説明

車両用シートベルト

【課題】膨張時に、エアバッグ部が十分に幅広となり、乗員に加わる衝撃を吸収し、緩和させることができる車両用シートベルトを提供する。
【解決手段】車両用シートベルトにおいて、ベルト本体は、袋織により製織された一面側の織地と他面側の織地とを有するエアバッグ部11を具備し、エアバッグ部11は、幅広に形成された幅方向の両端部11aが内方に向かって織り畳まれて形成されているとともに、厚さ方向への展開を規制するテザー2を備える。また、テザー2は、製織時に、一面側の織地及び他面側の織地のうちの一方の織地から他方の織地へと架け渡された緯糸及び/又は経糸により形成されている。更に、テザー2は、一面側の織地及び他面側の織地のうちの一方の織地の幅方向の端部11bと、他方の織地の幅方向の中央部11cとの間に架け渡された緯糸により形成されていることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の衝突時等に展開し、乗員に加わる衝撃、特に肩及び胸部に加わる衝撃を吸収し、緩和するエアバッグ部を備える車両用シートベルトに関する。更に詳しくは、本発明は、エアバッグ部が、展開時に十分に拡幅されるとともに、過度に厚くならないため、衝突時等に、乗員の特に肩及び胸部に加わる衝撃を吸収し、緩和させることができる車両用シートベルトに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、車両の衝突時等の衝撃から乗員を保護するため、車両にはシートベルトが取り付けられている。また、通常、このシートベルトの着用を前提としたフロントエアバッグ、サイドエアバッグ等の各種のエアバッグが配設されている。これらのエアバッグでは、展開時の厚さを規制する必要があるが、表裏の織地を直接縫い合わせてしまった場合、縫合部は全く膨張しないことになる。そのため、縫合するのではなく、内部にテザーを設けることにより厚さを規制しているが、特に幅広のテザーは、ガスの流れに影響を与えるため、エアバッグの展開を妨げないように配置する必要がある。
【0003】
更に、シートベルトは、脱着時の操作性と装着感、即ち、脱着時の機能性と装着時の快適性とを両立させるため、過度に幅広とすることができない。そのため、ペルトの幅には自ずと制限があり、衝突時等に、シートベルトによる局部的な荷重が乗員に加わることになる。このようなシートベルトによる局部的な荷重を緩和するため、エアバッグ機能を有するシートベルトが提案され、実用化が図られている。例えば、特定の上部ウェブ層と下部ウェブ層とが製織されてなり、折り畳み構造を有する膨張可能なシートベルト等のベルト帯状物が知られており(例えば、特許文献1参照。)、事故の際に乗客のための適切な緩衝保護を保証し、コスト的にも有利である等と説明されている。
【0004】
また、ベントホールを覆う蓋体と、テザーとを有するガス流出規制部材を備えるエアベルトも知られており(例えば、特許文献2参照。)、胸部対向面が押圧されると、テザーが弛緩し、ベントホールが開放されると説明されている。更に、織地層間の距離を制限するスペーサを有し、たて糸及びよこ糸が反対側の織地層に向けて伸び、反対側の織地層のたて糸及び/又はよこ糸に接続されてスペーサが形成されているガスバッグが知られており(例えば、特許文献3参照。)、スペーサの作用は、ガスバッグが過度に膨れることを防止することであると説明されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特表2002−502918号公報
【特許文献2】特開2009−298349号公報
