説明

車両用ブレーキ液圧制御装置

【課題】調圧弁の作動応答性を向上させつつ、打音の抑制も図ることができる車両用ブレーキ液圧制御装置を提供することを目的とする。
【解決手段】車両用ブレーキ液圧制御装置は、指示電流値に基づいて入力される電流に応じた圧力で車輪ブレーキ側から液圧源側へのブレーキ液の流れを抑止する調圧弁と、ブレーキ液を加圧し、調圧弁よりも車輪ブレーキ側の液圧路に吐出するポンプと、ポンプを駆動するモータと、調圧弁に流す電流を制御しつつモータの駆動を制御することで、ポンプによって車輪ブレーキ内のブレーキ液を加圧する加圧制御を実行する制御部とを備える。制御部は、加圧制御を開始してから所定時間の間、調圧弁の上下流の目標差圧から算出した検索電流値と、調圧弁が作動し始めるために最低限必要な電流値である作動電流値とのうち、大きい方の電流値を前記指示電流値として(ステップS4)、調圧弁を制御する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両用ブレーキ液圧制御装置に関し、詳しくは調圧弁とポンプを用いて加圧制御を実行可能な車両用ブレーキ液圧制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、液圧源からのブレーキ液を車輪ブレーキに向けて流すことを許容するとともに、入力される電流に応じた圧力で車輪ブレーキ側から液圧源側へのブレーキ液の流れを抑止する調圧弁と、ブレーキ液を加圧し、調圧弁よりも車輪ブレーキ側の液圧路に吐出するポンプとを備える車両用ブレーキ液圧制御装置が知られている(特許文献1参照)。具体的に、この技術では、調圧弁に電流を流して調圧弁を閉じた後で、ポンプを駆動させることで、車輪ブレーキ内の圧力を調圧弁で制御しながらポンプで加圧する加圧制御を実行している。
【0003】
特に、この技術では、加圧制御の初期において、調圧弁に、マスタシリンダ液圧とブレーキシリンダ液圧との目標差圧に基づく電流値より大きい電流値、例えば予め定められた最大電流値を供給することで、調圧弁の作動応答性を向上させている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平10−152041号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、前述した技術では、加圧制御の初期に、単に「目標差圧に基づく電流値より大きい電流値」を供給するだけであるため、この電流値を大きな値に設定すればするほど、調圧弁の弁体が弁座に勢いよく当接することになり、大きな打音が発生するといった問題があった。
【0006】
そこで、本発明は、調圧弁の作動応答性を向上させつつ、打音の抑制も図ることができる車両用ブレーキ液圧制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記課題を解決する本発明は、液圧源からのブレーキ液を車輪ブレーキに向けて流すことを許容するとともに、指示電流値に基づいて入力される電流に応じた圧力で前記車輪ブレーキ側から前記液圧源側へのブレーキ液の流れを抑止する調圧弁と、ブレーキ液を加圧し、前記調圧弁よりも前記車輪ブレーキ側の液圧路に吐出するポンプと、前記ポンプを駆動するモータと、前記調圧弁に流す電流を制御しつつ前記モータの駆動を制御することで、前記ポンプによって前記車輪ブレーキ内のブレーキ液を加圧する加圧制御を実行する制御部と、を備える車両用ブレーキ液圧制御装置であって、前記制御部は、前記加圧制御を開始してから所定時間の間、前記調圧弁の上下流の目標差圧から算出した検索電流値と、前記調圧弁が作動し始めるために最低限必要な電流値である作動電流値とのうち、大きい方の電流値を前記指示電流値として前記調圧弁を制御することを特徴とする。
【0008】
この構成によれば、加圧制御を開始してから所定時間の間において、検索電流値が作動電流値よりも大きいとき、つまり大きな目標差圧となるように調圧弁を制御して車輪ブレーキ内を加圧するときは、目標差圧から算出した検索電流値を指示電流値として調圧弁を制御する。また、検索電流値が作動電流値よりも小さいとき、つまり小さな目標差圧(微小な昇圧勾配)で加圧制御を行いたいが検索電流値で調圧弁を制御しようとしても調圧弁が作動し始めないようなときは、加圧制御の開始から所定時間の間だけ作動電流値を指示電流値として調圧弁を制御することで、どんなに小さな目標差圧であっても調圧弁の作動応答性を向上させることができる。また、作動電流値は、調圧弁が作動し始めるために最低限必要な電流値であるため、必要以上に電流値を大きくせずに済み、打音の発生も抑制することができる。
