説明

車両用動力伝達装置

【課題】潤滑油を必要個所に十分供給することができる車両用動力伝達装置を提供する。
【解決手段】車両用動力伝達装置は、中空のピニオンシャフト7又は出力軸3の内部において軸方向に延在する軸内潤滑油路31、32と、各潤滑油路31、32の端部に潤滑油を供給する潤滑油供給手段とを備える。各偏心機構4の揺動ディスク6は、入力軸2の一端側から他端側に向かって、揺動ディスク6の偏心回転の位相が順次遅延するように配置され、潤滑油が供給される軸内潤滑油路31、32の端部は、入力軸2の前記一端側に対応する端部である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、四節リンク型の車両用動力伝達装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、車両に設けられたエンジン等の駆動源からの駆動力が伝達される中空の入力軸と、入力軸と平行に配置された出力軸と、入力軸に設けられた複数の偏心機構と、出力軸に揺動自在に軸支される複数の揺動リンクと、一方の端部に偏心機構に回転自在に外嵌される大径環状部を有し、他方の端部が揺動リンクの揺動端部に連結されるコネクティングロッドとを備える四節リンク型の無段変速機が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
特許文献1のものでは、各偏心機構は、入力軸に偏心して設けられた固定ディスクと、この固定ディスクに偏心して回転自在に設けられた揺動ディスクからなる。また、揺動リンクと出力軸との間には、一方向クラッチが設けられている。一方向クラッチは、揺動リンクが出力軸に対して一方側に相対回転しようとするときに、出力軸に揺動リンクを固定し、他方側に相対回転しようとするときに、出力軸に対して揺動リンクを空転させる。
【0004】
入力軸には、ピニオンシャフトが挿入されるとともに、固定ディスクの偏心方向に対向する個所に切欠孔が形成され、この切欠孔からピニオンシャフトが露出している。揺動ディスクには入力軸及び固定ディスクを受け入れる受入孔が設けられている。この受入孔を形成する揺動ディスクの内周面には内歯が形成されている。
【0005】
内歯は、入力軸の切欠孔から露出するピニオンシャフトと噛合する。入力軸とピニオンシャフトとを同一速度で回転させると、偏心機構の偏心量が維持される。入力軸とピニオンシャフトの回転速度を異ならせると、偏心機構の偏心量が変更されて、変速比が変化する。
【0006】
入力軸を回転させることにより偏心機構を回転させると、コネクティングロッドの大径環状部が回転運動して、コネクティングロッドの他方の端部と連結される揺動リンクの揺動端部が揺動する。揺動リンクは、一方向クラッチを介して出力軸に設けられているため、一方側に回転するときのみ出力軸に回転駆動力(トルク)を伝達する。
【0007】
各偏心機構の固定ディスクの偏心方向は、それぞれ位相を異ならせて入力軸周りを一周するように設定されている。したがって、各偏心機構に外嵌されたコネクティングロッドによって、揺動リンクが順にトルクを出力軸に伝達するため、出力軸をスムーズに回転させることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特表2005−502543号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、上記従来の無段変速機によれば、オイルパン内の潤滑油を単に跳ね上げることにより潤滑を行うようにしているので、十分な潤滑油が必要な潤滑部位に到達しないおそれがある。また、変速比が無限大の状態では、出力軸が回転しないので、潤滑油が跳ね上げられず、潤滑油を入力軸に供給することができなくなる。
【0010】
