説明

車両用シート装置

【課題】スイッチで電動モータを作動させ、そのことによって、シートバック4が前倒状態から所定の起立状態に起きあがると、スイッチがオンにされたままであっても、電動モータが直ちに停止し、シートバック4が当該起立状態に保持されるようにする。
【解決手段】 シートバック4が所定の起立状態になると、該シートバック4を当該起立状態に保持するように作動するロック部材と、このロック部材の作動に伴って回動するレバー46とを備え、このレバー46によってスイッチ42を作動させて電動モータの駆動回路を開成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両用シート装置に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車等の車両の室内構造に関し、前後に並ぶ複数列のシートのうちの最後列シートのシートバックによって乗員室と車室後部の荷室とを仕切ること、そして、そのシートバックを前に倒してシートクッションに折り重ね、そのシートバックの上を荷物置きスペースとすること、すなわち、荷室空間を乗員室側に拡大できるようにすることは一般に知られている(特許文献1参照)。
【0003】
また、車両のシートに関し、シートバックのシートクッションへの折り畳みと起立状態への復帰とを共に電動モータによって行なうという提案も一般に知られている(特許文献2参照)。この提案では、シートバックの折り畳み完了及び展開(起立)完了をそれぞれリミットスイッチで検出して電動モータを停止させるようになっている。さらに、シートバックをシートクッションに折り重ねた状態でシート全体をシート背部の格納部に格納できるようにするとともに、その格納及び復帰を電動モータによって行なうこと、そのためにオフ側に自動復帰する操作スイッチをシート後方(荷室)に配置するという提案も知られている(特許文献3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2001−239870号公報
【特許文献2】特開2005−41406号公報
【特許文献3】特開2004−249962号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、シートバックを前倒状態から起立させる場合、上述の如く電動モータを採用すると、利用者の負担軽減になる。その場合、当該シート背部の荷室等に自動復帰型の操作スイッチを配置し、該操作スイッチを押しているときのみ電動モータが作動するようにすることが考えられる。
【0006】
しかし、自動復帰型の操作スイッチを採用するということは、シートバックをどの位置まで起立させるかの判断が利用者に委ねられるということである。そのため、そのシートの座り心地としてはこの程度の起立角度で良いだろうと判断して、電動モータを停止させてシートバックを起立状態にしても、実際には良くなかったということになりやすい。例えば、シートバックが直立状態になり過ぎて座り心地が悪い、或いは後方に傾き過ぎて座り心地が悪く、しかもシートバック背部の荷室スペースが狭くなった、ということを生ずる。
【0007】
これに対して、シートバックを所定の起立位置で停止させるための目印を設けておいて、その目印でシートバックの起立位置を確認しながら、操作スイッチをオフにすることも考えられる。しかし、その場合でも、操作スイッチから手を離すのが早すぎたり、或いは遅れて、シートバックを所望の起立位置に確実に停止させることができない、という問題がある。
【0008】
また、シートバックを所定の起立位置に停止させるストッパを設け、シートバックの起立動がストッパによって停止され、電動モータに過電流が流れたことを検出して該電動モータへの通電を遮断することも考えられる。しかし、シートバックがストッパに当たって電動モータが停止するまでに、シートバックやストッパ等に大きな力が加わり、当該シート装置が壊れやすくなる。また、そのために、ストッパやシートバックの一部を補強することも考えられるが、こうした補強により、車体重量が増大してしまう。
【0009】
そこで、本発明は、シートバックを起立させるときに、安全を確認しながらその起立操作を行なうことができるようにし、しかも適切な起立状態に位置付けることができるようにすることを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、このような課題を解決するために、自動復帰型の操作スイッチと、シートバックの起立動を強制的に停止させる手段とを組み合わせた。
【0011】
請求項1に係る発明は、シートクッションの後端部近傍を中心として回動して、所定の起立状態、及びシートクッション側に傾き又は倒れて折り重なった前倒状態にそれぞれ移行可能なシートバックを備え、荷室に隣接してその車両前方側に設置される車両用シート装置において、
上記シートクッションの後端部近傍を中心として上記シートバックを回動させる電動モータと、
上記シートバックに設けられた第1係合部材と、
上記シートクッション又は車体に設けられ、上記第1係合部材と係合して上記シートバックの姿勢を保持する第2係合部材と、
上記シートバックが上記所定の起立状態にあるときには上記第1係合部材と第2係合部材とを係合させる第1形態となり、上記シートバックが上記前倒状態にあるときには上記両係合部材同士の係合を解除する第2形態となる係合・解除機構と、
上記電動モータを作動させる駆動回路とを備え、
上記駆動回路は、
上記荷室の側壁に配置され、オン操作されることにより上記シートバックが上記前倒状態から起きていくように上記電動モータを作動させる常時オフ側に付勢された自動復帰型の操作スイッチと、
上記係合・解除機構が上記第1形態になったときに上記駆動回路による上記電動モータへの通電を遮断したオフ状態になり、該係合・解除機構が上記第2形態になったときに上記駆動回路による上記電動モータへの通電を許容するオン状態になるスイッチとを備えていることを特徴とする。
【0012】
従って、係合・解除機構が第2形態となると、第1係合部材と第2係合部材との係合が解除されるから、シートバックの前倒が可能になる。この第2形態のときはスイッチがオン状態になって駆動回路による電動モータへの通電を許容するから、車両用シート後方の荷室側壁に配置された自動復帰型の操作スイッチの操作によって電動モータを作動させることにより、前倒状態にあるシートバックを起こしていくことができる。よって、利用者は、操作スイッチのオン操作により、労力をかけることなく、そして、安全を確認しながらシートバックを前倒状態から起こしていくことができる。すなわち、電動モータによるシートバックの起立途中で該シートバックと車体側壁との間に物体が挟まれそうになったり、或いは荷室の荷物にシートバックが当たって荷物が壊れそうになったときに、操作スイッチから手を離してオフにすることにより、シートバックを起立途中で停止させてトラブルを避けることができる。
【0013】
