説明

車両用制動装置

【課題】 滑りやすい坂道を登るような場合にも車輪のスリップを防止できる車両用制動装置を提供する。
【解決手段】 前方用粒状物散布装置6FRa、6FLaだけでなく、後方用粒状物散布装置6FRb、6FLbを設ける。これにより、車両1を後退させたときに、後方用粒状物散布装置6FRb、6FLbが既に砂10を散布した場所に駆動輪となる右前輪FRおよび左前輪FLを移動させることができる。このため、各タイヤ2FR、2FLと路面との間に砂10が散布されることになり、これらの間の路面μを高くすることが可能となる。したがって、滑りやすい坂道を登るような場合にも車輪のスリップを防止できる車両用制動装置とすることが可能となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば油圧ブレーキ装置や電動ブレーキ装置あるいは回生ブレーキ装置など、通常のブレーキ装置である主制動手段に加えて、主制動手段以外の補助制動手段を併用して車輪−路面間の摩擦係数を増加させる車両用制動装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、主制動手段に相当する油圧ブレーキ装置に加えて、補助制動手段に相当する粒子散布装置を備えた車両用制動装置が提案されている(特許文献1参照)。
【0003】
この従来の車両用制動装置は、車両の制動時や駆動時に、車輪がスリップすることを防止するために、粒子をタイヤの前方へ散布するようになっている。
【特許文献1】特開平7−309101号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記車両用制動装置は、基本的に平坦路における車輪のスリップを考慮したもので、滑りやすい坂道を登る場合には十分なスリップ防止を行えなくなるという問題がある。すなわち、滑りやすい坂道を登る場合、車両が前方へ発進することができなくなり、坂道をずり下がることになる。この場合、タイヤと路面の接地面に隙間がないため、粒子をタイヤの前方に散布してもタイヤと路面の接触部位に入り込ませることができず、スリップ防止に貢献しない。
【0005】
本発明は上記点に鑑みて、滑りやすい坂道を登るような場合にも車輪のスリップを防止できる車両用制動装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため、請求項1に記載の発明では、車両(1)における各車輪(FR、FL、RR、RL)に該車輪の回転を抑制する力を与えることにより制動力を発生させる主制動手段(3FR、3FL、3RR、3RL、4FR、4FL、4RR、4RL)に加えて、車輪のうちの駆動輪の前方と後方の双方において、駆動輪と路面との間の接触状態を変化させる動作を行う補助制動手段(6FRa、6FRb、6FLa、6FLb)を備えることを特徴としている。
【0007】
このように構成される車両用制動装置によれば、駆動輪の前方だけでなく、後方においても駆動輪と路面との間の接触状態を変化させる動作を行うことが可能となる。このため、車両を後退させたときに、補助制動手段によって既に駆動輪の後方において路面との間の接触状態を変化させておくことにより、接触状態を変化させておいた場所に駆動輪を移動させることができる。このため、これらの間の路面μを高くすることが可能となり、滑りやすい坂道を登るような場合にも車輪のスリップを防止することが可能となる。
【0008】
このような車両用制動装置では、例えば、請求項2に示されるように、補助制動手段の駆動開始を指示する操作スイッチ(8)を備えておき、操作スイッチが押されたときに、制御手段から駆動信号を出力させ、補助制動手段を動作させて、駆動輪と路面との間の接触状態を変化させる。
【0009】
請求項3に記載の発明では、制御手段には、車両における車速を示す信号が入力されるようになっており、制御手段は、車速から、車両が後退していることを検出したときには、補助制動手段により、駆動輪の後方においてのみ駆動輪と路面との間の接触状態を変化させることを特徴としている。
【0010】
このように、車両が後退しているときには、駆動輪の前方では駆動輪と路面との間の接触状態を変化させる必要がないため、駆動輪の後方においてのみ駆動輪と路面との間の接触状態を変化させるようにしても良い。
【0011】
