説明

車両用制動エネルギ回生装置

【課題】車両用制動エネルギ回生装置において、制動時に電動モータを用いて運動エネルギの回生を行う構成において、ブレーキ装置の小型軽量化を図るとともに、高速度域を含めた速度でのエネルギ回生効率を向上させることである。
【解決手段】車両用制動エネルギ回生装置10は、車輪14に連結された車軸20、車軸20を駆動する電動モータである走行用モータ12、ブレーキ装置である摩擦ブレーキ22、エアコンプレッサ52、蓄圧タンク54、及びECU56を含む。エアコンプレッサ52は、制動時に車軸20から伝達される動力で駆動し、空気を圧縮する。蓄圧タンク54は、エアコンプレッサ52に接続する。ECU56は、所定速度以上の高速度域で制動する際に、エアコンプレッサ52を用いて空気を蓄圧タンク54に蓄圧するようにエアコンプレッサ52の動作を制御する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車輪に連結された車軸と、車軸を駆動する電動モータと、車輪を制動するブレーキ装置とを備え、制動時に電動モータを用いて運動エネルギの回生を行う車両用制動エネルギ回生装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、地球温暖化防止の観点から車両のCO2の排出量削減が強く求められている。このため、従来の内燃機関に代わり、または内燃機関とともに電動モータを車両の駆動装置として用いることが行われるようになってきている。例えば、車輪に連結された車軸と、車軸を駆動する電動モータである走行用モータとを備える電気自動車やハイブリッド自動車等の車両が知られている。
【0003】
このような車両において、走行用モータを駆動するとともに、制動時に車両の運動エネルギを効率的に走行用モータにより回収、すなわち回生するために、リチウムイオン電池等のバッテリである蓄電池や、電気二重層キャパシタ等の蓄電部に電気エネルギを蓄えることが行われている。また、大型の車両では、円板の回転運動エネルギを利用したフライホイールバッテリもエネルギ回生用として活用されている。なお、本発明に関連する先行技術文献として、特許文献1〜4がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平6−156218号公報
【特許文献2】特開平11−170990号公報
【特許文献3】特開平5−240278号公報
【特許文献4】特開2008−190559号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ただし、バッテリの劣化防止や急速充電装置の能力不足等の理由から、従来から車両制動時に走行用モータで多くの運動エネルギを回生するのを低中速度域に限定し、多量のエネルギ回生が期待できる高速度域では、摩擦を用いる摩擦ブレーキで多くの運動エネルギを消散する方式とすることが行われている。一方、車両の小型軽量化のために摩擦ブレーキの小型軽量化が求められているが、高速度域で大きな制動力を得るためには容量を大きくする必要があり、小型軽量化を妨げる要因となっている。また、最近、普及が目覚しいハイブリッド自動車では、車両に内燃機関と走行用モータとの両方を搭載するため、車両重量が増大し、高速度域で必要な制動力はより一層大きくなり、摩擦ブレーキの小型軽量化を進めることはさらに難しくなっている。
【0006】
これに対して、制動時のエネルギを油圧等で蓄圧して、発進時や加速時に蓄圧した圧力を油圧モータ等の駆動力として利用することも考えられる。例えば、特許文献1には、制動時に車両の駆動力を油圧ポンプモータの軸に伝達し、油圧ポンプモータは、作動油をアキュムレータに圧送して油圧を蓄圧することが記載されている。また、アキュムレータの窒素ガスは圧縮され、車両の運動エネルギは、窒素ガスの静圧エネルギとしてアキュムレータに蓄圧されるとされている。アキュムレータに蓄圧されたエネルギは、発進及び加速時に利用するとされている。
【0007】
また、特許文献2には制動時に、油圧ポンプモータをポンプとして作動させ、アキュムレータに蓄圧して制動時の運動エネルギをアキュムレータに回収し、アキュムレータに回収したエネルギは油圧ポンプモータまたは油圧ブレーキユニットに供給して制動動作及び加速動作に利用するとされている。
【0008】
また、ディスクブレーキを冷却するために、特許文献3及び特許文献4に記載のように、ポンプまたはコンプレッサを用いてブレーキに水を噴射することも考えられている。
【0009】
ただし、上記の引用文献1〜4のいずれにも、車軸を駆動する電動モータと、車輪を制動するブレーキ装置とを備え、制動時に電動モータを用いて運動エネルギの回生を行う車両用制動エネルギ回生装置において、電動モータでは回生を行うことが難しい高速度域で制動エネルギを効率よく回収して摩擦ブレーキ等のブレーキ装置の小型軽量化を図るとともに、高速度域を含めた速度でのエネルギ回生効率を向上させる技術は記載されていない。
【0010】
本発明の目的は、制動時に電動モータを用いて運動エネルギの回生を行う車両用制動エネルギ回生装置において、ブレーキ装置の小型軽量化を図るとともに、高速度域を含めた速度でのエネルギ回生効率を向上させることである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明に係る車両用制動エネルギ回生装置は、車輪に連結された車軸と、前記車軸を駆動する電動モータと、前記車輪を制動するブレーキ装置とを備え、制動時に前記電動モータを用いて運動エネルギの回生を行う車両用制動エネルギ回生装置であって、制動時に前記車軸から伝達される動力で駆動され、空気または冷媒を圧縮する圧縮機と、前記圧縮機に接続される蓄圧部と、予め設定された所定速度以上の高速度域で制動する際に、前記圧縮機を用いて空気または冷媒を前記蓄圧部に蓄圧するように前記圧縮機の動作を制御する制御部とを備えることを特徴とする車両用制動エネルギ回生装置である。
【0012】
本発明に係る制動エネルギ回生装置によれば、高速度域の制動時に圧縮機の駆動力が車輪の駆動力の負荷となり、制動力の全体におけるブレーキ装置による制動力の割合を低下させることができる。したがって、ブレーキ装置の容量を小さくできるため、ブレーキ装置の小型軽量化を図れる。また、高速度域を含めた速度でのエネルギ回生効率を向上できる。
【0013】
また、本発明に係る車両用制動エネルギ回生装置において、好ましくは、前記圧縮機は空気を圧縮し、さらに、前記ブレーキ装置の温度を監視するブレーキ温度監視部と、前記ブレーキ装置の温度が予め設定された所定ブレーキ温度以上になる第1条件が成立したときに、前記蓄圧部で蓄圧した高圧空気による噴流またはドライミストを前記ブレーキ装置に噴出させ、前記ブレーキ装置を冷却する噴出部とを備える。
【0014】
上記構成によれば、ブレーキ装置が所定ブレーキ温度以上となった場合に、より有効にブレーキ装置を冷却できる。このため、ブレーキ装置のさらなる軽量化を図れる。また、圧縮機とは別の外部ポンプを設けることなく、制動時に蓄圧した蓄圧タンクの空気の圧力を利用して、噴流またはドライミストをブレーキ装置に噴出させることができるので、ブレーキ装置を冷却するためのエネルギ損失を小さくできる。
【0015】
また、本発明に係る車両用制動エネルギ回生装置において、好ましくは、前記圧縮機は空気を圧縮し、さらに、前記電動モータの温度を監視するモータ温度監視部と、前記電動モータの温度が予め設定された所定モータ温度以上になる第2条件が成立したときに、前記蓄圧部で蓄圧した高圧空気による噴流またはドライミストを前記電動モータに噴出させ、前記電動モータを冷却する噴出部とを備える。
【0016】
上記構成によれば、電動モータが所定モータ温度以上となった場合に、より有効に電動モータを冷却できる。また、圧縮機とは別の外部ポンプを設けることなく、制動時に蓄圧した蓄圧タンクの空気の圧力を利用して、噴流またはドライミストを電動モータに噴出させることができるので、電動モータを冷却するためのエネルギ損失を小さくできる。
【0017】
