説明

車両用心電計測装置

【課題】振動ノイズの影響を抑制して、より正確な心電図波形を得ることが可能な車両用心電計測装置を提供すること。
【解決手段】車両のシートに取り付けられ、車両乗員の身体に直接接触せずに該車両乗員の身体電位を検出する非接触電位検出手段と、該非接触電位検出手段により検出される検出値に重畳する振動ノイズを検出する振動ノイズ検出手段と、を備え、前記非接触電位検出手段により検出される検出値から、前記振動ノイズ検出手段により検出される検出値を差し引くことにより、前記車両乗員の心電図波形を計測することを特徴とする、車両用心電計測装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の運転者の心電図波形を計測する車両用心電計測装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、身体電位を測定する電極を用いて心臓の電気的な活動を検出し、グラフの形に記録した心電図が、医療の現場で広く利用されている。
【0003】
係る心電図を車両において計測する技術について研究が進められている。特に運転者の心臓の活動を監視することにより、運転中における運転者の心臓の異常に起因する種々の不都合を未然に抑制することが可能となるからである。
【0004】
これに関連し、人体に電気的絶縁状態で対向配備される一対の計測用絶縁電極(容量結合型電極)を備え、当該電極間の電位差から心電図波形を得る装置についての発明が開示されている(例えば、特許文献1参照)。この装置では、計測用絶縁電極をシートベルトに組み込むものとしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007−82938号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記特許文献1に記載の装置のように、非接触により身体電位を計測する場合、身体と電極との距離が、体動や車両の振動に起因して変動する場合があり、これによって検出電圧に重畳する振動ノイズが過大となる場合がある。
【0007】
心電図の代表的な波形成分として、振幅の最も大きいR波がよく知られている。R波のピークの周波数や間隔を認識することにより、一分間当たりの心拍数を算出したり、RR間隔(RRI;R-R Interval)から心拍数のゆらぎを監視したりすることができる。ここで、前述した振動ノイズの周波数がR波の周波数から十分に乖離しており、且つある程度の範囲内に収まっていれば、周波数制限フィルターによって除去することも可能である。しかしながら、特に車両の振動に起因する振動ノイズの周波数は、速度や路面抵抗、ボデー共振周波数等の要因によって変化するため、フィルターによって除去することが困難である。
【0008】
本発明はこのような課題を解決するためのものであり、振動ノイズの影響を抑制して、より正確な心電図波形を得ることが可能な車両用心電計測装置を提供することを、主たる目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するための本発明の第1の態様は、
車両のシートに取り付けられ、車両乗員の身体に直接接触せずに該車両乗員の身体電位を検出する非接触電位検出手段と、
該非接触電位検出手段により検出される検出値に重畳する振動ノイズを検出する振動ノイズ検出手段と、を備え、
前記非接触電位検出手段により検出される検出値から、前記振動ノイズ検出手段により検出される検出値を差し引くことにより、前記車両乗員の心電図波形を計測することを特徴とする、
車両用心電計測装置である。
【0010】
この本発明の第1の態様によれば、非接触電位検出手段により検出される検出値に重畳する振動ノイズを検出する振動ノイズ検出手段を備え、非接触電位検出手段により検出される検出値から、振動ノイズ検出手段により検出される検出値を差し引くことにより、車両乗員の心電図波形を計測するため、振動ノイズの影響を抑制して、より正確な心電図波形を得ることができる。
【0011】
本発明の第1の態様において、
前記非接触電位検出手段は、単独の導電体によって前記車両乗員の身体と仮想コンデンサを形成して前記車両乗員の身体電位を検出する手段であり、
前記振動ノイズ検出手段は、前記非接触電位検出手段よりも前記車両乗員の身体から遠い位置に取り付けられ、絶縁体を挟んだ複数の導電体を有するコンデンサにより前記振動ノイズを検出する手段であるものとしてもよい。
【0012】
この場合、
車両乗員のうち運転者の心電図波形を検出する車両用心電計測装置であって、
