説明

車両用回転操作部材及びこれを備えた車両用回転操作装置

【課題】パネル10、回路基板20、及びこの回路基板20上に設けられる回転検出素子30と、を含む回転操作装置に設けられる回転操作部材50であって、簡素な構造でありながら、一定以上の押圧力を受けたときに正しい姿勢を保ちながら確実に後退することが可能であり、またそのための設計も容易なものを提供する。
【解決手段】回転操作部材50は、回転検出素子30の被操作軸34に嵌合する内筒部62と、パネル表側面15から突出して回転操作を受ける外側部63,64と、内筒部62の後退を規制する規制部66とを有する。規制部66は、内筒部62の先端部につながり、被操作軸34の先端面38に当接するように内側に突出する突出部68を含み、さらに、回転操作部材50が大きな押圧荷重を受けたときに突出部68が被操作軸先端面38から離脱して被操作軸34に沿った内筒部62の変位を許容するように変形する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両のインストゥルメントパネル等の表面から突出する回転操作部材及びこれを含む回転操作装置であって、前記回転操作部材が一定以上の押圧荷重を受けた時に前記インストゥルメントパネル等の表面からの当該回転操作部材の突出量を減らすことが可能なものに関する。
【背景技術】
【0002】
自動車等の車両においては、一般に、空調装置やオーディオ機器等を操作するための回転操作部材(操作ダイヤル)が、車室内に臨むパネル(例えばインストゥルメントパネル)に設けられる。このような回転操作部材の大半は、搭乗者により操作を受けることができるように前記パネルの表面から車室内に突出するように設けられる。
【0003】
かかる回転操作部材の突出量は、安全面及び操作面の双方を満足するように設計されることが好ましい。具体的に、搭乗者が当該回転操作部材をつまみながらその回転操作をするためには、ある程度大きな突出量を確保することが望ましい。その反面、車両の衝突や急停止時に搭乗者が前記回転操作部材の突出部分に接触する場合を想定すると、安全上の観点からは、当該回転操作部材の突出量が小さいことが望ましく、実際にその突出量を規制する国も存在する。
【0004】
そこで従来は、安全性と操作性の双方を満足させるための手段として、前記回転操作部材に一定以上の押圧荷重が付与された場合に、この回転操作部材の一部がその押圧方向に後退する(すなわち突出量が急減する)ことが可能な装置の開発が進められている。
【0005】
例えば特許文献1には、図10に示すような回転操作装置が開示されている。この装置は、回路基板100上に設けられる回転検出素子110及びベース120と、回転操作部材を構成するホルダー140及び操作ノブ150とを備える。
【0006】
前記回転検出素子110は、回路基板100に固定される本体部111と、この本体部111から突出して当該本体部111に対して回転可能な被操作軸112とを有し、前記本体部111は前記被操作軸112の回転に応じた信号を出力する。前記ベース120は、回転検出素子110を囲むように回路基板100上に固定される円筒状の樹脂製部品であり、その上に前記ホルダー140を支持する。
【0007】
前記ホルダー140は、前記回転検出素子110に連結されかつ前記ベース20と当接する内側部141と、この内側部141の周囲に設けられる外側部142と、内側部141と外側部142とを連結する破断部143とからなる。破断部143は、前記内側部141と前記外側部142との間に前記被操作軸112と平行な方向のせん断荷重が作用したときに破断され易い形状を有している。前記操作ノブ150は、前記ホルダー140の内側部141および破断部143等を外側から覆う形状を有し、その下端部が前記外側部142に係合されている。
【0008】
