説明

車両用冷凍サイクル装置及びその制御方法

【課題】 車両の加速性を確保すると共に加速の度合いに見合った冷房能力を確保することが可能な車両用冷凍サイクル装置及びその制御方法を提供する。
【解決手段】 車両エンジン11を駆動源とする可変容量圧縮機2を備えた車両用冷凍サイクル装置1であって、車両の加速度合いを判定する加速判定手段と、その判定結果に応じてエンジン11に対する圧縮機2の負荷の制御パターンを決定する制御決定手段とを有し、車両の加速時において、圧縮機2の容量を圧縮機負荷が上記の決定された制御パターンとなるように制御する車両用冷凍サイクル装置1を提供する。この装置では、圧縮機負荷は、車両の加速度合いに応じて決定される加速性の確保と冷房能力の確保の両立の観点から予め定めた所定の制御パターンに従って制御されるため、圧縮機負荷が車両の加速度合いに応じて適切に制御され、車両の加速性とそれに見合った冷房能力が確保される。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、車両用冷凍サイクル装置及びその制御方法に関する。
【0002】
【従来の技術】車両エンジンを駆動源とする圧縮機を備えた車両用冷凍サイクル装置においては、車両の加速時において、車両の加速性を阻害することなく車両用冷凍サイクル装置の冷房能力も確保することが望まれる。
【0003】これに関し、特開昭62−8820号公報においては、スロットル開度と車速とにより定められた制御マップを用い、車両が加速することを要求された(即ち、制御マップにおいて加速要求範囲内にある)と判断された場合には、圧縮機を所定時間遮断状態にする制御方法が開示されている。
【0004】しかしながら、この方法は、車両が加速することを要求された(制御マップにおいて加速要求範囲内にある)場合に、圧縮機を単に停止させるものであるため、車両の加速性は向上するが、その反面、車両用冷凍サイクル装置の冷房能力を確保することは困難となる。
【0005】この問題を解決すべく、特開2000−335232号公報には、可変容量圧縮機を利用した車両用冷凍サイクル装置が開示されている。ここでは、車両加速時おいて乗員が車両の加速性を感じる最大加速度が加速開始直後の短時間に発生すること、並びに、冷凍サイクル内を冷媒が比較的小流量でも循環していれば空気調和装置からの空気吹出し温度の上昇が抑制できることに着目し、加速開始時には圧縮機を短時間停止し、その後は部分容量運転にて徐々に容量復帰させることで、車両の加速性と冷房能力の確保の両立を図ろうとしている。
【0006】しかしながら、この冷凍サイクル装置においては、車両の加速の度合いに応じた制御がなされておらず、急加速であっても緩やかな加速(緩加速)であっても同様に圧縮機の停止及びその後の容量制御がなされる。そのため、加速度合いの小さい緩加速時においては、加速効果が少ない割に冷房能力の低減量が大きく、加速度合いに見合った冷房能力が確保されていないという問題がある。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】本発明は、上記問題に鑑みてなされたもので、その目的は、車両の加速時において、車両の加速性を確保すると共に車両の加速の度合いに見合った冷房能力を確保することが可能な車両用冷凍サイクル装置及びその制御方法を提供することである。
【0008】
【課題を解決するための手段】本発明は、上記課題を解決するための手段として、特許請求の範囲の請求項1から4に記載された車両用冷凍サイクル装置、並びに請求項5から8に記載された車両用冷凍サイクル装置の制御方法を提供する。
【0009】請求項1に記載の発明は、車両エンジンを駆動源とする可変容量圧縮機を備えた車両用冷凍サイクル装置であって、車両の加速の度合いを判定する加速判定手段と、その判定結果に応じてエンジンに対する圧縮機の負荷の制御パターンを決定する制御決定手段とを有し、車両の加速時において、圧縮機の容量を圧縮機の負荷が上記の決定された制御パターンとなるように制御する車両用冷凍サイクル装置を提供する。
【0010】この車両用冷凍サイクル装置においては、エンジンに対する圧縮機の負荷は、車両の加速の度合いに応じて決定される車両の加速性の確保と冷凍サイクル装置の冷房能力の確保の両立の観点から予め定めた所定の制御パターンに従って制御されるので、エンジンに対する圧縮機の負荷が車両の加速の度合いに応じて適切に制御され、車両の加速時において、車両の加速性を確保すると共に車両の加速の度合いに見合った冷房能力を確保することが可能となる。