【特許文献3】特開2001−138852号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、特許文献1に記載されたベルト帯状物では、端部等が縫製されているため、縫製工程が必須となり、工数が多く、縫製された端部が厚くなり、必ずしも装着感がよいとはいえない。また、特許文献2に記載されたエアベルトでは、別部材としてテザーを作製する工程、及びこのテザーを取り付ける工程が必要であり、部品点数及び工数の面で不利である。更に、特許文献3に記載されたガスバッグでは、スペーサは織地層の製織時に形成されるが、このガスバッグでは、過度に膨れることを防止することは意図されているものの、膨張時に、厚さを抑え、且つ可能な限り拡幅し、乗員への衝撃を十分に吸収し、緩和するという、特にシートベルトエアバッグに要求される特性については全く言及されていない。また、特許文献3に記載されたガスバッグでは、幅方向に折り畳まれた構造は全く意図されていない。
【0007】
本発明は、前述の従来の状況に鑑みてなされたものであり、エアバッグ部が、展開時に十分に拡幅されるとともに、過度に厚くならないため、衝突時等に、乗員の特に肩及び胸部に加わる衝撃を吸収し、緩和させることができる車両用シートベルトを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は以下のとおりである。
1.車両用シートベルトにおいて、
前記車両用シートベルトはベルト本体を備え、
前記ベルト本体は、袋織により製織された一面側の織地と他面側の織地とを有するエアバッグ部を具備し、
前記エアバッグ部は、幅広に形成された幅方向の両端部が内方に向かって織り畳まれて形成されているとともに、厚さ方向への展開を規制するテザーを備えることを特徴とする車両用シートベルト。
2.前記テザーは、前記製織時に、前記一面側の織地及び前記他面側の織地のうちの一方の織地から他方の織地へと架け渡された緯糸及び経糸のうちの少なくとも一方により形成されている前記1.に記載の車両用シートベルト。
3.前記テザーは、前記一面側の織地及び前記他面側の織地のうちの一方の織地の幅方向の端部と、他方の織地の幅方向の中央部との間に架け渡された緯糸により形成されている前記2.に記載の車両用シートベルト。
【発明の効果】
【0009】
本発明の車両用シートベルトでは、袋織により製織されたエアバッグ部の幅方向の両端部が内方に向かって織り畳まれており、幅方向の厚さに大差がないため、シートベルトとしての通常の使用時には良好な装着感を有する。また、衝突時等には、展開するエアバッグ部が十分に拡幅されるとともに、テザーにより厚さが規制される。そのため、シートベルト本来の拘束力を確保しつつ、幅広となり、且つ厚くなるエアバッグ部により、乗員に加わる衝撃、特に肩及び胸部に加わる衝撃を十分に吸収し、緩和することができる。更に、ベルト本体そのものにエアバッグ部が設けられるため、全体として簡易な構造とすることができる。
また、テザーが、製織時に、一面側の織地及び他面側の織地のうちの一方の織地から他方の織地へと架け渡された緯糸及び経糸のうちの少なくとも一方により形成されている場合は、別部材としてテザーを作製する工程、及び縫製等によりエアバッグ部の内面にテザーを取り付ける工程を必要とせず、部品点数及び工数の面で極めて有利である。更に、織布等からなる従来のテザーと比べて、ガスが流入し、エアバッグ部が展開する際に、ガスの流れがテザーにより阻害されることもない。
更に、テザーが、一面側の織地及び他面側の織地のうちの一方の織地の幅方向の端部と、他方の織地の幅方向の中央部との間に架け渡された緯糸により形成されている場合は、エアバッグ部の幅方向の両端部を内方に向かって織り畳むときに、テザーに邪魔されることなく織り畳むことができ、容易に所定幅の車両用シートベルトとすることができる。また、幅方向の厚さに大差のないエアバッグ部とすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】車両用シートと、取り付けられた車両用シートベルトとの模式的な斜視図である。
【図2】図1の車両用シートベルトのベルト本体に設けられたエアバッグ部が展開した様子を説明するための模式的な斜視図である。
【図3】幅方向の両端部が内方に向かって織り畳まれ、所定幅とされた本発明の車両用シートベルトのエアバッグ部の横断面の模式図である。
