説明

車両用シート

【課題】軽量化を図ることができ、充分な機械的強度を有するシェル型の基材を有する車両用シートを提供する。
【解決手段】シートシェル2と背もたれシェル3とが連結部材6により連結されており、シートシェル2及び背もたれシェル3は、基材7と、基材7の搭乗者側の面に積層されているクッション材23とを有し、基材7が、熱可塑性ポリエステル系樹脂系シートを一軸延伸することにより得られた延伸熱可塑性ポリエステル系樹脂系シートからなる網状体11と、網状体11に積層されている合成樹脂シート21とを有する、車両用シート1。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車等の車両に用いられる車両用シートに関し、より詳細には、合成樹脂材料からなるシェルにより背もたれ部及びシート部の基材が構成されている、いわゆるシェル型の基材を有する車両用シートに関する。
【背景技術】
【0002】
車両用シートは、座面を構成するシート部と、シート部に連結された背もたれ部とを有する。この種の車両用シートでは、背もたれ部及びシート部のそれぞれ、金属からなるフレームと、該フレームに取り付けられたシート材とを有する。シート材は、合成樹脂成形体などからなり、該シート材の搭乗者側の面には、クッション材が積層されている。
【0003】
他方、車両用シートでは、燃費の低減を図るために軽量化が求められている。軽量化を果たすために、金属からなるフレームを省略し、樹脂複合材料からなるシェル型の基材を用いた車両用シートが種々提案されている。
【0004】
例えば下記の特許文献1には、図10に示す自動車用スポーツシートが開示されている。自動車用スポーツシート101では、金属からなるシート部品アダプタ102にシートシェル103がねじ104により固定されている。また、背もたれアダプタ105にねじ106により背もたれシェル107が取付けられている。取付け部品108によりシート部品アダプタ102と背もたれアダプタ105とが連結されている。上記シートシェル103及び背もたれシェル107は、ガラス繊維材料、炭素繊維またはガラス繊維もしくは炭素繊維のマットで補強されているプラスチック材料からなる。シートシェル103及び背もたれシェル107の搭乗者が接する側の面には、ゴムや革のカバーによりクッション化が施されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特表2007−506598
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に記載の自動車用スポーツシート101では、上記ガラス繊維材料などで強化されたプラスチック材料によりシートシェル103及び背もたれシェル107が構成されているため、すなわち金属からなる重いフレーム等を必要としないため、軽量化を図ることができる。
【0007】
しかしながら、近年、車両用シートではより一層の軽量化が求められている。自動車用スポーツシート101において軽量化を図るには、シートシェル103や背もたれシェル107の厚みを薄くすればよい。しかしながら、厚みを薄くした場合には、機械的強度が低下するおそれがある。
【0008】
本願発明の目的は、上述した従来技術の欠点を解消し、より一層の軽量化を図ることができ、しかも充分な機械的強度を有するシェル型の基材を用いた車両用シートを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係る車両用シートは、シートシェルと、背もたれシェルと、前記背もたれシェルとシートシェルとを連結している連結部材とを備える。本発明では、前記シートシェル及び背もたれシェルが、基材と、基材の搭乗者側の面に積層されているクッション材とを有する。前記基材は、熱可塑性ポリエステル系樹脂シートを一軸延伸することにより得られた延伸熱可塑性ポリエステル系樹脂シートからなる網状体と、前記網状体に積層されている合成樹脂シートとを有する。本発明に係る車両用シートは、上記のように、シートシェル及び背もたれシェルが、延伸熱可塑性ポリエステル系樹脂シートからなる網状体を合成樹脂シートに積層した構造を有することを特徴とし、それによって充分な機械的強度を発現する。
