説明

車両用制動装置

【課題】電源系統の失陥時であっても、ブレーキ操作部材の操作量に応じたブレーキ力を発揮することができる車両用制動装置を提供する。
【解決手段】本発明の車両用制動装置は、マスタピストンがサーボ室内のサーボ圧に駆動されて移動し、マスタピストンの移動によりマスタ室圧のマスタ圧が変化するマスタシリンダ1と、高圧源及びサーボ室に接続され、高圧源のブレーキ液圧に基づいて、パイロット室内のパイロット圧に応じたサーボ圧をサーボ室内に発生させる機械式のサーボ圧発生装置44と、パイロット室に接続され、所望のパイロット圧をパイロット室内に発生させる電動式のパイロット圧発生装置41、42、43と、マスタ室とパイロット室とを接続するマスタパイロット間ブレーキ液経路511と、を備え、電源系統の正常時に、パイロット圧発生装置によりパイロット圧を発生させ、電源系統の失陥時に、マスタ圧をパイロット圧とすることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、運転者によるブレーキ操作量に応じて車両に付与する制動力を制御する車両用制動装置に関する。
【背景技術】
【0002】
運転者によるブレーキ操作量に応じて車両に付与する制動力を制御する車両用制動装置の一例として、例えば特開2010−167915号公報(特許文献1)や特開平9−328069号公報(特許文献2)に挙げられる車両用制動装置が知られている。これら車両用制動装置は、入力ピストンの移動に応じて、ホイルシリンダにアキュムレータと電磁弁とによって発生された制御油圧に基づく制動力が付与される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2010−167915号公報
【特許文献2】特開平9−328069号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、電源系統が失陥した場合、電磁弁に電力が供給されず、サーボ圧のコントロールができなくなる。つまり、ブレーキペダルの操作量に対して、サーボ圧を電気的に制御して増圧することができなくなる。これでは、電源失陥時にブレーキ力を発揮することができない。
【0005】
本発明は、このような事情に鑑みて為されたものであり、電源系統の失陥時であっても、ブレーキ操作部材の操作量に応じたブレーキ力を発揮することができる車両用制動装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
請求項1に記載の発明は、車両用制動装置であって、マスタピストン(113、114)がサーボ室(127)内のサーボ圧に駆動されて移動し、前記マスタピストンの移動によりマスタ室(132、136)圧のマスタ圧が変化するマスタシリンダ(1)と、高圧源(431)及び前記サーボ室に接続され、前記高圧源のブレーキ液圧に基づいて、パイロット室内のパイロット圧に応じたサーボ圧を前記サーボ室内に発生させる機械式のサーボ圧発生装置(44)と、前記パイロット室に接続され、所望のパイロット圧を前記パイロット室内に発生させる電動式のパイロット圧発生装置(41、42、43)と、前記マスタ室と前記パイロット室とを接続するマスタパイロット間ブレーキ液経路(511)と、を備え、電源系統の正常時に、前記パイロット圧発生装置により前記パイロット圧を発生させ、電源系統の失陥時に、前記マスタ圧をパイロット圧とすることを特徴とする。
【0007】
請求項2に記載の発明は、請求項1において、前記マスタパイロット間ブレーキ液経路は、前記マスタ室とホイルシリンダとを接続するマスタホイルシリンダ間ブレーキ液経路(51)から分岐したものであることを特徴とする。
【0008】
請求項3に記載の発明は、請求項2において、前記マスタパイロット間ブレーキ液経路に設けられ、前記パイロット室へのブレーキ液の流入出を制限する制限部(91、92)を備えることを特徴とする。
【0009】
請求項4に記載の発明は、請求項3において、前記制限部は、前記マスタパイロット間ブレーキ液経路を開閉制御可能な弁装置(91)を含んで構成されていることを特徴とする。
【0010】
請求項5に記載の発明は、請求項4において、前記弁装置(91)は、常開型であることを特徴とする。
【0011】
請求項6に記載の発明は、請求項5において、前記制限部は、前記マスタパイロット間ブレーキ液経路に形成されたオリフィス(92)を含んで構成されていることを特徴とする。
【0012】
請求項7に記載の発明は、請求項1〜6の何れか一項において、前記サーボ圧発生装置(44)は、第1ピストン(445)及び第2ピストン(446)を有し、前記パイロット室としての第1パイロット室(4D)及び第2パイロット室(4E)が形成されており、前記第1パイロット室内のパイロット圧により前記第1ピストンが駆動され、前記第2パイロット室内のパイロット圧により前記第1ピストン及び前記第2ピストンが駆動されるように構成され、前記パイロット圧発生装置(41、42、43)は、前記第1パイロット室(4D)に接続され、前記マスタパイロット間ブレーキ経路(511)は、前記マスタ室と前記第2パイロット室に接続されていることを特徴とする。
【0013】
請求項8に記載の発明は、請求項1〜6の何れか一項において、前記サーボ圧発生装置(44)は、第1ピストン(445)及び第2ピストン(446)を有し、前記パイロット室としての第1パイロット室(4D)及び第2パイロット室(4E)が形成されており、前記第1パイロット室内のパイロット圧により前記第1ピストンが駆動され、前記第2パイロット室内のパイロット圧により前記第1ピストン及び前記第2ピストンが駆動されるように構成され、前記パイロット圧発生装置(41、42、43)は、前記第2パイロット室(4E)に接続され、前記マスタパイロット間ブレーキ経路(511)は、前記マスタ室と前記第1パイロット室(4D)に接続されていることを特徴とする。
【0014】
請求項9に記載の発明は、請求項1において、前記パイロット室とホイルシリンダとを接続するパイロットホイルシリンダ間ブレーキ液経路(94)を備え、前記マスタパイロット間ブレーキ液経路(93)と前記パイロット室と前記パイロットホイルシリンダ間ブレーキ液経路(94)とを介して、前記マスタ室と前記ホイルシリンダとが連通可能に構成されていることを特徴とする。
【0015】
