説明

車両用ホイールの締結構造

【課題】 車両用ホイールの締結構造において、ホイールディスクに、ナット手段の周縁近傍で亀裂が生じるのを防止する。
【解決手段】
ホイールのディスク21をハブフランジ12に当てるとともに、ディスク21のボルト穴23にハブボルト15を挿通させた状態で、ハブボルト15に螺合されたナット手段30をディスク21に向かって締め込むことにより、ディスク21をハブフランジ12に締結する。ディスク21には、ナット手段30のディスク側の周縁に対向して環状の逃げ溝24aが形成されている。ディスク21のボルト穴23と逃げ溝24aとの間の面領域が受面25aとなって上記ナット手段30による締め付け力を受ける。ナット手段30のディスクに面する周縁は、逃げ溝24aの底面24x(逃げ面)から離れている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両用ホイールをハブフランジに締結する構造に関する。
【背景技術】
【0002】
車両用ホイールを車両のハブフランジに締結するため、ホイールのディスクには、周方向に離れた複数のボルト穴が形成されている。他方、ハブフランジには周方向に離れた複数のハブボルトが固定されている。
【0003】
上記ディスクを上記ハブフランジに当てるとともに、上記ディスクのボルト穴に上記ハブボルトを挿通させた状態で、上記ハブボルトに螺合されるナット手段を上記ディスクに向かって締め込むことにより、上記ホイールを上記ハブフランジに締結する。
【0004】
特許文献1では、ホイールディスクに、ハブフランジの周縁と対向する環状の逃げ溝を形成し、ハブフランジの周縁から集中荷重が付与されるのを回避し、これによりフレッティング疲労による亀裂を防止している。
【特許文献1】特開平8−268001号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、特許文献1では、ナット手段の周縁からの集中荷重により、ホイールディスクにフレッティング疲労に起因した亀裂が生じる可能性については、考慮されていなかった。そのため、ホイールの安全性を確保する上で、ディスク板厚を適正化し、軽量化することができなかった。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するため、本発明は、ハブフランジに車両用ホイールのディスクを締結する構造において、上記ディスクが、ハブボルトに螺合されるナット手段を受ける受面と、この受面からハブフランジ側に偏移し上記ナット手段の周縁に対向するとともにこの周縁から離れた逃げ面と、を有することを特徴とする。
【0007】
上記構成によれば、ディスクにおいて、ナット手段の周縁に対向する面が逃げ面として当該周縁から離れているので、当該周縁からディスクに集中荷重が付与されるのを回避することができる。その結果、ディスクに亀裂が生じるのを防止でき、耐久性を高めることができる。
【0008】
好ましくは、上記ナット手段が、上記ハブボルトに螺合されるナットと、このナットと上記ディスクとの間に介在されるワッシャとを有し、このワッシャの周縁が上記逃げ面に対向する。
【0009】
好ましくは、上記ディスクの受面と逃げ面が、上記ディスクの両面に形成されている。
この構成によれば、1つのホイールをハブに締結する場合と2つのホイールをハブに締結する場合とで、ホイールを区別することなく兼用することができる。
【0010】
好ましくは、上記ディスクには、上記ナット手段の周縁に対向して環状の逃げ溝が形成されており、この逃げ溝の底面が上記逃げ面として提供される。
この構成によれば、比較的簡単な加工でディスクに逃げ面を形成することができる。
また、逃げ溝を挟んで内側の受面と外側の面とを比較できるので、ナット手段から受ける繰り返し接触で受面が摩滅してディスク板厚の減少が生じた場合でも、この摩滅による使用限界を可視化でき、強度低下を予見できる。このことによりホイールの信頼性はさらに向上する。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、締結用ナット手段の周縁からの集中荷重に起因したホイールディスクの亀裂を防止することができる。また、この亀裂を防止するためにディスク板厚を増大させずに済み、ホイールの軽量化を図ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明の第1実施形態をなす、ISOタイプ(平座)の締結方式を採用した大型車両のホイール締結構造について、図面を参照しながら説明する。図1にはこの車両のフロント側の単輪式ホイール締結構造1が示され、図4にはリア側の複輪式ホイール締結構造2が示されている。
【0013】
最初にフロント側のホイール締結構造1について説明する。この締結構造1では、車両のハブ10に1つのホイール20が締結される。ハブ10は横断面円形をなす嵌込部11と、その外周に形成された円環状のハブフランジ12を有している。ハブフランジ12の車両側の面にはブレーキドラム13が固定されている。