【0010】
上記網状体としては、上記延伸熱可塑性ポリエステル系樹脂シートからなる限り特に限定されず、下記の第1〜第3形態の網状体を好適に用いることができる。
【0011】
第1の形態の網状体は、熱可塑性ポリエステル系樹脂シートを一対の引抜ロール間に通して引抜延伸した後に上記引抜延伸方向に一軸延伸することによって得られた延伸熱可塑性ポリエステル系樹脂シートからなる帯状体を複数本、所定間隔毎に並設してなる帯状体列と、この帯状体列の帯状体に交差する方向に複数の帯状体を所定間隔毎に並設してなる帯状体列とからなり、これらの帯状体冽の帯状体の交差部を一体化することにより多数の通孔が設けられてなる網状体である。
【0012】
第2の形態の網状体は、所定間隔毎に並設してなる複数本の太幅帯状体と、互いに隣接する太幅帯状体同士を該太幅帯状体に対して斜行した状態で連結している複数本の細幅帯状体とを有し、かつ、太幅帯状体と細幅帯状体とで囲まれた部分によって貫通孔が形成されている第1、第2の帯状体列がそれらの太幅帯状体同士が互いに交差するように積層一体化されてなり、上記第1、第2の帯状体列は、熱可塑性ポリエステル系樹脂シートを一対の引抜ロール間に通して引抜延伸した後に上記引抜延伸方向に一軸延伸することによって得られた延伸熱可塑性ポリエステル系樹脂シートにその引抜延伸方向に長いスリットを形成して上記引抜延伸方向に直交する方向に引っ張って拡張させてなる構造を有する、網状体である。
【0013】
第3の形態の網状体は、熱可塑性ポリエステル系樹脂シートを一対の引抜ロール間に通して引抜延伸した後に上記引抜延伸方向に一軸延伸することによって得られた延伸熱可塑性ポリエステル系樹脂シートからなる帯状体を経糸及び緯糸として織成し、帯状体間に多数の通孔が形成されている網状体である。
【0014】
本発明に係る車両用シートでは、好ましくは、基材において網状体の両面に合成樹脂シートとが積層され、それによって車両用シートにおける上記基材の機械的強度をより一層高めることができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明に係る車両用シートは、金属フレームを有しないシェル型のシートシェル及び背もたれシェルを備え、シートシェル及び背もたれシェルが、上記熱可塑性ポリエステル系樹脂シートを一軸延伸することにより得られた延伸熱可塑性ポリエステル系樹脂シートからなる網状体と、網状体に積層されている合成樹脂シートとを有する基材を用いて構成されているため、炭素繊維やガラス繊維を複合化してなる従来プラスチック材料を用いた場合に比べて、車両用シートの軽量化を進めることができる。しかも、上記延伸熱可塑性ポリエステル系樹脂シートからなる網状体を用いているため、シートシェル及び背もたれシェルの機械的強度も充分な大きさとなる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】(a)は、本発明の第1の実施形態に係る車両用シートの模式的斜視図、(b)は、シートシェルの構造を示す略図的断面図、(c)は、網状体の模式的平面図である。
【図2】本発明におけるシェルを構成する基材の変形例を示す側面図である。
【図3】本発明において用いられる延伸熱可塑性ポリエステル系樹脂シートからなる網状体の第1の変形例を示す模式的平面図である。
【図4】本発明において用いられる延伸熱可塑性ポリエステル系樹脂シートからなる網状体の第2の変形例を示す模式的平面図である。
【図5】本発明において用いられる延伸熱可塑性ポリエステル系樹脂シートからなる網状体の第3の変形例を示す模式的平面図である。
【図6】本発明において用いられる延伸熱可塑性ポリエステル系樹脂シートからなる網状体の第4の変形例を示す模式的平面図である。
【図7】第4の変形例に係る網状体の製造方法を示すための模式的斜視図である。
