説明

車両用シート

【課題】前側座席のシート位置を変えても、シートバック背部の物品の保持具の利便性を良好に保てるようにする。
【解決手段】シートバック2の背部2Bに後部側座席の乗員が使用可能な物品(モバイル機器P)の保持具10が配設された車両用シート1である。保持具10は、シートバック2の背部2Bに対し、配設位置の調節を可能とする位置調節機構20を間に介して連結されている。位置調節機構20は、保持具10とシートバック2の背部2Bとの間に介在する本体部21と、本体部21をシートバック2の背部2Bに軸連結して後方側に回動させられるようにする第1のヒンジ部20Aと、保持具10を本体部21に着脱可能に軸連結して高さ方向に首振り運動させられるようにする第2のヒンジ部20Bと、本体部21の中間部21Bを伸縮させられるようにして本体部21の長さを変えられるようにする伸縮部20Cと、を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両用シートに関する。詳しくは、シートバックの背部に後部側座席の乗員が使用可能な物品の保持具が配設された車両用シートに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、車両用シートにおいて、シートバックの背部に収納式のテーブルが配設され、その後部側座席に座る乗員が物置き台として利用できるようになっている技術が知られている(特許文献1)。上記テーブルは、その天板面の長さ(広さ)を変えられるようになっており、物置き台としての利便性が高められた構成となっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2007−276785号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、上記特許文献1に記載の従来技術では、前側座席のシート位置を変えることでテーブルの位置も変わってしまうため、テーブルの利便性が悪くなることがある。したがって、このようなテーブルの技術を、何らかの物品を保持するための保持具として転用した場合にも、同様の問題が生じることとなる。本発明は、上記問題を解決するものとして創案されたものであって、本発明が解決しようとする課題は、前側座席のシート位置を変えても、シートバック背部の物品の保持具の利便性を良好に保てるようにすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するために、本発明の車両用シートは次の手段をとる。
第1の発明は、シートバックの背部に後部側座席の乗員が使用可能な物品の保持具が配設された車両用シートである。保持具は、シートバックの背部に対し、配設位置の調節を可能とする位置調節機構を間に介して連結されている。位置調節機構は、保持具とシートバックの背部との間に介在する本体部と、本体部をシートバックの背部に軸連結して後方側に回動させられるようにする第1のヒンジ部と、保持具を本体部に着脱可能に軸連結して高さ方向に首振り運動させられるようにする第2のヒンジ部と、本体部の上記第1のヒンジ部と第2のヒンジ部との間の中間部を伸縮させられるようにして本体部の長さを変えられるようにする伸縮部と、を有する。
【0006】
この第1の発明によれば、保持具は、位置調節機構によって、シートバックの背部に対する配設位置が調節可能となる。具体的には、第1のヒンジ部において、本体部をシートバックの背部から後方側に回動させることで、保持具を後方移動させることができる。また、第2のヒンジ部において、保持具を本体部に対して首振り運動させれば、保持具の上下の角度向きを変えることができる。また、伸縮部において、本体部の長さを変えれば、保持具の高さ位置や前後位置を変えることができる。このように、位置調節機構によって保持具の配設位置を調節できるようにしたことにより、前側座席のシート位置が変わっても、保持具の利便性を良好に保つことができる。
【0007】
第2の発明は、上述した第1の発明において、上記物品がモバイル機器であり、位置調節機構が、更に、本体部をシートバックの背部にスライド可能に連結して後方側にスライドさせられるようにするスライド連結部を有する構成とされたものである。