また、本発明に係る車両用制動エネルギ回生装置において、好ましくは、前記圧縮機は空気を圧縮し、さらに、前記ブレーキ装置の温度を監視するブレーキ温度監視部と、前記電動モータの温度を監視するモータ温度監視部と、前記ブレーキ装置の温度が予め設定された所定ブレーキ温度以上になる第1条件と、前記電動モータの温度が予め設定された所定モータ温度以上になる第2条件との一方または両方が成立したときに、前記蓄圧部で蓄圧した高圧空気による噴流またはドライミストを前記ブレーキ装置及び前記電動モータの一方または両方に噴出させ、前記ブレーキ装置及び前記電動モータの一方または両方を冷却する噴出部とを備える。
【0018】
上記構成によれば、ブレーキ装置及び電動モータの一方または両方を有効に冷却できる。また、圧縮機とは別の外部ポンプを設けることなく、制動時に蓄圧した蓄圧タンクの空気の圧力を利用して、噴流またはドライミストをブレーキ装置及び電動モータの一方または両方に噴出させることができるので、ブレーキ装置及び電動モータを冷却するためのエネルギ損失を小さくできる。
【0019】
また、本発明に係る車両用制動エネルギ回生装置において、好ましくは、前記蓄圧部と前記噴出部の噴出ノズルとを接続する噴出経路に液タンクの噴出側が接続されている。
【0020】
また、本発明に係る車両用制動エネルギ回生装置において、好ましくは、前記噴出部は、前記蓄圧部に接続される1つまたは複数の噴出ノズルを含み、前記ブレーキ装置に設けられ、前記車輪に結合された制動ディスクの回転に伴って、前記噴出ノズルから噴出された空気により前記制動ディスクの周辺部で径方向外側に向かう渦巻き状噴流を生成する。
【0021】
また、本発明に係る車両用制動エネルギ回生装置において、好ましくは、前記圧縮機は空気を圧縮し、さらに、エアサスペンション装置の内部、または懸架装置に併設されたエアシリンダの内部に設けられたエア室に、前記圧縮機で圧送された空気を供給可能とする供給部を備える。
【0022】
上記の構成によれば、エアサスペンション装置専用のエアコンプレッサを用いてエアサスペンション装置用の圧縮空気を生成する必要がなくなる。
【0023】
また、本発明に係る車両用制動エネルギ回生装置において、好ましくは、前記車軸と前記圧縮機との間に設けられ、前記車軸と前記圧縮機との間の動力伝達部の断接を切り換える電磁クラッチを備える。
【0024】
また、本発明に係る車両用制動エネルギ回生装置において、好ましくは、前記圧縮機または前記蓄圧部の入口側に設けられ、開弁した場合に前記圧縮機による前記蓄圧部へのさらなる蓄圧を阻止する開放弁を備える。
【0025】
また、本発明に係る車両用制動エネルギ回生装置において、好ましくは、前記圧縮機は冷媒を圧縮し、さらに、前記蓄圧部に蓄圧された冷媒を前記車室内空調装置に圧送することで、車室内空調装置による車室内の冷却を前記蓄圧部の圧力で補助する。
【0026】
上記構成によれば、車室内空調装置に設けられる圧縮機の動力を節減し、車室内空調装置と蓄圧部とを連動させて空調性能の効率を高めることができる。
【0027】
また、本発明に係る車両用制動エネルギ回生装置において、好ましくは、前記圧縮機は冷媒を圧縮し、さらに、車室内空調装置と前記圧縮機との間に接続され、内部に液状の冷媒が蒸発しつつ流れることで前記電動モータ及び前記ブレーキ装置の一方または両方を冷却するモータ側蒸発器と、前記モータ側蒸発器をバイパスするバイパス経路と、前記車室内空調装置に設けられる空調側蒸発器をバイパスする第2バイパス経路とを備え、前記圧縮機は、前記モータ側蒸発器から排出された冷媒を圧縮し、制動時に、前記電動モータまたは前記ブレーキ装置の冷却要求がない場合に、前記車軸からの動力で駆動される圧縮機または蓄圧部から、前記バイパス経路を通じて送られた冷媒を前記車室内空調装置に圧送し、制動時に、前記電動モータまたは前記ブレーキ装置の冷却要求がある場合に、前記車軸からの動力で駆動される圧縮機と前記車室内空調装置とを作動させ、前記車室内空調装置において、前記第2バイパス経路を通じて送られた冷媒を、前記車室内空調装置に設けられる空調側圧縮機で圧送する。
【0028】
上記構成によれば、空調側圧縮機の動力を節減し、車室内空調装置と圧縮機または蓄圧部とを連動させて空調性能の効率を高めることができるとともに、高速走行時には電動モータまたはブレーキ装置をより温度低下させることができる。
【発明の効果】
【0029】
本発明に係る車両用制動エネルギ回生装置によれば、制動時に電動モータを用いて運動エネルギの回生を行う構成において、ブレーキ装置の小型軽量化を図れるとともに、高速度域を含めた速度でのエネルギ回生効率を向上できる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】片側車輪の駆動部に設けられた本発明の第1の実施形態の車両用制動エネルギ回生装置の構成を示す図である。
【図2】ブレーキ装置のディスクロータにドライミストを噴射させることによる効果を確認するための台上試験結果を示す図であって、空転状態とドライミスト噴射状態とでのディスクロータの温度変化を示す図である。
【図3】片側車輪の駆動部の比較例の構成を示す図である。
【図4】図3の比較例での車両速度に対する制動力の分担割合の1例を示す概念図である。
【図5】片側車輪の駆動部に設けられた本発明の第2の実施形態の車両用制動エネルギ回生装置の構成を示す図である。
【図6】図5の構成において、噴出ノズル及び円筒状カバーを、一部を切断して示す概略斜視図である。
【図7】片側車輪の駆動部に設けられた本発明の第3の実施形態の車両用制動エネルギ回生装置の構成を示す図である。
【図8】本発明の第4の実施形態の車両用制動エネルギ回生装置を構成するモータケースの概略斜視図である。
【図9】片側車輪の駆動部に設けられた本発明の第5の実施形態の車両用制動エネルギ回生装置の構成を示す図である。
【図10】片側車輪の駆動部に設けられた本発明の第6の実施形態の車両用制動エネルギ回生装置の構成を、走行用モータの冷却要求がない場合で示す図である。
【図11】図10の構成を、走行用モータの冷却要求がある場合で示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
[第1の実施形態]
図1は、片側車輪の駆動部に設けられた本発明の第1の実施形態の車両用制動エネルギ回生装置の構成を示す図である。図1に示す車両用制動エネルギ回生装置(以下、単に「制動エネルギ回生装置」という。)10は、例えば蓄電部であるニッケル水素電池、リチウムイオン電池等の車載バッテリ(図示せず)を電力源とし、電動モータである走行用モータ12を駆動し、走行用モータ12に連結された車輪14を駆動する電気自動車等の電動車両に搭載して使用する。図示の例では、走行用モータ12は、車輪14の内側に少なくとも一部が配置されたモータケース16の内部に、変速機18等の他の要素とともに収容されている。このような走行用モータ12は、インホイールモータと呼ばれることがある。なお、本実施形態の制動エネルギ回生装置10では、車載バッテリの代わりに、電気二重層キャパシタ等の他の蓄電部を使用することもできる。また、本実施形態の制動エネルギ回生装置10は、電気自動車以外の電動車両、例えば、エンジンと走行用モータとを車両の駆動源として備えるハイブリッド自動車等に搭載して使用することもできる。
【0032】
本実施形態の制動エネルギ回生装置10は、車両の前輪または後輪または前輪及び後輪の4輪に組み込んで使用される。図1では、前輪または後輪の左右両輪のうち、片側車輪14の駆動部に設けられた制動エネルギ回生装置10を示している。
【0033】
制動エネルギ回生装置10は、片側車輪14に連結された車軸20と、車軸20を駆動する走行用モータ12と、車輪14を制動するブレーキ装置である摩擦ブレーキ22とを備える。すなわち、制動エネルギ回生装置10は、片側車輪14の軸方向内側(図1の左側)に設けられた、摩擦ブレーキ22を構成する制動ディスクであるディスクロータ24と、ハブ26とを備える。ディスクロータ24とハブ26とは、片側車輪14の軸方向内側に、図示しないボルト等により片側車輪14と同軸上に固定されている。
【0034】
また、モータケース16の外端部(図1の右端部)に設けられた図示しない円筒部の内側にハブ26が、軸受28を介して回転可能に支持されている。車軸20は、ハブ26の内側に、スプライン係合部等により互いの相対回転不能に連結されている。このため、車軸20は、片側車輪14に連結されている。
【0035】
