車両用乗員膝部保護装置
【課題】車両の衝突時に衝突エネルギーを十分に吸収できるようにすること。
【解決手段】保護装置50は、車体12の前部に位置して車幅方向へ延びている車体メンバ25から、後方へ延びた左右のアーム51,51と、これら左右のアーム51,51の真後ろに位置するとともに車幅方向へ延び、シート11に着座している乗員Mnの膝Neに対向することが可能なパネル部材52と、パネル部材52から受ける衝突エネルギーに従って前方へ変位する左右のラップ部53,53とから成る。左右のラップ部53,53は、左右のアーム51,51の後端からパネル部材52の裏面へ向かって後方に延びつつ、後方へ延びるにつれて互いに向かい合う方向へ傾いている。左右のラップ部53,53の後端53a,53aは、パネル部材52の車幅方向の両端部52a,52aに対して車幅方向に重なっている。
【解決手段】保護装置50は、車体12の前部に位置して車幅方向へ延びている車体メンバ25から、後方へ延びた左右のアーム51,51と、これら左右のアーム51,51の真後ろに位置するとともに車幅方向へ延び、シート11に着座している乗員Mnの膝Neに対向することが可能なパネル部材52と、パネル部材52から受ける衝突エネルギーに従って前方へ変位する左右のラップ部53,53とから成る。左右のラップ部53,53は、左右のアーム51,51の後端からパネル部材52の裏面へ向かって後方に延びつつ、後方へ延びるにつれて互いに向かい合う方向へ傾いている。左右のラップ部53,53の後端53a,53aは、パネル部材52の車幅方向の両端部52a,52aに対して車幅方向に重なっている。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の衝突時に乗員の膝を保護する保護装置に関する。
【背景技術】
【0002】
車両が正面衝突をした場合に、シートに着座している乗員の膝が、慣性によって前方へ移動する。例えば、助手席に着座している乗員であれば、車両の衝突により前方に移動し、膝がグローブボックスのリッドに当たることがある。車両の衝突時に乗員の膝を保護すべく、保護装置が種々提案されている(例えば、特許文献1(図1)参照。)。
【0003】
特許文献1に示されるように、保護装置は、車幅方向に延びる車体メンバにそれぞれ支持されるブラケット及び補助ブラケットと、これらのブラケット及び補助ブラケットに対向して配置され乗員の膝に対向するパネル部材とからなる。ブラケットには潰れながら衝撃を吸収する衝撃吸収部が取付けられている。ブラケット、補助ブラケット及びパネル部材によって囲われた領域に、グローブボックスの収納箱が配置されている。即ち、パネル部材はグローブボックスのリッドに内蔵されている板状の部材である。
【0004】
車両が衝突することで、乗員の膝がグローブボックスのリッド、即ち、パネル部材に衝突する。乗員が衝突することで、パネル部材は乗員と共に前方に向かって変位する。前方に向かって変位することで、パネル部材は、ブラケット及び補助ブラケットに接触する。パネル部材は、補助ブラケットを支点として回転するように変位し、ブラケットに取付けられている衝撃吸収部を潰す。衝撃吸収部が潰れることにより、車両の衝突による衝撃を吸収し、乗員の膝を保護する。
【0005】
ところで、パネル部材が回転し、パネル部材のブラケット側の端部が衝撃吸収部から外れると、衝撃吸収部が完全に潰れる前であっても、衝撃吸収部による衝突エネルギーの吸収が行えなくなる。即ち、パネル部材が容易に外れる衝撃吸収部であると、衝突エネルギーを十分に吸収することができない。
【0006】
パネル部材とブラケット及び補助ブラケットの車幅方向に重なる重なり代を大きくすれば、パネル部材を容易に外れないようにできるが、重なり代を大きくするには、パネル部材の車幅方向長さを長くするか、ブラケットと補助ブラケットとの間の距離を小さくする必要がある。
【0007】
しかし、パネル部材の車幅方向長さを長くした場合には、パネル部材が大型化し、パネル部材近傍の車体デザインに影響を及ぼす。
また、ブラケットと補助ブラケットとの間の距離を小さくした場合には、例えば、助手席側においては、ブラケットと補助ブラケットとの間の距離がグローブボックスの車幅方向寸法を規定するため、グローブボックスの容量が小さくなる。
加えて、運転席側においては、ブラケットと補助ブラケットとの間の距離を短くすることで、ステアリングシャフト等のパネル部材近傍に配置される部品の配置の自由度が低下する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2007−161151号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、車両の衝突時に衝突エネルギーを十分に吸収することができる技術の提供を課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
請求項1に係る発明は、車体の前部に位置して車幅方向へ延びている車体メンバから、後方へ延びるとともに、車幅方向に所定間隔設けて配置された左右のアームと、これら左右のアームの後方に位置するとともに車幅方向へ延び、シートに着座している乗員の膝に対向することが可能なパネル部材と、から成り、このパネル部材は、乗員の膝から作用した衝突エネルギーに従って、左右のアームの後端に向かうように車体前方へ変位することが可能な車両用乗員膝部保護装置において、左右のアームの後端には、パネル部材から受ける衝突エネルギーに従って前方へ変位する左右のラップ部が設けられ、これら左右のラップ部は、左右のアームの後端からパネル部材の裏面へ向かって後方に延びつつ、後方へ延びるにつれてラップ部同士が互いに接近する方向へ傾いており、左右のラップ部の後端は、パネル部材の車幅方向の両端部の前方に位置するとともに、前記パネル部材の車体前方への変位によって前記両端部と接触可能なよう前記両端部に対して車幅方向に重なっていることを特徴とする。
【0011】
請求項2に係る発明は、左右のラップ部は、左右のアームの後端から屈曲して一体に形成されていることを特徴とする。
【0012】
請求項3に係る発明は、車体の前部に位置して車幅方向へ延びている車体メンバから、後方へ延びるとともに、車幅方向に所定間隔設けて配置された左右のアームと、これら左右のアームの後方に位置するとともに車幅方向へ延び、シートに着座している乗員の膝に対向することが可能なパネル部材と、から成り、このパネル部材は、乗員の膝から作用した衝突エネルギーに従って、左右のアームの後端に向かうように車体前方へ変位することが可能な車両用乗員膝部保護装置において、パネル部材の車幅方向の両端部は、左右のアームの後端の後方に位置するとともに、前記パネル部材の車体前方への変位によって前記前記左右のアームの後端と接触可能なよう前記左右のアームの後端に対して車幅方向に重なった、ラップ部であり、パネル部材は、左右のアーム間の内寄りに位置するとともに衝突エネルギーに従って折れ曲がる屈曲点を有し、この屈曲点は、左右のラップ部よりも後方に位置していることを特徴とする。
【0013】
請求項4に係る発明は、屈曲点は、車幅方向に離間して2個有り、パネル部材は、2個の屈曲点の間の部分が、衝突エネルギーを受けるためのエネルギー受け面に構成されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
請求項1に係る発明では、左右のラップ部は後方に延びるにつれ、互いに近づくよう傾けられると共に、後端がパネル部材の両端に重なっている。パネル部材が車両前方へ向かって変位することにより、パネル部材の両端に重ねられるラップ部がパネル部材に接触する。さらにパネル部材が前方へ変位することにより、ラップ部は衝突エネルギーを吸収しながら、アームの後端を中心に回転する。
【0015】
ラップ部が衝突エネルギーを吸収し続けると、アームの後端から垂直に延びる軸を基準として、衝突する前の位置と対称となる位置まで変位することがある。衝突する前の位置と対称となる位置まで変位した場合においても、パネル部材にラップ部が重なり合っている。広い範囲においてラップ部をパネル部材に重ね合わせることができ、パネル部材の前方への変位をラップ部によって確実に受け止めることができる。パネル部材の前方への変位を確実に受け止めることにより、衝突エネルギーを十分に吸収することができる。
【0016】
パネル部材の車幅方向長さを長くしたり、左右のアーム間の距離を短くしたりする必要もないため、パネル部材近傍の車体デザインに影響を与えることがなく、また、グローブボックスの容量を小さくしたり、他の部品の配置の自由度を低下させることもない。