この回転操作装置において、前記操作ノブ150が指等で把持されながら回転操作されると、これと一体にホルダー140及び被操作軸112が回転し、その回転に応じた信号が回転検出素子110から出力される。その一方、車両の衝突等に起因して搭乗者の人体が前記操作ノブ150に接触しかつこれを押圧すると、当該押圧に起因して当該操作ノブ150からホルダー140の外側部142に与えられる押圧荷重と、ベース120からホルダー140に与えられる支持反力とによるせん断荷重が破断部143に作用し、そのせん断荷重が一定以上の場合に破断部143が破断する。この破断により、図11に示すように操作ノブ150が回路基板100側に沈降し、図略のパネルからの操作ノブ150の突出量が急減する。この突出量の急減は、操作ノブ150がこれと接触する人体に与える影響を著しく軽減する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2008−79484号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
前記装置では、非常時の操作ノブ150の後退を実現するために部品点数の増大及び構造の複雑化が不可避である。具体的には、当該操作ノブ150に加え、ホルダー140さらにはこれを支持するベース120を具備する必要がある。しかも、ホルダー140は、内側部141及び外側部142を有する二重構造であるのに加え、両部141,142の間に複雑な形状の破断部143が介在しなければならない。
【0011】
さらに、前記破断部143が破断される箇所は被操作軸112から径方向に大きく離れていて周方向に並ぶ複数の箇所であるため、これを確実に破断させるための設計は難しい。また、仮に破断されても操作ノブ150が傾いた姿勢で後退する可能性は否定できない。
【0012】
本発明は、このような事情に鑑み、簡素な構造でありながら、一定以上の押圧力を受けたときに正しい姿勢を保ちながら確実に後退することが可能であり、またそのための設計も容易な車両用回転操作部材、およびこれを備えた車両用回転操作装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
前記課題を解決するための手段として、本発明は、車室内に臨む表側面を有するパネルと、このパネルに保持される回路基板と、この回路基板上に設けられ、当該回路基板から前記パネルの表側面に向かって突出しかつ回転可能な被操作軸を有し、この被操作軸の回転に応じて信号を出力する回転検出素子とを含む回転操作装置に設けられる車両用回転操作部材であって、前記パネルの表側面から前記車室側に突出しかつ前記被操作軸にこれと一体に回転するように取付けられるものを提供する。
【0014】
この車両用回転操作部材は、前記被操作軸を囲む筒状をなしかつ当該被操作軸の外側に当該被操作軸と一体に回転するように嵌合される内筒部と、この内筒部を囲む形状を有するとともに当該内筒部と一体に回転するように当該内筒部とつながり、前記パネルの表側面から車室内に突出して回転操作を受ける外側部と、前記内筒部が当該被操作軸に対して前記回路基板側に近づく向きに相対変位するのを規制して前記パネルからの前記外側部の突出量を保つ規制部とを有する。この規制部は、前記内筒部の先端部につながるとともに、前記被操作軸の先端面に対してその先端側から当接するように前記内筒部の内周面よりも径方向の内側に突出する突出部を含む。この規制部は、さらに、前記回転操作部材が前記パネルの裏側に向かう一定以上の押圧荷重を受けたときに前記突出部が前記被操作軸の先端面から離脱して当該押圧荷重の方向と同方向への前記被操作軸に沿った前記内筒部の相対変位を許容するように変形する形状を有する。
【0015】
この車両用回転操作部材では、内筒部が被操作軸と一体に回転するように当該被操作軸に嵌合され、かつ、規制部が回転検出素子の被操作軸の先端面に当接することによりパネルの表側面からの回転操作部材の突出量を保つから、当該回転操作部材の外側部は車室内から良好に把持されて回転操作されることが可能である。そして、この回転操作に伴い、これと一体に内筒部さらにはこれと嵌合する(回転検出素子の)被操作軸が回転し、これに対応して回転検出素子から信号が出力される。
【0016】
その一方、当該回転操作部材に対して車室内から一定以上の押圧荷重が加えられたときには、前記規制部が変形してその押圧荷重の向きと同じ向きに前記内筒部が相対変位するのを許容する。この相対変位により、前記パネルの表側面からの回転操作部材の突出量が急減する。しかも、前記内筒部は前記被操作軸の外側に嵌合された状態でこの被操作軸に沿って変位するから、前記回転操作部材は正しい姿勢を保ったまま(すなわち傾くことなく)確実に後退することができる。また、この後退を実現するための補助的な部材、例えば、前記図10及び図11に示したようなベース120やホルダー140は不要であり、前記回転操作部材自身が保有する外側部、内筒部、及び規制部の組み合わせのみで、通常時におけるパネル表側面からの外側部の突出量の確保と、非常時(押圧荷重作用時)における後退とを実現することができる。
