説明

車両用シートベルトのタングプレート固定構造

【課題】車室内天井部分でタングプレート先端を収納し保持する保持部材に、収納したタングプレート基端側の垂れ下がりを抑制する規制部材を支障なく一体成形可能にする。
【解決手段】リトラクタに基端を巻回されたウエビング21と、ウエビングに装備されたタングプレート24と、車両の天井部4でタングプレートを収納状態に保持する保持部材25とを備え、保持部材25は、主プレート部254と、主プレート部の中央部分に凹設されタングプレート基端の把持部を収納する凹所256と、凹所の周囲の壁部257と、挿入穴から挿入されたタング部の上面に当接し上方への変位を規制する変位規制部300とを有し、変位規制部は、壁部の裏面と主プレート部の裏面とに結合されて立設する一対のプレート状リブ302を設けられ、各リブに挿入されたタング部が進入するスリット状溝306が形成され、スリット状溝の下面がタング部の上面に当接する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の中央席に用いるのに好適の、車両用シートベルトのタングプレート固定構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、自動車の後部座席(セカンドシートやサードシート)の乗員の安全性向上の観点から、後部座席の中央席(センターシート)にも3点式のシートベルトを装備している。このような後部中央席の3点式シートベルトの場合、サイドシートの場合のように、車室の側部のピラー部分から直接シートベルトのウエビング(ストラップ)を繰り出すような構造にはできない。そこで、中央席の3点式シートベルトの場合、シートバックの背部や車室の天井部分からウエビングを繰り出すような構造が用いられている。
【0003】
また、一般に、3点式シートベルトは、基端をリトラクタに巻回された1本のウエビングの中間部に可動式のタングプレートを装備しており、座席の着座した乗員は、タングプレートを掴んでウエビングをリトラクタから引き出しながら、座席のシートクッション後端部に装備したバックルに係止して使用する。この使用状態では、ウエビングはタングプレートを境にラップストラップ(腰ベルト)とウエビングストラップ(ダイアゴナルベルト)とに使い分けられる。
【0004】
サイドシートの場合には、ウエビングの先端はピラー等に係止できるが、中央席の場合、ウエビングの先端にもタングプレートを装備して、シートベルトの使用時にはこの先端のタングプレートをシート側に装備したバックルに係止して使用することになる。シートベルトを使用しない場合には、ウエビングの基端側をリトラクタに巻き取って、先端のタングプレートを中間部の可動タングプレートと共に車室内の天井部分に固定する。これにより、ウエビングやタングプレートが乗降等の妨げにならない。
【0005】
このように、中央席のシートベルトの場合、ウエビングの先端の第1タングプレートと、ウエビングの中間部の可動式の第2タングプレートとの二つのタングプレートを装備し、シートベルトを使用しないときには、二つのタングプレートを車室内の天井部分に落下しないように固定することが必要になる。
したがって、二つのタングプレートをどのようにして、車室内の天井部分に落下しないように係止するかが重要であり、これに関する種々の技術が開発されている。
【0006】
例えば、特許文献1には、天井に設置され、第1及び第2のタングプレートを収納保持する保持部材に、第1のタングプレートの先端部をリトラクタの反巻き取り方向(巻き取り方向と逆方向)に沿って係脱可能に挿し込む第1の保持穴と、第2のタングプレートの先端部をリトラクタの巻き取り方向に沿って係脱可能に挿し込む第2の保持穴とを形成し、第1の保持穴には、保持穴の下縁の受け部と近接対向し弾性を有する突起を形成した構成が提案されている(段落0016〜0018,0022)。
【0007】
かかる構成によれば、シートベルトの反巻き取り方向に沿って収納した第1のタングプレートにはリトラクタによる巻き取り付勢により引き抜き方向への力が作用するが、第1のタングプレートの先端部が、撓んだ突起と受け部との間で突起の復元力により確実に挟持され、リトラクタによる引き抜き方向への力に抗して高い保持効果が発揮される(段落0025)。
【0008】
また、特許文献2には、天井に設置され、第1及び第2のタングプレートを収納する収納部材を備え、収納部材に、ウエビング巻取り方向に開口し第1のタングプレートを保持する第1保持部と、ウエビング巻取り方向とは反対方向に開口し第2のタングプレートを保持する第2保持部とを設け、第2のタングプレートには、第2のタングプレートがウエビング巻取り方向を向き、かつ第2のタングプレートよりも先端側のウエビングがウエビング引出方向を向いた状態では、第2のタングプレートのウエビングに対する摺動を阻止する摺動阻止手段を設ける構成が提案されている(段落0018,0020)。
【0009】
摺動阻止手段は第2のタングプレートに設けられウエビングが挿通される挿通口内のウエビングの表裏面と対向する一方の側面の端縁に、挿通口の一方の開口を狭めるように、他方の側面に向かって突出するように形成された突出部により構成される(段落0018)。
かかる構成によれば、両タングプレートが収納された状態では摺動阻止手段によりウエビングに対する第2のタングプレートの摺動が阻止されているため、ウエビングに作用するリトラクタの巻取り力(引張り力)が、第2のタングプレートに対して第2保持部へ嵌入させる方向へ作用する。これにより、第2のタングプレートは確実に第2保持部に保持される(段落0022)。
【0010】
また、第2のタングプレートの挿通口に通されたウエビングはリトラクタの巻取り力を受けても、突出部によってその摺動が阻止されるから、第2のタングプレートよりも先端側のウエビングの長さは変わらず、しかもウエビングがその曲げ強度により形状が維持されることによって、第1のタングプレートの第1保持部からの抜けが防止されて第1のタングプレートが確実に第1保持部に保持される(段落0022)。
【0011】
また、特許文献3には、ルーフパネルにブラケットを介してシートベルトの先端タングと中間タングとを固定するタングホルダ(保持部材)が設けられ、タングホルダには、先端タングを収容する凹状のタング収容部(保持部)が一体に形成され、このタング収容部下方には中間タングを挿通保持するタング挿通孔(保持部)が形成されたものが記載されている(段落0027)。