【0011】又、請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の車両用冷凍サイクル装置において、制御決定手段が、加速判定手段の判定結果に応じて、エンジンに対する圧縮機の負荷の必要低減量を決定し、車両の加速開始時において圧縮機の容量を必要低減量分だけ圧縮機の負荷が低減されるように制御し、その後前記圧縮機の容量を徐々に回復させるように制御する車両用冷凍サイクル装置を提供する。
【0012】すなわち、この冷凍サイクル装置においては、加速の度合いに応じて決定される制御パターンの要素としてエンジンに対する圧縮機の負荷の必要低減量が決定され、車両の加速開始時においてはこの必要低減量分だけ圧縮機の負荷が低減されるように圧縮機の容量が制御され、その後圧縮機の容量が徐々に回復するように制御される。これにより、特に車両の加速開始時において加速のための十分なエンジン出力が確保されると共に、圧縮機の容量が徐々に回復することによって冷房能力も確保されることとなる。従って、このような車両用冷凍サイクル装置によっても、車両の加速時において車両の加速性を確保すると共に車両の加速の度合いに見合った冷房能力を確保することが可能となる。
【0013】請求項3に記載の発明は、請求項1又は2に記載の車両用冷凍サイクル装置において、加速判定手段が、車速とアクセル開度、若しくは、車速とスロットル開度に基づいて車両の加速の度合いを判定する車両用冷凍サイクル装置を提供する。このような構成とすることにより、加速の度合いを容易且つ確実に判定することが可能となる。
【0014】請求項4に記載の発明は、請求項2又は3に記載の車両用冷凍サイクル装置において、制御決定手段により、圧縮機の負荷の必要低減量として必要低減トルクが決定され、圧縮機が外部からの制御電流信号によって容量制御される圧縮機であって、制御電流信号と、圧縮機の吐出圧と、エンジンの回転数に基づいて圧縮機トルクが算出され、圧縮機トルクから必要低減トルクを差し引いて目標圧縮機トルクが決定され、目標圧縮機トルクと、圧縮機の吐出圧と、エンジンの回転数に基づいて目標制御電流信号が決定され、車両の加速開始時において、目標制御電流信号によって圧縮機の容量が制御される車両用冷凍サイクル装置を提供する。これにより、圧縮機トルクに基づいた圧縮機負荷の制御が実現されると共に、この圧縮機トルクの制御は制御電流信号による圧縮機容量の制御によって実行されるので、より確実な圧縮機負荷の制御が可能となる。
【0015】又、請求項5に記載の発明は、車両エンジンを駆動源とする可変容量圧縮機を備えた車両用冷凍サイクル装置の制御方法であって、車両の加速の度合いを判定する段階と、その判定結果に応じて、エンジンに対する圧縮機の負荷の制御パターンを決定する段階と、圧縮機の容量を圧縮機の負荷が上記の決定された制御パターンとなるように制御する段階と、を有する車両用冷凍サイクル装置の制御方法を提供する。
【0016】これにより、エンジンに対する圧縮機の負荷は、車両の加速の度合いに応じて決定される車両の加速性の確保と冷凍サイクル装置の冷房能力の確保の両立の観点から予め定めた所定の制御パターンに従って制御されるので、エンジンに対する圧縮機の負荷が車両の加速の度合いに応じて適切に制御され、車両の加速時において、車両の加速性を確保すると共に車両の加速の度合いに見合った冷房能力を確保することが可能となる。
【0017】請求項6に記載の発明は、請求項5に記載の制御方法において、制御パターンを決定する段階が、加速の度合いを判定する段階の判定結果に応じて、エンジンに対する圧縮機の負荷の必要低減量を決定する段階を含み、圧縮機の容量を制御する段階が、車両の加速開始時において、圧縮機の容量を必要低減量分だけ圧縮機の負荷が低減されるように制御し、その後圧縮機の容量を徐々に回復させるように制御する段階を含む、車両用冷凍サイクル装置の制御方法を提供する。
【0018】すなわち、この方法においては、加速の度合いに応じて決定される制御パターンの要素としてエンジンに対する圧縮機の負荷の必要低減量が決定され、車両の加速開始時においてはこの必要低減量分だけ圧縮機の負荷が低減されるように圧縮機の容量が制御され、その後圧縮機の容量が徐々に回復するように制御される。これにより、特に車両の加速開始時において加速のための十分なエンジン出力が確保されると共に、圧縮機の容量が徐々に回復することによって冷房能力も確保されることとなる。従って、車両の加速時において車両の加速性を確保すると共に車両の加速の度合いに見合った冷房能力を確保することが可能となる。
