説明

車両用歩行者保護装置

【課題】 車体前部が歩行者と衝突したときに、歩行者の上半身が後方に倒れる角速度をきるだけ小さく抑えながら衝突エネルギーを効果的に吸収する。
【解決手段】 バルクヘッドアッパーメンバ18の左右方向中央部は、歩行者との衝突前にはバンパービーム16の左右方向中央部よりも前方に位置し、歩行者との衝突後には衝突荷重によりバンパービーム16の左右方向中央部よりも後方に移動するので、歩行者の重心位置に近いバルクヘッドアッパーメンバ18に加わる衝突荷重を大きくして歩行者の重心位置から遠いバンパービーム16に加わる衝突荷重を小さくすることで、歩行者の上半身が後方に倒れる角速度を低減して歩行者の頭部の保護を図るとともに、バルクヘッドアッパーメンバ18の後方への変形量を充分に確保することで、歩行者の腰部に加わる衝突荷重が過大になるのを回避しながら衝突エネルギーを充分に吸収することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の車体前部に配置されて歩行者との衝突時に衝突エネルギーを吸収する車両用歩行者保護装置に関する。
【背景技術】
【0002】
車両が歩行者と衝突することが不可避と判断された場合に、車体左右方向に延びるアームをバンパーの下方から車体前方に突出させて歩行者の脚部に衝突させることで、歩行者の上半身をボンネットフード上に倒し込んで衝突エネルギーを吸収するものが、下記特許文献1により公知である。
【0003】
また車両が歩行者と衝突することが不可避と判断された場合に、エネルギー吸収機能を有するフロントグリルおよびロアバンパーを車体前方に突出させることで、歩行者の下半身に加わる衝突エネルギーをフロントグリルおよびロアバンパー分散させるものが、下記特許文献2により公知である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第4048461号公報
【特許文献2】特開2007−320530号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、上記特許文献1に記載された発明のように、歩行者の上半身をボンネットフード上に倒し込んで衝突エネルギーを吸収するものでは、歩行者の上半身が回転する角速度が大きい場合に頭部に大きな衝撃が加わることが懸念される。
【0006】
また上記特許文献2に記載された発明でも、ロアバンパーがフロントグリルよりも前方に突出するため、歩行者の脚部が強く前方に払われて上半身が後方に回転する角速度が大きくなり、頭部がボンネットフードに強く衝突する可能性がある。
【0007】
本発明は前述の事情に鑑みてなされたもので、車体前部が歩行者と衝突したときに、歩行者の上半身が後方に倒れる角速度をきるだけ小さく抑えながら衝突エネルギーを効果的に吸収することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、請求項1に記載された発明によれば、車両の車体前部に配置されて歩行者との衝突時に衝突エネルギーを吸収する車両用歩行者保護装置において、左右方向中央部が車体前方に向かって凸に湾曲し、歩行者の腰部に衝突して衝突エネルギーを吸収する腰部エネルギー吸収部材と、左右方向中央部が車体前方に向かって凸に湾曲し、歩行者の脚部に衝突して衝突エネルギーを吸収する脚部エネルギー吸収部材とを備え、前記腰部エネルギー吸収部材の左右方向中央部は、歩行者との衝突前には前記脚部エネルギー吸収部材の左右方向中央部よりも前方に位置し、歩行者との衝突後には衝突荷重により前記脚部エネルギー吸収部材の左右方向中央部よりも後方に移動することを特徴とする車両用歩行者保護装置が提案される。
【0009】
また請求項2に記載された発明によれば、請求項1の構成に加えて、前記腰部エネルギー吸収部材の左右方向両端部は車体フレームに回転可能に連結されることを特徴とする車両用歩行者保護装置が提案される。
【0010】
また請求項3に記載された発明によれば、請求項1または請求項2の構成に加えて、前記腰部エネルギー吸収部材の左右方向両端部の少なくとも一方は、前記車体フレームに対して摺動可能に連結されることを特徴とする車両用歩行者保護装置が提案される。
【0011】
また請求項4に記載された発明によれば、請求項1〜請求項3の何れか1項の構成に加えて、前記腰部エネルギー吸収部材から後方に突設した取付ブラケットに冷却装置の上部を支持したことを特徴とする車両用歩行者保護装置が提案される。
【0012】
また請求項5に記載された発明によれば、請求項1〜請求項4の何れか1項の構成に加えて、前記腰部エネルギー吸収部材の左右方向中央部にボンネットフードの前端を固定するフードロックが設けられ、かつ前記左右方向中央部は上下方向に延びる連結部材を介して前記脚部エネルギー吸収部材の左右方向中央部に連結されることを特徴とする車両用歩行者保護装置が提案される。