また、モータケース16の外端部の上部外周面に、摩擦ブレーキ22を構成するキャリパ30が、モータケース16に対する軸方向の相対変位可能に支持されている。このために、キャリパ30と一体の支持部32にモータケース16に固定された軸部を挿通し、支持部32を軸部の軸方向に摺動可能としている。キャリパ30の先端部に設けられた爪部34と、爪部34に対向するシリンダ36に配置されたピストンとの間に、ディスクロータ24の周方向一部を配置し、シリンダ36に油圧を導入することで、ディスクロータ24の両側面に、爪部34とピストンとにそれぞれ設けられたパッドを押し付けることで制動可能としている。モータケース16は、図示しない車体または車体に支持された懸架装置38(後述する図3参照)の一部に支持されている。片側車輪14を構成するホイール40の内側にキャリパ30及びディスクロータ24が配置されている。
【0036】
モータケース16の内側に走行用モータ12と変速機18とが設けられている。走行用モータ12は、モータケース16の内側に固定されたステータ42と、ステータ42の内側に径方向に対向配置されたロータ44とを含む。ロータ44は、車軸20と同軸上に配置されたロータ軸46に固定されており、ロータ軸46は、モータケース16の内側に軸受により回転可能に支持されている。変速機18は、ロータ軸46と車軸20との間に設けられ、ロータ軸46の動力を減速して車軸20に伝達する。走行用モータ12としては、永久磁石付き同期モータや、誘導モータ等、種々の構成を採用できる。走行用モータ12に車載バッテリから電力が供給され、駆動されると、車軸20、ハブ26、ホイール40、車輪14を構成するタイヤ48に駆動力が伝達され、車両が前進または後退する。また、制動時には、車載バッテリの充電量が所定量以下である等の所定の条件を満たす場合に、車軸20の回転により走行用モータ12を発電機として作用させ、走行用モータ12で発電した電力を車載バッテリに供給、すなわち充電するようにしている。このため、制動時に走行用モータ12を用いて運動エネルギの回生を行うことができる。
【0037】
モータケース16の内側に、電磁クラッチ50と、圧縮機であるエアコンプレッサ52とが設けられている。また、モータケース16の外側に蓄圧部である蓄圧タンク54が設けられている。電磁クラッチ50は、変速機18とエアコンプレッサ52との間に設けられ、制御部であるECU(Electronic Control Unit)56により断接状態が制御される。すなわち、電磁クラッチ50は、車軸20とエアコンプレッサ52との間に設けられ、車軸20とエアコンプレッサ52との間の動力伝達部の断接を切り換える。
【0038】
ECU56は、CPU、メモリ等を有するマイクロコンピュータを含む。電磁クラッチ50が接続されると、車軸20の動力は変速機18で増速されてから、エアコンプレッサ52の回転軸に伝達され、エアコンプレッサ52が駆動される。エアコンプレッサ52は駆動により空気を圧縮するもので、エアコンプレッサ52により加圧された圧縮空気は、蓄圧タンク54に供給される。すなわち、エアコンプレッサ52の出口は、蓄圧タンク54に接続されている。
【0039】
電磁クラッチ50が遮断されると、車軸20が回転していてもエアコンプレッサ52は駆動されず、圧縮空気が蓄圧タンク54に供給されない。蓄圧タンク54の入口または蓄圧タンク54及びエアコンプレッサ52同士を接続する接続路58の一部に逆止弁(図示せず)が設けられており、逆止弁により、エアコンプレッサ52から蓄圧タンク54へは空気が供給されるが、蓄圧タンク54からエアコンプレッサ52へは空気が排出されないようにしている。
【0040】
なお、変速機18は、走行用モータ12の最大トルクや最高回転数と所望の車両運動性能等を勘案して装備されている。ただし、変速機18を省略して、車軸20とロータ軸46とを一体の単一の軸とすることもできる。この場合、電磁クラッチ50は、車軸20とエアコンプレッサ52との間に設けられ、電磁クラッチ50が接続されることで車軸20の動力がエアコンプレッサ52に伝達される。
【0041】
また、蓄圧タンク54には弾性変形してエネルギを蓄えることができる1つまたは複数の室空間が設けられており、圧送された空気を最大許容圧力まで蓄えることができる。
【0042】
モータケース16の外側には、蓄圧タンク54と噴出ノズル60とを接続する噴出経路62と、噴出経路62の中間部に設けられた制御弁64とが設けられている。噴出経路62の下流端に設けられた噴出ノズル60の噴出口は、ホイール40の内側面の外周部とキャリパ30との間の隙間空間に向けられている。また、噴出経路62の制御弁64よりも下流側に、水等の冷却液が設けられた液タンク66の噴出側が接続路68を介して接続されている。接続路68の中間部に制御弁70が設けられている。制御弁64,70の開閉はECU56により制御される。
【0043】
制動エネルギ回生装置10には、キャリパ30等に設けられ、摩擦ブレーキ22の温度を監視するブレーキ温度センサ(図示せず)が設けられている。ブレーキ温度センサの検出温度は、ECU56に入力される。また、制動エネルギ回生装置10には、車両の速度を検出する車速センサ74が設けられており、車速センサ74の検出速度もECU56に入力される。
【0044】
ECU56は、エアコンプレッサ制御部と、噴流制御部とを有する。エアコンプレッサ制御部は、車両の制動時に、車速センサ74の検出速度から、予め設定された所定速度以上の高速度域で制動するか否かを判定し、所定速度以上の高速度域で制動すると判定した際に、エアコンプレッサ52を用いて圧縮空気を蓄圧タンク54に蓄圧するように、電磁クラッチ50の断接を制御して、エアコンプレッサ52の動作を制御する。すなわち、ECU56は、予め設定された所定速度以上の高速度域で制動する際に、エアコンプレッサ52を用いて空気を蓄圧タンク54に蓄圧するようにエアコンプレッサ52の動作を制御する。例えば、全体の制動力のうち、走行用モータ12による制動力が摩擦ブレーキ22による制動力よりも小さくなる場合等の、所定の高速度域での走行中にブレーキペダルの踏み込み等が行われると、それを表す制動信号がECU56で取得され、所定速度以上の高速度域で制動すると判定される。このように高速域で制動すると判定されると、電磁クラッチ50により変速機18に連結されたエアコンプレッサ52が高速で駆動され、圧縮空気が蓄圧タンク54に圧送される。
【0045】
また、制動エネルギ回生装置10は、摩擦ブレーキ22の温度が予め設定された所定ブレーキ温度である第1温度以上になる第1条件が成立したときに、蓄圧タンク54で蓄圧した高圧空気による噴流またはドライミストを、摩擦ブレーキ22に噴出ノズル60から噴出させ、摩擦ブレーキ22を冷却する噴出部76を備える。噴出部76は、ECU56、噴出経路62、噴出ノズル60、制御弁64,70を含む。
【0046】
ECU56が有する噴流制御部は、摩擦ブレーキ22の温度が予め設定された所定ブレーキ温度である第1温度以上になったときに、蓄圧タンク54で蓄圧した高圧空気による噴流、または、例えば粒径30μm以下のドライミストを、摩擦ブレーキ22に噴出ノズル60から噴出させ、摩擦ブレーキ22を冷却するように、制御弁64,70の開閉を制御する。
【0047】
制御弁64が開くと、蓄圧タンク54内の圧縮空気が噴流経路を通じて噴出ノズル60の噴出口から噴流となって噴出され、ホイール40内を流れてディスクロータ24等の摩擦ブレーキ22の構成部材を冷却する。また、制御弁70が開いた状態で、制御弁64が開くと、液タンク66から水等の冷却液が圧縮空気の負圧により吸い出され、噴出ノズル60からドライミストが噴出され、ディスクロータ24の外表面に吹き付けられる。このため、ディスクロータ24がより有効に冷却される。
【0048】