【0019】請求項7に記載の発明は、請求項5又は6に記載の制御方法において、加速の度合いを判定する段階が、車速とアクセル開度、若しくは、車速とスロットル開度に基づいて車両の加速の度合いを判定する段階を含む、車両用冷凍サイクル装置の制御方法を提供する。これにより、加速の度合いを容易且つ確実に判定することが可能となる。
【0020】請求項8に記載の発明は、請求項6又は7に記載の制御方法において、制御パターンを決定する段階が、圧縮機の負荷の必要低減量として必要低減トルクを決定する段階を含み、圧縮機が外部からの制御電流信号によって容量制御される圧縮機であって、圧縮機の容量を制御する段階が、制御電流信号と、圧縮機の吐出圧と、エンジンの回転数に基づいて圧縮機トルクを算出する段階と、圧縮機トルクから必要低減トルクを差し引いて目標圧縮機トルクを決定する段階と、目標圧縮機トルクと、圧縮機の吐出圧と、エンジンの回転数に基づいて目標制御電流信号を決定する段階と、車両の加速開始時において、目標制御電流信号によって圧縮機の容量を制御する段階とを含む、車両用冷凍サイクル装置の制御方法を提供する。これにより、圧縮機トルクに基づいた圧縮機負荷の制御が実現されると共に、この圧縮機トルクの制御は制御電流信号による圧縮機容量の制御によって実行されるので、より確実な圧縮機負荷の制御が可能となる。
【0021】
【発明の実施の形態】以下、図面を参照して、本発明の一実施形態について詳細に説明する。尚、図面において、同一又は類似の構成要素には共通の参照番号を付す。
【0022】図1は本発明の一実施形態である車両用冷凍サイクル装置を含むシステムの全体構成図である。車両空調用の冷凍サイクル装置1には冷媒を吸入、圧縮、吐出する圧縮機2が備えられている。この圧縮機2から吐出された高温、高圧の過熱ガス冷媒は凝縮器3に流入し、ここで、図示しない冷却ファンより送風される外気と熱交換して冷媒は冷却されて凝縮する。
【0023】この凝縮器3で凝縮した冷媒は次に受液器(気液分離器)4に流入し、受液器4の内部で冷媒の気液が分離され、冷凍サイクル装置1内の余剰冷媒(液冷媒)が受液器4内に蓄えられる。この受液器4からの液冷媒は膨張弁(減圧手段)5により低圧に減圧され、気液二相状態となる。この膨張弁5からの低圧冷媒は蒸発器6に流入する。この蒸発器6は車両用空調装置の空気通路を構成する空調ケース7内に設置され、蒸発器6に流入した低圧冷媒は空調ケース7内の空気から吸熱して蒸発する。
【0024】膨張弁5は蒸発器6の出口冷媒の温度を感知する感温部5aを有する温度式膨張弁であり、蒸発器6の出口冷媒の過熱度を所定値に維持するように弁開度(冷媒流量)を調整するものである。上記したサイクル構成部品(2〜6)の間はそれぞれ冷媒配管8によって結合され閉回路を構成している。
【0025】また、圧縮機2は動力伝達機構9、ベルト10等を介して車両走行用エンジン(E/G)11により駆動される。圧縮機2は後述するような可変容量型圧縮機である。本実施形態において、動力伝達機構9は、外部からの電気制御により動力の伝達/遮断が選択可能なクラッチ機構(例えば、電磁クラッチ)であるが、これは、そのようなクラッチ機構を持たない、常時、動力伝達型のクラッチレス機構であってもよい。
【0026】空調ケース7には送風機12が備えられており、周知の内外気切替箱(図示せず)から吸入された車室内の空気(内気)または車室外の空気(外気)が送風機12により空調ケース7内を車室内へ向かって送風される。この送風空気は、蒸発器6を通過した後に、図示しないヒータユニットを通過して吹出口から車室内に吹き出すようになっている。
【0027】また、空調ケース7内のうち、蒸発器6の下流側直後の部位には、蒸発器6を通過した直後の吹出空気温度を検出するサーミスタからなる蒸発器吹出温度センサ13が設けられている。
【0028】なお、上記ヒータユニットは周知のものであり、蒸発器6を通過した冷風を再加熱する温水式ヒータコア(加熱手段)、この温水式ヒータコアにおける加熱度合いを調節する温度調節手段をなすエアミックスドアあるいは温水流量制御弁等が配設されており、さらに、空調ケース7の空気下流端には、車室内乗員の上半身に空気を吹き出すフェイス吹出口、車室内乗員の足元に空気を吹き出すフット吹出口、フロントガラス内面に空気を吹き出すデフロスタ吹出口が形成され、これらの吹出口を切替開閉する吹出モードドアが備えられている。
【0029】ところで、上記した圧縮機2は空調用制御装置(A/C ECU)14からの電気信号により制御される電磁式容量制御弁(吐出容量制御機構)15を有し、この制御弁15により制御圧力を変化させて吐出容量を変化させる外部可変容量型圧縮機である。空調用制御装置14には、空調の自動制御のためのセンサ群16の検出信号、及び空調操作パネル17の操作スイッチ群の操作信号が入力される。
