説明

車両用ブレーキ装置

【課題】 車両の旋回中にブレーキ装置のホイールシリンダに発生するノックバック現象の発生を簡単な構造で防止する。
【解決手段】 車両の非制動時の旋回中に車輪に作用するサイドフォースが所定値以上になると、遮断弁22A,22Bを閉弁してマスタシリンダ11およびホイールシリンダ16,17;20,21の連通を遮断するので、サイドフォースによるブレーキディスクの歪みでホイールシリンダ16,17;20,21のブレーキ液がマスタシリンダ11に流出するのを防止し、ノックバック現象の発生を未然に防止することができる。このとき、車速センサで検出した車速と、操舵角センサで検出した操舵角とに基づいて、あるいはストロークセンサで検出したサスペンションダンパーのストロークに基づいてサイドフォースが所定値以上になったと判定するので、簡単な構成で精度の良い判定が可能になる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、運転者の制動操作によりブレーキ液圧を発生するマスタシリンダをホイールシリンダに連通させた車両用ブレーキ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
非制動中に車両が旋回すると、車輪に作用するサイドフォースでディスクブレーキ装置のブレーキディスクの回転面が変化し、ブレーキディスクがホイールシリンダのピストンを押し戻してパッドクリアランスが増加する現象(ノックバック現象)が発生する。かかるノックバック現象を補償して適切なパッドクリアランスを維持する車両用ブレーキ装置が、下記特許文献1により公知である。
【0003】
この車両用ブレーキ装置のホイールシリンダは、電動モータおよびボールねじ機構でピストンを駆動して制動力を発生させるもので、電動モータの位置検出部で検出した実際のパッドクリアランスが、操舵角および車速に基づいて算出した目標パッドクリアランスに一致するように、電動モータの駆動を制御している。
【特許文献1】特開2005−67247号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、上記従来の車両用ブレーキ装置は、電動モータおよびボールねじ機構でピストンを駆動して制動力を発生させるものであり、ホイールシリンダのピストンをブレーキ液圧で駆動する液圧式のブレーキ装置には適用できないという問題があった。
【0005】
本発明は前述の事情に鑑みてなされたもので、車両の旋回中にブレーキ装置のホイールシリンダに発生するノックバック現象の発生を簡単な構造で防止すること目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、請求項1に記載された発明によれば、運転者の制動操作によりブレーキ液圧を発生するマスタシリンダをホイールシリンダに連通させた車両用ブレーキ装置において、車輪に作用するサイドフォースが所定値以上になったときに、前記マスタシリンダおよび前記ホイールシリンダの連通を遮断する連通遮断手段を備えることを特徴とする車両用ブレーキ装置が提案される。
【0007】
また請求項2に記載された発明によれば、請求項1の構成に加えて、車速を検出する車速センサと、操舵角を検出する操舵角センサとを備え、前記車速および前記操舵角に基づいて前記サイドフォースが所定値以上になったと判定することを特徴とする車両用ブレーキ装置が提案される。
【0008】
また請求項3に記載された発明によれば、請求項1の構成に加えて、サスペンションダンパーのストロークを検出するストロークセンサを備え、前記ストロークに基づいて前記サイドフォースが所定値以上になったと判定することを特徴とする車両用ブレーキ装置が提案される。
【0009】
尚、実施の形態の遮断弁22A,22B、スレーブシリンダ23およびレギュレータバルブ54は本発明の連通遮断手段に対応し、実施の形態の車輪速センサScは本発明の車速センサに対応する。
【発明の効果】
【0010】
