説明

車両用ブレーキ液圧制御装置

【課題】ペダルフィーリングの悪化を抑えつつ、入口弁(常開型比例電磁弁)のハンチングを抑えることを目的とする。
【解決手段】制御部は、常開型比例電磁弁の通電量を第1勾配で減少させる際に、通電量を増加側にオフセットするオフセット制御を実行するオフセット手段を有し、オフセット手段は、電流検出手段で検出された電流値が所定の変動状態となるか否かを判定し(ステップS5)、所定の変動状態となる場合に(Yes)、オフセット制御を実行する(ステップS6)。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、入口弁に常開型比例電磁弁を用いた車両用ブレーキ液圧制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、車両用ブレーキ液圧制御装置として、常開型比例電磁弁である入口弁への通電量を初期電流値から所定の勾配で下げていく間に増加側に所定量オフセットさせることで、入口弁のハンチングによる液圧の脈動を抑えるものが知られている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2009−29198号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、前述した技術では、入口弁への通電量を所定の勾配で下げていく間にオフセットを頻繁に行うと、オフセットの影響によりホイールシリンダ圧が変動するため、その結果ペダルへのキックバック量が増加し、ペダルフィーリングが悪化してしまうという課題がある。
【0005】
そこで、本発明は、ペダルフィーリングの悪化を抑えつつ、入口弁(常開型比例電磁弁)のハンチングを抑えることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記課題を解決する本発明は、運転者がブレーキペダルに加える踏力に応じたブレーキ液圧を発生する液圧源と、当該液圧源と車輪ブレーキとの間の流路に設けられる常開型比例電磁弁と、前記車輪ブレーキから前記液圧源への戻し流路に設けられる常閉型電磁弁と、前記常開型比例電磁弁および前記常閉型電磁弁への通電量を制御することで、前記車輪ブレーキ内の液圧を増圧状態、保持状態、減圧状態に切り替える制御を行う制御部と、を備える車両用ブレーキ液圧制御装置であって、前記常開型比例電磁弁における可動コアの移動に応じて発生する電流を検出する電流検出手段を有するとともに、前記制御部は、前記常開型比例電磁弁の通電量を第1勾配で減少させる際に、前記通電量を増加側にオフセットするオフセット制御を実行するオフセット手段を有し、前記オフセット手段は、前記電流検出手段で検出された電流値が所定の変動状態となるか否かを判定し、所定の変動状態となる場合に、前記オフセット制御を実行することを特徴とする。
【0007】
本発明によれば、例えば液圧の脈動などによって可動コアが振動することで常開型比例電磁弁に流れる電流値が所定の変動状態になった場合には、オフセット制御が実行されるので、効率的に常開型比例電磁弁のハンチングを抑えることができる。また、電流値が所定の変動状態になった場合だけオフセット制御を実行するので、オフセット制御を頻繁に行う方法に比べてペダルフィーリングの悪化を抑えることができる。
【0008】
また、本発明では、前記電流検出手段で検出された電流値を周波数解析する周波数解析手段を設け、前記オフセット手段が、前記周波数解析手段での解析結果に基づいて前記電流値の特定の周波数における振幅が所定値以上であるか否かを判定し、所定値以上である場合に、前記オフセット制御を実行するように構成されていてもよい。
【0009】
これによれば、周波数解析により可動コアの振動に関係する特定の周波数の電流値の変動を把握することができるので、可動コアの振動に関係しない他の周波数の電流値の変動時にはオフセット制御を実行せずに済む。これにより、より効率良くオフセット制御を実行することができ、ペダルフィーリングの悪化もより抑えることができる。
