説明

車両用安全装置

【解決課題】乗員に加わる衝突エネルギーを効果的に低減させることができるようにする。
【解決手段】通常の走行中は、電磁チャック18によって、車体部12と乗員空間室16とが連結され、衝突が予測されると、自動車が被衝突体と衝突する前に、電磁チャック18による連結を切り離し、圧縮ばね20の反発力によって、自動車が被衝突体と衝突する前に、走行方向と逆方向である後方向に乗員空間室16が押し出され、乗員空間室16の速度が減速される。そして、車体部12が、車体部衝突吸収部25を介して被衝突体に衝突すると、乗員空間室16が、車体部12との摩擦により減速しながら、被衝突体に衝突する。また、衝突するとき、乗員空間室16の前面に設けられた衝撃吸収機構22によって、衝撃を吸収する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、車両用安全装置に係り、特に、衝突に伴う衝撃負荷を軽減するための車両用安全装置に関する。
【背景技術】
【0002】
衝突時に車台フレームからキャビンへの衝撃伝播を効率良く遮断することができ、衝撃エネルギーの吸収能力を更に高めることができる車体構造が知られている(特許文献1)。また、乗員室が分離ユニットとして車両に組み込まれた自動車が知られている(特許文献2)。この自動車では、衝突時に、乗員室が、車両の残りの部分に配置され、かつ、乗員室が指示されている案内面によって、車両の残りの部分に対して車両の縦方向と上下方向に同時に変位可能となるための装置を備え、衝突時の車両の乗員に対する損傷の危険を低減している。この装置は、乗員室が衝撃と反対方向に移動可能となっている。
【特許文献1】特開2004−255036
【特許文献2】特表2006−504563
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、特許文献1及び特許文献2に記載の技術では、衝突を検知した後に車体部と乗員空間室とを分離することにより、衝撃の伝播を遮断するのみであり、乗員空間室自体の運動エネルギーを減らしておらず、乗員に加わる衝突エネルギーの低減が不十分である、という問題があった。
【0004】
本発明は、上記の問題点を解決するためになされたもので、乗員に加わる衝突エネルギーを効果的に低減させることができる車両用安全装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記の目的を達成するために第1の発明に係る車両用安全装置は、乗員空間部を備え、車両の動力機構とは独立して走行方向と逆方向に移動可能に設けられた乗員室と、前記動力機構と前記乗員室とを連結すると共に、前記連結を切り離すことが可能な連結部と、前記車両が被衝突体に衝突するか否かを予測する予測手段と、前記予測手段によって衝突することが予測されたときに、前記車両が前記被衝突体に衝突する前に、前記連結部による前記動力機構と前記乗員室との連結を切り離すように制御する切り離し制御手段と、前記切り離し制御手段によって、前記連結部による前記動力機構と前記乗員室との連結が切り離されたときに、前記車両が前記被衝突体に衝突する前に、前記走行方向と逆方向に前記乗員室を移動させる移動手段とを含んで構成されている。
【0006】
第1の発明に係る車両用安全装置によれば、乗員室は、車両の動力機構とは独立して走行方向と逆方向に移動可能に設けられ、連結部によって、動力機構と乗員室とが連結されている。ここで、予測手段によって、車両が被衝突体に衝突するか否かを予測し、予測手段によって衝突することが予測されたときに、切り離し制御手段によって、車両が被衝突体に衝突する前に、連結部による動力機構と乗員室との連結を切り離すように制御する。
【0007】
そして、切り離し制御手段によって、連結部による動力機構と乗員室との連結が切り離されたときに、移動手段によって、車両が被衝突体に衝突する前に、走行方向と逆方向に乗員室を移動させて、乗員室の速度を減速させ、乗員室の運動エネルギーを低減させる。その後に、車両が被衝突体に衝突し、減速された乗員室に遅れて衝突の衝撃が加わる。
【0008】
このように、衝突することが予測されたときに、車両が被衝突体に衝突する前に、走行方向と逆方向に乗員室を移動させて、乗員室の速度を減速させ、乗員室の運動エネルギーを低減させた状態で、乗員室に衝突の衝撃が加わるため、乗員に加わる衝突エネルギーを効果的に低減させることができる。
【0009】
ここで、動力機構とは、車両を動かすための機構をいう。
【0010】
第2の発明に係る車両用安全装置は、乗員空間部を備え、車両の動力機構とは独立して走行方向と逆方向に移動可能に設けられた乗員室と、前記動力機構と前記乗員室とを連結すると共に、前記連結を切り離すことが可能な連結部と、前記車両が被衝突体に衝突するか否かを予測する予測手段と、前記予測手段によって衝突することが予測されたときに、前記車両が前記被衝突体に衝突する前に、前記連結部による前記動力機構と前記乗員室との連結を切り離すと共に、前記走行方向と逆方向に前記乗員室を移動させる移動手段とを含んで構成されている。
【0011】
第2の発明に係る車両用安全装置によれば、乗員室は、車両の動力機構とは独立して走行方向と逆方向に移動可能に設けられ、連結部によって、動力機構と乗員室とが連結されている。ここで、予測手段によって、車両が被衝突体に衝突するか否かを予測する。
【0012】
そして、予測手段によって衝突することが予測されたときに、移動手段によって、車両が被衝突体に衝突する前に、連結部による動力機構と乗員室との連結を切り離すと共に、走行方向と逆方向に乗員室を移動させて、乗員室の速度を減速させ、乗員室の運動エネルギーを低減させる。その後に、車両が被衝突体に衝突し、減速された乗員室に遅れて衝突の衝撃が加わる。
【0013】
このように、衝突することが予測されたときに、車両が被衝突体に衝突する前に、走行方向と逆方向に乗員室を移動させて、乗員室の速度を減速させ、乗員室の運動エネルギーを低減させた状態で、乗員室に衝突の衝撃が加わるため、乗員に加わる衝突エネルギーを効果的に低減させることができる。
【0014】
上記の移動手段は、走行方向と逆方向に乗員室を押し出すことにより移動させることができる。このように、走行方向と逆方向に乗員室を押し出すことにより、乗員室の速度を減速させることができる。
【0015】
また、上記の乗員室は、衝突の衝撃を吸収するための衝撃吸収部を備えることができる。これにより、乗員に加わる衝突エネルギーを更に低減させることができる。
【0016】
また、この衝撃吸収部は、走行方向と逆方向の荷重に対し、走行方向の両端部の間隔が縮小しかつ走行方向に交差する方向の両端部の間隔が拡大する変位が生ずるように、長尺状の複数の荷重伝達部材が回動可能に連結された荷重伝達機構を含んで構成することができる。
