説明

車両用ブレーキ装置

【課題】 基礎液圧に加算される制御液圧を発生する制御液圧発生装置を大型化することなく、例えば、短時間に強い制動力が必要な場合や回生制動力が失われた場合にも制動力の低下を防止することが可能な車両用ブレーキ装置を提供する。
【解決手段】 本発明の車両用ブレーキ装置は、パイロット圧を倍力したサーボ圧を発生してマスタシリンダ内のマスタピストンの後方側に形成されたサーボ室に供給し、マスタシリンダ内のマスタピストンの前方側に形成された液圧室に基礎液圧を発生させる倍力装置と、倍力装置の出力特性を複数の異なる出力特性に変更する出力特性変更装置と、出力特性変更装置に倍力装置の出力特性を複数の異なる出力特性のうちの選択された一つに変更させる特性選択装置と、マスタシリンダの液圧室と車輪のブレーキを構成するホイールシリンダとを連通する出力管路に設けられ、基礎液圧に加算される制御液圧を発生可能な制御液圧発生装置と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液圧ブレーキ装置による液圧制動力と回生ブレーキ装置による回生制動力とを加算することによって車輪に付与する要求制動力を確保する車両用ブレーキ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
液圧制動力と回生制動力を協調制御する車両用ブレーキ装置の一例として、例えば、特許文献1に挙げられる車両制動装置が知られている。特許文献1に記載の車両制動装置は、車両の要求制動力から、マスタシリンダ圧(基礎液圧)によって発生する制動力を差し引いた差分を割振制動力として出力する割振制動力出力手段を備えている。そして、特許文献1に記載のブレーキ制御手段は、割振制動力につき、補助ブレーキの制動力(回生制動力)で賄いきれる場合には補助ブレーキの制動力のみで賄い、補助ブレーキの制動力で賄いきれない場合には、その賄いきれない分を液圧ブレーキの配分制動力(制御液圧による制動力)としている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2001−71755号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に記載の発明では、短時間に強い制動力が必要な場合や回生制動力が失われた場合に制動力の低下を防止するためには、ブレーキ液供給手段を構成するポンプを大容量にして、液圧ブレーキによる制動力を確保する必要がある。
【0005】
本発明は、上記実情に鑑みてなされたものであり、基礎液圧に加算される制御液圧を発生する制御液圧発生装置を大型化することなく、例えば、短時間に強い制動力が必要な場合や回生制動力が失われた場合にも制動力の低下を防止することが可能な車両用ブレーキ装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
様相1に係る車両用ブレーキ装置は、ブレーキペダルの操作に連動して軸線方向に摺動する入力ピストンが内嵌され、入力ピストンの前進方向に配置され入力ピストンに対し独立して軸線方向に摺動するマスタピストンが内嵌されたマスタシリンダと、ブレーキペダルの操作に応じたパイロット圧を発生するパイロット圧発生装置と、パイロット圧を倍力したサーボ圧を発生してマスタシリンダ内のマスタピストンの後方側に形成されたサーボ室に供給し、マスタシリンダ内のマスタピストンの前方側に形成された液圧室に基礎液圧を発生させる倍力装置と、倍力装置の出力特性を複数の異なる出力特性に変更する出力特性変更装置と、出力特性変更装置に倍力装置の出力特性を複数の異なる出力特性のうちの選択された一つに変更させる特性選択装置と、マスタシリンダの液圧室と車輪のブレーキを構成するホイールシリンダとを連通する出力管路に設けられ、基礎液圧に加算される制御液圧を発生可能な制御液圧発生装置と、を備えることを特徴とする。
【0007】
様相2に係る車両用ブレーキ装置は、様相1において、倍力装置の複数の出力特性のうちの少なくとも一つは、パイロット圧がオフセット圧より小さいオフセット圧未満またはブレーキペダルの操作量がオフセット量未満である間は、倍力装置がサーボ圧を発生しないまたは微小液圧を発生するオフセット特性である。
【0008】
様相3に係る車両用ブレーキ装置は、様相2において、倍力装置が、弁孔が形成された弁ハウジングと、弁ハウジングに弁孔より大径に同心に形成された増圧大径孔と、弁孔に摺動可能に嵌合されたスプール弁およびスプール弁と一体的に形成され、増圧大径孔に摺動可能に嵌合された増圧ピストンを有する弁体と、を備え、増圧ピストンの後面に作用するパイロット圧に基づく後方軸力とスプール弁の前面に作用する液圧室又はサーボ室に発生する圧力に基づく前方軸力とがバランスするようにスプール弁が移動することにより高圧のブレーキ液を蓄積するアキュムレータまたはリザーバをサーボ室に連通させてパイロット圧を倍力したサーボ圧をサーボ室に発生させ、出力特性変更装置が、弁ハウジングに増圧大径孔の後方に隔壁を挟んで弁孔より大径に同心に形成されたオフセット大径孔と、オフセット大径孔に摺動可能に嵌合され、突出部が隔壁を液密的に貫通して増圧ピストンの後面に当接するオフセットピストンと、オフセットピストンを後端位置に付勢し、オフセットピストンの後面に作用するパイロット圧がオフセット圧を超えるとオフセットピストンおよび弁体の前進を許容するオフセットスプリングと、を備え、特性選択装置が、パイロット圧を増圧ピストンの後面またはオフセットピストンの後面に選択的に供給する切換弁である。
【0009】
様相4に係る車両用ブレーキ装置は、様相1〜3のいずれか1つの様相において、制御液圧発生装置が、制御液圧を調整可能な制御弁と、制御弁と並列に設けられて制御液圧を発生するポンプと、を備える。
【0010】
様相5に係る車両用ブレーキ装置は、様相1〜4のいずれか1つの様相において、特性選択装置が、ブレーキペダルの操作に応じて、出力特性変更装置に出力特性を変更させる。
【0011】
様相6に係る車両用ブレーキ装置は、様相1〜4のいずれか1つの様相において、特性選択装置が、回生制動力の変化量に応じて、出力特性変更装置に出力特性を変更させる。
【発明の効果】
【0012】
様相1に係る車両用ブレーキ装置によれば、基礎液圧に加算される制御液圧を発生可能な制御液圧発生装置を有しているので、回生制動力が変動しても、回生制動力の変動に合わせて、制御液圧発生装置が制御液圧による制御制動力を各車輪に付与することができる。そのため、回生制動力の変動分を制御制動力によって補償することができる。さらに、特性選択装置は、出力特性変更装置に倍力装置の出力特性を複数の異なる出力特性のうちの選択された一つに変更させる。そして、特性選択装置の出力特性の選択を受けて、出力特性変更装置が倍力装置の出力特性を変更する。そのため、要求制動力や回生制動力の変動に応じて、倍力装置の出力特性を変更することができる。
【0013】
