説明

車両用内装材織編物およびその用途

【課題】強度、耐摩耗性、衝撃吸収性等の物理的特性及び耐候性、耐薬品性等の化学的特性に優れるばかりか、実用に供されている間の難燃性能劣化が非常に小さい車両内装材織編物を提供する。
【解決手段】トリアジン系化合物を0.1〜10重量%含有するポリアミド繊維を構成素材の少なくとも一部に使用した織編物であって、前記ポリアミド繊維が単糸繊度1.5〜100dtex、交絡度(CF値)1.0〜100のマルチフィラメントであることを特徴とする車両用内装材織編物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、航空機、自動車、列車、船舶等の車両用内装材に使用する難燃性の織編物に関するものであり、さらに詳しくは、強度、耐摩耗性、衝撃吸収性等の物理的特性及び耐候性、耐薬品性等の化学的特性に優れるばかりか、実用に供されている間の難燃性能劣化が非常に小さい車両内装材織編物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
現在、航空機、自動車、列車、船舶等の車両用内装材としては、ポリエステル繊維やポリアミド繊維等の合成繊維、ウールなどの天然繊維が使用されているが、なかでも座席シート、天井材、カーテン等の車両内装材には、耐候性、難燃性、耐摩耗性、軽量性等の特性が要求されている。
【0003】
従来、車両内装材に難燃性を付与する方法としては、合成繊維より構成される織編物に、ハロゲン系難燃剤を添加した樹脂や塩化ビニル樹脂等をコーティングする方法が一般に用いられてきた。しかしながら、このように難燃性を後加工により付与する従来の方法では、製品としての価格が上昇するばかりか、燃焼時に発生する有害なガスが人体や環境に対して多大な負荷をもたらすといった問題や製品重量が増えるといった問題を抱えていた。
【0004】
上記問題点の解決を目的とした従来技術としては、例えば、二官能性リン化合物をリン元素量として0.2〜1.5重量%含有したポリエステル中空繊維(例えば、特許文献1参照)が提案されており、このポリエステル中空繊維は、自動車や電車のカーシート等の車両内装資材用素材として好適に使用できるとされている。しかしながら、このポリエステル中空繊維は、繊維素材がポリエステルであるため、タフネスが小さく耐磨耗性に弱いという問題を有していた。
【0005】
また、相対粘度2〜4のポリアミド樹脂98重量部及び平均粒経が5μm未満のトリアジン系難燃剤2〜20重量部を配合したポリアミド樹脂組成物からなる難燃性ポリアミドフィラメント(例えば、特許文献2参照)が提案されており、当該技術によれば、メラミンシアヌレートを5〜8重量部添加することにより、最高強度4.4cN/dtexの難燃性に優れたボリアミドモノフィラメントを得ることが可能であり、このモノフィラメントは、車両、航空機等の内装材として好適に使用できるとされている。しかしながら、当該技術では、単糸繊度が太いモノフィラメントにおいては効果を発揮することが予想されるが、近年車両内装材の耐摩耗性向上や柔らかさの向上のために用いられる単糸繊度が細いマルチフィラメントの難燃化については何らの開示も示唆もするものではなかった。
【特許文献1】特開平7−268726号公報
【特許文献2】特開2002−173829号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上述した従来技術における問題点の解決を課題として検討した結果達成されたものであり、強度、耐摩耗性、衝撃吸収性等の物理的特性及び耐候性、耐薬品性等の化学的特性に優れるばかりか、実用に供されている間の難燃性能劣化が非常に小さい車両内装材織編物の提供を目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため本発明によれば、トリアジン系化合物を0.1〜10重量%含有するポリアミド繊維を構成素材の少なくとも一部に使用した織編物であって、前記ポリアミド繊維が単糸繊度1.5〜100dtex、交絡度(CF値)1.0〜100のマルチフィラメントであることを特徴とする車両用内装材織編物が提供される。
