説明

車両用トランスミッション装置並びにその制御方法

トランスミッション装置(1b)は、入力シャフト(2ab)に連結されたクラウンホイールと、アイドラーホイール(16)によって逆方向に回転することを阻止されている遊星ギア(9)とを有するエピサイクリック歯車列(7)を具えている。遊星ギアキャリア(13)は出力シャフト(2bc)に連結されている。クラウンホイール(8)と遊星ギアキャリア(13)は、フライウエイト(29)とスプリング(34)とによって作動せしめられて係合するクラッチ(18b)を介して連結され、直接駆動作用をなす。この係合がトルクを伝達するの充分な場合には、遊星ギア(9)の速度はアイドラーホイール(16)によって減少せしめられ、最後には停止する。これによって装置は減速機として作動し、螺旋歯による軸方向の推力(Pac)が発生し、クラッチを切り離す。この装置をピストン(44)によって減速機として作動させることも可能であり、該ピストンはケージ(20)をクラッチ(18b)の切離し方向に押し、ブレーキ(43)を作動させて遊星ギア(9)を制動し、通常はアイドラーホイール(16)によって可能となっている方向の回転さえも阻止する。車両のエンジンが維持モードで作動する場合には、トランスミッション装置は減速機として使用される。

【発明の詳細な説明】
車両用トランスミッション装置並びにその制御方法 本発明は、少なくとも二つの伝達比を有する車両用自動トランスミッション装置に関する。
本発明は、このトランスミッション装置を制御する方法にも関する。
WO-A-9207206の特許には、二つの相反する力のどちらが大きいかに応じて、エピサイクリック歯車列等のディファレンシャルギアの二つの回転エレメントをクラッチが選択的に接続する自動トランスミッションシステムが開示されている。
これは、例えば軸方向に可動に取付けられた螺旋歯によって推力を発生し、以てスプリング及び/又は遠心回転計量手段によって生じたクラッチを係合させようとする力に対抗してクラッチを解放しようとするものである。クラッチが解放されると、ディファレンシャルギアの第3の回転エレメントは回転を阻止されるが、これは該第3エレメントが反対方向に回転するのを阻止するフリーホイールによって得られる。
このタイプのトランスミッションシステムの基本作用は外部動力源やセンサ及び制御回路等を必要としないので、非常に有利である。このトランスミッション装置自体が、それの制御に用いられる力を発生し、該力は、同時に、制御を必要とするパラメータの指標ともなる。
しかし、このようなトランスミッション装置は、加速ペダルが解放されてエンジンが車両にある程度のブレーキ効果を及ぼすように、直接的にうまく牽制作用(hold-back operation)を行うことはできない。この場合、エンジンの抵抗トルクはその回転速度のみに依存し、従って、ドライバにとって必要な減速の指標とはならない。
更に、このトルクは螺旋歯の反作用によって検出され、該反作用は牽制作用中にその方向を変えるので、クラッチを解放することはできない。更に、フリーホイール構造の場合には、歯の反作用によってクラッチが解放されて減速機作用の状態の一つが得られたとしても、他方の状態は不満足のままである。牽制作用の際にディファレンシャルギアの第3の回転エレメントは反対方向に回転せずに、フリーホイールでは阻止できない高速で正常方向に回転する。
本発明の目的は、選択的に接続するための手段が変化する対抗力によって制御されると共に、対抗力によって規定される状況から離れた状況、特に車両エンジンが牽制作用を行っている場合に減速機作用を行うことができるトランスミッション装置を提供することにある。
本発明によれば、相互に噛み合う歯の組合せと、トランスミッション装置の少なくとも一つの動作パラメータに依存して単調に変化する少なくとも一つの力を生じる応力対抗手段の影響を受ける選択的接続手段とを具え、前記歯の組合せは前記選択的接続手段が接続状態にあるか非接続状態にあるかに応じて二つの異なった伝達比を生じるように構成されているトランスミッション装置であって、前記トランスミッション装置の接続状態又は非接続状態の一方を増強する補助的な付加応力手段を具えたことを特徴を有するトランスミッション装置が提供される。この補助付加応力手段は、トランスミッション装置に、該装置を正常に制御する対抗力の一つの増分又は再現に近似した力を付加し、応力対抗手段のみによる自動制御の場合に比べて一方の伝達比による装置の動作を更に援助する。
前記歯の組合せは、噛み合い歯を有する複数の回転エレメントを具えたディファレンシャルギアであり、前記選択的接続手段は、二つの回転エレメントの間に取り付けられた、前記ディファレンシャルギアを第1及び第2伝達比に応じて選択的に作動させるクラッチであることが望ましく、クラッチによって前記二つのエレメント間の相対回転が許容される場合に、ディファレンシャルギアの回転エレメントが反対方向に回転しないように、フリーホイールが設けられている。この場合、次の手段を設けることが望ましい。
─フリーホイールとは別個の、回転反作用エレメントを選択的にブロックする静止手段、及び ─前記静止手段をブロック方向に同時に作動させ、付加応力手段をクラッチの解除方向に作動させる作動手段。
前記作動手段が作動すると、クラッチの解放と、反作用エレメントが正常方向に回転しようとする場合に該反作用エレメント自体を静止させることの両方が可能となる。こうして、たとえ装置の入力シャフトが負のトルク即ち回転方向と反対向きのトルク(牽制トルク)を受けている場合でもディファレンシャルギアを減速機として作動させるために必要な条件が得られる。
本発明の第2の目的によれば、前記応力対抗手段が前記接続手段を接続させる方向に付勢している弾性手段である前記第1の目的によるトランスミッション装置を制御する方法は、この装置の出力シャフトを始動させるために、前記付加応力手段が作動して前記選択的接続手段を前記弾性手段に抗して非接続状態になし、運動が最低の伝達比で開始される。従来から、伝達比が「低い」とは、出力速度が入力速度に比して低いことを意味する。逆の場合には、伝達比が「高い」と称する。
本発明の第3の目的によれば、第1の目的にかかるトランスミッション装置を制御する方法は、装置の入力シャフトに加わるトルクが該シャフトの回転方向と反対方向の場合、付加応力手段が選択的に作動せしめられて歯の組合せを最も低い伝達比で作動させることを特徴とする。
本発明の第4の目的によれば、第1の目的にかかるトランスミッション装置を制御する方法は、車両のドライバが動力を必要としていることが検出された場合に、付加応力手段が作動せしめられることを特徴とする。
本発明の第5の目的によれば、第1の目的にかかるトランスミッション装置を制御する方法は、フライウエイトの力が、装置の入力時に過剰速度を生じる危険性無しに伝達比を高い方から低い方に移行させることが可能な速度に対応していなければ、選択的接続手段に、該接続手段を接続させるように付勢する遠心フライホイールの力を超えない力を加えるように、付加応力手段が作動せしめられることを特徴とする。