請求項10に記載の発明は、請求項9において、前記サーボ圧発生装置(44)は、第1ピストン(445)及び第2ピストン(446)を有し、前記パイロット室としての第1パイロット室(4D)及び第2パイロット室(4E)が形成されており、前記第1パイロット室内のパイロット圧により前記第1ピストンが駆動され、前記第2パイロット室内のパイロット圧により前記第1ピストン及び前記第2ピストンが駆動されるように構成され、前記パイロット圧発生装置(41、42、43)は、前記第1パイロット室(4D)に接続され、前記マスタパイロット間ブレーキ経路(93)は、前記マスタ室と前記第2パイロット室(4E)に接続され、前記パイロットホイルシリンダ間ブレーキ液経路(94)は、前記第2パイロット室(4E)と前記ホイルシリンダに接続され、前記マスタパイロット間ブレーキ液経路(93)と前記第2パイロット室(4E)と前記パイロットホイルシリンダ間ブレーキ液経路(94)を介して、前記マスタ室と前記ホイルシリンダとが連通可能に構成されていることを特徴とする。
【0016】
請求項11に記載の発明は、請求項9において、前記サーボ圧発生装置(44)は、第1ピストン(445)及び第2ピストン(446)を有し、前記パイロット室としての第1パイロット室(4D)及び第2パイロット室(4E)が形成されており、前記第1パイロット室内のパイロット圧により前記第1ピストンが駆動され、前記第2パイロット室内のパイロット圧により前記第1ピストン及び前記第2ピストンが駆動されるように構成され、前記パイロット圧発生装置(41、42、43)は、前記第2パイロット室(4E)に接続され、前記マスタパイロット間ブレーキ経路(93)は、前記マスタ室と前記第1パイロット室(4D)に接続され、前記パイロットホイルシリンダ間ブレーキ液経路(94)は、前記第1パイロット室(4D)と前記ホイルシリンダに接続され、前記マスタパイロット間ブレーキ液経路(93)と前記第1パイロット室(4D)と前記パイロットホイルシリンダ間ブレーキ液経路(94)を介して、前記マスタ室と前記ホイルシリンダとが連通可能に構成されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
請求項1に記載の発明によれば、電源系統の失陥時であっても、マスタ圧をパイロット圧として導入でき、パイロット圧発生装置によらず、パイロット圧に基づいてサーボ圧を上昇させることができる。これにより、電源系統の失陥時であっても、ブレーキ操作部材の操作量に応じたブレーキ力を発揮することができる。
【0018】
請求項2に記載の発明によれば、既存のブレーキ液経路(マスタホイルシリンダ間ブレーキ液経路)の一部をマスタ室とパイロット室との間のブレーキ液経路として利用しているので、構成を簡素化することができる。
【0019】
パイロット圧発生装置によるパイロット圧でサーボ圧発生装置を制御するモードにおいて、マスタ圧がパイロット圧発生装置によるパイロット圧よりも過渡的に大きくなることが考えられる。この場合、サーボ圧発生装置がマスタ圧で制御されてしまうため、過渡的な制御遅れやズレが発生する。これに対して、請求項3に記載の発明によれば、制限部により上記ブレーキ液のパイロット室への流出入を制限することが可能であるため、上記過渡的な制御の遅れやズレなどを抑えることができる。
【0020】
請求項4に記載の発明によれば、制限部が弁装置を含んでおり、マスタパイロット間ブレーキ液経路の開閉を制御することで上記過渡的な制御の遅れやズレを確実に防止することができる。パイロット室にマスタ圧の影響を入れたくない場合に、弁装置を閉状態に制御して、ブレーキ液の流れを遮断することができる。
【0021】
請求項5に記載の発明によれば、弁装置が常開型であるため、電源系統失陥時には自動的に開状態となる。したがって、別の電源系統による制御を必要とせず、コスト増加を抑えることができる。
【0022】
請求項6に記載の発明によれば、オリフィスによる簡素な構成で、上記過渡的な制御遅れやズレを抑制することができる。
【0023】
請求項7に記載の発明によれば、パイロット圧発生装置が第1パイロット室の圧力を制御することから、電源系統正常時には第1ピストンのみを摺動させれば良く、摺動抵抗を小さくすることができ、また正常時の応答性を高めることができる。
【0024】
請求項8に記載の発明によれば、パイロット圧発生装置が第2パイロット室の圧力を制御することから、電源系統正常時の制御では第1ピストン及び第2ピストンが摺動する。これにより、第2ピストンが固着することを抑制することができ、電源系統失陥時において、マスタ圧を第1パイロット室に導入して、ブレーキ力を確実に発揮することができる。
【0025】
請求項9に記載の発明によれば、マスタ室とホイルシリンダがパイロット室を介して連通している。これにより、サーボ圧発生装置のエア抜き等のメンテナンスが容易となる。
【0026】
請求項10に記載の発明によれば、請求項7、9と同様の効果が発揮される。請求項11に記載の発明によれば、請求項8、9と同様の効果が発揮される。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】第一実施形態の車両用制動装置の構成を示す構成図である。
【図2】第一実施形態のレギュレータの構成を一部断面で示す構成図である。
【図3】第二実施形態の車両用制動装置の構成を示す構成図である。
【図4】第三実施形態の車両用制動装置の構成を示す構成図である。
【図5】第四実施形態の車両用制動装置の構成を示す構成図である。
【図6】第五実施形態の車両用制動装置の構成を示す構成図である。
【図7】第五実施形態の車両用制動装置の変形態様の構成を示す構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。なお、各図は概念図であり、細部構造の寸法まで規定するものではない。
【0029】
<第一実施形態>
(車両用制動装置の構成)
図1は、本実施形態に係る車両用制動装置の概略構成図を示している。本実施形態の車両用制動装置は、入力ピストン112の前進方向に離間距離Bを有して配置され入力ピストン112に対し独立して軸線方向に摺動するマスタピストン113、114を有するマスタシリンダ1と、入力ピストン112の移動量に応じた反力圧を反力室128に発生させる反力発生装置2と、反力室128と反力発生装置2とを連通する液路130から分岐されてリザーバ32に連通する開放路31に設けられた切替弁3と、サーボ圧を発生させるための倍力装置4と、マスタシリンダ1のマスタ室132、136に連通するホイルシリンダ541〜544を有する車輪5FR、5FL、5RR、5RLのブレーキ5と、切替弁3及び倍力装置4などを制御するブレーキECU6と、各種センサ71〜74と、回生制動力を制御するハイブリッドECU8と、を備えている。以下、本実施形態の車両用制動装置が備える各構成要素について、詳細に説明する。なお、ハイブリッドECU8については公知のものであり、説明は省略する。また、各種センサ71〜74は、ブレーキECU6と通信可能となっている。ブレーキECU6は、主に各種電磁弁3、41、42やモータ433等を制御する。
【0030】
(マスタシリンダ1及び反力発生装置2)