【0017】
この構成により、上記の荷重伝達機構が搭載された車両に対して、走行方向から被衝突体が衝突し、衝突荷重が走行方向と逆方向の荷重として荷重伝達機構に入力された場合、荷重伝達機構に変位が生ずる。この変位は、荷重伝達機構の走行方向の両端部の間隔が縮小し、かつ荷重伝達機構に走行方向の交差する方向の両端部の間隔が拡大する変位であるので、荷重伝達機構に入力された衝突荷重が、走行方向の両端部の間隔を縮小する力(圧縮力)と走行方向に交差する方向の両端部の間隔を拡大する力(引張力)に分散されて入力されることになり、荷重伝達機構の各部分の変形によって衝突荷重を吸収することができる。
【0018】
従って、走行方向からの衝突による衝撃を分散吸収することが可能となり、走行方向からの衝突時に乗員に加わる衝突エネルギーを低減することができる。
【0019】
また、第1の発明〜第3の発明に係る車両用安全装置は、走行方向と逆方向の荷重に対し、走行方向の両端部の間隔が縮小しかつ走行方向に交差する方向の両端部の間隔が拡大する変位が生ずるように、長尺状の複数の荷重伝達部材が回動可能に連結されて成り、走行方向の両端部が乗員室又は該乗員室の骨格部材のうち走行方向に沿った異なる部分に連結されると共に、走行方向に交差する方向の両端部が乗員室又は前記骨格部材のうち走行方向に交差する方向に沿った異なる部分に連結された荷重伝達機構を更に含むことができる。
【0020】
この構成によれば、荷重伝達機構が搭載された車両に対して、走行方向から被衝突体が衝突し、衝突荷重が走行方向と逆方向の荷重として荷重伝達機構に入力された場合、荷重伝達機構に変位が生ずる。この変位は、荷重伝達機構の走行方向の両端部の間隔が縮小し、かつ荷重伝達機構の走行方向に交差する方向の両端部の間隔が拡大する変位であるので、荷重伝達機構が連結された乗員室又は該乗員室の骨格部材には、荷重伝達機構に入力された衝突荷重が、走行方向の両端部の間隔を縮小する力(圧縮力)と走行方向に交差する方向の間隔を拡大する力(引張力)に分散されて入力されることになり、乗員室又は該乗員室の骨格部材の各部分の変形等によって衝突荷重を吸収することができる。
【0021】
従って、走行方向からの衝突による衝撃を分散吸収することが可能となり、走行方向からの衝突時に乗員に加わる衝突エネルギーを低減することができる。
【0022】
また、上記の荷重伝達機構を含む車両用安全装置は、荷重伝達機構に、走行方向に交差する方向の両端部の間隔が縮小しかつ走行方向の両端部の間隔が拡大する変位を生じさせるための駆動手段と、移動手段によって、乗員室を走行方向と逆方向に移動させたときに、車両が被衝突体に衝突する前に、駆動手段によって荷重伝達機構に変位を生じさせる駆動制御手段とを更に含むことができる。これにより、車両が被衝突体と衝突する前に、衝突時の荷重伝達機構の変位方向(走行方向に縮小し、走行方向に交差する方向に拡大する方向)と逆方向(走行方向に拡大し、走行方向に交差する方向に縮小する方向)に荷重伝達機構を予め変位させるので、車両の走行方向からの被衝突体と衝突した際の荷重伝達機構の変位の変位量(ストローク)を大きくすることができ、車両が被衝突体と衝突する際に乗員に加わる衝突エネルギーを更に低減することができる。
【発明の効果】
【0023】
以上説明したように、本発明の車両用安全装置によれば、衝突することが予測されたときに、車両が被衝突体に衝突する前に、走行方向と逆方向に乗員室を移動させて、乗員室の速度を減速させ、乗員室の運動エネルギーを低減させた状態で、乗員室に衝突の衝撃が加わるため、乗員に加わる衝突エネルギーを効果的に低減させることができる、という効果が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
以下、図面を参照して、本発明の好適な実施の形態について説明する。
【0025】
図1(A)、(B)に示すように、第1の実施の形態に係る車両用安全装置10は、自動車Aの車体部12上のレール14によって、車体部12の前方端板と後方端板との間を前後方向に独立して移動可能に設置され、かつ、車体部12と分離可能に設けられた乗員空間室16と、車体部12の前方端板と乗員空間室16の前方とに設けられ、車体部12と乗員空間室16とを連結すると共に、連結を切り離すことが可能な連結部としての電磁チャック18と、車体部12の前方端板に設けられ、伸張したときの反発力により乗員空間室16を後方向に押し出すための圧縮ばね20とを備えている。
【0026】
ここで、車体部12は、自動車Aを動かすための動力機構を含んでおり、動力機構は、例えば、エンジン、ギヤ、トランスミッション、タイヤ、及びドライブシャフトを含む機構である。
【0027】
圧縮ばね20は、反発力による乗員空間室16の減速度が、乗員が耐えられる減速度以下となるように形成されている。
【0028】
また、車両用安全装置10は、乗員空間室16の前面に設けられた衝撃吸収機構22を備え、衝撃吸収機構22は、車体部12の前方端板と乗員空間室16とが分離した後に展開する構造となっている。衝撃吸収機構22は、例えば、アルミハニカム又は薄肉ボックスエネルギー吸収構造から構成され、図2に示すような展開機構等により、前方向に展開する。衝撃吸収機構22は、図2(A)に示すように、例えば、回転バネ付きジョイント22Aによって乗員空間室16に取り付けられており、通常走行時には、衝撃吸収機構22は収納されている。そして、乗員空間室16の分離時には、図2(B)に示すように、回転バネ付きジョイント22Aの反力により、衝撃吸収機構22が前方へ展開し、図2(C)に示すように、前方へ展開した衝撃吸収機構22が車体部12の前方端板に衝突して、衝撃を吸収する。なお、衝突時に衝撃吸収機構22をうまく座屈させるために、車体部12の前方端板に、衝撃吸収機構22の端部が収まるスペースを設けることが好ましい。このように、乗員空間室16が車体部12と衝突する際には、衝撃吸収機構22を介して車体部12の前方端板と衝突し、衝突エネルギーを低減させる。また、車体部12の前部には、例えばフロントサイドバンパから構成される車体部衝突吸収部25が設けられている。
【0029】
また、車両用安全装置10は、図3に示すような制御システム24を備えている。制御システム24は、互いに異なる制御を行う複数の電子制御ユニット(コンピュータを含んで構成された制御ユニットであり、以下ECUと称する)を備えている。
【0030】
