説明

車両用作動液リザーバ

【課題】一方の液系統が失陥した場合、正常に機能する液系統の液室にて、液面が最大許容斜度で傾斜しても、供給ポートの内端開口が大気に露出しないようにする。
【解決手段】車両用作動液リザーバでは、リザーバ本体11の内部が、車両の左右方向に延びる一対の仕切壁11a、11bによりフロート室Rfを挟んで第1室R1と第2室R2が区画形成され、第1室R1と第2室R2の各底壁11c、11dに供給ポート11e、11fが設けられている。供給ポート11fはリザーバ本体11の車幅方向中央より左方に所定量変位していて、同供給ポート11fを前後・左右で離して囲み内部に作動液を貯留する囲い壁11iが設けられている。囲い壁11iの前方左隅角部(仕切壁11bから前後方向で供給ポート11fより離れた位置にありかつ供給ポート11fから変位側に離れた位置にある部位)には、囲い壁11iの底部内側と底部外側を連通させる連通路Pが設けられている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両用作動液リザーバに関し、例えば、ブレーキマスタシリンダ等の液圧作動機器に採用される車両用作動液リザーバに関する。
【背景技術】
【0002】
この種の車両用作動液リザーバの一つとして、リザーバ本体の内部が、車両の左右方向に延びる一対の仕切壁によってフロート室を挟んで前後に第1室と第2室が区画形成されていて、前記第1室と前記第2室の各底壁に供給ポート(ブレーキマスタシリンダ等の液圧作動機器に作動液を供給可能に接続されている)がそれぞれ設けられているものがあり、例えば、下記特許文献1に示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平11−78853号公報
【0004】
上記した特許文献1に記載されている車両用作動液リザーバが採用される液系統では、第1室の底壁に設けた供給ポートが接続される液系統と、第2室の底壁に設けた供給ポートが接続される液系統が別個に構成されている。このため、何れか一方の液系統が失陥した場合にも、他方の液系統が正常に機能し、正常に機能する液系統において、仕切壁によって区画形成されている液室(第1室または第2室)に適正貯留範囲の最低レベル(液位)の作動液が貯えられる。また、このときには、フロート室の液量も適正貯留範囲の最低レベル(液位)となって、フロート室に設けられている液位(液面)検出装置によって当該液系統の異常が検出される。
【発明の概要】
【0005】
ところで、上記した特許文献1に記載されている車両用作動液リザーバにおいては、各供給ポートを囲む囲い壁が各液室内に設けられてはいるものの、何れか一方の液系統が失陥した場合に、正常に機能する液系統の液室において、その内部の液面が前後方向(車両の急加速・急制動等によるもの)または左右方向(車両の急旋回等によるもの)にて最大許容斜度で傾斜したとき、供給ポートの内端開口が大気に露出しないようにする機能が上記した囲い壁に有るか否かが不明である。このため、ブレーキマスタシリンダ等の液圧作動機器に付設されている液圧ポンプの作動により液圧ポンプに向けてエアーが吸い込まれるおそれがある。なお、かかる課題は、フロート室を挟んで前後に第1室と第2室を区画形成している仕切壁を高くすること(必要最小レベルを高くすること)によって解消することが可能であるが、この場合には、当該リザーバ自体の大型化(嵩高)を招いて、車両への搭載性が悪化するおそれがあり、新たな課題が生じる。
【0006】
本発明は、新たな課題を生じさせることなく、上記した課題を解決すべくなされたものであり、本発明による車両用作動液リザーバは、リザーバ本体の内部が、車両の左右方向(車幅方向)に延びる一対の仕切壁によってフロート室を挟んで前後に第1室と第2室が区画形成されていて、前記第1室と前記第2室の各底壁に供給ポートがそれぞれ設けられている車両用作動液リザーバであって、前記両供給ポートの少なくとも一方が前記リザーバ本体の車幅方向中央より左右方向の何れか一方に所定量変位していて、同供給ポートを前後・左右で離して囲み内部に作動液を貯留するための囲い壁が設けられており、この囲い壁の前記仕切壁から前後方向で前記供給ポートより離れた位置にありかつ前記供給ポートから変位側に離れた位置にある部位に同囲い壁の少なくとも底部内側と底部外側を連通させる連通路が設けられている。
【0007】
本発明の車両用作動液リザーバが採用される液系統では、第1室の底壁に設けた供給ポートが接続される液系統と、第2室の底壁に設けた供給ポートが接続される液系統が別個に構成されていて、何れか一方の液系統が失陥した場合にも、他方の液系統が正常に機能するように構成されている。