【0030】なお、センサ群16は、具体的には内気センサ、外気センサ、日射センサ、エンジン水温センサ等であり、空調操作パネル17の操作スイッチ群は、具体的には、温度設定スイッチ、風量切替スイッチ、吹出モード切替スイッチ、内外気切替スイッチ、圧縮機2の作動指令を出すエアコンスイッチ等である。
【0031】更に、冷凍サイクル装置1において、圧縮機2の吐出側から膨張弁5の入口に至るまでの高圧回路部に高圧圧力(圧縮機吐出圧)を検出する高圧センサ18を設けて、この高圧センサ18の検出信号も空調用制御装置14に入力するようになっている。図示の例では、高圧センサ18を凝縮器3の出口側冷媒配管に設けている。
【0032】更に、空調用制御装置14は、車両側のエンジン制御装置(E/G ECU)19に接続されており、これら両制御装置14、19相互間にて信号を入出力できるようになっている。エンジン制御装置19は周知のごとく車両エンジン11の運転状況等を検出するセンサ群19aからの信号等に基づいて車両エンジン11への燃料噴射量、点火時期等を総合的に制御するものである。
【0033】本実施形態においては、エンジン制御装置19よりエンジン回転数、車速及びスロットル開度又はアクセル開度等の情報が空調用制御装置14に伝達され、後述するように加速の度合いの判定や圧縮機負荷(トルク)の算出等に利用される。
【0034】図2は本実施形態で用いられている外部可変容量型圧縮機2を示す断面図である。圧縮機2においては、電磁式容量制御弁15の制御電流(すなわち制御電流信号)Inによって圧縮機吐出流量の目標流量Groが設定され、その目標流量Groに圧縮機吐出流量が維持されるように吐出容量が増減される(吐出量制御式)。より具体的に述べると、制御電流Inの増大に比例して目標流量Groが増大するようになっている。
【0035】圧縮機2は、図2に示すように、片斜板型の可変容量型圧縮機であって、その可変容量機構自体は周知のものである。図1の動力伝達機構9等を介して車両エンジン11の動力が回転軸20に伝達される。回転軸20の図2の左端部は動力伝達機構9との結合部である。この回転軸20に対して斜板21が一体に回転可能に結合され、且つ、斜板21の傾斜角度は球面状のヒンジ機構22により調整可能になっている。なお、斜板21の実線位置は回転軸20に対する傾斜角度が小さい状態(小容量状態)を示し、2点鎖線位置21aは回転軸20に対する傾斜角度が大きい状態(大容量状態)を示す。
【0036】この斜板21にシュー23を介して複数個(例えば、5個)のピストン24を連結している。このため、回転軸20と一体的に斜板21を回転させることにより、シュー23を介して複数個のピストン24を順次往復動させてシリンダ室(作動室)Vcの体積を拡大縮小させて冷媒を吸入圧縮するようになっている。
【0037】そして、圧縮機2の吐出容量を変化させる場合には、斜板21が収納されたクランク室(斜板室)25内の圧力Pcを変化させることで斜板21の傾斜角度を変化させてピストン24のストローク(行程)を変化させる。すなわち、斜板21の傾斜角度の増加によりピストンストロークが増加して吐出容量が増加し、斜板21の傾斜角度の減少によりピストンストロークが減少して吐出容量が減少する。
【0038】従って、クランク室25は、圧縮機2の吐出容量を変化させるための制御圧室としての役割を兼ねることになる。なお、クランク室(斜板室)25は、絞り通路26を介して圧縮機20の吸入室27側と連通している。
【0039】一方、圧縮機20のリヤハウジング28には第1吐出室29と第2吐出室30が形成され、第1吐出室29は所定の絞り穴径を有する絞り連通路(絞り部)31を介して第2吐出室30に連通している。第1吐出室29には各ピストン24の作動室(シリンダ室)Vcから吐出された冷媒が弁板32の吐出ポート33、吐出弁34を介して流入し、集合され、吐出脈動が平滑化される。第2吐出室30は吐出口35を経て外部の冷媒吐出配管に接続される。
【0040】また、リヤハウジング28には、蒸発器6出口からの低圧ガス冷媒を吸入する吸入口36および吸入口36から冷媒が流入する吸入室27が備えられている。この吸入室27内から冷媒が弁板32の吸入ポート37、吸入弁38を介して作動室Vc内に吸入されるようになっている。
【0041】第1吐出室29から冷媒が絞り連通路31を通過して第2吐出室30に向かって流通する際に圧力損失が発生するので、第2吐出室30内の圧力PdL は第1吐出室29内の圧力PdH より所定量ΔPだけ低くなる。この絞り連通路31前後の差圧ΔPは圧縮機吐出冷媒流量に対応した大きさとなる。
