説明

車両用シート

【課題】後面衝突時の複雑な入力荷重に対して、特定の箇所において安定して変形することにより後面衝突時の衝撃エネルギーを効率よく吸収することが可能な車両用シートを提供する。
【解決手段】車両用シートSは、シートバックフレーム1の左右側方に位置して上下方向に延びるフレーム側部15a,17aと、フレーム側部15a,17aから左右方向の内側に向かって延出するフレーム延出部17b,18とを備えている。フレーム側部15a,17aとフレーム延出部17b,18とを連結する連結部17xには、衝撃荷重が加わったときに変形する孔部17kが形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両用シートに係り、特に後面衝突時における衝撃エネルギーを安定して吸収可能な車両用シートに関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、自動車などの車両後部が追突されたり、後退走行時に大きく衝突したりするなど、いわゆる後面衝突の際には、着座している乗員が慣性力によって急激に後方移動すると共に、乗員の上体が後傾する。
【0003】
一般に、車両用シートのシートバックは、金属製のシートバックフレームにクッション材を載置し、表皮材で被覆した構成であるが、後面衝突時等は、上記のように乗員が急激に後方移動するため、この動きに対してシートバックの変形量が十分でなく、乗員の身体に加わる荷重を効率的に軽減できない場合がある。また、シートバックに大きな荷重が加わるため、シートバックが不具合を起こしてしまう虞がある。
【0004】
このような問題を解消するために、特許文献1では、シートバックフレームの上部に後ろ向きの荷重が加わった場合、サイドフレーム(特許文献1では「サイドメンバ」と記載されている)が曲がる構成とし、後方移動時に乗員に加わる荷重を緩和する技術が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第4200580号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1で開示されたシートバックフレームは、後面衝突時等、乗員の後方移動に伴って後方への荷重が加わると、サイドフレームが屈曲し、シートバックフレームによって後方移動の衝撃エネルギーが吸収される。しかし、特許文献1のシートバックフレームは、サイドフレームの変形箇所(屈曲箇所)を限定して変形させることが不可能であるため、サイドフレームの上下方向にわたって何れかの点において屈曲する。その結果、屈曲点を限定することができないため、シートバックフレーム全体に衝撃エネルギーが伝達され、衝撃エネルギーの吸収効率が低下し、安定して衝撃エネルギーを緩和することが難しい。
【0007】
そこで、本出願人は、シートバックフレームを変形させることにより衝撃エネルギーを吸収する技術に関し、可撓性のくびれ部を下部フレームに形成することにより、後面衝突時等、衝撃荷重が加わった際にくびれ部を優先的に屈曲させ、衝撃エネルギーを効率よく吸収する技術を提案している(特願2010−273867)。このように、シートバックフレームの変形箇所を限定することにより、効率よく衝撃エネルギーを吸収することが可能となる。
【0008】
しかし、上記技術において、屈曲する部分をさらに限定し、安定して衝撃エネルギーを吸収可能な技術が望まれていた。すなわち、後面衝突時にシートバックフレームに加わる複雑な入力荷重に対し、特定の箇所の変形を促進して変形し易くし、安定して屈曲する構成を備えた車両用シートが望まれていた。
【0009】
また、屈曲しやすい特定箇所(変形部位)以外の部分の剛性を向上させて変形部位の位置規制を容易にし、複雑な入力荷重が加わっても、特定箇所以外では変形することなく、特定箇所を変形させることにより、衝撃エネルギーをさらに効率よく吸収可能な技術が望まれていた。
【0010】
本発明の目的は、後面衝突時の複雑な入力荷重に対して、特定の箇所において安定して変形することにより後面衝突時の衝撃エネルギーを効率よく吸収することが可能な車両用シートを提供することにある。また、本発明の他の目的は、変形しやすい特定部分(変形部位)以外の部分の剛性を向上させて変形部位の位置規制を容易にし、後面衝突時に複雑な入力荷重がかかっても、衝撃エネルギーを効率よく安定して吸収することが可能な車両用シートを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前記課題は、本発明の車両用シートによれば、シートバックフレームの左右側方に位置して上下方向に延びるフレーム側部と、該フレーム側部から左右方向の内側に向かって延出するフレーム延出部とを備え、前記フレーム側部と前記フレーム延出部とを連結する連結部には、衝撃荷重が加わったときに変形する孔部が形成されていること、により解決される。
【0012】
このように、シートバックフレーム幅を構成するフレーム側部と、フレーム側部からシート幅方向内側へ向かって延出するフレーム延出部との境界部分(連結部)に孔部を形成することにより、後面衝突等の衝撃荷重が加わった際、シートバックフレームを後方へ撓み変形しやすくすることができる。シートバックフレームにおいて、上記のフレーム側部とフレーム延出部との連結部は、この連結部の延在方向(上下方向)に沿った荷重に対して高い剛性を備えているため、一般に、後面衝突の衝撃荷重が加わった場合、連結部は屈曲しにくい。しかし、この連結部において衝撃荷重によって変形する孔部を備えることにより、衝撃荷重が加わった際、まず、初めに孔部が変形し、それを起点としてシートバックフレームが上下方向に屈曲して変形しやすくなる。したがって、衝撃荷重が加わった際、孔部を起点として安定してシートバックフレームを屈曲させることができ、効率よく衝撃エネルギーを吸収することができる。
また、連結部のように剛性の高い部分に孔部を備えるため、その他の部分において孔部を形成する場合と比較して、屈曲箇所を孔部近傍に限定することができる。
【0013】
このとき、請求項2のように、前記フレーム側部または前記フレーム延出部のうち、少なくとも一方には、前記孔部と連結された脆弱部を有していると好ましい。
このように、孔部と連結された脆弱部をさらに備えることにより、衝撃荷重が加わった際、脆弱部がその他の部分よりも優先的に変形するため、シートバックフレームが変形しやすくなる。このように、衝撃荷重が加わった際に変形する箇所として、脆弱部がさらに形成されていることにより、孔部だけでなく、脆弱部が撓み変形することによってシートバックフレームの変形位置及び変形方向を制御可能であり、衝撃エネルギーを効率よく吸収することができる。
【0014】
また、請求項3のように、前記孔部は、前記脆弱部よりも小さい衝撃荷重により変形するように形成されてなると好適である。
このように、衝撃荷重に対し孔部が脆弱部よりも変形しやすく形成されていることにより、衝撃荷重が加わった際、孔部を先に変形させ、続いて脆弱部を変形させることができる。後面衝突時等には複雑な入力荷重が車両用シートに加わるが、脆弱部よりも変形しやすい孔部を備えることにより、孔部が初めに変形し、次に孔部に連結された脆弱部が変形する。その結果、シートバックフレームの変形(屈曲)位置、撓み変形(屈曲)箇所を限定することができる。
すなわち、上記構成とすることにより、衝撃荷重が加わった際、孔部の変形を促進し、孔部を起点として脆弱部を変形させることができる。したがって、衝撃荷重が車両用シートに加わった際、脆弱部が変形し、安定して衝撃エネルギーを吸収することができる。
【0015】
このとき、請求項4のように、前記脆弱部は、前記フレーム延出部に形成される内方脆弱部を有し、該内方脆弱部は、水平方向に沿って延在する水平部と、該水平部の長手方向の一端側に形成された屈曲部と、該屈曲部から傾斜して延在する傾斜部と、を備え、該傾斜部は、前記フレーム延出部の前記フレーム側部に挟まれた部分の上下方向端部まで延設されてなると好ましい。
このように、シートの左右方向(幅方向)内側に形成されたフレーム延出部に備えられる内方脆弱部は、シートの左右方向において略水平に延設された水平部と、屈曲部を介して水平部から延設された傾斜部を備えている。
後面衝突の際、車両用シートを構成するシートバックフレームに加わる衝撃荷重は、主として後方、より詳細には、シートバックフレームが後傾する方向にかかる荷重であるが、複雑な入力荷重となる。したがって、内方脆弱部として水平部、屈曲部、傾斜部を備えた構成とすることにより、後面衝突時等の複雑な入力荷重に対しても主として水平部、傾斜部によって衝撃エネルギーを吸収可能である。したがって、脆弱部を直線状に形成した場合と比較して、水平部、屈曲部、傾斜部を備えた内方脆弱部を形成することにより、複雑な入力荷重に対応可能となり、衝撃エネルギーを効率よく吸収することができる。その結果、内方脆弱部によって衝撃エネルギーを安定して吸収することが可能となる。
