説明

車両用制御装置

【課題】操縦安定性の向上を図ることができる車両用制御装置を提供すること。
【解決手段】横方向状態量判断手段により横方向状態量が第一条件および第二条件を満たすと判断される場合には、第一キャンバ角調整手段によって前輪および後輪のキャンバ角が調整される。前輪および後輪のキャンバ角を調整することで、旋回性能を最大限発揮させて、操縦安定性の向上を図ることができる。一方、第一条件のみを満たすと判断される場合は、前輪または後輪のいずれか一方のキャンバ角を調整することで、不必要なキャンバ角の調整を抑制して車両が不安定な状態になるのを回避しつつ、必要な旋回性能を確保することができる。このように、必要なキャンバ角だけを調整して、車両の操縦安定性の向上を図ることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両用制御装置に関し、特に、操縦安定性の向上を図ることができる車両用制御装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、車輪のキャンバ角(タイヤの中心面と垂直線のなす角度)をマイナス方向(タイヤの中心面を垂直線に対して車両内側へ傾ける方向。ネガティブキャンバという。)とすることで、車両の旋回性能の向上を図る技術が知られている。
【0003】
しかし、マイナス方向に大きなキャンバ角で車輪を車両に装着すると、車両の旋回性能は向上するが、直進走行時に内側のトレッド端部における接地圧が高くなり、タイヤが偏摩耗する。
【0004】
そこで、2種類のトレッド面を車輪に設け、その車輪のキャンバ角をキャンバ角調整装置により調整して2種類のトレッド面を使い分ける技術がある(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】米国特許第6347802号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に開示される技術では、2種類のトレッド面を使い分ける点については開示されているが、その具体的な制御方法については開示されておらず、操縦安定性(運転者の意思通りに操縦できる性能および横風などの外乱に対する安定な走行性)の向上を図るには不十分であるという問題点があった。
【0007】
本発明は上述した問題点を解決するためになされたものであり、操縦安定性の向上を図ることができる車両用制御装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この目的を達成するために、請求項1記載の車両用制御装置は、車体と、その車体を支持する前輪および後輪と、前記前輪および後輪のキャンバ角をそれぞれ独立に調整するキャンバ角調整装置と、を備えた車両に用いられるものであり、前記車両の横方向状態量を判断する横方向状態量判断手段と、前記横方向状態量判断手段により前記横方向状態量が所定の第1条件を満たすと判断される場合に、前記キャンバ角調整装置を作動させて前輪または後輪のいずれか一方のキャンバ角を調整する第1キャンバ角調整手段と、前記横方向状態量判断手段により前記横方向状態量が前記第1条件および前記第1条件より大きい閾値とされる第2条件を満たすと判断される場合に、前記キャンバ角調整装置を作動させて前輪および後輪のキャンバ角を調整する第2キャンバ角調整手段と、を備えている。
【0009】
請求項2記載の車両用制御装置は、請求項1記載の車両用制御装置において、前記第1キャンバ角調整手段は、前記キャンバ角調整装置を作動させて後輪のキャンバ角を調整する。
【0010】
請求項3記載の車両用制御装置は、請求項1又は2に記載の車両用制御装置において、前記車両の前後方向状態量を判断する前後方向状態量判断手段と、前記前後方向状態量判断手段により前記前後方向状態量が所定の第3条件を満たすと判断される場合に、前輪および後輪のキャンバ角を調整する第3キャンバ角調整手段と、を備えている。
【0011】
請求項4記載の車両用制御装置は、請求項1から3のいずれかに記載の車両用制御装置において、前記第1キャンバ角調整手段、前記第2キャンバ角調整手段または前記第3キャンバ角調整手段によるキャンバ角の調整は、前輪および後輪にネガティブキャンバを付与する。
【発明の効果】
【0012】
請求項1記載の車両用制御装置によれば、横方向状態量判断手段により横方向状態量が第1条件を満たすと判断される場合には、第1キャンバ角調整手段によって前輪または後輪のいずれか一方のキャンバ角が調整され、横方向状態量が第1条件および第1条件より大きい閾値とされる第2条件を満たすと判断される場合には、第2キャンバ角調整手段によって前輪および後輪のキャンバ角が調整される。よって、前輪および後輪のキャンバ角を調整することで、旋回性能を最大限発揮させて、操縦安定性を向上できるという効果がある。
【0013】
一方、第1条件のみを満たすと判断される場合は、前輪または後輪のいずれか一方のキャンバ角を調整することで、キャンバ角が不必要に調整されて車両が不安定な状態になるのを回避しつつ、必要な旋回性能を確保することができる。よって、車両の操縦安定性を向上できるという効果がある。
【0014】
請求項2記載の車両用制御装置によれば、請求項1記載の車両用制御装置の奏する効果に加え、第1キャンバ角調整手段は、キャンバ角調整装置を作動させて後輪のキャンバ角を調整する構成であるので、車両の直進安定性を低下させることなく、旋回性能、特に旋回収束性を向上できるという効果がある。
【0015】
請求項3記載の車両用制御装置によれば、請求項1又は2に記載の車両用制御装置の奏する効果に加え、前後方向状態量判断手段により前後方向状態量が第3条件を満たすと判断される場合に、前輪および後輪のキャンバ角が調整されるので、直進走行時の急加速や急制動時などにおいて車両の直進安定性を向上させて、車両の操縦安定性を向上できるという効果がある。
【0016】
請求項4記載の車両用制御装置によれば、請求項1から3のいずれかに記載の車両用制御装置の奏する効果に加え、第1キャンバ角調整手段、第2キャンバ角調整手段または第3キャンバ角調整手段によるキャンバ角の調整は、前輪および後輪にネガティブキャンバを付与する構成であるので、キャンバスラストを車両全体として打ち消し、ハンドル流れ等を生じ難くすることができる。よって、車両の操縦安定性を向上できるという効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の第1実施の形態における車両用制御装置が搭載される車両を模式的に示した模式図である。
【図2】懸架装置の正面図である。
【図3】車両用制御装置の電気的構成を示したブロック図である。
【図4】閾値マップの内容を模式的に示した模式図である。
