説明

車両用内装材

【課題】生分解特性に優れ、例えばケミカルリサイクルによって容易に且つ低コストにリサイクルを可能とする。
【解決手段】熱可塑性ポリウレタン樹脂の中でも分子中にエステル結合を有する熱可塑性ポリウレタン樹脂と末端にカルボン酸を有する脂肪族ポリエステル樹脂とを混合することによって、脂肪族ポリエステル樹脂に由来する酸点が上記熱可塑性ポリウレタン樹脂におけるエステル結合を加水分解することができ、その結果、上記熱可塑性ポリウレタン樹脂を低分子化できることを見いだした。本発明に係る車両用内装材は、エステル基を含む熱可塑性ポリウレタン樹脂と、末端にカルボン酸を有する脂肪族ポリエステル樹脂とを含むものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱可塑性ポリウレタン樹脂を含有する組成物により成形加工された車両用内装材に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、環境保護対策の一環として各種樹脂製品のリサイクルが求められており、インスツルメントパネルやドアトリム等の表皮部品といった車両用内装材についてもリサイクル性を向上させることが求められている。ここで、リサイクル性とは、リサイクルの容易さを意味しており、具体的には短時間及び/又は低コストで低分子化することを意味している。
【0003】
熱可塑性ポリウレタン樹脂は、高温高湿条件下において加水分解する。したがって、特許文献1に開示されるように、熱可塑性ポリウレタン樹脂を含む樹脂組成物は、リサイクル性に優れた車両用内装材として着目されている。しかしながら、熱可塑性ポリウレタン樹脂を含む樹脂組成物を用いた車両用内装材は、高温高湿下での静置時間が長く、リサイクル性に優れたものとしての実用化が困難であった。
【0004】
一方、生分解性フィルムなどでは、ポリウレタン樹脂と脂肪族ポリエステル樹脂やポリビニルクロライドとを含む樹脂組成物が利用されている(特許文献2)。しかしながら、特許文献2に開示されるような樹脂組成物は、強度が不十分であり且つ成形性が劣るため、車両用内装材として利用できないといった問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第3942574号
【特許文献2】特公平7−740号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述のように、熱可塑性ポリウレタン樹脂を含む樹脂組成物を用いた成形品において、リサイクル性と強度とを両立させることは困難であり、これらを満足する樹脂組成物を用いた車両用内装材は知られていなかった。そこで、本発明は、ポリウレタン構造を有する樹脂を含有し、生分解特性に優れ、例えばケミカルリサイクルによって容易に且つ低コストにリサイクルすることができ、且つ、優れた強度を達成することができる樹脂組成物を用いた車両用内装材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上述した目的を達成するため、本発明者らが鋭意検討した結果、熱可塑性ポリウレタン樹脂の中でも分子中にエステル結合を有する熱可塑性ポリウレタン樹脂と末端にカルボン酸を有する脂肪族ポリエステル樹脂とを混合することによって、脂肪族ポリエステル樹脂に由来する酸点が上記熱可塑性ポリウレタン樹脂におけるエステル結合を加水分解することができ、その結果、上記熱可塑性ポリウレタン樹脂を低分子化できることを見いだし、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明に係る車両用内装材は、エステル基を含む熱可塑性ポリウレタン樹脂と、末端にカルボン酸を有する脂肪族ポリエステル樹脂とを含むものである。
【0009】