請求項1の構成によれば、車両の非制動時の旋回中に車輪に作用するサイドフォースが所定値以上になると、連通遮断手段でマスタシリンダおよびホイールシリンダの連通を遮断するので、サイドフォースによるブレーキディスクに歪みによってホイールシリンダのブレーキ液がマスタシリンダに流出するのを防止し、ノックバック現象の発生を未然に防止することができる。
【0011】
また請求項2の構成によれば、車速センサで検出した車速と、操舵角センサで検出した操舵角とに基づいてサイドフォースが所定値以上になったと判定するので、簡単な構成で精度の良い判定が可能になる。
【0012】
また請求項3の構成によれば、ストロークセンサで検出したサスペンションダンパーのストロークに基づいてサイドフォースが所定値以上になったと判定するので、簡単な構成で精度の良い判定が可能になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明の実施の形態を添付の図面に基づいて説明する。
【0014】
図1〜図6は本発明の第1の実施の形態を示すもので、図1は車両用ブレーキ装置の正常時の液圧回路図、図2は図1に対応する異常時の液圧回路図、図3はスレーブシリンダの拡大断面図、図4は制御系のブロック図、図5はサイドフォースが所定値以上になったことを判定する遮断弁作動テーブル、図6は作用を説明するフローチャートである。
【0015】
図1に示すように、タンデム型のマスタシリンダ11は、運転者がブレーキペダル12を踏む踏力に応じたブレーキ液圧を出力する二つの液圧室13A,13Bを備えており、一方の液圧室13Aは液路Pa,Pb,Pc,Pd,Pe(第1系統)を介して例えば左前輪および右後輪のディスクブレーキ装置14,15のホイールシリンダ16,17に接続されるとともに、他方の液圧室13Bは液路Qa,Qb,Qc,Qd,Qe(第2系統)を介して例えば右前輪および左後輪のディスクブレーキ装置18,19のホイールシリンダ20,21に接続される。
【0016】
液路Pa,Pb間に常開型電磁弁である遮断弁22Aが配置され、液路Qa,Qb間に常開型電磁弁である遮断弁22Bが配置され、液路Pb,Qbと液路Pc,Qcとの間にスレーブシリンダ23が配置され、液路Pc,Qcと液路Pd,Pe;Qd,Qeとの間にVSA(ビークル・スタビリティ・アシスト)装置24が配置される。
【0017】
液路Qaから分岐する液路Ra,Rbには、常閉型電磁弁である反力許可弁25を介してストロークシミュレータ26が接続される。ストロークシミュレータ26は、シリンダ27にスプリング28で付勢されたピストン29を摺動自在に嵌合させたもので、ピストン29の反スプリング28側に形成された液圧室30が液路Rbに連通する。
【0018】
スレーブシリンダ23のアクチュエータ31は、電動モータ32と、その出力軸に設けた駆動ベベルギヤ33と、駆動ベベルギヤ33に噛合する従動ベベルギヤ34と、従動ベベルギヤ34により作動するボールねじ機構35とを備える。
【0019】
スレーブシリンダ23のシリンダ本体36の後部および前部に、それぞれリターンスプリング37A,37Bで後退方向に付勢された後部ピストン38Aおよび前部ピストン38Bが摺動自在に配置されており、後部ピストン38Aおよび前部ピストン38Bの前面にそれぞれ後部液圧室39Aおよび前部液圧室39Bが区画される。
【0020】
後部液圧室39Aは後部入力ポート40Aを介して液路Pbに連通するとともに、後部出力ポート41Aを介して液路Pcに連通し、また前部液圧室39Bは前部入力ポート40Bを介して液路Qbに連通するとともに、前部出力ポート41Bを介して液路Qcに連通する。
【0021】
しかして、図1において、電動モータ32を一方向に駆動すると、駆動ベベルギヤ33、従動ベベルギヤ34およびボールねじ機構35を介して後部および前部ピストン38A,38Bが前進し、液路Pb,Qbに連なる後部および前部入力ポート40A,40Bが閉塞された瞬間に後部および前部液圧室39A,39Bにブレーキ液圧を発生させ、そのブレーキ液圧を後部および前部出力ポート41A,41Bを介して液路Pc,Qcに出力することができる。
【0022】
