説明

車両用ブレーキ液圧制御装置

【課題】ポンプのモータの停止時における吸入弁への通電時間を短くして、吸入弁等の発熱を抑えることができる車両用ブレーキ液圧制御装置を提供することを目的とする。
【解決手段】車両用ブレーキ液圧制御装置は、通電により開弁する吸入弁7と、当該吸入弁7を介して液圧源側からブレーキ液を汲み上げ可能なポンプと、当該ポンプを駆動するモータ9と、吸入弁7の開閉およびモータ9の駆動を通電によって制御する制御装置20を備える。制御装置20は、モータ9への通電を停止してから当該モータ9が惰性で回転することによって発生する逆起電圧を検出する検出手段21と、逆起電圧が所定電圧以下であるという電圧条件を満たすか否かを判定する電圧判定手段22と、電圧条件を満たしたときから所定時間が経過したという時間条件を満たすか否かを判定する時間判定手段23とを備え、時間条件を満たしたときに吸入弁7を閉弁する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両用ブレーキ液圧制御装置に関し、詳しくは吸入弁を介して液圧源側からブレーキ液を汲み上げるポンプと、当該ポンプを駆動するモータを備える車両用ブレーキ液圧制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、ポンプを停止する際において、モータを停止すると同時に吸入弁を閉じてしまうと、モータの惰性回転により吸入弁とポンプ間のブレーキ液がポンプで汲み上げられ、吸入弁とポンプ間で負圧が発生してキャビテーションが生じるという問題が知られている。この問題を解決する従来技術としては、特許文献1に開示された技術がある。
【0003】
この技術では、ポンプを停止する際において、モータへの通電を停止した後、所定時間経過後に吸入弁を閉じることで、この所定時間の間でポンプの惰性回転を終了させ、負圧の発生を抑えている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平10−35456号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、前述した技術では、所定時間を、モータの特性に応じてモータへの通電停止から惰性回転を停止するまでに要する時間に設定しているが、この時間は、モータやポンプ等の構造的なばらつき、モータ回転数、モータにかかる負荷、温度、電源電圧等を考慮して、モータが最も停止しにくいケースを想定した時間に設定する必要がある。そのため、従来技術では、実際にモータが停止する時間に対して相当長い時間に所定時間を設定する必要があるので、その間ずっと吸入弁を開いたままにしておかなければならず、吸入弁への通電時間が長くなり、吸入弁のコイルやECUの発熱量が大きくなるといった問題があった。
【0006】
そこで、本発明は、ポンプのモータの停止時における吸入弁への通電時間を短くして、吸入弁等の発熱を抑えることができる車両用ブレーキ液圧制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記課題を解決する本発明は、通電により開弁する吸入弁と、当該吸入弁を介して液圧源側からブレーキ液を汲み上げ可能なポンプと、当該ポンプを駆動するモータと、前記吸入弁の開閉および前記モータの駆動を通電によって制御する制御装置と、を備え、前記モータへの通電を停止した後に前記吸入弁を閉弁する車両用ブレーキ液圧制御装置において、前記制御装置が、前記モータへの通電を停止してから当該モータが惰性で回転することによって発生する逆起電圧を検出する検出手段と、前記逆起電圧が所定電圧以下であるという電圧条件を満たすか否かを判定する電圧判定手段と、前記電圧条件を満たしたときから所定時間が経過したという時間条件を満たすか否かを判定する時間判定手段と、を備え、前記時間条件を満たしたときに前記吸入弁を閉弁することを特徴とする。
【0008】