【0012】
シートベルトの非使用時には、先端タングと中間タングとの間にベルト折返し部が形成されるように両タングを上下に重ね合わせ、先端タングの金具をタング収容部に挿入すると共に、中間タングの金具をタング挿通孔に挿入することにより、2つのタング13,15を同時に格納保持させることができる(段落0036)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特開2009−23622号公報
【特許文献2】特許第4288611号公報
【特許文献3】特許第3931791号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
ところで、タング(タングプレート)は、金属製のタング本体の基端側に樹脂製の把持部が形成され、タングの使用時には、この把持部を掴んで先端部に露出した金具部分をバックルに対して係脱する。また、タングを天井部分の保持部材に係止させ収納する際にもこの把持部を掴んで係脱操作する。
したがって、収納状態では、例えば図9に示すように、タング100の先端の金具部分101を保持部材110の保持穴等の保持部111に挿入するが、これにより、タング100の基端側の把持部102は保持部111の外方(車室内側)に突出する。また、タング100は基端側の把持部102を持って車室内側から天井部分の保持部材に係止させるので、この係止時には、通常、タング100は基端を先端よりもやや降下させる傾斜状態か或いはほぼ水平状態で、基端側の把持部102が保持部111から突出する。
【0015】
このように、タング100が保持部111に保持された状態では、把持部102の重みやその他の外力でタング100の基端側が垂れ下がってしまい、延いては、タング100が保持部111から離脱してしまう場合もあるので、このようなタング100の基端側の垂れ下がりを防止することが必要になる。保持部111の内方にタング先端部の金具部分101に上方から当接してタング先端部101の浮き上がりを規制する規制部材120を設ければ、タング100の基端側102の垂れ下がりを防止することができる。
【0016】
特許文献1のものでは、第1の保持穴では、その下縁の受け部と所定の間隔をおいて近接対向する突起が形成してあり、この突起は上下方向に撓みやすく弾発性が付与され、突起と受け部との間に第1のタングプレートの先端部が圧入するようになっている。したがって、突起がタングの基端側の垂れ下がりを防止する規制部材120として機能する。また、第2の保持穴では、第2の側端部の端縁が、下縁の受け部の奥端と近接対向し、第2のタングプレートの先端部が嵌合可能になっている。したがって、第2の側端部の端縁がタングの基端側の垂れ下がりを防止する規制部材120として機能する。
【0017】
特許文献3のものでは、先端タングの先端部は、凹状のタング収容部を構成するタングホルダのトップデッキ部の一部に下向きに形成された突起(特許文献3の図3)がタング基端側の垂れ下がりを防止する規制部材120として機能するものと考えられる。また、中間タングの先端部は、下向きのタング係止爪(特許文献3の図3)がタング基端側の垂れ下がりを防止する規制部材120として機能するものと考えられる。
【0018】
このような規制部材120には、金属製のクリップと称される部材や、保持部材110と同様に樹脂製の部材があり、特許文献1,3のもののように規制部材120を保持部材110と同じ樹脂製にすれば、保持部材110と一体成形することが可能である。
ただし、図9に示すように、規制部材120が規制方向への規制力を確実に発揮するには、規制部材120自体が十分な剛性をもって支持されていなくてはならない。例えば、タング先端部のプレート状の金具部分101に合わせて規制部材120をプレート状に形成して、規制部材120の下面120aを金具部分101の上面に対向配置し、保持部材110の裏面(図9中、上面)から規制部材120を支持する支持壁部121を立設すれば、規制部材120は十分な剛性をもって支持され規制方向への規制力を発揮する。
【0019】
しかしながら、このように、保持部材110の裏面に支持壁部121を介して規制部材120を設けると構造が複雑になるので、樹脂成形型を用いてこれらを一体形成することが難しくなる。
つまり、保持部材110を形成する樹脂成形型は、通常、上型及び下型とからなり、成形後には、上型は図9に示す矢印A1の方向に、下型は図9に示す矢印A2の方向に、それぞれ型抜きする。しかし、保持部材110と規制部材120との間は、上型と下型とを型抜きするだけでは、成形品を取り出すことができないアンダーカット形状となっているので、図9に矢印A3で示すように横方向に開閉できるスライドコアなどのメカニズムを採用することになる。保持部材110の裏面に支持壁部121を介して規制部材120を設ける構造では、スライドコアが大きくなって、型抜きが困難になる。
【0020】
本発明はかかる課題に鑑み創案されたもので、車室内の天井部分に装備されタングプレートの先端を収納して保持する保持部材に、収納状態のタングプレートの基端側の垂れ下がりを抑制する規制部材を支障なく保持部材と一体成形することができるようにした、車両用シートベルトのタングプレート固定構造を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0021】
上記の目的を達成するために、本発明の車両用シートベルトのタングプレート固定構造は、車両に装備されたリトラクタと、前記リトラクタに基端部を巻回されたウエビングと、前記ウエビングに装備されたタングプレートと、前記車両の天井部に装備され、前記リトラクタから前記天井部の下方の車室内に繰り出される前記ウエビングをガイドすると共に前記タングプレートを収納状態に保持する保持部材とを備えた、車両用シートベルトのタングプレートを固定する構造であって、前記保持部材は、前記天井部の天井面に沿って延在する主プレート部と、前記主プレート部の中央部分に凹設され、前記タングプレートの基端の把持部を収納する凹所と、前記主プレート部から上方に傾斜するように形成され、前記凹所の周囲を構成する壁部と、前記壁部に長穴として形成され、前記タングプレートの先端のタング部が挿入される挿入穴と、前記挿入穴から挿入された前記タング部の上面に上方から当接し、前記タング部の上方への変位を規制する変位規制部と、を有し、前記変位規制部は、前記挿入穴の形成された前記壁部の裏面とこれに隣接する前記主プレート部の裏面とに結合され、前記主プレート部の裏面から上方に立設すると共に、前記タング部の挿入方向に沿って延在する一対のプレート状リブを設けられ、前記一対のプレート状リブのそれぞれに、前記挿入穴から挿入された前記タング部が進入するスリット状溝が形成され、前記スリット状溝の下向き面が、進入した前記タング部の前記上面に上方から当接することを特徴としている。