【0042】電磁式容量制御弁15は制御圧室をなすクランク室25内の圧力Pcを制御する吐出容量制御機構を構成するもので、圧縮機2のリヤハウジング28側に配置されている。次に、容量制御弁15の具体的構成例を説明すると、この制御弁15には、第1吐出室29内の圧力PdH が連通路39を介して導かれる第1制御室40と、第2吐出室30内の圧力PdL が連通路41を介して導かれる第2制御室42が設けられている。この両制御室40、42の間は摺動可能な円筒状部材43により仕切られている。これにより、この円筒状部材43等を介してプッシュロッド44の一端部に、両制御室40、42間の差圧ΔPによる力が開弁方向の力として作用する。
【0043】また、第1吐出室29内の圧力PdH が導入される吐出圧室45と、クランク室25に、連通路46を介して連通する制御圧室47が制御弁15に備えられ、吐出圧室45と制御圧室47との間を絞り通路48により連通させ、この絞り通路48の開口断面積をプッシュロッド44の弁体49により調整して、制御圧室47の圧力、すなわち、クランク室25の圧力(制御圧)Pcを調整できるようになっている。
【0044】一方、制御弁15の電磁機構部50は、差圧ΔPによる開弁力に対向する力、すなわち、閉弁力を弁体49(プッシュロッド44)に作用させるものである。弁体49は、電磁機構部50のプランジャ(可動鉄心)51と一体に結合されており、プランジャ51には励磁コイル52により誘起される電磁吸引力が作用する。すなわち、プランジャ51は所定間隔を介して固定磁極部材(固定鉄心)53に対向配置されており、励磁コイル52により誘起される電磁吸引力によりプランジャ51は固定磁極部材53に向かって軸方向(図2の上方向)に変位する。このプランジャ51の軸方向変位により弁体49は閉弁方向に移動する。
【0045】また、プランジャ51と固定磁極部材53との間には、電磁力と対抗する弾性力を発生する弾性手段としてコイルスプリング54が配置されている。
【0046】本例では、励磁コイル52に通電する制御電流(制御電流信号)Inを制御することにより(例えば、制御電流Inの断続比率すなわち、デューティ比Dtを制御することにより)、所望の電磁吸引力(すなわち、弁体49の閉弁方向の力)をプランジャ51に作用させることができる。励磁コイル52の制御電流Inは前述の空調用制御装置14により制御される。
【0047】電磁式容量制御弁15は上記のように構成されているため、制御電流Inを制御して弁体49の閉弁力を増大させると、弁体49が図2の上方向に変位して絞り通路48の開口断面積を減少させるので、制御圧室47の圧力、すなわち、クランク室25の圧力Pcが低下して斜板21の傾斜角度が図2の2点鎖線21aのように増加し、これにより吐出容量が増加する。
【0048】逆に、制御電流Inを制御して弁体49の閉弁力を減少させると、弁体49がコイルスプリング54の力で図2の下方向に変位して絞り通路48の開口断面積を増加させるので、制御圧室47の圧力、すなわち、クランク室25の圧力Pcが上昇して斜板21の傾斜角度が図2の実線位置のように減少し、これにより吐出容量が減少する。
【0049】一方、エンジン11の回転数が上昇して圧縮機2の回転数が上昇すると、これに連動して圧縮機2から吐出される吐出冷媒流量が上昇するが、吐出冷媒流量が増大すると、第1、2制御室40、42間の差圧ΔPが大きくなるので、開弁力が大きくなり、プッシュロッド44及び弁体49が図2の下方向に移動して絞り通路48の開口断面積を増加させるので、圧縮機2の吐出容量が減少していく。
【0050】逆に、エンジン11の回転数が低下して圧縮機2の回転数が低下すると、これに連動して圧縮機2から吐出される吐出冷媒流量が低下するが、吐出冷媒流量が低下すると、第1、2制御室40、42間の差圧ΔPが小さくなるので、開弁力が小さくなり、プッシュロッド44及び弁体49が図2の上方向に移動して絞り通路48の開口断面積を減少させるので、圧縮機2の吐出容量が増加していく。
【0051】このとき、プッシュロッド44及び弁体49は閉弁力と開弁力とが釣り合う位置まで移動するが、このことは、第1、2制御室40、42間の差圧ΔPが閉弁力(電磁吸引力)によって一義的に決まる所定差圧、つまり目標差圧ΔPoとなるまで圧縮機2の吐出容量が機械的に変化することを意味する。
【0052】従って、上記のように閉弁力(電磁吸引力)によって一義的に決まる目標差圧ΔPoを制御電流Inの制御により変化させることによって吐出容量を変化させ、圧縮機2から実際に吐出される吐出冷媒流量を変化させることができる。