【0017】
請求項2に係る発明では、左右のラップ部は、左右のアームの後端から屈曲して一体に形成されている。左右のアームの後端から屈曲している部位が回転の中心となり、ラップ部が折れ曲がりながら衝突エネルギーを吸収する。構成の簡素化を図ると共に、部品点数の削減にも寄与することができる。
【0018】
請求項3に係る発明では、パネル部材は、左右のアーム間の内寄りに屈曲点を有し、この屈曲点は、左右のラップ部よりも後方に位置している。パネル部材が車両前方へ向かって変位することにより、アームに重ねられるラップ部がアームに接触する。さらにパネル部材が前方へ変位することにより、パネル部材は屈曲点を中心に折れ曲がり、衝突エネルギーを吸収する。
【0019】
パネル部材の車幅方向長さを長くしたり、左右のアーム間の距離を短くしたりする必要もないため、パネル部材近傍の車体のデザインに影響を与えることがなく、また、グローブボックスの容量を小さくしたり、他の部品の配置の自由度を低下させることもない。
【0020】
パネル部材が衝突エネルギーを吸収し続けると、パネル部材は平板状に一直線になり、さらに衝突する前の形状と対称となるまで変位することがある。衝突する前の形状と対称となるまで変位した場合においても、アームにラップ部が重なり合っている。広い範囲においてラップ部をアームに重ね合わせることができ、パネル部材の前方への変位をアームによって確実に受け止めることができる。パネル部材の前方への変位を確実に受け止めることにより、衝突エネルギーを十分に吸収することができる。
【0021】
請求項4に係る発明では、パネル部材は、2個の屈曲点の間の部分が、衝突エネルギーを受けるためのエネルギー受け面に構成されている。エネルギー受け面とラップ部とを個別に設けることで、衝撃エネルギーをエネルギー受け面で確実に受けると共に、ラップ部で確実に衝突エネルギーを吸収することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明に係る車両用乗員膝部保護装置が搭載されている車両を説明する図である。
【図2】図1の2−2線断面図である。
【図3】図1の3部拡大図である。
【図4】乗員の膝がリッドに衝突した場合の作用を説明する図である。
【図5】実施例1に係る車両用乗員膝部保護装置の作用を説明する図である。
【図6】実施例1に係る車両用乗員膝部保護装置のさらなる作用を説明する図である。
【図7】本発明に係るガイド部材を説明する図である。
【図8】本発明に係るアーム及びラップ部の変更例を説明する図である。
【図9】実施例2に係る車両用乗員膝部保護装置の断面図である。
【図10】実施例2に係る車両用乗員膝部保護装置の作用を説明する図である。
【図11】実施例3に係る車両用乗員膝部保護装置の断面図である。
【図12】実施例3に係る車両用乗員膝部保護装置の作用を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本発明の実施の形態を添付図に基づいて以下に説明する。なお、「前」、「後」、「左」、「右」、「上」、「下」は車両の乗員から見た方向に従う。
【実施例1】
【0024】
実施例1に係る車両用乗員膝部保護装置の構造について、図1に基づき説明する。図1に示された車両10は、右ハンドル車を助手席側から見た状態で例示している。シート11は、乗員Mnが座る助手席として例示されている。
【0025】
図1に示すように車両10は、車体12前部において、前のエンジンルーム13と後の車室14とをダッシュボード15にて仕切り、ダッシュボード15の下端に前輪16を覆うホイールハウス18を接合し、このホイールハウス18の下端に対してフロアパネル19の前端を接合したものである。さらに車両10は、車室14の前部において、ダッシュボード15から運転席並びに助手席に臨むインストルメントパネル22を延ばすと共に、上方且つ後方に向かって窓ガラス23が設けられている。インストルメントパネル22の下方には、乗員Mnの荷物を収納するためのグローブボックス30が取付けられている。
【0026】
車体12の前部において、車幅方向に渡って車体メンバ25が掛け渡されている。車体メンバ25は、車幅方向に水平に延びる丸パイプや丸棒等の棒状の固定部材であって、その両端を左右のフロントピラーにボルト止めや溶接等によって固定されているステーである。例えば、ステアリングコラムを支持するためのステアリングホルダである。
【0027】
図2も合わせて参照し、車両10は、乗員Mnの膝Neを保護する車両用乗員膝部保護装置50(以下、単に「保護装置」とする。)を備える。保護装置50は、車体メンバ25から後方に向かって延びている左右のアーム51,51と、これらの左右のアーム51,51に対向して配置されていると共にグローブボックス30のリッド32に収納されているパネル部材52と、このパネル部材52の両端52aに車幅方向で重なるよう左右のアーム51,51の後端51a,51aから延びているラップ部53,53とからなる。このような保護装置50の詳細を説明する前に、まず、パネル部材52が収納されているグローブボックス30の詳細を説明する。
【0028】
グローブボックス30は、車体12に固定されている軸部材26,26に回転可能に支持されている樹脂製の部材であり、軸部材26,26に取付けられている支持部材31,31と、これらの支持部材31,31の先端に取付けられ乗員Mnの膝Neに対向しているリッド32と、このリッド32の裏面、即ち車両前方側に取付けられ荷物が収納される収納ボックス33とからなる。収納ボックス33に荷物を収納する場合は、図1に示す状態から、支持部材31,31、リッド32及び収納ボックス33を、一体的に時計回り方向に回転させる。
【0029】
図3も合わせて参照し、支持部材31は、本体部35に楕円形状の穴が開けられており、この楕円形状の穴の一部に内周面からさらに内周に向かって突出する突出部36,36が形成されている。これらの突出部36,36によって、楕円形状の穴は、支持穴37とガイド穴38との互いに連通する2つの穴に分けられている。支持穴37は、軸部材26の外周面に沿って円形状に形成されている穴である。ガイド穴38については詳細を後述する。支持穴37の端部に、樹脂が連続しない欠肉部39が形成されている。欠肉部39を上下に撓ませながら、軸部材26に支持部材31を押し付けることで、支持部材31を軸部材26に取付けることができる。
【0030】
図1及び図2に戻り、リッド32は、裏面に支持部材31,31及び収納ボックス33が取付けられていると共に膝Neに向かって凸状の略円弧状の第1の部材41と、この第1の部材41に縁部が接合されていると共に第1の部材41に沿わせて略円弧形状を呈する第2の部材42とからなる。これらの第1の部材41と第2の部材42とでパネル部材52を挟み込んでいる。
【0031】
収納ボックス33は、側方から見た場合に、上部に位置する開口部45の車両前後方向の長さに対して、下部に位置する底部46の前後方向の長さが短いと共に、略台形状を呈している。膝Neがリッド32に衝突した際に、収納ボックス33を破壊して衝突エネルギーを吸収することができるよう、収納ボックス33の側面33aに溝状の脆弱部47,47が形成されている。次に、保護装置50の詳細を説明する。
【0032】
保護装置50のアーム51は、平面視略L字状の金属製の部材であり、車体メンバ25に基部55が溶接され、この基部55から一体的に主要部56が後方に向かって延びている。一対の主要部56,56の間にグローブボックス30の収納ボックス33が配置されている。主要部56には、収納ボックス33に近づく方向に向かって突出するよう、ビード部56aが形成されている。剛性を高めるためのビード部56aを、収納ボックス33に近づく方向に向かって突出させることにより、収納ボックス33とアーム51との間のスペースを有効に利用しつつ、主要部の強度・剛性を得ることができる。
【0033】
アーム51の後端51aには、パネル部材52から受ける衝突エネルギーに従って前方へ変位する左右のラップ部53,53が設けられている。これら左右のラップ部53,53は、左右のアーム51,51の後端51a,51aからパネル部材52の裏面52bへ向かって後方に延びつつ、後方へ延びるにつれてラップ部53,53同士が互いに向かい合う方向へ傾いている。左右のラップ部53,53の後端53a,53aは、パネル部材52の車幅方向の両端52a,52aの直ぐ前に位置するとともに、両端52a,52aに対して車幅方向に重なっている。
【0034】