さらに、水平部を設けることにより、水平部の稜線部分によって側方荷重(水平部の延在方向に平行な方向の荷重)を受け止めることが可能であるため、側方荷重に対するシートバックフレームの剛性を向上させることができ、好適である。また、傾斜部によっても側方荷重を受け止めることができるため、側方荷重に対する剛性がさらに向上する。
また、内方脆弱部において屈曲部、傾斜部を備えることにより、後傾荷重に対して主として屈曲する水平部以外の部分の剛性を向上させることができるため、水平部を屈曲させることが可能となる。
【0016】
このとき、請求項5のように、前記内方脆弱部は、前方へ凹んだ凹部からなると好ましい。
このように、内方脆弱部を凹部とすることにより、簡易な構成となり、脆弱部を容易に成形することができる。
【0017】
さらに、請求項6のように、前記脆弱部の上方または下方の少なくとも一方に補強部を有すると好適である。
このように、脆弱部の上方または下方の少なくとも一方に補強部を有すると、脆弱部と前後方向で重ならない位置に補強部が設けられ、脆弱部以外の部位が補強部により補強されている。したがって、衝撃荷重が加わった際に、脆弱部以外の部位からシートバックフレームが変形することを抑制することが可能となり、シートバックフレームの変形部位の位置規制、及び変形のガイドが容易となる。
【0018】
このとき、請求項7のように、前記補強部は、前記脆弱部の前方または後方の少なくとも一方に設けられるとより好適である。
補強部を脆弱部の前方に設けた場合には、シートバックフレームの補強部と前後方向で重なる部位への前方からの荷重の入力が規制され、脆弱部以外の部位から変形が生じるのを抑制することができる。また、補強部を脆弱部の後方に設けた場合には、シートバックフレームの補強部と前後方向で重なる部位の後方への変形か規制され、脆弱部以外の部位から変形が生じるのを抑制することができる。このように、補強部を脆弱部の前方または後方の少なくとも一方に設けることで、衝撃荷重が加わった際に、脆弱部以外の部位からシートバックフレームが変形することを抑制することが可能となり、シートバックフレームの変形部位の位置規制、及び変形のガイドが容易となる。
【0019】
また、請求項8のように、前記補強部は、その一端部が、少なくとも前記孔部と前記脆弱部との境界部を含んで前記孔部と前後方向で重なる位置に設けられるとよい。
このように、補強部の一端部が、少なくとも孔部と脆弱部との境界部を含んで孔部と前後方向で重なる位置に設けられることにより、衝撃荷重による孔部の変形を阻害することがなく、また複雑な入力荷重に対しても孔部の変形の方向を規定することができる。孔部と脆弱部は境界部を介して連結されており、衝撃荷重が加わった際には、まず孔部が変形し、それを起点として脆弱部へ衝撃エネルギーが伝達されるため、脆弱部へ効率よく衝撃エネルギーを伝えるためには、孔部の変形が阻害されず、また孔部が所望の方向へ変形することが望まれる。上記構成のように補強部を設けることにより、孔部の変形の規制を行うことができ、変形のガイドが容易に行え、効率よく衝撃エネルギーを吸収して適切にシートバックフレームを変形させることが可能となる。
【0020】
また、このとき、請求項9のように、前記屈曲部の屈曲方向の反対側には、膨出した部品取付部が形成されてなると好適である。
このように、内方脆弱部の屈曲方向の外周側(水平部と傾斜部が成す角度のうち、鈍角側)に部品取付部を形成することにより、脆弱部の外周方向における部分の剛性を向上させることができる。衝撃荷重が加わった際、脆弱部は水平部の延在方向に沿って上下に撓むように変形するが、屈曲部の屈曲方向の外周側において部品取付部を形成することにより、部品取付部の剛性が向上して屈曲しにくくなる。その結果、衝撃荷重が加わった際、水平部から屈曲部、傾斜部までを順に撓み変形させることができ、後面衝突時等、複雑な入力荷重がかかっても、内方脆弱部によって、衝撃エネルギーを効率よく安定して吸収することが可能となる。
また、複数の凹凸を設け、その一部に対してハーネス等の部品を取り付けることにより、部品を取り付けるための部材を別途組み付ける必要がないため、省スペース化することができ、さらに、製造工程を短縮することができる。
【0021】
さらに、請求項10のように、前記脆弱部の後方に設けられる補強部を前記物品取付部として構成することもできる。
このように、脆弱部の後方に設けられる補強部を物品取付部として構成することで、補強部が、部品を取り付ける機能と、シートバックフレームの変形部位の位置規制を行う変形ガイドの機能とを兼ね備えることができ、部品点数を削減しつつ、シートバックフレームの変形に寄与することが可能となる。
【0022】
さらにまた、請求項11のように、前記シートバックフレームの下方には、着座フレームをさらに備え、前記シートバックフレームは、左右に位置するサイドフレームを有し、前記脆弱部は、前記フレーム側部に形成されると共に前記着座フレームと前記サイドフレームとの間に形成される側方脆弱部を有すると好ましい。
このように、脆弱部を構成する側方脆弱部は、着座フレームとサイドフレームとの間、すなわち、これらフレームに重ならない位置に設けられる。この位置に側方脆弱部を形成することにより、衝撃荷重が加わった際、着座フレームやサイドフレームによって側方脆弱部の剛性が向上することなく、側方脆弱部を撓み変形させることができる。その結果、後面衝突等により、シートバックフレームに後傾方向の荷重が加わった場合、側方脆弱部の変形が着座フレームやサイドフレームにより妨げられることがないため、効率よく衝撃エネルギーを吸収することができる。
【発明の効果】
【0023】
請求項1の発明によれば、シートバックフレームにおいてフレーム側部とフレーム延出部との連結部に孔部を備えることにより、後面衝突時、孔部を起点としてシートバックフレームが変形し、安定して衝撃エネルギーを吸収可能な車両用シートとすることができる。
請求項2の発明によれば、孔部だけでなく、さらに脆弱部を備えることにより、衝撃荷重が加わった際、脆弱部が変形し、シートバックフレームの変形位置及び変形方向を制御することができる。したがって、衝撃エネルギーを安定して効率よく吸収可能な車両用シートとすることができる。
請求項3の発明によれば、脆弱部よりも孔部を変形しやすく形成することにより、衝撃荷重が加わった際に先に孔部を屈曲させ、次に脆弱部を屈曲させることができる。したがって、シートバックフレームの屈曲位置及び屈曲箇所を限定することができ、安定して衝撃エネルギーを吸収することができる。
請求項4の発明によれば、内方脆弱部において水平部、屈曲部、傾斜部を備えることにより、後面衝突時の複雑な入力荷重に対しても、安定して内方脆弱部を撓み変形させることができ、衝撃エネルギーを吸収しやすくすることができる。
請求項5の発明によれば、内方脆弱部を簡単な構成とすることができ、容易に成形可能である。
請求項6の発明によれば、脆弱部の上方または下方の少なくとも一方に補強部を有することにより、脆弱部以外の部位からシートバックフレームが変形することを抑制でき、シートバックフレームの変形部位の位置規制が容易になる。
請求項7の発明によれば、補強部を脆弱部の前方または後方の少なくとも一方に設けることにより、脆弱部以外の部位からシートバックフレームが変形することを抑制でき、シートバックフレームの変形部位の位置規制が容易になる。
請求項8の発明によれば、補強部の一端部が、少なくとも孔部と脆弱部との境界部を含んで孔部と前後方向で重なる位置に設けられることにより、衝撃荷重による孔部の変形を阻害することがなく、また複雑な入力荷重に対しても孔部の変形の方向を規定することができる。
請求項9の発明によれば、内方脆弱部の屈曲部近傍において、屈曲方向の外周側に部品取付部が形成されることにより、部品点数を削減することが可能であると共に、部品取付部近傍の剛性を向上させることができるため、水平部から屈曲部、傾斜部にかけて脆弱部を撓み変形させることが可能である。したがって、衝撃エネルギーの吸収効率の高い車両用シートを提供することができる。
請求項10の発明によれば、脆弱部の後方に設けられる補強部を物品取付部として構成することにより、部品点数を削減しつつ、シートバックフレームの変形に寄与することが可能となる。
請求項11の発明によれば、側方脆弱部を着座フレームとサイドフレームとの間に備えることにより、衝撃荷重が加わった際、側方脆弱部の変形が妨げられることなく、極めて効率よく衝撃エネルギーを吸収することが可能な車両用シートを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明の第1の実施形態に係る車両用シートの概略斜視図である。
