説明

車両用制動制御装置

【課題】車両の制動に高い応答性で対応でき、かつポンプ容量を低減しつつアキュムレータを小形化できる車両用制動制御装置を提供する。
【解決手段】駆動液圧室27を有するマスタシリンダ11に適用される車両用制動制御装置1であって、ポンプ41とアキュムレータ42とを接続するアキュムレータ経路43と、経路43の途中の接続位置431と駆動液圧室27とを接続する駆動液圧経路44と、ポンプからアキュムレータへのブレーキ液の蓄積を許容し逆方向の流れを阻止する逆止弁46と、一端がアキュムレータに連通され、他端がアキュムレータ液圧経路のポンプと逆止弁との間または駆動液圧経路または駆動液圧室に接続されて、アキュムレータからのブレーキ液の導入を調整するアキュムレータ導入調整部(47)と、駆動液圧経路の途中でブレーキ液の流入出を調整する駆動液圧調整部48と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両に搭載される液圧ブレーキ装置を構成する制動制御装置に関し、より詳細には、マスタシリンダが有する駆動液圧室にポンプおよびアキュムレータからブレーキ液を供給して液圧を発生させる構成で、回生ブレーキ装置の併用が好適な制動制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、マスタピストンを駆動する駆動液圧を発生する駆動液圧室とブレーキ操作部材の操作力に対抗する反力液圧を発生する反力液圧室とを有するマスタシリンダに適用され、ポンプのみにより駆動液圧室にブレーキ液を供給して駆動液圧を発生させる車両用制動制御装置があった。また別の方式として、特許文献1の実施例1には、油圧源として油圧ポンプにより蓄圧されるアキュムレータから駆動液圧室にブレーキ液を供給して駆動液圧を発生させる車両用制動制御装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2007−55588号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、ポンプのみにより液圧を発生させる制動制御装置では、大型車において特に急制動時にブレーキ液の供給量が十分でなく、制動力の発生が遅れがちになり、あるいは制動力が不足しがちになるという問題点があった。これに対応するためにポンプ容量を大幅に増加させようとしても、搭載スペースや電源容量、コストなどの制約があるため難しかった。一方、特許文献1に例示されるアキュムレータからブレーキ液を供給する制動制御装置では、大型車の制動に対応可能な量のブレーキ液を蓄えるためにアキュムレータが大形になるという問題点があった。
【0005】
また、特許文献1にも記載されるように、近年のハイブリッド車両の急速な普及を考慮すると、制動制御装置で液圧ブレーキ装置および回生ブレーキ装置を協調制御することが極めて重要になってきている。
【0006】
本発明は、上記背景技術の問題点に鑑みてなされたものであり、車両に制動力を付与する際に液圧制動制御を行う車両用制動制御装置に関し、車両の制動に高い応答性で対応でき、かつポンプ容量を低減しつつアキュムレータを小形化できる車両用制動制御装置を提供することを解決すべき課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決する請求項1に係る車両用制動制御装置の発明は、マスタピストンを駆動する駆動液圧を発生する駆動液圧室を有するマスタシリンダに適用され、ポンプおよび該ポンプにより蓄圧されたアキュムレータの少なくとも一方により前記駆動液圧室にブレーキ液を供給して前記駆動液圧を発生させ、前記マスタピストンを前記駆動液圧で押圧することにより出力液圧室から制動液圧をホイールシリンダに供給する車両用制動制御装置であって、前記ポンプの吐出口と前記アキュムレータとを接続するアキュムレータ液圧経路と、前記アキュムレータ液圧経路の途中の接続位置と前記駆動液圧室とを接続する駆動液圧経路と、前記アキュムレータ液圧経路の前記接続位置と前記アキュムレータとの間に設けられ、前記ポンプから前記アキュムレータへのブレーキ液の蓄積を許容し逆方向の流れを阻止する逆止弁と、一端が前記アキュムレータ液圧経路の前記逆止弁と前記アキュムレータとの間に接続され、他端が前記アキュムレータ液圧経路の前記ポンプと前記逆止弁との間または前記駆動液圧経路または前記駆動液圧室に接続されて、前記一端から前記他端へのブレーキ液の導入を調整するアキュムレータ導入調整部と、前記駆動液圧経路の途中に設けられ、前記ブレーキ操作部材の操作に応じて前記駆動液圧室へのブレーキ液の流入出を調整する駆動液圧調整部と、を備える。
【0008】
請求項2に係る発明は、ブレーキ操作部材の操作力に対抗する反力液圧を発生する反力液圧室を有するマスタシリンダに適用され、前記アキュムレータ液圧経路の前記ポンプと前記逆止弁との間と、前記反力液圧室とを接続する反力液圧経路と、前記反力液圧経路の途中に設けられ、前記ブレーキ操作部材の操作に応じて前記反力液圧室へのブレーキ液の流入出を調整する反力液圧調整部と、をさらに備える。
【0009】
請求項3に係る発明は、前記駆動液圧経路および反力液圧経路は、前記アキュムレータ液圧経路の途中の共通の接続位置に接続されている。
【0010】
請求項4に係る発明は、前記アキュムレータ導入調整部の他端は、前記駆動液圧経路の前記駆動液圧調整部と前記駆動液圧室との間、または前記駆動液圧室に接続されている。
【0011】
請求項5に係る発明は、前記アキュムレータ導入調整部の他端は、前記アキュムレータ液圧経路の前記ポンプと前記逆止弁との間に接続されている。
【0012】
請求項6に係る発明は、前記ブレーキ操作部材による制動操作中か否かを判定し、制動操作中には通常制動操作か急制動操作かを判定するブレーキ操作判定手段と、前記急制動操作に追従して前記駆動液圧室に供給するブレーキ液の流量を前記ポンプによるブレーキ液の吐出量だけで発生可能か不可能かを判定する併用判定手段と、前記ブレーキ操作判定手段が前記通常制動操作を判定した場合に、前記ポンプを駆動するとともに前記アキュムレータ導入調整部を液流閉止状態とし、前記ブレーキ操作判定手段が前記急制動操作を判定しかつ前記併用判定手段が発生不可能と判定した場合に、前記ポンプを駆動するとともに前記アキュムレータ導入調整部を液流許容状態とし、前記ブレーキ操作判定手段が前記急制動操作を判定しかつ前記併用判定手段が発生可能と判定した場合に、前記ポンプを駆動するとともに前記アキュムレータ導入調整部を液流閉止状態とする併用制御手段と、をさらに備える。
【0013】
請求項7に係る発明は、前記ブレーキ操作部材による制動操作中か否かを判定し、制動操作中には通常制動操作か急制動操作かを判定するブレーキ操作判定手段と、前記ブレーキ操作部材の操作量に対応する要求制動力を、車輪における機械エネルギを電気エネルギに変換して回生制動力を得る回生ブレーキ装置が分担可能な回生制動力分と、前記駆動液圧に基づく液圧制動力分とに分配する分配手段と、前記液圧制動力分の有無を判定し、前記液圧制動力分が有る場合に、前記急制動操作に追従して前記駆動液圧室に供給する前記液圧制動力分相当のブレーキ液の流量を前記ポンプによるブレーキ液の吐出量だけで発生可能か不可能かを判定する液圧制動力判定手段と、前記ブレーキ操作判定手段が前記通常制動操作を判定した場合に、前記ポンプを駆動するとともに前記アキュムレータ導入調整部を液流閉止状態とし、前記ブレーキ操作判定手段が前記急制動操作を判定しかつ前記液圧制動力判定手段が発生不可能と判定した場合に、前記ポンプを駆動するとともに前記アキュムレータ導入調整部を液流許容状態とし、前記ブレーキ操作判定手段が前記急制動操作を判定しかつ前記液圧制動力判定手段が発生可能と判定した場合に、前記ポンプを駆動するとともに前記アキュムレータ導入調整部を液流閉止状態とする液圧制動力制御手段と、をさらに備える。
【0014】