特に本発明に係る車両用内装材は、上記熱可塑性ポリウレタン樹脂又は上記熱可塑性ポリウレタン樹脂と添加剤とを含有する熱可塑性ポリウレタン樹脂組成物と、上記脂肪族ポリエステル樹脂との組成比が重量換算で95:5〜80:20であることが好ましい。
【0010】
また、本発明に係る車両用内装材においては、上記熱可塑性ポリウレタン樹脂と上記脂肪族ポリエステル樹脂とを含む組成物における、上記脂肪族ポリエステル樹脂由来のエステル基の濃度が0.7〜2.8mol/kgであることが好ましい。
【0011】
なお、上記脂肪族ポリエステル樹脂としてはポリヒドロキシアルカン酸を使用することができ、特にポリ乳酸を使用することが好ましい。また、スラッシュ成形により本発明に係る車両用内装材を成形加工することができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、熱可塑性ポリウレタン樹脂を含有し、生分解特性に優れ、且つ強度に優れた車両用内装材を提供することができる。本発明に係る車両用内装材を用いることによって、生分解特性に優れ、低コストでリサイクルすることができる成形品を提供することができる。特に本発明に係る車両用内装材によれば、熱可塑性ポリウレタン樹脂が本来有している機械的特性を維持することができる
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】スラッシュ成形体における脂肪族ポリエステル樹脂の組成比と引裂強度保持率との関係を示す特性図である。
【図2】スラッシュ成形体における脂肪族ポリエステル樹脂の組成比と引裂き物性との関係を示す特性図である。
【図3】樹脂組成物に含まれる脂肪族ポリエステル樹脂由来のエステル基濃度と分解速度との関係を示す特性図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明に係る車両用内装材についてより詳細に説明する。本発明に係る車両用内装材は、エステル基を含む熱可塑性ポリウレタン樹脂と、末端にカルボン酸を有する脂肪族ポリエステル樹脂とを含むものである。本発明に係る車両用内装材は、上記ポリウレタン樹脂及び上記脂肪族ポリエステル樹脂をそれぞれ粉末の形状で混合した樹脂組成物から製造されても良いし、両者を溶融混合した後にペレット化した樹脂組成物から製造されても良い。以下、各成分について詳述する。
【0015】
エステル結合を有する熱可塑性ポリウレタン樹脂
エステル結合を有する熱可塑性ポリウレタン樹脂とは、例えば、ジイソシアネート成分とポリエステルジオール成分とがウレタン結合によって結合した高分子化合物を意味する。例えば、ジイソシアネート成分とポリエステルジオール成分とを含む反応系に、鎖伸長剤(ジオール、一例として1,4−ブチレングリコール及び/又はジアミン例えばエチレンジアミン)及び必要により反応停止剤(一価アルコール、一級若しくは二級モノアミン、又はモノ−若しくはジ−アルカノールアミン)を加えて反応させることで、エステル結合を有する熱可塑性ポリウレタン樹脂を製造することができる。なお、エステル結合を有する熱可塑性ポリウレタン樹脂を製造する際には、いわゆるプレポリマー法、ワンショット法、セミポリマー法及び擬プレポリマー法から選択されるいずれの方法を適用しても良い。
【0016】
ここで、ジイソシアネートとしては、特に限定されないが、炭素数(NCO基中の炭素を除く、以下同様)6〜20の芳香族ジイソシアネート、炭素数2〜18の脂肪族ジイソシアネート、炭素数4〜15の脂環式ジイソシアネート、炭素数8〜15の芳香脂肪族ジイソシアネート、これらのジイソシアネートの変性体及びこれらの2種以上の混合物が使用できる。具体例としては国際公開WO00/47652号明細書に記載されたものが挙げられる。
【0017】
ポリエステルジオールには、特に限定されないが、ジオール(低分子ジオール及び/又は分子量1000以下のポリオキシアルキレンジオール)とジカルボン酸若しくはそのエステル形成性誘導体又はジカルボン酸無水物及びアルキレンオキサイドとを反応させて得られる縮合ポリエステルジオール、上述のジオールを開始剤として上述のラクトンを開環重合させて得られるポリラクトンジオール、低分子ジオールと低級アルコール(炭素数1〜4)の炭酸ジエステルとを反応させて得られるポリカーボネートジオールなどが含まれる。
