車両用制輪子及び摩擦材料
【課題】 摩擦特性が高く、更に、車輪への攻撃性の低い制動ブロック及び車両用制輪子の提供。
【解決手段】 制動摩擦面を有する鋳鉄製の制輪子本体と、前記制輪子本体に埋め込まれており、一部が前記制動摩擦面に露出する制動ブロックとを有する、車両用制輪子において、前記制動ブロックが、セラミックス及び炭素材料を含有することを特徴とする、車両用制輪子。
【解決手段】 制動摩擦面を有する鋳鉄製の制輪子本体と、前記制輪子本体に埋め込まれており、一部が前記制動摩擦面に露出する制動ブロックとを有する、車両用制輪子において、前記制動ブロックが、セラミックス及び炭素材料を含有することを特徴とする、車両用制輪子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規摩擦材料及びそれを用いた車両用制輪子に関する。
【背景技術】
【0002】
鉄道車両のブレーキ方式は、ディスク方式と踏面方式(制輪子)があり、一部の高速車両を除いた在来線には踏面方式が採用されている。この踏面方式に用いられる制輪子には、合金鋳鉄や、合成(フェノール樹脂系)や、焼結金属などの他、合金鋳鉄にセラミックスブロックを鋳込んだ制輪子(特許文献1)が挙げられる。鋳鉄制輪子は、車輪踏面を適度にあらすことにより、車輪/レール間の粘着力が安定して得られる。したがって、雨や雪の影響を受けにくく、更に、車輪への攻撃性(温度上昇や摩耗性)が低いことから、北海道などの雪の多い寒冷地で使用される。
【0003】
これまで、鋳鉄制輪子は、普通鋳鉄にリン、クロム、モリブデン、ニッケルなどの合金元素を添加することによって、摩擦特性及び耐摩耗性を改善した合金鋳鉄制輪子が開発され、高速化に対応してきた。合金鋳鉄制輪子の摩擦係数向上には、車輪との摩擦界面における炭化ケイ素セラミックスの介在が効果的であることが明らかにされている(文献1〜3、非特許文献1)。例えば、セラミックス粒子をあらかじめブロック状に成形して、鋳鉄制輪子に埋め込むことで、セラミックスブロックが、ブレーキ作動時に、セラミックス粒子を摩擦面に供給する働きをする、車両ブレーキ用制輪子が提案されている(特許文献1)。また、量産における歩留まり向上や、亀裂による欠け落ちの防止を目的として、セラミックス多孔質ブロックを使用することが提案されている(特許文献2〜3、非特許文献1、2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平7−103267号公報
【特許文献2】特開平10−30661号公報
【特許文献3】特開2001−246455号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】RTRI REPORT Vol.22,No.4,Apr.2008 p17−22.「摩擦特性に優れた鋳鉄複合化制輪子の開発」
【非特許文献2】T. Miyauchi, T. Tsujimura, K. Handa, J. Nakayama, K. Shimuzu, Influence of silicon carbide filters in cast iron composite brake blocks on brake performance and development of a production process Wear 267 (2009) 833-838
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従来の鋳鉄制輪子に用いられる制動ブロックとしては炭化ケイ素セラミックスが用いられてきたが、当該セラミックスを用いた場合、高い摩擦特性が得られるものの、車輪への攻撃性(摩耗、熱負荷)が高くなるという問題があった。
本発明は、上記の問題を解決するために、摩擦特性が高く、更に、車輪への攻撃性の低い制動ブロック及び車両用制輪子を提供することを目的とする。
【0007】
また、本発明の他の目的は、摩擦特性に優れた摩擦材料を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明(1)は、制動摩擦面を有する鋳鉄製の制輪子本体と、
前記制輪子本体に埋め込まれており、一部が前記制動摩擦面に露出する制動ブロックとを有する、車両用制輪子において、
前記制動ブロックが、セラミックス及び炭素材料を含有することを特徴とする、車両用制輪子である。
【0009】
本発明(2)は、前記セラミックスが、アルミナを含有することを特徴とする、前記発明(1)の車両用制輪子である。
【0010】
本発明(3)は、前記炭素材料が、カーボンナノチューブ又はグラフェンであることを特徴とする、前記発明(1)又は(2)の車両用制輪子である。
【0011】
本発明(4)は、前記鋳鉄が、合金鋳鉄であることを特徴とする、前記発明(1)〜(3)のいずれか一つの車両用制輪子である。
【0012】
本発明(5)は、前記合金鋳鉄は、Mo含有量が0.3質量%以下、Ni含有量が0.3質量%以下であることを特徴とする、前記発明(4)の車両用制輪子である。ここで、Mo含有量はモリブデンの含有量を意味する。Ni含有量はニッケルの含有量を意味する。
【0013】
本発明(6)は、前記合金鋳鉄は、P含有量が、0.3〜2.0質量%である、前記発明(4)又は(5)の車両用制輪子である。ここで、P含有量はリンの含有量を意味する。
【0014】
本発明(7)は、前記制動ブロックが、多孔質ブロックであることを特徴とする、前記発明(1)〜(6)のいずれか一つの車両用制輪子である。
【0015】
本発明(8)は、セラミックス及び炭素材料を含有する骨格を有する多孔質ブロックであることを特徴とする、摩擦材料である。
【0016】
本発明(9)は、前記セラミックスが、アルミナを含有することを特徴とする、前記発明(8)の摩擦材料である。
【0017】
本発明(10)は、前記炭素材料が、カーボンナノチューブ又はグラフェンであることを特徴とする、前記発明(8)又は(9)の摩擦材料である。
【0018】
本発明(11)は、前記多孔質ブロックが、セラミックスを主成分とする骨格を有し、
前記炭素材料が、前記骨格の中に分散していることを特徴とする、前記発明(8)〜(10)のいずれか一つの摩擦材料である。
【0019】
本発明(12)は、前記多孔質ブロックが、鋳型として用いる発泡高分子材料に対して、セラミックス及び炭素材料を含むスラリーを含浸し乾燥させて、当該発泡高分子を取り除く脱脂を行い、更に、セラミックスを焼結することにより得られることを特徴とする、前記発明(8)〜(11)のいずれか一つの摩擦材料である。
【0020】
ここで本明細書において使用される各種用語の意味を説明する。「摩擦材料」とは、摩擦面に配されて使用される材料の形状及び素材の組成に係るものを意味する。本明細書における摩擦材料は、そのまま制輪子用の制動ブロックとして使用可能であるが、ディスク板やライニング材など、他の用途の制動ブロックに用いられることも想定される。「セラミックス」とは、基本成分が無機化合物である材料を意味する。ここで「基本成分が無機化合物である材料」とは、成分中50質量%以上が無機化合物である材料を意味する。「炭素材料」とは、sp2混成軌道を有する炭素原子が、π結合を介して六角形又は五角形の格子状に配されている材料を意味する。
【発明の効果】
【0021】
本発明に係る制輪子によれば、セラミックスを含有する制動ブロックに、炭素材料(特にカーボンナノチューブ)が添加されることによって、制動性の向上や、車輪攻撃性の低下といった効果を奏する。より詳細には、本発明に係る制輪子によれば、特に高速域で、優れた制動性を発揮するという性質を有する。また、本発明に係る制輪子によれば、車輪温度の上昇を抑制することができるので、車輪の耐熱亀裂性の向上に寄与するという効果を奏する。
【0022】
合金鋳鉄を用いる場合には、従来、合金鋳鉄中にリンやクロムなどを添加することにより、これに由来する硬質相(ステダイトやセメンタイト)を生成し摩擦係数を向上させることが行なわれてきた。しかし、リン等の添加による多量の硬質相の存在は材質を脆くさせ熱亀裂が発生しやすくなるため、合金鋳鉄の基地(パーライト)を緻密化させるために、モリブデンやニッケルといったレアメタルが使用されてきた。これに対して、本発明に係る制輪子によれば、摩擦係数の向上効果を有するため、合金鋳鉄中に添加するリンの量を減らすことが可能となり、これに伴って前記レアメタルの添加量も減らすことができるので、低価格の制輪子を得ることが可能となる。上記の他、モリブデン、クロム、マンガンは遊離炭化物としてのセメンタイトを促進する効果があり、低い融点で溶け出すステダイトに替わる高温域での硬質相として摩擦特性を安定化するものとされる。本発明ではステダイト相の溶出を防げることから遊離炭化物そのものの析出を低減できるので、モリブデンやクロムの添加量を抑制できる。
【0023】
本発明に係る摩擦材料は、多孔質であることによって、制輪子内に埋め込んだ場合に、適度に制動摩擦面に露出するため、適度にセラミックス粒子が脱落し、制動摩擦面に供給される。更に、強度の観点からも、セラミックスの多孔質ブロック自体は脆いが、空孔部にマトリックスとなる合金鋳鉄が進入し補強されるため、大きな脱落が無くなる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】図1は、本発明に係る制輪子の概略構成図であり、(a)は正面図、(b)は側面断面図である。
【図2】図2は、実施例において使用したカーボンナノチューブ−アルミナ多孔質ブロックの写真である。
【図3】図3は、実施例に係るカーボンナノチューブ−アルミナ多孔質ブロックのSEM写真である。
【図4】図4は、実施例に係るカーボンナノチューブ−アルミナ多孔質ブロックのSEM写真である。
【図5】図5は、実施例に係るカーボンナノチューブ−アルミナ多孔質ブロックのSEM写真である。
【図6】図6は、実施例に係るカーボンナノチューブ−アルミナ多孔質ブロックのTGAの測定結果を示すグラフである。
