説明

車両用制御装置の冷却器

【課題】半導体冷却装置の冷却に走行風を用いる車両用制御装置において、冷却器を通過する冷却風量を増大させて効率よく冷却することが可能な車両用制御装置の冷却器を提供する。
【解決手段】電力変換回路を構成する複数のパワー半導体素子14と、複数のパワー半導体素子4が設置された受熱ブロック15と、受熱ブロック15に接続された複数のヒートパイプ16と、複数のヒートパイプ16に垂直に固定された複数枚の放熱フィン17と、を有し、車両走行時の走行風で前記複数枚の放熱フィンを冷却することにより、前記受熱ブロック上の前記複数の半導体素子の冷却を行う車両制御装置の半導体冷却器において、冷却風の入口と出口以外の面を整風板により塞いで筒状とした整風板付き冷却器カバー18を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は鉄道車両の制御装置の半導体冷却器に係り、特に車両の走行に伴って生じる走行風を利用して冷却を行う半導体冷却器に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的な鉄道車両は、架線から取り込んだ電力を電力変換装置にて所望の電圧、電流、周波数の三相交流に変換し、モータを駆動することで推進力を得ている。電力変換装置は複数のパワー半導体素子から構成されており、このパワー半導体素子は電力変換の際に大きな損失を発生する。そのため、電力変換装置にはこの発熱を冷却するための冷却器が備え付けられている。
【0003】
この冷却器には、水を循環させて冷却する水冷却方式や、ファンにより冷却風を当てて冷却するファン冷却方式(強制風冷方式とも言う)、あるいは走行時に車両に当たる走行風を利用して冷却する走行風冷却方式などがある。この中でも走行風冷却方式は冷却器の構造が簡素で小型軽量にできること、水を循環するためのポンプや冷却風を当てるためのファンなどの寿命部品がないこと、ファンなどによる騒音が無いこと等から、発熱量の比較的少ない在来線車両などに広く用いられている。
【0004】
例えば、特許文献1には、パワーユニットの冷却ブロック1に温度均一化用ヒートパイプ9を装着し、風下側から風上側へ熱を輸送することにより風下側の冷却能力を向上させる技術が開示され、特許文献2には、各流路に於いて、取り付けるフィン枚数を高温作動用ヒートパイプでは密に、低温作動用ヒートパイプでは粗にして組み合わせ、各流路の圧損を一様にする技術が開示され、また、特許文献3には、ヒートパイプを構成する、短い管と長い管において、短い管へは走行風が侵入しにくくして、短い管の凝縮能力を下げ、一方、長い管側へは走行風を入りやすくして、冷却性能の向上を図る技術が開示され、特許文献4には、ヒートパイプ式冷却装置において、該受熱ブロックのヒートパイプ挿入面が凹凸形状を有し、その凸部の一部または全部に該ヒートパイプを挿入する技術が開示されている。
【0005】
図6に従来技術による走行風冷却器の一例の外観図を示す。図6において21はインバータ筐体、22は網状冷却器カバー、23は吊り耳である。インバータ筐体21は鉄道車両の車体の下に図示されていない留め具により吊り耳3で固定されている。網状冷却器カバー22は、冷却器を走行中の異物の衝突から保護するために設けられたものである。
【0006】
図7に、図6の従来技術による走行風冷却器の上面図を示す。図7において図6と同じ構成要素には同一の符号を付してある。図7において、24は筐体内に収納されたパワー半導体素子、25はパワー半導体素子を貼り付けるヒートブロック、26はヒートパイプ、27は放熱フィンである。図中の矢印は風の流れを示す。
【0007】
図7に示すように、一般的な走行風冷却器はパワー半導体素子24が設置されたヒートブロック25からヒートパイプ26により熱輸送を行い、このヒートパイプ26に接続された放熱フィン27に走行時の風を当てることで冷却する構造になっている。この冷却器は一般に、車体下部に設置された車両制御装置の側壁に車両外側に向けて突き出す形で設置され、走行風を取り込みやすい形になっている。放熱フィン27は走行方向に対して並行に設置されており、フィンの間を走行風が通り抜けて冷却を行う構成にしている。
【0008】
車内の照明や空調用の補助電源装置にもこの冷却器と同様の構成の冷却器が使われているが、補助電源装置に使われる冷却装置は走行風が当たらない時、すなわち車両の停車中も冷却が可能なよう設計されている。なぜなら、補助電源装置は車両が停車中でも空調などの駆動のために動作しなければならないためである。この対応として多くの走行風冷却器では、走行風が無い場合には放熱フィン27からの放熱による自然対流により放熱フィン27を冷やせるよう、上下方向にも風が抜けやすいよう放熱フィン27を配置している。
