説明

車両用動力伝達装置

【課題】 駆動源を始動してオイルポンプを作動させたとき、無段変速機の被潤滑部に充分な量のオイルを遅滞なく供給する。
【解決手段】 オイルポンプからオイルが供給されるオイル供給パイプ58を入力軸12の上方に軸線L方向に配置し、複数の変速ユニット14にそれぞれオイルを吐出する複数のオイル吐出口58aをオイル供給パイプ58の上面に開口させたので、複数の変速ユニット14に均等にオイルを供給することができるだけでなく、オイルポンプが停止した状態でもオイル供給パイプ58の内部のオイルがオイル吐出口58aから重力で流出することが防止されるため、次にオイルポンプが作動したときにオイル吐出口58aから遅滞なくオイルを吐出させて潤滑性能を確保することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、入力軸の回転を往復動するコネクティングロッドおよびワンウェイクラッチを介して出力軸に伝達するとともに、前記コネクティングロッドの往復動のストロークを増減して変速比を変更する無段変速機を備えた車両用動力伝達装置に関する。
【背景技術】
【0002】
駆動源に接続された入力軸の回転を変速して出力軸に伝達する無段変速機が、前記入力軸および前記出力軸の軸方向に並置された複数の変速ユニットを備え、前記複数の変速ユニットの各々が、前記入力軸の軸線からの偏心量が可変であって該入力軸と共に回転する入力側支点と、前記出力軸に接続されたワンウェイクラッチと、前記ワンウェイクラッチの入力部材に設けられた出力側支点と、前記入力側支点および前記出力側支点に両端を接続されて往復運動するコネクティングロッドとを備える車両用動力伝達装置が、下記特許文献1により公知である。
【0003】
この車両用動力伝達装置は、出力軸に固定した羽根の回転によりミッションケースの底部に貯留したオイルを撥ね上げ、その撥ね上げたオイルの飛沫によって各被潤滑部を潤滑するようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特表2005−502543号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら上記従来の車両用動力伝達装置は、出力軸に設けた羽根からの距離に応じてオイルの供給量に差が発生してしまい、羽根から遠く離れた被潤滑部に充分な量のオイルを供給できない可能性があるだけでなく、無段変速機の変速比が無限大になって出力軸が回転を停止すると、出力軸に設けた羽根がオイルを撥ね上げることができなくなって潤滑が不能になる問題がある。
【0006】
そこで、無段変速機の被潤滑部の上方にオイル供給パイプを設け、オイルポンプからのオイルをオイル供給パイプの下面に形成したオイル吐出孔から被潤滑部に向かって吐出させることが考えられる。しかしながら上述のように構成すると、イグニッションスイッチをオフしてオイルポンプが作動を停止すると、オイル供給パイプの下面に形成したオイル吐出孔から重力でオイルが流出してしまうため、次にイグニッションスイッチをオンしてオイルポンプが作動を開始したときに、空になったオイル供給パイプの内部がオイルで満たされるまでオイル吐出孔からのオイルの吐出が停止してしまい、被潤滑部に速やかにオイルを供給できなくなる可能性がある。
【0007】
本発明は前述の事情に鑑みてなされたもので、駆動源を始動してオイルポンプを作動させたとき、無段変速機の被潤滑部に充分な量のオイルを遅滞なく供給することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、請求項1に記載された発明によれば、駆動源に接続された入力軸の回転を変速して出力軸に伝達する無段変速機が、前記入力軸および前記出力軸の軸方向に並置された複数の変速ユニットを備え、前記複数の変速ユニットの各々が、前記入力軸の軸線からの偏心量が可変であって該入力軸と共に回転する入力側支点と、前記出力軸に接続されたワンウェイクラッチと、前記ワンウェイクラッチの入力部材に設けられた出力側支点と、前記入力側支点および前記出力側支点に両端を接続されて往復運動するコネクティングロッドとを備える車両用動力伝達装置であって、オイルポンプからオイルが供給されるオイル供給パイプを前記入力軸の上方に前記軸線方向に配置し、前記オイル供給パイプから前記複数の変速ユニットにそれぞれオイルを吐出する複数のオイル吐出口を、前記オイル供給パイプの上面に開口させたことを特徴とする車両用動力伝達装置が提案される。