この構成によれば、検出手段によってモータの惰性回転による逆起電圧を検出するので、電圧条件を満たすまでの間は実際のモータの回転を把握でき、この間は従来のように様々な要因を考慮した時間(実際よりも長い時間)にする必要がない。また、その後の時間条件における所定時間も電圧条件を満たすまでの時間を考慮しなくてよい分だけ短くすることができる。したがって、吸入弁に通電する時間を大幅に短縮することができ、吸入弁や制御装置の発熱を抑えることができる。
【0009】
また、前記した構成において、前記所定電圧は、前記逆起電圧のゼロ点位置がオフセットし得る最大値以上の値に設定されているのが望ましい。
【0010】
これによれば、検出手段で検出される逆起電圧のゼロ点位置がオフセットした場合であっても、オフセットし得る最大値以上の値に所定電圧が設定されているので、検出した逆起電圧が確実に所定電圧に到達することができ、その後、所定時間経過を待って確実に吸入弁を閉弁することができる。
【0011】
また、前記した構成において、前記所定時間は、前記所定電圧と前記逆起電圧のゼロ点位置がオフセットし得る最小値との差分の電圧だけ逆起電圧を発生するように惰性で回転する前記モータが、停止するまでにかかる時間に設定されているのが望ましい。
【0012】
これによれば、ゼロ点位置が最小値にオフセットした場合であっても、確実にモータが停止してから、吸入弁を閉じることができる。
【0013】
また、前記した構成において、前記所定電圧は、前記逆起電圧のゼロ点位置がオフセットし得る最大値に設定されているのが望ましい。
【0014】
これによれば、所定電圧をオフセットし得る最大値よりも大きな値に設定した場合と比べ、時間条件における所定時間を短い時間にすることができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、ポンプのモータの停止時における吸入弁への通電時間を短くすることができるので、吸入弁等の発熱を抑えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の実施形態に係る車両用ブレーキ液圧制御装置を備えた車両を示す構成図である。
【図2】車両用ブレーキ液圧制御装置のブレーキ液圧回路を示す構成図である。
【図3】制御装置の構成を示すブロック図である。
【図4】制御装置の動作を示すフローチャートである。
【図5】モータを駆動してから停止するまでの一連の動作を示すタイムチャートである。
【図6】所定電圧や所定時間の設定の方法を示す説明図である。
【図7】ゼロ点位置がプラス側にオフセットしたときにおいて、モータが停止するまでの一連の動作を示すタイムチャートである。
【図8】ゼロ点位置がマイナス側にオフセットしたときにおいて、モータが停止するまでの一連の動作を示すタイムチャートである。
【図9】所定電圧や所定時間の設定の方法の他の例を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
次に、本発明の実施形態について、適宜図面を参照しながら詳細に説明する。
図1に示すように、車両用ブレーキ液圧制御装置100は、車両CRの各車輪Wに付与する制動力(ブレーキ液圧)を適宜制御するためのものであり、油路(液圧路)や各種部品が設けられた液圧ユニット10と、液圧ユニット10内の各種部品を適宜制御するための制御装置20とを備えている。
【0018】
制御装置20は、例えば、CPU、RAM、ROMおよび入出力回路を備えており、図示せぬ車輪速センサ等からの入力と、ROMに記憶されたプログラムやデータに基づいて各演算処理を行うことによって制御を実行する。
【0019】
ホイールシリンダHは、マスタシリンダMCおよび車両用ブレーキ液圧制御装置100により発生されたブレーキ液圧を各車輪Wに設けられた車輪ブレーキFR,FL,RR,RLの作動力に変換する液圧装置であり、それぞれ配管を介して車両用ブレーキ液圧制御装置100の液圧ユニット10に接続されている。
【0020】
図2に示すように、液圧ユニット10は、運転者がブレーキペダルBPに加える踏力に応じたブレーキ液圧を発生する液圧源であるマスタシリンダMCと、車輪ブレーキFR,FL,RR,RLとの間に配置されている。液圧ユニット10は、ブレーキ液が流通する油路を有する基体であるポンプボディ10a、油路上に複数配置された入口弁1、出口弁2などから構成されている。
