説明

車両用リッドロック装置

【課題】緊急時に移動部材を引き戻すための操作の容易な車両用リッドロック装置の提供。
【解決手段】リッドロック装置は、電動モータを作動させて、ロックシャフトをハウジングに対し進退させ、車両ボデーに設けられたリッドと係脱させる。ロックシャフトの後端には、合成樹脂材料にて一体成形された緊急用ツール7が接続されている。緊急用ツール7は、シャフト係合部71によってロックシャフトに接続されている。クランプ8は車両のインナパネルに固定され、緊急用ツール7に設けられたハンドル部72は、クランプ8に対して移動可能に取り付けられている。電動モータによるロックシャフトの戻し作動ができなくなった場合、操作者がクランプ8に取り付けられたままのハンドル部72を引っ張ってロックシャフトを牽引し、リッドとの係合を解消させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両ボデーに設けられたリッド体を閉止状態で固定する車両用リッドロック装置に関する。
【背景技術】
【0002】
車両ボデーに設けられ、内部に給油口が収容されたリッドボックスを開閉するフューエルリッド(以下、リッド体という)を、閉止した状態で固定するためのリッドロック装置に関する従来技術があった(例えば、特許文献1参照)。このリッドロック装置は、ロックシャフト(以下、移動部材という)をリッド体に向けて突出させ、移動部材の先端をリッド体と係合させている(ロック状態)。
一方、給油時には電動モータによりウォームホイールを駆動し、ウォームホイールと係合した移動部材を引き戻してリッド体との係合を解除している(アンロック状態)。
【0003】
ところで、特許文献1に開示されたリッドロック装置には、電動モータの故障等のような緊急時にリッド体との係合を解除させるために、移動部材を引き戻す牽引手段が備えられている。
牽引手段は、合成樹脂材料にて一体に形成された緊急用プルコードで、その一端部が移動部材の後端に接続されているとともに、他端部に操作者が把持するハンドル部が形成されている。普段、ハンドル部は車両のインナパネルの係合穴に、スナップフィットファスナー等により取り付けられおり、上述した緊急時には、リッド体との係合を解除させるために操作者によって係合穴から取り外され、移動部材を引き戻す方向に牽引される。また、移動部材を引き戻す操作を完了した後は、操作者が、再び、ハンドル部を係合穴に嵌め込んで格納している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2011−214242号公報(第7頁乃至第9頁、図5乃至図11)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述したように、特許文献1に開示された緊急用プルコードは、緊急時に移動部材を引き戻すために、手作業によりハンドル部をインナパネルに対して脱着する必要があり、その操作性を悪化させていた。ハンドル部のインナパネルへの取付部は、通常、車外からの視認が難しく、特に、操作終了後にハンドル部を再度インナパネルに取り付ける作業は、困難を極めていた。
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、緊急時に移動部材を引き戻すための操作の容易な車両用リッドロック装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上述した課題を解決するために、請求項1に係る車両用リッドロック装置の発明の構成は、ハウジング内に収容された駆動用アクチュエータと、ハウジング内に移動可能に支持され、一端がハウジングより突出して車両ボデーに設けられたリッド体と係合することにより、リッド体を開放不能にするとともに、駆動用アクチュエータの作動により後退し、リッド体との係合が解除される移動部材と、一側の端部が移動部材の他端と接続されるとともに、他側の端部には操作者が把持するハンドルが形成され、ハンドルが牽引されることにより、移動部材の一端をハウジング内に向かって後退させて、リッド体との係合を解除する操作用牽引部材と、車両の室内側部材に固定され、ハンドルを室内側部材に取り付けるクランプ部材と、を備える車両用リッドロック装置であって、ハンドルは、クランプ部材に対し牽引方向に相対移動可能に連結されていることである。
