説明

車両用シートバックフレーム

【課題】軽量でも大きな衝撃エネルギーを効率的に吸収でき、車両用シートバックフレームとして有効なエネルギー吸収構造を提供する。
【解決手段】略矩形枠状のフレーム体と隔壁材とを構成要素として含み、隔壁材は縫製部分の無い繊維材料によって、フレーム体の開口部の一部または全部を面状に被覆して形成された構成部材を含むことを特徴とする車両用シートバックフレーム。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はフレーム体と、繊維材料を含む隔壁材とからなる軽量な車両用シートバックフレームに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、自動車、鉄道、航空機等の移動体におていは環境負荷低減の観点から、様々な法規制が整いつつあり、特に自動車に関して言えば、燃費向上による環境負荷低減を狙った車体の軽量化に対するニーズが高まっている。一方で、これらの移動体については、衝突、急発進、急ブレーキ、急な針路変更などに伴って構成部材へは衝撃的な負荷が作用する場合があり、これに対しても特に自動車においては、この衝撃負荷から乗員を保護するといった観点から、自動車の構成部材ごとに安全法規が整備されており、これらの法規制をクリアするために様々な部材に衝撃吸収構造が用いられている。
【0003】
衝撃吸収構造は、車両全体の設計にあわせて、様々な形状、寸法のものが考案され使用されているが、エンジンルーム、トランクルームとキャビンを隔て、衝突時の乗員保護を目的としたバルクヘッドと呼ばれる隔壁材もその一つである。特に、ワゴンタイプ、またはハッチバックタイプの自動車においては、キャビンとトランクルームが一体化されたものが主流であり、リヤシートを分割可倒式とすることで、キャビンスペースとトランクスペースを自由にアレンジできるような機能を具備したものが多くなっている。したがって、これらのタイプの自動車では、リヤシートバックそのものがバルクヘッドの役割を担うことになる。このような流れから、衝突の際トランクルーム内の荷物がシートバックに当たることを想定した安全性評価が定められている。例えば、ECE−R17−07に定められた荷室隔壁強度試験においては、重さ18kgの規格荷物が衝突時の慣性力でシート背面に当たった際に、ヘッドレスト部分がRポイント(着席基準点)より150mm以上、シートバック部分がRポイントより100mm以上、前方へ移動しないことが義務付けられている。
【0004】
また、自動車用リアシートバックの構造としては、金属製のパイプ材を外周部に配し、このパイプ材によって囲まれた領域内に隔壁材として鋼鈑などの金属製板材を配置したものが一般的であるが、近年の車両重量軽減に関する要望から、シートバックフレームについても軽量化が求められている。
【0005】
このような状況の下、軽量性と隔壁材としての耐衝撃性を両立すべく様々なシートバック構造が案されている。特許文献1では枠状の金属フレーム体と隔壁材として樹脂中空パネル体を用いたシートバック構造を開示している。これは、隔壁材を樹脂中空体としたことにより軽量化を狙った構造であるが、樹脂自体の強度が高くないため、上述のような荷室隔壁強度試験において局所的な衝撃を受けた場合には、荷重をシートバック全体に伝達する前に、隔壁材である樹脂中空パネル体が破壊する恐れがあるため、スキン層の厚みを大きくとらざるを得ず、軽量化に限界がある。
【0006】
一般に、有機繊維は、金属材料と比べて軽量であり、繊維軸方向においては高強度であるため、引張モードで利用できれば、高いエネルギー吸収効率を達成できる可能性がある。
【0007】
特許文献2では矩形枠状のフレーム体にシートベルト等に使われる布製の帯材を垂直方向と水平方向に掛け渡してフレーム体の外縁部で折り返して縫製することでフレーム体の開口部分を被覆し、更にシートバック後面側に凸部を有する板材を配置したシートバックフレーム構造が提案されている。これは、衝撃エネルギーを帯材の構成材料である繊維材料の伸張変形によって吸収する構造であり、シートバックへの衝撃荷重の入力が局所的であっても、シートバック後面側の板材及び帯材によって荷重が広範囲に伝達でき、シートバックへの局所的な荷重負荷が抑制されるというものである。
【0008】