【0009】
また請求項2に記載された発明によれば、請求項1の構成に加えて、前記オイル供給パイプを、その軸線まわりに所定角度範囲で往復回動させるパイプ回動手段を備えることを特徴とする車両用動力伝達装置が提案される。
【0010】
また請求項3に記載された発明によれば、請求項2の構成に加えて、前記パイプ回動手段は、前記所定角度範囲を前記入力側支点の偏心量に応じて変化させることを特徴とする車両用動力伝達装置が提案される。
【0011】
また請求項4に記載された発明によれば、請求項1または請求項3の構成に加えて、前記オイル供給パイプの前記オイル吐出口の方向は、鉛直方向上方に対して前記入力側支点の回転方向遅れ側に偏向することを特徴とする車両用動力伝達装置が提案される。
【0012】
また請求項5に記載された発明によれば、請求項2〜請求項4の何れか1項の構成に加えて、車体の傾斜角を検出する傾斜角検出手段を備え、前記オイルポンプが停止したとき、前記パイプ回動手段は、前記傾斜角検出手段で検出した車体の傾斜角に応じて、前記オイル吐出口の方向が鉛直方向上方を向く位置で前記オイル供給パイプの回動を停止させることを特徴とする車両用動力伝達装置が提案される。
【0013】
また請求項6に記載された発明によれば、請求項3〜請求項5の何れか1項の構成に加えて、前記オイル供給パイプの上方を覆うミッションケースの下面に前記オイル吐出口から吐出したオイルを反射させる反射部材を設けるとともに、前記反射部材に前記オイル供給パイプの回動位置に対応する複数の反射面を設けたことを特徴とする車両用動力伝達装置が提案される。
【0014】
尚、実施の形態の偏心ディスク19は本発明の入力側支点に対応し、実施の形態のピン37は本発明の出力側支点に対応し、実施の形態のアウター部材38は本発明の入力部材に対応し、実施の形態の第3オイル供給パイプ58は本発明のオイル供給パイプに対応し、実施の形態のパイプ回動アクチュエータ63は本発明のパイプ回動手段に対応し、実施の形態の第1〜第3反射面67a〜67cは本発明の反射面に対応し、実施の形態のエンジンEは本発明の駆動源に対応し、実施の形態の前後傾斜角センサSfは本発明の傾斜角検出手段に対応する。
【発明の効果】
【0015】
請求項1の構成によれば、無段変速機が入力軸および出力軸の軸方向に並置された複数の変速ユニットを備え、駆動源に接続された入力軸が回転すると、入力軸と共に偏心回転する入力側支点に接続されたコネクティングロッドが往復運動し、コネクティングロッドがワンウェイクラッチの入力部材に設けた出力側支点を往復運動させることで、ワンウェイクラッチに接続された出力軸が間欠回転し、各変速ユニットにより異なる位相で駆動される出力軸は連続的に回転する。入力軸に対する入力側支点の偏心量を変更すると、コネクティングロッドの往復運動のストロークが変化して出力軸の回転角が変化することで、無段変速機の変速比が変化する。
【0016】
オイルポンプからオイルが供給されるオイル供給パイプを入力軸の上方に軸線方向に配置し、複数の変速ユニットにそれぞれオイルを吐出する複数のオイル吐出口をオイル供給パイプの上面に開口させたので、複数の変速ユニットに均等にオイルを供給することができるだけでなく、オイルポンプが停止した状態でもオイル供給パイプの内部のオイルがオイル吐出口から重力で流出することが防止されるため、次にオイルポンプが作動したときにオイル吐出口から遅滞なくオイルを吐出させて潤滑性能を確保することができる。
【0017】
また請求項2の構成によれば、パイプ回動手段がオイル供給パイプをその軸線まわりに所定角度範囲で往復回動させるので、変速比の変更に伴う入力側支点の偏心量の変化により入力軸側の被潤滑部の移動範囲が広がっても、その被潤滑部に確実にオイルを供給することができる。
【0018】
また請求項3の構成によれば、パイプ回動手段はオイル供給パイプが往復回動する所定角度範囲を入力側支点の偏心量に応じて変化させるので、被潤滑部に過不足なくオイルを供給することができる。
【0019】
また請求項4の構成によれば、オイル供給パイプのオイル吐出口の方向は、鉛直方向上方に対して入力側支点の回転方向遅れ側に偏向するので、オイル吐出口から吐出されたオイルを入力側支点に大きい相対速度で衝突させることが可能になり、被潤滑部の細かい隙間にオイルを効果的に浸入させて潤滑効果を高めることができる。
【0020】