【図4】図3の車両用シートベルトのエアバッグ部が展開し、両端部が外方へ突出して拡幅されるとともに、厚くなった状態を説明するための模式図である。
【図5】テザー部によりエアバッグ部の厚さ方向への展開が規制されている様子を説明するための模式図である。
【図6】より多くのテザーを備え、展開したエアバッグ部の厚さがより一定となるように規制されている様子を説明するための模式図である。
【図7】図6の車両用シートベルトのエアバッグ部の展開前の図であり、幅方向の両端部が内方に向かって織り畳まれ、所定幅とされたエアバッグ部の横断面の模式図である。
【図8】緯糸により設けられたテザーを立体的に説明するため、斜め方向からみた模式的な斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明を、図1〜8を参照しながら詳しく説明する。
ここで示される事項は例示的なもの及び本発明の実施形態を例示的に説明するためのものであり、本発明の原理と概念的な特徴とを最も有効に且つ難なく理解できる説明であると思われるものを提供する目的で述べたものである。この点で、本発明の根本的な理解のために必要である程度以上に本発明の構造的な詳細を示すことを意図してはおらず、図面と合わせた説明によって本発明の幾つかの形態が実際にどのように具現化されるかを当業者に明らかにするものである。
【0012】
本発明の車両用シートベルトはベルト本体1を備え、ベルト本体1は、袋織により製織された一面側の織地と他面側の織地とを有するエアバッグ部11を具備する(図1、2参照)。また、エアバッグ部11は、幅広に形成された幅方向の両端部11aが内方に向かって織り畳まれて形成されているとともに、厚さ方向への展開を規制するテザー2を備える(図3、7参照)。
【0013】
前記「ベルト本体1」は、エアバッグ部11と、このエアバッグ部11の長さ方向の両端部に連接された非エアバッグ部12とを備える(図1、2参照)。また、ベルト本体1は、エアバッグ部11のみでなく、通常、非エアバッグ部12も袋織により製織され、ベルト本体1の全体が袋織により製織された一面側の織地と他面側の織地とを有する。このように、エアバッグ部11と非エアバッグ部12とがともに袋織により製織されておれば、エアバッグ部11と非エアバッグ部12とを備えるベルト本体1全体を連続して一体に製織することができるため好ましい。
【0014】
エアバッグ部11と非エアバッグ部12、即ち、ベルト本体1全体が袋織により製織されている場合、その織物組織は特に限定されず、例えば、平織組織、斜子組織、斜文組織、朱子組織等の各種の織物組織とすることができる。また、エアバッグ部11及び非エアバッグ部12の各々を構成する織地の織組織も特に限定されず、ベルト本体1が剛直になり過ぎず、シートベルトとしての装着感が損なわれることのない織組織とすることが好ましい。
【0015】
[1]エアバッグ部
前記「エアバッグ部11」は、袋織により製織された織物からなり、一面側の織地と他面側の織地とを有し、幅広に形成された幅方向の両端部11aが内方に向かって折り畳まれて形成されている(図3、7参照)。このエアバッグ部11は、ベルト本体1の長さ方向の中間部に設けられ、車両の衝突等により衝撃が加わったときに、例えば、インフレータ3から噴出した高圧ガスが内部に流入して展開し、拡幅するとともに厚さが増し(図4参照)、乗員に加わる衝撃、特に肩及び胸部に加わる衝撃が緩和される(図2参照)。
【0016】
また、エアバッグ部11の両端部11aの幅は特に限定されないが、両端部11a(図4、6参照)を内方に向かって折り畳んだときに(図3、7参照)、側端部がベルト本体1の非エアバッグ部12(図1、2参照)の側端部を超えて外方へ大きく突出しない幅である必要がある。更に、エアバッグ部11の両端部11aを内方に向かって折り畳んだときの側端部(図3、7の符号11bの位置を参照)と、非エアバッグ部12の側端部とが幅方向において略同じ位置になる、即ち、非展開時のエアバッグ部11と非エアバッグ部12とは幅方向の寸法が略同じであることが好ましい。一方、エアバッグ部11は、展開時には、衝撃緩和の観点で、より幅広になることが好ましく、エアバッグ部11の展開時の幅は、非展開時の幅の1.2〜3.0倍とすることができる。