そうして、シートバックが前倒状態から所定の起立状態に移行すると、係合・解除機構は第1係合部材と第2係合部材とを係合させた第1形態となり、スイッチはオフ状態になって駆動回路による電動モータへの通電を遮断する。よって、操作スイッチのオン操作を継続していても、上記通電の遮断により、電動モータからはトルクが出力されなくなる。一方、上述の如く第1係合部材と第2係合部材との係合により、シートバックは所定の起立位置に確実保持される。よって、シートバックが予定よりも直立に近い状態になっていたり、或いは後方へ倒れ過ぎていたりすることがなくなるから、座り心地が悪くなることが避けられる。また、シートバック背部の荷物収容スペースが過度に狭くなってしまうことも避けられる。さらに、電動モータのトルクによって当該車両用シートを傷めることも避けられる。
【0014】
請求項2に係る発明は、請求項1において、
上記シートバックを前に倒れるように付勢する付勢手段を有し、
上記シートバックは上記付勢手段の付勢によって上記前倒状態に移行するものであり、
上記シートバックが上記起立状態から上記前倒状態へ移行するのに要する時間が、上記シートバックを上記前倒状態から上記起立状態へ移行させるに要する時間よりも短いことを特徴とする。
【0015】
従って、利用者は、シートバックを付勢手段の付勢のみによって早く、しかも確実に前に倒すことができ、シートバックの前倒に労力をかけなくてもよくなる。
【0016】
請求項3に係る発明は、請求項1又は請求項2において、上記係合・解除機構は、
上記第1係合部材及び第2係合部材のうちの一方に接触し該一方の係合部材を他方の係合部材に係合させた作動位置と、該係合を解除させた解除位置とに移動する機構部材と、
上記機構部材を上記作動位置になるように付勢する付勢手段と、
上記機構部材に操作力伝達部材を介して繋がれて該機構部材より離れた位置に設けられ、上記第1係合部材と第2係合部材との係合が解除されるように上記機構部材を上記付勢に抗して解除位置に移動させる解除操作部材とを備え、
上記スイッチは、上記機構部材が上記作動位置に移動したときにその動きを直接受けてオフ状態となり、上記機構部材が上記解除位置に移動したときにオン状態になることを特徴とする。
【0017】
すなわち、第1係合部材と第2係合部材との係合及びその解除は、機構部材の作動位置及び解除位置への移動が直接反映されたものである。そして、この機構部材の動きを直接受けてスイッチは電動モータへの通電を遮断したオフ状態及びその通電を許容したオン状態に変化する。
【0018】
このように、スイッチのオン・オフには、第1係合部材と第2係合部材との係合及びその解除が直接反映される。そのため、操作スイッチの操作によってシートバックが所定の起立状態になって第1係合部材と第2係合部材とが係合し、シートバックの当該起立状態が保持されたときは、同時にスイッチが確実にオフになって電動モータへの通電が遮断されることになる。よって、シートバックが所定の起立状態に保持されたにも拘わらず、電動モータが作動したままになって当該シート装置に過負荷が加わることが避けられる。或いはシートバックが所定の起立状態に保持される前に電動モータが停止してシートバックを所定の起立状態にできない、或いはシートバックを上記両係合部材で確実に保持できない、という不具合が避けられる。
【0019】
請求項4に係る発明は、請求項3において、
上記シートバックは、更に上記起立状態よりも後方へ傾き又は倒れた後倒状態にも移行可能に設けられ、
上記第1係合部材は、上記シートバックと共に回動するように該シートバックの回動中心と同心に設けられ、
上記機構部材は上記第2係合部材に当接し、
上記シートバックと共に上記第1係合部材が回動することにより、上記第2係合部材の上記第1係合部材に対する係合位置が選択的に変えられて、上記シートバックの後傾角度が変更されることを特徴とする。
【0020】
従って、解除操作部材の操作によって機構部材を解除位置に移動させると、第1係合部材と第2係合部材との係合が解除されるから、シートバックを前後に回動させることができる。そして、解除操作部材の操作を解除すると、機構部材が付勢手段によって作動位置に移動して上記両係合部材が係合した状態になるから、第2係合部材の第1係合部材に対する係合位置を適宜変更して、シートバックの後傾角度を変えることができる。すなわち、連動スイッチをオン・オフする機構部材は、上記両係合部材と共にシートバックのリクライニング機構を構成するものであり、本発明によれば、このリクライニング機構を利用して電動モータの通電制御を行なうことができ、シート装置の構造が簡単になる。
【発明の効果】
【0021】
以上のように、請求項1に係る発明によれば、シートバックを回動させる電動モータと、互いに係合してシートバックの姿勢を保持する第1及び第2の両係合部材と、シートバックが起立状態にあるときには上記両係合部材同士を係合させる第1形態となり、シートバックが前倒状態にあるときには上記両係合部材同士の係合を解除する第2形態となる係合・解除機構とを備え、上記電動モータの駆動回路に、シートバックが前倒状態から起きていくように電動モータを作動させる自動復帰型の操作スイッチと、上記係合・解除機構が上記第1形態になったときに電動モータへの通電を遮断したオフ状態になり、該係合・解除機構が上記第2形態になったときに電動モータへの通電を許容するオン状態になるスイッチとを設け、上記操作スイッチをシート後方の荷室の側壁に配置したから、利用者は、操作スイッチの操作により、労力をかけることなく、そして、安全を確認しながらシートバックを前倒状態から起こしていくことができるとともに、シートバックが所定の起立位置になったときに電動モータを停止させることができ、シートの座り心地が悪くなることが避けられ、或いはシートバック背部の荷物収容スペースが過度に狭くなることが避けられ、しかも当該シート装置に電動モータのトルクによって過大な負荷が加わることが防止される。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明に係るシートを備えた車両後部の一部を示す側面図である。
【図2】後側シートのシートバックを前に倒した状態の図1と同様の図である。
【図3】上記後側シートのフレーム構造を示す斜視図である。
【図4】上記後側シートのシートバック起立用電動モータの駆動回路図である。
【図5】上記後側シートのナックル部分を示す斜視図である。
【図6】上記シートバックを起立状態に保持した状態での上記ナックルと連動スイッチとの関係を示す正面図である。
【図7】上記シートバックの保持を解除した状態の図6と同様の図である。
【図8】上記シートバックの起立状態及び前倒状態でのナックルレバーと連動スイッチとの関係を示す側面図である。
【図9】上記シートバックの起立状態及び前倒状態での、図8と同様の関係を示す図である。
【図10】上記シートバックの起立機構部をシートバック起立状態で示す斜視図である。
【図11】上記起立機構部をシートバック起立状態で示す側面図である。