なお、噴流及びドライミストの一方または両方は、摩擦ブレーキ22の代わりに、または摩擦ブレーキ22とともに、モータケース16の外表面にも吹き付けられるようにすることにより、走行用モータ12を冷却することもできる。この場合、制動エネルギ回生装置10に、走行用モータ12の温度を監視するモータ温度センサ72が設けられるようにする。例えば、噴流及びドライミストの一方または両方が走行用モータ12だけに吹き付けられるようにする場合、噴出部76は、走行用モータ12の温度が予め設定された所定モータ温度である第2温度以上になる第2条件が成立したときに、蓄圧タンク54で蓄圧した高圧空気による噴流またはドライミストを、モータケース16に噴出ノズル60から噴出させ、走行用モータ12を冷却するようにする。また、制動エネルギ回生装置10に、摩擦ブレーキ22の温度を監視するブレーキ温度センサと、走行用モータ12の温度を監視するモータ温度センサ72との両方が設けられるようにすることもできる。この場合、噴出部76は、摩擦ブレーキ22の温度が予め設定された所定ブレーキ温度である第1温度以上になる第1条件と、走行用モータ12の温度が予め設定された所定モータ温度である第2温度以上になる第2条件との一方または両方が成立したときに、蓄圧タンク54で蓄圧した高圧空気による噴流またはドライミストを、摩擦ブレーキ22及びモータケース16の一方または両方に噴出ノズル60から噴出させ、摩擦ブレーキ22及び走行用モータ12の一方または両方を冷却するようにする。
【0049】
例えば、ECU56が有する噴流制御部は、摩擦ブレーキ22の温度が予め設定された所定ブレーキ温度である第1温度以上で、かつ、走行用モータ12の温度が予め設定された所定モータ温度である第2温度以上になったときに、蓄圧タンク54で蓄圧した高圧空気による噴流またはドライミストを、摩擦ブレーキ22及び走行用モータ12の一方または両方に噴出ノズル60から噴出させるように、制御弁64,70を制御することもできる。
【0050】
また、モータ温度センサ72及びブレーキ温度センサの一方のみを設けて、一方の温度センサによる検出温度が所定温度以上である場合に、噴流制御部は、蓄圧タンク54で蓄圧した高圧空気による噴流またはドライミストを、走行用モータ12または摩擦ブレーキ22に噴出ノズル60から噴出させるように、制御弁64,70を制御することもできる。
【0051】
また、摩擦ブレーキ22及び走行用モータ12の一方または両方にドライミストが吹き付けられる場合、ミストの粒径が小さいので、摩擦ブレーキ22や走行用モータ12の外表面を過度に濡らすことなく気化熱を奪って、摩擦ブレーキ22や走行用モータ12を温度低下させることができる。ドライミストは気化熱により液体から気体に相変化して、外部に放出される。
【0052】
なお、図1では、左右車輪のうち、片側車輪14の駆動部のみを示しているが、図示しない左右の反対側の車輪の場合も、片側車輪14の駆動部と左右の配置が異なるだけで同様である。この場合、ECU56、液タンク66等は、それぞれ左右で共通の構成を使用することもできる。
【0053】
上記の制動エネルギ回生装置10によれば、制動時に走行用モータ12を用いて運動エネルギの回生を行う構成において、予め設定された所定速度以上の高速度域で制動する際に、エアコンプレッサ52を用いて圧縮空気を蓄圧タンク54に蓄圧するようにエアコンプレッサ52の動作が制御される。このため、高速度域の制動時にエアコンプレッサ52の駆動力が車輪14の駆動力の負荷となり、制動力の全体における摩擦ブレーキ22による制動力の割合を低下させることができる。したがって、摩擦ブレーキ22の容量、すなわち最大蓄熱容量を小さくできるため、ディスクロータ24、キャリパ30等の小型軽量化により摩擦ブレーキ22の小型軽量化を図れる。また、高速度域を含めた速度でのエネルギ回生効率を向上できる。このため、車両の燃費向上と、操安性向上とを実現できる。
【0054】
さらに、摩擦ブレーキ22の温度が予め設定された所定温度以上になったときに、蓄圧タンク54で蓄圧した高圧空気による冷却風である噴流またはドライミストを噴出ノズル60から摩擦ブレーキ22に噴出させ、摩擦ブレーキ22を冷却する噴出部76を備える。このため、車両の走行中または停止時に、摩擦ブレーキ22が所定温度以上となった場合に、より有効に摩擦ブレーキ22を冷却できる。したがって、摩擦ブレーキ22のさらなる軽量化を図れる。また、走行用モータ12の温度が予め設定された所定温度以上になったときに、蓄圧タンク54で蓄圧した高圧空気による冷却風である噴流またはドライミストを噴出ノズル60から走行用モータ12に噴出させ、走行用モータ12を冷却する噴出部76を備える場合、車両の走行中または停止時に、走行用モータ12が所定温度以上となった場合に、より有効に走行用モータ12を冷却できる。また、エアコンプレッサ52とは別の外部ポンプを設けることなく、制動時に蓄圧した蓄圧タンク54の空気の圧力を利用して、噴流やドライミストを摩擦ブレーキ22(または走行用モータ12、または摩擦ブレーキ22及び走行用モータ12の両方)に噴出させることができるので、摩擦ブレーキ22(または走行用モータ12、または摩擦ブレーキ22及び走行用モータ12の両方)を冷却するためのエネルギ損失を十分に小さくできる。
【0055】
なお、噴出ノズル60から単なる高圧空気の噴流を噴出させるか、またはドライミストを噴出させるかは、ECU56が有する選択部で決定することができる。例えば、車速が高い領域で制動する際に温度上昇がある場合には、ドライミストを噴出させ、車速が低い領域で制動する際に温度上昇がある場合に、単なる噴流を噴出させることもできる。
【0056】
また、本実施形態では、上記の特許文献1,2に記載されているような車両の発進や加速に回生エネルギを使用することがないので、重量やコストが過度に増大する大掛かりな構成を使用せずにすみ、走行用モータ12や摩擦ブレーキ22の近くに併設できる軽量小型の装置とすることができる。また、本実施形態と異なり、制動時のエネルギを油圧で蓄圧して、発進時や加速時に蓄圧した圧力を油圧モータの駆動力として利用するという、従来から考えられている構成では、例えば駆動効率が30%程度と低くなる場合がある。この場合、この構成で十分な駆動力を確保するためには、モータとポンプとの両方を兼ねる圧縮機や蓄圧装置がかなり大型化し、コストも上昇する可能性がある。
【0057】
また、上記の特許文献3,4に記載の技術のように、摩擦ブレーキに単に冷却用のミストや水を噴出する場合、専用のポンプを装備して電源やエンジンで駆動させる必要があり、重量やコストが過度に上昇する可能性がある。また、インホイールモータ等のモータがブレーキ装置と近接して配置される構成で、ブレーキ装置やモータの温度にかかわらず単に水やミストをモータに吹き付ける構成とすると、水滴がモータに付着したままとなり、電気系統が故障する可能性がある。これに対して、本実施形態では、このような不都合をいずれも解消できる。
【0058】
図2は、ブレーキ装置のディスクロータにドライミストを噴射させることによる効果を確認するための台上試験結果を示す図であって、空転状態とドライミスト噴射状態とでのディスクロータの温度変化を示す図である。図2で横軸は時間を、縦軸はディスクロータの温度を、それぞれ示している。図2で実線aは所定時間経過後にドライミストを噴出させることを、破線bは、所定時間経過後もドライミストを噴出しないことを示している。図2の試験結果から、ドライミストを噴出させる場合は、ドライミストを噴出しない空転状態の場合に比べて、温度低下の勾配が約4〜5倍に大きくでき、冷却性能を向上できることが分かった。
【0059】
図3は、本実施の形態との比較のための、片側車輪の駆動部の比較例の構成を示す図である。図3の構成は、上記の図1に示した実施形態において、電磁クラッチ50、エアコンプレッサ52、蓄圧タンク54、噴出経路62、液タンク66、温度センサ72及び車速センサ74をいずれも省略している。モータケース16は、通常多く使用されるナックルアームのように、懸架装置(サスペンション装置)38を構成する上アーム78と下アーム80とに支持されている。
【0060】
このような比較例の構成では、制動時に、摩擦ブレーキ22によるエネルギ消散と、走行用モータ12の回生によるエネルギ回収とが併用して行われる。図4は、図3の比較例での車両速度に対する制動力の分担割合の1例を示す概念図である。以下の図4の説明では、図3に示した要素に付した符号を用いて説明する。制動力のうち、走行用モータ12の回生による分担割合は、極低速度域で0から徐々に上昇し、低中速度域で最大となり、低中速度域の途中から徐々に上昇する。これに伴って、制動力のうち、摩擦ブレーキ22による分担割合は、極低速度域で最大値から徐々に低下し、低中速度域で最小となり、低中速度域の途中から徐々に上昇する。すなわち、低中速度域ではモータ回生による制動力の割合が大きく、車両停止近傍の極低速度域と高速度域とでは、摩擦ブレーキ22による制動力が支配的になる。
【0061】