しかしながら、特許文献2のように隔壁材として使用する帯材に縫製部が存在すると、ここに応力が集中し、衝撃荷重によって帯材が破断しやすい。一方、これを防ぐために帯材の強度を高くすると、帯材の目付けが大きくなりシートバック全体の重量が増加してしまう。特に、シートベルト材のような緻密に組織化された高強度の帯材は、比較的目付けが大きく全体重量の増加も問題であるが、フレーム体中のシートベルト材が掛け渡された部分に衝突荷重が集中してしまうといったことも問題である。
【0009】
また、エネルギー吸収の効率に関しても次のような問題が懸念される。一般に、衝撃エネルギーを繊維の伸張変形によって吸収させる場合、図1に示すように吸収エネルギーの曲線形状は下に凸となるため、できるだけ繊維の破断伸度付近まで伸張変形させる方が効率的にエネルギーを吸収できる。しかしながら、特許文献2に記載しているシートベルト材のような帯材では、多数の構成繊維が緻密に組織化しており、構成繊維そのものが高伸度繊維であっても、繊維集合体である帯材として荷重を受けるため、構成繊維一本一本への負荷荷重が分散されるため各々が十分に伸張変形できず、効率的にエネルギー吸収ができない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2005−103002号公報
【特許文献2】特開平10−217816号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、軽量でも大きな衝撃エネルギーを効率的に吸収でき、車両用シートバックフレームとして有効なエネルギー吸収構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、従来技術における上記課題を解決するため鋭意研究した結果、複数の繊維を伸張変形させて一定量のエネルギーを吸収する際、各繊維に均一に荷重が負荷するよりも、各々が分担する荷重にバラツキを持たせた方がトータルの衝撃荷重を低く抑えることができるということを見出し、本発明に到達した。更に、これを利用して車両用シートバックとして機能させる手段として、好ましくは有機繊維から構成される繊維材料を枠状の芯材に倦回して面状部分を形成し、これによってフレーム体の開口部を被覆することで、衝撃荷重繊維材料が効率的に利用可能な隔壁材となることを見出した。
【0013】
すなわち本発明は、略矩形枠状のフレーム体と隔壁材とを構成要素として含み、隔壁材は縫製部分の無い繊維材料によって、フレーム体の開口部の一部または全部を面状に被覆して形成された構成部材を含むことを特徴とする車両用シートバックフレームである。本発明によれば、大きな衝撃エネルギーが加わっても、隔壁材である繊維材料が伸張変形することでエネルギーを吸収し、局所的な衝撃負荷に対しても荷重を広範囲に伝達できるため、軽量でも大きな衝撃エネルギーを効率的に吸収し、かつ隔壁材である繊維材料の配向を適正に調整することで、部材全体の変位量も抑制することが可能となる。
【発明の効果】
【0014】
本発明の車両用シートバックフレーム構造は、ワゴン型車両やハッチバック型車両のリアシートに好適に適用することができる。本発明によれば、車両用シートバックフレームを軽量でも大きな衝撃荷重を受け止め、更に構造体全体の変位量も抑制することが可能であり、着座者への衝撃負荷を小さくできる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】有機繊維の荷重−伸び曲線及びエネルギー−伸び曲線の例
【図2】繊維の集合体によって、一定量のエネルギーを吸収させる際の、構成繊維各々の荷重分担パターン
【図3】フレーム体の全体像及びA−A線での断面
【図4】繊維材料、板材及びフレーム体の配置(断面図)
【図5】実施例及び比較例のフレーム体
【図6】落錘試験装置
【図7】撚糸コード巻付け工程の概略図
【図8】実施例1〜3の撚糸コード巻付けパターン
【図9】実施例4の撚糸コード巻付けパターン
【図10】比較例3のシートベルト材巻付けパターン
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の車両用シートバックフレームについて説明する。
[隔壁材]