【図5】本発明の第1実施の形態におけるキャンバ制御処理を示すフローチャートである。
【図6】本発明の第2実施の形態におけるキャンバ制御処理を示すフローチャートである。
【図7】本発明の第3実施の形態における車両用制御装置が搭載される車両の懸架装置の正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の好ましい実施の形態について、添付図面を参照して説明する。図1は本発明の第1実施の形態における車両用制御装置100が搭載される車両1を模式的に示した模式図である。なお、図1の矢印U−D,L−R,F−Bは、車両1の上下方向、左右方向、前後方向をそれぞれ示している。
【0019】
まず、車両1の概略構成について説明する。車両1は、図1に示すように、車体フレームBFと、その車体フレームBFを支持する複数(本実施の形態では4輪)の車輪2と、それら複数の車輪2の内の一部(本実施の形態では、左右の前輪2FL,2FR)を回転駆動する車輪駆動装置3と、各車輪2と車体フレームBFとを連結する複数の懸架装置4と、複数の車輪2の内の一部(本実施の形態では、左右の前輪2FL,2FR)を操舵する操舵装置5とを主に備えて構成されている。
【0020】
次いで、各部の詳細構成について説明する。車輪2は、図1に示すように、車両1の前方側(矢印F方向側)に位置する左右の前輪2FL,2FRと、車両1の後方側(矢印B方向側)に位置する左右の後輪2RL,2RRと、を備えている。なお、本実施の形態では、左右の前輪2FL,2FRは、車輪駆動装置3により回転駆動される駆動輪として構成される一方、左右の後輪2RL,2RRは、車両1の走行に伴って従動される従動輪として構成されている。
【0021】
また、本実施の形態では、車輪2は、図1に示すように、第1トレッド21及び第2トレッド22の2種類のトレッドを備え、各車輪2において、第1トレッド21が車両1の内側に配置され、第2トレッド22が車両1の外側に配置されている。なお、本実施の形態では、両トレッド21,22の幅(図1左右方向の寸法)が同一の幅に構成されている。
【0022】
また、本実施の形態では、第1トレッド21及び第2トレッド22は、第2トレッド22が第1トレッド21よりも硬度の高い材料により構成され、第1トレッド21が第2トレッド22に比してグリップ力の高い特性(高グリップ特性)に構成される一方、第2トレッド22が第1トレッド21に比して転がり抵抗の小さい特性(低転がり特性)に構成されている。
【0023】
車輪駆動装置3は、上述したように、左右の前輪2FL,2FRを回転駆動するための装置であり、後述するように電動モータ3aにより構成されている(図3参照)。また、電動モータ3aは、図1に示すように、デファレンシャルギヤ(図示せず)及び一対のドライブシャフト31を介して左右の前輪2FL,2FRに接続されている。
【0024】
運転者がアクセルペダル61を操作した場合には、車輪駆動装置3から左右の前輪2FL,2FRに回転駆動力が付与され、それら左右の前輪2FL,2FRがアクセルペダル61の操作量に応じて回転駆動される。なお、左右の前輪2FL,2FRの回転差は、デファレンシャルギヤにより吸収される。
【0025】
懸架装置4は、路面から車輪2を介して車体フレームBFに伝わる振動を緩和するための装置、いわゆるサスペンションとして機能するものであり、図1に示すように、各車輪2に対応してそれぞれ設けられている。また、本実施の形態における懸架装置4は、車輪2のキャンバ角を調整するキャンバ角調整装置としての機能を兼ね備えている。
【0026】
ここで、図2を参照して、懸架装置4の詳細構成について説明する。図2は、懸架装置4の正面図である。なお、ここでは、キャンバ角調整装置として機能する構成のみについて説明し、サスペンションとして機能する構成については周知の構成と同様であるので、その説明を省略する。また、各懸架装置4の構成は、各車輪2においてそれぞれ共通であるので、右の前輪2FRに対応する懸架装置4を代表例として図2に図示する。但し、図2では、理解を容易とするために、ドライブシャフト31等の図示が省略されている。
【0027】
懸架装置4は、図2に示すように、ストラット41及びロアアーム42を介して車体フレームBFに支持されるナックル43と、駆動力を発生するFRモータ44FRと、そのFRモータ44FRの駆動力を伝達するウォームホイール45及びアーム46と、それらウォームホイール45及びアーム46から伝達されるFRモータ44FRの駆動力によりナックル43に対して揺動駆動される可動プレート47とを主に備えて構成されている。ナックル43は、車輪2を操舵可能に支持するものであり、図2に示すように、上端(図2上側)がストラット41に連結されると共に、下端(図2下側)がボールジョイントを介してロアアーム42に連結されている。
【0028】
FRモータ44FRは、可動プレート47に揺動駆動のための駆動力を付与するものであり、DCモータにより構成され、その出力軸44aにはウォーム(図示せず)が形成されている。ウォームホイール45は、FRモータ44FRの駆動力をアーム46に伝達するものであり、FRモータ44FRの出力軸44aに形成されたウォームに噛み合い、かかるウォームと共に食い違い軸歯車対を構成している。
【0029】
アーム46は、ウォームホイール45から伝達されるFRモータ44FRの駆動力を可動プレート47に伝達するものであり、図2に示すように、一端(図2右側)が第1連結軸48を介してウォームホイール45の回転軸45aから偏心した位置に連結される一方、他端(図2左側)が第2連結軸49を介して可動プレート47の上端(図2上側)に連結されている。可動プレート47は、車輪2を回転可能に支持するものであり、上述したように、上端(図2上側)がアーム46に連結される一方、下端(図2下側)がキャンバ軸50を介してナックル43に揺動可能に軸支されている。
【0030】
上述したように構成される懸架装置4によれば、FRモータ44FRが駆動されると、ウォームホイール45が回転すると共に、ウォームホイール45の回転運動がアーム46の直線運動に変換される。その結果、アーム46が直線運動することで、可動プレート47がキャンバ軸50を揺動軸として揺動駆動され、車輪2のキャンバ角が調整される。
【0031】
なお、本実施の形態では、各連結軸48,49及びウォームホイール45の回転軸45aが、車体フレームBFから車輪2に向かう方向(矢印R方向)において、第1連結軸48、回転軸45a、第2連結軸49の順に一直線上に並んで位置する第1キャンバ状態と、回転軸45a、第1連結軸48、第2連結軸49の順に一直線上に並んで位置する第2キャンバ状態(図2に示す状態)とのいずれか一方のキャンバ状態となるように車輪2のキャンバ角が調整される。これにより、車輪2のキャンバ角が調整された状態では、車輪2に外力が加わったとしても、アーム46を回動させる方向の力は発生せず、車輪2のキャンバ角を維持することができる。