また請求項5の構成によれば、オイルポンプが停止したとき、パイプ回動手段は傾斜角検出手段で検出した車体の傾斜角に応じて、オイル吐出口の方向が鉛直方向上方を向く位置でオイル供給パイプの回動を停止させるので、車体がどのような傾斜角にあるときにオイルポンプが停止しても、オイル供給パイプのオイル吐出口からのオイルの流出を阻止することができる。
【0021】
また請求項6の構成によれば、オイル供給パイプの上方を覆うミッションケースの下面にオイル吐出口から吐出されたオイルを反射させる反射部材を設け、この反射部材にオイル供給パイプの回動位置に対応する複数の反射面を設けたので、オイル吐出口から吐出されたオイルを被潤滑部に確実に指向させて潤滑効果を高めることができるだけでなく、オイル供給パイプの回動位置が変化しても、それに応じて反射面に反射されるオイルの指向方向を適切に維持することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】無段変速機の全体視図。
【図2】無段変速機の要部の一部破断斜視図。
【図3】図1の3−3線断面図。
【図4】図3の4部拡大図。
【図5】図3の5−5線断面図。
【図6】偏心ディスクの偏心量と変速比との関係を示す図。
【図7】変速比と第3オイル供給パイプの回動範囲との関係を示す図。
【図8】路面の傾斜角と第3、第6オイル供給パイプの回動停止位置との関係を示す図。
【図9】無段変速機の制御系のブロック図。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、図1〜図9に基づいて本発明の実施の形態を説明する。
【0024】
図1〜図5に示すように、自動車用の無段変速機Tはミッションケース11に相互に平行に支持された入力軸12および出力軸13を備えており、エンジンに接続された入力軸12の回転が6個の変速ユニット14を介して駆動輪に伝達される。ミッションケース11の内部に位置する入力軸12は中空であり、その内部に入力軸12と軸線Lを共有する変速軸15が7個のニードルベアリング16…を介して相対回転可能に嵌合する。6個の変速ユニット14の構造は実質的に同一構造であるため、以下、一つの変速ユニット14を代表として構造を説明する。
【0025】
変速ユニット14は変速軸15の外周面に設けられたピニオン17を備えており、このピニオン17は入力軸12に形成した開口12aから露出する。ピニオン17を挟むように、入力軸12の外周に軸線L方向に2分割された円板状の偏心カム18がスプライン結合される。偏心カム18の中心O1は入力軸12の軸線Lに対して距離dだけ偏心している。また6個の変速ユニット14…の6個の偏心カム18…は、その偏心方向の位相が相互に60°づつずれている。
【0026】
偏心カム18の外周面には、円板状の偏心ディスク19の軸線L方向両端面に形成した一対の偏心凹部19a,19aが、一対のニードルベアリング20,20を介して回転自在に支持される。偏心ディスク19の中心O2に対して偏心凹部19a,19aの中心O1(つまり偏心カム18の中心O1)は距離dだけずれている。即ち、入力軸12の軸線Lおよび偏心カム18の中心O1間の距離dと、偏心カム18の中心O1および偏心ディスク19の中心O2間の距離dとは同一である。
【0027】
軸線L方向に2分割された偏心カム18の割り面には、その偏心カム18の中心O1と同軸に一対の三日月状のガイド部18a,18aが設けられており、偏心ディスク19の一対の偏心凹部19a,19aの底部間を連通させるように形成されたリングギヤ19bの歯先が、偏心カム18のガイド部18a,18aの外周面に摺動可能に当接する。そして変速軸15のピニオン17が、入力軸12の開口12aを通して偏心ディスク19のリングギヤ19bに噛合する。
【0028】
入力軸12の一端側はボールベアリング21を介してミッションケース11に直接支持される。また入力軸12の他端側に位置する1個の偏心カム18に一体に設けた筒状部18bがボールベアリング22を介してミッションケース11に支持されており、その偏心カム18の内周にスプライン結合された入力軸12の他端側は、ミッションケース11に間接的に支持される。
【0029】