【図12】上記起立機構部をシートバック起立状態において操作紐が引かれたときの状態を示す側面図である。
【図13】シートバック前倒途中の上記起立機構部を示す側面図である。
【図14】シートバックが前倒した状態の上記起立機構部を示す側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
【0024】
図1は前後方向に配設された3列のシートを有する車両(自動車)の後部を示す。すなわち、同図には中間シート1と後側シート2が図示され、運転席を有する前側シートの図示は省略している。後側シート2のシートバック4を起立させた状態では、該シートバック4の背部が荷室5になっている。すなわち、起立したシートバック4によって車室が前側の乗員室と後側の荷室5とに仕切られた状態である。荷作業は車両背面のバックドア6を開けて車両後方から行なうことができる。また、中間シート1の側方(車幅方向の外側)には、サイドドアが設けられ、該サイドドアを開けて中間シート1及び後側シート2への乗降を可能としている。
【0025】
中間シート1は、フロアに固定されたシートクッション11の後端にシートバック12がリクライニング可能に設けられたものである。
【0026】
後側シート2もシートクッション3とシートバック4とを備えてなるが、中間シート1とはその構成が異なる。
【0027】
すなわち、シートクッション3は、その前部がフロアにリンク13によって昇降自在に支持されている。一方、シートバック4はその下端がフロアに固定のブラケット14に枢支ピン15によって回動自在に支持されている。さらに、シートクッション3の後端とシートバック4の下端とは枢支ピン16によって連結されている。この枢支ピン15,16及びリンク13の両端の枢支ピンはいずれも車幅方向に水平に設けられている。
【0028】
これにより、シートバック4を前に倒すと、図2に示すように、シートクッション3はシートバック4によって前に押され、リンク13が前に倒れてシートクッション3は低位置になり、その上にシートバック4が折り重なった前倒状態になる。シートバック4を起こすと、シートクッション3は、シートバック4に引かれ、リンク13が立ち上がることにより、高位置になる(図1参照)。
【0029】
そうして、後側シート2のシートバック4は、後述の保持機構で保持された所定の起立状態(例えば鉛直線よりも後方へ15度〜25度傾斜した状態)より、後述の前倒付勢手段によって前に倒すことができ、また、後述の電動モータ部によって前倒状態から上記所定の起立状態に起こすことができ、さらに後方へ適宜リクライニングできるようになっている。また、シートバック4の前面側と後面側とには、上記保持機構による保持の解除等を操作をするための操作部材として操作紐7,7が設けられている。さらに、荷室5の側壁には上記電動モータ部をオン操作する常時オフ側に付勢された自動復帰型の操作スイッチ8が設けられている。
【0030】
荷室5のフロアには下方へ窪んだタイヤ収容凹部17が形成され、該凹部17にスペアタイヤ18を収容できるようになっている。この収容凹部17の前部は後側シート2の後部によって覆われ、収容凹部17の後部はサブトランク19によって覆われている。サブトランク19内には例えば小物を収容することができる。後側シート2のシートバック4を倒してシートクッション3に折り重ねたとき、図2に示すように、サブトランク19の上面とシートバック4の背面とが略面一になるようにされている。この場合、倒れたシートバック4の背面上にも荷物を載せることができ、荷室5が乗員室側に拡大した状態になる。すなわち、車室は、中間シート1のシートバック12によって前側の乗員室と後側の荷室5とに仕切られた状態になる。
【0031】
<後側シートの構造>
図3には後側シート2のフレーム構造及び車体フロアへの取付構造が示されている。当該車両は左右2つの独立した後側シート2を備えており、それぞれ、後述する本発明に係る機能を有しているため、以下では、主に、前方から見て右側シートについて詳述する。同図において、21はシートクッション3のフレームであり、スプリング22等が設けられている。このクッションフレーム21の前部と、前後方向に延びフロアに固定される前後フレーム23とがリンク13によって連結されている。クッションフレーム21にはクッション体(図示省略)が取り付けられる。
【0032】
また、図3において、25はシートバック4のフレームであり、車幅方向に延びフロアに固定される車幅フレーム26に前後回動自在に支持されている。すなわち、車幅フレーム26にブラケット14(図3では図示省略)が固定され、このブラケット14にシートバックフレーム25の下端が枢支ピン15(図3では図示省略)によって連結されている。シートクッションフレーム21の後端の立ち上がった部分と、シートバックフレーム25の上記枢支ピン15よりも上方に位置する部位とが枢支ピン16によって連結されている。
【0033】
具体的な図示は省略しているが、左右の後側シート2各々のシートバック4の枢支部には、該シートバック4を前に倒すように付勢する前倒付勢手段として巻きバネが設けられている。そうして、シートバック4の両側の枢支部のうち車体中央側の枢支部には、シートバック4を所定の起立状態及び後方へ傾け又は倒した後倒状態に保持する保持機構としてのナックル31が設けられている。なお、図3では右席側をナックルがカバー32で覆われた状態で描かれ、ナックル自体の図示は省略している。一方、シートバック4の両側の枢支部のうち車体側壁側の枢支部近傍には、シートバック4を前に傾き又は倒れた前倒状態から所定の起立状態に起こすための減速機付き電動モータ(界磁を永久磁石で発生させるタイプで直流を入力とする直流電動機や同期電動機)33が設けられている。
【0034】
また、シートバック4には、操作紐7の操作力を中継してナックル31及び電動モータ33側の係合・解除手段の各々に分岐させて伝達する中継部材34が設けられている。中継部材34には、操作紐7の引きを戻す方向に付勢する付勢手段が設けられている。係合・解除手段については後に説明する。また、シートバック4のフレーム25の背面には、該シートバック4をシートクッション3に折り重なるように前に倒したときに、平坦な荷物置き面を形成するための平坦な荷物置きプレート35が固定されている。
【0035】
<電動モータの駆動回路>
図4に示すように、左右の後側シートの電動モータ33はバリスタ及びサーキットブレーカを内蔵するものであり、各々の駆動回路41には上述の自動復帰型操作スイッチ8、強制遮断手段としてのナックル連動スイッチ42及びヒューズ43が設けられている。連動スイッチ42は、ナックル31がシートバック4を保持した状態であるときにオフ(当該駆動回路41を開成した状態)になっていて、その他の状態のときは後述のナックルレバーによりオン状態に、すなわち、操作スイッチ8をオンにすると電動モータ33に通電される状態(電動モータ33への通電を許容する状態)になるものである。
【0036】