様相2に係る車両用ブレーキ装置によれば、倍力装置の複数の出力特性のうちの少なくとも一つは、所定条件において倍力装置がサーボ圧を発生しないまたは微小液圧を発生するオフセット特性を有しているので、所定条件において、発生可能な回生制動力を最大限に使いながら、回生制動力及び/又は制御制動力によって要求制動力を確保することができる。
【0014】
様相3に係る車両用ブレーキ装置によれば、倍力装置は、増圧ピストンの後面に作用するパイロット圧に基づく後方軸力とスプール弁の前面に作用する液圧室又はサーボ室に発生する圧力に基づく前方軸力とがバランスするようにスプール弁が移動することにより高圧のブレーキ液を蓄積するアキュムレータまたはリザーバをサーボ室に連通させてパイロット圧を倍力したサーボ圧をサーボ室に発生させる。蓄圧源であるアキュムレータを用いてサーボ圧を発生させることができるので、高応答に制動力を付与することができる。さらに、特性選択装置は、パイロット圧を増圧ピストンの後面またはオフセットピストンの後面に選択的に供給することができる。そのため、パイロット圧を供給するブレーキ液の流路を切り換えることによって、簡単に倍力装置の出力特性を変更することができる。
【0015】
様相4に係る車両用ブレーキ装置によれば、制御液圧発生装置は、制御液圧を調整可能な制御弁と、制御弁と並列に設けられて制御液圧を発生するポンプと、を有しているので、ポンプを作動させるとともに、制御弁を制御して制御液圧を発生させることができる。そのため、制御液圧の圧力制御が容易である。
【0016】
様相5に係る車両用ブレーキ装置によれば、特性選択装置は、ブレーキペダルの操作に応じて、出力特性変更装置に出力特性を変更させることができる。また、様相6に係る車両用ブレーキ装置によれば、特性選択装置は、回生制動力の変化量に応じて、出力特性変更装置に出力特性を変更させることができる。そのため、例えば、短時間に強い制動力が必要な場合や回生制動力が失われた場合には、倍力装置の出力特性を出力特性が小さいものから大きいものに変更することによって、必要な要求制動力を確保することができる。したがって、制御液圧発生装置を大型化することなく、必要な制動力を確保することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】第1実施形態に係る車両用ブレーキ装置の概略構成図である。
【図2】図1に示す倍力装置及び出力特性変更装置の断面図であり、(A)は不作動状態を示し、(B)はパイロット圧を増圧ピストンの後面に供給した作動状態を示し、(C)はパイロット圧をオフセットピストンの後面に供給した作動状態を示す。
【図3】パイロット圧と基礎液圧の関係を示す図であり、(A)はパイロット圧を増圧ピストンの後面に供給した場合を示し、(B)はパイロット圧をオフセットピストンの後面に供給した場合を示す。
【図4】パイロット圧と制動力の関係を示す図であり、(A)はパイロット圧をオフセットピストンの後面に供給した場合を示し、(B)はパイロット圧を増圧ピストンの後面に供給した場合を示す。
【図5】第1実施形態に係る車両用ブレーキ装置の制御手順を示すフローチャートの一例である。
【図6】第2実施形態に係る倍力装置、出力特性変更装置及び特性選択装置の概略構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。なお、各実施形態について共通の箇所には共通の符号を付して対応させることにより重複する説明を省略する。なお、各図は概念図であり、細部構造の寸法まで規定するものではない。
【0019】
(1)第1実施形態
(1−1)車両用ブレーキ装置
図1は、本実施形態に係る車両用ブレーキ装置の概略構成図を示している。本実施形態の車両用ブレーキ装置は、車輪6FR、6FL、6RR、6RL(以下、適宜「車輪6FR〜6RL」と略記する。)のブレーキを構成するホイールシリンダ641、642、681、682(以下、適宜「ホイールシリンダ641〜682」と略記する。)に基礎液圧Pbを供給するマスタシリンダ1と、ブレーキペダル115の操作に応じたパイロット圧Piを発生するパイロット圧発生装置2と、マスタシリンダ1内の液圧室132、136に基礎液圧Pbを発生させる倍力装置3と、倍力装置3の出力特性を2つの異なる出力特性に変更する出力特性変更装置4と、出力特性変更装置4に倍力装置3の出力特性を2つの異なる出力特性のうちの選択された一つに変更させる特性選択装置5と、基礎液圧Pbに加算される制御液圧Pcpを発生可能な制御液圧発生装置6と、駆動輪6FR、6FLに回生制動力Fcrを供給する回生制動装置7と、車両用ブレーキ装置と回生制動装置7を協調制御するブレーキECU81と、ブレーキECU81からの要求値に応じてインバータ71を介して車両の駆動源であるモータ72を制御するハイブリッドECU82と、各種センサ9と、を備えている。
【0020】
本実施形態の車両用ブレーキ装置は、運転者のブレーキペダル115の踏込操作により生じるブレーキ操作量を倍力装置3で倍力して、倍力されたサーボ圧Psから発生する基礎液圧Pbを車輪6FR〜6RLのホイールシリンダ641〜682に付与して車輪6FR〜6RLに基礎液圧Pbによる基礎制動力Fbを付与するとともに、制御液圧発生装置6によって形成された制御液圧Pcpを必要に応じてホイールシリンダ641〜682に付与して車輪6FR〜6RLに制御液圧Pcpによる制御制動力Fcpを付与することができる。回生制動装置7は、駆動輪6FR、6FLを駆動させるモータ72によってブレーキ操作に応じた回生制動力Fcrを駆動輪6FR、6FLに付与することができる。
【0021】
図1に示す車両用ブレーキ装置は、左右の前輪6FR、6FLおよび左右の後輪6RR、6RLにそれぞれ制動力を付与する同じ構成の前輪ブレーキ系統6fおよび後輪ブレーキ系統6rが分離して設けられているが、車輪6FR、6RLおよび車輪6FL、6RRにそれぞれ制動力を付与するクロス配管2系統に分離して設けることもできる。また、4輪を一括して、一つのブレーキ系統を構成することもできる。また、本実施形態では、車両用ブレーキ装置を前輪駆動車に適用しているが、後輪駆動車に適用することもでき、4輪駆動車に適用することもできる。以下、本実施形態の車両用ブレーキ装置が備える各構成要素について、詳細に説明する。
【0022】
(1−2)マスタシリンダ1及びパイロット圧発生装置2
図1に示すように、マスタシリンダ1は、基端部が開口して先端部が閉塞した円筒形状を成すシリンダ111を備え、このシリンダ111の内部に基端部から順に入力ピストン112、第1マスタピストン113及び第2マスタピストン114が各々同軸上に配置されて軸線方向に沿って摺動自在に嵌合されている。入力ピストン112は、シリンダ111の基端部外方に一部が突出して配置され、その突出部分にブレーキペダル115の操作ロッド116がピボット116aを用いて連結され、運転者によるブレーキペダル115の操作により操作ロッド116を介して移動可能となっている。なお、本明細書では、ブレーキペダル115の移動量を「ブレーキ操作量」ともいう。また、第1マスタピストン113及び第2マスタピストン114を単に「マスタピストン」ともいう。
【0023】