【0021】
マスタシリンダMCの二つの出力ポートM1,M2はポンプボディ10aの入口ポート121に接続され、ポンプボディ10aの出口ポート122は各車輪ブレーキFR,FL,RR,RLに接続されている。そして、通常時はポンプボディ10a内の入口ポート121から出口ポート122までが連通した油路となっていることで、ブレーキペダルBPの踏力が各車輪ブレーキFL,RR,RL,FRに伝達されるようになっている。
【0022】
また、出力ポートM1から始まる油路は前輪左側の車輪ブレーキFLと後輪右側の車輪ブレーキRRに通じており、出力ポートM2から始まる油路は前輪右側の車輪ブレーキFRと後輪左側の車輪ブレーキRLに通じている。なお、以下では、出力ポートM1から始まる油路を「第一系統」と称し、出力ポートM2から始まる油路を「第二系統」と称する。
【0023】
液圧ユニット10には、その第一系統に各車輪ブレーキFL,RRに対応して二つの制御弁手段Vが設けられており、同様に、その第二系統に各車輪ブレーキRL,FRに対応して二つの制御弁手段Vが設けられている。また、液圧ユニット10には、第一系統および第二系統のそれぞれに、リザーバ3、ポンプ4、オリフィス5、調圧弁(レギュレータ)R、吸入弁7が設けられている。さらに、液圧ユニット10には、第一系統のポンプ4と第二系統のポンプ4とを駆動するための共通のモータ9が設けられている。このモータ9は、回転数制御可能なモータである。また、本実施形態では、第二系統にのみ圧力センサ8が設けられている。
【0024】
なお、以下では、マスタシリンダMCの出力ポートM1,M2から各調圧弁Rに至る油路を「出力液圧路A1」と称し、第一系統の調圧弁Rから車輪ブレーキFL,RRに至る油路および第二系統の調圧弁Rから車輪ブレーキRL,FRに至る油路をそれぞれ「車輪液圧路B」と称する。また、出力液圧路A1からポンプ4に至る油路を「吸入液圧路C」と称し、ポンプ4から車輪液圧路Bに至る油路を「吐出液圧路D」と称し、さらに、車輪液圧路Bから吸入液圧路Cに至る油路を「開放路E」と称する。
【0025】
制御弁手段Vは、マスタシリンダMCまたはポンプ4側から車輪ブレーキFL,RR,RL,FR側(詳細には、ホイールシリンダH側)への液圧の行き来を制御する弁であり、ホイールシリンダHの圧力を増加、保持または低下させることができる。そのため、制御弁手段Vは、入口弁1、出口弁2およびチェック弁1aを備えて構成されている。
【0026】
入口弁1は、各車輪ブレーキFL,RR,RL,FRとマスタシリンダMCとの間、すなわち車輪液圧路Bに設けられた常開型の電磁弁である。入口弁1は、通常時に開いていることで、マスタシリンダMCから各車輪ブレーキFL,FR,RL,RRへブレーキ液圧が伝達するのを許容している。また、入口弁1は、車輪Wがロックしそうになったときに制御装置20により閉塞されることで、ブレーキペダルBPから各車輪ブレーキFL,FR,RL,RRに伝達するブレーキ液圧を遮断する。
【0027】
出口弁2は、各車輪ブレーキFL,RR,RL,FRと各リザーバ3との間、すなわち車輪液圧路Bと開放路Eとの間に介設された常閉型の電磁弁である。出口弁2は、通常時に閉塞されているが、車輪Wがロックしそうになったときに制御装置20により開放されることで、各車輪ブレーキFL,FR,RL,RRに作用するブレーキ液圧を各リザーバ3に逃がす。
【0028】
チェック弁1aは、各入口弁1に並列に接続されている。このチェック弁1aは、各車輪ブレーキFL,FR,RL,RR側からマスタシリンダMC側へのブレーキ液の流入のみを許容する一方向弁であり、ブレーキペダルBPからの入力が解除された場合に、入口弁1を閉じた状態にしたときにおいても、各車輪ブレーキFL,FR,RL,RR側からマスタシリンダMC側へのブレーキ液の流入を許容する。
【0029】
リザーバ3は、開放路Eに設けられており、各出口弁2が開放されることによって逃がされるブレーキ液圧を吸収する機能を有している。また、リザーバ3とポンプ4との間には、リザーバ3側からポンプ4側へのブレーキ液の流れのみを許容するチェック弁3aが介設されている。