【0053】次に、本実施形態による加速の度合いに応じた圧縮機負荷制御について図3から図6を用いて説明する。尚、本実施形態においては、圧縮機負荷は圧縮機トルクとして説明する。
【0054】図3は、圧縮機負荷(トルク)制御に関して、空調用制御装置14において実行される制御ルーチンであり、この制御ルーチンのスタートの時点において、車両エンジン11は起動しており、エアコンのスイッチはONの状態であるものとする。
【0055】まず、ステップS10において加速の度合いの判定が行われる。加速度合いはエンジン制御装置19からの車速とスロットル開度又はアクセル開度情報に基づいて、図4に示されたような加速判定マップを用いて行われる(図4は車速とスロットル開度の関係で示した場合の例である)。より詳細にはステップS10においては、加速時の車速とスロットル開度との関係により、その加速が圧縮機負荷制御を必要とする加速に該当するか否かを判定すると共に、急加速であるか或いは緩やかな加速(緩加速)であるかといった加速の度合いをも判定する。例えば、図4に示された例は、点Pで示される車速とスロットル開度の関係で走行中に3種類の加速を行った場合を示しているが、ここで、加速時の車速及びスロットル開度の関係が点Aに位置する場合については、加速判定ラインL1よりも下側に位置するため圧縮機負荷制御を必要とする加速には該当しないと判断される。この場合、車両の加速に応じた圧縮機負荷(トルク)制御は行われず、圧縮機2に対しては温度状態に応じた公知の制御(例えば、温度センサ13により検知される温度を設定温度とするようにする制御等)が行われる(ステップS40)。
【0056】一方、図4に示された例において、加速時の車速及びスロットル開度の関係が点B又は点Cに位置する場合については、加速判定ラインL1よりも上側に位置するため圧縮機負荷(トルク)制御を必要とする加速であると判断されると共に、それぞれの加速度合いが判定され、それに応じた圧縮機トルク低減量ΔTの決定を行うステップS20へ進む。
【0057】圧縮機トルク低減量ΔTは、図5に示すような図4の加速判定マップに類似した圧縮機トルク低減量ΔT決定マップを用いて決定される。この圧縮機トルク低減量ΔT決定マップは、加速度合いに応じて必要な圧縮機トルク低減量ΔTを決定するためのものであり、加速時の車速及びスロットル開度の関係によって決定される必要な圧縮機トルク低減量ΔTを図示(マップ化)したものである。図5に示されるように、同じ圧縮機トルク低減量ΔTを必要とする加速時の車速及びスロットル開度の関係のプロットにより構成される曲線(L2、L3、L4)が加速判定ラインL1に沿って描かれている。
【0058】図5に示された例においては、点Bで示された緩加速の場合の必要圧縮機トルク低減量ΔTは2Nmであり、点Cで示された急加速の場合の必要圧縮機トルク低減量ΔTは15Nmである。
【0059】尚、図4に示された加速判定マップ並びに図5に示された圧縮機トルク低減量ΔT決定マップは共に、車両の加速性の確保と冷凍サイクル装置1の冷房能力の確保の両立の観点から実験等により予め作成され、空調用制御装置14に記憶されている。
【0060】ステップS20において加速度合いに応じた必要圧縮機トルク低減量ΔTが決定されると、次に実際にトルクに応じた圧縮機制御を行うステップS30(ステップS31〜S34を含む)に進む。
【0061】ステップS30においては、まずステップS31において、現状(加速直前)の圧縮機2の駆動トルクTが算出(決定)される。ここで、圧縮機2の駆動トルクTは種々の方法で算出することが出来るが、本実施形態の場合には、高圧センサ18により検出される高圧圧力(圧縮機吐出圧)と、間接的に圧縮機吐出容量を表す制御電流(制御電流信号)Inと、エンジン回転数とに基づいて算出する。
【0062】次いでステップS32において、ステップS31で算出された圧縮機2の駆動トルクTからステップS20において決定された加速度合いに応じた必要圧縮機トルク低減量ΔTを差し引いて、目標圧縮機トルクToが決定される。そして続くステップS33において、圧縮機2の駆動トルクがこの目標圧縮機トルクToとなるように圧縮機2の容量を制御する目標制御電流(目標制御電流信号)Inoが、目標圧縮機トルクToと、高圧センサ18により検出される高圧圧力(圧縮機吐出圧)と、エンジン回転数とから逆算式に決定される。
【0063】ステップS34では、このようにして決定された目標制御電流Inoにより圧縮機2の吐出容量が制御され、圧縮機2が加速度合いに応じた必要圧縮機トルク低減量ΔTだけ少ないトルクToで駆動される。そしてその後、冷房能力確保のために、制御電流Inが制御され圧縮機2の吐出容量を徐々に復帰させて、本ルーチンのスタートの状態に戻り次の加速に備えるようにされる。
