説明

車両用ニーボルスター

【課題】車両用ニーボルスターを配置するためのインストルメントパネルの前後長が短くても十分に衝撃吸収することを可能にする。
【解決手段】一端41aが車体部材33に支持されるとともに他端41bが膝部19に向けて車両後方側且つ下方側に延出される基部41と、基部41の他端41bに屈曲部42を介して連続して車両後方側に延出する底壁延長部43と、底壁延長部43の後端43aから車両後方側且つ上方側に向けて延出する対向面部44と、を備え、基部41は、基部41の底壁48と、底壁48の車幅外側端部48a,48aから上方側に立ち上がる一対の側壁49,49と、によりコ字状断面に形成されるコ字状断面部46を備え、一対の側壁49,49は、底壁48に対向する対向側端部51aが底壁48に沿って延ばされる前辺部51と、前辺部51の車両後方側に連続して対向側端部52aが屈曲部42に向けて延ばされる後辺部52と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、乗員の膝部からの荷重の入力によって変形し、膝部への衝撃を吸収する車両用ニーボルスターに関する。
【背景技術】
【0002】
車両用ニーボルスターは、車体のインストルメントメンバより片持状に延びる断面U字状のチャンネル部材で構成され、断面U字状のチャンネル部材は、長手方向に離間して圧潰荷重値が異なる複数の低圧潰荷重値部を備え、衝突時の荷重に対して段階的に圧潰されるようにしたものである。具体的には、インストルメントメンバより片持状に延びる基部と、基部から上向きに延びる自由端部とから構成され、基部側に半径の大きな第1の低圧潰荷重値部が形成され、自由端部側に半径の小さな第2の低圧潰荷重値部が形成されたものである。
【0003】
この車両用ニーボルスターによれば、半径の小さな低圧潰荷重値部から順次圧潰することが可能となり、衝突時の荷重に対して段階的な圧潰を促すことができる(例えば、特許文献1参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2004−106611号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1の車両用ニーボルスターでは、変形時にニーボルスターの下端側が、ニーボルスターの前方上部に配置されるステアリングハンガビームに接近する方向に移動する。ニーボルスターの下端とステアリングハンガビームとの距離を十分に稼げるインストルメントパネルの前後長の長い車種においては、ニーボルスターに乗員の膝部が当接したときに十分に衝撃吸収が可能である。
【0006】
しかし、インストルメントパネルの前後長を十分確保できない車種においては、変形時にニーボルスターの下端側がステアリングハンガビームに接近する方向に移動するために、変形代を大きくとることができない。これでは、乗員の膝部からの荷重をショートストロークで衝撃吸収したいというニーズに対応することはできない。すなわち、ショートストロークで衝撃吸収性能を満足できるニーボルスターが望まれる。
【0007】
本発明は、ニーボルスター全体を効率的に変形させることができ、ニーボルスターが配置されるインストルメントパネルの前後長が短くても十分に衝撃吸収することができる車両用ニーボルスターを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
請求項1に係る発明は、乗員の膝部からの荷重の入力によって変形し、膝部への衝撃を吸収する車両用ニーボルスターであって、一端が車体部材に支持されるとともに他端が膝部に向けて車両後方側且つ下方側に延出される基部と、基部の他端に屈曲部を介して連続して車両後方側に延出する底壁延長部と、底壁延長部の後端から車両後方側且つ上方側に向けて延出する対向面部と、を備え、基部は、基部の底壁と、底壁の車幅外側端部から上方側に立ち上がる一対の側壁と、によりコ字状断面に形成されるコ字状断面部を備え、一対の側壁は、底壁に対向する対向側端部が底壁に沿って延ばされる前辺部と、前辺部の車両後方側に連続して対向側端部が屈曲部に向けて延ばされる後辺部と、を備えることを特徴とする。
