車両用ブレーキの摩擦パッド
【課題】摩擦材が摩耗したとしても、制動時における鳴きの発生を抑えることのできる摩擦パッドを提供すること。
【解決手段】摩擦材と、裏板とを接合して構成される車両用ブレーキの摩擦パッドにおいて、摩擦材の剛性/裏板の剛性の値を0.4以上とする。裏板が中空部材で構成される。裏板が摩擦材よりも小さな剛性を有する部材を備える。本構成により裏板の剛性を低減させても、制動時にブレーキピストンに押圧される際の反発力を確保することができ、裏板の変形防止を図れる。
【解決手段】摩擦材と、裏板とを接合して構成される車両用ブレーキの摩擦パッドにおいて、摩擦材の剛性/裏板の剛性の値を0.4以上とする。裏板が中空部材で構成される。裏板が摩擦材よりも小さな剛性を有する部材を備える。本構成により裏板の剛性を低減させても、制動時にブレーキピストンに押圧される際の反発力を確保することができ、裏板の変形防止を図れる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、摩擦材と、裏板とを接合して構成される車両用ブレーキの摩擦パッドに関する。
【背景技術】
【0002】
従来の車両用ブレーキの摩擦パッドとしては、例えば、以下の特許文献1及び2に記載されるものが知られている。特許文献1では、裏板の表裏両面に球面状に凹んだ窪みを多数設けることによって裏板の機械的強度を高くして剛性を向上させており、特許文献2では、裏板の形状を波形にすることによって裏板の剛性を向上させている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2002−061683号公報(図1〜図4、段落0013参照)
【特許文献2】特開2000−266090号公報(図1、段落0016参照)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
車両用ブレーキで使用される摩擦パッドでは、車両の制動時における鳴きの発生が問題となっている。この鳴きは、摩擦パッドの固有値と、ディスクロータなどの他の部材の固有値とが一致して共振現象が起こることによって発生することが知られている。そのため、初期設定時においては、素材を選択するなどして摩擦パッドの剛性を調整して、それぞれの固有値が一致しないようにする工夫がなされている。
【0005】
しかし、従来の摩擦パッドにおいては、上述のように裏板の高剛性化が図られ、裏板の剛性が摩擦材の剛性よりも非常に大きく設定されており、摩擦パッド全体の剛性が摩擦材の剛性に依存する。摩擦材の剛性は、その厚みに反比例して大きくなるため、摩擦材が摩耗して薄くなるにつれてその剛性が増加する。摩擦材の剛性が大きくなると、摩擦パッド全体の剛性も大きくなるため、初期設定時にずれていた固有値が一致するようになり、鳴きが発生し易くなる。
【0006】
本発明の目的は、摩擦材が摩耗したとしても、制動時における鳴きの発生を防ぐことのできる摩擦パッドを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、摩擦パッドの固有値の変動が、摩擦材の摩耗による剛性変化に伴うものであることに着目し、鋭意検討した結果、摩擦材の剛性と裏板の剛性との比を最適な範囲に調節することで、摩擦材の摩耗(厚み変化)による摩擦パッドの剛性変化を小さくして、摩擦パッドの固有値変動による鳴きの発生を抑えることができることを見出し、本発明に到達した。
【0008】
本発明に係る摩擦パッドの第1特徴構成は、摩擦材と、裏板とを接合して構成される車両用ブレーキの摩擦パッドであって、前記摩擦材の剛性/前記裏板の剛性の値が0.4以上である点にある。
【0009】
〔作用及び効果〕
本構成のごとく、摩擦材の剛性/裏板の剛性の値を0.4以上にすることによって、例え摩擦材が摩耗して薄くなり剛性が増加したとしても、摩擦パッド全体の剛性変化を小さくすることができ摩擦パッドの固有値の変動を抑えることができる。そのため、たとえ摩擦材が摩耗したとしても、摩擦パッドの固有値と、ディスクロータなどの他の部材の固有値とが、互いにずれた状態に維持され、制動時における鳴きの発生を防ぐことができる。