【0009】
また、前記した構成において、前記制御部は、前記指示電流値の前回値がゼロであるか否かを判定する指示電流値判定手段と、前記検索電流値の今回値がゼロでないか否かを判定する検索電流値判定手段と、を備え、前記指示電流値の前回値がゼロであると判定し、かつ、前記検索電流値の今回値がゼロでないと判定したときから、前記指示電流値の前回値がゼロでないと判定するまでの間、前記大きい方の電流値を前記指示電流値とするのが望ましい。
【0010】
これによれば、加圧制御開始から制御の略1ループ(検索電流値の今回値がゼロでないと判定したときから、指示電流値の前回値がゼロでないと判定するまで)の間の短い時間だけ作動に必要な電流を供給することで、調圧弁に作動開始のきっかけを与えた後は、直ぐに目標差圧に基づいた制御を行うことが可能となるので、微小な昇圧勾配であっても良好に加圧制御を行うことができる。
【0011】
また、前記した構成において、前記調圧弁は、固定コアと、当該固定コアに対して進退可能に配置された可動コアと、電流が流れることで前記固定コアおよび前記可動コアを通過する磁界を発生するコイルと、前記可動コアと一体に移動するよう配置された弁体と、前記弁体と当接する弁座面を有する弁座部材と、前記弁体を前記弁座面から離間するように付勢するリターンスプリングとを備え、前記固定コアおよび前記可動コアの一方は、他方に対向して突出した凸部を有し、他方は、前記凸部に対向する凹部を有してなる常開型比例電磁弁であって、前記凸部は常時前記凹部に入り込んでいるのが望ましい。
【0012】
これによれば、可動コアおよび固定コアの凸部と凹部が常時入り込んでいることで、可動コアに対して進退方向に直交する方向に磁力が働くので、この磁力によって可動コアが電流の変化に応じて過敏に作動するのを抑えることができる。また、このように可動コアが過敏に作動しない構造においては、作動開始時に可動コアの動きにくさに打ち勝つために、前述したような加圧制御の開始時に大きな電流値を採用するといった制御が特に有効となる。
【0013】
また、前記した構成において、前記作動電流値は、前記調圧弁の構造的特性に基づく固有の所定値であるのが望ましい。
【0014】
これによれば、作動電流値を調圧弁の構造的特性(例えば可動コアと固定コアとの間隔の大きさなど)に基づいた固有の所定値とすることで、調圧弁を確実に作動させる電流値の範囲のうち最小の電流値を選ぶことが可能となるので、より打音の発生を抑制することができる。
【0015】
また、前記した構成において、前記作動電流値は、前記固定コアと前記可動コアとの前記進退方向における間隔と前記リターンスプリングの付勢力のばらつきを考慮した最大の電流値であるのが望ましい。
【0016】
これによれば、作動電流値が、調圧弁の作動のし難さに起因する各コア間の間隔と付勢力のばらつきを考慮したときの最大の電流値に設定されるので、液圧応答性を確実に向上させることができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、調圧弁の作動応答性を向上させつつ、打音の抑制も図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の実施形態に係る車両用ブレーキ液圧制御装置を備えた車両の構成図である。
【図2】車両用ブレーキ液圧制御装置のブレーキ液圧回路図である。
【図3】開弁状態のときの調圧弁を示す断面図である。
【図4】閉弁状態のときの調圧弁を示す断面図である。
【図5】制御部の構成を示すブロック図である。
【図6】磁気推力と電流の関係を示すグラフである。
【図7】制御部の動作を示すフローチャートである。
【図8】オートクルーズコントロール中の自動制動制御における目標差圧と指示電流値を示すタイムチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
次に、本発明の実施形態について、適宜図面を参照しながら詳細に説明する。