左右のラップ部53,53は、左右のアーム51,51の後端51a,51aから屈曲して一体に形成されている。即ち、アーム51及びラップ部53は、所定の形状に形成された1枚の鋼板を折り曲げることで形成される。ラップ部53は、衝撃を吸収するためにアーム51の後端51aを中心に回転するように折れ曲がる。即ち、アーム51の後端51aは折れ点である。アーム51にビード部56aが形成され、剛性が高められていることにより、衝撃吸収時に確実にラップ部53のみを回転させることができる。
【0035】
パネル部材52は、鋼板製の矩形の板であり、アーム51,51の真後ろ且つ車幅方向で左右のアーム51,51間に位置するとともに車幅方向へ延び、シート11に着座している乗員Mnの膝Neに対向している。このような保護装置50の作用を次図以降で説明する。
【0036】
図4に示すように、車両10が衝突すると、衝突の衝撃により乗員Mnが前方へ移動し、乗員Mnの膝Neがリッド32(パネル部材52)に衝突する。乗員Mnの膝Neがリッド32に衝突することにより、乗員Mnと共にパネル部材52が車両10前方(図面左側)へ変位する。即ち、パネル部材52は、乗員Mnの膝Neから作用した衝突エネルギーに従って、アーム51の後端51aに向かうように車体12前方へ変位する。
【0037】
図5は、比較例に係る保護装置100と実施例に係る保護装置50とを平面から見た状態で比較する図である。図5(a)及び図5(b)に比較例に係る保護装置を示す。図5(a)に示すように、パネル部材101が前方へ変位することにより、このパネル部材101の両端101a,101aに重なっているラップ部102,102に、パネル部材101(又はリッド)が接触する。車体メンバ103に対して略平行に設けられているラップ部102は、パネル部材101がさらに前進することで、アーム105の後端105aを中心にして回転するように変形し、この変形により、衝突エネルギーを吸収する。
【0038】
パネル部材101の長さL10は、ラップ部102の端部102a,102a間の長さL11よりも長い。パネル部材101の長さの方が長いことにより、パネル部材101をラップ部102に接触させることができる。パネル部材101が前進し続けると、図5(b)に示すように、ラップ部102の端部102a,102a間の長さは変位し、ラップ部102の端部102a,102a間の長さが長くなる。パネル部材101の長さL10よりも長くなることにより、ラップ部102はパネル部材101を受けることができなくなる。パネル部材101がラップ部102から外れることにより、ラップ部102による衝突エネルギーの吸収が終了する。
【0039】
図5(c)から図5(e)までに実施例に係る保護装置50を示す。図5(c)に示すように、本発明では、ラップ部53,53は後方に延びるにつれ、互いに近づくよう傾けられている。また、パネル部材52の長さL1は、ラップ部53の後端53a,53a間の長さL2よりも長い。左右のラップ部53,53は後方に延びるにつれ互いに近づくため、図5(d)に示すように、左右のラップ部53,53がアーム51,51に対して垂直方向を向くまでは、パネル部材52が前進するほどパネル部材52とラップ部53,53との重なる量が増加する。即ち、図5(c)から図5(d)においてはラップ部53の後端(図5(d)において端部)53a,53a間の長さがL2から徐々に短くなる。
【0040】
さらにパネル部材52が前進し続けると、図5(e)に示すように、ラップ部53,53は、アーム51,51の後端51a,51aから垂直に延びる軸59を基準として、衝突する前の位置(図5(c)参照)と対称となる位置まで変位する。衝突する前の位置と対称となる位置でのラップ部53の後端(図5(d)において前端)53a,53a間の長さはL2であるため、衝突する前の位置と対称となる位置まで変位した場合においても、パネル部材52にラップ部53,53が重なり合っている。広い範囲においてラップ部53をパネル部材52に重ね合わせることができ、パネル部材52の前方への変位をラップ部53によって確実に受け止めることができる。パネル部材52の前方への変位を確実に受け止めることにより、衝突エネルギーを十分に吸収することができる。
【0041】
加えて、左右のラップ部53,53は、左右のアーム51,51の後端51a,51aから屈曲して一体に形成されている。左右のアーム51,51の後端51a,51aから屈曲している部位が回転の中心となり、ラップ部53,53が折れ曲がりながら衝突エネルギーを吸収する。構成の簡素化を図ると共に、部品点数の削減にも寄与することができる。さらに、本発明によれば次図において説明するような効果を得ることもできる。
【0042】
図6は比較例に係る保護装置110と実施例に係る保護装置50とを側方から見た状態で比較する図である。図6(a)及び図6(b)に比較例に係る保護装置を示す。図6(a)に示される比較例に係る保護装置110は、車体メンバ111にアーム112が固定されていると共に、このアーム112の先端からパネル部材113に向かってラップ部114が延びている。アーム112とラップ部114とが、側面視で略V字形状を呈する。
【0043】
このような保護装置110においては、パネル部材113が前進し、ラップ部114が潰れながら衝撃を吸収する。図6(b)に示すように、アーム112にラップ部114が接触する位置まで、ラップ部114によって、衝突エネルギーを吸収することができる。
【0044】
図6(c)から図6(e)までに実施例に係る保護装置50を示す。図6(c)に示すように、実施例に係る保護装置50では、まず、ラップ部53は、パネル部材52に押されながら図6(d)に示すように、アーム51と側面視で重なる位置まで回転する。さらに、図6(e)に示すように、アーム51よりも前方の位置においても衝突エネルギーを吸収し続ける。
【0045】
即ち、本発明に係る保護装置50は、比較例に係る保護装置110に比べ、より広い範囲で衝突エネルギーを吸収することができる。即ち、本発明に係る保護装置50のエネルギー吸収量は、非常に大きいということができる。パネル部材52のガイド機構の作用を次図において詳細に説明する。
【0046】
図7(a)に示すように、乗員の膝(図4、符号Ne)がリッド32、即ちパネル部材52に接触すると、接触の衝撃でパネル部材52は前進する。パネル部材52が前進することにより、パネル部材52を支持している支持部材31も前進し、突出部36,36が軸部材26に乗り上げる。
【0047】
図7(b)に示すように、継続してパネル部材52に衝撃が加わることにより、突出部36,36は軸部材26を乗り越える。乗り越えた後は、ガイド穴38内に軸部材26が位置することにより、パネル部材52の変位する方向が規制される。
【0048】
即ち、パネル部材52を支持する支持部材31は、車体に固定された軸部材26に支持され、車両の衝突前の状態においてパネル部材52を前後方向に移動不能に支持する支持穴37と、車両の衝突後にパネル部材52の前方への変位をガイドするガイド穴38とを有し、乗員の衝突による衝撃により軸部材26を乗り越える突出部36を介して、支持穴37とガイド穴38とが連通されている。ガイド穴38を有することにより、膝が衝突した際に、パネル部材52を所定の方向に変位させることができる。このような保護装置50の変更例について次図で説明する。
【0049】
図8に示すように、アーム61とラップ部63とを別部材で形成することによっても、本発明に係る効果を得ることができる。より具体的には、ラップ部63は、ヒンジ軸67を介してアーム61に回動可能に支持されていると共に、ヒンジ軸67に、ラップ部63の先端63aを開く方向に付勢するコイルばね68が取り付けられている。パネル部材52は、開く方向に付勢されるラップ部63に抗して、前方に向かって変位する。
【0050】
即ち、アーム61及びラップ部63が、1枚板によって形成されていない場合であっても、パネル部材52を確実にラップ部63に接触させ、確実に衝突エネルギーを吸収することができる。本発明の別実施例について次図以降で説明する。
【実施例2】
【0051】
次に、本発明の実施例2を図面に基づいて説明する。
図9は実施例2の保護装置の断面構成を示し、上記図2に対応させて表している。
図9に示されるように、保護装置70は、一対のアーム71,71の後方に、後方に向かって突出する略V字形状のパネル部材72を設け、このパネル部材72の各辺が、アーム71,71の後端71a,71aに車幅方向で重なるラップ部73,73とされている。これらのラップ部73,73の接続点は、衝突エネルギーに従って折れ曲がる屈曲点75とされている。屈曲点75は、車幅方向でアーム71とアーム71の略中央に1つ形成されている。
