説明

車両用制動装置

【課題】マスタ系統の失陥を検出でき、検出後のブレーキ力低下を抑制することができる車両用制動装置を提供する。
【解決手段】本発明の車両用制動装置は、ブレーキ操作部材の操作に伴って、ブレーキ操作部材の操作力のみによってマスタピストンを駆動させ、ブレーキ操作部材の操作量が所定量である場合又はブレーキ操作部材の操作力が所定力である場合における、マスタシリンダ圧に相関するマスタシリンダ圧相関値が所定値未満である場合に、マスタ系統の失陥を検出する失陥検出手段(6)と、失陥検出手段によりマスタ系統が失陥していることが検出されたブレーキ操作部材の操作において、ブレーキ操作部材の操作量が所定量よりも大きい場合又はブレーキ操作部材の操作力が所定力よりも大きい場合に、サーボ圧発生部で発生させたサーボ室内のサーボ圧に対応する力によってマスタピストンを駆動する駆動制御手段(4、6)と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、運転者によるブレーキ操作量に応じて車両に付与する制動力を制御する車両用制動装置に関する。
【背景技術】
【0002】
運転者によるブレーキ操作量に応じて車両に付与する制動力を制御する車両用制動装置の一例として、例えば特開2010−167915号公報(特許文献1)や特開平9−328069号公報(特許文献2)に挙げられる車両用制動装置が知られている。これら車両用制動装置は、入力ピストンと加圧ピストンが所定間隔(ストローク)をもって離間した状態で保持されており、入力ピストンの移動に応じて、ホイールシリンダにはアキュムレータとリニア弁とによって発生された制御油圧に基づく制動力が付与される。このような車両用制動装置において、加圧ピストンを構成するマスタシリンダ等からなるマスタ系統は、重要な役割を果たしている。
【0003】
特許文献1に記載の車両用制動装置によれば、リニア弁による制動圧では応答性が遅い場合に、バルブをONさせ、駆動液圧調整装置圧も併用することで応答性を向上させている。また、特許文献2に記載の車両用制動装置によれば、ブレーキアシストを行う2種類の手段に対して、一方の故障を検知し、バキュームブースタ失陥時には、ブレーキ操作に応じてブレーキ圧を増圧させている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2010−167915号公報
【特許文献2】特開平9−328069号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載の発明は、ブレーキ加圧の応答性確保を目的としており、マスタシリンダに関するマスタ系統の失陥を検出し助勢するものではない。また、特許文献2に記載の発明では、バキュームブースタ失陥を検出できるものの、マスタ系統の失陥を検出することはできない。
【0006】
本発明は、このような事情に鑑みて為されたものであり、マスタ系統の失陥を検出でき、検出後のブレーキ力低下を抑制することができる車両用制動装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1に係る発明は、サーボ室(127)内にサーボ圧を発生させるサーボ圧発生部(41、42、43)を備え、ブレーキ操作部材(115)の操作力に対応する力及び前記サーボ室内のサーボ圧に対応する力のいずれかによってマスタピストン(113、114)が駆動されて、マスタシリンダ圧を発生させる車両用制動装置において、前記ブレーキ操作部材の操作に伴って、前記ブレーキ操作部材の操作力のみによって前記マスタピストンを駆動させ、前記ブレーキ操作部材の操作量が所定量である場合又は前記ブレーキ操作部材の操作力が所定力である場合における、前記マスタシリンダ圧に相関するマスタシリンダ圧相関値が所定値未満である場合に、マスタ系統の失陥を検出する失陥検出手段(6)と、前記失陥検出手段により前記マスタ系統が失陥していることが検出されたブレーキ操作部材の操作において、前記ブレーキ操作部材の操作量が前記所定量よりも大きい場合又は前記ブレーキ操作部材の操作力が前記所定力よりも大きい場合に、前記サーボ圧発生部で発生させた前記サーボ室内のサーボ圧に対応する力によって前記マスタピストンを駆動する駆動制御手段(4、6)と、を備えることを特徴とする。
【0008】
請求項2に係る発明は、請求項1において、前記駆動制御手段(4、6)は、前記失陥検出手段により前記マスタ系統が失陥していることが検出されている場合に、当該マスタ系統の失陥が検出された前記ブレーキ操作部材の操作よりも後の操作においては、前記サーボ圧発生部で発生させた前記サーボ圧に対応する力による駆動であり、前記ブレーキ操作部材の操作量に対して正常時より大きい前記サーボ圧によって前記マスタピストンを駆動することを特徴とする。
【0009】
請求項3に係る発明は、請求項1又は2において、前記駆動制御手段(4、6)は、前記失陥検出手段により前記マスタ系統が失陥していることが検出されていない場合には、前記サーボ圧発生部で発生させた前記サーボ圧に対応する力で前記マスタピストンを駆動し、前記失陥検出手段により前記マスタ系統が失陥していることが検出されている場合に、前記マスタ系統の失陥が検出された前記ブレーキ操作部材の操作よりも後の操作においては、前記サーボ圧発生部で発生させた前記サーボ圧に対応する力による駆動であり、正常時の前記サーボ圧のみで前記マスタピストンを駆動しているときの前記ブレーキ操作部材の操作量に対する前記マスタシリンダ圧相関値と異なる特性となるように、前記マスタピストンを駆動することを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