図1に示すように、車両用ブレーキ液圧制御装置100は、車両CRの各車輪Wに付与する制動力(ブレーキ液圧)を適宜制御するためのものであり、油路(液圧路)や各種部品が設けられた液圧ユニット10と、液圧ユニット10内の各種部品を適宜制御するための制御部20とを主に備えている。また、この車両用ブレーキ液圧制御装置100の制御部20には、ペダルセンサ30、車間距離センサ40、車輪速センサ50およびオートクルーズ選択スイッチ60が接続されており、各センサ30〜50やオートクルーズ選択スイッチ60からの信号が入力されるようになっている。
【0020】
ペダルセンサ30は、ブレーキペダルBPが踏まれたか否かを検出するセンサであり、ブレーキペダルBPの近傍に設けられている。
車間距離センサ40は、車両CRの前方にある物体(車両等)との距離(以下、車間距離という。)を検出するセンサであり、車体の前側に設けられている。
【0021】
車輪速センサ50は、車輪Wの車輪速度を検出するセンサであり、各車輪Wに設けられている。
オートクルーズ選択スイッチ60は、公知の自動ブレーキ機能を備えたオートクルーズコントロール(先行車両に所定の車間距離以下に近付かずに設定速度で走行する制御)を選択するためのスイッチであり、運転席の適所に設けられている。
【0022】
制御部20は、例えば、CPU、RAM、ROMおよび入出力回路を備えており、ペダルセンサ30、車間距離センサ40、車輪速センサ50およびオートクルーズ選択スイッチ60からの入力と、ROMに記憶されたプログラムやデータに基づいて各演算処理を行うことによって、制御を実行する。
【0023】
また、ホイールシリンダHは、マスタシリンダMCおよび車両用ブレーキ液圧制御装置100により発生されたブレーキ液圧を各車輪Wに設けられた車輪ブレーキFR,FL,RR,RLの作動力に変換する液圧装置であり、それぞれ配管を介して車両用ブレーキ液圧制御装置100の液圧ユニット10に接続されている。
【0024】
図2に示すように、車両用ブレーキ液圧制御装置100の液圧ユニット10は、運転者がブレーキペダルBPに加える踏力に応じたブレーキ液圧を発生する液圧源であるマスタシリンダMCと、車輪ブレーキFR,FL,RR,RLとの間に配置されている。液圧ユニット10は、ブレーキ液が流通する油路を有する基体であるポンプボディ10a、油路上に複数配置された入口弁1、出口弁2などから構成されている。マスタシリンダMCの二つの出力ポートM1,M2は、ポンプボディ10aの入口ポート121に接続され、ポンプボディ10aの出口ポート122が、各車輪ブレーキFR,FL,RR,RLに接続されている。そして、通常時はポンプボディ10a内の入口ポート121から出口ポート122までが連通した油路となっていることで、ブレーキペダルBPの踏力が各車輪ブレーキFL,RR,RL,FRに伝達されるようになっている。
【0025】
ここで、出力ポートM1から始まる油路は、前輪左側の車輪ブレーキFLと後輪右側の車輪ブレーキRRに通じており、出力ポートM2から始まる油路は、前輪右側の車輪ブレーキFRと後輪左側の車輪ブレーキRLに通じている。なお、以下では、出力ポートM1から始まる油路を「第一系統」と称し、出力ポートM2から始まる油路を「第二系統」と称する。
【0026】
液圧ユニット10には、その第一系統に各車輪ブレーキFL,RRに対応して二つの制御弁手段Vが設けられており、同様に、その第二系統に各車輪ブレーキRL,FRに対応して二つの制御弁手段Vが設けられている。また、この液圧ユニット10には、第一系統および第二系統のそれぞれに、リザーバ3、ポンプ4、オリフィス5a、調圧弁(レギュレータ)R、吸入弁7が設けられている。また、液圧ユニット10には、第一系統のポンプ4と第二系統のポンプ4とを駆動するための共通のモータ9が設けられている。このモータ9は、回転数制御可能なモータであり、本実施形態では、デューティ制御により回転数制御が行われる。
【0027】
なお、以下では、マスタシリンダMCの出力ポートM1,M2から各調圧弁Rに至る油路を「出力液圧路A1」と称し、第一系統の調圧弁Rから車輪ブレーキFL,RRに至る油路および第二系統の調圧弁Rから車輪ブレーキRL,FRに至る油路をそれぞれ「車輪液圧路B」と称する。また、出力液圧路A1からポンプ4に至る油路を「吸入液圧路C」と称し、ポンプ4から車輪液圧路Bに至る油路を「吐出液圧路D」と称し、さらに、車輪液圧路Bから吸入液圧路Cに至る油路を「開放路E」と称する。
【0028】