<ナックル及び連動スイッチ>
図5に示すように、ナックル31のカバー45には、シートバック4の回動中心と同心に設けられた機構部材としてのナックルレバー46と、上記連動スイッチ42とが設けられている。ナックルレバー46には上記中継部材34より延びる第1ケーブル47が連結されている。連動スイッチ42は、ナックルレバー46の動きを直接受けてオン・オフの切換えがなされるように、該ナックルレバー46に近接して配置されている。
【0037】
以下、具体的に説明すると、図6及び図7にナックル31と連動スイッチ42との関係が示されている。なお、図6及び図7ではナックルレバー46を模式的に表している。ナックル31は、シートバック4にその回動中心と同心にして固定された内歯車(第1係合部材)51と、該内歯車51の内側に配置された一対のロック部材(第2係合部材)52と、ロック部材52を駆動するカム部材53とを備えている。このカム部材53にナックルレバー46が結合されており、このナックルレバー46とカム部材53とによって、係合・解除機構の機構部材が構成されている。
【0038】
内歯車51は、リング部材の内周面にその軸心(シートバック4の回動中心と同じ)を挟んで相対向するように形成された一対の内歯54を備えている。この内歯車51の両内歯54の間は内歯54の歯先面よりも高くなった(内径が小さくなるように隆起した)隆起面55に形成されている。
【0039】
一対のロック部材52は、上記軸心を挟んで相対する位置に設けられ、外側を向いた面には内歯54に係合する(噛み合う)ロック歯56が形成されている。この両ロック部材52は、内歯車51の径方向に移動自在になるように車体側(又はシートクッション側。以下、「車体側」というシートクッション側であってもよいことを意味する。)に支持されていて、且つ内歯54との係合が解除する方向に、すなわち、軸心側に移動するように付勢手段(図示省略)で付勢されている。このロック部材52が内歯車51の内歯54に係合することにより、シートバック4は車体側に対して所定の起立状態又は後倒状態に保持されたロック状態となる。つまり、シートバック4は前倒付勢手段(巻きバネ)の付勢に抗して起立又は後倒状態に保持される。ロック部材52の係合が解除されると、シートバック4は車体側に対して回動自在になり、その結果、前倒付勢手段の付勢により、前に倒れることになる。
【0040】
カム部材53は、一対のロック部材52の間に配設されていて、上記軸心周りに回動自在に設けられている。このカム部材53の周面には、上記軸心を挟んで相対する一対の係合面57と、同じく上記軸心挟んで相対する一対の解除面58とが周方向に相隣るように形成されている。図6に示すように、カム部材53が回動して一対の係合面57が両ロック部材52の内側(軸心側)を向いた面に当接するとき(第1形態)、該両ロック部材52は上記付勢に抗して外側へ移動して内歯54と係合したシートバックロック状態になる。一方、一対の解除面58は係合面57よりも上記軸心からの距離が短い。従って、カム部材53が回動して、図7に示すように、両解除面58が両ロック部材52の内側(軸心側)を向いた面に当接するとき(第2形態)、両ロック部材52は上記付勢によって内側へ移動し内歯54との係合を解除したシートバック解除状態になる。
【0041】
ナックルレバー46及びカム部材53は、係合面57がロック部材52に当接しロック部材52が内歯54に係合してシートバック4を車体側に保持した第1形態(図6参照)になるように、その回動方向が付勢手段59によって付勢されている。従って、ナックルレバー46が操作紐7により第1ケーブル47を介して引かれると、図7に示すように、カム部材53が回動して解除面58がロック部材52の内側を向いた面に当接した第2形態(シートバック解除状態)になる。
【0042】
本実施形態では、上述の操作紐7、中継部材34、第1ケーブル47、ナックルレバー46、カム部材53及び付勢手段59によって係合・解除手段が構成されている。
【0043】
そうして、連動スイッチ42は、図6に示すように、ナックルレバー46が上記第1形態(シートバックロック状態)にあるときに、ナックルレバー46が接触してオフ状態となるように配置されている。図7に示すように、ナックルレバー46がシートバック解除位置に移動して連動スイッチ42から離れる(第2形態になる)と、該連動スイッチ42はオン状態になる。
【0044】
図8にはシートバック4が起立した状態を実線で表し、前に倒れた状態を2点鎖線で表している。上述の所定の起立状態では、連動スイッチ42はナックルレバー46の接触によりオフ状態になっている。ナックルレバー46が操作紐7によって引かれると、ロック部材52がシートバック解除状態になるとともに、ナックルレバー46が連動スイッチ42から離れ、該連動スイッチ42はオン状態になる。
【0045】
この状態で図8に2点鎖線で示すように、シートバック4が前倒付勢手段(巻きバネ)の付勢によって前に倒れていくと、同時に内歯車51が図7に示すようにシートバック4と共に矢符A方向に回動するから、ロック部材52は内歯車51の隆起面55に乗り上げた状態になる。この状態は、ロック部材52がカム部材53を付勢手段59の付勢に抗してシートバックロック状態に戻ることを阻止した状態である。従って、操作紐7による牽引が解除されても、連動スイッチ42はオン状態を保つことになる。
【0046】
この実施形態では、シートバック4を所定の起立状態にしたときに、ロック部材52のロック歯56が内歯車51の内歯54に対し、隆起面55に隣接する位置において相対して噛み合うように、内歯車51とロック部材52との位置関係を設定している。さらに、上記シートバック解除状態において、該シートバック4が前に倒れシートクッション3に折り重なった完全前倒状態になっても、ロック部材52のロック歯56が隆起面55に相対し、内歯54には噛み合わないように、隆起面55の範囲を設定している。従って、図8に2点鎖線で示すように、シートバック4が完全前倒状態になっても、連動スイッチ42はオン状態(電動モータ33への通電を許容する状態)を保つ。
【0047】
よって、操作スイッチ8をオンにすると、電動モータ33が起動してシートバック4が起きあがっていく。そして、シートバック4が所定の起立状態になると、ロック部材52のロック歯56が内歯車51の内歯54に噛み合って、シートバック4がその所定の起立状態に保持されると同時に、連動スイッチ42がオフ状態になり、電動モータ33は通電が途絶えて停止する、つまり、トルクを発生しなくなる。
【0048】