【図7】図7は、実施例において使用した制輪子の写真である。
【図8】図8は、制動試験における各種評価項目の試験結果を示す図である。
【図9】図9は、制動試験における各種評価項目の試験結果を示す図である。
【図10】図10は、制動試験後の制輪子の切断箇所及び観察箇所を説明する図である。
【図11】図11は、実施例2に係る制輪子の摩擦面付近の切断面の金属顕微鏡像である。
【図12】図12は比較例3に係る制輪子の摩擦面付近の切断面の金属顕微鏡像である。
【図13】図13は、実施例2に係る制輪子の切断面のSEM像およびEDXによる元素マップである。
【図14】図14は、比較例3に係る制輪子の切断面のSEM像およびEDXによる元素マップである。
【図15】図15は、実施例2に係る制輪子の摩擦面のSEM像およびEDXによる元素マップである。
【図16】図16は、実施例2に係る制輪子の摩擦面のSEM像およびEDXによる元素マップである。
【図17】図17は、実施例2に係る制輪子の摩擦面のSEM像およびEDXによる元素マップである。
【図18】図18は、比較例3に係る制輪子の摩擦面のSEM像およびEDXによる元素マップである。
【発明を実施するための形態】
【0025】
本発明に係る制輪子は、制動摩擦面を有する鋳鉄製の制輪子本体と、前記制輪子本体に埋め込まれており、一部が前記制動摩擦面に露出する制動ブロックとを有する。更に本発明は、前記制動ブロックが、セラミックス及び炭素材料を含有することを特徴とする。すなわち、制動ブロックとしてセラミックス及び炭素材料の組合せを選択することにより、制動性の向上に寄与するといった効果を奏し、更に、摩擦により発生する熱を吸収し易く、車輪温度の低下に寄与する摩擦材料となる。
【0026】
このようにセラミックス及び炭素材料の組合せによって相乗効果が得られる推定理由を説明する。実施例に示すように、相乗効果が得られる理由を詳細に検討するために、制動試験後の制輪子の制動摩擦面を走査型電子顕微鏡(SEM)画像及びエネルギー分散型X線分析(EDX)による元素マップにより観察した(図13〜18)。この結果、カーボンナノチューブ(CNT)を含有しないアルミナの制動ブロックの場合、アルミナは制動摩擦面における鋳鉄の領域においてはほとんど観察されない(図18)。これに対して、制動ブロックとしての摩擦材料内にカーボンナノチューブが含まれる場合には、アルミナ等のセラミックスが鋳鉄の領域を含めて、制輪子表面に多く供給されていることがわかった(図15〜17)。
【0027】
すなわち上記の結果から、制動ブロックがアルミナを含有する制輪子(以下、単に「アルミナ制輪子」とする)の摩擦表面には摩耗粒子の凝集は認められないが、制動ブロックがアルミナとカーボンナノチューブを含有する制輪子(以下、単に「CNT制輪子」とする)の摩擦表面には、摩耗粒子の凝集部分が認められた。このように摩耗粒子の凝集部分が存在することによって、高い制動性を発揮しているものと考えられる。合金鋳鉄制輪子は、高速からのブレーキにより、制輪子の摩擦表面が熱で溶融し、低速からのブレーキと比較して摩擦係数が低下する。高速域からのブレーキにおいて、制輪子鋳鉄部の摩擦表面層の軟化・溶融が起こり、セラミックス多孔体からは摩耗粒子が排出される。制輪子中のセラミックス多孔体が制輪子の温度上昇を抑え、耐熱性の高いセラミックス硬質摩耗粒子が車輪と制輪子間の摩擦表面に埋め込まれることによって、制輪子の摩擦表面が溶融による摩擦係数の低下を防ぐと考えられる。合金鋳鉄制輪子にセラミックスを複合させると、高速からのブレーキ時に発生するセラミックスの摩耗粒子が車輪と制輪子間に介在し、そのことにより高速での摩擦係数の低下を抑えることが報告されている(非特許文献2)。
【0028】
EDXにより、CNT制輪子の摩擦表面には、凝集したCNTによるものと考えられる摩耗粒子も認められる。これが摩耗粒子を捕捉する効果を有するためセラミックスの摩耗粒子が車輪と制輪子間に留まり、CNT制輪子の摩擦係数の低下を防ぐことができたと考えられる。
【0029】
制輪子
図1は、本発明に係る制輪子の概略構成図であり、(a)は正面図、(b)は側面断面図を示す。制輪子100は、制動摩擦面111を有する鋳鉄製の制輪子本体110と、一部が前記制動摩擦面に露出する制動ブロック120とを有する。制輪子本体110は、円弧状の曲面形状を有し、円弧の内面側が制動摩擦面111である。一方、外面側にはコッタ部113が設けられている。
【0030】
制輪子本体110内には、前記制動ブロックの後方に位置して当該制輪子本体に鋳ぐるまれたバックメタル130が設けられている。バックメタル130は、制輪子本体と同程度の曲率を有する板状体131と、コッタ部に位置する連結体132を有する。バックメタルは、鋳鉄製制輪子本体110の亀裂破損防止のために設けられる。また、後述する制輪子の製造方法において、制動ブロックガイドの固定のために用いられる。
【0031】
制輪子本体110の材料としては、特に限定されないが、耐熱性、耐摩耗性等を考慮して、普通鋳鉄にリン、クロム、モリブデン、ニッケルなどの合金元素を添加した合金鋳鉄が挙げられる。
【0032】
本発明における合金鋳鉄は、パーライト基地と片状黒鉛の組み合せに、ステダイト(Fe+Fe3C+Fe3Pの三元共晶組織)やセメンタイトなど遊離炭化物を分散析出させたものを使用することが好適である。ここで、片状黒鉛は潤滑材としての役割を担う。
【0033】
当該パーライト基地に対して、上述の合金元素を添加することが好適である。これらの合金元素の中でも、リンを添加することが好適である。リンを添加することにより、合金鋳鉄中に硬質物質であるステダイトを生成させることができる。またリン(P)の含有量は、合金鋳鉄中、0.3〜2.0質量%が好適であり、1.5〜2.0質量%がより好適である。このように、リンの含有量を高めに添加した合金鋳鉄は、耐摩耗性に優れる。当該鋳鉄中のリン(P)の大部分は凝固においてFe3Pとしてγ+Fe3C+Fe3P三元共晶ステダイト中に晶出する。高リン鋳鉄が耐摩耗性に優れる原因として、基地組織中に晶出したステダイトの硬度が高いことが挙げられる。一方、ステダイトは基地部に比べて融点が低いことから、高リン鋳鉄は高速摩擦により表層部が一部軟化若しくは溶融して車輪に溶着し、摩擦性能を高めると云われる。しかし、車輪への溶着が多いと踏面が凹凸となり、有効接触面積が変動し、摩擦係数の低下を招く。この解消のため本発明に係る制動ブロックを用いてセラミックス粒子を供給させて踏面を平滑化する。すなわち、上記の高リン合金鋳鉄と、本発明に係る制動ブロックを組み合わせることによって、更に優れた耐摩耗性を有し、更に、摩擦係数を維持することのできる制輪子が得られる。
【0034】
その他、モリブデン(Mo)や、ニッケル(Ni)を添加することが好適であり、これらのレアメタルを添加することにより、パーライト基地を緻密化することができる。しかし、本発明の制動ブロックを用いることにより、制輪子を脆くしてしまう硬質相を多く発生させる必要がないので、これらのレアメタルの添加量を減らすことができる。
【0035】
尚、合金鋳鉄は、鉄(Fe)を含む合金である。当該鋳鉄の組成については、特に限定されないが、炭素(C)の含有量は2.5〜4.0質量%(より好適には、2.8〜3.5質量%)が好適であり、ケイ素(Si)の含有量は1.0〜3.0質量%(より好適には、1.5〜2.3質量%)が好適であり、マンガン(Mn)の含有量は0.01〜2.2質量%(より好適には0.3〜1.8質量%)が好適であり、リン(P)の含有量は0.01〜2.5質量%(より好適には0.3〜2.0質量%)が好適であり、硫黄(S)の含有量は0.0001〜1.0質量%(より好適には0.01〜0.15質量%)が好適である。
【0036】
本発明に係る摩擦材料を用いた場合には、特にMoやNiの含有量を減らすことができる。Ni含有量は0.4質量%以下(より好適には0.3質量%以下)が好適である。Mo含有量は0.8質量%以下(より好適には0.3質量%以下)が好適である。このような範囲の含有量である鋳鉄と、セラミック(特にアルミナ)との組合せによって、相乗効果を発揮して、特に高い制動性を発揮する制輪子を得ることができる。
【0037】
制動ブロック120は、一部が前記制動摩擦面に露出するように制輪子本体110内に埋め込まれている。制動ブロックとして、多孔質ブロックを使用することが好適であり、当該多孔質ブロックは、その空隙内も含めて全体を制輪子本体によって鋳ぐるむことにより一体化させることが好適である。多孔質ブロック120の形状は特に限定されないが、例えば、円柱状に形成されていることが好適である。これにより、後述する製造時に、型内に溶融鋳鉄を流し込んでブロックが浮上する時、型枠を壊さないという効果を奏する。本発明に係る制動ブロックは、以下の摩擦材料を用いることが好適である。
【0038】
摩擦材料
本発明に用いられる摩擦材料は、セラミックス及び炭素材料を含有する。本発明に係る摩擦材料は、多孔質ブロックであることが好適であり、より詳細には多孔質ブロックを形成する骨格の主成分がアルミナであることが好適である。尚、ここで主成分とは、50質量%以上を含有する成分を意味する。多孔質ブロックを用いることにより、当該孔内に合金鋳鉄などの他の材料を充填することができ、前記材料と当該ブロックとを一体化することができる。したがって、摩擦面が削れて消耗することによって、摺動面において均一に分散した状態で露出するため、セラミックス及び炭素材料が摩擦境界面に定量的に供給される。
【0039】
本発明において使用されるセラミックスは、特に限定されないが、例えば、アルミナ、シリカ、炭化珪素、ムライト、ジルコニア等が挙げられる。これらの中でも特にアルミナを使用することが好適である。
【0040】
本発明に係る摩擦材料において使用されるアルミナは、特に限定されないが、例えば、αアルミナを使用することができる。また、易焼結性アルミナを使用することが好適である。ここで、易焼結性アルミナとしては、低ソーダアルミナであることが好適である。ここで低ソーダアルミナとは、アルミナに対してソーダ分が0.10質量%以下のアルミナを意味する。ここで、ソーダ分の測定方法はJIS R9301‐3‐9:1999による。アルミナは、ソーダ分が多く含まれると焼結の際の結晶成長が不均一になり、焼結嵩密度に悪影響を与える。