入力軸12に対して変速軸15を相対回転させて無段変速機Tの変速比を変更する変速アクチュエータ23は、モータ軸24aが軸線Lと同軸になるようにミッションケース11の側部カバー42に支持された電動モータ24と、電動モータ24に接続された遊星歯車機構25とを備える。遊星歯車機構25は、電動モータ24にニードルベアリング26を介して回転自在に支持されたキャリヤ27と、モータ軸24aに固定されたサンギヤ28と、キャリヤ27に回転自在に支持された複数の2連ピニオン29…と、中空の入力軸12の軸端(厳密には、前記1個の偏心カム18の筒状部18b)にスプライン結合された第1リングギヤ30と、変速軸15の軸端にスプライン結合された第2リングギヤ31とを備える。各2連ピニオン29は大径の第1ピニオン29aと小径の第2ピニオン29bとを備えており、第1ピニオン29aはサンギヤ28および第1リングギヤ30に噛合し、第2ピニオン29bは第2リングギヤ31に噛合する。
【0030】
偏心ディスク19の外周には、ローラベアリング32を介してコネクティングロッド33の一端側の環状部33aが相対回転自在に支持される。また偏心ディスク19の偏心凹部19a,19aの径方向外側には、肩部19c,19c(図4の左側の鎖線枠内参照)が形成される。
【0031】
出力軸13はミッションケース11に一対のボールベアリング34,35で支持されており、その外周にはワンウェイクラッチ36が設けられる。ワンウェイクラッチ36は、コネクティングロッド33のロッド部33bの先端にピン37を介して枢支されたリング状のアウター部材38と、アウター部材38の内部に配置されて出力軸13に固定されたインナー部材39と、アウター部材38の内周の円弧面とインナー部材39の外周の平面との間に形成された楔状の空間に配置されて複数個のスプリング40…で付勢された複数個のローラ41…とを備える。
【0032】
次に、無段変速機Tの一つの変速ユニット14の作用を説明する。
【0033】
図6(A)〜図6(D)に示すように、入力軸12の軸線Lに対して偏心ディスク19の中心O2が偏心しているとき、エンジンによって入力軸12が回転するとコネクティングロッド33の環状部33aが軸線Lまわりに偏心回転することで、コネクティングロッド33のロッド部33bが往復運動する。その結果、コネクティングロッド33のロッド部33bにピン37で接続されたワンウェイクラッチ36のアウター部材38が所定角度範囲で往復回転し、アウター部材38が一方向に回転したときにローラ41…が楔状の空間に噛み込んでインナー部材39に回転が伝達され、アウター部材38が他方向に回転したときにローラ41…がスリップしてインナー部材39への回転の伝達が遮断される。
【0034】
このようにして、入力軸12が1回転する間に、入力軸12の回転が所定時間だけ出力軸13に伝達されるため、入力軸12が連続回転すると出力軸13は間欠回転する。6個の変速ユニット14…の偏心ディスク19…の偏心方向の位相が相互に60°ずつずれているため、6個の変速ユニット14…が入力軸12の回転を交互に出力軸13に伝達することで、出力軸13は連続的に回転する。
【0035】
このとき、偏心ディスク19の偏心量εが大きいほど、コネクティングロッド33の往復ストロークが大きくなって出力軸13の1回の回転角が増加し、無段変速機Tの変速比が小さくなる。逆に、偏心ディスク19の偏心量εが小さいほど、コネクティングロッド33の往復ストロークが小さくなって出力軸13の1回の回転角が減少し、無段変速機Tの変速比が大きくなる。そして偏心ディスク19の偏心量εがゼロになると、入力軸12が回転してもコネクティングロッド33が移動を停止するために出力軸13は回転せず、無段変速機Tの変速比が最大(無限大)になる。
【0036】
入力軸12に対して変速軸15が相対回転しないとき、つまり入力軸12および変速軸15が同一速度で回転するとき、無段変速機Tの変速比は一定に維持される。入力軸12および変速軸15を同一速度で回転させるには、入力軸12と同速度で電動モータ24を回転駆動すれば良い。その理由は、遊星歯車機構25の第1リングギヤ30は入力軸12に接続されて該入力軸12と同一速度で回転するが、それと同一速度で電動モータ24を駆動するとサンギヤ28および第1リングギヤ30が同一速度で回転するため、遊星歯車機構25はロック状態になって全体が一体に回転する。その結果、一体に回転する第1リングギヤ30および第2リングギヤ31に接続された入力軸12および変速軸15は一体化され、相対回転することなく同速度で回転するからである。
【0037】
入力軸12の回転数に対して電動モータ24の回転数を増速あるいは減速すると、入力軸12に結合された第1リングギヤ30と電動モータ24に接続されたサンギヤ28とが相対回転するため、キャリヤ27が第1リングギヤ30に対して相対回転する。このとき、相互に噛合する第1リングギヤ30および第1ピニオン29aの歯数比と、相互に噛合する第2リングギヤ31および第2ピニオン29bの歯数比とが僅かに異なるため、第1リングギヤ30に接続された入力軸12と第2リングギヤ31に接続された変速軸15とが相対回転する。