本発明のその他の詳細と利点については、非限定的な実施例に基づいて以下に更に詳しく述べる。
添付の図面において、 図1は、本発明の順次に並んだ数個のトランスミッション装置を具えた四つのギア比を有するトランスミッションシステムの長手方向の概略断面図であり、図の上方部分は休止位置を、下方部分はニュートラル位置を示す。
図2は図1の左上の拡大図である。
図3〜5は図1の上半分と同様の図であるが、それぞれ第2ギアと第4ギアにおける作用に関するものと、第3ギアにおける牽制作用に関するものである。
図6は、図1〜5に示すスタータポンプの概略正面図である。
図7は、図1〜5に示すトランスミッションシステムの流体回路図である。
図8は、図1〜5に示すトランスミッションシステムの別の流体回路図である。
図9は、図1の左上の部分に対応する第2実施例の図である。
図10は、図1の右側部分に対応する第3実施例の図である。
特に自動車用を意図した図1に示す四つのギア比を有するトランスミッションシステムは、それぞれ二つのギア比を有してトランスミッションシステムの入カシャフト2aと出力シャフト2cとの間に直列に設けられた三つの連続したトランスミッション装置(又はモジュール)1a、1b、1cを具えている。入力シャフト2aはモジュール1aの入力シャフトも構成している。これは、クラッチの介在なしにエンジン5の出力シャフトに 連結されている。出力シャフト2bは同時にモジュール1cの出力シャフトを構成し、噛み合うことによって車両の駆動ホイールを駆動するためのディファレンシャルの入力端を、駆動するように構成された歯付きホイールを有する。この歯付きホイールとディファレンシャルの入力端の間には、手動の前進ギア/後退ギア切替装置を介在させてもよい。
入力シャフト2aはトランスミッシヨンシステム全体を貫通して延在し、第1モジュール1aは車両のエンジンから最も離れている。第3モジュール1cは、歯付き出力ホイールがエンジンに非常に接近するようにエンジンに最も近く配置されている。モジュール1bと1cは入力シャフト2aに対して回転可能に連結されずに、該シャフトの周囲に配置されている。
トランスミッションシステムの中心線に沿って、入力シャフト2aと出力シャフト2cとの間に二つの相次ぐ中間シャフト2abと2bcが設けられ、それぞれが上流側に設けられたモジュール1aと1bの出力シャフトと、下流側に設けられたモジュール1bと1cの入力シャフトを構成する。入カシャフト2a、中間シャフト2ab,2bc、出力シャフト2cはトランスミッションハウジング4に関して軸方向に定位置を占めている。この理由によって、入力シャフト2aは回転可能に支持され、軸受3aによってハブ111内に軸方向に定位置を占めている。ハブ111自体は回転可能に支持され、軸受3abによってハウジングに関して軸方向に定位置を占めている。中間シャフト2abは、軸方向軸受B1を介して入力シャフト2aに対して回転可能に軸方向に当接している。中間シャフト2bcと出力シャフト2cは、それぞれローラ軸受3bcと3cによってハウジング4に対して支持されている。
各モジュールは減速機作用又は直接駆動作用を行うことができる。三つのモジュールが減速機作用を行うと第1ギア比が得られ、第1モジュール1aが直接駆動作用を行い、他の二つのモジュールが減速機作用を行うと第2減速比が得られ、第1及び第2モジュール1aと1bが直接駆動作用を行い、第3モジュール1cが減速機作用を行うと第3ギア比が得られ、三つのモジュールが直接駆動作用を行うと第4ギア比が得られる。
次に、図2を参照してモジュール1bの更に詳細な説明を行うが、この説明はモジュール1cに対しても同じであり、後者は入力シャフトがシャフト2bcであり、出力シャフトが軸受3cで支持されたシャフト2cであることを除いて、前者と同じ構成である。
エピサイクリック歯車列7は、内歯を有するクラウンホイール8と外歯を有する太陽ギア9とを具え、この両者は、出力シャフト2bcに固定された遊星ギアキャリア13によってトランスミッシヨン装置の中心線12の周囲に等角度間隔で支持された遊星ギア11と噛み合っている。該遊星ギア11は遊星ギアキャリア13の偏心したトラニオン14の周囲を自由に回動可能である。太陽ギア9はトランスミッション装置の中心線12を中心に、取り囲んでいる出力シャフト2bcに対して自由に回転可能である。しかし、太陽ギア9が、トランスミッションハウジング4に関して逆転、即ち入力シャフト2abの通常の回転方向と逆に回転しないように、フリーホイール装置16が防止している。クラウンホイール8は、スプライン17によって、モジュールの入力シャフト2abに対して回転と軸方向のスライドが可能に連結されている。
クラッチ18bがクラウンホイール8の周囲に設けられている。該クラッチは、交互に積層された円板22と円板19を有する。該円板19はクラウンホイール8に回転可能に連結され、且つ軸方向にスライド可能である。この目的のために、円板19はクラウンホイール8と一体化されたスプライン21に噛み合う内歯を有する。円板22は回転可能に連結され、且つ遊星ギアキャリア13に対して軸方向にスライド可能である。この目的のために、ケージ20はその半径方向の内面にスプライン23を有し、これに円板22の外歯と遊星ギアキャリア13の外歯24とが軸方向にスライド可能に係合している。
円板19と22は、遊星ギアキリャア13に一体化された保持プレート26とクラウンホイール8に一体化された可動プレート27との間で圧接される。従って、該プレート27はクラウンホイール8と共に軸方向の可動である。
ケージ20は、クラッチ18bの周囲のリングに設けられた遠心カフライウエイト29を支持している。
従って、これらのフライウエイトは、それの属するモジュール1bの出力シャフト2bcに回転可能に連結されている。
各フライウエートは円板19と22の外側の周囲に設置された中実体31と、スプリング34によって保持プレート26の外面に当接している作用端32とを有する。該作用端32は、装置の中心線12に関して接線方向に位置する軸を中心にケージ20に軸支されたL型アーム33によって、前記中実体31に連結されている。WO-A-91/13275には、このようなフライウエイトの軸支のための好ましい構成が開示されている。フライウエイトの重心Gは中実体31の内側又は近傍にあり、装置の中心線12に並行に測定して軸28に対して一定の距離にある位置を占めている。
これにより、遊星ギアキャリア13が回転すると、フライウエイト29の本体31をその遠心力Faの影響によって半径方向に外側に軸28を中心に回動させ、これをケージ20に対するストッパ36によって規定された当接位置から離れた位置まで、図4に示すように移動させる。