【0008】
なお、本発明の車両用内装材織編物においては、
前記ポリアミド繊維のトリアジン系化合物の含有量が0.1〜2重量%であること、
前記トリアジン系化合物の最大粒径が10μm以下、平均粒径が0.1〜5μmであること、
前記トリアジン系化合物がメラミンシアヌレートであること、
前記ポリアミド繊維がさらに銅化合物を銅金属量として10〜500ppm含有すること、および
前記ポリアミド繊維がさらに有機または無機顔料を0.1〜1重量%含有すること
が、いずれも好ましい条件として挙げられ、これら車両用内装材織編物は、なかでも特に車両用座席シートおよび車両用カーテンとしての用途に適用した場合に最良の効果を発現する。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、以下に説明するとおり、強度、耐摩耗性、衝撃吸収性等の物理的特性及び耐候性、耐薬品性等の化学的特性に優れるばかりか、実用に供されている間の難燃性能劣化が非常に小さい車両内装材織編物を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下に、本発明を具体的に説明する。
【0011】
本発明の車両内装材織編物を構成する繊維としては、耐薬品性、耐磨耗性に優れ、高タフネスを有するポリアミド繊維であることが必須である。ポリアミド繊維を車両内装材織編物の構成素材の少なくとも一部に用いることにより、アルカリ環境下や摩擦環境下においても劣化し難く、長期にわたって使用が可能な車両内装材織編物を得ることができる。
【0012】
本発明におけるポリアミドとしては、アミノカルボン酸やそのラクタムから重縮合されるナイロン4、ナイロン6、ナイロン11や、ジカルボン酸とジアミドの重縮合で得られるポリナイロン4−6、ナイロン6−6、ナイロン6−10等の公知のポリアミド等を用いることができる。また、ポリアミド繊維には、本発明の効果を阻害しない範囲、好ましくは10重量%以下であれば、共重合化合物や異種ポリマ等を含有しても良いし、耐光剤、防炎剤、顔料、難燃剤、艶消剤、滑剤等の各種添加剤を用いても良い。
【0013】
本発明の車両内装材織編物に用いるポリアミド繊維の単糸断面は、丸断面以外にも、異型断面であっても良く、異形断面形状としては扁平型、三角型、C型、Y型、団子型、中空型、あるいはそれらの組合せ等を例示することができるがこれに限られるものではない。
【0014】
本発明の車両内装材織編物を構成するポリアミド繊維の交絡度(CF値)は、1.0〜100であることが必要である。交絡度が1.0未満の場合には、高次加工における工程通過性が悪くなるため好ましくない。また、交絡度が100より大きい場合には、ループが発生しやすく、安定して高次加工を行うことが困難である。
【0015】
本発明の車両内装材織編物に用いるポリアミド繊維は、トリアジン系化合物を0.1〜10重量%、好ましくは0.1〜4.5重量%、さらに好ましくは0.4〜2重量%含有することが、優れた難燃特性を発現するために必要である。ポリアミドマルチフィラメントに含まれるトリアジン系化合物の含有量が0.1重量%未満では、必要とされる難燃性が得られず、逆に10重量%を越える場合には、難燃性効果が飽和し、むしろ強度が低下したり、糸切れや毛羽が発生して製糸の収率が低下したりしてしまうため好ましくない。
【0016】