【0010】
また、本発明では、オフセット手段が、前記電流検出手段で検出された電流値と指示電流値との偏差が所定の閾値以上であるか否かを判定し、所定の閾値以上である場合に、前記オフセット制御を実行するように構成されていてもよい。
【0011】
この場合であっても、偏差により可動コアの振動状態を把握することができるので、効率的に常開型比例電磁弁のハンチングを抑えることができる。
【0012】
また、本発明では、前記オフセット手段が、前記判定を、1増圧サイクルあたりに複数回実行するのが望ましい。
【0013】
これによれば、1増圧サイクルあたりに判定を複数回実行するので、1増圧サイクル中における常開型比例電磁弁のハンチングを確実に抑えることができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、ペダルフィーリングの悪化を抑えつつ、常開型比例電磁弁のハンチングを抑えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の第1の実施形態に係る車両用ブレーキ液圧制御装置を備えた車両の構成図である。
【図2】車両用ブレーキ液圧制御装置の構成を示す構成図である。
【図3】制御部の構成を示すブロック図である。
【図4】周波数解析の結果を示すグラフである。
【図5】制御部の動作を示すフローチャートである。
【図6】入口弁への通電量の経時変化を示すタイムチャート(a)と、マスタシリンダ圧とホイールシリンダ圧を示すタイムチャート(b)と、他の車輪ブレーキのホイールシリンダ圧を示すタイムチャート(c)である。
【図7】第2の実施形態を説明するための図であり、図6(a)の通電量のグラフの一部を拡大した拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
[第1の実施形態]
次に、本発明の第1の実施形態について、適宜図面を参照しながら詳細に説明する。
図1に示すように、車両用ブレーキ液圧制御装置100は、車両CRの各車輪Tに付与する制動力を適宜制御する装置である。車両用ブレーキ液圧制御装置100は、油路や各種部品が設けられる液圧ユニット10と、液圧ユニット10内の各種部品を適宜制御するための制御部20とを主に備えている。
【0017】
各車輪Tには、それぞれ車輪ブレーキFL,RR,RL,FRが備えられ、各車輪ブレーキFL,RR,RL,FRには、液圧源の一例としてのマスタシリンダMから供給される液圧により制動力を発生するホイールシリンダWが備えられている。マスタシリンダMとホイールシリンダWとは、それぞれ液圧ユニット10に接続されている。そして、ブレーキペダルPの踏力(運転者の制動操作)に応じてマスタシリンダMで発生したブレーキ液圧が、制御部20および液圧ユニット10で制御された上でホイールシリンダWに供給されている。
【0018】
制御部20には、マスタシリンダ圧(マスタシリンダM内の液圧)を検出する圧力センサ91と、各車輪Tの車輪速度を検出する車輪速センサ92と、後述する電流検出手段の一例としての電流センサ93(図3参照)とが接続されている。そして、この制御部20は、例えば、CPU、RAM、ROMおよび入出力回路を備えており、圧力センサ91、車輪速センサ92および電流センサ93からの入力と、ROMに記憶されたプログラムやデータに基づいて各種演算処理を行うことによって、アンチロックブレーキ制御や後述するオフセット制御を実行する。なお、制御部20の詳細は、後述することとする。
【0019】
圧力センサ91は、マスタシリンダM内の圧力を検出するセンサであり、後述する液圧ユニット10内に設けられている(図2参照)。車輪速センサ92は、車輪Tの車輪速度を検出するセンサであり、各車輪Tに対応して設けられている。また、電流センサ93は、入口弁1に流れる電流を検出するセンサであり、制御部20内に設けられている。そして、この電流センサ93では、入口弁1において可動コアの移動による逆起電力が発生する場合には、可動コアの移動に応じて発生する電流を検出することも可能となっている。