これによって、先端32とフライウエイトの回動軸28との間の、従って先端32とケージ20との間の相対的な軸方向の移動が生じる。フライウエイト29の遠心力に対応する変位の方向に関しては、ケージ20は、推力軸受B2によってクラウンホイール8に対して回転可能に軸方向に当接する。
先端32に対するケージ20の変位によって、先端32とクラッチ18bの可動プレート27が一緒に牽引される。この相対運動は、(Belle ville)スプリング34の圧縮及び/又は固定プレート26の方へのクラッチ18bの係合方向の可動プレート27の運動に対応する。
図1の上の部分及び図2に示すように、トランスミッションシステムが停止している場合に、スブリング34はフライウエイト29のストッパを通じてケージ20に力を伝達し、この力によってクラッチ18bを係合して、モジュール1bの出力シャフト2abが回転可能に出力シャフト2bcに接続されるようにし、該モジュールがスプリング34の保持力によって規定された最大設定値までのトルクを伝達可能な直接駆動作用を実施可能にする。
クラウンホイール8、遊星ギア11及び太陽ギア9の歯は、はす歯(helical)である。従って、荷重下で噛み合う各歯の対には、円周方向の力に比例した即ち入力シャフト2abと出力シャフト2bc上のトルクに比例した推力が生じる。この歯の螺旋ピッチ角は、クラウンホイール8がトルクを伝達する際に該ホイールに生じる推力Pacの方向が、クラウンホイール8によって軸方向に牽引される可動プレート27をクラッチ保持プレート26から離す方向となるように選ばれる。クラウンホイール8とだけでなく太陽ギア9とも噛み合う遊星ギア11は、互いに反対向きの釣り合った軸方向反作用PSIとPS2を受け、太陽ギア9は、遊星ギア11との噛み合いを考慮して、クラウンホイール8の推力Pacと大きさが等しく方向が反対の推力Papを受ける。太陽ギア9の推力Papは、推力軸受B3、遊星ギアキャリア13及び軸受3bcを経てハウジング4に伝達される。こうして、推力Pacは、クラッチ18bをハウジング4とクラッチ保持プレート26に対して解放する方向に可動クラッチプレート27に作用する。推力軸受B2によってケージ20に伝達されるこの力は、フライウエイト29の先端32と保持プレート26を互いに接近させるように作用し、フライウエイト29を静止位置に維持すると共にスプリング34を圧縮する。
この状態は図3に示されている。この状態に達したと仮定して、次にモジュール1bの基本作用について説明する。入力シャフト2abによってモジュールに伝達されるトルクに関する限り、クラウンホイール8の推力Pacはスプリング34を圧縮しフライウエイト29を図3に示す静止位置に維持するのに充分であり、クラッチの保持プレート26と可動プレート27との間の距離は、円板19と22とが互いにトルクの伝達なしにスライドできるようになっている。この場合、遊星ギアキャリア13は入力シャフト2abの速度と異なる速度で回転可能であり、モジュールの出力シャフト2bcによって駆動される荷重によって停止させられる傾向にある。この結果、遊星ギア11は運動反転装置として作用し、即ち、太陽ギア9をクラウンホイール8の回転方向と反対方向に回転させようとする。しかし、これはフリーホイール16によって阻止される。こうして太陽ギア9はフリーホイール16によって静止させられ、遊星ギアキャリア13は太陽ギア9のゼロ速度とクラウンホイール8並びに入力シャフト2abの速度との中間の速度で回転する。こうしてモジュールは減速機作用を行う。この回転速度が増加し且つトルクが変わらずに維持されていれば、遠心力が保持プレート26と可動プレート27との間に推力Pacよりも大きい軸方向の引込み力を生じる点に到達し、可動プレート27は保持プレート26の方に押されて直接駆動が行われる。
クラッチ18bが係合すると、エピサイクリック歯車列7はもはや作動せず、即ち該歯車列は何の力を伝達せず従って推力を発生しない。このようにして、遠心力に起因する推力はプレート26と27同士を引きつけ合うように充分に働くことができる。これによって、直接駆動を行うやり方を更によく理解できる。円板19と22が互いに擦れ始めて動力の一部の伝達を開始すると直ぐに、歯はその分だけ解放されて推力Pacはその分だけ減少し、そしてクラッチ18bが完全に直接駆動可能になるまで、遠心力の影響が次第に増加する。
次いで、フライウエイト29がもはやクラッチでのトルク伝達のための充分な引込み力を提供しなくなる点に到達するまで、出力シャフト2abの回転速度が減少し及び/又は伝達されるトルクが増加する。この場合、クラッチ18bはスリップを始める。太陽ギア9の速度はそれがゼロになるまで減少する。フリーホイール16は太陽ギアを静止させ、歯の力Pacが再び発生してクラッチを解放し、モジュールは減速機作用を行う。このようにして、減速機作用と直接駆動作用の間の切替えが起こる度に、軸方向力Pacは新たに確立された伝達比を安定化する方向に変化する。これは、一方では、作用の臨界点の近傍で伝達比の変化が頻繁に生じることを防止し、他方では、クラッチ18bのスリップが一時的にしか生じないないようにする大きな効果をもたらす。
スプリング34は二重の目的を有する。一つは、トランスミッションシステムが停止している場合にクラッチを牽引することによって、モジュールの入力及び出力シャフトの間の機械的接続を行う。この機能は三つのすべてのモジュールにおいて行われるので、車両が停止している場合に、エンジン自体が停止していればそれはエンジンによって牽制されている。停止中にクラッチ18bが解放されたとすると、エンジン5によってクラウンホイール8が静止して、太陽ギア9はフリーホイール16によって制止されることなく正常方向に回転してしまい、車両の自由前進を阻止することができないであろう。
もう一つには、スプリング34はモジュールに比較的低い速度での直接駆動作用を行わせることができる。このような低速では速度の自乗に比例する遠心力が低く、伝達されるべきトルクが非常に小さい場合にも、実用上望ましくない減速機作用が継続され又は減速機作用に復帰しようとする傾向が見られるものである。
モジュール1bに比較したモジュール1aの違いについて述べる。
入力端をクラウンホイールに、出力端を遊星ギアキャリアに有するエピサイクリック歯車列を使用して、1.4:1より高い減速比を得ることは容易ではない。そのような比では、第2ギアに入る際のエンジン速度の減少は40%であろう。これは第1ギアから第2ギアに移るためには少し低過ぎる。入力が太陽ギアを通じて行われ、出力が遊星ギアキャリアを通じて行われるならば、減速比は実用上少なくとも3なり、これは高過ぎる。実際的には、太陽ギアを通じた入力とクラウンホイールを通じた出力によって任意の減速比が得られるが、この場合にはクラウンホイールは太陽ギアと反対方向に回転する。これは、クラウンホイールの回転方向は、モジュールが直接駆動作用を行っている場合と減速機作用を行っている場合とで同じではないので、受入れ難いものである。
