説明

車両用変速機の締結装置およびその締結方法

【課題】簡単な構成で、ロックナットの締結とギヤのバックラッシュ量の算出とを効率よく行うことのできる車両用変速機の締結装置を提供する。
【解決手段】変速機60の出力軸61を回転させるとともに、この出力軸61とロックナット68とを相対的に回転させる回転手段21,31と、出力軸61に作用する回転トルクを検出する回転トルク検出手段22と、出力軸61の回転角度を検出する回転角度検出手段23と、回転トルクと回転角度とに基づいてギヤ噛合系のバックラッシュ量を算出するバックラッシュ量算出手段46とを設け、回転手段21,31を、出力軸61を正回転させた後逆回転させるとともに、ロックナット68を出力軸61に対して相対的に回転させて出力軸61に締結させるよう構成するとともに、出力軸61の逆回転中に回転トルクが基準回転トルクに達した時点における出力軸61の回転角度に基づきバックラッシュ量を算出する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両用変速機において、入力軸から複数のギヤ噛合系を介して回転が伝達される出力軸にロックナットを締結するための締結装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、車両用変速機では、複数のギヤ等を出力軸の所定の位置に固定するためにその出力軸にロックナットと呼ばれるナットが締結されている。このロックナットは、前記出力軸にギヤ等を取り付けた後、これらギヤ等の外側に取り付けられる。具体的には、前記ロックナットにはその中央に出力軸を挿通可能な挿通孔が形成されており、この挿通孔には雌ネジ部が形成されている。一方、前記出力軸には、前記ロックナットの雌ネジ部と螺合する雄ネジ部が形成されている。そして、前記ロックナットは、前記挿通孔に前記出力軸が挿通された状態で回転し、前記挿通孔の雌ネジ部と前記出力軸の雄ネジ部とが螺合することで前記出力軸に固定される。
【0003】
一方、騒音等の観点から、前記車両用変速機のギヤ噛合系では、そのバックラッシュ量を適切な範囲内に収めることが望まれている。そのため、前記出力軸にギヤを組み付けた後にこれらギヤ噛合系のバックラッシュ量を検出する装置が開発されている。
【0004】
例えば、特許文献1には、前記入力軸を正回転および逆回転させるための回転手段と、入力軸の回転角度を検出する回転角度検出手段と、入力軸に作用する回転トルクを検出する回転トルク検出手段とを有し、前記回転角度検出手段で検出された回転角度と前記回転トルク検出手段で検出された回転トルクとに基づいてバックラッシュ量を算出する装置が開示されている。この装置では、前記入力軸を逆回転させギヤを一方の噛合面で噛み合わせた後、入力軸を正回転させ前記ギヤを他方の噛合面で噛み合わせる。そして、一方の噛合面の噛合状態が解除されてから他方の噛合面が噛み合うまでの回転角度を前記回転角度検出手段で検出することにより、バックラッシュ量を算出している。ここで、この装置では、前記一方の噛合面の噛合状態が解除されたかどうか、および、他方の噛合面が噛み合ったかどうかを前記回転トルク検出手段により検出している。
【特許文献1】実公平5−24199号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
前記バックラッシュ量測定装置は、単に前記ギヤのバックラッシュ量を検出するためだけのものである。すなわち、この装置を用いた場合には、バックラッシュ量の検出とは別に前記ロックナットを締結する必要がある。そのため、これらの作業を個別に行わねばならないという問題とともに、前記バックラッシュ量測定装置に加えてロックナットを締結するための装置を設けねばならずコスト面で不利になるという問題がある。
【0006】
本発明は、前記のような事情に鑑みてなされたものであり、簡単な構成で、前記ギヤのバックラッシュ量の測定と前記ロックナットの締結とを効率よく行うことのできる車両用変速機の締結装置の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記課題を解決するために、本発明は、入力軸から複数のギヤ噛合系を介して出力軸に回転を伝達するよう構成された車両用変速機の前記出力軸にロックナットを締結するための締結装置であって、前記出力軸を回転させるとともに、前記出力軸と前記ロックナットとを相対的に回転させる回転手段と、前記出力軸に作用する回転トルクを検出する回転トルク検出手段と、前記出力軸の回転角度を検出する回転角度検出手段と、前記回転トルク検出手段にて検出された回転トルクと前記回転角度検出手段にて検出された回転角度とに基づいて前記ギヤ噛合系のバックラッシュ量を算出するバックラッシュ量算出手段とを有し、前記回転手段は、前記バックラッシュ量を算出するために前記出力軸を正回転させた後逆回転させるとともに、前記ロックナットを前記出力軸に締結するために当該ロックナットと前記出力軸とを当該出力軸の軸周りに相対的に回転させるよう構成されており、前記バックラッシュ量算出手段は、前記出力軸の逆回転中に前記回転トルクが予め設定した基準回転トルクに達した時点における前記出力軸の回転角度に基づき、前記バックラッシュ量を算出することを特徴とする車両用変速機の締結装置を提供する(請求項1)。