【0013】
また請求項6に記載された発明によれば、請求項5の構成に加えて、前記連結部材は、前記脚部エネルギー吸収部材との連結部に屈曲容易な脆弱部を備えることを特徴とする車両用歩行者保護装置が提案される。
【0014】
また請求項7に記載された発明によれば、請求項5または請求項6の構成に加えて、前記連結部材は、前記脚部エネルギー吸収部材との連結部に該脚部エネルギー吸収部材に対して前後摺動可能な摺動部を備えることを特徴とする車両用歩行者保護装置が提案される。
【0015】
尚、実施の形態のステー14は本発明の車体フレームに対応し、実施の形態のバンパービーム16は本発明の脚部エネルギー吸収部材に対応し、実施の形態のバルクヘッドアッパーメンバ18は本発明の腰部エネルギー吸収部材に対応し、実施の形態のセンタービーム19は本発明の連結部材に対応し、実施の形態のノッチ19aは本発明の脆弱部に対応し、実施の形態の長孔19bは本発明の摺動部に対応し、実施の形態のラジエータ取付ブラケット24およびコンデンサ取付ブラケット25は本発明の取付ブラケットに対応し、実施の形態のラジエータ28およびコンデンサ29は本発明の冷却装置に対応する。
【発明の効果】
【0016】
請求項1の構成によれば、腰部エネルギー吸収部材の左右方向中央部は、歩行者との衝突前には脚部エネルギー吸収部材の左右方向中央部よりも前方に位置し、歩行者との衝突後には衝突荷重により脚部エネルギー吸収部材の左右方向中央部よりも後方に移動するので、歩行者の重心位置に近い腰部エネルギー吸収部材に加わる衝突荷重を大きくして歩行者の重心位置から遠い脚部エネルギー吸収部材に加わる衝突荷重を小さくすることで、歩行者の上半身が後方に倒れる角速度を低減して歩行者の頭部の保護を図るとともに、腰部エネルギー吸収部材の後方への変形量を充分に確保することで、歩行者の腰部に加わる衝突荷重が過大になるのを回避しながら衝突エネルギーを充分に吸収することができる。また歩行者が車体中心部から左右方向にオフセットした位置に衝突した場合、腰部エネルギー吸収部材および脚部エネルギー吸収部材は変形し難いので衝突エネルギーの吸収効果が低くなるが、腰部エネルギー吸収部材および脚部エネルギー吸収部材は左右方向中央部が車体前方に向かって凸に湾曲しているので、歩行者を衝突位置から左右方向外側に逃がして衝突荷重を低減することができる。
【0017】
また請求項2の構成によれば、腰部エネルギー吸収部材の左右方向両端部が車体フレームに回転可能に連結されるので、衝突荷重で腰部エネルギー吸収部材が後方に変形して車体フレームとの連結部に曲げ荷重が作用しても、前記曲げ荷重による車体フレームの変形を最小限に抑えることができる。
【0018】
また請求項3の構成によれば、腰部エネルギー吸収部材の左右方向両端部の少なくとも一方が車体フレームに対して摺動可能に連結されるので、衝突荷重で腰部エネルギー吸収部材が後方に変形して車体フレームとの連結部に車体左右方向中央から外向きの荷重が作用しても、前記荷重による車体フレームの変形を最小限に抑えることができる。
【0019】
また請求項4の構成によれば、腰部エネルギー吸収部材から後方に突設した取付ブラケットに冷却装置の上部を支持したので、衝突荷重で腰部エネルギー吸収部材が後方に変形したときに冷却装置の上部を後方に倒すことで、冷却装置の損傷を最小限に抑えることができる。
【0020】
また請求項5の構成によれば、腰部エネルギー吸収部材の左右方向中央部にボンネットフードの前端を固定するフードロックが設けられ、かつ前記左右方向中央部は上下方向に延びる連結部材を介して脚部エネルギー吸収部材の左右方向中央部に連結されるので、ボンネットフードを強く閉じたときに、その荷重をフードロックおよび連結部材を介して脚部エネルギー吸収部材に伝達することができる。
【0021】
また請求項6の構成によれば、連結部材は脚部エネルギー吸収部材との連結部に屈曲容易な脆弱部を備えるので、腰部エネルギー吸収部材だけに衝突荷重が入力する軽衝突時に、連結部材の脆弱部が変形して脚部エネルギー吸収部材が変形するのを防止することで、脚部エネルギー吸収部材のリペアコストを軽減することができる。
【0022】
また請求項7の構成によれば、連結部材は脚部エネルギー吸収部材との連結部に該脚部エネルギー吸収部材に対して前後摺動可能な摺動部を備えるので、腰部エネルギー吸収部材だけに衝突荷重が入力する軽衝突時に、連結部材の摺動部が摺動して脚部エネルギー吸収部材が変形するのを防止することで、脚部エネルギー吸収部材のリペアコストを軽減することができる。逆に、脚部エネルギー吸収部材だけに衝突荷重が入力する軽衝突時には、連結部材の摺動部が摺動して脚部エネルギー吸収部材だけが変形することで腰部エネルギー吸収部材の変形を防止し、腰部エネルギー吸収部材のリペアコストを軽減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】自動車の車体前部の斜視図。(第1の実施の形態)