【0041】
アルミナの熱伝導率は、15〜40J/m・sec・℃が好適である。尚、熱伝導率はJIS R1611に規定されている方法により測定する。アルミナの熱膨張係数は5.0〜9.0×10−6/℃が好適である。尚、熱膨張係数はJIS R1618に規定されている方法により測定する。また、アルミナのビッカース硬さは1.2〜2.5×104MPaであることが好適である。ビッカース硬さは、JIS C2141により測定する。
【0042】
本発明に係る摩擦材料においては、炭素材料を含有することが好適である。炭素材料(特にカーボンナノチューブ)とセラミックス(特にアルミナ)の組合せによって、制動性が向上すると共に、熱伝導率が高くなり車輪温度を低く保つことができるため、車輪への攻撃性が低くなる。また、炭素材料を含有することにより、熱伝導率の均一性が高まるため、ヒートスポットが発生しにくくなる。
【0043】
炭素材料としては、カーボンブラック、グラファイト、炭素繊維、ナノカーボンなどが挙げられる。これらの炭素材料の中でもナノカーボンが好適であり、ナノカーボンの中でもカーボンナノチューブが好適である。「ナノカーボン」とは、その材料の形状において、少なくとも一辺が1000nm以下(好適には500nm以下)の大きさを有するカーボンを意味し、例えば、カーボンナノチューブ(単層・二層・多層タイプ、カップスタック型)、カーボンナノファイバー、カーボンナノホーン、フラーレン、グラフェンを挙げることができる。ナノカーボンとして使用可能なカーボンナノチューブは、シングルウォールカーボンナノチューブ(SWCNT)であっても、マルチウォールカーボンナノチューブ(MWCNT)であってもよい。カーボンナノチューブの長さは、0.1〜100μmが好適であり、0.1〜50μmがより好適であり、0.1〜20μmが更に好適である。カーボンナノチューブの直径は、5〜200nmが好適であり、8〜160nmがより好適であり、9〜120nmが更に好適である。尚、当該チューブの長さ、直径は、AFM(原子間力顕微鏡)を用いて、所定範囲内に存在する100個以上の構造体について測定し、90%以上の個数が入る範囲とする。
【0044】
炭素材料の含有量としては、セラミックス100質量部に対して、0.01〜30質量部が好適であり、0.05〜20質量部がより好適であり、0.1〜10質量部が更に好適である。
【0045】
その他、任意成分として、タルク、蛙目粘土等の粘土、リン酸アルミニウムが含まれていてもよい。タルクの含有量としては、特に限定されないがセラミックス100質量部に対して、0.1〜10質量部が好適である。粘土の含有量としては、セラミックス100質量部に対して0.1〜10質量部が好適である。リン酸アルミニウムの含有量としては、特に限定されないがセラミックス100質量部に対して、2〜20質量部が好適であり、5〜15質量部がより好適であり、7〜13質量部が更に好適である。
【0046】
本発明に係る摩擦材料は、多孔質ブロックであることが好適である。また、当該多孔質ブロックは連通気泡を有することが好適である。多孔質ブロックの空孔率は、5〜30ppiが好適であり、7〜25ppiがより好適であり、10〜20ppiが更に好適である。
【0047】
ここで多孔質ブロックの製造方法は、特に限定されないが、例えば、含浸工程と、乾燥工程と、脱脂工程と、焼結工程を経て製造することができる。
【0048】
含浸工程とは、多孔質ブロックの骨格を形成するセラミックス及び炭素材料を分散又は溶解したスラリーを有機多孔体に含浸させる工程である。当該工程において有機多孔体としてポリウレタン発泡体を使用することが好適である。
【0049】
乾燥工程では、前記含浸工程後、含浸させたスラリーの溶媒を除去する。ここで、セラミックス材料スラリーの有機多孔体に対する添着量は、有機多孔体100質量部に対して、1000〜2500質量部程度が好適である。
【0050】
脱脂工程では、乾燥工程後、材料が被覆された有機多孔体を加熱して、当該有機多孔体の骨格を除去して、セラミックスの多孔質ブロックとする。
【0051】
最後に、焼結工程では、前記脱脂工程後の多孔質材料を焼結し、本発明に係るセラミックス多孔質ブロックを得る。尚、焼結工程は、前記脱脂工程と連続的に行なわれてもよい。
【0052】
続いて、本発明に係る制輪子の製造方法について説明する。本発明に係る制輪子は、上鋳型と下鋳型とからなる型を用いて製造することができる。まず、下鋳型にブロックガイドを有するバックメタルを、前記ブロックガイドを上面に向けて載置し、当該ブロックガイドに制動ブロックを固定する。ここで、ブロックガイドとは、例えば、バックメタルから制動摩擦面側に突き出た棒状の突起である。また、当該棒状突起の形状にあわせてガイドを通すための孔が制動ブロックの中心に設けられていてもよい。次に下鋳型に対して上鋳型を衝合して、この鋳型内に溶融鋳鉄を注湯する。すると、溶融鋳鉄との比重差によって各制動ブロックは浮き上がり、その一側面が制動摩擦面に当接した状態になる。制動ブロックとしてセラミックス多孔質ブロックを用いた場合には、この状態で溶融鋳鉄は当該多孔質ブロックの気孔内に流入し、多孔質ブロックと鋳鉄とが一体化する。そして、溶融鋳鉄を冷却することにより、バックメタルおよび制動ブロックを鋳ぐるんだ制輪子本体が固化形成され、本発明に係る制輪子が製造される。
【0053】
当該制動ブロックとして前記多孔質ブロックを用いる場合、溶融鋳鉄を流し込む前に、当該多孔質ブロックに塗型剤が塗布されていてもよい。塗型剤を塗布することにより、多孔質ブロックが崩壊するのを防ぐことができる。ここで塗型剤としては、鋳鉄用塗型剤であれば特に限定されないが、例えば、MgO・SiO2系やジルコン系塗型剤が挙げられる。
【0054】
本発明に係る制輪子は、鉄道などの車両用制輪子として使用することができ、当該制輪子の制動摩擦面を、車輪に押し当てて車両を制動する。本発明に係る制輪子は上述した構成からなり、また上記の製造方法により製造することによって、セラミックス多孔質ブロックを用いた場合には各気孔内に鋳鉄が充填された状態で当該ブロックとを制輪子本体とを一体化することができる。従って、制輪子の制動摩擦面にはセラミックス多孔質ブロックが鋳鉄と一体化した状態で実質的に均一に分散した状態で露出するから、制輪子が車輪に押圧された場合、セラミックス多孔質ブロックは車輪に平均に圧接することができ、セラミックスは車輪との摩擦境界面に逐次定量的に供給される。
【実施例】
【0055】
実施例1(アルミナ−カーボンナノチューブ多孔質ブロックの製造)
下記の表1の配合比に従って、アルミナ(大明化学工業(株)製、TM‐DAR)とカーボンナノチューブ(ナノカーボンテクノロジーズ製、(MWNT7)、チューブ径40〜90nm)が3質量%分散された水分散液とを混ぜ合わせこれにより得られたスラリーをサンプルサイズΦ75mm、厚み25mmのポリウレタンフォーム(イノアックコーポレーション製、MF−7)たてスキサンプルへ含浸させた。ここで、添着量は1個のサンプルあたり、50gであった。続いて50℃にて乾燥した後、酸化雰囲気にて25〜400℃、20℃/hの昇温スピードで加熱した後、400℃で3.5h保持し、窒素雰囲気にて400〜1450℃、200℃/hの昇温スピードで加熱して、1450℃で一時間保持することにより酸素雰囲気下で脱脂及び焼結工程を行なった。その後、自然冷却によって、常温に戻した。これにより、アルミナ−カーボンナノチューブ多孔質ブロックを得ることができた。得られたアルミナ−カーボンナノチューブ多孔質ブロックの写真を図2に示した。また、得られた多孔質ブロックの走査型電子顕微鏡(SEM)写真を図3〜図5に示した。これらの写真から、カーボンナノチューブが均一に分散している様子が観測された。
【0056】
ここで、得られたアルミナ−カーボンナノチューブ多孔質ブロックの空隙率は、10ppiであった。また、得られたアルミナ−カーボンナノチューブ多孔質ブロックの熱重量分析(TGA)によりカーボンナノチューブの含有量を測定し、そこに含まれる全炭素量をカーボンナノチューブ量と見做した(図6)。結果、カーボンナノチューブの含有量は、0.4〜0.6wt%であることがわかった。
【0057】
【表1】
【0058】
また、製造後、制輪子の製造のため、得られたカーボンナノチューブ−アルミナ多孔質ブロックに塗型剤{オカスーパー750B(MgO・SiO2系)}を塗布した。
【0059】
実施例2(制輪子の製造)
実施例1のアルミナ−カーボンナノチューブ多孔質ブロックを2個鋳ぐるんだ合金鋳鉄制輪子を製造した。ここで使用した合金鋳鉄の組成は、表2の合金鋳鉄に示した。以下、当該組成の合金鋳鉄を単に「合金鋳鉄」とする。製造した合金鋳鉄制輪子の写真を図7に示した。
【0060】
尚、後述する制動試験におけるセラミックス多孔質ブロックを含まない合金鋳鉄制輪子(比較例1)と、アルミナ多孔質ブロックを鋳ぐるんだ合金制輪子(比較例3)も同じ成分の合金鋳鉄を使用した。
【0061】
実施例3(制輪子の製造)
制輪子に用いた合金鋳鉄の組成を、表2の低合金鋳鉄に示したものに変更した以外は、実施例2と同様の方法で低合金鋳鉄制輪子を製造した。以下、表2の低合金鋳鉄の組成の合金鋳鉄を、「低合金鋳鉄」とする。尚、ここで、低合金鋳鉄とは、Cr、Mo及びNiなどのレアメタルの含有率が低い合金鋳鉄を意味する。
【0062】
尚、後述する制動試験におけるセラミックス多孔質ブロックを含まない低合金鋳鉄制輪子(比較例2)と、アルミナ多孔質ブロックを鋳ぐるんだ低合金制輪子(比較例4)も同じ成分の低合金鋳鉄を使用した。
【0063】
【表2】
【0064】
制動試験