【0052】
パネル部材72を囲うリッド77には、略V字状の脆弱部78,78がパネル部材72の表面側及び裏面側の両面に1つずつ、それぞれ面の上端から下端に渡って形成されている。脆弱部78は、他の部位よりも脆弱な部位であり、破壊の基点となると共に、屈曲点75の位置に合わせて形成されている。リッド77が脆弱部78で割れることにより、このリッド77に内蔵されるパネル部材72は、衝撃を吸収しながら変形することができる。即ち、脆弱部78によってリッド77のみが割れ、パネル部材72は割れない。パネル部材72の変形については、詳細を後述する。
【0053】
パネル部材72の車幅方向の両端72a,72aは、左右のアーム71,71の後端71a,71aの真後ろに位置するとともに、左右のアーム71,71の後端71a,71aに対して車幅方向に重なった、ラップ部73,73であり、パネル部材72は、左右のアーム71,71間の内寄りに位置するとともに衝突エネルギーに従って折れ曲がる屈曲点75を有し、この屈曲点75は、左右のラップ部73,73よりも後方に位置している。このような保護装置70の作用について次図で説明する。
【0054】
図10(a)に示すように、乗員の膝から受ける衝撃によりパネル部材72(リッド)が前進する。パネル部材72の車幅方向の長さL3は、アーム71とアーム71との間の長さL4に比べて長いため、パネル部材72が前進することにより、ラップ部73,73がアーム71,71に接触する。接触した後もさらに衝突エネルギーが加わることにより、ラップ部73,73がアーム71,71の後端部を滑るように変位すると共に、パネル部材72中央の屈曲点75が前方に変位する。
【0055】
図10(b)に示すように、屈曲点75が前方に向かって変位することにより、パネル部材72は、直線形状に変形する。変形した後も衝突エネルギーを吸収し続けることで、さらに屈曲点75が前方に向かって変位する。図10(c)に示すように、屈曲点75が変位し続けることにより、パネル部材72は、衝突前の形状(図10(a)参照)に対して対称になる。
【0056】
衝突する前の形状と対称となるまで変位した場合においても、アーム71,71にラップ部73,73が重なり合っている。広い範囲においてラップ部73,73をアーム71,71に重ね合わせることができ、パネル部材72の前方への変位をアーム71,71によって確実に受け止めることができる。パネル部材72の前方への変位を確実に受け止めることにより、衝突エネルギーを十分に吸収することができる。このような保護装置70の更なる別実施例について次図で説明する。
【実施例3】
【0057】
次に、本発明の実施例3を図面に基づいて説明する。
図11は実施例3の保護装置の断面構成を示し、上記図2に対応させて表している。
図11に示されるように、保護装置80は、一対のアーム81,81の後方にパネル部材82が配置されていると共に、このパネル部材82の両端であって、アーム81,81に重なる部位にラップ部83,83が形成されている。
【0058】
パネル部材82についてより詳細に説明すると、パネル部材82は、車幅方向で一対のアーム81,81の間に配置され衝突時に乗員の膝を受けるエネルギー受け面84と、このエネルギー受け面84の両端から一体的に前方且つ互いに離れる方向に向かってラップ部83,83が延びている。これらのエネルギー受け面84とラップ部83,83とは、衝撃吸収時に衝突エネルギーに従って折れ曲がる屈曲点85,85を介して一体的に形成されている。即ち、屈曲点85,85は、車幅方向に離間して2個有り、パネル部材82は、2個の屈曲点85,85の間の部分が、衝突エネルギーを受けるためのエネルギー受け面84に構成されている。エネルギー受け面84は、車幅方向に沿って配置されている。
【0059】
パネル部材82を囲うリッド87には、略V字状の脆弱部88が、パネル部材82の表面側及び裏面側の両面に複数形成されている。それぞれの面の上端から下端に渡って形成されている脆弱部88は、他の部位よりも脆弱な部位であり、破壊の基点となると共に、屈曲点85,85の位置に合わせて形成されている。このような保護装置80の作用について次図で説明する。
【0060】
図12(a)に示すように、乗員の膝から受ける衝撃によりパネル部材82(リッド)が前進する。パネル部材82の車幅方向の長さL5は、アーム81とアーム81との間の長さL6に比べて長いため、パネル部材82が前進することにより、ラップ部83,83がアーム81,81に接触する。接触した後もさらに衝突エネルギーが加わることにより、ラップ部83,83がアーム81,81の後端部を滑るように変位すると共に、パネル部材82中央の屈曲点85が前方に変位する。
【0061】
図12(b)に示すように、屈曲点85が前方に向かって変位することで、パネル部材82は、直線形状に変形する。変形した後も衝突エネルギーを吸収し続けることで、さらに屈曲点85が前方に向かって変位する。図12(c)に示すように、屈曲点85が変位し続けることにより、パネル部材82は、衝突前の形状(図12(a)参照)に対して対称になる。
【0062】
このような保護装置80においても、本発明に係る効果を得ることができる。特に、屈曲点85,85を2個形成した場合には、以下のような効果を得ることができる。即ち、パネル部材82は、2個の屈曲点85,85の間の部分が、衝突エネルギーを受けるためのエネルギー受け面84に構成されている。エネルギー受け面84とラップ部83,83とを個別に設けることで、衝撃エネルギーをエネルギー受け面84で確実に受けると共に、ラップ部83,83で確実に衝突エネルギーを吸収することができる。
【0063】
尚、本発明に係る車両用乗員膝部保護装置は、助手席に設ける場合を例に説明したが、運転席のハンドルの下部に適用することも可能であり、助手席のグローブボックスを利用する形式に限られない。
【産業上の利用可能性】
【0064】
本発明の車両用乗員膝部保護装置は、運転席や助手席の乗員の膝の保護に好適である。
【符号の説明】
【0065】
10…車両、11…シート、12…車体、25…車体メンバ、50,70,80…車両用乗員膝部保護装置、51,61,71,81…アーム、52,72,82…パネル部材、53,63,73,83…ラップ部、75,85…屈曲点、84…エネルギー受け面、Mn…乗員、Ne…膝。
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の衝突時に乗員の膝を保護する保護装置に関する。
【背景技術】
【0002】
車両が正面衝突をした場合に、シートに着座している乗員の膝が、慣性によって前方へ移動する。例えば、助手席に着座している乗員であれば、車両の衝突により前方に移動し、膝がグローブボックスのリッドに当たることがある。車両の衝突時に乗員の膝を保護すべく、保護装置が種々提案されている(例えば、特許文献1(図1)参照。)。
【0003】
特許文献1に示されるように、保護装置は、車幅方向に延びる車体メンバにそれぞれ支持されるブラケット及び補助ブラケットと、これらのブラケット及び補助ブラケットに対向して配置され乗員の膝に対向するパネル部材とからなる。ブラケットには潰れながら衝撃を吸収する衝撃吸収部が取付けられている。ブラケット、補助ブラケット及びパネル部材によって囲われた領域に、グローブボックスの収納箱が配置されている。即ち、パネル部材はグローブボックスのリッドに内蔵されている板状の部材である。
【0004】
車両が衝突することで、乗員の膝がグローブボックスのリッド、即ち、パネル部材に衝突する。乗員が衝突することで、パネル部材は乗員と共に前方に向かって変位する。前方に向かって変位することで、パネル部材は、ブラケット及び補助ブラケットに接触する。パネル部材は、補助ブラケットを支点として回転するように変位し、ブラケットに取付けられている衝撃吸収部を潰す。衝撃吸収部が潰れることにより、車両の衝突による衝撃を吸収し、乗員の膝を保護する。
【0005】
ところで、パネル部材が回転し、パネル部材のブラケット側の端部が衝撃吸収部から外れると、衝撃吸収部が完全に潰れる前であっても、衝撃吸収部による衝突エネルギーの吸収が行えなくなる。即ち、パネル部材が容易に外れる衝撃吸収部であると、衝突エネルギーを十分に吸収することができない。
【0006】
パネル部材とブラケット及び補助ブラケットの車幅方向に重なる重なり代を大きくすれば、パネル部材を容易に外れないようにできるが、重なり代を大きくするには、パネル部材の車幅方向長さを長くするか、ブラケットと補助ブラケットとの間の距離を小さくする必要がある。
【0007】
