説明

車両用シート空調装置

【課題】 シート空調装置において、冷却時の結露防止を行うために湿度センサを要することなく、車室内の除湿状態を推定することにより簡便に結露防止を行う。
【解決手段】 車室内空調装置1は、エバポレータ1aにより冷却された空調風を車室内へ吹き出す。エバポレータ1aの下流側の空気温度Teがエバ後空気温センサ3aにより検出される。エバ後空気温度Teは、車室内空気の除湿状態を代表する物理量であり、露点温度にほぼ等しいとみなすことができる。シート空調ECU10は、エバ後空気温Teを入力して、これに若干の補正値Δを加えて車室内空気の露点温度Tdpとして推定する。この推定された露点温度に基づいてシート部熱交換器であるペルチェ素子5の電力を制御して、シート内送風機6により、通風路7へ冷却された風を送風する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両用シート空調装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、車室内の空調装置とは別に、車両用シートそのものをシート用加熱冷却装置により加熱または冷却するシート空調装置がある。
【0003】
夏期や、梅雨時などで、空調運転開始直後には、シート設定温度はまだ十分に空調されていない車室内空気温度よりも低く設定されている。したがって、シート用加熱冷却装置の熱交換部が車室内空気の露点以下となることがあり、その結果結露を発生することとなる。
【0004】
また、冬期の車室内暖房運転時には、シート用加熱冷却装置は加熱側の能力を制御する一方、排熱側(冷却側)の温度状態は無考慮であり、場合によっては排熱側の温度が車室内空気の露点以下となり、その結果排熱側に結露が発生する。
【0005】
そしてこのように車両用シート空調装置に結露が発生した場合、次のような問題が生ずる。1)加熱冷却装置としてのシート内の熱交換部やその周辺の湿潤箇所にカビ等が発生する。2)加熱冷却装置の冷却側温度が氷点以下となると、結露水は凍結し、ついには冷却側通風路を閉塞してしまう。3)結露水をドレンホース等で積極的に車外に廃棄しようとする場合は、このドレンホースのシート内への搭載に困難を伴う。
【0006】
そこで、車両用シート空調装置の結露を防止するために、車室内空気の露点を求め、座席温度センサで検出されるシート表面温度が所定の露点領域になったときに、シート内に埋設したヒートパイプに設けた冷却素子の作動を停止するものがある(例えば、特許文献1参照)。
【特許文献1】特開2000−60681号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、上記従来技術では、車室内空気の露点を求めるにあたって、車室内温度センサと車室内湿度センサとを備え、これらのセンサ出力に基づいて車室内空気の露点を算出していた。したがって、結露防止のために、シート表面温度を検出する温度センサおよび車室内湿度を検出する湿度センサが必要となり、システムの構造が複雑となるという問題があった。
【0008】
本発明は、上記点に鑑み、シート空調装置において、冷却時の結露防止を行うために湿度センサを要することなく、車室内の除湿状態を推定することにより簡便に結露防止を行うことを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するため、請求項1に記載の発明では、車室内の空気温度を調節する車室内空調装置(1)が備える車室内の空気を冷却する空調用熱交換器(1a)において、空調用熱交換器の下流側の空気温度を代表する物理量(Te)を検出する熱交換器後空気温度検出器(3a)と、車室内のシート(S)内またはシート近傍に配置され、シート部材を冷却するシート用熱交換部(5、50、52)と、シート用熱交換部の温度を制御するシート用熱交換部制御装置(10)と、熱交換器後空気温度検出器により検出された検出値に基づき車室内の空気の露点(Tdp)を推定する内気露点推定手段(11)と、シート用熱交換部の目標温度(Tse0)を、推定された内気露点を下回らないように下限設定する目標温度設定手段(12)と、を備えることを特徴とする。
【0010】