【図8】第4の変形例の延伸熱可塑性ポリエステル系樹脂シートからなる網状体を製造する工程を説明するための模式的斜視図である。
【図9】本発明の車両用シートに用いられる網状体の第5の変形例を示す模式的平面図である。
【図10】従来の車両用シートを示す模式的斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、図面を参照しつつ、本発明の具体的な実施形態を説明することにより、本発明を明らかにする。
【0018】
図1(a)は、本発明の一実施形態に係る車両用シートを示す模式的斜視図である。車両用シート1は、車両の座席を構成するものである。車両用シート1は、シートシェル2と、背もたれシェル3とを有する。シートシェル2が、搭乗者の座面を構成する。背もたれシェル3は、搭乗者の背中が触れる部分にあたる。
【0019】
上記シートシェル2は、シートシェルアダプタ4に固定されている。固定構造は特に限定されず、ねじ等を用いた機械的固定方法や接合材を用いた方法などを用いることができる。他方、背もたれシェル3は、背もたれシェルアダプタ5に固定されている。この固定についても上記機械的方法や、接合材を用いた固定方法などの適宜の方法により行い得る。背もたれシェル3とシートシェル2とのなす角度を変化させ得るように、上記シートシェルアダプタ4と、背もたれシェルアダプタ5とが、連結部材6により連結されている。
【0020】
車両用シート1は、上記のように、シェル構造を有する。すなわち、シートシェル2及び背もたれシェル3は、後述する基材7を用いて構成されており、金属パイプなどからなるフレームを必要としない。従って、軽量化を図ることができる。特に、上記シートシェル2及び背もたれシェル3は、次に述べる基材を用いて構成されているため、炭素材料やガラス繊維で強度された合成樹脂を用いた従来のシェル型の車両用シートに比べ、大幅な軽量化を果すことができる。
【0021】
シートシェル2を例にとり、上記基材の構造をより詳細に説明する。
【0022】
シートシェル2は、図1(b)に示す基材7を有する。基材7は網状体11と、網状体11の両面に積層された合成樹脂シート21,22とを有する。また、基材7の一方面にはクッション材23が積層されている。クッション材23は樹脂発泡体または革などのクッション性を有する公知のクッション材により構成されている。
【0023】
また、合成樹脂シート21,22は、適宜の熱硬化性樹脂または熱可塑性樹脂からなる。好ましくは、合成樹脂シート21,22は熱可塑性樹脂からなり、網状体11に熱融着されて網状体11と一体化されている。
【0024】
本実施形態の特徴は、上記基材7の網状体11が熱可塑性ポリエステル系樹脂系シートを一軸延伸することにより得られた延伸熱可塑性ポリエステル系樹脂系シートからなることにある。それによって、基材7が充分な機械的強度を発現し、しかも大幅な軽量化を果すことができる。
【0025】
上記網状体11の模式的平面図を図1(c)で示す。
【0026】
網状体11では、熱可塑性ポリエステル系樹脂系シートから得られた複数本の第1の帯状体11aと、複数本の第2の帯状体11bとを有する。すなわち、複数の第1の帯状体11aが所定間隔を隔てて並設されており、それによって第1の帯状体列11Aが形成されている。上記第1の帯状体11aに交差するように、本実施形態では、直交する方向に延びるように、複数本の第2の帯状体11bが所定間隔を隔てて並設されている。この複数本の第2の帯状体11bにより、第2の帯状体列11Bが構成されている。
【0027】
上記第1の帯状体列11Aと第2の帯状体列11Bとは、熱融着により、あるいは接着剤を用いることにより一体化されている。それによって複数の通孔が構成され、網状体11が形成されている。
【0028】
上記網状体11を有している帯状体11a,11bは熱可塑性ポリエステル系樹脂系シートを引き抜き延伸したあとに、一軸延伸して得られた延伸熱可塑性ポリエステル系樹脂系シートからなる。
【0029】