本発明で用いるトリアジン系化合物としては、メラミン類やシアヌル酸類、またメラミン類とシアヌル酸類の付加物等が挙げられる。シアヌル酸類としては、シアヌル酸やイソシアヌル酸は勿論のこと、エノール形、ケト形を問わずトリメチルシアヌレート、トリエチルシアヌレート、メチルシアヌレート、ジエチルシアヌレート、トリノルマルプロピルシアヌレートなどのシアヌル酸誘導体を用いることができる。また、シアヌル酸類は水和物であっても無水物であってもよい。メラミン類としては、メラミンは勿論のこと、アンメリド、アンメリン、ホルモグアナミン、グアニルメラミン、シアノメラミン、アリルグアナミン、メラム、メレム、リン酸メラミン等を例示することができる。メラミン類とシアヌル酸類との付加物としては、メラミンとイソシアヌル酸の付加物であるメラミンシアヌレートを例示することができるが、前記メラミン類とシアヌル酸類の付加物、好ましくは等モル付加物であれば種類を限定されるものではない。また、例えばメラミン類とシアヌル酸類の水溶液を混合して両者の塩を形成させた後、濾過して得られるメラミン類とシアヌル酸類の塩には未反応のメラミン類やシアヌル酸類が含まれていても良い。
【0017】
これらトリアジン系化合物難燃剤のうちでも、シアヌル酸、イソシアヌル酸、メラミン、メラミシアヌレートが好ましく用いられ、特にメラミンシアヌレートが難燃性発現および加工性の面から最も好ましく用いられる。
【0018】
本発明の難燃性ポリアミドマルチフィラメントに添加するトリアジン系化合物は、その平均粒径が0.1〜5μmであることが好ましく、さらに好ましくは0.1〜4μm、最も好ましくは0.1〜2.4μmである。粒子径が0.1μm未満のトリアジン系化合物をポリアミドポリマに添加しても、ポリアミド繊維中では二次凝集によって0.1μm以上、かえって5μmを越える凝集粒子となるため、車両内装材として必要な物性の難燃性ポリアミド繊維を収率よく製造することが難しい。
【0019】
トリアジン系化合物の最大粒径としては10μm以下が好ましく、さらに好ましくは8μm以下である。本発明の車両内装材織編物に用いるようなマルチフィラメントにトリアジン系化合物を使用する場合に、トリアジン系化合物の最大粒径が10μmを超えると、車両内装材織編物用に好適な物性の繊維を安定して得ることが困難となる。
【0020】
上記したような平均粒径や最大粒径を有するトリアジン系化合物は、トリアジン系化合物をボールミル等で粉砕した後、篩で分級するなどの方法で得ることができる。
【0021】
また、本発明の車両内装材織編物に柔軟性を持たせるために、ポリアミド繊維は単糸繊度が1.5〜100dtexのマルチフィラメントであることが必要である。
【0022】
本発明で特筆すべき技術的特徴は、最大粒径が前記範囲内にあるトリアジン系化合物を用いることで、単糸繊度が本発明の範囲を満足するマルチフィラメントであっても製糸性良く高強度なポリアミド繊維を得ることが可能となること、及びトリアジン系化合物を含有し、且つ単糸繊度が本発明の範囲を満足するポリアミド繊維において、単糸繊度が太い繊維と比較して繊維表面積が大きくなるため、車両内装材燃焼時に難燃剤であるトリアジン系化合物と炎との接触面積が増加し優れた難燃効果を発現することにある。このため、本発明のポリアミド繊維の単糸繊度は1.5〜100dtex、好ましくは1.5〜80dtex、さらに好ましくは3〜60dtexであることが必要である。単糸繊度が1.5dtex未満の場合には、トリアジン系化合物の大きさと比較して単糸太さが細くなり、繊維製造工程で毛羽や糸切れが発生する可能性がある。また、単糸繊度が100dtexを超える場合には、得られる車両内装材織編物の風合いが堅くなる可能性がある。
【0023】
また、本発明の車両内装材織編物に用いるポリアミド繊維に添加するトリアジン系化合物とともに、各種の難燃剤を併用することによって、さらに難燃性を向上させることができる。併用する好ましい難燃剤としては、次亜リン酸アルカリ金属又は次亜リン酸土類金属塩、例えば、次亜リン酸ナトリウム、次亜リン酸カリウム、次亜リン酸カルシウム、次亜リン酸バリウム、次亜リン酸マグネシウム、次亜リン酸アルミニウム、及び水酸化アルミニウムと水酸化マグネシウム等が挙げられ、これらの添加量としては、通常0.1〜10重量%、好ましくは0.5〜3重量%である。
【0024】