図1に示すように、マスタシリンダ1は、基端部(図の右端部)が開口して先端部(図の左端部)が閉塞した円筒形状を成すシリンダ111を備え、このシリンダ111の内部に基端部から順に入力ピストン112、第1マスタピストン113及び第2マスタピストン114が各々同軸上に配置されて軸線方向に沿って摺動自在に嵌合されている。入力ピストン112は、シリンダ111の基端部外方に一部が突出して配置され、その突出部分にブレーキペダル115の操作ロッド116がピボット116aを用いて連結され、運転者によるブレーキペダル115の操作により操作ロッド116を介して移動可能となっている。なお、本明細書では、ブレーキペダル115の移動量を「ストローク量又は操作量」という。
【0031】
入力ピストン112は、シリンダ111の基端部側に形成された入力シリンダ穴119に摺動自在に嵌合されている。入力ピストン112には、入力シリンダ穴119内への挿入部分に、先端側が開口し基端部側が閉塞されて閉塞面112aとなった軸穴117が形成されている。この軸穴117に、第1マスタピストン113からシリンダ111の隔壁111aを貫通して基端部側へ延在する円柱状の棒状部分が摺動自在に嵌合されている。この嵌合された棒状部分の端面113aと、入力ピストン112の閉塞面112aとの間には、ブレーキペダル115が無操作状態の際に所定距離Bの間隔が確保されるようになっている。
【0032】
入力ピストン112の先端部側の端面112bと入力シリンダ穴119の底部119bとなる隔壁111aとの間には反力室128が形成され、この反力室128は、シリンダ111の周壁を貫通するポート129により外部と連通されている。このポート129は配管130を介して、反力発生装置2を構成するストロークシミュレータ21に接続されている。
【0033】
ストロークシミュレータ21は、シリンダ211にピストン212が摺動可能に嵌合され、圧縮スプリング213によって前方に付勢されたピストン212の前面側にパイロット液室214が形成され、パイロット液室214が配管130を介して反力室128に連通されている。ブレーキペダル115の操作により入力ピストン112が前方に移動すると、反力室128からブレーキ液がパイロット液室214に送出されピストン212が圧縮スプリング213の撓み量に比例するばね力に抗して後退される。これにより、反力室128内の圧力がブレーキペダル115の移動量であるブレーキ操作量に応じて上昇し、ブレーキペダル115にはブレーキ操作量に応じた反力が付与される。配管130には、反力室128内の圧力を検出する圧力センサ73が設けられている。本明細書では、この反力室128内の圧力を反力圧という。
【0034】
入力ピストン112の軸穴117の内周面と第1マスタピストン113の棒状部分の外周面との間に軸線方向に沿って所定ギャップの通路117aが形成されるように、軸穴117は軸線方向に所定長さだけ大径に形成されている。入力ピストン112の周壁には当該周壁を貫通する貫通穴118が通路117aと連通するように形成されている。更に、入力ピストン112の外周面と入力シリンダ穴119の内周面との間に軸線方向に沿って所定ギャップの通路119aが形成されるように入力シリンダ穴119は軸線方向に所定長さだけ大径に形成されている。シリンダ111の周壁には、通路120が通路119aの先端付近で連通するように貫通して形成されている。通路120は配管121で、ブレーキ液のリザーバ32に連通されている。したがって、端面113aと閉塞面112aとの間隔部分117bは、通路117a、貫通穴118、通路119a、通路120、配管121を介してリザーバ32に連通している。この連通状態は、ブレーキ操作量に係わらず保持され、間隔部分117bは、常時大気に連通されている。
【0035】
シリンダ111には、加圧シリンダ穴123が入力シリンダ穴119と隔壁111aを挟んで形成されている。第1マスタピストン113は、断面コ字形状を呈し、加圧シリンダ穴123に摺動自在に嵌合されている。第1マスタピストン113の先端部側に配置された第2マスタピストン114は断面がコ字形状を呈し、加圧シリンダ穴123内に摺動自在に嵌合されている。
【0036】
隔壁111aと第1マスタピストン113との間にサーボ室127が形成され、第1マスタピストン113と第2マスタピストン114との間に第1マスタ室132が形成され、第2マスタピストン114と加圧シリンダ穴123の先端閉塞面との間に第2マスタ室136が形成されている。第1マスタピストン113のコ字形状の凹部底面と第2マスタピストン114の後端面との間に第一圧縮スプリング124が介在され、第2マスタピストン114のコ字形状の凹部底面と加圧シリンダ穴123の先端閉塞面との間に第二圧縮スプリング125が介在されている。これにより、ブレーキペダル115が無操作状態において、第1マスタピストン113および第2マスタピストン114は第一圧縮スプリング124および第二圧縮スプリング125のばね弾性力によってシリンダ111の基端側に付勢され、所定の各不作動位置にそれぞれ停止されている。
【0037】
ブレーキペダル115の無操作状態において、ペダルリターンスプリング115aにて入力ピストン112が初期位置となるため、第1マスタピストン113の棒状部分の端面113aは、入力ピストン112の閉塞面112aとの間に、上述した所定距離Bとなる間隔をもって離間状態に保持されている。運転者がブレーキペダル115を操作し、入力ピストン112が第1マスタピストン113に対して所定距離Bだけ相対的に前進すると、第1マスタピストン113に当接してこれを押圧可能となっている。
【0038】
サーボ室127は、シリンダ111の周壁を貫通するポート133により外部と連通されている。第1マスタピストン113と第2マスタピストン114との間の第1マスタ室132には所定の不作動位置に位置する第2マスタピストン114の後端面近傍にシリンダ111の周壁を外部に貫通するポート134が形成されている。更に、第2マスタピストン114の先端部側とシリンダ111の先端閉塞面との間の第2マスタ室136には当該先端閉塞面の近傍に、シリンダ111の周壁を外部に貫通するポート135が形成されている。
【0039】
後述する倍力装置4によって、サーボ圧がサーボ室127に発生することにより、第1マスタピストン113、第2マスタピストン114が軸線方向に前進して第1マスタ室132及び第2マスタ室136が加圧される。第1マスタ室132及び第2マスタ室136の液圧(マスタ圧)は、ポート134、135から配管51、52及びABS53を経由してホイルシリンダ541〜544へ基礎液圧として供給され、車輪5FR〜5RLに基礎制動力(ブレーキ力)が付与される。
【0040】
なお、入力シリンダ穴119の内周面と入力ピストン112の外周面との間、加圧シリンダ穴123と第1マスタピストン113及び第2マスタピストン114の外周面との間、並びに、入力ピストン112の軸穴117の内周面及び隔壁111aと第1マスタピストン113の棒状部分の外周面との間には、図1において丸印で示すOリング等のシール部材を装着し、液の漏洩を防止している。