また、図9に1点鎖線で示すように、シートバック4が所定の起立状態にあるとき、操作紐7が引かれてシートバック解除状態にされると、シートバック4を上述の前倒付勢手段の付勢に抗して後へ押すことにより、実線で示すように後方へ倒すことができる。そして、操作紐7の引きを解除すると、カム部材53が付勢手段59の付勢により回転して、ロック部材52が内歯車51の内歯54に噛み合うことにより、シートバック4は後方へ適宜の角度倒れた状態に保持される。内歯車51の内歯54は、シートバック4を所定の起立状態から後方へ略水平になるように倒れた状態までの、適宜の角度で保持できるように、内歯車周方向の所定範囲に設けられている。また、シートバック4を後方へ適宜の角度倒してロック部材52により保持した状態は、ナックルレバー46が付勢手段59の付勢によって回転し連動スイッチ42に接触した状態である(図9の実線状態)。従って、連動スイッチ42はオフ状態にあるから、操作スイッチ8がオンにされても、電動モータ33は起動されない。
【0049】
<電動モータによるシートバック起立機構>
図10に示すように、後側シート2のシートバックフレーム25にはモータ支持部材61が固定され、該モータ支持部材61に電動モータ33が支持されている。また、この支持部材61には、電動モータ33の出力軸によって回転される駆動ギヤ62が軸心を車幅方向にして支持されている。図11に示すように、駆動ギヤ62は、電動モータ33の出力軸に結合されたウォーム63を介して回転駆動されるものである。尚、電動モータ33とウォーム63とを合わせて電動モータ部と称すが、本発明では、駆動ギヤ62がウォームを介さずに電動モータ33のみで駆動される場合を含む。一方、車体フロアに固定された支持ブラケット64には、被動ギヤ65が後側シート2のシートバック4の回動中心と同心にして回転自在に支持されている。この被動ギヤ65に駆動ギヤ62が噛み合っている。
【0050】
被動ギヤ65には、該被動ギヤ65と共に回転する係合ギヤ66が一体に設けられている。一方、支持ブラケット64には係合ギヤ66に係合可能なフック部材67が車幅方向の支軸68により回動自在に支持されている。但し、このフック部材67は、付勢手段(バネ)69によって、係合ギヤ66に係合する方向へ回動するように付勢されている。また、モータ支持部材61には、解除レバー71が車幅方向の支軸72によって回動自在に支持されている。解除レバー71は、フック部材67の係合ギヤ66に対する係合を、上記付勢手段69の付勢に抗して解除するものである。この場合、係合ギヤ66とフック部材67とが、被動ギヤ65がシートバック4と共に回転することを阻止するクラッチを構成している。
【0051】
係合ギヤ66には、フック部材67の先端フック73が係合する複数の係合歯74が周方向に所定のピッチで形成されている。係合歯74の歯面(係合面)は、被動ギヤ65の軸心と平行であってシートバック前倒時の回転方向前方を向き、且つ被動ギヤ65の略径方向に広がっている。また、この係合歯74の配設ピッチは、シートバック4が上記所定の起立状態から完全前倒状態になるまでに回転する前倒角度(100〜115度)よりも若干大きい120度に設定している。従って、本例では係合歯74は3つ設けられている。なお、係合歯74は1つであっても、2つであってもよい。
【0052】
従って、フック部材67のフック73が係合ギヤ66の係合歯74に係合すると、被動ギヤ65はシートバック前倒方向へは回転できなくなる。よって、シートバック4が前倒状態にあるとき、フック部材67を上記係合状態にして電動モータ33を起動し、駆動ギヤ62をシートバック起立方向に回転させると、フック部材67によって回転を阻止された被動ギヤ65によって駆動ギヤ62の回転反力が受けられる。これにより、駆動ギヤ62が回転しながら被動ギヤ65の回りをシートバック回転方向に移動していくことで、つまり、駆動ギヤ62と被動ギヤ65との噛み合い位置が変わっていくことで、シートバック4は起きあがっていく。すなわち、電動モータ33のトルクが駆動ギヤ62及び被動ギヤ65を介して車体側に伝わることで、シートバックが起きあがっていく。
【0053】
本実施形態では、電動モータ33は、シートバック4を完全前倒状態から上記所定の起立状態へ移行させるに要する時間が7秒以下になるように(好ましくは3〜4秒になるように)設定されている。また、上記前倒付勢手段は、シートバック4を上記所定の起立状態から完全前倒状態へ移行させるに要する時間が、シートバック4を完全前倒状態から上記所定の起立状態へ移行させるに要する時間よりも短くなるように設定されている。これにより、安全性を確保しつつ、完全前倒状態と起立状態との間での移行時間を短くして利便性を高めている。
【0054】
<伝達解除手段>
フック部材67には、解除レバー71からの解除力を受ける受け部としてピン76が設けられている。一方、解除レバー71には、フック部材67のピン76に対して係合ギヤ66が存する側から当接するピン当て部77が設けられている。解除レバー71は、付勢手段(バネ)78によってピン当て部77がピン76から離れる方向(係合ギヤ66側)に回動するように付勢されている。そして、この解除レバー71に、先に述べた中継部材34より延び操作紐7に連結された第2ケーブル79が結合されている。すなわち、操作紐7の引き力が第2ケーブル79を介して解除レバー71に伝わり、該解除レバー71が付勢手段78の付勢に抗してフック部材67を回動させる、すなわち、係合ギヤ66に対する係合が解除する方向に回動させるものである。この場合、操作紐7、中継部材34、第2ケーブル79、解除レバー71及び付勢手段78が、クラッチによる被動ギヤ65の回転阻止を解除してシートバック前倒時に電動モータ33が抵抗にならないようにする伝達解除手段を構成している。
【0055】
解除レバー71がフック部材67を係合ギヤ66から離れるように回動させた状態において、シートバック4が所定の起立状態から前倒を開始すると、解除レバー71はシートバック4の回動に伴ってフック部材67から遠ざかる方向に移動する。従って、解除レバー71のピン当て部77がフック部材67のピン76から外れ、フック部材67は係合ギヤ66に係合する方向に復帰することになる。
【0056】
また、係合ギヤ66の周方向に相隣る係合歯74間にはカム面81が形成されている。このカム面81は、シートバック4の前倒中に、係合歯74との係合が解除されたフック部材67のフック73の先端部が上記付勢手段69の付勢によって当接するものである。このカム面81は、フック73を介して上記付勢手段69の付勢力を受け、係合ギヤ66が被動ギヤ65と共にシートバック前倒方向に回転するように促すものである。
【0057】
そのために、カム面81は、各係合歯74の歯面先端(軸心から最も離れた部位)から、シートバック前倒時の回転方向後側に隣る係合歯74の歯面基端(軸心に最も近い部位)へ向かって、半径が漸次短くなるように変化している(傾斜している。)。そして、フック部材67は、上記付勢手段69の付勢力を上記カム面81に対して、上記回転方向前方側において鋭角をなす方向から与えるように設けられている。
【0058】
従って、図11に示すようにシートバック4が所定の起立状態にあるときは、フック部材67が係合ギヤ66の係合歯74に係合している。操作紐7を引くと、図12に示すように、解除レバー71が解除方向に回動し、それに伴って、フック部材67が解除方向に回動して係合ギヤ66の係合歯74から外れる。これにより、被動ギヤ65はフック部材67による車体側への拘束が解除されて、前倒付勢手段としての巻きバネによる付勢を受けるシートバック4と共にシートバック前倒方向に回転することができるようになる。