上記当該鋳鉄制輪子について実物大ブレーキ試験を行った。この試験機では、実際の車両と同等の慣性モーメントを持った車輪が所定の速度で回転しているところに左右から2個の制輪子を押しつけ、停止するまでの各種性質を所定のブレーキ初速度毎に5回測定した。試験条件を表3に示す。尚、試験は、「JIS E 7501鉄道車両用鋳鉄制輪子の性能試験及び検査方法」の手順に一部準拠して行った。
【0065】
【表3】
【0066】
上記実施例2、3の制輪子と、セラミックス多孔質ブロックを含まない合金鋳鉄制輪子(比較例1)と、同じくセラミックス多孔質ブロックを含まない表2の低合金鋳鉄からなる低合金鋳鉄制輪子(比較例2)と、カーボンナノチューブを含まないアルミナ多孔質ブロックを鋳ぐるんだ合金鋳鉄制輪子(比較例3)と、カーボンナノチューブを含まないアルミナ多孔質ブロックを鋳ぐるんだ低合金鋳鉄制輪子(比較例4)と、を準備し、制動試験を行なった。図7は使用した各制輪子の写真である。図8は、初速度135km/hの条件における実験結果5回の平均結果を(a)制動距離、(b)制輪子の摩耗量、(c)各回における車輪最高温度の平均値である平均車輪最高温度、(d)各回における制輪子最高温度の平均値である平均制輪子最高温度をグラフ化して図8に示した。図9は、初速度135km/hの条件における各実験結果をまとめたグラフである。また、各条件において得られた実験値をまとめて表4に示した。なお、各評価項目の測定条件は以下に詳細を記載する。
【0067】
(制動距離)
初速度135km/hのブレーキ初速度から押付圧力40kNの条件で制輪子によりブレーキをかけて車両が停止するまでの距離を測定した。初速度125km/hで押付圧力40kNの条件、初速度95km/hで押付圧力25kNの条件に変更して前記の制動距離試験を行った。
【0068】
(摩耗量)
上記制動距離試験において車両を停止させる動作一回あたりに対して、単位制輪子あたりの制輪子摩耗量を測定した。
(車輪温度)
上記制動距離試験において車両を停止させた際の車輪温度を測定した。車輪温度は、外側面(反フランジ側)から10mm、40mm、70mm、踏面から深さ10mmの位置で測定した。
【0069】
(制輪子温度)
上記制動距離試験において車両を停止させた際の左右2個の制輪子の温度を測定した。温度の測定点は、制輪子の進入端面からの距離を40mm、摩擦面からの深さ10mmとした。
【0070】
【表4】
【0071】
表4、図8を参照すれば、制動ブロックとして、アルミナとカーボンナノチューブを含有するブロックを用いた場合(実施例2,3)には、アルミナ単体のブロックを用いた場合(比較例3,4)と比較して、制動距離が短くなり、高性能な制動性を発揮した(特に初速度135km/hにおいて)。また、車輪温度についても、実施例2,3の場合には、比較例3,4と比較して、最高温度が顕著に低くなる。車輪最高温度は、ブロックなしの場合(比較例1,2)と比較して、セラミックスブロックを使用した場合(比較例3,4、実施例2,3)には高くなったが、車輪へ影響を与えない程度の350℃以下であった。また、アルミナとカーボンナノチューブを含有するブロックを用いた場合(実施例2,3)には、(平均)制輪子最高温度は同程度であった。
【0072】
図8を参照すれば、制動ブロックを使用しない比較例1と比較例2での比較において、低合金鋳鉄を用いた場合(比較例2)には、制動距離が顕著に長くなる。これに対して低合金鋳鉄にセラミックスブロックを導入することにより、合金鋳鉄にセラミックスブロックを導入した場合と同程度の制動距離となる(比較例3,4、実施例2,3)。特に図9に示すように、制動ブロックを使用しない「なし」(比較例1,2)における制動距離を100%とした場合、低合金鋳鉄の場合にはセラミック導入による制動距離の短縮効果が顕著になる。また、カーボンナノチューブを導入することによって、制動距離は更に短くなる。特に、制輪子の摩耗量に関しては、セラミックスブロックの導入によって、顕著に低減している。このように、低合金鋳鉄と、セラミックスブロックの組合せにおいては、相乗効果を発揮する。
【0073】
(制動試験後の摩擦面の観察)
135km/hからのブレーキ試験に用いた、比較例3に係る制動ブロックがアルミナを含有する制輪子(以下、単に「アルミナ制輪子」とする)と、実施例2に係る制動ブロックとしてアルミナとカーボンナノチューブを含有する制輪子(以下、単にCNT制輪子とする)を調査対象とした。ブレーキ試験は両抱きのため、試験には制輪子を2個使用したが、左側に取り付けられていた制輪子のみを調査した。調査位置を図10に示す。
【0074】
調査対象となる制輪子の摩擦表面を走査型電子顕微鏡(SEM)により観察し、合わせてエネルギー分散型X線分析(EDX)による元素マッピングも実施した。
これらの結果を図11〜18に示した。尚、これらの写真は全て、左から右への方向が摩擦方向である。
【0075】
アルミナ制輪子と、CNT制輪子の摩擦側面を金属顕微鏡像にて観察した。図11は、実施例2に係る制輪子の摩擦面付近の切断面の金属顕微鏡像である。図12は比較例3に係る制輪子の摩擦面付近の切断面の金属顕微鏡像である。実施例2のCNT制輪子では、摩擦表面近傍にアルミナ粒子が残っている。
【0076】
CNT制輪子の摩擦表面付近の切断面のSEM像およびEDXによる元素マップを図13に示す。アルミナ制輪子の摩擦表面付近の切断面のSEM像及びEDXによる元素マップを図14に示す。これらの結果によれば、アルミナ制輪子の結果よりも、CNT制輪子では、摩擦表面近傍にアルミナ粒子が残っている。
【0077】
CNT制輪子の摩擦表面のSEM像およびEDXによる元素マップを図15〜図17に示す。図15には、摩擦表面に炭素が凝集している様子が観測され、これはCNTと考えられる。また、アルミ成分及び酸素成分が鋳鉄の領域を含めて全体に観察されている。図16は、図15を拡大したものである。この像から凝集体の主成分は炭素であることがわかり、CNTが凝集していると考えられる。図17は、摩擦表面に摩耗粉が凝集している箇所である。摩擦面には炭素が検出されており、CNTを含む物質が摩耗粒子をトラップしていると考えられる。
【0078】
アルミナ制輪子の摩擦表面のSEM像およびEDXによる元素マップを図18に示す。この図の摩擦表面にそれほどアルミナ粒子が残っていないことが観察される。
【0079】
135km/hからのブレーキ試験後のアルミナ制輪子およびCNT制輪子の摩擦側面および摩擦表面の金属顕微鏡および走査型電子顕微鏡による観察およびエネルギー分散型X線分析を実施した結果、アルミナ制輪子の摩擦表面には摩耗粒子の凝集は認められなかったが、CNT制輪子の摩擦表面には、摩耗粒子の凝集部分が認められた。
【0080】
合金鋳鉄制輪子は、高速からのブレーキにより、制輪子の摩擦表面が熱で溶融し、低速からのブレーキと比較して摩擦係数が低下する。合金鋳鉄制輪子にセラミックスを複合させると、高速からのブレーキ時に発生するセラミックスの摩耗粒子が車輪と制輪子間に介在し、そのことにより高速での摩擦係数の低下を抑えることが報告されている(非特許文献2)。CNT制輪子の摩擦表面には、凝集したCNTによるものと考えられる摩耗粒子が認められ、このことにより、CNT制輪子の摩擦係数が、アルミナ制輪子より高くなったと考えられる。
【符号の説明】
【0081】
100:制輪子
110:制輪子本体
111:制動摩擦面
113:コッタ部
120:制動ブロック
130:バックメタル
131:板状体
132:連結体
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規摩擦材料及びそれを用いた車両用制輪子に関する。
【背景技術】
【0002】
鉄道車両のブレーキ方式は、ディスク方式と踏面方式(制輪子)があり、一部の高速車両を除いた在来線には踏面方式が採用されている。この踏面方式に用いられる制輪子には、合金鋳鉄や、合成(フェノール樹脂系)や、焼結金属などの他、合金鋳鉄にセラミックスブロックを鋳込んだ制輪子(特許文献1)が挙げられる。鋳鉄制輪子は、車輪踏面を適度にあらすことにより、車輪/レール間の粘着力が安定して得られる。したがって、雨や雪の影響を受けにくく、更に、車輪への攻撃性(温度上昇や摩耗性)が低いことから、北海道などの雪の多い寒冷地で使用される。
【0003】
これまで、鋳鉄制輪子は、普通鋳鉄にリン、クロム、モリブデン、ニッケルなどの合金元素を添加することによって、摩擦特性及び耐摩耗性を改善した合金鋳鉄制輪子が開発され、高速化に対応してきた。合金鋳鉄制輪子の摩擦係数向上には、車輪との摩擦界面における炭化ケイ素セラミックスの介在が効果的であることが明らかにされている(文献1〜3、非特許文献1)。例えば、セラミックス粒子をあらかじめブロック状に成形して、鋳鉄制輪子に埋め込むことで、セラミックスブロックが、ブレーキ作動時に、セラミックス粒子を摩擦面に供給する働きをする、車両ブレーキ用制輪子が提案されている(特許文献1)。また、量産における歩留まり向上や、亀裂による欠け落ちの防止を目的として、セラミックス多孔質ブロックを使用することが提案されている(特許文献2〜3、非特許文献1、2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平7−103267号公報
【特許文献2】特開平10−30661号公報
【特許文献3】特開2001−246455号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】RTRI REPORT Vol.22,No.4,Apr.2008 p17−22.「摩擦特性に優れた鋳鉄複合化制輪子の開発」
【非特許文献2】T. Miyauchi, T. Tsujimura, K. Handa, J. Nakayama, K. Shimuzu, Influence of silicon carbide filters in cast iron composite brake blocks on brake performance and development of a production process Wear 267 (2009) 833-838