【0022】
前記壁部の前記挿入穴が形成される箇所は、壁部上部が壁部下部よりも上記傾斜方向にシフトした段状に形成され、前記挿入穴の上縁の下向き面と前記挿入穴の下縁の上向き面とが、互いの平面視位置が重ならないように、シフトして配置されていることが好ましい。
前記変位規制部は、前記主プレート部の裏面に結合され、前記一対のプレート状リブの前記挿入穴とは反対側の端部を相互に接続するプレート状接続リブをさらに設けられていることが好ましい。
【0023】
前記一対のプレート状リブは、前記主プレート部の裏面と結合する基部において厚みが部分的に縮小されていることが好ましい。
前記タングプレートとして、前記ウエビングの先端部に装備された第1タングプレートと、前記ウエビングの中間部に移動可能に装備され前記ウエビングが遊動する遊動穴を有する第2タングプレートと、を有し、前記凹所には、前記壁部として、前記第1タングプレートの第1タング部が挿入される第1挿入穴を有する第1壁部と前記第2タングプレートの第2タング部が挿入される第2挿入穴を有する第2壁部とが対向して設けられ、前記変位規制部は、前記第2挿入穴から挿入された前記第2タング部の一面に上方から当接し、前記第2タング部の上方への変位を規制することが好ましい。
【発明の効果】
【0024】
本発明の車両用シートベルトのタングプレート固定構造によれば、タングプレートを収納状態に保持する場合には、タングプレートの基端の把持部を掴んでタングプレートの先端のタング部を挿入穴に挿入する。このとき、タング部は、変位規制部として設けられ、タング部の挿入方向に沿って延在する一対のプレート状リブのスリット状溝内に進入していく。この結果、挿入されたタング部の上面には、スリット状溝の下向き面が上方から当接し、タング部の上方への変位を規制する。これにより、タングプレートの基端の垂れ下がりが防止される。
【0025】
また、変位規制部としての一対のプレート状リブは、挿入穴の形成された壁部の裏面とこれに隣接する主プレート部の裏面とに結合され、主プレート部の裏面から上方に立設するので、樹脂成形型を用いて保持部材を主プレート部と一体成形する上で有利になる。つまり、樹脂成形型を用いて保持部材を成形する場合、主プレート部の両面側にそれぞれ上型及び下型を配置することになり、一対のプレート状リブのスリット状溝については上型及び下型に対してアンダーカット部となるので横方向に開閉できるスライドコアが必要になるが、このスライド量はプレート状リブの厚み程度の僅かなものになるので、スライドコアの型抜きが容易になるのである。
【0026】
また、一対のプレート状リブは、挿入穴の形成された壁部の裏面とこれに隣接する主プレート部の裏面とに結合されることにより、十分な剛性が確保され、タング部の上方への変位を確実に且つ安定して規制する。
壁部の挿入穴が形成される箇所を、壁部上部が壁部下部よりも上記傾斜方向にシフトした段状に形成し、挿入穴の上縁の下向き面と挿入穴の下縁の上向き面とが、互いの平面視位置が重ならないように、シフトして配置すれば、挿入穴付近に、上記の上型及び下型に対してアンダーカット部となる箇所が発生することがなく、樹脂成形型を用いて保持部材を一体成形する上で有利になる。
【0027】
主プレート部の裏面に結合され、一対のプレート状リブの挿入穴とは反対側の端部を相互に接続するプレート状接続リブをさらに設ければ、プレート状リブの剛性がより確保され、タング部の上方への変位をより確実に且つより安定して規制する。
一対のプレート状リブの主プレート部の裏面と結合する基部において、厚みを部分的に縮小することにより、主プレート部の表面側における樹脂のヒケを抑えることができる。
【0028】
さらに、タングプレートとして、ウエビング先端部の第1タングプレートと、ウエビング中間部の移動可能な第2タングプレートと、を有し、壁部として、第1タングプレートの第1タング部が挿入される第1挿入穴を有する第1壁部と第2タングプレートの第2タング部が挿入される第2挿入穴を有する第2壁部とを対向して設けられ、変位規制部は、第2挿入穴から挿入された第2タング部の一面に上方から当接し、第2タング部の上方への変位を規制するように構成すれば、リトラクタによるウエビング基端側への付勢力を利用して、第2タング部を第2挿入穴に挿入された状態に保持することができる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】本発明の一実施形態にかかる車両用シートベルトのタングプレート固定構造を示す車両天井部の横断面図である。
【図2】本発明の一実施形態にかかる車両用シートベルトのタングプレート固定構造を示す車両天井部の斜視図(車室内下方から車両天井部の左側を斜めに見上げた斜視図)である。
【図3】本発明の一実施形態にかかる車両用シートベルトのタングプレート固定構造を示す車両要部の横断面図である。
【図4】本発明の一実施形態にかかる車両用シートベルトのタングプレート固定構造を示す車両天井部の要部拡大横断面図である。
【図5】本発明の一実施形態にかかる車両用シートベルトのタングプレート固定構造の保持部材を部品状態で示す断面図であり、(a)はその裏面(装着時の上面)側を示す斜視図、(b)はその表面(装着時の下面)側を示す斜視図である。
【図6】本発明の一実施形態にかかる車両用シートベルトのタングプレート固定構造の保持部材を一部破断させて示す斜視図である。
【図7】本発明の一実施形態にかかる車両用シートベルトのタングプレート固定構造における保持部材の変位規制部を示す拡大斜視図であり、(a)はその挿入穴にタングが挿入された状態を示す図、(b)はその挿入穴にタングが挿入されない状態を示す図である。
【図8】本発明の一実施形態にかかる車両用シートベルトのタングプレート固定構造における保持部材の変位規制部を示す断面図(図7(b)のA−A矢視断面図)である。