【0009】
これら冷却器の放熱フィン27は銅、またはアルミ合金等の金属板であるので、走行中に異物(たとえば線路のバラスト等)と衝突して破損するのを防ぐために、多くの場合保護のための網状冷却器カバー22を付けている。
【0010】
この網状冷却器カバー22は、走行風を遮ることによる冷却器の性能低下を最小限に抑えつつ、必要な強度を確保するために、一般には図6に示す網状の構造になっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2004−254387号公報
【特許文献2】特開2001−267773号公報
【特許文献3】特開2001−118976号公報
【特許文献4】特開平10−321779号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
しかしながら、この冷却器には次に述べる問題点があった。上述のように、走行風による冷却器は走行時の風を放熱フィン27の間に導入し放熱フィン27を冷却するものであるが、冷却効率向上のために放熱フィン27の枚数を増やすと放熱フィン27の間隔が狭くなり、圧力損失が高くなる。
【0013】
すると、図7に示すように走行風の一部が放熱フィン27の間に入らずに冷却器外部を流れるようになり、冷却効率が低下すると言う問題点があった。この対策のために放熱フィン27のピッチを広げる方法があるが、ピッチを広げると圧力損失が低下し冷却風は流れやすくなるが、放熱フィン27の枚数が少なくなるために結局冷却効率が低下してしまうという問題点が生じる。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明は上記の問題点を解決するものであって、冷却器の圧力損失が高い場合にも冷却器の性能の低下を防止できる冷却器を提供するものである。また、上記の課題解決のために、冷却器カバーの走行風の流れに垂直となる面に冷却器から逃げる風を遮る整風手段を具備する。
【0015】
本発明の車両用制御装置の冷却器は、電力変換回路を構成する複数の半導体素子と、前記半導体素子が設置された受熱ブロックと、前記受熱ブロックに接続された複数のヒートパイプと、前記複数のヒートパイプに垂直に固定された複数枚の放熱フィンと、を有し、車両走行時の走行風で前記複数枚の放熱フィンを冷却することにより、前記受熱ブロック上の前記複数の半導体素子の冷却を行う車両制御装置の半導体冷却装置において、冷却風の入口と出口以外の面を整風板により塞いで筒状とした整風板付き冷却器カバーを有することを特徴とする。
【0016】
また、本発明の車両用制御装置の冷却器は、電力変換回路を構成する複数の半導体素子と、前記半導体素子が設置された受熱ブロックと、前記受熱ブロックに接続された複数のヒートパイプと、前記複数のヒートパイプに垂直に固定された複数枚の放熱フィンと、を有し、車両走行時の走行風で前記複数枚の放熱フィンを冷却することにより、前記受熱ブロック上の前記複数の半導体素子の冷却を行う車両制御装置の半導体冷却装置において、冷却器カバーの両端部を部分整風板により塞いで筒状とし、かつ中央部は網カバーとすることで停車時の自然対流による冷却も行えるようにした部分整風板付き冷却器カバーを有することを特徴とする。
【0017】
本発明の車両用制御装置の冷却器は、更に、前記冷却器カバーの両端に突き出し部を設けたことを特徴とする。
【0018】
本発明の車両用制御装置の冷却器は、更に、前記冷却器カバーの両端、または両端の突き出しの端部を漏斗状に広げた導風板を備えた導風板付き冷却器カバーを有することを特徴とする。
【0019】
本発明の車両用制御装置の冷却器は、更に、前記冷却器カバーの側面に対し、前記冷却器カバーの上部・前部・下部の面の開口部の面積を小さくしてカバー開口率を低くした低開口率整風板付き冷却器カバーを有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、冷却器の放熱フィンに効果的に冷却風を導入できるため冷却効率が向上し、冷却器を小型化できる。また、冷却効率が高まるとパワー半導体素子の温度上昇を抑制できるためパワー半導体素子の寿命の低下を防止でき、鉄道車両駆動システムの信頼性を向上する効果もある。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】図1は本発明による冷却器の第1の実施例の鳥瞰図である。