【0008】
本発明によれば、この締結装置のみで、前記回転手段によって前記ロックナットを前記出力軸に締結することができるとともに、この回転手段によって前記出力軸を回転させることで前記バックラッシュ量算出手段にて前記ギヤ噛合系のバックラッシュ量を算出することができる。従って、ロックナット締結のための装置とバックラッシュ量算出のための装置とを個別に設ける必要ななくなり、コスト面で有利となる。また、この装置を駆動させることで前記ロックナットの締結とバックラッシュ量の算出とを一度に行うことができるので、作業効率が向上する。
【0009】
さらに、前記締結装置には、前記出力軸の回転角度を検出するための回転角度検出手段と、前記出力軸の回転トルクを検出するための回転トルク検出手段とが設けられており、これらの検出値に基づいて前記バックラッシュ量が算出されるので、正確なバックラッシュ量を検出することが可能となる。
【0010】
また、本発明において、前記回転手段は、前記出力軸の回転時に前記ロックナットの回転を阻止して、当該ロックナットと前記出力軸とを相対的に回転させることで当該ロックナットを前記出力軸に締結する回転阻止用ロックナットソケットを有するのが好ましい(請求項2)。
【0011】
このようにすれば、単一の回転駆動源で前記回転手段により前記出力軸を回転させることで、前記ロックナットを前記出力軸に締結させることができるので、装置の構造を簡素化することが可能となる。
【0012】
また、本発明において、前記回転手段は、前記出力軸を回転させるための出力軸回転手段と、前記ロックナットを回転させるためのロックナット回転手段とを含むのが好ましい(請求項3)。
【0013】
このようにすれば、前記出力軸の回転に必要な回転トルクと、前記ロックナットを締結するために必要な回転トルクとが大きく異なっている場合であっても、各回転手段によって出力軸とロックナットとをそれぞれ適切に回転させることが可能となる。
【0014】
また本発明において、前記バックラッシュ量算出手段にて算出されたバックラッシュ量に基づき、前記ギヤ噛合系のバックラッシュ量が予め設定された許容範囲内であるかどうかを判定するバックラッシュ量判定手段を有するのが好ましい(請求項4)。
【0015】
この構成では、前記バックラッシュ量判定手段により前記算出されたバックラッシュ量が許容範囲内であるかどうかが判定されるので、前記ギヤの噛合系が適切な形状あるいは適切に配置されているかどうかを容易に判断することができる。
【0016】
また本発明において、前記回転手段は、前記バックラッシュ量判定手段にて前記バックラッシュ量が前記許容範囲内であると判定された場合にのみ、前記ロックナットと前記出力軸とを相対的に回転させて当該ロックナットを前記出力軸に締結するのが好ましい(請求項5)。
【0017】
このようにすれば、前記ロックナットを締結する前に前記バックラッシュ量が適切であるかどうかを判断できるので、このバックラッシュ量が適切でない場合等に前記ギヤ等の交換を容易に行うことが可能となる。すなわち、ギヤ等の交換を行うために、いちいちロックナットの締結状態を解除する必要がなくなり作業効率が向上する。
【0018】
また本発明は、入力軸から複数のギヤ噛合系を介して出力軸に回転を伝達するよう構成された車両用変速機の前記出力軸にロックナットを締結するための締結方法であって、前記出力軸を回転させるとともに前記ロックナットと前記出力軸とを相対的に回転させる回転手段と、前記出力軸に作用する回転トルクを検出する回転トルク検出手段と、前記出力軸の回転角度を検出する回転角度検出手段とを有する締結装置を用い、前記回転手段により前記出力軸を正回転させた後逆回転させるとともに、この逆回転中において、前記回転トルク検出手段により検出された前記回転トルクが予め設定された基準回転トルクに達するまでに前記出力軸が回転した角度を前記回転角度検出手段により検出し、この検出された回転角度に基づいて前記ギヤ噛合系のバックラッシュ量を算出するバックラッシュ量算出工程と、前記算出されたバックラッシュ量が予め設定された許容範囲内か否かを判定する判定工程と、前記バックラッシュ量が許容範囲内の場合には、前記回転手段により前記ロックナットと前記出力軸とを相対的に回転させ、当該ロックナットを前記出力軸に締結するロックナット締結工程とを含むことを特徴とする車両用変速機の締結方法を提供する(請求項6)。