制御弁手段Vは、マスタシリンダMCまたはポンプ4から車輪ブレーキFL,RR,RL,FR(詳細には、ホイールシリンダH)への液圧の行き来を制御する弁であり、ホイールシリンダHの圧力を増加、保持または低下させることができる。そのため、制御弁手段Vは、入口弁1、出口弁2、チェック弁1aを備えて構成されている。
【0029】
入口弁1は、各車輪ブレーキFL,RR,RL,FRとマスタシリンダMCとの間、すなわち車輪液圧路Bに設けられた常開型の比例電磁弁である。そのため、入口弁1に流す駆動電流の値に応じて、入口弁1の上下流の差圧が調整可能となっている。
【0030】
出口弁2は、各車輪ブレーキFL,RR,RL,FRと各リザーバ3との間、すなわち車輪液圧路Bと開放路Eとの間に介設された常閉型の電磁弁である。出口弁2は、通常時に閉塞されているが、車輪Wがロックしそうになったときに制御部20により開放されることで、各車輪ブレーキFL,FR,RL,RRに作用するブレーキ液圧を各リザーバ3に逃がす。
【0031】
チェック弁1aは、各入口弁1に並列に接続されている。このチェック弁1aは、各車輪ブレーキFL,FR,RL,RR側からマスタシリンダMC側へのブレーキ液の流入のみを許容する弁であり、ブレーキペダルBPからの入力が解除された場合に、入口弁1を閉じた状態にしたときにおいても、各車輪ブレーキFL,FR,RL,RR側からマスタシリンダMC側へのブレーキ液の流入を許容する。
【0032】
リザーバ3は、開放路Eに設けられており、各出口弁2が開放されることによって逃がされるブレーキ液圧を貯留する機能を有している。また、リザーバ3とポンプ4との間には、リザーバ3側からポンプ4側へのブレーキ液の流れのみを許容するチェック弁3aが介設されている。
【0033】
ポンプ4は、出力液圧路A1に通じる吸入液圧路Cと車輪液圧路Bに通じる吐出液圧路Dとの間に介設されており、リザーバ3で貯留されているブレーキ液を吸入して吐出液圧路Dに吐出する機能を有している。言い換えると、ポンプ4は、ブレーキ液を加圧し、調圧弁Rよりも車輪ブレーキFL,RR,RL,RR側の車輪液圧路Bに吐出する機能を有している。
【0034】
これにより、リザーバ3により吸収されたブレーキ液をマスタシリンダMCに戻すことができるとともに、後述するようにブレーキペダルBPの操作の有無に関わらずブレーキ液圧を発生して、車輪ブレーキFL,RR,RL,FRに制動力を発生することができる。なお、ポンプ4によるブレーキ液の吐出量は、モータ9の回転数(デューティ比)に依存している。すなわち、モータ9の回転数(デューティ比)が大きくなると、ポンプ4によるブレーキ液の吐出量も大きくなる。
【0035】
オリフィス5aは、ポンプ4から吐出されたブレーキ液の圧力の脈動を減衰させている。
【0036】
調圧弁Rは、通常時にマスタシリンダMCからのブレーキ液を車輪ブレーキFL,RR,RL,FRに流すことを許容するとともに、ポンプ4が発生したブレーキ液圧によりホイールシリンダH側の圧力を増加するときには、この流れを遮断(車輪ブレーキFL,RR,RL,FR側からマスタシリンダMC側への流れを抑止)しつつ、ホイールシリンダH側の圧力を設定値以下に調節する機能を有している。具体的に、調圧弁Rは、切換弁6およびチェック弁6aを備えて構成されている。
【0037】
切換弁6は、マスタシリンダMCに通じる出力液圧路A1と各車輪ブレーキFL,FR,RL,RRに通じる車輪液圧路Bとの間に介設された常開型の比例電磁弁である。そのため、切換弁6に入力される駆動電流の値(指示電流値)に応じて閉弁力を任意に変更することで、切換弁6の上下流の差圧が調整されて、車輪液圧路Bの圧力を設定値以下に調節可能となっている。
【0038】
チェック弁6aは、各切換弁6に並列に接続されている。このチェック弁6aは、出力液圧路A1から車輪液圧路Bへのブレーキ液の流れを許容する一方向弁である。
【0039】
吸入弁7は、吸入液圧路Cに設けられた常閉型の電磁弁であり、吸入液圧路Cを開放する状態および遮断する状態を切り換えるものである。吸入弁7は、例えば、ポンプ4によって各車輪ブレーキFL,FR,RL,RR内の液圧を加圧するときに制御部20の制御により開弁される。
【0040】
次に、調圧弁Rの構造について詳細に説明する。
図3に示すように、調圧弁Rは、主に、固定コアR1と、可動コアR2と、コイルR3と、弁体R4と、弁座部材R5と、リターンスプリングR6とを備えている。
【0041】