【0064】図6は、以上のような圧縮機2の制御における圧縮機トルクの変化を例示したものである。図6(a)は図5において点Bで表される緩加速の場合の圧縮機トルクの変化を示し、図6(b)は図5において点Cで表される急加速の場合の圧縮機トルクの変化を示している。
【0065】以上、説明したように、車両の加速時において加速の度合いに応じた必要圧縮機トルク低減量ΔTを決定し、圧縮機容量を制御して加速開始時にその必要圧縮機トルク低減量ΔT分だけ低減したトルクToで圧縮機2を駆動するようにしてエンジン11への負担を軽減し、次いで徐々に圧縮機容量を復帰させることで、車両の加速性を確保すると共に冷凍サイクル装置1の加速度合いに見合った冷房能力の確保が可能となる。
【0066】尚、本実施形態では、トルクに応じた容量制御が無段階に可能な圧縮機2を用いたが、ステップ可変容量圧縮機を用いた場合には、例えば図7に示すような圧縮機制御マップを用いて加速の度合いに応じた圧縮機の制御が可能となる。すなわち、図7において加速時の車速及びスロットル開度の関係が点Dで示されるように加速判定ラインL1より上側であって曲線L5よりも下側にあるような緩加速の場合には、加速の初期の段階においても圧縮機容量をゼロにすることなく部分容量運転を行って、その後容量を復帰させるように制御する一方、加速時の車速及びスロットル開度の関係が点Eで示されるように曲線L5より上側にあるような急加速の場合には、加速の初期の段階において圧縮機容量をゼロにし、その後部分容量運転を行って段階的に容量を復帰させるように制御する。このような制御によって、圧縮機の駆動トルクが加速の度合いに応じて制御される(緩加速の場合;図8(a)、急加速の場合;図8(b))ので、先に詳述したトルクに応じて容量制御が無段階に可能な圧縮機2を用いた場合と同様に、車両の加速性を確保すると共に、加速の度合いに見合った冷房能力の確保が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【図1】図1は、本発明の一実施形態である車両用冷凍サイクル装置を含むシステムの全体構成図である。
【図2】図2は、本発明の一実施形態の車両用冷凍サイクル装置で用いられる外部可変容量型圧縮機を示す断面図である。
【図3】図3は、本発明の一実施形態に係る圧縮機負荷(トルク)制御に関する作動を示すフローチャートである。
【図4】図4は、本発明の一実施形態に係る加速判定マップである。
【図5】図5は、本発明の一実施形態に係る圧縮機トルク低減量決定マップである。
【図6】図6は、本発明の一実施形態に係る圧縮機制御における圧縮機トルクの変化を示したものである。図6(a)は図5において点Bで表される緩加速の場合の圧縮機トルクの変化を示し、図6(b)は図5において点Cで表される急加速の場合の圧縮機トルクの変化を示している。
【図7】図7は、本発明の他の実施形態(ステップ可変容量圧縮機を用いた場合)に係る圧縮機制御マップである。
【図8】図8は、本発明のステップ可変容量圧縮機を用いた場合の実施形態に係る圧縮機制御における圧縮機トルクの変化を示したものである。図8(a)は図7において点Dで表される緩加速の場合の圧縮機トルクの変化を示し、図8(b)は図7において点Eで表される急加速の場合の圧縮機トルクの変化を示している。
【符号の説明】
1…車両空調用の冷凍サイクル装置
2…圧縮機
3…凝縮器
4…受液器(気液分離器)
5…膨張弁(減圧手段)
5a…感温部
6…蒸発器
7…空調ケース
8…冷媒配管
9…動力伝達機構
10…ベルト
11…車両走行用エンジン(E/G)
12…送風機
13…蒸発器吹出温度センサ
14…空調用制御装置(A/C ECU)
15…電磁式容量制御弁(吐出容量制御機構)
16…空調の自動制御のためのセンサ群
17…空調操作パネル
18…高圧センサ
19…エンジン制御装置(E/G ECU)
19a…車両エンジンの運転状況等を検出するセンサ群

【特許請求の範囲】
【請求項1】 車両エンジンを駆動源とする可変容量圧縮機を備えた車両用冷凍サイクル装置であって、車両の加速の度合いを判定する加速判定手段と、前記加速判定手段の判定結果に応じて、前記エンジンに対する前記圧縮機の負荷の制御パターンを決定する制御決定手段とを有し、車両の加速時において、前記圧縮機の容量を前記圧縮機の負荷が前記制御決定手段により決定された制御パターンとなるように制御することを特徴とする車両用冷凍サイクル装置。