【0019】
この方法によれば、前記締結装置を駆動することによって、前記ギヤ噛合系のバックラッシュ量の算出に加えて、前記ロックナットを前記出力軸に締結することができ、作業効率が向上する。特に、前記判定工程にて算出されたバックラッシュ量が許容範囲内か否かを判定し、このバックラッシュ量が許容範囲内と判定された場合にのみ前記ロックナット締結工程にて前記ロックナットを出力軸に締結しているので、バックラッシュ量が許容範囲外である場合に、前記ロックナットの締結状態を解除するという手間を省いて前記ギヤの交換等を容易に行うことができるので作業効率が向上する。
【発明の効果】
【0020】
以上のように、本発明によれば、ロックナットの締結とギヤ噛合系のバックラッシュ量の算出とをより効率よく行うことができる車両用変速機の締結装置を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
本発明の車両用変速機の締結装置に係る実施形態について図面を参照しながら説明する。
【0022】
図1は、前記車両用変速機(以下変速機という)の一例を示す概略断面図である。図2は、本発明に係る車両用変速機の締結装置(以下ナットランナーという)の概略断面図である。
【0023】
まず、前記変速機について説明する。ここでは、変速機として、図1に示すように、出力軸に3速までのギヤを組み付けた状態でロックナットを締結するよう構成されたものを用いて説明する。また、ここでは、前記変速機を、後述する入力軸67が下方に位置するよう配置された状態で説明する。
【0024】
前記変速機60は、入力軸67と、出力軸61と、ミッションカバー62と、1速ギヤ63と、2速ギヤ64と、3速ギヤ65と、複数のカウンタギヤ66と、ロックナット68とを有している。
【0025】
前記入力軸67は、図示しないエンジンのクランクシャフトに連結されるものであり、このエンジンの回転を出力軸61に伝達するためのものである。
【0026】
前記出力軸61は、前記入力軸67の回転を受けて車輪等を回転させるためのものである。この出力軸61は、その先端が前記ミッションカバー62内に収容されている。そして、この出力軸61は、このミッションカバー62から上方に延びるような形状を有している。また、出力軸61には、後述するロックナット68の雌ネジ部68aと螺合する雄ネジ部61aが形成されている。
【0027】
前記各ギヤ63,64,65は、前記入力軸67の回転を所定の変速比で変換して前記出力軸61に伝達するものである。各ギヤ63,64,65は、それぞれ前記出力軸61に嵌入されており、この出力軸61に嵌入された状態で前記ミッションカバー62内に収容されている。前記カウンタギヤ66は、前記各ギヤ63,64,65とそれぞれ噛合し、これらギヤ63,64,65にそれぞれ前記入力軸67の回転を伝達するためのものである。このカウンタギヤ66は、前記ミッションカバー62内に収容されており、各ギヤ63,64,65とそれぞれ対応する位置に設けられている。本実施形態では、前記3速ギヤ65とカウンタギヤ66とが噛合されており、本ナットランナー10にてこの3速ギヤ65のバックラッシュ量が検出されるよう構成されている。
【0028】
前記ミッションカバー62は、前記出力軸61に嵌入された各ギヤ63,64,65および前記カウンタギヤ66等を収容するためのものである。
【0029】
前記ロックナット68は、前記出力軸61に前記各ギヤ63,64,65等を固定するためのものである。このロックナット68の略中央には、前記出力軸61を挿通可能な挿通孔が形成されており、この挿通孔には前記出力軸61に形成された雄ネジ部61aと螺合可能な雌ネジ部68aが形成されている。そして、このロックナット68は、前記ネジ部61a,68aの螺合によって前記各ギヤ63,64,65を所定の位置に配置した状態で出力軸61に固定される。具体的には、前記ロックナット68は、前記ミッションカバー62の上方であって、ロックナット68から前記出力軸61が上方に延びるように取り付けられる。
【0030】
なお、この変速機60は、前記ロックナット68が前記出力軸61に固定された後、さらに後方に4速、5速ギアが前記出力軸61に嵌入されるよう構成されており、全体として5速ギヤを有する変速機となる。
【0031】
次に、前記ナットランナー10について説明する。ナットランナー10は、第1モータ21(出力軸回転手段)と、第1トランスデューサー(回転トルク検出手段)22と、第1エンコーダ(回転角度検出手段)23と、出力軸ソケット24と、第2モータ31(ロックナット回転手段)と、第2トランスデューサー32と、第2エンコーダ33と、ロックナットソケット34と、回転伝達部35と、第1ギヤ36と、第2ギヤ37と、ストッパー38と、コントロールボックス40とを有している。また、このナットランナー10は、ナットランナー10本体を上下動させることが可能な図示しない昇降装置を有している。