【0010】
第2特徴構成は、前記裏板が中空部材で構成される点にある。
【0011】
〔作用及び効果〕
本構成のごとく裏板を中空部材で構成すれば、裏板の剛性を効果的に低減させることができるため、摩擦材の剛性/裏板の剛性の値を0.4以上に設定し易い。
【0012】
第3特徴構成は、前記裏板が、前記摩擦材よりも小さな剛性を有する部材を備える点にある。
【0013】
〔作用及び効果〕
本構成のごとく、裏板が摩擦材よりも小さな剛性を有する部材を備えることで、裏板の剛性を低減させても、制動時にブレーキピストンに押圧される際の反発力を確保することができ、裏板の変形防止を図れる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本実施形態に係る摩擦パッドの概略図である。
【図2】本実施形態に係る摩擦パッドの概略図である。
【図3】その他の実施形態に係る摩擦パッドの概略図である。
【図4】その他の実施形態に係る摩擦パッドの概略図である。
【図5】実施例に係る摩擦パッドの概略図である。
【図6】従来の摩擦パッド及び本発明の摩擦パッドについて摩擦材剛性/裏板剛性の値を比較したグラフである。
【図7】従来の摩擦パッド及び本発明の摩擦パッドについて摩擦材の厚みの違いによるパッド剛性の変化率を比較したグラフである。
【図8】従来の摩擦パッド及び本発明の摩擦パッドについてパッド面圧の違いによるパッド剛性の変化率を比較したグラフである。
【図9】従来の摩擦パッドについて種々の厚みの摩擦材における鳴き評価を示したグラフである。
【図10】本発明の摩擦パッドについて種々の厚みの摩擦材における鳴き評価を示したグラフである。
【図11】種々の摩擦材剛性/裏板剛性における鳴き評価を示したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
[実施形態]
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
本実施形態に係る摩擦パッドは、例えば、車両用ディスクブレーキに適用され、図1及び図2に示すように、裏板の一方の面に、公知の接着剤(図示せず)を介して摩擦材を接着させたものである。
【0016】
(裏板)
裏板1は制動時にブレーキピストンに押圧される部材である。本実施形態に係る裏板1は、図1に示される空隙2を備える中空部材や、図2に示される複数の空隙2を備える部材で構成されており、中実の部材と比べて剛性を低下させてある。裏板1として使用可能な素材としては、例えば鋼板などの金属製プレートを挙げることができるが、これに限定されるものではない。尚、裏板1として使用される中空部材は、例えば、鋼板などの金属製プレートを機械加工で内部を刳り貫くことによって製造することができる。
【0017】
(摩擦材)
摩擦材3は、制動時にディスクロータの側面に摺接する部材であり、例えば、主成分として繊維基材と充填材と結合剤とを含有するものが挙げられるが、従来公知のものを適用することができ、特に限定されるものではない。
【0018】
摩擦材は、無機充填材、有機充填材、潤滑剤などを適宜含んでいる。無機充填材としては、硫酸バリウム、水酸化カルシウム、酸化ジルコニウム、珪酸ジルコニウム、炭酸カルシウム、雲母(マイカ)、カオリン、タルク、硫化物、チタン酸化合物塩、酸化鉄などが必要に応じて含まれる。有機充填材としては、ゴム、カシューダストなどが含まれ、潤滑剤としては、黒鉛(グラファイト)、三硫化アンチモン、二硫化モリブデン、二硫化亜鉛などが含まれる。
【0019】
摩擦材は、繊維基材として無機繊維、有機繊維および粉末体を適宜選択して含んでいる。金属繊維としては、例えば銅繊維,鉄繊維を使用することができ、金属粉としては、銅粉などを使用することができる。有機繊維としては、アラミド繊維などを使用することができる。