この発明によれば、シート空調装置のシート用熱交換部の冷却時における結露を防止するために必要となる車室内の空気の露点を、空調用熱交換器の下流側の空気温度を代表する物理量に基づいて推定しているので、湿度センサを要することなく簡便なシステムとすることができる。
【0011】
なお、請求項2に記載のように、空調用熱交換器はエバポレータ(1a)とし、熱交換器後空気温度検出器は、エバポレータ後空気温度センサ(3a)とすることができる。
【0012】
請求項3に記載の発明は、内気露点推定手段は、空気の露点を、熱交換器後空気温度検出器により検出された物理量に応じた空気温度に等しいものと推定することを特徴とする。
【0013】
この発明によれば、検出された熱交換器後空気温度は、ほぼ車室内の空気の露点温度に等しいので、これにより、シート用熱交換部に導入される車室内空気の除湿状態を推定することができる。
【0014】
請求項4に記載された発明は、内気露点推定手段は、空気の露点を、熱交換器後空気温度検出器により検出された物理量に応じた空気温度に所定の補正値(Δ)を加算した値として推定することを特徴とする。
【0015】
この発明によれば、検出された熱交換器後空気温度に所定の補正値を加えた温度を車室内の空気の露点としているので、例えば、乗員や濡れた着衣等による加湿量や検出器のバラツキなどよる変動分を考慮した露点を推定することができる。
【0016】
さらに補正値を、請求項5に記載のように、車室内空調装置の起動後の時間経過とともに小さくなる値とすることにより、車室内空調装置の起動初期における車室内空気の一部を除湿した状態から、時間経過に応じて定常状態、すなわち車室内の湿度(絶対湿度)が熱交換器後の湿度(絶対湿度)にほぼ等しくなる状態となるまでの露点の推移を正確に推定することができる。
【0017】
また、請求項6に記載のように、補正値を、内気温センサにより検出された車室内の空気温度が高いほど大きい値とすることにより、車室内の空気温度の除湿状態の変化を考慮した露点の推定が可能となる。すなわち、車室内の空気温度が高いほど車室内空調装置の起動からの経過時間が短いと判定でき、これに基づき露点の補正値を決めることができる。
【0018】
さらにまた、請求項7に記載のように、補正値は、空調用熱交換器の目標温度として設定される目標エバ後温度(TEO)と熱交換器後空気温度検出器により検出された物理量に応じた空気温度との偏差が大きいほど大きくなるよう設定されている値とすることにより、車室内空調装置の起動からの経過時間に応じた車室内の空気温度の除湿状態の変化を考慮した露点の推定が可能となる。
【0019】
請求項8に記載の発明は、目標温度設定手段は、乗員により設定された設定値(A)に応じて仮目標温度を設定するとともに、推定された車室内の空気の露点と仮目標温度とのいずれか大きい方の温度を目標温度として設定することを特徴とする。
【0020】
これによれば、乗員による設定値をも考慮して、シート空調装置における結露を防止可能なシート用熱交換部の目標温度を設定することができる。
【0021】
なお、シート用熱交換部は、請求項9に記載のようにペルチェ素子(5)とすることも、あるいは、請求項10に記載のように冷凍サイクルの熱交換部(50)とすることも、さらには、請求項11に記載のようにブラインチューブ(52)とすることも可能である。
【0022】
なお、上記各手段の括弧内の符号は、後述する実施形態に記載の具体的手段との対応関係を示すものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
(第1実施形態)
以下、本発明の第1実施形態について図面を参照して説明する。図1は本第1実施形態の車両用シート空調装置の概略構成を示す図である。
【0024】
本実施形態は、車室内の空間に空調風を吹き出して車室内の空気温度を調節する車室内空調装置1を備えている。車室内空調装置1は、空調用熱交換器としてのエバポレータ1aを備え、このエバポレータ1aにより空気を冷却して空調風として車室内に吹き出す。
【0025】
車室内空調装置1から吹き出される空調風の吹出温度および風量は空調制御手段としてのエアコンECU2により制御される。
【0026】