【0030】
ポンプ4は、出力液圧路A1に通じる吸入液圧路Cと車輪液圧路Bに通じる吐出液圧路Dとの間に介設されており、リザーバ3内、または、吸入弁7を介してマスタシリンダMC側からブレーキ液を汲み上げて吐出液圧路Dに吐出する機能を有している。これにより、運転者がブレーキペダルBPを操作しない場合でもブレーキ液圧を発生して車輪ブレーキFL,RR,RL,FRに制動力を発生することが可能となっている。
なお、ポンプ4のブレーキ液の吐出量は、モータ9の回転数に依存しており、例えば、モータ9の回転数が大きくなると、ポンプ4によるブレーキ液の吐出量も大きくなる。
【0031】
オリフィス5は、ポンプ4から吐出されたブレーキ液の圧力の脈動を減衰させている。
【0032】
調圧弁Rは、通常時に開いていることで、出力液圧路A1から車輪液圧路Bへのブレーキ液の流れを許容する。また、調圧弁Rは、ポンプ4が発生したブレーキ液圧によりホイールシリンダH側の圧力を増加するときには、ブレーキ液の流れを遮断しつつ、吐出液圧路D、車輪液圧路BおよびホイールシリンダH側の圧力を設定値以下に調節する機能を有している。そのため、調圧弁Rは、切換弁6およびチェック弁6aを備えて構成されている。
【0033】
切換弁6は、マスタシリンダMCに通じる出力液圧路A1と各車輪ブレーキFL,FR,RL,RRに通じる車輪液圧路Bとの間に介設された常開型のリニアソレノイド弁である。詳細は図示しないが、切換弁6の弁体は、付与される電流に応じた電磁力によって車輪液圧路BおよびホイールシリンダH側へ付勢されており、車輪液圧路Bの圧力が出力液圧路A1の圧力より所定値(この所定値は、付与される電流による)以上高くなった場合には、車輪液圧路Bから出力液圧路A1へ向けてブレーキ液が逃げることで、車輪液圧路B側の圧力が所定圧に調整される。
【0034】
チェック弁6aは、各切換弁6に並列に接続されている。このチェック弁6aは、出力液圧路A1から車輪液圧路Bへのブレーキ液の流れを許容する一方向弁である。
【0035】
吸入弁7は、吸入液圧路Cに設けられた常閉型電磁弁であり、吸入液圧路Cを開放する状態または遮断する状態に切り換えるものである。吸入弁7は、切換弁6を閉じて、各車輪ブレーキFL,FR,RL,RRにブレーキ液圧を作用させるときに制御装置20からの通電により開放(開弁)される。
【0036】
圧力センサ8は、第二系統の出力液圧路A1のブレーキ液圧を検出するものであり、その検出結果は制御装置20に入力される。
【0037】
次に、制御装置20の詳細について説明する。
制御装置20は、圧力センサ8等から入力された信号などに基づいて液圧ユニット10内の制御弁手段V、切換弁6(調圧弁R)および吸入弁7の開閉動作ならびにモータ9の動作を通電により制御して、各車輪ブレーキFL,RR,RL,FRの動作を制御するように構成されている。特に、本実施形態では、制御装置20は、車間距離制御における減速制御などの制御(吸入弁7を開弁するとともにモータ9を駆動する制御)を終了する場合には、モータ9への通電を停止した後に吸入弁7を閉弁するように構成されている。
【0038】
つまり、制御装置20は、モータ9への通電を停止すると、モータ9が実際に停止したか否かを判定し、停止したと判定した場合に吸入弁7を閉弁するように構成されている。そして、本実施形態では、制御装置20は、この一連の制御のうち、モータ9が実際に停止したか否かを判定する制御を従来とは異なる制御で行い、その他の制御は従来と同様の制御を行うようになっている。
【0039】
具体的には、図3に示すように、制御装置20は、検出手段21と、電圧判定手段22と、時間判定手段23と、弁駆動手段24を備えて構成されている。
【0040】
検出手段21は、モータ9への通電を停止してから当該モータ9が惰性で回転することによって発生する逆起電圧を検出する機能を有している。具体的に、検出手段21は、モータ9の逆起電圧を常時検出し、検出している逆起電圧を電圧判定手段22に出力するようになっている。なお、逆起電圧の検出には、例えば電圧センサまたは電流センサなどを用いればよい。