この場合、車両が前進し始めたときには、請求項4に示されるように、制御手段は、車速が所定のしきい値(KV)を超えていない場合には、補助制動手段により、駆動輪の前方においてのみ駆動輪と路面との間の接触状態を変化させることで、接触状態を変化させる必要がない後方においてはそのような動作を行わないようにし、車速が所定のしきい値を超えた場合には、補助制動手段による駆動輪と路面との間の接触状態を変化させる動作を停止させるようにすることができる。
【0012】
また、車両が停止しているときには、請求項5に示されるように、補助制御手段により、駆動輪の前方および後方において駆動輪と路面との間の接触状態を変化させるようにすることもできる。
【0013】
なお、上記各手段の括弧内の符号は、後述する実施形態に記載の具体的手段との対応関係を示すものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
(第1実施形態)
本実施形態では、前輪駆動の車両1に対して本発明の一実施形態における車両用制動装置を適用した場合について説明する。
【0015】
図1は本発明の第1実施形態にかかる車両用制動装置の全体構成を示す概略図である。この図に示される車両用制動装置は、車両1の各車輪それぞれに主制動手段としての電気機械式ブレーキ装置(以下、EMBという)と補助制動手段としての粒状物散布装置を備えたものである。
【0016】
4つの車輪には、それぞれ同一のEMBが備えられている。以下の説明では、右前輪を例に挙げて説明するが、他の車輪についても同様である。また、以下の説明では右前輪、左前輪、右後輪、左後輪をそれぞれFR、FL、RR、RLと表記するものとし、これら各車輪に対応する各種構成部品の参照符号にFR、FL、RR、RLを添え字で付して示すものとする。
【0017】
右前輪FRには、右前輪FRに備えられたタイヤ2FRと一体的に回転するディスクロータ3FRが備えられている。また、ディスクロータ3FRを挟むようにキャリパ4FRが設置されている。
【0018】
キャリパ4FR内には、ホイールシリンダ圧制御用のアクチュエータとして、電動モータ(図示せず)が配置されている。この電動モータは、後述するブレーキECU7により駆動されるもので、この電動モータが駆動されることにより、キャリパ4FRに支持された摩擦材(図示せず)がディスクロータ3FRに押し付けられるようになっている。そして、この摩擦材のディスクロータ3FRへの押し付け力の大きさに応じた摩擦力でディスクロータ3FRの回転力が抑制され、その結果、タイヤ2FRに制動力が発生する。これら、ディスクロータ3FRおよびキャリパ4FRにより主制動手段としてのEMBが構成される。
【0019】
さらに、右前輪FRには、補助制動手段として、粒状物散布装置6FRa、6FRbが備えられている。粒状物散布装置6FRa、6FRbは、右前輪FRの前後それぞれに備えられており、粒状物散布装置6FRaにより右前輪FRの前への粒状物の散布を行い、粒状物散布装置6FRbにより右前輪FRの前への粒状物の散布を行うようになっている。
【0020】
これら粒状物散布装置6FRa、6FRbの模式図を図2に示す。この図に示されるように、粒状物散布装置6FRa、6FRbは、粒状物質として例えば砂10を貯留するタンク61FRa、61FRbおよびこのタンク61FRa、61FRbの下部に備えられたタンク61FRa、61FRbを開閉するシャッター部62FRa、62FRbを有して構成されている。そして、シャッター部62FRa、62FRbに備えられたソレノイド63FRa、63FRbに対して通電を行うと、ソレノイド63FRa、63FRbが発生させる磁気吸引力によってスプリング64FRa、64FRbに抗してプランジャ65FRa、65FRbが紙面上方向に移動させられることで、シャッター66FRa、66FRbが開き、タンク61FRa、61FRb内の砂10の散布が行えるようになっている。以下、右前輪FRの前方に散布するための粒状物散布装置6FRaを前方用粒状物散布装置6FRaといい、後方に散布するための粒状物散布装置6FRbを前方用粒状物散布装置6FRbという。
【0021】
なお、これら粒状物散布装置6FRa、6FRbは、本実施形態では、駆動輪となる右前輪FRおよび左前輪FLに対してのみ設けられており、転動輪となる右後輪RRおよび左後輪RLに対しては設けられていない。
【0022】