本発明の目的は、かかる従来技術の問題点に鑑み、潤滑油を必要な個所に十分供給することができる車両用動力伝達装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明に係る車両用動力伝達装置は、車両の駆動源からの駆動力が伝達される中空の入力軸と、該入力軸と平行に配置された出力軸と、前記入力軸に偏心して設けられた固定ディスク、及び該固定ディスクに対して偏心して回転自在に設けられた揺動ディスクを有する複数の偏心機構と、前記出力軸に揺動自在に軸支される複数の揺動リンクと、該揺動リンクと前記出力軸との間に設けられ、前記出力軸に対して一方側に相対回転しようとするときに前記出力軸に該揺動リンクを固定し、他方側に相対回転しようとするときに前記出力軸に対して該揺動リンクを空転させる一方向回転阻止機構と、一方の端部に前記偏心機構に回転自在に外嵌される大径環状部を有し、他方の端部が前記揺動リンクの揺動端部に連結されるコネクティングロッドと、前記入力軸内に挿入されたピニオンシャフトとを備え、前記入力軸には、前記固定ディスクの偏心方向に対向する個所に切欠孔が形成され、該切欠孔から前記ピニオンシャフトが露出し、前記揺動ディスクには前記入力軸及び前記固定ディスクを受け入れる受入孔が設けられ、該受入孔を形成する前記揺動ディスクの内周面に内歯が形成され、該内歯は、前記入力軸の切欠孔から露出する前記ピニオンシャフトと噛合し、前記入力軸と前記ピニオンシャフトとを同一速度で回転させることにより、前記偏心機構の偏心量が維持され、前記入力軸と前記ピニオンシャフトの回転速度を異ならせることにより前記偏心機構の偏心量を変更させて、変速比を制御する車両用動力伝達装置であって、前記ピニオンシャフト又は出力軸の内部において軸方向に延在する軸内潤滑油路と、前記軸内潤滑油路の端部に潤滑油を供給する潤滑油供給手段とを備え、各偏心機構の揺動ディスクは、前記入力軸の一端側から他端側に向かって、該揺動ディスクの偏心回転の位相が順次遅延するように配置され、潤滑油が供給される前記軸内潤滑油路の端部は、前記入力軸の前記一端側に対応する端部であることを特徴とする。
【0012】
本発明によれば、揺動ディスクは、入力軸の一端側から他端側に向かって、揺動ディスクの偏心回転の位相が順次遅延するように配置されているので、入力軸の回転により各コネクティングロッドに発生する張力も順次対応する位相で変化する。これにより、ピニオンシャフト又は出力軸は前記一端側から他端側に向かって順次変位するように撓む動きを繰り返す。
【0013】
このとき、軸内潤滑油路の前記一端側に潤滑油が供給されると、供給された潤滑油は、上記撓む動きの繰り返しにより順次前記他端側に向かって流動する。この潤滑油は、ピニオンシャフト又は出力軸の回転による遠心力によって、ピニオンシャフトの周りや出力軸の周りの必要な摺動部に供給することができる。
【0014】
したがって、本発明によれば、軸内潤滑油路を経て、潤滑油をピニオンシャフトの周りや出力軸の周りの必要な個所に十分供給することができる。その際、ピニオンシャフト又は出力軸の撓み及び遠心力を利用して潤滑油を供給することができるので、潤滑油供給手段の負荷を軽減し、効率化を図ることができる。
【0015】
本発明の車両用動力伝達装置においては、前記入力軸の回転速度を計測する入力軸回転速度計測手段と、前記ピニオンシャフトに減速機を介して連結された駆動軸を回転させて前記偏心量を変化させるアクチュエータと、前記アクチュエータの駆動軸の回転速度を計測するアクチュエータ回転速度計測手段と、前記入力軸回転速度計測手段により計測された前記入力軸の回転速度と、前記アクチュエータ回転速度計測手段により計測された前記駆動軸の回転速度とに基づき、前記偏心機構の偏心量を算出する偏心量算出手段と、前記偏心量算出手段により算出された前記偏心機構の偏心量に基づいて前記潤滑油供給手段による潤滑油の供給量を設定する潤滑油供給量設定手段とを備えてもよい。その場合、前記潤滑油供給量設定手段は、前記偏心機構の偏心量が大きいほど前記供給量が増大するように前記供給量の設定を行うものであってもよい。
【0016】