【0007】
請求項2に係る発明の構成は、請求項1の車両用リッドロック装置において、ハンドルは、室内側部材から離れる方向に突出するように取り付けられることである。
【0008】
請求項3に係る発明の構成は、請求項2の車両用リッドロック装置において、ハンドルは、クランプ部材に取り付けられ、ハンドルの牽引方向に延びる延在部と、延在部の両端部を接続する枠部材と、を有することにより、ループ状に形成されていることである。
【0009】
請求項4に係る発明の構成は、請求項3の車両用リッドロック装置において、枠部材は、延在部の牽引方向側の端部から牽引方向に突出した操作部を有しており、操作部における室内側部材の側に位置する部位は、室内側部材から離れる形状に形成されていることである。
【0010】
請求項5に係る発明の構成は、請求項3または4の車両用リッドロック装置において、クランプ部材は、室内側部材に固定される取付部と、取付部に接続されるとともに延在部を保持する支持部と、弾性力を有し、延在部を支持部に向けて押圧する押圧片と、を有することである。
【0011】
請求項6に係る発明の構成は、請求項5の車両用リッドロック装置において、延在部は平板状に形成され、押圧片は延在部を厚み方向に押圧することである。
【0012】
請求項7に係る発明の構成は、請求項1乃至6のうちのいずれかの車両用リッドロック装置において、操作用牽引部材が操作されていない場合、移動部材は操作用牽引部材の一側の端部に対して相対移動可能に形成されていることである。
【発明の効果】
【0013】
請求項1に係る車両用リッドロック装置によれば、室内側部材に固定されたクランプ部材に対し、ハンドルが牽引方向に相対移動可能に連結されることにより、緊急時にハンドルを室内側部材に対して脱着することなしに、クランプ部材に取り付けたまま移動部材とリッド体との係合を解除させることができ、操作用牽引部材の操作性を向上させることができる。
ここで、「車両の室内側部材」とは、車両のアウタパネルよりも車室内側のボデー部材をすべて含んでいる(アウタパネルは含まず、インナパネルおよびトリム等を含んでいる)。
【0014】
請求項2に係る車両用リッドロック装置によれば、ハンドルが室内側部材から離れる方向に突出するように取り付けられることにより、操作者の手が室内側部材と干渉せずに、容易にハンドルを把持することができる。
【0015】
請求項3に係る車両用リッドロック装置によれば、ハンドルがループ状に形成されていることにより、操作者が掴み損なうことなく容易にハンドルを把持することができる。
さらに、ループ状に形成されていることにより、ハンドルの剛性を向上させることができる。
【0016】
請求項4に係る車両用リッドロック装置によれば、枠部材は、延在部の牽引方向側の端部から牽引方向に突出した操作部を有していることにより、操作者の手がクランプ部材と干渉せずに、容易に操作部を把持することができる。
また、操作部における室内側部材の側に位置する部位が、室内側部材から離れる形状に形成されていることにより、操作部がクランプ部材により直接に保持されていなくても、振動等によって室内側部材に干渉することを防ぐことができる。
【0017】
請求項5に係る車両用リッドロック装置によれば、クランプ部材は、室内側部材に固定される取付部と、取付部に接続されるとともに延在部を保持する支持部と、弾性力を有し、延在部を支持部に向けて押圧する押圧片とを有することにより、延在部がスムーズに移動可能に保持されるとともに、ハンドルの振動を防止することができる。
【0018】
請求項6に係る車両用リッドロック装置によれば、延在部は平板状に形成され、押圧片が延在部を厚み方向に押圧することにより、延在部が傾くことがなくクランプ部材により安定して保持される。
【0019】
請求項7に係る車両用リッドロック装置によれば、操作用牽引部材が操作されていない場合、移動部材は操作用牽引部材の一側の端部に対して相対移動可能なことにより、正常時において、駆動用アクチュエータによって移動部材が移動させられても操作用牽引部材が移動することがなく、車両上の操作用牽引部材の取付スペースを低減でき、車両への搭載性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の実施形態1による車両用リッドロック装置の分解斜視図
