説明

車両用制動力発生装置

【課題】本発明は、簡便な手段で従来の車両用制動力発生装置よりもその形成材料や構成部品の選択の幅が広く、製造コストを低減することができる車両用制動力発生装置を提供することを課題とする。
【解決手段】本発明は、運転者の操作に応じて作動される2つのピストン(第1及び第2ピストン40b、40a)によって液圧を発生させるマスタシリンダ34(液圧発生手段)と、前記液圧発生手段と連通して反力を付与するストロークシミュレータ64(反力付与手段)と、を備える車両用制動力発生装置において、前記2つのピストンのうちの最大の液圧発生値が小さいほうを第1ピストン40bとし、最大の液圧発生値が大きいほうを第2ピストン40aとすると共に、この第1ピストン40bの前方に位置する第1圧縮室56b(液圧室)に前記反力付与手段を連通させたことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両用制動力発生装置に関し、特に、モータの駆動力によってピストンを軸線方向に駆動することによりブレーキ液圧を発生する車両用制動力発生装置に関する。
【背景技術】
【0002】
バイ・ワイヤ(By Wire)式の車両用制動力発生装置は、運転者のブレーキペダルを介してのブレーキ操作を電気信号に変換し、その信号を利用した電気的制御を行うことで制動力発生手段を作動させて車輪に必要な制動力を加えるものである。
このような車両用制動力発生装置としては、運転者のブレーキ操作力で液圧を発生させる液圧発生手段(マスタシリンダ)と、運転者のブレーキ操作に応じた反力を付与する反力付与手段(ストロークシミュレータ)とを有するものが知られている(例えば、特許文献1ないし3参照)。
【0003】
マスタシリンダは、通常時には、次に説明するストロークシミュレータと協働して擬似的に発生させたブレーキ反力を運転者に付与すると共に、電気的制動の何らかの異常に対応するフェイルセイフ時には、旧来の油圧式のブレーキシステムのマスタシリンダとしても機能する。
ストロークシミュレータは、ハウジングの内部に、マスタシリンダの液圧室に発生させた液圧を一端に受けて移動するピストン部材を反力液圧室に組み込み、そのピストン部材の他端が臨むばね室に、ピストン部材に対してブレーキ操作量に応じた反力を付与するばね部材を収容している。
このようなストロークシミュレータによれば、ブレーキシステムが前記した電気的制動を行う際に、運転者のブレーキ操作量に応じた反力を擬似的に発生させて、この反力を運転者にペダルフィールとして付与することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2010−047039号公報
【特許文献2】特開2004−276666号公報
【特許文献3】特開2002−293229号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来の車両用制動力発生装置では、運転者のブレーキペダルに対する入力荷重でマスタシリンダの圧力室に発生する液圧が過大となると、ストロークシミュレータ自体に大きな負荷が掛かってしまう。そのため、従来の車両用制動力発生装置においては、ストロークシミュレータの形成材料、及びマスタシリンダとストロークシミュレータとを繋ぐ液圧路の形成材料、並びにこの液圧路に臨むように配置されるセンサ、弁体等の構成部品に高強度ないしは高耐久性を有するものが使用されていた。その結果、従来の電動ブレーキ装置は、形成材料や構成部品の選択の幅が狭く、その製造コストが高くなる傾向にある。
【0006】
そこで、本発明は、簡便な手段で従来の車両用制動力発生装置よりもその形成材料や構成部品の選択の幅が広く、製造コストを低減することができる車両用制動力発生装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記課題を解決した本発明は、運転者の操作に応じて作動される2つのピストンによって液圧を発生させる液圧発生手段と、前記液圧発生手段と連通して反力を付与する反力付与手段と、を備える車両用制動力発生装置において、前記2つのピストンのうちの最大の液圧発生値が小さいほうを第1ピストンとし、最大の液圧発生値が大きいほうを第2ピストンとすると共に、この第1ピストンの前方に位置する液圧室に前記反力付与手段を連通させたことを特徴とする。
この車両用制動力発生装置によれば、反力付与手段は、最大の液圧発生値が小さい第1ピストンの前方に位置する液圧室に連通しているので、この反力付与手段の形成材料及び構成部品に、高強度ないしは高耐久性を有する特別のものを使用する必要がなく、その形成材料及び構成部品の選択の幅が広がる。その結果、車両用制動力発生装置はその製造コストを、より低く抑えることができる。
【0008】
また、このような車両用制動力発生装置においては、前記反力付与手段は、前記第1ピストンの前方に位置する液圧室から吐出される液圧を吸液するための反力液圧室を有し、前記液圧室の容量を前記反力液圧室の容量よりも小さくした構成とすることができる。
この車両用制動力発生装置によれば、液圧発生手段の液圧室の容量が、反力付与手段の反力液圧室の容量よりも小さくなるように設定されているので、液圧発生手段の第1ピストンが底着きしてもなお、反力付与手段の容量に余裕が生じて反力付与手段自体に大きな負荷が掛かるのを防止することができる。
【0009】
また、このような車両用制動力発生装置においては、前記液圧発生手段と遮断弁を介して連通すると共に電気的に作動する電気的液圧発生手段を有し、前記第2ピストンの前方の液圧室と、前記遮断弁との間に液圧を検出する液圧検出手段を設けた構成とすることができる。
この車両用制動力発生装置では、第2ピストンの前方の液圧室と、前記遮断弁との間に液圧を検出する液圧検出手段を設けているので、この車両用制動力発生装置によれば、電気的液圧発生手段の異常時に、液圧検出手段で制動力を発生させる際に、反力付与手段に大きな負荷が掛かるのを防止すべく第1ピストンの前方の液圧室での発生液圧を低下させたとしても、前記液圧検出手段によって、最大の液圧発生値が高い方の第2ピストンの前方の液圧室の液圧を検出・監視することで、液圧検出手段の液圧制御が可能となる。
【0010】
また、このような車両用制動力発生装置においては、ホイールシリンダとブレーキ液のリザーバとを連通させる連通路に減圧弁を有し、前記遮断弁が開いている状態で前記液圧発生手段を作動させるときに、前記第2ピストンの前方の液圧室と連通するホイールシリンダに係る液圧を減圧させる構成とすることができる。
