説明

車両用冷却ダクト及び車両前部構造

【課題】整流板から冷却風が剥離することを防止又は抑制し、熱交換器の冷却効率を向上させる。
【解決手段】サブダクト150から排出される副冷却風によって、主冷却風が整流板120から剥離することが防止又は抑制されるので、サブダクト150を有しない構成と比較し、ラジエータ60に冷却風が当らない、又は十分に当らない領域(死水領域)の発生が防止又は低減される。また、バンパリインフォース50の車両後方側に渦が発生することによる気圧の低下が抑制されるので、サブダクト150を有しない構成と比較し、ラジエータ60を通過する冷却風の通気抵抗が低減する。したがって、サブダクト150を有しない構成と比較し、ラジエータ60の冷却効率が向上する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両用冷却ダクト及び車両前部構造に関する。
【背景技術】
【0002】
フロントバンパの上下に形成されたアッパグリル及びロアグリルから取り入れられた冷却風を、フロントバンパの車両後方側に配置されたラジエータに導入する構成が知られている。このような構成の場合、フロントバンパの車両後方側で冷却風に渦が発生し、ラジエータの冷却効率が低下することがあった。
【0003】
そこで、アッパグリル及びロアグリルとラジエータとの間に、アッパグリル及びロアグリルから取り入れられた冷却風をラジエータに導くための空気流路を形成するエアダクトを設けた冷却風の取入構造が提案されている(例えば、特許文献1を参照)。
【0004】
しかし、エアダクトを設けても、例えば、エアダクトの上面を構成する整流板の傾斜角度が大きくなると、整流板から冷却風が剥離してフロントバンパの車両後方側で冷却風に渦が発生し、ラジエータの冷却効率が低下する可能性があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】実開平1−107627号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記を考慮し、整流板から冷却風が剥離することを防止又は抑制させることが課題である。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1の発明は、車両の前面に開口した開口部と、前記開口部の車両後方側に設けられた熱交換器と、の間に設けられ、前記開口部から導入された主冷却風を前記熱交換器に導く主ダクトと、前記主ダクトの上面を構成し、車両後方側に向かって車両上方側に傾斜し、前記主ダクトに導入された前記主冷却風を整流する整流板と、前記主冷却風の流速よりも速い流速の副冷却風を車両後方側に向かって排出し、前記主ダクトの前記整流板に沿って流れようとする前記主冷却風に副冷却風を合流させる副ダクトと、を備える。
【0008】
請求項2の発明は、車両の前面に開口した開口部と、前記開口部の車両後方側に設けられた熱交換器と、の間に設けられ、前記開口部から導入された主冷却風を前記熱交換器に導く主ダクトと、前記主ダクトの底面を構成し、車両後方側に向かって車両下方側に傾斜し、前記主ダクトに導入された前記主冷却風を整流する整流板と、前記主冷却風の流速よりも速い流速の副冷却風を車両後方側に向かって排出し、前記主ダクトの前記整流板に沿って流れようとする前記主冷却風に副冷却風を合流させる副ダクトと、を備える。
【0009】
請求項1又は請求項2の発明では、主ダクトの整流板に沿って、主冷却風が流れようとする。
【0010】
ここで、例えば、整流板の傾斜角度が大きいと、整流板に沿って流れる主冷却風が、整流板から剥離することがある。つまり、整流板に沿って主冷却風が流れなくなることがある。
【0011】
したがって、主ダクトの整流板に沿って流れようとする主冷却風に、副ダクトから主冷却風の流速よりも速い流速の副冷却風を合流させることで、副冷却風によって主冷却風が整流板に押さえつけられる。これにより主冷却風が整流板から剥離することが防止又は抑制される。
【0012】
