説明

車両用ペダル変位制御構造

【課題】乗員の足元スペースを確保でき、しかも所定値以上の外力が車両前部に作用した際にはペダルブラケット等に必要な変位を与え、車両用ペダルの踏面を車両前方側へ必要量回転変位させる。
【解決手段】インパネリインフォース26に固定されたインパネブラケット28にはスライドブラケット80が固定され、所定値以上の外力が車両前部に作用しダッシュパネル16が車両後方側へ変位した際には、ペダルブラケット30のスライド部50がスライドブラケット80のガイド部80A上を摺動することで、ブレーキペダル10のペダルパッド72が車両前方側へ回転変位される。さらに、インパネブラケット28の底壁部28Bの上面にはサブスライドブラケット86がスライド可能に重合されており、ペダルブラケット30のスライド部50がガイド部80Aを越えて摺動する際には、スライド部50が後端部86Aに係合してスライドブラケット86が引き出される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両前部に車両前方側から所定値以上の外力が作用した際に、ペダルブラケットの後端側又は車両用ペダルの一部をガイド部材の案内面に沿ってスライドさせることにより、車両用ペダルの踏面を車両前方側へ回転変位させるタイプの車両用ペダル変位制御構造に関する。
【背景技術】
【0002】
下記特許文献1には、車両前部に車両前方側から所定値以上の外力が作用してダッシュパネルが車両後方側へ変位した場合に、ペダルブラケットの後端部をガイドブラケットから離脱させ、ガイドブラケットの案内面に沿って斜め下方へ摺動させることにより、ブレーキペダルの後退変位を抑制する技術が開示されている。また、この技術では、ガイドブラケットの後端部にコラムサポートブラケットの前端部を結合させて閉断面化し、ペダルブラケットの後端部がガイドブラケットの終端まで摺動すると、コラムサポートブラケットでそれ以上の摺動が規制されるようになっている。これにより、ペダルブラケットの後端部がガイドブラケットの終端から離脱するのを防止している。
【特許文献1】特開2002−211369号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、上記先行技術に開示された構成による場合、ペダルブラケットの後端部がガイドブラケットから離脱することを防止することができたとしても、ペダルブラケットの回転変位はペダルブラケットの後端部がコラムサポートブラケットに当接した時点で規制されるので、必要な回転変位をペダルブラケットに与えることができない可能性がある。従って、上記先行技術は、この点において改良の余地がある。
【0004】
その一方で、ブレーキペダルの周辺にはステアリングコラムやニーエアバッグのモジュール等、多くの部品が存在し、更に乗員の足さばきや利便性を考慮する必要があるため、足元スペースを広くとる必要がある。従って、ガイドブラケットの案内面を車両後方下側へ予め延長しておくことは困難である。
【0005】
本発明は上記事実を考慮し、乗員の足元スペースを確保でき、しかも所定値以上の外力が車両前部に作用した際には車両用ペダルの一部又はこれを支持するペダルブラケットに必要な変位を与え、車両用ペダルの踏面を車両前方側へ必要量回転変位させることができる車両用ペダル変位制御構造を得ることが目的である。
【課題を解決するための手段】
【0006】
請求項1の発明は、所定値以上の外力が車両前部に作用した際に車両後方側へ変位する車体側構成部材に前端側が固定され、下端部に乗員の踏力が付与される踏面を備えた車両用ペダルを支軸回りに揺動可能に支持するペダルブラケットと、このペダルブラケットの車両後方側に配置され、車体側構成部材が車両後方側へ変位した際にペダルブラケットの後端側又は車両用ペダルの一部を側面視で車両斜め後方下側へ摺動させる案内面を備えたガイド部材と、を含んで構成された車両用ペダル変位制御構造であって、前記ガイド部材又は前記ガイド部材を支持する支持部材には、前記ペダルブラケットの後端側又は車両用ペダルの一部が少なくとも前記案内面を越えて摺動する際に、当該案内面を案内方向へ延長させる案内面延長手段が設けられている、ことを特徴としている。
【0007】