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従来の鋳鉄制輪子に用いられる制動ブロックとしては炭化ケイ素セラミックスが用いられてきたが、当該セラミックスを用いた場合、高い摩擦特性が得られるものの、車輪への攻撃性(摩耗、熱負荷)が高くなるという問題があった。
本発明は、上記の問題を解決するために、摩擦特性が高く、更に、車輪への攻撃性の低い制動ブロック及び車両用制輪子を提供することを目的とする。
【0007】
また、本発明の他の目的は、摩擦特性に優れた摩擦材料を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明(1)は、制動摩擦面を有する鋳鉄製の制輪子本体と、
前記制輪子本体に埋め込まれており、一部が前記制動摩擦面に露出する制動ブロックとを有する、車両用制輪子において、
前記制動ブロックが、セラミックス及び炭素材料を含有することを特徴とする、車両用制輪子である。
【0009】
本発明(2)は、前記セラミックスが、アルミナを含有することを特徴とする、前記発明(1)の車両用制輪子である。
【0010】
本発明(3)は、前記炭素材料が、カーボンナノチューブ又はグラフェンであることを特徴とする、前記発明(1)又は(2)の車両用制輪子である。
【0011】
本発明(4)は、前記鋳鉄が、合金鋳鉄であることを特徴とする、前記発明(1)〜(3)のいずれか一つの車両用制輪子である。
【0012】
本発明(5)は、前記合金鋳鉄は、Mo含有量が0.3質量%以下、Ni含有量が0.3質量%以下であることを特徴とする、前記発明(4)の車両用制輪子である。ここで、Mo含有量はモリブデンの含有量を意味する。Ni含有量はニッケルの含有量を意味する。
【0013】
本発明(6)は、前記合金鋳鉄は、P含有量が、0.3〜2.0質量%である、前記発明(4)又は(5)の車両用制輪子である。ここで、P含有量はリンの含有量を意味する。
【0014】
本発明(7)は、前記制動ブロックが、多孔質ブロックであることを特徴とする、前記発明(1)〜(6)のいずれか一つの車両用制輪子である。
【0015】
本発明(8)は、セラミックス及び炭素材料を含有する骨格を有する多孔質ブロックであることを特徴とする、摩擦材料である。
【0016】
本発明(9)は、前記セラミックスが、アルミナを含有することを特徴とする、前記発明(8)の摩擦材料である。
【0017】
本発明(10)は、前記炭素材料が、カーボンナノチューブ又はグラフェンであることを特徴とする、前記発明(8)又は(9)の摩擦材料である。
【0018】
本発明(11)は、前記多孔質ブロックが、セラミックスを主成分とする骨格を有し、
前記炭素材料が、前記骨格の中に分散していることを特徴とする、前記発明(8)〜(10)のいずれか一つの摩擦材料である。
【0019】
本発明(12)は、前記多孔質ブロックが、鋳型として用いる発泡高分子材料に対して、セラミックス及び炭素材料を含むスラリーを含浸し乾燥させて、当該発泡高分子を取り除く脱脂を行い、更に、セラミックスを焼結することにより得られることを特徴とする、前記発明(8)〜(11)のいずれか一つの摩擦材料である。
【0020】
ここで本明細書において使用される各種用語の意味を説明する。「摩擦材料」とは、摩擦面に配されて使用される材料の形状及び素材の組成に係るものを意味する。本明細書における摩擦材料は、そのまま制輪子用の制動ブロックとして使用可能であるが、ディスク板やライニング材など、他の用途の制動ブロックに用いられることも想定される。「セラミックス」とは、基本成分が無機化合物である材料を意味する。ここで「基本成分が無機化合物である材料」とは、成分中50質量%以上が無機化合物である材料を意味する。「炭素材料」とは、sp2混成軌道を有する炭素原子が、π結合を介して六角形又は五角形の格子状に配されている材料を意味する。
【発明の効果】
【0021】
本発明に係る制輪子によれば、セラミックスを含有する制動ブロックに、炭素材料(特にカーボンナノチューブ)が添加されることによって、制動性の向上や、車輪攻撃性の低下といった効果を奏する。より詳細には、本発明に係る制輪子によれば、特に高速域で、優れた制動性を発揮するという性質を有する。また、本発明に係る制輪子によれば、車輪温度の上昇を抑制することができるので、車輪の耐熱亀裂性の向上に寄与するという効果を奏する。
【0022】
合金鋳鉄を用いる場合には、従来、合金鋳鉄中にリンやクロムなどを添加することにより、これに由来する硬質相(ステダイトやセメンタイト)を生成し摩擦係数を向上させることが行なわれてきた。しかし、リン等の添加による多量の硬質相の存在は材質を脆くさせ熱亀裂が発生しやすくなるため、合金鋳鉄の基地(パーライト)を緻密化させるために、モリブデンやニッケルといったレアメタルが使用されてきた。これに対して、本発明に係る制輪子によれば、摩擦係数の向上効果を有するため、合金鋳鉄中に添加するリンの量を減らすことが可能となり、これに伴って前記レアメタルの添加量も減らすことができるので、低価格の制輪子を得ることが可能となる。上記の他、モリブデン、クロム、マンガンは遊離炭化物としてのセメンタイトを促進する効果があり、低い融点で溶け出すステダイトに替わる高温域での硬質相として摩擦特性を安定化するものとされる。本発明ではステダイト相の溶出を防げることから遊離炭化物そのものの析出を低減できるので、モリブデンやクロムの添加量を抑制できる。
【0023】
本発明に係る摩擦材料は、多孔質であることによって、制輪子内に埋め込んだ場合に、適度に制動摩擦面に露出するため、適度にセラミックス粒子が脱落し、制動摩擦面に供給される。更に、強度の観点からも、セラミックスの多孔質ブロック自体は脆いが、空孔部にマトリックスとなる合金鋳鉄が進入し補強されるため、大きな脱落が無くなる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】図1は、本発明に係る制輪子の概略構成図であり、(a)は正面図、(b)は側面断面図である。
【図2】図2は、実施例において使用したカーボンナノチューブ−アルミナ多孔質ブロックの写真である。
【図3】図3は、実施例に係るカーボンナノチューブ−アルミナ多孔質ブロックのSEM写真である。
【図4】図4は、実施例に係るカーボンナノチューブ−アルミナ多孔質ブロックのSEM写真である。
【図5】図5は、実施例に係るカーボンナノチューブ−アルミナ多孔質ブロックのSEM写真である。
【図6】図6は、実施例に係るカーボンナノチューブ−アルミナ多孔質ブロックのTGAの測定結果を示すグラフである。
【図7】図7は、実施例において使用した制輪子の写真である。
【図8】図8は、制動試験における各種評価項目の試験結果を示す図である。
【図9】図9は、制動試験における各種評価項目の試験結果を示す図である。
【図10】図10は、制動試験後の制輪子の切断箇所及び観察箇所を説明する図である。
【図11】図11は、実施例2に係る制輪子の摩擦面付近の切断面の金属顕微鏡像である。
【図12】図12は比較例3に係る制輪子の摩擦面付近の切断面の金属顕微鏡像である。
【図13】図13は、実施例2に係る制輪子の切断面のSEM像およびEDXによる元素マップである。
【図14】図14は、比較例3に係る制輪子の切断面のSEM像およびEDXによる元素マップである。
【図15】図15は、実施例2に係る制輪子の摩擦面のSEM像およびEDXによる元素マップである。
【図16】図16は、実施例2に係る制輪子の摩擦面のSEM像およびEDXによる元素マップである。
【図17】図17は、実施例2に係る制輪子の摩擦面のSEM像およびEDXによる元素マップである。
【図18】図18は、比較例3に係る制輪子の摩擦面のSEM像およびEDXによる元素マップである。
【発明を実施するための形態】
【0025】
本発明に係る制輪子は、制動摩擦面を有する鋳鉄製の制輪子本体と、前記制輪子本体に埋め込まれており、一部が前記制動摩擦面に露出する制動ブロックとを有する。更に本発明は、前記制動ブロックが、セラミックス及び炭素材料を含有することを特徴とする。すなわち、制動ブロックとしてセラミックス及び炭素材料の組合せを選択することにより、制動性の向上に寄与するといった効果を奏し、更に、摩擦により発生する熱を吸収し易く、車輪温度の低下に寄与する摩擦材料となる。
【0026】
このようにセラミックス及び炭素材料の組合せによって相乗効果が得られる推定理由を説明する。実施例に示すように、相乗効果が得られる理由を詳細に検討するために、制動試験後の制輪子の制動摩擦面を走査型電子顕微鏡(SEM)画像及びエネルギー分散型X線分析(EDX)による元素マップにより観察した(図13〜18)。この結果、カーボンナノチューブ(CNT)を含有しないアルミナの制動ブロックの場合、アルミナは制動摩擦面における鋳鉄の領域においてはほとんど観察されない(図18)。これに対して、制動ブロックとしての摩擦材料内にカーボンナノチューブが含まれる場合には、アルミナ等のセラミックスが鋳鉄の領域を含めて、制輪子表面に多く供給されていることがわかった(図15〜17)。
【0027】
すなわち上記の結果から、制動ブロックがアルミナを含有する制輪子(以下、単に「アルミナ制輪子」とする)の摩擦表面には摩耗粒子の凝集は認められないが、制動ブロックがアルミナとカーボンナノチューブを含有する制輪子(以下、単に「CNT制輪子」とする)の摩擦表面には、摩耗粒子の凝集部分が認められた。このように摩耗粒子の凝集部分が存在することによって、高い制動性を発揮しているものと考えられる。合金鋳鉄制輪子は、高速からのブレーキにより、制輪子の摩擦表面が熱で溶融し、低速からのブレーキと比較して摩擦係数が低下する。高速域からのブレーキにおいて、制輪子鋳鉄部の摩擦表面層の軟化・溶融が起こり、セラミックス多孔体からは摩耗粒子が排出される。制輪子中のセラミックス多孔体が制輪子の温度上昇を抑え、耐熱性の高いセラミックス硬質摩耗粒子が車輪と制輪子間の摩擦表面に埋め込まれることによって、制輪子の摩擦表面が溶融による摩擦係数の低下を防ぐと考えられる。合金鋳鉄制輪子にセラミックスを複合させると、高速からのブレーキ時に発生するセラミックスの摩耗粒子が車輪と制輪子間に介在し、そのことにより高速での摩擦係数の低下を抑えることが報告されている(非特許文献2)。