【0038】
このようにして入力軸12に対して変速軸15が相対回転すると、各変速ユニット14のピニオン17にリングギヤ19bを噛合させた偏心ディスク19の偏心凹部19a,19aが、入力軸12と一体の偏心カム18のガイド部18a,18aに案内されて回転し、入力軸12の軸線Lに対する偏心ディスク19の中心O2の偏心量εが変化する。
【0039】
図6(A)は変速比が最小の状態(変速比:TD)を示すもので、このとき入力軸12の軸線Lに対する偏心ディスク19の中心O2の偏心量εは、入力軸12の軸線Lから偏心カム18の中心O1までの距離dと、偏心カム18の中心O1から偏心ディスク19の中心O2までの距離dとの和である2dに等しい最大値になる。入力軸12に対して変速軸15が相対回転すると、入力軸12と一体の偏心カム18に対して偏心ディスク19が相対回転することで、図6(B)および図6(C)に示すように、入力軸12の軸線Lに対する偏心ディスク19の中心O2の偏心量εは最大値の2dから次第に減少して変速比が増加する。入力軸12に対して変速軸15が更に相対回転すると、入力軸12と一体の偏心カム18に対して偏心ディスク19が更に相対回転することで、図6(D)に示すように、ついには入力軸12の軸線Lに偏心ディスク19の中心O2が重なり合って偏心量εがゼロになり、変速比が最大(無限大)の状態(変速比:UD)になって出力軸13に対する動力伝達が遮断される。
【0040】
次に、無段変速機Tの潤滑構造について説明する。無段変速機Tの被潤滑部には入力軸12まわりと出力軸13まわりの2系統があり、何れの被潤滑部の潤滑にもミッションケース11の底部に貯留したオイルが用いられる。
【0041】
図1および図3〜図5に示すように、ミッションケース11は、フレーム本体51aおよび一対の第1、第2側壁51b,51cを有して上面が開放するフレーム51と、フレーム51の周囲を覆う2分割された上部カバー52および下部カバー53とで構成される。フレーム51の底部のオイルパンと、第1側壁51bの外面に設けられて入力軸12により駆動されるオイルポンプ54とが第1オイル供給パイプ55で接続される。オイルポンプ54から上方に延びる第2オイル供給パイプ56の端部に設けた継手57に第3オイル供給パイプ58の一端が回動自在に支持されており、第1側壁51bを貫通する第3オイル供給パイプ58の他端は第2側壁51cに回動自在に支持される。第3オイル供給パイプ58は、入力軸12の上方に平行に配置され.かつフレーム本体51aの上部下面に所定間隔を存して対向する。第3オイル供給パイプ58の他端は、第2側壁51cの内部の油路を介して、遊星歯車機構25を覆う側部カバー42の内部に突出する第4オイル供給パイプ59に接続される。
【0042】
継手57から第1側壁51bに沿って延びる第5オイル供給パイプ60は継手61に接続され、継手61に一端を回動可能に支持された第6オイル供給パイプ62の他端は、第2側壁51bを貫通して第2側壁51cに回動可能に支持される。第6オイル供給パイプ62は、出力軸13の上方に平行に配置され.かつフレーム本体51aの上部下面に所定間隔を存して対向する。
【0043】
入力軸12の上方に位置する第3オイル供給パイプ58の上面には、6個の変速ユニット14…に対して7個のオイル吐出口58a…が上向きに形成され、出力軸13の上方に位置する第6オイル供給パイプ62の上面には、6個の変速ユニット14…に対して7個のオイル吐出口62a…が上向きに形成される。
【0044】
第3オイル供給パイプ58は、第2側壁51cの外面に設けたパイプ回動アクチュエータ63に接続される。パイプ回動アクチュエータ63は、電動モータ64と、そのモータ軸64aに設けた駆動ギヤ65と、第3オイル供給パイプ58の他端に設けられて駆動ギヤ65に噛合する従動ギヤ66とを備える。電動モータ64を駆動すると、第3オイル供給パイプ58は自己の軸線まわりに所定角度範囲で回動可能である。
【0045】
第6オイル供給パイプ62も、第3オイル供給パイプ58のパイプ回動アクチュエータ63と同一構造のパイプ回動アクチュエータ63により、自己の軸線まわりに所定角度範囲で回動可能である。
【0046】
