説明

車両用噴霧試験装置

【課題】ウォータースポットの発生を無くして環境試験の実態再現精度の改善を図ることができる車両用噴霧試験装置を提供する。
【解決手段】散水ノズル16aを設けた散水配管16を配設した環境試験室11内に自動車Mを配置し、散水ノズル16aからテスト水を自動車に噴霧して試験を行う車両用噴霧試験装置において、環境試験室11の天面20を傾斜面20a,20bで形成し、天面20に付着したテスト水を自動車Mが配置される床面領域の外側へ導くようにした車両用噴霧試験装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は車両用噴霧試験装置に関するものであり、特に、試験室内に配置された車両に塩水等のテスト水を噴霧して環境試験を行う車両用噴霧試験装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、環境試験室内に自動車等の車両を配置し、各種の性能試験を行う試験装置は知られている(例えば、特許文献1、特許文献2参照)。特許文献1は、自動車が配置された環境試験装置内に吹雪き状態を再現して自動車の性能試験を行う環境試験装置で、特許文献2は、環境試験装置内に雨水等で濡れた路面状況を再現して、自動車におけるタイヤのスリップやハイドロプレーニング現象試験をする装置である。
【0003】
また、近年では塩害や酸性雨の影響を環境試験室内に再現して試験を行うことも多くなって来ている。その塩害や酸性雨による環境試験を行う一例としては、環境試験室内に散水ノズルを設けた散水配管を配設し、該散水ノズルからテスト水を自動車に噴霧して試験を行うようにした車両用噴霧試験装置が知られている(特許文献なし)。その塩害や酸性雨による環境試験を行う従来の車両用噴霧試験装置は、散水ノズルを設けた散水配管を配設してなる環境試験室内の天井がフラットな面で形成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特公昭63−19809号公報。
【特許文献2】特開2006−153708号公報。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上述した従来の車両用噴霧試験装置では、散水ノズルを設けた散水配管を配設してなる環境試験室内の天井がフラットな面で形成されているので、噴霧された霧が天井に舞い上がって天井面に付着すると、それが水滴となって自動車の上に滴り落ち、部分的にウォータースポットができる場合がある。また、この水滴は高温多湿により結露することによっても発生する。そして、このようなウォータースポットが部分的にできると、環境試験の実態再現精度が低下するという問題点があつた。
【0006】
そこで、ウォータースポットの発生を無くして環境試験の実態再現精度の改善を図るために解決すべき技術的課題が生じてくるのであり、本発明はこの課題を解決することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は上記目的を達成するために提案されたものであり、請求項1記載の発明は、散水ノズルを設けた散水配管を配設した試験室内に車両を配置し、前記散水ノズルからテスト水を前記車体に噴霧して試験を行う車両用噴霧試験装置において、前記試験室の天面を傾斜面で形成し、該天面に付着した前記テスト水を前記車両が配置される床面領域の外側へ導くようにしてなる車両用噴霧試験装置を提供する。
【0008】
この構成によれば、噴霧された霧が天井に舞い上がって天面に付着して水の塊となる、あるいは高温多湿により天面に結露による水の塊ができると、この天面に付着した水の塊は試験室の天面の傾斜により、その傾斜面を滑って車両が配置される床面領域の外側へ導かれる。これにより、車両の上に滴り落ちる水の塊を無くし、ウォータースポットが作られるのを防ぐ。
【0009】
請求項2記載の発明は、請求項1記載の構成において、上記試験室の天面は、フラットな面で形成された第1の天面と、該第1天面の下側に重ねて配置された上記傾斜面を有する第2天面で構成してなる車両用噴霧試験装置を提供する。
【0010】
この構成によれば、通常のフラットな面で形成された第1の天面の下側に、傾斜面で形成された第2天面を設けることにより、傾斜付の天面を簡単に設置することができる。すなわち、一般的に形成されるフラットな天面(第1天面)を設けた試験室の天井に第2天面を設けると、天井に傾斜面を簡単に設けることができる。
【0011】