【0008】
この第2の発明によれば、位置調節機構にスライド連結部が更に設けられることにより、後部側座席の乗員がモバイル機器を保持具に保持させて画面の閲覧等の使用をする際に、本体部のスライド位置を調節することで、モバイル機器の高さ位置を変えることなく前後位置だけを変える調節を簡便に行うことができる。
【0009】
第3の発明は、上述した第1又は第2の発明において、次の構成となっているものである。すなわち、第2のヒンジ部は、本体部に設定された丸棒部に、保持具に設定された嵌合部が径方向に嵌まり込んで回動可能に軸連結される構成とされている。本体部は、シートバックの背部に形成された凹部内に収納可能とされている。本体部の収納状態では、丸棒部と凹部との間に、嵌合部を丸棒部に向けて後方側から嵌め込み可能な隙間が形成され、本体部の収納状態で保持具を本体部に装着可能とされている。
【0010】
この第3の発明によれば、本体部をシートバック背部の凹部内に収納した状態においても、保持具を本体部に対して着脱することができ、保持具の利便性を更に向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】実施例1の車両用シートの概略を示した斜視図である。
【図2】保持具が本体部から外された状態を示した斜視図である。
【図3】保持具と本体部との連結構造を拡大して示した側面図である。
【図4】保持具を本体部に装着した状態を拡大して示した側面図である。
【図5】図1のV-V線断面図である。
【図6】図5の状態から本体部を後方側にスライドさせた状態を示した断面図である。
【図7】図1のVII-VII線断面図である。
【図8】図7の状態から本体部を伸長させた状態を示した断面図である。
【図9】本体部の収納状態を示した側面図である。
【図10】図9の状態から本体部を後方側に展開回動させた状態を示した側面図である。
【図11】図10の状態から保持具を上向きに角度変化させた状態を示した側面図である。
【図12】図9の状態から本体部を後方側にスライドさせた状態を示した側面図である。
【図13】図12の状態から本体部を後方側に展開回動させた状態を示した側面図である。
【図14】図13の状態から保持具を上向きに角度変化させた状態を示した側面図である。
【図15】図10の状態から本体部を伸張させた状態を示した側面図である。
【図16】図15の状態から保持具を上向きに角度変化させた状態を示した側面図である。
【図17】図12の状態から本体部を伸張させた状態を示した側面図である。
【図18】図17の状態から本体部のスライド位置を前方側に戻した状態を示した側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下に、本発明を実施するための形態について、図面を用いて説明する。
【実施例1】
【0013】
始めに、実施例1の車両用シート1の構成について、図1〜図18を用いて説明する。本実施例の車両用シート1は、図1〜図2に示すように、自動車の助手席シートとして構成されており、着座乗員の背凭れとなるシートバック2と、着座部となるシートクッション3と、を備える。シートバック2は、その上部に、着座乗員の頭部を支えるヘッドレスト2Aが一体的に形成された構成となっている。
【0014】
上記シートバック2の背部2Bには、その後部側座席の乗員がモバイル機器Pを取り付けて保持することのできる着脱式の保持具10(アタッチメント)が配設されている。上記保持具10は、詳しくは、シートバック2の背部2Bに連結された可動式の位置調節機構20の本体部21に取り付けられる構成となっている。ここで、本実施例におけるモバイル機器Pは、いわゆるタブレット型のコンピューターであり、平板状の外形を備え、その表面のモニター部Paに、タッチパネル式などの表示/入力部を備えた構成となっている。上記モバイル機器Pは、その外周部の全周に亘って、スリット状に切り込まれた細溝状の係合溝Pbが形成されている。上記モバイル機器Pは、上記保持具10に上方側から差し込むようにスライドさせることにより、その外周部に形成された両サイドの係合溝Pbが、保持具10に形成された係合爪11Aに係合されて、保持具10に取り付けられて保持されるようになっている。