【0009】
請求項2に係る発明は、車体部材が、車幅方向に延出するビーム部材であり、側壁に、前辺部の車両前方側の端部から車幅方向に向かうとともに、ビーム部材の外周面に突き当てて結合される前辺結合部を備え、底壁に、前辺結合部よりも車両前方側に延出するとともに、ビーム部材の外周面における下方に接して結合される底壁接合部を備えることを特徴とする。
【0010】
請求項3に係る発明は、側壁の前辺部の対向側端部を車両前方側に向けて延長した仮想延長線が、ビーム部材の断面における中心の上方側を通ることを特徴とする。
【0011】
請求項4に係る発明は、基部における前辺結合部と底壁接合部との間に切欠部を備えることを特徴とする。
【0012】
請求項5に係る発明は、基部及び対向面部に、基部の底壁に一端が結合されるとともに、対向面部に他端が結合されるアッパブラケットを備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明は以下の効果を奏する。
請求項1に係る発明では、車両用ニーボルスターは、乗員の膝部からの荷重の入力によって変形し、膝部への衝撃を吸収する。
一端が車体部材に支持されるとともに他端が膝部に向けて車両後方側且つ下方側に延出される基部と、基部の他端に屈曲部を介して連続して車両後方側に延出する底壁延長部と、底壁延長部の後端から車両後方側且つ上方側に向けて延出する対向面部と、を備える。 基部は、基部の底壁と、底壁の車幅外側端部から上方側に立ち上がる一対の側壁と、によりコ字状断面に形成されるコ字状断面部を備え、一対の側壁は、底壁に対向する対向側端部が底壁に沿って延ばされる前辺部と、前辺部の車両後方側に連続して対向側端部が屈曲部に向けて延ばされる後辺部と、を備える。
すなわち、対向面部、底壁延長部、屈曲部及び基部のコ字状断面部により、膝部からの荷重入力により屈曲部を軸にして対向面部及び底壁延長部の上方側へ向かう回転を誘発し、1段階目の変形をコントロールする。その後、さらに変形が進むと、後辺部が膝からの荷重入力を受け止めて、基部の一端側を軸としたニーボルスター全体の下方側への回転を誘発し、2段階目の変形をコントロールする。
これにより、ニーボルスター全体を効率的に変形させることができ、ニーボルスターが配置されるインストルメントパネルの前後長が短くても十分に衝撃吸収することができる。
【0014】
請求項2に係る発明では、車体部材は、車幅方向に延出するビーム部材である。
側壁に、前辺部の車両前方側の端部から車幅方向に向かうとともに、ビーム部材の外周面に突き当てて結合される前辺結合部を備え、底壁に、前辺結合部よりも車両前方側に延出するとともに、ビーム部材の外周面における下方に接して結合される底壁接合部を備える。
すなわち、剛性の高いコ字状断面部よりも前方側に延出した底壁接合部が、ビーム部材の外周面に結合されることで、コ字状断面部と底壁接合部との間の剛性の差が大きくなる。この結果、この剛性の差が大きい部位に応力を集中させて2段階目の変形の起点とすることができる。よって、2段階目の変形をより確実に誘発させて、衝撃吸収性能をより効果的なものとすることができる。
【0015】
請求項3に係る発明では、側壁の前辺部の対向側端部を車両前方側に向けて延長した仮想延長線が、ビーム部材の断面における中心の上方側を通るので、乗員の膝部からの荷重入力時に、基部のコ字状断面部を車体部材(ビーム部材)で確実に支持することができる。これにより、乗員の膝部からの荷重入力時の1段階目の変形時に、2段階目の変形が同時に起こらないようにすることができる。この結果、1段階目で十分に変形させた後に、2段階目の変形へと移行することができ、安定的に衝撃吸収を行うことができる。よって、ニーボルスターの衝撃吸収性能が向上する。
【0016】
請求項4に係る発明では、基部における前辺結合部と底壁接合部との間に切欠部を備えるので、切欠部を2段階目の変形の起点とすることができる。よって、2段階目の変形をより確実に誘発させて、ニーボルスターの衝撃吸収性能をより確実なものとすることができる。
【0017】
