説明

車両用操舵装置

【課題】ラック軸の動き出しを妨げることなく高い支持剛性を確保して優れた操舵フィーリングと静粛性とを両立させることのできる車両用操舵装置を提供すること。
【解決手段】ラックブッシュ7は、ラック軸3が挿通されることにより内周に摺接面Sが形成される筒状部21を備えるとともに、この筒状部21の軸方向両端には、基端側から先端側に向かって拡径する拡開部22が設けられる。また、ラックブッシュ7は、エンドハウジング6の内周に形成された環状溝20に嵌着され、各拡開部22が環状溝20の側壁23に当接することにより、その軸方向移動が規制される。更に、各拡開部22が環状溝20の底面24に嵌合することで、筒状部21の径方向外側には、その軸方向両側が各拡開部22に挟まれた閉鎖空間Xが形成される。そして、この閉鎖空間X内には、粘性流体としてのグリスGが封入される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両用操舵装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
通常、ステアリング操作により軸方向移動するラック軸を備えた車両用操舵装置において、ラック軸は、ハウジングとの間に設けられたラックブッシュにより摺動可能に支持されている。
【0003】
例えば、特許文献1に記載のラックブッシュは筒状に形成されており、ラック軸は、その筒内に挿通されている。また、ラックブッシュの外周には、係合突部が形成されている。そして、ラックブッシュは、この係合突部がハウジングの内周に形成された係合凹部に係合することにより、そのハウジングに対する軸方向移動が規制されている。
【0004】
更に、係合凹部の深さは、係合突部の突出量よりも深く設定されるとともに、ハウジングの内周には、その係合凹部に隣接する凹部(テーパ面)が形成されている。そして、ラックブッシュの内周には、その係合突部の背面となる位置から径方向内側に突出する環状の支持部が形成されている。
【0005】
即ち、このような構成とすることで、径方向の弾性変形を許容してラック軸を弾力的に支持することができる。そして、これにより、すべり抵抗の増大を抑えつつ、適切な締め代を設定して高い支持剛性を確保することができ、その結果、逆入力応力の印加等によるラック軸の振動を抑えて、静粛性の向上を図ることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平6−115439号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、通常、ラック軸は、ラックガイドに押圧されることにより、ピニオン軸に歯合する構成となっている。そして、多くの場合、その一端側が、このラック&ピニオン機構を形成するラックガイドにより支持されている。そのため、上記従来のラックブッシュでは、その内周に突出する支持部を支点としたラック軸の揺動、即ち軸振れが生じやすい傾向があり、これを抑えて更なる静粛性の向上を図るべく、その締め代を高く設定した場合には、摩擦抵抗(静止摩擦)の増大によりラック軸の動き出しが鈍くなるという問題がある。そして、これが操舵初期の所謂引っ掛かり感となることで、操舵フィーリングの低下を招くおそれがあり、この点において、なお改善の余地を残すものとなっていた。
【0008】
本発明は、上記問題点を解決するためになされたものであって、その目的は、ラック軸の動き出しを妨げることなく高い支持剛性を確保して優れた操舵フィーリングと静粛性とを両立させることのできる車両用操舵装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記問題点を解決するために、請求項1に記載の発明は、ハウジングとラック軸との間に介在されることにより軸方向移動可能に該ラック軸を支持するラックブッシュを備えた車両用操舵装置において、前記ラックブッシュは、前記ラック軸が挿通されることにより内周に摺接面が形成される筒状部を備えるとともに、該筒状部の軸方向両端には、基端側から先端側に向かって拡径する拡開部が設けられ、前記ハウジングは、前記各拡開部に当接して前記ラックブッシュの軸方向移動を規制する規制部と、前記各拡開部に嵌合して前記筒状部の外周に前記各拡開部に挟まれた閉鎖空間を形成する周壁部とを備えるとともに、前記閉鎖空間には、粘性流体が封入されること、を要旨とする。