【0017】
具体的に、前記規制部としては、例えば、前記回転操作部材が受ける一定以上の押圧荷重によるせん断力で前記突出部が折損するものや、前記内筒部につながる基端部と前記突出部が設けられる先端部とを有し、前記回転操作部材が一定以上の押圧荷重を受けた時に前記突出部が前記被操作軸の先端面からその径方向の外側に退避するように前記先端部が撓み変形する形状をなすものが、好適である。
【0018】
また、前記外側部としては、前記被操作軸の先端面からさらにその先端側に特定の距離をおいて離間し、前記規制部の変形を伴って前記被操作軸に対し前記内筒部が前記距離分だけ相対変位したときに当該被操作軸の先端面と当接することによりそれ以上の相対変位を阻止する端壁を有するものが、好適である。この端壁は、前記相対変位時に前記被操作軸が人体等と接触するのを阻止するとともに、当該相対変位の量を規制して回転操作部材の過度の後退を防ぐ。
【0019】
また本発明は、車両の回転操作装置であって、車室内に臨む表側面を有するパネルと、このパネルに保持される回路基板と、この回路基板上に設けられ、当該回路基板から前記パネルの表側面に向かって突出しかつ回転可能な被操作軸を有し、この被操作軸の回転に応じて信号を出力する回転検出素子と、前記パネルの表側面から前記車室側に突出しかつ前記被操作軸にこれと一体に回転するように取付けられる回転操作部材とを備え、この回転操作部材が上述の回転操作部材であるものを提供する。
【0020】
この回転操作装置では、前記被操作軸の少なくとも先端部位が円柱の一部を平面で切欠いた形状を有し、かつ、当該被操作軸のうち切欠かれていない円柱部位の先端のみが面取りされた形状を有する一方、前記内筒部は前記先端部位の外形に対応する形状の内周面を有し、前記規制部は前記内筒部のうち前記平面に対応する部位につながるものが、好適である。これらの形状は、当該被操作軸に対する当該内筒部の相対回転を確実に阻止するだけでなく、前記規制部に含まれる突出部が前記被操作軸の先端面に対して前記平面側すなわち面取りされていない側から当接することを可能にし、これにより、当該突出部と前記被操作軸の先端面とが接触する部位の面積を大きくとることを可能にする。
【0021】
また、この回転操作装置では、前記被操作軸が金属材料からなり、前記回転操作部材のうちの少なくとも前記内筒部及びこれにつながる規制部が前記金属材料よりも強度の低い樹脂材料により形成されたものが、好適である。これらの材料の組み合わせは、前記回転操作部材が一定以上の押圧荷重を受けたときに(金属材料製の被操作軸でなく)回転操作部材の規制部が変形することを確実にする。
【発明の効果】
【0022】
以上のように、本発明では、回転操作部材自身のもつ簡素な構造で、当該回転操作部材が大きな押圧荷重を受けたときに当該回転操作部材を正規の姿勢のまま回路基板側に確実に後退させることができ、これにより、当該回転操作部材の容易な操作と車両衝突時等における安全性の確保とを両立させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明の第1の実施の形態に係る車両用回転操作装置の分解斜視図である。
【図2】前記車両用回転操作装置の正面図である。
【図3】図2のIII−III線断面図である。
【図4】図3のIV部拡大図である。
【図5】前記車両用回転操作装置における回転操作部材の斜視図である。
【図6】前記車両用回転操作装置の回転操作部材が後退した状態を示す断面側面図である。
【図7】本発明の第2の実施の形態に係る車両用回転操作部材を構成するダイヤル本体の斜視図である。
【図8】図7に示すダイヤル本体を別の角度から見た斜視図である。
【図9】本発明の第2の実施の形態に係る車両用回転操作装置において前記車両用回転操作部材が後退した状態を示す断面側面図である。
【図10】従来の車両用回転操作装置の断面図である。
【図11】図10に示す車両用回転操作装置においてその回転操作部材が後退した状態を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