請求項5に係る発明では、基部及び対向面部に、基部の底壁に一端が結合されるとともに、対向面部に他端が結合されるアッパブラケットを備える。すなわち、1段階目の変形時に、対向面部と底壁延長部とアッパブラケットとを同時に変形させることで、1段階目の変形による衝撃吸収性能を大きくすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明に係る車両用ニーボルスターが採用された車両の車内を示す側面断面図である。
【図2】本発明に係る車両用ニーボルスターの斜視図である。
【図3】図2に示される車両用ニーボルスターの側面図である。
【図4】図2に示される車両用ニーボルスターの側面下方から見た斜視図である。
【図5】図2に示される車両用ニーボルスターの前方から見た斜視図である。
【図6】図2に示される車両用ニーボルスターの1段階目の作用説明図である。
【図7】図2に示される車両用ニーボルスターの1段階目の変形中の斜視図である。
【図8】図2に示される車両用ニーボルスターの2段階目の作用説明図である。
【図9】図2に示される車両用ニーボルスターのストロークと荷重との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明の実施の形態を添付図に基づいて以下に説明する。なお、図面は符号の向きに見るものとする。
【実施例】
【0020】
図1に示されたように、車両10は、車体11の前部に設けられるエンジンルーム13と、エンジンルーム13の後方に設けられる車室12と、これらの車室12とエンジンルーム13を仕切るダッシュパネル15と、このダッシュパネル15の下部に接続されるフロアパネル16と、このダッシュパネル15の上部に設けられるウインドシールドサポート17と、このウインドシールドサポート17で下端が支持されるフロントウインドシールド18と、を備える。
フロアパネル16は、車室12の下部が構成される。
【0021】
車室12には、前方上部に計器類などが配置されるインストルメントパネル21と、このインストルメントパネル21内に配置される車両用ニーボルスター30と、前方下部に配置されるブレーキペダル22と、が配置される。
【0022】
ダッシュパネル15は、上部のダッシュボードアッパパネル23と、下部のダッシュボードロアパネル24と、からなる。ウインドシールドサポート17は、上部の上サポート部材25と、下部の下サポート部材26と、からなる。インストルメントパネル21は、上半部のインストルメントパネルアッパ27とインストルメントパネルロア28と、からなる。
【0023】
車両用ニーボルスター30は、乗員の膝部19を保護する部材である。すなわち、乗員の膝が強く当たったときに、塑性変形することで衝撃エネルギーを吸収させて膝部19を保護する役割をもつ部材である。
【0024】
一般的に、車両用ニーボルスターは、乗員の左右の膝部19を保護するために、左右にそれぞれニーボルスターが配置されている。左右のニーボルスターは、略同一の構成であり、以下、乗員の右膝を保護するニーボルスターを「車両用ニーボルスター(ニーボルスター)30」として説明する。
【0025】
図2〜図5に示されたように、車両用ニーボルスター30は、車体部材33に支持されるニーボルスター本体31と、このニーボルスター本体31に接合されたアッパブラケット32と、からなる。
車両用ニーボルスター30は、乗員の膝部19(図1参照)からの荷重の入力によって変形し、膝部19への衝撃を吸収する。
【0026】
車体部材33は、車幅方向に延出する中空断面を有するビーム部材33である。すなわち、ビーム部材33は、車幅方向に水平に延びる丸パイプや角パイプ等の固定部材であって、その両端を左右のダッシュサイドパネル(不図示)等の車体11側にボルト止め若しくは溶接等によって固定されるステーである。
【0027】
ニーボルスター本体31は、ビーム部材33に一端41aが支持される基部41と、この基部41の他端41bに設けられる屈曲部42と、この屈曲部42から略水平に延ばされる底壁延長部43と、この底壁延長部43から延ばされる対向面部44と、からなる。