【図2】本発明の第1の実施形態に係るシートフレームの概略斜視図である。
【図3】本発明の第1の実施形態に係るシートフレームの背面図である。
【図4】本発明の第1の実施形態に係る下部フレーム基礎部の概略斜視図である。
【図5】図4のA−A線による断面図である。
【図6】本発明の第1の実施形態に係る下部フレーム基礎部の後面衝突後の状態を示す説明図である。
【図7】本発明の第1の実施形態に係る下部フレームの後面衝突後の状態を示す説明図である。
【図8】本発明の第1の実施形態に係る下部フレームの後面衝突後の状態を示す説明図である。
【図9】本発明の第2の実施形態に係る車両用シートの概略斜視図である。
【図10】本発明の第2の実施形態に係る下部フレーム架設部とフレーム側部の部分拡大説明図である。
【図11】本発明の第2の実施形態に係る下部フレームの部分断面図である。
【図12】本発明の第2の実施形態に係るシートフレームの背面図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明の実施形態について、図を参照して説明する。なお、以下に説明する部材、配置等は、本発明を限定するものではなく、本発明の趣旨に沿って各種改変することができることはもちろんである。また、本明細書において、乗物とは、自動車・鉄道など車輪を有する地上走行用乗物、地上以外を移動する航空機や船舶など、シートを装着できる移動用のものをいうものとする。また通常の着座荷重とは、着座するときに生じる着座衝撃、乗物の急発進によって生じる加速時の荷重などを含むものである。また、後面衝突時の衝撃エネルギーとは、後面衝突時に生じる大きな荷重によるエネルギーであって、後方側からの乗物による大きな追突、後退走行時における大きな衝突等に伴うものであり、通常の着座時に生じる荷重と同様な荷重領域の荷重によるエネルギーは含まないものである。
また、左右方向とは、車両前方を向いた状態での左右方向を意味し、後述するシートバックフレーム1の幅方向と一致する方向である。また、前後方向とは、乗員が着座した状態での前後方向を意味する物である。
【0026】
図1乃至図8は本発明の第1の実施形態に係るもので、図1は車両用シートの概略斜視図、図2はシートフレームの概略斜視図、図3はシートフレームの背面図、図4は下部フレーム基礎部の概略斜視図、図5は図4のA−A線による断面図、図6は下部フレーム基礎部の後面衝突後の状態を示す説明図、図7及び図8は下部フレームの後面衝突後の状態を示す説明図である。
【0027】
<<車両用シートSの基礎構成>>
図1乃至図8を参照して、第1の実施形態に係る車両用シートSについて説明する。
車両用シートSは、図1で示すように、シートバックS1(背部)、着座部S2、ヘッドレストS3より構成されており、シートバックS1(背部)及び着座部S2はシートフレームFにクッションパッド1a,2aを載置して、表皮材1b,2bで被覆されている。なお、ヘッドレストS3は、頭部の芯材(不図示)にパッド材3aを配して、表皮材3bで被覆して形成される。また符号19は、ヘッドレストS3を支持するヘッドレストピラーである。
【0028】
車両用シートSのシートフレームFは、図2で示すように、シートバックS1を構成するシートバックフレーム1、着座部S2を構成する着座フレーム2から構成されている。
着座フレーム2は、上述のようにクッションパッド2aを載置して、クッションパッド2aの上から表皮材2bによって覆われており、乗員を下部から支持する構成となっている。着座フレーム2は脚部(不図示)で支持されており、この脚部には、図示しないインナレールが取り付けられ、車体フロアに設置されるアウタレールとの間で、前後に位置調整可能なスライド式に組み立てられている。
また着座フレーム2の後端部は、リクライニング機構11を介してシートバックフレーム1と連結されている。
【0029】
リクライニング機構11は、少なくともリクライニング機構11の回動軸に沿ったリクライニングシャフト11aを備えており、リクライニングシャフト11aは、シートバックフレーム1(より詳細には、一対のサイドフレーム15)の下方に延設された一対の下部フレーム基礎部17(メンバーサイド)に設けられたシャフト挿通孔17c(図4乃至図6参照)からシートフレームFの側部に突出するように嵌通して配設されている。
【0030】
シートバックS1は、シートバックフレーム1に、上述のようにクッションパッド1aを載置して、クッションパッド1aの上から表皮材1bにより覆われており、乗員の背中を後方から支持するものである。本実施の形態において、シートバックフレーム1は、図2で示すように、略矩形状の枠体となっており、サイドフレーム15と上部フレーム16と下部フレーム基礎部17と、下部フレーム架設部18とを備えている。
【0031】
2本(一対)のサイドフレーム15は、シートバック幅を構成するため、左右方向に離間して配設され、上下方向に延在するように配設されている。そして、一対のサイドフレーム15の上端部側を連結する上部フレーム16が、サイドフレーム15から上方に延出している。なお、上部フレーム16は、一方のサイドフレーム15から上方に延設された後、屈曲し、他方のサイドフレーム15まで延設されている。
【0032】
閉断面形状(たとえば、断面が円形、矩形等)の部材からなる上部フレーム16は、図2で示すように、略U字状に屈曲されている。そして、上部フレーム16の側面部16aは、サイドフレーム15の側板15aに対して上下方向に沿って一部が重なるように配設され、この重なり部分においてサイドフレーム15に固着接合される。なお、本実施形態1では上部フレーム16は断面円形の管状部材によって形成されているが、断面が矩形の管状部材としても良い。
【0033】
また、上部フレーム16の上方には、ヘッドレストS3が配設されている。ヘッドレストS3は、前述のように芯材(不図示)の外周部にパッド材3aを設け、パッド材3aの外周に表皮材3bを被覆して構成している。上部フレーム16には、ピラー支持部19aが配設されている。このピラー支持部19aには、ヘッドレストS3を支持するヘッドレストピラー19(図1参照)がガイドロック(不図示)を介して取り付けられて、ヘッドレストS3が取り付けられるようになっている。なお、本実施形態1ではシートバックS1とヘッドレストS3が別体となって形成されている例を示したが、シートバックS1とヘッドレストS3が一体となって形成されたバケットタイプとしても良い。
【0034】
シートバックフレーム1の一部を構成するサイドフレーム15は、図2で示すように、シートバックフレーム1の側面を構成する延伸部材であり、平板状の側板15aと、この側板15aの前端部(乗物前方側に位置する端部)からU字型に内側へ屈曲し、折り返した前縁部15bと、後端部からL字型に内側へ屈曲した後縁部15cとを有している。
【0035】
本実施形態の前縁部15bには、後縁部15c側へ張り出した突起部15dが形成されており、この突起部15dには、付勢手段としての引張りコイルばね35を係止するための係止部としての係止孔が形成されている。
そして、本実施形態のサイドフレーム15には、後述の移動部材30が係止されている。なお、移動部材30の構成、作用は後述する。
【0036】
<<受圧部材20の構成>>
シートバックフレーム1内(両側のサイドフレーム15の間)でシートバックフレーム1の内側領域には、クッションパッド1aを後方から支える受圧部材としての受圧部材20が配設されている。
【0037】
本実施形態の受圧部材20は、樹脂を板状の略矩形状に形成した部材であり、クッションパッド1aと接する側の表面には滑らかな凹凸が形成されている。受圧部材20の裏側の上部側と下部側には、図2で示されるように、上方連結部材としてのワイヤ21及び下方連結部材としてのワイヤ22を係止するための爪部が形成されている。
【0038】
本実施形態の受圧部材20は、連結部材に支持されている。すなわち、連結部材としての2本のワイヤ21,22が両側のサイドフレーム15間に架設され、受圧部材20の裏側の上部側と下部側で、所定位置に形成された爪部によって受圧部材20と係合し、受圧部材20をクッションパッド1aの背面で、支持している。ワイヤ21,22は、ばね性を有するスチール線材から形成され、連結部である凹凸部が形成されている。
【0039】
特に本実施形態の受圧部材20に係止された2本のワイヤ21,22のうち、上方に位置するワイヤ21は、下方に位置するワイヤ22よりも細いワイヤで構成されている。これにより、受圧部材20は下方と比較して上方が後方へより移動しやすくなっている。
【0040】
また、ワイヤ22は太い線材で構成されるため、剛性が高く、通常の着座時は変形しにくい。したがって、通常の着座時、細い線材からなるワイヤ21によって支持される受圧部材20の上方は後方へ移動しやすく、太い線材からなるワイヤ22によって支持される受圧部材20の下方は大きく後方へ移動しない。その結果、通常の着座時においては受圧部材20の上方は適度に後方へ沈み込み、下方は乗員の身体を支持するため、着座感が損なわれることがない。