入力ピストン112は、シリンダ111の基端部側に形成された入力シリンダ穴119に摺動自在に嵌合されている。入力ピストン112には、入力シリンダ穴119内への挿入部分に、先端側が開口し基端部側が閉塞されて閉塞面112aとなった軸穴117が形成されている。この軸穴117に、第1マスタピストン113からシリンダ111の隔壁111aを貫通して基端部側へ延在する円柱状の棒状部分が摺動自在に嵌合されている。この嵌合された棒状部分の端面113aは、入力ピストン112の閉塞面112aと平行状態となっており、それら端面113aと閉塞面112aとの間には、ブレーキペダル115が無操作状態の際に所定距離Bの間隔が確保されるようになっている。
【0024】
入力ピストン112の先端部側の端面と隔壁111aとの間には反力室128が形成され、この反力室128の隔壁111aの近傍にはシリンダ111の周壁を外部に貫通するポート129が形成されている。このポート129は配管130を介して、パイロット圧発生装置2を構成する加圧シミュレータ21に接続されている。
【0025】
加圧シミュレータ21は、シリンダ211にピストン212が摺動可能に嵌合され、圧縮スプリング213によって前方に付勢されたピストン212の前面側にパイロット液室214が形成され、パイロット液室214が配管130を介して反力室128に連通されている。ブレーキペダル115の操作により入力ピストン112が前方に移動すると、反力室128からブレーキ液がパイロット液室214に送出されピストン212が圧縮スプリング213の撓み量に比例するばね力に抗して後退される。これにより、反力室128内の圧力がブレーキペダル115の移動量であるブレーキ操作量に応じて上昇し、ブレーキペダル115にはブレーキ操作量に応じた反力が付与される。配管130には、反力室128内の圧力を検出する圧力センサ93が設けられている。本明細書では、この反力室128内の圧力を「パイロット圧」という。
【0026】
入力ピストン112の軸穴117の内周面と第1マスタピストン113の棒状部分の外周面との間に軸線方向に沿って所定ギャップの通路117aが形成されるように、軸穴117は軸線方向に所定長さだけ大径に形成されている。入力ピストン112の周壁には当該周壁を貫通する貫通穴118が通路117aと連通するように形成されている。更に、入力ピストン112の外周面と入力シリンダ穴119の内周面との間に軸線方向に沿って所定ギャップの通路119aが形成されるように入力シリンダ穴119は軸線方向に所定長さだけ大径に形成されている。シリンダ111の周壁には断面がクランク形状の通路120が、通路119aの先端付近で連通するように貫通して形成されている。通路120は配管121で、ブレーキ液のリザーバ35に連通されている。したがって、端面113aと閉塞面112aとの間隔部分117bは、通路117a、貫通穴118、通路119a、通路120、配管121を介してリザーバ35に連通している。この連通状態は、ブレーキ操作量に係わらず保持され、間隔部分117bは、常時大気に連通されている。
【0027】
シリンダ111には、加圧シリンダ穴123が入力シリンダ穴119と隔壁111aを挟んで形成されている。第1マスタピストン113は、断面コ字形状を呈し、加圧シリンダ穴123に摺動自在に嵌合されている。第1マスタピストン113の先端部側に配置された第2マスタピストン114は断面がコ字形状を呈し、加圧シリンダ穴123内に摺動自在に嵌合されている。
【0028】
隔壁111aと第1マスタピストン113との間にサーボ室127が形成され、第1マスタピストン113と第2マスタピストン114との間に第1液圧室132が形成され、第2マスタピストン114と加圧シリンダ穴123の先端閉塞面との間に第2液圧室136が形成されている。第1マスタピストン113のコ字形状の凹部底面と第2マスタピストン114の後端面との間に第1圧縮スプリング124が介在され、第2マスタピストン114のコ字形状の凹部底面と加圧シリンダ穴123の先端閉塞面との間に第2圧縮スプリング125が介在されている。これにより、ブレーキペダル115が無操作状態において、第1マスタピストン113および第2マスタピストン114は第1圧縮スプリング124および第2圧縮スプリング125のばね弾性力によってシリンダ111の基端側に付勢され、所定の各不作動位置にそれぞれ停止されている。本明細書では、第1液圧室132及び第2液圧室136を単に「液圧室」ともいう。
【0029】
ブレーキペダル115の無操作状態において、第1マスタピストン113の棒状部分の端面113aは、入力ピストン112の閉塞面112aとの間に、上述した所定距離Bとなる間隔をもって離間状態に保持されている。運転者がブレーキペダル115を操作し、入力ピストン112が第1マスタピストン113に対して所定距離Bだけ相対的に前進すると、第1マスタピストン113に当接してこれを押圧可能となっている。
【0030】
サーボ室127の隔壁111aの近傍にはシリンダ111の周壁を外部に貫通するポート133が形成されている。第1マスタピストン113と第2マスタピストン114との間の第1液圧室132には所定の不作動位置に位置する第2マスタピストン114の後端面近傍にシリンダ111の周壁を外部に貫通するポート134が形成されている。更に、第2マスタピストン114の先端部側とシリンダ111の先端閉塞面との間の第2液圧室136には当該先端閉塞面の近傍に、シリンダ111の周壁を外部に貫通するポート135が形成されている。
【0031】
後述する倍力装置3によって、パイロット圧Piが倍力されたサーボ圧Psがサーボ室127に発生することにより、第1マスタピストン113、第2マスタピストン114が軸線方向に前進して第1液圧室132及び第2液圧室136が加圧される。第1液圧室132及び第2液圧室136の液圧は、ポート134、135から配管61、65及び制御液圧発生装置6を経由してホイールシリンダ641〜682へ基礎液圧Pbとして供給され、車輪6FR〜6RLに基礎制動力Fbが付与される。後述するように、制御液圧発生装置6は必要に応じて、基礎液圧Pbに制御液圧Pcpを加算することもできる。
【0032】
なお、入力シリンダ穴119の内周面と入力ピストン112の外周面との間、加圧シリンダ穴123と第1マスタピストン113及び第2マスタピストン114の外周面との間、並びに、入力ピストン112の軸穴117の内周面及び隔壁111aと第1マスタピストン113の棒状部分の外周面との間には、図1において丸印で示すOリング等のシール部材を装着し、液の漏洩を防止している。
【0033】
(1−3)倍力装置3