請求項1に記載の発明によれば、マスタシリンダ圧相関値が所定値未満であることを検知することによりマスタ系統の失陥を検出することができる。さらに、本発明によれば、失陥を検出した場合、ブレーキ操作部材が失陥検出時からさらに踏み込まれた際には、サーボ圧発生部で発生させたサーボ圧でマスタシリンダを駆動する。これによりマスタシリンダ圧を上昇させる。マスタシリンダ圧が上昇することでブレーキ力(制動力)も上昇し、失陥によるブレーキ力低下が抑制される。
【0011】
請求項2に記載の発明によれば、失陥が検出されたブレーキ操作の次以降のブレーキ操作において、正常時の目標サーボ圧(失陥がないときの制御値)よりも大きなサーボ圧を発生させることができる。これにより、失陥検出された操作以降の操作時においても、適切なマスタシリンダ圧を発生させることができ、失陥によるブレーキ力低下が抑制される。
【0012】
請求項3に記載の発明によれば、失陥が検出されなかった場合、次以降のブレーキ操作では、操作力に対応する力ではなくサーボ圧に対応する力によってマスタピストンを駆動する。つまり、失陥が検出されなかった場合は、制御されたサーボ圧による通常のブレーキ制御が行われる。そして、失陥が検出された場合には、次以降のブレーキ操作において、ブレーキ特性が正常時とは異なるように、サーボ圧が制御される。これにより、運転手は、失陥していることをブレーキ操作により実感することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本実施形態の車両用制動装置の構成を示す構成図である。
【図2】本実施形態のレギュレータの構成を示す構成図である。
【図3】マスタ系統の失陥検出に関する制御フローチャートである。
【図4】ストローク量に対するサーボ圧及び減速度と、操作力に対する減速度を示すグラフである。
【図5】本実施形態のレギュレータの変形態様を示す構成図である。
【図6】本実施形態のレギュレータの変形態様を示す構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。なお、各図は概念図であり、細部構造の寸法まで規定するものではない。
【0015】
(車両用制動装置の構成)
図1は、本実施形態に係る車両用制動装置の概略構成図を示している。本実施形態の車両用制動装置は、入力ピストン112の前進方向に離間距離Bを有して配置され入力ピストン112に対し独立して軸線方向に摺動するマスタピストン113、114を有するマスタシリンダ1と、入力ピストン112の移動量に応じた反力圧を反力室128に発生させる反力発生装置2と、反力室128と反力発生装置2とを連通する液路130から分岐されてリザーバ32に連通する開放路31に設けられた切替弁3と、サーボ圧を発生させる倍力装置4と、基礎液圧を発生するマスタシリンダ1の液圧室132、136に連通するホイールシリンダ541〜544を有する車輪5FR、5FL、5RR、5RLのブレーキ5と、切替弁3及び倍力装置4を制御するブレーキECU6と、各種センサ71〜74と、回生制動力を制御するハイブリッドECU8と、を備えている。以下、本実施形態の車両用制動装置が備える各構成要素について、詳細に説明する。なお、ハイブリッドECU8については公知のものであり、説明は省略する。また、各種センサ71〜74は、ブレーキECU6と通信可能となっている。ブレーキECU6は、主に各種電磁弁3、41、42やモータ433等を制御する。
【0016】
(マスタシリンダ1及び反力発生装置2)
図1に示すように、マスタシリンダ1は、基端部が開口して先端部が閉塞した円筒形状を成すシリンダ111を備え、このシリンダ111の内部に基端部から順に入力ピストン112、第一マスタピストン113及び第二マスタピストン114が各々同軸上に配置されて軸線方向に沿って摺動自在に嵌合されている。入力ピストン112は、シリンダ111の基端部外方に一部が突出して配置され、その突出部分にブレーキペダル115の操作ロッド116がピボット116aを用いて連結され、運転者によるブレーキペダル115の操作により操作ロッド116を介して移動可能となっている。なお、本明細書では、ブレーキペダル115の移動量を「ストローク量又は操作量」という。
【0017】
入力ピストン112は、シリンダ111の基端部側に形成された入力シリンダ穴119に摺動自在に嵌合されている。入力ピストン112には、入力シリンダ穴119内への挿入部分に、先端側が開口し基端部側が閉塞されて閉塞面112aとなった軸穴117が形成されている。この軸穴117に、第一マスタピストン113からシリンダ111の隔壁111aを貫通して基端部側へ延在する円柱状の棒状部分が摺動自在に嵌合されている。この嵌合された棒状部分の端面113aと、入力ピストン112の閉塞面112aとの間には、ブレーキペダル115が無操作状態の際に所定距離Bの間隔が確保されるようになっている。
【0018】
入力ピストン112の先端部側の端面112bと入力シリンダ穴119の底部119bとなる隔壁111aとの間には反力室128が形成され、この反力室128は、シリンダ111の周壁を貫通するポート129により外部と連通されている。このポート129は配管130を介して、反力発生装置2を構成するストロークシミュレータ21に接続されている。
【0019】