この構成において、偏心機構の偏心量が大きいほどピニオンシャフト又は出力軸の撓み量は小さくなり、逆に偏心機構の偏心量が小さいほど撓み量は大きくなる。そしてこの撓み量は潤滑油の供給量に関係する。本発明では、このような関係を利用し、偏心機構の偏心量に基づいて潤滑油供給手段による潤滑油の供給量を設定するようにしているので、潤滑油の供給量を必要最小限となるように制御し、さらに効率化を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の車両用動力伝達装置の実施形態を示す断面図。
【図2】本実施形態の偏心機構、コネクティングロッド及び揺動リンクを軸方向から示す説明図。
【図3】本実施形態の偏心機構の偏心量の変化を説明する説明図。
【図4】本実施形態の偏心機構の偏心量の変化と、揺動リンクの揺動運動の揺動角θ2の関係を示す説明図であり、(a)は偏心量が最大、(b)は偏心量が中、(c)は偏心量が小であるときの揺動リンクの揺動運動の揺動角をそれぞれ示している。
【図5】本実施形態の偏心機構の偏心量の変化に対する、揺動リンクの角速度ω2の変化を示すグラフ。
【図6】本実施形態の車両用動力伝達装置において、それぞれ60度ずつ位相を異ならせた6つの四節リンク機構により出力軸が回転される状態を示すグラフ。
【図7】本実施形態における入力軸及び出力軸周りの潤滑油の流れを示す図。
【図8】本実施形態において、入力軸内潤滑油路の端部に供給された潤滑油が、さらにピニオンシャフトの周りに供給される様子を示す図。
【図9】本実施形態において、入力軸内潤滑油路及び出力軸内潤滑油路内を潤滑油が流動する原理を示す図。
【図10】本実施形態において、入力軸内潤滑油路及び出力軸内潤滑油路内を潤滑油が流動する原理を示す図。
【図11】本実施形態において、入力軸内潤滑油路及び出力軸内潤滑油路内を潤滑油が流動する原理を示す図。
【図12】本実施形態における偏心量R1と可変容量オイルポンプにおけるオイル吐出量との関係を示す図。
【図13】本実施形態の制御部における潤滑油供給量制御処理に係る構成を示すブロック図。
【図14】本実施形態の制御部による潤滑油供給量制御処理を示すフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の車両用動力伝達装置の実施形態を説明する。本実施形態の車両用動力伝達装置は、変速比i(i=入力軸の回転速度/出力軸の回転速度)を無限大(∞)にして出力軸の回転速度を「0」にできる変速機、所謂インフィニティ・バリアブル・トランスミッション(Infinity Variable Transmission(IVT))の一種である。
【0019】
図1及び図2を参照して、本実施形態の車両用動力伝達装置1は、図示省略した内燃機関であるエンジンや電動機等の車両用駆動源からの回転動力を受けることで入力中心軸線P1を中心に回転する中空の入力軸2と、入力軸2に平行に配置され、図外のデファレンシャルギアやプロペラシャフト等を介して車両の駆動輪(図示省略)に回転動力を伝達させる出力軸3と、入力軸2に設けられた6つの偏心機構4とを備える。
【0020】
各偏心機構4は、固定ディスク5と、揺動ディスク6とで構成される。固定ディスク5は、円盤状であり、入力中心軸線P1から偏心して入力軸2と一体的に回転するように入力軸2に2個1組でそれぞれ設けられている。各1組の固定ディスク5は、それぞれ位相を60度異ならせて、6組の固定ディスク5で入力軸2の周方向を一回りするように配置されている。また、各1組の固定ディスク5には、固定ディスク5を受け入れる受入孔6aを備える円盤状の揺動ディスク6が偏心させて回転自在に外嵌されている。
【0021】
揺動ディスク6は、固定ディスク5の中心点をP2、揺動ディスク6の中心点をP3として、入力中心軸線P1と中心点P2の距離Raと、中心点P2と中心点P3の距離Rbとが同一となるように、固定ディスク5に対して偏心している。
【0022】
揺動ディスク6の受入孔6aには、1組の固定ディスク5の間に位置させて内歯6bが設けられている。入力軸2には、1組の固定ディスク5の間に位置させて、固定ディスク5の偏心方向に対向する個所に内周面と外周面とを連通させる切欠孔2aが形成されている。
【0023】
中空の入力軸2内には、入力軸2と同心に配置され、揺動ディスク6と対応する個所に外歯7aを備えるピニオンシャフト7が入力軸2と相対回転自在となるように配置されている。ピニオンシャフト7の外歯7aは、入力軸2の切欠孔2aを介して、揺動ディスク6の内歯6bと噛合する。