【請求項2】 前記制御決定手段が、前記加速判定手段の判定結果に応じて、前記エンジンに対する前記圧縮機の負荷の必要低減量を決定し、車両の加速開始時において、前記圧縮機の容量を前記必要低減量分だけ前記圧縮機の負荷が低減されるように制御し、その後前記圧縮機の容量を徐々に回復させるように制御することを特徴とする請求項1に記載の車両用冷凍サイクル装置。
【請求項3】 前記加速判定手段は、車速とアクセル開度、若しくは、車速とスロットル開度に基づいて車両の加速の度合いを判定する、請求項1又は2に記載の車両用冷凍サイクル装置。
【請求項4】 前記制御決定手段により、前記圧縮機の負荷の必要低減量として必要低減トルクが決定され、前記圧縮機が外部からの制御電流信号によって容量制御される圧縮機であって、前記制御電流信号と、前記圧縮機の吐出圧と、前記エンジンの回転数に基づいて圧縮機トルクが算出され、前記圧縮機トルクから前記必要低減トルクを差し引いて目標圧縮機トルクが決定され、該目標圧縮機トルクと、前記圧縮機の吐出圧と、前記エンジンの回転数に基づいて目標制御電流信号が決定され、車両の加速開始時において、前記目標制御電流信号によって前記圧縮機の容量が制御される、請求項2又は3に記載の車両用冷凍サイクル装置。
【請求項5】 車両エンジンを駆動源とする可変容量圧縮機を備えた車両用冷凍サイクル装置の制御方法であって、車両の加速の度合いを判定する段階と、前記判定の判定結果に応じて、前記エンジンに対する前記圧縮機の負荷の制御パターンを決定する段階と、前記圧縮機の容量を前記圧縮機の負荷が前記の決定された制御パターンとなるように制御する段階と、を有する車両用冷凍サイクル装置の制御方法。
【請求項6】 制御パターンを決定する前記段階が、加速の度合いを判定する前記段階の判定結果に応じて、前記エンジンに対する前記圧縮機の負荷の必要低減量を決定する段階を含み、圧縮機の容量を制御する前記段階が、車両の加速開始時において、前記圧縮機の容量を前記必要低減量分だけ前記圧縮機の負荷が低減されるように制御し、その後前記圧縮機の容量を徐々に回復させるように制御する段階を含む、請求項5に記載の車両用冷凍サイクル装置の制御方法。
【請求項7】 加速の度合いを判定する前記段階が、車速とアクセル開度、若しくは、車速とスロットル開度に基づいて車両の加速の度合いを判定する段階を含む、請求項5又は6に記載の車両用冷凍サイクル装置の制御方法。
【請求項8】 制御パターンを決定する前記段階が、前記圧縮機の負荷の必要低減量として必要低減トルクを決定する段階を含み、前記圧縮機が外部からの制御電流信号によって容量制御される圧縮機であって、圧縮機の容量を制御する前記段階が、前記制御電流信号と、前記圧縮機の吐出圧と、前記エンジンの回転数に基づいて圧縮機トルクを算出する段階と、前記圧縮機トルクから前記必要低減トルクを差し引いて目標圧縮機トルクを決定する段階と、該目標圧縮機トルクと、前記圧縮機の吐出圧と、前記エンジンの回転数に基づいて目標制御電流信号を決定する段階と、車両の加速開始時において、前記目標制御電流信号によって前記圧縮機の容量を制御する段階とを含む、請求項6又は7に記載の車両用冷凍サイクル装置の制御方法。

【図4】
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【図5】
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【図1】
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【図2】
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【図7】
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【図3】
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【図6】
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【図8】
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【公開番号】特開2003−80935(P2003−80935A)
【公開日】平成15年3月19日(2003.3.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2001−276862(P2001−276862)
【出願日】平成13年9月12日(2001.9.12)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)