【0028】
EDXにより、CNT制輪子の摩擦表面には、凝集したCNTによるものと考えられる摩耗粒子も認められる。これが摩耗粒子を捕捉する効果を有するためセラミックスの摩耗粒子が車輪と制輪子間に留まり、CNT制輪子の摩擦係数の低下を防ぐことができたと考えられる。
【0029】
制輪子
図1は、本発明に係る制輪子の概略構成図であり、(a)は正面図、(b)は側面断面図を示す。制輪子100は、制動摩擦面111を有する鋳鉄製の制輪子本体110と、一部が前記制動摩擦面に露出する制動ブロック120とを有する。制輪子本体110は、円弧状の曲面形状を有し、円弧の内面側が制動摩擦面111である。一方、外面側にはコッタ部113が設けられている。
【0030】
制輪子本体110内には、前記制動ブロックの後方に位置して当該制輪子本体に鋳ぐるまれたバックメタル130が設けられている。バックメタル130は、制輪子本体と同程度の曲率を有する板状体131と、コッタ部に位置する連結体132を有する。バックメタルは、鋳鉄製制輪子本体110の亀裂破損防止のために設けられる。また、後述する制輪子の製造方法において、制動ブロックガイドの固定のために用いられる。
【0031】
制輪子本体110の材料としては、特に限定されないが、耐熱性、耐摩耗性等を考慮して、普通鋳鉄にリン、クロム、モリブデン、ニッケルなどの合金元素を添加した合金鋳鉄が挙げられる。
【0032】
本発明における合金鋳鉄は、パーライト基地と片状黒鉛の組み合せに、ステダイト(Fe+Fe3C+Fe3Pの三元共晶組織)やセメンタイトなど遊離炭化物を分散析出させたものを使用することが好適である。ここで、片状黒鉛は潤滑材としての役割を担う。
【0033】
当該パーライト基地に対して、上述の合金元素を添加することが好適である。これらの合金元素の中でも、リンを添加することが好適である。リンを添加することにより、合金鋳鉄中に硬質物質であるステダイトを生成させることができる。またリン(P)の含有量は、合金鋳鉄中、0.3〜2.0質量%が好適であり、1.5〜2.0質量%がより好適である。このように、リンの含有量を高めに添加した合金鋳鉄は、耐摩耗性に優れる。当該鋳鉄中のリン(P)の大部分は凝固においてFe3Pとしてγ+Fe3C+Fe3P三元共晶ステダイト中に晶出する。高リン鋳鉄が耐摩耗性に優れる原因として、基地組織中に晶出したステダイトの硬度が高いことが挙げられる。一方、ステダイトは基地部に比べて融点が低いことから、高リン鋳鉄は高速摩擦により表層部が一部軟化若しくは溶融して車輪に溶着し、摩擦性能を高めると云われる。しかし、車輪への溶着が多いと踏面が凹凸となり、有効接触面積が変動し、摩擦係数の低下を招く。この解消のため本発明に係る制動ブロックを用いてセラミックス粒子を供給させて踏面を平滑化する。すなわち、上記の高リン合金鋳鉄と、本発明に係る制動ブロックを組み合わせることによって、更に優れた耐摩耗性を有し、更に、摩擦係数を維持することのできる制輪子が得られる。
【0034】
その他、モリブデン(Mo)や、ニッケル(Ni)を添加することが好適であり、これらのレアメタルを添加することにより、パーライト基地を緻密化することができる。しかし、本発明の制動ブロックを用いることにより、制輪子を脆くしてしまう硬質相を多く発生させる必要がないので、これらのレアメタルの添加量を減らすことができる。
【0035】
尚、合金鋳鉄は、鉄(Fe)を含む合金である。当該鋳鉄の組成については、特に限定されないが、炭素(C)の含有量は2.5〜4.0質量%(より好適には、2.8〜3.5質量%)が好適であり、ケイ素(Si)の含有量は1.0〜3.0質量%(より好適には、1.5〜2.3質量%)が好適であり、マンガン(Mn)の含有量は0.01〜2.2質量%(より好適には0.3〜1.8質量%)が好適であり、リン(P)の含有量は0.01〜2.5質量%(より好適には0.3〜2.0質量%)が好適であり、硫黄(S)の含有量は0.0001〜1.0質量%(より好適には0.01〜0.15質量%)が好適である。
【0036】
本発明に係る摩擦材料を用いた場合には、特にMoやNiの含有量を減らすことができる。Ni含有量は0.4質量%以下(より好適には0.3質量%以下)が好適である。Mo含有量は0.8質量%以下(より好適には0.3質量%以下)が好適である。このような範囲の含有量である鋳鉄と、セラミック(特にアルミナ)との組合せによって、相乗効果を発揮して、特に高い制動性を発揮する制輪子を得ることができる。
【0037】
制動ブロック120は、一部が前記制動摩擦面に露出するように制輪子本体110内に埋め込まれている。制動ブロックとして、多孔質ブロックを使用することが好適であり、当該多孔質ブロックは、その空隙内も含めて全体を制輪子本体によって鋳ぐるむことにより一体化させることが好適である。多孔質ブロック120の形状は特に限定されないが、例えば、円柱状に形成されていることが好適である。これにより、後述する製造時に、型内に溶融鋳鉄を流し込んでブロックが浮上する時、型枠を壊さないという効果を奏する。本発明に係る制動ブロックは、以下の摩擦材料を用いることが好適である。
【0038】
摩擦材料
本発明に用いられる摩擦材料は、セラミックス及び炭素材料を含有する。本発明に係る摩擦材料は、多孔質ブロックであることが好適であり、より詳細には多孔質ブロックを形成する骨格の主成分がアルミナであることが好適である。尚、ここで主成分とは、50質量%以上を含有する成分を意味する。多孔質ブロックを用いることにより、当該孔内に合金鋳鉄などの他の材料を充填することができ、前記材料と当該ブロックとを一体化することができる。したがって、摩擦面が削れて消耗することによって、摺動面において均一に分散した状態で露出するため、セラミックス及び炭素材料が摩擦境界面に定量的に供給される。
【0039】
本発明において使用されるセラミックスは、特に限定されないが、例えば、アルミナ、シリカ、炭化珪素、ムライト、ジルコニア等が挙げられる。これらの中でも特にアルミナを使用することが好適である。
【0040】
本発明に係る摩擦材料において使用されるアルミナは、特に限定されないが、例えば、αアルミナを使用することができる。また、易焼結性アルミナを使用することが好適である。ここで、易焼結性アルミナとしては、低ソーダアルミナであることが好適である。ここで低ソーダアルミナとは、アルミナに対してソーダ分が0.10質量%以下のアルミナを意味する。ここで、ソーダ分の測定方法はJIS R9301‐3‐9:1999による。アルミナは、ソーダ分が多く含まれると焼結の際の結晶成長が不均一になり、焼結嵩密度に悪影響を与える。
【0041】
アルミナの熱伝導率は、15〜40J/m・sec・℃が好適である。尚、熱伝導率はJIS R1611に規定されている方法により測定する。アルミナの熱膨張係数は5.0〜9.0×10−6/℃が好適である。尚、熱膨張係数はJIS R1618に規定されている方法により測定する。また、アルミナのビッカース硬さは1.2〜2.5×104MPaであることが好適である。ビッカース硬さは、JIS C2141により測定する。
【0042】
本発明に係る摩擦材料においては、炭素材料を含有することが好適である。炭素材料(特にカーボンナノチューブ)とセラミックス(特にアルミナ)の組合せによって、制動性が向上すると共に、熱伝導率が高くなり車輪温度を低く保つことができるため、車輪への攻撃性が低くなる。また、炭素材料を含有することにより、熱伝導率の均一性が高まるため、ヒートスポットが発生しにくくなる。
【0043】
炭素材料としては、カーボンブラック、グラファイト、炭素繊維、ナノカーボンなどが挙げられる。これらの炭素材料の中でもナノカーボンが好適であり、ナノカーボンの中でもカーボンナノチューブが好適である。「ナノカーボン」とは、その材料の形状において、少なくとも一辺が1000nm以下(好適には500nm以下)の大きさを有するカーボンを意味し、例えば、カーボンナノチューブ(単層・二層・多層タイプ、カップスタック型)、カーボンナノファイバー、カーボンナノホーン、フラーレン、グラフェンを挙げることができる。ナノカーボンとして使用可能なカーボンナノチューブは、シングルウォールカーボンナノチューブ(SWCNT)であっても、マルチウォールカーボンナノチューブ(MWCNT)であってもよい。カーボンナノチューブの長さは、0.1〜100μmが好適であり、0.1〜50μmがより好適であり、0.1〜20μmが更に好適である。カーボンナノチューブの直径は、5〜200nmが好適であり、8〜160nmがより好適であり、9〜120nmが更に好適である。尚、当該チューブの長さ、直径は、AFM(原子間力顕微鏡)を用いて、所定範囲内に存在する100個以上の構造体について測定し、90%以上の個数が入る範囲とする。
【0044】
炭素材料の含有量としては、セラミックス100質量部に対して、0.01〜30質量部が好適であり、0.05〜20質量部がより好適であり、0.1〜10質量部が更に好適である。
【0045】
その他、任意成分として、タルク、蛙目粘土等の粘土、リン酸アルミニウムが含まれていてもよい。タルクの含有量としては、特に限定されないがセラミックス100質量部に対して、0.1〜10質量部が好適である。粘土の含有量としては、セラミックス100質量部に対して0.1〜10質量部が好適である。リン酸アルミニウムの含有量としては、特に限定されないがセラミックス100質量部に対して、2〜20質量部が好適であり、5〜15質量部がより好適であり、7〜13質量部が更に好適である。
【0046】
本発明に係る摩擦材料は、多孔質ブロックであることが好適である。また、当該多孔質ブロックは連通気泡を有することが好適である。多孔質ブロックの空孔率は、5〜30ppiが好適であり、7〜25ppiがより好適であり、10〜20ppiが更に好適である。