【0018】
ポリエステルジオールとしては、例えば、(1)縮合ポリエステルジオール、(2)ポリラクトンジオール、(3)ポリカーボネートジオール、及びこれらの2種以上の併用が挙げられる。上記(1)縮合ポリエステルジオールは、例えばジオール(低分子ジオール及び/又はポリエーテルジオール等)の1種以上とジカルボン酸若しくはそのエステル形成性誘導体[低級アルキル(炭素数1〜4)エステル、酸無水物、ハライド(クロライド等)等]との縮合重合、又は、ジオールとジカルボン酸無水物及びアルキレンオキサイドとの反応により製造することができる。上記(2)ポリラクトンジオールは上記ジオールの1種以上を開始剤としてラクトンを開環重合して得られる。上記(3)ポリカーボネートジオールは上記ジオールとアルキレンカーボネート(エチレンカーボネート)との反応により製造することができる。
【0019】
上記(1)、(2)及び(3)のための原料ジオールのうち低分子ジオールとしては、例えば、脂肪族低分子ジオール類(エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、1,4−ブタンジオール、1,6−ヘキサンジオール等);環状基を有する低分子ジオール類[例えば特公昭45−1474号公報に記載のもの:1,4−ビス(ヒドロキシメチル)シクロヘキサン、m−またはp−キシリレングリコール等];ビスフェノール類のアルキレンオキサイド低モル付加物(数平均分子量500未満);及びこれらの2種以上の併用等を挙げることができ、ポリエーテルジオールとしては、例えば、先に説明したポリエーテルジオールの1種以上等を挙げることができる。好ましいのは1,4−ブタンジオール及び1,6−ヘキサンジオールである。
【0020】
上記(1)のための原料ジカルボン酸としては、例えば、炭素数2〜10の脂肪族ジカルボン酸(コハク酸、アジピン酸、セバシン酸、グルタル酸、アゼライン酸、マレイン酸、フマル酸等)、炭素数8〜12の芳香族ジカルボン酸(テレフタル酸、イソフタル酸等)及びこれらの2種以上の併用等が挙げられる。
【0021】
上記(1)の好ましい例としては、例えば、ポリブチレンアジペートジオール及びポリヘキサメチレンイソフタレートジオール(以下、それぞれPBA及びPHIPと略記)ならびにこれらの併用等を挙げることができる。上記(2)のための原料ラクトンとしては、例えば、γ−ブチロラクトン、γ−バレロラクトン、ε−カプロラクトン及びこれらの2種以上の併用等が挙げられる。
【0022】
エステル結合を有する熱可塑性ポリウレタン樹脂においてエステル結合は、5.4〜7.6mol/kgであることが好ましく、6.3〜7.5mol/kgであることがより好ましい。エステル結合の含有量が上記範囲を下回る場合には、車両用内装材の生分解特性が低下しすぎる虞がある。また、エステル結合の含有量が上記範囲を上回る場合には、車両用内装材の耐久性が劣化する虞がある。
【0023】
また、エステル結合を有する熱可塑性ポリウレタン樹脂の重量平均分子量としては、特に限定されないが、30,000〜300,000であることが好ましく、50,000〜280,000であることがより好ましく、80,000〜250,000であることが最も好ましい。なお、ここで、重量平均分子量は、測定試料をジメチルフォルムアミドに溶解させて、ゲルパーミッションクロマトグラフィーで測定したポリスチレン換算の分子量を意味する。
【0024】
さらに、エステル結合を有する熱可塑性ポリウレタン樹脂としては、添加剤を含有する組成物として使用することもできる。ここで、添加剤としては、例えば、公知慣用の顔料、可塑剤、離型剤、分散剤、無機充填剤、有機充填剤、安定剤、紫外線吸収剤(光安定剤)、酸化防止剤等を挙げることができる。組成物におけるこれら添加剤の配合量は、熱可塑性ポリウレタン樹脂100重量部に対して、0〜34重量部が好ましく、より好ましくは0.05〜20重量部である。