ここで、「副冷却風を車両後方側に向かって排出」とは、車両前後方向に対して斜め方向も含まれる。つまり、主冷却風に対して交差する方向に副冷却風が合流する構成も含まれる。
【0013】
請求項3の発明は、前記副ダクトは、前記主冷却風が前記整流板から剥離しようとする位置又はその近傍に前記副冷却風が合流するように構成されている。
【0014】
請求項3の発明では、主冷却風が整流板から剥離しようとする位置又はその近傍に副冷却風が合流するので、効果的に主冷却風が整流板から剥離することが防止又は抑制される。
【0015】
請求項4の発明は、前記副ダクトは、前記開口部と前記熱交換器との間に設けられると共に、前記開口部から前記副冷却風が導入されるように構成され、更に、前記副ダクトの車両前方側の流入開口の面積は、前記副冷却風を排出する車両後方側の排出開口の面積よりも大きく構成されている。
【0016】
請求項4の発明では、副ダクトの車両前方側の流入開口の面積が車両後方側の排出開口口の面積よりも大きいので、排出開口から排出され主冷却風に合流する副冷却風の流速が速くなる。
【0017】
請求項5の発明は、前記副ダクトは、前記開口部と前記熱交換器との間に設けられると共に、前記開口部から前記副冷却風が導入されるように構成され、更に、前記副ダクトの前記整流板と反対側の内壁面は、車両後方側に向かって前記整流板側に傾斜する傾斜面とされると共に、前記副ダクトの前記傾斜面における車両後端部の車両前後方向に対する傾斜角度は、前記主ダクトの前記整流板における前記副冷却風が合流する部位の車両前後方向に対する傾斜角度よりも、大きく設定されている。
【0018】
請求項5の発明では、副ダクトの傾斜面における車両後端部の傾斜角度は、主ダクトの整流板における副冷却風が合流する部位の傾斜角度よりも大きく設定されているので、副冷却風によって主冷却風が整流板により効果的に押さえつけられる。これにより主冷却風が整流板から剥離することがより効果的に防止又は抑制され、熱交換器の冷却効率が向上する。
【0019】
請求項6の発明は、車両前部に車両幅方向を長手方向として設けられたリインフォースと、車両の前面における前記リインフォースの下側に開口した開口部と、前記リインフォースの車両後方側に設けられた熱交換器と、前記開口部との前記熱交換器との間に前記主ダクトが設けられた請求項1に記載の車両用冷却ダクトと、を備える。
【0020】
請求項7の発明は、車両前部に車両幅方向を長手方向として設けられたリインフォースと、車両の前面における前記リインフォースの上側に開口した開口部と、前記リインフォースの車両後方側に設けられた熱交換器と、前記開口部との前記熱交換器との間に前記主ダクトが設けられた請求項2に記載の車両用冷却ダクトと、を備える。
【0021】
請求項6又は請求項7の発明では、主冷却風が整流板から剥離し、リインフォースの車両後方側で渦が発生することによる気圧の低下に伴う通気抵抗の低下が抑制されるので、熱交換器の冷却効率が向上する。
【発明の効果】
【0022】
請求項1又は請求項2に記載の発明によれば、整流板に沿って流れようとする主冷却風に、主冷却風の流速よりも速い流速の副冷却風が合流しない構成と比較し、主冷却風が整流板から剥離することを防止又は抑制することができる。
【0023】
請求項3に記載の発明によれば、主冷却風が整流板から剥離しようとする位置又はその近傍から離れた位置に副冷却風を合流させる構成と比較し、主冷却風が整流板から剥離することをより効果的に防止又は抑制することができる。
【0024】
請求項4に記載の発明によれば、排出開口から排出され主冷却風に合流する副冷却風の流速を速くすることができる。
【0025】
請求項5に記載の発明によれば、副ダクトの傾斜面における車両後端部の傾斜角度が、主ダクトの整流板における副冷却風が合流する部位の傾斜角度と同じか小さく設定されている構成と比較し、副冷却風によって主冷却風が整流板により効果的に押さえつけることができる。
【0026】