請求項3記載の発明は、請求項1または2記載の構成において、上記散水配管は、上記テスト水の通水終了後、該散水配管内に残留している前記テスト水を抜くためのエアを供給するエア供給管と接続可能に構成されている車両用噴霧試験装置を提供する。
【0012】
この構成によれば、テスト水を供給しての噴霧試験が終了したら、散水配管にエア供給管を接続し、該エア供給管からエアを吹き込んで該散水配管内に溜まっているテスト水を完全に抜くことができる。これにより、散水ノズル内の目詰まり、及び、該散水ノズル内に錆が発生するのを防止できる。
【0013】
請求項4記載の発明は、請求項2または3記載の構成において、上記試験室は、上記第2天面の上記傾斜面にエアを吹き付けるエア供給管を設けてなる車両用噴霧試験装置を提供する。
【0014】
この構成によれば、試験中や試験後に第2天面にエアを吹き付け、第2天面に付着した水滴を短時間で取り除くことができる。
【0015】
請求項5記載の発明は、請求項1,2,3または4記載の構成において、上記試験室は、空調機とファンを通路途中に設けた送風ダクトにより大気を循環させるように構成してなる車両用噴霧試験装置を提供する。
【0016】
この構成によれば、噴霧試験に加えて、大気を循環させての試験を同時または別々に行うことができる。
【0017】
請求項6記載の発明は、請求項1,2,3,4または5記載の構成において、上記散水ノズルは、塩水をテスト水として噴霧する車両用噴霧試験装置を提供する。
【0018】
この構成によれば、塩水を噴霧して塩害等を試験することができる。
【発明の効果】
【0019】
請求項1記載の発明は、噴霧された霧が天井に舞い上がって天面に付着して水の塊となる、あるいは高温多湿により天面に結露により水の塊ができたときに、その水の塊は車両が配置される床面領域の外側へ試験室の天面の傾斜によって導かれ、供試体の上に滴り落ちる水の塊を無くしてウォータースポットを作るようなことが無いので、環境試験の実態再現が安定し、試験精度が向上する。
【0020】
請求項2記載の発明は、一般的に形成されるフラットな天面(第1天面)を有する試験室の天井に第2天面を設けて、傾斜面付の天面を設けた試験室を簡単に作ることができる。これにより、請求項1記載の発明の効果に加えて、傾斜面付の天面を有した設備を簡単に作ることができ、経済性が向上する。
【0021】
請求項3記載の発明は、散水ノズル内の目詰まり、及び、該散水ノズル内に錆が発生するのを防止することができるので、請求項1または2記載の発明の効果に加えて、設備の管理が容易になる。
【0022】
請求項4記載の発明は、試験中や試験後に第2天面にエアを吹き付け、第2天面に付着した水滴を短時間で取り除くことができるので、請求項1,2または3記載の発明の効果に加えて、試験中に供試体の上に滴り落ちる水の塊をさらに無くして精度良く試験を行うことができるとともに、試験後における第2天面の水滴処理をスムーズに行うことができる。
【0023】
請求項5記載の発明は、噴霧試験に加えて、大気を循環させての試験を行うことができるので、請求項1,2,3または4記載の発明の効果に加えて、試験の種類を拡大させることができる。
【0024】
請求項6記載の発明は、請求項1,2,3,4または5記載の発明の効果に加えて、塩水を噴霧して塩害等の試験をすることができる効果が期待できる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明の一実施例を示す車両用噴霧試験装置の概略縦断側面図。
【図2】図1のA−A線概略断面図。
【図3】同上車両用噴霧試験装置の概略水平断面図。
【図4】同上車両用噴霧試験装置の散水配管のノズル部を示す概略拡大図。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
本発明はウォータースポットの発生を無くして環境試験の実態再現精度の改善を図るという目的を達成するために、散水ノズルを設けた散水配管を配設した試験室内に車両を配置し、前記散水ノズルからテスト水を前記車体に噴霧して試験を行う車両用噴霧試験装置において、前記試験室の天面を傾斜面で形成し、該天面に付着した前記テスト水を前記車両が配置される床面領域の外側へ導くようにして実現した。
【0027】
以下、本発明の実施形態による車両用噴霧試験装置を、自動車に塩水を噴霧する場合を一例として図1乃至図4を参照しながら詳細に説明する。
【実施例】
【0028】