【0025】
脂肪族ポリエステル樹脂
脂肪族ポリエステル樹脂としては、分子鎖における少なくとも一方、好ましくは両方の末端がカルボキシル基であり、且つ、加水分解により酸点を生じる化合物であれば特に限定されない。脂肪族ポリエステル樹脂としては、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、ポリ(3−ヒドロキシ酪酸)、ポリ(4−ヒドロキシ酪酸)、ポリ(4−ヒドロキシ吉草酸)、ポリカプロラクトン等の開環重付加系脂肪族ポリエステル、並びに、ポリエステルカーボネート、ポリエチレンサクシネート、ポリブチレンサクシネート、ポリヘキサメチレンサクシネート、ポリエチレンアジペート、ポリブチレンアジペート、ポリヘキサメチレンアジペート、ポリエチレンオキサレート、ポリブチレンオキサレート、ポリヘキサメチレンオキサレート、ポリエチレンセバケート、ポリブチレンセバケート等の重縮合反応系脂肪族ポリエステルが挙げられる。特に、脂肪族ポリエステル樹脂としては、ポリ乳酸、ポリグリコール酸等のポリ(α−ヒドロキシ酸)が好ましく、ポリ乳酸やポリヒドロキシ酪酸等のポリヒドロキシアルカン酸が特に好ましい。
【0026】
脂肪族ポリエステル樹脂の重量平均分子量は、80,000〜300,000であることが好ましく、100,000〜200,000であることがより好ましく、120,000〜170,000であることが最も好ましい。脂肪族ポリエステルの重量平均分子量が80,000未満である場合には、得られる成形体の強度、弾性率等の機械物性が不十分となる虞ある。
【0027】
また、脂肪族ポリエステル樹脂がポリ乳酸を主とする場合、ポリ乳酸におけるL−乳酸単位及びD−乳酸単位の構成モル比L/Dは、100/0〜0/100のいずれであっても良いが、高い融点を得るためにはL−乳酸及びD−乳酸のいずれかの単位を96モル%以上、更に高い融点を得るためにはL−乳酸及びD−乳酸のいずれかの単位を98モル%以上含むことが特に好ましい。その場合の乳酸単位を有する重合体は、乳酸(単量体)又はラクチドと共重合可能な他の成分とが共重合された共重合体であっても良い。共重合可能な他の成分としては、2個以上のエステル結合形成性の官能基を持つジカルボン酸、多価アルコール、ヒドロキシカルボン酸、ラクトン等、及びこれら種々の構成成分よりなる各種ポリエステル、各種ポリエーテル、各種ポリカーボネート等が挙げられる。
【0028】
ジカルボン酸の例としては、コハク酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、テレフタル酸、イソフタル酸等が挙げられる。多価アルコールの例としては、ビスフェノールにエチレンオキサイドを付加反応させたもの等の芳香族多価アルコール、エチレングリコール、プロピレングリコール、ブタンジオール、ヘキサンジオール、オクタンジオール、グリセリン、ソルビタン、トリメチロールプロパン、ネオペンチルグリコール等の脂肪族多価アルコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール等のエーテルグリコール等が挙げられる。
【0029】
ヒドロキシカルボン酸の例としては、グリコール酸、ヒドロキシブチルカルボン酸、その他特開平6−184417号公報に記載されているもの等が挙げられる。ラクトンの例としては、グリコリド、ε−カプロラクトングリコリド、ε−カプロラクトン、ε−プロピオラクトン、δ−ブチロラクトン、β−ブチロラクトン、γ−ブチロラクトン、ピバロラクトン、δ−バレロラクトン等が挙げられる。また、前記共重合体の配列様式は、ランダム共重合体、交互共重合体、ブロック共重合体、グラフト共重合体のいずれであってもよい。