固定コアR1は、コイルR3により励磁されると、可動コアR2を引き付けて弁を閉じる機能を果たす磁性体からなる部材であり、ポンプボディ10aに装着されている。固定コアR1は、上下に貫通した孔を有する円筒状に形成され、その内部には、弁体R4および弁座部材R5が収容されている。
【0042】
そして、固定コアR1の上端面には、後述する可動コアR2の凸部R21の先端を収容可能な凹部R11が、凸部R21に対向して形成されている。
【0043】
可動コアR2は、固定コアR1の上方に配置された磁性体からなる円柱状の部材であり、固定コアR1に対して進退可能となっている。可動コアR2の下端面の中央部には、下方に突出する凸部R21が形成されている。この凸部R21は、固定コアR1の凹部R11に対向し、凹部R11に入る大きさとなっている。
【0044】
コイルR3は、電流が流れることで固定コアR1および可動コアR2を通過する磁界を発生させる部材であり、樹脂製のボビンR7に巻かれている。なお、ボビンR7の外側には、磁路を形成するヨークR8が配置されている。
【0045】
弁体R4は、固定コアR1内に摺動可能に配置される棒状のリテーナR9を介して可動コアR2と一体に移動するように構成されている。具体的に、弁体R4は、リターンスプリングR6の付勢力によってリテーナR9と可動コアR2とともに常時上方に付勢されている。そして、コイルR3から磁界を発生させることにより、可動コアR2を下方(固定コアR1側)に引き寄せると、図4に示すように、弁体R4が可動コアR2とリテーナR9とともに下方に移動するようになっている。これにより、弁体R4の先端で、弁座部材R5に形成した流入路R52を開閉することが可能となっている。
【0046】
弁座部材R5は、扁平な円柱形状の部材であり、上面中央に、弁体R4と当接する漏斗状の弁座面R51が形成され、この弁座面R51の底から上下に貫通する流入路R52が形成されている。この流入路R52は、調圧弁Rの下方から弁座部材R5の上部の弁室R12に作動液が流入するための通路である。また、弁座部材R5には、この流入路R52から径方向外側にずれた位置に上下に貫通する戻り流路R53が形成されている。戻り流路R53の下部には、ボール弁R54が配置されて、戻り流路R53とともにチェック弁を構成している。
【0047】
リターンスプリングR6は、弁体R4を弁座面R51から離間するように付勢する押しバネであり、弁体R4と弁座部材R5との間に配置されている。
【0048】
そして、以上のように構成される調圧弁Rでは、図3および図4に示すように、調圧弁Rの開閉状態に関わらず、上述した可動コアR2の凸部R21と固定コアR1の凹部R11とが、上下方向(可動コアR2の進退方向)に直交する方向から見て常時重なっている。このように可動コアR2および固定コアR1の凸部R21と凹部R11が常時重なることで、可動コアR2に対して進退方向に直交する方向に磁力(中央側の屈曲する磁力線ML参照)が働くので、この方向の磁力によって可動コアR2が電流の変化に応じて過敏に作動するのを抑えることが可能となっている。
【0049】
次に、制御部20の詳細について説明する。
図5に示すように、制御部20は、ペダルセンサ30、車間距離センサ40、車輪速センサ50およびオートクルーズ選択スイッチ60から入力された信号に基づき、液圧ユニット10内の調圧弁R(切換弁6)および吸入弁7の開閉動作ならびにモータ9の動作を制御して、各車輪ブレーキFL,RR,RL,FRの動作を制御している。具体的に、この制御部20は、公知のABS制御等を実行する他、ポンプ4による加圧制御、例えばオートクルーズコントロール中の自動ブレーキや、ブレーキアシスト制御などを実行するようになっている。
【0050】
制御部20は、自動制動制御部21、モータ駆動部22、弁駆動部23および記憶部24を備えて構成されている。
【0051】
自動制動制御部21は、例えば、ペダルセンサ30から信号を受信していないこと(ブレーキペダルの入力がないこと)、および、オートクルーズ選択スイッチ60がONにされていること、を条件として、オートクルーズコントロール中の自動制動制御を実行する。また、自動制動制御部21は、例えば、ペダルセンサ30から信号が急変したことを条件として、ブレーキアシスト制御における自動制動制御を実行する。
【0052】