さらに、本発明の車両内装材織編物の耐候劣化及び耐熱強力劣化を防ぐためには、ボリアミド繊維が銅化合物を銅金属量として10〜500ppm含有することが好ましい。銅金属量10ppm未満の場合には、銅化合物による耐候・耐熱性向上効果が低く、銅金属量が500ppmを超える場合には、銅化合物が異物となり製糸性が悪化する危険性を有している。含有する銅金属量としては20〜300ppmが好ましく、30〜250ppmがより好ましい。銅化合物として、沃化銅、塩化銅、臭化銅等を例示することができるがこれに限られるものではなく、従来知られた無機及び有機銅塩や銅金属単体を用いることができる。
【0025】
また、ポリアミド繊維は銅化合物に加えて他の耐熱剤を含有してもよい。耐熱剤としてはアミン化合物、メルカプト化合物、リン系化合物、ヒンダードフェノール化合物、ハロゲン化合物、ハロゲン化アルカリ金属、ハロゲン化アルカリ土類金属等があげられるが、これに限られるものではなく、また、これらを2種類以上組み合わせたものでも良い。アミン系化合物としては、N, N' −ジフェニル−p−フェニレンジアミン、ジアリル−p−フェニレンジアミン、ジ−β−ナフチル−p−フェニレンジアミン等を例示することができ、メルカプト化合物としては2−メルカプトベンゾイミダゾール、2−メルカプトチアゾールが例示でき、リン系化合物としてはステアリルフォスフェート、亜リン酸またはその塩等の有機・無機リン酸等を例示できるがこれらに限られるものではなく、銅化合物と前記耐熱剤は別々に添加しても良いし、錯体を形成させて添加しても良い。銅化合物とともに加える耐熱剤としてはメルカプト化合物が好ましく、特に2−メルカプトベンゾイミダゾールを組み合わせることが好ましい。その時のメルカプト化合物添加量としては300〜3000ppmであることが、熱酸化劣化防止性および製糸性の観点から好ましい。
【0026】
ポリアミド繊維の硫酸相対粘度は3〜4.5の範囲であることが好ましい。硫酸相対粘度が4.5を超える高重合度のポリカプラミド繊維を生産性良く安価に得ることは現在の技術では難しい。また、硫酸相対粘度が3未満の場合には所望の強度の繊維が得難いばかりか、長時間の保管時に物性の低下が大きくなる可能性を有している。
【0027】
上記した本発明の条件を満足していれば、ポリアミド繊維の伸度や沸水収縮率等の諸物性にとくに決まりは無い。
【0028】
また、本発明の車両内装材織編物に用いるポリアミド繊維は、さらに有機または無機顔料を0.1〜1重量%含有することが好ましく、より好ましい範囲は0.2〜0.8重量%である。ポリアミド繊維を原着化することにより、染色の必要が無く、低コストで染色廃液が発生しない等の利点が得られ、環境に与える負荷の小さい車両内装材を得ることが可能となる。添加する顔料の種類に特に限定はなく、カーボンブラック等の公知の無機および有機顔料を添加することが可能である。また、顔料を添加したポリアミド繊維を用いた車両内装材織編物は、耐候性が向上するという利点も有している。顔料添加量が0.1重量%未満の場合には、求める色調を有する繊維を得られない可能性がある。また、添加量が1重量%を超える場合には、顔料が異物となって繊維製造工程で製糸性良く得ることができない可能性がある。
【0029】
次に、本発明の車両用内装材織編物に用いるポリアミド繊維の製造方法の一例を説明するが、ポリアミド繊維の製造方法はこれに限られるものではない。
【0030】
ポリアミドチップと難燃剤、銅化合物および原着用顔料等との混合は、該ポリアミドの重縮合完了直後から該ポリアミド繊維が紡糸口金から紡出されるまでの任意の段階で混合すれば良い。例えば、重縮合完了直後の溶融ポリアミドに難燃剤等を添加・混練してチップ化した後固相重合し、次いでエクストル−ダー式紡糸機で溶融紡糸・延伸する方法、あるいは乾燥したポリアミドチップに、難燃剤等を混練して溶融紡糸・延伸する方法、あるいは、溶融混練により難燃剤等を高濃度含有させたマスタ−チップを製造し、該マスタ−チップとポリアミドチップを計量混合しながら溶融紡糸・延伸する方法等がある。マスターチップ化した際には紡糸時に2軸エクストルーダー型押し出し機やスタティックミキサー等を用いることが、難燃剤等を微分散させるためには好ましい。