【0028】
基部41は、一端41aから他端41bに向けて延ばされるコ字状断面部46と、一端41aに形成されビーム部材33に結合するビーム支持部47と、からなる。
コ字状断面部46は、基部41の底壁48と、底壁48の車幅外側端部48a,48aから上方側に立ち上がる一対の側壁49,49と、からなる。
なお、コ字状断面部46は、コ字状断面に形成される部分である。
【0029】
側壁49は、一端41a側に形成される前辺部51と、他端41b側に形成される後辺部52と、からなる。
前辺部51は、底壁48に対向する対向側端部51aが底壁48に沿って延ばされる。
後辺部52は、前辺部51の車両後方側に連続して対向側端部52aが屈曲部42に向けて略垂直に延ばされる。
【0030】
ビーム支持部47は、前辺部51からビーム部材33に延ばされる左右の前辺結合部54,54と、底壁48からビーム部材33に延ばされる底壁接合部55と、前辺結合部54,54と底壁接合部55との間にそれぞれ形成されて、底壁48と、側壁49,49との間の稜線に沿うように延びる左右の切欠部56,56と、からなる。
【0031】
前辺結合部54,54は、側壁49,49に形成される。さらに、前辺部51の車両前方側の端部51bから車幅方向に向かうとともに、ビーム部材33の外周面33aに突き当てて結合される。詳細には、前辺結合部54,54は、ビーム部材33の外周面33aにミグ溶接される。
【0032】
底壁接合部55は、底壁48に形成される。さらに、前辺結合部54,54よりも車両前方側に延出するとともに、ビーム部材33の外周面33aにおける下方に接して結合される。詳細には、底壁接合部55は、ビーム部材33の外周面33aにミグ溶接される。
【0033】
すなわち、基部41は、一端41aが車体部材33に支持されるとともに他端41bが膝部19(図1参照)に向けて車両後方側且つ下方側に延出される部材といえる。
【0034】
底壁延長部43は、基部41の他端41bに屈曲部42を介して連続して車両後方側に延出する。底壁延長部43には、衝撃吸収量を増す底壁補強リブ57が形成される。底壁補強リブ57は、底壁48から対向面部44にかけて、底壁48、底壁延長部43及び対向面部44の車幅方向中央に、車体上方に向けて突出されたリブである。
対向面部44は、底壁延長部43の後端43aから車両後方側且つ上方側に向けて延出する。
【0035】
アッパブラケット32は、基部41の底壁48に一端32aが結合されるとともに、対向面部44に他端32bが結合される。また、アッパブラケット32は、側面視で、底壁48に接合される前接合部61と、底壁延長部43に沿わせた中央平行部64と、対向面部44に沿わせた後傾斜部65と、底壁延長部43に沿わせた後平行部66と、対向面部44に接合される後接合部67と、車体前後方向に形成された補強リブ68と、が形成される。
【0036】
補強リブ68は、中央平行部64、後傾斜部65及び後平行部66に亘って且つ車幅方向中央に形成される。
補強リブ68は、衝撃吸収量を増す作用をなす。
【0037】
図3に示されたように、側壁49の前辺部51の対向側端部51aを車両前方側に向けて延長した仮想延長線L1を引くときに、仮想延長線L1は、ビーム部材33の断面における中心C1の上方側を通る。
【0038】
後辺部52の底壁48に対向する対向側端部52aに後辺延長線L2を引き、底壁延長部43に延長部延長線L3を引くときに、後辺延長線L2と延長部延長線L3とのなす角度θ1は略90°に設定される。
【0039】
これにより、屈曲部42を起点とした1段階目の変形をより確実なものとすることができる。また、水平方向に移動してくる乗員の膝部19(図1参照)からの荷重入力を、垂直方向に延びる後辺部52で受けることができるので、荷重を後辺部52で確実に受け止めて2段階目の変形をより確実なものとすることができる。
【0040】
底壁48に底壁延長線L4を引き、対向面部44に対向延長線L5を引くときに、底壁延長線L4と対向延長線L5とのなす角度θ2は略90°に設定される。これにより、乗員の膝部19(図1参照)からの荷重入力が対向面部44に作用するときに、屈曲部42を起点とした1段階目の変形をより誘発しやすくすることができる。