エアコンECU2は、マイクロコンピュータにより構成され、エバポレータ1aの下流側の空気温度(エバポレータ1aにて熱交換された空気温度で、エバ後空気温という)Teを検出する熱交換器後空気温度検出器としてのエバ後空気温センサ3aと、車室内の空気温度Trを検出する内気温センサ3bと、外気温Tamを検出する外気温センサ3cと、日射量Tsを検出する日射センサ3dとが接続されている。
【0027】
また、エアコンECU2にはエアコンパネル4が接続され、乗員によりエアコンパネル4で設定された、設定温度Tset、吹出口モード、マニュアル風量、等の各種空調設定値が入力される。さらにエアコンパネル4には、乗員が後述するシート空調の設定値A(1:冷、2:やや例、3:ニュートラル、4:やや暖、5:暖)を入力するスイッチが設けられており、この乗員により入力されたシート空調設定値AはエアコンECU2を介してシート空調ECU10に送られる。
【0028】
なお、本実施形態におけるエアコンECU2による空調制御は、よく知られた制御ロジックに基づいて行われる。すなわち、乗員による設定温度Tset、検出された内気温Trおよび日射量Tsに基づき、数式1により、車室内に吹き出す空気の目標吹出温度TAOが算出される。
【0029】
TAO=Kset・Tset−Kr・Tr−Kam・Tam−Ks・Ts+C
・・・(数式1)
なお、数式1において、Kset、Kr、Kam、Ka、Cはそれぞれ定数である。
【0030】
この目標吹出温度TAOに応じて、ブロワによる車室内への送風量が決められるとともに、車室内への吹出モード(デフ、フェイス、フット、バイレベル)が決定される。
【0031】
さらに、この目標吹出温度TAOに応じて、エバポレータ1aを通過した直後の空気温度の目標値である目標エバ後空気温TEOが決定される。そして、エアコンECU2はこの目標エバ後空気温度TEOと検出されたエバ後空気温Teとの偏差に応じて圧縮機(図示せず)をON−OFF制御してエバポレータ1aへの冷媒流量を制御して、エバポレータ1aの温度を制御する。
【0032】
次に、目標ダンパ開度SWが数式2により算出される。なお、数式2中、Twは図示しないヒータコア内を流れるエンジン冷却水温である。
【0033】
SW={(TAO−Te)/(Tw−Te)}×100(%) ・・・(数式2)
この目標ダンパ開度SWは、エバポレータ1aの下流側に配置されたエアミックスダンパ(図示せず)の開度を決めるもので、このエアミックスダンパの開度により、エバポレータ1aにより冷却された空気がその下流側のヒータコア(図示せず)と熱交換して加熱される温風量と、ヒータコアをバイパスするエバポレータ1aによる冷風量との混合割合が決定される。これにより、所望の吹出温度の風が車室内へ送風される。
【0034】
なお、エバ後空気温センサ3aにより検出されるエバポレータ1aを通過した直後のエバ後空気温Teは、車室内空調装置1の除湿性能を代表する値である。
【0035】
次に、本実施形態のシート空調装置について説明する。本実施形態のシート空調装置は、シートS内に設けられた、シート用熱交換部としてのペルチェ素子5と、シート内送風機6と、通風路7と、着座面吹出口8a、8bと、シート用熱交換部温度センサ9と、シート用熱交換部制御装置としてのシート空調ECU10とを備えている。
【0036】
ペルチェ素子5は、よく知られているように、異種導体等の接点に電流を流すことによりその接点でジュール熱以外の熱の発生または吸収を生ずる素子であり、接点に流す電流の向きを逆にすると熱の発生と吸収との関係が逆になるものである。シート内送風機6は、ペルチェ素子5の上流側に設けられ、車室内の空気を導入して所定風量でペルチェ素子5に向けて送風する。
【0037】
ペルチェ素子5の下流側にはシートSのクッション内部に通風路7が形成されており、シート内送風機6により送風されペルチェ素子5により冷却された空調風の通路となっている。通風路7の下流側端部には、多数の着座面吹出口8a、8bが形成されており、この着座面吹出口8a、8bより空調風がシートSに着座した乗員の下半身および背部に向けて吹き出されるとともに、この空調風により着座部分のシート部材であるクッション部も冷却される。