第3オイル供給パイプ58の上方を覆うフレーム51のフレーム本体51aの上部下面に、第3オイル供給パイプ58の7個のオイル吐出口58a…に対応して7個の反射部材67…が設けられる。各反射部材67には凹状に形成された3個の第1反射面67a、第2反射面67bおよび第3反射面67cが設けられる。反射部材67を軸線Lと平行に切断した断面は、一対のV字状凹部67d,67dが隣り合った形状に形成される(図4の右側の鎖線枠内参照)。また第6オイル供給パイプ62の上方を覆うフレーム本体51の上部下面に、7個のオイル吐出口62a…に対応して7個の反射部材68…が設けられる。各反射部材68には凹状に形成された1個の反射面68aが形成される。
【0047】
図9に示すように、エンジンEに接続されたエンジンECU69には、エンジン回転数センサSa、吸気負圧センサSb、クランク角センサSc、車速センサSd、アクセル開度センサSeおよび車体の前後傾斜角を検出する前後傾斜角センサSfが接続される。変速アクチュエータ23の電動モータ24の作動およびパイプ回動アクチュエータ63の電動モータ64の作動を制御するアクチュエータドライバ70には エンジンECU69から変速比指令値および車体の前後傾斜角が入力され、クランク角センサScからクランク角が入力され、回転角センサSgから変速アクチュエータ23の電動モータ24の回転角が入力される。
【0048】
アクチュエータドライバ70は、エンジンEのクランク角と変速アクチュエータ23の電動モータ24の回転角とが一致するように、即ちエンジンEの回転数および電動モータ24の回転数が一致するように該電動モータ24を制御することで無段変速機Tの変速比を一定値に保持するとともに、エンジンEの回転数および電動モータ24の回転数の差分が変速比指令値に応じた所定値になるように制御して無段変速機Tの変速比を変更する。またアクチュエータドライバ70は、変速比指令値および車体の前後傾斜角に応じて2個のパイプ回動アクチュエータ63,63の電動モータ64,64の作動を制御する。
【0049】
次に、本実施の形態の潤滑に関連する作用を説明する。
【0050】
図1、図3および図4に示すように、エンジンEの運転に伴って入力軸12に接続されたオイルポンプ54が作動すると、フレーム51の底部のオイルパンから吸い上げられたオイルが第1オイル供給パイプ55、オイルポンプ54、第2オイル供給パイプ56および継手57を介して第3オイル供給パイプ58に供給され、そこから更に第4オイル供給パイプ59に供給される。
【0051】
図5に示すように、無段変速機Tの第3オイル供給パイプ58は、変速比が最大レシオのUD状態にあるときには、オイル吐出口58…が略鉛直方向上向きになる位置に固定され、変速比が最小レシオのTD状態にあるときには、オイル吐出口58…が鉛直方向上向きになる位置から反時計方向に最大回動角θmax回転した位置までの範囲を往復回動する。変速比が中レシオ領域にあるときには、オイル吐出口58…が鉛直方向上向きになる位置から反時計方向に前記最大回動角θmaxよりも小さい回動角θ回転した位置までの範囲を往復回動する。つまり、第3オイル供給パイプ58の回動範囲は、変速比がUD状態からTD状態に変化するのに伴い、ゼロからθmaxへと次第に増加する。
【0052】
その理由は、変速比が高レシオ領域(UD側の領域)にあるとき、図6(D)に示すように、偏心ディスク19の偏心量εは小さくなり、潤滑すべきピニオン17、リングギヤ19b、ボールベアリング22、ローラベアリング32等の被潤滑部の移動軌跡は入力軸12の軸線Lに近い範囲に限定されるため、オイルを軸線Lに近い領域は飛散させることで潤滑効果を高めることができるからである。しかして、第3オイル供給パイプ58の7個のオイル吐出口58…から上方に吐出されたオイルは凹状の第1反射面67aに衝突して撥ね返り、殆ど真下に落下して変速ユニット14…の前記被潤滑部を潤滑することができる。
【0053】
また変速比が低レシオ領域(TD側の領域)にあるとき、図6(A)に示すように、偏心ディスク19の偏心量εは大きくなり、潤滑すべきピニオン17、リングギヤ19b、ボールベアリング22、ローラベアリング32等の被潤滑部の移動軌跡は入力軸12の軸線Lから遠い範囲に広がるため、オイルを軸線Lから遠い領域は飛散させることで潤滑効果を高める必要がある。そのために、所定角度範囲で往復回動する第3オイル供給パイプ58の7個のオイル吐出口58…から吐出されたオイルを、反射部材67に第1〜第3反射面67a〜67cに順次衝突させることで、オイルを広い範囲に飛散させて被潤滑部の潤滑効果を高めることができる。
【0054】
