説明

車両用シート基材

【課題】 車両用シートに搭乗者が着座した際に車両用シートに伝わる熱や湿気を効果的に逃がすことができ、長時間着座した際の座り心地を良好なものとすると共に、軟質樹脂層の劣化が促進されるのを抑制し、車両用シートの耐久性が低下するのを抑制することができる通気性に優れた車両用シート基材を提供することを課題とする。
【解決手段】 複数の発泡樹脂粒子aから形成された車両用シート基材1であって、前記発泡樹脂粒子a間に形成された空隙b1同士が連通して形成された連通空隙bが外部と連通するように形成され、該連通空隙bの内部を外気が流通可能に構成されていることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両用シートを構成する車両用シート基材に関し、特に、発泡樹脂粒子を用いて成形された車両用シート基材に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、車両用シートを構成する部材の一つとして、車両用シートに剛性を付与するためのフレーム部材が用いられている。該フレーム部材は、金属製の素材を用いて形成され、車両用シートを構成する軟質樹脂層(一般的には、低密度の軟質ポリウレタンフォーム)の内部に配置されることで軟質樹脂層に剛性を付与するように構成されている。
【0003】
ところで、近年、車両(特に、自動車)の製造に用いられる部材は、車両が走行する際のエネルギー消費を抑える観点やコスト低減を図る観点から、軽量で加工性に優れた樹脂製資材への変更が図られている。このため、上記のような金属製のフレーム部材は、車両全体の重量増加に繋がるのに加え、製造コストが嵩むため、樹脂製素材を用いた他の部材への変更や前記フレーム部材と樹脂製素材との複合化が図られている。
【0004】
例えば、硬質な発泡樹脂を用いて成形された車両用シート基材が前記フレーム部材の代わりに用いられている。該車両用シート基材は、一般的に高密度の発泡樹脂(一般的には、高密度ポリウレタンフォーム)から形成されたものであり、成形金型を用いて発泡成形することで容易に製造することが可能であると共に、軽量で且つ適度な剛性を有するものであることから、軟質樹脂層と積層したり、軟質樹脂層の内部に配したりすることで、軟質樹脂層に剛性を付与すると共に、車両用シートの軽量化が図られている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第3474571号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記のような車両用シート基材は、高密度の発泡樹脂を用いて形成されているため、通気性が悪いものとなる。このため、搭乗者が車両用シート(具体的には、軟質樹脂層)上に長時間継続して着座した際には、搭乗者から発せられる熱や湿気が搭乗者と車両用シート基材との間、即ち、軟質樹脂層に蓄積されてしまう場合がある。このため、長時間継続して着座した際の座り心地が悪くなるのに加え、軟質樹脂層の劣化が促進される可能性があり、車両用シートの耐久性を低下させる要因となる場合がある。
【0007】
そこで、本発明は、車両用シートに搭乗者が着座した際に車両用シートに伝わる熱や湿気を効果的に逃がすことができ、長時間着座した際の座り心地を良好なものとすると共に、軟質樹脂層の劣化が促進されるのを抑制し、車両用シートの耐久性が低下するのを抑制することができる通気性に優れた車両用シート基材を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明にかかる車両用シート基材は、複数の発泡樹脂粒子から形成された車両用シート基材であって、前記発泡樹脂粒子間に形成された空隙同士が連通して形成された連通空隙が外部と連通するように形成され、該連通空隙内を外気が流通可能に構成されていることを特徴とする。
【0009】
かかる構成の車両用シート基材によれば、前記発泡樹脂粒子間に形成された空隙同士が連通して形成された連通空隙が外部と連通するように形成され、該連通空隙内を外気が流通可能に構成されていることで、通気性に優れた車両用シート基材となり、車両用シートに蓄積される熱や湿気を効果的に外部へ逃がすことが可能となる。
【0010】
