説明

車両用ワイヤハーネスの管理方法及びその管理情報読み取り装置

【課題】多くの情報量を付与することが可能であり、しかも秘密性が高く、かつ柔軟性に富む車両用ワイヤハーネスの製造管理方法を提供する。
【解決手段】製造されたコネクタハウジング10の表面に、製造管理情報に応じて一種又は複数種の情報提示物質(希土類元素の酸化物粉末が好ましい)を含んだ情報付与インクを付着させてマークを付する。情報を読み出す際には、コネクタハウジング10の表面に紫外線等を照射して情報提示物質から発せられる蛍光を検出する。その蛍光の波長・量等によって情報提示物質の存在態様を検出し、その存在態様に対応づけた製造管理情報を特定することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両用ワイヤハーネスの表面に製造管理情報を付与して管理する車両用ワイヤハーネスの管理方法及びそれに用いる管理情報読み取り装置に関する。
【背景技術】
【0002】
車両用ワイヤハーネスについては、製造ロット、製造工場、製造日付等を長期間にわたり管理して部品の故障等に備える必要がある。そこで、従来、たとえば電気コネクタ等の車両用ワイヤハーネス部品について、その製造ロット番号、製造工場、製造日付等の情報を個々の部品の表面に識別可能に付与して製造管理が行われることがあった。これらの情報を付与するためには、合成樹脂製の物品の表面に文字や記号を浮き彫り状に成型したり、たとえば下記特許文献1に記載されているようにインクで表面に印刷したりする。
【0003】
ところが、上記の情報付与方法のうち樹脂成型を利用するものでは、成形型が高価になるだけでなく、部品の大きさや表示領域上の制約があるため情報量に限界があり、インクによる印刷では容易に読み取れるため、秘密の管理情報を付与するには不向きである。
【0004】
一方、下記特許文献2に示されるように、予め合成樹脂に製造管理情報に対応させた複数種の情報提示物質を配合しておき、その合成樹脂を使って成形品を製造し、必要な時に成形品から情報提示物質の存在態様を読み取ることにより、その存在態様に対応づけた製造管理情報を取得する方法も提案されている。
【0005】
しかしながら、上記方法では適用が合成樹脂製品に限定される上、同一の合成樹脂で成形された別の製品を区別することができないから、製品毎に柔軟な管理ができないという問題がある。
【特許文献1】特表2003−511261公報
【特許文献2】特開2005−320439公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は上記のような事情に基づいて完成されたものであって、多くの情報量を付与することが可能であり、しかも秘密性が高く、かつ柔軟性に富む車両用ワイヤハーネスの管理方法及びその管理情報読み取り装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、車両用ワイヤハーネスの表面に、製造管理情報に応じて一種又は複数種の情報提示物質を含んだインクを付着させておき、情報が必要な時に、部品の表面に付着されたインク中の情報提示物質の存在態様(種類、濃度、それらの組合せ等)を検出することにより、存在態様に対応づけた製造管理情報を取得することができる。
【0008】
情報提示物質としては、希土類元素を含んだ組成物の粉末であって、紫外線等の電磁波の照射によって蛍光を発するものであることが好ましい。とりわけ、希土類元素の酸化物粉末であることが材料の安定性から最も好ましい。
【0009】
また、前記インクを着色すれば、その色を製造管理情報の一部として利用できるから、情報量を増大させることができる。さらには、インクの付着パターン(すなわちマーク形状)や、物品におけるインクの付着位置に製造物管理情報の一部を対応させてもよい。また、インクをフェルトペンによって物品の表面に付着させるようにすると、より柔軟できめ細かな管理を行うことができる。
なお、車両用ワイヤハーネスとしては、車両に使用されるワイヤハーネス、コネクタ、コネクタ用端子金具、電気接続箱、ランプソケット、ECU内蔵ジャンクションボックス、集積インジェクタコネクタ及びコイルアッセンブリー等がある。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、情報提示物質の組合せを増やすことで多くの情報量を付与することが可能であり、しかも情報提示物質の存在態様を仮に目視できたとしてもそれ自体では一般に情報が看取できないため秘密性が高く、かつ、部品の表面にインクを付着させる方法であるから、自在に変更が可能で柔軟性に富む管理を行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
電気コネクタ(コネクタ)の製造管理を行う方法に適用した本発明の一実施形態について図面を参照して説明する。
【0012】
図面中、10はたとえばエアバック用コネクタのコネクタハウジングであり、内部の図示しないキャビティ内に電線11に接続した端子金具12が複数個収容されている。コネクタハウジング10は合成樹脂製であり、端子金具12は銅合金製であり、共に周知の構造である。