また変速比が中レシオ領域にあるとき、図6(B)あるいは図6(C)に示すように、偏心ディスク19の偏心量εは中程度となり、潤滑すべきピニオン17、リングギヤ19b、ニードルベアリング20、ボールベアリング22、ローラベアリング32等の被潤滑部の移動軌跡は入力軸12の軸線Lから中程度の距離範囲に位置するため、オイルを中程度の範囲に飛散させることで潤滑効果を高める必要がある。そのために、所定角度範囲で回動する第3オイル供給パイプ58の7個のオイル吐出口58…から吐出されたオイルを、反射部材67の第1、第2反射面67a,67bに衝突させることで、オイルを中程度の範囲に飛散させて被潤滑部の潤滑効果を高めることができる。
【0055】
図7(A)において、偏心ディスク19の回転方向が矢印で示すように時計方向であるとすると、反射部材67の第2、第3反射面67b,67cの位置は入力軸12の鉛直方向上方から左側に、つまり偏心ディスク19の回転方向遅れ側に偏倚している。これにより、第2、第3反射面67b,67cに衝突して飛散したオイルは時計方向に回転する偏心ディスク19に大きな相対速度で衝突することになり、前記相対速度により被潤滑部の小さい隙間にオイルを効率的に入り込ませて潤滑効果を高めることができる。
【0056】
図4の右側の鎖線枠内に拡大して示すように、反射部材67を軸線Lと平行に切断した断面は、一対のV字状凹部67d,67dが隣り合った形状を有しているため、一対のV字状凹部67d,67dに上向きに衝突したオイルは2方向に分岐してから下向きに方向を変え、図4の左側の鎖線枠内に拡大して示すように、偏心ディスク19の肩部19cに落下する。その結果、オイルは肩部19cに沿って流下し、その径方向内側に位置するニードルベアリング20を効果的に潤滑することができる。
【0057】
尚、第6オイル供給パイプ62のオイル吐出口62a…からのオイルで潤滑されるワンウェイクラッチ36…は変速比によって位置が変化することがないため、オイルを吐出するときの第6オイル供給パイプ62の回転位置は一定であり、オイル吐出口62a…は反射部材68の1個の反射面68aを指向している。
【0058】
第4オイル供給パイプ59のオイル吐出口59a,59aから側部カバー42の内部に吐出されたオイルは、遊星歯車機構25やボールベアリング22を潤滑する(図4参照)。
【0059】
さて、エンジンEが停止すると入力軸12に接続されたオイルポンプ54も停止するが、オイルポンプ54が停止した瞬間には、第1〜第6オイル供給パイプ55,56,58,59,60,62の内部はオイルで満たされている。このとき、仮に第3オイル供給パイプ58のオイル吐出口58a…あるいは第6オイル供給パイプ62のオイル吐出口62a…が下向きに開口していると、そのオイル吐出口58a…,62a…から重力で次第にオイルが排出されてしまう。そのため、次にエンジンEが始動してオイルポンプ54が作動したときに、第3オイル供給パイプ58および第6オイル供給パイプ62の内部がオイルで満たされるまでオイル吐出口58a…,62a…からオイルが吐出されず、潤滑が正常に開始されるまでに時間遅れが発生する問題がある。
【0060】
しかしながら本実施の形態によれば、第3オイル供給パイプ58および第6オイル供給パイプ62のオイル吐出口58a…,62a…は上向きに開口しているので、エンジンEが停止してオイルポンプ54が停止しても、第3オイル供給パイプ58および第6オイル供給パイプ62の内部のオイルはオイル吐出口58a…,62a…から漏出することなく保持され、次にエンジンEが始動してオイルポンプ54が作動したときに、即座にオイル吐出口58a…,62a…からオイルを吐出させて潤滑性能を確保することができる。
【0061】
ところで、エンジンEを停止したときに、図8(A)に示すように、パイプ回動アクチュエータ63,63は第3オイル供給パイプ58および第6オイル供給パイプ62を、オイル吐出口58a…,62a…が鉛直方向上方(矢印A方向)を向く位置まで回転させて停止させ、第3オイル供給パイプ58および第6オイル供給パイプ62からのオイルの漏洩を防止する。このとき、図8(B)に示すように、車両が坂道のような傾斜した路面で停止した場合を考慮し、前後傾斜角センサSfで検出した車体傾斜角に応じてオイル吐出口58a…,62a…が鉛直方向上方を向く位置に停止させる。例えば、車両が上り坂で角度α上向きの姿勢で停止した場合には、第3オイル供給パイプ58および第6オイル供給パイプ62の停止位置を、車両が水平姿勢で停止する通常時の位置に対して角度α回転した位置に設定することで、オイル吐出口58a…,62a…を鉛直方向上方(矢印B方向)に向けることができ、これにより第3オイル供給パイプ58および第6オイル供給パイプ62からのオイルの漏洩を一層確実に防止することができる。