【0015】
ここで、図2に示すように、上記保持具10は、その平板状に形成された本体板の左右と下側の各周縁部に、後方側に立壁状に張り出すガイド壁11が形成された構成となっている。上記ガイド壁11は、保持具10に差し込まれるモバイル機器Pの左右と下側の各外周面に当てがわれて、モバイル機器Pの外周部をガイドする構成となっている。上記ガイド壁11の内周面には、上述した係合爪11Aが、各立壁の内周面上を横切る形で筋状の形に突出して形成されている。上記係合爪11Aは、上記モバイル機器Pを保持具10に対して上方側からスライドさせて差し込むことにより、モバイル機器Pの左右両サイドの係合溝Pb内にそれぞれ入り込んで係合し、その突出形状に沿ってモバイル機器Pの保持具10へのスライドによる差し込みをガイドすると共に、差し込み後のモバイル機器Pを保持具10から脱落させないように保持する構成となっている。
【0016】
次に、位置調節機構20の構成について説明する。位置調節機構20は、通常時、シートバック2の背部2Bに形成された凹部2C内に収納可能に設けられている(図2参照)。この位置調節機構20は、上述した保持具10が取り付けられるテニスラケットの枠型の本体部21を、所望時に、シートバック2の後方側に倒し込んだり(図10参照)、本体部21に取り付けた保持具10の上下角度を変えたり(図11参照)、本体部21自体をシートバック2の背部2Bから引き出したり(図12参照)、本体部21自体の長さを伸縮させたり(図15参照)することで、保持具10のシート前後方向や高さ方向の配設位置や上下角度をそれぞれ自由に調節できるように機能するものとなっている。
【0017】
具体的には、上記位置調節機構20は、図2に示すように、本体部21の下端側の根本部21Cをシートバック2の背部2Bに軸連結して後方側に回動(図10参照)させられるようにする第1のヒンジ部20Aと、上述した保持具10を本体部21に着脱可能に軸連結して高さ方向に首振り運動(図11参照)させられるようにする第2のヒンジ部20Bと、本体部21の中間部21Bを伸縮(図15)させられるようにする伸縮部20Cと、本体部21をシートバック2の背部2Bにスライド可能に連結して後方側にスライド(図12参照)させられるようにするスライド連結部20Dと、を有する構成となっている。以下、各部の構成について順に詳しく説明する。
【0018】
第1のヒンジ部20Aは、図5に示すように、本体部21の根本部21Cが、シートバック2の背部2Bの凹部2C内に前後スライド可能に配設された後述するスライダ23に、ヒンジピン21C1を介して前後方向に回動可能な状態に軸連結された構成となっている。上記ヒンジピン21C1を介して軸連結されたスライダ23と本体部21の根本部21Cとの間には、これらの間に軸方向の弾発力を付与して摺動時の摩擦抵抗力をかけるブッシュ21C2が介在して設けられている。このブッシュ21C2の弾発力による摩擦抵抗力により、本体部21は、そのシートバック2の背部2B(スライダ23)に対する回動位置が任意の回動位置にて止められるようになっており、シートバック2の背部2Bの凹部2C内に収納された位置や、この収納位置から後方側に回動展開された種々の後傾位置で、その回動が止められるようになっている。
【0019】
次に、図3に示すように、第2のヒンジ部20Bは、本体部21の上側部分の形状を成す環状のループ部21Aの上端の結合部に介設された丸棒部21A1に、前述した保持具10の背面下部に形成されたくちばし状の嵌合部12を後方側から嵌め込んで、回動可能に軸連結させられるようにした構成となっている。上記丸棒部21A1は、ループ部21Aよりも小径の丸棒形状とされており、ループ部21Aがこれと同形に模られた凹部2C内に収納された状態では、凹部2Cの上下面との間に、上記くちばし状の嵌合部12を嵌め込み可能な隙間2Dが形成される構成とされている。
【0020】