ストロークシミュレータ21は、シリンダ211にピストン212が摺動可能に嵌合され、圧縮スプリング213によって前方に付勢されたピストン212の前面側にパイロット液室214が形成され、パイロット液室214が配管130を介して反力室128に連通されている。ブレーキペダル115の操作により入力ピストン112が前方に移動すると、反力室128からブレーキ液がパイロット液室214に送出されピストン212が圧縮スプリング213の撓み量に比例するばね力に抗して後退される。これにより、反力室128内の圧力がブレーキペダル115の移動量であるブレーキ操作量に応じて上昇し、ブレーキペダル115にはブレーキ操作量に応じた反力が付与される。配管130には、反力室128内の圧力を検出する圧力センサ73が設けられている。本明細書では、この反力室128内の圧力を「反力圧」という。
【0020】
入力ピストン112の軸穴117の内周面と第一マスタピストン113の棒状部分の外周面との間に軸線方向に沿って所定ギャップの通路117aが形成されるように、軸穴117は軸線方向に所定長さだけ大径に形成されている。入力ピストン112の周壁には当該周壁を貫通する貫通穴118が通路117aと連通するように形成されている。更に、入力ピストン112の外周面と入力シリンダ穴119の内周面との間に軸線方向に沿って所定ギャップの通路119aが形成されるように入力シリンダ穴119は軸線方向に所定長さだけ大径に形成されている。シリンダ111の周壁には、通路120が通路119aの先端付近で連通するように貫通して形成されている。通路120は配管121で、ブレーキ液のリザーバ32に連通されている。したがって、端面113aと閉塞面112aとの間隔部分117bは、通路117a、貫通穴118、通路119a、通路120、配管121を介してリザーバ32に連通している。この連通状態は、ブレーキ操作量に係わらず保持され、間隔部分117bは、常時大気に連通されている。
【0021】
シリンダ111には、加圧シリンダ穴123が入力シリンダ穴119と隔壁111aを挟んで形成されている。第一マスタピストン113は、断面コ字形状を呈し、加圧シリンダ穴123に摺動自在に嵌合されている。第一マスタピストン113の先端部側に配置された第二マスタピストン114は断面がコ字形状を呈し、加圧シリンダ穴123内に摺動自在に嵌合されている。
【0022】
隔壁111aと第一マスタピストン113との間にサーボ室127が形成され、第一マスタピストン113と第二マスタピストン114との間に第一液圧室132が形成され、第二マスタピストン114と加圧シリンダ穴123の先端閉塞面との間に第二液圧室136が形成されている。第一マスタピストン113のコ字形状の凹部底面と第二マスタピストン114の後端面との間に第一圧縮スプリング124が介在され、第二マスタピストン114のコ字形状の凹部底面と加圧シリンダ穴123の先端閉塞面との間に第二圧縮スプリング125が介在されている。これにより、ブレーキペダル115が無操作状態において、第一マスタピストン113および第二マスタピストン114は第一圧縮スプリング124および第二圧縮スプリング125のばね弾性力によってシリンダ111の基端側に付勢され、所定の各不作動位置にそれぞれ停止されている。
【0023】
ブレーキペダル115の無操作状態において、ペダルリターンスプリング115aにて入力ピストン112が初期位置となるため、第一マスタピストン113の棒状部分の端面113aは、入力ピストン112の閉塞面112aとの間に、上述した所定距離Bとなる間隔をもって離間状態に保持されている。運転者がブレーキペダル115を操作し、入力ピストン112が第一マスタピストン113に対して所定距離Bだけ相対的に前進すると、第一マスタピストン113に当接してこれを押圧可能となっている。
【0024】
サーボ室127は、シリンダ111の周壁を貫通するポート133により外部と連通されている。第一マスタピストン113と第二マスタピストン114との間の第一液圧室132には所定の不作動位置に位置する第二マスタピストン114の後端面近傍にシリンダ111の周壁を外部に貫通するポート134が形成されている。更に、第二マスタピストン114の先端部側とシリンダ111の先端閉塞面との間の第二液圧室136には当該先端閉塞面の近傍に、シリンダ111の周壁を外部に貫通するポート135が形成されている。
【0025】
後述する倍力装置4によって、サーボ圧がサーボ室127に発生することにより、第一マスタピストン113、第二マスタピストン114が軸線方向に前進して第一液圧室132及び第二液圧室136が加圧される。第一液圧室132及び第二液圧室136の液圧は、ポート134、135から配管51、52及びABS53を経由してホイールシリンダ541〜544へ基礎液圧として供給され、車輪5FR〜5RLに基礎制動力(ブレーキ力)が付与される。
【0026】
なお、入力シリンダ穴119の内周面と入力ピストン112の外周面との間、加圧シリンダ穴123と第一マスタピストン113及び第二マスタピストン114の外周面との間、並びに、入力ピストン112の軸穴117の内周面及び隔壁111aと第一マスタピストン113の棒状部分の外周面との間には、図1において丸印で示すOリング等のシール部材を装着し、液の漏洩を防止している。
【0027】
また、シリンダ111の第一マスタピストン113前方位置には、リザーバYに連通するポート111Yが形成されている。同様に、シリンダ111の第二マスタピストン114前方位置には、リザーバZに連通するポート111Zが形成されている。ポート111Y、111Zの両サイド(前後)には、シール部材1Xが設置されている。マスタピストン113、114が前進し、各シール部材1Xと対応するマスタピストン113、114とが当接することで、リザーバY、Zと各液圧室132、136とは分断される。なお、センサ71は、操作力(踏力)センサであり、運転手のブレーキペダル115を踏む力を検出する。センサ72は、ストロークセンサであり、ブレーキペダル115のストローク量(操作量)を検出する。