請求項8に係る発明は、前記アキュムレータの前記蓄積圧が所定値未満に低下して蓄圧が必要であるか否かを判定する蓄圧判定手段と、前記蓄圧判定手段が蓄圧を必要と判定しかつ前記ブレーキ操作判定手段が制動操作中でないと判定した場合に、前記駆動液圧調整部および前記反力液圧調整部を閉止して前記ポンプを駆動する蓄圧制御手段と、をさらに備える。
【発明の効果】
【0015】
請求項1に係る発明では、ポンプは駆動液圧調整部を経由して駆動液圧室に連通し、アキュムレータはアキュムレータ導入調整部を経由して駆動液圧室に連通している。このため、ポンプおよびアキュムレータを液圧源として同時に動作させ、多くの液量のブレーキ液を迅速に駆動液圧室に供給することができる。したがって、車両、特に大型車におけるブレーキ操作に追従してマスタシリンダを迅速に動作させ、高い応答性で対応できる。かつ、所要とされるブレーキ液の液量をポンプおよびアキュムレータで分担するので、ポンプ単独やアキュムレータ単独の液圧源と比較して、ポンプ容量を低減しつつアキュムレータを小形化できる。
【0016】
請求項2に係る発明では、反力液圧経路と反力液圧調整部とをさらに備えている。したがって、ブレーキ操作部材の操作力に対抗する反力を発生する機構としてポンプを兼用できる。また、請求項3に係る発明では、駆動液圧経路および反力液圧経路がアキュムレータ液圧経路の途中の共通の接続位置に接続されており、ブレーキ液が流れる経路の構成およびレイアウトを簡素化できる。これら2つの総合的な効果により、車両用制動制御装置の全体構成を簡素化して、小形軽量化に寄与できる。
【0017】
請求項4に係る発明では、アキュムレータ導入調整部の他端が駆動液圧経路の駆動液圧調整部と駆動液圧室との間、または駆動液圧室に接続されている。このため、アキュムレータから駆動液圧室に導入されるブレーキ液は駆動液圧調整部を経由せず、駆動液圧調整部内のオリフィス(流量調整用の狭隘部)の影響を受けない。したがって、アキュムレータから駆動液圧室に至る経路の流体抵抗が低減され、ブレーキ液の導入が効率的となり、駆動液圧室の昇圧応答性を向上することができる。
【0018】
請求項5に係る発明では、前記アキュムレータ導入調整部の他端がアキュムレータ液圧経路のポンプと逆止弁との間に接続されている。したがって、アキュムレータから駆動液圧室に導入されるブレーキ液は、駆動液圧調整部の手前でポンプから吐出されるブレーキ液と合流する。これにより、駆動液圧室に供給するブレーキ液の全量を駆動液圧調整部で一括して調整でき、供給液量の調整が容易になる。また、ブレーキ液が流れる経路の構成およびレイアウトを簡素化できる。
【0019】
請求項6に係る発明では、ブレーキ操作判定手段が制動操作中か否か、および通常制動操作か急制動操作かを判定し、併用判定手段が急制動操作の場合にポンプ単独で対応可能かを判定し、併用制御手段が判定結果に基づいてポンプおよびアキュムレータ導入調整部を制御する。ここで、アキュムレータ導入調整部を液流許容状態とすることはアキュムレータの蓄積圧による駆動液圧室へのブレーキ液の導入を意味し、液流閉止状態とすることはアキュムレータの非使用を意味する。つまり、通常制動操作の場合および急制動操作であってもアキュムレータの蓄積圧が必要でない場合にポンプ単独使用とし、急制動操作で駆動液圧室に多量のブレーキ液を流入させる必要がある場合に、ポンプおよびアキュムレータを併用する。このため、ブレーキ操作部材の制動操作の緩急に応じて適正な制動力を発生することができ、またアキュムレータに蓄積されたブレーキ液をいたずらに消費することがないので、液圧制動制御の信頼性が高くなる。
【0020】
請求項7に係る発明では、ブレーキ操作判定手段が制動操作中か否か、および通常制動操作か急制動操作かを判定し、分配手段が要求制動力を回生制動力分と液圧制動力分とに分配し、液圧制動力判定手段が急制動操作の場合にポンプ単独で対応可能かを判定し、液圧制動力制御手段が判定結果に基づいてポンプおよびアキュムレータ導入調整部を制御する。本請求項7は、回生ブレーキ装置が搭載されたハイブリッド車両および電気自動車を対象としており、要求制動力から回生制動力分を差し引いた液圧制動力分に基づいて請求項6と類似の液圧制動制御を行うようになっている。つまり、液圧制動力判定手段の機能は請求項6の併用判定手段に類似し、液圧制動力制御手段の機能は請求項6の併用制御手段に類似している。これにより、請求項6と同様に制動操作の緩急に応じて適正な制動力を発生することができ、またアキュムレータに蓄積されたブレーキ液をいたずらに消費することがないので、液圧制動制御の信頼性が高くなる。さらに、回生ブレーキ装置が分担可能な回生制動力分の大小に応じて液圧制動力分相当の駆動液圧を発生するので、液圧ブレーキ装置と回生ブレーキ装置との協調制御が可能となっている。
【0021】
請求項8に係る発明では、蓄圧判定手段がアキュムレータの蓄圧の要否を判定し、蓄圧制御手段が判定結果に基づいて制動操作中でないときに蓄圧を実施する。したがって、アキュムレータは、通常時には所定値以上の蓄積圧に保たれて駆動液圧室へのブレーキ液の導入が安定し、液圧制動制御の信頼性が高く維持される。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】第1実施形態の車両用制動制御装置を含むブレーキ系統の全体構成を説明する図である。
【図2】ブレーキペダルの操作量と要求制動力との関係を示す図である。
【図3】第1実施形態の車両用制動制御装置における液圧制動制御で状況判定結果別の動作状態を表す一覧表の図である。
【図4】第1実施形態の車両用制動制御装置における制御処理フローを説明する図である。
【図5】第2実施形態の車両用制動制御装置を含むブレーキ系統の全体構成を説明する図である。
【図6】第3実施形態の車両用制動制御装置を含むブレーキ系統の全体構成を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本発明の第1実施形態の車両用制動制御装置について、図1〜図4を参考にして説明する。図1は、第1実施形態の車両用制動制御装置1を含むブレーキ系統の全体構成を説明する図である。車両用制動制御装置1は、ハイブリッド車両に搭載された液圧ブレーキ装置を構成するとともに、回生ブレーキ装置を協調制御する。
【0024】
マスタシリンダ11は、液圧ブレーキ装置を構成する主要な部材であり、図示されるようにタンデム式で基端部が開口して先端部が閉塞した円筒形状をしている。マスタシリンダ11には、中心孔を有する隔壁11aを挟んで基端部側(後側)に入力シリンダ穴19が形成され、先端部側(前側)に加圧シリンダ穴23が形成されている。入力シリンダ穴19内には、入力ピストン12が内嵌されている。一方、加圧シリンダ穴23内には、マスタピストンを構成する第1出力ピストン13および第2出力ピストン14が内嵌されている。3つのピストン12〜14は、同じ軸線上に配置され、軸線方向に沿って摺動可能になっている。
【0025】
入力ピストン12は、後側の突出部分12a、中間の反力ピストン部12c、および前側の棒状部分12dが一体となって構成されている。突出部分12aは、マスタシリンダ11の基端部内周面にシール部材を介して液密かつ摺動可能に嵌合し、基端部から後方に突出している。突出部分12aは後方に向かって開口した凹部12bを有し、凹部12bにブレーキペダル15の操作ロッド16が嵌合連結されている。ブレーキペダル15を踏み込み操作して入力ピストン12を押し進めた際のブレーキペダル15の移動量を操作量Zと呼ぶ。操作量Zは、ストロークセンサ61によりリアルタイムで検出される。反力ピストン部12cは、入力シリンダ穴19の内周面にシール部材を介して液密かつ摺動可能に嵌合している。棒状部分12dは、反力ピストン部12cよりも細径の円柱状で、反力ピストン部12cの前側軸線上に突き出ている。棒状部分12dおよび反力ピストン部12cの軸線を貫通し、前端が後述の駆動液圧室27に開口し、後端が反力ピストン部12cの後面側で拡がる断面T字状のT字状通路12eが形成されている。
