説明

車両用ミラー装置

【課題】水滴除去のためにミラーを振動させている間に、後方視認性が低下してしまうことを防止できる車両用ミラー装置を提供する。
【解決手段】運転者が自車の後方もしくは後側方を確認するために車両に装備される車両用ミラー装置1であって、前記ミラー2を微弱振動させる振動手段3を設けるとともに、当該微弱振動に確率共振現象をもたらすノイズを重畳することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、乗用車、トラック、バス等の自動車に適用して好適な車両用ミラー装置に関する。
【背景技術】
【0002】
通常、乗用車、トラック、バス等の自動車においては運転者が後方及び後側方を視認するために、車両用ミラー装置が設けられる。車室内に設けられるものをルームミラー装置、車室外のドアに設けられるものをドアミラー装置、フロントノーズの前側に設けられるものをフェンダーミラー装置と呼ぶ。
【0003】
このような車両用ミラー装置のうち、車室外に設けられるドアミラー装置あるいはフェンダーミラー装置においては、降雨時あるいは多湿時の車両走行時において、ミラーの表面に雨滴あるいは霧等の水滴が付着するため、運転者の後方視認性が低下する。
【0004】
このような問題を解決する手段として、例えば、特許文献1に記載されたような車両用ミラー装置がある。すなわち、車両用ミラー装置のミラーの背面に圧電振動子を取り付け、当該圧電振動子によりミラーを振動させて、ミラーの表面に付着した水滴を除去するものである。
【特許文献1】実開平8−10048号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところが、このような車両用ミラー装置においては、降雨時あるいは多湿時の車両走行時において、ミラー表面の雨滴あるいは霧等の水滴を圧電振動子によりミラーを振動させることにより除去して、運転者の後方視認性を高めることができるものの、水滴除去のためにミラーを振動させている間は、後方視認性が低下してしまうという問題があった。
【0006】
本発明は、上記問題に鑑み、水滴除去のためにミラーを振動させている間に、後方視認性が低下してしまうことを防止できる車両用ミラー装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の問題を解決するため、本発明に係る車両用ミラー装置は、運転者が自車の後方もしくは後側方を確認するために車両に装備される車両用ミラー装置であって、前記ミラーを微弱振動させるとともに、当該微弱振動に確率共振現象をもたらすノイズを重畳することを特徴とする。
【0008】
また、上記の問題を解決するための他の手段として、本発明に係る車両用ミラー装置は、運転者が自車の後方もしくは後側方を確認するために車両に装備される車両用ミラー装置であって、前記ミラーを半透過鏡面により構成するとともに、当該ミラーの背面に、ミラーにより反射される光に確率共振現象をもたらすノイズを重畳する発光手段を設けることを特徴としてもよい。
【0009】
さらに以上述べた解決手段において、特に運転者の後方視認性の低下を防止する必要性が高い場合のみに確率共振現象をもたらすノイズを重畳させるために、後方もしくは後側方に接近する車両を検知する検知手段を設けるとともに、当該検知手段が車両を検知した場合に、前記ノイズを重畳するものとしてもよい。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、水滴除去のためにミラーを振動させている間においても、後方視認性が低下してしまうことを防止することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明を実施するための最良の形態について、添付図面を参照しながら説明する。図1、図2および図3は、本発明による車両用ミラー装置が利用する確率共振現象についての説明図である。
【0012】
確率共振現象(Stochastic Resonance)とは、人間あるいは動物等の生体の神経細胞に代表されるあるシステムに対するある閾値以下の微弱な入力信号に対する非線形系の応答が、ある強度のノイズによって増強され、生体の神経細胞の機能(特に感覚)を高めるという現象である。
【0013】
図1に示すように、人間あるいは動物等の生体の神経細胞は閾値型の入力特性を有する。つまりある閾値(Threshold)以下の入力信号(Input)に対しては、神経細胞は応答せず、出力信号(Output)は出力されない。
【0014】