【0041】
また、シリンダ111の第1マスタピストン113前方位置には、リザーバYに連通するポート111Yが形成されている。同様に、シリンダ111の第2マスタピストン114前方位置には、リザーバZに連通するポート111Zが形成されている。ポート111Y、111Zの両サイド(前後)には、シール部材1Xが設置されている。マスタピストン113、114が前進し、各シール部材1Xと対応するマスタピストン113、114とが当接することで、リザーバY、Zと各マスタ室132、136とは遮断される。なお、センサ71は、操作力(踏力)センサであり、運転手のブレーキペダル115を踏む力を検出する。センサ72は、ストロークセンサであり、ブレーキペダル115のストローク量(操作量)を検出する。
【0042】
(切替弁3)
切替弁3は、反力室128と反力発生装置2とを連通する配管130から分岐した分岐配管130aと、リザーバ32に連通する開放路31と、の間に設けられている。切替弁3は、例えば、電磁弁を用いることができる。切替弁3は、ブレーキECU6からの制御信号に基づいて開閉される。切替弁3が開放状態のときに分岐配管130aと開放路31は連通されて、反力室128のポート129とリザーバ32は連通される。切替弁3が閉止状態のときには、ストロークシミュレータ21によって形成された反力圧が反力室128に付与される。
【0043】
(倍力装置4)
倍力装置4は、主に、減圧弁41と、増圧弁42と、圧力供給部43と、レギュレータ44と、を備えている。減圧弁41は、常開型の電磁弁(リニア弁)であり、ブレーキECU6により流量が制御されている。減圧弁41の一方は配管411を介してリザーバ412に接続され、減圧弁41の他方は配管413に接続されている。増圧弁42は、常閉型の電磁弁であり、ブレーキECU6により流量が制御されている。増圧弁42の一方は配管421に接続され、増圧弁42の他方は配管422に接続されている。
【0044】
圧力供給部43は、ブレーキECU6の指示に基づいて、レギュレータ44に高圧のブレーキ液を提供する手段である。圧力供給部43は、主に、アキュムレータ431と、液圧ポンプ432と、モータ433と、リザーバ434と、を有している。
【0045】
アキュムレータ431(「高圧源」に相当する)は、液圧ポンプ432により発生した液圧を蓄圧するものである。アキュムレータ431は、配管431aにより、レギュレータ44、圧力センサ75、及び液圧ポンプ432と接続されている。液圧ポンプ432は、モータ433及びリザーバ434と接続されている。液圧ポンプ432は、リザーバ434に溜まったブレーキ液を、モータ433が駆動することでアキュムレータ431に供給する。
【0046】
アキュムレータ圧が所定圧力以下に低下したことが圧力センサ75によって検出されると、ブレーキECU6からの制御信号に基づいてモータ433が駆動され、液圧ポンプ432は、アキュムレータ431にブレーキ液を供給してアキュムレータ431に圧力エネルギーを補給する。減圧弁41、増圧弁42、及び圧力供給部43は、「パイロット圧発生装置」に相当する。
【0047】
レギュレータ44(「サーボ圧発生装置」に相当する)は、一般的なレギュレータに対して、主に第2ピストン446を加え、2つのパイロット室4D、4Eを形成したものである。つまり、レギュレータ44は、図2に示すように、主に、シリンダ441と、ボール弁442と、付勢部443と、弁座部444と、第1ピストン445と、第2ピストン446と、を備えている。
【0048】
シリンダ441は、一方(図面右側)に底面をもつ略有底円筒状のシリンダケース441aと、シリンダケース441aの開口(図面左側)を塞ぐ蓋部材441bと、で構成されている。なお、図面上、蓋部材(441b)は断面コの字状に形成されているが、本実施形態では、蓋部材441bを円柱状とし、シリンダケース441aの開口を塞いでいる部位を蓋部材441bとして説明する。シリンダケース441aには、内部と外部を連通させる複数のポート4a〜4hが形成されている。
【0049】
ポート4aは、配管431aと接続している。ポート4bは、配管422と接続している。ポート4cは、配管145と接続している。ポート4dは、リザーバ412に通じる配管414に接続している。ポート4eは、リリーフバルブ423を介して配管422に通じる配管424に接続している。ポート4fは、配管413に接続している。ポート4gは、配管421に接続している。ポート4hは、配管51(「マスタホイルシリンダ間ブレーキ液経路」に相当する)から分岐した配管511(「マスタパイロット間ブレーキ液経路」に相当する)に接続されている。配管51は、ABS53を介して第1マスタ室132とホイルシリンダ541〜544とを接続している。配管511は、一部配管51を介して第1マスタ室132と後述する第2パイロット室4Eとを接続している。
【0050】
ボール弁442は、ボール型の弁であり、シリンダ441内部において、シリンダケース441aの底面側(以下、シリンダ底面側とも称する)に配置されている。付勢部443は、ボール弁442をシリンダケース441aの開口側(以下、シリンダ開口側とも称する)に付勢するバネ部材であって、シリンダケース441aの底面に設置されている。弁座部444は、シリンダケース441aの内周面に設けられた壁であり、シリンダ開口側とシリンダ底面側を区画している。弁座部444の中央には、軸方向に貫通し後述する第一室4Aと第二室4Bとを連通させる貫通路444aが形成されている。弁部材444は、付勢されたボール弁442が貫通路444aを塞ぐ形で、ボール弁442をシリンダ開口側から保持している。
【0051】
ボール弁442、付勢部443、弁座部444、及びシリンダ底面側のシリンダケース441aの内周面で区画された空間を第一室4Aと称する。第一室4Aは、ブレーキ液で満たされており、ポート4aを介して配管431aに接続され、ポート4bを介して配管422に接続されている。
【0052】
第1ピストン445は、略円柱状の本体部445aと、本体部445aよりも径が小さい略円柱状の突出部445bとからなっている。本体部445aは、シリンダ441内において、弁座部444のシリンダ開口側に、同軸的且つ液密的に摺動可能に配置されている。本体部445aは、図示しない付勢部材によりシリンダ開口側に付勢されている。本体部445aのシリンダ軸方向略中央には、両端が本体部445a周面に開口した周方向(図面上下方向)に延びる通路445cが形成されている。通路445cの開口の配置位置に対応したシリンダ441の一部内周面は、ポート4dが形成されているとともに、凹状に窪み、本体部445aとにより第三室4Cを形成している。第三室4Cがあることで、第1ピストン445が摺動しても、通路445cとリザーバ412との連通状態が維持される。