【0020】
結合剤は、繊維基材と充填材を結着させるものであって、結合剤として有機物である樹脂やゴムが使用される。例えばフェノール樹脂、イミド樹脂、ゴム変性フェノール樹脂、メラミン樹脂、エポキシ樹脂、NBR、ニトリルゴム、アクリルゴムなどが使用される。結合剤は、一種を単独で使用することもできるし、二種以上を組み合せて使用することもできる。
【0021】
摩擦材の製造方法は、先ず、摩擦材原料を混合機で混合して原料混合物を得る。混合機としては、アイリッヒミキサー、ユニバーサルミキサー、レーディゲミキサーなどを利用することができる。次に、原料混合物を予備金型によって予備成形し、予備成形品を成形用金型によって加圧加熱成形する。加圧加熱成形における成形温度は130℃〜200℃、成形圧力は10MPa〜100MPa、成形時間は2分〜15分である。次に、成形体を140℃〜400℃で2時間〜48時間硬化させる。
【0022】
(摩擦材剛性/裏板剛性の最適な値、裏板及び摩擦材のそれぞれの最適な剛性、並びに摩擦パッド全体としての最適剛性)
摩擦材剛性/裏板剛性の値は、効果的に鳴きの発生を抑制するという点からすれば、0.4以上であれば良く、特に上限が設定されるものではないが、4.5未満であることが望ましい。この上限値は、厚み5mmの裏板(裏板の一般的な厚み)における最も小さい剛性の値と、厚み3mmの摩擦材(使用される中で最も剛性が高い状態)における最も大きな剛性の値から算出されたものであり、これが製造限界値となる。
また車両用ディスクブレーキの摩擦パッドに必要とされる耐久性などを考慮すると、裏板の剛性は、面圧3MPa(常用ブレーキ面圧)において4×1011N/m/m2(単位面積あたりのN/m)〜4×1012N/m/m2であることが望ましく、摩擦材の剛性は、面圧3MPa(常用ブレーキ面圧)において1.6×1011N/m/m2〜1.8×1012N/m/m2であることが望ましい。
【実施例】
【0023】
以下に本実施形態に係る摩擦パッドの実施例を示し、本発明をより詳細に説明する。但し、本発明がこれらの実施例に限定されるものではない。
【0024】
図5に示すように、本実施形態に係る摩擦パッドの実施例として、摩擦材3の厚みが異なる複数の試験片(20mm×20mm)を作製した。裏板1として、厚み3mm幅18mmの空隙2(貫通孔)を有する厚さ5mmの中空鋼板プレートを用い、この裏板1に、公知の接着剤(図示せず)により、厚み3mm、5mm、及び11mmの摩擦材3のそれぞれを接着させた。尚、摩擦材の素材としては、前述のものを用いた。
【0025】
また図示しないが、比較例(従来の摩擦パッド)として、裏板として中実の鋼板プレートを用いた以外は上記実施例と同様の構成を備えるものを作製した。
【0026】
(摩擦材剛性/裏板剛性の値の比較)
ここでは、比較例及び実施例として、いずれも厚み11mmの摩擦材を備える試験片を使用し、パッド面圧を3MPaとしたときのそれぞれの摩擦材剛性/裏板剛性の値を比較した。
【0027】
図6に示すように、比較例の摩擦パッドは、摩擦材に対する裏板の剛性が非常に大きくその値が0.1にも満たないが、実施例の摩擦パッドは、1.2を超えていた。
【0028】
(摩擦材の厚みの違いによるパッド剛性の変化率の比較)
ここでは、摩擦材の摩耗によるパッド剛性の変化率をシミュレーションするため、比較例及び実施例について、厚み3mm、5mm、及び11mmの摩擦材のそれぞれを備える3つの試験片を使用した。各試験片についてパッド面圧を3MPaとしたときのパッド剛性を測定し、厚み11mmの摩擦材を備える試験片を基準として(摩耗前とする)、パッド剛性の変化率を算出した。
【0029】
図7に示すように、摩擦材の厚みを11mmから3mmまで変化させた場合、比較例ではパッド剛性の変化率が3.5倍以上になるのに対して、実施例では2倍以下に抑えることができた。即ち、本発明によれば、摩擦材が摩耗して薄くなったとしてもパッド剛性が維持され易いことが示された。