この車両用制動力発生装置は、ホイールシリンダとブレーキ液のリザーバとを連通させる連通路に減圧弁を有している。したがって、この車両用制動力発生装置によれば、電気的液圧発生手段の異常時に前記遮断弁が開いている状態で前記液圧発生手段を作動させる際に、減圧弁によって前記連通路の液圧を低下させることで、第1ピストンの前方の液圧室の液圧と、第2ピストンの前方の液圧室の液圧とを合わせ込み、望ましくは一致させることもできる。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、簡便な手段で従来の車両用制動力発生装置よりもその形成材料や構成部品の選択の幅が広く、製造コストを低減することができる車両用制動力発生装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の実施形態に係る車両用制動力発生装置の車両における配置構成を示す図である。
【図2】車両用制動力発生装置の概略構成図である。
【図3】本発明の実施形態に係る車両用制動力発生装置を構成するマスタシリンダ(液圧発生手段)及びストロークシミュレータ(反力付与手段)を備える入力装置の構成説明図である。
【図4】マスタシリンダのストローク量(マスタシリンダストローク[mm])と、マスタシリンダの第1圧力室及び第2圧力室での液圧(マスタシリンダ液圧[Pa])との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の実施形態について、適宜図面を参照しながら詳細に説明する。
本発明の車両用制動力発生装置は、マスタシリンダ(液圧発生手段)とストロークシミュレータ(反力付与手段)とを備えて構成されており、マスタシリンダの2つのピストン(第1ピストン及び第2ピストン)のうち、後記する最大の液圧発生値が小さい第1ピストンの前方に位置する第1圧力室(液圧室)に、ストロークシミュレータを連通させたことを主な特徴点としている。
なお、本実施形態に係る車両用制動力発生装置においては、マスタシリンダ(液圧発生手段)及びストロークシミュレータ(反力付与手段)とが一体となった入力装置を備えており、以下では、車両用制動力発生装置について説明した後に、この入力装置について説明する。
【0014】
<車両用制動力発生装置>
図1は、本発明の実施形態に係る車両用制動力発生装置の車両における配置構成を示す図である。なお、車両Vの前後左右の方向を図1に矢印で示す。
【0015】
本実施形態の車両用制動力発生装置10は、通常時用として、電気信号を伝達してブレーキを作動させるバイ・ワイヤ(By Wire)式のブレーキシステムと、フェイルセイフ時用として、油圧を伝達してブレーキを作動させる旧来の油圧式のブレーキシステムの双方を備えて構成される。
【0016】
図1に示すように、車両用制動力発生装置10は、操作者(運転者)のブレーキ操作が入力される入力装置14と、少なくともブレーキ操作に応じた電気信号に基づいてブレーキ液圧を発生するモータシリンダ装置16と、モータシリンダ装置16で発生したブレーキ液圧に基づいて車両の挙動の安定化を支援する車両挙動安定化装置としてのビークルスタビリティアシスト装置18(以下、VSA装置18という、VSA;登録商標)とを備えて構成されている。なお、モータシリンダ装置16は、特許請求の範囲にいう「電気的液圧発生手段」に相当する。
【0017】
ちなみに、モータシリンダ装置16は、運転者のブレーキ操作に応じた電気信号だけではなく、他の物理量に応じた電気信号に基づいてブレーキ液圧を発生するように構成されていてもよい。他の物理量に応じた電気信号とは、例えば、自動ブレーキシステムのような、運転者のブレーキ操作によらずに、ECU(Electronic Control Unit)が車両Vの周囲の状況をセンサ等で判断して、車両Vの衝突等を回避するための信号等である。
【0018】
入力装置14は、ここでは右ハンドル車に適用するものであり、ダッシュボード2の車幅方向の右側にボルト等を介して固定されている。モータシリンダ装置16は、例えば、入力装置14とは逆側の車幅方向の左側に配置され、左側のサイドフレーム等の車体に取付用ブラケット(図示せず)を介して取り付けられている。VSA装置18は、例えば、ブレーキ時の車輪ロックを防ぐABS(アンチロック・ブレーキ・システム)機能、加速時等の車輪空転を防ぐTCS(トラクション・コントロール・システム)機能、旋回時の横すべりを抑制する機能等を備えて構成されており、例えば、車幅方向の右側の前端に、ブラケットを介して車体に取り付けられている。なお、VSA装置18に代えて、ブレーキ時の車輪ロックを防ぐABS機能のみを有するABS装置を接続してもよい。入力装置14、モータシリンダ装置16、及びVSA装置18の内部の詳細な構成については後記する。
【0019】
これらの入力装置14、モータシリンダ装置16、及びVSA装置18は、車両Vのダッシュボード2の前方に設けられたエンジンや走行用モータ等の構造物3が搭載される構造物搭載室Rに、配管チューブ22a〜22fを介して互いに分離して配置されている。なお、車両用制動力発生装置10は、前輪駆動車、後輪駆動車、四輪駆動車のいずれにも適用可能である。また、バイ・ワイヤ式のブレーキシステムとして、入力装置14とモータシリンダ装置16とは、図示しないハーネスによってECU等の制御手段と電気的に接続されている。
【0020】
図2は、車両用制動力発生装置の概略構成図である。なお、図2に示す入力装置14では、その構成部品であるマスタシリンダ34及びストロークシミュレータ64を模式的に示しており、より詳細なマスタシリンダ34及びストロークシミュレータ64の様子は、図3で示すものとする。
ここで液圧路について説明すると、図2中の連結点A1を基準として、入力装置14の接続ポート20aと連結点A1とが第1配管チューブ22aによって接続され、また、モータシリンダ装置16の出力ポート24aと連結点A1とが第2配管チューブ22bによって接続され、さらに、VSA装置18の導入ポート26aと連結点A1とが第3配管チューブ22cによって接続されている。
【0021】
図2中の他の連結点A2を基準として、入力装置14の他の接続ポート20bと連結点A2とが第4配管チューブ22dによって接続され、また、モータシリンダ装置16の他の出力ポート24bと連結点A2とが第5配管チューブ22eによって接続され、さらに、VSA装置18の他の導入ポート26bと連結点A2とが第6配管チューブ22fによって接続されている。
【0022】
VSA装置18には、複数の導出ポート28a〜28dが設けられる。第1導出ポート28aは、第7配管チューブ22gによって右側前輪に設けられたディスクブレーキ機構30aのホイールシリンダ32FRと接続される。第2導出ポート28bは、第8配管チューブ22hによって左側後輪に設けられたディスクブレーキ機構30bのホイールシリンダ32RLと接続される。第3導出ポート28cは、第9配管チューブ22iによって右側後輪に設けられたディスクブレーキ機構30cのホイールシリンダ32RRと接続される。第4導出ポート28dは、第10配管チューブ22jによって左側前輪に設けられたディスクブレーキ機構30dのホイールシリンダ32FLと接続される。