【0032】
また、本実施の形態では、かかる第1キャンバ状態において、車輪2のキャンバ角が垂直線に対してマイナス方向の所定の角度(以下、第1キャンバ角(本実施の形態では−3°と称する。)に調整され、車輪2にネガティブキャンバが付与される(マイナス方向にキャンバ角を付与した状態とされる)。これにより、第2トレッド22の接地に対する第1トレッド21の接地比率が大きくなることで、第1トレッド21の高グリップ特性を発揮させると共に、キャンバスラストを発生させて、グリップ性能を確保することができる。
【0033】
一方、かかる第2キャンバ状態(図2に示す状態)では、車輪2のキャンバ角が第2キャンバ角(本実施の形態では0°であり、第2キャンバ角がキャンバ定常角である。)に調整される。ここで、第2トレッド22は、第1トレッド21よりも硬度の高い材料により構成されているので、車輪2のキャンバ角が0°に調整された場合には、第1トレッド21の接地が第2トレッド22によって妨げられる。これにより、第1トレッド21の接地に対する第2トレッド22の接地比率が大きくなることで、第2トレッド22の低転がり特性を発揮させると共に、キャンバスラストの発生を回避して、省燃費化を図ることができる。
【0034】
図1に戻って説明する。操舵装置5は、運転者によるステアリング63の操作を左右の前輪2FL,2FRに伝えて操舵するための装置であり、いわゆるラック&ピニオン式のステアリングギヤとして構成されている。この操舵装置5によれば、運転者によるステアリング63の操作(回転)は、まず、ステアリングコラム51を介してユニバーサルジョイント52に伝達され、ユニバーサルジョイント52により角度を変えられつつステアリングボックス53のピニオン53aに回転運動として伝達される。そして、ピニオン53aに伝達された回転運動は、ラック53bの直線運動に変換され、ラック53bが直線運動することで、ラック53bの両端に接続されたタイロッド54が移動する。その結果、タイロッド54がナックル55を押し引きすることで、車輪2に所定の舵角が付与される。
【0035】
アクセルペダル61及びブレーキペダル62は、運転者により操作される操作部材であり、各ペダル61,62の操作状態(踏み込み量、踏み込み速度など)に応じて、車両1の走行速度や制動力が決定され、車輪駆動装置3が駆動制御される。ステアリング63は、運転者により操作される操作部材であり、その操作状態(回転角、回転速度など)に応じて、操舵装置5により左右の前輪2FL,2FRが操舵される。
【0036】
車両用制御装置100は、上述したように構成される車両1の各部を制御するための装置であり、例えば、各ペダル61,62やステアリング63の操作状態に応じてキャンバ角調整装置44(図3参照)を作動制御する。
【0037】
次いで、図3を参照して、車両用制御装置100の詳細構成について説明する。図3は、車両用制御装置100の電気的構成を示したブロック図である。車両用制御装置100は、図3に示すように、CPU71、ROM72及びRAM73を備え、それらがバスライン74を介して入出力ポート75に接続されている。また、入出力ポート75には、車輪駆動装置3等の装置が接続されている。
【0038】
CPU71は、バスライン74により接続された各部を制御する演算装置であり、ROM72は、CPU71により実行される制御プログラム(例えば、図5に図示されるフローチャートのプログラム)や固定値データ等を格納した書き換え不能な不揮発性のメモリである。また、ROM72には、図4に示すように、横方向状態量閾値マップ72aと前後方向状態量閾値マップ72bとが設けられている。
【0039】
ここで、図4を参照して横方向状態量閾値マップ72a及び前後方向閾値マップ72bについて説明する。図4は横方向状態量閾値マップ72a及び前後方向閾値マップ72bの内容を模式的に示した模式図であり、図4(a)は横方向状態量閾値マップ72aの内容を模式的に示した模式図であり、図4(b)は前後方向状態量閾値マップ72bの内容を模式的に示した模式図である。横方向状態量閾値マップ72aは、横方向状態量に対して車輪2のキャンバ角を調整する閾値を規定したマップであり、前後方向状態量閾値マップ72bは、前後方向状態量に対して車輪2のキャンバ角を調整する閾値を規定したマップである。
【0040】
横方向状態量閾値マップ72aには、運転者による車両1の操縦の意思および車両1の状態を反映する横方向状態量の閾値として、図4(a)に示すように、ステアリング63の操作量の第1閾値S1及び第2閾値S2、ステアリング63の操作速度の第1閾値dS1及び第2閾値dS2、横加速度の第1閾値G1及び第2閾値G2、横加速度の変化率(単位時間当たりの横加速度の変化率)の第1閾値dG1及び第2閾値dG2、ヨーレートの第1閾値Y1及び第2閾値Y2、及びヨーレートの変化率(単位時間当たりのヨーレートの変化率)の第1閾値dY1及び第2閾値dY2が規定されている。
【0041】
各第1閾値は、横方向状態量毎に定められた各第1条件の閾値であり、各第2閾値は横方向状態量毎に定められた各第2条件の閾値である。各第2閾値は、その絶対値が各第1閾値の絶対値よりも大きなものとして規定されている。第2閾値の絶対値と第1閾値の絶対値とを比較するのは、横方向状態量が大きさと方向をもった状態量として規定されている場合に、大きさのみに着目して比較するためである。
【0042】
なお、本実施の形態において、第1閾値および第2閾値は、車両1の走行速度(対地速度)の関数として規定されている。CPU71は、この横方向状態量閾値マップ72aの内容に基づいて、現在の車両1の走行速度における第1閾値および第2閾値を取得する。
【0043】
一方、前後方向状態量閾値マップ72bには、運転者による車両1の操縦の意思および車両1の状態(車両1の前後方向の加減速状態)を反映する前後方向状態量の閾値が状態量毎に規定されている。前後方向状態量の閾値として、アクセルペダル61の操作量の閾値A、アクセルペダル61の操作速度の閾値dA、ブレーキペダル62の操作量の閾値B、ブレーキペダル62の操作速度の閾値dB、前後加速度の閾値C、前後加速度の変化率(単位時間当たりの前後加速度の変化率)の閾値dC及び変速機の操作量の閾値Tが規定されている。各閾値は、前後方向状態量毎に定められた各第3条件の閾値である。
【0044】
なお、本実施の形態において、前後方向状態量の閾値は、車両1の走行速度(対地速度)の関数として規定されている。CPU71は、この前後方向状態量閾値マップ72bの内容に基づいて、現在の車両1の走行速度における閾値を取得する。
【0045】