【0020】
図2に示すように、液圧ユニット10は、マスタシリンダMと車輪ブレーキFL,RR,RL,FRとの間に配置されている。マスタシリンダMの二つの出力ポートM1,M2は、液圧ユニット10の入口ポート121に接続され、出口ポート122が、各車輪ブレーキFL,RR,RL,FRに接続されている。そして、通常時は液圧ユニット10内の入口ポート121から出口ポート122までが連通した油路となっていることで、ブレーキペダルPの踏力が各車輪ブレーキFL,RR,RL,FRに伝達されるようになっている。
【0021】
液圧ユニット10には、各車輪ブレーキFL,RR,RL,FRに対応して四つの入口弁1、四つの出口弁2、および四つのチェック弁1aが設けられている。また、出力ポートM1,M2に対応した各出力液圧路81,82に対応して二つのリザーバ3、二つのポンプ4、二つのオリフィス5aが設けられ、二つのポンプ4を駆動するための電動モータ6を備えている。
【0022】
入口弁1は、各車輪ブレーキFL,RR,RL,FRとマスタシリンダMとの間(各車輪ブレーキFL,RR,RL,FRの上流側)の流路に配置された本発明の常開型比例電磁弁である。入口弁1は、図示しないが、弁座に対して弁体を離す方向に付勢するスプリングと、コイルユニットへの通電により励磁される固定コアと、励磁された固定コアからの磁力によって移動して弁体をスプリングの付勢力に抗して押圧する可動コアとを備えている。
【0023】
そして、この入口弁1は、前記した制御部20からの通電量によって、その開弁量が調整可能となっている。入口弁1は、通常時に開いていることで、マスタシリンダMから各車輪ブレーキFL,RR,RL,FRへブレーキ液圧が伝達するのを許容している。また、入口弁1は、車輪Tがロックしそうになったときに制御部20により閉塞されることで、ブレーキペダルPから各車輪ブレーキFL,RR,RL,FRに伝達する液圧を遮断する。さらに、入口弁1は、制御部20によって所定の閉弁力となるように制御されることで、各車輪ブレーキFL,RR,RL,FR内の液圧を所定の傾きで増加させる。
【0024】
出口弁2は、各車輪ブレーキFL,RR,RL,FRと各リザーバ3との間の流路(車輪ブレーキから液圧源への戻し流路)に配置された常閉型の電磁弁である。出口弁2は、通常時に閉塞されているが、車輪Tがロックしそうになったときに制御部20により開放されることで、各車輪ブレーキFL,RR,RL,FRに加わる液圧を各リザーバ3に逃がす。
【0025】
チェック弁1aは、各入口弁1に並列に接続されている。このチェック弁1aは、各車輪ブレーキFL,RR,RL,FR側からマスタシリンダM側へのブレーキ液の流入のみを許容する弁であり、ブレーキペダルPからの入力が解除された場合に入口弁1を閉じた状態にしたときにおいても、各車輪ブレーキFL,RR,RL,FR側からマスタシリンダM側へのブレーキ液の流れを許容する。
【0026】
リザーバ3は、各出口弁2が開放されることによって逃がされるブレーキ液を一時的に貯溜する機能を有している。
ポンプ4は、リザーバ3で貯溜されているブレーキ液を吸入し、そのブレーキ液をオリフィス5aを介してマスタシリンダMへ戻す機能を有している。
【0027】
入口弁1および出口弁2は、制御部20により開閉状態が制御されることで、各車輪ブレーキFL,RR,RL,FR内の液圧(以下、「ホイールシリンダ圧」ともいう。)を制御する。例えば、入口弁1が開、出口弁2が閉となる通常状態では、ブレーキペダルPを踏んでいれば、マスタシリンダMからの液圧がそのままホイールシリンダWへ伝達して増圧状態となり、入口弁1が閉、出口弁2が開となれば、ホイールシリンダWからリザーバ3側へブレーキ液が流出して減圧状態となり、入口弁1と出口弁2が共に閉となれば、ホイールシリンダ圧が保持される保持状態となる。また、入口弁1を所定の開弁量で開弁させた状態では、ホイールシリンダW内が所定の傾きで徐々に増圧する増圧状態となる。そして、制御部20は、各ホイールシリンダWで目標とするブレーキ液圧に応じて、前記した増圧状態、減圧状態、保持状態を切り換えるべく、各入口弁1や各出口弁2に所定量の電流または制御信号を出力する。