【0013】
コネクタハウジング10の表面のたとえば側面には、情報付与インク(後に詳述する)による円形のマーク20が付されている。これは、本体内に情報付与インクを収容したフェルトペン30のペン先31を、コネクタハウジング10の表面に触れさせることで打点したものである。
【0014】
さて、上記情報付与インクは、油性溶媒の着色インキ中に情報提示物質として希土類元素の酸化物粉末を分散させてなるものである。希土類元素としては、スカンジウムSc,イットリウムY及び原子番号57〜71のランタノイドを例示することができ、ランタノイドが好ましい。これらの元素は、スペクトル分析による測定が容易であり、さらに経済的かつ衛生的で、酸化物等としての入手も容易であるからである。情報提示物質としては、これら元素の一種または二種以上が組み合せたものが好適であり、同じ元素を含むものであっても組み合わせられる他の元素の種類や、組み合わせの比率が異なれば、別の情報提示物質として扱うことができる。
【0015】
また、上記の希土類元素の酸化物は、電磁波(たとえば赤外光から紫外光までの光)に励起される蛍光を利用して特定することができ、特に、不完全3d殻を有する遷移元素および/または不完全4f殻を有する遷移元素が添加された単結晶や、不完全3d殻を有する遷移元素および/または不完全4f殻を有する遷移元素が添加されたガラスや、不完全3d殻を有する遷移元素および/または不完全4f殻を有する遷移元素を中心とした錯体などが、高い蛍光強度が得られるため、好適である。
【0016】
なお、情報提示物質は、ユーロピウム(Eu3+)を含む酸化イットリウム(Y)のように、所定の母体物質に対して遷移元素を付与したものであってもよい。この母体物質は、酸化物、硫化物、窒化物、水酸化物、ハロゲン化物、混晶、さらにはアモルファス物質、ガラスなども含まれる。たとえば、遷移元素がキレート化合物のように化学結合の形で含まれているもの、結晶格子を構成する他の原子またはイオンを置換したもの、結晶格子の中に割り込んで含まれるもの、あるいはガラスの中の隙間に含まれるものなどが挙げられる。
【0017】
情報提示物質の粉末はインクの溶媒に分散し易く、かつマーキングしやすい程度の粒径であればよく、たとえば平均粒径が1nm〜100μm程度であればよい。なお、このような微粒子を作るには、化学反応法、ゾル・ゲル法、コロイド法、気体凝固法、気体反応法、ガス中蒸発法、スパッタリング法、ガラス結晶化法、沈殿法、スプレー法など様々な方法を利用することができる。
【0018】
これらの情報提示物質は、一種又は複数種を組み合わせ、かつ、その濃度を異ならせて情報付与インク内に含ませることにより、様々な製造管理情報と対応付けることができる。たとえば、次表に示す如くである。
【表1】

製造管理情報としては、ロット番号の他、製造工場、製造日付、修理の方法を記載した取扱説明書の対応箇所の記号等がある。また、仮に情報提示物質の濃度を4段階に識別できるときに、n種類の情報提示物質を組み合わせると、2nビットの情報を持たせることができるから、たとえば3種類の情報提示物質を使用することで6ビット(64通り)の情報付与インクを作ることができ、従って64通りの製造管理情報に対応付けることができる。
【0019】
製造物(コネクタハウジング10)に打点されたマーク20からは、蛍光分析装置50及びパーソナルコンピュータ60を使って製造管理情報が読み出される。蛍光分析装置50は、内部に紫外線発光ダイオード等の紫外線発生源(図示せず)を備え、その紫外線をプローブ51の先端から照射することができる。マーク20内に含まれる情報提示物質は紫外線を照射されると蛍光を発するから、プローブ51内にはその蛍光を受光する光センサ(図示せず)が設けられており、光センサからの信号に基づいて蛍光の波長、強度等のスペクトル分析が行われ、これに基づいて情報提示物質の種類及び濃度が検出され、その情報はパーソナルコンピュータ60に出力される。
【0020】
パーソナルコンピュータ60には、前記した表1に示すような情報提示物質の種類及び濃度と、製造管理情報とを対応付けたデータベースが記憶されており、検出された情報提示物質の種類及び濃度からこれに対応する製造管理情報が読み出されてディスプレイ61に表示される。
【0021】
上述の本実施形態によれば、製造されたコネクタハウジング10の表面にフェルトペン30によってマーク20を付すだけで、特定の製造管理情報をコネクタハウジング10に記録することができる。マーク20は、外見上単なる着色された丸い点であるから、それが何を意味するかは全く推測することができず、情報の秘匿性が高いため、製品の偽造防止等に効果的である。情報付与インクの種類、すなわちフェルトペン30の種類を異ならせれば、他の製造管理情報をコネクタハウジング10に付与することができる。
【0022】