請求項2の発明は、請求項1記載の車両用ペダル変位制御構造において、前記案内面延長手段は、前記ガイド部材又は前記支持部材に格納されると共に当該案内面に沿ってスライド可能に保持され、前記案内面の終端部又はその近傍に前記ペダルブラケットの後端側又は車両用ペダルの一部が到達した際に当該ペダルブラケットの後端側又は車両用ペダルの一部に係合することで当該ペダルブラケットの後端側又は車両用ペダルの一部と一体に移動する係合部を備えている、ことを特徴としている。
【0008】
請求項1記載の本発明によれば、所定値以上の外力が車両前部に作用すると、車体側構成部材が車両後方側へ変位する。車体側構成部材にはペダルブラケットの前端側が固定されているので、車体側構成部材が後方変位すると、それに伴ってペダルブラケットも車両後方側へ変位する。ペダルブラケットの車両後方側には、支持部材に支持されたガイド部材が配置されており、ペダルブラケットが車両後方側へ変位すると、ペダルブラケットの後端側又は車両用ペダルの一部はガイド部材が備える案内面に沿って摺動され、車両斜め後方下側へと案内される。
【0009】
ここで、車体側構成部材の後方変位量によってはペダルブラケットの後端側又は車両用ペダルの一部がガイド部材の案内面を越えて摺動しようとする。この場合、本発明では、ガイド部材又は支持部材に設けられた案内面延長手段によって案内面が案内方向へ延長される。従って、ペダルブラケットの後端側又は車両用ペダルの一部は、案内面の案内方向へ延長された案内面上を摺動していくことができる。その結果、ペダルブラケットの後端側又は車両用ペダルの一部に必要な回転変位を与えることができる。
【0010】
しかも、案内面延長手段によって延長される案内面は、ペダルブラケットの後端側又は車両用ペダルの一部が少なくともガイド部材が備える案内面を越えて摺動する際に延長されるので、乗員の足元スペースも確保される。
【0011】
請求項2記載の本発明によれば、案内面延長手段は、ガイド部材又は支持部材に格納されると共にスライド可能に保持されている。ここで、ペダルブラケットの後端側又は車両用ペダルの一部が案内面の終端部又はその近傍に到達すると、案内面延長手段が備える係合部にペダルブラケットの後端側又は車両用ペダルの一部が係合される。これにより、案内面延長手段は、ペダルブラケットの後端側又は車両用ペダルの一部と一体に案内面の案内方向へ移動される。従って、通常のペダル操作時においては、案内面延長手段はペダルブラケットの設置スペース内に納められており、乗員の足元スペースを狭めない。
【発明の効果】
【0012】
以上説明したように、請求項1記載の本発明に係る車両用ペダル変位制御構造は、乗員の足元スペースを確保でき、しかも所定値以上の外力が車両前部に作用した際には車両用ペダルの一部又はこれを支持するペダルブラケットに必要な変位を与え、車両用ペダルの踏面を車両前方側へ必要量回転変位させることができるという優れた効果を有する。
【0013】
請求項2記載の本発明に係る車両用ペダル変位制御構造は、従来と同程度の乗員の足元スペースを確保することができるという優れた効果を有する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
〔第1実施形態〕
以下、図1〜図4を用いて、本発明に係る車両用ペダル変位制御構造の第1実施形態について説明する。なお、これらの図において適宜示される矢印FRは車両前方側を示しており、矢印UPは車両上方側を示しており、矢印INは車両幅方向内側を示している。
【0015】
図1には本実施形態に係る吊り下げ式のブレーキペダル10の変位制御構造の全体構成が側面視で示されており、又図2には当該ブレーキペダル10の変位制御構造の要部を分解した斜視図が示されている。以下、これらの図を用いて、ブレーキペダル10を含む周辺構造の全体的な構成について説明することにする。
【0016】
エンジンルーム12と車室内空間14とを仕切る位置には、車体側構成部材としてのダッシュパネル16が略垂直に配置されている。ダッシュパネル16の上端部は、車両幅方向を長手方向として配置されてカウルの一部を構成する図示しないカウルインナパネルにスポット溶接等により固着されている。また、ダッシュパネル16の下端部は、図示しないフロアパネルにスポット溶接等により固着されている。
【0017】
上述したダッシュパネル16の前方側には、ブレーキペダル10に付与された乗員の踏力を増強するためのブレーキブースタ20と、このブレーキブースタ20によって増強された圧力を液圧に変換するための液圧変換手段として機能するマスタシリンダ22と、液圧系統の体積変化に追従してブレーキフルードを貯留及び補充するリザーバタンク24とが一体的に配設されている。