車両のステアリングホイールに取り付けられ、グランド端子に接続された直接電極を備え、
前記非接触電位検出手段により検出される検出値は、グランド電位を基準とした検出電位に基づく値であるものとしてもよい。
【0013】
本発明の第2の態様は、
車両のステアリングシートに取り付けられた直接電極と、
車両乗員の身体に直接接触せずに該車両乗員の身体電位を検出する非接触電位検出手段と、
電圧印加手段と、
前記直接電極と前記電圧印加手段を導通させ又は遮断させる切換え手段と、
前記直接電極と前記電圧印加手段が遮断されている状態における前記非接触電位検出手段の検出値から、前記直接電極と前記電圧印加手段が導通している状態における前記非接触電位検出手段の検出値を差し引くことにより、前記車両乗員の心電図波形を計測することを特徴とする、
車両用心電計測装置である。
【0014】
この本発明の第2の態様によれば、直接電極に電圧印加したタイミングにおける非接触電位検出手段の検出値によって、運転者の身体電位の変化よりも、振動による距離変化を相対的に大きい割合で検出することができる。そして、このように検出した振動ノイズを差し引いて心電図波形を得るため、振動ノイズの影響を抑制して、より正確な心電図波形を得ることができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、振動ノイズの影響を抑制して、より正確な心電図波形を得ることが可能な車両用心電計測装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の第1実施例に係る車両用心電計測装置1の構成例である。
【図2】車両用心電計測装置1の搭載された車両に運転者が着座した状態を模式的に示す図である。
【図3】直接電極10をステアリングホイールに取り付ける様子を示す図である。
【図4】運転者の身体(臀部)と、層状に形成された容量結合型電極20、及び振動ノイズ検出用電極30を模式的に示す図である。
【図5】運転者の身体と車両用心電計測装置1とで形成する回路(部分的には仮想回路)の構成を模式的に示す図である。
【図6】実際に本実施例の車両用心電計測装置1を備えるシートに人が着座して数秒毎に臀部を揺すった場合の実測データであり、容量結合型電極20の検出値の時間変化を示す図である。
【図7】図6で示した容量結合型電極20の検出値から、振動ノイズ検出用電極30により検出される検出値を差し引いた電圧信号の時間変化を示す図である。
【図8】本発明の第2実施例に係る車両用心電計測装置2の構成例である。
【図9】本発明の他の実施例に係る車両用心電計測装置の構成例である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明を実施するための形態について、添付図面を参照しながら実施例を挙げて説明する。
【実施例】
【0018】
<第1実施例>
以下、本発明の第1実施例に係る車両用心電計測装置1について説明する。図1は、本発明の第1実施例に係る車両用心電計測装置1の構成例である。また、図2は、車両用心電計測装置1の搭載された車両に運転者が着座した状態を模式的に示す図である。
【0019】
車両用心電計測装置1は、主要な構成として、直接電極10と、容量結合型電極20と、振動ノイズ検出用電極30と、記録制御装置40と、を備える。なお、以下の説明において、車両用心電計測装置1は車両の運転者の心電図波形を得る装置として説明するが、本発明は運転者以外の他の乗員にも適用可能である(後述の第2実施例においても同様である)。
【0020】
直接電極10は、車両の運転者(前述の如く他の乗員であってもよい;以下同)の皮膚に接触して運転者の身体電位を検出するための電極であり、例えばクロムメッキ樹脂により形成される。直接電極10は、例えばステアリングホイールの外周面に取り付けられる。図3は、直接電極10をステアリングホイールに取り付ける様子を示す図である。また、これに限らず、シフトレバー等、運転者が頻繁に直接触れる他の箇所に取り付けられてもよい。直接電極10は、グランド端子60に接続されている。
【0021】
なお、本装置が運転者以外の乗員の心電図波形を計測する場合、直接電極10は、例えばセンターコンソール上部やドアの内側に設けられた操作部等に取り付けられる。
【0022】
容量結合型電極20は、運転者の皮膚に接触せずに、静電容量結合によって運転者の身体電位を検出するための電極であり、車両のシートに取り付けられる。容量結合型電極20は、単独の導電体を有し、運転者の身体と仮想コンデンサを形成する。容量結合型電極20には、信号線20Aが接続されており、運転者の身体電位の変動に応じて変動する容量結合型電極20の電位を記録制御装置40に伝達している。