【0032】
前記第1モータ21は、前記出力軸61を回転させるためのものである。この第1モータ21は、後述する第1モータ制御部42の指令信号に基づいて正回転した後逆回転する。
【0033】
前記第1トランスデューサー22は、この第1モータ21から出力される回転トルク、すなわち、前記出力軸61に作用する回転トルクを検出するためのものである。前記第1エンコーダ23は、前記第1モータ21の回転角度、すなわち、前記出力軸61の回転角度を検出するためのものである。
【0034】
前記出力軸ソケット24は、前記出力軸61をその軸周りに回転可能に固定するためのものである。この出力軸ソケット24は、前記第1モータ21に連結されており前記第1モータの回転に伴って回転する。また、この出力軸ソケット24には前記出力軸61と嵌合可能な嵌合部が設けられている。そして、前記出力軸61は、図4に示すように、この出力軸ソケット24と嵌合した状態で、前記第1モータ21の回転に伴いこの出力軸ソケット24が回転することで、その軸周りに回転する。
【0035】
前記第2モータ31は、後述する第1ギヤ36、第2ギヤ37、回転伝達部35およびロックナットソケット34を介して前記ロックナット68を回転させるためのものである。この第2モータ31は、後述する第2モータ制御部44の指令信号に基づいて回転する。
【0036】
前記第2トランスデューサー32は、この第2モータ31から出力される回転トルク、すなわち、前記ロックナット68に作用する回転トルクを検出するためのものである。前記第2エンコーダ33は、前記第2モータ31の回転角度、すなわち、前記ロックナット68の回転角度を検出するためのものである。
【0037】
前記第1ギヤ36は、前記第2モータ31に連結されて、この第2モータ31の回転とともに回転するものである。また、この第1ギヤ36は、その周囲に後述する第2ギヤ37と噛合可能な噛合歯を有しており、この第2ギヤ37と噛合することで、前記第2モータ31の回転をこの第2ギヤ37に伝達する。
【0038】
前記第2ギヤ37は、前述のように、前記第1ギヤ36とともに回転するものである。この第2ギヤ37は、その周囲に前記第1ギヤ36の噛合歯と噛合可能な噛合歯を有しており、この噛合歯と前記第1ギヤの噛合歯との噛合により前記第1ギヤ36と一体に回転する。
【0039】
前記回転伝達部35は、前記第2ギヤ37とともに回転するものである。この回転伝達部35は、前記第2ギヤ37の内側にこの第2ギヤ37と一体に回転するよう取り付けられており、第2ギヤ37が前記第1ギヤとの噛合により回転することで、回転する。また、この回転伝達部35は、前記出力軸61の軸方向に延びる形状を有しており、前記出力軸ソケット24を囲むようにして取り付けられている。そして、この回転伝達部35の先端(図1にて下方端)には、スプリングにより下方に付勢された前記ロックナットソケット34が、この回転伝達部35と一体に回転するようスプライン結合されている。
【0040】
前記ロックナットソケット34は、前記回転伝達部35とともに回転し、前記ロックナット68を前記出力軸61の軸周りに締結するためのものである。このロックナットソケット34は、前記出力軸61の軸方向に延び、その内側に前記出力軸61を挿通可能な形状を有している。また、このロックナットソケット34の一方端(図1にて下方端)には前記ロックナット68と嵌合可能な嵌合部34aが設けられている。この嵌合部34aは、前記昇降装置によりナットランナー10が下降した際に、前記出力軸61に取り付けられている前記ロックナット68と嵌合可能な位置に設けられている。そして、このロックナットソケット34は、前記第2モータ31から前記回転伝達部35等を介して加えられた回転力に基づき回転し、前記嵌合部34aと嵌合したロックナット68を出力軸61の軸周りに回転させて出力軸61に締結する。すなわち、このロックナットソケット34は、前記ロックナット68を嵌合した状態で回転させることで、このロックナット68の前記雌ネジ部68aと出力軸61の雄ネジ部61aとを螺合させる。
【0041】
前記ストッパー38は、前記出力軸ソケット24の回転を阻止するためのものであり、図示しない駆動手段により作動する。
【0042】
前記コントロールボックス40は、前記ナットランナー10を制御するためのものである。このコントロールボックス40は、第1モータ制御部42と、第2モータ制御部44と、バックラッシュ量算出部(バックラッシュ量算出手段)46と、バックラッシュ量判定部(バックラッシュ量判定手段)48とを有している。
【0043】