本発明における隔壁材とは、シートバックに衝撃が加わった際に衝突物の運動エネルギーを吸収することで該衝突物が隔壁材を突き破ることを防ぐ機能を有する面状の部材であり、縫製部分の無い繊維材料によって枠状フレーム体の開口部分の一部または全部を被覆して形成された構成部材を含む。この目的を満たすものであれば、フレーム体の開口部の全部を被覆する必要はなく、面内に目漉きや貫通孔があってもよい。隔壁材はフレーム体の開口面積の30〜100%を被覆することが好ましい。より好ましくは50〜90%である。
【0017】
また隔壁材はフレーム体の片面、両面のどちらに配置してもかまわないが、両面に配置した際、各面の繊維材料の構成は同一であっても異なっていてもよい。隔壁材はフレーム体の片面のみに配置する場合は衝突面側、すなわちリヤシートのトランクルーム側に配置することが好ましい。
【0018】
本発明では、衝突物の運動エネルギーは主に繊維材料の伸張変形によって吸収するため、所望の衝突エネルギーに対して衝突物が隔壁材を突き破ることが無いように、繊維材料の素材及び形態、隔壁材の形成方法が適宜選択可能であるが、それぞれについて好ましいものを以下に例示する。
【0019】
本発明における、繊維材料の素材としては、シートバック全体の重量を軽減できるため、単位重量あたりの伸張変形によるエネルギー吸収性能が比較的高い有機繊維が好ましい。有機繊維とは、例えば、ポリエーテルエーテルケトン繊維、ポリフェニレンサルファイド繊維、ポリエーテルスルホン繊維、アラミド繊維、ポリベンゾオキサゾール繊維、ポリアリレート繊維、ポリケトン繊維、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ボリブチレンテレフタレート、ポリ乳酸などのポリエステル繊維、ポリアミド6、ポリアミド66などのポリアミド繊維、ポリビニルアルコール繊維、ポリプロピレン繊維、レーヨン繊維、アセテート繊維などが挙げられるが、引張荷重が加わった際に塑性変形を示す性質を有するポリエステル繊維、ポリアミド繊維、ポリビニルアルコール繊維、ポリプロピレン繊維、レーヨン繊維、アセテート繊維がより好ましい。塑性変形を示す繊維は、荷重増大の割合よりも変位増大の割合が大きくなるため、衝撃荷重を抑制しつつ大きなエネルギー吸収が得られる。
【0020】
本発明における、隔壁材を形成する繊維材料とは、枠状のフレーム体の開口部分を被覆して実質的に面状部分を形成する繊維組織の形態を指し、例えば、モノフィラメント、モノフィラメントを束ねた繊維束や繊維束に撚りを施した撚り糸といったマルチフィラメント及び紡績糸などの一次元繊維材料、一次元繊維材料を原料として公知の設備を使用して成形されるネット状物、すだれ織物、織物、編物、不織布などの二次元繊維材料、二次元繊維材料を原料として縫製等によって筒状、袋状などに成形、もしくは、一次元繊維材料を直接的に筒状などに成形した筒編物、組紐、不織布などの立体的な三次元繊維材料などが挙げられる。また、これらの繊維材料を用いて隔壁材を形成する方法としては、例えば、二次元繊維材料を適当な寸法に裁断し、フレーム体の開口部を被覆するようにフレーム体と一体化する方法、筒状もしくは袋状の三次元繊維材料をフレーム体の開口部を被覆するように被せてフレーム体と一体化する方法などが挙げられるが、後述するように衝撃エネルギー吸収効率及び衝撃荷重の抑制の観点から一次元繊維材料を用いることが好ましいため、隔壁材の形成方法としては、複数本の一次元繊維材料を並列に配置して面状部分を形成し、面状部分がフレーム体の開口部を被覆するようにフレーム体と一体化する方法が好ましい。一次元繊維材料を並列に並べる方法としては特に限定はしないが、フレーム体との一体性及び生産性などの観点から、一次元繊維材料を板状もしくは枠状の芯材などに複数回所定のピッチで巻き付けて形成する方法が好ましい。このときの枠状の芯材として、フレーム体そのものを芯材として用いても良いし、別体の芯材に一次元繊維材料を倦回して予め面状部分を形成しておき、これとフレーム体を一体化する方法でも良い。
【0021】
本発明における、隔壁材を形成する繊維材料としては、縫製部分を有さないことが必要である。縫製部分とは、複数の二及び三次元繊維材料を重ねて、その重なった部分を公知の縫製機器によって縫い合わせた部分を指し、縫い合わせに使用する縫い糸は、二及び三次元繊維材料を形成する構成繊維とは別の繊維素材である。
【0022】