図2に基づいて、倍力装置3の構成及び作用を説明する。図2は、図1に示す倍力装置3及び出力特性変更装置4の断面図であり、(A)は車両用ブレーキ装置が不作動状態を示し、(B)はパイロット圧Piを増圧ピストン332の後面332bに供給した作動状態を示し、(C)はパイロット圧Piをオフセットピストン42の後面42bに供給した作動状態を示している。同図(A)に示すように、倍力装置3は、弁ハウジング31に、弁孔311と、弁孔311より大径に同心に形成された増圧大径孔32と、が形成されている。弁孔311には、スプール弁331が摺動可能に嵌合されており、増圧大径孔32には、増圧ピストン332が摺動可能に嵌合されている。スプール弁331と増圧ピストン332は、一体的に形成されて弁体33となっている。増圧ピストン332は、断面T字形状を呈しており、増圧ピストン332の肩部と増圧大径孔32の周壁によって囲まれる領域にはスプリング室3F3が形成されている。スプリング室3F3には、弁体33を軸線方向後方に付勢する付勢スプリング36が設けられている。付勢スプリング36は、後述する出力特性変更装置4が備えるオフセットスプリング43のようにセット荷重を設けておらず、付勢スプリング36は省略することもできる。
【0034】
スプール弁331の前面331fと弁孔311の周壁によって囲まれる領域にはフィードバック液圧室3F1が形成され、スプール弁331のスプール部分と弁孔311の周壁によって囲まれる領域には弁室3F2が形成されている。弁ハウジング31には、弁孔311の周壁を外部に貫通するポート312、313、314、315が設けられている。ポート312は、弁ハウジング31の先端部に形成されており、配管61(61a)、65(65a)を介してマスタシリンダ1の第1液圧室132のポート134及び第2液圧室136のポート135に接続されている。ポート313は、配管34aを介してアキュムレータ34に接続され、ポート314は、配管145を介してサーボ室127のポート133に接続され、ポート315は、配管35aを介してリザーバ35に接続されている。アキュムレータ34は、図示しない液圧ポンプにより発生した液圧を蓄圧することができ、リザーバ35は、ブレーキ液を貯蔵している。ポート313、314、315は、弁室3F2の入出力ポートをなしている。つまり、弁体33がパイロット圧Piに応じて軸線方向に移動し、ポート313、315の開度がスプール弁331によって制御され、アキュムレータ34から供給される液圧をパイロット圧Piに見合った所定圧力に調節してポート314から出力することができる。
【0035】
増圧大径孔32が形成されている弁ハウジング31には、増圧大径孔32の周壁を外部に貫通するポート316、317が設けられている。ポート316は、配管35bを介してリザーバ35に接続されている。ポート317は、後述するように特性選択装置5を構成する切換弁51を介して反力室128のポート129に接続され、切換弁51が開状態のときに連通可能になっている。切換弁51が開状態になると、増圧ピストン332の後面332bにパイロット圧Piが作用する。付勢スプリング36のばね弾性力は小さいので、増圧ピストン332の後面332bにパイロット圧Piが作用するとすぐに弁体33は軸線方向に前進することができる。
【0036】
図2(B)は、増圧ピストン332の後面332bにパイロット圧Piが作用して、弁体33が軸線方向に前進した状態を示している。増圧ピストン332の後面332b、後述する出力特性変更装置4の隔壁411、オフセットピストン42の突出部421及び増圧大径孔32の周壁によって囲まれる領域には、増圧室3F4が形成されている。このとき、増圧ピストン332の後面332bに作用するパイロット圧Piに基づく後方軸力F2とスプール弁331の前面331fに作用する第1液圧室132、第2液圧室136に発生する基礎液圧Pbに基づく前方軸力F1bとがバランスするように弁体33が移動する。その結果、アキュムレータ34がサーボ室127に連通されて、パイロット圧Piを倍力したサーボ圧Ps1がサーボ室127に発生する。蓄圧源であるアキュムレータ34を用いてサーボ圧Ps1を発生させるので、高応答に制動力を付与することができる。スプール弁331の前面331fの径方向断面積をS1として、増圧ピストン332の径方向断面積をS2とすると、サーボ圧Ps1は、下記数1で表すことができる。
(数1)
Ps1=Pi×S2/S1
【0037】
なお、切換弁51が閉状態になると、増圧室3F4に流入したブレーキ液は、ポート317、配管130c、切換弁51、切換弁51の第3ポート51cに接続されている配管52を介して、リザーバ35に排出される。
【0038】
(変形形態)
倍力装置3のポート312は、サーボ室127のポート133に通じる配管145に接続することもできる。この場合は、倍力装置3のポート314から出力されるサーボ圧Psは、倍力装置3のフィードバック液圧室3F1にフィードバックされる。つまり、増圧ピストン332の後面332bに作用するパイロット圧Piに基づく後方軸力F2とスプール弁331の前面331fに作用するサーボ室127に発生するサーボ圧Psに基づく前方軸力F1sとがバランスするように弁体33が移動する。
【0039】
サーボ室127の径方向断面積S4は、第1液圧室132及び第2液圧室136の径方向断面積S5と比べて、第1マスタピストン113から基端部側へ延在する円柱状の棒状部分の断面積分だけ小さい。よって、基礎液圧Pbは、下記数2で表すことができる。
(数2)
Pb=Ps×S4/S5
【0040】
本明細書では、説明の便宜上、サーボ圧Psと基礎液圧Pbは略等しいものとして説明する。
【0041】
(1−4)出力特性変更装置4及び特性選択装置5
出力特性変更装置4は、倍力装置3の増圧大径孔32の軸線方向後方に隔壁411を挟んで弁孔311より大径に同心にオフセット大径孔41が弁ハウジング31に形成されている。オフセット大径孔41には、断面T字形状を呈するオフセットピストン42が軸線方向に摺動可能に嵌合されており、オフセットピストン42の軸線方向突出部421が隔壁411を液密的に貫通して増圧ピストン332の後面332bに当接可能になっている。オフセットピストン42の肩部と隔壁411との間には、オフセットスプリング室4F1が形成されている。オフセットスプリング室4F1には、オフセットピストン42を後端位置42b0に付勢するオフセットスプリング43が設けられている。オフセットスプリング43は、セット荷重が設けてあり、オフセットピストン42の後面42bに作用するパイロット圧Piがオフセット圧P0を超えるとオフセットピストン42および弁体33の前進を許容する。
【0042】
弁ハウジング31には、オフセット大径孔41の周壁を外部に貫通するポート412、413が設けられている。ポート412は、弁ハウジング31の後端部に形成されており、配管130(130b)を介して、マスタシリンダ1の反力室128(ポート129)に接続されている。ポート413は、配管35cを介して、リザーバ35に接続されている。
【0043】
特性選択装置5は、出力特性変更装置4に倍力装置3の出力特性を2つの異なる出力特性のうちの選択された一つに変更させるものである。特性選択装置5の出力特性の選択を受けて、出力特性変更装置4が倍力装置3の出力特性を変更する。本実施形態では、特性選択装置5は切換弁51で構成され、図1及び図2に示すように電磁弁を用いている。特性選択装置5は、出力特性の選択ができれば良く、電磁弁に限定されない。
【0044】