そこに、図2に示すように、神経細胞(System)に閾値以下の入力信号(Input)が入力されている場合に、ある強度のノイズを同時に入力すると、出力信号(Output)が出力される。これが確率共振現象である。
【0015】
この場合、入力されるある強度のノイズは、その強度が大きすぎても小さすぎても確率共振現象を誘起することはできない。ノイズ強度(Noise Intensity)と、出力信号(Output)の信号雑音比(SNR)をグラフで示すと、図3に示すような釣鐘型の曲線を描く。つまりこの釣鐘型の曲線がピーク値を取るA近傍のノイズ強度を有するノイズが、確率共振現象を誘起するある強度のノイズである。
【0016】
本発明に係る車両用ミラー装置では、このような確率共振現象を利用して、ミラーにより反射される光に含まれる流動刺激を増やして、生体の神経細胞の機能、特には感覚の一つである視覚を高めて、運転者の後方視認性を高めることにより、水滴除去のためにミラーを振動させている間に後方視認性が低下することを防止している。
【実施例】
【0017】
図4は本発明に係る車両用ミラー装置の一実施例を示す模式図である。図5は本発明に係る車両用ミラー装置の一実施例を水平面に平行な断面で示す模式図である。
【0018】
つまり、図4に示すような、運転者Aが自車の後方もしくは後側方を確認するために車両に装備される車両用ミラー装置1であって、図5に示すように、ミラー2を当該ミラー2の背面に設けた振動手段としての圧電振動子3(ステップモータでも可)により微弱振動させるとともに、当該微弱振動に確率共振現象をもたらすノイズを重畳するのである。
なお、図4中4はドアミラーのフロントカバーを指す。
【0019】
具体的には、図6(a)に示すように、圧電振動子3を微弱振動させる電圧波形(電流制御であれば電流波形)に、図6(b)に示すようなノイズを重畳させて、図6(c)に示すような電圧波形として、図5に示す圧電振動子3に入力する。このため、電源装置4内には周知のノイズ発生器と重畳回路が設けられる。これらのことにより、図5の圧電振動子2の振動波形は、図6(c)に示すような波形となる。
【0020】
これによれば、図6に示すように、車両用ミラー装置1のミラー2により反射される光に含まれる流動刺激が増えることにより、運転者Aの神経細胞の機能、特には感覚の一つである視覚が高められるとともに、運転者の視線が車両用ミラー装置に誘導される。これにより、運転者Aの後方視認性が高められ、水滴除去のためにミラーを微弱振動させている間に後方視認性が低下することも防止される。
【0021】
以上の実施例は、本発明の車両用ミラー装置をドアミラー装置に適用した場合を主に説明したが、もちろんフェンダーミラー装置やルームミラー装置として用いてもよい。
【0022】
フェンダーミラー装置として用いた場合の構成と作用効果はドアミラー装置として用いた場合と同様である。
【0023】
ルームミラー装置として用いた場合は、ルームミラー装置は車室内に設置されるため当然のごとく、水滴除去のために圧電振動子を微弱振動させることはないが、運転者の後方視認性を高めるためだけに、圧電振動子によりミラーを微弱振動させて、当該微弱振動に確率共振現象を誘起するある強度のノイズを重畳させることもできる。
【0024】
これによっても、車両用ミラー装置1のミラー2により反射される光に含まれる流動刺激が増え、運転者Aの神経細胞の機能、特には感覚の一つである視覚が高められるとともに、運転者の視線が車両用ミラー装置1に誘導される。これにより、運転者Aの後方視認性が高められる。
【0025】
図7は、本発明による車両用ミラー装置の他の実施例を水平面に平行な断面で示す模式図である。
【0026】
本実施例の車両用ミラー装置1は、運転者Aが自車の後方もしくは後側方を確認するために車両に装備される車両用ミラー装置であって、前記ミラー2を半透過鏡面により構成するとともに、当該ミラー2の背面に、ミラー2により反射される光に確率共振現象をもたらすノイズを重畳する発光手段5を設けている。
【0027】
ここでは発光手段5として、LEDをm×n個並べたLEDアレイが用いられ、当該LEDアレイはここでは図示しない制御回路により、ランダムに点滅されて、確率共振現象をもたらすノイズを、ミラーにより反射される光に重畳している。
【0028】
これによっても、車両用ミラー装置1のミラー2により反射される光に含まれる流動刺激が増えることにより、運転者Aの神経細胞の機能、特には感覚の一つである視覚が高められるとともに、運転者の視線が車両用ミラー装置に誘導される。これにより、運転者Aの後方視認性が高められ、水滴除去のためにミラーを微弱振動させている間に後方視認性が低下することも防止される。