【0008】
このため、第1室と第2室の何れか一方にのみ前記囲い壁と前記連通路が設けられている場合において、前記囲い壁と前記連通路が設けられていない液系統が失陥した場合、または、第1室と第2室の両方に前記囲い壁と前記連通路が設けられている場合において、何れか一方の液系統が失陥した場合には、正常に機能する液系統において、仕切壁によって区画形成されている液室(第1室または第2室)に適正貯留範囲の最低レベル(液位)の作動液が貯えられる。また、このときには、フロート室の液量も適正貯留範囲の最低レベル(液位)となって、フロート室に設けられている液位(液面)検出装置によって当該液系統の異常(リザーバ内の液量異常)が検出される。
【0009】
ところで、本発明の車両用作動液リザーバでは、正常に機能する液系統の液室において、その内部の液面が前後方向(車両の急加速・急制動等によるもの)または左右方向(車両の急旋回等によるもの)にて最大許容斜度で傾斜しても、供給ポートを前後・左右で離して囲む囲い壁によって同供給ポートの内端開口が大気(空気)に露出しないようにする液面が確保される。このため、かかる状態では、仮に、同液室から液圧ポンプに所要量の作動液が吸引されても、液圧ポンプに向けてエアーが吸い込まれることはない。なお、正常に機能する液系統の液室において、その内部の液面が前後方向および左右方向にて全く傾斜しない場合には、正常に機能する液系統の液室において、仕切壁によって確保される作動液が連通路を通して囲い壁の内側に流入可能であるため、同液室内の作動液は全量をブレーキマスタシリンダ等の液圧作動機器に供給することが可能である。
【0010】
上記した本発明の実施に際して、前記囲い壁は前後・左右で矩形に形成されていて、この囲い壁の前記仕切壁から前後方向で最も離れた位置にありかつ前記供給ポートから変位側に最も離れた位置にある部位に前記連通路が設けられていることも可能である。この場合には、前記囲い壁が、例えば、円形に形成されている場合に比して、上記した最大許容斜度にて囲い壁の内部に貯留される作動液の液量を多くすることが可能であり、上記した所要量(最大許容斜度の状態にて、液圧ポンプに向けてエアーが吸い込まれることなく、液圧ポンプに吸引される作動液の液量)を多くすることが可能である。この場合において、前記囲い壁の一面が前記仕切壁の一部を兼用していることも可能である。この場合には、囲い壁をシンプルとして安価に構成することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明による車両用作動液リザーバ(作動液が収容されていない状態)の一実施形態を示す図2のA−A線に沿った縦断側面図である。
【図2】図1に示した車両用作動液リザーバのB−B線に沿った横断平面図である。
【図3】図1に示した車両用作動液リザーバの前方液室とフロート室に作動液が収容されている状態の図である。
【図4】図2に示した車両用作動液リザーバの前方液室とフロート室に作動液が収容されている状態の図である。
【図5】図3および図4に示した状態から車両が急加速して内部の液面が後方に最大許容斜度θaで傾斜した状態の作動説明図である。
【図6】図3および図4に示した状態から車両が急減速して内部の液面が前方に最大許容斜度θbで傾斜した状態の作動説明図である。
【図7】図3および図4に示した状態から車両が左方に急旋回して内部の液面が右方に最大許容斜度θcで傾斜した状態の要部作動説明図である。
【図8】図3および図4に示した状態から車両が右方に急旋回して内部の液面が左方に最大許容斜度θdで傾斜した状態の要部作動説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下に、本発明の一実施形態を図面に基づいて説明する。図1および図2は本発明による車両用作動液リザーバ(作動液が収容されていない状態)の一実施形態を示していて、この実施形態の車両用作動液リザーバにおいては、リザーバ本体11の内部が、車両の左右方向(車幅方向)に延びる一対の仕切壁11a、11bによってフロート室Rfを挟んで前後に第1室R1(後方液室)と第2室R2(前方液室)が区画形成されていて、第1室R1と第2室R1の各底壁11c、11dに供給ポート11e、11fがそれぞれ設けられている。各仕切壁11a、11bは、内部に収容される作動液の液面が同一となるように、同一の高さに形成されている。
【0013】