引抜延伸に用いられる原反となる熱可塑性ポリエステル系樹脂シートを構成している熱可塑性ポリエステル系樹脂としては、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリグリコール酸、ポリ(L−乳酸)、ポリ(3−ヒドロキシブチレート)、ポリ(3−ヒドロキシブチレート/ヒドロキシバリレート)、ポリ(ε−カプロラクトン)、ポリエチレンサクシネート、ポリブチレンサクシネート、ポリブチレンサクシネートアジペート、ポリブチレンサクシネート/乳酸、ポリブチレンサクシネート/カーボネート、ポリブチレンサクシネート/テレフタレート、ポリブチレンアジペート/テレフタレート、ポリテトラメチレナジペート/テレフタレート、ポリブチレンサクシネート/アジペート/テレフタレートなどが挙げられ、耐熱性の優れたポリエチレンテレフタレートが好ましい。
【0030】
上記熱可塑性ポリエステル系樹脂シートを構成している熱可塑性ポリエステル系樹脂の極限粘度は、低すぎると、シート作成時にドローダウンを起こしやすく、高すぎると、引抜延伸の延伸倍率を大きくすることが困難となることがあるので、0.6〜1.0が好ましい。なお、熱可塑性ポリエステル系樹脂シートを構成している熱可塑性ポリエステル系樹脂の極限粘度は、JIS K7367−1に準拠して測定されたものをいう。
【0031】
原反となる熱可塑性ポリエステル系樹脂シートの厚みは特に限定されないが、0.5〜4mmが好ましい。熱可塑性ポリエステル系樹脂シートの厚みが0.5mm未満では、延伸後のシート厚みが薄くなりすぎ、取扱いに際しての強度が十分な大きさとならないことがあり、4mmを超えると延伸が困難となることがあるからである。
【0032】
非晶状体の熱可塑性ポリエステル系樹脂シートが原反として用いられることが好ましく、その結晶化度は特に限定されるものではないが、示差走査熱量計で測定した結晶化度が10%未満であることが好ましく、5%未満がより好ましい。非晶状体の熱可塑性ポリエステル系樹脂シートの結晶化度は、密度法により測定されたものをいう。
【0033】
引抜延伸する際の熱可塑性ポリエステル系樹脂シートの温度は、低温であると、延伸熱可塑性ポリエステル系樹脂シートが白化し、或いは、硬すぎて裂けて引き抜くことができないことがあるので、引抜延伸する前に予め(熱可塑性ポリエステル系樹脂シートを構成している熱可塑性ポリエステル系樹脂のガラス転移温度−20)℃以上に予熱することが好ましい。なお、熱可塑性ポリエステル系樹脂シートを構成している熱可塑性ポリエステル系樹脂のガラス転移温度は、JIS K7121−1987に準拠して測定されたものをいう。
【0034】
上記引抜延伸する際の一対の引抜ロールの温度は、低温すぎると、延伸熱可塑性ポリエステル系樹脂シートの温度が低下して延伸熱可塑性ポリエステル系樹脂シートが白化し、高温すぎると、引抜延伸の際の摩擦熱などにより樹脂温度が上昇して分子配向が緩和するので、(熱可塑性ポリエステル系樹脂シートを構成している熱可塑性ポリエステル系樹脂のガラス転移温度−20)℃以上で且つ(熱可塑性ポリエステル系樹脂シートを構成している熱可塑性ポリエステル系樹脂のガラス転移温度+20)℃未満であることが好ましい。
【0035】
又、熱可塑性ポリエステル系樹脂シートを引き抜く際に、一対のロールをこれらの対向面が共に引抜方向となるように回転させることで引抜延伸の際の抵抗を低減して延伸熱可塑性ポリエステル系樹脂シートの波うちの発生を抑えることができ好ましい。
【0036】
本発明においては、熱可塑性ポリエステル系樹脂シートを引抜延伸することによって得られた延伸熱可塑性ポリエステル系樹脂シートを上記引抜延伸と同一方向に一軸延伸している。
【0037】
特に、引抜延伸された延伸熱可塑性ポリエステル系樹脂シートのポリエステル系樹脂は、延伸の阻害要因となる熱による等方的な結晶化及び配向が抑えられた状態で分子鎖は高度に配向しているが結晶化度は低いので、加熱されると配向は容易に緩和されて機械的強度が低下するという欠点を有している。
【0038】