【0010】
即ち、筒状部の内周面を摺接面とし、ラック軸に対して一様に面接触(面当たり)させることにより、その支持剛性を高めることができる。また、筒状部の外周に形成された閉鎖空間内に粘性流体を封入することで、その内圧を利用して更に支持剛性を向上させることができる。そして、これにより、ラック軸の軸振れを抑制することでき、その結果、ラック軸の締め代を適切に設定して摩擦抵抗の増加を抑えることができる。
【0011】
また、ラック軸の軸方向移動時、各拡開部が弾性変形することで、そのラック軸との摩擦による筒状部の軸方向移動が許容される。そして、これにより、ラック軸の動き出しを円滑化することができる。更に、このとき、閉鎖空間内に封入された粘性流体が筒状部の外周を押圧することにより、筒状部の筒形状及びそのラック軸との一様な面接触状態が維持される。そして、これにより摺接面が安定し、その摩擦抵抗が略一定に保たれることで、筒状部が軸方向移動する際の軸力変化、即ち操舵初期の操舵トルク変化が、各拡開部の弾性変形量に応じた略線形(リニア)になる。その結果、操舵初期の引っ掛かり感を抑えて、その操舵フィーリングを向上させることができる。
【0012】
そして、摺接面におけるラック軸との一様な面接触状態が維持されることで、各拡開部が弾性変形した状態においても、その高い支持剛性を確保することができる。その結果、逆入力応力の印加等によるラック軸の振動を抑えて、静粛性を向上させることができる。
【0013】
ここで、ラック軸との摩擦抵抗を低減する方法としては、従来見られるように、そのラック軸との摺接部分にスプラインやセレーションのような突条(又は条溝)を形成することが考えられる。しかしながら、上記のようにラック軸が挿通される筒状部の外周に粘性流体が封入された閉鎖空間を形成する構成では、その粘性流体の圧力によって、筒状部の内周がラック軸の周面に押し付けられた状態になる。このため、筒状部の内周に突条を形成したとしても、その突条がラック軸の周面に対して肩当たりする可能性が高く、摺接面の安定性が確保できないことから、狙い通りの摩擦抵抗及び支持剛性を得ることは困難である。従って、本発明のように、筒状部の内周面を摺接面とし、ラック軸に対して一様に面接触(面当たり)させることが望ましい。
【0014】
請求項2に記載の発明は、前記各拡開部と前記周壁部との間を液密に封止するシール構造を有すること、を要旨とする。
上記構成によれば、粘性流体の漏出を抑えて、その圧力を有効に利用することができる。その結果、より効果的に操舵フィーリング及び静粛性の向上を図ることができるようになる。
【0015】
請求項3に記載の発明は、前記各拡開部は、前記筒状部よりも薄肉に形成されること、を要旨とする。
上記構成によれば、筒状部の弾性変形を抑えつつ、各拡開部を弾性変形しやすくすることができる。
【0016】
請求項4に記載の発明は、前記摺接面には、個体潤滑材が埋設されること、を要旨とする。
上記構成によれば、摺接面におけるラック軸との一様な面接触状態を確保しつつ、ラック軸との間の摩擦抵抗を低減して、その動き出しをより円滑なものとすることができる。その結果、操舵初期の引っ掛かり感を抑えて、その操舵フィーリングを更に向上させることができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、ラック軸の動き出しを妨げることなく高い支持剛性を確保して優れた操舵フィーリングと静粛性とを両立させることが可能な車両用操舵装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】車両用操舵装置の断面図。
【図2】ラックブッシュ近傍の拡大断面図。
【図3】本実施形態のラックブッシュの作用説明図。
【図4】別例のラックブッシュのシール構造を示す拡大断面図。
【図5】別例のラックブッシュのシール構造を示す拡大断面図。