【0029】
図8は、本発明による車両用ミラー装置の他の実施例を示す模式図である。
【0030】
本実施例の車両用ミラー装置は、図8(a)に示すように、図4もしくは図7に示した車両用ミラー装置を基礎とし、後方もしくは後側方に接近する車両を検知する検知手段6を設けるとともに、図8(b)に示すように、当該検知手段6が車両を検知した場合に、前記ノイズを重畳している。
【0031】
ここでは検知手段6として、指向性マイクを使用し、後方もしくは後側方から接近する車両7の発する車外放射音8により車両の接近を検知している。もちろん赤外線センサ等の他の手段を用いてもよい。
【0032】
図9は、図8に示した本発明による車両用ミラー装置の制御内容を示す模式図である。
【0033】
前述したように、検知手段6としての指向性マイクが集音した音圧が閾値より大きい場合に、信号制御コンピュータ9により、図5に示した圧電振動子3(ステップモータ)あるいは、図7に示した、発光手段5としてのLEDアレイを駆動し、そこに確率共振現象をもたらすノイズを重畳する。
【0034】
これによれば、後方もしくは後側方に他の車両7が接近している場合にのみ、車両用ミラー装置1のミラー2により反射される光に含まれる流動刺激を増加させて、運転者Aの神経細胞の機能、特には感覚の一つである視覚を高めるとともに、運転者の視線を車両用ミラー装置に誘導することができる。
【0035】
以上本発明の好ましい実施例について詳細に説明したが、本発明は上述した実施例に制限されることなく、本発明の範囲を逸脱することなく、上述した実施例に種々の変形および置換を加えることができる。
【産業上の利用可能性】
【0036】
本発明は、確率共振現象を利用した車両用ミラー装置に関するものであり、大幅な変更を加えることなく、運転者の後方視認性の低下を抑制することができるので、乗用車、トラック、バス等の様々な車両に適用可能なものである。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】本発明による車両用ミラー装置の利用する確率共振現象を説明する模式図である。
【図2】本発明による車両用ミラー装置の利用する確率共振現象を説明する模式図である。
【図3】本発明による車両用ミラー装置の利用する確率共振現象を説明する模式図である。
【図4】本発明による車両用ミラー装置の一実施例を示す模式図である。
【図5】本発明による車両用ミラー装置の一実施例を示す模式図である。
【図6】本発明による車両用ミラー装置の一実施例を示す模式図である。
【図7】本発明による車両用ミラー装置の他の実施例を示す模式図である。
【図8】本発明による車両用ミラー装置の他の実施例を示す模式図である。
【図9】図8に示した本発明による車両用ミラー装置の制御内容を示す模式図である。
【符号の説明】
【0038】
1 車両用ミラー装置
2 ミラー
3 振動手段
4 フロントカバー
5 発光手段
6 検知手段
7 車両(後続車)
8 車外放出音
9 信号制御コンピュータ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
運転者が自車の後方もしくは後側方を確認するために車両に装備される車両用ミラー装置であって、前記ミラーを微弱振動させる振動手段を設けるとともに、当該微弱振動に確率共振現象をもたらすノイズを重畳することを特徴とする車両用ミラー装置。
【請求項2】
運転者が自車の後方もしくは後側方を確認するために車両に装備される車両用ミラー装置であって、前記ミラーを半透過鏡面により構成するとともに、当該ミラーの背面に、ミラーにより反射される光に確率共振現象をもたらすノイズを重畳する発光手段を設けることを特徴とする車両用ミラー装置。
【請求項3】
後方もしくは後側方に接近する車両を検知する検知手段を設けるとともに、当該検知手段が車両を検知した場合に、前記ノイズを重畳することを特徴とする請求項1もしくは2に記載の車両用ミラー装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2007−176378(P2007−176378A)
【公開日】平成19年7月12日(2007.7.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−378328(P2005−378328)
【出願日】平成17年12月28日(2005.12.28)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【Fターム(参考)】