例えば、オートクルーズコントロール中の自動制動制御中においては、自動制動制御部21は、常時、車間距離センサ40から出力されてくる信号に基づいて車間距離を算出し、この車間距離が所定値以下になったか否かを判断する。なお、この所定値(車間距離の目標値)は、公知のように車体速度に対応して変化するようになっている。具体的には、例えば、車体速度と車間距離の目標値との関係を示すマップを記憶部24に記憶させておき、このマップと車輪速センサ50から算出した車体速度とによって車間距離の目標値(所定値)が算出される。
【0053】
そして、車間距離が所定値以下になった場合には、自動制動制御部21は、先行車両から離れるためにポンプ4によって車輪ブレーキFR,FL,RR,RL内(ホイールシリンダH)の液圧を加圧する。そのため、自動制動制御部21は、モータ駆動部22にモータ駆動の信号を出力し、吸入弁駆動部23aに吸入弁7を開く信号を出力し、調圧弁駆動部23bに指示電流値を指示する。そして、この指示電流値は、指示電流値選択手段21Aによって選択されるようになっている。
【0054】
指示電流値選択手段21Aは、検索電流値算出手段21aと、指示電流値判定手段21bと、検索電流値判定手段21cとを備えている。
【0055】
検索電流値算出手段21aは、記憶部24に記憶されているマップ(調圧弁Rの上下流の差圧と検索電流値の関係を示すマップ)に基づいて、調圧弁Rの上下流の差圧に対応した検索電流値を算出する機能を有している。
【0056】
指示電流値判定手段21bは、記憶部24に記憶されている指示電流値の履歴を参照して、指示電流値の前回値がゼロであるか否かを判定する機能を有している。
【0057】
検索電流値判定手段21cは、検索電流値算出手段21aで算出する検索電流値の今回値がゼロでないか否かを判定する機能を有している。
【0058】
そして、指示電流値選択手段21Aは、指示電流値判定手段21bおよび検索電流値判定手段21cによる判定結果に基づいて、検索電流値算出手段21aで算出した検索電流値と、記憶部24に記憶されている作動電流値とのうち大きい方を指示電流値として選択し、その指示電流値を弁駆動部23に出力するように構成されている。ここで、「作動電流値」とは、調圧弁Rが作動し始めるために最低限必要な電流値であり、調圧弁Rの構造的特性に基づく固有の所定値に設定されている。
【0059】
具体的には、図6に示すように、作動電流値は、開弁状態(非作動状態)における固定コアR1と可動コアR2との進退方向における間隔G(図3参照)とリターンスプリングR6の付勢力のばらつきを考慮した、可動コアR2が動き始めるための最大の電流値に設定されている。ここで、図6は、調圧弁Rに流す電流値と、可動コアR2を移動させるための磁気推力との関係を示す図であり、図6において、実線で示すグラフは、間隔Gが最大のときのグラフであり、1点鎖線で示すグラフは、間隔Gが標準のときのグラフであり、2点鎖線で示すグラフは、間隔Gが最小のときのグラフである。
【0060】
また、可動コアR2を動かし始めるのに必要な磁気推力は、リターンスプリングR6の付勢力のばらつきを考えると、αで示す範囲となる。そして、このような範囲αの推力を踏まえて、さらに間隔Gのばらつきを考慮した作動電流の範囲は、図のβで示す範囲となる。そのため、作動電流のばらつきの範囲βのうち最大値を作動電流値とすることで、製造誤差によって間隔GやリターンスプリングR6の付勢力がどのようにばらついても、確実に可動コアR2を動かし始めることが可能となり、液圧応答性を向上させることが可能となっている。
【0061】
図5に示すように、モータ駆動部22は、自動制動制御部21の指示に基づきモータ9の回転数を決定し、駆動するものである。すなわち、モータ駆動部22は、回転数制御によりモータ9を駆動するものであり、例えばデューティ制御により回転数制御を行う。
【0062】
弁駆動部23は、自動制動制御部21の指示に基づいて、調圧弁Rおよび吸入弁7を制御する部分である。そのため、弁駆動部23は、吸入弁駆動部23aおよび調圧弁駆動部23bを有する。
【0063】
吸入弁駆動部23aは、通常時は、吸入弁7に電流を流さない。そして、自動制動制御部21から指示があった場合には、この指示に従い吸入弁7に信号を出力する。これにより、吸入弁7が開いてマスタシリンダMCからポンプ4へブレーキ液が吸入されるようになっている。
【0064】