これらすべての問題を一挙に解決するために、モジュール1aはその入力シャフト2aを太陽ギア8aに、出力シャフト2abをクラウンホイール8aに接続され、減速機作用の際にもクラウンホイール8aの回転方向を太陽ギア9aの回転方向と同じにするために、各遊星ギアは、相互に噛み合うと共に一方は太陽ギア9aと噛み合い、他方はクラウンホイール8aと噛み合う二つの遊星ギア11a列に置き換えられている。遊星ギアキャリア13aは、フリーホイール16aによってハブ111に連結されている。
ハブ111はスタータブレーキ38のインペラ37に一体化されている。図6にも示されているように、ブレーキ38はギアポンプを具え、そのインペラ37は四つのポンピング遊星ギア39を駆動する駆動用太陽ギアを具え、これらの遊星ギアは、トランスミッションシステムのオイルタンクに接続された吸引ポート41と排出ポート42の間に相互に流体的に並列に設けられている。排出パイプ42にはバルブ40が設置され、ポンプを通ってオイルを選択的に流したり阻止したりすると共に、ポンプの出口におけるヘッドの損失を調整する。バルブ40が閉じると、オイルが流れなくなってポンプが停止し、インペラ37は回転できず、フリーホイール16aは遊星ギアキャリア13aを正常方向にのみ回転させる。逆に、バルブが開くと、インペラ37は自由に回転する。この場合、遊星ギアキャリア13aは反対方向に回転し、それを有するハブ111をフリーホイール16aによって駆動し、これによって図6に示す方向のポンピング作用を行う。バルブ40が開くと自動的にニュートラル状態になり、即ち、入力シャフト2aと出力シャフト2cが切断されて車両が停止し(出力シャフト2cが停止し)、且つ入力シャフト2aが回転を続ける状態が得られる。この機能により、通常はエンジン5とトランスミッションシステムとの間に設置されているクラッチやトルクコンバータを省略することが可能となる。出力シャフト2cの運動を漸進的に定常化するために、バルブ40は徐々に閉じて、バルブ40を通じてヘッド損失を増加させてインペラ37を徐々に停止させる。
別の例では、バルブ40に並列に逆止バルブ45を取付け、オイルが図6に示す方向と反対向きに流れる場合、即ちオイルが排出ポート42を通じて取り入れられ、吸引ポート41を通じて排出される場合、オイルがバルブ40を迂回することができるようにしている。この逆止バルブ45によって、フリーホイール16aを省略して、このフリーホイールの機能を逆止バルブ45によって流体的に代替させることが可能となる。この構成により、フリーホイールの占める無視し得ない空間が不要となるが、代わりにモジュール1aが、遊星ギアキャリア13aが入力シャフト2aが同じ速度で正常方向に回転する直接駆動作用を行う場合の流体摩擦による損失が加わる。
図2に示されているように、ブレーキ38の一部を形成している流体ポンプは特に簡単なやり方で作られている。各遊星ギア39は、エンジン5と反対側のハウジング4の端部に固定されたカバー49の空所48内に単に入れられている。
該空所の周面51は、各遊星ギア39の歯の先端と凹所48のベース面52に対してオイルが漏れないような方式で接触し、歯4の外側端面53は各遊星ギア39の二つの半径方向の面に対してオイルが漏れないように方式で接触している。更に、インペラ37はその歯の両側面に互いに反対側を向いた二つの環状面54と56を有し、その一方はカバー49の内側ベースとオイルが漏れないような方式で接触し、他方は歯の外側面と接触している。遊星ギアの歯と遊星ギアの半径方向面のカバー49及びハウジング4に対するこれらの種々のオイル漏れしない接触によって、遊星ギアは回転を続けることができる。
モジュール1aのフライウエイト29用のケージ20aは、他のモジュール1b,1cと同じくモジュールの出力シャフト2abと一体的に回転可能であるが、該シャフトと軸方向にも一体化されている。従って、ケージ20a及びそのピン28とフライウエイト29は軸方向に移動不可能である。
逆に、フライウエイト29の先端32は保持プレート26上に当接せず、なおスプリング34によってクラッチ18aの可動プレート27に当接している。この可動プレート27は、他のモジュールの場合と同じく、出力シャフト2abに回転可能に連結されたケージ20aに対してスプライン17aによって軸方向の可動であるクラウンホイール8aと一体的になっている。保持プレート26は出力シャフト2aと一体化されている。
モジュール1aの作用はモジュール1b及び1cと同じである。フライウエイト又はスプリング34は伝達可能な最大トルクを決める力によってクラッチ18aを引き込もうとし、減速機作用を行う際にはクラウンホイール8aの螺旋歯の軸方向の力が可動プレート27をクラッチを解放する方向に押す。
次に、三つのモジュール1a,1b,1cの一般的な作用について説明する。
すべてのモジュール1a−1cが、トランスミッション装置の第1減速比が得られる減速機作用を行う場合(図1の下方の部分)を考えると、三重の矢印Faと一重の矢印Pacで示されるように、モジュール1aにおいて速度は最高でトルクは最低である。従って、この第1モジュール1aは、図3に示すように車両が加速されている時に直接駆動作用に入る最初のものである。第1モジュールにおけるギアダウンによってはトルクはもはや増加しないので、第2モジュール1bにおいてはトルクは減少しているが、第2モジュールにおける回転速度は変わらず、従って、速度は車両のホイールの回転速度によって生じるので、変化の直前の第1モジュールにおける速度よりも低い。従って、エンジンから供給されるトルクが変わらない場合に、第2モジュールが自分の番になって直接駆動に入るための状態に達することが可能になる前に、車両の速度を更に増加させて、トランスミッション装置のすべてのモジュールが図4に示すように直接駆動モードになるまでこれを続ける必要がある。こうして、すべてが基本的に同じモジュールは、それら自体で自然に段階的な速度比の経過を得るように構成されている。モジュール1aに関して述べた差異はこの点に関しては影響がない。
所与の状況下で直接駆動作用を行うモジュールの中で、出力シャフト2cに作用的に最も近接しているモジュールにいつもシフトダウンを行わせるようにするために、作用的に出力シャフトに接近しているモジュール程、そのフライウエイトの数を少なく即ち軽くし、又はそのクラッチの円板の数が少なくなるようにしてもよい。しかし、伝達されるトルクに応じて、各モジュールにそれに隣接するモジュールに比して数%程度の僅かな変化を与えることは容易である。
図2を参照し、且つスプリング34、フライウエイト29及びクラウンホイール8の軸方向の力によって生じる条件とは異なる条件下での減速機作用を選択的にモジュールに行わせるためのモジュール1bと1cに設けられた補助手段について、モジュール1bに関して次の説明を行う。