なお、後方のポート11eはタンデム式のブレーキマスタシリンダ(図示省略)の後方ポートに接続され、前方のポート11fはタンデム式のブレーキマスタシリンダ(図示省略)の前方ポートに接続されるように構成されている。また、タンデム式のブレーキマスタシリンダ(図示省略)には、液圧ポンプ(図示省略)が付設されていて、同液圧ポンプの作動により第1室R1と第2室R1に収容されている作動液が液圧ポンプに向けて吸入されるように構成されている。
【0014】
また、リザーバ本体11のフロート室Rfには、液位(液面)検出装置Sが設けられている。液位検出装置Sは、フロート室Rfの液量が適正貯留範囲の最低レベル(液位)となったこと(リザーバ内の液量異常)を検出するものであり、フロート室Rf内に収容したフロート12と、このフロート12の底部に固着したマグネット13と、リザーバ本体11の柱部11gに埋設されているリードスイッチ14等によって構成されている。なお、図1の二点鎖線で示した位置(液位)は、適正貯留範囲の最高レベルを示していて、一対の仕切壁11a、11bより上方では、リザーバ本体11が一つの液室とされている。
【0015】
フロート12は、軸心に貫通孔12aを有していて、円柱状に形成されており、リザーバ本体11に設けた筒状のガイド部11h(第1室R1側にスリットが形成されている)に沿って上下動可能に組付けられている。リードスイッチ14は、フロート室Rfの液量が適正貯留範囲の最低レベルとなって、フロート12が下方位置に移動したときに、マグネット13によって作動されるように構成されていて、そのON作動によってリザーバ内の液量異常が検出されるように構成されている。なお、リザーバ本体11内には、リザーバ本体11の上部に設けた注液口11k(通常はリザーバキャップ(図示省略)が取付けられている)を通して作動液が注入されるように構成されている。
【0016】
ところで、この実施形態においては、両供給ポート11e、11fがリザーバ本体11の車幅方向中央(図2に示した貫通孔12aの軸心)より左方(図2の下方)に所定量W1変位して設けられている。また、リザーバ本体11に、前方の供給ポート11fを前後・左右(図2の左右・下上)で離して囲む囲い壁11iが設けられている。囲い壁11iは、後方の供給ポート11eが接続される液系統が失陥した場合において、その内部の液面が前後方向(車両の急加速・急制動等によるもの)または左右方向(車両の急旋回等によるもの)にて最大許容斜度で傾斜したときにも、内部に所要量の作動液を貯留するためのものであり、前壁部11i1、後壁部11i2、左壁部11i3、右壁部11i4によって前後・左右で矩形に形成されている。
【0017】
この囲い壁11iは、前方の仕切壁11bと同じ高さ(内部の液面が第2室R2内の液面と同じとなる高さ)に形成されていて、後壁部11i2(囲い壁の一面)が、前方の仕切壁11bの一部を兼用している。また、囲い壁11iには、前方の仕切壁11bから前方に最も離れた位置にありかつ供給ポート11fから変位側(左側)に最も離れた位置にある部位(前方左隅角部)に連通路Pが設けられている。連通路Pは、上下方向に延びるスリット状に形成されていて、囲い壁11iの内側と外側を連通させている。
【0018】
上記のように構成したこの実施形態の車両用作動液リザーバが採用される液系統では、第1室R1の底壁11cに設けた供給ポート11eが接続される後方の液系統と、第2室R2の底壁11dに設けた供給ポート11fが接続される前方の液系統が別個に構成されていて、何れか一方の液系統が失陥した場合にも、他方の液系統が正常に機能するように構成されている。
【0019】
このため、図3および図4に示したように、囲い壁11iと連通路Pが設けられていない後方の液系統が失陥した場合、正常に機能する前方の液系統において、仕切壁11bによって区画形成されている第2室R2に適正貯留範囲の最低レベル(液位)の作動液が貯えられる。また、このときには、フロート室Rfの液量も適正貯留範囲の最低レベル(液位)となって、フロート室Rfに設けられている液位(液面)検出装置Sによって当該液系統の異常(リザーバ内の液量異常)が検出される。
【0020】
ところで、この実施形態では、正常に機能する液系統の液室(第2室R2)において、その内部の液面が前後方向(車両の急加速・急制動等によるもの)または左右方向(車両の急旋回等によるもの)にて最大許容斜度(図5のθa、図6のθb、図7のθc、図8のθd)で傾斜しても、供給ポート11fを前後・左右で離して囲む囲い壁11iによって同供給ポート11fの内端開口が大気(空気)に露出しないようにする液面(図5〜図7の仮想線参照)が確保される。
【0021】