【0047】
ここで多孔質ブロックの製造方法は、特に限定されないが、例えば、含浸工程と、乾燥工程と、脱脂工程と、焼結工程を経て製造することができる。
【0048】
含浸工程とは、多孔質ブロックの骨格を形成するセラミックス及び炭素材料を分散又は溶解したスラリーを有機多孔体に含浸させる工程である。当該工程において有機多孔体としてポリウレタン発泡体を使用することが好適である。
【0049】
乾燥工程では、前記含浸工程後、含浸させたスラリーの溶媒を除去する。ここで、セラミックス材料スラリーの有機多孔体に対する添着量は、有機多孔体100質量部に対して、1000〜2500質量部程度が好適である。
【0050】
脱脂工程では、乾燥工程後、材料が被覆された有機多孔体を加熱して、当該有機多孔体の骨格を除去して、セラミックスの多孔質ブロックとする。
【0051】
最後に、焼結工程では、前記脱脂工程後の多孔質材料を焼結し、本発明に係るセラミックス多孔質ブロックを得る。尚、焼結工程は、前記脱脂工程と連続的に行なわれてもよい。
【0052】
続いて、本発明に係る制輪子の製造方法について説明する。本発明に係る制輪子は、上鋳型と下鋳型とからなる型を用いて製造することができる。まず、下鋳型にブロックガイドを有するバックメタルを、前記ブロックガイドを上面に向けて載置し、当該ブロックガイドに制動ブロックを固定する。ここで、ブロックガイドとは、例えば、バックメタルから制動摩擦面側に突き出た棒状の突起である。また、当該棒状突起の形状にあわせてガイドを通すための孔が制動ブロックの中心に設けられていてもよい。次に下鋳型に対して上鋳型を衝合して、この鋳型内に溶融鋳鉄を注湯する。すると、溶融鋳鉄との比重差によって各制動ブロックは浮き上がり、その一側面が制動摩擦面に当接した状態になる。制動ブロックとしてセラミックス多孔質ブロックを用いた場合には、この状態で溶融鋳鉄は当該多孔質ブロックの気孔内に流入し、多孔質ブロックと鋳鉄とが一体化する。そして、溶融鋳鉄を冷却することにより、バックメタルおよび制動ブロックを鋳ぐるんだ制輪子本体が固化形成され、本発明に係る制輪子が製造される。
【0053】
当該制動ブロックとして前記多孔質ブロックを用いる場合、溶融鋳鉄を流し込む前に、当該多孔質ブロックに塗型剤が塗布されていてもよい。塗型剤を塗布することにより、多孔質ブロックが崩壊するのを防ぐことができる。ここで塗型剤としては、鋳鉄用塗型剤であれば特に限定されないが、例えば、MgO・SiO2系やジルコン系塗型剤が挙げられる。
【0054】
本発明に係る制輪子は、鉄道などの車両用制輪子として使用することができ、当該制輪子の制動摩擦面を、車輪に押し当てて車両を制動する。本発明に係る制輪子は上述した構成からなり、また上記の製造方法により製造することによって、セラミックス多孔質ブロックを用いた場合には各気孔内に鋳鉄が充填された状態で当該ブロックとを制輪子本体とを一体化することができる。従って、制輪子の制動摩擦面にはセラミックス多孔質ブロックが鋳鉄と一体化した状態で実質的に均一に分散した状態で露出するから、制輪子が車輪に押圧された場合、セラミックス多孔質ブロックは車輪に平均に圧接することができ、セラミックスは車輪との摩擦境界面に逐次定量的に供給される。
【実施例】
【0055】
実施例1(アルミナ−カーボンナノチューブ多孔質ブロックの製造)
下記の表1の配合比に従って、アルミナ(大明化学工業(株)製、TM‐DAR)とカーボンナノチューブ(ナノカーボンテクノロジーズ製、(MWNT7)、チューブ径40〜90nm)が3質量%分散された水分散液とを混ぜ合わせこれにより得られたスラリーをサンプルサイズΦ75mm、厚み25mmのポリウレタンフォーム(イノアックコーポレーション製、MF−7)たてスキサンプルへ含浸させた。ここで、添着量は1個のサンプルあたり、50gであった。続いて50℃にて乾燥した後、酸化雰囲気にて25〜400℃、20℃/hの昇温スピードで加熱した後、400℃で3.5h保持し、窒素雰囲気にて400〜1450℃、200℃/hの昇温スピードで加熱して、1450℃で一時間保持することにより酸素雰囲気下で脱脂及び焼結工程を行なった。その後、自然冷却によって、常温に戻した。これにより、アルミナ−カーボンナノチューブ多孔質ブロックを得ることができた。得られたアルミナ−カーボンナノチューブ多孔質ブロックの写真を図2に示した。また、得られた多孔質ブロックの走査型電子顕微鏡(SEM)写真を図3〜図5に示した。これらの写真から、カーボンナノチューブが均一に分散している様子が観測された。
【0056】
ここで、得られたアルミナ−カーボンナノチューブ多孔質ブロックの空隙率は、10ppiであった。また、得られたアルミナ−カーボンナノチューブ多孔質ブロックの熱重量分析(TGA)によりカーボンナノチューブの含有量を測定し、そこに含まれる全炭素量をカーボンナノチューブ量と見做した(図6)。結果、カーボンナノチューブの含有量は、0.4〜0.6wt%であることがわかった。
【0057】
【表1】
【0058】
また、製造後、制輪子の製造のため、得られたカーボンナノチューブ−アルミナ多孔質ブロックに塗型剤{オカスーパー750B(MgO・SiO2系)}を塗布した。
【0059】
実施例2(制輪子の製造)
実施例1のアルミナ−カーボンナノチューブ多孔質ブロックを2個鋳ぐるんだ合金鋳鉄制輪子を製造した。ここで使用した合金鋳鉄の組成は、表2の合金鋳鉄に示した。以下、当該組成の合金鋳鉄を単に「合金鋳鉄」とする。製造した合金鋳鉄制輪子の写真を図7に示した。
【0060】
尚、後述する制動試験におけるセラミックス多孔質ブロックを含まない合金鋳鉄制輪子(比較例1)と、アルミナ多孔質ブロックを鋳ぐるんだ合金制輪子(比較例3)も同じ成分の合金鋳鉄を使用した。
【0061】
実施例3(制輪子の製造)
制輪子に用いた合金鋳鉄の組成を、表2の低合金鋳鉄に示したものに変更した以外は、実施例2と同様の方法で低合金鋳鉄制輪子を製造した。以下、表2の低合金鋳鉄の組成の合金鋳鉄を、「低合金鋳鉄」とする。尚、ここで、低合金鋳鉄とは、Cr、Mo及びNiなどのレアメタルの含有率が低い合金鋳鉄を意味する。
【0062】
尚、後述する制動試験におけるセラミックス多孔質ブロックを含まない低合金鋳鉄制輪子(比較例2)と、アルミナ多孔質ブロックを鋳ぐるんだ低合金制輪子(比較例4)も同じ成分の低合金鋳鉄を使用した。
【0063】
【表2】
【0064】
制動試験
上記当該鋳鉄制輪子について実物大ブレーキ試験を行った。この試験機では、実際の車両と同等の慣性モーメントを持った車輪が所定の速度で回転しているところに左右から2個の制輪子を押しつけ、停止するまでの各種性質を所定のブレーキ初速度毎に5回測定した。試験条件を表3に示す。尚、試験は、「JIS E 7501鉄道車両用鋳鉄制輪子の性能試験及び検査方法」の手順に一部準拠して行った。
【0065】
【表3】
【0066】
上記実施例2、3の制輪子と、セラミックス多孔質ブロックを含まない合金鋳鉄制輪子(比較例1)と、同じくセラミックス多孔質ブロックを含まない表2の低合金鋳鉄からなる低合金鋳鉄制輪子(比較例2)と、カーボンナノチューブを含まないアルミナ多孔質ブロックを鋳ぐるんだ合金鋳鉄制輪子(比較例3)と、カーボンナノチューブを含まないアルミナ多孔質ブロックを鋳ぐるんだ低合金鋳鉄制輪子(比較例4)と、を準備し、制動試験を行なった。図7は使用した各制輪子の写真である。図8は、初速度135km/hの条件における実験結果5回の平均結果を(a)制動距離、(b)制輪子の摩耗量、(c)各回における車輪最高温度の平均値である平均車輪最高温度、(d)各回における制輪子最高温度の平均値である平均制輪子最高温度をグラフ化して図8に示した。図9は、初速度135km/hの条件における各実験結果をまとめたグラフである。また、各条件において得られた実験値をまとめて表4に示した。なお、各評価項目の測定条件は以下に詳細を記載する。
【0067】
(制動距離)
初速度135km/hのブレーキ初速度から押付圧力40kNの条件で制輪子によりブレーキをかけて車両が停止するまでの距離を測定した。初速度125km/hで押付圧力40kNの条件、初速度95km/hで押付圧力25kNの条件に変更して前記の制動距離試験を行った。
【0068】
(摩耗量)
上記制動距離試験において車両を停止させる動作一回あたりに対して、単位制輪子あたりの制輪子摩耗量を測定した。
(車輪温度)
上記制動距離試験において車両を停止させた際の車輪温度を測定した。車輪温度は、外側面(反フランジ側)から10mm、40mm、70mm、踏面から深さ10mmの位置で測定した。
【0069】
(制輪子温度)
上記制動距離試験において車両を停止させた際の左右2個の制輪子の温度を測定した。温度の測定点は、制輪子の進入端面からの距離を40mm、摩擦面からの深さ10mmとした。
【0070】
【表4】
【0071】
表4、図8を参照すれば、制動ブロックとして、アルミナとカーボンナノチューブを含有するブロックを用いた場合(実施例2,3)には、アルミナ単体のブロックを用いた場合(比較例3,4)と比較して、制動距離が短くなり、高性能な制動性を発揮した(特に初速度135km/hにおいて)。また、車輪温度についても、実施例2,3の場合には、比較例3,4と比較して、最高温度が顕著に低くなる。車輪最高温度は、ブロックなしの場合(比較例1,2)と比較して、セラミックスブロックを使用した場合(比較例3,4、実施例2,3)には高くなったが、車輪へ影響を与えない程度の350℃以下であった。また、アルミナとカーボンナノチューブを含有するブロックを用いた場合(実施例2,3)には、(平均)制輪子最高温度は同程度であった。
【0072】