【0023】
この場合、各導出ポート28a〜28dに接続される配管チューブ22g〜22jによってブレーキ液(フルード)がディスクブレーキ機構30a〜30dの各ホイールシリンダ32FR、32RL、32RR、32FLに対して供給され、各ホイールシリンダ32FR、32RL、32RR、32FL内の液圧が上昇することにより、各ホイールシリンダ32FR、32RL、32RR、32FLが作動し、対応する車輪(右側前輪、左側後輪、右側後輪、左側前輪)に対して制動力が付与される。
【0024】
なお、車両用制動力発生装置10は、例えば、エンジン(内燃機関)のみによって駆動される自動車、ハイブリッド自動車、電気自動車、燃料電池自動車等を含む各種車両に対して搭載可能に設けられる。
【0025】
入力装置14は、運転者によるブレーキペダル12の操作によって液圧を発生可能なタンデム式のマスタシリンダ34と、前記マスタシリンダ34に付設された第1リザーバ36とを有する。このマスタシリンダ34は、特許請求の範囲にいう「液圧発生手段」に相当する。
このマスタシリンダ34のシリンダチューブ38内には、前記シリンダチューブ38の軸線方向に沿って所定間隔で離間する第2ピストン40a及び第1ピストン40bが摺動自在に配設される。第2ピストン40aは、ブレーキペダル12に近接して配置され、プッシュロッド42を介してブレーキペダル12と連結される。また、第1ピストン40bは、第2ピストン40aよりもブレーキペダル12から離間して配置される。
【0026】
この第2ピストン40a及び第1ピストン40bが配置されるシリンダチューブ38の内周面との間には、一対のピストンパッキン44a、44bがそれぞれ装着される。一対のピストンパッキン44a、44bの間には、それぞれ、後記するサプライポート46a、46bと連通する背室48a、48bが形成される。また、第2ピストン40aと第1ピストン40bとの間には、ばね部材50aが配設され、第1ピストン40bとシリンダチューブ38の前端部との間には、他のばね部材50bが配設される。
なお、第2ピストン40a及び第1ピストン40bの外周面にピストンパッキン44a、44bがそれぞれ設けられる構成であってもよい。
【0027】
マスタシリンダ34のシリンダチューブ38には、2つのサプライポート46a、46bと、2つのリリーフポート52a、52bと、2つの出力ポート54a、54bとが設けられる。この場合、各サプライポート46a(46b)及び各リリーフポート52a(52b)は、それぞれ合流して第1リザーバ36内の図示しないリザーバ室と連通するように設けられる。
【0028】
また、マスタシリンダ34のシリンダチューブ38内には、運転者がブレーキペダル12を踏み込む踏力に対応したブレーキ液圧を発生させる第2圧力室56a及び第1圧力室56bが設けられる。なお、第1圧力室56bは、特許請求の範囲にいう「第1ピストンの前方に位置する液圧室」に相当する。そして、第2圧力室56aは、特許請求の範囲にいう「第2ピストンの前方に位置する液圧室」に相当する。
第2圧力室56aは、第2液圧路58aを介して接続ポート20aと連通するように設けられ、第1圧力室56bは、第1液圧路58bを介して他の接続ポート20bと連通するように設けられる。
【0029】
なお、このようなマスタシリンダ34においては、プッシュロッド42を介して第2ピストン40aに荷重が入力されることで、第2ピストン40a及び第1ピストン40bが前方に移動するが、仮に第1ピストン40bがシリンダチューブ38内の前端まで移動して底着きしてもなお、プッシュロッド42を介して第2ピストン40aに荷重が入力される場合をここでは想定する。この場合においては、第2圧力室56aで発生する液圧は、第1ピストン40bの先端で発生する液圧よりも大きくなる。言い換えると、第1ピストン40bの前方に位置する第1圧力室56bにおける最大の液圧発生値は、第2ピストン40aの前方に位置する第2圧力室56aにおける最大の液圧発生値よりも小さい。
【0030】
マスタシリンダ34と接続ポート20aとの間であって、第2液圧路58aの上流側には圧力センサPmが配設されると共に、第2液圧路58aの下流側には、ノーマルオープンタイプ(常開型)のソレノイドバルブからなる第2遮断弁60aが設けられる。なお、第2遮断弁60aは、特許請求の範囲にいう「遮断弁」に相当し、圧力センサPmは、特許請求の範囲にいう「液圧検出手段」に相当する。
この圧力センサPmは、第2液圧路58a上において、第2遮断弁60aよりもマスタシリンダ34側の上流の液圧を検知するものである。
【0031】
マスタシリンダ34と他の接続ポート20bとの間であって、第1液圧路58bの上流側には、ノーマルオープンタイプ(常開型)のソレノイドバルブからなる第1遮断弁60bが設けられると共に、第1液圧路58bの下流側には、圧力センサPpが設けられる。この圧力センサPpは、第1液圧路58b上において、第1遮断弁60bよりも下流側(本実施形態では、図2に示すように、ホイールシリンダ32FL,32RR側)の液圧を検知するものである。
【0032】
この第2遮断弁60a及び第1遮断弁60bにおけるノーマルオープンとは、ノーマル位置(消磁(非通電)時の弁体の位置)が開位置の状態(常時開)となるように構成されたバルブをいう。なお、図2において、第2遮断弁60a及び第1遮断弁60bは励磁時の状態を示す(後記する第3遮断弁62も同様)。
【0033】
マスタシリンダ34と第1遮断弁60bとの間の第1液圧路58bには、前記第1液圧路58bから分岐する分岐液圧路58cが設けられ、前記分岐液圧路58cには、ノーマルクローズタイプ(常閉型)のソレノイドバルブからなる第3遮断弁62と、ストロークシミュレータ64とが直列に接続される。
このストロークシミュレータ64は、特許請求の範囲にいう「反力付与手段」に相当し、マスタシリンダ34と連通して、運転者のブレーキ操作に応じた反力を付与するように構成されている。このストロークシミュレータ64の内部構造については、後に更に詳しく説明する。
ちなみに、第3遮断弁62におけるノーマルクローズとは、ノーマル位置(消磁(非通電)時の弁体の位置)が閉位置の状態(常時閉)となるように構成されたバルブをいう。
【0034】
第1液圧路58b上であって、第1遮断弁60bよりもマスタシリンダ34側に配置されている。前記ストロークシミュレータ64には、分岐液圧路58cに連通する液圧室65が設けられている。なお、この液圧室65は、特許請求の範囲にいう「反力液圧室」に相当する。
この液圧室65内には、マスタシリンダ34(液圧発生手段)の第1圧力室56b(液圧室)から導出されるブレーキ液が受け入れられる(吸収される)こととなる。つまり、ストロークシミュレータ64は、マスタシリンダ34の2つのピストン(第1ピストン40b及び第2ピストン40a)のうち、前記した最大の液圧発生値が小さい第1ピストン40bの前方に位置する第1圧力室56b(液圧室)に連通している。