上述したように繊維材料に縫製部があると、衝撃荷重が入力した際、その部分に応力が集中し、比較的低い荷重で繊維材料が破断してしまうため、十分にエネルギー吸収が行えない。これを防ぐために繊維材料を高目付け化すると、シートバック全体の重量が増加するため、重量あたりのエネルギー吸収効率が低下する。縫製の具体的な例としては、二次元繊維材料をフレーム体に固定する目的で行う縫製や、二次元繊維材料から三次元繊維材料へ成形する際の縫製などが挙げられる。したがって、一次元繊維を原料として連続的に袋状もしくは筒状に成形されている繊維材料をフレーム体に被せる方法などであれば、応力集中を誘起しないため本発明の繊維材料として用いることができる。
【0023】
また、本発明における隔壁材を形成する繊維材料として、エネルギー吸収効率及び衝撃荷重抑制の観点から、緻密に組織化されていない一次元繊維材料がより好ましい。その理由としては以下のとおりである。上述したように、構成繊維が効率的にエネルギー吸収衝撃エネルギーを繊維の伸張変形によって吸収させる場合、できるだけ繊維の破断伸度付近まで伸張変形させる方が効率的にエネルギーを吸収できる。このことから、図2に具体例として示すように、複数の繊維の伸張変形で一定量の衝撃エネルギーを吸収する際には、構成繊維各々が分担する荷重にバラツキを持たせた方がトータルの衝撃荷重を低く抑えることができる。図2では2本の繊維の伸張変形によってエネルギーを吸収する場合、構成繊維への荷重負荷パターンとして、パターン1の繊維2本でも、パターン2とパターン3をそれぞれ1本ずつ組み合わせても、エネルギーの相対値として200(無次元)を吸収できるが、トータル荷重の相対値としては後者の方が小さく抑えられるが、構成繊維が緻密に組織化されている場合は、局所的に荷重が入力しても各構成繊維が分担する荷重が均一化される傾向であるため、前者に相当し、繊維材料を支えているフレーム体にかかる衝撃荷重が大きくなり、結果的に着座者への衝撃荷重も大きくなるため好ましくない。このときの一次元繊維材料の繊度としては、対象とする衝撃エネルギーによって適宜調整することが可能であるが、500〜10000dtexが好ましく、1000〜5000dtexがより好ましい。一次元繊維材料の繊度が500dtex以下の場合は、絶対強力が不十分であるため、被衝突物が隔壁材を突き破る危険性がある。一方、10000dtex以上の場合は、強力が過度に高いため、倦回した芯材に局所的な荷重が負荷し、芯材の破断等の危険性がある。
【0024】
フレーム体の開口部を被覆する繊維材料の使用量としては、対象とする衝撃エネルギー量によって適宜調整することが可能であるが、繊維目付けとして、500〜5000g/m2が好ましく、1000〜3000g/m2がより好ましい。
【0025】
[フレーム体]
本発明のフレーム体は、略矩形枠状すなわち、外縁が略矩形で中心部が中抜きの開口部を有する構造体である。略矩形とは、例えば、四角形、台形、逆台形など、基本的に4つの辺で構成されたものが具体的には挙げられる。角部に関しては、曲率を有しているもの、直線を基調としたもの、角が斜めに切り落とされ実質多角形になったものなども含まれ、シートバックフレームのデザインなどを考慮して適宜調整することができる。
【0026】
また、本発明におけるフレーム体の断面形状としては、特に規定はしないが、例えば、略方形または略楕円形の中実断面形状、中空閉断面形状、中空開断面形状、または、中空断面のスキン層として、フレーム体の剛性を高めるために、コアに発泡樹脂成形体を充填することもできる。また、フレーム体には、後述する板材との接合を考慮した、フランジ部を設けても良い。
【0027】
図3に本発明のフレーム体の形状を例示するが、本発明のシートバックフレーム構造ははこれに限られるものではない。断面の幅(図3の記号6)は好ましくは10mm以上、100mm以下、より好ましくは20mm以上、40mm以下である。断面の高さ(図3の記号7)は特に限定はないが、好ましくは10mm以上、100mm以下、より好ましくは40mm以上、60mm以下である。フレーム体の厚み(図3の記号8)は特に限定はないが、6mm以下とすることが好ましく、より好ましくは4mm以下である。厚みの下限は実質1mmである。フランジ部の幅(図3の記号9)は接合が可能であれば良いが、具体的には5mm以上、50mm以下、より好ましくは10mm以上、30mm以下である。
【0028】