VSA装置24の構造は周知のもので、左前輪および右後輪のディスクブレーキ装置14,15の第1系統を制御する第1ブレーキアクチュエータ51Aと、右前輪および左後輪のディスクブレーキ装置18,19の第2系統を制御する第2ブレーキアクチュエータ51Bとに同じ構造のものが設けられる。
【0023】
以下、その代表として左前輪および右後輪のディスクブレーキ装置14,15の第1系統の第1ブレーキアクチュエータ51Aについて説明する。
【0024】
第1ブレーキアクチュエータ51Aは、上流側に位置するスレーブシリンダ23の後部出力ポート41Aに連なる液路Pcと、下流側に位置する左前輪および右後輪のホイールシリンダ16,17にそれぞれ連なる液路Pd,Peとの間に配置される。
【0025】
第1ブレーキアクチュエータ51Aは左前輪および右後輪のホイールシリンダ16,17に対して共通の液路52および液路53を備えており、液路Pcおよび液路52間に配置された可変開度の常開型電磁弁よりなるレギュレータバルブ54と、このレギュレータバルブ54に対して並列に配置されて液路Pc側から液路52側へのブレーキ液の流通を許容するチェックバルブ55と、液路52および液路Pe間に配置された可変開度の常開型電磁弁よりなるインバルブ56と、このインバルブ56に対して並列に配置されて液路Pe側から液路52側へのブレーキ液の流通を許容するチェックバルブ57と、液路52および液路Pd間に配置された可変開度の常開型電磁弁よりなるインバルブ58と、このインバルブ58に対して並列に配置されて液路Pd側から液路52側へのブレーキ液の流通を許容するチェックバルブ59と、液路Peおよび液路53間に配置された可変開度の常閉型電磁弁よりなるアウトバルブ60と、液路Pdおよび液路53間に配置された可変開度の常閉型電磁弁よりなるアウトバルブ61と、液路53に接続されたリザーバ62と、液路53および液路52間に配置されて液路53側から液路52側へのブレーキ液の流通を許容するチェックバルブ63と、このチェックバルブ63および液路52間に配置されて液路53側から液路52側へブレーキ液を供給するポンプ64と、このポンプ64を駆動する電動モータ65と、チェックバルブ63およびポンプ64の中間位置と液路Pcとの間に配置された常閉型電磁弁よりなるサクションバルブ66とを備える。
【0026】
尚、前記電動モータ65は、第1、第2ブレーキアクチュエータ51A,51Bのポンプ64,64に対して共用化されているが、各々のポンプ64,64に対して専用の電動モータ65,65を設けることも可能である。
【0027】
マスタシリンダ11の一方の液圧室13Aから延びる液路Paにブレーキ液圧を検出する液圧センサSaが設けられ、VSA装置24の一方の入口側の液路Pcにスレーブシリンダ23が発生するブレーキ液圧を検出する液圧センサSbが設けられ、四輪のそれぞれ
に車輪速センサSc…が設けられる。
【0028】
図3から明らかなように、後部液圧室39Aは、後部入力ポート40Aおよび後部サプライポート42Aを介して液路Pbに連通するとともに、後部出力ポート41Aを介して液路Pcに連通する。また前部液圧室39Bは、前部入力ポート40Bおよび前部第1サプライポート42Bを介して液路Qbに連通するとともに、前部出力ポート41Bを介して液路Qcに連通する。
【0029】
後部ピストン38Aの前端には後部第1カップシールC1が前向き(前進時にシール機能を発揮するように)に設けられ、後部ピストン38Aの後端には後部第2カップシールC2が前向きに設けられる。前部ピストン38Bの前端には前部第1カップシールC3が前向きに設けられ、前部ピストン38Bの後端には前部第2カップシールC4が後向き(後進時にシール機能を発揮するように)に設けられる。更に、前部ピストン38Bの中間部に前向きの前部第3カップシールC5が設けられる。
【0030】