【0018】
一方、ダッシュパネル16の車両後方側には、略車両幅方向を長手方向として配置された高強度及び高剛性の車体側構成部材であるパイプ状のインパネリインフォース26が配設されている。インパネリインフォース26の長手方向の所定位置には、支持部材としてのインパネブラケット28が固定されている。インパネブラケット28は、左右一対の側壁部28Aと、これらの側壁部28Aの下端部同士を車両幅方向に繋ぐ底壁部28Bとを備えており、車両前方側から見て車両上方側が開放されたコ字状に形成されている。インパネブラケット28の左右一対の側壁部28Aの後端部はインパネリインフォース26の外形に合わせて円弧状に形成されており、かかる後端部がインパネリインフォース26の前面側の外周面に溶接等によって固着されている。インパネブラケット28がインパネリインフォース26に固定された状態では、インパネブラケット28はインパネリインフォース26側を基端部としてそこから片持ち支持状態で車両前方側へ延出されている。また、インパネブラケット28の底壁部28Bは、側面視で車両上方側が凸となる湾曲形状に形成されている。なお、底壁部28Bの湾曲度合いは、後述するペダルブラケット30の回転変位量との関係で最適化されている。
【0019】
上述したダッシュパネル16とインパネブラケット28との間には、車両用ペダルとしてのブレーキペダル10を揺動可能に支持するペダルブラケット30が配置されている。ペダルブラケット30は、ダッシュパネル16に対して平行に配置されてダッシュパネル16への取付座面を構成するベースプレート部38と、このベースプレート部38の両側部付近から略車両後方側へ平行に延出される左右一対のサイドプレート部40と、左右一対のサイドプレート部40の上端部間を塞ぐように両者の間に配置されたトッププレート部41と、によって構成されており、全体としては車両下方側が開放されたコ字状に形成されている。
【0020】
ベースプレート部38の前面四隅には、円筒状のカラー42が固着されている。ベースプレート部38は、これらのカラー42をダッシュパネル16に当接させた状態で、ブレーキブースタ20から突出するスタッドボルト44をカラー42内へ挿入させナット46を車室内空間14側から螺合させることにより、ダッシュパネル16に固定されている。従って、ペダルブラケット30は、ダッシュパネル16のみに固定され、支持されている。なお、ダッシュパネル16とベースプレート部38との間には、遮音材として用いられる図示しないダッシュインシュレータが介在されている。また、サイドプレート部40の前部側(ベースプレート部38と後述する取付ボルト74との間)には、略L字状の曲げ変形部48が設定されている。サイドプレート部40に車両前後方向の圧縮荷重が作用すると、この曲げ変形部48を起点として曲げ変形するようになっている(図3、図4参照)。さらに、トッププレート部41は側面視でへの字状に屈曲されており、その後端部には車両後方側へ向けて突出するスライド部50が一体に形成されている。スライド部50を側面視で見ると、サイドプレート部40の後端上角部よりも車両後方側へ所定量突出されており、かつトッププレート部41の上端平面部41Aよりも車両上方側へ向けて所定量突出されている。
【0021】
上述したペダルブラケット30における左右一対のサイドプレート部40の長手方向の中間部付近には、吊り下げ式のブレーキペダル10が揺動可能に支持されている。ブレーキペダル10は、側面視で略くの字状に形成されたペダルアーム70と、このペダルアーム70の下端部に取り付けられて乗員(ドライバ)の踏力が付与される踏面としてのペダルパッド72と、によって構成されている。ペダルアーム70の高さ方向中間部には、ブレーキブースタ20の軸芯部からダッシュパネル16を貫通して配置されたプッシュロッド(広義には踏力伝達部材として把握される要素である)60の先端部が、平面視でコ字状に形成されたクレビス62及びこのクレビス62の両側部を貫通するクレビスピン64によって相対回転可能に連結されている。
【0022】