ブレーキECU7は、制御手段を構成するもので、CPU、ROM、RAM、I/Oなどを備えた周知のマイクロコンピュータによって構成され、ROMなどに記憶されたプログラムに基づいて補助ブレーキ制御を実行する。このブレーキECU7には、ディスクロータ3FR〜3RLの回転速度、すなわち車輪速度を検出する車輪速度センサ5FR〜5RL、および、補助制動手段としての粒状物散布装置6FRa、6FRb、6FLa、6FLbの操作スイッチ8が接続されている。そして、ブレーキECU7は、これら車輪速度センサ5FRや操作スイッチ8からの検知信号に基づき、粒状物散布装置6FRa、6FRb、6FLa、6FLbを駆動するようになっている。
【0023】
操作スイッチ8は、例えば、車室内における図示しないインストルメントパネルに取り付けられており、ドライバが補助ブレーキ制御の必要があると判断したときに押されるようになっている。この操作スイッチ8が押されると、ブレーキECU7に補助ブレーキ制御の実行開始を意味する検知信号が出力されるようになっている。この操作スイッチ8は、モーメンタリースイッチとなっており、押されると、また元の状態に戻るようになっている。
【0024】
さらに、車両用制動装置には、作動ランプ9が備えられている。作動ランプ9は、粒状物散布装置6FRa、6FRb、6FLa、6FLbの駆動中に点滅するようになっており、ブレーキECU7からの信号に基づいて駆動される。
【0025】
以上のように構成された本実施形態の車両用制動装置が実行する処理について、図2に示すフローチャートに基づき説明する。このフローチャートは、ブレーキECU7がプログラムに基づいて実行する補助ブレーキ制御の処理手順を示したもので、例えばイグニッションスイッチがオンされるとともに処理が開始されるようになっている。
【0026】
まず、ステップ100では、初期化処理が行われる。ここでは、ブレーキECU7に記憶された内容のリセット、各粒状物散布装置6FRa、6FRb、6FLa、6FLbによる散布をOFF、作動ランプ9の消灯、車速が0などのように、各種初期化処理が実行される。
【0027】
続くステップ110では、演算タイミングであるか否かが判定される。この判定により、ステップ110以降の処理が所定の演算周期τ(例えば、τ=10ms)毎に繰り返し実行されることになる。
【0028】
ステップ120では、操作スイッチ8がONされているか否かが判定される。この処理は、操作スイッチ8からの検出信号に基づいて判定され、ドライバによって操作スイッチ8が押された場合には、肯定判定されるようになっている。
【0029】
このステップ120で肯定判定された場合には、ステップ130に進み、補助ブレーキ制御を実行することを意味する制御中フラグをON(セット)し、ステップ140に進む。そして、ステップ140において、車両1が後退中であるか否かが判定される。この処理では、車輪速度センサ5FR〜5RLからの検出信号に基づいて周知の手法により求められる車速などから車両が後退中であるか否かが判定される。ここで肯定判定されればステップ150に進む。
【0030】
ステップ150では、車両1が後退中、つまり滑りやすい坂道を登ろうとしている状態であると想定されるため、前方用粒状物散布装置6FRa、6FLaによる前方散布はOFF、後方用粒状物散布装置6FRb、6FLbによる後方散布はONとし、作動ランプ9に対して補助ブレーキ制御中であることを示す信号が出力される。これにより、後方用粒状物散布装置6FRbから砂10が散布され、その場所の路面μが高くされる。
【0031】
一方、ステップ140で否定判定されればステップ160に進む。そして、ステップ160では、車両1が停止中であるか否かが判定される。この処理でも、車輪速度センサ5FR〜5FLからの検出信号に基づいて求められる車速などから車両1が停止中であるか否かが判定される。ここで肯定判定されるとステップ170に進む。
【0032】
ステップ170では、車両1が前進するか後進するかいずれになるか判らないものとして、前方用粒状物散布装置6FRa、6FLaによる前方散布をON、後方用粒状物散布装置6FRb、6FLbによる後方散布もONとし、作動ランプ9に対して補助ブレーキ制御中であることを示す信号が出力される。これにより、粒状物散布装置6FRa、6FRb、6FLa、6FLbから砂10が散布され、右前輪FRおよび左前輪FLの前後において路面μが高くされる。
【0033】
また、ステップ160で否定判定された場合には、ステップ180に進む。そして、ステップ180では、車速が所定のしきい値KV(例えば5km/h)を超えているか否かが判定される。この処理でも、車輪速度センサ5FR〜5FLからの検出信号に基づいて求められる車速などから車速がKVを超えているか否かが判定される。ここで、車速がKVを超えていないと判定された場合には、ステップ190に進み、超えていると判定された場合には、ステップ200に進む。