【0024】
ピニオンシャフト7には、差動機構8が接続されている。差動機構8は、遊星歯車機構で構成されており、サンギア9と、入力軸2に連結された第1リングギア10と、ピニオンシャフト7に連結された第2リングギア11と、サンギア9及び第1リングギア10と噛合する大径部12aと、第2リングギア11と噛合する小径部12bとから成る段付きピニオン12を自転及び公転自在に軸支するキャリア13とを備える。
【0025】
サンギア9には、ピニオンシャフト7用の電動機から成る駆動源14の回転軸14aが連結されている。駆動源14の回転速度を入力軸2の回転速度と同一にすると、サンギア9と第1リングギア10とが同一速度で回転することとなり、サンギア9、第1リングギア10、第2リングギア11及びキャリア13の4つの要素が相対回転不能なロック状態となって、第2リングギア11と連結するピニオンシャフト7が入力軸2と同一速度で回転する。
【0026】
駆動源14の回転速度を入力軸2の回転速度よりも遅くすると、サンギア9の回転数をNs、第1リングギア10の回転数をNr1、サンギア9と第1リングギア10のギア比(第1リングギア10の歯数/サンギア9の歯数)をjとして、キャリア13の回転数が(j・Nr1+Ns)/(j+1)となる。そして、サンギア9と第2リングギア11のギア比((第2リングギア11の歯数/サンギア9の歯数)×(段付きピニオン12の大径部12aの歯数/小径部12bの歯数))をkとすると、第2リングギア11の回転数が{j(k+1)Nr1+(k−j)Ns}/{k(j+1)}となる。
【0027】
固定ディスク5が固定された入力軸2の回転速度とピニオンシャフト7の回転速度とが同一である場合には、揺動ディスク6は固定ディスク5と共に一体に回転する。入力軸2の回転速度とピニオンシャフト7の回転速度とに差がある場合には、揺動ディスク6は固定ディスク5の中心点P2を中心に固定ディスク5の周縁を回転する。
【0028】
図2に示すように、揺動ディスク6は、固定ディスク5に対して距離Raと距離Rbとが同一となるように偏心されているため、揺動ディスク6の中心点P3を入力中心軸線P1と同一軸線上に位置するようにして、入力中心軸線P1と中心点P3との距離、すなわち偏心量R1を「0」とすることもできる。
【0029】
揺動ディスク6の周縁には、一方の端部に大径の大径環状部15aを備え、他方の端部に大径環状部15aの径よりも小径の小径環状部15bを備えるコネクティングロッド15の大径環状部15aが、ローラベアリング16を介して回転自在に外嵌されている。出力軸3には、一方向回転阻止機構としての一方向クラッチ17を介して、揺動リンク18がコネクティングロッド15に対応させて6個設けられている。
【0030】
揺動リンク18は、環状に形成されており、その上方には、コネクティングロッド15の小径環状部15bに連結される揺動端部18aが設けられている。揺動端部18aには、小径環状部15bを軸方向で挟み込むように突出した一対の突片18bが設けられている。一対の突片18bには、小径環状部15bの内径に対応する貫通孔18cが穿設されている。貫通孔18c及び小径環状部15bには、連結ピン19が挿入されている。これにより、コネクティングロッド15と揺動リンク18とが連結される。
【0031】
図3は、偏心機構4の偏心量R1を変化させた状態のピニオンシャフト7と揺動ディスク6との位置関係を示す。図3(a)は偏心量R1を「最大」とした状態を示しており、入力中心軸線P1と、固定ディスク5の中心点P2と、揺動ディスク6の中心点P3とが一直線に並ぶように、ピニオンシャフト7と揺動ディスク6とが位置する。このときの変速比iは最小となる。
【0032】
図3(b)は偏心量R1を図3(a)よりも小さい「中」とした状態を示しており、図3(c)は偏心量R1を図3(b)よりも更に小さい「小」とした状態を示している。変速比iは、図3(b)では図3(a)の変速比iよりも大きい「中」となり、図3(c)では図3(b)の変速比iよりも大きい「大」となる。図3(d)は偏心量R1を「0」とした状態を示しており、入力中心軸線P1と、揺動ディスク6の中心点P3とが同心に位置する。このときの変速比iは無限大(∞)となる。