【図2】図1に示した車両用リッドロック装置がロック位置にある状態において、内部を見た場合の正面図
【図3】アンロック位置にある車両用リッドロック装置の内部を見た場合の正面図
【図4】ロックシャフトとリッドとの係合状態を示した部分拡大図
【図5】図1に示した緊急用ツールがクランプに取り付けられた状態の全体斜視図
【図6】図5に示した緊急用ツールを枠部材側から見た場合の全体斜視図
【図7】図2のA−A断面図
【図8】緊急用ツールのハンドル部の平面図
【図9】図8に示したハンドル部の側面図
【図10】図8に示したハンドル部がインナパネルに取り付けられた状態を示した平面図
【図11】図10に示したハンドル部の側面図
【図12】図11のB−B断面図
【図13】図11に示したハンドル部の牽引状態を表した側面図
【図14】実施形態2による緊急用ツールのハンドル部がインナパネルに取り付けられた状態を示した側面図
【図15】図14のC−C断面図
【図16】他の実施形態による操作部の形状を示した平面図
【図17】他の実施形態による操作部のさらに別の形状を示した平面図
【発明を実施するための形態】
【0021】
<実施形態1>
図1乃至図13に基づき、本発明の実施形態1によるリッドロック装置1について説明する。尚、特に断らなければ、図2における右方をリッドロック装置1の前方とし、左方を後方として説明する。さらに、図1における上方を、リッドロック装置1の上方として説明する。
リッドロック装置1(車両用リッドロック装置に該当する)は、車両ボデー9に設けられ、内部に給油口(図示せず)が収容されたリッドボックス91を開閉するリッド92(リッド体に該当する)と係合して、リッド92を開放不能とするものである(図4示)。
【0022】
図1に示すように、本実施形態によるリッドロック装置1は、ボデー21とカバー22とによりアクチュエータハウジング2(ハウジングに該当し、以下ハウジングと言う)が形成され、ハウジング2内に電動モータ3(駆動用アクチュエータに該当する)、ウォーム4、ウォームホイール5、ロックシャフト6(移動部材に該当する)が収容されて形成されている。ボデー21とカバー22は、ともに合成樹脂材料にて形成され、上述した内部構成品が収容された後、互いに嵌合されて一体化される。
【0023】
電動モータ3のアウトプットシャフト31(図2示)はウォーム4に圧入され、ウォーム4は電動モータ3により回転可能とされている。ウォーム4の外周面上には歯部(図示せず)が形成されている。
ウォームホイール5は、枢支孔51がボデー21から突出したホイール軸211に嵌合することにより、ボデー21に対してホイール軸211回りに回転可能に取り付けられる。ウォームホイール5の外周面には、歯部(図示せず)が形成されており、上述したウォーム4の歯部と噛合している。
【0024】
ロックシャフト6は合成樹脂材料にて長尺状に一体成形されており、先端(図2において右端)には、リッド92と係合するロック部61(移動部材の一端に該当する)が形成されている。ロックシャフト6は、ボデー21内に軸方向に移動可能に挿入される。
図2に示したように、ロックシャフト6には、連動孔62がロックシャフト6の厚み方向に掘り下げられるように形成されている。連動孔62には、上述したウォームホイール5に形成された係合柱52が挿入されている。
【0025】
上述した構成によりロックシャフト6は、ウォームホイール5と係合しながらハウジング2内において、軸方向(図2において左右方向)に移動可能に収容されている。
また、ロックシャフト6の後端(図2において左端)には、後述する緊急用ツール7(操作用牽引部材に該当する)の一端部が取り付けられる連結部63(移動部材の他端に該当する)が、ロックシャフト6の軸に対して垂直方向に突出するように形成されている。連結部63の詳細については、後述する。
【0026】
図2に示すように、各構成部品を収容したリッドロック装置1は、リッドボックス91の支持壁911に搭載される。リッドロック装置1は支持壁911に取り付けられた状態で、リッドボックス91の内外を液密的に遮断している。リッドロック装置1は、電動モータ3によりロックシャフト6が移動される場合、および緊急用ツール7により、ロックシャフト6がリッド92との係合が解除される位置に向けて牽引される場合に、車両ボデー9から脱落することを完全に防止するように取り付けられている。