【0017】
更に、本発明の車両用シートベルトのようにエアバッグとして機能するシートベルトでは、エアバッグ部11は、衝撃緩和の観点で、前述のように、厚さが増すよりも、幅広になることがより好ましい。そのため、エアバッグ部11には、展開時にエアバッグ部11の厚さ方向への展開を規制するテザー2が設けられている(図3〜7及びテザー2を立体的に説明するための斜視図である図8参照)。このようなテザー2を備えることで、エアバッグ部11の厚さ方向への展開が抑えられるとともに、エアバッグ部11が十分に拡幅され、乗員への衝撃が吸収され、緩和される。
【0018】
テザー2を設ける方法は特に限定されないが、エアバッグ部11の製織時に、一面側の織地及び他面側の織地のうちの一方の織地から他方の織地へと架け渡された緯糸及び/又は経糸により形成することが好ましい(図3〜8参照)。テザー2は、別部材として予め製織した織布を、一面側の織地及び他面側の織地の各々の内面に縫着させる等の方法により設けることもできるが、部品点数及び工数の面で不利である。一方、テザー2を、エアバッグ部11の製織と同時に、一方の織地から他方の織地へと緯糸及び/又は経糸を架け渡すことにより設ける方法であれば、作業効率及びコストの両面で有利である。
【0019】
前述のように、緯糸及び/又は経糸を用いてテザー2を設ける場合、一面側の織地の緯糸及び/又は経糸の一部を、ある織り込み点で一面側の織地から離脱させ、所定寸法離れた位置で、他面側の織地に織り込むことにより、一方の織地から他方の織地へと架け渡されたテザー2を形成することができる。また、同様にして、他方の織地から一方の織地へと架け渡されたテザー2を形成することができる。
【0020】
一面側の織地及び他面側の織地から緯糸及び/又は経糸を離脱させる織り込み点、並びに離脱させた緯糸及び/又は経糸を、他面側の織地及び一面側の織地に織り込む位置は、特に限定されない。また、一面側及び他面側で糸を離脱させる織り込み点と、他面側及び一面側で糸を織り込む位置とにより、テザー2の長さが決定され、このテザー2の長さにより、エアバッグ部11の厚さ方向への展開が調整される。そのため、前述の織り込み点と織り込む位置とは、エアバッグ部11の拡幅と厚さの増加とを勘案して設定することが好ましい。
【0021】
一面側及び他面側の各々の織地間にテザー2を架け渡す位置は、前述のように特に限定されないが、テザー2は、一面側の織地から他面側の織地へと架け渡されるテザー2と、他面側の織地から一面側の織地へと架け渡されるテザー2とが交差するように設けられることが好ましい(図3、4及び6、7等参照)。このように、テザー2が交差して設けられた場合、エアバッグ部11が展開したときに、織地の幅方向等の面方向への拡寸と、エアバッグ部11の厚さ方向への展開とが拮抗し、容易に所定の立体形状を有するエアバッグ部11とすることができる(図5、6参照)。
【0022】
テザー2はエアバッグ部11の全面に均等に設けてもよく、偏在させて設けてもよい。更に、テザー2の長さはエアバッグ部11の全面において略同じでもよく、面方向において異なる長さとしてもよい。テザー2がエアバッグ部11の全面に均等に設けられているとともに、テザー2の長さがエアバッグ部11の全面において略同じであれば、展開時、全面がより均一な幅及び厚さとなるエアバッグ部11とすることができる。また、必要であれば、テザー2を設ける位置、及びテザー2の長さ等により、面方向においてより厚さを変化させたエアバッグ部11とすることもできる。
【0023】