後部ピストン38Aの中間部には後部第1、第2カップシールC1,C2に挟まれた後部リザーバ室38aが形成されており、この後部リザーバ室38aに後部サプライポート42Aが連通する。前部ピストン38Bの前部には前部第1、第3カップシールC3,C5に挟まれた前部第1リザーバ室38bが形成されており、この前部第1リザーバ室38bに前部第1サプライポート42Bが連通する。また前部ピストン38Bの後部には前部第2、第3カップシールC4,C5に挟まれた前部第2リザーバ室38cが形成されており、この前部第2リザーバ室38cに前部第2サプライポート43が連通する。前部第2サプライポート43は、液路Rcを介してマスタシリンダ11のリザーバ44に連通する(図1参照)。
【0031】
後部液圧室39Aは前向きの後部第1カップシールC1と後向きの前部第2カップシールC4とに挟まれて液密が確保され、また後部リザーバ室38aからの後方への液漏れは前向きの後部第2カップシールC2により阻止される。前部液圧室39Bは前向きの前部第1カップシールC3により液密が確保され、また前部第1リザーバ室38bからの後方への液漏れは前向きの前部第3カップシールC5により阻止される。
【0032】
マスタシリンダ11のリザーバ44に前部第2サプライポート43および液路Rcを介して連通する前部第2リザーバ室38cのブレーキ液は、一方向弁として機能する第2前部カップシールC4を介して後部液圧室39Aに流入可能であり、また一方向弁として機能する前部第3カップシールC5および前部第1カップシールC3を介して前部液圧室39Bに流入可能である。
【0033】
スレーブシリンダ23の非作動時に後部ピストン38Aの後部第1カップシールC1は後部入力ポート40Aの直後方に位置しており、後部ピストン38Aが僅かに前進すると後部第1カップシールC1が後部入力ポート40Aを通過して後部液圧室39Aにブレーキ液圧が発生する。スレーブシリンダ23の非作動時に前部ピストン38Bの前部第1カップシールC3は前部入力ポート40Bの直後方に位置しており、前部ピストン38Bが僅かに前進すると前部第1カップシールC3が前部入力ポート40Bを通過して前部液圧室39Bにブレーキ液圧が発生する。
【0034】
図4は、図1で説明したブレーキ装置の制御系のブロック図であって、前記液圧センサSa,Sbおよび車輪速センサSc…からの信号に加えておよび車両の操舵角を検出する操舵角センサSdからの信号が入力される電子制御ユニットUは、遮断弁22A,22B、VSA装置24、反力許可弁25およびスレーブシリンダ32の作動を制御する。
【0035】
次に、上記構成を備えた本発明の第1の実施の形態の作用を説明する。
【0036】
システムが正常に機能する正常時には、図1に示すように常開型電磁弁よりなる遮断弁22A,22Bが消磁されて開弁し、常閉型電磁弁よりなる反力許可弁25が励磁されて開弁する。この状態で液路Paに設けた液圧センサSaが運転者によるブレーキペダル12の踏み込みを検出すると、スレーブシリンダ23の電動モータ32が作動して後部および前部ピストン38A,38Bが前進することで、後部および前部液圧室39A,39Bにブレーキ液圧が発生する。このブレーキ液圧はVSA装置24の開弁したインバルブ56,56;58,58を介してディスクブレーキ装置14,15;18,19のホイールシリンダ16,17;20,21に伝達され、各車輪を制動する。
【0037】
スレーブシリンダ23の後部および前部ピストン38A,38Bが僅かに前進すると、液路Pb,Qbと後部および前部液圧室39A,39Bとの連通が遮断されるため、マスタシリンダ11が発生したブレーキ液圧はディスクブレーキ装置14,15;18,19に伝達されることはない。このとき、マスタシリンダ11の液圧室13Bが発生したブレーキ液圧は開弁した反力許可弁25を介してストロークシミュレータ26の液圧室30に伝達され、そのピストン29をスプリング28に抗して移動させることで、ブレーキペダル12のストロークを許容するとともに擬似的なペダル反力を発生させて運転者の違和感を解消することができる。
【0038】
このとき、液路Pcに設けた液圧センサSbが検出したブレーキ液圧が、液路Paに設けた液圧センサSaで検出したブレーキ液圧に応じた値になるようにスレーブシリンダ23の作動を制御することにより、運転者がブレーキペダル12に加える踏力に応じた制動力をホイールシリンダ16,17;20,21に発生させることができる。
【0039】