【0038】
シート用熱交換部温度センサ9は、シート用熱交換部であるペルチェ素子5の通風路7における下流側に配置され、ペルチェ素子5での熱交換度合いに相当する空気温度Tseを検出する。
【0039】
シート空調ECU10はコンピュータにより構成され、シート用熱交換部温度センサ9の検出温度Tseと、エアコンECU2より送られるエバ後空気温Teとを入力し、ペルチェ素子5の通電制御およびシート内送風機6の送風量の制御を後述する制御フローにより行っている。
【0040】
次に、シート空調装置の作動について説明する。図2は、シート空調ECU10にて実行される制御ルーチンのフローチャートを示している。この制御ルーチンは、車室内空調装置1の電源がオンされるとともに開始され、所定周期で繰り返し実行される。
【0041】
まずステップS10で、シート用熱交換部温度センサ9からの検出温度Tse、エバ後空気Teおよびエアコンパネル4にて設定されたシート空調設定値Aが読み込まれる。
【0042】
次にステップS20で、仮目標温度Tse1を算出する。具体的には、図3に示される特性表に基づき、シート空調設定値Aに応じた仮目標温度Tse1が設定される。なお、図3には、シート内送風機6の目標風量をHi:高、Lo:低として示している。また、内気温センサ3bにより検出される車室内温度Trが高いときや日射センサ3dにより検出される日射量Tsが大きいときには、これらの値に応じて仮目標温度Tse1を下方修正(低い値に変更)する。
【0043】
次のステップS30では、シートS内に導入される車室内空気の除湿状態を推定するために内気露点温度Tdpが推定演算される。すなわち、除湿状態とは内気の露点温度であり、この内気露点温度Tdpは、読み込まれたエバ後空気温Teにほぼ等しいものとみなすことができる。さらに本第1実施形態では、内気露点温度Tdpを、エバ後空気温Teに補正値Δを加算することにより推定する。すなわち、Tdp=Te+Δである。この補正値Δは、乗員や濡れた着衣等による加湿量やセンサ出力のバラツキ、制御特性のバラツキ等の影響を加味して露点温度Tdpにマージンを設けるもので、例えば、2℃とすることができる。このステップS30での処理が、内気露点推定手段11に相当する。
【0044】
ステップS40では、シート用熱交換部(ペルチェ素子)5の目標温度の下限処理を行い、最終的な目標温度Tse0を、数式3に基づき算出する。なお、数式3において、MAXは、カッコ内の変数の最大値を選択する演算子である。
【0045】
Tse0=MAX(Tse1,Tdp) ・・・(数式3)
これにより、シート用熱交換部5の目標温度Tse0は、仮目標温度Tse1および推定された内気露点温度Tdpのうち、大きい方の値とされる。
【0046】
例えば、エバ後空気温Te=10℃、補正値Δ=2℃のとき、S30で推定される露点Tdp=Te+Δ=12℃である。一方、乗員によるシート空調の設定値Aと車室内温度Trおよび日射Tsに応じてS20で算出された仮目標温度Tse1=8℃である場合、数式3より、Tse0=MAX(8℃、12℃)=12℃となる。このステップS40での処理が目標温度設定手段12に相当する。
【0047】
これらの関係は、図4に示される。なお図4は、補正値Δ=2℃(一定値)の例を示している。図4中、実線で示されるTdpより上の領域が、本実施形態におけるシート用熱交換部5の冷却作動する領域(作動域)である。
【0048】
次のステップS50では、アクチュエータとしてのペルチェ素子5の指示値である印加電圧Vpを算出する。すなわち、上記ステップS40にて算出された目標温度Tse0とシート用熱交換部温度センサ9により検出された検出温度Tseとの偏差に応じて、この温度偏差が大きいほど吸熱量が大きくなるよう予め設定されている制御特性マップに基づき、アクチュエータであるペルチェ素子5への印加電圧Vpを算出している。
【0049】
また、このステップでは、もう一つのアクチュエータであるシート内送風機6の送風量を決めるブロワレベルVbも算出される。これは、乗員によるシート空調設定値Aに応じてHiまたはLoとして設定される目標風量に応じたものである。
【0050】