【0026】
棒状部分12dの外周面、反力ピストン部12cの前面、および入力シリンダ穴19の内面により反力液圧室28が区画形成されている。反力液圧室28を外部に連通する反力ポート29が、マスタシリンダ11の隔壁11aの後側に穿設されている。反力ポート29から反力液圧室28に流入出されるブレーキ液の反力液圧により入力ピストン12が後側へ押圧され、ブレーキペダル15に反力が付与されるようになっている。入力ピストン12の棒状部分12dは、隔壁11aの中心孔の内周面にシール部材を介して液密かつ摺動可能に嵌合している。棒状部分12dの前面は、加圧シリンダ穴23内に僅かに突出し、第1出力ピストン13の後側の凹部13aに対向している。
【0027】
第1出力ピストン13は、断面が前方および後方に開いた略H字形状であり、加圧シリンダ穴23内の後方側にシール部材を介して液密かつ摺動可能に嵌合している。第1出力ピストン13の後面、入力ピストン12の棒状部分12dの前面、および加圧シリンダ穴23の内面により駆動液圧室27が区画形成されている。駆動液圧室27は、T字状通路12eを介して反力ピストン部12cの後面側に連通している。また、第1出力ピストン13が後退して隔壁11aに当接したときに、加圧シリンダ穴23の内周面と第1出力ピストン13の外周面との間に軸線方向に沿う環状通路17aが形成されるようになっている。環状通路17aの後側は、径方向に形成される貫通穴17bにより駆動液圧室27に連通している。環状通路17aの前側を外部に連通する駆動ポート33が、マスタシリンダ11の周壁に穿設されている。駆動ポート33から駆動液圧室27に流入出されるブレーキ液の駆動液圧により第1出力ピストン13が前側へ押圧されるようになっている。
【0028】
第1出力ピストン13の前側に配置された第2出力ピストン14は、断面が前方に開いたコ字形状であり、加圧シリンダ穴23の前方側にシール部材を介して液密かつ摺動可能に嵌合している。第1出力ピストン13の前面、第2出力ピストン14の後面、および加圧シリンダ穴23の内面により、第1出力液圧室32が区画形成されている。また、第2出力ピストン14の前面と、加圧シリンダ穴23の先端部閉塞面および内周面とにより、第2出力液圧室36が区画形成されている。
【0029】
第1出力ピストン13の略H字形状の前方側凹部底面と第2出力ピストン14の後面との間に第1圧縮スプリング24が介挿され、第2出力ピストン14のコ字形状の凹部底面と加圧シリンダ穴23の先端部閉塞面との間に第2圧縮スプリング25が介挿されている。これにより、ブレーキペダル15が操作されていない無操作状態で、第1および第2出力ピストン13、14はそれぞれ、第1および第2圧縮スプリング24、25のばね力によってマスタシリンダ11の基端部側に付勢され、所定の不動作位置に停止している。
【0030】
ブレーキペダル15の無操作状態において、入力ピストン12は、反力ピストン部12cの後面周縁が入力シリンダ穴19の後端段部に当接するように停止している。また、第1出力ピストン13は、後面が隔壁11aに当接する不動作位置に停止している。このとき、入力ピストン12の棒状部分12dの前面12gは、第1出力ピストン13の後端面に形成された凹部13aの底面13bと間隔12fで離間している。ドライバーがブレーキペダル15を操作し、操作ロッド16が突出部分12aを押圧し、入力ピストン12が第1出力ピストン13に対して間隔12fだけ前進すると、入力ピストン12の棒状部分12dの前面12gが第1出力ピストン13の凹部13aの底面13bに当接してこれを押圧するようになっている。
【0031】
第1出力液圧室32を外部に連通する第1出力ポート34が、不動作位置に位置する第2出力ピストン14の後面近傍のマスタシリンダ11の周壁に穿設されている。さらに、ブレーキペダル15の無操作状態において第1出力ピストン13の周壁およびマスタシリンダ11の周壁を貫通する第1液量調整ポート38が穿設されている。同様に、第2出力液圧室36を外部に連通する第2出力ポート35が、マスタシリンダ11の先端閉塞面の近傍の周壁に穿設されている。さらに、ブレーキペダル15の無操作状態において第2加圧ピストン14の周壁およびマスタシリンダ11の周壁を貫通する第2液量調整ポート39が穿設されている。
【0032】
マスタシリンダ11に穿設された各ポートは、次のように接続されている。すなわち、駆動液圧室27に連通している駆動ポート33は、後述するように駆動液圧経路44を介して駆動液圧調整部48に接続されている。反力液圧室28に連通する反力ポート29は、後述するように反力液圧経路45を介して反力液圧調整部49に接続されている。また、第1液量調整ポート38および第2液量調整ポート39はリザーバタンク50に接続され、第1および第2出力液圧室32、36内のブレーキ液の量が調整されるようになっている。さらに、第1出力液圧室32に連通する第1出力ポート34は、第1出力管路51を介してABS(Antilock―Brake―System)53に接続され、第2出力液圧室36に連通する第2出力ポート35は、第2出力管路52を介してABS53に接続されている。ABS53は、前輪FR、FLおよび後輪RR、RLを制動するブレーキ装置を動作させる各ホイールシリンダ55FR、55FL、55RR、55RLに接続されている。
【0033】
液圧ブレーキ装置では、マスタシリンダ11の駆動液圧室27にブレーキ液を供給して駆動液圧を発生させると、T字状通路12e内の駆動液圧により入力ピストン12が前方に押圧され、駆動液圧室27内の駆動液圧により第1出力ピストン13が前方に押圧される。これにより、第1および第2出力ピストン13、14が前進し、第1および第2出力液圧室32、36で制動液圧が発生してホイールシリンダ55FR、55FL、55RR、55RLに供給されるようになっている。
【0034】
なお、前輪FR、FLはモータジェネレータ56によって駆動される駆動輪である。モータジェネレータ56は、制動時に前輪FR、FLにおける機械エネルギを電気エネルギに変換して回生制動力を得る回生発電を行い、インバータを介してバッテリを充電することができ、回生ブレーキ装置に相当している。
【0035】
続いて、上述のように構成されている液圧ブレーキ装置および回生ブレーキ装置を協調制御する車両用制動制御装置1の構成を説明する。車両用制動制御装置1は、ポンプ41、アキュムレータ42、ブレーキ液が流れる経路43〜45、ブレーキ液の流れを調整する逆止弁46および調整部47〜49、ブレーキECU62などにより構成されている。
【0036】
ポンプ41は、モータMに駆動されてブレーキ液をリザーバタンク50から吸入し、吐出口411から吐出する。モータMの始動停止および回転数はブレーキECU62に制御され、ブレーキ液の吐出量が可変に制御されるようになっている。ポンプ41の最大吐出量は、後述する通常制動の最大時の制御液圧および反力液圧の増加に単独で対応できる性能とする。アキュムレータ42は、ポンプ41から圧送されたブレーキ液を蓄積(蓄圧)し、必要に応じて蓄積されたブレーキ液を吐出(放圧)するタンクである。アキュムレータ42の最大吐出量とポンプ41の最大吐出量とを加算したブレーキ液の最大供給能力は、後述する急制動の最大時の制御液圧および反力液圧の増加に対応できる性能とする。
【0037】
アキュムレータ液圧経路43は、ポンプ41の吐出口411とアキュムレータ42とを接続している。駆動液圧経路44は、アキュムレータ液圧経路43の途中の接続位置431と、マスタシリンダ11の駆動ポート33とを接続している。反力液圧経路45は、接続位置431とマスタシリンダ11の反力ポート29とを接続している。接続位置431は、駆動液圧経路44および反力液圧経路45に対して共通に設けられている。
【0038】