具体的には、車両用シート基材は、車両用シートを構成する軟質樹脂層に積層されたり、軟質樹脂層の内部に配されたりして使用されるため、車両用シートに搭乗者が着座した際の体温(熱)や汗(湿気)が搭乗者と車両用シート基材との間、即ち、軟質樹脂層に伝わることとなる。このため、車両用シート基材が通気性の悪い素材(例えば、高密度のポリウレタンフォーム)で形成されている場合には、車両用シート基材と搭乗者との間に熱や湿気が蓄積され、長時間継続して着座した際の座り心地が悪くなるのに加え、熱や湿気によって軟質樹脂層の劣化が促進される場合がある。
【0011】
しかしながら、発泡樹脂粒子間に形成された連通空隙が外気を流通可能に形成されていることで、軟質樹脂層に伝わった熱や湿気が連通空隙を通って移動することができるため、車両用シート基材と搭乗者との間に熱や湿気が蓄積されるのを抑制することができる。これにより、長時間継続して着座した際の座り心地を良好なものとすることができるのに加え、車両用シート(具体的には、軟質樹脂層)の劣化が促進されるのを抑制することができる。
【0012】
また、本発明にかかる車両用シート基材は、空隙率が10乃至30vol%となるように形成されていることが好ましい。
【0013】
かかる構成の車両用シート基材によれば、空隙率が10乃至30vol%であることで、熱や湿気を効果的に逃がすことができると共に、十分な強度を有する車両用シート基材となる。
【0014】
具体的には、前記空隙は、隣接する複数の発泡樹脂粒子の表面同士が部分的に連結することによって形成されるものである。このため、空隙率を増加させると発泡樹脂粒子同士の連結部分の面積が減少し、強度が低下することとなり、一方、空隙率を減少させると発泡樹脂粒子同士の連結部分の面積が増加して強度が向上するが通気性が低下することとなる。そこで、空隙率が10乃至30vol%となるように車両用シート基材を形成することで、良好な通気性を得ることができると共に、十分な強度を得ることが可能となる。なお、空隙率とは、車両用シート基材の全体積に対する全連通空隙の合計体積の割合のことをいう。
【発明の効果】
【0015】
以上のように、本発明によれば、車両用シートに搭乗者が着座した際に車両用シートに伝わる熱や湿気を効果的に逃がすことができ、長時間着座した際の座り心地を良好なものとすると共に、軟質樹脂層の劣化が促進されるのを抑制することができる。これにより、車両用シートの耐久性が低下するのを抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本実施形態にかかる車両用シートの断面図とその一部拡大図。
【図2】本実施形態にかかる車両用シート基材を成形する成形金型の断面図。
【図3】本発明にかかる車両用シートを構成する発泡成形体の空隙率と通気抵抗とを示した図。
【図4】本発明にかかる車両用シートを構成する発泡成形体の空隙率と曲げ強度とを示した図。
【図5】本発明にかかる車両用シートを構成する発泡成形体の空隙率と20%歪時圧縮強度とを示した図。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施形態について図1及び2を参照しながら説明する。
【0018】
本実施形態にかかる車両用シート基材1は、図1に示すように、車両用シート(以下、座席Iと記す)を構成する資材の一つとして用いられるものである。具体的には、車両用シート基材1は、座席Iを構成する軟質樹脂層2に剛性を付与すべく、軟質樹脂層2に積層されて用いられるものである。
【0019】
車両用シート基材1は、複数の発泡樹脂粒子aから成形された発泡成形体を用いて形成されている。具体的には、車両用シート基材1は、複数の発泡樹脂粒子aの表面同士が部分的に融着することによって形成されている。これにより、一の発泡樹脂粒子aの表面には、他の発泡樹脂粒子aと融着した領域(以下、融着領域a1と記す)と、他の発泡樹脂粒子aに接触していない領域(以下、非接触領域a2と記す)とが形成されている。
【0020】