【0053】
突出部445bは、本体部445aのシリンダ底面側端面の中央からシリンダ底面側に突出している。突出部445bの径は、弁座部444の貫通路444aよりも小さい。突出部445bは、貫通路444aと同軸上に配置されている。突出部445bの先端は、ボール弁442からシリンダ開口側に所定間隔離れている。突出部445bには、突出部445bのシリンダ底面側端面中央に開口したシリンダ軸方向に延びる通路445dが形成されている。通路445dは、本体部445a内にまで延伸し、通路445cに接続している。
【0054】
本体部445aのシリンダ底面側端面、突出部445bの外表面、シリンダ441の内周面、弁座部444、及びボール弁442によって区画された空間を第二室4Bと称する。第二室4Bは、第1ピストン445不動作状態において、通路445c、445d、及び第三室4Cを介してポート4d、4eに連通している。
【0055】
第2ピストン446は、第2本体部446aと、第一突出部446bと、第二突出部446cとからなっている。第2本体部446aは、略円柱状に形成されている。第2本体部446aは、シリンダ441内において、本体部445aのシリンダ開口側に、同軸的且つ液密的に摺動可能に配置されている。
【0056】
第一突出部446bは、第2本体部446aより小径の略円柱状であり、第2本体部446aのシリンダ底面側の端面中央から突出している。第一突出部446bは、本体部445aのシリンダ開口側端面に当接している。第二突出部446cは、第一突出部446bと同形状であり、第2本体部446aのシリンダ開口側の端面中央から突出している。第二突出部446cは、蓋部材441bと当接している。
【0057】
第2本体部446aのシリンダ底面側の端面、第一突出部446bの外表面、第1ピストン445のシリンダ開口側の端面、及びシリンダ441の内周面で区画された空間を第1パイロット室4Dと称する。第1パイロット室4Dは、ポート4f及び配管413を介して減圧弁41に連通し、ポート4g及び配管421を介して増圧弁42に連通している。
【0058】
一方、第2本体部446aのシリンダ開口側の端面、第二突出部446cの外表面、蓋部材441b、及びシリンダ441の内周面で区画された空間を第2パイロット室4Eと称する。第2パイロット室4Eは、ポート4h及び配管511、51を介してポート134に連通している。各室4A〜4Eは、ブレーキ液で満たされている。
【0059】
(電源系統正常時)
ここで、電源系統正常時における倍力装置4の動作について説明する。まず、ブレーキECU6により減圧弁41及び増圧弁42を制御した一般的なブレーキ制御であるリニアモードについて説明する。
【0060】
ブレーキペダル115が踏まれていない状態では、レギュレータ44は上記のような状態、すなわちボール弁442が弁座部444の貫通路444aを塞いでいる状態となる。また、減圧弁41は開状態、増圧弁42は閉状態となっている。つまり、この状態では、第一室4Aと第二室4Bは、ボール弁442と弁座部444により遮断されている。
【0061】
第二室4Bは、サーボ室127に連通し、互いに同圧力に保たれている。第二室4Bは、第1ピストン445の通路445c、445dを介して第三室4Cに連通している。したがって、第二室4B及び第三室4Cは、リザーバ412に連通している。第1パイロット室4Dは、一方が増圧弁42で塞がれ、他方が減圧弁41を介してリザーバ412に連通している。第1パイロット室4Dと第二室4Bとは同圧力に保たれる。第2パイロット室4Eは、第1マスタ室132に連通し、互いに同圧力に保たれる。
【0062】
この状態から、ブレーキペダルが踏まれると、ストロークセンサ72からの情報に応じてブレーキECU6が減圧弁41及び増圧弁42を制御する。すなわち、ブレーキECU6は、減圧弁41を閉じる方向に制御し、増圧弁42を開ける方向に制御する。
【0063】
増圧弁42が開くことでアキュムレータ431と第1パイロット室4Dとが連通する。減圧弁41が閉じることで、第1パイロット室4Dとリザーバ412とが遮断される。アキュムレータ431から供給されるブレーキ液により、第1パイロット室4Dの圧力(パイロット圧)を上昇させることができる。第1パイロット室4Dの圧力が上昇することで、第1ピストン445がシリンダ底面側に摺動する。これにより、第1ピストン445の突出部445b先端がボール弁442に当接し、通路445dがボール弁442により塞がれる。そして、第二室4Bとリザーバ412とは遮断される。
【0064】
さらに、第1ピストン445がシリンダ底面側に摺動することで、突出部445bによりボール弁442がシリンダ底面側に押されて移動し、ボール弁442が弁座部444から離間する。これにより、第一室4Aと第二室4Bは弁座部444の貫通路444aにより連通する。第一室4Aには、アキュムレータ431から高圧のブレーキ液が供給されており、連通により第二室4Bの圧力が上昇する。
【0065】
第二室4Bの圧力上昇に伴って、連通するサーボ室127の圧力も上昇する。サーボ室127の圧力上昇により、第1マスタピストン113が前進し、第1マスタ室132の圧力が上昇する。そして、第2マスタピストン114も前進し、第2マスタ室136の圧力が上昇する。第1マスタ室132の圧力上昇により、高圧のブレーキ液が後述するABS53及び第2パイロット室4Eに供給される。第2パイロット室4Eの圧力(パイロット圧)は上昇するが、第1パイロット室4Dの圧力も同様に上昇しているため、第2ピストン446は移動しない。このように、ABS53に高圧のブレーキ液が供給され、ブレーキ5が作動して車両が制動される。
【0066】
(電源系統失陥時)
ここで、減圧弁41、増圧弁42、及び切替弁を制御せず(通電せず)、最初の所定量についてはブレーキペダル115の操作力(踏む力)のみで第1マスタピストン113を駆動させ、その後機械的にパイロット圧を上昇させる失陥時のモードについて説明する。このモードは、無通電状態など電源系統の失陥により弁などが動作しない場合に、構造に基づいて自動的に作動する。
【0067】
電源系統失陥時には、減圧弁41、増圧弁42、及び切替弁3が通電されず、減圧弁41は開状態、増圧弁42は閉状態、切替弁3は開状態となっている。そして、ブレーキペダル115が踏まれた後もこの状態(無制御状態)が維持される。
【0068】