切換弁51は、パイロット圧Piを増圧ピストン332の後面332bまたはオフセットピストン42の後面42bに選択的に供給する。具体的には、反力室128のポート129と加圧シミュレータ21とが接続されている配管130の途中は分岐して分岐配管130a、130bとなっており、分岐配管130aは、切換弁51の第1ポート51aに接続され、分岐配管130bは、出力特性変更装置4のポート412に接続されている。切換弁51の第2ポート51bには、配管130cが接続され、配管130cの他端は、倍力装置3のポート317に接続されている。切換弁51が開状態のときに分岐配管130aと配管130cは連通して、反力室128のポート129から倍力装置3のポート317の方向へブレーキ液が流入することができる。つまり、切換弁51が開状態のときに増圧ピストン332の後面332bにパイロット圧Piが作用する。(1−3)節で既述のとおり、パイロット圧Piを倍力したサーボ圧Ps(基礎液圧Pb)がサーボ室127に発生する。
【0045】
切換弁51が閉状態のときには、出力特性変更装置4のポート412からオフセットピストン42の後面42bにパイロット圧Piが作用する。パイロット圧Piがオフセット圧P0以下においては、オフセットスプリング43の働きにより、オフセットピストン42は後端位置42b0に留まっている。このとき、オフセットピストン42に当接する弁体33は軸線方向に前進できないので、サーボ室127には、サーボ圧Ps(基礎液圧Pb)は発生しない。パイロット圧Piがオフセット圧P0を超えるとオフセットピストン42および弁体33が軸線方向に前進する。
【0046】
図2(C)は、オフセットピストン42の後面42bにパイロット圧Piが作用して、オフセットピストン42および弁体33が軸線方向に前進した状態を示している。オフセットピストン42の後面42bとオフセット大径孔41の周壁によって囲まれる領域には、オフセット増圧室4F2が形成されている。このとき、オフセットピストン42の後面42bに作用するパイロット圧Piに基づく後方軸力F3とスプール弁331の前面331fに作用する第1液圧室132、第2液圧室136に発生する基礎液圧Pbに基づく前方軸力F1bとがバランスするように弁体33が移動する。その結果、アキュムレータ34がサーボ室127に連通されて、パイロット圧Piを倍力したサーボ圧Ps2がサーボ室127に発生する。蓄圧源であるアキュムレータ34を用いてサーボ圧Ps2を発生させるので、高応答に制動力を付与することができる。オフセットピストン42の径方向断面積をS3とし、オフセットスプリング43のばね弾性力に相当する圧力をPaとすると、サーボ圧Ps2は、下記数3で表すことができる。
(数3)
Ps2=(Pi−Pa)×S3/S1
【0047】
図3は、パイロット圧Piと基礎液圧Pbの関係を示す図であり、(A)はパイロット圧Piを増圧ピストン332の後面332bに供給した場合を示し、(B)はパイロット圧Piをオフセットピストン42の後面42bに供給した場合を示している。切換弁51を開状態にして、パイロット圧Piを増圧ピストン332の後面332bに供給した場合は、同図(A)に示すように、パイロット圧Piに基づく基礎液圧Pb1(サーボ圧Ps1)がすぐに発生する。本明細書では、同図(A)に示す倍力装置3の出力特性を「第1倍力特性」という。
【0048】
一方、切換弁51を閉状態にして、パイロット圧Piをオフセットピストン42の後面42bに供給した場合は、同図(B)に示すように、パイロット圧Piがオフセット圧P0を超えてから基礎液圧Pb2(サーボ圧Ps2)が発生する。基礎液圧Pb2は、基礎液圧Pb1と比べて、オフセットスプリング43のばね弾性力に相当する圧力Pa分低い。本明細書では、同図(B)に示す倍力装置3の出力特性を「第2倍力特性」という。つまり、本実施形態では、切換弁51を開閉することによって、倍力装置3の出力特性を第1倍力特性又は第2倍力特性に変更することができる。
【0049】
(変形形態1)
オフセットピストン42の径方向断面積S3を増圧ピストン332の径方向断面積S2より大きくすることにより、断面積S2、S3が同じ場合と比べて、サーボ圧Ps2を高くすることができる。断面積S3を断面積S2より小さくすることにより、断面積S2、S3が同じ場合と比べて、サーボ圧Ps2を低くすることができる。つまり、図3に示すパイロット圧Piと基礎液圧Pbの関係を示す特性線の傾きを変更することができる。
【0050】
(変形形態2)
オフセットピストン42は、複数のオフセットピストンを軸線方向に当接させて構成することもできる。複数のオフセットピストンは、それぞれ軸線方向後方に付勢する付勢スプリングを有しているのが好ましい。付勢スプリングのばね弾性力は、すべて同じであっても良いし、付勢スプリングごとにばね弾性力が異なっていても良い。特性選択装置5は、パイロット圧Piを増圧ピストン332の後面332bまたはそれぞれのオフセットピストンの後面に選択的に供給する。本変形形態では、倍力装置3の出力特性を多段階に変更することができる。
【0051】
(1−5)制御液圧発生装置6
制御液圧発生装置6は、制御液圧Pcpを調整可能な制御弁62、66と、制御液圧Pcpを発生するポンプ63、67と、を備え、基礎液圧Pbに加算される制御液圧Pcpを発生することができる。制御弁62、66は、例えば、ソレノイド液圧比例制御弁を用いることができる。ソレノイド液圧比例制御弁は、リニアソレノイドに印加される制御電流に応じて、出力ポートの液圧が入力ポートの液圧より制御差圧分だけ高くなるように圧力制御することができる。制御弁62、66は、通常、リニアソレノイドの付勢により開位置にシフトされており、入力ポートと出力ポートとが直通されている。制御弁62、66の入力ポートおよび出力ポート間には入力ポートから出力ポートへの液流を許容する逆止弁が接続されている。ポンプ63、67は、ポンプ駆動用モータ63m、67mを含む汎用ポンプで構成され、制御弁62、66とそれぞれ並列に配されている。
【0052】
制御液圧発生装置6は、マスタシリンダ1の第1液圧室132、第2液圧室136とホイールシリンダ641〜682とを連通する出力管路61、65に設けられている。具体的には、第1液圧室132のポート134、第2液圧室136のポート135に配管61、65がそれぞれ接続されている。配管61、65の他端は、制御弁62、66の入力ポート62a、66aにそれぞれ接続されている。配管61、65の途中は分岐して分岐配管61a、61b、65a、65bとなっており、分岐配管61a、65aは、倍力装置3のポート312に接続されている。分岐配管61b、65bは、ポンプ63、67の吸入口にそれぞれ接続されている。制御弁62、66の出力ポート62b、66bには、配管61c、65cがそれぞれ接続されている。配管61c、65cは、ポンプ63、67の吐出口にそれぞれ接続されている配管61d、65dとそれぞれ連結されて、配管61e、65eとなっている。配管61e、65eは、ホイールシリンダ641〜682近傍で分岐して、分岐配管61f、65fとなっている。配管61e、65eは、ホイールシリンダ641、681にそれぞれ接続され、分岐配管61f、65fは、ホイールシリンダ642、682にそれぞれ接続されている。