そこで、延伸熱可塑性ポリエステル系樹脂シートを、好ましくは、一対の引抜ロールの温度より高い温度で一軸延伸することにより配向が緩和されることなく結晶化度が上昇し、加熱されても配向が容易に緩和されない機械的強度に優れた延伸熱可塑性ポリエステル系樹脂シートを得ることができる。
【0039】
延伸熱可塑性ポリエステル系樹脂シートを一軸延伸する方法としてはロール延伸法が好適に用いられる。なお、ロール延伸法とは、一対のロールを所定間隔を存して配設してなるロール対を二組用意し、この二組のロール対を所定間隔を存して配設し、二組のロール対間に延伸熱可塑性ポリエステル系樹脂シートを配設すると共に、各ロール対のロール間に延伸熱可塑性ポリエステル系樹脂シートを挟持させ、一方のロール対の回転速度と、他方のロール対の回転速度とを相違させ、且つ、下流側のロール対の回転速度を上流側のロール対の回転速度より速くすることにより、加熱状体の延伸熱可塑性ポリエステル系樹脂シートに引張力を加えて延伸熱可塑性ポリエステル系樹脂シートを引っ張る方法であり一軸方向のみに強く分子配向させることができる。なお、ロール対間の速度比が延伸倍率となる。
【0040】
延伸熱可塑性ポリエステル系樹脂シートを一軸延伸する際の延伸熱可塑性ポリエステル系樹脂シートの温度は、低いと、必要な一軸延伸の延伸倍率が得られないことがあり、高いと、引抜延伸された延伸熱可塑性ポリエステル系樹脂シートが溶融して切断されるので、非晶状体の熱可塑性ポリエステル系樹脂シートを構成している熱可塑性ポリエステル系樹脂を昇温速度10℃/分の条件で示差走査熱量分析によって測定して得られる示差走査熱量曲線において、熱可塑性ポリエステル系樹脂の結晶化ピーク温度の立ち上がり温度以上で且つ融解ピークの立ち上がり温度以下が好ましい。
【0041】
なお、ポリエチレンテレフタレートの結晶化ピークの立ち上がり温度は約120℃であり、融解ピークの立ち上がり温度は約230℃である。従って、延伸ポリエチレンテレフタレートシートを一軸延伸する際は120〜230℃で一軸延伸するのが好ましい。
【0042】
延伸熱可塑性ポリエステル系樹脂シートにおいて、引抜延伸の延伸倍率と、一軸延伸の延伸倍率との合計の延伸倍率は、低いと、網状体の機械的強度が低下し、高いと、帯状体が延伸方向に沿って割れやすくなるので、2.5〜8倍が好ましい。
【0043】
延伸熱可塑性ポリエステル系樹脂シートにおける一軸延伸方向の引抜延伸の延伸倍率は、特に限定されるものではないが、延伸倍率が低いと、帯状体の機械的強度が低下することがあり、高いと、帯状体が延伸方向に沿って割れやすくなるので、3〜7倍が好ましく、4〜6倍がより好ましい。なお、引抜延伸の延伸倍率は、延伸後のシートの長さを延伸前のシートの長さで除したものをいう。
【0044】
延伸熱可塑性ポリエステル系樹脂シートの一軸延伸の延伸倍率は、特に限定されるものではないが、延伸倍率が低いと、帯状体の機械的強度が低下することがあり、高いと、帯状体が延伸方向に沿って割れやすくなるので、1.01〜1.2倍が好ましく、1.03〜1.1倍がより好ましい。
【0045】
又、一軸延伸された延伸熱可塑性ポリエステル系樹脂シートの結晶化度は、低いと、帯状体の機械的強度が低下し、高いと、帯状体が割れやすくなるので、20〜50%が好ましく、30〜45%がより好ましい。なお、一軸延伸された延伸熱可塑性ポリエステル系樹脂シートの結晶化度は、密度法により測定されたものをいう。
【0046】
更に、一軸延伸された延伸熱可塑性ポリエステル系樹脂シートは、その機械的強度を向上させるために熱固定されるのが好ましい。
【0047】