【図2】図2は図1の上面図である。
【図3】図3は本発明の第2の実施例の鳥瞰図である。
【図4】図4は本発明の第3の実施例の鳥瞰図である。
【図5】図5は本発明の第4の実施例の鳥瞰図である。
【図6】図6は従来例の冷却器の鳥瞰図である。
【図7】図7は図6の従来例の上面図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、図面を参照して本発明の各実施形態について説明する。
【実施例1】
【0023】
図1は、本発明による車両用制御装置冷却構造の実施例1を示す鳥瞰図である。図1において1はインバータ筐体、8は整風板付き冷却器カバー、3は吊り耳、12は整風板である。インバータ筐体1は鉄道車両の車体の下に図示されてはいない留め具により吊り耳3で固定されている。整風板付き冷却器カバー8は、冷却器を走行中の異物の衝突から保護すると共に、冷却効率を高めるために設けられたものである。
【0024】
図2に、図1の走行風冷却器の上面図を示す。図2において図1と同じ構成要素には同一の符号を付してある。図2において、4は筐体内に収納されたパワー半導体素子、5はパワー半導体素子を貼り付けるヒートブロック、6はヒートパイプ、7は放熱フィン、12は整風板、8は整風板付き冷却器カバーである。図中の矢印は風の流れを示している。
【0025】
図2に示すように、一般的な走行風冷却器はパワー半導体素子4が設置されたヒートブロック5から複数のヒートパイプ6により熱輸送を行い、この複数のヒートパイプ6に接続された複数枚の放熱フィン7に走行時の風を当てることで冷却する構造になっている。この冷却器は一般に、車体下部に設置された車両制御装置の側壁に車両外側に向けて突き出す形で設置され、走行風を取り込みやすい形になっている。放熱フィン7は走行方向に対して並行に設置されており、複数枚の放熱フィン7の間を走行風が通り抜けて冷却を行う構成にしている。
【0026】
本実施例の特徴は、従来例の冷却器カバー2の網状の枠に代えて複数の整風板12を取付け、冷却風がフィン間に流れ込む整風板付き冷却器カバー8の構成にした点にある。図2に示すように、整風板12を設ける事により、従来は冷却器の外部に逃げていた冷却風を複数枚の放熱フィン7間により多く取り込むことが可能となり、冷却効率を向上できる。図1では複数の整風板12を冷却器カバー2の上面、側面、底面、及び斜面に設けて、断面が五角形の筒状の形状とする例を示したが、上面のみ、側面のみ、或いは底面のみでも一定の効果を得ることができる。なお、図示していないが、整風板12を延長して突出し部15を設けても良い。
【実施例2】
【0027】
図3は、本発明の実施例2を示す。図3に於いて、図1,2と同じ構成要素には同一の符号を付してある。図3に於いて9は部分整風板付き冷却器カバーであり、13は部分整風板である。
【0028】
本実施例の特徴は、複数の部分整風板13を冷却器カバー9の両端に設けて、部分整風板部分冷却器カバー9の上面、側面、底面、及び斜面の中央部のみ網状とすることにした点である。このような構成とすると、車両停車時の走行風が無い場合にも、中央部の網状部分を介した放熱による自然対流により冷却が可能となり、補助電源装置などへの適用が可能となる。
【0029】
また、従来技術と異なり、部分整風板付き冷却器カバー9の端部には、複数の部分整風板13が設けられているため、走行時の冷却風も効果的に複数枚の放熱フィン7間に取り込むことが、実施例1と同様に可能であり、冷却効率の向上を図ることができる。この部分整風板13の長さを変えることにより、停車時の冷却性能と走行時の冷却性能を調整することができる。すなわち部分整風板13の寸法を小さくすると停車時の冷却性能が向上し、走行時の冷却性能は低下する。従って、適用する製品の使用方法に合わせてこれらの寸法を決定すれば、最も効率的な冷却効果を得ることが出来る。なお、図示していないが、部分整風板13を延長して突出し部15を設けても良い。
【実施例3】
【0030】
図4は、本発明の実施例3を示す。図4に於いて、図1乃至3と同じ構成要素には同一の符号を付してある。図4に於いて10は導風板付き冷却器カバーであり、14は端部を漏斗状に広げた導風板である、
【0031】
本実施例の特徴は、導風板付き冷却器カバー10が外部に突出した漏斗状に広げた導風板14を備えている点にある。漏斗状に広げた導風板14を設けることにより、より多くの冷却風を放熱フィン7間に取り入れることが可能となり、更なる冷却効率の向上が図れる。