【0027】
図3に示したように、ロックシャフト6がリッド92と非係合状態(アンロック位置)にあるリッドロック装置1において、電動モータ3を所定の作動条件で作動させる。これにより、ウォーム4を介してウォームホイール5が、ホイール軸211を中心に図3において反時計回りに回動する。
このため、ウォームホイール5の係合柱52と連動孔62において係合したロックシャフト6が、ハウジング2に対し軸方向(図3において右方)に移動し、ロック部61がハウジング2外に突出する(図2示:ロック位置)。この時、ロック部61はリッドボックス91内に突出し、リッド92と係合して開放不能な状態に保持する(図4示)。尚、図4は、リッドロック装置1の前端部について、図2における上方より見た状態を示している。
【0028】
また、図2に示すように、ロックシャフト6がロック位置にあるリッドロック装置1において、電動モータ3を所定の作動条件で作動させて、ウォームホイール5を上述した場合と逆向きに(図2において時計回りに)回動させる。これにより、ロックシャフト6をハウジング2に対し軸方向(図2において左方)に移動させ、ロック部61をハウジング2内に格納する(図3示:アンロック位置)。後退したロック部61は、リッド92との係合が外れてリッド92を開放可能な状態にする。
【0029】
次に、前述した緊急用ツール7について詳述する。図5および図6に示すように、緊急用ツール7は、一端(前端)部に設けられ前述したロックシャフト6の連結部63に接続されるシャフト係合部71(一側の端部に該当する)と、他端部(後端であって、他側の端部に該当する)に形成され、緊急時に操作者の手により把持されるハンドル部72(ハンドルに該当する)と、シャフト係合部71とハンドル部72とを繋ぐ接続部73とにより長尺状に形成されている。ハンドル部72は、クランプ8により車両のインナパネル93に取り付けられる。
【0030】
緊急用ツール7は、ロックシャフト6を形成する合成樹脂材料よりも軟質の合成樹脂材料による一体成形により形成されている。
シャフト係合部71は概ね平板状に形成されており、スライド孔711が厚み方向に貫通している。スライド孔711は、緊急用ツール7の長手方向(緊急用ツール7の牽引方向)に延びた長円状に形成されている(図5示)。
【0031】
一方、前述したロックシャフト6の後端に形成された連結部63は、基部631と、基部631からロックシャフト6の軸方向に直交する方向に突出した中間部632と、中間部632に対して基部631とは反対側に接続された抜止部633とにより形成されている(図7示)。
図2に示したように、基部631は、連結部63の突出方向に対する垂直断面が略四角形状を呈しており、その外径は、緊急用ツール7のスライド孔711を通り抜け不能な大きさに形成されている。
また、抜止部633の当該断面形状は、その横方向寸法(図2において上下方向寸法)がスライド孔711の幅寸法よりも大きく形成されており、その先端部において、横方向の周縁に一対の斜面が形成されている(図7示)。
【0032】
また、中間部632における連結部63の突出方向に対して垂直な断面形状は、その外径が抜止部633よりも小さく形成され、略小判形状(長円状)を呈している(図2示)。中間部632の当該断面形状における短い側の長さは、スライド孔711の幅とほぼ同じ大きさに形成されており、スライド孔711内にがたつかずに収容可能となっている。図7に示すように、連結部63には、撓み孔63aが連結部63の突出方向に貫通している。
【0033】
緊急用ツール7をロックシャフト6へ接続する場合、緊急用ツール7のスライド孔711に対し、ロックシャフト6の連結部63を抜止部633側からその突出方向に挿入していく。これにより、スライド孔711が拡幅するとともに、連結部63の撓み孔63aが縮径して、シャフト係合部71が抜止部633の斜面に乗り上げていく。シャフト係合部71が抜止部633を通過すると、スライド孔711が中間部632の外周面に嵌合し、連結部63とシャフト係合部71とが接続される(図7示)。