電源系統失陥時において、ブレーキペダル115が踏まれると、入力ピストン112が前進する。ここで、反力室128は、切替弁3が開状態であるためリザーバ32に連通しており、シミュレータ21による反力圧上昇は生じない。そして、減圧弁41及び増圧弁42が制御されないため、サーボ室127の圧力も上昇せず、入力ピストン112が第1マスタピストン113に当接するまで、第1マスタピストン113は前進しない。そして、入力ピストン112のみが前進し、離間距離Bが小さくなっていき、入力ピストン112と第1マスタピストン113が当接する。第1マスタピストン113は、ブレーキペダル115の操作力によって、入力ピストン112とともに前進する。第1マスタピストン113の前進に伴いサーボ室127の容積が大きくなると、リザーバ412からブレーキ液が供給される。
【0069】
第1マスタピストン113が前進すると、リニアモード同様、第1マスタ室132及び第2マスタ室136の圧力は上昇する。そして、第1マスタ室132の圧力上昇により、第2パイロット室4Eの圧力も上昇する。第2パイロット室4Eの圧力上昇により第2ピストン446はシリンダ底面側に摺動する。同時に、第1ピストン445は、第一突出部446bに押されてシリンダ底面側に摺動する。これにより、突出部445bはボール弁442に当接し、ボール弁442はシリンダ底面側に押されて移動する。つまり、第一室4Aと第二室4Bは連通し、サーボ室127とリザーバ412とが遮断されるとともに、アキュムレータ431による高圧のブレーキ液がサーボ室127に供給される。
【0070】
このように、電源系統失陥時には、ブレーキペダル115の操作力により所定ストローク踏まれると、アキュムレータ431とサーボ室127とが連通し、制御なしに機械的にサーボ圧が上昇する。そして助勢されることで、第1マスタピストン113が運転手の操作力以上に前進する。これにより、電源が供給されない場合でも、高圧のブレーキ液がABS53に供給される。つまり、電源系統失陥時でもブレーキペダル115の操作量に応じたブレーキ力が発揮される。
【0071】
本構造によれば、電源系統失陥時に、操作力のみにより第一マスタシリンダ113を前進させる力、及びその駆動に基づいて機械的に発生したサーボ圧により第一マスタシリンダ113を前進させる力が発揮される。
【0072】
(ブレーキ5)
マスタシリンダ圧を発生する第1マスタ室132、第2マスタ室136には、配管51、52、ABS53を介してホイルシリンダ541〜544が連通されている。ホイルシリンダ541〜544は、車輪5FR〜5RLのブレーキ5を構成している。具体的には、第1マスタ室132のポート134及び第2マスタ室136のポート135には、それぞれ配管51、52を介して、公知のABS(Antilock Brake System)53が連結されている。ABS53には、車輪5FR〜5RLを制動するブレーキ装置を作動させるホイルシリンダ541〜544が連結されている。
【0073】
リニアモードでは、倍力装置4のアキュムレータ431から送出された液圧が増圧弁42及び減圧弁41によって制御されてサーボ圧がサーボ室127に発生することにより、第1マスタピストン113及び第2マスタピストン114が前進して第1マスタ室132及び第2マスタ室136が加圧される。第1マスタ室132及び第2マスタ室136の液圧は、ポート134、135から配管51、52及びABS53を経由してホイルシリンダ541〜544へマスタシリンダ圧として供給され、車輪5FR〜5RLに制動力が付与される。
【0074】
このように、本実施形態によれば、電源系統失陥時においても、ブレーキペダル115の操作に応じて機械的に第1マスタ室132のブレーキ液が第2パイロット室4Eに導入され、レギュレータ44を介して高圧のブレーキ液がサーボ室127に導入される。これにより、本実施形態の車両用制動装置は、電源系統失陥時においても、サーボ圧により助勢され、操作力以上のブレーキ力を発揮することができる。また、第一実施形態では、第1パイロット室4Dが、通常行われるリニアモードでの制御対象となる。これにより、普段のリニアモードでは主に第1ピストン445のみが摺動し、シール部材による摺動抵抗は2つのピストンを駆動するよりも小さくなる。つまり、本実施形態によれば、普段のリニアモードでの制御の応答性の面で有利である。また、配管51をマスタ室136と第2パイロット室4Eとの間のブレーキ液の経路に利用しているため、配管511を排して配管51とは別にマスタ室136と第2パイロット室4Eとの間を接続する配管を備える構成と比べて、車両用制動装置を簡素化することができる。
【0075】
<第二実施形態>
第二実施形態の車両用制動装置は、図3に示すように、第一実施形態において、配管511上に制限弁91を配置したものである。したがって、その他の構成については、説明を省略する。
【0076】
制限弁91(「制限部」に相当する)は、常開型の電磁弁であって、配管511上に配置されている。制限弁91は、ブレーキECU6の指令により開閉する。ブレーキECU6は、リニアモードにおいて第2パイロット室4Eの圧力が圧力供給部43による第1パイロット圧4Dの圧力よりも過渡的に大きくなる場合に、制限弁91に閉指令を発する。
【0077】
リニアモードにおいて第2パイロット室4Eの圧力が第1パイロット室4Dの圧力よりも過渡的に大きくなる場合としては、例えば、制御により第1パイロット室4Dの圧力を急激に下げた場合や、ABS53によりホイルシリンダ541〜544のブレーキ液をポンプバックした場合が考えられる。これにより、減圧弁41や増圧弁42により第1パイロット室4Dの圧力が制御され当該第1パイロット室4Dの圧力でサーボ圧が制御されているリニアモードにおいて、第2パイロット室4Eに導入されたマスタシリンダ圧(マスタ圧)でサーボ圧が制御されることがない。
【0078】
例えば、サーボ圧を減圧するために、制御により第1パイロット室4Dの圧力を急激に下げた場合、第1マスタ室132と第2パイロット室4Eが連通している状態であれば、第2パイロット室4Eの圧力が第1パイロット室4Dの圧力よりも過渡的に大きくなるため、第2ピストン446がシリンダ底面側(図の右側)に摺動し、第1ピストン445のシリンダ開口側(図の左側)への移動を妨げることとなる。これにより、第1ピストン445とボール弁442が離間しにくくなり、サーボ圧の減圧が、ブレーキECU6の制御に対して遅くなる(遅れる)おそれがある。第1マスタ室132と第2パイロット室4Eが継続して連通状態であれば、上記のような過渡的な応答遅れが発生するおそれがある。
【0079】
また、ABS53がホイルシリンダ541〜544のブレーキ液をポンプバックした場合、第1マスタ室132と第2パイロット室4Eが連通状態であれば、第2パイロット室4Eの圧力が第1パイロット室4Dの圧力よりも過渡的に大きくなるため、第2パイロット室4Eと第一室4A及び第二室4Bとが同圧となってつりあう。この場合、サーボ圧は高い状態となり、ブレーキECU6は減圧指示を発する。しかし、第1パイロット室4Dを減圧しても、その両側の室4E、4Bが高圧でつりあっているため、第1ピストン445を減圧方向に摺動させることができなくなる。これにより、ブレーキECU6により減圧指示が出され続け、第1パイロット室4Dは減圧され続けることとなる。ブレーキペダル115の操作に対して、実際に欲しい圧力(目標サーボ圧)よりも小さい圧力で制御され始める場合も起こり得る。第1マスタ室132と第2パイロット室4Eが継続して連通状態であれば、上記のような制御のズレが生じえる。