【0014】
上記ハブフランジ12において、車両とは反体側の面には、周方向に間隔をおいてハブボルト15が固定されている。ハブボルト15はハブ10の中心軸と平行に延び、上記ハブフランジ12びホイール取り付け面と直交する。
【0015】
上記ホイール20は、図1、図3に示すように、ディスク21とリム22とを有している。ディスク21はカップ形状をなし、円形の平盤部21aと、この平盤部21aの周縁から離れるにしたがって径が広がるようなテーパー形状をなす裾部21bとを有している。この裾部21bの周縁が、上記リム22の内周に溶接固定されている。
【0016】
上記平盤部21aには、その中心に大径のハブ穴28が形成され、このハブ穴28の周囲には周方向に等間隔をなして複数のボルト穴23が形成されている。
【0017】
上記ホイール20は、ナット31とワッシャ32からなるナット手段30により、上記ハブ10に締結される。詳述すると、ホイール20のディスク21の平盤部21aにおいて、ハブ穴28を囲む環状の部位の一方の面(ホイール軸方向から見て内側すなわち車体側の面)を、ハブフランジ12に面接触状態で当てる。この当接状態では、ディスク21のハブ穴28にハブ10の嵌込部11が嵌め込まれて、ホイール20の位置決めがなされるとともに、上記ボルト穴23にハブボルト15が挿通される。
【0018】
次に、ハブボルト15にワッシャ32を挿通させるとともにナット31を螺合し、このナット31を締め付けることにより、ホイール20のディスク21をハブフランジ12に締結する。
【0019】
次に、本発明の特徴部について説明する。上記平盤部21aの外側の面(車体と反体側の面)および内側の面(車体側の面)には、ボルト穴23と同心をなす環状の逃げ溝24a,24bが形成されている。
【0020】
上記ディスク21の平盤部21aの両面において、上記ボルト穴23と逃げ溝24a,24bとの間の環状の領域は受面25a、25bとして提供され、上記逃げ溝24a,24bの底面24xは逃げ面として提供される。この逃げ面24xは受面25a、25bより厚み中心に向かって偏移している。
【0021】
上記逃げ溝24a,24bは、生産性の観点および強度の観点からプレス加工により形成して加工硬化や圧縮残留応力を付与するのが好ましいが、切削加工でもよい。切削加工の場合には上記逃げ溝24a,24bや底面24xの強度を向上させるために、ショットピーニングにより逃げ溝24a,24bの底面24xおよびその近傍に圧縮応力を残留させるのが好ましい。
【0022】
上記逃げ溝24a,24bの深さは、0.4〜1.0mmが好ましい。深くなるとディスク21の強度を減じるからである。また、逃げ溝24a,24bの底面24xの曲率半径は、ワッシャ32(ナット手段30のディスク20に対向する部位)の外径が55mm以下の場合には5mm以下とし、ワッシャ32の外径が55mm以上の場合には5mm以上とする。
【0023】
上記締結状態において、ワッシャ32はディスク21の平盤部21aの外側の受面25aに面接触状態で強く当たる。問題となるのは、ワッシャ32のディスク21に面する周縁がディスク21に作用する集中荷重である。本実施形態では、このワッシャ32の周縁に対向してディスク21に逃げ溝24aが形成され、その底面すなわち逃げ面24xが受面25aよりハブフランジ12側に偏移しており、そのため、ワッシャ32の周縁が逃げ溝24aの逃げ面24xから離れていてディスク21に接触しないので、集中荷重がディスク21に加わらない。
その結果、フレッティング疲労による亀裂発生が、ディスク21においてワッシャ32の周縁近傍で発生するのを防止することができ、この亀裂発生を防ぐためにディスク21の板厚を増大させずに済む。
【0024】
上記受面25aはナット手段30から受ける繰り返し接触で摩滅し、これにより、ディスク21の板厚が減少する。この場合、ナット手段30を外せば、逃げ溝24aを挟んで内側の受面25aと外側の面とを比較できるので、この摩滅による使用限界を可視化でき、強度低下を予見できる。なお、逃げ溝24aの底面24xに他の部位と異なる色の塗装を施してもよい。これにより、認識効果を鮮明にすることができる。逃げ溝24bでも同様である。
なお、上記内側の逃げ溝24bは、上記単輪式のホイール締結構造1では車両側すなわちハブフランジ12側に位置しているために何の役割も担わないが、後述する複輪式のホイール締結構造2において、上記単輪式のホイール締結構造1での外側の逃げ溝24aと同様の役割を担う。
【0025】
次に、複輪式のホイール締結構造2について図4を参照しながら説明する。この締結構造2では、締結構造1で用いたものと同様の構造をなす2つのホイール20が、そのディスク21の平盤部21aを重ねるようにして、ハブフランジ12にセットされる。2つのホイール20のボルト穴23には共通のハブボルト15が挿通され、これらハブボルト15に螺合された共通のナット手段30により、2つのホイール20のディスク21がハブフランジ12に締結される。
【0026】