図8を参照すれば、制動ブロックを使用しない比較例1と比較例2での比較において、低合金鋳鉄を用いた場合(比較例2)には、制動距離が顕著に長くなる。これに対して低合金鋳鉄にセラミックスブロックを導入することにより、合金鋳鉄にセラミックスブロックを導入した場合と同程度の制動距離となる(比較例3,4、実施例2,3)。特に図9に示すように、制動ブロックを使用しない「なし」(比較例1,2)における制動距離を100%とした場合、低合金鋳鉄の場合にはセラミック導入による制動距離の短縮効果が顕著になる。また、カーボンナノチューブを導入することによって、制動距離は更に短くなる。特に、制輪子の摩耗量に関しては、セラミックスブロックの導入によって、顕著に低減している。このように、低合金鋳鉄と、セラミックスブロックの組合せにおいては、相乗効果を発揮する。
【0073】
(制動試験後の摩擦面の観察)
135km/hからのブレーキ試験に用いた、比較例3に係る制動ブロックがアルミナを含有する制輪子(以下、単に「アルミナ制輪子」とする)と、実施例2に係る制動ブロックとしてアルミナとカーボンナノチューブを含有する制輪子(以下、単にCNT制輪子とする)を調査対象とした。ブレーキ試験は両抱きのため、試験には制輪子を2個使用したが、左側に取り付けられていた制輪子のみを調査した。調査位置を図10に示す。
【0074】
調査対象となる制輪子の摩擦表面を走査型電子顕微鏡(SEM)により観察し、合わせてエネルギー分散型X線分析(EDX)による元素マッピングも実施した。
これらの結果を図11〜18に示した。尚、これらの写真は全て、左から右への方向が摩擦方向である。
【0075】
アルミナ制輪子と、CNT制輪子の摩擦側面を金属顕微鏡像にて観察した。図11は、実施例2に係る制輪子の摩擦面付近の切断面の金属顕微鏡像である。図12は比較例3に係る制輪子の摩擦面付近の切断面の金属顕微鏡像である。実施例2のCNT制輪子では、摩擦表面近傍にアルミナ粒子が残っている。
【0076】
CNT制輪子の摩擦表面付近の切断面のSEM像およびEDXによる元素マップを図13に示す。アルミナ制輪子の摩擦表面付近の切断面のSEM像及びEDXによる元素マップを図14に示す。これらの結果によれば、アルミナ制輪子の結果よりも、CNT制輪子では、摩擦表面近傍にアルミナ粒子が残っている。
【0077】
CNT制輪子の摩擦表面のSEM像およびEDXによる元素マップを図15〜図17に示す。図15には、摩擦表面に炭素が凝集している様子が観測され、これはCNTと考えられる。また、アルミ成分及び酸素成分が鋳鉄の領域を含めて全体に観察されている。図16は、図15を拡大したものである。この像から凝集体の主成分は炭素であることがわかり、CNTが凝集していると考えられる。図17は、摩擦表面に摩耗粉が凝集している箇所である。摩擦面には炭素が検出されており、CNTを含む物質が摩耗粒子をトラップしていると考えられる。
【0078】
アルミナ制輪子の摩擦表面のSEM像およびEDXによる元素マップを図18に示す。この図の摩擦表面にそれほどアルミナ粒子が残っていないことが観察される。
【0079】
135km/hからのブレーキ試験後のアルミナ制輪子およびCNT制輪子の摩擦側面および摩擦表面の金属顕微鏡および走査型電子顕微鏡による観察およびエネルギー分散型X線分析を実施した結果、アルミナ制輪子の摩擦表面には摩耗粒子の凝集は認められなかったが、CNT制輪子の摩擦表面には、摩耗粒子の凝集部分が認められた。
【0080】
合金鋳鉄制輪子は、高速からのブレーキにより、制輪子の摩擦表面が熱で溶融し、低速からのブレーキと比較して摩擦係数が低下する。合金鋳鉄制輪子にセラミックスを複合させると、高速からのブレーキ時に発生するセラミックスの摩耗粒子が車輪と制輪子間に介在し、そのことにより高速での摩擦係数の低下を抑えることが報告されている(非特許文献2)。CNT制輪子の摩擦表面には、凝集したCNTによるものと考えられる摩耗粒子が認められ、このことにより、CNT制輪子の摩擦係数が、アルミナ制輪子より高くなったと考えられる。
【符号の説明】
【0081】
100:制輪子
110:制輪子本体
111:制動摩擦面
113:コッタ部
120:制動ブロック
130:バックメタル
131:板状体
132:連結体
【特許請求の範囲】
【請求項1】
制動摩擦面を有する鋳鉄製の制輪子本体と、
前記制輪子本体に埋め込まれており、一部が前記制動摩擦面に露出する制動ブロックとを有する、車両用制輪子において、
前記制動ブロックが、セラミックス及び炭素材料を含有することを特徴とする、車両用制輪子。
【請求項2】
前記セラミックスが、アルミナを含有することを特徴とする、請求項1記載の車両用制輪子。
【請求項3】
前記炭素材料が、カーボンナノチューブ又はグラフェンであることを特徴とする、請求項1又は2記載の車両用制輪子。
【請求項4】
前記鋳鉄が、合金鋳鉄であることを特徴とする、請求項1〜3のいずれか一項記載の車両用制輪子。
【請求項5】
前記合金鋳鉄は、Mo含有量が0.3質量%以下、Ni含有量が0.3質量%以下であることを特徴とする、請求項4記載の車両用制輪子。
【請求項6】
前記合金鋳鉄は、P含有量が、0.3〜2.0質量%である、請求項4又は5記載の車両用制輪子。
【請求項7】
前記制動ブロックが、多孔質ブロックであることを特徴とする、請求項1〜6のいずれか一項記載の車両用制輪子。
【請求項8】
セラミックス及び炭素材料を含有する骨格を有する多孔質ブロックであることを特徴とする、摩擦材料。
【請求項9】
前記セラミックスが、アルミナを含有することを特徴とする、請求項8記載の摩擦材料。
【請求項10】
前記炭素材料が、カーボンナノチューブ又はグラフェンであることを特徴とする、請求項8又は9記載の摩擦材料。
【請求項11】
前記多孔質ブロックが、セラミックスを主成分とする骨格を有し、
前記炭素材料が、前記骨格の中に分散していることを特徴とする、請求項8〜10のいずれか一項記載の摩擦材料。
【請求項12】
前記多孔質ブロックが、鋳型として用いる発泡高分子材料に対して、セラミックス及び炭素材料を含むスラリーを含浸し乾燥させて、当該発泡高分子を取り除く脱脂を行い、更に、セラミックスを焼結することにより得られることを特徴とする、請求項8〜11のいずれか一項記載の摩擦材料。
【請求項1】
制動摩擦面を有する鋳鉄製の制輪子本体と、
前記制輪子本体に埋め込まれており、一部が前記制動摩擦面に露出する制動ブロックとを有する、車両用制輪子において、
前記制動ブロックが、セラミックス及び炭素材料を含有することを特徴とする、車両用制輪子。
【請求項2】
前記セラミックスが、アルミナを含有することを特徴とする、請求項1記載の車両用制輪子。
【請求項3】
前記炭素材料が、カーボンナノチューブ又はグラフェンであることを特徴とする、請求項1又は2記載の車両用制輪子。
【請求項4】
前記鋳鉄が、合金鋳鉄であることを特徴とする、請求項1〜3のいずれか一項記載の車両用制輪子。
【請求項5】
前記合金鋳鉄は、Mo含有量が0.3質量%以下、Ni含有量が0.3質量%以下であることを特徴とする、請求項4記載の車両用制輪子。
【請求項6】
前記合金鋳鉄は、P含有量が、0.3〜2.0質量%である、請求項4又は5記載の車両用制輪子。
【請求項7】
前記制動ブロックが、多孔質ブロックであることを特徴とする、請求項1〜6のいずれか一項記載の車両用制輪子。
【請求項8】
セラミックス及び炭素材料を含有する骨格を有する多孔質ブロックであることを特徴とする、摩擦材料。
【請求項9】
前記セラミックスが、アルミナを含有することを特徴とする、請求項8記載の摩擦材料。
【請求項10】
前記炭素材料が、カーボンナノチューブ又はグラフェンであることを特徴とする、請求項8又は9記載の摩擦材料。
【請求項11】
前記多孔質ブロックが、セラミックスを主成分とする骨格を有し、
前記炭素材料が、前記骨格の中に分散していることを特徴とする、請求項8〜10のいずれか一項記載の摩擦材料。
【請求項12】
前記多孔質ブロックが、鋳型として用いる発泡高分子材料に対して、セラミックス及び炭素材料を含むスラリーを含浸し乾燥させて、当該発泡高分子を取り除く脱脂を行い、更に、セラミックスを焼結することにより得られることを特徴とする、請求項8〜11のいずれか一項記載の摩擦材料。
【図1】
【図6】
【図8】
【図9】
【図10】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図7】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図6】
【図8】
【図9】
【図10】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図7】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【公開番号】特開2012−189175(P2012−189175A)
【公開日】平成24年10月4日(2012.10.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−54826(P2011−54826)
【出願日】平成23年3月11日(2011.3.11)
【出願人】(590003825)北海道旅客鉄道株式会社 (94)
【出願人】(000173784)公益財団法人鉄道総合技術研究所 (1,666)
【出願人】(000127307)株式会社イノアック技術研究所 (73)
【出願人】(504173471)国立大学法人北海道大学 (971)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年10月4日(2012.10.4)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年3月11日(2011.3.11)
【出願人】(590003825)北海道旅客鉄道株式会社 (94)
【出願人】(000173784)公益財団法人鉄道総合技術研究所 (1,666)
【出願人】(000127307)株式会社イノアック技術研究所 (73)
【出願人】(504173471)国立大学法人北海道大学 (971)
【Fターム(参考)】
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