【0053】
制御液圧発生装置6は、制御弁62、66の出力ポート62b、66bの液圧が入力ポート62a、66aの液圧よりそれぞれ所望の制御液圧Pcp分だけ高くなるように圧力制御することができる。制御液圧発生装置6は、ブレーキECU81からの制御信号に基づいて、ポンプ駆動用モータ63m、67mを駆動させてポンプ63、67を作動させるとともに、制御弁62、66のリニアソレノイドに所定の制御電流を印加する。このようにして、制御弁62、66の出力ポート62b、66bには、入力ポート62a、66aの液圧(基礎液圧Pb)に所望の制御液圧Pcpが加算された液圧Pfが出力される。液圧Pfは、ホイールシリンダ641〜682に供給されて、車輪6FR〜6RLには、基礎液圧Pbによる基礎制動力Fbと制御液圧Pcpによる制御制動力Fcpが付与される。本明細書では、基礎制動力Fbと制御制動力Fcpとを併せて、液圧制動力Ffという。
【0054】
車輪6FR〜6RLに制御制動力Fcpを付与しない場合は、ポンプ63、67を不作動にして、リニアソレノイドに印加される制御電流をゼロにする。制御弁62、66の入力ポート62a、66aと出力ポート62b、66bは、それぞれ直通状態になる。この場合は、制御弁62、66の出力ポート62b、66bには、基礎液圧Pbのみが出力され、ホイールシリンダ641〜682を介して、車輪6FR〜6RLに基礎液圧Pbによる基礎制動力Fbが付与される。
【0055】
(1−6)回生制動装置7
回生制動装置7は、インバータ71と、インバータ71に電気的に接続され、駆動輪6FR、6FLを駆動させるモータ72と、インバータ71に電気的に接続されている直流電源としてのバッテリ73と、を備えている。インバータ71は、ハイブリッドECU82からの制御信号に基づいて、バッテリ73の直流電力を交流電力に変換してモータ72に供給する。モータ72により発電される交流電力は、インバータ71によって直流電力に変換されてバッテリ73を充電することができる。
【0056】
ハイブリッドECU82は、インバータ71と相互に通信可能に接続されており、インバータ71を介してモータ72を制御することができる。ハイブリッドECU82は、バッテリ73の充電状態、充電電流などを監視している。ハイブリッドECU82には、ブレーキECU81が接続されている。ブレーキECU81は、ブレーキペダル115に設けられた踏力センサ91、ストロークセンサ92、圧力センサ93、アキュムレータ34、切換弁51、制御弁62、66、ポンプ駆動用モータ63m、67mと電気的に接続されている。
【0057】
ハイブリッドECU82は、モータ72を発電機として作動させることで、駆動輪6FR、6FLに回生制動力Fcrを付与して車両を減速しつつ、運動(回転)エネルギーを電気エネルギーに変換して、変換された電気エネルギーをインバータ71を介してバッテリ73で回収することができる。
【0058】
(1−7)車両用ブレーキ装置の制御
本実施形態の車両用ブレーキ装置の制御方法を図4及び図5を参照しつつ、詳説する。図4は、パイロット圧Piと制動力の関係を示す図であり、(A)はパイロット圧Piをオフセットピストン42の後面42bに供給した場合を示し、(B)はパイロット圧Piを増圧ピストン332の後面332bに供給した場合を示している。
【0059】
運転者によるブレーキ操作に基づく要求制動力をFrqとし、基礎液圧Pbによって発生する制動力を基礎制動力Fbとする。要求制動力Frqのうち、基礎制動力Fbで賄えない制動力を回生制御制動力Fcとすると、回生制御制動力Fcは、回生制動装置7によって供給される回生制動力Fcrと、制御液圧発生装置6によって供給される制御制動力Fcpと、を加算したものとして表すことができる。これらの制動力の関係は、図4(A)に示される。同図では、パイロット圧Piと基礎制動力Fbの関係を直線W1で示し、パイロット圧Piと要求制動力Frqの関係を直線W2(破線)で表している。
【0060】
図5は、本実施形態に係る車両用ブレーキ装置の制御手順を示すフローチャートの一例である。ブレーキECU81は、例えば、図示しないイグニションスイッチがオン状態にあるとき、図5に示すフローチャートに対応したプログラムを所定時間経過毎に繰り返し実行する。プログラムの初期値として、切換弁51は閉状態にセットされており、倍力装置3の出力特性は第2倍力特性になっている。
【0061】
ブレーキECU81は、運転者によるブレーキペダル115の操作に応じたパイロット圧Piから、要求制動力Frq、回生制御制動力Fc、回生制動力Fcr、制御制動力Fcpを演算する(ステップS11)。具体的には、ブレーキECU81は、圧力センサ93から得られるパイロット圧Piに応じた要求制動力Frqをパイロット圧−要求制動力マップから読み込む。パイロット圧Piと要求制動力Frqの関係は、予め試験等で求めておき、ブレーキECU81のメモリにマップとして記憶されている。パイロット圧Piと要求制動力Frqの関係は、テーブル、演算式等によっても算出することができる。基礎制動力Fbは、パイロット圧Piに応じて決まるので、ブレーキECU81は、要求制動力Frqから基礎制動力Fbを減算して、回生制御制動力Fcを算出する。ブレーキECU81は、例えば、バッテリ73の充電量などのハイブリッドECU82からの情報に基づいて、回生制御制動力Fcを回生制動力Fcrと制御制動力Fcpとに配分する。回生制動装置7で回生制動可能な最大制動力をFcrとすると、バッテリ73を効率よく充電できる。制御制動力Fcpも少なくなり、制御液圧発生装置6におけるエネルギー消費を抑えることができる。
【0062】
次に、ブレーキECU81は、運転者によるブレーキ操作が急制動要求であるか否かを判定する(ステップS12)。急制動要求の判定は、例えば、圧力センサ93の所定時間における圧力変化が所定値以上のときに、「急性動要求あり」と判定することができる。この他にも、ブレーキペダル115にストロークセンサ92を設けて、ブレーキペダル115の所定時間におけるストローク量の変化から急制動要求であるか否かを判定することもできる。運転者によるブレーキ操作が急制動要求である場合は、後述するステップS16へ進み、急制動要求でない場合は、次のステップS13へ進む。
【0063】
急制動要求でない場合は、ブレーキECU81は、回生制動装置7が回生制動可能か否かを判定する(ステップS13)。回生制動不可の場合とは、例えば、バッテリ73の充電量が多い場合が挙げられる。バッテリ73の充電量が多いと、回生エネルギーをバッテリ73で回収することができなくなる。ブレーキECU81は、回生制動不可の場合は、後述するステップS16へ進み、回生制動が可能な場合は、次のステップS14へ進む。
【0064】
回生制動可能な場合は、ブレーキECU81は、ABS制御(アンチロック制御)中であるか否かを判定する(ステップS14)。ABS制御中の場合は、後述するステップS16へ進み、ABS制御中でない場合は、次のステップS15へ進む。