一軸延伸された延伸熱可塑性ポリエステル系樹脂シートの熱固定温度は、一軸延伸時の熱可塑性ポリエステル系樹脂シートの温度(一軸延伸温度)より低いと、熱可塑性ポリエステル系樹脂の結晶化が進まず機械的強度が向上しないので、一軸延伸温度以上が好ましいが、原反となる熱可塑性ポリエステル系樹脂シートを構成している熱可塑性ポリエステル系樹脂を昇温速度10℃/分の条件で示差走査熱量分析によって測定して得られる示差走査熱量曲線における融解ピークの立ち上がり温度より高くなると、熱可塑性ポリエステル系樹脂が溶解して延伸(配向)が消滅し、延伸熱可塑性ポリエステル系樹脂シートの機械的強度が低下するので、一軸延伸温度以上で且つ原反となる熱可塑性ポリエステル系樹脂シートを構成している熱可塑性ポリエステル系樹脂を昇温速度10℃/分の条件で示差走査熱量分析によって測定して得られる示差走査熱量曲線における融解ピークの立ち上がり温度以下がより好ましい。
【0048】
又、一軸延伸された延伸熱可塑性ポリエステル系樹脂シートを熱固定する際に、延伸熱可塑性ポリエステル系樹脂シートに負荷がかかっていると延伸熱可塑性ポリエステル系樹脂シートが延伸され、延伸熱可塑性ポリエステル系樹脂シートがフリーの状態では延伸熱可塑性ポリエステル系樹脂シートに収縮が生じるので、延伸熱可塑性ポリエステル系樹脂シートに負荷はかかっていないが熱により収縮しないように固定した状態で行うことが好ましく、延伸熱可塑性ポリエステル系樹脂シートに圧力もかかっていないことが好ましい。例えば、延伸熱可塑性ポリエステル系樹脂シートの両端をピンチロールなどで負荷がかからないように保持した状態で、延伸熱可塑性ポリエステル系樹脂シートの熱固定を行なうのが好ましい。なお、延伸熱可塑性ポリエステル系樹脂シートの加熱は、熱風、ヒーターなどで行うのが好ましい。
【0049】
延伸熱可塑性ポリエステル系樹脂シートを熱固定する時間は、特に限定されず、延伸熱可塑性ポリエステル系樹脂シートの厚さや熱固定温度により異なるが、10秒〜5分が好ましい。
【0050】
上述のようにして得られた延伸熱可塑性ポリエステル系樹脂シートを所定幅、好ましくは一定幅に切断することによって長尺状の帯状体を得ることができる。なお、帯状体の長さ方向と、延伸熱可塑性ポリエステル系樹脂シートの引抜延伸方向とが合致するように切断する。
【0051】
本実施形態の車両用シート1では、上記網状体11の両面に合成樹脂シート21,22
が積層されて基材7が構成されている。基材7は、上記網状体11を有するため、充分な機械的強度を発現する。しかも、ガラス繊維や炭素繊維により強化された樹脂複合材料に比べ、上記網状体11を有する基材7では、大幅な軽量化を図ることができる。例えば、ガラス繊維強化樹脂シートを用いて同等の引張り強度を有する基材を構成した場合に比べて大幅に軽量化し得る。よって、車両用シート1全体の大幅な軽量化を図ることができる。
【0052】
なお、上記実施形態では、網状体11の両面に合成樹脂シート21,22が積層されているが、図2に示す変形例の基材のように網状体11の片面にのみ合成樹脂シート21が積層されていてもよい。
【0053】
また、上記実施形態では、網状体11は、図1(c)で示したように、複数本の帯状体11aと複数本の帯状体11bとが直交する方向に交差していたが、本発明において用いられる網状体は適宜変形することができる。
【0054】
図3は、網状体の第1の変形例に係る模式的平面図である。図3に示す網状体12では、複数の帯状体11aに斜め方向に交差するように複数本の第2の帯状体11cが配置されている。複数本の第2の帯状体11cにより帯状体列11Cが構成されている。このように、第1の帯状体11aと斜めに交差する方向に第2の帯状体11cが延ばされていてもよい。
【0055】
図4は、第2の変形例に係る網状体13を示す模式的平面図である。網状体13では、複数本の帯状体11cからなる帯状体列11C上に、複数本の帯状体11bからなる帯状体列11Bが積層されている。さらに、帯状体11c,11bが交差している部分において交差するように、複数の帯状体11aからなる帯状体列11Aが積層されて一体化されている。それによって、より一層機械的強度の高い網状体13を形成することができる。
【0056】