【0031】
口金より紡出した糸条は、冷風等の冷却装置にて冷却固化したのち油剤を付与され、300〜2000m/分で回転する引き取りローラに捲回して一旦巻き取った後、もしくは連続して2段以上の多段で熱延伸を施し、巻取り機にて巻取る。熱延伸温度はポリアミド繊維のガラス転移点−10℃〜−50℃で行い、延伸倍率は、2.5〜7倍の範囲でそれぞれ行い、上記したポリアミドマルチフィラメント繊維の物性となるよう製造する。かくして、車両内装材織編物に用いるポリアミド繊維が得られる。
【0032】
本発明の車両用内装材織編物の製造方法には特に限定は無く、例えば、シャットル織機、シャットルレス織機、トリコット機、ラッセル機等の製造方法を利用することができる。また、その織編組織は平組織、斜文組織、朱子組織、パイル組織、平編、リブ編、ガータ編、デンビー編、コード編、アトラス編等、種々の織編組織から選択することができるが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0033】
次に、本発明の車両内装材織編物の製造方法の一例を示すが、製造方法はこれに限られるものではない。
【0034】
前述の方法で得られたポリアミド繊維を構成素材の少なくとも一部、好ましくは全構成素材の50%以上となるように使用して、所望の目付量となるように経糸および緯糸の織密度を調整してシャトルレス織機を用いて製織する。製織時に付与するワークビームとクロスビーム間の経糸張力には、特に決まりのないものの、好ましい範囲として0.1〜2cN/dtexの範囲を例示することができる。一方、緯糸は原糸チーズから糸条を解舒してから緯糸を打ち込むまでの間で張力を付与するが、そのときの張力範囲には特に決まりはない。また、織編物は必要に応じて染色加工、プリント加工を施してもよく、染色方法や染料は特に限定されるものではない。
【0035】
かくして本発明の車両内装材織編物を得ることができる。
【実施例】
【0036】
以下、実施例によって本発明の態様を更に詳しく説明する。明細書本文および実施例に用いた特性の定義および測定法は次の通りである。
【0037】
[ポリアミドマルチフィラメントの繊度、強度、伸度、沸水収縮率]
JIS L1017(2002)に準拠して測定した。
【0038】
[ポリアミドマルチフィラメントの交絡度]
JIS L1013(1999)に準拠して測定した。
【0039】
[トリアジン系化合物最大粒径および平均粒径]
トリアジン系化合物粉末の最大粒径および平均粒径は以下の2種類の方法を用いて測定できる。
【0040】
(1)粒度分布測定機(SK Laser Micron Sizer:セイシン企業製)を用いて測定し、最大粒径および平均粒径を求めた。
【0041】
(2)トリアジン系化合物粉末をイオンコーター(Eiko Engineering社製 IB−3)を用いて金蒸着した。作成サンプルをSEM(トプコン株式会社製 ABT−55)を用いて観察し、粒子100個の最大直径を測定し、その平均を平均粒径、最も大きい粒子の最大直径を最大粒子径とした。
【0042】
[硫酸相対粘度]
ポリマ試料を98%硫酸に1重量%の濃度で溶解し、オストワルド粘度計を用いて25℃で測定し、次式に従い求めた。
【0043】
硫酸相対粘度(ηr)=(試料溶液の滴下秒数)/(硫酸溶液滴下秒数)
各サンプルにつき2回の測定をおこない、その平均値を採用した。
【0044】
[限界酸素指数(LOI)]
JIS L1091(2002)繊維製品の燃焼性試験方法E法(酸素指数法試験)に準拠して、製織後または編成後の織編物のLOIを測定した。LOIが25以上であれば必要とされる難燃性を満足する。
【0045】
[耐候性試験後のLOI測定]
屋外にて800日放置した織編物を前記限界酸素指数測定法にて測定した。
【0046】
[実施例1]
硫酸相対粘度3.8のナイロンポリマと、平均粒径1.2μmで最大粒径4.5μmのメラミンシアヌレート粉末を10重量%添加したナイロン6マスターポリマとを、計量器で連続的計量しながら、9:1の比率で285℃の2軸エクストルーダー式押出機に連続的に供給し連続的に溶融した。それぞれのポリマには沃化銅を100ppm添加した。