ペダルアーム70の上端部には円孔が形成されており、この円孔に図示しない円筒状のペダルボスが貫通状態でかしめ等によって固定されている。従って、ブレーキペダル10はペダルボスと一体になっている。ペダルボスの軸方向両端部には鍔付き円筒状のブッシュがそれぞれ嵌入されており、更に双方のブッシュ内へ円筒状のカラーが挿入されて、この状態で左右一対のサイドプレート部40間に配置された後、一方のサイドプレート部40の外側から取付ボルト74が挿入されて他方のサイドプレート部40の外側から図示しないナットが螺合されることにより、ブレーキペダル10が取付ボルト74回りに揺動可能に軸支されている。なお、ペダルアーム70の所定位置には図示しないリターンスプリングの一端部が係止されており、ブレーキペダル10を初期位置(図1図示位置)に復帰する方向へ常時付勢している。
【0023】
ここで、上述したインパネブラケット28の底壁部28Bの下面側には、スライドブラケット80が取り付けられている。スライドブラケット80は車両前方側から見て鉤状に形成されており、底壁部28Bと同じ曲面形状を成し、底壁部28Bに溶接等により固定されるガイド部80Aと、このガイド部80Aの車両幅方向内側(コンソールボックス側)の側縁から車両下方側へ折り曲げられた屈曲部80Bと、によって構成されている。ガイド部80Aの全長は底壁部28Bの全長よりも若干車両後方側に長く設定されている。なお、屈曲部80Bは、ペダルブラケット30のスライド部50がガイド部80A上を摺動する際に、スライド部50がガイド部80Aのガイド面から車両幅方向内側へ外れることがないように予防的に設けられた規制用の壁として存在している。
【0024】
上述したインパネブラケット28及びスライドブラケット80は、従来のものと比べて、車両前方側へ大きく延長されている。なお、図1に延長された範囲を矢印Xで示すと共に、以下の説明においては、インパネブラケット28の延長された矢印Xの部分を「インパネブラケット延長部82」と称し、スライドブラケット80の延長された矢印Xの部分を「スライドブラケット延長部84」と称すことにする。
【0025】
上述したインパネブラケット28の底壁部28Bの上面側には、サブスライドブラケット86が配設されている。サブスライドブラケット86は車両前後方向に長い矩形状の平板をインパネブラケット28の底壁部28Bと同じ曲率で曲げることにより形成されており、後端部86Aは半径方向内側(ブレーキペダル10側)へ折り曲げられている。サブスライドブラケット86のインパネブラケット28への組付状態では、サブスライドブラケット86はインパネブラケット28の左右の側壁部28A間に納まっており、かつ底壁部28Bの上面に当接した状態で配置されている。従って、サブスライドブラケット86とインパネブラケット28の底壁部28Bとスライドブラケット80のガイド部80Aとが三枚重ねの状態で配置されている。また、前記組付状態では、サブスライドブラケット86の後端部86Aが、スライドブラケット80のガイド部80Aの後端部を越えて前述したペダルブラケット30のスライド部50の移動軌跡を横切るように配置されている。
【0026】
さらに、サブスライドブラケット86の前部86B(図2参照)の幅方向中間部には、車両前後方向に延びる所定長さの長孔88が形成されている。これに対応して、インパネブラケット延長部82の底壁部28B及びスライドブラケット延長部84のガイド部80Aには、長孔88の後端部と重合する位置にボルト挿通孔90、92がそれぞれ形成されている。そして、これらのボルト挿通孔90、92及び長孔88内へ固定ボルト94が挿入されてナット96が所定トルクで螺合されることにより、サブスライドブラケット86がインパネブラケット延長部82及びスライドブラケット延長部84に共締めされている。スライドブラケット延長部84はインパネブラケット延長部82に溶接等により固定されているため、両者間に相対移動は生じない構成であるが、サブスライドブラケット86は固定ボルト94とナット96の締結トルクで長孔88を介してインパネブラケット28の底壁部28Bに固定されているに過ぎないため、締結トルク以上のスライド荷重がサブスライドブラケット86の後端部86Aに作用すれば、長孔88の長さの範囲内でインパネブラケット28に対して相対移動(スライド)可能となっている。つまり、長孔88がサブスライドブラケット86の移動ストロークを規定しており、広義には固定ボルト94及びナット96と共に規制手段として把握される要素である。
【0027】
また、スライドブラケット80の後端部両側面には、門型(下方が開放されたコ字状)のガイド部材98が取り付けられている。組付状態では、サブスライドブラケット86がガイド部材98の内側に配置されている。
【0028】