前記発泡樹脂粒子aとしては、特に限定されるものではないが、熱可塑性樹脂から形成されたものを用いることができる。具体的には、熱可塑性樹脂に発泡剤を含浸させて発泡性の熱可塑性樹脂とし、該発泡性の熱可塑性樹脂を水蒸気等で加熱して予備発泡させたものを用いることができる。熱可塑性樹脂としては、ポリスチレン系樹脂、ポリオレフィン系樹脂(例えば、ポリプロピレン系樹脂、ポリエチレン系樹脂等)、又は、これらを含む複合樹脂が挙げられる。更に、ポリエステル系樹脂(例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート等)、ポリカーボネート系樹脂、ポリ乳酸系樹脂などであってもよい。特に、ポリスチレン系樹脂とポリオレフィン系樹脂とを含む複合樹脂を用いることが好ましい。
【0021】
また、前記車両用シート基材1は、その外部に連通するように形成された連通空隙bを備えている。該連通空隙bは、発泡樹脂粒子a間に形成された空隙b1同士が連通することによって外部と連通するように形成されたものである。具体的には、連通空隙bは、隣接する複数の発泡樹脂粒子aの非接触領域a2によって囲まれた空間が車両用シート基材1の外部に連通することで形成されている。また、連通空隙bは、車両用シート基材1の全域に亘って形成されている。具体的には、空隙b1が車両用シート基材1の略全体に均一に分散した状態で形成されているため、空隙b1が連通することによって形成された連通空隙bは、車両用シート基材1の全域に亘って形成されることとなる。これにより、車両用シート基材1の全体が外気を流通可能となり、優れた通気性を有する車両用シート基材1となる。
【0022】
また、連通空隙bは、その体積の合計が車両用シート基材1全体の体積に対して所定の割合となるように形成されている。即ち、車両用シート基材1は、所定の空隙率を有するように形成されている。空隙率としては、10乃至30vol%となるように形成されていることが好ましく、10乃至25vol%となることがより好ましい。
【0023】
また、車両用シート基材1は、成形金型Aを用いて所定の形状となるように成形されている。成形金型Aとしては、図2に示すように、複数の金型片に分割可能に構成されたものが用いられる。具体的には、成形金型Aは、雄型A1及び雌型A2から構成され、雄型A1と雌型A2との間に形成される成形空間Rにおいて車両用シート基材1を成形するように構成されている。
【0024】
前記雄型A1は、その内部に高温の水蒸気(以下、加熱蒸気と記す)を導入可能に構成された蒸気空間A11を備え、該蒸気空間A11に導入された加熱蒸気を成形空間R内へ噴霧可能に構成されている。具体的には、雄型A1は、成形空間Rが形成された状態(以下、型閉状態と記す)において、雌型A2と間隔を空けて対向する雄型成形面A10を備え、該雄型成形面A10に形成された複数の噴霧孔(図示せず)から前記加熱蒸気を成形空間R内に噴霧可能に構成されている。
【0025】
一方、前記雌型A2は、雄型A1と同様に、その内部に加熱蒸気を導入可能な蒸気空間A21を備え、該蒸気空間A21に導入された加熱蒸気を成形空間R内へ噴霧可能に構成されている。具体的には、雌型A2は、型閉状態において、雄型A1(具体的には、雄型成形面A10)と間隔を空けて対向する雌型成形面A20を備え、該雌型成形面A20に形成された複数の噴霧孔(図示せず)から加熱蒸気を成形空間R内に噴霧可能に構成されている。
【0026】
また、雄型A1及び雌型A2の少なくとも一方には、発泡樹脂粒子aを供給可能に構成された供給口(図示せず)が形成され、該供給口から成形空間R内へ発泡樹脂粒子を充填可能となっている。
【0027】
次に、前記成形金型Aを用いて車両用シート基材1を作製する手順について説明する。なお、後述する加熱時間や冷却時間としては、特に限定されるものではなく、用いられる発泡樹脂粒子aの性状によって適宜選択されるものである。本実施形態においては、ポリプロピレン系樹脂とポリスチレン系樹脂との複合樹脂からなる発泡樹脂粒子aを用いた場合の加熱時間及び冷却時間を示す。また、加熱時間を調節することによって車両用シート基材1の空隙率の増減を容易に行うことができる。
【0028】