【0034】
ステップ190では、車両1が前進しているもののまだ十分な車速が得られていない場合であるとして、前方用粒状物散布装置6FRa、6FRbによる前方散布はON、後方用粒状物散布装置6FRb、6FLbによる後方散布はOFFとし、作動ランプ9に対して補助ブレーキ制御中であることを示す信号が出力される。これにより、前方用粒状物散布装置6FRaから砂10が散布され、右前輪FRおよび左前輪FLの前方において路面μが高くされる。
【0035】
また、ステップ200では、車両1が十分な車速で前進したものとして、制御中フラグをOFF(リセット)したのちステップ210に進み、前方用粒状物散布装置6FRによる前方散布をOFF、後方用粒状物散布装置6FRbによる後方散布もOFFとし、作動ランプ9に対して補助ブレーキ制御中でないことを示す信号が出力される(もしくは制御中であることを示す信号が出力されなくなる)。これにより、粒状物散布装置6FRa、6FRb、6FLa、6FLbからの砂10の散布が止められ、補助ブレーキ制御が終了する。
【0036】
一方、上記ステップ120において否定判定された場合には、ステップ220に進んで制御中フラグがONされているか否かが判定される。この処理では、上述したステップ130において制御中フラグがONされ、まだステップ200において制御中フラグがOFFされていない状態であれば肯定判定され、一旦補助ブレーキ制御が実行されても既にステップ200で制御中フラグがOFFされていた場合には否定判定される。
【0037】
ここで肯定判定された場合にはステップ130に進み、上記各処理が再度実行されることになる。そして、否定判定された場合にはステップ230に進み、補助ブレーキ制御を止める場合と同様に、前方用粒状物散布装置6FRa、6FLaによる前方散布をOFF、後方用粒状物散布装置6FRb、6FLbによる後方散布もOFFとし、作動ランプ9に対して補助ブレーキ制御中でないを示す信号が出力される(もしくは制御中であることを示す信号が出力されなくなる)。
【0038】
以上のように作動する車両用制動装置の具体的な作動例について説明する。
【0039】
まず、ステップ100による初期化処理を終えた後、所定の演算タイミングになったときに、ドライバによって操作ボタン8が押されておらず、かつ、補助ブレーキ制御中でない場合には、ステップ120で否定判定され、さらにステップ220でも否定判定されることになる。このため、粒状物散布装置6FRa、6FRb、6FLa、6FLbからの砂10の散布は行われず、作動ランプ9も消灯したままの状態とされる。
【0040】
続いて、ドライバによって操作ボタン8が押され、補助ブレーキ制御を実行することが要求されると、ステップ120で肯定判定され、ステップ130において制御中フラグがONされる。そして、車両1が停止中であれば、ステップ160で肯定判定されることになり、ステップ170にて前方用粒状物散布装置6FRa、6FLaによる前方散布がON、後方用粒状物散布装置6FRb、6FLbによる後方散布もONとされ、作動ランプ9に対して補助ブレーキ制御中であることを示す信号が出力される。
【0041】
これにより、粒状物散布装置6FRa、6FRb、6FLa、6FLbから自動的に砂10が散布され、右前輪FRおよび左前輪FLの前後において路面μが高くされる。このとき、路面μが高くなることにより、車両1が前進すれば良いが前進しなければ、ドライバが車両1を後退させる。すると、次の演算タイミングの際に、ステップ140で肯定判定されることになり、ステップ150にて前方用粒状物散布装置6FRa、6FLaによる前方散布がOFF、後方用粒状物散布装置6FRb、6FLbによる後方散布がONとされ、作動ランプ9に対して補助ブレーキ制御中であることを示す信号が出力される。
【0042】
つまり、自動的に前方用粒状物散布装置6FRa、6FLaからの砂10の散布が停止され、後方用粒状物散布装置6FRb、6FLbからの砂10の散布のみが行われることになる。
【0043】
そして、ドライバが右前輪FRおよび左前輪FLが砂10が散布された場所まで移動したと判断すると、車両を停止させる。
【0044】