アキュムレータ液圧経路43内のポンプ4吐出口411と接続位置431との間に、ポンプ41から接続位置431へのブレーキ液の吐出を許容し逆方向の流れを阻止する逆止弁432が設けられている。また、アキュムレータ液圧経路43の接続位置431とアキュムレータ42との間に、ポンプ41からアキュムレータ42へのブレーキ液の蓄積を許容し逆方向の流れを阻止する逆止弁46が設けられている。さらに、アキュムレータ42とリザーバタンク50との間に、所定以上の蓄積圧が発生したときにブレーキ液をリザーバタンク50に逃がして破損を防止するリリーフ弁421が設けられている。
【0039】
駆動液圧経路44の途中に、駆動液圧室流入調整弁Vd1および駆動液圧室流出調整弁Vd2で構成された駆動液圧調整部48が設けられている。駆動液圧室流入調整弁Vd1は、接続位置431と駆動ポート33との間に設けられたリニア弁であり、ポンプ41から接続位置431を経由して駆動液圧室27に流入するブレーキ液の流量を調整する。駆動液圧室流出調整弁Vd2は、駆動ポート33とリザーバタンク50との間に設けられたリニア弁であり、駆動液圧室27からリザーバタンク50に流出するブレーキ液の流量を調整する。駆動液圧経路44の駆動液圧調整部48と駆動ポート33との間には、駆動液圧を検出する液圧センサ44Pが設けられている。
【0040】
さらに、アキュムレータ42と駆動液圧室27との間にアキュムレータ導入調整部47が接続されている。アキュムレータ導入調整部47の一端は、アキュムレータ液圧経路43の逆止弁46とアキュムレータ42との間に接続され、他端は駆動液圧経路44の駆動液圧調整部48と駆動液圧室27との間の合流位置441に接続されている。アキュムレータ導入調整部47は、アキュムレータ42から吐出されて合流位置441に導入されるブレーキ液の液量を調整するリニア弁であるアキュムレータ液圧導入調整弁Vacおよび絞り弁471で構成されている。アキュムレータ42とアキュムレータ導入調整部47との間には、アキュムレータ42の蓄積圧を検出する液圧センサ42Pが設けられている。
【0041】
反力液圧経路45の途中に、反力液圧室流入調整弁Vr1および反力液圧室流出調整弁Vr2で構成された反力液圧調整部49が設けられている。反力液圧室流入調整弁Vr1は、接続位置431と反力ポート29との間に設けられたリニア弁であり、接続位置431から反力液圧室28に流入するブレーキ液の流量を調整する。反力液圧室流出調整弁Vr2は、反力ポート29とリザーバタンク50との間に設けられたリニア弁であり、反力液圧室28からリザーバタンク50に流出するブレーキ液の流量を調整する。反力液圧経路45の反力液圧調整部49と反力ポート29との間には、反力液圧を検出する液圧センサ45Pが設けられている。また、反力液圧室流出調整弁Vr2に対して並列に、リリーフ弁491および逆止弁492が設けられている。リリーフ弁491は、反力液圧室28に所定以上の反力液圧が発生したときに、ブレーキ液をリザーバタンク50に逃がして破損を防止する。逆止弁492は、反力液圧室28が負圧になったときに、リザーバタンク50からブレーキ液を流入させる。
【0042】
ブレーキECU62は、CPUを内蔵してソフトウェアで動作する電子制御装置である。ブレーキECU62は、モータMを制御してポンプ41の吐出量を調整するとともに、5つの調整弁(リニア弁)Vac、Vd1、Vd2、Vr1、Vr2を独立して制御し、ブレーキ液の導入および流入出を調整する。また、ブレーキECU62は、3つの液圧センサ42P、44P、45Pから検出信号を取得し、アキュムレータ42の蓄積圧、駆動液圧室27の駆動液圧、および反力液圧室28の反力液圧を認識する。さらに、ブレーキECU62は、ストロークセンサ61から検出信号を取得し、ブレーキペダル15の操作量Zおよび操作速度を認識する。
【0043】
ブレーキECU62は、車両全体を総括的に制御するメインECU63と通信を介して接続されている。メインECU63は、ブレーキECU62の他に、モータジェネレータ(回生ブレーキ装置)56を制御するモータECU64、およびその他のECUと連携している。実施形態の制動制御装置1は、ブレーキ操作判定手段、分配手段、液圧制動力判定手段、液圧制動力制御手段、蓄圧判定手段、および蓄圧制御手段の6つの機能手段を備えている。6つの機能手段は、主にブレーキECU62のソフトウェアで実現されており、各ECU62〜64が協調して制御を行い、制動制御装置1の各部が動作することで実行される。
【0044】
ブレーキECU62はブレーキ操作判定手段において、まず、ブレーキペダル15の操作量Zに基づいて制動操作中か否かを判定する。図2は、ブレーキペダル15の操作量Zと要求制動力Freqとの関係を示す図である。図示されるように、操作量Zが所定の閾値Z1未満であると要求制動力Freqはゼロとされ、操作量Zが閾値Z1以上になると操作量Zの増加とともに要求制動力Freqも増加するのが一般的なブレーキ特性である。このブレーキ特性は、予め定められてブレーキECU62内に記憶されている。ブレーキECU62は、認識した操作量Zが閾値Z1以上であると制動操作中であると判定し、操作量Zが閾値Z1未満であると制動操作中でないと判定する。
【0045】
制動操作中であると判定したとき、ブレーキECU62は、次に、通常制動操作か急制動操作かを判定する。この判定では、操作量Zの時間変化率が所定の閾変化率以上であるときに急制動操作とし、時間変化率が所定の閾変化率未満であるときに通常制動動作とする。時間変化率は、例えば、操作量Zの微分演算によって求めることができ、あるいは、制御処理フローの繰り返しサイクルにおける操作量Zの今回値から前回値を差し引いた差分量から求めることができる。
【0046】
ブレーキECU62は分配手段において、図2に例示されるように、ブレーキ操作部材の操作量Zに対応する要求制動力Freqを、モータジェネレータ(回生ブレーキ装置)56が分担可能な回生制動力分Feと、駆動液圧に基づく液圧制動力分Fpとに分配する。このとき、分担可能な回生制動力分Feを優先して発生させる制御を行うが、回生制動力分Feは車両の走行状況やモータジェネレータ56が充電するバッテリの蓄電状態などに依存して変化し得る。したがって、ブレーキECU62はメインECU63を介しモータECU64から分担可能な回生制動力分Feの情報を取得し、要求制動力Freqから回生制動力分Feを差し引いて液圧制動力分Fpとする。
【0047】
ブレーキECU62は液圧制動力判定手段において、まず、液圧制動力分Fpの有無を判定する。そして、液圧制動力分Fpが有る場合に、急制動操作に追従して駆動液圧室27に供給する液圧制動力分Fpの変化に相当するブレーキ液の流量をポンプ41によるブレーキ液の吐出量だけで発生可能か不可能かを判定する。ここで、必要とされるブレーキ液の流量は、液圧制動力分Fpの絶対的な大きさではなく、変化率の大小に対応して定まる。
【0048】
例えば、ブレーキペダル15が大きく踏み込み操作されていても、その操作量Zが概ね一定に落ち着いていれば要求制動力Freqも一定であり、制御液圧室27にはすでに十分な液量のブレーキ液が供給されているため、新たにブレーキ液を供給する必要はない。逆に、ブレーキペダル15の操作量Zの絶対値が小さくても踏み込まれた瞬間であれば要求制動力Freqが増加するため、この増加分を回生制動力分Feまたは液圧制動力分Fpで新たに発生させる必要が生じる。このとき、回生制動力分Feに余裕がなければ、要求制動力Freqの増加分を液圧制動力分Fpで発生させることになる。したがって、液圧制動力分Fpを増加させるために、増加率に見合う液量のブレーキ液を制御液圧室27に供給する必要が生じ、必要とされる流量をポンプ41の最大吐出量と比較することで所期の判定を行うことができる。
【0049】
なお、通常制動時には、液圧制動力分Fpの変化に相当するブレーキ液の流量をポンプ41による吐出量だけで発生可能であることが明らかであるので、液圧制動力判定手段は機能する必要がない。