CPU71は、後述するキャンバ制御処理において、この横方向状態量閾値マップ72aの内容に基づいて、各横方向状態量が第1条件を満たすか否かを判断し、さらに各横方向状態量が第1条件および第2条件を満たすか否かを判断する。
【0046】
例えば、図4(a)に示す横方向状態量閾値マップ72aにおいて、ある走行速度のもとで、ステアリング63の操作量(操舵角)に対する第1閾値S1が30°(及び−30°)に、第2閾値S2が45°(及び−45°)に規定されていたとする。このときは、第1条件の範囲は30°以上(及び−30°以下)であり、第2条件の範囲は45°以上(及び−45°以下)となる。この場合、この走行速度のもとで、ステアリング63の操作量(横方向状態量)が20°(又は−20°)であったとすると、CPU71は、第1条件を満たさず、第2条件も満たさないと判断する。また、ステアリング63の操作量(横方向状態量)が35°(又は−35°)であったとすると、CPU71は、第1条件は満たすが、第2条件は満たさないと判断する。また、ステアリング63の操作量(横方向状態量)が50°(又は−50°)であったとすると、CPU71は、第1条件および第2条件を満たすと判断する。例示はしないが、他の横方向状態量についても、それぞれ第1閾値および第2閾値が規定されており、CPU71は、規定された第1閾値および第2閾値に基づき、第1条件と第2条件とを満たすか否かについて判断する。
【0047】
また、CPU71は、後述するキャンバ制御処理において、この前後方向状態量閾値マップ72bの内容に基づいて、各前後方向状態量が第3条件を満たすか(車両1の前後方向の加減速状態を表す前後方向状態量が所定量以上か)を判断する。
【0048】
例えば、図4(b)に示す前後方向状態量閾値マップ72bにおいて、ある走行速度のもとで、アクセルペダル61の操作量(踏み込み量)に対する閾値が40%に規定されていたとすると、第3条件の範囲は40%以上となる。この場合、この走行速度のもとで、アクセルペダル61の操作量(前後方向状態量)が30%であったとすると、CPU71は、第3条件を満たさないと判断する。また、アクセルペダル61の操作量(前後方向状態量)が50%であったとすると、CPU71は、第3条件を満たすと判断する。例示はしないが、他の前後方向状態量についても、それぞれ閾値が規定されており、CPU71は、規定された閾値に基づき、第3条件を満たすか否かについて判断する。
【0049】
図3に戻って説明する。RAM73は、制御プログラムの実行時に各種のデータを書き換え可能に記憶するためのメモリである。
【0050】
車輪駆動装置3は、上述したように、左右の前輪2FL,2FR(図1参照)を回転駆動するための装置であり、それら左右の前輪2FL,2FRに回転駆動力を付与する電動モータ3aと、その電動モータ3aをCPU71からの指示に基づいて駆動制御する駆動制御回路(図示せず)とを主に備えている。但し、車輪駆動装置3は、電動モータ3aに限られず、他の駆動源を採用することは当然可能である。他の駆動源としては、例えば、油圧モータやエンジン等が例示される。
【0051】
キャンバ角調整装置44は、各車輪2のキャンバ角を調整するための装置であり、上述したように、各懸架装置4の可動プレート47(図2参照)に揺動駆動のための駆動力をそれぞれ付与する合計4個のFL〜RRアクチュエータ44FL〜44RRと、それら各アクチュエータ44FL〜44RRをCPU71からの指示に基づいて駆動制御する駆動制御回路(図示せず)とを主に備えている。
【0052】
キャンバ角センサ装置80は、各車輪2のキャンバ角を検出すると共に、その検出結果をCPU71に出力するための装置であり、各車輪2のキャンバ角をそれぞれ検出する合計4個のFL〜RRキャンバ角センサ80FL〜80RRと、それら各キャンバ角センサ80FL〜80RRの検出結果を処理してCPU71に出力する出力回路(図示せず)とを主に備えている。
【0053】
なお、本実施の形態では、各キャンバ角センサ80FL〜80RRがミリ波により対象物の角度を検出するミリ波レーダとして構成されている。これら各キャンバ角センサ80FL〜80RRは、車体フレームBFに取り付けられ、各車輪2に向けてミリ波を発振して可動プレート47の角度を測定することで、各車輪2のキャンバ角をそれぞれ検出する。但し、各キャンバ角センサ80FL〜80RRはミリ波レーダに限られず、他の種類のレーダを採用することは当然可能である。他の種類のレーダとしては、例えば、赤外線レーダや超音波レーダ等が例示される。
【0054】
加速度センサ装置81は、車両1の加速度を検出すると共に、その検出結果をCPU71に出力するための装置であり、前後方向加速度センサ81a及び横方向加速度センサ81bと、それら各加速度センサ81a,81bの検出結果を処理してCPU71に出力する出力回路(図示せず)と、を主に備えている。
【0055】
前後方向加速度センサ81aは、車両1(車体フレームBF)の前後方向(図1矢印F−B方向)の加速度を検出するセンサであり、横方向加速度センサ81bは、車両1(車体フレームBF)の左右方向(図1矢印L−R方向)の加速度を検出するセンサである。なお、本実施の形態では、これら各加速度センサ81a,81bが圧電素子を利用した圧電型センサとして構成されている。
【0056】
また、CPU71は、加速度センサ装置81から入力された各加速度センサ81a,81bの検出結果(加速度値)を時間積分して、2方向(前後方向および左右方向)の速度をそれぞれ算出すると共に、それら2方向成分を合成することで、車両1の走行速度を取得することができる。
【0057】
アクセルペダルセンサ装置61aは、アクセルペダル61の操作量を検出すると共に、その検出結果をCPU71に出力するための装置であり、アクセルペダル61の踏み込み量を検出する角度センサ(図示せず)と、その角度センサの検出結果を処理してCPU71に出力する出力回路(図示せず)と、を主に備えている。
【0058】
ブレーキペダルセンサ装置62aは、ブレーキペダル62の操作量を検出すると共に、その検出結果をCPU71に出力するための装置であり、ブレーキペダル62の踏み込み量を検出する角度センサ(図示せず)と、その角度センサの検出結果を処理してCPU71に出力する出力回路(図示せず)と、を主に備えている。
【0059】
ステアリングセンサ装置63aは、ステアリング63の操作量を検出すると共に、その検出結果をCPU71に出力するための装置であり、ステアリングの回転角を検出する角度センサ(図示せず)と、その角度センサの検出結果を処理してCPU71に出力する出力回路(図示せず)と、を主に備えている。
【0060】