前記第1モータ制御部42は、前記第1モータ21を制御するためのものである。この第1モータ制御部42では、前記第1モータを正回転させた後逆回転させるよう指令信号を出力する。より具体的には、前記出力軸ソケット24に前記出力軸61を嵌合させた状態で、所定期間の間、前記第1モータ21を正回転させる。その後、前記出力軸61を、この出力軸61に作用する回転トルクが少なくとも後述する逆回転基準トルク(基準回転トルク)以上になるまで逆回転させる。
【0044】
前記逆回転基準トルクとは、前記出力軸61の逆回転時に、前記3速ギヤ65と前記カウンタギヤ66とが噛み合ったかどうかを判定するための値であり、本実施形態では、後述するバックラッシュ量算出部46にて算出される正回転基準トルクの80%の値としている。
【0045】
前記第2モータ制御部44は、前記第2モータ31を制御するためのものである。この第2モータ制御部44では、後述するバックラッシュ量判定部48からの信号に基づき、前記第2モータ31の駆動を開始させる。そして、前記ロックナットソケット25に前記ロックナット68を嵌合させた状態で、前記第2トランスデューサー32で検出されるこのロックナット68に作用する締め付けトルクが予め設定された基準締め付けトルクになるまで、前記第2モータ31を回転させる。
【0046】
前記バックラッシュ量算出部46は、前記3速ギヤ65のバックラッシュ量を検出するためのものである。
【0047】
ここで、出力軸61を正回転させた後逆回転させたときの、出力軸61の回転角度θと、この出力軸61に作用する回転トルクTとの関係を図6に示す。
【0048】
この図6に示すように、第1モータ21が回転を開始すると(回転角度θ=θ1)、まず回転トルクTは慣性によりT1まで上昇する。ここで、前記3速ギヤ65とカウンタギヤ66とがまだ噛合していない状態では、これらが噛合するまでの所定期間(回転角度θ=θ2となるまでの間)回転トルクTはT1を維持する。その後、出力軸61の回転が進み、前記3速ギヤ65とカウンタギヤ66とが噛合すると、カウンタギヤ66の負荷が加えられることで回転トルクTは正回転基準トルクT2まで上昇することになる。次に、回転角度θ=θ3の時点で、出力軸61を逆回転させると、前記3速ギヤ65とカウンタギヤ66との噛合が解除される結果、回転トルクTは再びT1まで低下する。その後、出力軸61の逆回転が進み前記3速ギヤ65とカウンタギヤ66とが再度噛合すると(回転角度θ=θ4)、回転トルクTは再び上昇し前記逆回転基準トルクT3以上になる。
【0049】
ここで、前記逆回転開始時の回転角度θ3と逆回転時にトルクが変化する時点での回転角度θ4との差は、3速ギヤ65の一方の噛合面が前記カウンタギヤ66に当接してから、この3速ギヤ65の他方の噛合面が前記カウンタギヤ66に当接するまでの回転角度であり、この3速ギヤ65のバックラッシュ量と比例した値である。
【0050】
そこで、前記バックラッシュ量算出部46では、前記正回転基準トルクT2を算出し、このT2に基づいて前記逆回転基準トルクT3を算出する。そして、出力軸61の逆回転開始時に前記エンコーダ23のパルスをリセットしておき、この逆回転中に出力軸61に作用する回転トルクが、前記逆回転基準トルクT3以上となる回転角度を検出して、この回転角度に基づき前記バックラッシュ量を演算している。
【0051】
より詳細には、このバックラッシュ量算出部46では、前記出力軸61の正回転時における前記回転トルクを平均化することで前記正回転基準トルクT2を算出している。ここで、前述のように、回転初期では、前記3速ギヤ65とカウンタギヤ66とが噛合していない可能性があるので、回転開始から所定時間以降の回転トルクを平均化する。そして、前記正回転基準トルクT2の80%の値を前記逆回転基準トルクT3として算出する。
【0052】
前記バックラッシュ量判定部48は、前記バックラッシュ量算出部46で算出されたバックラッシュ量が、予め設定した許容範囲内であるかどうかを判定するためのものである。このバックラッシュ量判定部48では、バックラッシュ量が許容範囲内の場合にのみ、前記第2モータ制御部44に第2モータ31を駆動するための指令信号を出力する。
【0053】
次に、このナットランナー10を用いてロックナット68を出力軸61に締結する方法について、図3のフローチャートを用いて説明する。ここでは、前述のように前記3速ギヤ65のバックラッシュ量を検出する場合について説明する。
【0054】
まず、図示しないシフトレバー等を用いて、変速機60のギヤを3速ギヤ65にシフトチェンジしておく(ステップS1)。すなわち、前記3速ギヤ65と前記カウンタギヤ66とが噛合可能な状態にしておく。また、前記変速機60を、前記ナットランナー10の下方に、この変速機60の出力軸61の軸と前記ナットランナー10の出力軸ソケット24の軸とが上下方向に一致するように配置しておく。このとき、前記ロックナット68は、前記出力軸61に仮止めされているのが好ましい。