【0041】
図6(a)〜(c)に車両用ニーボルスター30の1段階目の変形の様子が示される。
図6(a)において、乗員の膝部ダミー79が当接する前の車両用ニーボルスター30の状態が示される。アッパブラケット32、底壁48、対向面部44及び底壁延長部43で台形状E1が形成されている。これにより、膝部ダミー79からの荷重入力時に台形状E1の断面で荷重を受けることができ、1段階目の変形時の衝撃吸収性能を高めることができる。
【0042】
図6(b)において、車両用ニーボルスター30に乗員の膝部ダミー79が矢印a1の如く当接すると、対向面部44、底壁延長部43、屈曲部42及び基部41のコ字状断面部46により、膝部ダミー79からの荷重入力により屈曲部42を軸にして対向面部44及び底壁延長部43の上方側へ向かう回転を誘発する。
【0043】
アッパブラケット32の前後長さは、底壁延長部43と対向面部44の長さの和よりも小さく設定される。これにより、1段階目の変形時に、底壁48、「底壁延長部43+対向面部44」、及びアッパブラケット32で三角形状F1が形成され、形成された三角形状F1で、確実に荷重を受け止めて、1段階目の変形をより確実なものとすることができる。
【0044】
図6(c)及び図7において、車両用ニーボルスター30に乗員の膝部ダミー79が矢印a2の如く進行すると、屈曲部42を軸にして対向面部44、底壁延長部43及びアッパブラケット32が完全に折れ曲がり、1段階目の変形がコントロールされる。その後、さらに変形が進む段階で2段階目の変形が誘発される。
【0045】
図8(a),(b)に車両用ニーボルスター30の2段階目の変形の様子が示される。
図8(a)において、車両用ニーボルスター30の基部41の他端41bに乗員の膝部ダミー79が達すると、車体部材(ビーム部材)33の断面における中心C1に(基部41の一端41aに)矢印a4の如く回転モーメントが強まる。
【0046】
すなわち、図5に示されたように、剛性の高いコ字状断面部46よりも前方側に延出した底壁接合部55が、ビーム部材33の外周面33aに結合されることで、コ字状断面部46と底壁接合部55との間の剛性の差が大きくなる。この結果、この剛性の差が大きい部位に応力を集中させて2段階目の変形の起点とすることができる。
【0047】
図8(b)において、車両用ニーボルスター30の基部41は、基部41の一端41a側を軸としたニーボルスター30全体の矢印a5の如く下方側への回転を誘発し、2段階目の変形がコントロールされる。これにより、ニーボルスター30全体を効率的に変形させることができ、ニーボルスター30を配置するためのインストルメントパネル21(図1参照)の前後長が短くても十分に衝撃吸収することができる。
【0048】
図9に車両用ニーボルスター30の衝撃吸収性能が示される。横軸はニーボルスター30のストローク、縦軸に乗員の膝部ダミー79に加わる荷重(接触反力)である。詳細には、ニーボルスター30のストロークとは、ニーボルスター30の後端(対向面部44の後端)が車体後方から車体前方へ移動する移動量である。
【0049】
ストローク領域S1では、ニーボルスター30に膝部ダミー79(図6参照)が当接し、乗員の膝部ダミー79に加わる荷重のみが増加し、ニーボルスター30の変形がまだ少ない領域であると考えられる。図6(a)に示される状態に近い。
ストローク領域S2では、荷重(接触反力)に第1のピークが見られる。これは、ニーボルスター30に第1段階の大きな変形が開始する領域であると考えられる。
【0050】
ストローク領域S3では、荷重(接触反力)が一時下降し、荷重が徐々に増加していく。これは、第1段階の変形進行中であることが示される状態である。図6(a)から図6(c)に移行していく状態である。
【0051】
ストローク領域S4では、接触反力に第2のピークが見られる。これは、ニーボルスター30が第2段階変形に移行していく領域であると考えられる。図8(a)から図8(b)に移行していく状態である。