【0059】
よって、シートバック4が前に倒れるとき、被動ギヤ65がシートバック4と共に前倒方向に回動するようになる。このことは、駆動ギヤ62と被動ギヤ65との噛み合い位置が変化しないこと、つまり、駆動ギヤ62を介して電動モータ33の出力軸をシートバック起立時とは逆方向に回転させる必要がないことを意味する。このため、電動モータ33が外力によって回転されることで発生する逆トルクや、駆動ギヤ62と被動ギヤ65との噛合い、駆動ギヤ62とウォーム63との噛合いなど減速機類の回転抵抗がシートバック前倒に抵抗になることが防止される。
【0060】
また、シートバック4の前倒開始後は、解除レバー71がシートバック4の回動に伴ってフック部材67から遠ざかる方向に移動する。これにより、図13に示すように、解除レバー71のピン当て部77がフック部材67のピン76から外れ、フック部材67はそのフック73が付勢手段69の付勢によって係合ギヤ66のカム面81に当接するようになる。その結果、被動ギヤ65が、シートバック前倒方向に回転するように付勢手段69によって付勢される。このため、被動ギヤ65がシートバック4と共にシートバック前倒方向に確実に回動するようになる。
【0061】
図14に示すように、シートバック4が完全前倒状態になると、フック部材67は係合ギヤ66の当該カム面81の隣の若しくはその次の係合歯74に係合可能な状態となる。従って、電動モータ33を起動すると、駆動ギヤ62が被動ギヤ65を転動することになり、シートバック4を起立させていくことができる。尚、係合歯74の配設ピッチを上述のように120度に設定したことにより、シートバック4の前倒中に電動モータ33が全く回転されない場合には、シートバック4が完全前倒状態になったたときに、フック部材67の先端が隣の係合歯74の直前に位置することになる。よって、電動モータ33の起動時点から、該起動によってフック部材67が隣の係合歯74に係合してシートバック4が起立動を開始する時点までの遅れ時間が短くなり、シートバック4を速やかに起立させる上で有利になる。
【0062】
<後側シートの操作>
以上のような後側シート2を操作するときの各部の働きを説明する。
【0063】
−シートバックの前倒−
シートバック4が所定の起立状態にあるときは、ナックル31では、図6に示すように、ナックルレバー46が付勢手段59の付勢によって下方へ回動した状態にある。そのため、カム部材53の係合面57がロック部材52に当接し、該ロック部材52が内歯車51の内歯54に係合している。これにより、シートバック4は当該起立状態に保持されている。また、ナックルレバー46が連動スイッチ42に接触し(図9の実線状態)、連動スイッチ42はオフ状態にある。よって、操作スイッチ8がオンにされても、電動モータ33は起動されない。一方、電動モータ33による起立機構部では、図11に示すように、フック部材67は係合ギヤ66の係合歯74に係合している。
【0064】
かかる起立状態において、操作紐7を引くと、ナックル31ではナックルレバー46が第1ケーブル47に引かれてカム部材53と共に上方へ回動し、それにより、ロック部材52によるシートバック4の保持が解除される(図7参照)。つまり、シートバック4は前倒付勢手段の付勢によって前に倒れることができるようになる。一方、起立機構部では解除レバー71が第2ケーブル79に引かれ、それにより、フック部材67のフック73が係合ギヤ66の係合歯74から外れ、被動ギヤ65は車体側に対して回転自在になる(図12参照)。
【0065】
よって、シートバック4が前倒付勢手段の付勢によって前に倒れるとき、被動ギヤ65がシートバック4と共にシートバック前倒方向に回転するようになる。従って、電動モータ33の駆動ギヤ62は実質的に回転される必要がなく、電動モータ33がシートバック4の前倒の抵抗になることが避けられる。また、本実施形態のように電動モータ33の出力軸にウォーム63を結合すると、駆動ギヤ62の逆回転によってウォーム63、つまりは出力軸を回転させることは実質的に不可能になる。このため、シートバック4の前倒に駆動ギヤ62の逆回転を要するとするならば、電動モータ33がシートバック前倒の大きな抵抗になる。しかし、上述の如く、駆動ギヤ62を逆回転させる必要がないから、電動モータ33はシートバック前倒の抵抗になることが避けられる。よって、シートバック4の前倒に際し、大きな力で力添えしなくても、前倒付勢手段の付勢のみによって早く、しかも確実にシートバック4を前に倒すことができ、乗員はシートバック4の前倒に労力をかけなくてもよくなる。
【0066】
シートバック4が上記所定の起立状態からの前倒を開始すると、図13に示すように、解除レバー71がフック部材67から離れることにより、該フック部材67のフック73が付勢手段69の付勢によって係合ギヤ66のカム面81に押し当てられるようになる。これにより、係合ギヤ66に対してシートバック前倒方向に回転する力が付勢手段69によって与えられ、被動ギヤ65のシートバック前倒方向の回転が促される。よって、駆動ギヤ62に逆転方向の回転力が発生すること、すなわち、電動モータ33がシートバック前倒の抵抗になることが避けられる。シートバック4がシートクッション3に折り重なった完全前倒状態になると、図14に示すように、フック部材67は係合ギヤ66の当該カム面81の隣の係合歯74に係合した状態になる。
【0067】
なお、解除レバー71がフック部材67から外れる前に操作紐7の引きを解除したときでも、フック部材67が係合ギヤ66の係合面74から一旦外れ後は、シートバック4の前倒により、フック部材67はカム面81に当接するようになる。
【0068】
一方、ナックル31側では、シートバック4の前倒開始により、図7に示すように、内歯車51がシートバック4と共に回転するから、ロック部材52が内歯車51の隆起面55に乗り上がった状態になる。ロック部材52が隆起面55に乗った状態のまま、シートバック4は上記完全前倒状態になる。従って、シートバック4の前倒途中で操作紐7の引きを解除しても、シートバック4は前倒付勢手段による前倒を継続することになる。また、ロック部材52の隆起面55への乗り上げにより、ナックルレバー46が連動スイッチ42から離れるから、連動スイッチ42はオン状態(操作スイッチ8がオンされると電動モータ33への通電を許容する状態)になり、操作紐7の引きを解除しても、当該オン状態が保たれる。
【0069】
なお、操作紐7の引きを解除したとき、ロック部材52のロック歯56が内歯車51の隆起面55に乗っているから、ナックルレバー46は完全には戻らず、そのため、第1ケーブル47にはたるみができることになる。
【0070】