【0023】
なお、容量結合型電極20の電位には、車両の振動等に起因する、運転者の身体と容量結合型電極20との距離の変動による電位変化(振動ノイズ)が含まれている。
【0024】
振動ノイズ検出用電極30は、例えば、容量結合型電極20よりも運転者の身体から遠い位置に取り付けられ、絶縁体を挟む複数の導電体によりコンデンサを形成している。
【0025】
図4は、運転者の身体(臀部)と、層状に形成された容量結合型電極20、及び振動ノイズ検出用電極30を模式的に示す図である。
【0026】
図示するように、容量結合型電極20は、例えば導電布であり、シート表皮に編み込まれ、又はシート表皮とクッションの間に挿入される。なお、これに限らず、板状電極等であってもよい。
【0027】
容量結合型電極20と振動ノイズ検出用電極30の間には、ポリ塩化ビニル(PVC)等の絶縁体が挿入される。
【0028】
振動ノイズ検出用電極30は、グランド端子60に接続された第1の導電布32と、絶縁体34を挟んで第1の導電布32に対向するように配置された第2の導電布36と、を有する。絶縁体34は、運転者のズボンやスカート等とバネ定数が近い素材(衣服に用いられる繊維等)が用いられる。
【0029】
振動ノイズ検出用電極30では、自然帯電によって第1の導電布32と第2の導電布36の間に電荷が貯えられており(不十分な場合は電圧を印加してもよい)、第1の導電布32と第2の導電布36の距離が変動することによって、第2の導電布36の電位が変化する。従って、車両の振動等によって第1の導電布32と第2の導電布36の距離が変動すると、第2の導電布36の電位はこれに応じた変化をすることになる。この結果、第2の導電布36の電位は、運転者の臀部から容量結合型電極20や振動ノイズ検出用電極30に与えられる振動に応じたものとなり、容量結合型電極20の検出値に重畳する振動ノイズに近い変化をすることになる。
【0030】
また、運転者の身体と振動ノイズ検出用電極30の間には、複数の絶縁体が備えられており、更に第1の導電布32がグランド端子60に接続されているため、運転者の身体電位がそのまま振動ノイズ検出用電極30の検出値に表れる割合が小さい。従って、振動ノイズ検出用電極30は、振動ノイズのみを検出すること、或いは運転者の身体電位の変化よりも相対的に大きい割合で振動ノイズを検出することができる。
【0031】
第2の導電布36には、信号線30Aが接続されており、車両の振動等によって変動する第2の導電布36の電位を記録制御装置40に伝達している。
【0032】
図5は、運転者の身体と車両用心電計測装置1とで形成する回路(部分的には仮想回路)の構成を模式的に示す図である。図中、ZEは、運転者の身体と容量結合型電極20との間のインピーダンスである。ZGは、容量結合型電極20と第1の導電布32との間のインピーダンスである。ZVは、第1の導電布32と第2の導電布36との間のインピーダンスである。また、Vhは運転者の心臓の電気的活動を示しており、VGは車両の振動等によって生じる基線の変化を示している。
【0033】
容量結合型電極20の電位は、第1のオペアンプ42に入力される。また、第2の導電布36の電位は、第2のオペアンプ44に入力される。図中、Copは第1のオペアンプ42及び第2のオペアンプ44の内部容量を示し、Ropは第1のオペアンプ42及び第2のオペアンプ44の内部抵抗を示す。なお、各オペアンプは、ボルテージフォロワ等による置換が可能である。
【0034】
第1のオペアンプ42の出力V_ECGは、運転者の身体電位の変化と振動ノイズを含んだものとなる。また、第2のオペアンプ44の出力V_Vibは、概ね振動ノイズのみを含んだものとなる。
【0035】
従って、記録制御装置40では、第1のオペアンプ42の出力V_ECG(特許請求の範囲における「静電容量結合型電極により検出される検出値」に相当する)から、第2のオペアンプ44の出力V_Vib(特許請求の範囲における「振動ノイズ検出用電極」により検出される検出値に相当する)を差し引くことにより、運転者の心電図波形を計測する。これによって、運転者の心電図波形をより正確に把握することができる。
【0036】