また、テザー2は、緯方向及び経方向に所定の間隔をおいて架け渡された1本の糸により設けてもよく、複数の糸を連続して架け渡し、帯状に設けてもよい。1本の糸からなるテザー2を所定本数おきに設けた場合は、離間した所定位置に多くのテザー2を設けることができ、ガスの流れがテザー2により妨げられることがない。一方、テザー2を帯状に設ける場合、連続して架け渡される糸の本数は特に限定されないが、帯状部の幅としてみた場合に、帯幅で5〜20mmとすることができる。更に、テザー2は、緯糸及び経糸の織り込み方向に略直交する方向に設けてもよく、斜め方向に設けてもよいが、特に斜め方向に設ける必要はなく、緯糸及び経糸の織り込み方向に略直交する方向に設けることで、テザー2として十分に機能する。
【0024】
[2]非エアバッグ部
ベルト本体1の長さ方向においてエアバッグ部11に連設されている非エアバッグ部12(図1、2の非エアバッグ部12参照)は、エアバッグ部11と連続して製織することができ、エアバッグ部11と同様に袋織により形成することができる。このように、エアバッグ部11と非エアバッグ部12とを連続して一体に製織すれば、ベルト本体1を極めて効率よく作製することができるため好ましい。この非エアバッグ部12の織り構造は、幅方向の両端部において一面側の織地と他面側の織地とが離間し、側端部が開放されることのないように、側端部に閉部が形成されていることを除いて特に限定されず、前述のエアバッグ部11の織り構造と同様とすることができる。
【0025】
また、非エアバッグ部12は、エアバッグ部11と同様に、幅広に形成された幅方向の両端部が内方に向かって織り畳まれて、所定幅のベルト本体1となるように形成されていてもよく、当初より所定幅のベルト本体1となるように製織されていてもよい。いずれにしても、非エアバッグ部12の幅方向の両端部には、側端部が開放されることのないように、閉部を形成する必要がある。
【0026】
[3]糸の材質、繊度等
本発明の車両用シートベルトの製造には、通常、合成樹脂からなるフィラメントが用いられる。このフィラメントとしては、マルチフィラメントとモノフィラメントとがあるが、マルチフィラメントが用いられることが多い。フィラメントの材質は特に限定されず、各種の合成樹脂からなるフィラメントを用いることができる。
【0027】
合成樹脂は特に限定されないが、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート等のポリエステル系樹脂、ナイロン6、ナイロン66等のポリアミド系樹脂、ポリアクリル系樹脂、及び高密度ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン系樹脂などが挙げられる。合成樹脂としては、特にポリエステル系樹脂及びポリアミド系樹脂が好ましい。また、ベルト本体1は長さ方向に所定の引張強度を有している必要があり、エアバッグ部11及び非エアバッグ部12ともに、特に経糸として、優れた引張強度を有するポリエステル系樹脂を用いてなる糸を使用することがより好ましい。
【0028】
マルチフィラメント等の合成樹脂フィラメントの繊度は特に限定されず、適宜の繊度のマルチフィラメント等を用いることが好ましい。経糸及び緯糸が、各々、好ましい範囲の繊度であれば、シートベルトとしての十分な引張強度を有するとともに、エアバッグとしての作動時、閉部からのエア漏れも十分に抑えられる。また、マルチフィラメントの場合、このマルチフィラメントを構成するフィラメント数は特に限定されず、その繊度等によって設定することができる。
【0029】
本発明の車両用シートベルトでは、ベルト本体1が具備するエアバッグ部11は、衝突時等に展開し、拡幅するとともに厚さが増し、乗員の特に肩から胸部への衝撃が吸収され、緩和されて、エアバッグとして機能するが、通常はシートベルトとして機能する。そのため、シートベルトとしての所要強度を有している必要があり、前述のように、特に経糸の材質は、優れた引張強度を有する合成樹脂であることが好ましく、ポリエステル系樹脂であることがより好ましい。
【0030】
[4]樹脂等の含浸