【0035】
液圧路は、大別すると、マスタシリンダ34の第2圧力室56aと複数のホイールシリンダ32FR、32RLとを接続する第2液圧系統70aと、マスタシリンダ34の第1圧力室56bと複数のホイールシリンダ32RR、32FLとを接続する第1液圧系統70bとから構成される。
【0036】
第2液圧系統70aは、入力装置14におけるマスタシリンダ34(シリンダチューブ38)の出力ポート54aと接続ポート20aとを接続する第2液圧路58aと、入力装置14の接続ポート20aとモータシリンダ装置16の出力ポート24aとを接続する配管チューブ22a、22bと、モータシリンダ装置16の出力ポート24aとVSA装置18の導入ポート26aとを接続する配管チューブ22b、22cと、VSA装置18の導出ポート28a、28bと各ホイールシリンダ32FR、32RLとをそれぞれ接続する配管チューブ22g、22hとによって構成される。
【0037】
第1液圧系統70bは、入力装置14におけるマスタシリンダ34(シリンダチューブ38)の出力ポート54bと他の接続ポート20bとを接続する第1液圧路58bと、入力装置14の他の接続ポート20bとモータシリンダ装置16の出力ポート24bとを接続する配管チューブ22d、22eと、モータシリンダ装置16の出力ポート24bとVSA装置18の導入ポート26bとを接続する配管チューブ22e、22fと、VSA装置18の導出ポート28c、28dと各ホイールシリンダ32RR、32FLとをそれぞれ接続する配管チューブ22i、22jとを有する。
【0038】
モータシリンダ装置16は、電動式のモータ72の駆動力によって第2スレーブピストン88a及び第1スレーブピストン88bを軸線方向に駆動することによりブレーキ液圧を発生させるものである。なお、モータシリンダ装置16において、ブレーキ液圧を発生させる(上昇させる)ときの第2スレーブピストン88a及び第1スレーブピストン88bの移動方向(図2中矢印X1方向)を「前」とし、その反対方向(図2中矢印X2方向)を「後」とする。
【0039】
モータシリンダ装置16は、軸線方向に移動可能な第2スレーブピストン88a及び第1スレーブピストン88bを内蔵するシリンダ部76と、第2スレーブピストン88a及び第1スレーブピストン88bを駆動するためのモータ72と、モータ72の駆動力を第2スレーブピストン88a及び第1スレーブピストン88bに伝達するための駆動力伝達部73とを備えている。
【0040】
駆動力伝達部73は、モータ72の回転駆動力を伝達するギア機構(減速機構)78と、この回転駆動力をボールねじ軸(スクリュー)80aの軸線方向に沿った直線方向駆動力に変換するボールねじ構造体80と、を含む駆動力伝達機構74を有している。
【0041】
シリンダ部76は、略円筒状のシリンダ本体82と、前記シリンダ本体82に付設された第2リザーバ84とを有する。第2リザーバ84は、入力装置14のマスタシリンダ34に付設された第1リザーバ36と配管チューブ86で接続され、第1リザーバ36内に貯留されたブレーキ液が配管チューブ86を介して第2リザーバ84内に供給されるように設けられる。
【0042】
シリンダ本体82内には、前記シリンダ本体82の軸線方向に沿って所定間隔で離間する第2スレーブピストン88a及び第1スレーブピストン88bが摺動自在に配設される。第2スレーブピストン88aは、ボールねじ構造体80側に近接して配置され、ボールねじ軸80aの前端に当接して前記ボールねじ軸80aと一体的に矢印X1又はX2方向に変位する。また、第1スレーブピストン88bは、第2スレーブピストン88aよりもボールねじ構造体80側から離間して配置される。
【0043】
第2スレーブピストン88aの外周面と駆動力伝達機構74との間を液密にシールすると共に、第2スレーブピストン88aをその軸線方向に対して移動可能にガイドする環状のガイドピストン230が、第2スレーブピストン88aの外周面に対向するように配置されている。ガイドピストン230の内周面にはスレーブピストンパッキン90cが装着される。また、第2スレーブピストン88aの前端側の外周面には、環状段部を介してスレーブピストンパッキン90bが装着される。スレーブピストンパッキン90cとスレーブピストンパッキン90bとの間には、後記するリザーバポート92aと連通する第2背室94aが形成される。そして、第2スレーブピストン88aと第1スレーブピストン88bとの間には、第2リターンスプリング96aが配設される。
【0044】
一方、第1スレーブピストン88bの外周面には、環状段部を介して一対のスレーブピストンパッキン90a、90bがそれぞれ装着される。一対のスレーブピストンパッキン90a、90bの間には、後記するリザーバポート92bと連通する第1背室94bが形成される。そして、第1スレーブピストン88bとシリンダ本体82の前端部と間には、第1リターンスプリング96bが配設される。
【0045】
シリンダ部76のシリンダ本体82には、2つのリザーバポート92a、92bと、2つの出力ポート24a、24bとが設けられる。この場合、リザーバポート92a(92b)は、第2リザーバ84内のリザーバ室と連通するように設けられる。
【0046】
また、シリンダ本体82内には、出力ポート24aからホイールシリンダ32FR、32RL側へ出力されるブレーキ液圧を発生させる第2液圧室98aと、他の出力ポート24bからホイールシリンダ32RR、32FL側へ出力されるブレーキ液圧を発生させる第1液圧室98bとが設けられる。
【0047】
なお、第2スレーブピストン88aと第1スレーブピストン88bとの間には、第2スレーブピストン88aと第1スレーブピストン88bの最大離間距離と最小離間距離とを規制する規制手段100が設けられ、さらに、第1スレーブピストン88bには、前記第1スレーブピストン88bの摺動範囲を規制して、第2スレーブピストン88a側へのオーバーリターンを阻止するストッパピン102が設けられ、これによって、特にマスタシリンダ34で発生したブレーキ液圧で制動するときのバックアップ時において、一系統の失陥時に他の系統の失陥が防止される。
【0048】
VSA装置18は、周知のものからなり、右側前輪及び左側後輪のディスクブレーキ機構30a、30b(ホイールシリンダ32FR、ホイールシリンダ32RL)に接続された第2液圧系統70aを制御する第2ブレーキ系110aと、右側後輪及び左側前輪のディスクブレーキ機構30c、30d(ホイールシリンダ32RR、ホイールシリンダ32FL)に接続された第1液圧系統70bを制御する第1ブレーキ系110bとを有する。
【0049】