請求項6又は請求項7に記載の発明によれば、整流板に沿って流れようとする主冷却風に、主冷却風の流速よりも速い流速の副冷却風が合流しない構成と比較し、主冷却風が整流板から剥離することが防止又は抑制され、その結果、熱交換器の冷却効率を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明の実施形態に係るロアダクト及びアッパダクトを備える車両を示す斜視図である。
【図2】本発明の実施形態に係るロアダクト及びアッパダクトを備える車両の前部構造を示す図1の2−2線に沿った断面図である。
【図3】本発明の実施形態に係るロアダクト及びアッパダクトを示す斜視図である。
【図4】本発明の実施形態に係るロアダクトを示す図3の4−4線に沿った断面図である。
【図5】本発明の実施形態に係るロアダクトの図3の5−5線に沿った断面を模式的に示す模式図である。
【図6】(A)は本発明が適用されてない比較例としてのロアダクト及びアッパダクトの冷却風の流れを図2に対応する断面で説明する説明図であり、(B)は本発明の実施形態に係るロアダクト及びアッパダクトの冷却風の流れを図2の断面で説明する説明図である。
【図7】本発明の実施形態の変形例の車両用冷却ダクトを示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
図1〜図6を用いて、本発明の実施形態に係る車両用冷却ダクト及び車両用冷却ダクトを備える車両前部構造について説明する。なお、各図において、車両前後方向の車両前方側を矢印FR、車両上下方向の車両上方側を矢印UP、車両幅方向の車両外側を矢印OUTで示している。
【0029】
<車両前部構造>
まず、車両前部構造について説明する。図1と図2とに示すように、車両10の前面には、車両幅方向に沿ってフロントバンパ12が設けられている。
【0030】
図2に示すように、フロントバンパ12の内部には、車両幅方向を長手方向として配置されたバンパリインフォース50が設けられている。車両10の前部には、エンジン(図示略)が配置されると共に、エンジンフード16(図1も参照)で覆われたエンジンルーム14が設けられている。
【0031】
図1に示すように、車両10には、車両幅方向の両端部におけるフロントバンパ12の上方側に、ヘッドライト18が設けられている。図2に示すように、エンジンルーム14内には、熱交換器の一例としてのラジエータ60が設けられている。なお、本実施の形態では、熱交換器としてラジエータ60を一例として説明するが、熱交換器としては、ラジエータ60に加えて、車両用空調装置を形成するコンデンサ(放熱器)など、車両10に設けられる各種の熱交換器を含むことができる。
【0032】
図1と図2とに示すように、車両10の前面におけるフロントバンパ12の下部には、ロアグリル70が形成されている。また、車両10の前面におけるフロントバンパ12の上方側(フロントバンパ12とエンジンフード16の間)で、且つ、ヘッドライト18(図1参照)の間に、アッパグリル80が形成されている。ロアグリル70及びアッパグリル80には、車両幅方向を長手方向として配置された複数のフィン32が、車両上下方向に間隔をあけて配設されている。
【0033】
車両10では、ロアグリル70及びアッパグリル80のそれぞれから、冷却風(外気)を取り入れエンジンルーム14内に導入する。そして、取り入れられた冷却風がラジエータ60を通過する際に、ラジエータ60の中を流れると共にラジエータ60とエンジン(図示略)との間を循環する冷却水との間で熱交換が行われることにより、冷却水の冷却が行われる。これによりエンジン(図示略)が冷却される。
【0034】
図2に示すように、ラジエータ60の車両後方側は、ファンシュラウド62によって囲われている。このファンシュラウド62は、ラジエータ60の後面から車両後方側に延出し、車両後方側端部には開口部62Aが形成されている。また、この開口部62A内に冷却ファン64が設けられている。そして、この冷却ファン64がファンモータ(図示略)やエンジン(図示略)等の駆動力によって回転駆動されることで、車両10が停止中であっても車両前方側の外気がロアグリル70及びアッパグリル80から冷却風として導入されるように構成されている。
【0035】