図5は、第3の変形例に係る網状体14を示す模式的平面図である。網状体14では、所定間隔を隔てて斜め方向に延びる複数本の帯状体11dが用いられている。複数本の帯状体11dからなる帯状体列11D上に、帯状体列11Eが積層されている。帯状体列11Eは、複数本の帯状体11eを有する。帯状体11eは、帯状体11dと斜め方向に交差している。さらに、帯状体列11E上に、図5において横方向に延びる複数本の帯状体11fを有する帯状体列11Fが積層されている。このように、帯状体11d,11e,11fが交差している網状体14を形成してもよい。この場合においても、3層の帯状体列11D〜11Fを積層しているため、機械的強度より一層高めることができる。
【0057】
図6は、第4の変形例に係る網状体15を示す模式的平面図である。網状体15では、帯状体列11Gが、帯状体列11H上に積層されている。帯状体列11Gは、互いに平行に延び、かつ所定間隔を隔ててられている複数の太幅帯状体11g1を有する。隣り合う太幅帯状体11g1は、斜目方向に延びる複数の細幅帯状体11g2により連結されている。複数本の細幅帯状体11g2は、互いに平行に延びている。従って、帯状体列11Gでは、太幅帯状体11g1,11g1と、細幅帯状体11g2,11g2で囲まれた平行四辺形の貫通孔が形成されている。
【0058】
他方、帯状体列11Hも同様の構造を有する。すなわち、互いに平行に所定間隔を隔てて複数本の太幅帯状体11h1が配置されている。隣り合う太幅帯状体11h1は、複数本の細幅帯状体11h2により連結されている。複数本の細幅帯状体11h2は互いに平行に延ばされており、かつ太幅帯状体11h1と斜め方向に交差するように設けられている。従って、帯状体列11Hにおいても、隣り合う太幅帯状体11h1,11h1と隣り合う細幅帯状体11h2,11h2とで囲まれた平行四辺形の貫通孔が形成されている。
【0059】
上記太幅帯状体11h1が、太幅帯状体11g1と直交する方向となるように、帯状体列11Gが帯状体列11H上に積層され一体化されている。従って、上記太幅帯状体11g1、細幅帯状体11g2、太幅帯状体11h1及び細幅帯状体11h2がそれぞれ重なり合っている部分が交点となり、複数の通孔11iが形成され、それによって網状体15が構成されている。このよう網状体15では、太幅帯状体11g1同士が、細幅帯状体11g2で連結されており、同様に太幅帯状体11h1同士が細幅帯状体11h2で連結されているため、より一層機械的強度を高めることができる。
【0060】
上記網状体15を製造する方法は特に限定されない。一例を挙げると、図8に示すように、複数本のスリット10a,10bが形成されている延伸熱可塑性樹脂シート10を用意する。この延伸熱可塑性樹脂シート10を、スリット10a,10bと直交する方向外側に、すなわち図8の矢印で示すように引き延ばす。それによって、上記帯状体列11Gや帯状体列11Hを得ることができる。しかる後、図7に模式的に示すように、帯状体列11H上に、帯状体列11Gを積層し、熱融着等により一体化すればよい。
【0061】
図9は、本発明に用いられる網状体の第5の変形例を示す模式的平面図である。図9に示す網状体16では、複数本の帯状体16aが所定間隔を隔てて平行に配置され、それによって帯状体列16Aが構成されている。他方、複数本の帯状体16aと直交する方向に延びるように、複数本の帯状体16bが配置されている。この複数本の帯状体16bにより、帯状体列16Bが形成されている。もっとも、図1(c)と異なり、図9に示す網状体16では、複数本の帯状体16aが経糸として使用され、複数本の帯状体16bが緯糸として、両者が平織されている。このように平織された経糸と緯糸との交点で熱融着または接着剤等により両者が一体化されている。それによって、多数の通孔16cが形成されている。このように、複数本の帯状体16aと複数本の帯状体16bとは、平織されていてもよい。それによって、機械的強度より一層高めることができる。
【0062】
上述してきた各変形例に示すように、本発明で用いられる網状体は、延伸熱可塑性ポリエステル系樹脂からなる複数本の帯状体から構成される限り、適宜の形態とすることができる。
【0063】