シートバック4の前倒により、シートクッション3がシートバック4によって前方に押され、図2に示すように、リンク13が前に倒れてシートクッション3は下降し、その上にシートバック4が折り重なった状態になる。これにより、荷室5が乗員室側に拡大し、シートバック4の背面上にも荷物を置くことができるようになる。
【0071】
−シートバックの起立−
シートバック4がシートクッション3の上に折り重なった完全前倒状態においては、上述の如く連動スイッチ42がオン状態になっているから、荷室5の操作スイッチ8を押すと、バッテリからの通電によって電動モータ33が起動する(図4参照)。一方、図14に示すように、完全前倒状態では、フック部材67は係合ギヤ66の係合歯74に係合し、被動ギヤ65はシートバック前倒方向の回転が阻止された状態にある。
【0072】
従って、電動モータ33の起動により、駆動ギヤ62が回転すると、その回転反力が被動ギヤ65で受けられ、駆動ギヤ62は被動ギヤ65の歯部を転動していく。すなわち、シートバック4が起きあがっていく。このシートバック4の起立中は、図7に示すように、ナックル31のロック部材52は内歯車51の隆起面55に乗った状態にあるから、連動スイッチ42はオン状態を保つ。従って、操作スイッチ8を押してオンにしている限り、電動モータ33は作動状態を保つ。
【0073】
シートバック4が図11に示す所定の起立状態になると、図6に示すように、内歯車51の内歯54がロック部材52に対向するようになる。これにより、ロック部材52が内歯54に噛み合って、シートバック4は当該起立状態に保持される。同時に、ナックルレバー46が付勢手段59の付勢によって下方へ回動して連動スイッチ42に接触し、該連動スイッチ42がオフ状態になる。このため、操作スイッチ8が押された状態のままであっても、電動モータ33への通電が連動スイッチ42によって遮断され、該電動モータ33はトルクを発生しない状態になる。
【0074】
このように、操作スイッチ8を押し続けることにより、シートバック4が所定の起立状態まで起こすことができる。そして、シートバック4が所定の起立状態になると、操作スイッチ8を押し続けていても、電動モータ33の作動が停止し、シートバック4は当該起立状態に確実に保持される。よって、乗員がシートバック4を前倒状態から起こすにあたり、シートバック4の起立状態を確認しながら操作スイッチ8を操作する必要がなくなり、後側シート3から離れた荷室5での操作スイッチ8の操作であっても、シートバック4を確実に所定の起立状態にすることができる。すなわち、シートバック4が予定よりも直立に近い状態になっていたり、或いは後方へ倒れ過ぎていたりすることがなくなり、座り心地が悪くなることが避けられ、また、シートバック背部の荷物収容スペースが過度に狭くなってしまうことも避けられる。
【0075】
また、電動モータ33がトルクを発生しなくなるから、シートバック4に、或いはナックル31等に過負荷が作用することが避けられ、後側シート2の耐久性向上に有利になる。
【0076】
また、操作スイッチ8は自動復帰型スイッチであるから、シートバック4の起立途中で操作スイッチ8から手を離すと、電動モータ33への通電が途絶えてシートバック4は起立を停止する。従って、電動モータ33によるシートバック4の起立途中で該シートバック4と車体側壁との間に物体が挟まれそうになったり、或いは荷室5の荷物にシートバック4が当たって荷物が壊れそうになったときに、操作スイッチ8から手を離すことにより、シートバック4を起立途中で停止させてトラブルを避けることができる。すなわち、荷室5において、安全を確認しながらシートバック4を前倒状態から起こしていくことができる。
【0077】
シートバック4の起立途中で電動モータ33を停止させたとき、フック部材67が係合ギヤ66の係合歯74に係合し、被動ギヤ65はシートバック前倒方向の回転が阻止された状態にある。従って、シートバック4は前倒付勢手段の付勢力を受けているものの、電動モータ33が抵抗になって直ちには前に倒れない。また、シートバック4の起立途中で電動モータ33を停止させた後、操作スイッチ8を再度オンにすると、シートバック4を所定の起立状態に起こし、電動モータ33を停止させた状態で該起立状態に保持することができる。
【0078】
また、操作紐7を引いてシートバック4を起立状態から前に倒している途中で操作スイッチ8をオンにした場合は、シートバック4は所定の起立状態に戻る。シートバック4の前倒中は先に述べたように連動スイッチ42はオン状態にあり、操作スイッチ8をオンにすると、電動モータ33に通電されるからである。但し、図13に示すように、前倒中はフック部材67が係合ギヤ66の係合歯74から外れてカム面81に当たっているから、電動モータ33によって駆動ギヤ62が回転してもシートバック4は直ちには起立方向に回動しない。駆動ギヤ62の回転により、被動ギヤ65が係合ギヤ66と共にシートバック前倒方向に回転し、係合ギヤ66の係合歯74がフック部材67に係合して該被動ギヤ65のシートバック前倒方向の回転が阻止された時点から、シートバック4が起きあがっていくことになる。
【0079】
−シートバックの後倒−
シートバック4が所定の起立状態にあるときは、上述の如く連動スイッチ42がオフ状態にある。この状態から、シートバック4を押圧して後傾させるために、操作紐7を引いてナックル31によるシートバック4の保持を解除している最中に、誤って操作スイッチ8がオンにされると、操作紐7の引きによって連動スイッチ42はオンになっているから、電動モータ33は通電されて回転する。しかし、操作紐7が引かれているということは、フック部材67と係合ギヤ66との係合が解除されているということであるから、電動モータ33が作動してもシートバックにはトルクが伝わらない。すなわち、シートバック4は電動モータ33によっては後に倒れることがなく、安全性が高くなる。
【0080】
シートバック4を後に倒すには、操作紐7を引き、シートバック4が前倒付勢手段の付勢によって前に倒れようとする力に抗して、シートバック4を後方へ押すことになる。例えば乗員が着座状態でその背中によってシートバック4を後に押せばよい。そして、シートバック4が適宜の後倒角度になったときに、操作紐7の引きを解除すると、ナックル31のロック部材52が内歯車51の内歯54に係合し、シートバック4は当該後倒角度で保持される。
【0081】
操作紐7を引いた状態では、図12に示すように、フック部材67は係合ギヤ66から離れているから、被動ギヤ65はフック部材67による抵抗を受けることなく、シートバック後倒方向へ回転可能である。よって、被動ギヤ65は駆動ギヤ62との同じ噛合い位置を保ったまま、シートバック4と共に後方へ回転し、電動モータ33がシートバックの後倒の抵抗になることはない。
【0082】