【図6】別例のラックブッシュの断面図。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明を具体化した一実施形態を図面に従って説明する。
図1に示すように、本実施形態の車両用操舵装置1は、軸方向移動可能にハウジング2に支持されたラック軸3と、同ラック軸3に歯合されたピニオン軸4とを備えた所謂ラック&ピニオン型のステアリング装置として構成されている。
【0020】
詳述すると、本実施形態のハウジング2は、略円筒状のラックハウジング5を備えており、ラック軸3は、その軸線に沿うようにラックハウジング5内に挿通されている。また、ラックハウジング5の一端(同図中、下段に記載された左側の端部)には、エンドハウジング6が設けられている。そして、ラック軸3は、このエンドハウジング6に設けられたラックブッシュ7により、その端部近傍が摺動自在に支持されている。
【0021】
一方、ラックハウジング5の他端、即ち上記エンドハウジング6とは反対側の端部(同図中、上段に記載された右の端部)には、ギヤハウジング8が設けられている。そして、ラック軸3は、このギヤハウジング8内において上記ピニオン軸4に歯合されている。
【0022】
具体的には、ピニオン軸4は、回転自在にギヤハウジング8に支持されることにより、そのピニオン歯4aがラック歯3aと対向する位置に配置されている。また、ギヤハウジング8には、ラック歯3aの背面に摺接することにより、ラック軸3を押圧しつつ軸方向移動可能に同ラック軸3を支持するラックガイド9が設けられている。そして、このラックガイド9に付勢されたラック軸3がピニオン軸4と歯合することにより、周知のラック&ピニオン機構10が形成されている。
【0023】
また、ラック軸3の両端には、それぞれラックエンド11を介して回動可能にタイロッド12が連結されている。尚、本実施形態のラックエンド11には周知のボールジョイントが採用されている。また、ラック軸3とタイロッド12との連結部分は、エンドハウジング6及びギヤハウジング8の端部に装着された蛇腹状のブーツ13によって包囲されている。そして、各タイロッド12の先端は、図示しないナックルに連結されている。
【0024】
即ち、ステアリング操作に伴うピニオン軸4の回転は、ラック&ピニオン機構10によりラック軸3の軸方向移動に変換される。そして、そのラック軸3の移動がタイロッド12を介して図示しないナックルに伝達されることにより、転舵輪の舵角、即ち車両の進行方向が変更されるようになっている。
【0025】
(ラック軸の支持構造)
次に、本実施形態の車両用操舵装置におけるラック軸の支持構造について詳述する。
図1に示すように、本実施形態の車両用操舵装置において、エンドハウジング6は、略円筒状に形成されている。そして、その筒内にラックハウジング5の一端が挿入されることにより、同ラックハウジング5と連結されている。また、エンドハウジング6の内周には、周方向に延びる環状溝20が形成されており、ラックブッシュ7は、この環状溝20に嵌着されている。そして、ラック軸3は、このラックブッシュ7に支持された状態でエンドハウジング6の筒内に挿通されている。
【0026】
図2に示すように、本実施形態のラックブッシュ7は、略円筒状に形成された筒状部21を備えており、ラック軸3は、この筒状部21内に挿通されている。具体的には、筒状部21の筒内には、その軸方向(同図中、左右方向)全長に亘って平滑な周面が形成されている。尚、本実施形態の筒状部21は、その筒内外を径方向に連通する孔や切欠きを有していない。そして、本実施形態では、これにより、筒状部21の内周全面がラック軸3に対して一様に面接触することにより、ラック軸3との摺接面Sが形成されるようになっている。
【0027】
また、筒状部21の軸方向両端には、その基端側から先端側に向かって拡径するラッパ状の拡開部22が形成されている。尚、本実施形態のラックブッシュ7は、弾性変形可能な樹脂にて形成されるとともに、拡開部22の厚みD1は、筒状部21の厚みD0よりも薄肉となるように設定されている。そして、ラックブッシュ7は、この拡開部22が上記環状溝20と嵌合する態様で同環状溝20内に配置されている。
【0028】