本発明における、フレーム体の材質は所望の衝撃荷重に対する耐性があれば様々な素材が使用でき、木材、金属、樹脂、これらの組み合わせなどが例示できるが、軽量性、機械的強度の面から、強化繊維として炭素繊維を含み、樹脂をマトリクスとした繊維強化複合材料が好ましく、マトリクス樹脂としては、繊維強化複合材料の成形性、生産性、加工性の面から、熱可塑性樹脂がより好ましい。
【0029】
熱可塑性樹脂としては、例えば塩化ビニル樹脂、塩化ビニリデン樹脂、酢酸ビニル樹脂、ポリビニルアルコール樹脂、ポリスチレン樹脂、アクリロニトリル−スチレン樹脂(AS樹脂)、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン樹脂(ABS樹脂)、アクリル樹脂、メタクリル樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリアミド6樹脂、ポリアミド11樹脂、ポリアミド12樹脂、ポリアミド46樹脂、ポリアミド66樹脂、ポリアミド610樹脂、ポリアセタール樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリエチレンナフタレート樹脂、ボリブチレンテレフタレート樹脂、ポリアリレート樹脂、ポリ乳酸樹脂、ポリフェニレンエーテル樹脂、ポリフェニレンスルフィド樹脂、ポリスルホン樹脂、ポリエーテルスルホン樹脂、ポリエーテルエーテルケトン樹脂などが挙げられる。この中でも、塩化ビニル樹脂、ポリスチレン樹脂、ABS樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリアミド6樹脂、ポリアミド66樹脂、ポリアセタール樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリエチレンナフタレート樹脂、ボリブチレンテレフタレート樹脂、ポリアリレート樹脂はより好ましく、特に好ましいのは、ポリプロピレン樹脂、ポリアミド6樹脂、ポリアミド66樹脂が挙げられる。
【0030】
フレーム体の強化繊維として使用する炭素繊維の形態は特に規定はしないが、強度、剛性の面から、連続繊維の炭素繊維糸条を含むことが好ましい。連続繊維の炭素繊維糸条とは、枠状のフレーム体の各辺にそって連続的に配された炭素繊維糸条であって、各辺の連結部である角部においては、不連続であっても良い。炭素繊維糸条とは、通常、その単糸径が数ミクロンの炭素繊維単繊維が複数本引き揃えられたものであって、このようにすることで、炭素繊維糸条に沿って引っ張り荷重が負荷された際に、糸条を構成する単繊維それぞれにかかる負荷が低減でき、炭素繊維の持つ優れた引張特性が発現しやすい。
【0031】
更に、該繊維強化複合材料は複合材料の部分と樹脂のみの部分との積層体やサンドイッチ構造にすることもできる。サンドイッチ構造の場合は、コア部材が複合材料であって表皮部材が樹脂であっても良く、逆にコア部材が樹脂のみの部分であって、表皮部材が複合材料であっても良い。
【0032】
[板材]
また、本発明における隔壁材としては、衝撃荷重をフレーム体へより均一に伝達するため、上述した繊維材料のほかに、板材を付け加えることもできる。板材はフレーム体に伝わる衝突荷重を均一化するために設置されるため、衝突荷重は繊維材料から板材を介してフレーム体に伝わることが重要である。そのため、板材は、少なくとも最もトランクルーム側に配された面状に形成された繊維材料と、フレーム体の間に配されていることが好ましい。板材はフレーム体及び繊維材料の間に配されていることが好ましい。フレーム体及び繊維材料の間とは、少なくとも最もトランクルーム側に面状に形成された繊維材料、次に板材、車室側にフレーム体が配されていることを指すが、繊維材料による面状部分の形成法によっては、最も車室側に再び繊維材料が配される場合もある。板材をフレーム体と繊維材料の間に配する具体的な例としては、板材を芯材として利用して、板材自体に繊維材料を複数回倦回して得られた隔壁材とフレーム体とを接合してシートバックフレームを得る方法などがあげられるが、フレーム体と板材を重ねたものを芯材として利用し、これに繊維材料を複数回倦回する方法、つまり、繊維材料によって板材をフレーム体に緊縛固定する方法が好ましい。この方法では、繊維材料自体が、板材とフレーム体の接合材料となるため、強固な接合強度が得られる。
【0033】
板材の厚みは特に限定はないが、0.5〜5mmであることが好ましい。耐衝撃性の観点から下限は0.5mm程度であり、軽量化の観点から上限は5mm程度である。