本発明の第1の実施の形態を図1〜図6を参照しながら説明する。
【0025】
図1〜図3は、この実施の形態に係る車両用回転操作装置を示す。この装置は、パネル10と、このパネル10に保持される回路基板20と、この回路基板20上に実装される回転検出素子30と、前記パネル10に取付けられるダイヤルリング40と、本発明に係る回転操作部材に相当する操作ダイヤル50とを備える。
【0026】
前記パネル10は、図3及び図4に示すような外側壁12及び筒部14を一体に有する。外側壁12は、車室VR内に臨む表側面15と、その反対側の裏面16とを有し、ほぼ立直した姿勢で配置される。この外側壁12の適所には、これを厚み方向に貫通する円形の貫通穴18が設けられる。前記筒部14は、前記裏面16から後方に突出し、前記貫通穴18に通ずる空間を囲む円筒状をなす。
【0027】
前記回路基板20は、前記パネル10の外側壁12に向かう表側面22と、その反対の裏側面24とを有し、前記表側面22が前記筒部14の後端面に当接する位置で前記パネル10内に保持される。
【0028】
前記回転検出素子30は、素子本体32と、被操作軸34とを有する。素子本体32は、前記回路基板20の表側面22上に実装され、前記被操作軸34を後述のように回転可能に保持するとともに、当該被操作軸34の回転に対応した信号を前記回路基板20に形成された回路に出力する。被操作軸34は、好ましくは金属材料からなり、前記素子本体32から前記回路基板20の法線方向に沿って前記パネル10の外側壁12に向かって延び、その貫通穴18内に位置する。この被操作軸34は大略円柱状をなすが、その少なくとも先端部位(この実施の形態では被操作軸34の基端部を除く大半の部位)は当該円柱の一部(図では上部)が平面35により切欠かれた形状(広義の弓形状の断面を有する形状)をなす。また、当該被操作軸34のうち切欠かれていない円柱部位の先端のみが面取りされた形状を有する。すなわち、前記平面35を除く先端部位に、先方に向かうに従って縮径する向きの傾斜面36が形成されている。
【0029】
前記ダイヤルリング40は、前記パネル10の内筒部14の内側に嵌入される円筒部42と、この円筒部42の軸方向の途中部分の内周面につながる内壁部44とを有する。当該内壁部44は、前記円筒部42と前記素子本体32との間の隙間を埋めるドーナツ板状をなし、美観の向上に寄与する。このダイヤルリング40は本発明に必須のものではなく、適宜省略が可能である。
【0030】
前記操作ダイヤル50は、ダイヤル本体60と、ダイヤルトップ52と、装飾リング54とを有し、本発明に係る車両用回転操作部材を構成する。
【0031】
前記ダイヤル本体60は、内筒部62と、外筒部64と、内壁部63と、規制部66とを有し、これらを含むダイヤル本体60全体が前記被操作軸34よりも強度の低い樹脂材料により一体に成形されている。また、前記外筒部64及び前記内壁部63は、前記ダイヤルトップ52及び前記装飾リング54とともに本発明に係る外側部を構成する。
【0032】
内筒部62は、前記被操作軸を囲む筒状、より詳しくは当該被操作軸34の主たる部位の外形に相当する弓形状の内周面をもつ筒状をなし、当該被操作軸34の主たる部位(先端部位を含む部位)の外側に嵌合される。この嵌合により、当該被操作軸34に対する当該内筒部62の相対回転は阻止される。また、この実施の形態では、操作ダイヤル50が多少の力で引張られても被操作軸34から抜けないように、両者のはめ合いが設定され、もしくは図略の抜け止め構造が付与されている。
【0033】
前記外筒部64は、前記内筒部62を外側から囲む筒状(この実施の形態では先端側に向かうに従ってわずかに縮径する筒状)をなし、その適当な部位が前記内壁部63を介して前記内筒部62の後端部と一体に(すなわち当該内筒部62と一体に回転するように)つながる。この外筒部64は、前記ダイヤルリング40の円筒部42の内径よりもやや小さい外径を有する。当該外筒部64の大半部位は前記パネル10の表側面15から車室VR側(図3及び図4では左側)に突出し、操作ダイヤル50を回転操作するために外側から把持される。
【0034】