さらに、組付状態では、ペダルブラケット30のスライド部50の先端部がスライドブラケット延長部84の前後方向の中間部付近(より正確には、長孔88の後端部よりもやや車両後方側の部位)と対向している。
【0029】
次に、本実施形態の作用並びに効果を説明する。
【0030】
通常のブレーキ操作時においては、図1に示されるように、乗員がブレーキペダル10のペダルパッド72に踏力を付与すると、ブレーキペダル10が取付ボルト74回りに略車両前方側(矢印A方向側)へ揺動される。このため、ブレーキペダル10のペダルアーム70の高さ方向中間部に連結されたプッシュロッド60が車両前方側へ押圧される。プッシュロッド60が略車両前方側へ押し込まれると、ブレーキブースタ20によってペダルパッド72に付与された乗員の踏力が増強されてマスタシリンダ22によって液圧に変換される。すなわち、ブレーキペダル10のペダルパッド72に付与された踏力は、プッシュロッド60を介してブレーキブースタ20及びマスタシリンダ22に伝達されて所定の液圧に変換される。
【0031】
ここで、図1に示される通常の状態において、所定値以上の外力が車両前部に作用すると、その際の荷重がマスタシリンダ22及びブレーキブースタ20を介してダッシュパネル16に入力されて、ダッシュパネル16が略車両後方側(矢印B方向側)へ変位することがある。この場合、ダッシュパネル16の後方変位に伴って、ペダルブラケット30も車両後方側へ変位するので、ペダルブラケット30の後端上部に突出状態で配置されたスライド部50の先端部が、スライドブラケット80のガイド部80Aに当接する。ガイド部80Aは車両上方側が凸となる所定の湾曲形状に形成されているため、図3に示されるように、ペダルブラケット30のスライド部50はガイド部80Aのガイド面上を摺動しながら車両後方側かつ車両下方側(矢印C方向)へと案内される。この過程で、ペダルブラケット30の左右のサイドプレート部40が曲げ変形部48を起点として変形し、ペダルブラケット30の後端側が車両後方側かつ車両下方側へ回転変位される。その結果、ブレーキペダル10のペダルパッド72が略車両前方側(矢印A方向)へ回転変位される。以上が第1段階のペダルブラケット30の変形挙動である。
【0032】
続いて、高速で走行中に所定値以上の外力が車両前部に作用した場合のペダルブラケット30の変形挙動について説明する。この場合には、ダッシュパネル16の略車両後方側への変位量が図3に示される場合よりも更に増加するので、仮に本実施形態に係る車両用ペダル変位制御構造が適用されていない場合には、ペダルブラケット30のスライド部50がスライドブラケット80のガイド部80Aの終端を越えて摺動し、ガイド部80Aからスライド部50が離脱することが考えられる。
【0033】
ここで、本実施形態では、インパネブラケット28の底壁部28B上にサブスライドブラケット86をスライド可能に配置し、その後端部86Aをペダルブラケット30のスライド部50の移動軌跡上に配置したので、ペダルブラケット30のスライド部50がスライドブラケット80のガイド部80Aの終端に至ると、当該スライド部50がサブスライドブラケット86の後端部86Aに干渉する。このため、図4に示されるように、スライド部50によってサブスライドブラケット86の後端部86Aがガイド部80Aのガイド面の延長方向(矢印D方向)へ押圧され、当該ガイド面の延長方向へ引き出される(スライドされる)。その結果、スライド部50の車両後方側かつ車両下方側への回転変位は継続され、その分、ペダルパッド72が更に略車両前方側へ回転変位される。なお、サブスライドブラケット86の引き出し量は、長孔88の長さで制限される。つまり、取付ボルト74が長孔88の後端部から前端部に位置するまでがサブスライドブラケット86の移動ストロークとなり、サブスライドブラケット86がフルストロークした時点でペダルブラケット30の後端側の回転変位は規制(停止)される。以上が第2段階のペダルブラケット30の変形挙動である。
【0034】
このように本実施形態では、スライドブラケット80のガイド部80Aのガイド面を実質的に延長形成するサブスライドブラケット86をインパネブラケット28の底壁部28B上に配置し、ペダルブラケット30のスライド部50がガイド部80Aのガイド面上をフルストロークした後、更にガイド部80Aのガイド面が延長される構成としたので、ペダルブラケット30の後端側に必要な回転変位量を与えることができる。
【0035】