【0041】
電圧判定手段22は、制御装置20から出力しているモータ指示が「停止」を示す信号であるか否かを判定し、「停止」を示す信号である場合に、検出手段21から出力されてくる逆起電圧が所定電圧以下であるという電圧条件を満たすか否かを判定する機能を有している。そして、電圧判定手段22は、電圧条件を満たしたと判定した場合には、そのことを示す信号を時間判定手段23に出力するようになっている。
【0042】
時間判定手段23は、電圧条件を満たしたときから所定時間が経過したという時間条件を満たすか否かを判定する機能を有している。具体的には、時間判定手段23は、電圧判定手段22から信号を受けると、タイマをインクリメントし、タイマが所定時間以上になったか否かを判定している。そして、時間判定手段23は、時間条件を満たしたときに、そのことを示す信号を弁駆動手段24に出力するようになっている。
【0043】
弁駆動手段24は、時間判定手段23から信号を受けると、吸入弁7への通電を停止して、吸入弁7を閉弁する機能を有している。
【0044】
次に、制御装置20によるモータ停止判定、つまり前述した検出手段21、電圧判定手段22および時間判定手段23の動作について説明する。
【0045】
図4に示すように、制御装置20は、モータ指示が停止であるか否かを判定し(S1)、モータ指示が停止である場合には(Yes)、逆起電圧が所定電圧以下であるか否かを判断する(S2)。ステップS2において逆起電圧が所定電圧以下である場合には(Yes)、制御装置20は、タイマをインクリメントさせる(S3)。
【0046】
ステップS3の後、制御装置20は、タイマが所定時間を経過したか否かを判定する(S4)。ステップS4においてタイマが所定時間を経過した場合には(Yes)、制御装置20は、モータ9が停止中であると判定し(S5)、この判定制御を終了する。
【0047】
また、ステップS1においてモータ指示が停止でない場合(No)や、ステップS2において逆起電圧が所定電圧以下でない場合(No)や、ステップS4においてタイマが所定時間を経過していない場合(No)には、制御装置20は、モータ9が駆動中であると判定し(S6)、この判定制御を終了する。なお、この判定制御は、モータ9の駆動開始とともに開始され、モータ9の停止判定がなされるまでの間繰り返し実行される。そして、この判定制御によって停止中であるという判定結果が得られた場合には、制御装置20は、吸入弁7への通電を停止した後、タイマをリセットする。
【0048】
次に、車間距離制御における減速制御時における制御装置20の一連の動作について説明する。
図5に示すように、制御装置20は、車間距離制御における減速制御を行う際には、まず、吸入弁7を開くとともに、モータ9への通電を開始する(時刻t1)。車間距離制御における減速制御を終了するべく、制御装置20が、モータ9への通電を停止すると(時刻t2)、モータ9は直ぐには止まらず、惰性によって回転する(時刻t2〜t4)。
【0049】
これにより、モータ9の逆起電圧は、直ぐにはゼロにはならず、徐々に下がっていく。そして、逆起電圧が所定電圧(V1)になると、タイマのインクリメントが開始される(時刻t3)。
【0050】
そして、タイマが所定時間(T1)になると、制御装置20は、吸入弁7への通電を停止して、当該吸入弁7を閉じる(時刻t5)。その後、制御装置20は、適当なタイミングでタイマをリセットする(時刻t6)。
【0051】
以上のように、本実施形態では、検出手段21によってモータ9の惰性回転による逆起電圧を検出するので、電圧条件を満たすまでの間(時刻t2〜t3間)は実際のモータ9の回転を把握でき、この間は従来のように様々な要因を考慮した時間にする必要がない。また、その後の時間条件における所定時間(T1)も電圧条件を満たすまでの時間(時刻t2〜t3間)を考慮しなくてよい分だけ短くすることができる。
【0052】