なお、本実施の形態では、アクセルペダルセンサ装置61a、ブレーキペダルセンサ装置62a、ステアリングセンサ装置63aの各角度センサが電気抵抗を利用した接触型のポテンショメータとして構成されている。また、CPU71は、各センサ装置61a,62a,63aから入力された各角度センサの検出結果(操作量)を時間微分して、各ペダル61,62の操作速度およびステアリング63の操作速度を取得することができる。
【0061】
ヨーレートセンサ装置82は、車両1の中心を通り車両1の高さ方向(図2矢印U−D方向)に沿う軸を中心軸として旋回方向への車両1の回転角速度を検出すると共に、その検出結果をCPU71に出力するための装置である。本実施の形態においては、ヨーレートセンサとしてのジャイロセンサ(図示せず)と、そのジャイロセンサの検出結果を処理してCPU71に出力する処理回路(図示せず)とを備えている。なお、ヨーレートセンサはジャイロセンサに限られず、音叉型やH字型等の振動子を採用することも当然可能である。また、CPU71は、ヨーレートセンサ装置82から入力されたヨーレートの検出結果を時間微分して、ヨーレートの単位時間あたりの変化率を算出して取得することができる。
【0062】
シフトスイッチセンサ装置83は、運転者のシフトダウン操作に基づく変速機(図示せず)のダウンシフト量(操作量)を検出すると共に、その検出結果をCPU71に出力するための装置である。本実施の形態においては、シフトレバー装置(図示せず)に内蔵されたシーケンシャルスイッチと、そのシーケンシャルスイッチの出力信号を処理してCPU71に出力する出力回路(図示せず)とを主に備えている。なお、自動変速装置においては、キックダウンによってダウンシフトを行うことができるが、この場合、シフトスイッチセンサ装置83は、キックダウンによるダウンシフト指令時の高変速段から低変速段への段差を、変速機の操作量として検出すると共に、その検出結果をCPU71に出力する。
【0063】
図3に示す他の入出力装置90としては、例えば、雨量を検出する雨量センサや路面の状態を非接触で検出する光学センサなどが例示される。
【0064】
次いで、図5を参照して、キャンバ制御処理について説明する。図5はキャンバ制御処理を示すフローチャートである。この処理は、車両用制御装置100の電源が投入されている間、CPU71によって繰り返し(例えば、0.2ms間隔で)実行される処理であり、車輪2に付与するキャンバ角を調整することで、上述した操縦安定性を向上させ、同時に省燃費性能の向上も図る。
【0065】
CPU71はキャンバ制御処理に関し、まず、横方向状態量の全てが第1条件を満たしているか否かを判断する(S1)。その結果、全ての横方向状態量が第1条件を満たしていないと判断される場合には(S1:No)、車両1の横方向の変化は小さい(ほぼ直進状態にある)と判断され、運転者は旋回操作やスラローム操作等を行う意思がなく、車両1に横風等による外乱の影響もないと考えられるため、前輪2FL,2FR及び後輪2RL,2RRにキャンバ定常角(本実施の形態においては、0°の第1キャンバ角)を付与する(S2)。これにより、車輪2のトレッドの幅方向の全域を地面に接地させて、直進安定性を高めることができる。
【0066】
S1の処理において、横方向状態量のいずれか1以上が第1条件を満たしていると判断される場合には(S1:Yes)、車両1が横方向に変化しつつあると判断され、運転者は旋回操作やスラローム操作等を行う意思があり、若しくは車両に横風等による外乱の影響があると考えられるため、後輪2RL,2RRにネガティブキャンバ(本実施の形態においては、−3°の第2キャンバ角)を付与する(S3)。
【0067】
これにより、後輪2RL,2RRの第1トレッド21の接地面積を増やし、第1トレッド21の高グリップ性を利用して、旋回性能の向上を図ることができる。また、不必要に前輪2FL,2FRのキャンバ角を調整しないため、ステアリングのふらつき等が生じて車両が不安定な状態になるのを回避しつつ、必要な旋回性能を確保することができる。よって、車両1の操縦安定性の向上を図ることができる。
【0068】
また、S1の処理において、複数の横方向状態量のいずれか1以上が第1条件を満たしていると判断される場合に、S3の処理において後輪2RL,2RRにキャンバ角を付与するので、S1の処理において、横方向状態量の2以上、或いは横方向状態量の全てが第1条件を満たしていると判断されなければ「Yes」と判断しない場合と比較して、「Yes」の判断がされ易い。このため、必要なときに確実にキャンバ角を付与することができ、車両1の操縦安定性を確実に向上させることができる。
【0069】
次に、CPU71は、横方向状態量の全てが第1条件および第2条件を満たしているか否かを判断する(S4)。その結果、横方向状態量の全てが第1条件および第2条件を満たしていないと判断される場合には(S4:No)、車両1の横方向の変化はそれほど大きくないと判断され、運転者は急旋回操作や急スラローム操作等を行う意思はなく、若しくは横風等による外乱の影響は少ないとないと考えられるため、このキャンバ制御処理を終了する。
【0070】
S4の処理において、横方向状態量のいずれか1以上が第1条件および第2条件を満たしていると判断される場合には(S4:Yes)、運転者は急旋回操作や急スラローム操作等を行う意思があり、若しくは横風等による外乱の影響が大きいと考えられるため、前輪2FL,2FR及び後輪2RL,2RRにネガティブキャンバ(本実施の形態においては、−3°の第2キャンバ角)を付与して(S5)、このキャンバ制御処理を終了する。
【0071】
これにより、前輪2FL,2FR及び後輪2RL,2RRの第1トレッド21の接地面積を増やし、第1トレッド21の高グリップ性を利用して、旋回性能を最大限発揮させて、操縦安定性の向上を図ることができる。
【0072】
また、第2条件を満たす場合は必ず第1条件を満たすので、本実施の形態においては、車輪2にキャンバ角を付与する場合、必ず後輪2RL,2RRから付与される。このため、キャンバ角を付与する際に生じるステアリング特性等の変化は規則的となる。よって、キャンバ角を付与する際に車両1が不安定になることを防ぎ、運転者に違和感を与え難く、運転操作の快適性を向上させることができる。
【0073】
また、S4の処理において、複数の横方向状態量のいずれか1以上が第1条件および第2条件を満たしていると判断される場合に、S5の処理において、前輪2FL,2FR及び後輪2RL,2RRにキャンバ角を付与するので、S5の処理において、横方向状態量の2以上、或いは横方向状態量の全てが第1条件および第2条件を満たしていると判断されなければ「Yes」と判断しない場合と比較して、「Yes」の判断がされ易い。このため、上述したように、必要なときに確実にキャンバ角を付与することができ、車両1の操縦安定性を確実に向上させることができる。
【0074】