制御システム24は、予測手段としてのプリクラッシュ制御ECU26を備えており、このプリクラッシュ制御ECU26にはレーダ装置28が接続されている。本実施形態では、レーダ装置28として、ミリ波を探知波とし、連続波(CW)に周波数変調(FM)を施した送信信号を用いるFM−CWレーダ装置を用いている。レーダ装置28は、自車両に搭載され、自車両の周囲(例えば車両左右方向の角度範囲が10゜〜20゜、最遠方探知距離が200mの範囲内)に存在する車両や道路標識等の周囲存在物を検出し、周囲存在物と自車両の相対位置関係及び相対速度を同時に取得可能とされている。レーダ装置28ではアダプディブアレーアンテナフィルタが用いられるとともに、デジタル・ビーム・フォーミング(DBF)技術によるアンテナビームの形成および走査が行われ、周囲存在物が点情報として検出される。
【0031】
また、レーダ装置28は、マイクロプロセッサ等から成り一定周期(例えば数十msec)で行われる周囲存在物の探知結果を処理する処理装置を内蔵しており、周囲存在物の探知結果は処理装置に入力される。処理装置は直近の複数回の探知結果を基に、相対位置関係や相対速度の変化等に基づいてノイズやガードレール等の路側物等を監視対象から除外し、先行車両や路上に存在する停止車両等の特定の周囲存在物を監視対象物として追従監視する処理を行う。また、プリクラッシュ制御ECU26からの要求に応じて、監視対象物との相対位置関係や相対速度が、プリクラッシュ制御ECU26へ出力される。
【0032】
プリクラッシュ制御ECU26は、レーダ装置28から入力される個々の監視対象物との相対位置関係や相対速度等の情報に基づき、自車両の周囲に存在する周囲存在物と自車両との相対位置関係等を把握しつつ、周囲存在物までの到達距離や到達時間を演算して衝突に至る確率、及び衝突時の衝撃の大きさを予測判断し、車両の衝突が不可避な状況に相当する高い確率が予想され、かつ、衝突時の衝撃が大きいと予測される場合には、切り離し制御手段としての電磁チャック制御部30へプリクラッシュ制御信号を出力する。
【0033】
電磁チャック制御部30は、プリクラッシュ制御ECU26から入力されるプリクラッシュ制御信号に基づいて、電磁チャック18を制御して、車体部12の前方端板と乗員空間室16とを切り離すようになっている。
【0034】
次に、第1の実施の形態に係る車両用安全装置10の作用を、図4に示す衝突時処理ルーチンを参照しつつ説明する。なお、自動車Aが走行中に走行方向からの被衝突体に衝突する場合について説明する。
【0035】
上記構成の車両用安全装置10において、制御システム24が衝突時処理ルーチンを実行すると、プリクラッシュ制御ECU26は、ステップ100で、レーダ装置28から衝突予測用の各種情報を取り込み、これらの情報に基づいて、ステップ102で自動車Aの前部の被衝突体との衝突(の確率)を予測する。衝突が生じない(確率が閾値以下である)と判断した場合、プリクラッシュ制御ECU26はステップ100に戻り、自動車Aの走行中には衝突を予測するまでこれを繰り返す。したがって、自動車Aの通常走行中は、図5(A)に示すように、電磁チャック制御部30によって、車両用安全装置10の電磁チャック18を切り離すことがないため、車体部12と乗員空間室16とは連結されている。
【0036】
一方、ステップ102で衝突を予測(確率が閾値を超えると判断)したプリクラッシュ制御ECU26は、プリクラッシュ制御信号を出力し、ステップ104において、プリクラッシュ制御信号が入力された電磁チャック制御部30は、自動車Aが被衝突体と衝突する前に、電磁チャック18による連結を切り離すように制御し、衝突時処理ルーチンを終了する。
【0037】
そして、電磁チャック18による車体部12の前方端板と乗員空間室16との連結が切り離されると、図5(B)に示すように、車体部12の前方端板に設けられた圧縮ばね20が伸張することにより、圧縮ばね20の反発力によって、自動車Aが被衝突体と衝突する前に、走行方向(前方向)と逆方向である後方向に乗員空間室16が押し出され、乗員空間室16の速度が減速される。
【0038】
そして、図5(C)に示すように、車体部12が、車体部衝突吸収部25を介して被衝突体に衝突すると、図5(D)に示すように、乗員空間室16が、車体部12との摩擦により減速しながら、被衝突体に衝突する。また、衝突するとき、乗員空間室16の前面に設けられた衝撃吸収機構22によって、衝撃を吸収する。
【0039】
以上のように、自動車Aが走行中に、衝突時処理ルーチンを実行すると、図6に示すように、車体部12が被衝突体と衝突する前に、乗員空間室16が車体部12から切り離されて、重量が減少するとともに、圧縮ばね20の反発力により乗員空間室16が後方向に押し出されて、乗員空間室16の走行方向の速度(衝突速度)が減速する。そして、車体部12が衝突した後に、乗員空間室16が車体部12との摩擦によって更に減速し、通常走行時より衝突速度が減速された状態で、車体部12より遅れて、乗員空間室16に衝突の衝撃が加わる。ここで、後方向への押し出し及び車体部12との摩擦により衝突速度Vが低下し、車体部12との切り離しにより重量Mが減少した場合には、乗員空間室16の運動エネルギーがMV/2低下した状態で、乗員空間室16が衝撃吸収機構22を介して衝突する。
【0040】
また、図7に示すように、圧縮ばね20の反発力により乗員空間室16が後方向に押し出されたときの減速度が、乗員が耐えられる減速度(たとえば、200m/s、20G)以下となると共に、乗員空間室16が被衝突体と衝突したときの減速度が、乗員が耐えられる減速度に抑制される。
【0041】
以上説明したように、第1の実施の形態に係る車両用安全装置によれば、被衝突体と衝突することが予測されたときに、自動車が被衝突体に衝突する前に、圧縮ばねにより走行方向と逆方向に乗員空間室を押し出して、乗員空間室の速度を積極的に減速させ、乗員空間室の運動エネルギーを低減させた状態で、乗員空間室に衝突の衝撃が加わるため、乗員に加わる衝突エネルギーを効果的に低減させることができる。
【0042】
また、乗員空間室の前面に衝撃吸収機構を設けたため、乗員に加わる衝突エネルギーを更に低減させることができる。
【0043】
また、電磁チャックを切り離すことにより、車体部と乗員空間室とが分離されるため、乗員空間室の質量が減少し、また、乗員空間室が後方向に押し出されて走行方向の速度が低下するため、乗員空間室の運動エネルギーを低減することができる。また、車体部と乗員空間室との摩擦により、更に運動エネルギーを低減することができる。そして、衝突面に設けられた衝撃吸収機構により更に衝突エネルギーを低減することができる。
【0044】
なお、上記の実施の形態では、プリクラッシュ制御ECUは、レーダ装置を用いて衝突を予測する場合を例に説明したが、これに限定されるものではなく、CCDカメラや車速情報などの自動車自体に搭載されたセンサ出力の他、高度道路交通システム(所謂ITS)、先進安全自動車(ASV)、等で用いられる通信(例えば車車間通信や道路に設けた通信装置等との通信)による情報に基づいて、衝突を予測してもよい。