ここまで説明したように、車両10は、その前部にロアグリル70及びアッパグリル80と、バンパリインフォース50を有するフロントバンパ12と、が設けられ、エンジンルーム14におけるロアグリル70及びアッパグリル80とバンパリインフォース50の車両後方側にラジエータ60が配置された構成とされている。
【0036】
ロアグリル70とラジエータ60との間には、ロアグリル70から導入された冷却風をラジエータ60に導く流路を形成するロアダクト100Lが設けられている。また、アッパグリル80とラジエータ60との間には、アッパグリル80から導入された冷却風をラジエータ60に導く流路を形成するアッパダクト100Uが設けられている。
【0037】
<ロアダクト及びアッパダクト>
つぎに、ロアダクト100L及びアッパダクト100Uについて説明する。なお、バンパリインフォース50の車両下方側に配置されたロアダクト100Lと、バンパリインフォース50の車両上方側に配置されたアッパダクト100Uと、は上下対称である点以外は基本的な構造は同様である。言い換えると、アッパダクト100Uは、ロアダクト100Lを上下逆にして配置されている。
【0038】
よって、以降の説明ではロアダクト100Lを例にとって説明すると共に、符号の後のL及びUは、これらを区別する必要がある場合を除いて省略して説明する。
【0039】
図2〜図5に示すように、ロアダクト100Lは、メインダクト110と、メインダクト110の車両幅方向両外側に一体的に構成されたサブダクト150(図3及び図4を参照)と、を有している。なお、メインダクト110によって導風される冷却風を主冷却風(主流)LSとし、サブダクト150によって導風される冷却風を副冷却風(副流)LMとする。
【0040】
メインダクト110は、車両前方側に開口し主冷却風LSが流入する略矩形状の主流入開口部112を有している。また、車両後方側に開口し主冷却風LSが排出される略矩形状の主排出開口部114を有している。
【0041】
メインダクト112の底面116は略水平とされている。一方、メインダクト110のバンパリインフォース50側を構成、すなわち上面(天井面)を構成する整流板120は、車両後方側に向かってパンパリインフォースフォース50側、すなわち車両上方側に傾斜している。更に、本実施形態においては、整流板120は、車両後方側に向かうに従って、傾斜角度が大きくなるように湾曲した湾曲面となっている。
【0042】
なお、このようにメインダクト110は、底面112は略水平であるが、上面(天井面)を構成する整流板150は車両後方側に向かって車両上方側に傾斜しているので、主流入開口部112の開口面積S1よりも主排出開口部114の開口面積S2の方が広い(図5を参照)。
【0043】
サブダクト150は、メインダクト110の車両幅方向両外側に一体的に構成されている(図3及び図4を参照)。サブダクト150は、車両前方側に開口し副冷却風LMが流入する略矩形状の副流入開口部152を有している。また、車両後方側に開口し副冷却風LMが排出される副排出開口部154(図2及び図5を参照)を有している。
【0044】
副流入開口部152は、メインダクト110の主流入開口部112の車両幅方向両外側且つ、車両上方側にずれて配置されている。別の言い方をすると、メインダクト110の主流入開口部112の上端よりも、副流入開口部152の上端の方が車両上方側に配置されている。またメインダクト100の主流入開口部122と、サブダクト150の副流入開口部152と、は繋がっている。
【0045】
サブダクト150は、上面(天井面)156は略水平とされている。一方、サブンダクト150のバンパリインフォース50と反対側、すなわち底面は、車両後方側に向かってパンパリインフォースフォース50側に傾斜、すなわち、車両上方側に傾斜する傾斜面160とされている。更に、本実施形態においては、傾斜面160は、車両後方側に向かうに従って、傾斜角度が大きくなるように湾曲している。更に、サブダクト150の車両幅方向外側の側面158は、車両幅方向内側に向かって湾曲している(図3及び図4を参照)。
【0046】