【0028】
(切替弁3)
切替弁3は、反力室128と反力発生装置2とを連通する配管130から分岐した分岐配管130aと、リザーバ32に連通する開放路31と、の間に設けられている。切替弁3は、例えば、電磁弁を用いることができる。切替弁3は、ブレーキECU6からの制御信号に基づいて開閉される。切替弁3が開放状態のときに分岐配管130aと開放路31は連通されて、反力室128のポート129とリザーバ32は連通される。切替弁3が閉止状態のときには、ストロークシミュレータ21によって形成された反力圧が反力室128に付与される。
【0029】
(倍力装置4)
倍力装置4は、主に、減圧弁41と、増圧弁42と、圧力供給部43と、レギュレータ44と、を備えている。減圧弁41は、常開型の電磁弁(リニア弁)であり、ブレーキECU6により流量が制御されている。減圧弁41の一方は配管411を介してリザーバ412に接続され、減圧弁41の他方は配管413に接続されている。増圧弁42は、常閉型の電磁弁であり、ブレーキECU6により流量が制御されている。増圧弁42の一方は配管421に接続され、増圧弁42の他方は配管422に接続されている。
【0030】
圧力供給部43は、ブレーキECU6の指示に基づいて、レギュレータ44に高圧のブレーキ液を提供する手段である。圧力供給部43は、主に、アキュムレータ431と、液圧ポンプ432と、モータ433と、リザーバ434と、を有している。
【0031】
アキュムレータ431は、液圧ポンプ432により発生した液圧を蓄圧するものである。アキュムレータ431は、配管431aにより、レギュレータ44、圧力センサ75、及び液圧ポンプ432と接続されている。液圧ポンプ432は、モータ433及びリザーバ434と接続されている。液圧ポンプ432は、リザーバ434に溜まったブレーキ液を、モータ433が駆動することでアキュムレータ431に供給する。
【0032】
アキュムレータ圧が所定圧力以下に低下したことが圧力センサ75によって検出されると、ブレーキECU6からの制御信号に基づいてモータ433が駆動され、液圧ポンプ432は、アキュムレータ431にブレーキ液を供給してアキュムレータ431に圧力エネルギーを補給する。
【0033】
レギュレータ44は、一般的なレギュレータに対して、主にサブピストン446を加えたものである。つまり、レギュレータ44は、図2に示すように、主に、シリンダ441と、ボール弁442と、付勢部443と、弁座部444と、制御ピストン445と、サブピストン446と、を備えている。
【0034】
シリンダ441は、一方(図面右側)に底面をもつ略有底円筒状のシリンダケース441aと、シリンダケース441aの開口(図面左側)を塞ぐ蓋部材441bと、で構成されている。なお、図面上、蓋部材(441b)は断面コの字状に形成されているが、本実施形態では、蓋部材441bを円柱状とし、シリンダケース441aの開口を塞いでいる部位を蓋部材441bとして説明する。シリンダケース441aには、内部と外部を連通させる複数のポート4a〜4hが形成されている。
【0035】
ポート4aは、配管431aと接続している。ポート4bは、配管422と接続している。ポート4cは、配管145と接続している。ポート4dは、リザーバ412に通じる配管414に接続している。ポート4eは、リリーフバルブ423を介して配管422に通じる配管424に接続している。ポート4fは、配管413に接続している。ポート4gは、配管421に接続している。ポート4hは、配管51から分岐した配管511に接続されている。
【0036】
ボール弁442は、ボール型の弁であり、シリンダ441内部において、シリンダケース441aの底面側(以下、シリンダ底面側とも称する)に配置されている。付勢部443は、ボール弁442をシリンダケース441aの開口側(以下、シリンダ開口側とも称する)に付勢するバネ部材であって、シリンダケース441aの底面に設置されている。弁座部444は、シリンダケース441aの内周面に設けられた壁であり、シリンダ開口側とシリンダ底面側を区画している。弁座部444の中央には、軸方向に貫通し後述する第一室4Aと第二室4Bとを連通させる貫通路444aが形成されている。弁部材444は、付勢されたボール弁442が貫通路444aを塞ぐ形で、ボール弁442をシリンダ開口側から保持している。
【0037】
ボール弁442、付勢部443、弁座部444、及びシリンダ底面側のシリンダケース441aの内周面で区画された空間を第一室4Aとする。第一室4Aは、ブレーキ液で満たされており、ポート4aを介して配管431aに接続され、ポート4bを介して配管422に接続されている。
【0038】
制御ピストン445は、略円柱状の本体部445aと、本体部445aよりも径が小さい略円柱状の突出部445bとからなっている。本体部445aは、シリンダ441内において、弁座部444のシリンダ開口側に、同軸的且つ液密的に摺動可能に配置されている。本体部445aは、図示しない付勢部材によりシリンダ開口側に付勢されている。本体部445aのシリンダ軸方向略中央には、両端が本体部445a周面に開口した周方向(図面上下方向)に延びる通路445cが形成されている。通路445cの開口の配置位置に対応したシリンダ441の一部内周面は、ポート4dが形成されているとともに、凹状に窪み、本体部445aとにより第三室4Cを形成している。第三室4Cがあることで、レギュレータピストン445が摺動しても、通路445cとリザーバ412との連通状態が維持される。
【0039】