次に、VSA装置24の作用を説明する。
【0040】
運転者が制動を行うべくブレーキペダル12を踏んだときには、電動モータ65が作動を停止し、レギュレータバルブ54,54が消磁して開弁し、サクションバルブ66,66が消磁して閉弁し、インバルブ56,56;58,58が消磁して開弁し、アウトバルブ60,60;61,61が消磁して閉弁する。従って、作動中のスレーブシリンダ23の後部および前部出力ポート41A,41Bから出力されたブレーキ液圧は、レギュレータバルブ54,54から開弁状態にあるインバルブ56,56;58,58を経てホイールシリンダ16,17;20,21に供給され、四輪を制動することができる。
【0041】
運転者がブレーキペダル12を踏んでいないときには、サクションバルブ66,66を励磁して開弁した状態で電動モータ65でポンプ64,64を駆動すると、スレーブシリンダ23側からサクションバルブ66,66を経て吸入されてポンプ64,64で加圧されたブレーキ液が、レギュレータバルブ54,54およびインバルブ56,56;58,58に供給される。従って、レギュレータバルブ54,54を励磁して開度を調整することで液路52,52のブレーキ液圧を調圧するとともに、そのブレーキ液圧を励磁により所定の開度に開弁したインバルブ56,56;58,58を介してホイールシリンダ16,17;20,21に選択的に供給することで、運転者がブレーキペダル12を踏んでいない状態でも、四輪の制動力を個別に制御することができる。
【0042】
従って、第1、第2ブレーキアクチュエータ51A,51Bにより四輪の制動力を個別に制御し、旋回内輪の制動力を増加させて旋回性能を高めたり、旋回外輪の制動力を増加させて直進安定性能を高めたりすることができる。
【0043】
また衝突を回避するために運転者がブレーキペダル12を急激に踏んだときには、スレ
ーブシリンダ23が発生するブレーキ液圧がポンプ64,64によって更に増圧され、その増圧されたブレーキ液圧でホイールシリンダ16,17;20,21に最大限の制動力を発生させる。即ち、レギュレータバルブ54,54を励磁して閉弁し、かつサクションバルブ66,66を励磁して開弁した状態で電動モータ65でポンプ64,64を駆動すると、スレーブシリンダ23が発生したブレーキ液圧はサクションバルブ66,66を経てポンプ64,64に吸入され、そこで更に加圧された状態でインバルブ56,56;58,58を経てホイールシリンダ16,17;20,21に供給されることで、運転者のブレーキ操作をアシストして衝突回避のための大きな制動力を発生することができる。
【0044】
また運転者がブレーキペダル12を踏んでの制動中に、例えば左前輪が低摩擦係数路を踏んでロック傾向になったことを車輪速センサSc…の出力に基づいて検出した場合には、第1ブレーキアクチュエータ51Aの一方のインバルブ58を励磁して閉弁するとともに、一方のアウトバルブ61を励磁して開弁することで、左前輪のホイールシリンダ16のブレーキ液圧をリザーバ62に逃がして所定の圧力まで減圧した後、アウトバルブ61を消磁して閉弁することで、左前輪のホイールシリンダ16のブレーキ液圧を保持する。その結果、左前輪のホイールシリンダ16のロック傾向が解消に向かうと、インバルブ58を消磁して開弁することで、スレーブシリンダ23の後部出力ポート41Aからのブレーキ液圧を左前輪のホイールシリンダ16に供給して所定の圧力まで増圧することで、制動力を増加させる。
【0045】
この増圧によって左前輪が再びロック傾向になった場合には、前記減圧→保持→増圧を繰り返すことにより、左前輪のロックを抑制しながら制動距離を最小限に抑えるABS(アンチロック・ブレーキ・システム)制御を行うことができる。
【0046】
以上、左前輪のホイールシリンダ16がロック傾向になったときのABS制御について説明したが、右後輪のホイールシリンダ17、右前輪のホイールシリンダ20、左後輪のホイールシリンダ21がロック傾向になったときのABS制御も同様にして行うことができる。
【0047】