【0030】
(パッド面圧の違いによるパッド剛性の変化率を比較)
ここでは、パッド面圧の変化によるパッド剛性の変化をシミュレーションするため、比較例及び実施例について、厚み3mm、5mm、及び11mmの摩擦材のそれぞれを備える3つの試験片を使用した。各試験片についてパッド面圧を0.5MPa〜3MPaまで変化させたときのパッド剛性を測定した。
【0031】
図8に示すように、実施例は、パッド面圧を変化させても比較例に比べてパッド剛性が変化し難い。そのため、摩擦パッドとディスクロータとが均一な剛性で接触し易く、鳴きが発生し難くなる。従って、本発明によれば、摩擦材の摩耗に起因する鳴き以外の鳴きに対しても有効である。
【0032】
(従来の摩擦パッドについて摩擦材の厚みを種々に変更したときの鳴き評価)
摩擦材の摩耗による摩擦パッドの鳴き易さをシミュレーションするため、比較例について、厚み3mm、5mm、及び11mmの摩擦材のそれぞれを備える3つの試験片を使用した。各試験片についてパッド面圧を0.0MPa〜3MPaまで変化させたときの音圧を測定した。尚、鳴き易さ(減衰比)の閾値ラインを音圧60dBに設定した。
【0033】
図9に示すように、従来の摩擦パッドでは、厚み11mmの摩擦材を備える試験片について鳴きは発生しなかったが、厚み5mmの摩擦材を備える試験片については、パッド面圧がおよそ1.8MPa〜2.6MPaのところで鳴きが発生し、厚み3mmの摩擦材を備える試験片については、パッド面圧がおよそ0.7MPa〜1.0MPaのところで鳴きが発生した。
【0034】
(本発明の摩擦パッドについて摩擦材の厚みを種々に変更したときの鳴き評価)
摩擦材の摩耗による摩擦パッドの鳴き易さをシミュレーションするため、実施例について、厚み3mm、5mm、及び11mmの摩擦材のそれぞれを備える3つの試験片を使用した。各試験片についてパッド面圧を0.0MPa〜3MPaまで変化させたときの音圧を測定した。尚、鳴き易さ(減衰比)の閾値ラインを音圧60dBに設定した。
【0035】
図10に示すように、本発明の摩擦パッドについては、いずれの試験片についても鳴きは発生しなかった。
【0036】
(摩擦材剛性/裏板剛性の値を種々に変更したときの鳴き評価)
厚み3mmの摩擦材を備える実施例に係る試験片について、パッド面圧を3MPaとして摩擦材剛性と裏板剛性との比(摩擦材剛性/裏板剛性)を種々に変化させたときの音圧を測定して、鳴き易さを評価した。尚、鳴き易さ(減衰比)の閾値ラインを音圧60dBに設定した。
【0037】
図11に示すように、摩擦材剛性/裏板剛性の値を0.4以上にすることによって、鳴き抑制効果があることが判明した。
【0038】
〔その他の実施形態〕
上述の実施形態において、裏板が所謂ハニカム構造を備えるように構成しても良い。また、裏板の剛性を小さくするために、図3及び図4に示すように摩擦材3よりも小さな剛性を持つ部材(コイルスプリング4や皿ばね5等)を中空部材の中に設けるか、あるいは図示しないが、2つの裏板の間に、摩擦材よりも小さな剛性を持つ部材を挟み込むような構成としても良い。
【産業上の利用可能性】
【0039】
本発明に係る摩擦パッドは、特に車両用ディスクブレーキに好適に利用することができる。
【符号の説明】
【0040】
1 裏板
2 空隙
3 摩擦材
4 コイルスプリング
5 皿ばね
【技術分野】
【0001】
本発明は、摩擦材と、裏板とを接合して構成される車両用ブレーキの摩擦パッドに関する。
【背景技術】
【0002】
従来の車両用ブレーキの摩擦パッドとしては、例えば、以下の特許文献1及び2に記載されるものが知られている。特許文献1では、裏板の表裏両面に球面状に凹んだ窪みを多数設けることによって裏板の機械的強度を高くして剛性を向上させており、特許文献2では、裏板の形状を波形にすることによって裏板の剛性を向上させている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2002−061683号公報(図1〜図4、段落0013参照)