サブダクト150は、上面(天井面)は略水平であるが、底面を構成する傾斜面160は車両後方側に向かって車両上方側に傾斜しているので、副流入開口部152の開口面積S3よりも副排出開口部154の開口面積S4の方が狭い(図5を参照)。
【0047】
ロアダクト100は、このような構成によって、メインダクト110の整流板120に沿って流れようとする主冷却風LSに、サブダクト150から車両後方側に向かって排出する副冷却風LMが合流する構成となる(図3〜図5、図6(B)を参照)。なお、サブダクト150から排出され副冷却風LMは、正確には図3及び図4に示すように、車両幅方向内側斜め後方側に排出され、主冷却風LSと交差するように合流する。
【0048】
なお、メインダクト110は、主流入開口部112の開口面積S1よりも主排出開口部114の開口面積S4の方が広い(S1<S2)。これにより、主冷却風LSはメインダクト110に流入する流速と排出する流速とは同じか、排出する流速の方が遅くなる。
【0049】
一方、サブダクト150は副流入開口部152の開口面積S3よりも副排出開口部154の開口面積S4の方が狭い(S3>S4)。これにより、副冷却風LMはサブダクト150に流入する流速よりも排出する流速の方が速くなる。
【0050】
また、メインダクト110に流入する主冷却風LSの流速とサブダクト150に流入する副冷却風LMとは略同じである。よって、主冷却風LSの流速よりもサブダクト150から排出される副冷却風LMの流速の方が速くなる。したがって、メインダクト110の整流板120に沿って流れようとする主冷却風LSの流速よりも速い流速の副冷却風LMが合流する。
【0051】
図5に示すように、本実施形態では、湾曲した整流板120の接線方向の車両前後方向(水平)に対する傾斜角度αが20°を超える傾斜角度となる部位Gに、副冷却風LMが合流するように構成さている。
【0052】
また、サブンダクト150の底面を構成する傾斜面160の後端部の接線方向の車両前後方向(水平)に対する傾斜角度βは、メインダクト110の整流板120における副冷却風LMが合流する部位Gの車両前後方向に対する傾斜角度α(本実施形態では20°)よりも大きく設定されている。
【0053】
なお、前述したように、図2及び図3に示すバンパリインフォース50の上側に配置されたアッパダクト100Uは、ロアダクト100Lを上下逆にして配置されている。よって、アッパダクト100Uのメインダクト110Uの整流板120Uは底面を構成し、サブダクト150Uの傾斜面160Uは上面を構成する。
【0054】
また、図2に示すように、ロアダクト100Lのメインダクト110Lの整流板120Lの車両後方側端部の接線RLと、アッパダクト100Uのメインダクト110Uの整流板120Uの車両後方側端部の接線RUと、が交わる位置(点)を位置Qとする。そして、本実施形態においては、この位置Qが、ラジエータ60の車両前方側面を構成する正面60A上、又はこの正面60Aよりも車両後方側に位置するように構成されている。
【0055】
<作用及び効果>
つぎに、本実施形態の作用及び効果について説明する。
【0056】
車両10の前面のロアグリル70から導入された冷却風はロアダクト100Lによってラジエータ60に導かれ、アッパグリル80から導入された冷却風はアッパダクト100Uによってラジエータ60に導かれる。そして、ロアグリル70及びアッパグリル80によって導かれた冷却風がラジエータ60を通過するときに、ラジエータ60の中を流れる冷却水との間で熱交換が行われて冷却水が冷却される。
【0057】
ここで、図6(A)に示す本発明が適用されていない比較例としてのロアダクト800L及びアッパダクト800Uにおける冷却風の流れについて説明する。なお、比較例としてのロアダクト800U及びアッパダクト800Lは、本実施形態のロアダクト100L及びアッパダクト100Uの構成において、サブダクト150を有していない構成、すなわちメインダクト100のみを有している構成と略同じである。
【0058】