図1乃至図3は本発明に係る車両用噴霧試験装置の一実施例を示すもので、図1はその装置の概略縦断側面図、図2は図1のA−A線概略断面図、図3はその装置の概略水平断面図である。以下の説明において、図1の左右方向左側を装置の前後方向前方、右側を後方とし、また上下方向を上下、紙面に垂直な方向を左右として説明する。
【0029】
図1乃至図3において、環境試験装置10は、車両としての自動車Mの性能・耐久性等の試験を行う環境試験室11と、該環境試験室11内の大気を循環させるためのメイン送風ダクト12等により構成されている。
【0030】
前記環境試験室11には、自動車Mを出し入れするための開閉可能な出入口13と、冷風(大気)を取り入れるための、前側壁面下部に形成した送入口14と、該送入口14から該環境試験室11内に流入された冷風を順次排出するための、前側壁面上部に形成した排風口15と、該環境試験室11内の上部に、天井に沿って配設された散水配管16が設けられている。
【0031】
前記メイン送風ダクト12は、一端開口部側が前記環境試験室11の送入口14に接続されているとともに、他端開口部側が前記環境試験室11の前記排風口15に接続されている。また、該メイン送風ダクト12内には、空調機17とファン18が設けられている。
【0032】
前記環境試験室11の天井は、フラットな面で形成された第1の天面19と、該第1の天面19の下側に設けられた第2の天面20とで、二重に構成されている。なお、該第1の天面19は該環境試験室11の外側天井を形成している最初から恒久的に作られた天井であり、該第2の天面20は最初から設けられる場合、あるいは後から前記第1の天面19の下側に追加されて設けられる場合がある。
【0033】
また、前記第2の天面20は、図2に示すように天井の左右中央部分から左右両側に向かってそれぞれ下るように傾斜して設けられた左右の傾斜面20a,20bで形成されている。なお、各傾斜面20a,20bの下端部分は、前記車両が配置される床面11c上の配置領域部分よりも外側に位置するようにして、すなわち本実施例の場合では前記環境試験室11の左右側壁11a,11bと当接している位置まで延ばされた状態にして設けられている。
【0034】
前記散水配管16は、前記第2の天面20に沿って前記環境試験室11の前面壁側から後面壁側へ向かって設けられている。また、該散水配管16の途中には、散水ノズル16aがそれぞれ互いに離間して複数個設けられている。該散水ノズル16aは、前記環境試験室11の前記床面11c上に配置された自動車Mに対してテスト水である塩水をほぼ均等に噴霧することができるようにして、その個数及び向き並びに位置を考慮して設けられている。また、該散水配管16の配置も、前記散水ノズル16aの設置位置を考慮して配管される。
【0035】
なお、本実施例の散水配管16は、前後方向に延びて配管された基管から複数本の枝管をそれぞれ左右方向に向けて複数本の枝管を延ばして設け、その基管及び枝管の途中に前記散水ノズル16aを設けている。この基管・配管の配設形状等は、試験をする自動車Mの大きさ及び形状等によって任意に設定されるものである。
【0036】
また、該散水配管16の一端側には、テスト水(塩水)を供給するための塩水供給配管(図示せず)と、テスト水の通水終了後、該散水配管16内に残留している該テスト水を抜くエアを供給するためのエア供給管(図示せず)が切り換え接続されるようになっている。
【0037】
さらに、前記散水管16として配管された一部の管は、前記第2の天面20の傾斜面20a,20bに散水ノズル16aを通してエアを吹き付けエア供給管として設けられている。そして、エア供給管として設けられている前記散水管16は、試験中や試験後に第2の天面20の傾斜面20a,20bにエアを吹き付け、該第2天面に付着した水滴を試験中には落下しないように取り除くとともに、試験後には短時間で取り除くことができるように機能する。
【0038】
このように構成された環境試験装置10では、前記自動車Mの塩害試験等を行う場合、該自動車Mを前記環境試験室11内に移動させ、前記床面11cの決められた位置に配置する。その後、前記散水配管16に前記塩水供給配管を接続して、該塩水供給配管から前記散水配管16内に塩水を供給する。そして、該散水配管16内に供給された塩水は、散水ノズル16aから前記環境試験室11内の前記自動車Mに向かって噴霧される。また、散水配管16内に供給されるテスト水の圧力を調整することにより、該自動車Mの走行時に塩水を浴びる状態を、該自動車Mを走行させることなく再現して試験を行うことができる。