しかも、サブスライドブラケット86は通常のペダル操作時にはインパネブラケット28の底壁部28B上に重合された状態で格納及び保持されているため、インパネブラケット28の設置スペースの範囲内にコンパクトに納まる。従って、乗員の足元スペースを狭めない。特に、昨今の自動車では、乗員の足元空間にステアリングコラムの他、ニーエアバッグモジュール等が配設され、多くの部品が存在する。また、乗員の足さばきや利便性を考慮すると、なるべく広い空間が足元にある方がよい。このため、通常のペダル操作時にはサブスライドブラケット86はインパネブラケット28に格納されている本構造を採用することにより、乗員の足元空間を従来と同程度に確保することができる。
【0036】
以上を総括すると、本実施形態に係る車両用ペダル変位制御構造によれば、乗員の足元スペースを確保でき、しかも所定値以上の外力が車両前部に作用した際にはブレーキペダル10を揺動可能に支持するペダルブラケット30に必要な変位を与え、ブレーキペダル10のペダルパッド72を車両前方側へ必要量回転変位させることができる。
【0037】
また、本実施形態によれば、サブスライドブラケット86がフルストロークした時点でペダルブラケット30の後端部の回転変位が停止されるため、ペダルブラケット30の後端部はスライドブラケット80及びサブスライドブラケット86から成るスライドガイド手段から離脱しない。従って、ペダルブラケット30の後端部が乗員の足元空間へ侵入してくるのを防止することができる。
【0038】
上記と関連して、本実施形態では、サブスライドブラケット86がフルストロークした時点でペダルブラケット30の後端部の回転変位が停止され、それ以降もダッシュパネル16が車両後方側へ変位した場合には、サブスライドブラケット86、インパネブラケット28を介してインパネリインフォース26に荷重が入力されることになるが、サブスライドブラケット86がフルストロークするまでのペダルブラケット30の後端部の回転変位量に応じた変形がペダルブラケット30に生じるので、入力荷重がペダルブラケット30の変形によって消費(吸収)される。従って、仮にインパネリインフォース26に荷重が入力されたとしても、充分に低減された後の荷重が入力される。
【0039】
〔第2実施形態〕
以下、図5〜図7を用いて、本発明に係る車両用ペダル変位制御構造の第2実施形態について説明する。なお、前述した第1実施形態と同一構成部分については、同一番号を付してその説明を省略する。
【0040】
図5に示されるように、この第2実施形態では、前述したサブスライドブラケット86が、インパネブラケット28の底壁部28Bの上面に載置されるのではなく、インパネブラケット28の底壁部28Bとスライドブラケット80のガイド部80Aとの間に介在(挟持されていてもよい)された状態で保持されている点に特徴がある。
【0041】
すなわち、この第2実施形態では、スライドブラケット80のガイド部80Aがインパネブラケット28の底壁部28Bの下面に面接触状態で固定されるのではなく、ガイド部80Aがインパネブラケット28の底壁部28Bに対して少なくともサブスライドブラケット86の板厚分の隙間100をあけた状態で、インパネブラケット28の側壁部28A等に固定されている。
【0042】
(作用・効果)
上記構成によっても、図6及び図7に示されるように、前述した第1実施形態と作動自体は同じであるので、前述した第1実施形態と同様の作用・効果が得られる。さらに、本実施形態によれば、サブスライドブラケット86のスライド動作がインパネブラケット28の底壁部28B及びスライドブラケット80のガイド部80Aによってガイドされるので、前述した第1実施形態で用いたガイド部材98が不要になる。従って、部品点数の削減及び構造の簡素化を図ることができる。
【0043】
〔上記実施形態の補足説明〕
なお、上述した実施形態では、吊り下げ式のブレーキペダル10を対象として本発明を適用したが、本発明の適用対象はこれに限らず、吊り下げ式のクラッチペダル等に対しても適用可能である。
【0044】
また、上述した実施形態では、ペダルブラケット30をダッシュパネル16に片持ち支持状態で取付ける構成を採ったが、これに限らず、ペダルブラケット30の前端側をダッシュパネル16に固定すると共に、ペダルブラケットの後端側をインパネリインフォース26側の部材(スライドブラケット等)に離脱可能に固定する構成を採ってもよい。
【0045】