【図9】本発明の案出過程で創案された車両用シートベルトのタングプレート固定構造における保持部材の変位規制部を示す拡大断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下、図面により本発明の実施の形態について説明する。
図1〜図8は本発明の一実施形態にかかる車両用シートベルトのタングプレート固定構造を説明するもので、図1〜図4はその全体構成を説明する図であり、図4及び図5〜図8はその保持部材の構成を説明する図である。これらの図を用いて説明する。
なお、本実施形態は、SUV(スポーツユーティリティビークル)やミニバン等の車室内の天井部が比較的高い車両(自動車)の後部座席(セカンドシートやサードシート)の中央席(センターシート)に本構造を適用した例を説明する。ただし、本構造はかかる車両や座席に限定されず適用しうる。
【0031】
〔タングプレート固定構造の全体構成〕
まず、図1〜図4を用いて全体構成を説明する。
図3に示すように、車両1の車室2内の後部座席3の中央席3Cには、着座した乗員を適切に拘束するために、3点式のシートベルト装置10が装備されている。
シートベルト装置10は、第1タングプレート23及び第2タングプレート24を備えたシートベルト20と、中央席3Cのシートクッション部のシートバック側に装備され第1及び第2タングプレート23,24を係止する第1のバックル11及び第2のバックル12とを備えている。
【0032】
シートベルト20についてさらに説明すると、図1〜図3に示すように、シートベルト20は、ウエビング(ストラップ)21と、ウエビング21の基端部が巻回されるリトラクタ22と、ウエビング21の先端に装備された第1タングプレート23と、ウエビング21の中間部に移動可能に装備された第2タングプレート24と、車室2内の天井部4に装備されウエビング21をガイドすると共にタングプレート23,24を収納状態に保持するタングホルダ(保持部材)25とを備えている。なお、天井部4には、ルーフパネル6の下方のリヤルーフレールインナ5a,リヤルーフレールアウタ5bからなるリヤルーフレール5に支持されて、天井パネル(ルーフライナー)4aが装備される。
【0033】
リトラクタ22は、車両の天井部4の側方の図示しないルーフサイドパネル等の車体構造部材に固定され、ウエビング21の基端部が巻回されるスプール22aと、ウエビング21に巻き取り付勢力を加える図示しない付勢力付与機構とを備えている。
図1,図4に示すように、第1タングプレート23は、金属製で板状のタングプレート本体231と、タングプレート本体231と一体に結合して形成され着脱操作時に把持する樹脂性の把持部233とを備え、把持部233は第1タングプレート23の基部235に形成されている。タングプレート本体231の先端部には、シートベルト使用時に、第1のバックル11に挿入されて図示しない係脱機構を通じて係止されるタング部(第1タング部)232が設けられる。また、タングプレート本体231が埋設された把持部233には、ウエビング21の先端のループ部21aが係合する係合穴234が形成される。
【0034】
なお、ウエビング21は、表面が比較的滑らかで所要の幅と厚みを有しており、その先端は、幅方向に折り重ねられた上で係合穴234に挿通されてループ状に重ねられて縫い付けられてループ部21aを構成している。
第2タングプレート24は、金属製で板状のタングプレート本体241と、タングプレート本体241と一体に結合して形成され着脱操作時に把持する樹脂性の把持部244とを備え、把持部244は第2タングプレート24の基部に形成されている。タングプレート本体241の先端部には、シートベルト使用時に、第2のバックル12に挿入されて図示しない係脱機構を通じて係止されるタング部(第2タング部)242が設けられる。タング部242には、係脱機構の一部を構成する係脱用穴部243が設けられる。また、タングプレート本体241が埋設された把持部244には、ウエビング21の中間部が遊動するように内挿される遊動穴245が形成される。
【0035】
〔タングホルダ(保持部材)の構成〕
タングホルダ(保持部材)25は、金属製(板金製)のベース251と、天井パネル4aを支持するリヤルーフレール5に結合された図示しない金属製(板金製)のブラケットに、図示しないクリップによって固定される。タングホルダ25は樹脂性であり、例えば射出成形によって一体成形される。なお、リヤルーフレール5には、図4に示すように、タングホルダ25から車室内側に延びるウエビング21を案内するアンカー250がアンカーボルト26により締結されている。アンカー250は、アンカーボルト26が挿通される板金製ベース251と、ウエビング21が遊動する遊動穴253が形成されたアンカー本体252とからなる。遊動穴253のウエビング21が摺動する摺動面253aは滑らかな曲面状に形成される。
【0036】
また、タングホルダ25は、図4〜図6に示すように、正面視(図4中、下方から見た状態)で略長方形の形状に外形の輪郭を形成された主プレート部254を有し、主プレート部254の長手方向を車幅方向に向け、且つ、主プレート部254の表面254aを鉛直下方に向けて、天井部4へ装着される。主プレート部254は、装着されると水平に延在し、したがって、主プレート部254の表面254aは天井部4の天井パネル4aの表面(車室内側を向いた下向きの天井面)に沿うように、鉛直下方を向く。なお、主プレート部254は天井面に沿うように配置されればよく、必ずしも水平に延在しなくてもよい。
【0037】
この主プレート部254には、その中央部分の長手方向一端側にやや偏倚した箇所に、その長手方向一端から中央部にかけて延在するように凹所(天井パネル4aに対して窪んでいる凹所)256が形成され、主プレート部254の凹所256よりも長手方向他端側には、ウエビング21が内部を遊動するスリット状穴255がほぼ車長方向に沿って設けられている。スリット状穴255の両縁部に形成されウエビング21が摺動する摺動面255a,255bも滑らかな曲面状に形成される。
【0038】
凹所256は、タングホルダ25の装着状態で、主プレート部254から上方に主プレート部254に対して鈍角に傾斜するように形成された壁部257と、壁部257により周囲を囲まれた底部258とを設けられている。なお、壁部257は、主プレート部254から上方に傾斜するように形成されていればよく、必ずしも主プレート部254に対して鈍角に傾斜していなくてもよい。