【0028】
次に、制御部20の詳細について説明する。
図3に示すように、制御部20は、制御圧決定手段21、初期電流値算出手段22、開弁量増加手段23、周波数解析手段24およびオフセット手段25を備えて構成されている。
【0029】
制御圧決定手段21は、車両の状態に応じて、ホイールシリンダ圧を増圧状態、減圧状態、保持状態のいずれにするのかを決定する機能を有している。具体的には、例えば、制御圧決定手段21は、車輪速センサ92で検出される車輪速度と、4つの車輪Tの車輪速度に基づいて推定される車体速度との速度比(スリップ率)が、所定値以上になり、かつ、車輪加速度が0以下であるときに車輪Tがロックしそうになったと判定して、ホイールシリンダ圧を減圧状態にすることを決定する。ここで、車輪加速度は、例えば車輪速度から算出される。
【0030】
また、制御圧決定手段21は、車輪加速度が0よりも大きいときに、ホイールシリンダ圧を保持状態にすることを決定する。さらに、制御圧決定手段21は、スリップ率が所定値未満となり、かつ、車輪加速度が0以下であるときに車輪Tが接地しつつあると判定して、ホイールシリンダ圧を増圧状態にすることを決定する。そして、この制御圧決定手段21は、ホイールシリンダ圧を増圧状態にすることを決定した場合(すなわち、減圧状態または保持状態から増圧状態に移行した場合)に、増圧開始信号を初期電流値算出手段22に出力する。
【0031】
初期電流値算出手段22は、制御圧決定手段21からの増圧開始信号を受信すると、推定ホイールシリンダ圧と、圧力センサ91で検出したマスタシリンダ圧との差(入口弁1の上下流の圧力差)に基づいて、入口弁1を開弁させる初期電流値を算出する機能を有している。ここで、「推定ホイールシリンダ圧」は、公知の手法で算出されるホイールシリンダ圧であり、例えば、圧力センサ91で検出したマスタシリンダ圧と、入口弁1や出口弁2の開閉状態に基づいて算出(推定)されるホイールシリンダ圧である。また、「入口弁1を開弁させる初期電流値」は、一例を挙げれば、開弁し始める電流値、すなわち、入口弁1の上下流の差圧およびスプリングにより弁体を開方向に押す力と、入口弁1への通電により弁体に発生する閉弁力とが釣り合うような電流値である。なお、このような開弁し始める電流値に限らず、例えば、開弁し始める電流値よりも僅かに低いまたは高い電流値を、初期電流値としてもよい。また、この初期電流値の算出には、例えば、ROMやRAM等の記憶手段に記憶してある、初期電流値と入口弁1の上下流の差圧との関係を示すテーブルなどを用いればよい。そして、この初期電流値算出手段22は、初期電流値を算出すると、この初期電流値を開弁量増加手段23に出力する。
【0032】
開弁量増加手段23は、初期電流値算出手段22から初期電流値を受け取ると、入口弁1への通電量を初期電流値に変化させるとともに、その通電量を所定の目標電流値に向けて第1勾配で徐々に低下させて入口弁1の開弁量を徐々に増加(閉弁力を徐々に低下)させていく機能を有している。ここで、「目標電流値」とは、増圧制御によりホイールシリンダ圧を目標値にするために設定する電流値であり、例えば、ホイールシリンダ圧の目標値に基づいて算出してもよいし、前回の増圧制御終了時の通電量を目標電流値として設定してもよい。なお、この目標電流値の算出には、例えば、ROMやRAM等の記憶手段に記憶してある、目標電流値とホイールシリンダ圧の目標値との関係を示すテーブルなどを用いればよい。また、「第1勾配」とは、初期電流値、目標電流値および1増圧サイクルにかかる時間の関係で決まる勾配であり、初期電流値などの値に応じて変化するようになっている。本実施形態では、図6(a)の時刻t1〜t7までの期間を全て第1の勾配としている。そして、この開弁量増加手段23は、後で詳述するように、オフセット手段25からの信号によって通電量を変更するようにも構成されている。