さらに、上述した実施形態では、ペダルブラケット30の後端上部側に設定されたスライド部50をスライドブラケット80のガイド部80Aに沿って摺動させる構成を採ったが、これに限らず、車両用ペダルの一部をスライドブラケットのガイド部に沿って摺動させるようにしてもよい。例えば、ペダルボスを軸方向に延長させて、ペダルボスの両端部がペダルブラケット30の左右のサイドプレート部40からそれぞれ突出するように構成し、ペダルボスの両端部をそれに合うスライドブラケットのガイド面に沿って摺動させるようにしてもよい。
【0046】
また、上述した実施形態では、ダッシュパネル16の後方変位時に、ペダルブラケット30の左右のサイドプレート部40をベースプレート部38を中心として車両前方下側(図1の反時計方向)に回転変位するように曲げ変形部48を設定したが、曲げ変形部48を設定すること以外にも種々の構成を採ることができる。例えば、ペダルブラケットの変形させたい部位に予めビードや開口部を設けておき、前後方向荷重に対するペダルブラケットの下縁側の剛性を意図的に低下させておく等の構成を採ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1】第1実施形態に係るブレーキペダル変位制御構造の全体構成を示す側面図である。
【図2】図1に示されるブレーキペダル変位制御構造の要部を分解した斜視図である。
【図3】図1に示されるブレーキペダル変位制御構造において所定値以上の外力が車両前部に作用した際の第1段階の変形挙動を示す作動説明図である。
【図4】図3に示される状態から更にペダルブラケットの回転変位が進んだ際の第2段階の変形挙動を示す作動説明図である。
【図5】第2実施形態に係るブレーキペダル変位制御構造の全体構成を示す図1に対応する側面図である。
【図6】第2実施形態に係るブレーキペダル変位制御構造において第1段階の変形挙動を示す図3に対応する作動説明図である。
【図7】第2実施形態に係るブレーキペダル変位制御構造において第2段階の変形挙動を示す図4に対応する作動説明図である。
【符号の説明】
【0048】
10 ブレーキペダル(車両用ペダル)
16 ダッシュパネル(車体側構成部材)
26 インパネリインフォース(車体側構成部材)
28 インパネブラケット(支持部材)
30 ペダルブラケット
50 スライド部(ペダルブラケットの後端側)
72 ペダルパッド(踏面)
74 取付ボルト(支軸)
80 スライドブラケット(ガイド部材)
80A ガイド部(案内面)
86 サブスライドブラケット(案内面延長手段)
86A 後端部(係合部)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定値以上の外力が車両前部に作用した際に車両後方側へ変位する車体側構成部材に前端側が固定され、下端部に乗員の踏力が付与される踏面を備えた車両用ペダルを支軸回りに揺動可能に支持するペダルブラケットと、
このペダルブラケットの車両後方側に配置され、車体側構成部材が車両後方側へ変位した際にペダルブラケットの後端側又は車両用ペダルの一部を側面視で車両斜め後方下側へ摺動させる案内面を備えたガイド部材と、
を含んで構成された車両用ペダル変位制御構造であって、
前記ガイド部材又は前記ガイド部材を支持する支持部材には、前記ペダルブラケットの後端側又は車両用ペダルの一部が少なくとも前記案内面を越えて摺動する際に、当該案内面を案内方向へ延長させる案内面延長手段が設けられている、
ことを特徴とする車両用ペダル変位制御構造。
【請求項2】
前記案内面延長手段は、前記ガイド部材又は前記支持部材に格納されると共に当該案内面に沿ってスライド可能に保持され、前記案内面の終端部又はその近傍に前記ペダルブラケットの後端側又は車両用ペダルの一部が到達した際に当該ペダルブラケットの後端側又は車両用ペダルの一部に係合することで当該ペダルブラケットの後端側又は車両用ペダルの一部と一体に移動する係合部を備えている、
ことを特徴とする請求項1記載の車両用ペダル変位制御構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2008−225666(P2008−225666A)
【公開日】平成20年9月25日(2008.9.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−60496(P2007−60496)
【出願日】平成19年3月9日(2007.3.9)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】