このため、かかる状態では、仮に、同液室(第2室R2)から液圧ポンプに所定量の作動液が吸引されても、液圧ポンプに向けてエアーが吸い込まれることはない。なお、正常に機能する液系統の液室(第2室R2)において、その内部の液面が前後方向および左右方向にて全く傾斜しない場合には、正常に機能する液系統の液室(第2室R2)において、仕切壁11bによって確保される作動液が連通路Pを通して囲い壁11iの内側に流入可能であるため、同液室(第2室R2)内の作動液は略全量をブレーキマスタシリンダ等の液圧作動機器に供給することが可能である。
【0022】
また、この実施形態においては、囲い壁11iが前後・左右で矩形に形成されていて、この囲い壁11iの仕切壁11bから前後方向で最も離れた位置にありかつ供給ポート11fから変位側に最も離れた位置にある部位(前方左隅角部)に連通路Pが設けられている。このため、上記した囲い壁(11i)が、例えば、円形に形成されている場合に比して、上記した最大許容斜度にて囲い壁(11i)の内部に貯留される作動液の液量を多くすることが可能であり、上記した所要量(最大許容斜度の状態にて、液圧ポンプに向けてエアーが吸い込まれることなく、液圧ポンプに吸引される作動液の液量)を多くすることが可能である。また、この実施形態においては、囲い壁11iの一面(後壁部11i2)が仕切壁11bの一部を兼用しているため、囲い壁11iをシンプルとして安価に構成することが可能である。
【0023】
上記した実施態様においては、囲い壁11iの一面(後壁部11i2)が仕切壁11bの一部を兼用するように構成して実施したが、囲い壁11iが仕切壁11bとは別個の構成されるようにして実施することも可能である。また、上記した実施態様においては、第2室R2にのみ囲い壁11iと連通路Pを設けて実施したが、第1室R1にのみ囲い壁(11i)と連通路(P)を設けて実施すること、または、第1室R1にも囲い壁(11i)と連通路(P)を設けて実施することも可能である。
【0024】
また、上記した実施態様においては、供給ポート11fをリザーバ本体11の車幅方向中央(図2に示した貫通孔12aの軸心)より左方に所定量W1変位して設け、これに対応して設けた囲い壁11iの前方左隅角部に連通路Pを設けて実施したが、供給ポート(11f)をリザーバ本体(11)の車幅方向中央(図2に示した貫通孔12aの軸心)より右方に所定量変位して設け、これに対応して設けた囲い壁(11i)の前方右隅角部に連通路(P)を設けて実施することも可能である。
【0025】
また、上記した実施態様においては、囲い壁11iを前後・左右で矩形に形成して実施したが、この囲い壁(11i)の形状は適宜設定可能であり、矩形に限定されるものではない。また、上記した実施態様においては、連通路Pをスリット状に形成して実施したが、この連通路(P)は、囲い壁の少なくとも底部内側と底部外側を連通させるものであればよく、例えば、連通孔であってもよく、適宜設定可能である。
【符号の説明】
【0026】
11…リザーバ本体、11a、11b…仕切壁、11c、11d…底壁、11e、11f…供給ポート、11g…柱部、11h…ガイド部、11i…囲い壁、11i1…前壁部、11i2…後壁部、11i3…左壁部、11i4…右壁部、P…連通路、12…フロート、12a…貫通孔、13…マグネット、14…リードスイッチ、S…液位(液面)検出装置、R1…第1室、R2…第2室、Rf…フロート室

【特許請求の範囲】
【請求項1】
リザーバ本体の内部が、車両の左右方向に延びる一対の仕切壁によってフロート室を挟んで前後に第1室と第2室が区画形成されていて、前記第1室と前記第2室の各底壁に供給ポートがそれぞれ設けられている車両用作動液リザーバであって、
前記両供給ポートの少なくとも一方が前記リザーバ本体の車幅方向中央より左右方向の何れか一方に所定量変位していて、同供給ポートを前後・左右で離して囲み内部に作動液を貯留するための囲い壁が設けられており、この囲い壁の前記仕切壁から前後方向で前記供給ポートより離れた位置にありかつ前記供給ポートから変位側に離れた位置にある部位に同囲い壁の少なくとも底部内側と底部外側を連通させる連通路が設けられている車両用作動液リザーバ。
【請求項2】
請求項1に記載の車両用作動液リザーバにおいて、
前記囲い壁は前後・左右で矩形に形成されていて、この囲い壁の前記仕切壁から前後方向で最も離れた位置にありかつ前記供給ポートから変位側に最も離れた位置にある部位に前記連通路が設けられている車両用作動液リザーバ。
【請求項3】
請求項2に記載の車両用作動液リザーバにおいて、
前記囲い壁の一面が前記仕切壁の一部を兼用している車両用作動液リザーバ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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