【0047】
溶融ポリマを285℃の配管を通じて8段のスタティックミキサーで混練し、ギヤポンプにて総繊度が1500dtexとなるように計量した後、285℃の紡糸パックに導き、パック内では20ミクロンカットのフィルターを通過させ、孔径0.5mm、孔長1.1mmの単孔が200個開けられた口金より押し出した。
【0048】
紡出糸条を口金下に設けた長さ20cm、雰囲気温度310℃の加熱筒を通過させた後、ユニフロー型チムニーを用いて30℃の冷風を40m/分の速度で吹き付け固化させた後、油剤ローラにて油剤を付与した。油剤を付与した糸条を475m/分の表面速度を有する第1ローラ(非加熱)で巻き取った後、連続して延伸工程に供した。
【0049】
第1ローラを通過した糸条を、速度500m/分の第2ローラ(55℃)、速度1375m/分の第3ローラ(90℃)、速度1800m/分の第4ローラ(155℃)、速度2000m/分の第5ローラ(195℃)、速度1950m/分の第6ローラ(130℃)に連続して供すことにより延伸を行った後、交絡処理装置により3kg/cmの高圧空気を噴射して、交絡度(CF値)20、総繊度1500dtexのナイロン6マルチフィラメントを得た。得られたナイロン6マルチフィラメントの特性を表1に示した。
【0050】
得られたナイロン6マルチフィラメントを経糸および緯糸とし、津田駒製ウォータージェットルーム(ZW303)を用いて、回転速度1000rpmで生地を平組織に製織した。経糸に関しては300m/minの速度で整経し、経糸及び緯糸の織密度をそれぞれ10本/inch、10本/inchとした。得られた生地は乾熱炉にて定長状態で180℃、1分間の熱処理を施し、織物を得た。得られた織物の特性を評価し、結果を表1に示した。
【0051】
[実施例2]
それぞれのポリマに沃化銅を300ppm添加したこと、孔数が20個の口金を用いたこと、および交絡処理装置により8kg/cmの高圧空気を噴射して、交絡度(CF値)60にしたこと以外は、実施例1と同様に行った。
【0052】
得られたナイロン6マルチフィラメントおよび織物の特性を評価し、結果を表1に示した。
【0053】
[実施例3]
それぞれのポリマに沃化銅を50ppm添加したこと、ナイロン6ポリマとナイロン6マスターポリマを2:8の比率で混合して紡糸工程に供したこと、および孔数が20個の口金を用いたこと以外は、実施例1と同様に行った。
【0054】
得られたナイロン6マルチフィラメントおよび織物の特性を評価し、結果を表1に示した。
【0055】
[実施例4]
マスターチップ作製時に平均粒径4.3μmで最大粒径8.1μmのメラミンシアヌレート粉末を用いたこと、および孔数が60個の口金を用いたこと以外は、実施例1と同様に行った。
【0056】
得られたナイロン6マルチフィラメントおよび織物の特性を評価し、結果を表1に示した。
【0057】
[実施例5]
実施例1で得られたナイロン6マルチフィラメントを編成糸とし、カールマイヤー社製、5枚から成る9Gラッセル機(RM−6F)を用いて、生地を製編した。得られた生地は乾熱炉にて定長状態で180℃、1分間の熱処理を施し、編物を得た。得られた織物の特性を評価し、結果を表2に示した。
【0058】
[実施例6]
実施例2で得られたナイロン6マルチフィラメントを実施例5と同様に製編し、編物を得た。得られたナイロン6マルチフィラメントおよび編物の特性を評価し、結果を表2に示した。
【0059】
[実施例7]
実施例3で得られたナイロン6マルチフィラメントを実施例5と同様に製編し、編物を得た。得られたナイロン6マルチフィラメントおよび編物の特性を評価し、結果を表2に示した。
【0060】
[実施例8]
実施例4で得られたナイロン6マルチフィラメントを実施例5と同様に製編し、編物を得た。得られたナイロン6マルチフィラメントおよび編物の特性を評価し、結果を表2に示した。