この目的のために、モジュール1bは、フリーホイール16とは別にハウジング4に対して太陽ギア9を静止させるブレーキ43を有する。換言すれば、ブレーキ43は太陽ギア9とハウジング4との間にフリーホイール16に並列に取付けられている。流体ピストン44が、選択的にブレーキ43を作用させたり解除したりできるように、軸方向にスライド可能に設けられている。ブレーキ43とピストン44とは、トランスミッションシステムの中心線を自らの中心線12とするリング状をなしている。ピストン44は流体チャンバ46bの隣に設けられ、該チャンバには加圧流体が選択的に供給されてピストン44を復帰スプリング55の作用に抗してブレーキ43の作用方向に押すように構成されている。
更に、ピストン44は、軸方向の軸受B4によってケージ20に対して当接可能なプッシャ47に固定されている。チャンバ46b内の圧力によってピストン44がブレーキ43の作動位置まで押されると、ブレーキ43が作動する前にケージ20が充分に押されてクラッチ18bを解放するように組み立てられている。
ピストン44がブレーキ44を作動させる位置を占めている時、たとえ遊星ギアキャリア13がクラウンホイール8より速く回転したとしても、太陽ギア9は牽制作用の場合のように静止したままであり、その結果、モジュールは、クラッチ18bの解放によって減速機作用を行う。
上に述べたアセンブリ43,44,46b及び47は、坂を下る時のようにエンジンのブレーキ効果を増大したい場合に、自動車のドライバがモジュールに減速機作用を行わせることのできる手段を提供する。
上述のように、スプリング34は、車両が停止しているときにすべてのモジュールを直接駆動モードにすることが判った。動き始めると、歯の力Pacが発生して全てのモジュールに減速作用を行わせ、システムを第1伝達比で運動させる。これによって好ましくないシステムの急速加速が生じることがある。これを回避するために、モータは回転しているが出力シャフト2cがまだ回転していない場合に、ブレーキ43、ピストン44及びプッシャ47のアセンブリがモジュール1bを「減速機」状態になし、出力シャフト2cの運動が始まった時点からトランスミッションシステムが第1伝達比で作動できるようにする。
上述の機能を行わせるように流体チャンバ46bに圧力を供給するために、中心線12を中心とするフライウエイトの回転速度に如何にかかわらず、該フライウエイト29によって反対向きに発生する軸方向の力に確実に打ち克つように充分に高く選ばれた流体圧が使用される。
しかし、安全上の理由から、減速機作用に入る過程でエンジンが過剰速度にならないように、フライウエイトの回転速度が充分に低くなければ、ピストン44の軸方向力がフライウエイト29の対抗力を超えないような値に限定された圧力を、流体チャンバ46bに供給するようにしてもよい。
ドライバが入力シャフト2aを高速回転させるような生き生きとした運転を望む場合には、流体チャンバ46bに、フライウエイトによって生じる引込み力よりも小さい力をケージ20に及ぼす一定の適度な圧力を供給してもよい。こうして、フライウエイトの所与の回転速度での直接駆動における伝達可能なトルクが小さくなり、減速機モードで作動しているトランスミッシヨンシステムが所与のトルクに対して直接駆動に復帰する最低速度が高くなる。
ピストン44は、直接駆動作用と減速機作用との間の移行を早めるのにも使用可能である。ドライバがエンジンを急に全開にすることを必要とする場合、これを検出して、1,2秒間継続する圧力波動をチャンバ46bに送る。この圧力波動は瞬間的にクラッチ18bを解放して、直ちに減速機作用を行わせる。チャンバ46b内に圧力が無くなると、伝達されるべき強力なパワーによる減速機作用が、減速機作用を維持しようとする強力な歯端推力を発生させるので、モジュールは直接駆動作用に引き戻されない。換言すれば、歯の力が、新たに確立された伝達比を安定化させる方向に組織的に変化するので、所望の変化の方向へ力を一旦加えれば、あとはモジュールの内部力によってモジュールの挙動が充分に再制御される。又、出力シャフトの速度が所定のしきい値以下の場合でなければ、圧力の波動がフライウエイトの力より大きくなることができないようにすることも可能である。
モジュール1cは、ブレーキ43、ピストン44、チャンバ46c、プッシャ47及び推力軸受B4を具え、これらはモジュール1bの場合と同じものである。
これに対して、モジュール1aは異なっている。これは流体チャンバ46aに隣接するピストン44aを有するが、ブレーキ43のようなフリーホイール16aに平行なブレーキは持っておらず、更にピストン44は推力軸受B5を介して、軸方向に静止しているケージ20aにではなくクラウンホイール8aとクラッチ18aの可動プレート27に、該クラッチ18aを解放させる方向に作用する。このアセンブリの目的は、車両は停止しているがシャフト2aが既に回転を続けている場合に、バルブ40が開いた状態で可能なようにクラッチ18aを簡単に解放することにある。いわゆる「本場の」ドライビングのための減速機作用を促進するため、又はドライバが前述したように加速ペダルを完全に踏み込んだ場合に圧力の波動を送るために、ピストン44aを使用することもある。これとは逆に、ピストン44aがエンジンが牽制作用を行う場合には、ピストン44aは減速機作用を行うのに使用できない。事実、トランスミッションの第1伝達比に牽制作用を行うことは実用上無意味であると考えられている。
トランスミッションシステム全体としての別の状態を考察するために、再び図1,3〜5を参照する。
図1の上部においては、すべてのクラッチ18a,18b,18cが係合し、スタータブレーキ38はバルブ40が復帰スプリング50によって閉鎖位置に維持されてブロックされているので、トランスミッションシステムは静止している。ピストン44と44aはスプリング55の作用によって不動作位置の方に押されている。
図1の下部に示されている状況では、バルブ40は開放位置にあってインペラ37を解放している。流体チャンバ46a,46b,46cには流体が供給されてクラッチ18a,18b,18cを解放し、対応するスプリング34とピストンの復帰スプリング55とを圧縮している。これは、例えばエンジン5がアイドリングしている状態であり、出力シャフト2cは停止(車両は静止)している。
スタータブレーキ38は、モジュール1aの出力シャフト2ab及び他のモジュール1b,1cを回転させることなく、入力シャフト2aを回転させることを可能にする。遊星ギアキャリア13aとハブ11は正常の場合と反対方向に回転し、この状況を可能にする。この段階で、インペラ37は、その慣性効果をエンジン5の通常のフライホイールの慣性効果に付加する。エンジンのフライホイールは、主としてアイドリング時においてエンジンのピストンの一つかその圧縮ストロークの終端に達した時に、慣性荷重に接続されていないエンジンがその回転を続行できるようにするのに有用であるので、非常に利点がある。逆に、正常作用の際には、従来のエンジンのフライホイールは車両の加速性能を阻害する。車両が停止している場合だけインペラ37を回転させることにより、小さいフライホイールを以てエンジン5における同じアイドリング安定性が得られ、更に、インペラ37が次に停止するので正常作用時にはインペラ37の慣性が消失する。