調圧弁駆動部23bは、通常時は、調圧弁Rに電流を流さない。そして、自動制動制御部21から指示電流値の出力があった場合には、この指示電流値に従い調圧弁Rに駆動電流を供給する。調圧弁Rに駆動電流が供給されると、調圧弁Rの上下流には、この駆動電流に応じた差圧が形成可能となり、これ以上の差圧が発生すると調圧弁Rは開弁して駆動電流に応じた差圧を維持する。その結果、車輪ブレーキ内の液圧が調圧される。
【0065】
次に、指示電流値選択手段21Aによる指示電流値の選択方法について図7を参照して詳細に説明する。指示電流値選択手段21Aは、加圧制御を実行している間、図7に示すフローチャートを繰り返し実行する。
【0066】
具体的に、加圧制御を開始する際、指示電流値選択手段21Aは、まず、検索電流値を算出する(S1)。ステップS1の後、指示電流値選択手段21Aは、指示電流値の前回値がゼロであるか否かを判定する(S2)。ステップS2において、指示電流値の前回値がゼロである場合には(Yes)、指示電流値選択手段21Aは、検索電流値の今回値がゼロでないか否かを判定する(S3)。
【0067】
ステップS3において、検索電流値の今回値がゼロでない場合には(Yes)、指示電流値選択手段21Aは、検索電流値と作動電流値のうち、大きい方の電流値を指示電流値として選択し(S4)、この指示電流値で調圧弁Rを制御する(S5,図8の時刻t1での制御)。
【0068】
本制御の2ループ目に入ると、指示電流値選択手段21Aは、前述と同様に、ステップS1→S2の順に処理を進める。ステップS2においては、1ループ目のステップS4にて指示電流値が設定されているので、指示電流値選択手段21Aは、指示電流値の前回値がゼロでないと判定し(No)、ステップS6の処理に進む。
【0069】
ステップS6では、指示電流値選択手段21Aは、検索電流値の今回値を指示電流値として設定する(図8の時刻t2以降の制御)。なお、ステップS3において、検索電流値の今回値がゼロである場合も(No)、指示電流値選択手段21Aは、ステップS6の処理に進むようになっている(図8の時刻t1より前の制御)。
【0070】
すなわち、指示電流値選択手段21Aは、加圧制御を開始してから所定時間の間(略1ループの間:指示電流値の前回値がゼロで、かつ、前記検索電流値の今回値がゼロでないと判定したときから、前記指示電流値の前回値がゼロでないと判定するまでの間)だけ、検索電流値と作動電流値とのうち、大きい方の電流値を指示電流値とするようになっている。
【0071】
次に、オートクルーズコントロール中の自動制動制御における指示電流値の変化について詳細に説明する。
図8に示すように、時刻t1において、オートクルーズコントロール中の自動制動制御を行うべく、小さな目標差圧(微小な昇圧勾配で変化していく目標差圧)が設定された場合には、この小さな目標差圧に基づいて算出される検索電流値A2が作動電流値A3よりも小さな値となる。そのため、指示電流値選択手段21Aは、1ループ目のステップS4において検索電流値A2と作動電流値A3を比較した際に、大きい方の作動電流値A3を選択し、その作動電流値A3を指示電流値とする。
【0072】
これにより、調圧弁Rを作動できないような小さな検索電流値A2を算出した場合には、調圧弁Rを確実に作動させることが可能な作動電流値A3が指示電流値として選択されるので、調圧弁Rの作動応答性を向上させることができる。特に、本実施形態では、可動コアR2が過敏に作動しない調圧弁R(凸部R21と凹部R11とが常時重なる構造)を採用しているため、小さな検索電流値A2では可動コアR2が動き始めないが、このような場合であっても、大きな作動電流値A3によって可動コアR2を確実に動かすことが可能となっている。
【0073】
その後、制御の略1ループ分の時間が経過すると(時刻t2)、指示電流値選択手段21Aは、ステップS6において検索電流値A4を指示電流値とする。これにより、加圧制御開始(時刻t1)から制御の略1ループ分の短い時間だけ作動に必要な電流を供給することで、調圧弁Rに作動開始のきっかけを与えた後は、直ぐに目標差圧に基づいた制御を行うことが可能となるので、微小な昇圧勾配であっても良好に加圧制御を行うことができる。
【0074】
以上、本実施形態では前述した効果に加え、以下のような効果を得ることができる。
作動電流値を、調圧弁が作動し始めるために最低限必要な電流値としたため、必要以上に電流値を大きくせずに済み、打音の発生を抑制することができる。
【0075】