【0050】
ブレーキECU62は液圧制動力制御手段において、判定結果に基づいてポンプ41およびアキュムレータ導入調整部47を制御する。具体的には、通常制動操作を判定した場合に、ポンプ41を駆動するとともにアキュムレータ導入調整部47を液流閉止状態として、ポンプ41単独でブレーキ液を供給する。また、急制動操作を判定しかつポンプ41によるブレーキ液の吐出量だけで発生不可能と判定した場合に、ポンプ41を駆動するとともにアキュムレータ導入調整部47を液流許容状態とし、ポンプ41およびアキュムレータ42を併用してブレーキ液を供給する。なおこのとき、アキュムレータ導入調整部47を制御状態として、アキュムレータ42から合流位置441に導入するブレーキ液の液量を調整する。さらに、急制動操作を判定しかつポンプ41によるブレーキ液の吐出量だけで発生可能と判定した場合に、ポンプ41を駆動するとともにアキュムレータ導入調整部47を液流閉止状態として、ポンプ41単独でブレーキ液を供給する。
【0051】
上記3つのいずれの場合も、ブレーキECU62は、液圧センサ44Pで検出された駆動液圧の情報に基づいて適宜フィードバック制御を行う。液圧制動力制御手段の制御機能については、後の液圧制動制御の動作の説明で詳述する。
【0052】
ブレーキECU62は蓄圧判定手段において、液圧センサ42Pで検出されたアキュムレータ42の蓄積圧が所定値未満に低下したときに、蓄圧が必要であると判定する。
【0053】
ブレーキECU62は蓄圧制御手段において、アキュムレータ42の蓄圧が必要でかつ制動操作中でない場合に、駆動液圧調整部48および反力液圧調整部49を閉止してポンプ41を駆動する。これにより、ポンプ41から吐出されたブレーキ液が逆止弁46を通ってアキュムレータ42に蓄積され、蓄積圧が増加する。また後述するように、本実施形態では制動操作中であっても、必要に応じ可能な範囲でアキュムレータ42の蓄圧を並行して実施する。
【0054】
次に、実施形態の車両用制動制御装置1における液圧制動制御の動作について説明する。図3は、実施形態の車両用制動制御装置1における液圧制動制御で状況判定結果別の動作状態を表す一覧表の図である。一覧表を参照しやすくするために、表中の各行(Y行)および各列(X列)に符号を付して説明する。
【0055】
図3で、Y1行は車両用制動制御装置1の装置電源のオフ/オンの状況を示し、Y2〜Y5行は車両用制動制御装置1の機能手段による状況判定結果を場合分けして示している。すなわち、Y2行およびY3行はブレーキ操作判定手段の判定結果を示し、Y4行は蓄圧判定手段の判定結果を示し、Y5行は液圧制動力判定手段の判定結果を示している。また、Y6〜Y11行は、車両用制動制御装置1内部の動作状態を示している。具体的に、Y6行はポンプ41を駆動するモータMの回転数状態を示している。Y7行は駆動液圧室流入調整弁Vd1、Y8行は駆動液圧室流出調整弁Vd2、Y9行は反力液圧室流入調整弁Vr1、Y10行は反力液圧室流出調整弁Vr2、Y11行はアキュムレータ液圧導入調整弁Vacの開状態、閉状態、および制御状態をそれぞれ示している。また、図3で、X0列は電源オフ時の状態を示し、X1およびX2列は制動操作中でないときの動作状態を示し、X3〜X10列は制動操作中であるときの動作状態を示している。
【0056】
X0列の装置電源オフの状態において、当然ながらY2〜Y5行の機能手段は機能せず、モータMは停止している。また、駆動液圧室流入調整弁Vd1は開、駆動液圧室流出調整弁Vd2は閉とされており、いつでも駆動液圧室27にブレーキ液を供給できるように準備されている。同様に、反力液圧室流入調整弁Vr1は開、反力液圧室流出調整弁Vr2は閉とされており、いつでも反力液圧室28にブレーキ液を供給できるように準備されている。また、アキュムレータ液圧導入調整弁Vacは閉(液流閉止状態)とされている。電源が投入されてオンとなっても、制動操作中でなくかつアキュムレータ42の蓄圧が不要のときは、各調整弁Vd1、Vd2、Vr1、Vr2、Vacの開閉状態が維持されたX1列の待機状態となる。
【0057】
X1列の待機状態でアキュムレータ42の蓄圧が必要になるとX2列に移行し、モータMを高回転とし、駆動液圧室流入調整弁Vd1および反力液圧室流入調整弁Vr1を閉とする。これにより、ポンプ41から吐出された多量のブレーキ液は、駆動液圧室27や反力液圧室28には流入せずにアキュムレータ42に流入して蓄積され、蓄積圧が増加する。そして、液圧センサ42Pにより検出される蓄積圧が所定値まで増加すると、ポンプ41を停止してX1列の待機状態に戻る。X2列の動作状態は、蓄圧制御手段の制御機能により実現される。
【0058】
X1列の待機状態で制動操作中になると、X3〜X6列の通常制動およびX7〜X10列の急制動のいずれかのX列に移行する。X3列に示されるように、通常制動でアキュムレータ42の蓄圧が不要かつ液圧制動力分Fpが無い(回生制動力分Peだけで足り、駆動液圧が不要である)場合に、モータMを低回転とし、駆動液圧室流入調整弁Vd1および駆動液圧室流出調整弁Vd2を閉とし、反力液圧室流入調整弁Vr1を開、反力液圧室流出調整弁Vr2を制御状態とし、アキュムレータ液圧導入調整弁Vacを閉(液流閉止状態)とする。これにより、ポンプ41から吐出された少量のブレーキ液は反力液圧室28に流入する。反力液圧室28の反力液圧は、反力液圧室流出調整弁Vr2の制御によりブレーキ液の一部がリザーバタンク50に戻されることで調整され、ブレーキペダル15に反力が付与される(反力液圧の調整は、X4〜X10列でも同様)。
【0059】
また、X4列に示されるように、通常制動でアキュムレータ42の蓄圧が不要かつ液圧制動力分Fpが有る(回生制動力分Peだけでは不足または回生制動力分Peを発生できず駆動液圧が必要である)場合に、モータMを低〜中回転とし、駆動液圧室流入調整弁Vd1を開、駆動液圧室流出調整弁Vd2を制御状態とし、反力液圧室流入調整弁Vr1および反力液圧室流出調整弁Vr2を制御状態とし、アキュムレータ液圧導入調整弁Vacを閉(液流閉止状態)とする。これにより、ポンプ41から吐出された少〜中量のブレーキ液は、反力液圧室流入調整弁Vr1の流入量制限に基づく流量配分比にしたがい、接続位置431で分流して合流位置441および反力液圧室28に流入する。合流位置441に流入したブレーキ液によって駆動液圧室27の駆動液圧は増加し、駆動液圧室流出調整弁Vd2の制御によりブレーキ液の一部がリザーバタンク50に戻されることで調整され、目的とする液圧駆動力分Fpが調整される(駆動液圧の調整は、X6列でも同様)。
【0060】
また、X5列に示されるように、通常制動でアキュムレータ42の蓄圧が必要かつ液圧制動力分Fpが無い場合に、モータMを中回転とし、駆動液圧室流入調整弁Vd1および駆動液圧室流出調整弁Vd2を閉とし、反力液圧室流入調整弁Vr1および反力液圧室流出調整弁Vr2を制御状態とし、アキュムレータ液圧導入調整弁Vacを閉(液流閉止状態)とする。これにより、ポンプ41から吐出された中量のブレーキ液は、反力液圧室流入調整弁Vr1の流入量制限に基づく流量配分比にしたがい、接続位置431で分流して反力液圧室28およびアキュムレータ42に流入する。反力液圧室28では反力液圧が増加し、アキュムレータ42では蓄積圧が増加する。
【0061】
また、X6列に示されるように、通常制動でアキュムレータ42の蓄圧が必要かつ液圧制動力分Fpが有る場合に、モータMを中〜高回転とし、駆動液圧室流入調整弁Vd1および駆動液圧室流出調整弁Vd2を制御状態とし、反力液圧室流入調整弁Vr1および反力液圧室流出調整弁Vr2も制御状態とし、アキュムレータ液圧導入調整弁Vacを閉(液流閉止状態)とする。これにより、ポンプ41から吐出された中〜多量のブレーキ液は、駆動液圧室流入調整弁Vd1および反力液圧室流入調整弁Vr1の流入量制限に基づく流量配分比にしたがい、接続位置431で分流して駆動液圧室27および反力液圧室28およびアキュムレータ42に流入する。駆動液圧室27では駆動液圧が調整されて目的とする液圧駆動力分Fpが調整され、反力液圧室28では反力液圧が増加し、アキュムレータ42では蓄積圧が増加する。