図1の下部に示す状況に対応するニュートラル作用から第1伝達比での作用に至る間に、バルブ40は徐々に閉じて第1モジュールの出力シャフト2abを徐々に回転させ、その回転運動は各モジュールにおける速度を減少させることによって出力シャフト2cまで伝達される。車両が一定の速度、例えば時速5kmに到達すると、流体チャンバ46a,46b,46cの圧力は解放され、前述のように、歯の力Pac、遠心力Fa、スプリング34の弾性力がアセンブリの自動制御における主役を演じるようになる。
図5は、トランスミッションアセンブリが直接駆動作用を行っている状態から、モジュール1cの流体チャンバ46cに圧力が供給されてブレーキ43が作動し、同時に該モジュールのクラッチ18cが解放された状態を示す。こうして、このモジュールのピストン44は該モジュールに減速機作用を行わせ、大きなエンジン制動効果を生じさせたり、急速加速の目的で迅速に減速機作用に復帰させたりする。
次に図7を参照して、ピストン44と44aを制御するチャンバ46a,46b,46cの流体圧力を制御するための流体回路を説明する。
シャフト2aによって駆動されエンジン5と同じ速度で回転する入口流体ポンプ57が、図1〜5には図示されていないやり方でトランスミッションシステムの入力シャフトに設置され、トランスミッションシステムの出力シャフト又は該出力シャフトの下流側には出口流体ポンプ58が設置されている。ポンプ57は、エンジンの回転速度の如何にかかわらず一定の圧力、例えば逃がしバルブ59によって維持されている200kPaの圧力を供給するように構成されている。
これに対して、出口ポンプ58は回転計量ポンプとして作動し、トランスミッションの出力シャフトの速度に比例する、即ち車両速度に比例する圧力を供給する。
入口ポンプは、逃がしバルブ59の上流側において、トランスミッション潤滑回路60に接続可能な中圧分岐管61に圧力を供給ししている。入口ポンプは、バルブ59の下流側で、圧力が端部逃がしバルブ63によって例えば100kPaに維持されている低圧分岐管62に圧力を供給している。各流体チャンバ46a,46b,46cは両分岐管61,62のいずれかを通じて、入口バルブ64を介して圧力を供給され、該入口バルブはそれの受ける二つの圧力のうちの高い方の圧力を組織的にそれぞれに連携しているチャンバ内に送る一方、該圧力が他方の分岐管に流れないようにうに構成されている。低圧分岐管62の圧力の供給は切替えバルブ66によって制御され、該バルブが開放位置にある場合には、チャンバ46a,b,cに圧力を加えてモジュールに減速機作用を行わせる。この圧力は、手動制御67によって恒常的に加えられてもよいし、加速ペダルが深く踏み込まれた場合に作動するダンパ68によって、1,2秒間継続する圧力波動の際に短時間だけ加えられてもよい。
分岐管61からの中圧を送る決定は、個々のバルブ69a,69b,69cによって各チャンバ46a,46b,46cに対して個々に行われる。バルブ69a,69b,69cが休止位置を占めている場合、対応するチャンバ46a,46b,46cには中圧が供給され、対応するモジュールは減速機作用を行うか、又は該作用を行う態勢にある。出口ポンプ58の圧力が各バルブに加えられると、バルブは閉鎖位置に移動する。第1モジュール1aに対応するバルブ69aの場合、該バルブは車両速度が時速約5kmに達すると閉鎖位置に移動する。
他の二つのバルブ69bと69cは、車両速度がそれぞれ30kmと50kmを超え、三つの位置「4」,「3」,「2」の間を可動のカム71が位置「4」
を占めた時に閉鎖位置に移動する。手動のセレクタによって制御されるこのカムが位置「3」を占めた時、及び位置「2」を占めた時にはなお、各バルブ69bと69cの復帰スプリング72は更に圧縮されて開放位置へ向かう復帰力を増加させ、個々のバルブを閉鎖位置に移動させるのに必要な車両速度が高くなる。
更に、各バルブ69bと69cは、閉鎖位置へ移行する過程で車両速度に対応する圧力に加えて、選択的に分岐管61の中圧を受ける。これは、通常は閉鎖位置にあるアイドリングバルブ73が出口ポンプ58の圧力によって開放位置に押される場合に生じる。制御バルブ74自体が開放位置を占めている場合に、ポンプ58の圧力がアイドリングバルブ73に加えられる。制御バルブ74は、車両の加速ペダル76が踏み込まれた場合に開く。
次に図7に示す流体回路の作用を説明する。
車両が静止している場合、加速ペダル76は解放され、エンジンアイドリング制御バルブ74は閉鎖位置を占め、出口ポンプ58から発生した圧力はゼロとなり、三つのチャンバ46a,46b,46cには圧力が供給され、そして三つのモジュールは減速機作用を行う態勢にある。
入口ポンプ57の中圧回路61からエネルギを引き出すことのできる始動手段77が作動して、スタータブレーキ38のバルブ40を徐々に閉鎖するようにしてもよい。
車両速度が時速約5kmに達すると、バルブ69aが閉じてチャンバ46aは加圧下にはない(この段階では切替えバルブ66は閉じているものと仮定する)

更に、走行に移ろうとしている車両の場合、加速ペダル76は作動しており、制御バルブ74は出口ポンプ58の供給回路に蓄積された圧力によって、アイドリングバルブ73は開放位置を占めている。これによって、分岐管61の中圧は他の二つのバルブ69bと69cを閉鎖位置に押しやり、チャンバ46bと46cを排気する。
換言すれば、車両がスタートするや否や、ペダル76が作動している限り、チャンバ46a〜46cは無圧となり、スプリング34、フライウエイト29及び螺旋歯によって生じた力によって、外部の影響無しに伝達比を変更することができる。
所定の車両速度において、ドライバが加速ペダル76を離すと、アイドリングバルブは閉じ、各バルブ69bと69cの位置は出口ポンプ58によって生じた圧力によって制御される。これは、車両速度が50km以下に低下した場合、始めは直接駆動モードにあったトランスミッシヨンは自動的に第3ギアにシフトダウンし、次いで、速度が毎時30kmのしきい値より下がると、第2ギアにシフトダウンすることを意味する。
これらのしきい値は、カム71が位置「3」にある場合には高くなり、位置「2」にある場合には更に高くなる。カム71のお蔭で、車両のドライバは、下り坂の場合などに高いブレーキ効果を得ることができる。
図7に示す改良例によれば、ドライバがブレーキを作動させた場合に、しきい値を高くすることも可能になる。この目的のために、出口ポンプ58は、流体制動システム79内の圧力が高くなるにつれて自動的に閉鎖の程度が増すように調整されている膨張バルブ78を通じて圧力を供給している。この目的のために、ブレーキ回路に設けられた圧力センサ81が電気信号を発してバルブ78を作動させる。バルブ78の閉鎖の程度が大きくなるほど、所与の車両速度に対する出口ポンプ58の供給回路内の圧力が増加する。