このように比較例では、走行用モータ12による車両の運動エネルギの回生は、低中速度域では効果的に行われているが高速度域ではほとんど行われない場合がある。このため、摩擦ブレーキ22の高速度域での分担割合が大きく、摩擦ブレーキ22の軽量化を図ることが難しい。これに対して、上記の図1に示した実施形態では、モータ回生が不十分な高速度域においてエアコンプレッサ52によるエネルギ回生を行い、さらに摩擦ブレーキ22や走行用モータ12の冷却に利用することで、回生効率の向上と摩擦ブレーキ22の小型軽量化とを同時に実現できる。
【0062】
なお、上記の図1の実施形態では、エアコンプレッサ52を作動させるために電磁クラッチ50を変速機18とエアコンプレッサ52との間に設けて、電磁クラッチ50の断接を制御している。ただし、電磁クラッチ50を設けずに、エアコンプレッサ52や蓄圧タンク54の入口側に電磁弁である開放弁を設け、作動により入口が大気に開放されるようにして、開放弁の開放状態ではエアコンプレッサ52が作動しても蓄圧タンク54に圧縮空気が導入されないようにすることもできる。この場合、開放弁は、エアコンプレッサ52または蓄圧タンク54の入口側に設けられ、開弁した場合にエアコンプレッサ52による蓄圧タンク54へのさらなる蓄圧を阻止する。
【0063】
また、蓄圧タンク54は、本実施形態のように、モータケース16に別体で併設される構成に限定するものではなく、モータケース16の強度を補強する構造材として内部に組み込む構成とすることもできる。
【0064】
[第2の実施形態]
図5は、片側車輪の駆動部に設けられた本発明の第2の実施形態の車両用制動エネルギ回生装置の構成を示す図である。図6は、図5の構成において、噴出ノズル及び円筒状カバーを、一部を切断して示す概略斜視図である。
【0065】
図5に示すように、本実施形態では、上記の図1に示した第1の実施形態において、蓄圧タンク54に接続された噴出経路62を中間部で2本の分岐経路82に分岐させ、各分岐経路82の下流側部分をモータケース16の内側に配置している。また、各分岐経路82の下流端に噴出ノズル60が設けられており、各噴出ノズル60を噴出口が互いに非平行となるように配置されている。
【0066】
また、モータケース16の内側の壁部に円筒状カバー84の一端が固定され、摩擦ブレーキ22側の軸受28の周囲に円筒状カバー84が車軸20と同軸上に配置されている。なお、図5では、各分岐経路82がロータ44を軸方向に通過するような図示としているが、実際には、各分岐経路82は固定のステータ42を軸方向に抜けるように配置したり、走行用モータ12を避けるように配置される。
【0067】
図6に示すように、円筒状カバー84は、内周面に2つのらせん状のガイドベーン86,88が固定されており、互いに重ならないように配置されている。また、各ガイドベーン86,88に対応する噴出ノズル60は、それぞれの噴流が円筒状カバー84の内周面の略接線方向に速度成分を有するように、円筒状カバー84の軸方向に対し傾斜して配置されている。そして、各ガイドベーン86,88の一端部から他端部に向けて片面側に沿って各噴出ノズル60からの噴流が流れるようにしている。ガイドベーン86,88は、車両の前進時にディスクロータ24(図5)の回転方向(図5の矢印α方向)と同方向(図5の矢印β方向)の渦巻き流が形成されるようにしている。すなわち、図5に示す、噴出部76は、蓄圧タンク54に接続される2つの噴出ノズル60を含む。
【0068】
このような本実施形態では、各噴出ノズル60から噴流またはドライミストが噴出されると、図5に矢印βで示すように、円筒状カバー84の内側で渦巻き流が形成され、その渦巻き流が軸受28の内側部分を通じて軸方向外端部(図5の右端部)から径方向外側に向かって放射状に噴出され、ディスクロータ24に吹き付けられる。また、走行時には、ディスクロータ24は回転するため、ディスクロータ24周囲の空気は遠心力により外側に流れる。すなわち、摩擦ブレーキ22に設けられ、車輪14に結合されたディスクロータ24の回転に伴って、2つの噴出ノズル60から噴出された空気によりディスクロータ24の周辺部で径方向外側に向かう渦巻き状噴流を生成可能としている。このため、噴流またはドライミストを、ディスクロータ24を冷却しつつ、径方向外側に流し、ホイール40外側に有効に排出することができる。したがって、各噴出ノズル60からドライミストを噴出させる際に、ホイール40内にドライミストが滞留したままとなることを防止でき、摩擦ブレーキ22の冷却効果を高めることができる。また、ホイール40内にドライミストが滞留したままとなると、水が気化しにくくなるので、ホイール40内の摩擦ブレーキ22との間の隙間を大きくしたり、ホイール40の内面に複数のフィンを形成して、ホイール40の回転によりホイール40内の熱を有効に外部に排出するようにすることもできる。
【0069】
なお、ガイドベーン86,88及び噴出ノズル60はそれぞれ1個のみ設けて渦巻き状の噴流を形成するようにすることもできる。また、ガイドベーンは省略して、渦巻状の噴流を形成するようにすることもできる。例えば、ガイドベーンの代わりに、円筒状カバー84の内周面にらせん状の溝を形成することもできる。その他の構成及び作用は、上記の図1に示した第1の実施形態と同様である。
【0070】
[第3の実施形態]
図7は、片側車輪の駆動部に設けられた本発明の第3の実施形態の車両用制動エネルギ回生装置の構成を示す図である。本実施形態は、上記の図1に示した第1の実施形態において、噴流またはドライミストがホイール40の外周部から内周部に向かって流れるようにしている。このために、ホイール40の内周面に径方向の鍔部90を形成するとともに、鍔部90にドーナツ状、すなわち円輪状のディスクロータ24を固定している。また、キャリパ30の爪部34をディスクロータ24の内周側からシリンダ36と反対側に導出させて、シリンダ36に配置したピストンと爪部34とを、パッドを介してディスクロータ24の両側面に押し付けている。
【0071】
また、ホイール40の内周寄り部分で噴流がホイール40外に排出されるようにするために、ホイール40の内周寄り部分に軸方向両側を貫通する孔部を形成することもできる。なお、ホイール40の内周面や内側面に整流フィンを形成し、ホイール40の回転方向に渦巻状の噴流が形成されるようにし、ディスクロータ24から熱を奪った噴流をホイール40外に排出されるようにすることもできる。その他の構成及び作用は、上記の図1に示した第1の実施形態と同様である。
【0072】
なお、上記の図1,5〜7の各実施形態で、ディスクロータ24付近で制動で生じるパッド等の摩耗粉を有効に排出するために、噴出ノズル60の噴出口をディスクロータ24上のパッドの回出側に向けて、噴出ノズル60から噴出された噴流により摩耗粉をディスクロータ24上から有効に除去するようにすることもできる。
【0073】
[第4の実施形態]
図8は、本発明の第4の実施形態の車両用制動エネルギ回生装置を構成するモータケース16の概略斜視図である。なお、以下では、図1に示した要素と同等の要素には同一の符号を付して説明する。本実施形態では、上記の図1に示した第1の実施形態において、走行用モータ12の冷却効果を高めるために、噴出経路62の下流側に複数に分岐した分岐経路82を設けるとともに、1つの図示しない分岐経路の下流端に設けられた噴出ノズルを摩擦ブレーキ22冷却用の噴出ノズルとし、別の1つまたは複数の分岐経路82の下流端に設けられた噴出ノズル60をモータ冷却用として使用する。図示の例では、モータ冷却用の噴出ノズル60を2つとしているが、1つまたは3つ以上とすることもできる。
【0074】
また、モータケース16の外周面に複数のガイドフィン92を形成し、ガイドフィン92の下流側を上流側に対し、車両の前進時にディスクロータ24が回転する方向(図8の矢印γ方向)の前側に配置している。各噴出ノズル60の噴出口を、ガイドフィン92の間に形成される流路94の一端部(図8の左端部)に向けている。その他の構成及び作用は、上記の図1に示した第1の実施形態と同様である。
【0075】
なお、本実施形態で、モータ冷却用の噴出ノズル60からの噴流が、モータケース16の外周部で渦巻状に形成されるようにするためにモータケース16の外周部に渦巻状のガイドフィンを形成し、このガイドフィンの上流側端部に噴出ノズル60の噴出口を向けることもできる。
【0076】