【0034】
緊急用ツール7とロックシャフト6とが接続された後、中間部632はスライド孔711に対して前後方向に移動可能に嵌合している。これによって、緊急用ツール7が操作されていない場合、ロックシャフト6は緊急用ツール7を静止させたまま、シャフト係合部71に対して軸方向に相対移動可能となる(図3示)。中間部632がスライド孔711に係合した状態において、板状のシャフト係合部71は基部631と抜止部633により挟持されるため、連結部63に対して、シャフト係合部71が厚み方向に振れることがない。
【0035】
また、上述したように、中間部632の断面形状は小判形状をしており、その長手方向の外周面がスライド孔711に当接しているため、連結部63がシャフト係合部71に対して前後方向に移動している際に、スライド孔711が中間部632に対して傾かず、緊急用ツール7がスライド孔711の幅方向(図2において上下方向)に振れることがない。
【0036】
図8に示すように、ハンドル部72は、クランプ8(クランプ部材に該当する)と係合し、ハンドル部72の牽引方向に延びる直線状のスライド部721(延在部に該当する)と、スライド部721の両端部を接続する枠部材722とを有しており、略水平方向に広がるループ状を呈している。クランプ8は、これに限定されるべきものではないが、車両のトランク等を形成するインナパネル93(室内側部材に該当する)に固定されている(図10示)。インナパネル93に取り付けられたハンドル部72は、インナパネル93から離れる方向(略水平方向)に突出するように取り付けられている。
【0037】
枠部材722は、スライド部721の牽引方向側の端部である後端部から、ハンドル部72の牽引方向に突出した操作部722aを有しており、操作部722aにおけるインナパネル93の側に位置する部位(図においてEにて示す)は、インナパネル93から離れるように傾斜している。
また、スライド部721は平板状に形成され、後述するクランプ8の押圧片83が当接するように、その外周面上には、矩形状を呈する所定深さの凹部721aが設けられている(図9および図12示)。凹部721aは、スライド部721上において、ハンドル部72の牽引方向に延びるように形成されている。
【0038】
以下、クランプ8について説明する。説明中において、図12の上方をクランプ8の上方とし、図12の下方をクランプ8の下方として説明する。クランプ8は可撓性を有した合成樹脂材料にて形成され、インナパネル93に固定される取付部81と、取付部81に接続された支持部82と、スライド部721を押圧する押圧片83を備えている(図12示)。
【0039】
取付部81は、インナパネル93に貫通した係合孔931に挿入される複数の係合片811と、係合片811に連続し、取付部81の半径方向に広がった傘状の押え部812を有している。取付部81において、係合片811同士により形成された部位の外径は、係合孔931の内径よりも大きく形成されている。
クランプ8をインナパネル93に取り付ける際、取付部81を係合孔931に挿入する。係合孔931により押圧された係合片811は、半径方向に撓んで係合孔931を通過するとともに、押え部812がインナパネル93に当接する。これにより、押え部812がインナパネル93を平面方向(図12における右方)に押圧するため、係合片811が抜け止めとなって、取付部81がインナパネル93に固定される。
【0040】
また、クランプ8の支持部82は、略リング状に形成されている。支持部82の円周上の上部に位置する1か所は開放可能なように非連続に形成され、その両端部821、822は互いに係脱可能なスナップフィットファスナーとして形成されている。支持部82の上端部には操作片823が突出しており、操作片823に指をかけて端部821を上方へ引き上げることによって、互いに嵌め込んで係合させた両端部821、822を取り外すことが可能である。
また、押圧片83は弾性力を有し、支持部82の端部822から下方に延びており、緊急用ツール7のスライド部721を、支持部82(図12における右方)に向けて押圧可能に形成されている。
【0041】