【0062】
以上、本発明の実施の形態を説明したが、本発明はその要旨を逸脱しない範囲で種々の設計変更を行うことが可能である。
【0063】
例えば、本発明の駆動源は実施の形態のエンジンEに限定されず、電動モータ等の他の駆動源であっても良い。
【符号の説明】
【0064】
11 ミッションケース
12 入力軸
13 出力軸
14 変速ユニット
19 偏心ディスク(入力側支点)
33 コネクティングロッド
36 ワンウェイクラッチ
37 ピン(出力側支点)
38 アウター部材(入力部材)
54 オイルポンプ
58 第3オイル供給パイプ(オイル供給パイプ)
58a オイル吐出口
63 パイプ回動アクチュエータ(パイプ回動手段)
67 反射部材
67a 第1反射面(反射面)
67b 第2反射面(反射面)
67c 第3反射面(反射面)
E エンジン(駆動源)
L 入力軸の軸線
Sf 前後傾斜角センサ(傾斜角検出手段)
T 無段変速機
ε 入力側支点の偏心量

【特許請求の範囲】
【請求項1】
駆動源(E)に接続された入力軸(12)の回転を変速して出力軸(13)に伝達する無段変速機(T)が、前記入力軸(12)および前記出力軸(13)の軸方向に並置された複数の変速ユニット(14)を備え、
前記複数の変速ユニット(14)の各々が、
前記入力軸(12)の軸線(L)からの偏心量(ε)が可変であって該入力軸(12)と共に回転する入力側支点(19)と、
前記出力軸(13)に接続されたワンウェイクラッチ(36)と、
前記ワンウェイクラッチ(36)の入力部材(38)に設けられた出力側支点(37)と、
前記入力側支点(19)および前記出力側支点(37)に両端を接続されて往復運動するコネクティングロッド(33)とを備える車両用動力伝達装置であって、
オイルポンプ(54)からオイルが供給されるオイル供給パイプ(58)を前記入力軸(12)の上方に前記軸線(L)方向に配置し、前記オイル供給パイプ(58)から前記複数の変速ユニット(14)にそれぞれオイルを吐出する複数のオイル吐出口(58a)を、前記オイル供給パイプ(58)の上面に開口させたことを特徴とする車両用動力伝達装置。
【請求項2】
前記オイル供給パイプ(58)を、その軸線まわりに所定角度範囲で往復回動させるパイプ回動手段(63)を備えることを特徴とする、請求項1に記載の車両用動力伝達装置。
【請求項3】
前記パイプ回動手段(63)は、前記所定角度範囲を前記入力側支点(19)の偏心量(ε)に応じて変化させることを特徴とする、請求項2に記載の車両用動力伝達装置。
【請求項4】
前記オイル供給パイプ(58)の前記オイル吐出口(58a)の方向は、鉛直方向上方に対して前記入力側支点(19)の回転方向遅れ側に偏向することを特徴とする、請求項2または請求項3に記載の車両用動力伝達装置。
【請求項5】
車体の傾斜角を検出する傾斜角検出手段(Sf)を備え、前記オイルポンプ(54)が停止したとき、前記パイプ回動手段(63)は、前記傾斜角検出手段(Sf)で検出した車体の傾斜角に応じて、前記オイル吐出口(58a)の方向が鉛直方向上方を向く位置で前記オイル供給パイプ(58)の回動を停止させることを特徴とする、請求項2〜請求項4の何れか1項に記載の車両用動力伝達装置。
【請求項6】
前記オイル供給パイプ(58)の上方を覆うミッションケース(11)の下面に前記オイル吐出口(58a)から吐出したオイルを反射させる反射部材(67)を設けるとともに、前記反射部材(67)に前記オイル供給パイプ(58)の回動位置に対応する複数の反射面(67a〜67c)を設けたことを特徴とする、請求項3〜請求項5の何れか1項に記載の車両用動力伝達装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate


【公開番号】特開2013−7464(P2013−7464A)
【公開日】平成25年1月10日(2013.1.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−141468(P2011−141468)
【出願日】平成23年6月27日(2011.6.27)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】