なお、CPU71には、キャンバ角センサ装置80によって各車輪2のキャンバ角(0°又は−3°)が入力されるため、S3の処理において、CPU71は、その情報に基づき、キャンバ角の調整を行い後輪2RL,2RRにキャンバ角(−3°)を付与する。具体的には、キャンバ角が付与された後輪2RL,2RRについてはそのキャンバ角(−3°)を維持し、キャンバ角が付与されていない後輪2RL,2RR(キャンバ角0°)には、キャンバ角(−3°)を付与する。また、キャンバ角が付与された前輪2FL,2FR(キャンバ角−3°)については、そのキャンバ角の制御を解除して、前輪2FL,2FRのキャンバ角を定常角(キャンバ角0°)にし、キャンバ角が付与されていない前輪2FL,2FR(キャンバ角0°)については、そのキャンバ角を維持する。このようにして車両用制御装置100は、S3の処理において、後輪2RL,2RRにキャンバ角(−3°)を付与する。
【0075】
また、S2の処理においても同様に、CPU71は、キャンバ角センサ装置80からの情報に基づき、キャンバ角の調整を行い前輪2FL,2FR及び後輪2RL,2RRにキャンバ定常角(0°)を付与する。具体的には、キャンバ角が付与された車輪2については、その車輪2のキャンバ角の制御を解除して、車輪2のキャンバ角を定常角(キャンバ角0°)にする。また、キャンバ角が付与されていない車輪2(キャンバ角0°)については、そのキャンバ角を維持する。
【0076】
また、S5の処理においても同様に、CPU71は、キャンバ角センサ装置80からの情報に基づき、キャンバ角の調整を行い前輪2FL,2FR及び後輪2RL,2RRにキャンバ角(−3°)を付与する。具体的には、キャンバ角が付与された車輪2(キャンバ角−3°)についてはそのキャンバ角(−3°)を維持し、キャンバ角が付与されていない車輪2(キャンバ角0°)には、キャンバ角(−3°)を付与する。
【0077】
次いで、図6を参照して、第2実施の形態について説明する。第1実施の形態では、図5に示すキャンバ制御処理において、横方向状態量に基づいて車輪2のキャンバ角を調整したが、第2実施の形態では、さらに前後方向状態量に基づいて車輪2のキャンバ角を調整するように構成されている。
【0078】
なお、第1実施の形態と同一の部分については同一の符号を付して、その説明を省略する。また、第2実施の形態では、第1実施の形態おける車両1を第1実施の形態における車両用制御装置100によって制御する場合を例に説明する。
【0079】
なお、第1実施の形態と同一の部分については同一の符号を付して、その説明を省略する。また、本実施の形態では、第1実施の形態における車両1を制御するものとして説明する。
【0080】
図6は本発明の第2実施の形態におけるキャンバ制御処理を示すフローチャートである。図3に図示される車両用制御装置100のROM72には、図6に図示されるフローチャートのプログラムが、図5に図示されるフローチャートのプログラムに代えて記憶されている。
【0081】
CPU71は、第2実施の形態におけるキャンバ制御処理において、S4の処理を行った後(S4:Noの場合)、前後方向状態量の全てが第3条件を満たしているか否かを判断する(S6)。その結果、全ての前後方向状態量が第3条件を満たしていないと判断される場合には(S6:No)、車両1の加減速状態を表す前後方向状態量が小さく、運転者は急加速や急制動等を行う意思がないと考えられるため、グリップ性をさらに向上させる必要はなく、S2又はS3の処理において付与されたキャンバ角を維持して、このキャンバ制御処理を終了する。
【0082】
S6の処理において、前後方向状態量のいずれか1以上が第3条件を満たしていると判断される場合には(S6:Yes)、車両1の加減速状態を表す前後方向状態量が大きく、運転者は急加速や急制動等を行う意思があると考えられるため、前輪2FL,2FR及び後輪2RL,2RRにネガティブキャンバ(本実施の形態においては、−3°の第2キャンバ角)を付与して(S5)、このキャンバ制御処理を終了する。
【0083】
これにより、前輪2FL,2FR及び後輪2RL,2RRの第1トレッド21の接地面積を増やし、第1トレッド21の高グリップ性を利用して旋回収束性等の旋回性能や直進安定性、或いは加速性能や制動性能を最大限発揮させることができる。よって、操縦安定性の向上を図ることができる。
【0084】
また、S6の処理において、前後方向状態量のいずれか1以上が第3条件を満たしていると判断される場合に、S5の処理において、前輪2FL,2FR及び後輪2RL,2RRにキャンバ角を付与するので、S6の処理において、前後方向状態量の2以上、或いは横方向状態量の全てが第3条件を満たしていると判断されなければ「Yes」と判断しない場合と比較して、「Yes」の判断がされ易い。このため、必要なときに確実にキャンバ角を付与することができ、車両1の操縦安定性を確実に向上させることができる。
【0085】
なお、CPU71には、キャンバ角センサ装置80によって各車輪2のキャンバ角(0°又は−3°)が入力されるため、上述したように、S5の処理において、CPU71は、その情報に基づき、キャンバ角の調整を行い前輪2FL,2FR及び後輪2RL,2RRにキャンバ角(−3°)を付与する。具体的には、キャンバ角が付与された車輪2についてはそのキャンバ角(−3°)を維持し、キャンバ角が付与されていない車輪2(キャンバ角0°)には、キャンバ角(−3°)を付与する。このようにして車両用制御装置100は、S5の処理において、前輪2FL,2FR及び後輪2RL,2RRにキャンバ角(−3°)を付与する。
【0086】
次いで、図7を参照して、第3実施の形態について説明する。第1実施の形態および第2実施の形態では、図2に示す懸架装置4を備えた車両2に搭載される車両用制御装置100であって、キャンバ制御処理において、前輪2FL,2FR及び後輪2RL,2RRにネガティブキャンバを付与することができる車両用制御装置100について説明した。これに対し、第3実施の形態では、キャンバ制御処理において、前輪2FL,2FR及び後輪2RL,2RRにネガティブキャンバ又はポジティブキャンバを付与することができる車両用制御装置について説明する。
【0087】
なお、本実施の形態において、第1実施の形態と同一の部分については同一の符号を付して、その説明を省略する。また、本実施の形態では、第1実施の形態における車両2の懸架装置4に代えて、図7に示す懸架装置204が設けられており、懸架装置204以外の各構成は、第1実施の形態における車両2の各構成と同一のものとして説明する。
【0088】
図7は本発明の第3実施の形態における車両用制御装置が搭載される車両2の懸架装置204の正面図である。この第3実施の形態における車両用制御装置が搭載される車両2の懸架装置204において、上記第1実施の形態における懸架装置4(図2参照)と相違する点は、キャンバ角が0°の場合において(図7(a)参照)、アーム246がウォームホイール45に連結された第1連結軸248と、回転軸45aとの位置関係である。