ロアダクト800L及びアッパダクト800Uの整流板120L,120U(本実施形態の整流板120L,120Uと同じ構造の部材とされている)に沿って主冷却風LSが流れようとする。しかし、整流板120の傾斜角度が概ね20°(部位G)を超えると主冷却風LSは、整流板120から剥離し、剥離した主冷却風LSが渦LWを巻く。
【0059】
このように、主冷却風LSが整流板120Uから剥離し、剥離した主冷却風LSが渦LWを巻くと、ラジエータ60に冷却風が当らない、又は十分に当らない領域(死水領域)Wが発生する。
【0060】
また、バンパリインフォース50の車両後方側に渦LWが発生することによって、バンパリインフォース50の車両後方側の気圧が他の領域の気圧よりも低下しラジエータ60を通過する冷却風の通気抵抗が大きくなる。
【0061】
このように、主冷却風LSが整流板120から剥離し、更に剥離した主冷却風LSが渦LWを巻くことによって、ラジエータ60の冷却効率が低下する。
【0062】
これに対して、図6(B)に示すように、本実施形態のロアダクト100L及びアッパダクト100Uでは、メインダクト110の整流板120に沿って流れようとする主冷却風(主流)LSに、サブダクト150から主冷却風LSの流速よりも速い流速の副冷却風(副流)LMを合流させている。そして、この副冷却風LMによって主冷却風LSが整流板120に押さえつけられ、主冷却風LSが整流板120から剥離することが防止又は抑制される。
【0063】
また、主冷却風LSが整流板120から剥離しようとする傾斜角度αが20°を超える部位Gに副冷却風LMが合流するので、効果的に主冷却風LSが整流板120から剥離することが防止又は抑制される。
【0064】
また、サブダクト150の傾斜面160における車両後端部の傾斜角度βは、メインダクト110の整流板120における副冷却風LMが合流する部位Gの傾斜角度αよりも大きく設定されているので、副冷却風LMによって主冷却風LSが整流板120によって、効果的に押さえつけられる。これにより主冷却風LSが整流板120から剥離することが、より効果的に防止又は抑制される。
【0065】
このように、サブダクト120から排出される副冷却風LMによって、主冷却風LSが整流板120から剥離することが防止又は抑制されるので、サブダクト120を有しない構成(図6(A))と比較し、ラジエータ60に冷却風が当らない、又は十分に当らない領域(死水領域)W(図6(A)を参照)の発生が防止又は低減される。
【0066】
また、バンパリインフォース50の車両後方側に渦LW(図6(A)参照)が発生することによる気圧の低下が抑制されるので、サブダクト120を有しない構成(図6(A))と比較し、ラジエータ60を通過する冷却風の通気抵抗が低減する。
【0067】
したがって、サブダクト120を有しない構成と比較し、ラジエータ60の冷却効率が向上する。
【0068】
また、ラジエータ60の冷却効率が向上するので、ロアグリル及びアッパグリルの開口面積を狭くしたりロアダクト及びアッパダクト自体を小型化したりしても、サブダクト120を有しない構成(本発明が適用されていない構成)の車両用冷却ダクト(例えば、図6(A)のロアダクト800U及びアッパダクト800L)と同等の冷却効率を得ることがきる。よって、ロアグリル及びアッパグリルの開口面積を狭くしたりロアダクト及びアッパダクト自体を小型化したりすることが可能である。したがって、例えば、意匠設計の自由度が向上する。或いは、例えば、車両10の空気抵抗値の低下させることが可能である。
【0069】
ここで、流体力学では、気流が整流板から剥離し、渦を発生させる角度は、20°〜25°とされている。よって、本実施形態では、主冷却風LSが整流板120から剥離しようとする傾斜角度αを20°に設定し、傾斜角度αが20°を超える部位Gに副冷却風LMが合流するようにした。
【0070】
しかし、副冷却風LMが合流する部位Gは、これに限定されない。種々の設計条件(例えば、整流板120の表面の凹凸状態や主冷却風LSの流速等)によって整流板120から剥離する傾斜角度や部位が異なるので、適宜、副冷却風LMが合流する部位Gを設定すればよい。
【0071】