具体的には、環状溝20内において、各拡開部22の先端は、それぞれ、その軸方向に対向する側壁23に当接している。そして、本実施形態では、この側壁23を規制部とすることにより、ラックブッシュ7の軸方向移動が規制されている。
【0029】
また、各拡開部22の外周は、それぞれ、環状溝20の底面24に嵌合しており、これにより、上記筒状部21の径方向外側には、その軸方向両側が各拡開部22に挟まれた閉鎖空間Xが形成されている。更に、この閉鎖空間X内には、粘性流体としてのグリスGが封入されている。そして、本実施形態のラックブッシュ7は、これにより、ラック軸3の動き出しを妨げることなく、高い支持剛性を確保する構成になっている。
【0030】
詳述すると、本実施形態のラックブッシュ7は、筒状部21の筒内に形成された平滑な周面を摺接面Sとして、摺動自在にラック軸3を支持する。そして、その摺接面Sとなる筒状部21の内周全面がラック軸3に対して一様に面接触(面当たり)することにより、その高い支持剛性を確保することが可能になっている。
【0031】
また、筒状部21は、その筒内外を径方向に連通する孔や切欠きを有していない。即ち、筒状部21とラック軸3との摺接面Sは、筒状部21の外周に形成される閉鎖空間Xに対して一様に閉じている。従って、この閉鎖空間X内にグリスGを封入することで、その内圧を利用して更に支持剛性を向上させることができる。そして、本実施形態では、これによりラック軸3の軸振れを抑制することで、その締め代を適切に設定して摩擦抵抗の増加を抑えることが可能になっている。
【0032】
更に、図3に示すように、ラック軸3の軸方向移動時には、各拡開部22が弾性変形することで、そのラック軸3との摩擦による筒状部21の軸方向移動が許容される。そして、本実施形態では、これによりラック軸3の動き出しを円滑化することによって、操舵初期の引っ掛かり感が抑えられている。
【0033】
また、このとき、その各拡開部22の弾性変形に基づいて、閉鎖空間X内に封入されたグリスGが筒状部21の外周を押圧する。そして、このグリスGの圧力により、ラック軸3の周面に押し付けられることによって、筒状部21の筒形状及びその一様な面接触状態が維持される。
【0034】
即ち、軸方向移動の前後における筒状部21の形状を維持し、ラック軸3との摺接面S(S´)を安定させることにより、その摩擦抵抗が略一定に保たれる。そして、本実施形態では、これにより、その筒状部21が軸方向移動する際の軸力変化、即ち操舵初期の操舵トルク変化を、各拡開部22の弾性変形量に応じた略線形(リニア)とすることで、その操舵フィーリングの向上が図られている。
【0035】
また、摺接面S(S´)におけるラック軸3との一様な面接触状態が維持されることで、各拡開部22が弾性変形した状態においても、その高い支持剛性を確保することが可能になる。そして、本実施形態では、これにより、逆入力応力の印加等によるラック軸3の振動を抑えることで、その静粛性の向上が図られている。
【0036】
以上、本実施形態によれば、以下のような効果を得ることができる。
(1)ラックブッシュ7は、ラック軸3が挿通されることにより内周に摺接面Sが形成される筒状部21を備えるとともに、この筒状部21の軸方向両端には、基端側から先端側に向かって拡径する拡開部22が設けられる。また、ラックブッシュ7は、エンドハウジング6の内周に形成された環状溝20に嵌着され、各拡開部22が環状溝20の側壁23に当接することにより、その軸方向移動が規制される。更に、各拡開部22が環状溝20の底面24に嵌合することで、筒状部21の径方向外側には、その軸方向両側が各拡開部22に挟まれた閉鎖空間Xが形成される。そして、この閉鎖空間X内には、粘性流体としてのグリスGが封入される。
【0037】
即ち、筒状部21の内周全面を摺接面Sとし、ラック軸3に対して一様に面接触(面当たり)させることにより、その支持剛性を高めることができる。また、筒状部21の外周に形成された閉鎖空間X内にグリスGを封入することで、その内圧を利用して更に支持剛性を向上させることができる。その結果、ラック軸3の軸振れを抑制することでき、これにより、ラック軸3の締め代を適切に設定して摩擦抵抗の増加を抑えることができる。