また、フェルトペン30によりコネクタハウジング10の表面に打点するだけであるから、作業は極めて簡単で、かつ、低コストで実施することができる。しかも、フェルトペン30を使ってマーキングを行うから、情報付与インクのマーキングパターンに製造管理情報の一部を担わせることができ、それによって少ない種類の情報付与インクによってより多くの製造管理情報を記録することができる。たとえば、製品が2カ所の工場で生産されている場合に、A工場で製造したものには情報付与インクを点状に付着させ、B工場で製造したものには線状に付着させる等の取りきめを行っておけば、情報付与インクの種類を半分にすることができる。同様に、製品に対する情報付与インクのマーキング位置に製造管理情報の一部を担わせることもできる。たとえば、製品が4カ所の工場で生産されている場合に、A工場で製造したものには情報付与インクを右側面に付着させ、B工場のものには上面に、C工場のものには左側面に、D工場のものには底面に付着させる等の取りきめを行っておけば、情報付与インクの種類を更に減らすことができ、或いは、同じ種類数の情報付与インクによって記録できる製造管理情報を増大させることができる。また、情報付与インクに着色し、その色に製造管理情報の一部を担わせることとすれば、情報提示物質の種類を少なくして同一情報量を記録することができる。あるいは、たとえば図3に示すように、情報提示インクを複数本の線を描くように付着させてバーコードのようなストライプマーク21を形成すれば、それぞれの線の組合せによってより多量の情報量を記録することもできる。
【0023】
また、本実施形態では、フェルトペン30によりマーク20,21を記録するから、情報付与インクが付着する材料であればいかなるものにも情報を記録することができ、たとえば図2に示すように端子金具12にマーク20を付与することもでき、製品の材質を問わない。
上記実施形態では、蛍光分析装置50のプローブ51は手持ち形とした例を挙げたが、例えば図4に示すように、コネクタの導通検査治具70にプローブ51を取り付けておき、そのワイヤハーネスの製造後に導通検査治具70にコネクタをセットしてワイヤハーネスの導通検査を行うと、同時にプローブ51によってコネクタの部品番号等の製造管理情報を読み取ることができるから、ワイヤハーネスの所定の位置に正しいコネクタが取り付けられていること等を確認することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明の一実施形態を示し、製造管理情報の読み取り時の様子を示す斜視図
【図2】同じく、製造管理情報の記録時の様子を示す斜視図
【図3】同じく、製造管理情報の他の記録態様を示す斜視図
【図4】同じく、コネクタ導通検査治具を使用した製造管理情報の読み取り時の様子を示す斜視図
【符号の説明】
【0025】
10…コネクタハウジング(物品)
12…端子金具(物品)
30…フェルトペン
50…X線分析装置
60…パーソナルコンピュータ(データベース装置)
70…導通検査治具

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両用ワイヤハーネスの構成部品の表面に、製造管理情報に応じて一種又は複数種の情報提示物質を含んだインクを付着させ、前記情報提示物質の存在態様を検出することにより、前記存在態様に対応づけた前記製造管理情報を特定することを特徴とする車両用ワイヤハーネス部品の管理方法。
【請求項2】
前記情報提示物質は、希土類元素を含んだ組成物の粉末であって、電磁波の照射によって蛍光を発するものであることを特徴とする請求項1記載の車両用ワイヤハーネス部品の管理方法。
【請求項3】
前記インクは着色されている請求項1又は請求項2に記載の車両用ワイヤハーネス部品の管理方法。
【請求項4】
前記インクの付着パターンに製造物管理情報の一部が対応している請求項1ないし請求項3のいずれか一項に記載の車両用ワイヤハーネス部品の管理方法。
【請求項5】
前記物品における前記インクの付着位置に製造物管理情報の一部が対応している請求項1ないし請求項4のいずれか一項に記載の車両用ワイヤハーネス部品の管理方法。
【請求項6】
前記インクはフェルトペンによって前記物品の表面に付着させる請求項1ないし請求項5のいずれか一項に記載の車両用ワイヤハーネス部品の管理方法。
【請求項7】
請求項1ないし請求項6のいずれか一項に記載の車両用ワイヤハーネス部品の管理方法に使用される製造物管理情報読み取り装置であって、物品の表面に付着された前記情報提示物質を含んだインクに電磁波を照射すると共にその電磁波の照射に基づいて発せされる前記情報提示物質からの蛍光を検出する蛍光分析装置と、この蛍光分析装置によって検出された前記蛍光の種類に応じて予め記憶された製造管理情報を検索して表示するデータベース装置とを備えてなる車両用ワイヤハーネス部品の管理情報読み取り装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2008−226709(P2008−226709A)
【公開日】平成20年9月25日(2008.9.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−65121(P2007−65121)
【出願日】平成19年3月14日(2007.3.14)
【出願人】(000183406)住友電装株式会社 (6,135)
【Fターム(参考)】