しかし、パネル部材の車幅方向長さを長くした場合には、パネル部材が大型化し、パネル部材近傍の車体デザインに影響を及ぼす。
また、ブラケットと補助ブラケットとの間の距離を小さくした場合には、例えば、助手席側においては、ブラケットと補助ブラケットとの間の距離がグローブボックスの車幅方向寸法を規定するため、グローブボックスの容量が小さくなる。
加えて、運転席側においては、ブラケットと補助ブラケットとの間の距離を短くすることで、ステアリングシャフト等のパネル部材近傍に配置される部品の配置の自由度が低下する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2007−161151号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、車両の衝突時に衝突エネルギーを十分に吸収することができる技術の提供を課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
請求項1に係る発明は、車体の前部に位置して車幅方向へ延びている車体メンバから、後方へ延びるとともに、車幅方向に所定間隔設けて配置された左右のアームと、これら左右のアームの後方に位置するとともに車幅方向へ延び、シートに着座している乗員の膝に対向することが可能なパネル部材と、から成り、このパネル部材は、乗員の膝から作用した衝突エネルギーに従って、左右のアームの後端に向かうように車体前方へ変位することが可能な車両用乗員膝部保護装置において、左右のアームの後端には、パネル部材から受ける衝突エネルギーに従って前方へ変位する左右のラップ部が設けられ、これら左右のラップ部は、左右のアームの後端からパネル部材の裏面へ向かって後方に延びつつ、後方へ延びるにつれてラップ部同士が互いに接近する方向へ傾いており、左右のラップ部の後端は、パネル部材の車幅方向の両端部の前方に位置するとともに、前記パネル部材の車体前方への変位によって前記両端部と接触可能なよう前記両端部に対して車幅方向に重なっていることを特徴とする。
【0011】
請求項2に係る発明は、左右のラップ部は、左右のアームの後端から屈曲して一体に形成されていることを特徴とする。
【0012】
請求項3に係る発明は、車体の前部に位置して車幅方向へ延びている車体メンバから、後方へ延びるとともに、車幅方向に所定間隔設けて配置された左右のアームと、これら左右のアームの後方に位置するとともに車幅方向へ延び、シートに着座している乗員の膝に対向することが可能なパネル部材と、から成り、このパネル部材は、乗員の膝から作用した衝突エネルギーに従って、左右のアームの後端に向かうように車体前方へ変位することが可能な車両用乗員膝部保護装置において、パネル部材の車幅方向の両端部は、左右のアームの後端の後方に位置するとともに、前記パネル部材の車体前方への変位によって前記前記左右のアームの後端と接触可能なよう前記左右のアームの後端に対して車幅方向に重なった、ラップ部であり、パネル部材は、左右のアーム間の内寄りに位置するとともに衝突エネルギーに従って折れ曲がる屈曲点を有し、この屈曲点は、左右のラップ部よりも後方に位置していることを特徴とする。
【0013】
請求項4に係る発明は、屈曲点は、車幅方向に離間して2個有り、パネル部材は、2個の屈曲点の間の部分が、衝突エネルギーを受けるためのエネルギー受け面に構成されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
請求項1に係る発明では、左右のラップ部は後方に延びるにつれ、互いに近づくよう傾けられると共に、後端がパネル部材の両端に重なっている。パネル部材が車両前方へ向かって変位することにより、パネル部材の両端に重ねられるラップ部がパネル部材に接触する。さらにパネル部材が前方へ変位することにより、ラップ部は衝突エネルギーを吸収しながら、アームの後端を中心に回転する。
【0015】
ラップ部が衝突エネルギーを吸収し続けると、アームの後端から垂直に延びる軸を基準として、衝突する前の位置と対称となる位置まで変位することがある。衝突する前の位置と対称となる位置まで変位した場合においても、パネル部材にラップ部が重なり合っている。広い範囲においてラップ部をパネル部材に重ね合わせることができ、パネル部材の前方への変位をラップ部によって確実に受け止めることができる。パネル部材の前方への変位を確実に受け止めることにより、衝突エネルギーを十分に吸収することができる。
【0016】
パネル部材の車幅方向長さを長くしたり、左右のアーム間の距離を短くしたりする必要もないため、パネル部材近傍の車体デザインに影響を与えることがなく、また、グローブボックスの容量を小さくしたり、他の部品の配置の自由度を低下させることもない。
【0017】
請求項2に係る発明では、左右のラップ部は、左右のアームの後端から屈曲して一体に形成されている。左右のアームの後端から屈曲している部位が回転の中心となり、ラップ部が折れ曲がりながら衝突エネルギーを吸収する。構成の簡素化を図ると共に、部品点数の削減にも寄与することができる。
【0018】
請求項3に係る発明では、パネル部材は、左右のアーム間の内寄りに屈曲点を有し、この屈曲点は、左右のラップ部よりも後方に位置している。パネル部材が車両前方へ向かって変位することにより、アームに重ねられるラップ部がアームに接触する。さらにパネル部材が前方へ変位することにより、パネル部材は屈曲点を中心に折れ曲がり、衝突エネルギーを吸収する。
【0019】
パネル部材の車幅方向長さを長くしたり、左右のアーム間の距離を短くしたりする必要もないため、パネル部材近傍の車体のデザインに影響を与えることがなく、また、グローブボックスの容量を小さくしたり、他の部品の配置の自由度を低下させることもない。
【0020】
パネル部材が衝突エネルギーを吸収し続けると、パネル部材は平板状に一直線になり、さらに衝突する前の形状と対称となるまで変位することがある。衝突する前の形状と対称となるまで変位した場合においても、アームにラップ部が重なり合っている。広い範囲においてラップ部をアームに重ね合わせることができ、パネル部材の前方への変位をアームによって確実に受け止めることができる。パネル部材の前方への変位を確実に受け止めることにより、衝突エネルギーを十分に吸収することができる。
【0021】
請求項4に係る発明では、パネル部材は、2個の屈曲点の間の部分が、衝突エネルギーを受けるためのエネルギー受け面に構成されている。エネルギー受け面とラップ部とを個別に設けることで、衝撃エネルギーをエネルギー受け面で確実に受けると共に、ラップ部で確実に衝突エネルギーを吸収することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明に係る車両用乗員膝部保護装置が搭載されている車両を説明する図である。
【図2】図1の2−2線断面図である。
【図3】図1の3部拡大図である。
【図4】乗員の膝がリッドに衝突した場合の作用を説明する図である。
【図5】実施例1に係る車両用乗員膝部保護装置の作用を説明する図である。
【図6】実施例1に係る車両用乗員膝部保護装置のさらなる作用を説明する図である。
【図7】本発明に係るガイド部材を説明する図である。
【図8】本発明に係るアーム及びラップ部の変更例を説明する図である。
【図9】実施例2に係る車両用乗員膝部保護装置の断面図である。
【図10】実施例2に係る車両用乗員膝部保護装置の作用を説明する図である。
【図11】実施例3に係る車両用乗員膝部保護装置の断面図である。
【図12】実施例3に係る車両用乗員膝部保護装置の作用を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本発明の実施の形態を添付図に基づいて以下に説明する。なお、「前」、「後」、「左」、「右」、「上」、「下」は車両の乗員から見た方向に従う。
【実施例1】
【0024】
実施例1に係る車両用乗員膝部保護装置の構造について、図1に基づき説明する。図1に示された車両10は、右ハンドル車を助手席側から見た状態で例示している。シート11は、乗員Mnが座る助手席として例示されている。
【0025】
図1に示すように車両10は、車体12前部において、前のエンジンルーム13と後の車室14とをダッシュボード15にて仕切り、ダッシュボード15の下端に前輪16を覆うホイールハウス18を接合し、このホイールハウス18の下端に対してフロアパネル19の前端を接合したものである。さらに車両10は、車室14の前部において、ダッシュボード15から運転席並びに助手席に臨むインストルメントパネル22を延ばすと共に、上方且つ後方に向かって窓ガラス23が設けられている。インストルメントパネル22の下方には、乗員Mnの荷物を収納するためのグローブボックス30が取付けられている。