そして、ステップS60にて、アクチュエータであるペルチェ素子5およびシート内送風機6が、それぞれ算出された指示値に応じて駆動される。以上の処理が、所定周期で繰り返し行われる。
【0051】
このように、本第1実施形態では、シート用熱交換部としてのペルチェ素子5に電圧を印加して目標温度Tse0となるよう冷却するとともに、シート内送風機6により導入された車室内空気をペルチェ素子5に送風する。これにより冷却された空気は、シートS内の通風路7を通って着座面吹出口8a、8bよりシートSに着座している乗員に向けて吹き出され、乗員は快適なシート空調状態を得ることができる。
【0052】
一方、車室内空調装置1が備えるエバポレータ1aの通過後の空気温度(エバ後空気温)Teに補正値Δを加算することによって、車室内の除湿状態を考慮した車室内空気の露点温度Tdpを推定することができる。このように推定された露点温度Tdpは、結露が発生しないシート用熱交換部冷却時の目標温度の下限値とすることができる。
【0053】
さらに本第1実施形態では、このシート用熱交換部の冷却時の目標温度Tes0を、乗員により設定されたシート空調設定値Aに応じた仮目標温度Tse1と、推定された露点温度Tdpとの高い方の値としているので、乗員の希望するシート空調温度も考慮した結露防止可能なシート空調制御を行うことができる。
【0054】
(第2実施形態)
次に第2実施形態について説明する。本第2実施形態は、露点Tdpの推定における補正値Δを一定値ではなく変動値とする点のみが、上記第1実施形態と異なっている。したがって、他の構成は第1実施形態と同じであるので、同じ構成部分については説明を省略し、以下異なる部分についてのみ説明する。
【0055】
本第2実施形態における補正値Δの考え方は次のとおりである。車室内空調装置1の起動直後は、まだ車室内空気の一部を除湿したにすぎず、車室内の湿度(絶対湿度)はエバポレータ1aの下流側での湿度(絶対湿度)よりも高い場合がある。
【0056】
そして、起動後の時間経過とともに、空調が定常状態に近づくにつれて、車室内の湿度(絶対湿度)はエバポレータ1aの下流側の湿度(絶対湿度)にほぼ等しくなる。本第2実施形態では、補正値Δをこの車室内空調装置1の起動後の時間経過に応じた湿度変化を考慮したものとするものである。
【0057】
すなわち、本第2実施形態では、図2のステップS30における内気露点温度Tdpを推定演算するときの補正値Δとして、図5(A)、(B)、(C)に示す3つの特性のいずれかを用いる。なお、これらの特性の補正値Δは、シート空調ECU10にマップとして予め記憶され、内気露点推定手段11に相当するステップS30での推定演算に用いられる。
【0058】
図5(A)は、車室内空調装置1の起動後の時間経過とともに、補正値Δが減少する特性を示す。この変化線図は、予め実験的に求めることができ、これにより露点推定精度を高めることができる。
【0059】
なお、図5(A)において、起動直後(t=0)の補正値Δを、車室内空気温度Trに応じて決める、すなわち、Trが大きいほどΔ(t=0)を大きくすることにより、さらに露点の推定精度を向上させることができる。
【0060】
また、図5(B)に示す例は、車室内空気温度Trが高いほど補正値Δを大きく設定する特性である。すなわち、車室内空気温度Trが高いほど車室内空調装置1の起動から時間が経過していないものとみなして、補正値Δを変化させる。
【0061】
さらに、図5(C)に示す例は、エバポレータ1aの下流側における目標温度である目標エバ後空気温度TEOとエバ後空気温センサ3aにより検出されたエバ後空気温Teとの偏差が大きいほど、車室内空調装置1の起動からの時間が経過していないものとみなして、補正値Δを大きく設定する特性である。
【0062】
以上のように、車室内空調装置1の起動からの経過時間tに応じて補正値Δを減少させるように変動させることにより、空調の過渡状態においても、露点を正確に推定することができる。
【0063】
なお、図5(C)において、横軸をそれぞれ検出された車室内空気温度Trとエバ後空気温Teとの偏差として、この偏差が大きいほど補正値Δを大きくなるよう設定してもよい。この場合にも、この偏差が大きいほど車室内空調装置1の起動からの経過時間が小さいものとみなすことができる。