【0045】
また、圧縮ばねにより後方向に乗員空間室を押し出す場合を例に説明したが、車体部の後方端板に引っ張りばねを設け、衝突が予測されたときに、電磁チャックを切り離して、引っ張りばねにより、乗員空間室を後方向に移動させて、乗員空間室の走行方向の速度を低下させるようにしてもよい。また、車体部と乗員空間室との間にアクチュエータを設け、アクチュエータにより、乗員空間室を後方向に移動させて、乗員空間室の速度を低下させるようにしてもよい。
【0046】
また、車体部に後方端板を設けた場合を例に説明したが、後方端板を設けずに、後方向に押し出された乗員空間室が、車体部から飛び出すようになっていてもよい。この場合には、乗員空間室の走行方向の速度は、路面との摩擦により減速され、乗員空間室の運動エネルギーが低減される。
【0047】
また、乗員空間室の前面に連結部としての電磁チャックを設けた場合を例に説明したが、乗員空間室の前後左右の各々に電磁チャックを設け、これらの電磁チャックにより車体部と乗員空間室とを連結するようにしてもよい。
【0048】
また、乗員空間室の前面に衝撃吸収機構を設けた場合を例に説明したが、乗員空間室の後面にも衝撃吸収機構を設けるようにしてもよい。これにより、乗員空間室が後方向に押し出されて、車体部の後方端板と衝突した場合であっても、衝突の衝撃を吸収することができる。
【0049】
また、動力機構が、エンジン、ギヤ、トランスミッション、タイヤ、及びドライブシャフトを含む機構である場合を例に説明したが、これに限定されるものではなく、例えば、将来的に実現されるインホイールモータ搭載車(4輪各々のホイール内に駆動用モータを内蔵し4輪独立に駆動する車両)に本発明を適用する場合には、インホイールモータ搭載車を動かすための機構を含む車体部と乗員空間室とを分離可能とすればよい。
【0050】
また、プリクラッシュ制御において、衝突が予測されたときに、ブレーキをかけるようにブレーキ制御を行ってもよい。これにより、車両全体(車体部及び乗員空間室)の車速を低下させて、乗員に加わる衝突エネルギーを更に効果的に低減させることができる。
【0051】
次に、第2の実施の形態に係る車両用安全装置について説明する。なお、第1の実施の形態と同様の構成の部分については、同一符号を付して説明を省略する。
【0052】
第2の実施の形態では、車体部が被衝突体に衝突すると予測されたときに、火薬の爆発力により、乗員空間室が後方向に押し出される点が第1の実施の形態と異なっている。
【0053】
第2の実施の形態に係る車両用安全装置は、車体部12の前方端板に設けられ、爆発力により乗員空間室16を後方向に押し出すための火薬(図示省略)を備えている。
【0054】
また、図8に示すように、制御システム224は、プリクラッシュ制御ECU26と、レーダ装置28と、電磁チャック制御部30と、電磁チャック18と、火薬を点火するための火薬点火部230と、プリクラッシュ制御ECU26から入力されるプリクラッシュ制御信号に基づいて、火薬点火部230を制御して、火薬を点火させる火薬制御部232とを備えている。
【0055】
次に、第2の実施の形態に係る車両用安全装置の作用を、図9に示す衝突時処理ルーチンを参照しつつ説明する。なお、第1の実施の形態と同様の処理については、同一符号を付して詳細な説明を省略する。
【0056】
上記構成の車両用安全装置において、制御システム224が衝突時処理ルーチンを実行すると、プリクラッシュ制御ECU26は、ステップ100で、レーダ装置28から衝突予測用の各種情報を取り込み、これらの情報に基づいて、ステップ102で自動車Aの前部の被衝突体との衝突(の確率)を予測する。衝突を予測(確率が閾値を超えると判断)したときに、プリクラッシュ制御ECU26は、プリクラッシュ制御信号を出力し、ステップ104において、プリクラッシュ制御信号が入力された電磁チャック制御部30は、自動車Aが被衝突体と衝突する前に、電磁チャック18による連結を切り離すように制御する。
【0057】
そして、ステップ250において、プリクラッシュ制御信号が入力された火薬制御部232は、電磁チャック18による車体部12の前方端板と乗員空間室16との連結が切り離された直後であって、自動車Aが被衝突体と衝突する前に、火薬を点火するように火薬点火部230を制御して、衝突時処理ルーチンを終了する。
【0058】
そして、車体部12の前方端板に設けられた火薬が爆発することにより、火薬の爆発力により、走行方向(前方向)と逆方向である後方向に乗員空間室16が押し出され、乗員空間室16の走行方向の速度が減速される。
【0059】
そして、車体部12が、被衝突体に衝突した後に、乗員空間室16が、車体部12との摩擦により更に減速しながら、車体部12より遅れて、衝突の衝撃が加わる。
【0060】
このように、被衝突体と衝突することが予測されたときに、自動車が被衝突体に衝突する前に、火薬の爆発力により走行方向と逆方向に乗員空間室を押し出して、乗員空間室の速度を積極的に減速させ、乗員空間室の運動エネルギーを低減させた状態で、乗員空間室に衝突の衝撃が加わるため、乗員に加わる衝突エネルギーを効果的に低減させることができる。
【0061】
なお、電磁チャックを切り離した後に、火薬を点火させる場合を例に説明したが、車体部と乗員空間室との連結を切り離さずに、火薬を点火し、火薬の爆発力によって、車体部と乗員空間室との連結を切り離すと共に、乗員空間室を後方向へ押し出すようにしてもよい。
【0062】
また、電磁チャックと火薬とを別々設けた場合を例に説明したが、電磁チャックに火薬を内蔵するようにしてもよい。
【0063】
次に、第3の実施の形態に係る車両用安全装置について説明する。なお、第1の実施の形態と同様の構成の部分については、同一符号を付して説明を省略する。
【0064】
第3の実施の形態では、衝撃吸収機構が、衝撃吸収フレームで構成されている点が第1の実施の形態と異なっている。
【0065】
図10に示すように、第3の実施の形態に係る車両用安全装置では、乗員空間室16の前部に衝撃吸収フレーム300が設けられている。
【0066】
図11に示すように、衝撃吸収フレーム300は、一対の第1フレーム334、336を備えており、第1フレーム334、336は、互いの中間部が回転ジョイント338を介して回動可能に連結されている。また、衝撃吸収フレーム300は一対の第2フレーム340、342を備えており、第2フレーム340、342は、互いの一端部が回転ジョイント344を介して回動可能に連結されている。また、第2フレーム340の他端部は第1フレーム334の一端部と回転ジョイント346を介して回動可能に連結されており、第2フレーム342の他端部は第1フレーム336の一端部と回転ジョイント348を介して回動可能に連結されている。更に、衝撃吸収フレーム300は、一対の第3フレーム350、352を備えており、第3フレーム350、352は、互いの一端部が回転ジョイント354を介して回動可能に連結されている。また、第3フレーム350の他端部は第1フレーム336の他端部と回転ジョイント356を介して回動可能に連結されており、第3フレーム352の他端部は第1フレーム334の一端部と回転ジョイント358を介して回動可能に連結されている。