【0062】
また、X7列に示されるように、急制動でアキュムレータ42の蓄圧が不要かつ液圧制動力分Fpが無い場合に、モータMを低回転とし、駆動液圧室流入調整弁Vd1および駆動液圧室流出調整弁Vd2を閉とし、反力液圧室流入調整弁Vr1を開、反力液圧室流出調整弁Vr2を制御状態とし、アキュムレータ液圧導入調整弁Vacを閉(液流閉止状態)とする。これにより、ポンプ41から吐出された少量のブレーキ液は反力液圧室28に流入し、反力液圧が増加する。
【0063】
また、X8列に示されるように、急制動でアキュムレータ42の蓄圧が不要かつ液圧制動力分Fpが有る場合に、モータMを中〜高回転とし、駆動液圧室流入調整弁Vd1を開、駆動液圧室流出調整弁Vd2を制御状態とし、反力液圧室流入調整弁Vr1および反力液圧室流出調整弁Vr2を制御状態とし、アキュムレータ液圧導入調整弁Vacを制御状態(液流許容状態)とする。これにより、ポンプ41から吐出された中量〜多量のブレーキ液が、反力液圧室流入調整弁Vr1の流入量制限に基づく流量配分比にしたがい、接続位置431で分流して駆動液圧経路44の合流位置441および反力液圧室28に流入する。反力液圧室28では、反力液圧が増加する。さらに、アキュムレータ液圧導入調整弁Vacにより導入量を調整されたアキュムレータ42からのブレーキ液が合流位置441に導入され、ポンプ41からのブレーキ液と合流して、駆動液圧室27に供給される。駆動液圧室27の駆動液圧は、駆動液圧調整部48およびアキュムレータ導入調整部47により調整されて、目的とする液圧駆動力分Fpが調整される。
【0064】
また、X9列に示されるように、急制動でアキュムレータ42の蓄圧が必要かつ液圧制動力分Fpが無い場合に、モータMを中回転とし、駆動液圧室流入調整弁Vd1および駆動液圧室流出調整弁Vd2を閉とし、反力液圧室流入調整弁Vr1および反力液圧室流出調整弁Vr2を制御状態とし、アキュムレータ液圧導入調整弁Vacを閉(液流閉止状態)とする。これにより、ポンプ41から吐出された中量のブレーキ液は、反力液圧室流入調整弁Vr1の流入量制限に基づく流量配分比にしたがい、接続位置431で分流して反力液圧室28およびアキュムレータ42に流入する。反力液圧室28では反力液圧が増加し、アキュムレータ42では蓄積圧が増加する。
【0065】
また、X10列に示されるように、急制動でアキュムレータ42の蓄圧が必要かつ液圧制動力分Fpが有る場合に、モータMを高回転とし、駆動液圧室流入調整弁Vd1および駆動液圧室流出調整弁Vd2を制御状態とし、反力液圧室流入調整弁Vr1および反力液圧室流出調整弁Vr2も制御状態とし、アキュムレータ液圧導入調整弁Vacを制御状態(液流許容状態)とする。これにより、ポンプ41から吐出された多量のブレーキ液は、駆動液圧室流入調整弁Vd1および反力液圧室流入調整弁Vr1の流入量制限に基づく流量配分比にしたがい、接続位置431で分流して駆動液圧経路44の合流位置441および反力液圧室28に流入する。反力液圧室28では、反力液圧が増加する。さらに、アキュムレータ液圧導入調整弁Vacにより導入量を調整されたアキュムレータ42からのブレーキ液が合流位置441に導入され、ポンプ41からのブレーキ液と合流して、駆動液圧室27に供給される。駆動液圧室27の駆動液圧は、駆動液圧調整部48およびアキュムレータ導入調整部47により調整されて、目的とする液圧駆動力分Fpが調整される。
【0066】
なお、X10列の状況において、アキュムレータ42の蓄圧が必要であっても、駆動液圧の調整による液圧制動力分Fpの発生が優先される。このため、ポンプ41から吐出されるブレーキ液とアキュムレータ42から導入されるブレーキ液とが駆動液圧室27に供給され、アキュムレータ42の蓄積圧は一層低下する。仮に、必要とされる液圧制動力分Fpが比較的小さくポンプ41から吐出される多量のブレーキ液だけで対応でき、液量に余裕が生じる場合には、X6列と同様の制御を行ってポンプ41からアキュムレータ42を蓄圧する。
【0067】
なお、ポンプ41の低回転、中回転、および高回転は、回転数の目安を示したに過ぎず、状況に応じて適宜制御するのは当然である。例えば、X5およびX6列の制御では、必要とされる駆動液圧および反力液圧に対して余裕が生じるだけのブレーキ液の液量を吐出するようにモータMの回転数を制御する。さらに、余裕に相当するブレーキ液の液量がアキュムレータ42に流入するように流量配分比を制御する。また、X8およびX10列の制御では、必要とされる駆動液圧および反力液圧を発生できるだけのブレーキ液の液量を確保するように、モータMの回転数を制御しかつアキュムレータ液圧導入調整弁Vacを調整する。X3〜X10列の動作状態は、液圧制動力制御手段の制御機能により実現される。
【0068】
また、図3には省略されているがブレーキペダル15の操作量Zが閾値Z1以上でその変化率が負値の場合、すなわち踏み込み操作されたブレーキペダル15が戻る制動解除中の場合に、制動制御装置1は次の制御を行う。すなわち、制動解除中の場合に、制動制御装置1は、モータMを停止し、駆動液圧室流入調整弁Vd1を閉、駆動液圧室流出調整弁Vd2を開とし、反力液圧室流入調整弁Vr1および反力液圧室流出調整弁Vr2を閉とし、アキュムレータ液圧導入調整弁Vacを閉(液流閉止状態)とする。これにより、第1および第2圧縮スプリング24、25に付勢されて第1出力ピストン13が後退し、駆動液圧室27のブレーキ液は開状態の駆動液圧室流出調整弁Vd2からリザーバタンク50に流出し、駆動液圧が減少する。また、反力液圧室流出調整弁Vr2に並列に設けられた逆止弁492を経由してリザーバタンク50から反力液圧室28にブレーキ液が流入し、第1出力ピストン13に後ろ向きに押圧された入力ピストン12が後退する。
【0069】
次に、上述の動作を実施する際の制御処理フローについて説明する。図4は実施形態の車両用制動制御装置1における制御処理フローを説明する図である。図4で、ステップQ1〜Q9は状況判定結果による場合分けの処理を示し、ステップS1〜S10はアキュムレータ液圧導入調整弁Vacを除いた4つの弁Vd1、Vd2、Vr1、Vr2とモータMの制御処理を示し、ステップS11およびS12はアキュムレータ液圧導入調整弁Vacの制御処理を示している。なお、ステップS1〜S10の制御処理はそれぞれ、図3のX1〜X10列に対応している。
【0070】
図4のステップQ1で、まずブレーキペダル15による制動操作中か否かを判定し、制動操作中でないときステップQ3に進み、制動操作中のときステップQ2に進む。ステップQ2で通常制動操作か急制動操作かを判定し、通常制動操作でステップQ4に進み、急制動操作でステップQ5に進む。制動操作中でないときのステップQ3で、アキュムレータ42の蓄圧の要否が判定され、蓄圧が不要のときステップS1に進み、蓄圧が必要なときステップS2に進む。通常制動操作中のときのステップQ4で、アキュムレータ42の蓄圧の要否が判定され、蓄圧が不要のときステップQ6に進み、蓄圧が必要なときステップQ7に進む。同様に、急制動操作中のときのステップQ5で、アキュムレータ42の蓄圧の要否が判定され、蓄圧が不要のときステップQ8に進み、蓄圧が必要なときステップQ9に進む。ステップQ6〜Q9では、それぞれ液圧制動力分Fpの有無、すなわち駆動液圧の要否が判定され、判定結果に応じてステップS3またはS4、ステップS5またはS6、ステップS7またはS8、およびステップS9またはS10のどちらかに進む。これまでのステップQ1〜Q9により、ステップS1〜S10の場合分けが行われる。
【0071】