【0064】
(他の実施形態)
上記第1および第2実施形態では、アクチュエータとしてのシート用熱交換部であるペルチェ素子5の温度制御を、シート用熱交換部温度センサ9により検出されるペルチェ素子5の下流側空気温度Tseが目標温度Tse0になるようクローズドループ制御するものであったが、これに限らず、オープンループ制御を行ってもよい。
【0065】
すなわち、予め、内気温Trとシート内送風機6の風量とペルチェ素子5への印加電圧Vpとペルチェ素子5の下流側空気温度Tse(予測値)との関係を実験で求めておき、これらの関係をマップ化して記憶しておく。図2のステップS50において、このマップから、与えられたTr(内気温センサ3b検出値)、風量(乗員設定値)、Tse0(数式3による算出値)に基づき指示電圧Vpを決定する。これにより、シート用熱交換部温度センサ9を設けることなく、センサレスでペルチェ素子5を所望の温度に制御し、かつ結露を防止することができる。
【0066】
上記第1および第2実施形態では、シート用熱交換部としてペルチェ素子5を用いた例を示したが、これに限らず、次のような他のシート用熱交換部を用いてもよい。
【0067】
図6は、冷温熱発生源51としての小型冷凍サイクルを構成し、シート用熱交換部としての蒸発器50を搭載する例を示している。蒸発器50の上流側には、上記第1および第2実施形態と同様、シート内送風機6を配置し、蒸発器50において熱交換された冷却風が通風路7を通って、着座面吹出口8a、8bより乗員に向けて吹き出される。小型冷凍サイクル51は、蒸発器50の下流側の温度が目標温度Tse0となるよう、シート空調ECU10により制御される。
【0068】
また、他の実施形態として、図6における冷温熱発生源51を、特開平5−28451号公報に記載されているブライン熱交換容器により構成してもよい。この場合には、シート用熱交換部50には、ブライン熱交換器51からブラインが供給され、これによりシート内送風機6から送風される車室内空気を冷却する。
【0069】
さらに、他の実施形態として、図7に示すように、冷温熱発生源51をブライン熱交換器とし、このブライン熱交換容器から供給されるブラインをシートS内に埋設したシート用熱交換部としての冷媒用配管であるブラインチューブ52に循環させるようにしてもよい。この場合には、送風される空気を介さず、シート部材(クッション部)の熱伝導を利用して乗員を冷却することができる。
【0070】
さらにまた、シート用熱交換部として図7に示すブラインチューブ52を用いるとともに、さらに、図6のようにシート内送風機6および通風路7、吹出口8a、8bを併用する形態としてもよい。この場合には、着座面近くに埋設されたブラインチューブ52の近傍に着座面吹出口8a、8bを形成することにより、熱伝導による冷却と送風空気による冷却を共に利用することができる。
【0071】
また、上記第1および第2実施形態では、冷温熱発生源および熱交換部として、各シートSそれぞれにペルチェ素子を個別に設ける例を示したが、これに限らず、シート毎に設けたシート用熱交換部と、複数のシート用熱交換部に1つの共用型冷温熱発生源(小型冷凍サイクルまたはブライン熱交換容器)とにより構成してもよい。
【0072】
さらにまた、冷温熱発生源として冷凍回路(小型冷凍サイクル回路やブライン回路)を用いる場合には蓄熱容器を備えてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0073】
【図1】第1実施形態の車両用シート空調装置の概略構成を示す図である。
【図2】第1実施形態のシート空調ECUにて実行される制御ルーチンのフローチャートである。
【図3】シート空調の仮目標値を示す図表である。
【図4】エバ後空気温Teと推定された内気露点温度Tdpとの関係を示す線図である。
【図5】(A)、(B)、(C)は、第2実施形態における内気露点温度の補正値Δの特性線図である。
【図6】他の実施形態のシート用熱交換部の構成を示す図である。
【図7】他の実施形態のシート用熱交換部の構成を示す図である。
【符号の説明】
【0074】
1…車室内空調装置、1a…エバポレータ(空調用熱交換器)、2…エアコンECU、