一方、嵌合部12は、保持具10の背面下部から背面側(本体部21に取り付ける側)に向かって突出したくちばし形状とされており、そのくちばし形状の受入口12A内に上記丸棒部21A1を径方向に受け入れて、丸棒部21A1に嵌合して回動可能に軸連結される構成とされている。具体的には、上記受入口12Aは、その内周面がC字状に湾曲したくちばし形状とされており、同内周面上に、同じくC字の形をした板バネ12Bが、開口を同じくして嵌め込まれた構成となっている。そして、上記嵌合部12の下部には、回動ネジ式の調節つまみ12Cが、ネジ12C1の螺合により取り付けられている。上記ネジ12C1は、嵌合部12の下くちばしの下側から螺合挿入されて、その挿入先の上端面が、上記C字状の板バネ12Bの下面に当てられた状態とされている。
【0021】
上記ネジ12C1は、後部側座席の乗員が調節つまみ12Cを指でまわす操作を行うことで、その螺合位置が進められたり戻されたりして、板バネ12Bを下方側から押し込んでそのC字形状を窄めさせたり、押し込みを和らげてC字形状を広げたりするように操作するようになっている。したがって、上記調節つまみ12Cの調節操作により、板バネ12BのC字形状を広げた状態で、上述した嵌合部12のくちばし形状を丸棒部21A1に後方側から嵌め込んで、その受入口12A内に丸棒部21A1を受け入れた状態にし、その後に、調節つまみ12Cを操作して板バネ12BのC字形状を窄めて丸棒部21A1に挟み込ませることにより、嵌合部12を丸棒部21A1に圧着させた状態として取り付けることができる(図4参照)。
【0022】
この圧着状態(図4参照)では、上記C字状の板バネ12Bの内周面が、丸棒部21A1に上下側からそれぞれ押し付けられた状態とされている。したがって、この押し付け力を調節つまみ12Cの操作によって強めれば、嵌合部12(保持具10)を丸棒部21A1に対して高い摺動摩擦抵抗力を作用させて回転止めした状態に保持することができる。また、押し付け力を弱めれば、嵌合部12(保持具10)を丸棒部21A1のまわりに高さ方向に首振り運動させられる弱い嵌合状態にすることができる。また、調節つまみ12Cを操作して、上記の押し付け力を適度に強めた状態に設定すれば、自由状態では嵌合部12(保持具10)の回動を止めた状態に保持しながらも、力を加えて回動させることにより、嵌合部12(保持具10)の首振り角度を変えられるようにすることができ、調節つまみ12Cをその都度操作しなくても、保持具10の角度調節を簡便に行えるようにすることができる。
【0023】
次に、図7に示すように、伸縮部20Cは、図2で前述した本体部21のループ部21Aと根本部21Cとの間の中間部21Bを伸張させて、本体部21の長さを変えられるようにする構成となっている。具体的には、上記中間部21Bは、上側パーツ21B1と下側パーツ21B2とに分割された構成とされ、上側パーツ21B1に結合された棒状のステー21B1aが下側パーツ21B2内に差し込まれた構成とされており、上記ステー21B1aの差し込み量を変えることによって、上側パーツ21B1を下側パーツ21B2に対して延伸(図8参照)させたり収縮させたりするようになっている。ここで、上記ステー21B1aには、その外周面上の長さ方向の複数の箇所に、直角三角形状に切り込まれた切欠き溝21B1bが形成されている。これら切欠き溝21B1bは、それぞれ、その切欠きの上面が直角面とされ、切欠きの下面が傾斜したテーパー面とされている。
【0024】
一方、上記ステー21B1aが差し込まれる下側パーツ21B2の上端部には、ステー21B1aが差し込まれた筒内に径方向にスライドできる状態として枠板状の爪板21B2bが配設されている。この爪板21B2bは、常時は、下側パーツ21B2との間に設けられた圧縮バネ21B2cの附勢力によって、その枠の一辺が、ステー21B1aの外周面に押し付けられた状態とされている。これにより、爪板21B2bは、ステー21B1aの差し込み位置が、いずれかの切欠き溝21B1bと合致する差し込み位置状態となることにより、その合致した切欠き溝21B1b内に附勢により入り込んで、ステー21B1aの差し込み方向への移動を規制した状態となって保持するようになっている。
【0025】