また、上記の各実施形態において、摩擦ブレーキ22や走行用モータ12の冷却効果を高めるために、噴出ノズル60からの噴流と接触するモータケース16やホイール40の表面を腐食流体でエッチング処理し、擬似フラクタルにする等により微小な凹凸形状を表面に形成することもできる。この場合、モータケース16やホイール40と噴流との接触面積を増大でき、冷却効果が高められる。
【0077】
[第5の実施形態]
図9は、片側車輪の駆動部に設けられた本発明の第5の実施形態の車両用制動エネルギ回生装置の構成を示す図である。なお、以下では、図1に示した要素と同等の要素には同一の符号を付して説明する。本実施形態では、上記の図1に示した第1の実施形態において、蓄圧タンク54に接続される噴出経路62、制御弁64,70、液タンク66及び噴出ノズル60を省略するとともに、蓄圧タンク54をモータケース16の内部に設けている。ただし、蓄圧タンク54は、第1の実施形態と同様に、モータケース16の外側に設けることもできる。また、上記の図3に示した比較例の構成と同様に、モータケース16は、懸架装置38を構成する上アーム78と下アーム80とに支持されている。また、モータケース16の上側に懸架装置38を構成するエアサスペンション装置96が設けられるとともに、エアサスペンション装置96の上部が図示しない車体に支持されている。
【0078】
エアサスペンション装置96は、内部に図示しないエア室が設けられたエアシリンダ式であり、エア室に空気が給排されることにより、全長を伸縮可能としている。エアサスペンション装置96の下部は、モータケース16の上部にユニバーサルジョイント等により支持されている。
【0079】
なお、エアサスペンション装置96は、ショックアブソーバの上部を上側のカバー内に設けられたダイヤフラムに結合し、カバー内でダイヤフラムにより仕切られたエア室内に空気が給排されることにより、全長を伸縮可能とする構成とすることもできる。
【0080】
エアサスペンション装置96内のエア室は蓄圧タンク54に供給部である給排接続路98により接続されている。給排接続路98の中間部にECU56により開閉が制御される制御弁100が設けられている。給排接続路98において、蓄圧タンク54と制御弁100との間に排気路102が接続され、排気路102にECU56により開閉が制御される排気弁104が設けられている。このため、給排接続路98は、エアコンプレッサ52で圧送された空気を、エアサスペンション装置96の内部に設けられたエア室に供給可能としている。また、給排接続路98は、エア室から排気弁104を通じて空気を排出可能とする。
【0081】
このような本実施形態では、上記の図1に示した第1の実施形態と同様に、ECU56は、エアコンプレッサ制御部を有する。エアコンプレッサ制御部は、車両の制動時に、車速センサ74による検出速度から、予め設定された所定速度以上の高速度域で制動するか否かを判定し、所定速度以上の高速度域で制動すると判定した際に、エアコンプレッサ52を用いて圧縮空気を蓄圧タンク54に蓄圧するように、電磁クラッチ50の断接または開放弁を制御することでエアコンプレッサ52の動作を制御する。
【0082】
また、制動エネルギ回生装置10は、エアコンプレッサ52で圧送された空気をエアサスペンション装置96の内部に設けられたエア室に供給可能とする上記の給排接続路98を備えている。ECU56は、制御弁100と排気弁104とを制御することで、エアサスペンション装置96を伸縮させる伸縮制御部を有する。
【0083】
また、制動時に蓄圧された空気がエアサスペンション装置96のエア室に供給されると、エアサスペンション装置96の剛性を高めることができ、例えば本実施形態を前輪用として使用する場合に、車両制動時に車両前部が過度に沈みこむのを防止するアンチダイブが可能となる。
【0084】
また、旋回時に旋回外側となるエアサスペンション装置96の剛性を高めることができ、旋回時のロール低減が可能となる。さらに、エアサスペンション装置96のエア室内での圧力の位相を調整することで、車両の振動を抑制することが可能となる。
【0085】
しかも本実施形態では、圧縮空気の生成のために制動時のエネルギを利用して駆動されるエアコンプレッサ52を使用すればよい。このため、別のモータ等の動力源で駆動されるエアサスペンション装置専用のエアコンプレッサを用いてエアサスペンション装置用の圧縮空気を生成する必要がない。このため、車両の燃費向上と軽量化とを図れる。また、本実施形態によれば、エア室に空気が給排されることで、懸架装置38の剛性や減衰の特性を、制動や旋回等の走行状況に応じて一時的に変更することができる。
【0086】
なお、制御弁100は、給排接続路98の排気路102の接続部よりも蓄圧タンク54側に設けることもできる。また、エアサスペンション装置96の下部は、上アーム78等の懸架装置38を構成するアームに支持することもできる。その他の構成及び作用は、上記の図1に示した第1の実施形態と同様である。
【0087】
なお、本実施の形態において、上記の第1の実施形態と同様に、蓄圧タンク54に、下流端に噴出ノズルが設けられる噴出経路を接続し、エアサスペンション装置96の作動とともに、摩擦ブレーキ22や走行用モータ12の温度が所定の高温となる場合に、噴出ノズル60から噴流またはドライミストを摩擦ブレーキ22や走行用モータ12に噴出させることもできる。また、図示は省略するが、本実施形態において、エアサスペンション装置96の代わりに、懸架装置にエアシリンダを併設するとともに、エアシリンダの内部に設けられたエア室に、エアコンプレッサ52で圧送され、蓄圧タンク54に蓄圧された空気を供給可能とするとともに、エア室からの空気を排気弁104を通じて排出可能とする供給部である給排接続路を設けることもできる。この場合には、懸架装置を構成するコイルバネにエアシリンダを併設することもできる。
【0088】
[第6の実施形態]
図10は、片側車輪の駆動部に設けられた本発明の第6の実施形態の車両用制動エネルギ回生装置の構成において、走行用モータ12(図1参照)の冷却要求がない場合を示す図である。図11は、図10の構成を、走行用モータ12の冷却要求がある場合で示す図である。なお、以下では、図1に示した要素と同等の要素には同一の符号を付して説明する。
【0089】
本実施形態では、上記の図1に示した第1の実施形態において、エアコンプレッサ52(図1)の代わりに冷媒ガスを圧縮するモータ側圧縮機106を設けている。モータ側圧縮機106は、エアコンプレッサ52の場合と同様に、電磁クラッチ50を介して車軸20に動力の伝達可能に連結されている。すなわち、モータ側圧縮機106は、車軸20からの動力で駆動される。
【0090】
また、モータケース16の外部または内部にモータケース16に接触する、すなわちモータケース16に併設するようにモータ側蒸発器108が設けられている。モータ側蒸発器108は、内部に液状冷媒を流通可能とし、内部でモータケース16の熱を奪って液状冷媒が蒸発することでガス状冷媒に相変化するようにしている。モータ側蒸発器108の出口から排出されたガス状冷媒は、モータ側圧縮機106に送られ、加圧されてから三方弁V1を通じて蓄圧タンク110に送られるようにしている。また、蓄圧タンク110とモータ側蒸発器108とは、モータ側経路112に設けられている。モータ側経路112は、車両の車室内空間の温度調節のための車室内空調装置114の空調回路116に接続されている。
【0091】
すなわち、モータ側蒸発器108は、車室内空調装置114とモータ側圧縮機106との間に接続され、内部に液状冷媒が蒸発しつつ流れることで走行用モータ12を冷却する。また、モータ側経路112は、モータ側蒸発器108を含むモータ側本経路118と、モータ側本経路118に並列に接続され、モータ側蒸発器108をバイパス、すなわち迂回するバイパス経路120とを含む。バイパス経路120の下流端はモータ側圧縮機106の入口に接続されている。
【0092】
モータ側本経路118は、モータ側圧縮機106の下流側に設けられた三方弁V1と、三方弁V1の下流側に接続されたタンク経路122とを含む。タンク経路122は中間部に蓄圧タンク110が設けられている。タンク経路122の下流端は、車室内空調装置114を構成する空調回路116において、凝縮器124の入口側に接続されている。また、タンク経路122に並列にタンクバイパス経路126が設けられている。タンクバイパス経路126の上流端は三方弁V1に接続され、下流端は凝縮器124の入口側に接続されている。三方弁V1では、接続された3つの経路であるモータ側本経路118のモータ側圧縮機106側と、タンク経路122と、タンクバイパス経路126との連通状態がECU56により制御される。
