。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の車両用シートの昇降機構において、
前記規制用当接部は、前記長孔の延在方向とは異なる方向に延びた前記リフタリンクの端縁をシート幅方向に折り曲げるようにして形成されたフランジ状支持部の側端部にて構成されており、
前記ストッパ部は、前記規制用当接部が延びる方向と交差する方向に該規制用当接部が当接する当接面が形成されるように、前記フロア側部材からシート幅方向にフランジ状に突出して形成されていることを特徴とする車両用シートの昇降機構。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−35641(P2012−35641A)
【公開日】平成24年2月23日(2012.2.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−174387(P2010−174387)
【出願日】平成22年8月3日(2010.8.3)
【出願人】(000241500)トヨタ紡織株式会社 (2,945)
【出願人】(000000011)アイシン精機株式会社 (5,421)
【Fターム(参考)】