【0052】
図2〜図5に示されたように、車両用ニーボルスター30では、乗員の膝部19(図1参照)からの荷重の入力によって変形し、膝部19への衝撃を吸収する。
一端41aが車体部材33に支持されるとともに他端41bが膝部19に向けて車両後方側且つ下方側に延出される基部41と、基部41の他端41bに屈曲部42を介して連続して車両後方側に延出する底壁延長部43と、底壁延長部43の後端43aから車両後方側且つ上方側に向けて延出する対向面部44と、を備える。
【0053】
基部41は、基部41の底壁48と、底壁48の車幅外側端部48a,48aから上方側に立ち上がる一対の側壁49,49と、によりコ字状断面に形成されるコ字状断面部46を備え、一対の側壁49,49は、底壁48に対向する対向側端部51aが底壁48に沿って延ばされる前辺部51と、前辺部51の車両後方側に連続して対向側端部52aが屈曲部42に向けて延ばされる後辺部52と、を備える。
【0054】
すなわち、対向面部44、底壁延長部43、屈曲部42及び基部41のコ字状断面部46により、膝部19(図1参照)からの荷重入力により屈曲部42を軸にして対向面部44及び底壁延長部43の上方側へ向かう回転を誘発し、1段階目の変形をコントロールする。その後、さらに変形が進むと、後辺部52が膝からの荷重入力を受け止めて、基部41の一端41a側を軸としたニーボルスター30全体の下方側への回転を誘発し、2段階目の変形をコントロールする。
これにより、ニーボルスター30全体を効率的に変形させることができ、ニーボルスター30が配置されるインストルメントパネル21(図1参照)の前後長が短くても十分に衝撃吸収することができる。
【0055】
図5に示されたように、車両用ニーボルスター30では、車体部材33は、車幅方向に延出する中空断面を有するビーム部材33である。
側壁49,49に、前辺部51の車両前方側の端部51b(図2参照)から車幅方向に向かうとともに、ビーム部材33の外周面33aに突き当てて結合される前辺結合部54,54を備え、底壁48に、前辺結合部54,54よりも車両前方側に延出するとともに、ビーム部材33の外周面33aにおける下方に接して結合される底壁接合部55を備える。
【0056】
すなわち、剛性の高いコ字状断面部46よりも前方側に延出した底壁接合部55が、ビーム部材33の外周面33aに結合されることで、コ字状断面部46と底壁接合部55との間の剛性の差が大きくなる。この結果、この剛性の差が大きい部位に応力を集中させて2段階目の変形の起点とすることができる。よって、2段階目の変形をより確実に誘発させて、衝撃吸収性能をより効果的なものとすることができる。
【0057】
図3に示されたように、車両用ニーボルスター30では、側壁49の前辺部51の対向側端部51aを車両前方側に向けて延長した仮想延長線L1が、ビーム部材33の断面における中心C1の上方側を通るので、乗員の膝部19(図1参照)からの荷重入力時に、基部41のコ字状断面部46を車体部材(ビーム部材)33で確実に支持することができる。これにより、乗員の膝部19からの荷重入力時の1段階目の変形時に、2段階目の変形が同時に起こらないようにすることができる。この結果、1段階目で十分に変形させた後に、2段階目の変形へと移行することができ、安定的に衝撃吸収を行うことができる。よって、ニーボルスターの衝撃吸収性能が向上する。
【0058】
図5に示されたように、車両用ニーボルスター30では、基部41における前辺結合部54,54と底壁接合部55との間に切欠部56,56を備えるので、切欠部56,56を2段階目の変形の起点とすることができる。よって、2段階目の変形をより確実に誘発させて、ニーボルスターの衝撃吸収性能をより確実なものとすることができる。
【0059】
図3に示されたように、車両用ニーボルスター30では、基部41及び対向面部44に、基部41の底壁48に一端32aが結合されるとともに、対向面部44に他端32bが結合されるアッパブラケット32を備える。すなわち、1段階目の変形時に、対向面部44と底壁延長部43とアッパブラケット32とを同時に変形させることで、1段階目の変形による衝撃吸収性能を大きくすることができる。