なお、第2ブレーキ系110a及び第1ブレーキ系110bと、各ディスクブレーキ機構30a,30b,30c,30dとの接続の組み合わせは、前記した組み合わせに限定されず、互いに独立した2系統が担保されれば、次のような組合せとすることができる。
つまり、図示はしないが、第2ブレーキ系110aは、左側前輪及び右側前輪に設けられたディスクブレーキ機構に接続された液圧系統からなり、第1ブレーキ系110bは、左側後輪及び右側後輪に設けられたディスクブレーキ機構に接続された液圧系統であってもよい。さらに、第2ブレーキ系110aは、車体片側の右側前輪及び右側後輪に設けられたディスクブレーキ機構に接続された液圧系統からなり、第1ブレーキ系110bは、車体片側の左側前輪及び左側後輪に設けられたディスクブレーキ機構に接続された液圧系統であってもよい。また、第2ブレーキ系110aは、右側前輪及び左側前輪に設けられたディスクブレーキ機構に接続された液圧系統からなり、第1ブレーキ系110bは、右側後輪及び左側後輪に設けられたディスクブレーキ機構に接続された液圧系統であってもよい。
【0050】
この第2ブレーキ系110a及び第1ブレーキ系110bは、それぞれ同一構造からなるため、第2ブレーキ系110aと第1ブレーキ系110bとで対応するものには同一の参照符号を付すと共に、第2ブレーキ系110aの説明を中心にして、第1ブレーキ系110bの説明を括弧書きで適宜付記する。
【0051】
第2ブレーキ系110a(第1ブレーキ系110b)は、ホイールシリンダ32FR、32RL(32RR、32FL)に対して、共通する第1共通液圧路112及び第2共通液圧路114を有する。VSA装置18は、導入ポート26aと第1共通液圧路112との間に配置されたノーマルオープンタイプのソレノイドバルブからなるレギュレータバルブ116と、前記レギュレータバルブ116と並列に配置され導入ポート26a側から第1共通液圧路112側へのブレーキ液の流通を許容する(第1共通液圧路112側から導入ポート26a側へのブレーキ液の流通を阻止する)第1チェックバルブ118と、第1共通液圧路112と第1導出ポート28aとの間に配置されたノーマルオープンタイプのソレノイドバルブからなる第1インバルブ120と、前記第1インバルブ120と並列に配置され第1導出ポート28a側から第1共通液圧路112側へのブレーキ液の流通を許容する(第1共通液圧路112側から第1導出ポート28a側へのブレーキ液の流通を阻止する)第2チェックバルブ122と、第1共通液圧路112と第2導出ポート28bとの間に配置されたノーマルオープンタイプのソレノイドバルブからなる第2インバルブ124と、前記第2インバルブ124と並列に配置され第2導出ポート28b側から第1共通液圧路112側へのブレーキ液の流通を許容する(第1共通液圧路112側から第2導出ポート28b側へのブレーキ液の流通を阻止する)第3チェックバルブ126とを備える。
【0052】
さらに、VSA装置18は、第1導出ポート28aと第2共通液圧路114との間に配置されたノーマルクローズタイプのソレノイドバルブからなる第1アウトバルブ128と、第2導出ポート28bと第2共通液圧路114との間に配置されたノーマルクローズタイプのソレノイドバルブからなる第2アウトバルブ130と、第2共通液圧路114に接続されたリザーバ132と、第1共通液圧路112と第2共通液圧路114との間に配置されて第2共通液圧路114側から第1共通液圧路112側へのブレーキ液の流通を許容する(第1共通液圧路112側から第2共通液圧路114側へのブレーキ液の流通を阻止する)第4チェックバルブ134と、前記第4チェックバルブ134と第1共通液圧路112との間に配置されて第2共通液圧路114側から第1共通液圧路112側へブレーキ液を供給するポンプ136と、前記ポンプ136の前後に設けられる吸入弁138及び吐出弁140と、前記ポンプ136を駆動するモータMと、第2共通液圧路114と導入ポート26aとの間に配置されたノーマルクローズタイプのソレノイドバルブからなるサクションバルブ142とを備える。
【0053】
ちなみに、第2ブレーキ系110aにおいて、導入ポート26aに近接する液圧路上には、モータシリンダ装置16の出力ポート24aから出力され、前記モータシリンダ装置16の第2液圧室98aで発生したブレーキ液圧を検知する圧力センサPhが設けられる。各圧力センサPm、Pp、Phで検出された検出信号は、図示しない制御手段に導入される。
【0054】
なお、第2液圧系統70aを制御する第2ブレーキ系110aに係るホイールシリンダ32FR及びホイールシリンダ32RLは、特許請求の範囲にいう「ホイールシリンダ」に相当し、第2ブレーキ系110aを構成するリザーバ132は、特許請求の範囲にいう「リザーバ」に相当し、第2ブレーキ系110aを構成する第1共通液圧路112及び第2共通液圧路114は、特許請求の範囲にいう「ホイールシリンダとリザーバとを連通する連通路」に相当し、第2ブレーキ系110aを構成する第1アウトバルブ128及び第2アウトバルブ130は、特許請求の範囲にいう「減圧弁」に相当する。
つまり、この第2ブレーキ系110aを有する本実施形態に係る車両用制動力発生装置10は、第2遮断弁60aが開いている状態で、マスタシリンダ34を作動させるときに、第2ピストン40aの前方の第2圧力室56a(液圧室)と連通するホイールシリンダ32FR及びホイールシリンダ32RLに掛かる液圧を減圧する構成となっている。
【0055】
<入力装置>
次に、本発明の実施形態に係る車両用制動力発生装置10を構成するマスタシリンダ34(液圧発生手段)及びストロークシミュレータ64(反力付与手段)を備える入力装置14について更に詳しく説明する。本実施形態での入力装置14は、前記したように、ストロークシミュレータ64が、マスタシリンダ34の2つのピストン(第1ピストン40b及び第2ピストン40a)のうち、前記した最大の液圧発生値が小さい第1ピストン40bの前方に位置する第1圧力室56b(液圧室)に連通していることを特徴点とする。
また、本実施形態での入力装置14は、後記するように、マスタシリンダ34の第1圧力室56bの容量A(図3参照)を、ストロークシミュレータ64の液圧室65(反力液圧室)の容量B(図3参照)よりも小さくしたことを特徴点とする。
【0056】
次に参照する図3は、マスタシリンダ(液圧発生手段)及びストロークシミュレータ(反力付与手段)を備える入力装置の構成説明図である。なお、図3においては、作図の便宜上、図2で示したブレーキペダル12の記載を省略している。
マスタシリンダ34(図2参照)は、車両V(図1参照)の前後方向(図1及び図3に示す前後方向)に延在すると共に、後に詳しく説明するストロークシミュレータ64(図2参照)と一体となるように並設されている。
【0057】