車両を停止させる場合、ドライバが加速ペダルを操作すると、制御バルブは開くが、出口ポンプ58から供給される圧力はゼロであり、その結果、アイドリングバルブは閉鎖位置に留まる。
このようにして、車両が停止している場合、或いは加速ペダル76が解放されている場合には、各バルブは開放位置のみを占め、車両速度は所定のしきい値より低くなる。
個々のバルブが開放位置を占めている場合、その出口は対応するチャンバ46a,46b,46cに連通していることを要する。バルブが閉鎖位置を占め、切替えバルブ66が開放位置を占めている場合には、チャンバ46a,46b,46cには前述のように低圧が供給され、加速ペダル76が作動するとトランスミッションシステムの性能が修正される。図7には、加速ペダル76がバルブ66と74の近傍に二つ示されているが、これは同じ一つのペダルを示している。
図8に示す例は、図7との差異に関してのみ図示した簡略化したものである。
出口ポンプ、制御バルブ又はアイドリングバルブは示されていない。
入口ポンプ57は回転計量ポンプとして機能し、2000rpmまで徐々に増加しその後一定となる圧力を供給する。
この圧力は、二重矢印87で示されているように、比較的広い面積にわたって三つのバルブ69a,69b,69cの制御入口に加えられるだけである。更に、復帰スプリング72a,72b,72c(この順序に強さが増している)によって各バルブ69a,69b,69cが開放位置に維持されいる場合、ポンプ57によって生じた圧力は、該バルブによってチャンバ46a,46b,46cに加えられる。
チャンバ46a,46b,46cが加圧されている場合、状況安定器のパイプ即ち通路88はポンプ57の圧力を比較的小さい面積(一本矢印)にわたって対応するバルブ69a,69b,69cの側に加え、該圧力をスプリング72a,72b,72cと同じ方向に作用させる。カム71は、相互に一体化された二つのカム71aと71bに置き換えられている。位置「3」において、カム71cは、弾性力がポンプ57によって反対方向に生じた最大力より大きくなるようにスプリング72cを圧縮して、直接駆動作用を阻止している。これに加えて、位置「2」において、カム71bはスプリング72bを圧縮し、このシステムが第3伝達比にならないように防止している。
カム71bと71cが位置「4」を占め、エンジンがアイドリング状態にある場合、三つのバルブ69a,69b,69cは開放され、三つのモジュールは減速器作用を行う。エンジンの回転速度が毎分1400回に達すると直ぐに、第1モジュールのバルブ69aは閉じ、歯の力、スプリング34及び遠心フライウエイト29によって規定された条件の下で、第2伝達比に移行する。エンジンの回転速度が1600rpmに達し、次いで1800rpmに達すると、バルブ69bは自分の番になって直接駆動に移行する。バルブが閉じる度に、状況安定器のパイプ88は排気され、閉鎖状態が安定化する。
牽制作用で作動している場合、直接駆動から始まって(第4伝達比)エンジンの回転速度が1300rpm以下に低下すると直ぐに、排気中のバルブ69cの状況安定器パイプ88によって新しいしきい値が設定され、バルブ69cが開き、第3モジュールが減速器作用に復帰する。バルブ69cがパイプ88を再び加圧するので、この状況はエンジン回転速度が1800rpm以下である限り維持される。
バルブ69bによって、第3伝達比から第2伝達比への移行が同じような過程によって行われる。
図9に示す例の場合は、図2の例との差に関してのみ述べるか、ブレーキ38は流体ポンプではなく、ディスクブレーキである。このブレーキのインペラ37は、ハブ111と一体化された円板である。この円板37はハウジング4に固定されたキャリパ82と連携して、中心線12を中心として回転しないようにされている。スプリング83がキャリパ82を把持するようにいつも作用し、ハブ111を静止させている。この場合、フリーホイール16aが遊星ギアキャリア13aを正常方向にのみ回転させる。流体ジャッキ84が、スプリングによって加えられる力に抗してキャリパを互いに離す方向に移動させるように支持されている。この場合、遊星ギアキャリア13aは反対方向に回転して、フリーホイール16aによってそれと共にハブ111を駆動し、ニュートラル状態にする。
車両を漸進的に運動させるために、ジャック84の圧力が徐々に解放される。
スタータブレーキ38はハウジング4の自由端(エンジン5の反対側)に外部に取付けられ、必要に応じてキャリパ82の摩擦ライニングを非常に簡単な保守作業によって交換できるようにしている。
この構成により、第1モジュール1aをエンジンの端部でなくハウジングの自由端に設け、第1モジュール1aの出力シャフト2abをそのエピサイクリック歯車列のクラウンホイール8aに連結することができる。実際、クラウンホイール8aが(モジュール1bや1cの場合のように)モジュール1aの入力シャフト2aに連結されている場合には、エンジン5と反対側のエピサイクリック歯車列71側にシャフト2aとクラウンホイール8aを接続する半径方向のフランジが設けられ、エピサイクリック歯車列のこの側からは、該フランジは遊星ギアキャリアとハウジングの外壁との間の連結を行うことができないであろう。第1モジュール1aのエピサイクリック歯車列7aのこの特殊な構成は、前述のように第1,第2伝達比の間で良好なステップダウンを行えることと、スタータ装置38をハウジング4の外側に設けることができることとの二つの利点を有する。軸受3aと3abは適宜にシールされていることは明らかである。
別の実施例によれば、図10に示すように、エンジン5の出力シャフトとトランスミッションの入力シャフト2aとの間に従来型のクラッチ86を設けることも可能である。この場合、ブレーキ38は省略され、ハブ111はハウジング4に恒常的に連結される。
本発明は、説明し図示した実施例に限定されるものではないことは当然である。
モジュールの自動作用を修正するために加えられる力は、流体以外の、例えば弾性的なものであってもよい。
このトランスミッションシステムは、モジュールを順次に並べたものである必要はない。

【特許請求の範囲】
1.歯(7)の組合せと、力を発生し、その力の少なくとも一つ(Fa,Pac)がトランスミッション装置の少なくとも一つの作用パラメータに単調に依存して変化する応力対抗手段(29,34)の作用を受ける選択的接続手段(18a,18b)とを具え、前記歯の組合せによって、前記選択的接続手段が接続状態にあるか非接続状態にあるかに応じて二つの異なった伝達比を構成する、トランスミッション装置であって、前記選択的接続手段(18a,18b)に選択的に付加的な力を加えて、トランスミッション装置の接続状態及び非接続状態のいずれか一方の状態を増強する付加応力手段(44,46,47)を設けたことを特徴とするトランスミッション装置。