更に、板材の材質としては、所望の衝撃負荷によって破断等が無ければ特に規定はしないが、樹脂、金属が挙げられ、なかでも樹脂を含むものが好ましい。なかでも軽量かつ高強度である繊維強化複合材料であることが好ましい。なかでも成形性、生産性、加工性及び衝撃吸収性の面から強化繊維が有機繊維であることが好ましい。また成形性、生産性、加工性及び衝撃吸収性の面から繊維強化複合材料におけるマトリクスは熱可塑性樹脂が好ましい。
【0034】
有機繊維としては、例えばポリエーテルエーテルケトン繊維、ポリフェニレンサルファイド繊維、ポリエーテルスルホン繊維、アラミド繊維、ポリベンゾオキサゾール繊維、ポリアリレート繊維、ポリケトン繊維、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート繊維、ボリブチレンテレフタレート、ポリ乳酸などのポリエステル繊維、ポリアミド繊維、ポリビニルアルコール繊維などが挙げられる。
【0035】
マトリクスの熱可塑性樹脂としては、塩化ビニル樹脂、塩化ビニリデン樹脂、酢酸ビニル樹脂、ポリビニルアルコール樹脂、ポリスチレン樹脂、アクリロニトリル−スチレン樹脂(AS樹脂)、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン樹脂(ABS樹脂)、アクリル樹脂、メタクリル樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリアミド6樹脂、ポリアミド11樹脂、ポリアミド12樹脂、ポリアミド46樹脂、ポリアミド66樹脂、ポリアミド610樹脂、ポリアセタール樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリエチレンナフタレート樹脂、ボリブチレンテレフタレート樹脂、ポリアリレート樹脂、ポリ乳酸樹脂、ポリフェニレンエーテル樹脂、ポリフェニレンスルフィド樹脂、ポリスルホン樹脂、ポリエーテルスルホン樹脂、ポリエーテルエーテルケトン樹脂などが挙げられる。
【0036】
有繊維強化−熱可塑性樹脂マトリクス複合材料の製法としては、使用する有機長繊維の形態に応じて適宜、選定すればよい。例えば、有機繊維が織物や編物などの布帛形態の場合、プレス成形機や真空成形機などを用いて、熱可塑性樹脂が溶融し、有機繊維が溶融しない温度で、積層した織物・編物と樹脂フィルム・不織布を加圧または減圧することにより、長繊維束間に熱可塑性樹脂が含浸した複合材料を得ることができる。また、有機長繊維が撚糸コードの場合、上記のプレス成形や真空成形のほかに、押し出し成形や引抜き成形によっても長繊維束間に熱可塑性樹脂が含浸した複合材料を得ることができる。例えば、クリールスタンドに仕立てた複数本の撚糸コードを一定テンション下で繰出しながら、糸ガイドを用いて引き揃え、引抜き成形機の含浸ダイに導入する。ここで、撚糸コード間に溶融樹脂を含浸させた後、含浸ダイから引抜いて冷却することにより、連続繊維のUDシートを得ることができる。
【実施例】
【0037】
以下に本発明を実施例に基づき具体的に説明する。なお本発明はこれらに限定されるものではない。
【0038】
(フレーム体)
炭素繊維開繊糸織物(サカイオーベックス製、目付け80g/m2)とポリアミド6フィルム(ユニチカ製、「エンブレムONフィルム」、25μm)を金型内で積層して、最高温度260度、4Mpa、10分間プレス成形後、トリミングして図3のような板厚3mm、ハット型炭素繊維複合材料の開断面フレーム体構造物(繊維体積含有率=約50%)を得た。また、フレーム体において、後述する落錘衝撃試験装置に設置するために、図5のように3箇所に穴を開けた。
【0039】
(板材)
ポリエチレンテレフタレート織物(帝人ファイバー製、「T−4498」、目付け175g/m2)とポリアミド6フィルム(ユニチカ製、「エンブレムONフィルム」、25μm)を金型内で積層して最高温度240度、2Mpa、10分間プレス成形して板厚1mm及び3mmの有機繊維強化−熱可塑性樹脂マトリクス複合材料の板材を得た。このとき、1mmの板材では、上記織物を4plyし、3mmの板材では、12plyした。
【0040】
(繊維材料)
・一次元繊維材料
ポリエチレンテレフタレート繊維(帝人ファイバー製、P900M 1100T250f)を原糸とし、カジテック社製のリング撚糸機を用いてZ方向に275回/mの下撚をかけた(撚り係数3.0)。次に、下撚糸2本を合わせ、S方向に200回/mの上撚をかけて(撚り係数3.0)繊維材料として撚糸コード繊維束を得た。