作動電流値を調圧弁Rの構造的特性に基づいた固有の所定値とすることで、調圧弁Rを確実に作動させる電流値の範囲のうち最小の電流値を選ぶことが可能となるので、より打音の発生を抑制することができる。
【0076】
なお、本発明は前記実施形態に限定されることなく、以下に例示するように様々な形態で利用できる。
前記実施形態では、検索電流値と作動電流値とのうち大きい方の電流値を指示電流値とする「所定時間」を、略1ループとしたが、本発明はこれに限定されず、適宜変更可能であることはいうまでもない。
【0077】
前記実施形態では、固定コアR1の凹部R11は段付状に形成されているが、本発明はこれに限定されず、凹部R11をリテーナR9が挿通される孔と同径とし、この凹部R11に可動コアR2の凸部R21が入り込むように構成されていてもよい。
【0078】
前記実施形態では、可動コアR2に凸部R21を形成し、固定コアR1に凹部R11を形成したが、本発明はこれに限定されず、凹凸関係は逆であってもよい。
【符号の説明】
【0079】
4 ポンプ
9 モータ
20 制御部
100 車両用ブレーキ液圧制御装置
FL,FR,RL,RR 車輪ブレーキ
R 調圧弁

【特許請求の範囲】
【請求項1】
液圧源からのブレーキ液を車輪ブレーキに向けて流すことを許容するとともに、指示電流値に基づいて入力される電流に応じた圧力で前記車輪ブレーキ側から前記液圧源側へのブレーキ液の流れを抑止する調圧弁と、
ブレーキ液を加圧し、前記調圧弁よりも前記車輪ブレーキ側の液圧路に吐出するポンプと、
前記ポンプを駆動するモータと、
前記調圧弁に流す電流を制御しつつ前記モータの駆動を制御することで、前記ポンプによって前記車輪ブレーキ内のブレーキ液を加圧する加圧制御を実行する制御部と、を備える車両用ブレーキ液圧制御装置であって、
前記制御部は、前記加圧制御を開始してから所定時間の間、前記調圧弁の上下流の目標差圧から算出した検索電流値と、前記調圧弁が作動し始めるために最低限必要な電流値である作動電流値とのうち、大きい方の電流値を前記指示電流値として前記調圧弁を制御することを特徴とする車両用ブレーキ液圧制御装置。
【請求項2】
前記制御部は、
前記指示電流値の前回値がゼロであるか否かを判定する指示電流値判定手段と、
前記検索電流値の今回値がゼロでないか否かを判定する検索電流値判定手段と、を備え、
前記指示電流値の前回値がゼロであると判定し、かつ、前記検索電流値の今回値がゼロでないと判定したときから、前記指示電流値の前回値がゼロでないと判定するまでの間、前記大きい方の電流値を前記指示電流値とすることを特徴とする請求項1に記載の車両用ブレーキ液圧制御装置。
【請求項3】
前記調圧弁は、固定コアと、当該固定コアに対して進退可能に配置された可動コアと、電流が流れることで前記固定コアおよび前記可動コアを通過する磁界を発生するコイルと、前記可動コアと一体に移動するよう配置された弁体と、前記弁体と当接する弁座面を有する弁座部材と、前記弁体を前記弁座面から離間するように付勢するリターンスプリングとを備え、前記固定コアおよび前記可動コアの一方は、他方に対向して突出した凸部を有し、他方は、前記凸部に対向する凹部を有してなる常開型比例電磁弁であって、
前記凸部は常時前記凹部に入り込んでいることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の車両用ブレーキ液圧制御装置。
【請求項4】
前記作動電流値は、前記調圧弁の構造的特性に基づく固有の所定値であることを特徴とする請求項1〜請求項3のいずれか1項に記載の車両用ブレーキ液圧制御装置。
【請求項5】
前記作動電流値は、前記固定コアと前記可動コアとの前記進退方向における間隔と前記リターンスプリングの付勢力のばらつきを考慮した最大の電流値であることを特徴とする請求項4に記載の車両用ブレーキ液圧制御装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate


【公開番号】特開2013−82396(P2013−82396A)
【公開日】平成25年5月9日(2013.5.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−225046(P2011−225046)
【出願日】平成23年10月12日(2011.10.12)
【出願人】(000226677)日信工業株式会社 (840)
【Fターム(参考)】