【0065】
ABS制御中でない場合は、ブレーキECU81は切換弁51を閉状態にして、倍力装置3の出力特性を第2倍力特性にする(ステップS15)。そして、本ルーチンを一旦終了する。
【0066】
まず、ステップS12〜S14のすべてにおいて、「NO」と判定された場合の車両用ブレーキ装置の作動を説明する。つまり、ステップS15を実行した場合を考える。この場合、ブレーキECU81は、切換弁51を閉状態にして、パイロット圧Piをオフセットピストン42の後面42bに供給する。したがって、倍力装置3の出力特性は、パイロット圧Piがオフセット圧P0を超えてから基礎液圧Pbが発生する第2倍力特性である。このときのパイロット圧Piと制動力の関係は、図4(A)に示される。車両用ブレーキ装置は、マスタシリンダ1が基礎制動力Fbに相当する基礎液圧Pbを発生させ、制御液圧発生装置6が制御制動力Fcpに相当する制御液圧Pcpを発生させて基礎液圧Pbに制御液圧Pcpが加算される。車両用ブレーキ装置は、車輪6FR〜6RLに基礎制動力Fb及び制御制動力Fcp(液圧制動力Ff)を付与するとともに、回生制動装置7が回生制動力Fcrを駆動輪6FR、6FLに付与する。つまり、車輪6FR〜6RLに液圧制動力Ffと回生制動力Fcrとが付与される回生協調制御が行われる。
【0067】
本実施形態では、回生制動力Fcrが変動しても、回生制動力Fcrの変動に合わせて、制御液圧発生装置6が制御制動力Fcpを車輪6FR〜6RLに付与することができるので、回生制動力Fcrの変動分を制御制動力Fcpによって補償することができる。
【0068】
本実施形態では、パイロット圧Piがオフセット圧P0未満である間は、倍力装置3がサーボ圧Ps(基礎液圧Pb)を発生しないオフセット特性(第2倍力特性)を有しているので、パイロット圧Piがオフセット圧P0未満である間は、回生制動力Fcr及び/又は制御制動力Fcpによって、要求制動力Frqを確保することができる。そのため、発生可能な回生制動力Fcrを最大限に使うことができる。なお、パイロット圧Piがオフセット圧P0未満である間は、倍力装置3が微小液圧を発生するオフセット特性にすることもできる。
【0069】
次に、図5に示すステップS12〜S14のいずれかにおいて、「YES」と判定された場合の車両用ブレーキ装置の作動を説明する。つまり、ステップS16を実行した場合を考える。この場合、ブレーキECU81は、切換弁51を開状態にして、パイロット圧Piを増圧ピストン332の後面332bに供給する。したがって、倍力装置3の出力特性は、第2倍力特性から第1倍力特性に変更される。また、回生制御制動力Fc分をゼロにする。つまり、回生制動力Fcr、制御制動力Fcpもゼロにする(ステップS16)。
【0070】
急制動要求の場合やABS制御中は、短時間に大きな制動力が必要となる。また、バッテリ73の充電状況等によっては回生制動ができない場合も生じる。必要な要求制動力Frqを確保するためには、制御液圧発生装置6が発生する制御制動力Fcpを増加させる必要があり、制御液圧発生装置6は大型化する。本実施形態のように、ポンプ63、67によって制御液圧Pcpを発生させる場合は、ポンプ63、67の容量を大容量化する必要がある。
【0071】
本実施形態では、短時間に強い制動力が必要な場合や回生制動力が失われた場合には、倍力装置3の出力特性を第2倍力特性から第1倍力特性に変更する。このときのパイロット圧Piと制動力の関係は、図4(B)に示される。同図は、パイロット圧Piと基礎制動力Fbの関係を示す直線W1と、パイロット圧Piと要求制動力Frqの関係を示す直線W2と、が一致していることを示している。つまり、倍力装置3の出力特性を第2倍力特性と比べて出力特性が大きい第1倍力特性に変更することによって、必要な要求制動力Frqを確保することができる。そのため、制御液圧発生装置6を大型化することなく(制御制動力Fcpを増加させることなく)、必要な要求制動力Frqを確保することができる。さらに、本実施形態では、蓄圧源であるアキュムレータ34を用いて要求制動力Frqの増加分を発生させることができるので、高応答に制動力を付与することができる。
【0072】
(2)第2実施形態
第2実施形態の車両用ブレーキ装置は、第1実施形態の車両用ブレーキ装置と基本的には同様の構成、作用効果を有する。共通する部位には共通の符号を付し、異なる部分を中心に説明する。本実施形態は、第1実施形態と比べて、倍力装置3、出力特性変更装置4及び特性選択装置5が異なる。図6は、本実施形態に係る倍力装置、出力特性変更装置及び特性選択装置の概略構成図である。本実施形態では、第1実施形態における倍力装置3を増圧用リニア弁138、減圧用リニア弁137及び圧力センサ143によって構成したことに特徴がある。また、増圧用リニア弁138、減圧用リニア弁137は、第1実施形態における出力特性変更装置4、特性選択装置5に相当する。
【0073】
図6において、サーボ室127のポート133とリザーバ35との間には、減圧用リニア弁137、増圧用リニア弁138、液圧ポンプ139、アキュムレータ(Acc)140が配管145、145a、146、146a、147、148で接続されている。具体的には、ポート133は配管145に連結され、配管145の先端には増圧用リニア弁138の出口が連結され、増圧用リニア弁138の入口は配管146で液圧ポンプ139の吐出口に連結され、液圧ポンプ139の吸入口は配管147でリザーバ35に連結されている。液圧ポンプ139には、液圧ポンプ駆動用のモータ141が連結されている。液圧ポンプ139と増圧用リニア弁138とを連結する配管146の途中は分岐しており、分岐配管146aにアキュムレータ140が連結されている。ポート133と増圧用リニア弁138とを連結する配管145の途中は分岐しており、分岐配管145aに減圧用リニア弁137の入口が連結され、減圧用リニア弁137の出口は配管148でリザーバ35に連結されている。
【0074】
アキュムレータ140の流出入口に接続された配管146aには、アキュムレータ140に蓄圧された圧力エネルギー(アキュムレータ圧)を検出する圧力センサ142が設けられている。サーボ室127のポート133に連結された配管145には、サーボ室127内の液圧を検出する圧力センサ143が設けられている。
【0075】
アキュムレータ140は、液圧ポンプ139により発生した液圧を蓄圧するものであり、この蓄圧された液圧が増圧用リニア弁138を介してサーボ室127へ供給されることにより制動力が得られるようになっている。アキュムレータ圧が所定値以下に低下したことが圧力センサ142によって検出されると、液圧ポンプ139は、モータ141によって駆動され、アキュムレータ140にブレーキ液を供給してアキュムレータ140に蓄圧された圧力エネルギーを補給する。また、アキュムレータ140は、液圧ポンプ139が吐出したブレーキ液の脈動を緩和するために液圧ポンプ139の上流側に配置されている。
【0076】