次に、ハンドル部72のクランプ8への取付方法について説明する。インナパネル93に固定したクランプ8において、支持部82の両端部821、822の係合を取り外す。スライド部721を両端部821、822の間から支持部82内に挿入した後、両端部821、822を係合させて支持部82を閉じる。これによって、押圧片83がスライド部721の凹部721aに対して弾発的に当接し、スライド部721を支持部82に向けて厚み方向に押圧する(図12示)。したがって、スライド部721は、押圧片83と支持部82の内周面との間で、ハンドル部72の牽引方向(図11における左右方向)に移動可能に保持される。換言すれば、ハンドル部72はクランプ8に対して、スライド部721の長さの範囲内で移動可能に係合している。
緊急用ツール7がクランプ8に取り付けられた状態において、シャフト係合部71とハンドル部72とを繋いでいる接続部73は、車両ボデー9のインナパネル93とアウタパネル(図示せず)との間を通って配置される。接続部73は、操作者による引張り荷重に抗するように、所定の強度を備えている。
【0042】
リッドロック装置1に不具合が発生し、電動モータ3によるロックシャフト6のアンロック位置への戻し作動ができなくなった場合、操作者はクランプ8に取り付けられたままのハンドル部72の操作部722aを掴み、後方に引っ張る。これにより、ロックシャフト6の連結部63はスライド孔711内を相対移動し、スライド孔711の前端が中間部632に当接して、緊急用ツール7を介してロックシャフト6を牽引可能な状態となる。
【0043】
操作者がクランプ8に取り付けられたままのハンドル部72をさらに牽引して、スライド部721をクランプ8に対し移動させると(図13示)、ウォームホイール5、ウォーム4および電動モータ3を回転させながら、ロックシャフト6がアンロック位置へと移動し、リッド92との係合が解除する。
リッド92は図示しないスプリングによって、リッドボックス91を閉鎖する方向に付勢されており、給油が終了した後に、再びロックシャフト6をロック位置に移動させる必要はない。
【0044】
本実施形態によれば、インナパネル93に固定されたクランプ8に対し、ハンドル部72が牽引方向に相対移動可能に連結されることにより、緊急時にハンドル部72をインナパネル93に対して脱着することなしに、クランプ8に取り付けたままロックシャフト6とリッド92との係合を解除させることができ、緊急用ツール7の操作性を向上させることができる。
また、ハンドル部72がインナパネル93に直接に取り付けられていないため、車両振動等による異音等の発生を防止することができる。
【0045】
また、ハンドル部72がインナパネル93から離れる方向に突出するように取り付けられていることにより、操作者の手がインナパネル93と干渉せずに、容易にハンドル部72を把持することができる。
また、ハンドル部72がループ状に形成されていることにより、操作者が掴み損なうことなく容易にハンドル部72を把持することができる。
さらに、ループ状に形成されていることにより、ハンドル部72の剛性を向上させることができる。
【0046】
また、枠部材722は、スライド部721の牽引方向側の端部からハンドル部72の牽引方向に突出した操作部722aを有していることにより、操作者の手がクランプ8と干渉せずに、容易に操作部722aを把持することができる。
また、操作部722aにおけるインナパネル93の側に位置する部位が、インナパネル93から離れるように傾斜していることにより、操作部722aがクランプ8により直接に保持されていなくても、振動等によってインナパネル93に干渉することを防ぐことができる。
【0047】
また、クランプ8は、インナパネル93に固定される取付部81と、取付部81に接続されるとともにスライド部721を保持する支持部82と、弾性力を有し、スライド部721を支持部82に向けて押圧する押圧片83とを有することにより、スライド部721がスムーズに移動可能に保持されるとともに、ハンドル部72の振動を防止することができる。
【0048】
また、スライド部721上には、凹部721aがハンドル部72の牽引方向に延びるように形成されていることにより、クランプ8の押圧片83がスライド部721に対し全面当たりしないため(図12示)、スライド部721がクランプ8に対し、よりいっそうスムーズに移動することができる。