【0026】
車体12の前部において、車幅方向に渡って車体メンバ25が掛け渡されている。車体メンバ25は、車幅方向に水平に延びる丸パイプや丸棒等の棒状の固定部材であって、その両端を左右のフロントピラーにボルト止めや溶接等によって固定されているステーである。例えば、ステアリングコラムを支持するためのステアリングホルダである。
【0027】
図2も合わせて参照し、車両10は、乗員Mnの膝Neを保護する車両用乗員膝部保護装置50(以下、単に「保護装置」とする。)を備える。保護装置50は、車体メンバ25から後方に向かって延びている左右のアーム51,51と、これらの左右のアーム51,51に対向して配置されていると共にグローブボックス30のリッド32に収納されているパネル部材52と、このパネル部材52の両端52aに車幅方向で重なるよう左右のアーム51,51の後端51a,51aから延びているラップ部53,53とからなる。このような保護装置50の詳細を説明する前に、まず、パネル部材52が収納されているグローブボックス30の詳細を説明する。
【0028】
グローブボックス30は、車体12に固定されている軸部材26,26に回転可能に支持されている樹脂製の部材であり、軸部材26,26に取付けられている支持部材31,31と、これらの支持部材31,31の先端に取付けられ乗員Mnの膝Neに対向しているリッド32と、このリッド32の裏面、即ち車両前方側に取付けられ荷物が収納される収納ボックス33とからなる。収納ボックス33に荷物を収納する場合は、図1に示す状態から、支持部材31,31、リッド32及び収納ボックス33を、一体的に時計回り方向に回転させる。
【0029】
図3も合わせて参照し、支持部材31は、本体部35に楕円形状の穴が開けられており、この楕円形状の穴の一部に内周面からさらに内周に向かって突出する突出部36,36が形成されている。これらの突出部36,36によって、楕円形状の穴は、支持穴37とガイド穴38との互いに連通する2つの穴に分けられている。支持穴37は、軸部材26の外周面に沿って円形状に形成されている穴である。ガイド穴38については詳細を後述する。支持穴37の端部に、樹脂が連続しない欠肉部39が形成されている。欠肉部39を上下に撓ませながら、軸部材26に支持部材31を押し付けることで、支持部材31を軸部材26に取付けることができる。
【0030】
図1及び図2に戻り、リッド32は、裏面に支持部材31,31及び収納ボックス33が取付けられていると共に膝Neに向かって凸状の略円弧状の第1の部材41と、この第1の部材41に縁部が接合されていると共に第1の部材41に沿わせて略円弧形状を呈する第2の部材42とからなる。これらの第1の部材41と第2の部材42とでパネル部材52を挟み込んでいる。
【0031】
収納ボックス33は、側方から見た場合に、上部に位置する開口部45の車両前後方向の長さに対して、下部に位置する底部46の前後方向の長さが短いと共に、略台形状を呈している。膝Neがリッド32に衝突した際に、収納ボックス33を破壊して衝突エネルギーを吸収することができるよう、収納ボックス33の側面33aに溝状の脆弱部47,47が形成されている。次に、保護装置50の詳細を説明する。
【0032】
保護装置50のアーム51は、平面視略L字状の金属製の部材であり、車体メンバ25に基部55が溶接され、この基部55から一体的に主要部56が後方に向かって延びている。一対の主要部56,56の間にグローブボックス30の収納ボックス33が配置されている。主要部56には、収納ボックス33に近づく方向に向かって突出するよう、ビード部56aが形成されている。剛性を高めるためのビード部56aを、収納ボックス33に近づく方向に向かって突出させることにより、収納ボックス33とアーム51との間のスペースを有効に利用しつつ、主要部の強度・剛性を得ることができる。
【0033】
アーム51の後端51aには、パネル部材52から受ける衝突エネルギーに従って前方へ変位する左右のラップ部53,53が設けられている。これら左右のラップ部53,53は、左右のアーム51,51の後端51a,51aからパネル部材52の裏面52bへ向かって後方に延びつつ、後方へ延びるにつれてラップ部53,53同士が互いに向かい合う方向へ傾いている。左右のラップ部53,53の後端53a,53aは、パネル部材52の車幅方向の両端52a,52aの直ぐ前に位置するとともに、両端52a,52aに対して車幅方向に重なっている。
【0034】
左右のラップ部53,53は、左右のアーム51,51の後端51a,51aから屈曲して一体に形成されている。即ち、アーム51及びラップ部53は、所定の形状に形成された1枚の鋼板を折り曲げることで形成される。ラップ部53は、衝撃を吸収するためにアーム51の後端51aを中心に回転するように折れ曲がる。即ち、アーム51の後端51aは折れ点である。アーム51にビード部56aが形成され、剛性が高められていることにより、衝撃吸収時に確実にラップ部53のみを回転させることができる。
【0035】
パネル部材52は、鋼板製の矩形の板であり、アーム51,51の真後ろ且つ車幅方向で左右のアーム51,51間に位置するとともに車幅方向へ延び、シート11に着座している乗員Mnの膝Neに対向している。このような保護装置50の作用を次図以降で説明する。
【0036】
図4に示すように、車両10が衝突すると、衝突の衝撃により乗員Mnが前方へ移動し、乗員Mnの膝Neがリッド32(パネル部材52)に衝突する。乗員Mnの膝Neがリッド32に衝突することにより、乗員Mnと共にパネル部材52が車両10前方(図面左側)へ変位する。即ち、パネル部材52は、乗員Mnの膝Neから作用した衝突エネルギーに従って、アーム51の後端51aに向かうように車体12前方へ変位する。
【0037】
図5は、比較例に係る保護装置100と実施例に係る保護装置50とを平面から見た状態で比較する図である。図5(a)及び図5(b)に比較例に係る保護装置を示す。図5(a)に示すように、パネル部材101が前方へ変位することにより、このパネル部材101の両端101a,101aに重なっているラップ部102,102に、パネル部材101(又はリッド)が接触する。車体メンバ103に対して略平行に設けられているラップ部102は、パネル部材101がさらに前進することで、アーム105の後端105aを中心にして回転するように変形し、この変形により、衝突エネルギーを吸収する。
【0038】
パネル部材101の長さL10は、ラップ部102の端部102a,102a間の長さL11よりも長い。パネル部材101の長さの方が長いことにより、パネル部材101をラップ部102に接触させることができる。パネル部材101が前進し続けると、図5(b)に示すように、ラップ部102の端部102a,102a間の長さは変位し、ラップ部102の端部102a,102a間の長さが長くなる。パネル部材101の長さL10よりも長くなることにより、ラップ部102はパネル部材101を受けることができなくなる。パネル部材101がラップ部102から外れることにより、ラップ部102による衝突エネルギーの吸収が終了する。
【0039】
図5(c)から図5(e)までに実施例に係る保護装置50を示す。図5(c)に示すように、本発明では、ラップ部53,53は後方に延びるにつれ、互いに近づくよう傾けられている。また、パネル部材52の長さL1は、ラップ部53の後端53a,53a間の長さL2よりも長い。左右のラップ部53,53は後方に延びるにつれ互いに近づくため、図5(d)に示すように、左右のラップ部53,53がアーム51,51に対して垂直方向を向くまでは、パネル部材52が前進するほどパネル部材52とラップ部53,53との重なる量が増加する。即ち、図5(c)から図5(d)においてはラップ部53の後端(図5(d)において端部)53a,53a間の長さがL2から徐々に短くなる。
【0040】
さらにパネル部材52が前進し続けると、図5(e)に示すように、ラップ部53,53は、アーム51,51の後端51a,51aから垂直に延びる軸59を基準として、衝突する前の位置(図5(c)参照)と対称となる位置まで変位する。衝突する前の位置と対称となる位置でのラップ部53の後端(図5(d)において前端)53a,53a間の長さはL2であるため、衝突する前の位置と対称となる位置まで変位した場合においても、パネル部材52にラップ部53,53が重なり合っている。広い範囲においてラップ部53をパネル部材52に重ね合わせることができ、パネル部材52の前方への変位をラップ部53によって確実に受け止めることができる。パネル部材52の前方への変位を確実に受け止めることにより、衝突エネルギーを十分に吸収することができる。