突出部445bは、本体部445aのシリンダ底面側端面の中央からシリンダ底面側に突出している。突出部445bの径は、弁座部444の貫通路444aよりも小さい。突出部445bは、貫通路444aと同軸上に配置されている。突出部445bの先端は、ボール弁442からシリンダ開口側に所定間隔離れている。突出部445bには、突出部445bのシリンダ底面側端面中央に開口したシリンダ軸方向に延びる通路445dが形成されている。通路445dは、本体部445a内にまで延伸し、通路445cに接続している。
【0040】
本体部445aのシリンダ底面側端面、突出部445bの外表面、シリンダ441の内周面、弁座部444、及びボール弁442によって区画された空間を第二室4Bとする。第二室4Bは、制御ピストン445不動作状態において、通路445c、445d、及び第三室4Cを介してポート4d、4eに連通している。
【0041】
サブピストン446は、サブ本体部446aと、第一突出部446bと、第二突出部446cとからなっている。サブ本体部446aは、略円柱状に形成されている。サブ本体部446aは、シリンダ441内において、本体部445aのシリンダ開口側に、同軸的且つ液密的に摺動可能に配置されている。
【0042】
第一突出部446bは、サブ本体部446aより小径の略円柱状であり、サブ本体部446aのシリンダ底面側の端面中央から突出している。第一突出部446bは、本体部445aのシリンダ開口側端面に当接している。第二突出部446cは、第一突出部446bと同形状であり、サブ本体部446aのシリンダ開口側の端面中央から突出している。第二突出部446cは、蓋部材441bと当接している。
【0043】
サブ本体部446aのシリンダ底面側の端面、第一突出部446bの外表面、制御ピストン445のシリンダ開口側の端面、及びシリンダ441の内周面で区画された空間を圧力制御室4Dとする。圧力制御室4Dは、ポート4f及び配管413を介して減圧弁41に連通し、ポート4g及び配管421を介して増圧弁42に連通している。
【0044】
一方、サブ本体部446aのシリンダ開口側の端面、第二突出部446cの外表面、蓋部材441b、及びシリンダ441の内周面で区画された空間を第四室4Eとする。第四室4Eは、ポート4h及び配管511、51を介してポート134に連通している。各室4A〜4Eは、ブレーキ液で満たされている。
【0045】
(リニアモード)
ここで、倍力装置4の動作について説明する。まず、ブレーキECU6により減圧弁41及び増圧弁42を制御した一般的なブレーキ制御であるリニアモードについて説明する。
【0046】
ブレーキペダル115が踏まれていない状態では、レギュレータ44は上記のような状態、すなわちボール弁442が弁座部444の貫通路444aを塞いでいる状態となる。また、減圧弁41は開状態、増圧弁42は閉状態となっている。つまり、この状態では、第一室4Aと第二室4Bは、ボール弁442と弁座部444により遮断されている。
【0047】
第二室4Bは、サーボ室127に連通し、互いに同圧力に保たれている。第二室4Bは、制御ピストン445の通路445c、445dを介して第三室4Cに連通している。したがって、第二室4B及び第三室4Cは、リザーバ412に連通している。圧力制御室4Dは、一方が増圧弁42で塞がれ、他方が減圧弁41を介してリザーバ412に連通している。圧力制御室4Dと第二室4Bとは同圧力に保たれる。第四室4Eは、第一液圧室132に連通し、互いに同圧力に保たれる。
【0048】
この状態から、ブレーキペダルが踏まれると、ストロークセンサ72からの情報に応じてブレーキECU6が減圧弁41、増圧弁42、及びモータ433を制御する。すなわち、ブレーキECU6は、減圧弁41を閉じる方向に制御し、増圧弁42を開ける方向に制御する。
【0049】
増圧弁42が開くことでアキュムレータ431と圧力制御室4Dとが連通する。減圧弁41が閉じることで、圧力制御室4Dとリザーバ412とが分断される。アキュムレータ431から供給される高圧のブレーキ液により、圧力制御室4Dの圧力を上昇させることができる。圧力制御室4Dの圧力が上昇することで、制御ピストン445がシリンダ底面側に摺動する。これにより、制御ピストン445の突出部445b先端がボール弁442に当接し、通路445dがボール弁442により塞がれる。そして、第二室4Bとリザーバ412とは分断される。
【0050】
さらに、制御ピストン445がシリンダ底面側に摺動することで、突出部445bによりボール弁442がシリンダ底面側に押されて移動し、ボール弁442が弁座部444から離間する。これにより、第一室4Aと第二室4Bは弁座部444の貫通路444aにより連通する。第一室4Aには、アキュムレータ431から高圧のブレーキ液が供給されており、連通により第二室4Bの圧力が上昇する。
【0051】
第二室4Bの圧力上昇に伴って、連通するサーボ室127の圧力も上昇する。サーボ室127の圧力上昇により、第一マスタピストン113が前進し、第一液圧室132の圧力が上昇する。そして、第二マスタピストン114も前進し、第二液圧室136の圧力が上昇する。第一液圧室132の圧力上昇により、高圧のブレーキ液が後述するABS53及び第四室4Eに供給される。第四室4Eの圧力は上昇するが、圧力制御室4Dの圧力も同様に上昇しているため、サブピストン446は移動しない。このように、ABS53に高圧のブレーキ液が供給され、ブレーキ5が作動して車両が制動される。リニアモードにおいて第一マスタシリンダ113を前進させる力を「サーボ圧に対応する力」と称する。
【0052】
(REGモード)
ここで、減圧弁41、増圧弁42、及び切替弁を制御せず(通電せず)、最初の所定量についてはブレーキペダル115の操作力(踏む力)のみで第一マスタピストン113を駆動させるREGモードについて説明する。