上記締結構造2では、外側(車両の反対側)のホイール20のディスク21の平盤部21aに形成された逃げ溝24bが上記ワッシャ32の周縁と対向し、上記締結構造1の逃げ溝24aと同様の作用をなすので、当該ホイール20の平盤部21aのフレッティング疲労による亀裂発生を防止することができる。
【0027】
上記実施形態では、ホイール20の平盤部21aの両面に逃げ溝24a,24bを形成したので、このホイール20は、単輪式のホイール締結構造1と複輪式のホイール締結構造2に兼用することができる。
【0028】
上記のようにホイール20を単輪式と複輪式の締結構造1,2に兼用しない場合には、図5に示す第2実施形態のように、ワッシャ32の周縁に対向する面にのみ、環状溝24を形成すればよい。
【0029】
図6に示す第3実施形態では、環状の逃げ溝を形成する代わりに、平盤部21aにおいて、ボルト穴23の周囲に盛り上げ部29を形成している。この場合、盛り上げ部29の面がワッシャ32を受ける受面29aとなり、盛り上げ部29の周囲の傾斜面が逃げ面29bとなる。
第3の実施形態でもワッシャ32の周縁が逃げ面29bに対向して浮いているので、平盤部21aのフレッティング疲労による亀裂発生を防止することができる。
【0030】
図7には参考例を示す。この実施形態では、ディスクをの平盤部21aを加工する代わりに、ワッシャ32’の周縁部を中央の平板部に対して傾斜させる。ナット31は、ワッシャ32’の平板部に載るようにする。
上記ワッシャ32’の周縁部は、径方向、外方向に向かうにしたがって、平盤部21aから離れるように傾斜するので、ワッシャ32’において、平盤部21aへの接触領域の周縁が鈍角をなす。そのため、平盤部21aの亀裂防止が期待できる。
【0031】
本発明は上記実施形態に制約されず、種々の態様を採用可能である。例えば、ナット手段は、ナットとワッシャの組み合わせにより構成する代わりに、例えば座付きナットのような特殊な形状のナット単体により構成してもよい。この場合、ナットのディスクに面する周縁は上記実施形態でのワッシャと同様に円形をなし、逃げ面に対向する。
上記ブレーキドラム13がハブフランジ12とホイール20との間に固定される構造であってもよい。
上記ディスク21は、テーパー形状を持たずに単なる円盤形状であってもよく、その場合においても上記リム22の内周に溶接固定される。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】本発明の第1実施形態をなす単輪式車両用ホイール締結構造の断面図である。
【図2】図1における締結構造の要部を拡大して示す断面図である。
【図3】同ホイールの正面図である。
【図4】同実施形態における複輪式車両用ホイール締結構造の断面図である。
【図5】本発明の第2実施形態をなす車両用ホイール締結構造に用いられるホイールディスクの要部拡大断面図である。
【図6】本発明の第3実施形態をなす車両用ホイール締結構造の要部拡大断面図である。
【図7】車両用ホイール締結構造の参考例を示す要部拡大断面図である。
【符号の説明】
【0033】
1,2 ホイール締結構造
10 ハブ
12 ハブフランジ
15 ハブボルト
20 ホイール
21 ディスク
21a 平盤部
23 ボルト穴
24,24a,24b 逃げ溝
24x 逃げ面
25a,25b 受面
29 盛り上げ部
29a 受面
29b 逃げ面
30 ナット手段
31 ナット
32 ワッシャ


【特許請求の範囲】
【請求項1】
ハブフランジに車両用ホイールのディスクを締結する構造において、
上記ディスクが、ハブボルトに螺合されるナット手段を受ける受面と、この受面からハブフランジ側に偏移し上記ナット手段の周縁に対向するとともにこの周縁から離れた逃げ面と、を有することを特徴とする車両用ホイールの締結構造。
【請求項2】
上記ナット手段が、上記ハブボルトに螺合されるナットと、このナットと上記ディスクとの間に介在されるワッシャとを有し、このワッシャの周縁が上記逃げ面に対向することを特徴とする請求項1に記載の車両用ホイールの締結構造。
【請求項3】
上記ディスクの受面と逃げ面が、上記ディスクの両面に形成されていることを特徴とする請求項1または2に記載の車両用ホイールの締結構造。
【請求項4】
上記ディスクには、上記ナット手段の周縁に対向して環状の逃げ溝が形成されており、この逃げ溝の底面が上記逃げ面として提供されることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の車両用ホイールの締結構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2010−188844(P2010−188844A)
【公開日】平成22年9月2日(2010.9.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−34764(P2009−34764)
【出願日】平成21年2月18日(2009.2.18)
【出願人】(000110251)トピー工業株式会社 (255)