更に、主冷却風LSが整流板120から剥離する部位以外に副冷却風LMが合流する構成であってもよい。なお、主冷却風LSが整流板120から剥離する部位以外に副冷却風LMが合流する構成であっても、副冷却風LMが合流しない構成よりも剥離を抑制することができる。
【0072】
なお、本実施形態においては、整流板120は、車両後方側に向かうに従って、傾斜角度が大きくなる湾曲面となっている。しかし、湾曲面でなく平面(傾斜角度が一定)であってもよい。つまり、どのような構成の整流板120であっても、傾斜角度αや他の条件によって主冷却風LSが剥離する、或いは、主冷却風LSが整流板120に沿って流れにくくなる場合があるので、流速の速い副冷却風LMを合流させ、主冷却風LSが整流板120に沿って流れるようにすることは有効である。
【0073】
また、本実施形態においては、傾斜面160は、車両後方側に向かうに従って、傾斜角度が大きくなる湾曲面となっている。しかし、湾曲面でなく平面(傾斜角度が一定)であってもよい。
【0074】
本実施形態では、主冷却風LSはメインダクト110に流入する流速と排出する流速とは同じか、排出する流速の方が遅くなるように構成し、サブダクト120では副流入開口部122の開口面積S3よりも副排出開口部124の開口面積S4の方を狭くすることで、メインダクト110の整流板120に沿って流れようとする主冷却風LSの流速よりも速い流速の副冷却風LMが発生するようにした。
【0075】
ここで、主流入開口部122の開口面積S1と主排出開口部124の開口面積S2との比S1/S2よりも、副流入開口部152の開口面積S3と副排出開口部154の開口面積S4の比S3/S4の方が、大きくなるように設定することで、サブダクト150から排出される副冷却風LMの流速の方が整流板120に沿って流れる主冷却風LSの流速よりも速くすることができる(開口面積S1,S2,S3,S4は、図5を参照)。但し、各流路が湾曲や表面の抵抗(凹凸)等によって空気抵抗が異なる場合等、必ずしもこの限りではない。
【0076】
<その他>
本発明は上記実施形態に限定されない。
【0077】
例えば、上記実施形態では、ロアダクト100L及びアッパダクト100Uは、メインダクト110の車両幅方向外側に一体的にサブダクト120が構成され、主流入開口部122と副流入開口部152とが繋がって構成であったが、これに限定されない。
【0078】
例えば、図7に示す変形例の車両用冷却ダクト200のように、メインダクト100の主流入開口部112とサブダクト250の副流入開口部152とが繋がってなく、離れた構成であってもよい。
【0079】
また、例えば、上記実施形態では、サブダクト150の副流入開口部152の開口面積S3よりも副排出開口部154の開口面積S4の方を小さくすることで、メインダクトの整流板に沿って流れようとする主冷却風の流速よりも速くしたが(図5参照)、これに限定されない。他の方法でメインダクトの整流板に沿って流れようとする主冷却風の流速よりも速くしてもよい。
【0080】
例えば、コンプレッサーやファン等で副冷却風LMを主冷却風LSの流速よりも速くしてもよい。なお、コンプレッサーやファン等で副冷却風LMを主冷却風LSの流速よりも速くする場合、ロアグリルやアッパグリルなどの車両前面に開口する開口部以外から副冷却風LMを取り入れる構成であってもよい。
【0081】
また、例えば、上記実施形態では、ロアダクト100Lとアッパダクト100Uとは上下対称、すなわちロアダクト100Lを上下逆に配置した構造であったが、これに限定されない。ロアダクトとアッパダクトとはそれぞれ個別の構造であってもよい。更に、ロアダクトとアッパダクトの少なくとも一方に本発明が適用されていればよい。或いは、ロアダクト及びアッパダクトの一方のみが設けられていてもよい。
【0082】
尚、本発明は上記実施形態に限定されない。本発明の要旨を逸脱しない範囲において種々なる態様で実施し得ることは言うまでもない。
【符号の説明】
【0083】
10 車両
50 バンパリインフォース(リインフォース)
60 ラジエータ(熱交換器)
70 ロアグリル(開口部)