【0038】
また、ラック軸3の軸方向移動時、各拡開部22が弾性変形することで、そのラック軸3との摩擦による筒状部21の軸方向移動が許容される。そして、これにより、ラック軸3の動き出しを円滑化することができる。更に、このとき、閉鎖空間X内に封入されたグリスGが筒状部21の外周を押圧することにより、筒状部21の筒形状及びそのラック軸3との一様な面接触状態が維持される。そして、これにより摺接面S(S´)が安定し、その摩擦抵抗が略一定に保たれることで、筒状部21が軸方向移動する際の軸力変化、即ち操舵初期の操舵トルク変化が、各拡開部22の弾性変形量に応じた略線形(リニア)になる。その結果、操舵初期の引っ掛かり感を抑えて、その操舵フィーリングを向上させることができる。
【0039】
そして、摺接面S(S´)におけるラック軸3との一様な面接触状態が維持されることで、各拡開部22が弾性変形した状態においても、その高い支持剛性を確保することができる。その結果、逆入力応力の印加等によるラック軸3の振動を抑えて、静粛性を向上させることができる。
【0040】
(2)拡開部22の厚みD1は、筒状部21の厚みD0よりも薄肉となるように設定される。これにより、筒状部21の弾性変形を抑えつつ、各拡開部22を弾性変形しやすくすることができる。
【0041】
なお、上記実施形態は以下のように変更してもよい。
・上記実施形態では、ハウジング2は、略円筒状に形成されたラックハウジング5の両端に、エンドハウジング6及びギヤハウジング8を連結することにより形成されることとした。しかし、ハウジング2の形状は、これに限るものではなく、例えば、その内部にラック軸を軸方向移動させる電動アクチュエータや油圧アクチュエータ等を内蔵するもの等に適用してもよい。
【0042】
・上記実施形態では、ラックブッシュ7は、ハウジング2(エンドハウジング6)の内周に形成された環状溝20に嵌着される。そして、環状溝20の両側壁23を規制部として軸方向移動が規制されるとともに、環状溝20の底面24を周壁部として、同底面24に各拡開部22の外周が嵌合することとした。しかし、これに限らず、各拡開部22と嵌合して、当該各拡開部22に挟まれた筒状部21の径方向外側に粘性流体を封入可能な閉鎖空間を形成する周壁部と、各拡開部22に当接してラックブッシュ7の軸方向移動を規制する規制部とを備える構成であればよい。例えば、ハウジングの内周に形成された突起を規制部とする構成であってもよい。また、周壁部についても、粘性流体を封入可能な閉鎖空間を形成することができればよく、その周面は、必ずしも平滑でなくともよい。
【0043】
・上記実施形態では、粘性流体としてグリスGを用いたが、これに限らず、例えば、潤滑油等、その他のものを用いてもよい。
・また、上記実施形態では、特に言及しなかったが、周壁部としての環状溝20の底面24と各拡開部22との間を液密に封止するシール構造を備える構成としてもよい。これにより、グリスGの漏出を抑えて、その圧力を有効に利用することができ、その結果、より効果的に操舵フィーリング及び静粛性の向上を図ることができるようになる。
【0044】
具体的には、図4に示すように、環状溝20の底面24と各拡開部22との間に、例えばOリング31のようなシール部材を介在させる。或いは、図5に示すように、弾性力により拡開する環状弾性部材32(例えば、Cリングやサークリップ等)を各拡開部22の内周に装着することで、その各拡開部22を環状溝20の底面24に押し付ける等とすればよい。尚、図4及び図5に示されるようなシール構造を採用する場合には、その各拡開部22に円筒部33を形成するとよい。これにより、そのシール性を向上させることができる。
【0045】
・更に、図6に示すラックブッシュ37のように、そのラック軸3との摺接面Sが形成される筒状部41の内周面41aに、当該内周面41aと面一となるように個体潤滑材45を埋設してもよい。これにより、摺接面Sにおけるラック軸3との一様な面接触状態を確保しつつ、摩擦抵抗を低減して、その動き出しをより円滑なものとすることができる。その結果、操舵初期の引っ掛かり感を抑えて、その操舵フィーリングを更に向上させることができる。