【0053】
REGモードでは、減圧弁41、増圧弁42、及び切替弁3が通電されず、減圧弁41は開状態、増圧弁42は閉状態、切替弁3は開状態となっている。そして、ブレーキペダル115が踏まれた後もこの状態(無制御状態)が維持される。
【0054】
REGモードにおいて、ブレーキペダル115が踏まれると、入力ピストン112が前進する。ここで、反力室128は、切替弁3が開状態であるためリザーバ32に連通しており、シミュレータ21による反力圧上昇は生じない。そして、減圧弁41及び増圧弁42が制御されないため、サーボ室127の圧力も上昇せず、入力ピストン112が第一マスタピストン113に当接するまで、第一マスタピストン113は前進しない。そして、入力ピストン112のみが前進し、離間距離Bが小さくなっていき、入力ピストン112と第一マスタピストン113が当接する。第一マスタピストン113は、ブレーキペダル115の操作力によって、入力ピストン112とともに前進する。第一マスタピストン113の前進に伴いサーボ室127の容積が大きくなると、リザーバ412からブレーキ液が供給される。
【0055】
第一マスタピストン113が前進すると、リニアモード同様、第一液圧室132及び第二液圧室136の圧力は上昇する。そして、第一液圧室132の圧力上昇により、第四室4Eの圧力も上昇する。第四室4Eの圧力上昇によりサブピストン446はシリンダ底面側に摺動する。同時に、制御ピストン445は、第一突出部446bに押されてシリンダ底面側に摺動する。これにより、突出部445bはボール弁442に当接し、ボール弁442はシリンダ底面側に押されて移動する。つまり、第一室4Aと第二室4Bは連通し、サーボ室127とリザーバ412とが分断されるとともに、アキュムレータ431による高圧のブレーキ液がサーボ室127に供給される。
【0056】
このように、REGモードでは、ブレーキペダル115の操作力により所定ストローク踏まれると、アキュムレータ431とサーボ室127とが連通し、制御なしにサーボ圧が上昇する。そして、第一マスタピストン113が運転手の操作力以上に前進する。これにより、高圧のブレーキ液がABS53に供給される。REGモードでは、坂道停車時等を考慮して、安全に停車維持可能なブレーキ力が発生するように第四室4Eの圧力に応じた圧力をサーボ室127に発生させる。
【0057】
REGモードにおいて第一マスタシリンダ113を前進させる力を「操作力に対応する力」と称する。つまり、「操作力に対応する力」とは、操作力のみにより第一マスタシリンダ113を前進させる力、及びその駆動に基づいて機械的に発生したサーボ圧により第一マスタシリンダ113を前進させる力、を意味する。
【0058】
(ブレーキ5)
マスタシリンダ圧を発生する第一液圧室132、第二液圧室136には、配管51、52、ABS53を介してホイールシリンダ541〜544が連通されている。ホイールシリンダ541〜544は、車輪5FR〜5RLのブレーキ5を構成している。具体的には、第一液圧室132のポート134及び第二液圧室136のポート135には、それぞれ配管51、52を介して、公知のABS(Antilock Brake System)53が連結されている。ABS53には、車輪5FR〜5RLを制動するブレーキ装置を作動させるホイールシリンダ541〜544が連結されている。
【0059】
リニアモードでは、倍力装置4のアキュムレータ431から送出された液圧が増圧弁42及び減圧弁41によって制御されてサーボ圧がサーボ室127に発生することにより、第一マスタピストン113及び第二マスタピストン114が前進して第一液圧室132及び第二液圧室136が加圧される。第一液圧室132及び第二液圧室136の液圧はポート134、135から配管51、52及びABS53を経由してホイールシリンダ541〜544へ基礎液圧として供給され、車輪5FR〜5RLに液圧制動力が付与される。
【0060】
(マスタ系統の失陥検出に関する制御について)
ここで、マスタ系統の失陥検出に関する制御について説明する。マスタ系統の失陥とは、例えばシール部材1Xの少なくとも1つが失陥し、第一液圧室132または第二液圧室136がリザーバY又はリザーバZと連通してしまっている場合などである。この場合、第一マスタピストン113が前進しても、圧力がリザーバY又はZに吸収され、圧力値が想定より小さくなる。本実施形態は、このようなマスタ系統の失陥を検出し、検出後のブレーキ制御を適切に維持できることを特徴とする。以下、具体的に説明する。
【0061】
本実施形態において、失陥検出制御は、その日の最初のイグニッションONの際に行われる。図3に示すように、最初のイグニッションONが為されたら(S101)、ブレーキECU6は制御モードをリニアモードからREGモードに切り替える(S102)。その後、運転手によりブレーキペダル115が踏まれると(S103)、ブレーキECU6が圧力センサ74のサーボ圧を検出する(S104)。ここで、第一及び第二液圧室132、136から供給されるブレーキ液の圧力をマスタシリンダ圧と称する。マスタシリンダ圧は、REGモードにおいてはサーボ圧に相関する。したがって、マスタシリンダ圧の大小は、圧力センサ74により検出される。
【0062】
ブレーキECU6には、図4(a)に示すように、リニアモード時及びREGモード時のストローク量(操作量)に対する目標サーボ圧値の関係(マップ)が記憶されている。目標サーボ圧値は、サーボ室127に発生させるサーボ圧の目標値である。サーボ圧の値は、構造上、マスタシリンダ圧に相関する値(マスタシリンダ圧相関値)である。
【0063】