【0041】
加えて、左右のラップ部53,53は、左右のアーム51,51の後端51a,51aから屈曲して一体に形成されている。左右のアーム51,51の後端51a,51aから屈曲している部位が回転の中心となり、ラップ部53,53が折れ曲がりながら衝突エネルギーを吸収する。構成の簡素化を図ると共に、部品点数の削減にも寄与することができる。さらに、本発明によれば次図において説明するような効果を得ることもできる。
【0042】
図6は比較例に係る保護装置110と実施例に係る保護装置50とを側方から見た状態で比較する図である。図6(a)及び図6(b)に比較例に係る保護装置を示す。図6(a)に示される比較例に係る保護装置110は、車体メンバ111にアーム112が固定されていると共に、このアーム112の先端からパネル部材113に向かってラップ部114が延びている。アーム112とラップ部114とが、側面視で略V字形状を呈する。
【0043】
このような保護装置110においては、パネル部材113が前進し、ラップ部114が潰れながら衝撃を吸収する。図6(b)に示すように、アーム112にラップ部114が接触する位置まで、ラップ部114によって、衝突エネルギーを吸収することができる。
【0044】
図6(c)から図6(e)までに実施例に係る保護装置50を示す。図6(c)に示すように、実施例に係る保護装置50では、まず、ラップ部53は、パネル部材52に押されながら図6(d)に示すように、アーム51と側面視で重なる位置まで回転する。さらに、図6(e)に示すように、アーム51よりも前方の位置においても衝突エネルギーを吸収し続ける。
【0045】
即ち、本発明に係る保護装置50は、比較例に係る保護装置110に比べ、より広い範囲で衝突エネルギーを吸収することができる。即ち、本発明に係る保護装置50のエネルギー吸収量は、非常に大きいということができる。パネル部材52のガイド機構の作用を次図において詳細に説明する。
【0046】
図7(a)に示すように、乗員の膝(図4、符号Ne)がリッド32、即ちパネル部材52に接触すると、接触の衝撃でパネル部材52は前進する。パネル部材52が前進することにより、パネル部材52を支持している支持部材31も前進し、突出部36,36が軸部材26に乗り上げる。
【0047】
図7(b)に示すように、継続してパネル部材52に衝撃が加わることにより、突出部36,36は軸部材26を乗り越える。乗り越えた後は、ガイド穴38内に軸部材26が位置することにより、パネル部材52の変位する方向が規制される。
【0048】
即ち、パネル部材52を支持する支持部材31は、車体に固定された軸部材26に支持され、車両の衝突前の状態においてパネル部材52を前後方向に移動不能に支持する支持穴37と、車両の衝突後にパネル部材52の前方への変位をガイドするガイド穴38とを有し、乗員の衝突による衝撃により軸部材26を乗り越える突出部36を介して、支持穴37とガイド穴38とが連通されている。ガイド穴38を有することにより、膝が衝突した際に、パネル部材52を所定の方向に変位させることができる。このような保護装置50の変更例について次図で説明する。
【0049】
図8に示すように、アーム61とラップ部63とを別部材で形成することによっても、本発明に係る効果を得ることができる。より具体的には、ラップ部63は、ヒンジ軸67を介してアーム61に回動可能に支持されていると共に、ヒンジ軸67に、ラップ部63の先端63aを開く方向に付勢するコイルばね68が取り付けられている。パネル部材52は、開く方向に付勢されるラップ部63に抗して、前方に向かって変位する。
【0050】
即ち、アーム61及びラップ部63が、1枚板によって形成されていない場合であっても、パネル部材52を確実にラップ部63に接触させ、確実に衝突エネルギーを吸収することができる。本発明の別実施例について次図以降で説明する。
【実施例2】
【0051】
次に、本発明の実施例2を図面に基づいて説明する。
図9は実施例2の保護装置の断面構成を示し、上記図2に対応させて表している。
図9に示されるように、保護装置70は、一対のアーム71,71の後方に、後方に向かって突出する略V字形状のパネル部材72を設け、このパネル部材72の各辺が、アーム71,71の後端71a,71aに車幅方向で重なるラップ部73,73とされている。これらのラップ部73,73の接続点は、衝突エネルギーに従って折れ曲がる屈曲点75とされている。屈曲点75は、車幅方向でアーム71とアーム71の略中央に1つ形成されている。
【0052】
パネル部材72を囲うリッド77には、略V字状の脆弱部78,78がパネル部材72の表面側及び裏面側の両面に1つずつ、それぞれ面の上端から下端に渡って形成されている。脆弱部78は、他の部位よりも脆弱な部位であり、破壊の基点となると共に、屈曲点75の位置に合わせて形成されている。リッド77が脆弱部78で割れることにより、このリッド77に内蔵されるパネル部材72は、衝撃を吸収しながら変形することができる。即ち、脆弱部78によってリッド77のみが割れ、パネル部材72は割れない。パネル部材72の変形については、詳細を後述する。
【0053】
パネル部材72の車幅方向の両端72a,72aは、左右のアーム71,71の後端71a,71aの真後ろに位置するとともに、左右のアーム71,71の後端71a,71aに対して車幅方向に重なった、ラップ部73,73であり、パネル部材72は、左右のアーム71,71間の内寄りに位置するとともに衝突エネルギーに従って折れ曲がる屈曲点75を有し、この屈曲点75は、左右のラップ部73,73よりも後方に位置している。このような保護装置70の作用について次図で説明する。
【0054】
図10(a)に示すように、乗員の膝から受ける衝撃によりパネル部材72(リッド)が前進する。パネル部材72の車幅方向の長さL3は、アーム71とアーム71との間の長さL4に比べて長いため、パネル部材72が前進することにより、ラップ部73,73がアーム71,71に接触する。接触した後もさらに衝突エネルギーが加わることにより、ラップ部73,73がアーム71,71の後端部を滑るように変位すると共に、パネル部材72中央の屈曲点75が前方に変位する。
【0055】
図10(b)に示すように、屈曲点75が前方に向かって変位することにより、パネル部材72は、直線形状に変形する。変形した後も衝突エネルギーを吸収し続けることで、さらに屈曲点75が前方に向かって変位する。図10(c)に示すように、屈曲点75が変位し続けることにより、パネル部材72は、衝突前の形状(図10(a)参照)に対して対称になる。
【0056】
衝突する前の形状と対称となるまで変位した場合においても、アーム71,71にラップ部73,73が重なり合っている。広い範囲においてラップ部73,73をアーム71,71に重ね合わせることができ、パネル部材72の前方への変位をアーム71,71によって確実に受け止めることができる。パネル部材72の前方への変位を確実に受け止めることにより、衝突エネルギーを十分に吸収することができる。このような保護装置70の更なる別実施例について次図で説明する。
【実施例3】
【0057】
次に、本発明の実施例3を図面に基づいて説明する。
図11は実施例3の保護装置の断面構成を示し、上記図2に対応させて表している。
図11に示されるように、保護装置80は、一対のアーム81,81の後方にパネル部材82が配置されていると共に、このパネル部材82の両端であって、アーム81,81に重なる部位にラップ部83,83が形成されている。
【0058】
パネル部材82についてより詳細に説明すると、パネル部材82は、車幅方向で一対のアーム81,81の間に配置され衝突時に乗員の膝を受けるエネルギー受け面84と、このエネルギー受け面84の両端から一体的に前方且つ互いに離れる方向に向かってラップ部83,83が延びている。これらのエネルギー受け面84とラップ部83,83とは、衝撃吸収時に衝突エネルギーに従って折れ曲がる屈曲点85,85を介して一体的に形成されている。即ち、屈曲点85,85は、車幅方向に離間して2個有り、パネル部材82は、2個の屈曲点85,85の間の部分が、衝突エネルギーを受けるためのエネルギー受け面84に構成されている。エネルギー受け面84は、車幅方向に沿って配置されている。
【0059】