これにより、再度、ステップ160で肯定判定されることになり、ステップ170にて前方用粒状物散布装置6FRa、6FLaによる前方散布がON、後方用粒状物散布装置6FRb、6FLbによる後方散布もONとされ、作動ランプ9に対して補助ブレーキ制御中であることを示す信号が出力される。したがって、前方用粒状物散布装置6FRa、6FLaからの砂10の散布が再開される。
【0045】
この後、ドライバが車両1を発進させれば、路面μが高くなった坂道を後退することなく登ることができる。そして、車両1が前進し始めると、ステップ180に進んで肯定判定され、前方用粒状物散布装置6FRa、6FLaによる前方散布がON、後方用粒状物散布装置6FRb、6FLbによる後方散布がOFFとされ、作動ランプ9に対して補助ブレーキ制御中であることを示す信号が出力される。したがって、前方用粒状物散布装置6FRa、6FLaからの砂10の散布のみが行われ、自動的に後方用粒状物散布装置6FRb、6FLbからの砂10の散布が停止されることになる。
【0046】
この後、車速が増し、ステップ180で否定判定されると、もう補助ブレーキ制御の必要がないものとしてステップ200で制御中フラグがOFFされ、さらに、ステップ210にて前方用粒状物散布装置6FRa、6FLaによる前方散布がOFF、後方用粒状物散布装置6FRb、6FLbによる後方散布がOFFとされ、作動ランプ9に対して補助ブレーキ制御中でないを示す信号が出力される(もしくは制御中であることを示す信号が出力されなくなる)。これにより、自動的に粒状物散布装置6FRa、6FRb、6FLa、6FLbからの砂10の散布が停止され、補助ブレーキ制御が終了する。
【0047】
以上説明したように、本実施形態の車両用制動装置では、前方用粒状物散布装置6FRa、6FLaだけでなく、後方用粒状物散布装置6FRb、6FLbを設けるようにしている。このため、車両1を後退させたときに、後方用粒状物散布装置6FRb、6FLbが既に砂10を散布した場所に駆動輪となる右前輪FRおよび左前輪FLを移動させることができる。このため、各タイヤ2FR、2FLと路面との間に砂10が散布されることになり、これらの間の路面μを高くすることが可能となる。
【0048】
したがって、滑りやすい坂道を登るような場合にも車輪のスリップを防止できる車両用制動装置とすることが可能となる。
【0049】
なお、ここでは、ドライバが意思によって車両1を後退させる場合を例に挙げて説明したが、もちろん、ドライバの意思によらないで車両1が後退してしまうような場合であっても、同様に上記のような補助ブレーキ制御が実行される。
【0050】
(他の実施形態)
(1)上記実施形態では、操作スイッチ8が押された後は、粒状物散布装置6FRa、6FRb、6FLa、6FLbの駆動がすべて自動的に行われるようになっているが、すべてマニュアル操作としても良い。この場合、操作スイッチ8が前方用粒状物散布装置6FRa、6FLaと後方用粒状物散布装置6FRb、6FLbそれぞれを操作できるような構成とされ、操作スイッチ8が押されたタイミングで、該当する粒状物散布装置6FRa、6FRb、6FLa、6FLbの砂10が散布されることになる。
【0051】
(2)上記実施形態では、粒状物散布装置6FRa、6FRb、6FLa、6FLbを別体として設ける場合について説明したが、これらのタンクを一体として構成し、例えばノズルだけタイヤ2FR、2FLの前方と後方のそれぞれに伸ばし、シャッターがそれぞれのノズルからの砂10の散布を独立して制御できるようにすることで、タイヤ2FR、2FLの前後双方に砂10が散布されるようにすることも可能である。
【0052】
(3)上記実施形態では、粒状物散布装置6FRa、6FRb、6FLa、6FLbによる砂10の散布の開始および停止が演算タイミングごとに決められるものを例に挙げて説明したが、操作スイッチ8が押されて散布が開始された後、所定時間後(例えば5秒後)に自動的に散布が停止されるように、タイマーのように砂10の散布量を決めても良い。このようにすれば、ドライバが操作スイッチ8を誤操作してしまった場合、もしくは、砂10を散布しても坂道を登れなかった場合に、砂10の残存量がなくなってしまうことを防止することが可能となる。
【0053】
(4)上記実施形態では、操作スイッチ8が粒状物散布装置6FRa、6FRb、6FLa、6FLbによる砂10の散布の開始タイミングの制御のみしか実行できないようなモーメンタリースイッチを例に挙げて説明している。これは、散布の開始はドライバによって行われ、散布の停止は自動的に行われるようになっているためである。しかしながら、散布の停止タイミングの制御も実行できる操作スイッチを設けて、ドライバによって散布の停止タイミングを制御できるようにしても構わない。