上記爪板21B2bによるステー21B1aの差し込み移動の規制状態は、爪板21B2bのシート後方側の端部箇所に一体的に設けられた押ボタン21B2aを後部側座席の乗員が前に押し込む操作によって解除される。具体的には、上記押ボタン21B2aが押し込まれることにより、爪板21B2bが圧縮バネ21B2cの附勢力に抗して押し込まれ操作され、そのステー21B1aの切欠き溝21B1b内に係合している枠の一辺が切欠き溝21B1bから外し出されて、上記の規制状態が解除される。これにより、ステー21B1aの差し込み方向の移動が許容された状態となり、図8に示すように伸張方向に移動させたステー21B1aを下側パーツ21B2内に差し込んで本体部21の長さを収縮させる調節移動が可能な状態となる。
【0026】
なお、上記ステー21B1aを伸張方向に移動させる際には、上述した押ボタン21B2aの押し操作は不要となっている。すなわち、上述したステー21B1aに切り込まれた各切欠き溝21B1bの形状は、その切欠きの下面が傾斜したテーパー面とされていることから、ステー21B1aを伸張方向に移動させるときには、爪板21B2bがテーパー面上を滑るように移動するため、上述した係止機能が働かないようになっているからである。したがって、中間部21Bを伸張させて本体部21の長さを長くするときには、押ボタン21B2aの操作を要することなく、簡便に本体部21の長さ調節を行うことができる。
【0027】
次に、図5に示すように、スライド連結部20Dは、シートバック2の凹部2C内に結合固定されたベース22に対して、上記本体部21がヒンジ連結されたスライダ23が、シートバック2の前後方向にスライド可能に連結された構成となっている。具体的には、上記スライダ23は、上記ベース22により、シートバック2の凹部2C内に収納されたスライド位置(図5参照)と、シートバック2の後方側にスライドして突出したスライド位置(図6参照)との間を前後方向にスライドできるようにガイドされている。
【0028】
上記スライダ23のスライド位置調節により、本体部21のシートバック2に対する前後位置が調節されるようになっている。ここで、上記スライダ23には、その外周面上のスライド方向の複数箇所に、直角三角形状に切り込まれた切欠き溝23Aが形成されている。これら切欠き溝23Aは、それぞれ、その切欠きの奥側面(シート前側面)が直角面とされ、切欠きの手前側面(シート後側面)が傾斜したテーパー面とされている。
【0029】
一方、上記スライダ23をガイドするベース22には、スライダ23がスライドするスペース内をスライダ23のスライド方向とは直角な方向にスライドできる状態として枠板状の爪板22Bがスライドガイドされた状態として設けられている。この爪板22Bは、常時は、ベース22に結合された板バネ22Aの附勢力によって、その枠の一辺が、スライダ23の外周面に押し付けられた状態とされている。これにより、爪板22Bは、スライダ23のスライド位置が、いずれかの切欠き溝23Aと合致するスライド位置状態となることにより、その合致した切欠き溝23A内に附勢により入り込んで、スライダ23の後方移動を規制した状態にして保持するようになっている。
【0030】
上記爪板22Bによるスライダ23の後方移動の規制状態は、ベース22に押し込み操作可能に連結された押ボタン23Bを、後部側座席の乗員が前に押し込む操作によって解除される。具体的には、上記押ボタン23Bは、ベース22に対して圧縮バネ23Cを介して連結されており、常時は、上記圧縮バネ23Cの附勢力によって、上記シートバック2の背部2Bに露出する位置まで押し出された状態として、ベース22に結合されたストッパピン22Cと当たって係止された状態に保持されている。上記押ボタン23Bは、上記圧縮バネ23Cの附勢力に抗してシートバック2の背部2B内に押し込まれるように操作されることにより、その胴体部の途中箇所に形成されたテーパー面23B1が、爪板22Bを上記板バネ22Aの附勢力に抗した方向に押し出して、スライダ23の切欠き溝23A内から外し出して、上記の規制状態を解除するようになっている。この規制解除により、スライダ23の後方移動が許容された状態となり、図6に示すように、後部側座席の乗員が本体部21を把持するなどして後方側に引き込む操作をすることにより、スライダ23を後方側にスライド位置調節することができる状態となる。