【0033】
図2に示すように、本実施形態の偏心機構4、コネクティングロッド15、揺動リンク18は四節リンク機構20を構成する。本実施形態の車両用動力伝達装置1は合計6個の四節リンク機構20を備えている。偏心量R1が「0」でないときに、入力軸2を回転させると共に、ピニオンシャフト7を入力軸2と同一速度で回転させると、各コネクティングロッド15が60度ずつ位相を変えながら、偏心量R1に基づき入力軸2と出力軸3との間で出力軸3側に押したり、入力軸2側に引いたりを交互に繰り返して揺動する。
【0034】
コネクティングロッド15の小径環状部15bは、出力軸3に一方向クラッチ17を介して設けられた揺動リンク18に連結されている。このため、揺動リンク18がコネクティングロッド15によって押し引きされて揺動すると、揺動リンク18が押し方向側又は引張り方向側の何れか一方に揺動リンク18が回転するときだけ、出力軸3が回転する。一方、揺動リンク18が他方に回転するときには、出力軸3に揺動リンク18の揺動運動の力が伝達されず、揺動リンク18が空回りする。各偏心機構4は、60度毎に位相を変えて配置されているため、出力軸3は各偏心機構4で順に回転させられる。
【0035】
図4(a)は偏心量R1が図3(a)の「最大」である場合(変速比iが最小である場合)、図4(b)は偏心量R1が図3(b)の「中」である場合(変速比iが中である場合)、図4(c)は偏心量R1が図3(c)の「小」である場合(変速比iが大である場合)の、偏心機構4の回転運動に対する揺動リンク18の揺動範囲θ2を示している。図4から明らかなように、偏心量R1が小さくなるにつれ、揺動リンク18の揺動範囲θ2が狭くなる。なお、偏心量R1が「0」であるときは、揺動リンク18は揺動しなくなる。
【0036】
図5は、車両用動力伝達装置1の偏心機構4の回転角度θを横軸、揺動リンク18の角速度ω2を縦軸として、偏心機構4の偏心量R1の変化に伴う角速度ω2の変化を示す。図5から明らかなように、偏心量R1が大きい(変速比iが小さい)ほど揺動リンク18の角速度ω2が大きくなることが分かる。
【0037】
図6は、60度ずつ位相を異ならせた6つの偏心機構4を回転させたとき(入力軸2とピニオンシャフト7とを同一速度で回転させたとき)の偏心機構4の回転角度θに対する、各揺動リンク18の角速度ω2を示している。図6から、6つの四節リンク機構20により出力軸3がスムーズに回転されることが分かる。
【0038】
図7は、図1の車両用動力伝達装置の入力軸2及び出力軸3周りの潤滑油の流れを示す。図7において、各固定ディスク5は、入力軸2の周りに入力軸2と一体的に構成されている。入力軸2内のピニオンシャフト7の内部及び出力軸3の内部にはそれぞれ、軸方向に沿って潤滑油を供給するための入力軸内潤滑油路31及び出力軸内潤滑油路32が設けられている。
【0039】
また、駆動源14及び差動機構8の中心軸上には、入力軸内潤滑油路31に接続されたオイルパイプ33が設けられている。オイルパイプ33の一方の端部は、入力軸内潤滑油路31の端部に対し、回転継手を介して接続している。オイルパイプ33の他方の端部は、図示していない可変容量オイルポンプに通じた管路34の端部に対し、回転継手35を介して接続している。
【0040】
ピニオンシャフト7には、入力軸内潤滑油路31に供給された潤滑油を、ピニオンシャフト7の回転で発生する遠心力により入力軸内潤滑油路31からピニオンシャフト7の側面に導出するための貫通孔36が、ピニオンシャフト7と入力軸2との間の数箇所のニードルベアリング37の受け部に開口するように設けられている。
【0041】
また、出力軸3には、出力軸内潤滑油路32に供給された潤滑油を、出力軸3の回転で発生する遠心力により出力軸内潤滑油路32から各一方向クラッチ17のローラ部分に導出するための貫通孔38が、出力軸内潤滑油路32から各一方向クラッチ17のローラ部分にかけて設けられている。