ちなみに、本実施形態でのマスタシリンダ34が有するマスタシリンダハウジング34a内には、前記したように、第1及び第2ピストン40b、40aが配置されると共に、第1ピストン40bの前方には第1圧力室56bが形成され、第2ピストン40aの前方には第2圧力室56aが形成されている。このようなマスタシリンダハウジング34aは、ストロークシミュレータ64のシミュレータハウジング64aと一体成形(本実施形態では鋳造)されて入力装置14のハウジング14aを構成している。
なお、マスタシリンダ34の第1圧力室56bは、特許請求の範囲にいう「第1ピストンの前方に位置する液圧室」に相当し、マスタシリンダ34の第2圧力室56aは、特許請求の範囲にいう「第2ピストンの前方に位置する液圧室」に相当する。
そして、図3中、Aは、プッシュロッド42から荷重が入力されていないときの第1圧力室56bの容量(特許請求の範囲にいう「液圧室の容量」)を表している。このAは、後記するストロークシミュレータ64の液圧室65の容量Bとの大小関係を表すために、作図上便宜的に記載したものであって、実際の第1圧力室56bの容量を表すものではない。
【0058】
そして、入力装置14は、このハウジング14aに設けられたスタッドボルト303によってダッシュボード2に取り付けられている。
なお、このハウジング14aの上方(図3の紙面の手前)には、マスタシリンダ34とストロークシミュレータ64との間で前後方向に延在するように、細長の外形を有する第1リザーバ36(図2参照)が配置されることとなる。
そして、ハウジング14aには、図2に示すリリーフポート52a、52b及び接続ポート20a、20bが形成されている。また、ハウジング14aの中実部には、穿設孔によって、図2に示す第1液圧路58b及び第2液圧路58a、並びに分岐液圧路58cが形成されている。
【0059】
図3に示すように、マスタシリンダ34の後端部は、前記したように、ブレーキペダル12(図2参照)をその一端側に連結したプッシュロッド42の他端側を受け入れる構成となっている。図3中、符号306は、マスタシリンダ34とプッシュロッド42とに亘って配置されるブーツである。そして、このブーツ306が取り付けられるマスタシリンダ34の後部は、ダッシュボード2を貫通して車室C内に延在することとなる。
【0060】
また、図3中、符号300は、センサバルブユニットである。これは、図2に示す第1遮断弁60b、第2遮断弁60a、第3遮断弁62、圧力センサPp、及び圧力センサPm、並びにこの圧力センサPp、Pmからの検出信号を電気的に処理して前記液圧を演算する圧力検出回路を搭載する回路基板(図示省略)等を収納する。また、符号307は、センサバルブユニット300の筐体内に臨む通気孔であり、符号307cは、この通気孔307の開口に配置される防水通気部材(例えばゴアテックス(登録商標)等)である。
以上のような入力装置14は、マスタシリンダ34、ストロークシミュレータ64、液圧路に残存する空気を抜くためのエア抜き用のブリーダ(図示省略)を有することもできる。
【0061】
次に、ストロークシミュレータ64について更に詳しく説明する。
図3に示すストロークシミュレータ64は、前記したように、運転者のブレーキ操作に応じた反力を付与するものであり、マスタシリンダ34の右側(図1の車両Vの車幅方向の外側)で横並びに配置されている。
このストロークシミュレータ64のシミュレータハウジング64a内には、その前方に液圧室65が形成されていると共に、その後方にばね室63が形成されている。液圧室65は、前記したように、マスタシリンダ34の第1圧力室56bと連通している。
【0062】
液圧室65は、円柱形状の空間で形成されており、ばね室63は、液圧室65の空間よりも大径の円柱形状の空間で形成されている。この液圧室65とばね室63とは一体となって、段付き円柱形状の空間を形成している。
そして、シミュレータハウジング64aの後端には、段付き円柱形状の空間に臨むように開口が形成され、この開口にはサークリップ69によってプラグ67が支持されている。
このような液圧室65には、シミュレータピストン68が配置されると共に、ばね室63には、第1リターンスプリング66a及び第2リターンスプリング66bが配置されている。
【0063】
シミュレータピストン68は、液圧室65を構成する小径の円柱形状の空間に収まる円柱形状の外形を有している。
このシミュレータピストン68は、マスタシリンダ34の操作液圧が発生していない初期状態においては、液圧室65に収っている。そして、このシミュレータピストン68は、運転者がブレーキペダル12を介して荷重を入力した際に発生するマスタシリンダ34の液圧によって、第1リターンスプリング66a及び第2リターンスプリング66bの反発力(反力)に抗しながらばね室63内に進入可能となっている。言い換えれば、シミュレータピストン68は、マスタシリンダ34が発生する液圧の増減によって、シミュレータピストン68の軸線方向に前記反力を受けながら往復移動可能となっている。
【0064】
図3中、Bは、液圧室65(反力液圧室)の容量(特許請求の範囲にいう「反力液圧室の容量」)であり、シミュレータピストン68が底着きするまで後側に移動した際の液圧室65の体積で示される。このBは、前記した第1圧力室56bの容量Aとの大小関係を表すために、作図上便宜的に記載したものであって、実際の液圧室65の容量を表すものではない。
【0065】
第1リターンスプリング66a及び第2リターンスプリング66bは、圧縮コイルばねで形成されている。本実施形態での第1リターンスプリング66aは、第2リターンスプリング66bよりもその線径が太くなるように形成されることで、第1リターンスプリング66aのばね定数が、第2リターンスプリング66bのばね定数よりも大きくなっている。そして、第1リターンスプリング66a及び第2リターンスプリング66bは、プラグ67とシミュレータピストン68との間で直列に配置されている。
【0066】
このように互いにばね定数が異なり、直列に配置された第1リターンスプリング66a及び第2リターンスプリング66bの組み合わせは、ブレーキペダル12(図2参照)の踏み込み前期時にペダル反力の増加勾配を低く設定し、踏み込み後期時にペダル反力を高く設定することで、このストロークシミュレータ64において擬似的にブレーキ反力を形成するものであっても、ブレーキペダル12(図2参照)のペダルフィールを既存のマスタシリンダで生じるペダルフィールと同等とすることができる。
【0067】
本実施形態に係る車両用制動力発生装置10は、基本的に以上のように構成されるものであり、次にその作用効果について説明する。
車両用制動力発生装置10が正常に機能する正常時には、ノーマルオープンタイプのソレノイドバルブからなる第2遮断弁60a及び第1遮断弁60bが励磁で弁閉状態となり、ノーマルクローズタイプのソレノイドバルブからなる第3遮断弁62が励磁で弁開状態となる(図2参照)。従って、第2遮断弁60a及び第1遮断弁60bによって第2液圧系統70a及び第1液圧系統70bが遮断されているため、入力装置14のマスタシリンダ34で発生したブレーキ液圧がディスクブレーキ機構30a〜30dのホイールシリンダ32FR、32RL、32RR、32FLに伝達されることはない。