まず始めに、雄型A1と雌型A2とを組み合わせて成形空間Rを形成し、前記供給口から成形空間Rに発泡樹脂粒子aを充填する。そして、成形金型A(具体的には、雄型A1及び雌型A2)内に加熱蒸気を導入し、成形金型A自体を所定時間加熱する(金型加熱)。加熱時間としては、3乃至15秒程度であることが好ましい。次に、雄型A1又は雌型A2の一方から加熱蒸気を成形空間Rに所定時間噴霧して一方加熱を行う。該一方加熱の時間としては、0.11〜0.17MPaの加熱蒸気で5乃至30秒程度行うことが好ましい。前記一方加熱が終了後、雌型A2又は雄型A1の他方から加熱蒸気を成形空間Rに所定時間噴霧して逆一方加熱を行う。該逆一方加熱の時間としては、0.11〜0.17MPaの加熱蒸気で0乃至15秒程度行うことが好ましい。そして、逆一方加熱が終了後、雄型A1及び雌型A2の両方から加熱蒸気を成形空間Rに所定時間噴霧して両面加熱を行う。該両面加熱の時間としては、0.11〜0.17MPaの加熱蒸気で10乃至30秒程度行うことが好ましい。以上の加熱行程よって、成形空間Rに充填された発泡樹脂粒子aは更に発泡すると共に表面が軟化し、表面同士が部分的に融着した状態となる。これにより、発泡樹脂粒子aの表面には、融着領域a1と非接触領域a2とが形成される。
【0029】
そして、前記加熱行程の終了後、冷却行程を行う。具体的には、成形金型A(具体的には、雄型A1及び雌型A2)内に前記加熱蒸気に替えて冷却水を導入し、成形された発泡樹脂粒子aの水冷を行う。水冷時間としては、5乃至20秒程度であることが好ましい。その後、真空雰囲気で5乃至30秒程度の真空放冷を行う。
【0030】
以上のような手順よって作製された車両用シート基材1は、発泡樹脂粒子a間に形成された空隙b1同士が連通した状態となって連通空隙bが形成されると共に、連通空隙bが車両用シート基材1の外部と連通した状態となって優れた通気性を示すものとなる。
【0031】
上記のような車両用シート基材1は、座席Iを構成する軟質樹脂層2に積層されて用いられる場合がある。該軟質樹脂層2は、座席Iに搭乗者が着座した際に搭乗者の体に沿うように弾性変形する素材を用いて形成されている。一般的には、軟質樹脂層2は、ポリウレタン樹脂が発泡成形された軟質ポリウレタンフォームから形成されている。かかる軟質樹脂層2は、液体状の原料が軟質樹脂層2を成形する成形金型内で発泡成形されることで、所望の形状となるように成形されるものである。
【0032】
車両用シート基材1を軟質樹脂層2に積層する方法としては、特に限定されるものではなく、例えば、所望の形状に成形した軟質樹脂層2に接着剤や粘着テープ等を用いて積層してもよい。他の方法としては、軟質樹脂層2を成形する成形空間に車両用シート基材1を配置し、軟質樹脂層2が発泡成形されると同時に車両用シート基材1が積層されるようにしてもよい。
【0033】
上記のように車両用シート基材1を軟質樹脂層2に積層することで、軟質樹脂層2に剛性を付与することができ、座席I(具体的には、軟質樹脂層2上)に搭乗者が着座した際の安定性を向上させることが可能となる。
【0034】
以上のように、本実施形態に係る車両用シート基材1によれば、座席Iに搭乗者が着座した際に座席Iに伝わる熱や湿気を効果的に逃がすことができ、長時間着座した際の座り心地を良好なものとすると共に、軟質樹脂層2の劣化が促進されるのを抑制することができる。これにより、座席Iの耐久性が低下するのを抑制することができる。
【0035】
即ち、前記車両用シート基材1は、発泡樹脂粒子a間に形成された連通空隙bが外気を流通可能に形成されていることで、軟質樹脂層2に伝わった熱や湿気が連通空隙bを伝って移動することができるため、車両用シート基材1と搭乗者との間に熱や湿気が蓄積されるのを抑制することができる。これにより、長時間継続して着座した際の座り心地を良好なものとすることができるのに加え、座席I(具体的には、軟質樹脂層2)の劣化が促進されるのを抑制することができる。また、空隙率が10乃至30vol%となるように成形されることで、良好な通気性を得ることができると共に、十分な強度を得ることが可能となる。
【0036】
なお、本発明に係る車両用シート基材1は、上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。
【0037】
例えば、上記実施形態では、車両用シート基材1は、軟質樹脂層2に積層されて使用されているが、これに限定されるものではなく、軟質樹脂層2の内部に配されるようにしてもよい。具体的には、軟質樹脂層2を成形する成形空間に車両用シート基材1を配置し、軟質樹脂層2が発泡成形されると共に車両用シート基材1が軟質樹脂層2の内部に覆われるようにしてもよい。
【0038】
また、上記実施形態では、発泡樹脂粒子a同士が融着することで車両用シート基材1を形成しているが、これに限定されるものではなく、各発泡樹脂粒子a同士が接着剤を介して連結されてもよい。