【0041】
さらに、ワイヤ21,22は凹凸部が形成されていることによって、所定以上の荷重(後述する衝撃低減部材の可動又は回動の荷重より大きな荷重)によって大きく変形し、受圧部材20が、より多くの移動量をもって後方へ動くように構成されている。
【0042】
図2で示すように、本実施形態の受圧部材20に係止された2本のワイヤ21,22のうち、上部側に係止されたワイヤ21の両端部は、両側のサイドフレーム15に設けられた軸支部21aに掛着されている。一方、下部側に係止されたワイヤ22の両端部は、左右のサイドフレーム15に装着された移動部材30に掛着されている。
【0043】
ワイヤ21よりも太い線材で構成されたワイヤ22は、上述のように変形しにくく、通常の着座時、受圧部材20の下方部分は後方へ移動しにくい。したがって、後面衝突時には十分な沈み込み量を確保するため、ワイヤ22の端部に移動部材30が取り付けられる。
【0044】
<<移動部材30の構成>>
衝撃低減部材としての移動部材30は、後面衝突等により所定以上の衝撃荷重が受圧部材20に加わったときに、連結部材(ワイヤ22)を介して伝わる衝撃荷重により乗物後方に移動すると共に受圧部材20を後方へ移動させ、乗員を後方へ移動するものである。なお、「移動」とは、水平移動、回動等の動きを指す。本実施形態では、軸部32を回動軸として回動する移動部材30について説明する。この移動部材30の乗物後方への移動により受圧部材20を乗物後方へ大きく移動させることができ、その結果、乗員を後方へ移動させるため、乗員にかかる荷重を効率的に低減することができる。
【0045】
本実施形態の移動部材30は、図2で示すように、両側のサイドフレーム15の側板15aの内側に、回動軸としての軸部32を介して回動自在に軸支され、連結部材としての下方位置のワイヤ22を係止すると共に、ワイヤ22を付勢する付勢手段としてのばね(引張りコイルばね35)と連結されるものである。つまり、移動部材30は、付勢手段35と連結しており、連結部材としてのワイヤ22を介して受圧部材20をシートバックフレーム1の前方側に付勢するように構成されている。
そして、本実施形態の移動部材30は、回動可能な軸部32によって、サイドフレーム15の内側、より詳細には側板15aの一部がシート内側に膨出して形成された凸部15eに軸支されている。
【0046】
上述した移動部材30は、両側のサイドフレーム15に取り付けられており、両側にそれぞれ配設された移動部材30に、ワイヤ22の両端部が掛着されており、各々の移動部材30が個別に作動するように構成されている。
本実施形態では、移動部材30が、両側のサイドフレーム15に取り付けられており、これら両側に取り付けられた移動部材30は、互いに独立して移動(回動)するように構成されている。このため、荷重が左右方向に偏って生じた場合において、荷重に合わせて両側のサイドフレーム15に取り付けられた移動部材30が、各々独立して移動(回動)することになり、衝撃荷重の大きさに応じて、乗員の身体を後方へ沈み込ませることができる。
【0047】
(受圧部材20と移動部材30の作用効果)
以下、受圧部材20と移動部材30の構成及び作用を説明する。
乗員が着座した通常の着座時において、シートバックS1内のクッションパッド1a、受圧部材20、ワイヤ22を介して、移動部材30を後方移動(回動)させる張力が生じる。一方、引張りコイルばね35は、移動部材30をシートバックフレーム1の前方側へ移動(回動)させるように付勢している。ここで、移動部材30に連結されている引張りコイルばね35は、通常の着座時において生じる荷重領域では撓まない荷重特性を有しているため、移動部材30は常に初期位置に制止されている。つまり、移動部材30を移動(回動)させる力に抗して初期状態に復帰させる力が、通常の着座時に最も大きくなるように構成されている。
【0048】
そして、移動部材30に備えられた移動阻止部39は、移動部材30の移動(回動)後にサイドフレーム15の後縁部15cと当接して移動(回動)を阻止する当接部である。
移動部材30の移動阻止部39は移動部材30を外周方向に延出させて一体に形成されており、その当接面が移動(回動)後においてサイドフレーム15(より詳細には、後縁部15c)と当接するので、後面衝突等により所定以上の衝撃荷重が受圧部材20に加わったときであっても、移動部材30の移動(回動)を安定して停止させることができる。
この移動阻止部39は、付勢手段(引張りコイルばね35)や連結部材(ワイヤ22)と干渉しない位置に形成される。
【0049】
なお、本実施形態においては、移動部材30の移動阻止部39がサイドフレーム15に直接当接して移動(回動)を阻止するように構成されているが、移動阻止部39とサイドフレーム15との間に、当接時に発生する異音を消すために、移動部材30の移動(回動)停止の安定を阻害しない程度の厚さを有するラバーなどの消音部材を取り付けることもでき、このように構成すると、安定した移動(回動)阻止ができるとともに、消音効果が期待できる。
【0050】
常時において移動部材30は、サイドフレーム15(より詳細には、凸部15eの一部を切り欠いた部分)に当接し、引張りコイルばね35による上方向に加わる力を押し止め、移動部材30が前方に移動(回動)しすぎることがないように移動(回動)範囲を制限している。
【0051】
そして、後面衝突時においては、慣性で乗員が後方に移動しようとすると、この荷重が受圧部材20と、受圧部材20に係止されたワイヤ22を介して、移動部材30を後方に移動(回動)させる方向に張力がかかる。このときの張力は、移動部材30を初期位置に留めている引張りコイルばね35を伸長させ、移動部材30を後方に移動(回動)させるのに十分な荷重となる。
【0052】
移動部材30が移動(回動)を始める力の閾値は、通常の着座荷重よりも大きな値に設定されている。
ここで、移動部材30が移動(回動)を始める力の閾値について、通常着座している状態(ここでは、着座衝撃や乗物の急発進によって生じる小さな衝撃は除いている)でシートバックS1にかかる荷重は150N程度であるので、閾値は150Nより大きい値が好ましい。
【0053】
また、通常の着座時に生じる着座衝撃や、乗物の急発進等によって生じる加速時の荷重を考慮して、250Nより大きな値に設定することが好ましく、このようにすると、後面衝突以外では移動部材30が作動せず、安定した状態を維持することができる。
【0054】
上述のように、移動部材30を後方に移動(回動)させることで、移動部材30に掛着されているワイヤ22が後方に移動し、それと共にワイヤ22に係止されている受圧部材20と、受圧部材20に支持されているクッションパッド1aが後方に移動し、乗員をシートバックS1内に沈み込ませることができる。
【0055】
移動部材30は、ワイヤ22を介して生じる張力に対し、上述したような移動(回動)特性を有しているために、後面衝突が生じた場合は確実に、且つ効率よく乗員をシートバックS1のクッションパッドに沈み込ませることができる。
このとき、乗員の背部がシートバックS1に沈み込むことで後方に移動しているが、ヘッドレストS3の位置はシートバックS1に対して相対的に変わらないため、ヘッドレストS3と乗員の頭部の隙間が縮まり、ヘッドレストS3で頭部を支持することができるため、頸部へ加わる衝撃を効果的に軽減することができる。
【0056】
本実施形態では、移動部材30を左右両側のサイドフレーム15に設けた例を示しているが、一方のサイドフレーム15のみに設ける構成としてもよい。この場合には、移動部材30が設けられていない側のサイドフレーム15には、ワイヤ21,22を直接係止するように構成することができる。
【0057】
<<下部フレーム17,18の構成>>
シートバックフレーム1の下部フレームは、下部フレーム基礎部17及び下部フレーム架設部18によって構成されている。下部フレーム架設部18(メンバーセンター)は、左右方向に離間して配設された一対の下部フレーム基礎部17を連結するように形成され、下部フレーム基礎部17に対して当接して配設されている。下部フレーム基礎部17は、サイドフレーム15の側板15aの下側に連結されている。そして、下部フレーム基礎部17は、側板15aの下方を延長するように形成されており、着座フレーム2との関係で、支障のない範囲で延長されている。
なお、本実施形態のシートバックフレーム1は、サイドフレーム15と下部フレーム基礎部17とが別部材で形成されているが、一体の板状フレーム等で形成してもよい。また、下部フレーム基礎部17と下部フレーム架設部18はそれぞれ別部材として形成された例を示すが、一体に形成された構成としても良い。