増圧用リニア弁138及び減圧用リニア弁137は、流量調整式の電磁弁であり、サーボ室127の液圧を高くする場合は、増圧用リニア弁138の絞り抵抗が減少され、減圧用リニア弁137の絞り抵抗が増加されるようになっている。この逆に、サーボ室127の液圧を低くする場合は、増圧用リニア弁138の絞り抵抗が増加され、減圧用リニア弁137の絞り抵抗が減少されるようになっている。増圧用リニア弁138の絞り抵抗を最小とし、減圧用リニア弁137を閉止すると、サーボ室127に助勢限界液圧Pmが発生する。増圧用リニア弁138を閉止し、減圧用リニア弁137の絞り抵抗を最小にするとサーボ室127の液圧は無くなる。このように、増圧用リニア弁138の絞り抵抗及び減圧用リニア弁137の絞り抵抗をパイロット圧Piに合わせて調整することにより、図3に示す第1倍力特性及び第2倍力特性と同様な出力特性を得ることができる。
【0077】
なお、加圧シミュレータ21は、増圧用リニア弁138や減圧用リニア弁137のように、リニア弁を用いて構成することもできる。
【0078】
(3)その他
本発明は上記し且つ図面に示した実施形態のみに限定されるものではなく、要旨を逸脱しない範囲内で適宜変更して実施可能である。例えば、ブレーキペダル115の踏力FSを検出する踏力センサ91を設けて、踏力FSからブレーキ操作量を求めることもできる。また、ブレーキペダル115のペダルストロークSSを検出するストロークセンサ92を設けて、ペダルストロークSSからブレーキ操作量を求めることもできる。そして、第1実施形態におけるパイロット圧Piの代わりに踏力FS又はペダルストロークSSを用いて、サーボ圧Ps、基礎液圧Pbを発生させることもできる。この場合、第1実施形態における第2倍力特性は、踏力FSが所定オフセット量FS0未満である間又はペダルストロークSSが所定オフセット量SS0未満である間は、倍力装置3がサーボ圧Psを発生しないオフセット特性とすることができる。つまり、オフセット量FS0、SS0は、第1実施形態におけるオフセット圧P0に相当する。
【0079】
なお、踏力センサ91で検出された踏力FS、ストロークセンサ92で検出されたペダルストロークSS及び圧力センサ93で検出されたパイロット圧Piを任意に組み合わせてブレーキ操作量とすることもできる。
【符号の説明】
【0080】
1:マスタシリンダ
112:入力ピストン 113、114:マスタピストン 127:サーボ室
132、136:液圧室
2:パイロット圧発生装置
3:倍力装置
31:弁ハウジング 311:弁孔
32:増圧大径孔
33:弁体
331:スプール弁 331f:前面 332:増圧ピストン 332b:後面
34:アキュムレータ 35:リザーバ
4:出力特性変更装置
41:オフセット大径孔 411:隔壁
42:オフセットピストン
421:突出部 42b:後面 42b0:後端位置
43:オフセットスプリング
5:特性選択装置 51:切換弁
6:制御液圧発生装置
62、66:制御弁 63、67:ポンプ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ブレーキペダルの操作に連動して軸線方向に摺動する入力ピストンが内嵌され、前記入力ピストンの前進方向に配置され前記入力ピストンに対し独立して前記軸線方向に摺動するマスタピストンが内嵌されたマスタシリンダと、
前記ブレーキペダルの操作に応じたパイロット圧を発生するパイロット圧発生装置と、
前記パイロット圧を倍力したサーボ圧を発生して前記マスタシリンダ内の前記マスタピストンの後方側に形成されたサーボ室に供給し、前記マスタシリンダ内の前記マスタピストンの前方側に形成された液圧室に基礎液圧を発生させる倍力装置と、
前記倍力装置の出力特性を複数の異なる出力特性に変更する出力特性変更装置と、
前記出力特性変更装置に前記倍力装置の出力特性を前記複数の異なる出力特性のうちの選択された一つに変更させる特性選択装置と、
前記マスタシリンダの前記液圧室と車輪のブレーキを構成するホイールシリンダとを連通する出力管路に設けられ、前記基礎液圧に加算される制御液圧を発生可能な制御液圧発生装置と、
を備えることを特徴とする車両用ブレーキ装置。
【請求項2】
前記倍力装置の複数の出力特性のうちの少なくとも一つは、前記パイロット圧がオフセット圧より小さいオフセット圧未満または前記ブレーキペダルの操作量がオフセット量未満である間は、前記倍力装置が前記サーボ圧を発生しないまたは微小液圧を発生するオフセット特性である請求項1に記載の車両用ブレーキ装置。
【請求項3】
前記倍力装置は、
弁孔が形成された弁ハウジングと、
前記弁ハウジングに前記弁孔より大径に同心に形成された増圧大径孔と、
前記弁孔に摺動可能に嵌合されたスプール弁および前記スプール弁と一体的に形成され、前記増圧大径孔に摺動可能に嵌合された増圧ピストンを有する弁体と、
を備え、
前記増圧ピストンの後面に作用する前記パイロット圧に基づく後方軸力と前記スプール弁の前面に作用する前記液圧室又は前記サーボ室に発生する圧力に基づく前方軸力とがバランスするように前記スプール弁が移動することにより高圧のブレーキ液を蓄積するアキュムレータまたはリザーバを前記サーボ室に連通させて前記パイロット圧を倍力したサーボ圧を前記サーボ室に発生させ、
前記出力特性変更装置は、
前記弁ハウジングに前記増圧大径孔の後方に隔壁を挟んで前記弁孔より大径に同心に形成されたオフセット大径孔と、
前記オフセット大径孔に摺動可能に嵌合され、突出部が前記隔壁を液密的に貫通して前記増圧ピストンの後面に当接するオフセットピストンと、
前記オフセットピストンを後端位置に付勢し、前記オフセットピストンの後面に作用する前記パイロット圧が前記オフセット圧を超えると前記オフセットピストンおよび前記弁体の前進を許容するオフセットスプリングと、
を備え、
前記特性選択装置は、前記パイロット圧を前記増圧ピストンの後面または前記オフセットピストンの後面に選択的に供給する切換弁である請求項2に記載の車両用ブレーキ装置。
【請求項4】
前記制御液圧発生装置は、前記制御液圧を調整可能な制御弁と、前記制御弁と並列に設けられて前記制御液圧を発生するポンプと、を備える請求項1〜3のいずれか1項に記載の車両用ブレーキ装置。
【請求項5】
前記特性選択装置は、前記ブレーキペダルの操作に応じて、前記出力特性変更装置に前記出力特性を変更させる請求項1〜4のいずれか1項に記載の車両用ブレーキ装置。
【請求項6】
前記特性選択装置は、回生制動力の変化量に応じて、前記出力特性変更装置に前記出力特性を変更させる請求項1〜4のいずれか1項に記載の車両用ブレーキ装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate


【公開番号】特開2012−214092(P2012−214092A)
【公開日】平成24年11月8日(2012.11.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−79854(P2011−79854)
【出願日】平成23年3月31日(2011.3.31)
【出願人】(301065892)株式会社アドヴィックス (1,291)
【Fターム(参考)】