【0055】
次に、ナットランナー10を図示しない昇降装置で下降させ(ステップS2)、図4に示すように、出力軸61を前記ロックナットソケット34および出力軸ソケット24の内側に挿入していく。そして、前記第1モータ21を正回転させ、出力軸61と前記出力軸ソケット24とを嵌合させる(ステップS4)。ここで、本実施形態では、この嵌合状態を図示しない位置センサ等により監視し、この嵌合が終了するまで前記第1モータ21を回転させる(ステップS5)。
【0056】
前記嵌合が終了すれば(ステップS5でYES)、第1モータ21を正回転させ、前記出力軸61を所定期間だけ正回転させる(ステップS6)。そして、前記バックラッシュ量算出部46にて、この正回転中に前記第1トランスデューサー22により検出された回転トルクに基づき前記正回転基準トルクT2および前記逆回転基準トルクT3を算出する(ステップS7)。前記所定期間が経過すれば、この第1モータ21の回転を停止するとともに、前記第1エンコーダ23の回転パルスをリセットする(ステップS8)。
【0057】
次に、第1モータ21を逆回転させ、出力軸61の逆回転を開始する(ステップS9)。この逆回転中、前記第1トランスデューサー22により出力軸61に作用する回転トルクを検出するとともに、前記エンコーダ23により出力軸61の回転角度を検出する(ステップS10)。そして、この回転トルクが前記逆回転基準トルクを超えた時点で、前記第1モータ21の逆回転を停止させるとともに(ステップS11)、そのときの回転角度に基づいてバックラッシュ量を算出する(ステップS12)。
【0058】
次に、前記バックラッシュ量判定部48にて、前記算出されたバックラッシュ量が許容範囲内かどうかを判定する(ステップS13)。
【0059】
ここで、前記バックラッシュ量が許容範囲外の場合(ステップS13でNO)は、前記ロックナット68を出力軸61に締結することなく、警告を発して処理を終了する(ステップS14)。
【0060】
一方、前記バックラッシュ量が許容範囲内の場合(ステップS13でYES)は、ナットランナー10を前記ロックナットソケット34と前記ロックナット68との嵌合が可能な位置までさらに下降させる(ステップS15)。なお、本実施形態では、前記ナットランナー10の下降に伴い、前記出力軸ソケット24と前記出力軸61との嵌合位置が変位できるように構成されている。そして、前記第2モータ31の正回転を開始し(ステップS16)、前記ロックナットソケット34をロックナット68に嵌合させる(ステップS17)。ここで、本実施形態では、前記出力軸ソケット24と出力軸61とを嵌合させる場合と同様に、このロックナットソケット34とロックナット68との嵌合状態を図示しない位置センサ等により監視している。
【0061】
前記位置センサ等により前記ロックナットソケット34とロックナット68との嵌合が確認されれば、前記第2モータ31をさらに正回転させてロックナット68を出力軸61に締結する。この第2モータ31の回転は、前記第1ギヤ36、第2ギヤ37、回転伝達部35およびロックナットソケット34を介して前記ロックナット68に伝達される。そして、伝達された回転力によりロックナット68は出力軸61の軸周りに回転し、この出力軸61に締結される。より詳細には、このロックナット68は、前記第2トランデューサー32にて検出された回転トルクに基づいて算出されるロックナット68の締め付けトルクが所定のトルクとなるまで、締め付けられる(ステップS18)。ここで、前記第2モータ31を回転する際には、前記ストッパー38を作動させ、このストッパー38により前記出力軸ソケット24の回転を阻止し、前記第2モータ31の回転によって前記ロックナット68が出力軸61に対して相対的に回転するようにしておく。
【0062】
このように、本締結方法では、ステップS1〜S12のバックラッシュ量算出工程と、ステップS13の判定工程と、ステップS14〜S18の締結工程とを実施する。
【0063】
以上のように、本ナットランナー10によれば、前記ロックナット68を回転させて当該ロックナット68を出力軸61に締結するための第2モータ31に加えて、ギヤ噛合系のバックラッシュ量を算出するために出力軸61を回転させる第1モータ21や前記バックラッシュ量を算出するためのバックラッシュ量算出部46等を一体的に設けているので、このナットランナー10のみで前記ロックナット68の締結とバックラッシュ量の算出とを行うことができ、ロックナット68を締結するための装置とバックラッシュ量算出のための装置とを個別に設ける必要がなく、コストの低減を図ることができる。また、このナットランナー10を駆動させることで前記ロックナット68の締結とバックラッシュ量の算出とを一度に行うことができるので、作業効率が向上する。