【0058】
(下部フレーム基礎部17の構成)
下部フレーム基礎部17は、図4に示すように、シートバックフレーム1の左右側方に位置して上下方向に延びるフレーム側部としての側方板17aと、側方板17aから左右方向の内側に向かって延出するフレーム延出部としての中間板17bとを備え、側方板17aと中間板17bとを連結する連結部17xには、衝撃荷重が加わったときに変形する孔部17kが形成されている。なお、「フレーム側部」はサイドフレーム15の側板15aも含むものであり、さらに、「フレーム延出部」はサイドフレーム15の後縁部15cや、下部フレーム架設部18も含むものであるが、本実施形態として、下部フレーム基礎部17において孔部17kが形成された例を示す。
【0059】
下部フレーム基礎部17は、サイドフレーム15の側板15aに接合される側方板17aと、側方板17aの後端部から略垂直に、サイドフレーム15の内側に向かって折曲して形成された中間板17bとにより形成されている。側方板17aの下方には、リクライニングシャフト11aが挿通されるシャフト挿通孔17cが形成されており、側方板17aの下方には着座フレーム2がリクライニング機構11を介して配設されている。
【0060】
また、側方板17aにおいて、シャフト挿通孔17cの上方には、下部フレーム基礎部17をサイドフレーム15に取り付けるための取付け孔17dが複数形成されている。サイドフレーム15の下方には、側方板17aが重ねられた際に、取付け孔17dと整合する位置において孔が設けられており、このサイドフレーム15に形成された孔と下部フレーム基礎部17の取付け孔17dとを貫通するようにボルト等の接合手段が貫通され、サイドフレーム15と下部フレーム基礎部17とが接合される。なお、複数形成された取付け孔17dはすべてサイドフレーム15に対して固定されている必要はなく、また、サイドフレーム15以外の部材が取り付けられる構成としても良い。
【0061】
そして、側方板17aまたは中間板17bのうち、少なくとも一方には、孔部17kと連結された脆弱部17e,17mを有する。なお、本明細書中において、「脆弱部」とは、後面衝突時等の所定以上の大きさの衝撃荷重が加わった際に変形する脆弱性を備えた部分を示すものとする。なお、本実施形態では、図4、図5等に示すように、側方板17a及び中間板17bの両方において脆弱部(内方脆弱部17e、側方脆弱部17m)を備えた構成を示す。
【0062】
中間板17bには、後面衝突時の衝撃エネルギーを効率良く吸収するため、所定以上の衝撃荷重に対して可撓性を備えた内方脆弱部17eが形成されている。内方脆弱部17eは、断面略半円弧状で、前方へ凹んだ凹部により形成されており、一対のサイドフレーム15の内側に向かって延在するように形成されている。換言すると、内方脆弱部17eは、左右方向、すなわちシート幅方向に沿って、サイドフレーム15の内側に向かって凹むように形成された凹部である。
【0063】
後面衝突時等、乗員が急激に後方へ移動する際、その衝撃荷重を受けることにより、内方脆弱部17eが上下方向に押しつぶされることにより、下部フレーム基礎部17が折曲するように変形し、この変形に伴い、シートバックフレーム1が後傾する。したがって、内方脆弱部17eは、下部フレームを構成する部材の中でも、特にサイドフレーム15の下方に備えられる下部フレーム基礎部17に形成されていると好適である。なお、後面衝突時の衝撃エネルギーを吸収するため、下部フレーム基礎部17を十分に折曲させることができれば、内方脆弱部17eは、後方に凹むように凹設された構成としても良い。さらに、通常の着座荷重に耐えられる強度を備えていれば、内方脆弱部17eを変形しやすくするため、内方脆弱部17eを構成する部分の板厚のみを薄く形成しても良い。
【0064】
下部フレーム基礎部17の中間板17bに形成された内方脆弱部17eは、下部フレーム(より詳細には、下部フレーム架設部18)の長手方向(シート幅方向)に沿って延在する水平な部分(水平部17f)と、水平部17fの長手方向の一端側に形成された屈曲部17gと、屈曲部17gから斜め上方に傾斜して延在する傾斜部17hとを備えている。
【0065】
そして、内方脆弱部17eを構成する水平部17fは、その長手方向において屈曲部17gと対向する側の端部において、内方脆弱部17e(より詳細には、水平部17f)の一部が切り欠かれている。この切り欠かれた部分が孔部17kであり、孔部17kと内方脆弱部17eとは、連結されるように形成されている。このように、内方脆弱部17eと孔部17kとが連結するように形成されているため、後面衝突時等の衝撃荷重が下部フレーム基礎部17に加わった際、以下において説明するように、孔部17kを起点として下部フレーム基礎部17の内方脆弱部17eが変形することにより、衝撃エネルギーを吸収する。
【0066】
水平部17fは、後面衝突等、シートバックフレーム1に対して所定の衝撃荷重(通常の着座時以上の大きな衝撃荷重)が加わった際に、撓むことができ、上下方向に潰れるように変形する(図6参照)。その結果、後傾荷重を安定して効率よく吸収することができる。また、水平部17fはシート幅方向、すなわち下部フレーム架設部18の長手方向に沿って延設されているため、左右方向の荷重が加わった場合であっても、その稜線部分で荷重を受け止めることが可能であり、下部フレーム基礎部17のシート幅方向の荷重に対する剛性が極めて向上する。
【0067】
図4に示すように、水平部17fは、中間板17bと側方板17aの境界部分、すなわち孔部17kが形成された部分まで延設されている。換言すると、中間板17bと側方板17aの境界部分、すなわち連結部17xにおいて孔部17kが形成されている。この孔部17kは、脆弱部(内方脆弱部17e及び後述の側方脆弱部17m)よりも小さい衝撃荷重により変形するように形成されている。
【0068】
下部フレーム基礎部17は、側方板17aの後端部からシート方向内側に向かって中間板17bが折り曲げられて形成されており、この折曲部(連結部17x)によって上下方向の荷重に対する剛性を備えている。したがって、衝撃荷重の大きさに依存して、下部フレーム基礎部17が上下方向において変形しにくくなり、衝撃エネルギーを効率よく吸収することが難しい場合がある。しかし、孔部17kが中間板17bと側方板17aとの境界部分(連結部17x)に形成されており、後面衝突時等の衝撃荷重が加わった際、孔部17kが脆弱部(内方脆弱部17e及び後述の側方脆弱部17m)と比較して変形しやすく形成されているため、初めに孔部17kが上下方向に潰れるように変形することができる。その結果、下部フレーム基礎部17の上方が後傾するように変形するため、効率よく後傾荷重のエネルギーを吸収することが可能である。
【0069】
衝撃荷重に対して、孔部17kを脆弱部(内方脆弱部17e及び後述の側方脆弱部17m)よりも変形しやすくするために、例えば、孔部17kの幅(高さ方向の大きさ)は、少なくとも水平部17fの短手方向(上下方向)の幅と同等、或いはそれよりも若干大きく形成するとよい。孔部17kの高さ方向の大きさを水平部17fの上下方向の幅と同等、或いはそれよりも大きく形成することにより、後面衝突時等の衝撃荷重がかかった際、水平部17fよりも先に孔部17kが変形しやすくなるため、孔部17kを起点として、内方脆弱部17eを変形させることができる。
【0070】
内方脆弱部17eは、上記のように、水平部17fから屈曲部17gを介して延設された傾斜部17hを備えており、傾斜部17hは、中間板17bの側方板17a,17a(一対の下部フレーム基礎部17,17に備えられた側方板17a,17a)に挟まれた部分の上下方向端部まで延設されている。換言すると、傾斜部17hは、左右方向においてシート内側に備えられる中間板17bの上端部または下端部まで延設されている。
本実施形態では、傾斜部17hがシート内側に向かうに従って上方に傾斜するように屈曲され、中間板17bの傾斜した上端部まで延設された構成を示している。
【0071】
このように、内方脆弱部17eを水平部17fのみからなる水平な直線状に延設した構成とするのではなく、屈曲部17gを備え、略水平方向以外の方向、すなわち斜め方向に延設された部分(傾斜部17h)を備えた構成とすることにより、屈曲部17g及び傾斜部17h周辺において、下部フレーム基礎部17の剛性が向上する。したがって、後面衝突等によりシートバックフレーム1が後傾して変形する荷重が加わった場合、水平部17fが特に変形しやすくなり、効率よく衝撃エネルギーを吸収させることができる。
また、傾斜部17hを中間板17bの上端まで延設することにより、内方脆弱部17eを全体として屈曲させやすくなる。
【0072】