また、クランプ8の押圧片83が凹部721aと係合するため、スライド部721は上下方向にがたつかずに水平方向に移動することができる。
【0049】
また、スライド部721が取り付けられた後に、両端部821、822が係合して支持部82が閉じられることにより、操作中にハンドル部72がクランプ8から脱落することを防止することができる。
また、図12に示すように、支持部82の内径寸法がスライド部721の幅寸法(図12における上下方向の寸法)に対して余裕があるため、スライド部721がクランプ8に対して所定の自由度を有しており、ハンドル部72のスムーズな移動を可能にすることができる。
また、スライド部721は平板状に形成され、押圧片83がスライド部721を厚み方向に押圧することにより、スライド部721が傾くことがなくクランプ8により安定して保持される。
【0050】
また、緊急用ツール7が操作されていない場合、ロックシャフト6は緊急用ツール7のシャフト係合部71に対して相対移動可能なことにより、正常時において、電動モータ3によってロックシャフト6が移動させられても緊急用ツール7が移動することがなく、車両上の緊急用ツール7の取付スペースを低減でき、車両への搭載性を向上させることができる。
【0051】
<実施形態2>
図14および図15に基づき、本発明の実施形態2によるクランプ8Aの構成について、実施形態1の場合との相違点を中心に説明する。説明中において、図15の上方をクランプ8Aの上方とし、図15の下方をクランプ8Aの下方として説明する。尚、図14および図15において、緊急用ツール7は実施形態1による緊急用ツール7と同一の構成である。
【0052】
実施形態1によるクランプ8と同様に、クランプ8Aは可撓性を有した合成樹脂材料にて形成され、インナパネル93に固定される取付部84と、取付部84に接続された支持部85と、スライド部721を押圧する押圧片86を備えている。取付部84は複数の係合片841と、係合片841に連続した押え部842を有している。クランプ8Aをインナパネル93に取り付ける方法は、実施形態1によるクランプ8と同様であるため説明は省略する。
【0053】
また、クランプ8Aの支持部85は略リング状に形成され、その円周上の上部に位置する1か所は非連続に形成されている。クランプ8Aの支持部85は実施形態1によるクランプ8と異なり、その非連続に形成された箇所の両端部851、852が、通常互いに嵌合することはなく、両端部851、852は、若干の隙間を有して対向している。支持部85の上端部には操作片853が突出している。
また、押圧片86は弾性力を有し、支持部85の内周面から下方に延びており、スライド部721の凹部721aを支持部85に向けて押圧可能に形成されている。クランプ8Aにおける、その他の構成については実施形態1によるクランプ8と同様である。
【0054】
本実施形態によれば、支持部85の非連続に形成された箇所の両端部851、852は、若干の隙間を有して対向していることにより、スライド部721を両端部851、852の間に挿入していくのみでクランプ8Aに保持させることができる。また、操作片853に指をかけて、端部852を端部851から離れる方向に撓ませることによって、両端部851、852を引き離し、スライド部721を取り外すことが可能である。このように、クランプ8Aは、スライド部721の係脱が容易になるように形成されている。
また、図15に示したように、クランプ8Aは、支持部85および押圧片86によって、スライド部721の周囲を包囲するように保持しているため、スライド部721を安定して保持することができる。
【0055】
<他の実施形態>
本発明は、上述した実施形態に限定されるものではなく、次のように変形または拡張することができる。
クランプ8は、必ずしも車両のトランクを形成するインナパネル93に固定されている必要はなく、車両ボデーのその他の部位を形成するインナパネルに取り付けられていてもよいし、あるいは、トリム等のインナパネル93以外の室内側部材に固定されていてもよい。
また、スライド孔711をロックシャフト6の後端部に形成し、連結部63を緊急用ツール7のシャフト係合部71に形成してもよい。
【0056】
また、緊急用ツール7のハンドル部72の形状は、本実施形態によるものに限られるものではなく、操作者が把持して牽引することが可能であれば、いかなる形状であってもよい。