前記規制部66は、前記内筒部62の先端部位とつながり、前記内筒部62が前記被操作軸34に対して前記回路基板20側に近づく向き(図では右向き)に相対変位するのを規制することにより、前記パネルからの前記外側部の突出量を保つ規制部とを有する。具体的に、この規制部66は、前記内筒部62のうち前記被操作部34の切欠き平面35に相当する部位(図では上側部位)の先端からさらに先方に突出するとともに、当該内筒部62の内側面よりも内方に突出する規制爪(突出部)68を有する。この規制爪68の断面の寸法は、操作ダイヤル50に押圧荷重が作用していない通常状態において当該規制爪68の後端面が前記被操作軸34の先端面38に当接することにより前記の相対変位(前記回路基板20側に近づく向きの変位)を規制する一方、操作ダイヤル50に対して車室VR側から前記パネル10の裏側に向かう(図3および図4では左側から右側に向かう)一定以上の押圧荷重が加わったときにその押圧荷重に相当するせん断力で当該規制爪68が折損し、当該押圧荷重の方向と同方向への前記被操作軸34に沿った前記内筒部62の相対変位(図3では右向き変位)を許容するように設定されている。
【0035】
前記ダイヤルトップ52は、本発明に係る端壁に相当するもので、前記被操作軸34の先端面38からさらにその先端側に特定の距離Z(図3)をおいて離間する位置に配され、この位置で前記装飾リング54を介して前記外筒部64に固定されている。
【0036】
なお、前記ダイヤルトップ52は(前記装飾リング54を省略して)前記ダイヤル本体60と一体に成形されたものであってもよい。すなわち、本発明に係る回転操作部材はその全体が一体に成形されたものであってもよい。
【0037】
次に、この車両用回転操作装置の作用を説明する。
【0038】
装置の組立完了直後の通常状態では、図3及び図4に示すように操作ダイヤル50の規制部66の規制爪68が被操作軸34の先端面38に当接する位置に当該操作ダイヤル50が位置決めされており、当該操作ダイヤル50の大半部分がパネル10の表側面15から車室VR側に大きく突出している。従って操作者は当該操作ダイヤル50のダイヤル本体60、より詳しくは外筒部64の外周面を指等で容易に把持しながらこれを回転操作することができる。この回転操作に伴い、外筒部64と一体に内壁部63、内筒部62、さらには当該内筒部62が嵌合する被操作軸34が一体に回転し、この被操作軸34の回転に対応した信号を回転検出素子30の素子本体32が出力する。
【0039】
一方、車両の衝突等に起因して搭乗者の人体が操作ダイヤル50に接触しかつこれを強く車室VR側(図3及び図4では左側)から強く押圧すると、これに起因して内筒部62にその軸方向に沿った押圧荷重が作用し、この押圧荷重は当該内筒部62につながる規制部66の規制爪(突出部)68にせん断荷重として作用する。
【0040】
この押圧荷重(せん断荷重)が一定以上のとき、前記規制爪68が折損し、この折損により、前記内筒部62が前記被操作軸34に対しその軸方向に沿って回路基板20側(図3及び図4では右側)に相対変位することを許容する。この相対変位は、前記被操作軸34の先端面38がダイヤルトップ52の裏面に当接する位置、すなわち図6に示す位置まで許容される。これにより、前記パネル10の表側面15からの前記操作ダイヤル50の突出量が急減し、当該操作ダイヤル50の人体に与える影響が著しく軽減されるとともに、その減少量が前記被操作軸34の先端面38から前記ダイヤルトップ52の裏面までの距離Z(図4及び図6)に規制される。すなわち、前記操作ダイヤル50の過度の没入(後退)が防がれる。しかも、前記内筒部62は前記被操作軸34の外側に嵌合された状態でこの被操作軸34に沿って変位するから、操作ダイヤル50はその全体を正しい姿勢に保ちながら(すなわち傾くことなく)確実に後退することができる。
【0041】
また、この後退を実現するための補助的な部材、例えば、前記図10及び図11に示したようなベース120やホルダー140は不要であり、前記操作ダイヤル50自身が保有する構造のみで、通常時におけるパネル表側面からの外側部の突出量の確保と、非常時(押圧荷重作用時)における後退とを実現することができる。
【0042】
本発明に係る規制部は、過大な押圧荷重の作用時にその荷重に起因して当該押圧荷重の向きと同じ向きの回転操作部材の変位を許容するように変形するものであればよく、その変形は上述したような規制爪68の折損に限られない。例えば、第2の実施の形態として図7〜図9に示すように、規制爪68の折損ではなく当該規制爪68を変位させるような変形であってもよい。