【0089】
図7に示す懸架装置204では、回転軸45aと第2連結軸49とを結ぶ直線の回転軸45aを通過する垂線上に第1連結軸248が位置する第3キャンバ状態(図7(a)に示す状態)になるように、車輪2のキャンバ角が調整される。また、各連結軸248,49及びウォームホイール45の回転軸45aが、車体フレームBFから車輪2に向かう方向(図7に図示する矢印R方向)において、回転軸45a、第1連結軸248、第2連結軸49の順に一直線上に並んで位置する第4キャンバ状態(図7(b)に示す状態)と、第1連結軸248、回転軸45a、第2連結軸49の順に一直線上に並んで位置する第5キャンバ状態(図7(c)に示す状態)と、のいずれかのキャンバ状態となるように車輪2のキャンバ角が調整される。
【0090】
なお、本実施の形態では、かかる第3キャンバ状態において、車輪2のキャンバ角が第3キャンバ角(本実施の形態では0°であり、第3キャンバ角が定常角である。)に調整される。また、かかる第4キャンバ状態において、車輪2のキャンバ角が垂直線に対してプラス方向の所定の角度(以下、第4キャンバ角(本実施の形態では+3°)と称する。)に調整され、車輪2にポジティブキャンバが付与される(プラス方向にキャンバ角を付与した状態とされる)。第4キャンバ状態では、第2トレッド22の低転がり抵抗特性を発揮させ、旋回初期におけるステアリングの操作性や省燃費性能を向上させることができる。
【0091】
また、かかる第5キャンバ状態において、車輪2のキャンバ角が垂直線に対してマイナス方向の所定の角度(以下、第5キャンバ角(本実施の形態では−3°)と称する。)に調整され、車輪2にネガティブキャンバが付与される(マイナス方向にキャンバ角を付与した状態とされる)。これにより、第2トレッド22の接地面積に対する第1トレッド21の接地比率が大きくなることで、第1トレッド21の高グリップ特性を発揮させると共に、キャンバスラストを発生させて、旋回時におけるグリップ性能を確保することができる。
【0092】
なお、車輪2にポジティブキャンバが付与された状態(図7(b)の状態)またはネガティブキャンバが付与された状態(図7(c)の状態)では、車輪2に外力が加わったとしても、アーム246を回動させる方向の力は発生せず、車輪2のキャンバ角を維持することができる。
【0093】
次いで、第3実施の形態における車両用制御装置のキャンバ制御処理について説明する。第3実施の形態における車両用制御装置のキャンバ制御処理は、第1実施の形態におけるキャンバ制御処理とほぼ同様なので、第1実施の形態において説明した図5を参照して、相違する点を説明する。
【0094】
第1実施の形態における車両用制御装置のキャンバ制御処理では、図5に示すように、全ての横方向状態量が第1条件を満たしていないと判断される場合には(S1:No)、前輪2FL,2FR及び後輪2RL,2RRにキャンバ定常角を付与し(S2)、横方向状態量のいずれか1以上が第1条件を満たしていると判断される場合には(S1:Yes)、S3の処理において、後輪2RL,2RRにネガティブキャンバを付与する場合について説明した。さらに、横方向状態量のいずれか1以上が第1条件および第2条件を満たしていると判断される場合には(S4:Yes)、S5の処理において、前輪2FL,2FR及び後輪2RL,2RRにネガティブキャンバを付与する場合について説明した。
【0095】
これに対し、第3実施の形態における車両用制御装置のキャンバ制御処理では、車両1の走行速度が低速の場合などに、横方向状態量のいずれか1以上が第1条件を満たしていると判断される場合には(S1:Yes)、S3の処理において、前輪2FL,2FRにポジティブキャンバを付与する。これにより、前輪2FL,2FRの第1トレッド21の接地面積に対する第2トレッド22の接地比率が大きくなることで、第2トレッド22の低転がり抵抗特性を発揮させ、旋回初期におけるステアリングの操作性を向上させることができる。さらに、横方向状態量のいずれか1以上が第1条件および第2条件を満たしていると判断される場合には(S4:Yes)、S5の処理において、ポジティブキャンバを付与した前輪2FL,2FRはそのままの状態を保ち、後輪2RL,2RRにネガティブキャンバを付与する。これにより、後輪2RL,2RRのグリップ性を向上させ、旋回安定性を向上させる。
【0096】
ここで、図5に示すフローチャート(キャンバ制御処理)において、請求項1記載の横方向状態量判断手段としてはS1及びS4の処理が、第1キャンバ角調整手段としてはS3の処理が、第2キャンバ角調整手段としてはS5の処理が、それぞれ相当する。
【0097】
また、図6に示すフローチャート(キャンバ制御処理)において、請求項1記載の横方向状態量判断手段としてはS1及びS4の処理が、第1キャンバ角調整手段としてはS3の処理が、第2キャンバ角調整手段としてはS5の処理が、請求項3記載の前後方向状態量判断手段としてはS6の処理が、第3キャンバ角調整手段としてはS5の処理が、それぞれ相当する。
【0098】
以上、実施の形態に基づき本発明を説明したが、本発明は上記実施の形態に何ら限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲内で種々の改良変形が可能であることは容易に推察できるものである。
【0099】
例えば、上記実施の形態で挙げた数値(例えば、各構成の数量や角度等)は一例であり、他の数値を採用することは当然可能である。
【0100】
上記各実施の形態では、車輪21が高グリップ特性を有する第1トレッド21と、低転がり抵抗特性を有する第2トレッド22と、を有する場合(トレッドが非対称の場合)について説明したが、必ずしもこれに限られるものではなく、車輪2の第1トレッド21と第2トレッド22の特性が同じ(トレッドが対称)である場合も、車輪にキャンバ角(ポジティブキャンバ又はネガティブキャンバ)を付与することによって、旋回性能を向上させて操縦安定性を高めることができる。
【0101】
上記各実施の形態では、前輪2FL,2FRのキャンバ角が同じ方向である場合、後輪2RL,2RRのキャンバ角が同じ方向である場合を説明したが(左右輪がいずれもネガティブキャンバまたは左右輪がいずれもポジティブキャンバ)、必ずしもこれに限られるものではなく、旋回外輪にネガティブキャンバを付与して、旋回内輪にポジティブキャンバを付与することも当然可能である。これにより、発生するキャンバスラストを利用して旋回性能を向上させることができる。
【0102】