また、傾斜部17hは、水平部17fに対して略垂直に形成されていてもよいが、水平部17fに対して傾斜して形成されていると好ましい。すなわち、水平部17fに対して、傾斜部17hは、鋭角又は鈍角を成す構成であると好ましい。水平部17fに対して、傾斜部17hを略垂直に形成すると、シートバックフレーム1に対して後傾する荷重が加わった際に、傾斜部17hによって中間板17bの後傾荷重に対する剛性が向上し、水平部17fは後傾荷重により変形しにくくなる。一方、水平部17fに対して傾斜部17hが鋭角又は鈍角を成す構成とすると、適度に中間板17bが変形し、水平部17fを屈曲させることができる。
【0073】
水平部17fは、屈曲部17g及び傾斜部17hが形成された側の端部とは対向する側の端部において、孔部17kが形成されている。したがって、水平部17fの中でも屈曲部17g及び傾斜部17hから最も遠い位置(すなわち、剛性が比較的高くなく、撓み変形しやすい位置)に孔部17kが形成されるため、衝撃荷重が加わった際に孔部17kが変形しやすくなり、それに伴って水平部17fを変形させて衝撃エネルギーを吸収させることができる。
【0074】
また、屈曲部17gの屈曲方向の反対側(図3及び図4において下方)には、膨出した部品取付部としてのハーネス取付部17iが形成されている。ハーネス取付部17iは、内方脆弱部17eの膨出方向と反対側に膨出するように形成されている。すなわち、屈曲部17gの下方には、後方に膨出するように、ハーネス取付部17iが形成されている。このように、中間板17bにおいて、内方脆弱部17eの屈曲部17gが屈曲する方向と反対側(すなわち、水平部17fと傾斜部17hによって形成される鈍角側)にハーネス取付部17iを形成することにより、中間板17b上に凹凸形状が複数形成され、荷重に対する下部フレーム基礎部17の剛性(特に、屈曲部17g近傍の剛性)が向上する。その結果、後面衝突時等の衝撃荷重が加わった際、内方脆弱部17e以外の箇所を屈曲させることなく、内方脆弱部17eの水平部17f、屈曲部17g、傾斜部17hが屈曲して衝撃エネルギーを吸収することができる。
【0075】
このように、ハーネス取付部17iは中間板17bおいて内方脆弱部17eの後方に膨出して形成され、後面衝突時の衝撃荷重が加わった際に内方脆弱部17e以外の箇所を屈曲させない補強部としての機能を有している。凹凸形状による剛性の向上によりハーネス取付部17iの後方への変形か規制され、内方脆弱部17e以外の部位からシートバックフレーム1の変形が生じるのを抑制することが可能となり、シートバックフレーム1の変形部位の位置規制、及び変形のガイドが容易となる。
なお、後面衝突時の衝撃荷重によりサイドフレーム15を特に後傾させやすくするため、中間板17bの上方よりも下方において剛性を向上させる目的から、ハーネス取付部17iは、屈曲部17gの上方ではなく、下方に設けると好適である。
【0076】
さらに中間板17bには、取付け孔17jが複数形成されている。取付け孔17jは、その他の部材(アクチュエーター等)をシートフレームFに対して取り付ける際にボルト等の接合手段が挿通される。
【0077】
このように、ハーネス取付部17iや取付け孔17jを中間板17bに設けることにより、他部材の取付けに関し、省スペース化することができ、さらに部品点数を削減することができるという効果を奏する。さらに、ハーネス取付部17iは内方脆弱部17eの後方に設けられる補強部としての機能を有するため、部品を取り付ける機能と、シートバックフレーム1の変形部位の位置規制を行う変形ガイドの機能とを兼ね備えることができ、部品点数を削減しつつ、シートバックフレーム1の変形に寄与することができる。
【0078】
(下部フレーム架設部18の構成)
一対の下部フレーム基礎部17の側方板17aまたは中間板17bには、下部フレーム架設部18が接合されている。下部フレーム架設部18は、側方板17a及び中間板17bの両方に接合されていると取付剛性が向上するため好ましい。さらに、下部フレーム架設部18の側方端部が側方板17aに対して当接するように形成されていると、側方荷重に対して剛性が向上する。なお、本実施形態において、下部フレーム架設部18は中間板17bの前方に配設されているが、中間板17bの後方に配設されていても良い。
【0079】
内方脆弱部17eは、下部フレーム架設部18と重ならない位置であって、下部フレーム架設部18よりも上方に形成されていると好ましい。このように、内方脆弱部17eを下部フレーム架設部18と重ならない位置に設けた構成とすると、後傾する方向の荷重がシートバックフレーム1に加わった際に、内方脆弱部17eの変形が下部フレーム架設部18により妨げられることがないため好適である。換言すると、下部フレーム架設部18は、内方脆弱部17eの下方の内方脆弱部17eと重ならない位置に設けられており、後面衝突時に後傾する方向の荷重がシートバックフレーム1に加わった際に、内方脆弱部17eの下方部分の剛性を上げるための補強部として機能する。したがって、下部フレーム基礎部17が脆弱部以外の部位から屈曲するのを抑制することが可能となり、シートバックフレーム1の変形部位の位置規制、及び変形のガイドが容易に行える。
【0080】
さらに、脆弱部は、側方板17aに形成されると共に着座フレーム2(より詳細には、着座フレーム2に備えられるサイドフレーム)とサイドフレーム15との間に形成される側方脆弱部17mを有している。すなわち、着座フレーム2とサイドフレーム15との間に配設される下部フレーム基礎部17は、側方板17aにおいて、側方脆弱部17mを備えている。側方脆弱部17mは、中間板17b上に形成された内方脆弱部17eと略同じ高さ位置で形成されており、側方板17aと中間板17bとの境界部分に形成された孔部17kから前方側へ水平方向に延設されている。そして、側方板17a上において、孔部17kから延設された側方脆弱部17mは、側方板17aの前後方向において略中央付近まで延設されている。
【0081】
側方脆弱部17mは、内方脆弱部17eと同様に、断面略半円弧状で、サイドフレーム15の左右方向(シート幅方向)外側に向かって内側から凹むように凹設されている。そして、側方脆弱部17mは、後方から前方に向かって略直線状に延在するように形成されている。換言すると、側方脆弱部17mは、前後方向に沿って延在し、サイドフレーム15の下方に形成された凹部である。
【0082】
また、側方脆弱部17mの幅(高さ方向の長さ)は、少なくとも内方脆弱部17eを構成する水平部17fの短手方向(上下方向)の幅よりも小さく形成するとよい。側方脆弱部17mの高さ方向の長さを水平部17fの短手方向(上下方向)の幅よりも小さく形成することにより、後面衝突時等の衝撃荷重がかかった際、水平部17fよりも先に側方脆弱部17mが変形しやすくなるため、上記のように、孔部17kが衝撃荷重によって変形するのに伴い、側方脆弱部17mが上下方向に潰れるように変形する。このように、衝撃荷重が加わった際、下部フレーム基礎部17の側方板17aが、上下方向に撓み変形する結果、内方脆弱部17eがさらに変形しやすくなるため、衝撃エネルギーを確実に安定して吸収させることができる。また、本実施形態において、側方脆弱部17mは、直線状に形成された例を示したが、内方脆弱部17eのように、屈曲した形状としても良い。
【0083】
上記の内方脆弱部17e及び側方脆弱部17mは、下部フレーム基礎部17に対してプレス加工等を行うことにより形成される。また、孔部17kは、下部フレーム基礎部17上に内方脆弱部17e及び側方脆弱部17mを形成した後に切削して形成しても良いし、予め孔部17kを形成した後、内方脆弱部17e及び側方脆弱部17mを形成しても良い。
【0084】
(下部フレーム基礎部17の作用効果)
後面衝突時の衝撃荷重が加わった際に下部フレーム基礎部17が変形する様子について、図7、図8を参照して、以下説明する。
図7は、後面衝突時の衝撃荷重が下部フレーム基礎部17にかかった直後の様子である。このとき、シートバックフレーム1に対して、主として後傾する方向の荷重が加わるが、サイドフレーム15の下方、すなわち下部フレーム基礎部17に最も大きな荷重が加わる。
【0085】
そして、下部フレーム基礎部17に荷重が伝達されると、孔部17kを起点として、側方板17aに形成された側方脆弱部17mが上下方向に押しつぶされた形状に変形し、側方板17aがシート幅方向外側に広がるように変形する。このように、孔部17kを備え、さらに側方脆弱部17mを側方板17aに設けることにより、孔部17kを備えていない場合と比較して、側方板17aをシート幅方向外側に広がりやすくすることができる。
【0086】
上記のように、側方板17aがシート幅方向外側に広がるように変形した後、中間板17bに形成された内方脆弱部17e(より詳細には、水平部17f)が上下方向に押しつぶされるように変形し(図5、図6参照)、その結果、下部フレーム基礎部17の上方に備えられたサイドフレーム15が後傾し、シートバックフレーム1が変形する。