【0039】
壁部257のうち、凹所256の長手方向一端側の壁部(第1壁部)257aには、シートベルト20を使用しない収納時に、第1タングプレート23のタング部232が挿入される挿入穴(第1挿入穴)259aが形成される。また、壁部257のうち、第1壁部257aと対向する凹所256の長手方向他端側の壁部(第2壁部)257bには、シートベルト20を使用しない収納時に、第2タングプレート24のタング部242が挿入される挿入穴(第2挿入穴)259bが形成される。スリット255はこの第2壁部257bに隣接して第2壁部257bよりも長手方向他端側に配置される。なお、挿入穴259a,259bは何れもプレート状のタング部232,242の横断面形状に合わせた長穴に形成され、本実施形態の場合、挿入穴259a,259bは何れも水平方向に延びる長穴で形成される。
【0040】
なお、第1壁部257aの第1挿入穴259aの周囲及び第2壁部257bの第2挿入穴259bの周囲は、いずれも、壁部上部(壁部257a,257bの主プレート部254の裏面254b側)が壁部下部(壁部257a,257bの主プレート部254の表面254a側)よりも傾斜方向にシフトした段状に形成されている。つまり、挿入穴259a,259bの上縁である下向き面と挿入穴259a,259bの下縁である上向き面とが、互いの平面視位置が重ならないように、シフトして配置されている。
【0041】
これは、タングホルダ25を、主プレート部254の裏面254b側の型(上型)と主プレート部254の裏面254b側の型(下型)とを用いて樹脂成形する際に、挿入穴259a,259bの近傍にアンダーカット部が発生しないようにしたものである。
そして、このシートベルト20を使用しない収納時には、第1タングプレート23の第1タング部232が第1挿入穴259aに適正に挿入されると共に第2タングプレート24の第2タング部242が第2挿入穴259bに適正に挿入されれば、両タングプレートは収納状態となり、この状態で、第2タングプレート24の基部246が、第1タングプレート23の基部235に、所定方向に向いて当接するように設定されている。
【0042】
ここで、「適正に挿入される」とは、各タング部232,242が各挿入穴259a,259bに最深部又は最深部近傍まで挿入されることを言う。また、第1タングプレート23の第1タング部232が挿入穴259aに適正に挿入されると、第1タング部232はウエビング21が付勢力付与機構から受ける付勢力とは逆向きである反付勢方向(図4中、略左方向)に沿う方向に向き、第2タングプレート24の第2タング部242が挿入穴259bに適正に挿入されると、第2タング部242はウエビング21が付勢力付与機構から付勢力を受ける付勢方向(図4中、略右方向)に沿う方向に向くように、各挿入穴259a,259bの内壁面が形成されている。
【0043】
また、第2タングプレート24の基部246が、第1タングプレート23の基部235に当接する際の「所定方向」とは、鉛直上方(図4中、上方向)への成分と且つウエビング21を介してリトラクタ22の付勢力付与機構から第2タングプレート24が受ける付勢力とは逆向きである反付勢方向の成分とを有する方向を言う。
なお、第1タングプレート23の基部235とは、第1タングプレート23に係止されるウエビング21のループ部21aを含んだものとする。第2タングプレート24の基部246とは、樹脂性の把持部244とタングプレート本体241の把持部244近傍の部分とを合わせたものとする。ここでは、第2タングプレート24の基部246は、ループ部21aの一部に直接当接している。
【0044】
この第2タングプレート24の基部246の第1タングプレート23の基部235への当接は、第1タングプレート23を前記所定方向に拘束して、第1タングプレート23が前記所定方向と逆方向へ移動するのを阻止するためである。したがって、この第2タングプレート24の基部246の当接について別の規定をすると、「第2タングプレート24は、第1タングプレート23を前記所定方向に拘束するように、第1タングプレート23の基部235又は第1タングプレート23に係止されるウエビング21のループ部21aの一部に当接する」と規定することもできる。
【0045】
また、本実施形態では、凹所256の底部258には、第1タングプレート23が第1タング部232を第1挿入穴259aに挿入された収納状態の位置にあると第1タングプレート23の基部235(ここでは、ループ部21aの一面側)を収容する部分凹部258aが形成されており、第1タングプレート23は、第2タングプレート24を通じてその基部235が部分凹部258aに収容された状態に保持される。これについては後述する。
【0046】
そして、第2タングプレート24の第2タング部242が挿入される第2挿入穴259bの奥部、即ち、主プレート部254の裏面254b側には、第2挿入穴259bから挿入された第2タング部242の上面242aに上方から当接し、第2タング部242の上方への変位を規制する変位規制部300が設けられている。
この変位規制部300は、図6〜図8に示すように、一端(基端)を第2挿入穴259bが形成された第2壁部257bの裏面に、下端を第2壁部257bに隣接する主プレート部254の裏面254bにそれぞれ結合された、一対のプレート状リブ301,302を有している。プレート状リブ301,302は、主プレート部254の裏面から鉛直上方に立設すると共に、第2タング部242の挿入方向にほぼ沿って延在する板状の部位であり、本実施形態では、プレート状リブ301,302の各他端(先端)を相互に接続するプレート状接続リブ303がさらに設けられている。
【0047】
さらに、プレート状接続リブ303の第2挿入穴259bに対向する面には、プレート状リブ301,302の相互間の中央に位置しプレート状リブ301,302と平行に延びる板状のストッパ部304が先端を第2挿入穴259bに向けて形成される。このストッパ部304の先端には、第2タング部242の先端が当接し、第2タング部242の第2挿入穴259b内への進入を制限する。
【0048】
各プレート状リブ301,302には、第2挿入穴259bから挿入された第2タング部242が進入するスリット状溝305,306が形成されている。これらのスリット状溝305,306は、第2タング部242の挿入方向に向かって延びている。第2タング部242の挿入方向は、水平よりもやや上方を向いた方向なので、スリット状溝305,306も、プレート状リブ301,302の基端から先端に向けて水平よりもやや上方を向かって延びている。