【0032】
また、導風板付き冷却器カバー10が外部に突出した突き出し部15を備え、突き出し部15に更に漏斗状に広げた導風板33を備える構造とすることもできる。突き出し部15と導風板14を設けることにより、より多くの冷却風を放熱フィン7間に取り入れることが可能となり、更なる冷却効率の向上が図れる。
【実施例4】
【0033】
図5は本発明の実施例4を示す。図5に於いて、図1乃至4と同じ構成要素には同一の符号を付してある。図5において、11は低開口率整風板付き冷却器カバーである。本実施例の特徴は、低開口率整風板付き冷却器カバー11の走行風入口・出口以外の面について一部または全部の開口率を低くする、すなわち、冷却器カバー11の整風板の開口部17の面積を小さくすることにより、網状の冷却器カバー2よりも、当該面からの冷却風の流出抵抗を上げた点にある。
【0034】
これにより、他の実施形態と同様に網カバーからの冷却風の漏れを防ぐことができる。この方法によれば、網カバー面内で段階的に開口率を変えることも可能であり、これにより実施例2における走行時と停車時の性能調整よりもより細かく冷却性能を調整することが可能となる。
【符号の説明】
【0035】
1 インバータ筐体
2 冷却器カバー
3 吊り耳
4 パワー半導体素子
5 ヒートブロック
6 ヒートパイプ
7 放熱フィン
8 整風板付き冷却器カバー
9 部分整風板付き冷却器カバー
10 導風板付き冷却器カバー
11 低開口率整風板付き冷却器カバー
12 整風板
13 部分整風板
14 導風板
15 突き出し部
16 低開口率整風板
17 開口部
21 インバータ筐体
22 網状冷却器カバー
23 吊り耳
24 パワー半導体素子
25 ヒートブロック
26 ヒートパイプ
27 放熱フィン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電力変換回路を構成する複数のパワー半導体素子と、
前記複数のパワー半導体素子が設置された受熱ブロックと、
前記受熱ブロックに接続された複数のヒートパイプと、
前記複数のヒートパイプに垂直に固定された複数枚の放熱フィンと、を有し、
車両走行時の走行風で前記複数枚の放熱フィンを冷却することにより、
前記受熱ブロック上の前記複数のパワー半導体素子の冷却を行う車両制御装置の半導体冷却装置において、
冷却風の入口と出口以外の面を整風板により塞いで筒状とした整風板付き冷却器カバーを有することを特徴とする車両用制御装置の冷却器。
【請求項2】
電力変換回路を構成する複数のパワー半導体素子と、
前記複数のパワー半導体素子が設置された受熱ブロックと、
前記受熱ブロックに接続された複数のヒートパイプと、
前記複数のヒートパイプに垂直に固定された複数枚の放熱フィンと、を有し、
車両走行時の走行風で前記複数枚の放熱フィンを冷却することにより、
前記受熱ブロック上の前記複数のパワー半導体素子の冷却を行う車両制御装置の半導体冷却装置において、
冷却器カバーの両端部を部分整風板により塞いで筒状とし、かつ中央部は網カバーとすることで停車時の自然対流による冷却も行えるようにした部分整風板付き冷却器カバーを有することを特徴とする車両用制御装置の冷却器。
【請求項3】
請求項1または2に記載の車両用制御装置の冷却器において、
前記冷却器カバーの両端に突き出し部を設けたことを特徴とする車両用制御装置の冷却器。
【請求項4】
請求項1ないし3のいずれかに記載の車両用制御装置の冷却器において、
前記冷却器カバーの両端、または両端の突き出しの端部を漏斗状に広げた導風板を備えた導風板付き冷却器カバーを有することを特徴とする車両用制御装置の冷却器。
【請求項5】
請求項1ないし4のいずれか1項に記載の車両用制御装置の冷却器において、
前記冷却器カバーの側面に対し、前記冷却器カバーの上部・前部・下部の面の開口部の面積を小さくしてカバー開口率を低くした低開口率整風板付き冷却器カバーを有することを特徴とする車両用制御装置の冷却器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2013−103506(P2013−103506A)
【公開日】平成25年5月30日(2013.5.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−246157(P2011−246157)
【出願日】平成23年11月10日(2011.11.10)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【Fターム(参考)】