ここで、単に容量結合型電極20を用いて心電図波形を得るものにおいては、車両の振動等に起因する振動ノイズが容量結合型電極20の検出値に含まれるため、正確な心電図波形の把握が困難な場合がある。図6は、実際に本実施例の車両用心電計測装置1を備えるシートに人が着座して数秒毎に臀部を揺すった場合の実測データであり、容量結合型電極20の検出値、及び振動ノイズ検出用電極30の検出値(振動)の時間変化を示す図である。図示するように、振動ノイズが重畳していない期間ではR波ピークが明確に把握されうるが、振動ノイズが重畳している期間では正確にR波ピークを把握するのが困難である。
【0037】
この点、本実施例の車両用心電計測装置1では、容量結合型電極20の検出値から、振動ノイズ検出用電極30により検出される検出値を差し引いて心電図波形を得るため、振動ノイズの影響を低減することができる。
【0038】
図7は、図6で示した容量結合型電極20の検出値、及びこれから振動ノイズ検出用電極30により検出される検出値を差し引いた電圧信号の時間変化を示す図である。なお、図7は、図6を拡大表示している。図示するように、振動ノイズ検出用電極30により検出される検出値を差し引くことにより、振動ノイズに起因する振幅を抑制することができ、R波ピークをより正確に把握することができる。
【0039】
なお、容量結合型電極20や振動ノイズ検出用電極30の特性に応じて、第1のオペアンプ42や第2のオペアンプ44において所望の程度、増幅を行なうと、振動ノイズに起因する振幅をより正確に除去することができる。
【0040】
本発明の第1実施例に係る車両用心電計測装置1によれば、運転者の身体電位の変化よりも、振動による距離変化を相対的に大きい割合で検出する振動ノイズ検出用電極30を備え、容量結合型電極20の検出値から振動ノイズ検出用電極30により検出される検出値を差し引いて心電図波形を得るため、振動ノイズの影響を抑制し、より正確な心電図波形を得ることができる。
【0041】
<第2実施例>
以下、本発明の第2実施例に係る車両用心電計測装置2について説明する。図8は、本発明の第2実施例に係る車両用心電計測装置2の構成例である。
【0042】
車両用心電計測装置2は、主要な構成として、直接電極10と、容量結合型電極20と、記録制御装置70と、を備える。なお、直接電極10、及び容量結合型電極20については第1実施例と同様の構成及び機能を有するものであるため、第1実施例と同様の符号を付している。
【0043】
記録制御装置70は、電圧印加部72と、心電図計測部74と、LCR76と、を有する。また、同期制御されるリレー78、79を備えている。
【0044】
電圧印加部72は、例えば直流を供給する小型電池を内蔵する。リレー78は、電圧印加部72と直接電極10の間に取り付けられている。
【0045】
リレー78が第1の状態である場合、直接電極10はグランド端子80に接続される(単に開放状態としてもよい)。この場合、第1実施例と同様に、運転者の身体電位が直接電極10の検出値として表れる。
【0046】
一方、リレー78が第2の状態である場合、電圧印加部72と直接電極10が導通し、これに運転者の身体及び容量結合型電極20を含めた仮想回路が形成される。この状態においては、印加された電圧により身体電位の成分が相対的に小さくなり、直接電極10の電位は、運転者の臀部から容量結合型電極20に与えられる振動に応じたものとなる。
【0047】
リレー78とリレー79は、図示しない制御部(例えば、マイクロコンピュータを用いる)によって、200[kHz]程度の周波数で同期制御される。リレー79は、リレー78が第1の状態である期間において容量結合型電極20と心電図計測部74を接続させ、リレー78が第2の状態である期間において容量結合型電極20とLCR76を接続させる。
【0048】
LCR76は、インピーダンス計測を行なうことにより、運転者の臀部と容量結合型電極20の距離を計測する。これよって、容量結合型電極20の検出値に重畳する振動ノイズに応じた信号を出力する。
【0049】
心電図計測部74は、容量結合型電極20の検出値から、LCR76の出力を差し引くことにより、心電図波形を得る。
【0050】
係る構成によって、第1実施例と同様に、振動ノイズに起因する振幅を抑制することができ、R波ピークをより正確に把握することができる。
【0051】
本発明の第2実施例に係る車両用心電計測装置2によれば、所定の周期で直接電極10に電圧印加し、当該電圧印加タイミングでインピーダンス計測を行なうことにより、運転者の身体電位の変化よりも、振動による距離変化を相対的に大きい割合で検出することができる。そして、このように検出した振動ノイズを差し引いて心電図波形を得るため、振動ノイズの影響を抑制し、より正確な心電図波形を得ることができる。