【0030】
また、脂肪族ポリエステル樹脂は、上述した脂肪族ポリエステルを単独で用いてもよいが、それらの2種以上のブレンド物若しくは共重合物であってもよい。このような脂肪族ポリエステルの共重合物としては、乳酸と乳酸以外のヒドロキシ酸とのコポリマーや、ポリブチレンサクシネートアジペート等が挙げられる。また、共重合体の配列様式は、ランダム共重合体、交互共重合体、ブロック共重合体、グラフト共重合体のいずれであってもよい。
【0031】
脂肪族ポリエステルのブレンド物としては、例えばポリ乳酸をベースとするポリ乳酸系樹脂が好ましく、ポリ乳酸にブレンドされる他の樹脂としては、ポリ乳酸以外の前記脂肪族ポリエステル;ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート等の芳香族ポリエステル;ナイロン6、ナイロン6,6、ナイロン6,9、ナイロン6,10、ナイロン6,12、ナイロン11、ナイロン12等のポリアミド等が挙げられる。
【0032】
特に、脂肪族ポリエステル樹脂に含まれるエステル基の濃度は0.7〜2.8mol/kgであることが好ましい。脂肪族ポリエステル樹脂に含まれるエステル基の濃度がこの範囲にある場合、車両用内装材は、例えば引裂き特性等により評価できる機械的強度に優れるとともにリサイクル特性に優れたものとなる。なお、脂肪族ポリエステル樹脂に含まれるエステル基の濃度とは、上述した熱可塑性ポリウレタン樹脂と脂肪族ポリエステル樹脂とを含む組成物において、脂肪族ポリエステル樹脂に由来するエステル基の濃度を意味し、熱可塑性ポリウレタン樹脂に由来するエステル基を含まない意味である。
【0033】
本発明に係る車両用内装材において、上述した熱可塑性ポリウレタン樹脂又は上記熱可塑性ポリウレタン樹脂と添加剤とを含有する熱可塑性ポリウレタン樹脂組成物と、上記脂肪族ポリエステル樹脂との組成比が重量換算で95:5〜50:20であることが好ましい。脂肪族ポリエステル樹脂の組成比が上記範囲を下回ると、エステル結合を有する熱可塑性ポリウレタン樹脂を低分子量化する速度が著しく低下する虞がある。また、脂肪族ポリエステル樹脂の配合比が上記範囲を上回ると、当該樹脂組成物を用いて製造された成形品の機械的特性が著しく低下する虞がある。ここで、機械的特性としては、例えば引裂き物性を挙げることができる。すなわち、脂肪族ポリエステル樹脂の配合比が上記範囲を上回ると、製造された車両用内装材における引裂き物性が著しく低下する虞がある。なお、引裂き物性の評価方法としては、特に限定されないが、例えばJISK 6301(1995年)の引裂試験等を挙げることができる。
【0034】
他の成分
本発明に係る車両用内装材は、上述したエステル結合を有する熱可塑性ポリウレタン樹脂及び脂肪族ポリエステル樹脂からなるものに限定されず、他の成分を含有する物であっても良い。ここで、他の成分としては、公知慣用の顔料、無機充填剤、可塑剤、離型剤、有機充填剤、分散剤、紫外線吸収剤(光安定剤)、酸化防止剤等を挙げることができる。
【0035】
成形方法
以上のように構成された本発明に係る車両用内装材は、従来公知の如何なる成形方法により、所望の形状で製造することができる。具体的に、成形方法としてはスラッシュ成形、押出成形、射出成形、ブロー成形、真空成形及び圧縮成形を挙げることができる。特に、本発明に係る車両用内装材は、スラッシュ成形方法を適用して所望の形状に製造されることが好ましい。
【0036】
例えば、上述した熱可塑性ポリウレタン樹脂及び脂肪族ポリエステル樹脂を含む樹脂組成物が入ったボックスと加熱した金型を共に振動回転させ、パウダーを型内で溶融流動させた後、冷却後、固化させることで、車両用内装材を製造する方法で好適に実施することができる。上記金型温度は好ましくは200〜300℃、さらに好ましくは210〜280℃である。
【0037】