上述したVSA制御(ABS制御を含む)を実行している間、遮断弁22A,22Bが閉弁状態に維持されることで、VSA装置24の作動による液圧変化がキックバックとなってマスタシリンダ11からブレーキペダル12に伝達されるのを防止することができる。
【0048】
さて、電源が失陥すると、図2に示すように、常開型電磁弁よりなる遮断弁22A,22Bは自動的に開弁し、常閉型電磁弁よりなる反力許可弁25は自動的に閉弁し、常開型電磁弁よりなるインバルブ56,56;58,58は自動的に開弁し、常閉型電磁弁よりなるアウトバルブ60,60;61,61は自動的に閉弁する。この状態では、マスタシリンダ11の二つの液圧室13A,13Bにおいて発生したブレーキ液圧は、ストロークシミュレータ26に吸収されることなく、遮断弁22A,22B、スレーブシリンダ23の後部および前部液圧室39A,39Bおよびインバルブ56,56;58,58を通過して各車輪のディスクブレーキ装置14,15;18,19のホイールシリンダ16,17;20,21を作動させ、支障なく制動力を発生させることができる。
【0049】
ところで、車両が高速で旋回したり大きな操舵角で旋回したりすると、車輪に大きなサイドフォースが作用することでディスクブレーキ装置14,15;18,19のブレーキディスクの回転面が僅かに歪み、ブレーキディスクがホイールシリンダ16,17;20,21のピストンを後退方向に押圧する場合がある。非制動時にこのような状態になると、ホイールシリンダ16,17;20,21のピストンがシリンダボアの内部に僅かに押し込まれてしまい、サイドフォースが消滅した後もピストンが通常位置(ノックバック発
生前の位置)に復帰しないため、ホイールシリンダ16,17;20,21のパッドクリアランスが増加する現象(ノックバック現象)が発生する。このようなノックバック現象が発生すると、次回にホイールシリンダ16,17;20,21が作動するときに、パッドクリアランスが増加した分だけ制動力発生の応答性が低下する問題がある。
【0050】
そこで、図6のフローチャートにおいて、ステップS1で4個の車輪速センサSc…で検出した車輪速の平均値として算出した車速と、操舵角センサSdで検出した操舵角とをパラメータとして、図5に示す遮断弁作動テーブルを検索する。車速および操舵角が大きい斜線の領域は旋回により車輪に作用するサイドフォースが所定値以上になる領域であり、ステップS2でサイドフォースが所定値以上であれば、ステップS3で遮断弁22A,22Bを閉弁してホイールシリンダ16,17;20,21とマスタシリンダ11との連通を遮断する。
【0051】
その結果、ホイールシリンダ16,17;20,21内のブレーキ液は閉じ込められて逃げ場を失うため、そのピストンがシリンダボアの内部に押し込まれてパッドクリアランスが増加する現象(ノックバック現象)が抑制される。尚、ホイールシリンダ16,17;20,21が作動する制動中にサイドフォースが所定値以上になった場合には、ノックバック現象が発生することはないため、遮断弁22A,22Bの閉弁制御が行われないのは勿論である。
【0052】
このように、車両の非制動時の旋回中に車輪に作用するサイドフォースが所定値以上になると、遮断弁22A,22Bを閉弁してマスタシリンダ11およびホイールシリンダ16,17;20,21の連通を遮断するので、サイドフォースによってホイールシリンダ16,17;20,21のブレーキ液がマスタシリンダ11のリザーバ44に流出するのを防止し、ノックバック現象の発生を未然に防止することができる。このとき、車輪速センサSc…で検出した車速と、操舵角センサSdで検出した操舵角とに基づいてサイドフォースが所定値以上になったと判定するので、簡単な構成で精度の良い判定が可能になる。
【0053】
次に、本発明の第2の実施の形態を説明する。
【0054】
第1の実施の形態では、車輪速センサSc…で検出した車速と、操舵角センサSdで検出した操舵角とに基づいてサイドフォースが所定値以上になったと判定しているが、第2の実施の形態では、図4に示すように、車両のサスペンションダンパーのストロークを検出するストロークセンサSeを設け、このストロークセンサSeで検出したサスペンションダンパーのストロークが所定値以上になったとき、サイドフォースが所定値以上になった判断している。なぜならば、サイドフォースが大きいほど車体が旋回方向外側に倒れようとして旋回方向の外側のダンパーが収縮し、旋回方向内側のダンパーが伸長するからである。