【0067】
なお、衝撃吸収フレーム300は本発明に係る荷重伝達機構に対応している。
【0068】
また、回転ジョイント346と回転ジョイント348との間には、走行方向に直交する方向である車両幅方向に沿ってダンパ372Aが配置されており、ダンパ372Aの一端は回転ジョイント346に、ダンパ372Aの他端は回転ジョイント348に各々連結されている。また、回転ジョイント356と回転ジョイント358との間には車両幅方向に沿ってダンパ372Bが配置されており、ダンパ372Bの一端は回転ジョイント356に、ダンパ372Bの他端は回転ジョイント358に各々連結されている。更に、回転ジョイント338と回転ジョイント344との間には走行方向に沿ってダンパ372Cが配置されており、ダンパ372Cの一端は回転ジョイント338に、ダンパ372Cの他端は回転ジョイント344に各々連結されている。また、回転ジョイント338と回転ジョイント354との間には走行方向に沿ってダンパ372Dが配置されており、ダンパ372Dの一端は回転ジョイント338に、ダンパ372Dの他端は回転ジョイント354に各々連結されている。
【0069】
図12に示すように、ダンパ372には、粘度を有する流体374が作動流体として封入されており、ピストンロッド376の先端に取り付けられ、かつ、ケース380の内壁に接するピストン382に、オリフィス384が設けられている
また、ダンパ372に事前変位ACT(アクチュエータ)320が取り付けられている。事前変位ACT320は、衝撃吸収フレーム300を事前に(衝突前に)変位させるためのアクチュエータであり、ベース部材322に取り付けられたモータ324を備えている。なお、モータ324としては回転軸の回転量を制御可能なステッピングモータ等が好ましい。モータ324の回転軸にはウォームギア326が取り付けられており、ダンパ372のピストンロッド376の中間部には、ウォームギア326と噛合するウォームギア328がピストンロッド376に対して回転可能に取り付けられている。ピストンロッド376は、ウォームギア328の取付位置を挟んで両側の2箇所がブラケット330を介してベース部材322に軸支され、ベース部材322に対して軸回りに回転可能かつ軸方向にスライド移動可能とされている。またベース部材322は、ピストンロッド376の軸方向にはスライド移動可能でかつピストンロッド376の軸回りには回転しないように、図示しない支持部材に支持されている。
【0070】
事前変位ACT320が、ウォームギア326の長手方向中央に相当する位置でウォームギア328がウォームギア326と噛合している状態(中立状態)に保持されている場合に、モータ324の回転軸が所定方向に回転されると、ウォームギア328はウォームギア326との噛合状態を維持したままダンパ372のケース380から離間する方向へスライド移動し、このウォームギア328のスライド移動に伴ってピストン382がケース380内を摺動移動すると共に、ピストンロッド376がケース380から引き出される方向へ移動することで、ダンパ372の全長が伸長される(図12(B)に示す状態)。また、モータ324の回転軸が所定方向と逆方向に回転されると、ウォームギア328はウォームギア326との噛合状態を維持したままダンパ372のケース380に接近する方向へスライド移動し、このウォームギア328のスライド移動に伴ってピストン382がケース380内を摺動移動すると共に、ピストンロッド376がケース380内に押し込まれる方向へ移動することで、ダンパ372の全長が縮小される(図12(C)に示す状態)。
【0071】
通常の走行時には、ダンパ372A、372Bの全長が伸張されると共に、ダンパ372C、372Dの全長が縮小され、衝撃吸収フレーム300が、走行方向に縮小した状態に保持されている。
【0072】
また、図13に示すように、制御システム314は、プリクラッシュ制御ECU26と、レーダ装置28と、電磁チャック制御部30と、電磁チャック18と、プリクラッシュ制御ECU26から入力されるプリクラッシュ制御信号に基づいて、事前変位ACT320を制御する衝撃吸収コントローラ318と、事前変位ACT320とを備えている。事前変位ACT320は、衝撃吸収コントローラ318によって、モータ324の駆動が制御される。
【0073】
なお、事前変位ACT320は、ダンパ372A〜372Dの一部にのみ取り付けられていてもよいが、衝撃吸収フレーム300を変位させるには大きな駆動力が必要となるので、本実施形態では全てのダンパ372A〜372Dに事前変位ACT320が取り付けられており、個々の事前変位ACT320は衝撃吸収コントローラ318に各々接続されている。
【0074】
次に、第3の実施の形態に係る車両用安全装置の作用を、図14に示す衝突時処理ルーチンを参照しつつ説明する。なお、第1の実施の形態と同様の処理については、同一符号を付して詳細な説明を省略する。
【0075】
上記構成の車両用安全装置において、制御システム314が衝突時処理ルーチンを実行すると、プリクラッシュ制御ECU26は、ステップ100で、レーダ装置28から衝突予測用の各種情報を取り込み、これらの情報に基づいて、ステップ102で自動車Aの前部の被衝突体との衝突(の確率)を予測する。衝突を予測(確率が閾値を超えると判断)したときに、プリクラッシュ制御ECU26は、プリクラッシュ制御信号を出力し、ステップ104において、プリクラッシュ制御信号が入力された電磁チャック制御部30は、自動車Aが被衝突体と衝突する前に、電磁チャック18による連結を切り離すように制御する。
【0076】
このとき、電磁チャック18による車体部12の前方端板と乗員空間室16との連結が切り離されるため、車体部12の前方端板に設けられた圧縮ばね20が伸張することにより、圧縮ばね20の反発力によって、自動車Aが被衝突体と衝突する前に、走行方向(前方向)と逆方向である後方向に乗員空間室16が押し出される。
【0077】
そして、ステップ390において、プリクラッシュ制御信号が入力された衝撃吸収コントローラ318は、電磁チャック18による車体部12の前方端板と乗員空間室16との連結が切り離された直後であって、自動車Aが被衝突体と衝突する前に、衝撃吸収フレーム300を走行方向に伸張するように事前変位ACT320を制御し、衝撃時処理ルーチンを終了する。