【0080】
第二実施形態によれば、制限弁91が制御により配管511のブレーキ液の流れを遮断することで、上記のような過渡的な制御の遅れ又はズレの発生を防止することができる。また、電源系統失陥時であっても、制限弁91は開状態(非通電状態)となり、第一実施形態同様の効果が発揮される。なお、制限弁91は、車両用制動装置の電源とは別の電源系統から給電されても良く、常開型に限られない。また、制限弁91は、電磁弁に限られず、連通/遮断を制御可能な弁装置であれば良い。
【0081】
<第三実施形態>
第三実施形態の車両用制動装置は、図4に示すように、第一実施形態において、配管511上にオリフィス(絞り)92を配置したものである。したがって、その他の構成については、説明を省略する。
【0082】
オリフィス92(「制限部」に相当する)は、配管511上に配置され、配管511におけるブレーキ液の流れを制限する。オリフィス92は、ブレーキ液を一度に抜けにくくすることで、配管511内のブレーキ液の急激な流れを抑制する。具体的に、オリフィス92は、ABS53の増圧作動による第2パイロット室4Eの減圧の速度を緩やかにする。第2パイロット室4Eの急激な減圧を防止することで、第2パイロット室4Eの減圧に対する第1パイロット室4Dの圧力制御に時間的余裕を持たせることができる。例えば、第1パイロット室4Dの圧力を増圧する制御において、第2パイロット室4Eの減圧が緩やかになることで、目標サーボ圧到達へのロスを減少させることができる。なお、第三実施形態によれば、第2パイロット室4Eの増圧も緩やかになるが、増圧に関しては結果的に増圧されれば問題がないため、第一実施形態と同様の効果が発揮される。
【0083】
<第四実施形態>
第四実施形態の車両用制動装置は、図5に示すように、第一実施形態において、主に配管511の接続先を変更したものである。したがって、変更箇所以外の構成については、説明を省略する。
【0084】
第四実施形態では、配管511の一方は、ポート4hではなくポート4fに接続されている。ポート4iが形成されている。つまり、配管511は、配管51を介して第1マスタ室132と第1パイロット室4Dとを接続している。第1マスタ室132と第1パイロット室4Dは同圧となる。なお、ポート4gはなくなり(塞ぎ)、第2パイロット室4Eと外部を連通させるポート4iが形成されている。そして、減圧弁41に接続された配管413は、ポート4fではなくポート4hに接続されている。また、増圧弁42に接続された配管421は、ポート4iに接続されている。つまり、第2パイロット室4Eの圧力は、ブレーキECU6の指示に基づいた減圧弁41及び増圧弁42により制御される。
【0085】
この構成であっても、第2パイロット室4Eが第一実施形態の第1パイロット室4Dの役割を果たし、第1パイロット室4Dが第一実施形態の第2パイロット室4Eの役割を果たすため、第一実施形態と同様の作用効果が発揮される。また、第四実施形態においても、配管511に制限手段(例えば制限弁91又はオリフィス92)を設けることで、第二又は第三実施形態同様の作用効果が発揮される。また、リニアモードでの制御対象が第2パイロット室4Eとなることで、普段の制御での摺動抵抗は大きくなるものの、第2ピストン446が普段から駆動されることで、第2ピストン446の固着が防止される。また、第四実施形態によれば、電源系統失陥時に、マスタ圧が第1パイロット室4Dに導入されるため、第1ピストン445のみを駆動させれば良く、失陥時に応答性良くブレーキ力が発揮される。
【0086】
<第五実施形態>
第五実施形態の車両用制動装置は、図6に示すように、第一実施形態において、主に配管について変更したものである。したがって、変更箇所以外の構成については、説明を省略する。
【0087】
第五実施形態では、第一実施形態の配管51、511に代えて、配管93、94が設けられている。配管93の一方はポート134に接続され、配管93の他方はポート4hに接続されている。つまり、配管93(「マスタパイロット間ブレーキ液経路」に相当する)は、第1マスタ室132と第2パイロット室4Eとを接続している。
【0088】
また、レギュレータ44には、ポート4gのシリンダ開口側に、第2パイロット室4Eと外部とを連通させるポート4iが形成されている。配管94の一方はポート4iに接続され、配管94の他方はABS53に接続されている。つまり、配管94(「パイロットホイルシリンダ間ブレーキ液経路」に相当する)は、ABS53を介して、第2パイロット室4Eとホイルシリンダ541〜544とを接続している。
【0089】
この構成によれば、第1マスタ室132とホイルシリンダ541〜544は、配管93、第2パイロット室4E、及び配管94を介して連通している。マスタシリンダ圧のブレーキ液は、第2パイロット室4Eを介してABS53及びホイルシリンダ541〜544に供給される。
【0090】
第五実施形態によっても、第1マスタ室132の圧力と第2パイロット室4Eの圧力が同圧となり、第一実施形態と同様の作用効果が発揮される。さらに、第五実施形態によれば、第2パイロット室4Eが2つの配管93、94に接続されているため、レギュレータ44のエア抜きが容易となる。
【0091】
なお、図7に示すように、第五実施形態において、配管93、94及び配管413、421を入れ替えても良い。この場合、配管93は、第1マスタ室132(ポート134)と第1パイロット室4D(ポート4f)に接続されている。配管94は、第1パイロット室4D(ポート4g)とホイルシリンダ541〜544(ABS53)に接続されている。そして、配管413はポート4hに接続され、配管421はポート4iに接続されている。この構成によれば、第1マスタ室132とホイルシリンダ541〜544は、配管93、第1パイロット室4D、及び配管94を介して連通している。この構成であっても、エア抜き等のメンテナンスが容易となる。また、リニアモードでの制御対象が第2パイロット室4Eになることから、第四実施形態同様の効果が発揮される。なお、本発明において、減圧弁41及び増圧弁42は、パイロット室4D又は4Eに対して1つのポートに接続されていても良い。
【符号の説明】
【0092】
1:マスタシリンダ、112:入力ピストン、
113:第1マスタピストン、114:第2マスタピストン、
128:反力室、127:サーボ室、
132:第1マスタ室、136:第2マスタ室、
2:反力発生装置、3:切替弁、31:開放路、32:リザーバ、