ブレーキECU6は、リニアモードにおいて、記憶された目標サーボ圧に基づいて各電磁弁41、42を制御する。REGモードではブレーキECU6が各電磁弁41、42を制御しないため、REGモードの関係(制御マップ)としては、正常であれば発生すると(実験等により)予想されるサーボ圧値が記憶されている。このように、ブレーキECU6には、リニアモード時及びREGモード時の制御マップが記憶されている。
【0064】
ここで、ブレーキECU6は、予め設定されたストローク量(所定ストローク量)(「所定量」に相当する)に対して検出されたサーボ圧が、REGモードの制御マップにおける所定ストローク量に対する目標サーボ圧値(所定圧力)(「所定値」に相当する)よりも小さいか否かを判定する(S105)。本実施形態の所定ストローク量は、REGモードにおいて、マスタ系統正常時にストローク量の増大に対してサーボ圧が立ち上がるストローク量よりも大きく、マスタ系統失陥時にストローク量の増大に対してサーボ圧が立ち上がるストローク量よりも小さいストローク量に設定されている。つまり、マスタ系統失陥の検出精度の観点からすると、所定ストローク量は、マスタ系統正常時にストローク量の増大に対してサーボ圧が大きく立ち上がってくるストローク量に設定することが好ましい。また、所定圧力は、REGモードの制御マップにおいて、所定ストローク量に対するサーボ圧値以下に設定されている。本実施形態では、所定ストローク量に対するサーボ圧値を所定圧力としている。ただし、所定圧力は失陥の有無を判別するための閾値であり、検出したい失陥の度合いによって設定可能である。
【0065】
ストローク量が所定ストローク量に達したとき検出されたサーボ圧が所定圧力以上である場合(S105:No)、正常と判断され、REGモードがそのまま維持される(S106)。この場合、ストローク量が0になるまで(S107:No)、REGモードは維持される(S106)。そして、ストローク量が0になると(S107:Yes)、REGモードを終了し、通常のリニアモードに切り替える(S108)。つまり、ブレーキECU6は、マスタ系統が正常であれば、初回のブレーキ操作はREGモードでブレーキ制御し、2回目以降のブレーキ操作に対してはリニアモードでブレーキ制御する。
【0066】
一方、検出されたサーボ圧が所定圧力未満である場合(S105:No)、ブレーキECU6はマスタ系統に失陥があると判定し(S109)、例えば失陥フラグを立て、運転手に通知するための通知手段(図示せず)を作動させる(例えば警告ランプを点灯させる)。そして、運転手が引き続きブレーキペダル115を踏み込み、ストロークが所定ストローク量より大きくなると、ブレーキECU6は制御モードをリニアモード(ここでは失陥時用のリニアモード)に切り替える(S110)。図4(a)に示すように、マスタ系統失陥時には、ストローク量に対するサーボ圧値の立ち上がりが遅くなり、操作力に対するサーボ圧値の比例定数も小さくなる。
【0067】
失陥時用のリニアモードは、基本として上記リニアモードと同じ制御であるが、参照する制御マップが通常とは異なっている。つまり、ブレーキECU6は、通常とは別に、失陥時用の制御マップを有している。失陥時用の制御マップでは、ストローク量に対する目標サーボ圧値が、通常のリニアモードの制御マップにおけるストローク量に対する目標サーボ圧値よりも大きく設定されている。
【0068】
本実施形態において、失陥時用の制御マップは、図4(a)(失陥時用のリニアモード)に示すように、通常時のおよそ2倍の目標サーボ圧値に設定されている。これは、片側のマスタピストンが失陥している場合、ストローク量に対して発生するマスタシリンダ圧が、通常に比べて半減してしまうからである。ブレーキECU6が失陥時用の制御マップに基づいて各電磁弁41、42を制御することにより、ストローク量に対して通常時よりも大きなサーボ圧が生じ、その分マスタシリンダ圧を大きくすることができる。
【0069】
このように、失陥が検出された場合、初回のブレーキ操作の途中でREGモードから失陥時用のリニアモードに切り替えられ、2回目以降のブレーキ操作では失陥時用のリニアモードによりブレーキ制御される。
【0070】
ここで、本実施形態では、失陥時用のリニアモードの制御マップにより実現されるブレーキ力(マスタシリンダ圧)の特性(ブレーキ特性)と、通常時のリニアモードの制御マップにより実現されるブレーキ特性とが異なるように制御マップが設定されている。つまり、失陥時に、通知手段による通知だけでなく、運転手に実際のブレーキの効きについて違和感を与えるように、失陥時の制御マップが設定されている。具体的には、失陥時のブレーキ特性が、通常時のブレーキ特性とREGモードのブレーキ特性の間となるように、失陥時用の制御マップが設定されている。つまり、失陥時では、ストローク量に対するブレーキ力が通常より若干弱くなっている。ただし、REGモード以上であるため、必要なブレーキ特性は保たれている。
【0071】
本実施形態によれば、マスタ系統の失陥が検出できるとともに、失陥が発生した場合でも適切なブレーキ力を発生させることができる。ブレーキECU6は、マスタ系統(MC系統)の失陥を検出する失陥検出手段に相当する。また、倍力装置4及びブレーキECU6は、マスタピストンを駆動する駆動制御手段に相当する。また、減圧弁41、増圧弁42、及び圧力供給部43は、サーボ室127内に制御されたサーボ圧を発生させるサーボ圧発生部に相当する。
【0072】