【0049】
また、スリット状溝305,306の溝幅は、板状の第2タング部242が円滑に進入できる程度に、第2タング部242の厚みよりも僅かに大きく設定されている。
したがって、第2タング部242を第2挿入穴259b内へ挿入すると、第2タング部242はその左右縁部の上下両面をスリット状溝305,306の上下壁面305a,305b,306a,306b(図8参照)に案内されて円滑に進入し、第2タング部242の先端がストッパ部304の先端に当接するまで進入させれば、第2タングプレート24は第2タング部242が適正に挿入された格納状態となる。
【0050】
そして、この格納状態では、第2タングプレート24は、第1タングプレート23に当接した状態で、ウエビング21を介してリトラクタ22の付勢力付与機構から付勢方向への付勢力を受ける。この付勢方向は、収納時の第2タングプレート24と遊動穴245と前ウエビング21との配置から、第2タングプレート24の第2タング部242の第2挿入穴259bへの挿入方向に沿うので、かかる付勢力により、第2タングプレート24の第2タング部242の第2挿入穴259bからの離脱が防止されるようになっている。
【0051】
また、この格納状態では、第2タングプレート24は、その基端の把持部244を先端の第2タング部242よりも鉛直下方にして後傾斜した状態となる。このとき第2挿入穴259bの外方の凹所256内に突出する把持部244等の基端側は、比較的重量があるので、第2タングプレート24は、第2挿入穴259bを支点に基端側が自重や外力によって垂れ下がり易いが、スリット状溝305,306の各上壁面(下向き面)305a,306aが、第2タング部242の上面242aに上方から当接して、第2タング部242の上方への変位を規制し、基端246側の垂れ下がりを防止するようになっている。
【0052】
このように両タングプレート23,24が適正に挿入された格納状態では、リトラクタ22の付勢力とスリット状溝305,306の各上壁面305a,306aの変位規制とによって適正姿勢を保持する第2タングプレート24が、第1タングプレートの基部235(ここでは、ループ部21aの他面側)に当接し、第1タングプレート23の一部分を部分凹部258aへ押し付け、第1タングプレート23の変位を規制する。
【0053】
さらに、第1タングプレート23の基部235の一部となるウエビング21先端のループ部21aは、ウエビング21を先端で折り返して縫い合わせることにより構成されるが、ここでは、図6に示すように、この折り返し部分21bの先端が、ウエビング21の中間部が遊動するように内挿される遊動穴245の一縁に形成されるエッジ部245aに当接する。第1タングプレート23も、ウエビング21を介してリトラクタ22の付勢力付与機構から付勢方向への付勢力を受けるため、第1タングプレート23から、図6の矢印FF方向(第2タングプレート24の基端246側が垂れ下がる方向)への力が遊動穴245を有する第2タングプレート24に加わる。しかし、第2タングプレート24は、変位規制部300による規制力でかかる力FFに対しても対向するようになっている。
【0054】
したがって、部分凹部258a内に収容された収納状態の第1タングプレート23の基部235は、これに当接する収納状態の第2タングプレート24の基部246によって、鉛直上方且つ反付勢方向の部分凹部258aに押し付けられて、リトラクタ22の付勢力に抗して適正な収納状態に保持されるようになっている。
また、本構造では、樹脂成形に伴うヒケを抑制する対策も採られている。
【0055】
つまり、図8に示すように、プレート状リブ301,302の主プレート部254と結合する基端の近傍においては、下方に行くに従い厚みtが次第に小さく薄肉化され、主プレート部254と結合する基端の厚みt1はプレート状リブ301,302の主要部の厚みt2よりも十分に小さくなった薄肉化部307,308が形成されている。
もちろん、プレート状リブ301,302の厚みtを小さくすれば剛性が低下するので、変位規制部300としての機能にも影響する。この点、本実施形態では、プレート状リブ301,302とプレート状結合リブ303と主プレート部254と第2壁部257bとが結合し、上面のみ開放したボックス構造になっているので、プレート状リブ301,302の基端の近傍のみ薄肉化しても、変位規制部300として必要な剛性は確保できる。
【0056】
そこで、薄肉化部307,308によって主プレート部254と結合するプレート状リブ301,302の基端の厚みを抑えて、樹脂成形に伴って主プレート部254の表面254aにヒケが発生することを抑制しているのである。
なお、プレート状接続リブ303やストッパ部304は、直接大きな荷重が加わらないので、プレート状リブ301,302の主要部の厚みt2よりも十分に小さく薄肉化されているので、主プレート部254のプレート状接続リブ303やストッパ部304との接続箇所においては、樹脂成形に伴う主プレート部254の表面254aでのヒケの発生は抑制されている。
【0057】
〔作用、効果〕
本発明の一実施形態にかかる車両用シートベルトのタングプレート固定構造は、上述のように構成されるので、以下のような効果を得ることができる。
まず、本固定構造の主要な構成要素であるタングホルダ(保持部材)25の製造について説明する。
【0058】
本タングホルダ25は、樹脂成形型を用いた一体成形によって製造される。つまり、図8に二点鎖線で例示するように、樹脂成形型としては、主プレート部254の裏面254bの側を形成する上型311と、主プレート部254の表面254aの側を形成する下型312とを用いるが、一対のプレート状リブ301,302には、これらの上型311と下型312とでは型抜けし得ないアンダーカット部が存在する。このアンダーカット部になるのは、プレート状リブ301,302の各スリット状溝305,306と、プレート状リブ301,302の基端近傍の下方に行くに従い次第に薄肉化した薄肉化部307,308である。
【0059】