【0033】
周波数解析手段24は、電流センサ93で検出された電流値を周波数解析する機能を有しており、その解析結果をオフセット手段25に出力するように構成されている。
【0034】
オフセット手段25は、開弁量増加手段23によって入口弁1の通電量を第1勾配で減少させる際に、通電量を増加側にオフセットするオフセット制御を実行するように構成されている。具体的に、オフセット手段25は、電流センサ93で検出された電流値が所定の変動状態となるか否かを判定し、所定の変動状態となる場合に、オフセット制御を実行するようになっている。
【0035】
より具体的には、本実施形態では、オフセット手段25は、図4に示すような周波数解析手段24での解析結果に基づいて、電流値の特定の周波数fsにおける振幅が所定値A1以上であるか否かを判定し、所定値A1以上である場合に、オフセット制御を実行するようになっている。ここで、「特定の周波数」は、可動コアのハンチングが発生するときの周波数に設定すればよく、この周波数や振幅の閾値は実験等により予め設定しておけばよい。
【0036】
さらに、オフセット手段25は、前記判定を、1増圧サイクル(図6(a)に示す時刻t1〜t7間)あたりに複数回実行するように構成されている。
【0037】
なお、オフセット制御の開始と終了のタイミング(例えば図6(a)に示す時刻t2,t3)やオフセット量は、実験等により、入口弁1の可動コアの振動を抑えることが可能な値に設定される。
【0038】
以上のように構成される制御部20は、図5に示すフローチャートに基づいて入口弁1の開弁制御(増圧制御)を行う。
図5に示すように、制御部20は、まず、現在の制御モードが増圧モードであるか否か、すなわち、制御圧決定手段21が増圧状態を決定したか否かを判断する(S1)。
【0039】
ステップS1において、制御部20は、増圧モードでないと判断した場合には(No)、そのまま本制御を終了させ、増圧モードであると判断した場合には(Yes)、通常増圧制御を実行する(S2)。ここで、「通常増圧制御」とは、入口弁1への通電量を初期電流値まで下げた後、第1勾配で目標電流値に向けて下げていく制御をいう。
【0040】
ステップS2の後、制御部20は、電流センサ93によって入口弁1に流れる電流値を計測するとともに(S3)、周波数解析を実行する(S4)。ステップS4の後、制御部20は、電流値の特定の周波数における振幅が所定値以上であるか否かを判断する(S5)。
【0041】
ステップS5において振幅が所定値以上であると判断すると、制御部20は、オフセット制御を実行する(S6)。ステップS6の後やステップS5でNoと判断した場合には、制御部20は、本制御を終了させる。
【0042】
次に、入口弁1の開弁制御時における通電量、マスタシリンダ圧およびホイールシリンダ圧の状態について説明する。
【0043】
図6(b)に示すように、例えばホイールシリンダ圧を保持状態から増圧状態に移行する際に、制御部20は、入口弁1に供給する電流を、入口弁1を完全に閉弁状態にする電流値αから、これよりも低い初期電流値βに変更する。その後、制御部20は、入口弁1への通電量を初期電流値βから第1勾配で徐々に下げていくことにより、ホイールシリンダ圧を徐々に増加させる(時刻t1〜t2間)。
【0044】
このとき、ホイールシリンダ圧の増加開始時の昇圧レート(時刻t1〜t2間の昇圧レート)が急勾配であると、入口弁1の可動コアが振動(ハンチング)してマスタシリンダ圧が図示のように脈動してしまう。しかし、この場合には、図6(a)に示すように、通電量が脈動するので、この通電量の脈動により電流値の特定の周波数における振幅が所定値以上になると、オフセット制御が実行される(時刻t2〜t3間)。これにより、オフセットしている時間において、ハンチングした状態の入口弁1の上下流の差圧と通電量の釣り合い関係がはずされ、図示のように、マスタシリンダ圧の脈動、すなわち入口弁1のハンチングが収束する。