【0068】
そして、運転者がブレーキペダル12を介して荷重を入力することでマスタシリンダ34の第1圧力室56bでブレーキ液圧が発生すると、このブレーキ液圧は、分岐液圧路58c及び弁開状態にある第3遮断弁62を経由してストロークシミュレータ64の液圧室65に伝達される。
この液圧室65に供給されたブレーキ液圧によってシミュレータピストン68が第1及び第2リターンスプリング66b、66aのばね力に抗して変位することにより、ブレーキペダル12のストロークが許容されると共に、擬似的なペダル反力が発生してブレーキペダル12に付与される。この結果、運転者にとって違和感のないブレーキフィールが得られる。
【0069】
次に参照する図4は、第1及び第2ピストン40a、40aのストローク量(マスタシリンダストローク[mm])と、マスタシリンダ34の第1及び第2圧力室56b、56aでの液圧(マスタシリンダ液圧[Pa])との関係を示すグラフである。なお、図4中の太い実線で示すグラフは、第1ピストン40bがストロークする際の第1圧力室56bの液圧で縦軸の「マスタシリンダ液圧[Pa]」を示しており、図4中の細い実線で示すグラフは、第2ピストン40aがストロークする際の第2圧力室56aの液圧で縦軸の「マスタシリンダ液圧[Pa]」を示している。また、横軸のストローク量は、第1圧力室56bのグラフ(太い実線)については、第1圧力室56bからポート54bを介して送り出されるブレーキ液(フルード)の体積で表し、第2圧力室56aのグラフ(細い実線)については、第2圧力室56aからポート54aを介して送り出されるブレーキ液(フルード)の体積で表している。
【0070】
図4に示すように、運転者がブレーキペダル12を踏み始めてマスタシリンダ34に入力する荷重が次第に増加していくと、この増加に伴って第1及び第2ピストン40a、40aのストローク量(マスタシリンダストローク[mm])は共に増加していく。
そして、第1ピストン40bがシリンダチューブ38内で底着くと、マスタシリンダストローク[mm]は増加しない。つまり、マスタシリンダストローク[mm]は、マスタシリンダ34の第1圧力室56bの容量Aと等しくなる。これに対して、第2圧力室56aでの液圧は、図4に示すように、マスタシリンダ34に入力する荷重が更に増加すると急激に増加する。
【0071】
そして、前記したように、マスタシリンダ34の2つのピストン(第1及び第2ピストン40a、40a)の前方にそれぞれ位置する第1及び第2圧力室56b、56aの最大の液圧発生値を相互に比較すると、第2圧力室56bの最大の液圧発生値よりも第1圧力室56bの最大の液圧発生値の方が小さくなる。
一方、ストロークシミュレータ64は、前記したように、最大の液圧発生値が小さい第1ピストン40bの前方に位置する第1圧力室56b(液圧室)に連通している。
したがって、本実施形態に係る車両用制動力発生装置10によれば、ストロークシミュレータ64の形成材料、及びマスタシリンダ34とストロークシミュレータ64とを繋ぐ分岐液圧路58cの形成材料、並びにこの分岐液圧路58cに配置される第3遮断弁62のような構成部品に、高強度ないしは高耐久性を有する特別のものを使用する必要がなく、その形成材料及び構成部品の選択の幅が広がる。その結果、車両用制動力発生装置10の製造コストを、より低く抑えることができる。
【0072】
また、本実施形態に係る車両用制動力発生装置10では、マスタシリンダ34の第1圧力室56bの容量A(図3参照)が、ストロークシミュレータ64の液圧室65(反力液圧室)の容量B(図3参照)よりも小さくなるように設定されているので、マスタシリンダ34の第1ピストン40bがシリンダチューブ38内で底着きする前に、ストロークシミュレータ64のシミュレータピストン68がシミュレータ収容室64c内で底着きすることはない。言い換えれば、スタシリンダ34の第1ピストン40bがシリンダチューブ38内で底着きしたときには、ストロークシミュレータ64のシミュレータピストン68は、シミュレータ収容室64c内で、まだ底着きしていない。
【0073】
これに対して、例えば、マスタシリンダ34の第1圧力室56bの容量Aが、ストロークシミュレータ64の液圧室65の容量Bよりも大きくなるように設定されたものを、その比較例として想定すると、ストロークシミュレータ64のシミュレータピストン68がシミュレータ収容室64c内で底着きした後に、マスタシリンダ34の第1ピストン40bがシリンダチューブ38内で底着きすることとなる。
つまり、シミュレータピストン68が底着きした後に、第1ピストン40bがシリンダチューブ38内で前進可能となる。そのため、ストロークシミュレータ64自体に大きな負荷が掛かってしまうので強度をもたせなければならない。
しかしながら、前記比較例と異なって、本実施形態に係る車両用制動力発生装置10によれば、第1ピストン40bが底着きしてもなお、シミュレータピストン68が底着きしていないので、ストロークシミュレータ64自体に大きな負荷が掛かるのを防止することができる。
【0074】
そして、本実施形態での車両用制動力発生装置10においては、図示しない制御手段は、運転者によるブレーキペダル12の踏み込みを検出すると、モータシリンダ装置16のモータ72を駆動させ、モータ72の駆動力を駆動力伝達機構74を介して伝達し、第2リターンスプリング96a及び第1リターンスプリング96bのばね力に抗して第2スレーブピストン88a及び第1スレーブピストン88bを図2中の矢印X1方向に向かって変位させる。この第2スレーブピストン88a及び第1スレーブピストン88bの変位によって第2液圧室98a及び第1液圧室98b内のブレーキ液がバランスするように加圧されて所望のブレーキ液圧が発生する。
【0075】
このモータシリンダ装置16における第2液圧室98a及び第1液圧室98bのブレーキ液圧は、VSA装置18の弁開状態にある第1、第2インバルブ124、124を介してディスクブレーキ機構30a〜30dのホイールシリンダ32FR、32RL、32RR、32FLに伝達され、前記ホイールシリンダ32FR、32RL、32RR、32FLが作動することにより各車輪に所望の制動力が付与される。
【0076】