つまり、従来では、時刻t2からタイマのカウントを開始するため、様々な要因を考慮すると、モータ9を停止したと判定するまでの時間を必要以上に長くする必要がある。例えば、モータ9が停止するまでの時間が最も長いケースを考えて、時刻t2での逆起電圧の最大値から惰性回転によって逆起電圧が所定の傾き(モータ9が停止するまでの時間が最も長いケースを考えた大きめの傾き)で徐々に下がり始めると予測した場合には、停止の判定ができるのは、図に2点鎖線で示すように、本実施形態でのモータ9の停止予想時刻t5よりも遅い時刻t7になってしまう。
【0053】
これに対し、本実施形態では、モータ9の停止判定の前半で、逆起電圧を参照して実際のモータ9の回転を把握することで、後半の時間条件について逆起電圧の傾きの影響を小さくすることができるので、モータ9の停止判定にかかる時間を短くすることができる。したがって、吸入弁7に通電する時間を大幅に短縮することができ、吸入弁7や制御装置20の発熱を抑えることができる。
【0054】
また、本実施形態では、電圧条件に加えて時間条件も考慮してモータ9の停止判定を行うので、例えば電圧条件のみで停止判定を行う方法に比べ、グラウンド浮きやA/D変換誤差などによってモータ9の逆起電圧のゼロ点位置がマイナス側にオフセットした場合であっても、モータ9が確実に止まった後で停止と判定することができる。
【0055】
つまり、本実施形態における所定電圧および所定時間を、モータ9の逆起電圧のゼロ点位置のオフセットを考慮して設定しておけば、ゼロ点位置がオフセットした場合であっても確実に停止判定を行うことができる。具体的には、図6に示すように、本実施形態において、所定電圧は、逆起電圧のゼロ点位置がオフセットし得る最大値V1に設定されている。
【0056】
ここで、図6では、逆起電圧のゼロ点位置がオフセットし得る最大値(V1)を2点鎖線で示し、オフセットし得る最小値(−V1)を破線で示している。なお、この最大値(V1)および最小値(−V1)は、実験やシミュレーション等で適宜把握することができる。
【0057】
また、所定時間は、所定電圧と逆起電圧のゼロ点位置がオフセットし得る最小値(−V1)との差分の電圧(V2)だけ逆起電圧を発生するように惰性で回転するモータ9が、停止するまでにかかる時間(T1)に設定されている。なお、時間(T1)は、実験やシミュレーション等で適宜把握することができる。
【0058】
以上のように所定電圧を最大値V1に設定することで、図7に示すように、検出手段21で検出される逆起電圧のゼロ点位置がプラス側(最大値V1側)にオフセットした場合であっても、検出した逆起電圧が確実に所定電圧に到達することができ(時刻t10)、その後、所定時間(T1)経過を待って確実に吸入弁7を閉弁することができる(時刻t11)。
【0059】
また、前述したように所定時間を設定することで、図8に示すように、ゼロ点位置が最小値(−V1)にオフセットした場合であっても、確実にモータ9が停止してから(逆起電圧が最小値−V1になってから:時刻t20)、吸入弁7を閉じることができる(時刻t20)。つまり、例えば所定時間を前述した時間T1よりも短い時間T2に設定した場合には、時刻t20よりも前の時刻t21でモータ9が停止されたと判定されて、吸入弁7が閉じられるので(破線参照)、時刻t21〜t20間の間、モータ9が惰性回転して負圧が発生してしまうのに対し、本実施形態では、そのような負圧の発生を確実に抑えることができる。
【0060】
なお、本発明は前記実施形態に限定されることなく、以下に例示するように様々な形態で利用できる。
前記実施形態では、所定電圧を、逆起電圧のゼロ点位置がオフセットし得る最大値(V1)としたが、本発明はこれに限定されず、最大値(V1)より大きな値であってもよい。例えば、図9に示すように、所定電圧を、逆起電圧のゼロ点位置がオフセットし得る最大値(V1)よりも僅かに大きな値V3に設定してもよい。なお、値V3は、例えば、最大値(V1)よりも大きく、モータ9の通電による回転時での逆起電圧の最小値V4よりも小さな値にすることができる。
【0061】