袋織により製織される織地の、少なくともガスの流入時に展開してエアバッグとして機能するエアバッグ部11を構成する部分は、その外面側等に、樹脂及び/又はゴムを含浸させ、気密性等を向上させることが好ましい。これにより、通気が抑えられ、十分な展開速度が確保されるエアバッグ部11とすることができる。用いられる樹脂、ゴムとしては、例えば、ポリアミド系、ポリエステル系、ポリアクリル系、ポリオレフィン系、フッ素系、クロロスルフォン化ポリエチレン系、クロロプレン系、シリコーン系、ウレタン系等の樹脂、ゴムが挙げられる。
【0031】
樹脂及び/又はゴムを含浸させる方法は特に限定されず、織地の少なくともエアバッグ部11を構成する部分を、樹脂及び/又はゴムを含有するエマルジョンに含浸させ、加熱して媒体を除去する等の方法が挙げられる。この場合、樹脂及び/又はゴムの付着量等によって、エアバッグ部11の通気性を調整することができ、樹脂、ゴムの種類によっては耐熱性を向上させることもできる。この樹脂及び/又はゴムの含浸は、織物組織及び織組織等による通気性の相違等を勘案し、必要に応じて実施することが好ましいが、通常は実施される。
【0032】
尚、前述の記載は単に説明を目的とするものでしかなく、本発明を限定するものと解釈されるものではない。本発明を典型的な実施態様を挙げて説明したが、本発明の記述及び図示において使用された文言は、限定的な文言ではなく、説明的および例示的なものであると理解される。ここで詳述したように、その態様において本発明の範囲又は精神から逸脱することなく、添付の特許請求の範囲内で変更が可能である。ここでは、本発明の詳述に特定の構造、材料及び実施態様を参照したが、本発明をここにおける開示事項に限定することを意図するものではなく、寧ろ、本発明は添付の特許請求の範囲内における、機能的に同等の構造、方法、使用の全てに及ぶものとする。
【産業上の利用可能性】
【0033】
本発明は、車両用のシートベルトの技術分野、及びエアバッグの技術分野において利用することができる。特にベルトの長さ方向の、装着したときに肩から胸部にかけて位置することになる部分に、衝突時等にエアバッグとして機能するエアバッグ部を備え、他のエアバッグとともに、乗員をより十分に保護することができるシートベルトエアバッグの技術分野において好適に利用することができる。
【符号の説明】
【0034】
10;車両用シート、10a;シートクッション、10b;シートバック、1;ベルト本体、11;エアバッグ部、11a;エアバッグ部の両端部、11b;エアバッグ部の端部、11c;エアバッグ部の中央部、12;非エアバッグ部、2;テザー、3;インフレータ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両用シートベルトにおいて、
前記車両用シートベルトはベルト本体を備え、
前記ベルト本体は、袋織により製織された一面側の織地と他面側の織地とを有するエアバッグ部を具備し、
前記エアバッグ部は、幅広に形成された幅方向の両端部が内方に向かって織り畳まれて形成されているとともに、厚さ方向への展開を規制するテザーを備えることを特徴とする車両用シートベルト。
【請求項2】
前記テザーは、前記製織時に、前記一面側の織地及び前記他面側の織地のうちの一方の織地から他方の織地へと架け渡された緯糸及び経糸のうちの少なくとも一方により形成されている請求項1に記載の車両用シートベルト。
【請求項3】
前記テザーは、前記一面側の織地及び前記他面側の織地のうちの一方の織地の幅方向の端部と、他方の織地の幅方向の中央部との間に架け渡された緯糸により形成されている請求項2に記載の車両用シートベルト。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2013−28241(P2013−28241A)
【公開日】平成25年2月7日(2013.2.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−164790(P2011−164790)
【出願日】平成23年7月27日(2011.7.27)
【出願人】(000241500)トヨタ紡織株式会社 (2,945)
【Fターム(参考)】