・二次元繊維材料
ポリエチレンテレフタレート繊維を使用したシートベルト材(ホシノ工業製、SB−31C、目付け=1200g/m2、幅=50mm、破断強力=32kN)。
【0041】
(落錘試験による性能評価)
図6に示すように、所定重量及び寸法の落錘子を所定の高さから自由落下させ、試験体のほぼ中央部分に衝突させる以下の落錘衝撃試験により性能評価を行った。
・落錘子;重量18kg、衝突面寸法300×300mm(端及び角をR20mmで丸める)
・落下高さ;9.8m
・試験体の設置;分割可到式のシートバックを想定して、試験体は図6のように3箇所をM10のボルト、ナットで支持具に拘束した
・試験体の評価項目
試験後のフレーム体、繊維材料、板材の破損有無を目視にて確認
衝突試験の様子は側面から高速度カメラ(キーエンス製、「VW−6000」)で撮影し、画像解析から非拘束部分に貼り付けたマーカーの沈み込み量を測量
また、落錘子の加速度の変化を加速度計にて測定し、下記式から、試験体にかかる最大荷重を算出する。
max=m*amax
ここで、
max;試験体にかかる最大荷重
max;落錘子の最大加速度
【0042】
[実施例1]
フレーム体と厚み1mmの板材を接着剤(ITWインダストリー製、「プレクサスMA300」)で接合してフレーム−板材接合体を得た。
次にこのフレーム−板材接合体を取り付け用治具用いてフィラメントワインダー(旭化成エンジニアリング製)に設置し、これを巻き芯として撚糸コード繊維束を巻きつけ、実施例1の試験体を得た。巻付け設備の概略図を図7に示すが、実際は、最初に短尺方向を巻き付けた後、90°回転させて再度フィラメントワインダーに設置して長尺方向の巻き付けを実施した。このときフレーム体の開口部を被覆した撚糸コードの目付けは、短尺方向で825g/m2、長尺方向で375g/m2であった。また、このときの撚糸コード巻付けパターンを図8に示し、評価結果を表1に記載した。
尚、撚糸コードの巻き始めと巻き終わりは接着剤(コニシ製、「ボンドGPクリヤー」)でフレーム体に固定した。
【0043】
[実施例2]
実施例1において、フレーム体の開口部を被覆した撚糸コードの目付けを短尺方向で1237g/m2、長尺方向で563g/m2としたこと以外は、同様の方法で実施例2の試験体を得た。評価結果を表1に記載した。
【0044】
[実施例3]
実施例1において、フレーム体の開口部を被覆した撚糸コードの目付けを短尺方向で1644g/m2、長尺方向で756g/m2としたこと以外は、同様の方法で実施例3の試験体を得た。評価結果を表1に記載した。
【0045】
[実施例4]
実施例1において、フレーム体の開口部を被覆した撚糸コードの目付けを短尺方向で1804g/m2、長尺方向で696g/m2とし、巻付けパターンを図9のように、短尺方向を斜めとしたこと以外は、同様の方法で実施例4の試験体を得た。評価結果を表1に記載した。
【0046】
[比較例1]
実施例1において、隔壁材として厚み3mmの板材のみを使用したこと以外は、同様の方法で比較例1の試験体を得た。このときの評価結果を表1に記載した。
【0047】
[比較例2]
比較例1において、板材とフレーム体の接合方法として、上記接着剤に加えて、金属性リベット(ポップリベットファスナー製、ハイストレングスリベット SD888HS)を併用したこと以外は同様の方法で、比較例2の試験体を得た。リベット装着は、接着剤にてフレーム−板材接合体を得た後、フレーム体の外縁及び内縁のフランジ部にドリルを用いてφ7mmmの穴を90〜100mm間隔であけ、リベッターを用いて計40本のリベットを装着した。このときの評価結果を表1に記載した。尚、フレーム体の破損箇所は、リベット穴を起点として亀裂が進展していた。
【0048】
[比較例3]
実施例1のフレーム体に対し、図10のように繊維材料としてシートベルト材を等間隔で短尺、長尺方向ともに4本ずつ掛け渡し、各々のシートベルト材は被衝突面側で重なりを持たせ、重なった部分を縫製することで隔壁材を形成し、比較例3の試験体を得た。図中にB−B断面を示すが、点線部が縫製箇所である。このときの評価結果を表1に記載した。尚、フレーム体の破損箇所は、フレーム体を支持体へ拘束するボルト穴を起点とした亀裂、及びシートベルトを掛け渡した部分での破断であった。