【0055】
しかして、この第2の実施の形態によっても、第1の実施の形態と同様の作用効果を達成することができる。
【0056】
以上、本発明の実施の形態を説明したが、本発明はその要旨を逸脱しない範囲で種々の設計変更を行うことが可能である。
【0057】
例えば、実施の形態ではサイドフォースが所定値以上になったときに、遮断弁22A,22Bを閉弁しているが、スレーブシリンダ32の後部および前部ピストン38A,38Bを僅かに前進駆動し、後部および前部ピストン38A,38Bで後部および前部入力ポート40A,40Bを閉塞することで、マスタシリンダ11およびホイールシリンダ16
,17;20,21の連通を遮断しても良い。あるいはVSA装置24のレギュレータバルブ54,54を閉弁することで、マスタシリンダ11およびホイールシリンダ16,17;20,21の連通を遮断しても良い。
【0058】
また実施の形態ではサイドフォースが所定値以上になったことをテーブルを用いて判定しているが、車速×操舵角≧所定値のときにサイドフォースが所定値以上になったと判定しても良い。
【0059】
また実施の形態ではBBW式のブレーキ装置を例示したが、本発明はBBW式でないブレーキ装置に対しても適用することができる。
【0060】
また実施の形態のブレーキ装置はVSA装置24を備えているが、VSA装置24の代わりにABS装置を備えていても良く、それらを備えていなくても良い。
【図面の簡単な説明】
【0061】
【図1】車両用ブレーキ装置の正常時の液圧回路図
【図2】図1に対応する異常時の液圧回路図
【図3】スレーブシリンダの拡大断面図
【図4】制御系のブロック図
【図5】サイドフォースが所定値以上になったことを判定する遮断弁作動テーブル
【図6】作用を説明するフローチャート
【符号の説明】
【0062】
11 マスタシリンダ
16 ホイールシリンダ
17 ホイールシリンダ
20 ホイールシリンダ
21 ホイールシリンダ
22A 遮断弁(連通遮断手段)
22B 遮断弁(連通遮断手段)
23 スレーブシリンダ(連通遮断手段)
54 レギュレータバルブ(連通遮断手段)
Sc 車輪速センサ(車速センサ)
Sd 操舵角センサ
Se ストロークセンサ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
運転者の制動操作によりブレーキ液圧を発生するマスタシリンダ(11)をホイールシリンダ(16,17;20,21)に連通させた車両用ブレーキ装置において、
車輪に作用するサイドフォースが所定値以上になったときに、前記マスタシリンダ(11)および前記ホイールシリンダ(16,17;20,21)の連通を遮断する連通遮断手段(22A,22B;23;54)を備えることを特徴とする車両用ブレーキ装置。
【請求項2】
車速を検出する車速センサ(Sc)と、操舵角を検出する操舵角センサ(Sd)とを備え、前記車速および前記操舵角に基づいて前記サイドフォースが所定値以上になったと判定することを特徴とする、請求項1に記載の車両用ブレーキ装置。
【請求項3】
サスペンションダンパーのストロークを検出するストロークセンサ(Se)を備え、前記ストロークに基づいて前記サイドフォースが所定値以上になったと判定することを特徴とする、請求項1に記載の車両用ブレーキ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−95023(P2010−95023A)
【公開日】平成22年4月30日(2010.4.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−265190(P2008−265190)
【出願日】平成20年10月14日(2008.10.14)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】