【0052】
<利用例>
このように生成された心電図波形は、表示、印刷等されたものを運転者本人が確認することができる他、心電図波形に異常がないか否かを監視し、異常があると判断した場合に警報を発したり、車両を徐々に停止させたりする等の運転支援制御を行なうことができる。また、無線通信によって車外設備に心電図波形に係るデータを送信し、車外設備において波形に異常がないか否かを監視することもできる。
【0053】
この際に、車速センサ等の出力が入力されるように通信線を構成し、その出力値に基づき車両が走行中であると判定した場合には、心電図波形のうちR波ピーク(R波の波高)の間隔等に基づいて運転者の心臓状態を大局的に判定し、車両が停車中であると判定された場合には、心電図波形のうちR波ピークを含む心電図波形全体に基づいて運転者の心臓状態をより厳密に判定するものとしてよい。
【0054】
ここで、心電図波形は、主に、心房の電気的興奮を反映するP波と、心室の電気的興奮を反映するQ、RおよびS波(以下、「QRS群」という。)と、興奮した心室の心筋細胞が再分極する過程を反映するT波とから構成され、R波の波高(電位差)が最も大きく、筋電位等のノイズに対して最も頑健であるといえる。次に波高が大きいのがT波であり、P波が最も小さい波高を有する。
【0055】
従って、車両走行中においては、心電図波形のうち波高が最も大きい部分であるR波ピークの間隔等に基づき運転者の心臓状態を大局的に判定する。一方、車両停車中においては運転者が安静状態になり易く筋電位等のノイズを少なくすることができるので、R波よりも波高の小さいT波およびP波を含めた心電図波形全体に基づき運転者の心臓状態をより厳密に判定する。
【0056】
車両の走行中においては、心電図波形からR波ピークのみを検出し、その周期から一分間当たりの心拍数を算出する。そして、RR間隔(RRI;R-R Interval)から心拍数のゆらぎを監視し、この心拍数のゆらぎを周波数解析し低周波成分(LF)および高周波成分(HF)を算出する。そして、算出した心拍数およびLF/HF比に基づいて不整脈の有無を判定する。具体的には、心拍数が先行する5分間の平均心拍数より25%以上上昇するか、心拍数が100拍/分以上若しくは40拍/分以下となるか、又はLF/HF比が先行する30分間ないし40分間のLF/HF比に比べ50%以上上昇するかの何れかの条件が満たされた場合に、不整脈のおそれがあると判定する。不整脈のおそれがあると判定した場合は、車両の駆動装置やブレーキ装置に干渉制御して車両を徐々に停止させたり、表示装置に警告画面を表示させたりする制御を行なう。
【0057】
車両の停止中においては、心電図波形からST波波高を検出し、脈波波形から血圧を推定する。そして、検出したST波波高または推定した血圧に基づいて不整脈の有無を判定する。具体的には、ST波の波高が基準電位+0.02mV以上若しくは基準電位−0.02mV以下となるか、または、血圧が25%以上上昇若しくは25%以上下降するかの条件が満たされた場合に、不整脈が発生したと判定する。不整脈のおそれがあると判定した場合は、通信装置を介して家族、掛かり付けの医師、ヘルプネット等の予め登録された連絡先に自動的に通報したり、或いは、車外に緊急事態を知らせるようホーンを鳴らしたり、ライトを点滅させたりする。
【0058】
また、基準心電図波形を有するテンプレートを図示しないRAM(Random Access Memory)やHDD(Hard Disk Drive)等の記憶装置に記憶しておき、特定された心電図波形とテンプレートとの比較に基づき不整脈のおそれ等を判定してもよい。この場合、心房細動、洞不整脈、心房性期外収縮についてそれぞれ判定可能となる。テンプレートは、本装置によって特定された心電図波形に基づき、更新、新規登録、削除等の処理がなされてよい。
【0059】
<その他>
以上、本発明を実施するための最良の形態について実施例を用いて説明したが、本発明はこうした実施例に何等限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々の変形及び置換を加えることができる。
【0060】
例えば、第1実施例における容量結合型電極20や振動ノイズ検出用電極30の設置態様は、運転者の身体に近い方から容量結合型電極20と振動ノイズ検出用電極30を重ねて設置するものに限らない。例えば、図9に示すように、臀部の直下等、運転者の身体に直接対向する部位に容量結合型電極20を設置し(図では、複数の電極20(1)、20(2)と表記した)、両足の間等、運転者の身体に直接対向しない部位に振動ノイズ検出用電極30を設置するものとしてもよい。