ステップS1は、ステップS1−1、S1−2、およびS1−3に細分されている。まずステップS1−1で、モータMを停止させる。次にステップS1−2で、反力液圧室流入調整弁Vr1を開とし、反力液圧室流出調整弁Vr2を閉とする。3番目にステップS1−3で、駆動液圧室流入調整弁Vd1を開とし、駆動液圧室流出調整弁Vd2を閉とする。この制御処理の内容は、図3のX1列のY6〜Y10行の動作状態に一致している。同様に、ステップS2〜S10も、図4に示されるようにそれぞれ3ステップに細分されており、制御処理の内容も図3のX2〜X10列のY6〜Y10行の動作状態に一致しており、説明は省略する。
【0072】
ステップS1〜S7およびステップS9の後ステップS11に進み、ステップS8およびステップS10の後ステップS12に進む。ステップS11では、アキュムレータ液圧導入調整弁Vacを閉(液流閉止状態)とする。ステップS12では、アキュムレータ液圧導入調整弁Vacを制御状態(液流許容状態)とする。これで、制御処理フローの1サイクルが終了する。制御処理フローは、通常一定時間間隔で繰返して行われる。
【0073】
第1実施形態の車両用制動制御装置1では、ポンプ41およびアキュムレータ42を液圧源として同時に動作させ、多くの液量のブレーキ液を迅速に駆動液圧室27に供給することができる。特に、アキュムレータ42から駆動液圧室27に導入されるブレーキ液は駆動液圧調整部48を経由せず、駆動液圧調整部48内のオリフィス(流量調整用の狭隘部)の影響を受けない。これにより、アキュムレータ42から駆動液圧室に至る経路の流体抵抗が低減され、ブレーキ液の導入が効率的となり、駆動液圧室の昇圧応答性を向上することができる。したがって、車両、特に大型車におけるブレーキペダル15の踏み込み操作に追従してマスタシリンダ11を迅速に動作させ、高い応答性で対応できる。かつ、所要とされるブレーキ液の液量をポンプ41およびアキュムレータ42で分担するので、従来のポンプ単独やアキュムレータ単独の液圧源と比較して、ポンプ41の容量を低減しつつアキュムレータ42を小形化できる。
【0074】
また、本実施形態はモータジェネレータ(回生ブレーキ装置)56が搭載されたハイブリッド車両を対象としており、要求制動力Freqから回生制動力分Feを差し引いた液圧制動力分Fpに基づいて液圧制動制御を行うようになっている。したがって、ブレーキペダル15の操作の緩急に応じて適正な制動力を発生することができ、またアキュムレータ42に蓄積されたブレーキ液をいたずらに消費することがないので、液圧制動制御の信頼性が極めて高くなる。さらに、モータジェネレータ(回生ブレーキ装置)56が分担可能な回生制動力分Feの大小変化に応じて液圧制動力分Fpに相当する駆動液圧を発生させるので、液圧ブレーキ装置と回生ブレーキ装置との協調制御が可能となっている。
【0075】
また、蓄圧判定手段がアキュムレータ42の蓄圧の要否を判定し、蓄圧制御手段が判定結果に基づいて制動操作中でないときに蓄圧を実施するので、アキュムレータ42は通常時には所定の蓄積圧以上に保たれて合流位置441へのブレーキ液の導入が安定し、液圧制動制御の信頼性が高く維持される。
【0076】
さらに、反力液圧経路45および反力液圧調整部49を備えて反力の発生にポンプを兼用し、駆動液圧経路44および反力液圧経路45を共通の接続位置431に接続して経路の構成およびレイアウトを簡素化している。これら2つの総合的な効果により、車両用制動制御装置1の全体構成を簡素化して、小形軽量化に寄与できる。
【0077】
次に、第2実施形態の車両用制動制御装置1Aについて、図5を参考にして説明する。図5は、第2実施形態の車両用制動制御装置1Aを含むブレーキ系統の全体構成を説明する図である。図5を図1と比較すれば分かるように、第2実施形態ではアキュムレータ導入調整部47の他端の接続箇所がマスタシリンダ11の駆動液圧室27に変更されており、その他は第1実施形態と同じ構成になっている。詳述すると、マスタシリンダ11の周壁に穿設された駆動ポート33に対して並列にアキュムレータ駆動ポート33Aが穿設されている。そして、アキュムレータ導入調整部47の一端はアキュムレータ液圧経路43の逆止弁46とアキュムレータ42との間に接続され、他端はアキュムレータ駆動ポート33Aに接続されている。つまり、アキュムレータ導入調整部47の他端は、駆動液圧経路48ではなくアキュムレータ駆動ポート33Aに接続され、環状通路17aを経由して駆動液圧室27に連通している。
【0078】
第2実施形態における液圧制動制御の動作は、図3および図4に示される第1実施形態と概ね同様であるが、アキュムレータ42から導入されるブレーキ液の流れる経路が異なる。すなわち、図3のX8列およびX10列でアキュムレータ液圧導入調整弁Vacを制御状態(液流許容状態)としたとき、アキュムレータ42からのブレーキ液はアキュムレータ駆動ポート33Aから環状通路17aに導入され、ポンプ41から駆動ポート33を経由して環状通路17aに流入したブレーキ液と環状通路17a内で合流し、駆動液圧室27に供給される。
【0079】
第2実施形態の車両用制動制御装置1Aでも、第1実施形態と同様に、ポンプ41およびアキュムレータ42を液圧源として同時に動作させ、多くの液量のブレーキ液を迅速に駆動液圧室27に供給することができる。特に、アキュムレータ42からのブレーキ液およびポンプ41からのブレーキ液がマスタシリンダ11の環状通路17aまで別々の経路で流入し、途中で合流しないので流体抵抗が低減され、ブレーキ液の流入が一層効率的となり、駆動液圧室27の昇圧応答性をさらに一層向上することができる。
【0080】
次に、第3実施形態の車両用制動制御装置1Bについて、図6を参考にして説明する。図6は、第3実施形態の車両用制動制御装置1Bを含むブレーキ系統の全体構成を説明する図である。図6を図1および図5と比較すれば分かるように、第3実施形態ではアキュムレータ導入調整部47の他端の接続箇所がアキュムレータ液圧経路43に変更されており、その他は第1および実施形態と同じ構成になっている。具体的に、アキュムレータ導入調整部47の一端はアキュムレータ液圧経路43の逆止弁46とアキュムレータ42との間に接続され、他端はアキュムレータ液圧経路43の接続位置431と逆止弁46との間の分岐位置433に接続されている。換言すれば、アキュムレータ導入調整部47は、逆止弁46に対して並列に接続されている。
【0081】
第3実施形態における液圧制動制御の動作は、図3および図4に示される第1実施形態と概ね同様であるが、アキュムレータ42から導入されるブレーキ液の流れる経路が異なる。すなわち、図3のX8列およびX10列でアキュムレータ液圧導入調整弁Vacを制御状態(液流許容状態)としたとき、アキュムレータ42からのブレーキ液は、分岐位置433に導入される。そして、アキュムレータ42からのブレーキ液は、分岐位置433から接続位置431に導入されてポンプ41からのブレーキ液と合流し、駆動液圧調整部48で液圧が調整されて駆動液圧室27に供給される。
【0082】
第3実施形態の車両用制動制御装置1Bでも、第1および第2実施形態と同様に、ポンプ41およびアキュムレータ42を液圧源として同時に動作させ、多くの液量のブレーキ液を迅速に駆動液圧室27に供給することができる。特に、アキュムレータ42から導入されるブレーキ液が駆動液圧調整部48の手前の接続位置431でポンプ41から吐出されるブレーキ液と合流するので、駆動液圧室27に供給するブレーキ液の全量を駆動液圧調整部48で一括して調整でき、供給液量の調整が容易になる。また、ブレーキ液が流れる経路の構成およびレイアウトをシンプル化できる。
【0083】