【0093】
空調回路116は、空調本経路128と、第2バイパス経路130とを含む。空調本経路128は、空調側圧縮機132と、凝縮器124と、膨張弁134と、空調側蒸発器136とを含んでいる。第2バイパス経路130は、空調側蒸発器136をバイパスする、すなわち迂回するように空調本経路128に接続されている。空調本経路128において、膨張弁134と空調側蒸発器136との間、及び、第2バイパス経路130の上流側が、モータ側本経路118のモータ側蒸発器108よりも上流側、及び、バイパス経路120の上流側に接続されている。また、モータ側本経路118のモータ側蒸発器108よりも上流側と、バイパス経路120と、タンク経路122の蓄圧タンク110よりも下流側と、タンクバイパス経路126と、空調本経路128の膨張弁134及び空調側蒸発器136の間と、空調本経路128の空調側圧縮機132及び凝縮器124の間と、第2バイパス経路130とに、それぞれECU56により開閉を制御される制御弁S1、S2が設けられている。
【0094】
ECU56は、予め設定された所定速度以上の高速度域で制動する際に、モータ側圧縮機106を用いて冷媒を蓄圧タンク110に蓄圧するようにモータ側圧縮機106の動作を制御する。モータ側圧縮機106は、モータ側蒸発器108から排出された冷媒、またはバイパス経路120を通じて送られた冷媒を圧縮する。
【0095】
なお、モータ側蒸発器108をモータケース16ではなく、摩擦ブレーキ22の冷却のために摩擦ブレーキ22を構成する部品、例えばキャリパ30等に接触させることもできる。また、モータケース16及び摩擦ブレーキ22の冷却のために、モータ側蒸発器108を、モータケース16及び摩擦ブレーキ22に直接または別の熱伝達部材を介して接触させることもできる。
【0096】
このような構成で、通常の室内冷却を行う場合には、モータ側経路112に設けられた制御弁S1のすべてを閉弁する。この場合、車室内空調装置114では、従来の空調装置の動作と同様に、ガス状冷媒が空調側圧縮機132で圧縮され、凝縮器124で外部を通過する空気と熱交換を行って低温の液状冷媒となり、膨張弁134を通過した後、図示しない空調ダクト内に設けられた空調側蒸発器136に送られる。空調側蒸発器136では空調ダクト内に送られた空気と熱交換し、この空気を温度低下させる。温度低下した空気は、風量等が適当に調節された後、車室内に吹き出させることができる。一方、空調側蒸発器136を通過した液状冷媒は、空気との熱交換で蒸発してガス状冷媒となり、再度空調側圧縮機132に送られ、これが繰り返され、冷媒が空調回路116で循環する。
【0097】
また、走行用モータ12及び摩擦ブレーキ22の一方または両方の冷却のみを行う場合には、空調回路116に設けられた制御弁S2のすべてを閉弁する。この場合、電磁クラッチ50の接続によりモータ側圧縮機106が駆動され、冷媒がモータ側圧縮機106で圧縮され、凝縮器124で外部を通過する空気と熱交換を行って低温となり、膨張弁134を通過した後、モータ側蒸発器108に送られる。モータ側蒸発器108では液状冷媒が蒸発して、モータ側蒸発器108を温度低下させる。このため、モータ側蒸発器108によりモータケース16を介して走行用モータ12を、または摩擦ブレーキ22を、または、走行用モータ12及び摩擦ブレーキ22の両方を冷却することができる。一方、モータ側蒸発器108で蒸発してガス状となった冷媒は、再度モータ側圧縮機106に送られ、これが繰り返される。
【0098】
また、車室内とモータ側(「モータ側」とは走行用モータ12及び摩擦ブレーキ22の一方または両方をいう。以下同じである。)との両方を冷却する場合、全体の制御弁S1,S2の開度を調整することにより、車室内とモータ側とでの冷却の優先度合いを調整することもできる。
【0099】
また、車室内の冷却を蓄圧タンク110の圧力で補助する場合、上記のように空調回路116に冷媒を循環させるとともに、制動時に蓄圧タンク110に蓄圧した高圧冷媒を利用する。この場合、例えば、高速度域での制動時に車室内空調装置114を作動せず、モータ側本経路118のモータ側圧縮機106側とタンク経路122とを三方弁V1で接続し、タンク経路122に設けられた制御弁S1を閉弁状態とする。この場合も、上記の各実施形態と同様に、高速度域の制動時に制動力の全体における摩擦ブレーキ22による制動力の割合を低下させることができ、摩擦ブレーキ22の小型軽量化を図れるとともに、高速度域を含めた速度でのエネルギ回生効率を向上できる。また、車室内空調装置114の作動時に、空調側圧縮機132の動力を、蓄圧タンク110の圧力で補助することができ、空調側圧縮機132の動力を節減し、蓄圧タンク110を車室内空調装置114と連動させて、空調性能の効率を高めることができる。この場合、蓄圧タンク110に蓄圧された冷媒を車室内空調装置114に圧送することで、車室内空調装置114による車室内の冷却を蓄圧タンク110の圧力で補助する。
【0100】
また、車室内の冷却をモータ側圧縮機106の圧力で補助する場合、上記のように空調回路116に冷媒を循環させるとともに、モータ側蒸発器108をバイパスするバイパス経路120を通じて冷媒を流し、車軸20で駆動されるモータ側圧縮機106で加圧された高圧冷媒を利用する。
【0101】
例えば、制動時に、走行用モータ12の冷却要求がない場合、すなわちECU56が、走行用モータ12が所定温度未満であり、走行用モータ12の冷却要求を表す冷却指令信号が出力されていないと判定した場合には、図10に示すように、ECU56が対応する制御弁S1,S2の開閉及び三方弁V1を制御して、モータ側圧縮機106により、バイパス経路120を通じて送られた冷媒を車室内空調装置114に圧送する。この場合、モータ側本経路118のモータ側蒸発器108よりも上流側の制御弁S1が閉弁され、バイパス経路120の制御弁S1が開弁される。また、タンクバイパス経路126と、モータ側本経路118のモータ側圧縮機106側とが接続される。
【0102】
また、第2バイパス経路130の制御弁S2が閉弁され、空調本経路128に設けられた制御弁S2が開弁される。空調側圧縮機132は、図示しない電動モータまたはエンジン等の動力源により駆動される。このため、車室内空調装置114が作動し、冷媒が図10で○印を付けた経路に流れる。
【0103】
この場合、モータ側圧縮機106から加圧された冷媒が凝縮器124に送られる。このため、空調側圧縮機132の動力を節減し、モータ側圧縮機106を車室内空調装置114と連動させて空調性能の効率を高めることができる。
【0104】
逆に、モータ側の冷却を車室内空調装置114で補助する場合、空調側蒸発器136をバイパスする第2バイパス経路130を通じて送られた冷媒を、空調側圧縮機132で圧送する。この場合、モータ側圧縮機106と空調側圧縮機132とを併用する。例えば、制動時に、走行用モータ12の冷却要求がある場合、すなわちECU56が、走行用モータ12が所定温度以上であり、走行用モータ12の冷却要求を表す冷却指令信号が出力されていると判定した場合に、図11に示すように、ECU56が対応する制御弁S1,S2の開閉及び三方弁V1と、空調側圧縮機132と電磁クラッチ50とを制御して、モータ側圧縮機106と車室内空調装置114とを作動させ、車室内空調装置114において、第2バイパス経路130を通じて送られた冷媒を空調側圧縮機132で圧送する。この場合、モータ側本経路118のモータ側蒸発器108よりも上流側の制御弁S1が開弁され、バイパス経路120の制御弁S1が閉弁される。また、タンクバイパス経路126と、モータ側本経路118のモータ側圧縮機106側とが接続される。
【0105】
また、第2バイパス経路130の制御弁S2が開弁され、空調本経路128の空調側圧縮機132と凝縮器124との間に設けられた制御弁S2が開弁される。また、空調本経路128の空調側蒸発器136と膨張弁134との間に設けられた制御弁S2が閉弁される。また、空調側圧縮機132が駆動される。このため、車室内空調装置114が作動し、冷媒が図11で○印を付けた経路に流れる。