【0087】
このように、下部フレーム基礎部17において、内方脆弱部17e及び孔部17kだけでなく、側方脆弱部17mをさらに備えることにより、孔部17kを起点として下部フレーム基礎部17を段階的に変形し易くし、効率よく衝撃エネルギーを吸収させることができる。後面衝突時等は、シートバックフレーム1に対し複雑な入力荷重が加わるが、上記構成を備えることにより、特定の箇所(詳細には、内方脆弱部17eの水平部17f)を安定して変形させることができる。その結果、後面衝突時の衝撃エネルギーを下部フレーム基礎部17において効率よく吸収することが可能である。
【0088】
さらに、移動部材30に連結された受圧部材20を備えることにより、車両用シートSは、後面衝突時等において、乗員を十分にシートバックS1に沈み込ませることができる。そして、下部フレーム(より詳細には、下部フレーム基礎部17)の内方脆弱部17eにおいて屈曲部17g及び傾斜部17hが形成されているため、中間板17bは適度な剛性を有している。したがって、受圧部材20をサイドフレーム15、上部フレーム16に対して乗員の身体を相対的に沈み込ませ易くなるため、後面衝突等による衝撃エネルギーを効率よくシートバックフレーム1へ伝達し、吸収させることが可能である。
その結果、下部フレーム基礎部17に形成された内方脆弱部17eや側方脆弱部17mを変形させ、さらに効率よく衝撃エネルギーを吸収することができる。
【0089】
次に、図9乃至図12を参照して、本発明の第2の実施形態に係る車両用シートについて説明する。図9乃至図12は本発明の第2の実施形態に係るものであり、図9は車両用シートの概略斜視図、図10は下部フレーム架設部とフレーム側部の部分拡大説明図、図11は下部フレームの部分断面図、図12はシートフレームの背面図である。なお、第2の実施形態において、上述した第1の実施形態と同一の部材、配置等には同一符号を付してその詳細な説明を省略する。
【0090】
本実施形態に係る車両用シートSの下部フレーム架設部58は、図9乃至図11で示すように、1枚の板体を折り曲げて略中空角柱状に形成されており、前方へ膨出した前方膨出部58aと、前方膨出部58aと対向する後面58bと、前方膨出部58aと後面58bを連結する連結面58cとを少なくとも有している。本実施形態の下部フレーム架設部58は、前方膨出部58aがリクライニングシャフト11aの前方へ膨出してリクライニングシャフト11aを前方から覆うように配設されている。
【0091】
本実施形態の下部フレーム架設部58は、前方膨出部58aと対向して後方側に配置される後面58bが下部フレーム基礎部17の中間板17bと接合されることにより、下部フレーム基礎部17と連結されている。後面58bと下部フレーム基礎部17との連結は、溶接、またはビス、ねじ等の固着具による固着など、何れの方法によるものであってもよい。
【0092】
下部フレーム架設部58は、乗員が着座したときの乗員の腰部に相当する位置に配設され、また図11で示すように、内方脆弱部17eよりも前方に配設されている。よって下部フレーム架設部58は、後面衝突時にシートバックフレーム1上に載置されたクッションパッド1a及び表皮材1bを介して乗員の腰部から加わる衝撃荷重を、下部フレーム基礎部17の中間板17bよりも前方で受け、衝撃荷重に対して下部フレーム基礎部17の剛性を補強するための補強部としての機能を有する。
【0093】
このように補強部が脆弱部の前方に設けられた場合には、シートバックフレーム1の、補強部と前後方向で重なる部位への前方からの荷重の入力が規制され、脆弱部以外の部位から変形が生じるのを抑制することができる。したがって、前方から衝撃荷重が加わった際に、脆弱部以外の部位からシートバックフレーム1が変形することを抑制することが可能となり、シートバックフレーム1の変形部位の位置規制や変形のガイドが容易となる。
【0094】
この補強部としての下部フレーム架設部58は、図10、図11で示すように、中間板17bとの接合面である後面58bが、内方脆弱部17eと前後方向で重ならない位置であって内方脆弱部17eよりも下方に取り付けられて、配設されている。また、後面58bの上端58eが内方脆弱部17eの水平部17fの延出方向、すなわち下部フレーム架設部58の長手方向(シート幅方向)に沿うように、水平部17fの下方に配設されている。
【0095】
このように内方脆弱部17eと前後方向で重ならない位置に下部フレーム架設部58の後面58bが設けられているため、シートバックフレーム1に後方への衝撃荷重が加わった際に生じる内方脆弱部17eの変形が下部フレーム架設部58により妨げられることがない。
また、中間板17bの内方脆弱部17eよりも下方の部分に後面58bが取り付けられて、下部フレーム架設部58が設けられているため、内方脆弱部17e以外の部位、本実施形態では、内方脆弱部17eの下方が後面58bにより補強され剛性が向上する。したがって、シートバックフレーム1に後方への衝撃荷重が加わった際に、内方脆弱部17e以外の部位からシートバックフレーム1が変形することを抑制でき、シートバックフレーム1の変形が生じる部位の位置規制が容易に行える。
さらに、後面58bの上端58eが内方脆弱部17eの水平部17fの延出方向に沿うように設けられているため、シートバックフレーム1が変形する方向及び変形形状のガイドが一層容易となる。
【0096】
また、前方膨出部58aの一端部、本実施形態においては前方膨出部58aの上端58dと側方端部(図10における左側端部)58fとが交差する角部58gが、孔部17kと内方脆弱部17eの水平部17fとの境界部17pと、前後方向で重なる位置に配設されている。
【0097】
孔部17kと内方脆弱部17eとは境界部17pを介して連結されており、後面衝突による衝撃荷重が加わった際は、まず孔部17kが変形し、それを起点として内方脆弱部17eへ衝撃エネルギーが伝達される。よって、内方脆弱部17eへ効率よく衝撃エネルギーを伝えるためには、孔部17kの変形が阻害されず、また孔部17kが所望の方向へ変形することが必要となる。
【0098】
本実施形態の前方膨出部58aのように、一端部としての角部58gが、孔部17kと内方脆弱部17eの水平部17fとの境界部17pと、前後方向で重なる位置に設けられることにより、衝撃荷重による孔部17kの変形を阻害することがなく、また複雑な入力荷重に対しても孔部の変形の方向を規定することができる。なお、この一端部である角部58gは、少なくとも境界部17pと重なっていればよく、境界部17pを含む領域で孔部17kと前後方向で重なる位置に配設されるのと同様の効果が得られる。
【0099】
本実施形態の前方膨出部58aの左右両側の側方端部58fは、下部フレーム基礎部17の側方板17aと離間して設けられており、シートバックフレーム1のサイド部に固定されない構成となっている。なお、図10では車両用シートS正面視左側の側方端部58fのみ図示しているが、右側の側方端部も同様の構成を有している。このように、前方膨出部58aを側方板17aと連結しない構成により、補強部の剛性が高くなり過ぎず、衝撃荷重によるシートバックフレーム1の変形に影響を与えることがない。
【0100】
図11で示すように、前方膨出部58aの上端58dは、下部フレーム基礎部17の側方板17aに形成された側方脆弱部17mの幅(高さ方向の長さ)の中央(中心線)より下方であって、且つ側方脆弱部17mと上下方向で一部重なる位置に設けられている。
後面衝突時等の衝撃荷重が加わった際、側方脆弱部17mは上下方向に潰れるように変形するため、前方膨出部58aの上端58dが側方脆弱部17mの幅(高さ方向の長さ)の中央より下方に設けられていると、変形時に側方脆弱部17mと干渉せず、側方脆弱部17mの変形を阻害することなく好適である。
【0101】
さらに、下部フレーム架設部58の上部、すなわち前方膨出部58aの上端58dが側方脆弱部17mと左右方向で一部重なる位置に配設されているため、前方膨出部58aの上端58dが側方脆弱部17mから離間して下方に配置されるように下部フレーム架設部58を配設する場合と比して、シート側部の上下方向の長さが大きくなることを抑制でき、シートバックフレーム1を小型化することができる。
【0102】
側方脆弱部17mの幅(高さ方向の長さ)は、内方脆弱部17eを構成する水平部17fの短手方向の幅よりも小さく形成されている。また、側方脆弱部17mは、その幅(高さ方向の長さ)の中央(中心線)が内方脆弱部17eの水平部17fの短手方向(上下方向)の中央(中心線)よりも下方に位置し、且つその幅が水平部17fの短手方向の幅内に収まるように形成されている。このように配置されることにより、後面衝突による衝撃荷重が加わった際に、先ず孔部17kが上下方向に潰れるように変形し、その後側方脆弱部17mが水平部17fよりも先に上下方向に潰れるように変形しながら下方へ移動し、水平部17fへ衝撃エネルギーを効率よく伝達できる。このように、水平部17f及び側方脆弱部17mを適切な位置に形成することにより、安定して衝撃エネルギーを吸収することができる。