【0049】
【表1】

【0050】
[落錘試験結果]
比較例1は落錘子の衝突により、フレーム体と板材が剥がれてしまった。
また、実施例1〜4は比較例2、3に比べて、衝突荷重及びマーカーの沈み込み量が小さく、車両用シートバックフレームとして使用した際に着座者への衝撃が小さいことを意味する。
【0051】
これは、実施例1〜4の繊維材料である撚糸コードが拘束されておらず、各々が単独に伸張変形することが可能であるため、効果的に衝突エネルギーを吸収し、衝突荷重及びマーカーの沈み込み量が抑制できたと思われる。一方、比較例2のように板材のみでは、板材には繊維材料が内在するが樹脂及び織物組織によって拘束されており、比較例3のように緻密に組織化されたシートベルト材でも、構成繊維の伸張変形自由度が低いため、板材及びシートベルト材でのエネルギー吸収量が小さいため、衝撃荷重を緩和することができなかったと思われる。また、比較例2、3においては、フレーム体の破損が発生していたが、この結果からもフレーム体へ大きな衝突荷重が加わったことを示唆している。
【0052】
また、実施例3に比べ、実施例4の方が衝突荷重及びマーカーの沈み込み量が小さい傾向であった。これは、繊維材料の使用量が同じでも繊維材料の配置によってその効果が異なることを示唆している。今回の評価では、分割可到式シートバックを想定した試験であったため、試験体は図5のマーカー貼り付け部のような自由角を有するが、この自由角部分は衝突によって最も変位が大きい部分である。実施例4では、その自由角と固定角をつなぐ方向に繊維材料が配されているため、衝突により繊維材料がより効果的に伸張変形でき、エネルギー吸収効率が高かったためと考えられる。
【符号の説明】
【0053】
1 枠状フレーム体の非衝突面側
2 枠状フレーム体の側面
3 枠状フレーム体の開口部
4 枠状フレーム体の凸部分
5 枠状フレーム体のフランジ部分
6 枠状フレーム体の断面幅
7 枠状フレーム体の断面高さ
8 枠状フレーム体の板厚
9 枠状フレーム体のフランジ部幅
10 枠状フレーム体の断面
11 板材
12 繊維材料
13 実施例の枠状フレーム体を落錘試験装置の支持体へ取り付けるためのボルト穴
14 落錘試験時に非拘束部分の沈み込み量を測量するためのマーカー
15 落錘試験時に装置に設置された試験体
16 落錘試験時に試験体を支持体へ拘束するボルト
17 落錘子
18 支持体
19 高速度カメラ
20 撚糸コードボビン
21 撚糸コード
22 巻き芯となるフレーム体と板材の接合体
23 巻き芯となるフレーム体と板材の接合体をフィラメントワインダーへ取付ける治具

【特許請求の範囲】
【請求項1】
略矩形枠状のフレーム体と隔壁材とを構成要素として含み、隔壁材は縫製部分の無い繊維材料によって、フレーム体の開口部の一部または全部を面状に被覆して形成された構成部材を含むことを特徴とする車両用シートバックフレーム。
【請求項2】
繊維材料が、有機繊維からなる一次元繊維材料を並列に配置したものである請求項1に記載の車両用シートバックフレーム。
【請求項3】
繊維材料が、一次元繊維材料を芯材に複数回巻き付けて形成されている請求項1または2のいずれかに記載の車両用シートバックフレーム。
【請求項4】
該隔壁材がさらに板材を構成要素として含み、少なくとも該板材が該フレーム体と該繊維材料の間に配されている請求項1〜3のいずれかに記載の車両用シートバックフレーム。
【請求項5】
該板材が、繊維強化複合材料である請求項4に記載の車両用シートバックフレーム。
【請求項6】
該板材に含まれる強化繊維が、有機繊維である請求項5に記載の車両用シートバックフレーム。
【請求項7】
該フレーム体が、強化繊維として炭素繊維を含み、熱可塑性樹脂をマトリクスとした繊維強化複合材料である請求項1〜6のいずれかに記載の車両用シートバックフレーム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2012−166708(P2012−166708A)
【公開日】平成24年9月6日(2012.9.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−29710(P2011−29710)
【出願日】平成23年2月15日(2011.2.15)
【出願人】(000003001)帝人株式会社 (1,209)
【Fターム(参考)】