【特許文献2】特開2000−266090号公報(図1、段落0016参照)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
車両用ブレーキで使用される摩擦パッドでは、車両の制動時における鳴きの発生が問題となっている。この鳴きは、摩擦パッドの固有値と、ディスクロータなどの他の部材の固有値とが一致して共振現象が起こることによって発生することが知られている。そのため、初期設定時においては、素材を選択するなどして摩擦パッドの剛性を調整して、それぞれの固有値が一致しないようにする工夫がなされている。
【0005】
しかし、従来の摩擦パッドにおいては、上述のように裏板の高剛性化が図られ、裏板の剛性が摩擦材の剛性よりも非常に大きく設定されており、摩擦パッド全体の剛性が摩擦材の剛性に依存する。摩擦材の剛性は、その厚みに反比例して大きくなるため、摩擦材が摩耗して薄くなるにつれてその剛性が増加する。摩擦材の剛性が大きくなると、摩擦パッド全体の剛性も大きくなるため、初期設定時にずれていた固有値が一致するようになり、鳴きが発生し易くなる。
【0006】
本発明の目的は、摩擦材が摩耗したとしても、制動時における鳴きの発生を防ぐことのできる摩擦パッドを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、摩擦パッドの固有値の変動が、摩擦材の摩耗による剛性変化に伴うものであることに着目し、鋭意検討した結果、摩擦材の剛性と裏板の剛性との比を最適な範囲に調節することで、摩擦材の摩耗(厚み変化)による摩擦パッドの剛性変化を小さくして、摩擦パッドの固有値変動による鳴きの発生を抑えることができることを見出し、本発明に到達した。
【0008】
本発明に係る摩擦パッドの第1特徴構成は、摩擦材と、裏板とを接合して構成される車両用ブレーキの摩擦パッドであって、前記摩擦材の剛性/前記裏板の剛性の値が0.4以上である点にある。
【0009】
〔作用及び効果〕
本構成のごとく、摩擦材の剛性/裏板の剛性の値を0.4以上にすることによって、例え摩擦材が摩耗して薄くなり剛性が増加したとしても、摩擦パッド全体の剛性変化を小さくすることができ摩擦パッドの固有値の変動を抑えることができる。そのため、たとえ摩擦材が摩耗したとしても、摩擦パッドの固有値と、ディスクロータなどの他の部材の固有値とが、互いにずれた状態に維持され、制動時における鳴きの発生を防ぐことができる。
【0010】
第2特徴構成は、前記裏板が中空部材で構成される点にある。
【0011】
〔作用及び効果〕
本構成のごとく裏板を中空部材で構成すれば、裏板の剛性を効果的に低減させることができるため、摩擦材の剛性/裏板の剛性の値を0.4以上に設定し易い。
【0012】
第3特徴構成は、前記裏板が、前記摩擦材よりも小さな剛性を有する部材を備える点にある。
【0013】
〔作用及び効果〕
本構成のごとく、裏板が摩擦材よりも小さな剛性を有する部材を備えることで、裏板の剛性を低減させても、制動時にブレーキピストンに押圧される際の反発力を確保することができ、裏板の変形防止を図れる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本実施形態に係る摩擦パッドの概略図である。
【図2】本実施形態に係る摩擦パッドの概略図である。
【図3】その他の実施形態に係る摩擦パッドの概略図である。
【図4】その他の実施形態に係る摩擦パッドの概略図である。
【図5】実施例に係る摩擦パッドの概略図である。
【図6】従来の摩擦パッド及び本発明の摩擦パッドについて摩擦材剛性/裏板剛性の値を比較したグラフである。