80 アッパグリル(開口部)
100L ロアダクト(車両用冷却ダクト)
100U アッパダクト(車両用冷却ダクト)
110 メインダクト(主ダクト)
120 整流板
150 サブダクト(副ダクト)
152 流入開口部
154 排出開口部
160 傾斜面
200 車両用冷却ダクト
250 サブダクト(副ダクト)
LS 主冷却風
LM 副冷却風
α 傾斜角度
β 傾斜角度

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の前面に開口した開口部と、前記開口部の車両後方側に設けられた熱交換器と、の間に設けられ、前記開口部から導入された主冷却風を前記熱交換器に導く主ダクトと、
前記主ダクトの上面を構成し、車両後方側に向かって車両上方側に傾斜し、前記主ダクトに導入された前記主冷却風を整流する整流板と、
前記主冷却風の流速よりも速い流速の副冷却風を車両後方側に向かって排出し、前記主ダクトの前記整流板に沿って流れようとする前記主冷却風に副冷却風を合流させる副ダクトと、
を備える車両用冷却ダクト。
【請求項2】
車両の前面に開口した開口部と、前記開口部の車両後方側に設けられた熱交換器と、の間に設けられ、前記開口部から導入された主冷却風を前記熱交換器に導く主ダクトと、
前記主ダクトの底面を構成し、車両後方側に向かって車両下方側に傾斜し、前記主ダクトに導入された前記主冷却風を整流する整流板と、
前記主冷却風の流速よりも速い流速の副冷却風を車両後方側に向かって排出し、前記主ダクトの前記整流板に沿って流れようとする前記主冷却風に副冷却風を合流させる副ダクトと、
を備える車両用冷却ダクト。
【請求項3】
前記副ダクトは、前記主冷却風が前記整流板から剥離しようとする位置又はその近傍に前記副冷却風が合流するように構成されている請求項1又は請求項2に記載の車両用冷却ダクト。
【請求項4】
前記副ダクトは、前記開口部と前記熱交換器との間に設けられると共に、前記開口部から前記副冷却風が導入されるように構成され、
更に、前記副ダクトの車両前方側の流入開口の面積は、前記副冷却風を排出する車両後方側の排出開口の面積よりも大きく構成されている請求項1〜請求項3のいずれか1項に記載の車両用冷却ダクト。
【請求項5】
前記副ダクトは、前記開口部と前記熱交換器との間に設けられると共に、前記開口部から前記副冷却風が導入されるように構成され、
更に、前記副ダクトの前記整流板と反対側の内壁面は、車両後方側に向かって前記整流板側に傾斜する傾斜面とされると共に、
前記副ダクトの前記傾斜面における車両後端部の車両前後方向に対する傾斜角度は、前記主ダクトの前記整流板における前記副冷却風が合流する部位の車両前後方向に対する傾斜角度よりも、大きく設定されている請求項1〜請求項4のいずれか1項に記載の車両用冷却ダクト。
【請求項6】
車両前部に車両幅方向を長手方向として設けられたリインフォースと、
車両の前面における前記リインフォースの下側に開口した開口部と、
前記リインフォースの車両後方側に設けられた熱交換器と、
前記開口部との前記熱交換器との間に前記主ダクトが設けられた請求項1に記載の車両用冷却ダクトと、
を備える車両前部構造。
【請求項7】
車両前部に車両幅方向を長手方向として設けられたリインフォースと、
車両の前面における前記リインフォースの上側に開口した開口部と、
前記リインフォースの車両後方側に設けられた熱交換器と、
前記開口部との前記熱交換器との間に前記主ダクトが設けられた請求項2に記載の車両用冷却ダクトと、
を備える車両前部構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−86726(P2012−86726A)
【公開日】平成24年5月10日(2012.5.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−236382(P2010−236382)
【出願日】平成22年10月21日(2010.10.21)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】