この場合であっても、逆起電圧のゼロ点位置がプラス側にオフセットしたときには(2点鎖線参照)、オフセットし得る最大値(V1)以上の値V3に所定電圧が設定されているので、逆起電圧が確実に所定電圧(V3)に到達することができ、その後、所定時間経過を待って確実に吸入弁7を閉弁することができる。
【0062】
また、この場合には、所定時間は、所定電圧(V3)と逆起電圧のゼロ点位置がオフセットし得る最小値(−V1)との差分の電圧(V5)だけ逆起電圧を発生するように惰性で回転するモータ9が、停止するまでにかかる時間(T3)に設定すればよい。このように所定時間を設定することで、前記実施形態と同様に、ゼロ点位置が最小値(−V1)にオフセットした場合であっても(破線参照)、逆起電圧が所定電圧(V3)になってから最小値(−V1)に下がるまでの間、吸入弁7を開放したままにすることができるので、負圧の発生を確実に抑えることができる。
【0063】
ただし、前記実施形態のように所定電圧を最大値(V1)とした場合には、所定電圧を最大値(V1)よりも大きな値(V3)に設定した場合と比べ、時間条件における所定時間を時間(T3)よりも短い時間(T1)にすることができるので、前記実施形態のようにするのが望ましい。
【0064】
前記実施形態では、逆起電圧のゼロ点位置がオフセットし得る最大値と最小値の大きさ(絶対値)を同じ値(V1)としたが、本発明はこれに限定されず、最大値と最小値の大きさは異なる値であってもよい。
【0065】
前記実施形態では、検出手段21でモータ9の逆起電圧を常時検出するようにしたが、本発明はこれに限定されず、例えばモータ指示が「停止」である場合に検出手段による逆起電圧の検出を開始するようにしてもよい。なお、この場合、電圧判定手段は、検出手段による逆起電圧の検出が開始されてから、検出された逆起電圧が所定電圧以下であるかを判定すればよい。
【符号の説明】
【0066】
4 ポンプ
7 吸入弁
9 モータ
20 制御装置
21 検出手段
22 電圧判定手段
23 時間判定手段
100 車両用ブレーキ液圧制御装置
MC マスタシリンダ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
通電により開弁する吸入弁と、当該吸入弁を介して液圧源側からブレーキ液を汲み上げ可能なポンプと、当該ポンプを駆動するモータと、前記吸入弁の開閉および前記モータの駆動を通電によって制御する制御装置と、を備え、前記モータへの通電を停止した後に前記吸入弁を閉弁する車両用ブレーキ液圧制御装置において、
前記制御装置は、
前記モータへの通電を停止してから当該モータが惰性で回転することによって発生する逆起電圧を検出する検出手段と、
前記逆起電圧が所定電圧以下であるという電圧条件を満たすか否かを判定する電圧判定手段と、
前記電圧条件を満たしたときから所定時間が経過したという時間条件を満たすか否かを判定する時間判定手段と、を備え、
前記時間条件を満たしたときに前記吸入弁を閉弁することを特徴とする車両用ブレーキ液圧制御装置。
【請求項2】
前記所定電圧は、前記逆起電圧のゼロ点位置がオフセットし得る最大値以上の値に設定されていることを特徴とする請求項1に記載の車両用ブレーキ液圧制御装置。
【請求項3】
前記所定時間は、前記所定電圧と前記逆起電圧のゼロ点位置がオフセットし得る最小値との差分の電圧だけ逆起電圧を発生するように惰性で回転する前記モータが、停止するまでにかかる時間に設定されていることを特徴とする請求項2に記載の車両用ブレーキ液圧制御装置。
【請求項4】
前記所定電圧は、前記逆起電圧のゼロ点位置がオフセットし得る最大値に設定されていることを特徴とする請求項2または請求項3に記載の車両用ブレーキ液圧制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2013−82289(P2013−82289A)
【公開日】平成25年5月9日(2013.5.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−222758(P2011−222758)
【出願日】平成23年10月7日(2011.10.7)
【出願人】(000226677)日信工業株式会社 (840)
【Fターム(参考)】