【0061】
[比較例1]
マスターチップを用いずに、1軸エクストルーダー式押出し機を用いたこと以外は、実施例1と同様に行った。得られた織物を難燃剤(大京化学製 ビゴールNA−7)40%、水58.8%、硬仕上げ剤(住友化学製 Sumitex Resin M-3)1%、触媒(住友化学製 Sumitex Accelerator ACX)0.2%の溶液でピックアップ70%となるようにディップし、140℃で2分間乾燥した。
【0062】
得られたナイロン6マルチフィラメントおよび織物の特性を評価し、結果を表1に示した。
【0063】
[比較例2]
孔数が10個の口金を用いこと、および交絡処理装置にかけず、交絡度を0にした以外は、実施例1と同様に行った。
【0064】
得られたナイロン6マルチフィラメントおよび織物の特性を評価し、結果を表1に示した。
【0065】
[比較例3]
マスターチップ作製時に平均粒径7.2μmで最大粒径13.6μmのメラミンシアヌレート粉末を用いたこと、ナイロン6ポリマとナイロン6マスターポリマを9.95:0.05の比率で混合して紡糸工程に供したこと、交絡処理装置により15kg/cmの高圧空気を噴射して、交絡度(CF値)120にしたこと、および各ローラ速度を、第1ローラ660m/分、第2ローラ695m/分、第3ローラ1470m/分、第4ローラ1850m/分、第5ローラ2250m/分、第6ローラ2150m/分に変更したこと以外は、実施例1と同様に行った。
【0066】
得られたナイロン6マルチフィラメントおよび織物の特性を評価し、結果を表1に示した。
【0067】
[比較例4]
孔数が300個の口金を用い、単糸繊度が1.0dtex、総繊度が300dtexとなるようにポリマの計量を行ったこと以外は、実施例1と同様に行った。
【0068】
得られたナイロン6マルチフィラメントおよび織物の特性を評価し、結果を表1に示した。
【0069】
[比較例5]
表1に示す平均粒経最大粒径を有するメラミンシアヌレート粉末14重量%を溶融ナイロンポリマと混練して得られた硫酸相対粘度3.7のマスターチップのみを用いて紡糸をしたこと、および各ローラ速度を、第1ローラ660m/分、第2ローラ695m/分、第3ローラ1470m/分、第4ローラ1850m/分、第5ローラ2250m/分、第6ローラ2150m/分に変更したこと以外は、実施例1と同様に行った。
【0070】
得られたナイロン6マルチフィラメントおよび織物の特性を評価し、結果を表1に示した。
【0071】
[比較例6]
比較例1で得られたナイロン6マルチフィラメントを実施例5と同様に製編し、編物を得た。得られたナイロン6マルチフィラメントおよび編物の特性を評価し、結果を表2に示した。
【0072】
[比較例7]
比較例2で得られたナイロン6マルチフィラメントを実施例5と同様に製編し、編物を得た。得られたナイロン6マルチフィラメントおよび編物の特性を評価し、結果を表2に示した。
【0073】
[比較例8]
比較例3で得られたナイロン6マルチフィラメントを実施例5と同様に製編し、編物を得た。得られたナイロン6マルチフィラメントおよび編物の特性を評価し、結果を表2に示した。
【0074】
[比較例9]
比較例4で得られたナイロン6マルチフィラメントを実施例5と同様に製編し、編物を得た。得られたナイロン6マルチフィラメントおよび編物の特性を評価し、結果を表2に示した。
れたナイロン6マルチフィラメントおよび織物の特性を評価し、結果を表2に示した。
【0075】
[比較例10]
比較例5で得られたナイロン6マルチフィラメントを実施例5と同様に製編し、編物を得た。得られたナイロン6マルチフィラメントおよび編物の特性を評価し、結果を表2に示した。
【0076】
【表1】

【0077】
【表2】

【0078】
表1および表2の結果から明らかなように、本発明の条件を満足する実施例1〜4および5〜8の織編物は、後加工を施さなくても製織後の難燃性に優れた車両用内装材織編物であり、その難燃性能は劣化試験に供した後においても殆ど変化しない。