【0064】
特に、前記実施形態のように、出力軸61を回転させるための第1モータ21と、ロックナット68を回転させるための第2モータ31とを個別に設けておけば、回転トルクが比較的小さい範囲で回転する出力軸61と、回転トルクが比較的大きい範囲で回転するロックナット68とをそれぞれより適切に回転させることができ、前記バックラッシュ量をより正確に検出することができるとともにロックナット68をより確実に締結することが可能となる。
【0065】
また、前記実施形態のように、前記バックラッシュ量算出部46にて算出されたバックラッシュ量に基づき、前記ギヤ噛合系のバックラッシュ量が適切な量であるかどうかを判定するバックラッシュ量判定部48を設けておけば、前記ギヤの噛合系が適切な形状あるいは適切に配置されているかどうかを容易に判断することができ、作業効率が向上する。
【0066】
また、前記実施形態のように、前記バックラッシュ量判定部48にて前記バックラッシュ量が適切な量であると判定された場合にのみ、前記第2モータ31が、前記ロックナット68を回転させて当該ロックナット68を前記出力軸61に締結するよう構成すれば、ロックナット68を出力軸61に締結してしまう前に前記バックラッシュ量が適切であるかどうかを判断できる。従って、このバックラッシュ量が適切でなく前記ギヤ等の交換を行わねばならない場合に、いちいちロックナットの締結状態を解除する必要がなくなり作業効率が向上する。
【0067】
ここで、ナットランナー10の具体的な構造は前記に限らない。例えば、前記実施形態では、前述のように、出力軸61を回転させるための第1モータ21と、ロックナット68を回転させるための第2モータ31とをそれぞれ個別に設けた場合について示したが、図5に示すように、単一のモータ121で、出力軸ソケット124のみを回転させるように構成してもよい。この場合には、回転手段として、フレームに固定された筒状支持部材135の内部に、上下動可能にスプライン結合され、かつ、スプリングで下方に付勢されたロックナットソケット(回転阻止用ロックナットソケット)134を設けておく。また、前記ロックナットソケット134を、ロックナット68の回転を阻止可能なように構成しておく。そして、前記モータ121と出力軸ソケット124とを連結し、モータ121により出力軸ソケット124を介して出力軸61を正回転および逆回転させてバックラッシュ量を検出する。その後、図示しない昇降装置でナットランナー10を下降させてロックナットソケット134とロックナット68とを嵌合させ、ロックナットソケット134にてロックナット68の回転を阻止した状態で、モータ121により前記出力軸ソケット124を介して出力軸61を回転させる。このようにして、ロックナット68と出力軸61との相対回転が実現されれば、ロックナット68は出力軸61に締結されることになる。
【0068】
このように単一のモータ121を用いた場合には、エンコーダ123およびトランスデューサー122をそれぞれ1つだけ設ければよいので、装置全体の構造を簡素化することができコスト面で有利となる。
【0069】
また、前記ナットランナー10を適用可能な変速機60の形状は前記に限らない。また、前記実施形態では、騒音等の観点からバックラッシュ量として特に高い精度が求められる3速ギヤ65のバックラッシュ量を検出する場合について示したが、バックラッシュ量を検出するギヤはこれに限らない。また、前記ナットランナー10により、複数のギヤのバックラッシュ量を検出するようにしてもよい。
【0070】
また、前記第1モータ21を正回転および逆回転させるタイミングは前記に限らず、回転トルクの値や回転角度の値に応じて回転開始あるいは回転終了させるようにしてもよい。また、前記逆回転基準トルクの与え方も前記に限らず、予め設定された所定値としてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0071】
【図1】本発明の実施形態に係る締結装置を適用する車両用変速機の概略断面図である。
【図2】本発明の実施形態に係る締結装置の概略断面図である。
【図3】図2に示す締結装置を用いた締結方法を説明するためのフローチャートである。
【図4】図2に示す締結装置の出力軸ソケットに図1に示す車両用変速機の出力軸を嵌合させた状態を示す概略断面図である。
【図5】本発明の他の実施形態に係る締結装置の概略断面図である。
【図6】図2に示す締結装置においてバックラッシュ量の算出方法を説明するための説明図である。
【符号の説明】
【0072】
10 ナットランナー(締結装置)
21 第1モータ(回転手段)
22 第1トランスデューサー(回転トルク検出手段)
23 第1エンコーダ(回転角度検出手段)
24 出力軸ソケット
31 第2モータ(回転手段)