なお、本実施形態では、ブレーキペダル115に対するストローク量とサーボ圧との相関値でのブレーキ制御をメインに説明しているが、図4(b)、(c)に示すように、ブレーキペダル115に対するストローク量と減速度(車両の制動力)との相関や、ブレーキペダル115に対する操作力と減速度との相関を考慮して制御するものでも良い。失陥検出についても、ストローク量と減速度、又は操作力と減速度の関係から上記同様に検出することができる。詳しくは、ブレーキECU6は、所定の操作力(所定力)に対する検出された車両の減速度(マスタシリンダ圧相関値)が、REGモードの制御マップにおける所定力に対する車両の減速度(所定値)よりも小さい場合、失陥として検出し、上記同様、失陥時用の制御マップに切り替えられる。すなわち、マスタシリンダ圧相関値は、マスタシリンダ圧に相関する値であれば良く、サーボ圧のほかに、マスタシリンダ圧により生じるブレーキ力、車両の減速度、又はマスタシリンダ圧そのものでも良い。
【0073】
また、本発明における構造は、上記実施形態に限られない。例えば、レギュレータ44については、図5に示すように、ポート4hに対応する位置に第四室4Eにつながるポート4iを形成し、ポート4iとABS53とを配管512で接続する構成であっても良い。配管511が取り除かれ、配管51がポート134とABS53とを接続する。これによっても、本実施形態と同様の作用効果が得られる。
【0074】
また、図6に示すように、ポート4gを塞ぎ、ポート4fに配管511を接続させる。そして、ポート4hが配管413を介して減圧弁41に接続され、ポート4iが配管421を介して増圧弁42に接続される。この構成によれば、REGモードにおいて、圧力制御室4Dにマスタピストン圧が加わり、制御ピストン445をシリンダ底面側に摺動させる。つまり、圧力制御室4Dが本実施形態の第四室4Eの役割を果たす。そして、この構成における第四室4Eは、リニアモードにおいて各電磁弁41、42により圧力が制御され、加圧されると、サブピストン446と制御ピストン445をシリンダ底面側に摺動させる。つまり、役割が第四室4Eと圧力制御室4Dとで入れ替わっている。この構成によっても、本実施形態と同様の作用効果が得られる。また、本実施形態では、イグニッションON後のブレーキペダル115の操作に伴ってマスタ系統の失陥を検出するようにしたが、車両の停止ごとにマスタ系統の失陥を検出するようにしても良い。
【符号の説明】
【0075】
1:マスタシリンダ、
112:入力ピストン、
113:第一マスタピストン、114:第二マスタピストン、
128:反力室、127:サーボ室、
132:第一液圧室、136:第二液圧室、
2:反力発生装置
3:切替弁、31:開放路、32:リザーバ、
4:倍力装置 41:減圧弁、42:増圧弁、431:アキュムレータ、
44:レギュレータ、5:ブレーキ、
541、542、543、544:ホイールシリンダ、
5FR、5FL、5RR、5RL:車輪、
6:ブレーキECU

【特許請求の範囲】
【請求項1】
サーボ室(127)内にサーボ圧を発生させるサーボ圧発生部(41、42、43)を備え、ブレーキ操作部材(115)の操作力に対応する力及び前記サーボ室内のサーボ圧に対応する力のいずれかによってマスタピストン(113、114)が駆動されて、マスタシリンダ圧を発生させる車両用制動装置において、
前記ブレーキ操作部材の操作に伴って、前記ブレーキ操作部材の操作力のみによって前記マスタピストンを駆動させ、前記ブレーキ操作部材の操作量が所定量である場合又は前記ブレーキ操作部材の操作力が所定力である場合における、前記マスタシリンダ圧に相関するマスタシリンダ圧相関値が所定値未満である場合に、マスタ系統の失陥を検出する失陥検出手段(6)と、
前記失陥検出手段により前記マスタ系統が失陥していることが検出されたブレーキ操作部材の操作において、前記ブレーキ操作部材の操作量が前記所定量よりも大きい場合又は前記ブレーキ操作部材の操作力が前記所定力よりも大きい場合に、前記サーボ圧発生部で発生させた前記サーボ室内のサーボ圧に対応する力によって前記マスタピストンを駆動する駆動制御手段(4、6)と、
を備えることを特徴とする車両用制動装置。
【請求項2】
前記駆動制御手段(4、6)は、前記失陥検出手段により前記マスタ系統が失陥していることが検出されている場合に、当該マスタ系統の失陥が検出された前記ブレーキ操作部材の操作よりも後の操作においては、前記サーボ圧発生部で発生させた前記サーボ圧に対応する力による駆動であり、前記ブレーキ操作部材の操作量に対して正常時より大きい前記サーボ圧によって前記マスタピストンを駆動する請求項1に記載の車両用制動装置。
【請求項3】
前記駆動制御手段(4、6)は、前記失陥検出手段により前記マスタ系統が失陥していることが検出されていない場合には、前記サーボ圧発生部で発生させた前記サーボ圧に対応する力で前記マスタピストンを駆動し、前記失陥検出手段により前記マスタ系統が失陥していることが検出されている場合に、前記マスタ系統の失陥が検出された前記ブレーキ操作部材の操作よりも後の操作においては、前記サーボ圧発生部で発生させた前記サーボ圧に対応する力による駆動であり、正常時の前記サーボ圧のみで前記マスタピストンを駆動しているときの前記ブレーキ操作部材の操作量に対する前記マスタシリンダ圧相関値と異なる特性となるように、前記マスタピストンを駆動する請求項1又は2に記載の車両用制動装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2013−107559(P2013−107559A)
【公開日】平成25年6月6日(2013.6.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−255640(P2011−255640)
【出願日】平成23年11月23日(2011.11.23)
【出願人】(301065892)株式会社アドヴィックス (1,291)
【Fターム(参考)】