上述したスラッシュ成形方法によれば、例えば厚さ0.5〜1.5mm程度の車両用内装材を製造することができる。なお、得られた車両用内装材は、表面を発泡型に接するようにセットし、ウレタンフォームを流し、裏面に5mm〜15mmの発泡層を形成させて、樹脂成形品とすることができる。ここで、車両用内装材としては、例えばインストルメントパネル、ドアトリム等を挙げることができる。
【0038】
なお、上述した熱可塑性ポリウレタン樹脂及び脂肪族ポリエステル樹脂を含む樹脂組成物を粉末組成物として製造するには、混合装置を用いて各組成の粉末材料を混合する。混合装置としては、公知の粉体混合装置を使用でき、容器回転型混合機、固定容器型混合機、流体運動型混合機のいずれも使用できる。例えば固定容器型混合機としては高速流動型混合機、複軸パドル型混合機、高速剪断混合装置(ヘンシエルミキサー(登録商標)等)、低速混合装置(プラネタリーミキサー等)や円錐型スクリュー混合機(ナウターミキサー(登録商標)等)を使ってドライブレンドする方法が良く知られている。これらの方法の中で、複軸パドル型混合機、低速混合装置(プラネタリーミキサー等)、および円錐型スクリュー混合機(ナウターミキサー(登録商標)等)を使用するのが好ましい。
【0039】
一方、上述した熱可塑性ポリウレタン樹脂及び脂肪族ポリエステル樹脂を含む樹脂組成物をペレットとして製造するには、例えば、これら各樹脂を溶融混合した後、混合した樹脂を押し出すとともに所望の大きさに切断する。ペレット製造装置としては、通常、ペレタイザー(Pelletizer)等の造粒装置を使用することができる。ペレット製造装置によれば、押出機のダイより溶融した樹脂組成物を紐(ストランド)状に押出し、カッティング装置で所望の大きさのペレット状に切断する。
【0040】
以上のように製造された車両用内装材は、その用途に応じた強度を有しながらもケミカルリサイクルにより容易に且つ低コストにリサイクルが可能なものとなる。すなわち、上述した成形品は、ケミカルリサイクルによって容易に低分子量化することができるためリサイクル特性に優れたものとして利用することができる。
【実施例】
【0041】
以下、実施例を用いて本発明をより詳細に説明するが、本発明の技術的範囲は以下の実施例に限定されるものではない。
〔実施例1〕
温度計、撹拌機及び窒素吹込み管を備えた反応容器に、数平均分子量(以下Mnと記す。)が1,000のポリブチレンアジペート(616.2部)、酸化防止剤(1.2部)[チバスペシャリティーケミカルズ(株)製;IRGANOX1010]体積平均径9μmのカオリン(90.7部)[ジョージアエンゲル社製;ASP400P]を仕込み、窒素置換した後、撹拌しながら60℃で均一攪拌した。続いて1−オクタノール(10.4部)、MEK(125.0部)を仕込み、均一攪拌した後、50℃まで冷却し、ヘキサメチレンジイソシアネート(155.3部)を仕込み、90℃で6時間反応させた。60℃まで冷却し、紫外線吸収剤(1.9部)[チバスペシャリティーケミカルズ(株)製;TINUVIN571] とカルボジイミド(13.6部)[日清紡績(株)製;Carbolite V−09M]を仕込み、均一攪拌し、プレポリマー溶液(UP−1)を得た。得られたプレポリマー溶液(UP−1)のNCO含量は、2.1%であった。
【0042】
次に、ヘキサメチレンジアミン(116部)、過剰のメチルエチルケトン(以下、MEKと記す。288部、ジアミンに対して4倍モル量)、n−ヘキサン(29部)を80℃で24時間還流させながら生成水を系外に除去した。その後減圧にて未反応のMEK、n−ヘキサンを除去してMEKケチミン化物(K−1)を得た。
【0043】
次に、反応容器に、上記で得たプレポリマー溶液(UP−1)(100.0部)とMEKケチミン化物(K−1)(5.4部)を混合投入し、そこに分散剤(三洋化成工業(株)製;サンスパールPS−8)(24重量部)を溶解した水溶液300重量部を加え、JANKE&KUNKEL IKA−Labortechnik製;ULTRA−TURRAX T50を用いて回転数5000rpmで1分間混合した。この混合物を温度計、撹拌機及び窒素吹込み管を備えた反応容器に移し、撹拌しながら60℃減圧下で2時間脱MEKを行った。濾別及び乾燥を行い、ポリウレタン樹脂粉末(B−1)を製造した。