【0054】
(5)上記実施形態では、粒状物散布装置6FRa、6FRb、6FLa、6FLbは、駆動輪となる右前輪FRおよび左前輪FLに対してのみ設けられており、転動輪となる右後輪RRおよび左後輪RLに対しては設けられていない。しかしながら、転動輪に対しても設けるようにしても構わない。
【0055】
(6)上記実施形態では、滑り止め機構として、粒状物散布装置6FRa、6FRb、6FLa、6FLbによる砂10の散布式のものを例に挙げて説明したが、滑り止めを噴射する噴射式であっても良い。ただし、いずれの場合であっても、極力、路面とタイヤ2FR、2FLの接地面付近に滑り止めを散布、噴射できるようにするのが望ましい。なお、滑り止めを噴射する噴射式の装置自体は、例えば特開平11−28903号公報において公知のものであるため、ここでは説明を省略する。
【図面の簡単な説明】
【0056】
【図1】本発明の第1実施形態における車両用制動装置の概略構成を示す図である。
【図2】図1に示す車両用制動装置に備えられる粒状物散布装置の模式断面図である。
【図3】図1に示す車両用制動装置が実行する処理のフローチャートである。
【符号の説明】
【0057】
1…車両、2FR、2FL、2RR、2RL…タイヤ、
3FR、3FL、3RR、3RL…ディスクロータ、
4FR、4FL、4RR、4RL…キャリパ、
5FR、5FL、5RR、5RL…車輪速度センサ、
6FRa、6FRb、6FLa、6FLb…粒状物散布装置(補助制動手段)、
7…ブレーキECU、8…操作スイッチ、9…作動ランプ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両(1)における各車輪(FR、FL、RR、RL)に該車輪の回転を抑制する力を与えることにより制動力を発生させる主制動手段(3FR、3FL、3RR、3RL、4FR、4FL、4RR、4RL)と、
前記車両に搭載され、駆動信号に応じて、前記車輪のうちの駆動輪の前方と後方の双方において、前記駆動輪と路面との間の接触状態を変化させる動作を行う補助制動手段(6FRa、6FRb、6FLa、6FLb)と、
前記補助制動手段に対して前記駆動信号を出力する制御手段(7)とを備えていることを特徴とする車両用制動装置。
【請求項2】
前記補助制動手段の駆動開始を指示する操作スイッチ(8)が備えられ、
前記制御手段は、前記操作スイッチが押されると、前記駆動信号を出力し、前記補助制動手段を動作させて、前記駆動輪と路面との間の接触状態を変化させることを特徴とする請求項1に記載の車両用制動装置。
【請求項3】
前記制御手段には、前記車両における車速を示す信号が入力されるようになっており、
前記制御手段は、前記車速から、前記車両が後退していることを検出したときには、前記補助制動手段により、前記駆動輪の後方においてのみ前記駆動輪と路面との間の接触状態を変化させることを特徴とする請求項1または2に記載の車両用制動装置。
【請求項4】
前記制御手段は、前記車速から、前記車両が前進していることを検出したときに、前記車速が所定のしきい値(KV)を超えていない場合には、前記補助制動手段により、前記駆動輪の前方においてのみ前記駆動輪と路面との間の接触状態を変化させ、前記車速が所定のしきい値を超えた場合には、前記補助制動手段による前記駆動輪と路面との間の接触状態を変化させる動作を停止させることを特徴とする請求項3に記載の車両用制動装置。
【請求項5】
前記制御手段は、前記車速から、前記車両が停止していることを検出したときには、前記補助制御手段により、前記駆動輪の前方および後方において前記駆動輪と路面との間の接触状態を変化させることを特徴とする請求項3または4に記載の車両用制動装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2006−7900(P2006−7900A)
【公開日】平成18年1月12日(2006.1.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−186026(P2004−186026)
【出願日】平成16年6月24日(2004.6.24)
【出願人】(301065892)株式会社アドヴィックス (1,291)