【図7】従来の摩擦パッド及び本発明の摩擦パッドについて摩擦材の厚みの違いによるパッド剛性の変化率を比較したグラフである。
【図8】従来の摩擦パッド及び本発明の摩擦パッドについてパッド面圧の違いによるパッド剛性の変化率を比較したグラフである。
【図9】従来の摩擦パッドについて種々の厚みの摩擦材における鳴き評価を示したグラフである。
【図10】本発明の摩擦パッドについて種々の厚みの摩擦材における鳴き評価を示したグラフである。
【図11】種々の摩擦材剛性/裏板剛性における鳴き評価を示したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
[実施形態]
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
本実施形態に係る摩擦パッドは、例えば、車両用ディスクブレーキに適用され、図1及び図2に示すように、裏板の一方の面に、公知の接着剤(図示せず)を介して摩擦材を接着させたものである。
【0016】
(裏板)
裏板1は制動時にブレーキピストンに押圧される部材である。本実施形態に係る裏板1は、図1に示される空隙2を備える中空部材や、図2に示される複数の空隙2を備える部材で構成されており、中実の部材と比べて剛性を低下させてある。裏板1として使用可能な素材としては、例えば鋼板などの金属製プレートを挙げることができるが、これに限定されるものではない。尚、裏板1として使用される中空部材は、例えば、鋼板などの金属製プレートを機械加工で内部を刳り貫くことによって製造することができる。
【0017】
(摩擦材)
摩擦材3は、制動時にディスクロータの側面に摺接する部材であり、例えば、主成分として繊維基材と充填材と結合剤とを含有するものが挙げられるが、従来公知のものを適用することができ、特に限定されるものではない。
【0018】
摩擦材は、無機充填材、有機充填材、潤滑剤などを適宜含んでいる。無機充填材としては、硫酸バリウム、水酸化カルシウム、酸化ジルコニウム、珪酸ジルコニウム、炭酸カルシウム、雲母(マイカ)、カオリン、タルク、硫化物、チタン酸化合物塩、酸化鉄などが必要に応じて含まれる。有機充填材としては、ゴム、カシューダストなどが含まれ、潤滑剤としては、黒鉛(グラファイト)、三硫化アンチモン、二硫化モリブデン、二硫化亜鉛などが含まれる。
【0019】
摩擦材は、繊維基材として無機繊維、有機繊維および粉末体を適宜選択して含んでいる。金属繊維としては、例えば銅繊維,鉄繊維を使用することができ、金属粉としては、銅粉などを使用することができる。有機繊維としては、アラミド繊維などを使用することができる。
【0020】
結合剤は、繊維基材と充填材を結着させるものであって、結合剤として有機物である樹脂やゴムが使用される。例えばフェノール樹脂、イミド樹脂、ゴム変性フェノール樹脂、メラミン樹脂、エポキシ樹脂、NBR、ニトリルゴム、アクリルゴムなどが使用される。結合剤は、一種を単独で使用することもできるし、二種以上を組み合せて使用することもできる。
【0021】
摩擦材の製造方法は、先ず、摩擦材原料を混合機で混合して原料混合物を得る。混合機としては、アイリッヒミキサー、ユニバーサルミキサー、レーディゲミキサーなどを利用することができる。次に、原料混合物を予備金型によって予備成形し、予備成形品を成形用金型によって加圧加熱成形する。加圧加熱成形における成形温度は130℃〜200℃、成形圧力は10MPa〜100MPa、成形時間は2分〜15分である。次に、成形体を140℃〜400℃で2時間〜48時間硬化させる。
【0022】
(摩擦材剛性/裏板剛性の最適な値、裏板及び摩擦材のそれぞれの最適な剛性、並びに摩擦パッド全体としての最適剛性)
摩擦材剛性/裏板剛性の値は、効果的に鳴きの発生を抑制するという点からすれば、0.4以上であれば良く、特に上限が設定されるものではないが、4.5未満であることが望ましい。この上限値は、厚み5mmの裏板(裏板の一般的な厚み)における最も小さい剛性の値と、厚み3mmの摩擦材(使用される中で最も剛性が高い状態)における最も大きな剛性の値から算出されたものであり、これが製造限界値となる。