3a…エバ後空気温センサ(エバ後空気温センサ、熱交換器後空気温度検出器)、
3b…内気温センサ、4…エアコンパネル、5…ペルチェ素子(シート用熱交換部)、
6…シート内送風機、7…通風路、8a、8b…着座面吹出口、
9…シート用熱交換部温度センサ、10…シート空調ECU。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車室内の空気温度を調節する車室内空調装置(1)が備える前記車室内の空気を冷却する空調用熱交換器(1a)において、前記空調用熱交換器の下流側の空気温度を代表する物理量(Te)を検出する熱交換器後空気温度検出器(3a)と、
前記車室内のシート(S)内またはシート近傍に配置され、シート部材を冷却するシート用熱交換部(5、50、52)と、
前記シート用熱交換部の温度を制御するシート用熱交換部制御装置(10)と、
前記熱交換器後空気温度検出器により検出された検出値に基づき前記車室内の空気の露点(Tdp)を推定する内気露点推定手段(11)と、
前記シート用熱交換部の目標温度(Tse0)を、前記推定された内気露点を下回らないように下限設定する目標温度設定手段(12)と、
を備えることを特徴とする車両用シート空調装置。
【請求項2】
前記空調用熱交換器はエバポレータ(1a)であるとともに、前記熱交換器後空気温度検出器は、エバポレータ後空気温度センサ(3a)であることを特徴とする請求項1に記載の車両用シート空調装置。
【請求項3】
前記内気露点推定手段は、前記空気の露点を、前記熱交換器後空気温度検出器により検出された物理量に応じた前記空気温度に等しいものと推定することを特徴とする請求項1または2に記載の車両用シート空調装置。
【請求項4】
前記内気露点推定手段は、前記空気の露点を、前記熱交換器後空気温度検出器により検出された物理量に応じた前記空気温度に所定の補正値(Δ)を加算した値として推定することを特徴とする請求項1または2に記載の車両用シート空調装置。
【請求項5】
前記補正値は、前記車室内空調装置の起動後の時間経過とともに小さくなる値であることを特徴とする請求項4に記載の車両用シート空調装置。
【請求項6】
前記車室内の空気温度を検出する内気温センサを備え、
前記補正値は、前記車室内の空気温度が高いほど大きい値として設定されることを特徴とする請求項4に記載の車両用シート空調装置。
【請求項7】
前記補正値は、前記空調用熱交換器の目標温度として設定される目標エバ後温度(TEO)と前記熱交換器後空気温度検出器により検出された物理量に応じた前記空気温度との偏差が大きいほど大きくなるよう設定されている値であることを特徴とする請求項4に記載の車両用シート空調装置。
【請求項8】
前記目標温度設定手段は、乗員により設定された設定値(A)に応じて仮目標温度(Tse1)を設定するとともに、前記推定された車室内の空気の露点と前記仮目標温度とのいずれか大きい方の温度を前記目標温度として設定することを特徴とする請求項1ないし7のいずれか1つに記載の車両用シート空等装置。
【請求項9】
前記シート用熱交換部は、ペルチェ素子(5)であることを特徴とする請求項1ないし8のいずれか1つに記載の車両用シート空調装置。
【請求項10】
前記シート用熱交換部は、冷凍サイクルの熱交換部(50)であることを特徴とする請求項1ないし8のいずれか1つに記載の車両用シート空調装置。
【請求項11】
前記シート用熱交換部は、ブラインチューブ(52)であることを特徴とする請求項1ないし8のいずれか1つに記載の車両用シート空調装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate


【公開番号】特開2006−1392(P2006−1392A)
【公開日】平成18年1月5日(2006.1.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−179242(P2004−179242)
【出願日】平成16年6月17日(2004.6.17)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【Fターム(参考)】