なお、本発明は、モータジェネレータ(回生ブレーキ装置)56を有さない従来のエンジン車両にも実施することができる。この態様では、要求制動力Freqの全量を液圧制動力分Fpとし、図3のX3、X5、X7、およびX9列をなくして同様の液圧制動制御を行う。また、アキュムレータ導入調整部47を構成するアキュムレータ液圧導入調整弁Vacは、導入されるブレーキ液の液量を調整可能なリニア弁としたが、これに限定されず、例えば単に開閉機能を有する開閉弁としてもよい。さらに、反力液圧経路45および反力液圧調整部49は必須ではなく、他の反力発生機構、例えば公知のペダルストロークシミュレータに代えることもできる。本発明は、その他様々な構成の変形や制御の応用が可能である。
【符号の説明】
【0084】
1、1A、1B…車両用制動制御装置
11…マスタシリンダ、11a…隔壁、12…入力ピストン、12a…突出部分、12b…凹部、12c…反力ピストン部、12d…棒状部分、12e…T字状通路、13…第1出力ピストン、14…第2出力ピストン、15…ブレーキペダル、16…操作ロッド、19…入力シリンダ穴、22…リザーバタンク、23…加圧シリンダ穴、24…第1圧縮スプリング、25…第2圧縮スプリング、27…駆動液圧室、28…反力液圧室、32…第1出力液圧室、33…駆動ポート、33A…アキュムレータ駆動ポート、36…第2出力液圧室、41…ポンプ、411…吐出口、42…アキュムレータ、43…アキュムレータ液圧経路、431…接続位置、433…分岐位置、44…駆動液圧経路、441…合流位置、45…反力液圧経路、46…逆止弁、47…アキュムレータ導入調整部、48…駆動液圧調整部、49…反力液圧調整部、50…リザーバタンク、51…第1出力管路、52…第2出力管路、53…ABS、 55FR、55FL、55RR、55RL…ホイールシリンダ、56…モータジェネレータ(回生ブレーキ装置)、61…ストロークセンサ、62…ブレーキECU、63…メインECU、64…モータECU
42P、44P、45P…液圧センサ、Vd1…駆動液圧室流入調整弁、Vd2…駆動液圧室流出調整弁、Vr1…反力液圧室流入調整弁、Vr2…反力液圧室流出調整弁、Z…操作量、Freq…要求制動力、Fe…回生制動力分、Fp…液圧制動力分

【特許請求の範囲】
【請求項1】
マスタピストン(13、14)を駆動する駆動液圧を発生する駆動液圧室(27)を有するマスタシリンダ(11)に適用され、ポンプ(41)および該ポンプにより蓄圧されたアキュムレータ(42)の少なくとも一方により前記駆動液圧室にブレーキ液を供給して前記駆動液圧を発生させ、前記マスタピストンを前記駆動液圧で押圧することにより出力液圧室(32、36)から制動液圧をホイールシリンダ(55FR、55FL、55RR、55RL)に供給する車両用制動制御装置(1)であって、
前記ポンプの吐出口(411)と前記アキュムレータとを接続するアキュムレータ液圧経路(43)と、
前記アキュムレータ液圧経路の途中の接続位置(431)と前記駆動液圧室とを接続する駆動液圧経路(44)と、
前記アキュムレータ液圧経路の前記接続位置と前記アキュムレータとの間に設けられ、前記ポンプから前記アキュムレータへのブレーキ液の蓄積を許容し逆方向の流れを阻止する逆止弁(46)と、
一端が前記アキュムレータ液圧経路の前記逆止弁と前記アキュムレータとの間に接続され、他端が前記アキュムレータ液圧経路の前記ポンプと前記逆止弁との間または前記駆動液圧経路または前記駆動液圧室に接続されて、前記一端から前記他端へのブレーキ液の導入を調整するアキュムレータ導入調整部(47)と、
前記駆動液圧経路の途中に設けられ、前記ブレーキ操作部材の操作に応じて前記駆動液圧室へのブレーキ液の流入出を調整する駆動液圧調整部(48)と、
を備える車両用制動制御装置。
【請求項2】
ブレーキ操作部材(15)の操作力に対抗する反力液圧を発生する反力液圧室(28)を有するマスタシリンダ(11)に適用され、
前記アキュムレータ液圧経路の前記ポンプと前記逆止弁との間と、前記反力液圧室とを接続する反力液圧経路(45)と、
前記反力液圧経路の途中に設けられ、前記ブレーキ操作部材の操作に応じて前記反力液圧室へのブレーキ液の流入出を調整する反力液圧調整部(49)と、
をさらに備える請求項1に記載の車両用制動制御装置。
【請求項3】
前記駆動液圧経路および反力液圧経路は、前記アキュムレータ液圧経路の途中の共通の接続位置に接続されている請求項2に記載の車両用制動制御装置。
【請求項4】
前記アキュムレータ導入調整部の他端は、前記駆動液圧経路の前記駆動液圧調整部と前記駆動液圧室との間、または前記駆動液圧室に接続されている請求項1〜3のいずれか一項に記載の車両用制動制御装置。
【請求項5】
前記アキュムレータ導入調整部の他端は、前記アキュムレータ液圧経路の前記ポンプと前記逆止弁との間に接続されている請求項1〜3のいずれか一項に記載の車両用制動制御装置。
【請求項6】
前記ブレーキ操作部材による制動操作中か否かを判定し、制動操作中には通常制動操作か急制動操作かを判定するブレーキ操作判定手段と、
前記急制動操作に追従して前記駆動液圧室に供給するブレーキ液の流量を前記ポンプによるブレーキ液の吐出量だけで発生可能か不可能かを判定する併用判定手段と、
前記ブレーキ操作判定手段が前記通常制動操作を判定した場合に、前記ポンプを駆動するとともに前記アキュムレータ導入調整部を液流閉止状態とし、前記ブレーキ操作判定手段が前記急制動操作を判定しかつ前記併用判定手段が発生不可能と判定した場合に、前記ポンプを駆動するとともに前記アキュムレータ導入調整部を液流許容状態とし、前記ブレーキ操作判定手段が前記急制動操作を判定しかつ前記併用判定手段が発生可能と判定した場合に、前記ポンプを駆動するとともに前記アキュムレータ導入調整部を液流閉止状態とする併用制御手段と、をさらに備える請求項1〜5のいずれか一項に記載の車両用制動制御装置。
【請求項7】
前記ブレーキ操作部材による制動操作中か否かを判定し、制動操作中には通常制動操作か急制動操作かを判定するブレーキ操作判定手段と、
前記ブレーキ操作部材の操作量に対応する要求制動力を、車輪における機械エネルギを電気エネルギに変換して回生制動力を得る回生ブレーキ装置(56)が分担可能な回生制動力分と、前記駆動液圧に基づく液圧制動力分とに分配する分配手段と、
前記液圧制動力分の有無を判定し、前記液圧制動力分が有る場合に、前記急制動操作に追従して前記駆動液圧室に供給する前記液圧制動力分相当のブレーキ液の流量を前記ポンプによるブレーキ液の吐出量だけで発生可能か不可能かを判定する液圧制動力判定手段と、
前記ブレーキ操作判定手段が前記通常制動操作を判定した場合に、前記ポンプを駆動するとともに前記アキュムレータ導入調整部を液流閉止状態とし、前記ブレーキ操作判定手段が前記急制動操作を判定しかつ前記液圧制動力判定手段が発生不可能と判定した場合に、前記ポンプを駆動するとともに前記アキュムレータ導入調整部を液流許容状態とし、前記ブレーキ操作判定手段が前記急制動操作を判定しかつ前記液圧制動力判定手段が発生可能と判定した場合に、前記ポンプを駆動するとともに前記アキュムレータ導入調整部を液流閉止状態とする液圧制動力制御手段と、をさらに備える請求項1〜5のいずれか一項に記載の車両用制動制御装置。
【請求項8】
前記アキュムレータの前記蓄積圧が所定値未満に低下して蓄圧が必要であるか否かを判定する蓄圧判定手段と、
前記蓄圧判定手段が蓄圧を必要と判定しかつ前記ブレーキ操作判定手段が制動操作中でないと判定した場合に、前記駆動液圧調整部および前記反力液圧調整部を閉止して前記ポンプを駆動する蓄圧制御手段と、をさらに備える請求項1〜7のいずれか一項に記載の車両用制動制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−214209(P2012−214209A)
【公開日】平成24年11月8日(2012.11.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−254856(P2011−254856)
【出願日】平成23年11月22日(2011.11.22)
【出願人】(301065892)株式会社アドヴィックス (1,291)
【Fターム(参考)】