32 第2トランスデューサー
33 第2エンコーダ
34 ロックナットソケット
35 回転伝達部
36 第1ギヤ
37 第2ギヤ
40 コントロールボックス
42 第1モータ制御部
44 第2モータ制御部
46 バックラッシュ量算出部(バックラッシュ量算出手段)
48 バックラッシュ量判定部(バックラッシュ量判定手段)
134 ロックナットソケット(回転阻止用ロックナットソケット)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
入力軸から複数のギヤ噛合系を介して出力軸に回転を伝達するよう構成された車両用変速機の前記出力軸にロックナットを締結するための締結装置であって、
前記出力軸を回転させるとともに、前記出力軸と前記ロックナットとを相対的に回転させる回転手段と、
前記出力軸に作用する回転トルクを検出する回転トルク検出手段と、
前記出力軸の回転角度を検出する回転角度検出手段と、
前記回転トルク検出手段にて検出された回転トルクと前記回転角度検出手段にて検出された回転角度とに基づいて前記ギヤ噛合系のバックラッシュ量を算出するバックラッシュ量算出手段とを有し、
前記回転手段は、前記バックラッシュ量を算出するために前記出力軸を正回転させた後逆回転させるとともに、前記ロックナットを前記出力軸に締結するために当該ロックナットと前記出力軸とを当該出力軸の軸周りに相対的に回転させるよう構成されており、
前記バックラッシュ量算出手段は、前記出力軸の逆回転中に前記回転トルクが予め設定した基準回転トルクに達した時点における前記出力軸の回転角度に基づき、前記バックラッシュ量を算出することを特徴とする車両用変速機の締結装置。
【請求項2】
請求項1に記載の車両用変速機の締結装置において、
前記回転手段は、前記出力軸の回転時に前記ロックナットの回転を阻止して、当該ロックナットと前記出力軸とを相対的に回転させることで当該ロックナットを前記出力軸に締結する回転阻止用ロックナットソケットを有することを特徴とする車両用変速機の締結装置。
【請求項3】
請求項1に記載の車両用変速機の締結装置において、
前記回転手段は、前記出力軸を回転させるための出力軸回転手段と、前記ロックナットを回転させるためのロックナット回転手段とを含むことを特徴とする車両用変速機の締結装置。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載の車両用変速機の締結装置において、
前記バックラッシュ量算出手段にて算出されたバックラッシュ量に基づき、前記ギヤ噛合系のバックラッシュ量が予め設定された許容範囲内であるかどうかを判定するバックラッシュ量判定手段を有することを特徴とする車両用変速機の締結装置。
【請求項5】
請求項4に記載の車両用変速機の締結装置において、
前記回転手段は、前記バックラッシュ量判定手段にて前記バックラッシュ量が前記許容範囲内であると判定された場合にのみ、前記ロックナットと前記出力軸とを相対的に回転させて当該ロックナットを前記出力軸に締結することを特徴とする車両用変速機の締結装置。
【請求項6】
入力軸から複数のギヤ噛合系を介して出力軸に回転を伝達するよう構成された車両用変速機の前記出力軸にロックナットを締結するための締結方法であって、
前記出力軸を回転させるとともに前記ロックナットと前記出力軸とを相対的に回転させる回転手段と、前記出力軸に作用する回転トルクを検出する回転トルク検出手段と、前記出力軸の回転角度を検出する回転角度検出手段とを有する締結装置を用い、
前記回転手段により前記出力軸を正回転させた後逆回転させるとともに、この逆回転中において、前記回転トルク検出手段により検出された前記回転トルクが予め設定された基準回転トルクに達するまでに前記出力軸が回転した角度を前記回転角度検出手段により検出し、この検出された回転角度に基づいて前記ギヤ噛合系のバックラッシュ量を算出するバックラッシュ量算出工程と、
前記算出されたバックラッシュ量が予め設定された許容範囲内か否かを判定する判定工程と、
前記バックラッシュ量が許容範囲内の場合には、前記回転手段により前記ロックナットと前記出力軸とを相対的に回転させ、当該ロックナットを前記出力軸に締結するロックナット締結工程とを含むことを特徴とする車両用変速機の締結方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2008−248928(P2008−248928A)
【公開日】平成20年10月16日(2008.10.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−87930(P2007−87930)
【出願日】平成19年3月29日(2007.3.29)
【出願人】(000003137)マツダ株式会社 (6,115)
【Fターム(参考)】