上記各実施の形態では、前輪2FL,2FRの両方、後輪2RL,2RRの両方にキャンバ角を付与する場合について説明したが、必ずしもこれに限られるものではなく、第1キャンバ角調整手段によって前輪2FL,2FRのいずれか一方(または後輪2RL,2RRのいずれか一方)にキャンバ角を付与することも当然に可能である。また、第2キャンバ角調整手段によって、前輪2FL,2FRのいずれか一方(または後輪2RL,2RRのいずれか一方)にキャンバ角を付与することも当然に可能である。例えば、第1キャンバ角調整手段によって前輪2FL,2FRの旋回外輪にネガティブキャンバを付与し、第2キャンバ角調整手段によって、後輪2RL,2RRの旋回内輪にネガティブキャンバを付与することも可能である。これにより、旋回外輪の接地面積を広くして旋回安定性を向上させると共に、発生するキャンバスラストを利用して旋回性能を向上させることができる。
【0103】
上記各実施の形態において、図4(a)に図示された横方向状態量閾値マップ72aの6つの横方向状態量は例示であり、これら以外にも、車両1の横方向の変化の指標となる各種の状態量を採用することが可能である。また、図4(b)に図示された前後方向状態量閾値マップ72bの7つの前後方向状態量も例示であり、これら以外にも、車両1の前後方向の変化の指標となる各種の状態量を採用することが可能である。
【0104】
上記第1実施の形態では、図5に図示されたフローチャートにおけるS1の処理において、横方向状態量のいずれか1以上が第1条件を満たしていると判断される場合に(S1:Yes)、後輪2RL,2RRにネガティブキャンバを付与し(S3)、S4の処理において、横方向状態量のいずれか1以上が第1条件および第2条件を満たしていると判断される場合に(S4:Yes)、前輪2FL,2FR及び後輪2RL,2RRにネガティブキャンバを付与する場合について説明した(S5)。また、上記第2実施の形態では、図6に図示されたフローチャートにおけるS6の処理において、前後方向状態量のいずれか1以上が第3条件を満たしていると判断される場合に(S6:Yes)、前輪2FL,2FR及び後輪2RL,2RRにネガティブキャンバを付与する場合について説明した(S5)。しかし、必ずしも、横方向状態量や前後方向状態量のいずれか1以上が各条件を満たしていると判断される場合に、車輪2にポジティブキャンバ又はネガティブキャンバを付与することに限られるものではなく、横方向状態量や前後方向状態量の2以上が各条件を満たしていると判断される場合に、車輪2にポジティブキャンバ又はネガティブキャンバを付与するとすることも可能である。なお、横方向状態量や前後方向状態量の2以上の組み合わせは、車両2が要求する操縦特性等に応じて適宜設定することが可能である。
【0105】
上記実施の形態では、図5又は図6に図示されたフローチャートにおいて、前輪2FL,2FR及び後輪2RL,2RRにキャンバ角が付与された後、S1の処理において第1条件を満たさないと判断される場合には(S1:No)、S2の処理において、前輪2FL,2FR及び後輪2RL,2RRにキャンバ定常角(上記実施の形態では0°)が付与される。このS2の処理において、まず前輪2FL,2FRにキャンバ定常角(0°)を付与した後、後輪2RL,2RRにキャンバ定常角(0°)を付与するようにすることも可能である。これにより、前輪2FL,2FR及び後輪2RL,2RRにキャンバ定常角を付与する過渡期に生じるステアリング特性等の変化は規則的となり、車両1が不安定になることを防ぎ、運転者に違和感を与え難く、運転操作の快適性を向上できる。
【0106】
上記実施の形態において、図4(a)に図示された横方向状態量閾値マップ72aの第1閾値および第2閾値、図4(b)に図示された前後方向状態量閾値マップ72bの閾値は、車両1の走行速度(対地速度)の関数として規定されている場合について説明したが、必ずしもこれに限られるものではなく、一定値として規定することも可能である。
【0107】
また、図3に図示された他の入出力装置90で例示された雨量センサや路面の状態を検出する光学センサの検出結果を取得して、第1閾値、第2閾値および閾値を補正することも可能である。これにより、車輪2を雨天や悪路の場合に適したキャンバ角に調整して、雨天時や悪路走行時の車両1の走行安定性を向上させることが可能である。
【符号の説明】
【0108】
100 車両用制御装置
1 車両
BF 車体フレーム(車体の一部)
2FL,2FR 前輪
2RL,2RR 後輪
44 キャンバ角調整装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車体と、その車体を支持する前輪および後輪と、前記前輪および後輪のキャンバ角をそれぞれ独立に調整するキャンバ角調整装置とを備えた車両に用いられる車両用制御装置であって、
前記車両の横方向状態量を判断する横方向状態量判断手段と、
前記横方向状態量判断手段により前記横方向状態量が所定の第1条件を満たすと判断される場合に、前記キャンバ角調整装置を作動させて前輪または後輪のいずれか一方のキャンバ角を調整する第1キャンバ角調整手段と、
前記横方向状態量判断手段により前記横方向状態量が前記第1条件および前記第1条件より大きい閾値とされる第2条件を満たすと判断される場合に、前記キャンバ角調整装置を作動させて前輪および後輪のキャンバ角を調整する第2キャンバ角調整手段と、を備えていることを特徴とする車両用制御装置。
【請求項2】
前記第1キャンバ角調整手段は、前記キャンバ角調整装置を作動させて後輪のキャンバ角を調整することを特徴とする請求項1記載の車両用制御装置。
【請求項3】
前記車両の前後方向状態量を判断する前後方向状態量判断手段と、
前記前後方向状態量判断手段により前記前後方向状態量が所定の第3条件を満たすと判断される場合に、前輪および後輪のキャンバ角を調整する第3キャンバ角調整手段と、を備えていることを特徴とする請求項1又は2に記載の車両用制御装置。
【請求項4】
前記第1キャンバ角調整手段、前記第2キャンバ角調整手段または前記第3キャンバ角調整手段によるキャンバ角の調整は、前輪および後輪にネガティブキャンバを付与するものであることを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の車両用制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2010−235047(P2010−235047A)
【公開日】平成22年10月21日(2010.10.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−87679(P2009−87679)
【出願日】平成21年3月31日(2009.3.31)
【出願人】(591261509)株式会社エクォス・リサーチ (1,360)
【Fターム(参考)】