【実施例】
【0039】
以下、本発明の実施例について説明する。
【0040】
1.発泡樹脂粒子の作製
ポリプロピレン系樹脂(プライムポリマー社製、商品名「F−744NPJ、融点:140℃、メルトフローレート:7.0g/10分、密度:0.9g/cm3)100質量部を押出機に供給して溶融混練してストランドカットにより造粒ペレット化することにより、球状(卵状)のポリプロピレン系樹脂粒子(100粒あたり54mg、平均粒子径約1mm)を得た。
【0041】
なお、前記メルトフローレートは、JIS−K−7210:1999「プラスチック−熱可塑性プラスチックのメルトフローレート(MFR)及びメルトボリュームフローレート(MVR)の試験方法」のB法に記載の方法により測定した。
【0042】
次に、撹拝機付5Lオートクレーブに、前記ポリプロピレン系樹脂粒子800gを入れ、水性媒体として純水2kg、ピロリン酸マグネシウム20g、ドデシルベンゼンスルホン酸ソーダ0.5gを加え、撹拌して水性媒体中に懸濁させ、10分間保持し、その後、60℃に昇温して水系懸濁液とした。
【0043】
次に、前記懸濁液中にジクミルパーオキサイド0.8gを溶解させたスチレン単量体400gを30分かけて滴下した。そして、滴下後、30分保持してポリプロピレン系樹脂粒子にスチレン単量体を吸収させた。
【0044】
次に、反応系の温度をポリプロピレン系樹脂粒子の融点と同じ140℃に昇温して1時間30分保持し、スチレン単量体をポリプロピレン系樹脂粒子中で重合(第1の重合)させた。
【0045】
次に、第1の重合の反応液をポリプロピレン系樹脂粒子の融点より20℃低い120℃
にし、この反応液中にドデシルベンゼンスルホン酸ゾーダ1.5gを加えた。その後、重合開始剤としてジクミルパーオキサイド3.6gを溶解したスチレン単量体800gを4時間かけて滴下し、ポリプロピレン系樹脂粒子に吸収させながら重合(第2の重合)させた。
【0046】
前記滴下が終了した後、120℃で1時間保持し、その後140℃に昇温して3時間保持することで重合を完結させ、改質ポリスチレン系樹脂粒子を得た。
【0047】
次に、常温まで冷却し、前記改質ポリスチレン系樹脂粒子を5Lオートクレープから取り出した。取り出した改質ポリスチレン系樹脂粒子2kgと水2Lとを再び攪拌機付の5Lオートクレープに投入し、発泡剤としてブタン300gを注入した。注入後、70℃に昇温して4時間撹拝を続けた。
【0048】
その後、常温まで冷却して5Lオートクレープから取り出し、脱水乾燥して発泡性改質ポリスチレン系樹脂粒子を得た。
【0049】
次に、得られた発泡性改質ポリスチレン系樹脂粒子を直ちに水蒸気で予備発泡(嵩発泡倍数40倍)させ、改質ポリスチレン系樹脂発泡粒子(以下、発泡樹脂粒子と記す)を得た。
【0050】
そして、得られた発泡樹脂粒子を1日間室温に放置した後、更に7日間室温で放置して発泡樹脂粒子内の残ガス量を1.0wt%以下にまで減少させた。
【0051】
2.発泡成形体の作製
400mm×300mm×30mmの大きさの成形空間(キャビティ)を有する成形金型を用い、キャビティ内に前記発泡樹脂粒子を充填した。そして、キャビティ内に0.l2MPaの水蒸気を導入して加熱し、型内成形を行なった。加熱時間としては、(1)金型加熱10秒、(2)一方加熱20秒、(3)逆一方加熱10秒、(4)両面加熱30秒を順次行った。その後、発泡成形体の最高面圧が0.001MPaに低下するまで冷却(水冷:5秒、放冷:15秒)して、発泡成形体(発泡倍率40倍)を得た。なお、型内成形には、発泡成形機(積水工機社製、商品名「ACE−3SPJ)を使用した。
【0052】
3.測定方法
(1)空隙率の測定
上記の方法により得られた発泡成形体をφ29mm×t30mmのサイズの試験片に形成し、ASTM−D−2856に準拠した方法で試験片の真の容積(V1)を測定した。また、試験片の外形寸法から見かけ容積(V2)を算出した。そして、下記の式により空隙率を算出した。

空隙率(%)=(V1)×100/(V2)・・・(1)