このようなアンダーカット部に対しては、横方向に開閉できスリット状溝305,306及び薄肉化部307,308に対応したコア部を有するスライドコア313,314を用いて成形し、成形後のタングホルダ25の型抜きをする際には、上型311と下型312とを離隔させるとともに(図中矢印F1,F2参照)、スライドコア313,314を離隔させる(図中矢印F3,F4参照)ように移動させることで、支障なく行なうことができる。特に、この際のスライドコア313,314のスライド量はプレート状リブの厚みt2程度の僅かなものになるので、スライドコアの型抜きを容易に行なうことができ、樹脂成形型を用いた一体成形を支障なく行なうことができる。
【0060】
また、第1壁部257aが第1挿入穴259aの部分において、第2壁部257bが第2挿入穴259bの部分において、いずれも段状に形成され、第1挿入穴259aの上縁と下縁及び第2挿入穴259bの上縁と下縁が、いずれも、互いの平面視位置が重ならないように、シフトして配置されているので、この部分にはアンダーカット部が存在せず、スライドコア構造を適用する必要もないので、樹脂成形を容易に行なうことができる。
【0061】
また、樹脂成形時のヒケを抑制する対策として、薄肉化部307,308によって、プレート状リブ301,302の主プレート部254と結合する基端の厚みt1が十分に小さくされているので、意匠性に大きく影響する主プレート部254の表面254aにヒケが発生することが抑制され、主プレート部254の表面254aの外観を良好なものにできる。
【0062】
ただし、プレート状リブ301,302の主要部は、厚みt2を大きく設定されて必要な剛性が確保されているので、プレート状リブ301,302は、第2タング部242の上方への変位を規制する変位規制部300としての機能は十分に発揮される。
また、プレート状接続リブ303やストッパ部304は、必要な剛性を確保しつつ薄肉化されているので、主プレート部254の表面254aのこれらに対応した箇所でもヒケの発生は抑制され、外観が良好なものになる。
【0063】
また、第1タングプレート23は、第1タング部232をリトラクタ22の付勢方向とは逆の反付勢方向に向けて第1挿入穴259aに挿入されて収納され、第2タングプレート24は、第2タング部242をリトラクタ22の付勢方向に向けて第2挿入穴259baに挿入されて収納されるので、例えば、第1タングプレート23と第2タングプレート24とをひとまとめに持って、第1タングプレート23を第1挿入穴259aに挿入しつつ第2タングプレート24を第2挿入穴259bに挿入するなどして、操作性よく収納状態での着脱を行なうことができる。
【0064】
また、第1及び第2のタングプレート23,24の収納位置を水平に横並びに配置し易いので、天井部4の収納構造を高さ方向に抑えることができる。
そして、第2のタングプレート24の第2タング部242を第2挿入穴259b内へ挿入すると、第2タング部242はその左右縁部の上下両面をスリット状溝305,306の上下壁面305a,305b,306a,306b(図8参照)に案内されて円滑に進入し、第2タング部242の先端がストッパ部304の先端に当接するまで進入させれば、第2タングプレート24は第2タング部242が適正に挿入された格納状態となる。
【0065】
この格納状態では、第2タングプレート24は、第1タングプレート23に当接した状態で、ウエビング21を介してリトラクタ22からの付勢力を受ける。この付勢方向は、第2タングプレート24の第2タング部242の第2挿入穴259bへの挿入方向に沿うので、付勢力により、第2タングプレート24の第2タング部242の第2挿入穴259bからの離脱が確実に防止され、車両走行時の第2タングプレート24の振動等も抑制される。
【0066】
この格納状態では、第2タングプレート24は、その基端の把持部244を先端の第2タング部242よりも鉛直下方にして後傾斜し、第2挿入穴259bから凹所256内に突出した把持部244等の基端246が、自重や外力によって第2挿入穴259bを支点に垂れ下がり易いが、スリット状溝305,306の各上壁面(下向き面)305a,306aが、第2タング部242の上面に上方から当接して、第2タング部242の上方への変位を規制し、基端246側の垂れ下がりを防止する。
【0067】
したがって、両タングプレート23,24が適正に挿入された格納状態では、リトラクタ22の付勢力とスリット状溝305,306の各上壁面305a,306aの変位規制とによって適正姿勢を保持する第2タングプレート24が、第1タングプレートの基部235(ここでは、ループ部21aの他面側)に当接し、第1タングプレート23の一部分を部分凹部258aへ押し付け、第1タングプレート23の変位を規制する。
【0068】
本構造ではさらに、第1タングプレート23の基部235のウエビング21の折り返し部分21bの先端が、遊動穴245の一縁に形成されるエッジ部245aに当接するため、第1タングプレート23がリトラクタ22から受ける付勢力は、遊動穴245を有する第2タングプレート24に受け止められる。
したがって、部分凹部258a内に収容された収納状態の第1タングプレート23の基部235は、これに当接する収納状態の第2タングプレート24の基部246によって、鉛直上方且つ反付勢方向の壁面(本実施形態では、部分凹部258a)に押し付けられて、リトラクタ22の付勢力に抗して適正な収納状態に保持され、第1タングプレート23の第1挿入穴259aからの離脱も防止される。
【0069】
また、本実施形態では、凹所256に、第1タング部232が第1挿入穴259aに挿入された収納状態の第1タングプレート232の一部分を収容する部分凹部258aが形成され、両タングプレート23,24の収納状態では、第2タングプレート24が第1タングプレート23の基部235に当接し第1タングプレート23の一部分を部分凹部257へ押し付けるので、第1タングプレート23の一部分が部分凹部258aに保持され、第1タングプレート23の第1挿入穴259aからの離脱がより確実に防止され、車両走行時の第1タングプレート23の振動等も抑制される。
【0070】
〔その他〕
以上、本発明の実施の形態を説明したが、本発明はかかる実施の形態に限定されるものではなく、本発明の主旨を逸脱しない範囲で、かかる実施の形態を適宜変形して実施しうるものである。
例えば、部分凹部257がなくても、第2タングプレート24の基部が第1タングプレート23の基部に上記の所定方向へ向けて当接するように構成すれば、第1タングプレート23の第1挿入穴259aからの離脱もより確実に防止され、車両走行時の第1,第2タングプレート23,24の振動等もある程度抑制される。