【0031】
なお、上記スライダ23をシートバック2内に押し戻す際には、上述した押ボタン23Bの押し操作は不要となっている。すなわち、上述したスライダ23に切り込まれた各切欠き溝23Aの形状は、その切欠きの手前側面(シート後側面)が傾斜したテーパー面とされていることから、スライダ23を前方移動させるときには、爪板22Bがテーパー面上を滑るように移動するため、上述した係止機能が働かないようになっているからである。したがって、後方側に引き出したスライダ23を前方側に戻すときには、押ボタン23Bの操作を要することなく、簡便に本体部21の前後位置の調節を行うことができる。
【0032】
以上のように構成された位置調節機構20は、図9〜図18に示すように、上述した第1のヒンジ部20A、第2のヒンジ部20B、伸縮部20C、及びスライド連結部20Dをそれぞれ適宜動作させることにより、本体部21に取り付けた保持具10に装着したモバイル機器Pの配設位置や上下角度を、種々の態様で調節することができる。以下、本実施例の使用方法として、上述した位置調節機構20による保持具10(モバイル機器P)の配設位置や角度位置の調節方法について具体的に説明する。
【0033】
図9に示すように、上述した位置調節機構20は、本体部21がシートバック2の背部2Bの凹部2C内に収納された状態において、保持具10の嵌合部12を本体部21の第2のヒンジ部20Bに嵌め込んで軸連結することができる。したがって、本体部21をシートバック2の背部2Bの凹部2C内から引き出さなくても、保持具10を本体部21に取り付けたり取り外したりすることができ、かかる脱着作業を簡便に行うことができる。また、本体部21が凹部2C内に収納された状態で、本体部21に保持具10を取り付けてモバイル機器Pを保持具10に装着することにより、モバイル機器Pをシートバック2の背部2Bに沿わせた壁付けのような状態で、後部側座席の乗員がモバイル機器Pのモニターを見ることができる。
【0034】
上記モバイル機器Pを後部側座席の乗員に近づけて使用したい場合には、先ず、本体部21を第1のヒンジ部20Aのまわりに後方側に倒し込み(図10参照)、次いで、保持具10を第2のヒンジ部20Bのまわりに上向きに回動させればよい(図11参照)。これにより、モバイル機器Pを後部側座席の乗員に向かって効果的かつ簡便に近づけられると共に、モニター部Paを乗員の目線に向けられるように調節することができる。モニター部Paが上向きとなるように調節することにより、タッチパネルの入力操作を行いやすくすることができる。上記本体部21の倒し込み量や保持具10の首振りの回動量は、適宜調節した自由な位置にとどめることができる。
【0035】
また、上記方法の他、次のようにモバイル機器Pを後部側座席の乗員に向かって近づけることもできる。すなわち、前述した図9に示した初期状態から、本体部21をスライド連結部20Dの構成を利用して後方側に引き込むことにより、図12に示すように、保持具10(モバイル機器P)の角度向きや高さ位置を変えることなく、保持具10(モバイル機器P)をそのまま後部側座席の乗員に向けて近づけることができる。また、この状態から、前述した方法と同じように、本体部21を第1のヒンジ部20Aのまわりに後方側に倒し込んで(図13参照)、保持具10を第2のヒンジ部20Bまわりに上向きに回動させる(図14参照)ことにより、保持具10(モバイル機器P)を更に後部側座席の乗員に好適に近づけることができる。上記本体部21の後方側への引き込み量も、適宜調節した自由な位置にとどめることができる。
【0036】