【0045】
その後、図6(a)に示すように再度通電量が第1勾配で下がっていく途中において、図6(c)に示すように、他の車輪ブレーキのホイールシリンダ圧が減圧されると(時刻t4)、減圧後のポンプ4の駆動により、図6(b)に示すように、マスタシリンダ圧が脈動し、この脈動により入口弁1がハンチングする。しかし、この場合にも、通電量が脈動するので、この通電量の脈動により電流値の特定の周波数における振幅が所定値以上になると、オフセット制御が実行されて(時刻t5〜t6間)、マスタシリンダ圧の脈動、すなわち入口弁1のハンチングが収束する。
【0046】
以上によれば、本実施形態において以下のような効果を得ることができる。
可動コアが振動することで入口弁1に流れる電流値が所定の変動状態になった場合には、オフセット制御が実行されるので、効率的に入口弁1のハンチングを抑えることができる。また、電流値が所定の変動状態になった場合だけオフセット制御を実行するので、オフセット制御を頻繁に行う方法に比べてペダルフィーリングの悪化を抑えることができる。
【0047】
特に本実施形態では、周波数解析により可動コアの振動に関係する特定の周波数の電流値の変動を把握することができるので、可動コアの振動に関係しない他の周波数の電流値の変動時にはオフセット制御を実行せずに済む。これにより、より効率良くオフセット制御を実行することができ、ペダルフィーリングの悪化もより抑えることができる。
【0048】
1増圧サイクルあたりに判定を複数回実行するので、1増圧サイクル中における入口弁1のハンチングを確実に抑えることができる。
【0049】
[第2の実施形態]
次に、本発明の第2の実施形態について、適宜図面を参照しながら詳細に説明する。なお、本実施形態は、前記した第1の実施形態に係る制御部20による制御を変更したものであるため、第1の実施形態と同様の構成要素については、同一符号を付し、その説明を省略することとする。
【0050】
第2の実施形態では、オフセット手段25が、電流センサ93で検出された電流値と指示電流値との偏差(絶対値)が所定の閾値以上であるか否かを判定し、所定の閾値以上である場合に、オフセット制御を実行するように構成されていている。言い換えると、図7に示すように、電流センサ93で検出された電流値が、指示電流値から所定量だけ離れた閾値上限値または閾値下限値を上回った場合または下回った場合に、オフセット制御を実行している。
【0051】
具体的に、この制御を行う場合には、図5に示すフローチャートにおけるステップS5の処理を、電流値と指示電流値との偏差(絶対値)が所定の閾値以上であるか否かを判定する処理に置き換えればよい。この場合であっても、偏差により可動コアの振動状態を把握することができるので、効率的に常開型比例電磁弁のハンチングを抑えることができる。
【0052】
なお、本発明は前記実施形態に限定されることなく、以下に例示するように様々な形態で利用できる。
前記実施形態では、電流検出手段として電流センサ93を例示したが、本発明はこれに限定されず、例えば電流値を電圧値として間接的に検出する電圧センサであってもよい。
【0053】
前記実施形態では、所定の目標電流値に向かって通電量を低下させる制御に本発明を適用したが、例えば、通電量を低下させる制御中に目標電流値を変更する場合にも本発明を適用できる。なお、目標電流値を変更する場合としては、例えば、路面摩擦係数やマスタシリンダ圧の変化に対応した補正制御を行うときなどが該当する。また、目標電流値を決めずに、初期電流値から所定の勾配で通電量を低下させていき、状況に応じて途中で勾配を大きくする制御などにも本発明を適用できる。
【0054】
前記実施形態では、開弁量増加手段23から出力する電流の電流値をオフセット手段25によって適宜変更(オフセット)するようにしたが、本発明はこれに限定されるものではない。例えば、開弁量増加手段23から出力される電流の電流値は変えずに、電流が通るルートを、例えば抵抗の大きなルートと、小さなルートとに切り替えることによってオフセットを行ってもよい。