【0078】
このとき、衝撃吸収コントローラ318の制御によって、回転ジョイント338、344の間に設けられたダンパ372C及び回転ジョイント338、354の間に設けられたダンパ372Dについては、モータ324の回転軸を所定の事前変位量に応じた回転量だけ所定方向へ回転させることで、ケース380から引き出される方向へピストンロッド376を移動させ、ダンパ372C、372Dの全長を伸長させる。また、回転ジョイント346、348の間に設けられたダンパ372A及び回転ジョイント356、358の間に設けられたダンパ372Bについては、モータ324の回転軸を所定の事前変位量に応じた回転量だけ所定方向と逆方向へ回転させることで、ケース380内に押し込まれる方向へピストンロッド376を移動させ、ダンパ372A、372Bの全長を縮小させる。これにより、図15(B)に示すように、衝撃吸収フレーム300は、走行方向に伸張される。
【0079】
そして、車体部12が走行方向(前方向)からの被衝突体に衝突した後に、遅れて乗員空間室16に衝突の衝撃が加わるときには、走行方向に伸張された衝撃吸収フレーム300において、図15(C)に示すように、回転ジョイント346、348の間隔及び回転ジョイント356、358の間隔(走行方向と交差する方向の両端部の間隔に相当)が拡大し、かつ回転ジョイント344、354の間隔(走行方向の両端部の間隔に相当)が縮小する変位(第1の変位に相当)が生ずるので、衝撃吸収フレーム300の変位に伴い、衝撃吸収フレーム300に入力された衝突荷重が、車両幅方向の長さを拡大する方向の引張力と、走行方向の長さを縮小する方向の圧縮力と、に分散されて入力される。従って、衝撃吸収フレーム300に衝突荷重として入力された衝突エネルギーは、その一部がダンパ372A〜372Dで発生される減衰力に対抗し衝撃吸収フレーム300を変位させることによって消費(吸収)され、残りは、乗員空間室16が変形していく過程で消費(吸収)される。
【0080】
上記のように、車体部12が衝突物体と衝突する前に、事前変位ACT320によって衝撃吸収フレーム300を走行方向に伸張するように変位させておくことで、車体部12が被衝突体と衝突した際の衝撃吸収フレーム300の変位量(ストローク)を大きくすることができるので、衝撃吸収フレーム300を事前に変位させない態様と比較して、衝突期間内に乗員に加わる加速度が更に抑制されるため、車室内への侵襲が増大することを抑制することができる。
【0081】
このように、衝撃吸収フレームにより、走行方向からの衝突による衝撃を分散吸収することが可能となり、走行方向からの衝突時に乗員に加わる衝突エネルギーを低減することができる。
【0082】
また、自動車が被衝突体と衝突する前に、衝突時の衝撃吸収フレームの変位方向(前後方向に縮小し、幅方向に拡大する方向)と逆方向(前後方向に拡大し、幅方向に縮小する方向)に衝撃吸収フレームを予め変位させるので、走行方向からの被衝突体と衝突した際の衝撃吸収フレームの変位の変位量(ストローク)を大きくすることができ、自動車が被衝突体と衝突する際に乗員に加わる衝突エネルギーを更に低減することができる。
【0083】
なお、上記の実施の形態では、衝撃吸収フレームにダンパを設けて構成した場合を例に説明したが、衝撃吸収フレームを、ダンパを用いないで構成してもよい。
【0084】
次に、第4の実施の形態に係る車両用安全装置について説明する。なお、第1の実施の形態及び第3の実施の形態のいずれかと同様の構成の部分については、同一符号を付して説明を省略する。
【0085】
第4の実施の形態では、衝撃吸収フレームが乗員空間室の骨格部材として機能するように配置されている点が第1の実施の形態と異なっている。
【0086】
図16に示すように、第4の実施の形態に係る車両用安全装置では、乗員空間室416に、骨格部材として衝撃吸収フレーム400が設けられている。
【0087】
衝撃吸収フレーム400は、乗員空間室416の骨格部材として機能するように、回転ジョイント344側が乗員空間室416の前後方向前側に、回転ジョイント354側が乗員空間室416の前後方向後側に各々位置するように配置されており、回転ジョイント344は、乗員空間室416の前端部に、回転ジョイント354は乗員空間室416の後端部に各々連結されている。また、回転ジョイント346は乗員空間室416の右端の前部に連結され、回転ジョイント348は乗員空間室416の左端のうち前部に連結され、回転ジョイント356は乗員空間室416の右端のうち後部に連結され、回転ジョイント358は乗員空間室416の左端のうち後部に連結されている。
【0088】
また、図17(A)〜(C)に示すように、一対の第1フレーム334、336の間には変位ロック機構490が設けられている。変位ロック機構490は、第1フレーム336の上面に間隔を空けて立設された一対のブラケット492と、一対のブラケット492の間に掛け渡された回転軸494と、第1フレーム334の上面に立設されたストッパピン496と、一端側が回転軸494を中心として回動可能に軸支され他端側にストッパピン496が入り込む孔498A(図17(C)参照)が穿設されたロッド498とから構成されている。図17(B)に示すように、ロッド498の孔498Aにストッパピン496が入り込んだ状態では、一対の第1フレーム334、336が回転ジョイント338を中心として回動することが阻止されるので、衝撃吸収フレーム400は外部からの荷重が入力されても変位が生じない状態でロックされる。
【0089】
変位ロック機構490のロッド498は通常、ロッド498の自重により図17(B)に示す状態(孔498Aにストッパピン496が入り込んだ状態)で保持されており、ロッド498が図17(B)に示す状態で保持されている間(すなわち、後述のように自動車Aが他の物体と衝突することが予測される迄の間)、衝撃吸収フレーム400は乗員空間室416の高剛性の骨格部材として機能する。また、上記のように通常時は衝撃吸収フレーム400が乗員空間室416の高剛性の骨格部材として機能することに基づき、本実施形態に係る乗員空間室416は衝撃吸収フレーム400を主要な骨格部材として用いており、衝撃吸収フレーム400以外の主要な骨格部材を省略している。これにより、乗員空間室416を軽量に構成できると共に、自動車Aが小型車等のスペースの限られた車両であったとしても、衝撃吸収フレーム400を容易に搭載することができる。
【0090】