【0042】
潤滑油は、図示していない可変容量オイルポンプから、矢印Y1のように管路34を経て送られ、オイルパイプ33を経て、入力軸内潤滑油路31の差動機構8側端部に供給される。また、潤滑油は、可変容量オイルポンプから、矢印Y2のように、フレーム39の貫通孔40及び出力軸3の貫通孔41を経て、出力軸内潤滑油路32の差動機構8側端部にも供給される。
【0043】
出力軸内潤滑油路32の端部に供給された潤滑油は、貫通孔38を経て、一方向クラッチ17のローラ部分に供給され、さらに、隣接する各一方向クラッチ17間の部分42や、出力軸3を支持するベアリング43にも供給される。
【0044】
図8は、入力軸内潤滑油路31の端部に供給された潤滑油が、さらにピニオンシャフト7の周りに供給される様子を示す。図8中の各矢印のように、入力軸内潤滑油路31の端部に供給された潤滑油は、貫通孔36を経て、ピニオンシャフト7と入力軸2との間のニードルベアリング37や、ピニオンシャフト7の外歯7aと揺動ディスク6の内歯6bとの間、さらには固定ディスク5と揺動ディスク6との間のベアリング44に供給される。
【0045】
ベアリング44に供給された潤滑油は、さらに揺動ディスク6の側面に沿って、揺動ディスク6と大径環状部15aとの間のローラベアリング16にも供給される。
【0046】
図9〜図11は、入力軸内潤滑油路31及び出力軸内潤滑油路32内を潤滑油が流動する原理を示す。ただし、図9〜図11においては、揺動ディスク6、一方向クラッチ17及びコネクティングロッド15として、それぞれ3つの揺動ディスク60a〜60c、これらに対応する一方向クラッチ17a〜17c及びコネクティングロッド50a〜50cが存在する場合について示している。
【0047】
この場合、図9のように、揺動ディスク60a〜60cは、偏心回転の位相が、入力軸2の一端側から他端側にかけて120度ずつ順次遅延するように構成される。
【0048】
このとき、各揺動ディスク60a〜60cが1周する間に各コネクティングロッド50a〜50cに作用する張力Tは、揺動ディスク60a〜60cの偏心量R1に応じて異なる。入力軸2に付与されるトルクが同じであれば、この張力Tは、偏心量R1に反比例する。また、コネクティングロッド50a〜50cに作用する各時点での張力Tは、各揺動ディスク60a〜60c間の位相差に応じて異なる。
【0049】
すなわち、揺動ディスク60a〜60cは、順次偏心回転の位相が120度ずつ遅れるように配置されており、これにより、周期的に変化するコネクティングロッド50a〜50cの張力Tも、位相が120度ずつ遅れて生じる。したがって、ある時点では、例えば図10に示すように、各コネクティングロッド50a〜50cの位相に応じて異なる張力Tによって、入力軸2及び出力軸3とが相互に近接する方向に撓む。
【0050】
図11は、この張力Tによる入力軸2の撓みの経時変化を示す。図11(a)〜(c)ではそれぞれ、各コネクティングロッド50a〜50cの張力Tが順次最大となる各時点での入力軸2の撓みが示されている。なお、出力軸3も、図10のように、各時点において入力軸2と対称的に撓む。
【0051】
図11(a)〜(c)のように、この撓みにより入力軸2及び出力軸3の最も近接する部分は、入力軸2が1回転する間に順次シフトし、揺動ディスク60a側の位置から揺動ディスク60c側の位置の方へ移動してゆく。そして、入力軸2の回転数に応じてこの近接部分の移動が繰り返される。なお、揺動ディスク60a〜60cは、回転しても不均一な遠心力が生じないように重量の配分が設定されているので、遠心力が入力軸2の撓みに寄与することはない。
【0052】
この近接部分の移動により、図11(a)〜(c)のように、入力軸2の入力軸内潤滑油路31における揺動ディスク60a側の端部に供給される潤滑油51に対し、揺動ディスク60c側の端部へ移動させる力が作用し、潤滑油51が順次揺動ディスク60c側の端部の方へ流動してゆく。出力軸3の出力軸内潤滑油路32における潤滑油も同様に流動していく。流動してゆく潤滑油51は、上述のように、ピニオンシャフト7や出力軸3の周りの摺動部に供給される。