また、図15に示すように、本体部21を後方側に倒し込んだ後、伸縮部20Cの構成を利用して、本体部21の長さを長くする調節を行うことにより、モバイル機器Pの角度向きを変えることなくその配設位置の高さをより効果的かつ簡便に調節することができる(図16参照)。この本体部21の長さ調節も、適宜調節した自由な位置にとどめることができる。また、上記図12に示した本体部21を後方側に引き込んだ状態から、伸縮部20Cの構成を利用して、本体部21の長さ調節を行えば、図17に示したように、上記後方側に引き込んだ位置で、モバイル機器Pの角度向きを変えることなく、その配設位置の高さをより効果的かつ簡便に調節することができる。
【0037】
また、モバイル機器Pをその角度向きや高さ位置を変えることなく前方側に遠ざけたい場合には、図18に示すように、本体部21を上記スライド連結部20Dの構成を利用してシートバック2に押し込むように操作すればよい。このとき、本体部21が伸縮部20Cによって伸びた状態となっている場合には、上記前方側へのスライド操作が限界位置まで行われると、本体部21がシートバック2の背部2Bに当たって若干後傾するが、保持具10を第2のヒンジ部20Bのまわりに上向きに調節することで、モバイル機器Pを壁付けに近い状態で高い配設位置に移動させた状態で利用することができる。
【0038】
なお、上述した位置調節機構20の操作例は、あくまでも一例であって、上記本体部21の第1のヒンジ部20A、第2のヒンジ部20B、伸縮部20C、及びスライド連結部20Dの各動作の組み合わせによって、モバイル機器Pを種々の態様で後部側座席の乗員に向かって近づけることができる。例えば、上記モバイル機器Pを子供などの背丈の低い乗員が使用する場合には、上記第2のヒンジ部20Bの構成を利用して、モニター部Paを斜め下側に向けるように調節することもできる。
【0039】
このように、本実施例の車両用シート1の構成によれば、位置調節機構20によって保持具10の配設位置(前後位置や高さ位置や上下の角度向き)を調節できるようにしたことにより、車両用シート1のシート位置(前後のスライド位置や、シートバック2の背凭れ角度)が変わっても、保持具10の利便性を良好に保つことができる。また、位置調節機構20にスライド連結部20Dが設けられていることにより、後部側座席の乗員がモバイル機器Pを保持具10に保持させて画面の閲覧等の使用をする際に、本体部21のスライド位置を調節することで、モバイル機器Pの高さ位置を変えることなく前後位置だけを変える調節を簡便に行うことができる。また、本体部21をシートバック2の背部2Bの凹部2C内に収納した状態においても、保持具10を前述した隙間2Dの設定により本体部21に対して着脱できるように構成したことにより、保持具10を利便性の高い構成とすることができる。
【0040】
以上、本発明の実施形態を1つの実施例を用いて説明したが、本発明は上記実施例のほか各種の形態で実施することができるものである。例えば、上記実施例では、保持具10を本体部21に着脱可能に軸連結する第2のヒンジ部20Bの構成として、保持具10に設定した嵌合部12を本体部21に設定した丸棒部21A1に着脱可能に軸連結するようにした構成を例示したが、本体部に嵌合部を設定し、保持具に丸棒部を設定した構成であってもよい。また、第2のヒンジ部は、上記のような嵌合部と丸棒部とによる軸連結構造に限定されず、本体部もしくは保持具の一方にヒンジ構造を備えた装着部を設定し、他方にこの装着部と装着可能な被装着部を設定した構成としてもよい。
【0041】
また、上記実施例では、スライド連結部20Dの構成として、図5〜図6に示すように、スライダ23の後方側への引き出し時には押ボタン23Bの操作を要し、前方側への押し込み時には押ボタン23Bの操作を要しない構成を例示したが、逆の構成であってもよい。すなわち、スライダの後方側への引き出し時には押ボタンの操作は不要であり、前方側への押し込み時には押ボタンの操作を要する構成である。これにより、本体部を後方側へ引き出したい時に、その操作を簡便に行うことができる。なお、押ボタンを設定せず、スライダとベース(シートバック)との間にブッシュを設定して、摺動摩擦による抵抗力を作用させるようにして、スライダを任意のスライド位置に係止させられるようにしてもよい。
【0042】