なお、真の容積(V1)の測定は、ASTM−D−2856に準拠し、空気比較式比重計1000型(東京サイエンス株式会社製)を用いて行なった。具体的には、比較用と測定用の2つの容器を用い、測定用の容器内に試験片を配した後、各容器内の圧力が同一となるようにピストンを移動させる。この際、比較用の容器におけるピストンの移動量と測定用の容器のピストンの移動量との差が試験片の真の容積に比例することとなるため、その差を測定して試験片の真の容積が算出される。
(2)通気抵抗の測定
上記の方法により得られた発泡成形体をφ90mm×t28mmのサイズの試験片に形成し、KES−F8−API測定装置(カトーテック株式会社製)を用いて通気抵抗の測定を行なった。通気抵抗は、電気抵抗と同様に、圧力/通気量で表されるため、該測定装置では、通気量を一定(4×10-2m/s)とした場合に圧力と通気抵抗とが比例することを利用し、圧力差を測定することで通気抵抗の算出がなされている。
(3)曲げ強度の測定
上記の方法により得られた発泡成形体を300mm×75mm×25mmのサイズの試験片に形成し、JIS−K−7221−2(99年度版 付属書1)に準拠した方法で曲げ強度の測定を行なった。具体的には、2点で水平に支持された試験片の中央部に加圧楔によって一定速度(10mm/min)で垂直方向に荷重を加え、荷重及び撓みを測定した。
(4)20%歪時圧縮強度の測定
上記の方法により得られた発泡成形体を50mm×50mm×25mmのサイズの試験片に形成し、JIS−K−6767(06年度版)に準拠し、所定の圧縮速度(10mm/min)で20%圧縮した際の圧縮応力を測定した。
【0053】
3.空隙率と各測定結果との関係
空隙率と通気抵抗との関係については、図3に示す通りである。また、空隙率と通気抵抗との関係については、図4に示す通りである。また、空隙率と20%歪時圧縮強度との関係については、図5に示す通りである。
【0054】
4.まとめ
図3に示すように、発泡成形体が空隙を有することで、発泡成形体が通気性を有するものとなることが認められる。また、通気抵抗は、空隙率の増加に伴って低下することが認められ、特に、空隙率が10%以上の範囲において、通気抵抗が低い数値となることが認められる。即ち、10%以上の空隙率を有することで、より通気性に優れた発泡成形体となる。
また、図4及び5に示すように、曲げ強度及び20%歪時圧縮強度は、空隙率の増加に伴って低下することが認められる。これは、空隙率が増加すると発泡樹脂粒子同士の接触面積が減少するため、発泡樹脂粒子同士の連結が弱まり、発泡成形体の強度が低下するものと考えられる。従って、良好な通気性を有すると共に良好な曲げ強度及び20%歪時圧縮強度を有するためには、空隙率が10乃至25%程度であることが好ましい。
以上のように、上記発泡成形体から形成される車両用シート基材は、空隙を有することで、通気性を備えるものとなり、車両用シートに搭乗者が着座した際に車両用シートに伝わる熱や湿気を効果的に逃がすことができる。これにより、長時間着座した際の座り心地を良好なものとすると共に、軟質樹脂層の劣化が促進されるのを抑制することができる。
【符号の説明】
【0055】
I…座席、1…車両用シート基材、2…軟質樹脂層、A…成形金型、A1…雄型、A10…雄型成形面、A11…蒸気空間、A2…雌型、A20…雌型成形面、A21…蒸気空間、R…成形空間、a…発泡樹脂粒子、a1…融着領域、a2…非接触領域、b…連通空隙、b1…空隙

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の発泡樹脂粒子から形成された車両用シート基材であって、
前記発泡樹脂粒子間に形成された空隙同士が連通して形成された連通空隙が外部と連通するように形成され、該連通空隙内を外気が流通可能に構成されていることを特徴とする車両用シート基材。
【請求項2】
空隙率が10乃至30vol%となるように形成されていることを特徴とする請求項1に記載の車両用シート基材。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−36469(P2011−36469A)
【公開日】平成23年2月24日(2011.2.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−187249(P2009−187249)
【出願日】平成21年8月12日(2009.8.12)
【出願人】(000002440)積水化成品工業株式会社 (1,335)
【Fターム(参考)】