パネル部材82を囲うリッド87には、略V字状の脆弱部88が、パネル部材82の表面側及び裏面側の両面に複数形成されている。それぞれの面の上端から下端に渡って形成されている脆弱部88は、他の部位よりも脆弱な部位であり、破壊の基点となると共に、屈曲点85,85の位置に合わせて形成されている。このような保護装置80の作用について次図で説明する。
【0060】
図12(a)に示すように、乗員の膝から受ける衝撃によりパネル部材82(リッド)が前進する。パネル部材82の車幅方向の長さL5は、アーム81とアーム81との間の長さL6に比べて長いため、パネル部材82が前進することにより、ラップ部83,83がアーム81,81に接触する。接触した後もさらに衝突エネルギーが加わることにより、ラップ部83,83がアーム81,81の後端部を滑るように変位すると共に、パネル部材82中央の屈曲点85が前方に変位する。
【0061】
図12(b)に示すように、屈曲点85が前方に向かって変位することで、パネル部材82は、直線形状に変形する。変形した後も衝突エネルギーを吸収し続けることで、さらに屈曲点85が前方に向かって変位する。図12(c)に示すように、屈曲点85が変位し続けることにより、パネル部材82は、衝突前の形状(図12(a)参照)に対して対称になる。
【0062】
このような保護装置80においても、本発明に係る効果を得ることができる。特に、屈曲点85,85を2個形成した場合には、以下のような効果を得ることができる。即ち、パネル部材82は、2個の屈曲点85,85の間の部分が、衝突エネルギーを受けるためのエネルギー受け面84に構成されている。エネルギー受け面84とラップ部83,83とを個別に設けることで、衝撃エネルギーをエネルギー受け面84で確実に受けると共に、ラップ部83,83で確実に衝突エネルギーを吸収することができる。
【0063】
尚、本発明に係る車両用乗員膝部保護装置は、助手席に設ける場合を例に説明したが、運転席のハンドルの下部に適用することも可能であり、助手席のグローブボックスを利用する形式に限られない。
【産業上の利用可能性】
【0064】
本発明の車両用乗員膝部保護装置は、運転席や助手席の乗員の膝の保護に好適である。
【符号の説明】
【0065】
10…車両、11…シート、12…車体、25…車体メンバ、50,70,80…車両用乗員膝部保護装置、51,61,71,81…アーム、52,72,82…パネル部材、53,63,73,83…ラップ部、75,85…屈曲点、84…エネルギー受け面、Mn…乗員、Ne…膝。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
車体の前部に位置して車幅方向へ延びている車体メンバから、後方へ延びるとともに、車幅方向に所定間隔設けて配置された左右のアームと、
これら左右のアームの後方に位置するとともに車幅方向へ延び、シートに着座している乗員の膝に対向することが可能なパネル部材と、から成り、
このパネル部材は、前記乗員の膝から作用した衝突エネルギーに従って、前記左右のアームの後端に向かうように車体前方へ変位することが可能な車両用乗員膝部保護装置において、
前記左右のアームの後端には、前記パネル部材から受ける前記衝突エネルギーに従って前方へ変位する左右のラップ部が設けられ、
これら左右のラップ部は、前記左右のアームの前記後端から前記パネル部材の裏面へ向かって後方に延びつつ、後方へ延びるにつれてラップ部同士が互いに接近する方向へ傾いており、
前記左右のラップ部の後端は、前記パネル部材の車幅方向の両端部の前方に位置するとともに、前記パネル部材の車体前方への変位によって前記両端部と接触可能なよう前記両端部に対して車幅方向に重なっていることを特徴とする車両用乗員膝部保護装置。
【請求項2】
左右のラップ部は、前記左右のアームの前記後端から屈曲して一体に形成されていることを特徴とする請求項1記載の車両用乗員膝部保護装置。
【請求項3】
車体の前部に位置して車幅方向へ延びている車体メンバから、後方へ延びるとともに、車幅方向に所定間隔設けて配置された左右のアームと、
これら左右のアームの後方に位置するとともに車幅方向へ延び、シートに着座している乗員の膝に対向することが可能なパネル部材と、から成り、
このパネル部材は、前記乗員の膝から作用した衝突エネルギーに従って、前記左右のアームの後端に向かうように車体前方へ変位することが可能な車両用乗員膝部保護装置において、
前記パネル部材の車幅方向の両端部は、前記左右のアームの後端の後方に位置するとともに、前記パネル部材の車体前方への変位によって前記前記左右のアームの後端と接触可能なよう前記左右のアームの後端に対して車幅方向に重なった、ラップ部であり、
前記パネル部材は、前記左右のアーム間の内寄りに位置するとともに前記衝突エネルギーに従って折れ曲がる屈曲点を有し、
この屈曲点は、前記左右のラップ部よりも後方に位置していることを特徴とする車両用乗員膝部保護装置。
【請求項4】
前記屈曲点は、車幅方向に離間して2個有り、
前記パネル部材は、前記2個の屈曲点の間の部分が、前記衝突エネルギーを受けるためのエネルギー受け面に構成されていることを特徴とする請求項3記載の車両用乗員膝部保護装置。
【請求項1】
車体の前部に位置して車幅方向へ延びている車体メンバから、後方へ延びるとともに、車幅方向に所定間隔設けて配置された左右のアームと、
これら左右のアームの後方に位置するとともに車幅方向へ延び、シートに着座している乗員の膝に対向することが可能なパネル部材と、から成り、
このパネル部材は、前記乗員の膝から作用した衝突エネルギーに従って、前記左右のアームの後端に向かうように車体前方へ変位することが可能な車両用乗員膝部保護装置において、
前記左右のアームの後端には、前記パネル部材から受ける前記衝突エネルギーに従って前方へ変位する左右のラップ部が設けられ、
これら左右のラップ部は、前記左右のアームの前記後端から前記パネル部材の裏面へ向かって後方に延びつつ、後方へ延びるにつれてラップ部同士が互いに接近する方向へ傾いており、
前記左右のラップ部の後端は、前記パネル部材の車幅方向の両端部の前方に位置するとともに、前記パネル部材の車体前方への変位によって前記両端部と接触可能なよう前記両端部に対して車幅方向に重なっていることを特徴とする車両用乗員膝部保護装置。
【請求項2】
左右のラップ部は、前記左右のアームの前記後端から屈曲して一体に形成されていることを特徴とする請求項1記載の車両用乗員膝部保護装置。
【請求項3】
車体の前部に位置して車幅方向へ延びている車体メンバから、後方へ延びるとともに、車幅方向に所定間隔設けて配置された左右のアームと、
これら左右のアームの後方に位置するとともに車幅方向へ延び、シートに着座している乗員の膝に対向することが可能なパネル部材と、から成り、
このパネル部材は、前記乗員の膝から作用した衝突エネルギーに従って、前記左右のアームの後端に向かうように車体前方へ変位することが可能な車両用乗員膝部保護装置において、
前記パネル部材の車幅方向の両端部は、前記左右のアームの後端の後方に位置するとともに、前記パネル部材の車体前方への変位によって前記前記左右のアームの後端と接触可能なよう前記左右のアームの後端に対して車幅方向に重なった、ラップ部であり、
前記パネル部材は、前記左右のアーム間の内寄りに位置するとともに前記衝突エネルギーに従って折れ曲がる屈曲点を有し、
この屈曲点は、前記左右のラップ部よりも後方に位置していることを特徴とする車両用乗員膝部保護装置。
【請求項4】
前記屈曲点は、車幅方向に離間して2個有り、
前記パネル部材は、前記2個の屈曲点の間の部分が、前記衝突エネルギーを受けるためのエネルギー受け面に構成されていることを特徴とする請求項3記載の車両用乗員膝部保護装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2013−18424(P2013−18424A)
【公開日】平成25年1月31日(2013.1.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−154771(P2011−154771)
【出願日】平成23年7月13日(2011.7.13)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成25年1月31日(2013.1.31)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年7月13日(2011.7.13)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】
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