【0044】
得られたポリウレタン樹脂粉末(B−1)103.0部、リン酸エステル系可塑剤 [大八化学(株)製;CR741] 11.5部、安定剤[三洋化成工業(株)製;ネオマーDA600]4.0部、光安定剤[チバ・スペシャリティー・ケミカルズ(株)社製;サノールLS765]0.3部、ジメチルポリシロキサン[東レ・ダウコーニング(株)製;SH200(10000)]0.1部、変性ジメチルポリシロキサン[信越化学工業(株)製;X−22−3710ST]0.1部を投入し、70℃で4時間混合した。
【0045】
次いで、室温まで冷却後、植物由来ポリ乳酸樹脂微粉末(A2−1)[三井化学(株)製;LACEA H−400(Mn20,000、とうもろこし由来)]6.3部を投入混合し、スラッシュ成形用樹脂粉末組成物(S−1)を得た。
【0046】
ポリウレタン樹脂粉末(B−1)、リン酸エステル系可塑剤、安定剤、光安定剤、離型剤であるジメチルポリシロキサン、変性ジメチルポリシロキサンからなる熱可塑性ポリウレタン樹脂組成物と、ポリ乳酸樹脂との組成比は95:5であった。
【0047】
<成形シートの作成方法>
予め250℃に加熱したシボ付きNi電鋳型にスラッシュ成形用樹脂粉末組成物(S−1)を流し込み、10秒後余分な着色スラッシュ成形用材料を排出する。室温下で60秒間放置した後、水冷、脱型すると膜厚1mm程度の均一な表皮(スラッシュ成形体)が得られた。
【0048】
〔実施例2〕
本実施例では、エステル結合を有する熱可塑性ポリウレタン樹脂組成物とポリ乳酸樹脂との組成比を90:10とした以外は実施例1と同様にしてスラッシュ成形体を作製した。
【0049】
〔実施例3〕
本実施例では、エステル結合を有する熱可塑性ポリウレタン樹脂組成物とポリ乳酸樹脂との組成比を80:20とした以外は実施例1と同様にしてスラッシュ成形体を作製した。
【0050】
〔実施例4〕
本実施例では、エステル結合を有する熱可塑性ポリウレタン樹脂組成物とポリ乳酸樹脂との組成比を70:30とした以外は実施例1と同様にしてスラッシュ成形体を作製した。
【0051】
〔実施例5〕
本実施例では、エステル結合を有する熱可塑性ポリウレタン樹脂組成物とポリ乳酸樹脂との組成比を50:50とした以外は実施例1と同様にしてスラッシュ成形体を作製した。
【0052】
〔比較例1〕
本比較例では、エステル結合を有する熱可塑性ポリウレタン樹脂組成物とポリ乳酸樹脂との組成比を100:0とし、すなわち上記熱可塑性ポリウレタン樹脂組成物にポリ乳酸樹脂を混合しないで実施例1と同様にしてスラッシュ成形体を作製した。
【0053】
〔低分子量化速度の評価〕
実施例1〜3及び比較例1で作製したスラッシュ成形体について、ケミカルリサイクルによる生分解特性を評価するため、低分子量化速度を比較した。具体的には、スラッシュ成形体を恒温恒湿機中に、温度80℃湿度95%RHで200時間処理した。試験後、表皮の引裂強度を測定して、初期強度と比較した。湿熱老化試験後の引裂強度保持率を下記式で算出した。
引裂強度保持率(%)=(湿熱老化試験後の引裂強度/湿熱老化試験前の引裂強度)×100
結果を表1及び図1に示した。
【0054】
【表1】

【0055】
表1及び図1に示した結果から、エステル結合を有する熱可塑性ポリウレタン樹脂組成物単独の成形品では低分子量化速度が著しく低いためケミカルリサイクルには不適であると評価できる。一方、これと比較して、エステル結合を有する熱可塑性ポリウレタン樹脂組成物と脂肪族ポリエステル樹脂とからなる組成物を用いて作製した成形品では、低分子量化速度が大幅に向上していることが判る。この結果から、エステル結合を有する熱可塑性ポリウレタン樹脂組成物と末端にカルボン酸を有する脂肪族ポリエステル樹脂とからなる組成物を用いて作製した成形品は、ケミカルリサイクルに好適であることが判明した。