また、解除レバー71は、シートバック4が起立状態にある状態で、ピン76に当接する姿勢になるように、第2ケーブル79によりその姿勢が規制されていて、電動モータ33のトルク伝達抑制手段を構成している。すなわち、シートバック4の後倒により、該シートバック4の後方側への傾斜が大きくなるほど、解除レバー71も全体的に後方へ傾斜するように移動し、これに伴って、フック部材67が後方へ傾いて該フック部材67と係合ギヤ66の係合歯74との係合が解除される。従って、電動モータ33が駆動されても、係合ギヤ66は被動ギヤ65と共に空転(遊転)することになり、シートバック4の後倒が防止される。
【0083】
このような機能により、例えば、乗員のシート着座時において、不測にも操作スイッチ8が操作された状態で、乗員がシートバック4を後倒させるために操作紐7を引いた場合、第2ケーブル等が異常劣化するなどしてフック部材67と係合ギヤ66との係合が解除されなかったとしても、シートバック4の後倒度合が所定度以上になれば(側面視で、シートバック4と水平線とのなす角度が所定角度以下になれば)、シートバック4は後倒しなくなる。或いは、乗員が操作紐7を引いた直後に、上述のような要因で異常な後倒が開始されても、その後、シートバック4の後倒が進んで後倒度合が所定度以上になれば、シートバック4は後倒しなくなる。これにより、荷室の荷物の破損や、シート着座乗員に与える違和感を緩和することができる。尚、上記所定角度は、解除レバーの形状や配置によって変更可能であり、シートバック4が起立状態から後方へ少し傾いただけで、それ以上の後倒を規制すること、すなわち、電動モータ33による後倒を実質的に規制することも可能である。
【0084】
また、シートバック4が後倒状態にあるとき、操作紐7を引いてナックル31によるシートバック4の保持を解除すると、シートバック4は前倒付勢手段の付勢により、後倒状態から起きあがろうとする。この場合も解除レバー71の回動によってフック部材67が係合ギヤ66から外れるから、電動モータ33による抵抗を受けることなく、シートバック4を起こすことができる。そうして、シートバック4が所望の角度まで起きたときに、操作紐7の引きを解除すると、ナックル31のロック部材52が内歯車51の内歯54に係合し、シートバック4は当該角度で保持される。また、操作紐7の引いた状態を継続すると、ナックル31は解除状態のままであるから、シートバック4は上記後倒状態からの前倒を継続する。
【0085】
尚、上述の後側シート2が設置されない車両では、上述の中間シート1に相当するシートに本実施形態の構造を適用するようにしてもよい。
【符号の説明】
【0086】
1 中間シート
2 後側シート
3 シートクッション
4 シートバック
5 荷室
7 操作紐(操作部材)
8 操作スイッチ
31 ナックル(保持機構)
33 電動モータ
41 駆動回路
42 連動スイッチ(強制遮断手段)
46 ナックルレバー(機構部材)
47 第1ケーブル(操作力伝達部材)
51 内歯車(第1係合部材)
52 ロック部材(第2係合部材)
53 カム部材
54 内歯
59 ナックルレバーの付勢手段
62 駆動ギヤ
65 被動ギヤ
66 係合ギヤ(クラッチ)
67 フック部材(クラッチ)
69 フック部材の付勢手段
71 解除レバー(伝達解除手段)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シートクッションの後端部近傍を中心として回動して、所定の起立状態、及びシートクッション側に傾き又は倒れて折り重なった前倒状態にそれぞれ移行可能なシートバックを備え、荷室に隣接してその車両前方側に設置される車両用シート装置において、
上記シートクッションの後端部近傍を中心として上記シートバックを回動させる電動モータと、
上記シートバックに設けられた第1係合部材と、
上記シートクッション又は車体に設けられ、上記第1係合部材と係合して上記シートバックの姿勢を保持する第2係合部材と、
上記シートバックが上記所定の起立状態にあるときには上記第1係合部材と第2係合部材とを係合させる第1形態となり、上記シートバックが上記前倒状態にあるときには上記両係合部材同士の係合を解除する第2形態となる係合・解除機構と、
上記電動モータを作動させる駆動回路とを備え、
上記駆動回路は、
上記荷室の側壁に配置され、オン操作されることにより上記シートバックが上記前倒状態から起きていくように上記電動モータを作動させる常時オフ側に付勢された自動復帰型の操作スイッチと、
上記係合・解除機構が上記第1形態になったときに上記駆動回路による上記電動モータへの通電を遮断したオフ状態になり、該係合・解除機構が上記第2形態になったときに上記駆動回路による上記電動モータへの通電を許容するオン状態になるスイッチとを備えていることを特徴とする車両用シート装置。
【請求項2】
請求項1において、
上記シートバックを前に倒れるように付勢する付勢手段を有し、
上記シートバックは上記付勢手段の付勢によって上記前倒状態に移行するものであり、
上記シートバックが上記起立状態から上記前倒状態へ移行するのに要する時間が、上記シートバックを上記前倒状態から上記起立状態へ移行させるに要する時間よりも短いことを特徴とする車両用シート装置。
【請求項3】
請求項1又は請求項2において、
上記係合・解除機構は、
上記第1係合部材及び第2係合部材のうちの一方に接触し該一方の係合部材を他方の係合部材に係合させた作動位置と、該係合を解除させた解除位置とに移動する機構部材と、
上記機構部材を上記作動位置になるように付勢する付勢手段と、
上記機構部材に操作力伝達部材を介して繋がれて該機構部材より離れた位置に設けられ、上記第1係合部材と第2係合部材との係合が解除されるように上記機構部材を上記付勢に抗して解除位置に移動させる解除操作部材とを備え、
上記スイッチは、上記機構部材が上記作動位置に移動したときにその動きを直接受けてオフ状態となり、上記機構部材が上記解除位置に移動したときにオン状態になることを特徴とする車両用シート装置。
【請求項4】
請求項3において、
上記シートバックは、更に上記起立状態よりも後方へ傾き又は倒れた後倒状態にも移行可能に設けられ、
上記第1係合部材は、上記シートバックと共に回動するように該シートバックの回動中心と同心に設けられ、
上記機構部材は上記第2係合部材に当接し、
上記シートバックと共に上記第1係合部材が回動することにより、上記第2係合部材の上記第1係合部材に対する係合位置が選択的に変えられて、上記シートバックの後傾角度が変更されることを特徴とする車両用シート装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2011−42368(P2011−42368A)
【公開日】平成23年3月3日(2011.3.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−269443(P2010−269443)
【出願日】平成22年12月2日(2010.12.2)
【分割の表示】特願2005−272577(P2005−272577)の分割
【原出願日】平成17年9月20日(2005.9.20)
【出願人】(000003137)マツダ株式会社 (6,115)
【Fターム(参考)】