【0103】
なお、本実施形態では、補強部をシートバックフレーム1の変形(屈曲)が生じる部位である内方脆弱部17eの下方に設けたが、変形が生じる部位と補強部との位置関係としては、補強部を変形が生じる部位の上方に設ける構成とすることもできる。このように、補強部を変形が生じる部位の上方であって前後方向に重ならない位置に配設しても、同様に変形が生じる部位の位置規制を容易に行うことができる。
【0104】
次に、後面衝突時の前方膨出部58aと移動部材30の作用について説明する。
本実施形態の前方膨出部58aは、乗員が着座したときの乗員の腰部に相当する位置に配設されており、乗員の腰部側へ膨出するよう構成されている。このため、前方膨出部58aは、後面衝突時に乗員の腰部が後方へ移動するのを押し止める腰部進入阻害部材としての機能を有する。
【0105】
後面衝突時、乗員が衝撃を受けると急激に後方へ移動し、乗員の腰部が前方膨出部58aに当接して後方への移動が押し止められる。その結果、乗員の上体全体が後方へ傾倒(回転)し、上体の上方がより後方へ移動してシートバックS1へ沈み込む。すると、乗員の後方移動による荷重が受圧部材20に加わり、受圧部材20に係止されたワイヤ22を介して移動部材30を後方へ移動(回動)させる方向に張力がかかり、移動部材30が後方へ移動する。移動部材30の移動により、受圧部材20は後方へ大きく移動するため、乗員の沈み込み量が大きくなり、衝撃荷重が吸収される。
【0106】
移動部材30は、孔部17k及び脆弱部(内方脆弱部17e、側方脆弱部17m)が設けられる位置よりも上方で、サイドフレーム15に設けられているため、孔部17k及び脆弱部よりも上方に衝撃荷重が加わり、シートバックフレーム1の変形による衝撃荷重の吸収も可能となる。
このように、移動部材30の作用による衝撃荷重の吸収と、孔部17k及び脆弱部の作用による衝撃荷重の吸収とが可能となるため、より効率よく衝撃荷重を吸収することが可能となる。
【0107】
上記第2の実施形態において、補強部として下部フレーム架設部58を脆弱部の前方へ設ける例を示したが、補強部の配置はこれに限られず、補強部を脆弱部の後方、または前方及び後方へ配設することもできる。
図12は第2の実施形態に係る補強部の他の例を示すシートフレームの背面図である。図12で示すように、本例では、下部フレーム(下部フレーム基礎部17、及び下部フレーム架設部18または58)の後方に、補強部としての板状の補強部材59が設けられている。補強部材59は、内方脆弱部17eと前後方向で重ならない位置であって、内方脆弱部17eよりも下方に設けられ、上端59aが水平部17fの延出方向、すなわち下部フレーム架設部18または58の長手方向(シート幅方向)に沿うように配設されている。
【0108】
このように補強部材59を内方脆弱部17eの後方に設けると、衝撃荷重が加わった際に、シートバックフレーム1の、補強部材59と前後方向で重なる部位の後方への変形が規制され、脆弱部以外の部位からシートバックフレーム1の変形が生じるのを抑制することが、可能となる。よって、シートバックフレーム1の変形部位の位置規制と変形のガイドが容易となる。
【0109】
以上のように、第2の実施形態に係る車両用シートによれば、後面衝突時の複雑な入力荷重に対して、特定の箇所において安定してシートバックフレームを変形させるとともに、変形しやすい特定部分以外の部分の剛性を向上させて変形部位の位置規制を容易にし、変形のガイドを容易に行うことができる。よって、後面衝突時に複雑な入力荷重がかかっても、衝撃エネルギーを効率よく安定して吸収することが可能となる。
【0110】
上記各実施形態では、具体例として、自動車のフロントシートのシートバックS1について説明したが、これに限らず、後部座席のシートバックについても、同様の構成を適用可能であることは勿論である。
【符号の説明】
【0111】
S 車両用シート
S1 シートバック
S2 着座部
S3 ヘッドレスト
F シートフレーム
1 シートバックフレーム
2 着座フレーム
1a,2a,3a クッションパッド(パッド材)
1b,2b,3b 表皮材
11 リクライニング機構
11a リクライニングシャフト
15 サイドフレーム
15a 側板(フレーム側部)
15b 前縁部
15c 後縁部(フレーム延出部)
15d 突起部
15e 凸部
16 上部フレーム
16a 側面部
17 下部フレーム基礎部(下部フレーム)
17a 側方板(フレーム側部)
17b 中間板(フレーム延出部)
17c シャフト挿通孔
17d,17j 取付け孔
17e 内方脆弱部(脆弱部)
17f 水平部
17g 屈曲部
17h 傾斜部
17i ハーネス取付部(部品取付部、補強部)
17k 孔部
17m 側方脆弱部(脆弱部)
17p 境界部
17x 連結部
18 下部フレーム架設部(フレーム延出部、下部フレーム、補強部)
19 ヘッドレストピラー
19a ピラー支持部
20 受圧部材
21 ワイヤ(連結部材、上方連結部材)
21a 軸支部
22 ワイヤ(連結部材、下方連結部材)
30 移動部材(衝撃低減部材)
32 軸部
35 引張りコイルばね(付勢手段)
39 移動阻止部
58 下部フレーム架設部(フレーム延出部、下部フレーム、補強部)
58a 前方膨出部
58b 後面
58c 連結面
58d,58e 上端
58f 側方端部
58g 角部
59 補強部材
59a 上端

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シートバックフレームの左右側方に位置して上下方向に延びるフレーム側部と、該フレーム側部から左右方向の内側に向かって延出するフレーム延出部とを備え、
前記フレーム側部と前記フレーム延出部とを連結する連結部には、衝撃荷重が加わったときに変形する孔部が形成されていることを特徴とする車両用シート。
【請求項2】
前記フレーム側部または前記フレーム延出部のうち、少なくとも一方には、前記孔部と連結された脆弱部を有することを特徴とする請求項1に記載の車両用シート。
【請求項3】
前記孔部は、前記脆弱部よりも小さい衝撃荷重により変形するように形成されてなることを特徴とする請求項2に記載の車両用シート。
【請求項4】
前記脆弱部は、前記フレーム延出部に形成される内方脆弱部を有し、
該内方脆弱部は、
水平方向に沿って延在する水平部と、
該水平部の長手方向の一端側に形成された屈曲部と、
該屈曲部から傾斜して延在する傾斜部と、を備え、
該傾斜部は、前記フレーム延出部の前記フレーム側部に挟まれた部分の上下方向端部まで延設されてなることを特徴とする請求項2または3に記載の車両用シート。
【請求項5】
前記内方脆弱部は、前方へ凹んだ凹部からなることを特徴とする請求項4に記載の車両用シート。
【請求項6】
前記脆弱部の上方または下方の少なくとも一方に補強部を有することを特徴とする請求項2乃至5のいずれか一項に記載の車両用シート。
【請求項7】
前記補強部は、前記脆弱部の前方または後方の少なくとも一方に設けられることを特徴とする請求項6に記載の車両用シート。
【請求項8】
前記補強部は、その一端部が、少なくとも前記孔部と前記脆弱部との境界部を含んで前記孔部と前後方向で重なる位置に設けられることを特徴とする請求項6または7に記載の車両用シート。
【請求項9】
前記屈曲部の屈曲方向の反対側には、膨出した部品取付部が形成されてなることを特徴とする請求項4乃至8のいずれか一項に記載の車両用シート。
【請求項10】
前記屈曲部の屈曲方向の反対側には、膨出した部品取付部が形成されてなり、
前記脆弱部の後方に設けられる補強部は前記物品取付部であることを特徴とする請求項7に記載の車両用シート。
【請求項11】
前記シートバックフレームの下方には、着座フレームをさらに備え、
前記シートバックフレームは、左右に位置するサイドフレームを有し、
前記脆弱部は、前記フレーム側部に形成されると共に前記着座フレームと前記サイドフレームとの間に形成される側方脆弱部を有することを特徴とする請求項2乃至10のいずれか一項に記載の車両用シート。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2013−6579(P2013−6579A)
【公開日】平成25年1月10日(2013.1.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−260696(P2011−260696)
【出願日】平成23年11月29日(2011.11.29)
【出願人】(000220066)テイ・エス テック株式会社 (625)
【Fターム(参考)】