換言すると、本実施形態に係る車両用制動力発生装置10では、動力液圧源として機能するモータシリンダ装置16やバイ・ワイヤ制御する図示しないECU等の制御手段が作動可能な正常時において、運転者がブレーキペダル12を踏むことでブレーキ液圧を発生するマスタシリンダ34と各車輪を制動するディスクブレーキ機構30a〜30d(ホイールシリンダ32FR、32RL、32RR、32FL)との連通を第2遮断弁60a及び第1遮断弁60bで遮断した状態で、モータシリンダ装置16が発生するブレーキ液圧でディスクブレーキ機構30a〜30dを作動させるという、いわゆるブレーキ・バイ・ワイヤ方式のブレーキシステムがアクティブになる。このため、本実施形態は、例えば、電気自動車(燃料電池車を含む)やハイブリッド車のように、内燃機関での負圧発生が少なかったり、内燃機関での負圧発生がない車両、内燃機関自体がない車両等に好適に適用することができる。
【0077】
一方、モータシリンダ装置16等が作動不能となる異常時では、第2遮断弁60a及び第1遮断弁60bをそれぞれ弁開状態とし、且つ、第3遮断弁62を弁閉状態としてマスタシリンダ34で発生するブレーキ液圧をディスクブレーキ機構30a〜30d(ホイールシリンダ32FR、32RL、32RR、32FL)に伝達して、前記ディスクブレーキ機構30a〜30d(ホイールシリンダ32FR、32RL、32RR、32FL)を作動させるという、いわゆる旧来の油圧式のブレーキシステムがアクティブになる。
【0078】
このとき、本実施形態に係る車両用制動力発生装置10では、前記したように、第1圧力室56bの最大の液圧発生値よりも第2圧力室56aの最大の液圧発生値の方が大きくなる。
これに対して、本実施形態に係る車両用制動力発生装置10は、マスタシリンダ34の第2ピストン40aの前方の第2圧力室56aと、第2遮断弁60aとの間に圧力センサPmを備えている。その結果、車両用制動力発生装置10によれば、モータシリンダ装置16等の異常時に、マスタシリンダ34でブレーキ液圧を発生させる際に、ストロークシミュレータ64に大きな負荷が掛かるのを防止するために第1圧力室56bでの発生液圧を低下させたとしても、圧力センサPmによって、最大の液圧発生値が高い方の液圧(第1液圧路58aの液圧)を検出・監視することで、マスタシリンダ34を使用して制動力を発生させる際の液圧制御が可能となる。
【0079】
また、本実施形態に係る車両用制動力発生装置10は、前記したように、その第2ブレーキ系110aにおいて、ホイールシリンダ32FR及びホイールシリンダ32RLと、リザーバ132とは、第1共通液圧路112及び第2共通液圧路114で連通すると共に、これらの連通路上に、減圧弁としての第1アウトバルブ128及び第2アウトバルブ130を備えている。
【0080】
このような車両用制動力発生装置10では、モータシリンダ装置16等の異常時に第2遮断弁60aが開いている状態でマスタシリンダ34を作動させ、前記したように、圧力センサPmによって第2液圧路58aの液圧を検出・監視する。この際、検出・監視する第2液圧路58aの液圧が所定の閾値を超えると、図示しない車両用制動力発生装置10の制御手段は、第1アウトバルブ128及び第2アウトバルブ130を開くことで、ブレーキ液(フルード)をリザーバ132に導いて当該液圧を下げることができる。ちなみに、この際、第1インバルブ120及び第2インバルブ124は、制御手段によって閉じられることとなる。
したがって、この車両用制動力発生装置10によれば、モータシリンダ装置16等の異常時に第2遮断弁60aが開いている状態でマスタシリンダ34を作動させる際に、前記した第2液圧路58aの液圧を低下させることで、第1圧力室56bの最大の液圧発生値と第2圧力室56bの最大の液圧発生値とを合わせ込み、望ましくは一致させることもできる。
【0081】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は前記実施形態に限定されず、種々の形態で実施することができる。
前記実施形態では、VSA装置18を構成する減圧弁としての第1及び第2アウトバルブ128,130並びにリザーバ132を利用して第2ブレーキ系110aの液圧を減じる構成について説明したが、本発明はこれに限定されずに、例えば、接続ポート20aとホイールシリンダ32FR、32RLとの間の液圧路の途中に、減圧弁及び/又は減圧回路を設ける構成とすることができる。
【符号の説明】
【0082】
10 車両用制動力発生装置
14 入力装置
16 モータシリンダ装置(電気的液圧発生手段)
32FR ホイールシリンダ
32RL ホイールシリンダ
34 マスタシリンダ(液圧発生手段)
56a 第2圧力室(第2ピストンの前方に位置する液圧室)
56b 第1圧力室(第1ピストンの前方に位置する液圧室)
64 ストロークシミュレータ(反力付与手段)
132 リザーバ
128 第1アウトバルブ(減圧弁)
130 第2アウトバルブ(減圧弁)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
運転者の操作に応じて作動される2つのピストンによって液圧を発生させる液圧発生手段と、
前記液圧発生手段と連通して反力を付与する反力付与手段と、
を備える車両用制動力発生装置において、
前記2つのピストンのうちの最大の液圧発生値が小さいほうを第1ピストンとし、最大の液圧発生値が大きいほうを第2ピストンとすると共に、この第1ピストンの前方に位置する液圧室に前記反力付与手段を連通させたことを特徴とする車両用制動力発生装置。
【請求項2】
請求項1に記載の車両用制動力発生装置において、
前記反力付与手段は、前記第1ピストンの前方に位置する液圧室から吐出される液圧を吸液するための反力液圧室を有し、
前記液圧室の容量を前記反力液圧室の容量よりも小さくしたことを特徴とする車両用制動力発生装置。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載の車両用制動力発生装置において、
前記液圧発生手段と遮断弁を介して連通すると共に電気的に作動する電気的液圧発生手段を有し、
前記第2ピストンの前方の液圧室と、前記遮断弁との間に液圧を検出する液圧検出手段を設けたことを特徴とする車両用制動力発生装置。
【請求項4】
請求項3に記載の車両用制動力発生装置において、
ホイールシリンダとブレーキ液のリザーバとを連通させる連通路に減圧弁を有し、
前記遮断弁が開いている状態で前記液圧発生手段を作動させるときに、前記第2ピストンの前方の液圧室と連通するホイールシリンダに係る液圧を減圧させることを特徴とする車両用制動力発生装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−188025(P2012−188025A)
【公開日】平成24年10月4日(2012.10.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−53662(P2011−53662)
【出願日】平成23年3月11日(2011.3.11)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】