【0043】
この第2の実施の形態に係る装置は、前記第1の実施の形態と同じくパネル10、回路基板20、回転検出素子30、及び操作ダイヤル50を備え、操作ダイヤル50の構成も規制部66に代えて規制部66′を具備する点以外は同等である。この第2の実施の形態に係る規制部66′は、前記規制部66と同じく被操作軸34の先端面38に当接可能な規制爪68を有するが、当該規制部66′は、操作ダイヤル50が一定以上の押圧荷重を受けた時に前記規制爪68が前記被操作軸34の先端面38からその径方向の外側に退避するように撓み変形する形状をなす。
【0044】
具体的に、この規制部66′は、内筒部62につながる基端部及びその反対側(ダイヤルトップ52側)の先端部をもつ規制部本体67を有し、当該先端部から径方向内向きに前記規制爪68が突出している。この規制部本体67は、その基端部を支点として前記先端部及びこれに形成される規制爪68の径方向への撓み変位を許容する形状、すなわち片持ち梁状をなす。この規制部本体67の断面形状は、前記操作ダイヤル50に一定以上の押圧荷重が作用した時にその押圧荷重に起因して前記規制爪68が前記被操作軸34の先端面から径方向外側に離脱するまで撓み変位するのを許容するような曲げ剛性を有するように、設定されている。特に、この実施の形態では、前記規制部本体67の基端部両外側部と内筒部62との間に先端側に開口した一対のスリット65が形成されることにより、当該内筒部62からの規制部66′の突出量を抑えながら規制部本体67の必要長さを確保することが可能とされている。
【0045】
この第2の実施の形態においても、通常使用時には前記規制爪68が前記被操作軸34の先端面38に先端側から当接することにより、被操作軸34に対する回路基板20側への操作ダイヤル50の相対変位が規制され、当該操作ダイヤル50のパネル表側面15からの突出量が確保される。その一方、操作ダイヤル50に過大な押圧荷重が作用すると、前記規制部66′の撓み変形を伴いながら規制爪68が前記先端面38から離脱して前記押圧荷重の向きと同じ向きへの内筒部62の被操作軸34に対する相対変位が許容されることにより、操作ダイヤル50が回路基板20側に後退してその突出量が急減する。
【0046】
なお、本発明において、被操作軸34の具体的な断面形状及びこれに対応する内筒部62の内周面形状は前記のものに限定されない。これらの形状が円以外の形状であれば、被操作軸34に対する内筒部62の相対回転が規制され、操作ダイヤル50の回転が被操作軸34に伝えられる。ただし、前記第1及び第2の実施の形態のように、前記被操作軸34の少なくとも先端部位が円柱の一部を平面35で切欠いた形状を有し、かつ、当該被操作軸のうち切欠かれていない円柱部位の先端のみが面取りされた(すなわち傾斜面36が与えられた)形状を有し、前記内筒部22の内周面が前記先端部位の外形に対応する形状の内周面を有する場合において、前記規制部66(66′)が前記内筒部62のうち前記平面35に対応する部位(図例では上側部位)につながるものであれば、当該規制部66(66′)に含まれる突出部である規制爪68が前記被操作軸34の先端面38に対して前記平面35の側すなわち面取りされていない側から当接することを可能にし、これにより、当該規制爪68の突出量を増やすことなく当該規制爪68と前記被操作軸34の先端面38とが接触する部位の面積を大きくとることを可能にする。
【0047】
また、本発明において各部材の具体的な材質も限定されない。しかし、前記被操作軸が金属材料からなり、前記回転操作部材(前記各実施形態では操作ダイヤル50)のうちの少なくとも前記内筒部及びこれにつながる規制部(前記各実施形態ではダイヤル本体60)が前記金属材料よりも強度の低い樹脂材料により形成されたものでは、前記回転操作部材が一定以上の押圧荷重を受けたときに(金属材料製の被操作軸でなく)回転操作部材の規制部が変形することを確実にする。
【符号の説明】
【0048】
VR 車室
10 パネル
15 パネルの表側面
20 回路基板
30 回転検出素子
32 素子本体
34 被操作軸
35 平面
36 被操作軸の傾斜面
38 被操作軸の先端面
50 操作ダイヤル(回転操作部材)
52 ダイヤルトップ(端壁)
60 ダイヤル本体
62 内筒部
63 内壁部(外側部)
64 外筒部(外側部)