また、第1フレーム334の上面のうち、ロッド498の孔498Aにストッパピン496が入り込んだ状態でロッド498の先端部(回動可能に軸支された側と反対側の端部)の下側となる位置には、ロック解除ACT(アクチュエータ)410が設けられている。ロック解除ACT410はモータ(図示省略)を内蔵し、モータの駆動力を、駆動力伝達機構を介して伝達することで、昇降ピン410Aを昇降移動可能とされている。ロック解除ACT410が昇降ピン410Aを上昇させると、昇降ピン410Aの上面がロッド498の先端部の下面に当接し、更に回転軸494を中心としてロッド498が回動することで、ストッパピン496がロッド498の孔498Aから抜け出た状態となり(図17(C)参照)、一対の第1フレーム334、336が回転ジョイント338を中心として回動可能となり、衝撃吸収フレーム400は外部から入力された荷重に応じた変位が生じる状態となる。
【0091】
なお、変位ロック機構490は回転ジョイントを介して回動可能に連結された衝撃吸収フレーム400の全てのフレームの間に各々設けてもよいし、一部のフレームの間に選択的に設ける(例えば一対の第1フレーム334、336の間に加え、一対の第2フレーム340、342の間、一対の第3フレーム350、352の間に各々設ける等)ようにしてもよい。
【0092】
また、図18に示すように、制御システム424は、プリクラッシュ制御ECU26と、レーダ装置28と、電磁チャック制御部30と、電磁チャック18と、プリクラッシュ制御ECU26から入力されるプリクラッシュ制御信号に基づいて、事前変位ACT320及びロック解除ACT410を制御する衝撃吸収コントローラ418と、事前変位ACT320と、ロック解除ACT410とを備えている。ロック解除ACT410は、衝撃吸収コントローラ418によって、内蔵したモータの駆動が制御される。
【0093】
次に、第4の実施の形態に係る車両用安全装置の作用を、図19に示す衝突時処理ルーチンを参照しつつ説明する。なお、第1の実施の形態及び第3の実施の形態の何れかと同様の処理については、同一符号を付して詳細な説明を省略する。
【0094】
上記構成の車両用安全装置において、制御システム424が衝突時処理ルーチンを実行すると、プリクラッシュ制御ECU26は、ステップ100で、レーダ装置28から衝突予測用の各種情報を取り込み、これらの情報に基づいて、ステップ102で自動車Aの前部の被衝突体との衝突(の確率)を予測する。衝突を予測(確率が閾値を超えると判断)したときに、プリクラッシュ制御ECU26は、プリクラッシュ制御信号を出力し、ステップ104において、プリクラッシュ制御信号が入力された電磁チャック制御部30は、自動車Aが被衝突体と衝突する前に、電磁チャック18による連結を切り離すように制御する。
【0095】
このとき、電磁チャック18による車体部12の前方端板と乗員空間室16との連結が切り離されるため、車体部12の前方端板に設けられた圧縮ばね20が伸張することにより、圧縮ばね20の反発力によって、自動車Aが被衝突体と衝突する前に、被衝突体に衝突する走行方向(前方向)と逆方向である後方向に乗員空間室16が押し出される。
【0096】
そして、ステップ450において、プリクラッシュ制御信号が入力された衝撃吸収コントローラ418は、ロック解除ACT410の昇降ピン410Aを上昇移動させる。これにより、昇降ピン410Aの上面がロッド498の先端部の下面に当接し、更に回転軸494を中心としてロッド498が回動することで、ストッパピン496がロッド498の孔498Aから抜け出た状態となり(図17(C)参照)、一対の第1フレーム334、336が回転ジョイント338を中心として回動可能となることで、衝撃吸収フレーム400のロック状態が解除され、外部から入力された荷重に応じて衝撃吸収フレーム400に変位が生じる(衝撃吸収フレーム400を構成する各フレームが回動する)状態となる。
【0097】
そして、次のステップ390において、プリクラッシュ制御信号が入力された衝撃吸収コントローラ418は、電磁チャック18による車体部12の前方端板と乗員空間室16との連結が切り離された直後であって、自動車Aが被衝突体と衝突する前に、衝撃吸収フレーム400を走行方向に伸張するように事前変位ACT320を制御し、衝撃時処理ルーチンを終了する。
【0098】
そして、車体部12が前方からの被衝突体に衝突した場合、衝撃吸収フレーム400のロックが解除された状態であり、衝撃吸収フレーム400には、回転ジョイント346、348の間隔及び回転ジョイント356、358の間隔が拡大しかつ回転ジョイント344、354の間隔が縮小する変位が生ずるので、衝撃吸収フレーム400の変位に伴い、衝撃吸収フレーム400に連結された乗員空間室416には、衝撃吸収フレーム400に入力された衝突荷重が、乗員空間室416の幅方向の長さを拡大する方向の引張力と、乗員空間室416の前後方向の長さを縮小する方向の圧縮力と、に分散されて入力される。従って、衝撃吸収フレーム400に衝突荷重として入力された衝突エネルギーは、その一部がダンパ372A〜372Dで発生される減衰力に抗して衝撃吸収フレーム400を変位させることによって消費(吸収)され、残りは、衝撃吸収フレーム400から乗員空間室416に分散入力される引張力及び圧縮力により、乗員空間室416が変形していく過程で消費(吸収)される。
【0099】
このように、衝撃吸収フレームにより、走行方向からの衝突による衝撃を分散吸収することが可能となり、走行方向からの衝突時に乗員に加わる衝突エネルギーを低減することができる。
【0100】
また、乗員空間室は衝撃吸収フレームを主要な骨格部材として用いているため、乗員空間室を軽量に構成できると共に、自動車が小型車等のスペースの限られた車両であったとしても、衝撃吸収フレームを容易に搭載することができる。
【0101】
なお、上記の実施の形態では、衝撃吸収フレームを乗員空間室の骨格部材として用いる場合を例に説明したが、衝撃吸収フレームからなる衝撃吸収機構を、乗員空間室の下面に設けるようにしてもよい。この場合には、通常走行時に、衝撃吸収機構と乗員空間室とをロックして固定し、衝突が予測されたときに、乗員空間室と衝撃吸収機構とのロックを解除して分離し、衝撃吸収フレームを前後方向に展開させて衝撃吸収フレームのストロークのみを大きくし、乗員空間室のストロークは変化させない。これにより、衝撃吸収機構の変形により衝突による衝撃を吸収し、衝突による乗員空間室の変形を抑制することができる。また、通常走行時には、乗員空間室と下部に設けられた衝撃吸収機構とをロックして固定することにより、衝撃吸収機構の衝撃吸収フレームによって、乗員空間室の骨格部材としての機能を果たすことが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0102】
【図1】本発明の第1の実施の形態に係る車両用安全装置及び車体部の構成を示す概略図である。