【0079】
しかしながら、比較例1および6に示すような、後加工によって難燃性を付与した織編物は、難燃加工直後のLOIは高く難燃性に優れた車両用内装材織物となるものの、屋外に長時間曝露された場合の難燃性低下が激しいものであった。
【0080】
比較例2および7のように、単糸繊度や交絡度が本発明の規定値を満たさない場合には、ポリアミドマルチフィラメントの採取は可能であるものの、ポリアミドマルチフィラメント製造工程において毛羽の発生が多発し、安定的に製織編工程を通過することが困難であった。
【0081】
比較例3および8のように、トリアジン系化合物の含有量が本発明の規定に満たない場合には、必要とされる難燃性が得られず、また、ポリアミドマルチフィラメントの採取は可能であったものの、ポリアミドマルチフィラメント製造工程において毛羽の発生が多発し、安定的に繊維を採取することはできなかった。
【0082】
比較例4および9のように、単糸繊度が本発明の規定を下回る場合には、ポリアミドマルチフィラメント製造工程において毛羽および糸切れが多発し、実用に供するに値するポリアミドマルチフィラメントを得ることができなかった。
【0083】
比較例5および10のように、トリアジン系化合物含有量が本発明の規定を超える場合には、ポリアミドマルチフィラメントの採取は可能であったものの、ポリアミドマルチフィラメント製造工程において毛羽の発生が多発し、安定的に繊維を採取することはできなかった。
【産業上の利用可能性】
【0084】
本発明の車両内装材織編物は、強度、耐摩耗性、衝撃吸収性等の物理的特性及び耐候性、耐薬品性等の化学的特性に優れるばかりか、実用に供されている間の難燃性能劣化が非常に小さいという特性を有していることから、車両用座席シート及び車両用カーテン等の織編物として有効に利用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
トリアジン系化合物を0.1〜10重量%含有するポリアミド繊維を構成素材の少なくとも一部に使用した織編物であって、前記ポリアミド繊維が単糸繊度1.5〜100dtex、交絡度(CF値)1.0〜100のマルチフィラメントであることを特徴とする車両用内装材織編物。
【請求項2】
前記ポリアミド繊維のトリアジン系化合物の含有量が0.1〜2重量%であることを特徴とする請求項1に記載の車両用内装材織編物。
【請求項3】
前記トリアジン系化合物の最大粒径が10μm以下、平均粒径が0.1〜5μmであることを特徴とする請求項1または2に記載の車両用内装材織編物。
【請求項4】
前記トリアジン系化合物がメラミンシアヌレートであることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の車両用内装材織編物。
【請求項5】
前記ポリアミド繊維がさらに銅化合物を銅金属量として10〜500ppm含有することを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の車両用内装材織編物。
【請求項6】
前記ポリアミド繊維がさらに有機または無機顔料を0.1〜1重量%含有することを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の車両用内装材織編物。
【請求項7】
請求項1〜6記載の車両用内装材織編物を用いてなることを特徴とする車両用座席シート。
【請求項8】
請求項1〜6記載の車両用内装材織編物を用いてなることを特徴とする車両用カーテン。

【公開番号】特開2006−307375(P2006−307375A)
【公開日】平成18年11月9日(2006.11.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−130700(P2005−130700)
【出願日】平成17年4月28日(2005.4.28)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】