【0039】
なお、塩水の噴霧を行うと、天井側に舞い上がった霧が該天井の前記第2の天面20に付着して水の塊となるが、この第2天面20に付着した水の塊は該第2の天面20の前記傾斜面20a,20aの傾斜により、その傾斜面20a,20bを滑って前記自動車Mが配置されている床面領域の外側、すなわち前記環境試験室11の前記左右側壁11a,11bの近傍まで導かれ、更に樋(図示せず)を通って前記環境試験室11の外側へ導かれて所定の場所に溜められる。これにより、前記自動車Mの上に塩水が滴り落ちて、部分的にウォータースポットを作るというようなことを起こすことがなく、試験を行うことができる。これは、高温多湿により第2の天面20に結露が生じて水の塊が出来た場合も同じである。したがって、環境試験の実態再現が安定し、試験精度が向上することになる。
【0040】
また、塩水を供給しての試験が終了したら、散水配管16にエア供給管を接続し、該エア供給管から該散水配管16内にエアを吹き込んで溜まっている塩水を排出して、該散水ノズル16aの目詰まり、及び、該散水ノズル16a内に錆が発生するのを防止する作業を行い、試験作業を終了する。
【0041】
次に、風洞試験を行う場合は、前記ファン18と前記空調機17を駆動させる。該ファン18と該空調機17が駆動されると、該ファン18と該空調機17で調節された空気が、前記メイン送風ダクト12の一端開口部(前記出入口13)から環境試験室11内に吹き出されて、該環境試験室11内の前記自動車Mに吹き付けられる。その後、該環境試験室11内の空気は、前記排風口15を通って前記メイン送風ダクト12内に吸い込まれて、前記ファン18と前記空調機17に帰還するルートで循環する。このようにして風洞試験を行うことができる。
【0042】
なお、本発明は、本発明の精神を逸脱しない限り種々の改変を為すことができ、そして、本発明が該改変されたものに及ぶことは当然である。
【産業上の利用可能性】
【0043】
本発明は塩水や酸性水等のテスト水を噴霧して試験をする以外に、真水を噴霧して試験をする装置等にも応用できる。
【符号の説明】
【0044】
10 環境試験装置
11 環境試験室
11a,11b 左右側壁
11c 床面
12 メイン送風ダクト
13 出入口
14 送入口
15 排風口
16 散水配管
16a 散水ノズル
17 空調機
18 ファン
19 第1の天面
20 第2の天面
20a 傾斜面
20b 傾斜面
M 自動車(車両)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
散水ノズルを設けた散水配管を配設した試験室内に車両を配置し、前記散水ノズルからテスト水を前記車両に噴霧して試験を行う車両用噴霧試験装置において、
前記試験室の天面を傾斜面で形成し、該天面に付着した前記テスト水を前記車両が配置される床面領域の外側へ導くようにしてなることを特徴とする車両用噴霧試験装置。
【請求項2】
上記試験室の天面は、フラットな面で形成された第1の天面と、該第1天面の下側に重ねて配置された上記傾斜面を有する第2天面で構成してなることを特徴とする請求項1記載の車両用噴霧試験装置。
【請求項3】
上記散水配管は、上記テスト水の通水終了後、該散水配管内に残留している前記テスト水を抜くためのエアを供給するエア供給管と接続可能に構成されていることを特徴とする請求項1または2記載の車両用噴霧試験装置。
【請求項4】
上記試験室は、上記第2天面の上記傾斜面にエアを吹き付けるエア供給管を設けてなることを特徴とする請求項2または3記載の車両用噴霧試験装置。
【請求項5】
上記試験室は、空調機とファンを通路途中に設けた送風ダクトにより大気を循環させるように構成してなることを特徴とする請求項1,2,3または4記載の車両用噴霧試験装置。
【請求項6】
上記散水ノズルは、塩水をテスト水として噴霧することを特徴とする請求項1,2,3,4または5記載の車両用噴霧試験装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−163389(P2012−163389A)
【公開日】平成24年8月30日(2012.8.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−22399(P2011−22399)
【出願日】平成23年2月4日(2011.2.4)
【出願人】(390026974)株式会社東洋製作所 (132)
【Fターム(参考)】