また、本発明の車両用シートでは、上記網状体の片面または両面に合成樹脂シートが積層されてなる基材を用いているため、充分な機械的強度を発現する。特に、上記網状体では、帯状体の厚みを薄くしたとしても、充分な機械的強度を発現するため、車両用シートのシェルの大幅な軽量化を図ることができる。
【0064】
また、上記網状体は、柔軟性を有するため、網状体に合成樹脂シートを積層してなる基材は、車両用シートのシェルに好適な形状に容易に成形することも可能である。
【符号の説明】
【0065】
1…車両用シート
2…シートシェル
3…背もたれシェル
4…シートシェルアダプタ
5…背もたれシェルアダプタ
6…連結部材
7…基材
10…延伸熱可塑性樹脂系シート
10a,10b…スリット
11…網状体
11A…第1の帯状体列
11B…第2の帯状体列
11C〜11H…帯状体列
11a…第1の帯状体
11b…第2の帯状体
11c〜11f…帯状体
11g1,11h1…太幅帯状体
11g2,11h2…細幅帯状体
11i…通孔
12〜16…網状体
16A…帯状体列
16a,b…帯状体
16c…通孔
21,22…合成樹脂シート
23…クッション材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シートシェルと、背もたれシェルと、前記背もたれシェルとシートシェルとを連結している連結部材とを備え、
前記シートシェル及び前記背もたれシェルが、基材と、基材の搭乗者側の面に積層されているクッション材とを有し、前記基材が、熱可塑性ポリエステル系樹脂シートを一軸延伸することにより得られた延伸熱可塑性ポリエステル系樹脂シートからなる網状体と、前記網状体に積層されている合成樹脂シートとを有する、車両用シート。
【請求項2】
前記網状体が、熱可塑性ポリエステル系樹脂シートを一対の引抜ロール間に通して引抜延伸した後に上記引抜延伸方向に一軸延伸することによって得られた延伸熱可塑性ポリエステル系樹脂シートからなる帯状体を複数本、所定間隔毎に並設してなる帯状体列と、この帯状体列の帯状体に交差する方向に複数の帯状体を所定間隔毎に並設してなる帯状体列とからなり、これらの帯状体列の帯状体の交差部を一体化することにより多数の通孔が設けられてなる網状体である、請求項1に記載の車両用シート。
【請求項3】
前記網状体が、所定間隔毎に並設してなる複数本の太幅帯状体と、互いに隣接する太幅帯状体同士を該太幅帯状体に対して斜行した状態で連結している複数本の細幅帯状体とを有し、かつ、太幅帯状体と細幅帯状体とで囲まれた部分によって貫通孔が形成されている第1、第2の帯状体列がそれらの太幅帯状体同士が互いに交差するように積層一体化されてなり、上記第1、第2の帯状体列は、熱可塑性ポリエステル系樹脂シートを一対の引抜ロール間に通して引抜延伸した後に上記引抜延伸方向に一軸延伸することによって得られた延伸熱可塑性ポリエステル系樹脂シートに前記引抜延伸方向に長いスリットを形成して上記引抜延伸方向に直交する方向に引っ張って拡張させてなる構造を有する網状体である、請求項1に記載の車両用シート。
【請求項4】
前記網状体が、熱可塑性ポリエステル系樹脂シートを一対の引抜ロール間に通して引抜延伸した後に上記引抜延伸方向に一軸延伸することによって得られた延伸熱可塑性ポリエステル系樹脂シートからなる帯状体を経糸及び緯糸として織成し、前記帯状体間に多数の通孔が形成されている網状体である、請求項1に記載の車両用シート。
【請求項5】
前記基材において、前記網状体の両面に前記合成樹脂シートが積層されている、請求項1〜4のいずれか1項に記載の車両用シート。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2013−82303(P2013−82303A)
【公開日】平成25年5月9日(2013.5.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−223090(P2011−223090)
【出願日】平成23年10月7日(2011.10.7)
【出願人】(000002174)積水化学工業株式会社 (5,781)
【Fターム(参考)】