【0106】
この場合、車室内空調装置114では、空調側蒸発器136に冷媒が通過しないので、車室内に温度低下した空気を吹き出させることはできないが、その分、モータ側蒸発器108に液状冷媒を通過させ、液状冷媒がモータ側蒸発器108で蒸発することでモータ側蒸発器108に併設されたモータケース16を通じて走行用モータ12の温度を低下させたり、摩擦ブレーキ22の温度を低下させることができる。モータ側蒸発器108で蒸発し、ガス状となった冷媒はモータ側圧縮機106で圧縮され、凝縮器124で液状に凝縮されて温度低下する。また、空調側圧縮機132によっても冷媒が圧縮されるとともに、高速走行時には、車室内空調装置114用の凝縮器124で冷媒をより低温に温度低下させることができるので、発熱しやすい走行用モータ12や摩擦ブレーキ22を、小型にできるモータ側蒸発器108でより温度低下させることができる。その他の構成及び作用は、上記の図1に示した第1の実施形態と同様である。
【符号の説明】
【0107】
10 車両用制動エネルギ回生装置、12 走行用モータ、14 車輪、16 モータケース、18 変速機、20 車軸、22 摩擦ブレーキ、24 ディスクロータ、26 ハブ、28 軸受、30 キャリパ、32 支持部、34 爪部、36 シリンダ、38 懸架装置、40 ホイール、42 ステータ、44 ロータ、46 ロータ軸、48 タイヤ、50 電磁クラッチ、52 エアコンプレッサ、54 蓄圧タンク、56 ECU、58 接続路、60 噴出ノズル、62 噴出経路、64 制御弁、66 液タンク、68 接続路、70 制御弁、72 モータ温度センサ、74 車速センサ、76 噴出部、78 上アーム、80 下アーム、82 分岐経路、84 円筒状カバー、86,88 ガイドベーン、90 鍔部、92 ガイドフィン、94 流路、96 エアサスペンション装置、98 給排接続路、100 制御弁、102 排気路、104 排気弁、106 モータ側圧縮機、108 モータ側蒸発器、110 蓄圧タンク、112 モータ側経路、114 車室内空調装置、116 空調回路、118 モータ側本経路、120 バイパス経路、122 タンク経路、124 凝縮器、126 タンクバイパス経路、128 空調本経路、130 第2バイパス経路、132 空調側圧縮機、134 膨張弁、136 空調側蒸発器。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車輪に連結された車軸と、前記車軸を駆動する電動モータと、前記車輪を制動するブレーキ装置とを備え、
制動時に前記電動モータを用いて運動エネルギの回生を行う車両用制動エネルギ回生装置であって、
制動時に前記車軸から伝達される動力で駆動され、空気または冷媒を圧縮する圧縮機と、
前記圧縮機に接続される蓄圧部と、
予め設定された所定速度以上の高速度域で制動する際に、前記圧縮機を用いて空気または冷媒を前記蓄圧部に蓄圧するように前記圧縮機の動作を制御する制御部とを備えることを特徴とする車両用制動エネルギ回生装置。
【請求項2】
請求項1に記載の車両用制動エネルギ回生装置において、
前記圧縮機は空気を圧縮し、
さらに、前記ブレーキ装置の温度を監視するブレーキ温度監視部と、
前記ブレーキ装置の温度が予め設定された所定ブレーキ温度以上になる第1条件が成立したときに、前記蓄圧部で蓄圧した高圧空気による噴流またはドライミストを前記ブレーキ装置に噴出させ、前記ブレーキ装置を冷却する噴出部とを備えることを特徴とする車両用制動エネルギ回生装置。
【請求項3】
請求項1に記載の車両用制動エネルギ回生装置において、
前記圧縮機は空気を圧縮し、
さらに、前記電動モータの温度を監視するモータ温度監視部と、
前記電動モータの温度が予め設定された所定モータ温度以上になる第2条件が成立したときに、前記蓄圧部で蓄圧した高圧空気による噴流またはドライミストを前記電動モータに噴出させ、前記電動モータを冷却する噴出部とを備えることを特徴とする車両用制動エネルギ回生装置。
【請求項4】
請求項1に記載の車両用制動エネルギ回生装置において、
前記圧縮機は空気を圧縮し、
さらに、前記ブレーキ装置の温度を監視するブレーキ温度監視部と、
前記電動モータの温度を監視するモータ温度監視部と、
前記ブレーキ装置の温度が予め設定された所定ブレーキ温度以上になる第1条件と、前記電動モータの温度が予め設定された所定モータ温度以上になる第2条件との一方または両方が成立したときに、前記蓄圧部で蓄圧した高圧空気による噴流またはドライミストを前記ブレーキ装置及び前記電動モータの一方または両方に噴出させ、前記ブレーキ装置及び前記電動モータの一方または両方を冷却する噴出部とを備えることを特徴とする車両用制動エネルギ回生装置。
【請求項5】
請求項2から請求項4のいずれか1項に記載の車両用制動エネルギ回生装置において、
前記蓄圧部と前記噴出部の噴出ノズルとを接続する噴出経路に液タンクの噴出側が接続されていることを特徴とする車両用制動エネルギ回生装置。
【請求項6】
請求項2から請求項5のいずれか1項に記載の車両用制動エネルギ回生装置において、
前記噴出部は、前記蓄圧部に接続される1つまたは複数の噴出ノズルを含み、
前記ブレーキ装置に設けられ、前記車輪に結合された制動ディスクの回転に伴って、前記噴出ノズルから噴出された空気により前記制動ディスクの周辺部で径方向外側に向かう渦巻き状噴流を生成することを特徴とする車両用制動エネルギ回生装置。
【請求項7】
請求項1に記載の車両用制動エネルギ回生装置において、
前記圧縮機は空気を圧縮し、
さらに、エアサスペンション装置の内部、または懸架装置に併設されたエアシリンダの内部に設けられたエア室に前記圧縮機で圧送された空気を供給可能とする供給部を備えることを特徴とする車両用制動エネルギ回生装置。
【請求項8】
請求項1から請求項7のいずれか1項に記載の車両用制動エネルギ回生装置において、
前記車軸と前記圧縮機との間に設けられ、前記車軸と前記圧縮機との間の動力伝達部の断接を切り換える電磁クラッチを備えることを特徴とする車両用制動エネルギ回生装置。
【請求項9】
請求項1から請求項7のいずれか1項に記載の車両用制動エネルギ回生装置において、
前記圧縮機または前記蓄圧部の入口側に設けられ、開弁した場合に前記圧縮機による前記蓄圧部へのさらなる蓄圧を阻止する開放弁を備えることを特徴とする車両用制動エネルギ回生装置。
【請求項10】
請求項1に記載の車両用制動エネルギ回生装置において、
前記圧縮機は冷媒を圧縮し、
さらに、前記蓄圧部に蓄圧された冷媒を車室内空調装置に圧送することで、前記車室内空調装置による車室内の冷却を前記蓄圧部の圧力で補助することを特徴とする車両用制動エネルギ回生装置。
【請求項11】
請求項1に記載の車両用制動エネルギ回生装置において、
前記圧縮機は冷媒を圧縮し、
さらに、車室内空調装置と前記圧縮機との間に接続され、内部に液状の冷媒が蒸発しつつ流れることで前記電動モータ及び前記ブレーキ装置の一方または両方を冷却するモータ側蒸発器と、
前記モータ側蒸発器をバイパスするバイパス経路と、
前記車室内空調装置に設けられる空調側蒸発器をバイパスする第2バイパス経路とを備え、
前記圧縮機は、前記モータ側蒸発器から排出された冷媒を圧縮し、制動時に、前記電動モータまたは前記ブレーキ装置の冷却要求がない場合に、前記車軸からの動力で駆動される圧縮機または蓄圧部から、前記バイパス経路を通じて送られた冷媒を前記車室内空調装置に圧送し、制動時に、前記電動モータまたは前記ブレーキ装置の冷却要求がある場合に、前記車軸からの動力で駆動される圧縮機と前記車室内空調装置とを作動させ、前記車室内空調装置において、前記第2バイパス経路を通じて送られた冷媒を、前記車室内空調装置に設けられる空調側圧縮機で圧送することを特徴とする車両用制動エネルギ回生装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2012−254760(P2012−254760A)
【公開日】平成24年12月27日(2012.12.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−130110(P2011−130110)
【出願日】平成23年6月10日(2011.6.10)
【出願人】(000003609)株式会社豊田中央研究所 (4,200)
【Fターム(参考)】