【0056】
〔物性評価〕
実施例1〜5及び比較例1で作製したスラッシュ成形体について、成形体としての強度を評価するため引裂き物性を評価した。具体的には、スラッシュ成形体からJISK 6301(1995年)の引裂試験片ダンベルB号形を3枚打ち抜いた。板厚は曲がっている場所の近傍5カ所の最小値をとった。これをオートグラフに取り付け、200mm/minの速さで引っ張り、試験片が破断にいたる最大強度を算出した。
【0057】
結果を図2に示す。図2に示した結果から、樹脂組成物に含まれる脂肪族ポリエステル樹脂の成分比を大きくすればするほど引裂き物性は低下する傾向にある。特に、脂肪族ポリエステル樹脂が20重量%を超えると、エステル結合を有する熱可塑性ポリウレタン樹脂単独からなる成形体の引裂き物性と比較して60%を下回ることが判った。この結果より、上記熱可塑性ポリウレタン樹脂組成物と上記脂肪族ポリエステル樹脂の組成比が重量換算で95:5〜80:20の範囲とすることが好ましいことが分かった。
【0058】
〔エステル基濃度〕
実施例1〜3及び比較例1で調製した樹脂組成物に含まれる脂肪族ポリエステル樹脂由来のエステル基濃度と、当該樹脂組成物を用いて作製した成形体における分解速度(物性保持率(%)/時間(Hr))との関係を図3に示す。なお、熱可塑性ポリウレタン樹脂組成物に含まれるエステル基濃度は、実施例1〜3及び比較例1の樹脂組成物の全てにおいて7.0mol/kgであった。
【0059】
図3から判るように、脂肪族ポリエステル樹脂由来のエステル基濃度が0.7mol/kgを超えると、成形体の分解速度が向上することが判る。特に、脂肪族ポリエステル樹脂由来のエステル基濃度が2mol/kgを超えると、成形体の分解速度が著しく向上することが判る。この結果から、脂肪族ポリエステル樹脂に由来するエステル基の濃度に応じて、成形体の分解速度を適宜調節できることが明らかになった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エステル基を含む熱可塑性ポリウレタン樹脂と、末端にカルボン酸を有する脂肪族ポリエステル樹脂とを含む、車両用内装材。
【請求項2】
上記熱可塑性ポリウレタン樹脂又は上記熱可塑性ポリウレタン樹脂と添加剤とを含有する熱可塑性ポリウレタン樹脂組成物と、上記脂肪族ポリエステル樹脂との組成比が重量換算で95:5〜80:20であることを特徴とする請求項1記載の車両用内装材。
【請求項3】
上記熱可塑性ポリウレタン樹脂と上記脂肪族ポリエステル樹脂とを含む組成物における、上記脂肪族ポリエステル樹脂由来のエステル基の濃度が0.7〜2.8mol/kgであることを特徴とする請求項1記載の車両用内装材。
【請求項4】
上記脂肪族ポリエステル樹脂はポリヒドロキシアルカン酸であることを特徴とする請求項1記載の車両用内装材。
【請求項5】
上記脂肪族ポリエステル樹脂はポリ乳酸であることを特徴とする請求項1記載の車両用内装材。
【請求項6】
スラッシュ成形により成形加工されたものであることを特徴とする請求項1記載の車両用内装材。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−254770(P2010−254770A)
【公開日】平成22年11月11日(2010.11.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−104379(P2009−104379)
【出願日】平成21年4月22日(2009.4.22)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【出願人】(000002288)三洋化成工業株式会社 (1,719)
【Fターム(参考)】