4:倍力装置 41:減圧弁、42:増圧弁、43:圧力供給部、
431:アキュムレータ、44:レギュレータ(サーボ圧発生装置)、
5:ブレーキ、53:ABS、
541、542、543、544:ホイルシリンダ、
5FR、5FL、5RR、5RL:車輪、
51、52:配管(マスタホイルシリンダ間ブレーキ液経路)、
511、93:配管(マスタパイロット間ブレーキ液経路)、
6:ブレーキECU、
91:制限弁、92:オリフィス、
94:配管(パイロットホイルシリンダ間ブレーキ液経路)、
4D:第1パイロット室、4E:第2パイロット室

【特許請求の範囲】
【請求項1】
マスタピストン(113、114)がサーボ室(127)内のサーボ圧に駆動されて移動し、前記マスタピストンの移動によりマスタ室(132、136)圧のマスタ圧が変化するマスタシリンダ(1)と、
高圧源(431)及び前記サーボ室に接続され、前記高圧源のブレーキ液圧に基づいて、パイロット室内のパイロット圧に応じたサーボ圧を前記サーボ室内に発生させる機械式のサーボ圧発生装置(44)と、
前記パイロット室に接続され、所望のパイロット圧を前記パイロット室内に発生させる電動式のパイロット圧発生装置(41、42、43)と、
前記マスタ室と前記パイロット室とを接続するマスタパイロット間ブレーキ液経路(511)と、
を備え、
電源系統の正常時に、前記パイロット圧発生装置により前記パイロット圧を発生させ、電源系統の失陥時に、前記マスタ圧をパイロット圧とすることを特徴とする車両用制動装置。
【請求項2】
前記マスタパイロット間ブレーキ液経路は、前記マスタ室とホイルシリンダとを接続するマスタホイルシリンダ間ブレーキ液経路(51)から分岐したものである請求項1に記載の車両用制動装置。
【請求項3】
前記マスタパイロット間ブレーキ液経路に設けられ、前記パイロット室へのブレーキ液の流入出を制限する制限部(91、92)を備える請求項2に記載の車両用制動装置。
【請求項4】
前記制限部は、前記マスタパイロット間ブレーキ液経路を開閉制御可能な弁装置(91)を含んで構成されている請求項3に記載の車両用制動装置。
【請求項5】
前記弁装置(91)は、常開型である請求項4に記載の車両用制動装置。
【請求項6】
前記制限部は、前記マスタパイロット間ブレーキ液経路に形成されたオリフィス(92)を含んで構成されている請求項5に記載の車両用制動装置。
【請求項7】
前記サーボ圧発生装置(44)は、第1ピストン(445)及び第2ピストン(446)を有し、前記パイロット室としての第1パイロット室(4D)及び第2パイロット室(4E)が形成されており、前記第1パイロット室内のパイロット圧により前記第1ピストンが駆動され、前記第2パイロット室内のパイロット圧により前記第1ピストン及び前記第2ピストンが駆動されるように構成され、
前記パイロット圧発生装置(41、42、43)は、前記第1パイロット室(4D)に接続され、
前記マスタパイロット間ブレーキ経路(511)は、前記マスタ室と前記第2パイロット室に接続されている請求項1〜6の何れか一項に記載の車両用制動装置。
【請求項8】
前記サーボ圧発生装置(44)は、第1ピストン(445)及び第2ピストン(446)を有し、前記パイロット室としての第1パイロット室(4D)及び第2パイロット室(4E)が形成されており、前記第1パイロット室内のパイロット圧により前記第1ピストンが駆動され、前記第2パイロット室内のパイロット圧により前記第1ピストン及び前記第2ピストンが駆動されるように構成され、
前記パイロット圧発生装置(41、42、43)は、前記第2パイロット室(4E)に接続され、
前記マスタパイロット間ブレーキ経路(511)は、前記マスタ室と前記第1パイロット室(4D)に接続されている請求項1〜6の何れか一項に記載の車両用制動装置。
【請求項9】
前記パイロット室とホイルシリンダとを接続するパイロットホイルシリンダ間ブレーキ液経路(94)を備え、前記マスタパイロット間ブレーキ液経路(93)と前記パイロット室と前記パイロットホイルシリンダ間ブレーキ液経路(94)とを介して、前記マスタ室と前記ホイルシリンダとが連通可能に構成されている請求項1に記載の車両用制動装置。
【請求項10】
前記サーボ圧発生装置(44)は、第1ピストン(445)及び第2ピストン(446)を有し、前記パイロット室としての第1パイロット室(4D)及び第2パイロット室(4E)が形成されており、前記第1パイロット室内のパイロット圧により前記第1ピストンが駆動され、前記第2パイロット室内のパイロット圧により前記第1ピストン及び前記第2ピストンが駆動されるように構成され、
前記パイロット圧発生装置(41、42、43)は、前記第1パイロット室(4D)に接続され、
前記マスタパイロット間ブレーキ経路(93)は、前記マスタ室と前記第2パイロット室(4E)に接続され、
前記パイロットホイルシリンダ間ブレーキ液経路(94)は、前記第2パイロット室(4E)と前記ホイルシリンダに接続され、
前記マスタパイロット間ブレーキ液経路(93)と前記第2パイロット室(4E)と前記パイロットホイルシリンダ間ブレーキ液経路(94)を介して、前記マスタ室と前記ホイルシリンダとが連通可能に構成されている請求項9に記載の車両用制動装置。
【請求項11】
前記サーボ圧発生装置(44)は、第1ピストン(445)及び第2ピストン(446)を有し、前記パイロット室としての第1パイロット室(4D)及び第2パイロット室(4E)が形成されており、前記第1パイロット室内のパイロット圧により前記第1ピストンが駆動され、前記第2パイロット室内のパイロット圧により前記第1ピストン及び前記第2ピストンが駆動されるように構成され、
前記パイロット圧発生装置(41、42、43)は、前記第2パイロット室(4E)に接続され、
前記マスタパイロット間ブレーキ経路(93)は、前記マスタ室と前記第1パイロット室(4D)に接続され、
前記パイロットホイルシリンダ間ブレーキ液経路(94)は、前記第1パイロット室(4D)と前記ホイルシリンダに接続され、
前記マスタパイロット間ブレーキ液経路(93)と前記第1パイロット室(4D)と前記パイロットホイルシリンダ間ブレーキ液経路(94)を介して、前記マスタ室と前記ホイルシリンダとが連通可能に構成されている請求項9に記載の車両用制動装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2013−107562(P2013−107562A)
【公開日】平成25年6月6日(2013.6.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−255643(P2011−255643)
【出願日】平成23年11月23日(2011.11.23)
【出願人】(301065892)株式会社アドヴィックス (1,291)
【Fターム(参考)】