【0053】
上記のように、コネクティングロッド50a〜50cに作用する張力Tは、偏心量R1に反比例する。このため、偏心量R1が小さいほど張力Tが大きくなり、入力軸2及び出力軸3の撓み量が増大する。撓み量が増大すると、撓みによって流動する潤滑油の量が多くなる。したがって、図12に示すように、偏心量R1が小さいほど、上述の可変容量オイルポンプにおける吐出量を減少させることができる。
【0054】
図13は、図1の車両用動力伝達装置の制御部における潤滑油供給量制御処理に係る構成を示すブロック図である。図13のように、制御部61は、エンジンのクランクパルスPcに基づいて入力軸2の回転速度を計測する入力軸回転速度計測手段62と、駆動源(アクチュエータ)14からのモータパルスPmに基づいて駆動源14における回転軸14aの回転速度を計測するアクチュエータ回転速度計測手段63とを備える。
【0055】
なお、駆動源14は本発明におけるアクチュエータに相当し、回転軸14aはアクチュエータが回転させる駆動軸に相当する。
【0056】
また、制御部61は、入力軸回転速度計測手段62により計測された入力軸2の回転速度と、アクチュエータ回転速度計測手段63により計測された回転軸14aの回転速度とに基づき、偏心機構4の偏心量R1を算出する偏心量算出手段64と、偏心量算出手段64により算出された偏心量R1に基づいて可変容量オイルポンプの吐出量を設定する潤滑油供給量設定手段65とを備える。なお、可変容量オイルポンプは本発明における潤滑油供給手段に相当する。
【0057】
図14は、制御部61による潤滑油供給量制御処理を示すフローチャートである。この処理においては、偏心量R1に応じて可変容量オイルポンプの吐出量が設定される。また、この処理は、所定の時間間隔で定期的に行われる。
【0058】
潤滑油供給量制御処理を開始すると、制御部61は、まずステップS1において、偏心機構4の偏心量R1を算出する。偏心量R1の算出は、入力軸回転速度計測手段62による入力軸2の回転速度の計測値と、アクチュエータ回転速度計測手段63による回転軸14aの回転速度の計測値とに基づき、偏心量算出手段64により行われる。なお、直接偏心量R1を計測してもよいが、技術的、コスト的に困難なセンサ等を用いる必要があるので、好ましくはない。
【0059】
次に、ステップS2において、潤滑油供給量設定手段65により、上記ステップS1で算出された偏心量R1と、その算出に用いられた入力軸2の回転速度の計測値とに基づき、可変容量オイルポンプの吐出量の設定値を算出する。吐出量の算出に際しては、上述のように、偏心量R1が小さいほど吐出量を減少させることができるので、これを考慮し、必要最小限の吐出量を算出する。
【0060】
そして、ステップS3において、潤滑油供給量設定手段65により、ステップS2で算出した吐出量の設定信号Sを可変容量オイルポンプに送出することにより可変容量オイルポンプの吐出量を設定し、潤滑油供給量制御処理を終了する。これにより、図12に示すように偏心量R1に応じた吐出量の制御が行われる。
【0061】
以上のように、本実施形態によれば、ピニオンシャフト7に入力軸内潤滑油路31及び貫通孔36を設けるとともに出力軸3に出力軸内潤滑油路32及び貫通孔38を設け、入力軸内潤滑油路31及び出力軸内潤滑油路32の一端に、可変容量オイルポンプで潤滑油を供給するようにしたため、その後の各摺動部への潤滑油の配分を、ピニオンシャフト7(入力軸2)及び出力軸3の撓みと遠心力を利用して行うことができる。したがって、可変容量オイルポンプの負荷を軽減し、装置の効率化を図ることができる。
【0062】
また、偏心量R1に応じて可変容量オイルポンプの吐出量を設定するようにしたので、可変容量オイルポンプの吐出量を必要最小限に設定することができる。これにより変容量オイルポンプの負荷をさらに軽減し、より効率化を図ることができる。
【符号の説明】
【0063】