【0071】
また、上記の実施形態では、変位規制部300を一対のプレート状リブ301,302と、これらのプレート状リブ301,302の一端部を相互に接続するプレート状接続リブ303とから構成したが、プレート状接続リブ303を省略し、プレート状リブ301,302のみから変位規制部300を構成し、プレート状リブ301,302のスリット状溝305,306の最奥部をストッパ部として機能させてもよい。
【0072】
また、上記の実施形態では、樹脂成形時のヒケ対策として、プレート状リブ301,302の基端を部分的に薄肉化しているが、プレート状リブ301,302の主要部の厚みt2がヒケ対策を要しない程度の厚みであればプレート状リブ301,302の基端を部分的に薄肉化しなくてもよい。
また、上記の実施形態では、プレート状接続リブ303はヒケ対策を要しない程度の厚みとしているが、必要であれば、プレート状接続リブ303の基端についても、部分的に薄肉化してもよい。
【0073】
上記実施形態の薄肉化部307,308のように、基端近傍の下方に行くに従い次第に薄肉化させることにより、この部分の応力集中を緩和できる利点があるが、薄肉化の態様はこれにかぎるものではない。
また、上記の実施形態では、変位規制部300を第2タングプレート24に適用したが、変位規制部300を第1タングプレート23に適用することも可能である。
【符号の説明】
【0074】
1 車両
2 車室
3 後部座席
3C 後部座席3の中央席
4 天井部
10 3点式のシートベルト装置
11 第1のバックル
12 第2のバックル
20 シートベルト
21 ウエビング(ストラップ)
21a ウエビング21の先端のループ部
22 リトラクタ
23 第1タングプレート
24 第2タングプレート
25 タングホルダ(保持部材)
232 タング部(第1タング部)
235 第1タングプレート23の基部
242 タング部(第2タング部)
245 遊動穴
246 第2タングプレート24の基部
254 主プレート部
256 凹所
257 凹所256の壁部
257 凹所256の長手方向一端側の壁部(第1壁部)
257 凹所256の長手方向他端側の壁部(第2壁部)
258a 部分凹部
259a 挿入穴(第1挿入穴)
259b 挿入穴(第2挿入穴)
300 変位規制部
301,302 プレート状リブ
303 プレート状接続リブ
304 ストッパ部
305,306 スリット状溝

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両に装備されたリトラクタと、前記リトラクタに基端部を巻回されたウエビングと、前記ウエビングに装備されたタングプレートと、前記車両の天井部に装備され、前記リトラクタから前記天井部の下方の車室内に繰り出される前記ウエビングをガイドすると共に前記タングプレートを収納状態に保持する保持部材とを備えた、車両用シートベルトのタングプレート固定構造であって、
前記保持部材には、
前記天井部の天井面に沿って延在する主プレート部と、
前記主プレート部の中央部分に凹設され、前記タングプレートの基端の把持部を収納する凹所と、
前記主プレート部から上方に傾斜するように形成され、前記凹所の周囲を構成する壁部と、
前記壁部に長穴として形成され、前記タングプレートの先端のタング部が挿入される挿入穴と、
前記挿入穴から挿入された前記タング部の上面に上方から当接し、前記タング部の上方への変位を規制する変位規制部と、を有し、
前記変位規制部は、前記挿入穴の形成された前記壁部の裏面とこれに隣接する前記主プレート部の裏面とに結合され、前記主プレート部の裏面から上方に立設すると共に、前記タング部の挿入方向に沿って延在する一対のプレート状リブを設けられ、
前記一対のプレート状リブのそれぞれに、前記挿入穴から挿入された前記タング部が進入するスリット状溝が形成され、前記スリット状溝の下向き面が、進入した前記タング部の前記上面に上方から当接する
ことを特徴とする、車両用シートベルトのタングプレート固定構造。
【請求項2】
前記壁部の前記挿入穴が形成される箇所は、壁部上部が壁部下部よりも上記傾斜方向にシフトした段状に形成され、
前記挿入穴の上縁の下向き面と前記挿入穴の下縁の上向き面とが、互いの平面視位置が重ならないように、シフトして配置されている
ことを特徴とする、請求項1記載の車両用シートベルトのタングプレート固定構造。
【請求項3】
前記変位規制部は、前記主プレート部の裏面に結合され、前記一対のプレート状リブの前記挿入穴とは反対側の端部を相互に接続するプレート状接続リブをさらに設けられている
ことを特徴とする、請求項1又は2記載の車両用シートベルトのタングプレート固定構造。
【請求項4】
前記一対のプレート状リブは、前記主プレート部の裏面と結合する基部において厚みが部分的に縮小されている
ことを特徴とする、請求項1〜3の何れか1項に記載の車両用シートベルトのタングプレート固定構造。
【請求項5】
前記タングプレートとして、前記ウエビングの先端部に装備された第1タングプレートと、前記ウエビングの中間部に移動可能に装備され前記ウエビングが遊動する遊動穴を有する第2タングプレートと、を有し、
前記凹所には、前記壁部として、前記第1タングプレートの第1タング部が挿入される第1挿入穴を有する第1壁部と前記第2タングプレートの第2タング部が挿入される第2挿入穴を有する第2壁部とが対向して設けられ、
前記変位規制部は、前記第2挿入穴から挿入された前記第2タング部の一面に上方から当接し、前記第2タング部の上方への変位を規制する
ことを特徴とする、請求項1〜4の何れか1項に記載の車両用シートベルトのタングプレート固定構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2013−67199(P2013−67199A)
【公開日】平成25年4月18日(2013.4.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−205292(P2011−205292)
【出願日】平成23年9月20日(2011.9.20)
【出願人】(000176811)三菱自動車エンジニアリング株式会社 (402)
【出願人】(000006286)三菱自動車工業株式会社 (2,892)
【Fターム(参考)】