【0061】
この場合、電極20(1)の検出値であるV1と、20(2)の検出値であるV2は、平均値を求めて心電図波形に用いてもよいし、信号が明確な方(振れ幅が大きく計測される方)を採用してもよいし、信号の明確性に基づいて加重平均して用いてもよい。なお、図9においては直接電極10の図示を省略している。
【0062】
こうすれば、容量結合型電極20には運転者の身体電位の変化が大きく表れ、振動ノイズ検出用電極30の検出値には運転者の身体電位の変化に比して振動ノイズの方が大きく表れるからである。そして、V1とV2の平均値又は選択値等から、V3を差し引くことにより、振動ノイズの影響を軽減することができる。従って、第1実施例と同様に、振動ノイズの影響を抑制して、より正確な心電図波形を得ることができる。
【産業上の利用可能性】
【0063】
本発明は、自動車製造業や自動車部品製造業等に利用可能である。
【符号の説明】
【0064】
1、2 車両用心電計測装置
10 直接電極
20 容量結合型電極
30 振動ノイズ検出用電極
20A、30A 信号線
32 第1の導電布
34 絶縁体
36 第2の導電布
40 記録制御装置
60 グランド端子
70 記録制御装置
72 電圧印加部
74 心電図計測部
76 LCR
78、78 リレー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両のシートに取り付けられ、車両乗員の身体に直接接触せずに該車両乗員の身体電位を検出する非接触電位検出手段と、
該非接触電位検出手段により検出される検出値に重畳する振動ノイズを検出する振動ノイズ検出手段と、を備え、
前記非接触電位検出手段により検出される検出値から、前記振動ノイズ検出手段により検出される検出値を差し引くことにより、前記車両乗員の心電図波形を計測することを特徴とする、
車両用心電計測装置。
【請求項2】
前記非接触電位検出手段は、単独の導電体によって前記車両乗員の身体と仮想コンデンサを形成して前記車両乗員の身体電位を検出する手段であり、
前記振動ノイズ検出手段は、前記非接触電位検出手段よりも前記車両乗員の身体から遠い位置に取り付けられ、絶縁体を挟んだ複数の導電体を有するコンデンサにより前記振動ノイズを検出する手段である、
請求項1に記載の車両用心電計測装置。
【請求項3】
車両乗員のうち運転者の心電図波形を検出する請求項2に記載の車両用心電計測装置であって、
車両のステアリングホイールに取り付けられ、グランド端子に接続された直接電極を備え、
前記非接触電位検出手段により検出される検出値は、グランド電位を基準とした検出電位に基づく値である、
車両用心電計測装置。
【請求項4】
車両のステアリングシートに取り付けられた直接電極と、
車両乗員の身体に直接接触せずに該車両乗員の身体電位を検出する非接触電位検出手段と、
電圧印加手段と、
前記直接電極と前記電圧印加手段を導通させ又は遮断させる切換え手段と、
前記直接電極と前記電圧印加手段が遮断されている状態における前記非接触電位検出手段の検出値から、前記直接電極と前記電圧印加手段が導通している状態における前記非接触電位検出手段の検出値を差し引くことにより、前記車両乗員の心電図波形を計測することを特徴とする、
車両用心電計測装置。

【図1】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図9】
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【図2】
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【図8】
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【公開番号】特開2011−24903(P2011−24903A)
【公開日】平成23年2月10日(2011.2.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−175728(P2009−175728)
【出願日】平成21年7月28日(2009.7.28)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【出願人】(593006630)学校法人立命館 (359)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【Fターム(参考)】