【図2】(A)本発明の第1の実施の形態に係る車両用安全装置の衝撃吸収機構の構成を示す概略図、(B)乗員空間室が分離したときに衝撃吸収機構が展開する様子を示す図、及び(C)乗員空間室が衝突するときの衝撃吸収機構の様子を示す図である。
【図3】本発明の第1の実施の形態に係る車両用安全装置の制御システムの構成を示すブロック図である。
【図4】本発明の第1の実施の形態に係る車両用安全装置において実行される衝突時処理ルーチンの内容を示すフローチャートである。
【図5】(A)通常の走行時の車両用安全装置の様子を示すイメージ図、(B)押し出し時の車両用安全装置の様子を示すイメージ図、(C)自動車が衝突した時の車両用安全装置の様子を示すイメージ図、及び(D)乗員空間室が衝突した時の車両用安全装置の様子を示すイメージ図である。
【図6】自動車が被衝突体に衝突するときの乗員空間室の速度の変化を示すグラフである。
【図7】自動車が被衝突体に衝突するときの乗員空間室の減速度の変化を示すグラフである。
【図8】本発明の第2の実施の形態に係る車両用安全装置の制御システムの構成を示すブロック図である。
【図9】本発明の第2の実施の形態に係る車両用安全装置において実行される衝突時処理ルーチンの内容を示すフローチャートである。
【図10】本発明の第3の実施の形態に係る乗員空間室及び衝撃吸収フレームの構成を示す概略図である。
【図11】本発明の第3の実施の形態に係る衝撃吸収フレームの構成を示す平面図である。
【図12】本発明の第3の実施の形態に係る事前変位アクチュエータの一例を示す概略図である。
【図13】本発明の第3の実施の形態に係る車両用安全装置の制御システムの構成を示すブロック図である。
【図14】本発明の第3の実施の形態に係る車両用安全装置において実行される衝突時処理ルーチンの内容を示すフローチャートである。
【図15】(A)本発明の第3の実施の形態に係る衝撃吸収フレームの一例、(B)走行方向に伸張された場合、及び(C)走行方向からの荷重がかかった場合の衝撃吸収フレームの動作を示す概略図である。
【図16】本発明の第4の実施の形態に係る乗員空間室及び衝撃吸収フレームの構成を示す概略図である。
【図17】変位ロック機構の、(A)は平面図、(B)及び(C)は変位ロック機構の動作を説明するための側面図である。
【図18】本発明の第4の実施の形態に係る車両用安全装置の制御システムの構成を示すブロック図である。
【図19】本発明の第4の実施の形態に係る車両用安全装置において実行される衝突時処理ルーチンの内容を示すフローチャートである。
【符号の説明】
【0103】
10 車両用安全装置
12 車体部
14 レール
16、416 乗員空間室
18 電磁チャック
22 衝撃吸収機構
24、224、314、424制御システム
26 プリクラッシュ制御ECU
28 レーダ装置
30 電磁チャック制御部
230 火薬点火部
232 火薬制御部
300、400 衝撃吸収フレーム
318、418 撃吸収コントローラ
320 事前変位ACT
334、336、340、342、350、352 フレーム
338、344、346、348、354、356、358 回転ジョイント
372 ダンパ
410 ロック解除ACT
490 変位ロック機構
A 自動車

【特許請求の範囲】
【請求項1】
乗員空間部を備え、車両の動力機構とは独立して走行方向と逆方向に移動可能に設けられた乗員室と、
前記動力機構と前記乗員室とを連結すると共に、前記連結を切り離すことが可能な連結部と、
前記車両が被衝突体に衝突するか否かを予測する予測手段と、
前記予測手段によって衝突することが予測されたときに、前記車両が前記被衝突体に衝突する前に、前記連結部による前記動力機構と前記乗員室との連結を切り離すように制御する切り離し制御手段と、
前記切り離し制御手段によって、前記連結部による前記動力機構と前記乗員室との連結が切り離されたときに、前記車両が前記被衝突体に衝突する前に、前記走行方向と逆方向に前記乗員室を移動させる移動手段と、
を含む車両用安全装置。
【請求項2】
乗員空間部を備え、車両の動力機構とは独立して走行方向と逆方向に移動可能に設けられた乗員室と、
前記動力機構と前記乗員室とを連結すると共に、前記連結を切り離すことが可能な連結部と、
前記車両が被衝突体に衝突するか否かを予測する予測手段と、
前記予測手段によって衝突することが予測されたときに、前記車両が前記被衝突体に衝突する前に、前記連結部による前記動力機構と前記乗員室との連結を切り離すと共に、前記走行方向と逆方向に前記乗員室を移動させる移動手段と、
を含む車両用安全装置。
【請求項3】
前記移動手段は、前記走行方向と逆方向に前記乗員室を押し出すことにより移動させる請求項1又は2記載の車両用安全装置。
【請求項4】
前記乗員室は、衝突の衝撃を吸収するための衝撃吸収部を備えた請求項1〜請求項3の何れか1項記載の車両用安全装置。
【請求項5】
前記衝撃吸収部は、前記走行方向と逆方向の荷重に対し、前記走行方向の両端部の間隔が縮小しかつ前記走行方向に交差する方向の両端部の間隔が拡大する変位が生ずるように、長尺状の複数の荷重伝達部材が回動可能に連結された荷重伝達機構を含んで構成された請求項4記載の車両用安全装置。
【請求項6】
前記走行方向と逆方向の荷重に対し、前記走行方向の両端部の間隔が縮小しかつ前記走行方向に交差する方向の両端部の間隔が拡大する変位が生ずるように、長尺状の複数の荷重伝達部材が回動可能に連結されて成り、前記走行方向の両端部が前記乗員室又は該乗員室の骨格部材のうち前記走行方向に沿った異なる部分に連結されると共に、前記走行方向に交差する方向の両端部が前記乗員室又は前記骨格部材のうち前記走行方向に交差する方向に沿った異なる部分に連結された荷重伝達機構を更に含む請求項1〜請求項4の何れか1項記載の車両用安全装置。
【請求項7】
前記荷重伝達機構に、前記走行方向に交差する方向の両端部の間隔が縮小しかつ前記走行方向の両端部の間隔が拡大する変位を生じさせるための駆動手段と、
前記移動手段によって、前記乗員室を前記走行方向と逆方向に移動させたときに、前記車両が前記被衝突体に衝突する前に、前記駆動手段によって前記荷重伝達機構に前記変位を生じさせる駆動制御手段と、
を更に含む請求項5又は6記載の車両用安全装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【公開番号】特開2008−222174(P2008−222174A)
【公開日】平成20年9月25日(2008.9.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−67399(P2007−67399)
【出願日】平成19年3月15日(2007.3.15)
【出願人】(000003609)株式会社豊田中央研究所 (4,200)
【Fターム(参考)】