また、操作部722aのインナパネル93の側に位置する部位を、上方から見て矩形状(図16示)あるいは湾曲した形状(図17示)とし、インナパネル93から離れるように形成してもよい。
また、駆動アクチュエータとして、電動モータ3に代えてソレノイドアクチュエータを用いてもよい。
【符号の説明】
【0057】
図面中、1はリッドロック装置(車両用リッドロック装置)、2はアクチュエータハウジング(ハウジング)、3は電動モータ(駆動用アクチュエータ)、6はロックシャフト(移動部材)、7は緊急用ツール(操作用牽引部材)、8,8Aはクランプ(クランプ部材)、9は車両ボデー、61はロック部(移動部材の一端)、63は連結部(移動部材の他端)、71はシャフト係合部(操作用牽引部材の一側の端部)、72はハンドル部(ハンドル)、81,84は取付部、82,85は支持部、83,86は押圧片、92はリッド(リッド体)、93はインナパネル(室内側部材)、721はスライド部(延在部)、722は枠部材、722aは操作部を示している。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ハウジング内に収容された駆動用アクチュエータと、
前記ハウジング内に移動可能に支持され、一端が前記ハウジングより突出して車両ボデーに設けられたリッド体と係合することにより、前記リッド体を開放不能にするとともに、前記駆動用アクチュエータの作動により後退し、前記リッド体との係合が解除される移動部材と、
一側の端部が前記移動部材の他端と接続されるとともに、他側の端部には操作者が把持するハンドルが形成され、前記ハンドルが牽引されることにより、前記移動部材の前記一端を前記ハウジング内に向かって後退させて、前記リッド体との係合を解除する操作用牽引部材と、
車両の室内側部材に固定され、前記ハンドルを前記室内側部材に取り付けるクランプ部材と、
を備える車両用リッドロック装置であって、
前記ハンドルは、前記クランプ部材に対し牽引方向に相対移動可能に連結されている車両用リッドロック装置。
【請求項2】
前記ハンドルは、前記室内側部材から離れる方向に突出するように取り付けられる請求項1記載の車両用リッドロック装置。
【請求項3】
前記ハンドルは、
前記クランプ部材に取り付けられ、前記ハンドルの牽引方向に延びる延在部と、
前記延在部の両端部を接続する枠部材と、
を有することにより、ループ状に形成されている請求項2記載の車両用リッドロック装置。
【請求項4】
前記枠部材は、前記延在部の牽引方向側の端部から牽引方向に突出した操作部を有しており、
前記操作部における前記室内側部材の側に位置する部位は、前記室内側部材から離れる形状に形成されている請求項3記載の車両用リッドロック装置。
【請求項5】
前記クランプ部材は、
前記室内側部材に固定される取付部と、
前記取付部に接続されるとともに前記延在部を保持する支持部と、
弾性力を有し、前記延在部を前記支持部に向けて押圧する押圧片と、
を有する請求項3または4に記載の車両用リッドロック装置。
【請求項6】
前記延在部は平板状に形成され、
前記押圧片は、前記延在部を厚み方向に押圧する請求項5記載の車両用リッドロック装置。
【請求項7】
前記操作用牽引部材が操作されていない場合、前記移動部材は、前記操作用牽引部材の前記一側の端部に対して相対移動可能である請求項1乃至6のうちのいずれか一項に記載の車両用リッドロック装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【公開番号】特開2013−113059(P2013−113059A)
【公開日】平成25年6月10日(2013.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−262645(P2011−262645)
【出願日】平成23年11月30日(2011.11.30)
【出願人】(000000011)アイシン精機株式会社 (5,421)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【出願人】(000100827)アイシン機工株式会社 (122)
【Fターム(参考)】