2.前記付加応力手段が付加的な力を加えると、トランスミッション装置が最低の伝達比で作動することを特徴とする請求項1に記載のトランスミッション装置。
3.前記応力対抗手段が、前記選択的接続手段を接続状態の方へ付勢する遠心フライウエイト(29)を有することを特徴とする請求項1又は2に記載のトランスミッション装置。
4.前記応力対抗手段が、前記選択的接続手段に対して、伝達されるトルクに応じた非接続方向の力を伝える手段を有することを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載のトランスミッシヨン装置。
5.前記応力対抗手段が、クラッチに対して、噛み合う歯の一つが荷重下に受ける非接続方向の反発的歯力を伝える手段を有することを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載のトランスミッション装置。
6.前記選択的接続手段が、接続状態にあるときに前記歯の変わりに動力を伝達するように取付けられ、該接続手段か接続状態にあるときに、少なくとも一部の前記歯が解放されていることを特徴とする請求項5に記載のトランスミッション装置。
7.前記歯の組合せが、歯を担持した複数の回転エレメントを具えたディファレンシャルギアを具え、前記選択的接続手段か、二つの前記回転エレメント(8,13)の間に取付けられたクラッチ(18b)を具え、第1及び第2伝達比によって前記ディファレンシャルギアを選択的に作動させることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載のトランスミッション装置。
8.前記クラッチ(18b)が前記二つの回転エレメント(13,18)の相対回転を可能にしているとき、前記ディファレンシャルギアの回転反作用エレメント(9)が逆方向に回転することを阻止するフリーホイール(16)と、 前記回転反作用エレメント(9)をフリーホイール(16)とは独立して選択的にロックする静止手段(43)と、 前記静止手段(43)をロック方向に作動させ、これと同時に前記付加応力手段(47)をクラッチ(18b)の解放方向に作動させる作動手段(44,46b,46c)とを具えたことを特徴とする請求項7に記載のトランスミッション装置。
9.前記静止手段が、前記フリーホイール(16)に並列に取付けられたブレーキ(43)であることを特徴とする請求項8に記載の装置。
10.前記作動手段が、ジャッキ(44,46b,46c)であることを特徴とする請求項8又は9に記載の装置。
11.前記ジャッキのピストン(44)が前記静止手段(43)を直接に作動させ、軸方向のストッパ(B4)を介して前記クラッチ(18b)を解放する方向に押すことを特徴とする請求項10に記載の装置。
12.回転速度が所定のしきい値以下に低下したときに、前記付加応力手段の作動を制御する手段(69a,69b,69c)と、該しきい値とは無関係に、前記作動を選択的に制御する手段(66,71,71b,71c)とを設けたことを特徴とする請求項1〜11のいずれか1項に記載の装置。
13.前記回転速度が、トランスミッションシステムの入力シャフトの上流側に設けられた回転計量ポンプ(57)によって検出されることを特徴とする請求項12に記載の装置。
14.しきい値に無関係に前記付加応力手段の作動を選択的に制御する前記手段が、前記回転速度の特性圧力に対抗するスプリング(72,72b,72c)の張力を調整する手動制御手段(71,71b.71c)を具えていることを特徴とする請求項12又は13に記載の装置。
15.前記応力対抗手段が、前記選択的接続手段を接続状態の方へ付勢している弾性手段(34)を具えていることを特徴とする請求項1〜14のいずれか1項に記載の装置。
16.装置の出力シャフト(2c)の運動を開始させるために、前記付加応力手段(47)が作動して前記選択的接続手段を前記弾性手段(34)に抗して非接続状態になし、運動が最低の伝達比で開始されることを特徴とする請求項15に記載のトランスミッション装置を制御する方法。
17.ニュートラル位置における作用を行わせるために、トランスミッション装置の出力シャフト(2c)がゼロ速度のときに、前記付加応力手段(47,44a)が非接続方向に入力クラッチ(38)と共に同時に作動して、トランスミッション装置の入力シャフト(2a)を回転させることを特徴とする請求項16に記載の方法。
18.装置の入力シャフト(2a)に加えられるトルクが該シャフトの回転方向と反対方向の場合、前記付加応力手段が作動して前記歯の組合せを最低伝達比で作用が行われるようにすることを特徴とする請求項1〜15のいずれか1項に記載の方法。
19.このトランスミッション装置を具えた車両のブレーキが作動した場合、前記付加応力手段が作動して、トランスミッシヨン装置の作用が最低伝達比で行われるようにすることを特徴とする請求項18に記載の方法。
20.車両のドライバが強く動力を要求している場合、前記付加応力手段(43,44,47)が作動してトランスミッション装置を低い伝達比で作動させるように応援することを特徴とする請求項1〜15のいずれか1項に記載の方法。
21.状況が変化する度に状況変化の条件を変更してクラッチの各状況を安定化する手段を具えたトランスミッション装置を制御するために、ドライバが強く動力を要求している場合には、前記付加応力手段が圧力波動によって作動することを特徴とする請求項20に記載の方法。
22.装置の入力シャフト(2a)の速度が過剰にならずに二つの伝達比の中の低い方から高い方に移行できる速度にフライウエイトの力が対応しない場合には、前記付加応力手段(44,47)が作動して、前記選択的接続手段(44,47)に遠心フライウエイト(29)の力を超えない力を加えることを特徴とする請求項3に記載のトランスミッション装置を制御する方法。

【図1】
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【図10】
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【図2】
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【図9】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公表番号】特表平8−507129
【公表日】平成8年(1996)7月30日
【国際特許分類】
【出願番号】特願平6−518703
【出願日】平成6年(1994)2月17日
【国際出願番号】PCT/FR94/00176
【国際公開番号】WO94/19629
【国際公開日】平成6年(1994)9月1日
【出願人】
【氏名又は名称】アントーノフ オートモーティブ ファー イースト ベスローテン フェンノートシャップ