【0055】
前記実施形態では、初期電流値を入口弁1の上下流の圧力差から算出したが、本発明はこれに限定されるものではない。例えば、特開2003−19952号公報のように、1回目の増圧制御時に入口弁1を所定の勾配で徐々に開けていき、実際にホイールシリンダ圧が増加した時点(入口弁1が開いた時点)で入口弁1に供給されている通電量を記憶しておき、2回目以降の増圧制御時に、記憶した通電量を初期電流値として利用してもよい。
【0056】
前記実施形態では、ホイールシリンダ圧として、マスタシリンダ圧から推定した推定ホイールシリンダ圧を利用したが、本発明はこれに限定されず、各ホイールシリンダWに圧力センサを設け、各圧力センサで検出した値をホイールシリンダ圧として利用してもよい。
【0057】
前記実施形態では、マスタシリンダ圧として、圧力センサ91で検出したものを利用したが、本発明はこれに限定されず、制御部20にマスタシリンダ圧推定手段を設け、このマスタシリンダ圧推定手段で推定した推定マスタシリンダ圧を利用してもよい。
【0058】
なお、本発明に係るオフセット制御は、アンチロックブレーキ制御だけでなく、車両の挙動を安定させる車両挙動制御に用いることもできる。
【符号の説明】
【0059】
1 入口弁
2 出口弁
20 制御部
24 周波数解析手段
25 オフセット手段
93 電流センサ
100 車両用ブレーキ液圧制御装置
FL 車輪ブレーキ
M マスタシリンダ
P ブレーキペダル


【特許請求の範囲】
【請求項1】
運転者がブレーキペダルに加える踏力に応じたブレーキ液圧を発生する液圧源と、当該液圧源と車輪ブレーキとの間の流路に設けられる常開型比例電磁弁と、前記車輪ブレーキから前記液圧源への戻し流路に設けられる常閉型電磁弁と、前記常開型比例電磁弁および前記常閉型電磁弁への通電量を制御することで、前記車輪ブレーキ内の液圧を増圧状態、保持状態、減圧状態に切り替える制御を行う制御部と、を備える車両用ブレーキ液圧制御装置であって、
前記常開型比例電磁弁における可動コアの移動に応じて発生する電流を検出する電流検出手段を有するとともに、
前記制御部は、前記常開型比例電磁弁の通電量を第1勾配で減少させる際に、前記通電量を増加側にオフセットするオフセット制御を実行するオフセット手段を有し、
前記オフセット手段は、前記電流検出手段で検出された電流値が所定の変動状態となるか否かを判定し、所定の変動状態となる場合に、前記オフセット制御を実行することを特徴とする車両用ブレーキ液圧制御装置。
【請求項2】
前記電流検出手段で検出された電流値を周波数解析する周波数解析手段を備え、
前記オフセット手段は、前記周波数解析手段での解析結果に基づいて前記電流値の特定の周波数における振幅が所定値以上であるか否かを判定し、所定値以上である場合に、前記オフセット制御を実行することを特徴とする請求項1に記載の車両用ブレーキ液圧制御装置。
【請求項3】
前記オフセット手段は、前記電流検出手段で検出された電流値と指示電流値との偏差が所定の閾値以上であるか否かを判定し、所定の閾値以上である場合に、前記オフセット制御を実行することを特徴とする請求項1または請求項2に記載の車両用ブレーキ液圧制御装置。
【請求項4】
前記オフセット手段は、前記判定を、1増圧サイクルあたりに複数回実行することを特徴とする請求項1〜請求項3のいずれか1項に記載の車両用ブレーキ液圧制御装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−236465(P2012−236465A)
【公開日】平成24年12月6日(2012.12.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−105624(P2011−105624)
【出願日】平成23年5月10日(2011.5.10)
【出願人】(000226677)日信工業株式会社 (840)
【Fターム(参考)】