また車両用ディスクブレーキの摩擦パッドに必要とされる耐久性などを考慮すると、裏板の剛性は、面圧3MPa(常用ブレーキ面圧)において4×1011N/m/m2(単位面積あたりのN/m)〜4×1012N/m/m2であることが望ましく、摩擦材の剛性は、面圧3MPa(常用ブレーキ面圧)において1.6×1011N/m/m2〜1.8×1012N/m/m2であることが望ましい。
【実施例】
【0023】
以下に本実施形態に係る摩擦パッドの実施例を示し、本発明をより詳細に説明する。但し、本発明がこれらの実施例に限定されるものではない。
【0024】
図5に示すように、本実施形態に係る摩擦パッドの実施例として、摩擦材3の厚みが異なる複数の試験片(20mm×20mm)を作製した。裏板1として、厚み3mm幅18mmの空隙2(貫通孔)を有する厚さ5mmの中空鋼板プレートを用い、この裏板1に、公知の接着剤(図示せず)により、厚み3mm、5mm、及び11mmの摩擦材3のそれぞれを接着させた。尚、摩擦材の素材としては、前述のものを用いた。
【0025】
また図示しないが、比較例(従来の摩擦パッド)として、裏板として中実の鋼板プレートを用いた以外は上記実施例と同様の構成を備えるものを作製した。
【0026】
(摩擦材剛性/裏板剛性の値の比較)
ここでは、比較例及び実施例として、いずれも厚み11mmの摩擦材を備える試験片を使用し、パッド面圧を3MPaとしたときのそれぞれの摩擦材剛性/裏板剛性の値を比較した。
【0027】
図6に示すように、比較例の摩擦パッドは、摩擦材に対する裏板の剛性が非常に大きくその値が0.1にも満たないが、実施例の摩擦パッドは、1.2を超えていた。
【0028】
(摩擦材の厚みの違いによるパッド剛性の変化率の比較)
ここでは、摩擦材の摩耗によるパッド剛性の変化率をシミュレーションするため、比較例及び実施例について、厚み3mm、5mm、及び11mmの摩擦材のそれぞれを備える3つの試験片を使用した。各試験片についてパッド面圧を3MPaとしたときのパッド剛性を測定し、厚み11mmの摩擦材を備える試験片を基準として(摩耗前とする)、パッド剛性の変化率を算出した。
【0029】
図7に示すように、摩擦材の厚みを11mmから3mmまで変化させた場合、比較例ではパッド剛性の変化率が3.5倍以上になるのに対して、実施例では2倍以下に抑えることができた。即ち、本発明によれば、摩擦材が摩耗して薄くなったとしてもパッド剛性が維持され易いことが示された。
【0030】
(パッド面圧の違いによるパッド剛性の変化率を比較)
ここでは、パッド面圧の変化によるパッド剛性の変化をシミュレーションするため、比較例及び実施例について、厚み3mm、5mm、及び11mmの摩擦材のそれぞれを備える3つの試験片を使用した。各試験片についてパッド面圧を0.5MPa〜3MPaまで変化させたときのパッド剛性を測定した。
【0031】
図8に示すように、実施例は、パッド面圧を変化させても比較例に比べてパッド剛性が変化し難い。そのため、摩擦パッドとディスクロータとが均一な剛性で接触し易く、鳴きが発生し難くなる。従って、本発明によれば、摩擦材の摩耗に起因する鳴き以外の鳴きに対しても有効である。
【0032】
(従来の摩擦パッドについて摩擦材の厚みを種々に変更したときの鳴き評価)
摩擦材の摩耗による摩擦パッドの鳴き易さをシミュレーションするため、比較例について、厚み3mm、5mm、及び11mmの摩擦材のそれぞれを備える3つの試験片を使用した。各試験片についてパッド面圧を0.0MPa〜3MPaまで変化させたときの音圧を測定した。尚、鳴き易さ(減衰比)の閾値ラインを音圧60dBに設定した。
【0033】