【0060】
尚、本発明に係る車両用ニーボルスターは、図5に示すように、前辺結合部54,54は、ビーム部材33の外周面33aにミグ溶接され、底壁接合部55は、ビーム部材33の外周面33aにミグ溶接されたが、これに限るものではなく、前辺結合部若しくは底壁接合部55をビーム部材33にスポット溶接あるいは、ボルト締結するものであってもよい。
【0061】
また、ビーム部材33を、中空断面を有する部材としたが、中実断面を有する部材であっても良い。
【産業上の利用可能性】
【0062】
本発明に係る車両用ニーボルスターは、インストルメントパネルの前後長が短いセダンやワゴンなどの車両に採用するのに好適である。
【符号の説明】
【0063】
19…乗員の膝部、30…車両用ニーボルスター、32…アッパブラケット、32a…アッパブラケットの一端、32b…アッパブラケットの他端、33…車体部材(ビーム部材)、33a…ビーム部材の外周面、41…基部、41a…基部の一端、41b…基部の他端、42…屈曲部、43…底壁延長部、43a…底壁延長部の後端、44…対向面部、
46…コ字状断面部、48…底壁、49…一対の側壁、51…前辺部、51a…対向側端部、51b…前辺部の車両前方側の端部、52…後辺部、52a…対向側端部、54…前辺結合部、55…底壁接合部、56…切欠部、L1…仮想延長線、C1…断面における中心。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
乗員の膝部からの荷重の入力によって変形し、前記膝部への衝撃を吸収する車両用ニーボルスターであって、
一端が車体部材に支持されるとともに他端が前記膝部に向けて車両後方側且つ下方側に延出される基部と、
該基部の他端に屈曲部を介して連続して車両後方側に延出する底壁延長部と、
該底壁延長部の後端から車両後方側且つ上方側に向けて延出する対向面部と、を備え、
前記基部は、該基部の底壁と、該底壁の車幅外側端部から上方側に立ち上がる一対の側壁と、によりコ字状断面に形成されるコ字状断面部を備え、
前記一対の側壁は、前記底壁に対向する対向側端部が前記底壁に沿って延ばされる前辺部と、該前辺部の車両後方側に連続して前記対向側端部が前記屈曲部に向けて延ばされる後辺部と、を備えることを特徴とする車両用ニーボルスター。
【請求項2】
前記車体部材は、車幅方向に延出するビーム部材であり、
前記側壁は、前記前辺部の車両前方側の端部から車幅方向に向かうとともに、前記ビーム部材の外周面に突き当てて結合される前辺結合部を備え、
前記底壁は、前記前辺結合部よりも車両前方側に延出するとともに、前記ビーム部材の外周面における下方に接して結合される底壁接合部を備えることを特徴とする請求項1記載の車両用ニーボルスター。
【請求項3】
前記側壁は、前記前辺部の前記対向側端部を車両前方側に向けて延長した仮想延長線が、前記ビーム部材の断面における中心の上方側を通ることを特徴とする請求項1又は請求項2記載の車両用ニーボルスター。
【請求項4】
前記基部は、前記前辺結合部と前記底壁接合部との間に切欠部を備えることを特徴とする請求項2又は請求項3記載の車両用ニーボルスター。
【請求項5】
前記基部及び前記対向面部は、該基部の前記底壁に一端が結合されるとともに、該対向面部に他端が結合されるアッパブラケットを備えることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項記載の車両用ニーボルスター。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2013−111990(P2013−111990A)
【公開日】平成25年6月10日(2013.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−256803(P2011−256803)
【出願日】平成23年11月24日(2011.11.24)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)