1…車両用動力伝達装置、2…入力軸、2a…切欠孔、3…出力軸、4…偏心機構、5…固定ディスク、6…揺動ディスク、6a…受入孔、6b…内歯、7…ピニオンシャフト、8…差動機構、14・・・駆動源(アクチュエータ)、14a…回転軸(駆動軸)15…コネクティングロッド、15a…大径環状部、17…一方向クラッチ(一方向回転阻止機構)、18…揺動リンク、31・・・入力軸内潤滑油路、32…出力軸内潤滑油路、61・・・制御部、62・・・入力軸回転速度計測手段、63・・・アクチュエータ回転速度計測手段、64・・・偏心量算出手段、65・・・潤滑油供給量設定手段、R1…偏心量。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の駆動源からの駆動力が伝達される中空の入力軸と、
該入力軸と平行に配置された出力軸と、
前記入力軸に偏心して設けられた固定ディスク、及び該固定ディスクに対して偏心して回転自在に設けられた揺動ディスクを有する複数の偏心機構と、
前記出力軸に揺動自在に軸支される複数の揺動リンクと、
該揺動リンクと前記出力軸との間に設けられ、前記出力軸に対して一方側に相対回転しようとするときに前記出力軸に該揺動リンクを固定し、他方側に相対回転しようとするときに前記出力軸に対して該揺動リンクを空転させる一方向回転阻止機構と、
一方の端部に前記偏心機構に回転自在に外嵌される大径環状部を有し、他方の端部が前記揺動リンクの揺動端部に連結されるコネクティングロッドと、
前記入力軸内に挿入されたピニオンシャフトとを備え、
前記入力軸には、前記固定ディスクの偏心方向に対向する個所に切欠孔が形成され、該切欠孔から前記ピニオンシャフトが露出し、
前記揺動ディスクには、前記入力軸及び前記固定ディスクを受け入れる受入孔が設けられ、
該受入孔を形成する前記揺動ディスクの内周面に内歯が形成され、
該内歯は、前記入力軸の切欠孔から露出する前記ピニオンシャフトと噛合し、
前記入力軸と前記ピニオンシャフトとを同一速度で回転させることにより、前記偏心機構の偏心量が維持され、前記入力軸と前記ピニオンシャフトの回転速度を異ならせることにより前記偏心機構の偏心量を変更させて、変速比を制御する車両用動力伝達装置であって、
前記ピニオンシャフト又は出力軸の内部において軸方向に延在する軸内潤滑油路と、
前記軸内潤滑油路の端部に潤滑油を供給する潤滑油供給手段とを備え、
前記偏心機構の揺動ディスクは、前記入力軸の一端側から他端側に向かって、該揺動ディスクの偏心回転の位相が順次遅延するように配置され、
潤滑油が供給される前記軸内潤滑油路の端部は、前記入力軸の前記一端側に対応する端部であることを特徴とする車両用動力伝達装置。
【請求項2】
前記入力軸の回転速度を計測する入力軸回転速度計測手段と、
前記ピニオンシャフトに差動機構を介して連結された駆動軸を回転させて前記偏心量を変化させるアクチュエータと、
前記アクチュエータの駆動軸の回転速度を計測するアクチュエータ回転速度計測手段と、
前記入力軸回転速度計測手段により計測された前記入力軸の回転速度と、前記アクチュエータ回転速度計測手段により計測された前記駆動軸の回転速度とに基づき、前記偏心機構の偏心量を算出する偏心量算出手段と、
前記偏心量算出手段により算出された前記偏心機構の偏心量に基づいて前記潤滑油供給手段による潤滑油の供給量を設定する潤滑油供給量設定手段と
を更に備えることを特徴とする請求項1に記載の車両用動力伝達装置。
【請求項3】
前記潤滑油供給量設定手段は、前記偏心機構の偏心量が大きいほど前記供給量が増大するように前記供給量の設定を行うことを特徴とする請求項2に記載の車両用動力伝達装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2012−251618(P2012−251618A)
【公開日】平成24年12月20日(2012.12.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−125594(P2011−125594)
【出願日】平成23年6月3日(2011.6.3)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】