図9に示すように、従来の摩擦パッドでは、厚み11mmの摩擦材を備える試験片について鳴きは発生しなかったが、厚み5mmの摩擦材を備える試験片については、パッド面圧がおよそ1.8MPa〜2.6MPaのところで鳴きが発生し、厚み3mmの摩擦材を備える試験片については、パッド面圧がおよそ0.7MPa〜1.0MPaのところで鳴きが発生した。
【0034】
(本発明の摩擦パッドについて摩擦材の厚みを種々に変更したときの鳴き評価)
摩擦材の摩耗による摩擦パッドの鳴き易さをシミュレーションするため、実施例について、厚み3mm、5mm、及び11mmの摩擦材のそれぞれを備える3つの試験片を使用した。各試験片についてパッド面圧を0.0MPa〜3MPaまで変化させたときの音圧を測定した。尚、鳴き易さ(減衰比)の閾値ラインを音圧60dBに設定した。
【0035】
図10に示すように、本発明の摩擦パッドについては、いずれの試験片についても鳴きは発生しなかった。
【0036】
(摩擦材剛性/裏板剛性の値を種々に変更したときの鳴き評価)
厚み3mmの摩擦材を備える実施例に係る試験片について、パッド面圧を3MPaとして摩擦材剛性と裏板剛性との比(摩擦材剛性/裏板剛性)を種々に変化させたときの音圧を測定して、鳴き易さを評価した。尚、鳴き易さ(減衰比)の閾値ラインを音圧60dBに設定した。
【0037】
図11に示すように、摩擦材剛性/裏板剛性の値を0.4以上にすることによって、鳴き抑制効果があることが判明した。
【0038】
〔その他の実施形態〕
上述の実施形態において、裏板が所謂ハニカム構造を備えるように構成しても良い。また、裏板の剛性を小さくするために、図3及び図4に示すように摩擦材3よりも小さな剛性を持つ部材(コイルスプリング4や皿ばね5等)を中空部材の中に設けるか、あるいは図示しないが、2つの裏板の間に、摩擦材よりも小さな剛性を持つ部材を挟み込むような構成としても良い。
【産業上の利用可能性】
【0039】
本発明に係る摩擦パッドは、特に車両用ディスクブレーキに好適に利用することができる。
【符号の説明】
【0040】
1 裏板
2 空隙
3 摩擦材
4 コイルスプリング
5 皿ばね
【特許請求の範囲】
【請求項1】
摩擦材と、裏板とを接合して構成される車両用ブレーキの摩擦パッドであって、
前記摩擦材の剛性/前記裏板の剛性の値が0.4以上であることを特徴とする摩擦パッド。
【請求項2】
前記裏板が中空部材で構成される請求項1に記載の摩擦パッド。
【請求項3】
前記裏板が、前記摩擦材よりも小さな剛性を有する部材を備える請求項1又は2に記載の摩擦パッド。
【請求項1】
摩擦材と、裏板とを接合して構成される車両用ブレーキの摩擦パッドであって、
前記摩擦材の剛性/前記裏板の剛性の値が0.4以上であることを特徴とする摩擦パッド。
【請求項2】
前記裏板が中空部材で構成される請求項1に記載の摩擦パッド。
【請求項3】
前記裏板が、前記摩擦材よりも小さな剛性を有する部材を備える請求項1又は2に記載の摩擦パッド。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2013−113336(P2013−113336A)
【公開日】平成25年6月10日(2013.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−257997(P2011−257997)
【出願日】平成23年11月25日(2011.11.25)
【出願人】(301065892)株式会社アドヴィックス (1,291)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成25年6月10日(2013.6.10)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年11月25日(2011.11.25)
【出願人】(301065892)株式会社アドヴィックス (1,291)
【Fターム(参考)】
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