66,66′ 規制部
67 規制部本体
68 規制爪(突出部)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車室内に臨む表側面を有するパネルと、このパネルに保持される回路基板と、この回路基板上に設けられ、当該回路基板から前記パネルの表側面に向かって突出しかつ回転可能な被操作軸を有し、この被操作軸の回転に応じて信号を出力する回転検出素子とを含む回転操作装置に設けられる車両用回転操作部材であって、
前記被操作軸を囲む筒状をなしかつ当該被操作軸の外側に当該被操作軸と一体に回転するように嵌合される内筒部と、
この内筒部を囲む形状を有するとともに当該内筒部と一体に回転するように当該内筒部とつながり、前記パネルの表側面から車室内に突出して回転操作を受ける外側部と、
前記内筒部が当該被操作軸に対して前記回路基板側に近づく向きに相対変位するのを規制して前記パネルからの前記外側部の突出量を保つ規制部と、を有し、
この規制部は、前記内筒部の先端部につながるとともに、前記被操作軸の先端面に対してその先端側から当接するように前記内筒部の内周面よりも径方向の内側に突出する突出部を含み、さらに、この規制部は、前記回転操作部材が前記パネルの裏側に向かう一定以上の押圧荷重を受けたときに前記突出部が前記被操作軸の先端面から離脱して当該押圧荷重の方向と同方向への前記被操作軸に沿った前記内筒部の相対変位を許容するように変形する形状を有する、車両用回転操作部材。
【請求項2】
請求項1記載の車両用回転操作部材において、前記規制部は、前記回転操作部材が受ける一定以上の押圧荷重によるせん断力で前記突出部が折損する形状を有する、車両用回転操作部材。
【請求項3】
請求項1記載の車両用回転操作部材において、前記規制部は、前記内筒部につながる基端部と前記突出部が設けられる先端部とを有し、前記回転操作部材が一定以上の押圧荷重を受けた時に前記突出部が前記被操作軸の先端面からその径方向の外側に退避するように前記先端部が撓み変形する形状をなす、車両用回転操作部材。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載の車両用回転操作部材において、前記外側部は、前記被操作軸の先端面からさらにその先端側に特定の距離をおいて離間し、前記規制部の変形を伴って前記被操作軸に対し前記内筒部が前記距離分だけ相対変位したときに当該被操作軸の先端面と当接することによりそれ以上の相対変位を阻止する端壁を有する、車両用回転操作部材。
【請求項5】
車両に設けられる回転操作装置であって、
車室内に臨む表側面を有するパネルと、
このパネルに保持される回路基板と、
この回路基板上に設けられ、当該回路基板から前記パネルの表側面に向かって突出しかつ回転可能な被操作軸を有し、この被操作軸の回転に応じて信号を出力する回転検出素子と、
前記パネルの表側面から前記車室側に突出しかつ前記被操作軸にこれと一体に回転するように取付けられる回転操作部材とを備え、この回転操作部材が請求項1〜4のいずれかに記載の回転操作部材である、車両用回転操作装置。
【請求項6】
請求項5記載の車両用回転操作装置において、前記被操作軸の少なくとも先端部位が円柱の一部を平面で切欠いた形状を有し、かつ、当該被操作軸のうち切欠かれていない円柱部位の先端のみが面取りされた形状を有する一方、前記内筒部は前記先端部位の外形に対応する形状の内周面を有し、前記規制部は前記内筒部のうち前記平面に対応する部位につながる、車両用回転操作装置。
【請求項7】
請求項5または6記載の車両用回転操作装置において、前記被操作軸が金属材料からなり、前記回転操作部材のうちの少なくとも前記内筒部及びこれにつながる規制部が前記金属材料よりも強度の低い樹脂材料により形成された、車両用回転操作装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2012−151011(P2012−151011A)
【公開日】平成24年8月9日(2012.8.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−9192(P2011−9192)
【出願日】平成23年1月19日(2011.1.19)
【出願人】(000183406)住友電装株式会社 (6,135)
【Fターム(参考)】