【0046】
次に、以上の実施形態から把握することのできる技術的思想を記載する。
(イ)ハウジングとラック軸との間に介在されて前記ラック軸に摺接することにより軸方向移動可能に該ラック軸を支持するラックブッシュであって、前記ラック軸が挿通されることにより内周に摺接面が形成される筒状部を備えるとともに、該筒状部の軸方向両端には、基端側から先端側に向かって拡径する拡開部が設けられること、を特徴とするラックブッシュ。
【0047】
(ロ)ハウジングとラック軸との間に介在されて前記ラック軸に摺接することにより軸方向移動可能に該ラック軸を支持するラックブッシュであって、前記ラック軸が挿通されることにより内周に摺接面が形成される筒状部を備えるとともに、該筒状部の軸方向両端には、基端側から先端側に向かって拡径する拡開部が設けられ、該各拡開部が前記ハウジングに当接することにより軸方向移動が規制されるとともに、前記各拡開部が前記ハウジングに嵌合することにより前記各拡開部に挟まれた前記筒状部の外周に粘性流体を封入可能な閉鎖空間を形成すること、を特徴とするラックブッシュ。
【0048】
(ハ)前記ラックブッシュは、前記ハウジングの内周に形成された環状溝に嵌着されること、を要旨とする。これにより、その底面を周壁部とするとともに、両側壁を規制部として利用することができる。
【0049】
(ニ)前記各拡開部の先端には円筒部が形成されること、を要旨とする。これにより、前記各拡開部と前記周壁部との間のシーリングが容易になる。
【符号の説明】
【0050】
1…車両用操舵装置、2…ハウジング、3…ラック軸、3a…ラック歯、4…ピニオン軸、4a…ピニオン歯、5…ラックハウジング、6…エンドハウジング、7…ラックブッシュ、8…ギヤハウジング、9…ラックガイド、10…ラック&ピニオン機構、11…ラックエンド、12…タイロッド、13…ブーツ、20…環状溝、21…筒状部、22…拡開部、23…側壁、24…底面、31…Oリング、32…環状弾性部材、33…円筒部、37…ラックブッシュ、41…筒状部、41a…内周面、45…個体潤滑材、S,S´…摺接面、X…閉鎖空間、G…グリス、D0,D1…厚み。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ハウジングとラック軸との間に介在されることにより軸方向移動可能に該ラック軸を支持するラックブッシュを備えた車両用操舵装置において、
前記ラックブッシュは、前記ラック軸が挿通されることにより内周に摺接面が形成される筒状部を備えるとともに、該筒状部の軸方向両端には、基端側から先端側に向かって拡径する拡開部が設けられ、
前記ハウジングは、前記各拡開部に当接して前記ラックブッシュの軸方向移動を規制する規制部と、前記各拡開部に嵌合して前記筒状部の外周に前記各拡開部に挟まれた閉鎖空間を形成する周壁部とを備えるとともに、
前記閉鎖空間には、粘性流体が封入されること、を特徴とする車両用操舵装置。
【請求項2】
請求項1に記載の車両用操舵装置において、
前記各拡開部と前記周壁部との間を液密に封止するシール構造を有すること、
を特徴とする車両用操舵装置。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載の車両用操舵装置において、
前記各拡開部は、前記筒状部よりも薄肉に形成されること、
を特徴とする車両用操舵装置。
【請求項4】
請求項1〜請求項3の何れか一項に記載の車両用操舵装置において、
前記摺接面には、個体潤滑材が埋設されること、
を特徴とする車両用操舵装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2013−28225(P2013−28225A)
【公開日】平成25年2月7日(2013.2.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−164404(P2011−164404)
【出願日】平成23年7月27日(2011.7.27)
【出願人】(000001247)株式会社ジェイテクト (7,053)
【Fターム(参考)】