また、本体部の第1のヒンジ部の構成も同様に、ブッシュによる摩擦抵抗力によって回動を止める構成に代えて、ラチェットの噛合構造などのロック機構を設定して回転止めを行うようにしても良い。また、伸縮部の構成も同様に、押ボタンを用いたロックの構成に代えて、伸縮の動作部分にブッシュを設定して、摺動摩擦による抵抗力を作用させるようにして、伸縮部を任意の伸張位置に係止させられるようにしてもよい。
【0043】
また、上記実施例では、保持具10の保持対象としてモバイル機器Pを例示したが、保持具は、ペッドボトルなどの車内への持ち込み品を保持するホルダーとして構成されたものであってもよい。すなわち、本発明が対象とする保持具は、シートバックの背部に、後部側座席の乗員が使用可能な物品を保持するための手段として備えられる保持具であって、位置調節機構によって、上記保持した対象物を後部側座席の乗員が望む所望の位置に移動させて使用できるようにしたもの全てが、その対象に含まれるものである。
【符号の説明】
【0044】
1 車両用シート
2 シートバック
2A ヘッドレスト
2B 背部
2C 凹部
2D 隙間
3 シートクッション
10 保持具
11 ガイド壁
11A 係合爪
12 嵌合部
12A 受入口
12B 板バネ
12C 調節つまみ
12C1 ネジ
20 位置調節機構
20A 第1のヒンジ部
20B 第2のヒンジ部
20C 伸縮部
20D スライド連結部
21 本体部
21A ループ部
21A1 丸棒部
21B 中間部
21B1 上側パーツ
21B1a ステー
21B1b 切欠き溝
21B2 下側パーツ
21B2a 押ボタン
21B2b 爪板
21B2c 圧縮バネ
21C 根本部
21C1 ヒンジピン
21C2 ブッシュ
22 ベース
22A 板バネ
22B 爪板
22C ストッパピン
23 スライダ
23A 切欠き溝
23B 押ボタン
23B1 テーパー面
23C 圧縮バネ
P モバイル機器
Pa モニター部
Pb 係合溝


【特許請求の範囲】
【請求項1】
シートバックの背部に後部側座席の乗員が使用可能な物品の保持具が配設された車両用シートであって、
前記保持具は、前記シートバックの背部に対して配設位置の調節を可能とする位置調節機構を間に介して連結されており、
前記位置調節機構は、前記保持具と前記シートバックの背部との間に介在する本体部と、該本体部を前記シートバックの背部に軸連結して後方側に回動させられるようにする第1のヒンジ部と、前記保持具を前記本体部に着脱可能に軸連結して高さ方向に首振り運動させられるようにする第2のヒンジ部と、前記本体部の前記第1のヒンジ部と前記第2のヒンジ部との間の中間部を伸縮させられるようにして前記本体部の長さを変えられるようにする伸縮部と、を有することを特徴とする車両用シート。
【請求項2】
請求項1に記載の車両用シートであって、
前記物品は、モバイル機器であり、前記位置調節機構は、更に、前記本体部を前記シートバックの背部にスライド可能に連結して後方側にスライドさせられるようにするスライド連結部を有することを特徴とする車両用シート。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載の車両用シートであって、
前記第2のヒンジ部は、前記本体部に設定された丸棒部に、前記保持具に設定された嵌合部が径方向に嵌まり込んで回動可能に軸連結される構成とされており、前記本体部は、前記シートバックの背部に形成された凹部内に収納可能とされ、前記本体部の収納状態では、前記丸棒部と前記凹部との間に前記嵌合部を前記丸棒部に向けて後方側から嵌め込み可能な隙間が形成され、前記本体部の収納状態で前記保持具を前記本体部に装着可能とされていることを特徴とする車両用シート。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【公開番号】特開2013−107572(P2013−107572A)
【公開日】平成25年6月6日(2013.6.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−255848(P2011−255848)
【出願日】平成23年11月24日(2011.11.24)
【出願人】(000241500)トヨタ紡織株式会社 (2,945)
【Fターム(参考)】