【図2】図1の2−2線断面図。(第1の実施の形態)
【図3】図1の3方向矢視図。(第1の実施の形態)
【図4】歩行者との衝突時の作用説明図。(第1の実施の形態)
【図5】歩行者との衝突時の作用説明図。(第1の実施の形態)
【図6】歩行者との衝突時の作用説明図。(第1の実施の形態)
【図7】腰部エネルギー吸収部材および脚部エネルギー吸収部材の配置を示す図。(第2の実施の形態)
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、図1〜図6に基づいて本発明の第1の実施の形態を説明する。
【0025】
図1〜図3に示すように、自動車の車体前部の左右両側部に車体前後方向に延びる左右一対のフロントサイドフレーム11,11が配置される。左右一対のフロントピラー(不図示)の前端から車体前下方に延びる左右一対のアッパーメンバ12,12の前端は、左右方向に延びる左右一対のステー13,13を介してフロントサイドフレーム11,11の前端外側面に接続される。アッパーメンバ12,12の前端から僅かに後方位置から左右一対の湾曲したステー14,14が相互に接近する方向に延び、その内端が左右一対のバルクヘッドサイドメンバ15,15を介してフロントサイドフレーム11,11の前端に結合される。左右方向に配置されたバンパービーム16の両端が、ステー17,17を介してフロントサイドフレーム11,11の前端に結合される。
【0026】
左右のステー14,14の相互に対向する内端および左右のバルクヘッドサイドメンバ15,15の上端にバルクヘッドアッパーメンバ18の左右両端が結合され、バルクヘッドアッパーメンバ18の左右方向中央部とバンパービーム16の左右方向中央部とが上下方向に延びるセンタービーム19で連結される。そして左右のバルクヘッドサイドメンバ15,15の下端にバルクヘッドロアメンバ20の左右両端が結合される。
【0027】
バルクヘッドアッパーメンバ18は平面視で前方に向かってU字状ないしV字状に湾曲しており、その右端がピン21で右側のステー14の左右方向内端に回転可能に連結されるとともに、その左端に形成した長孔18aがピン22で左側のステー14の左右方向内端に回転可能かつ摺動可能に連結される。上端をバルクヘッドアッパーメンバ18に固定されたセンタービーム19は、その下部にノッチ19aよりなる脆弱部が形成され、かつ下端に設けた長孔19bがバンパービーム16の上面にピン23で摺動可能に連結される。バンパービーム16は中央部が車体前方に張り出すように弧状に湾曲しているが、U字状ないしV字状に湾曲するバルクヘッドアッパーメンバ18の中央部はバンパービーム16の中央部よりも車体前方側に突出する。よってセンタービーム19は上端が下端よりも車体前方側に突出するように傾斜して配置される。
【0028】
バルクヘッドアッパーメンバ18の後縁には、一対のラジエータ取付ブラケット24,24と、一対のコンデンサ取付ブラケット25,25とが突設され、かつバルクヘッドロアメンバ20の上面には、一対のゴム製のラジエータ支持部材26,26と、一対のゴム製のコンデンサ支持部材27,27とが設けられる。そしてラジエータ取付ブラケット24,24およびラジエータ支持部材26,26間にラジエータ28が支持されるとともにコンデンサ取付ブラケット25,25およびコンデンサ支持部材27,27間にコンデンサ29が支持される。
【0029】
エンジンルームの上方を覆うボンネットフード30の前端に設けたストライカ31を係止するフードロック32と、ボンネットフード30の前端を弾性的に支持するストッパ33とが、バルクヘッドアッパーメンバ18の中央部上面に設けられる。
【0030】
次に、上記構成を備えた本発明の実施の形態の作用を説明する。
【0031】
図4において、車両が車速Vveh で歩行者に衝突する場合を考える。歩行者との衝突により、腰部エネルギー吸収部材であるバルクヘッドアッパーメンバ18が衝突荷重Fhip で後方に距離Xhip だけ移動し、脚部エネルギー吸収部材であるバンパービーム16が衝突荷重Fleg で後方に距離Xleg だけ移動したとする。このとき、衝突により車速Vveh まで加速された歩行者の運動エネルギーがバルクヘッドアッパーメンバ18およびバンパービーム16の後退により吸収されると仮定すると、エネルギー保存則
(1/2)MVveh 2 =Fhip hip +Fleg leg …(1)
が成立する。尚、Mは歩行者の質量である。
【0032】
また歩行者の重心位置Gまわりの慣性モーメントIとし、歩行者の重心位置Gまわりの角加速度をdω/dtとすると、角運動方程式
I(dω/dt)=Fhip hip +Fleg leg …(2)
が成立する。尚、Lhip は歩行者の重心位置Gからバルクヘッドアッパーメンバ18までのモーメントアームであり、Lleg は歩行者の重心位置Gからバンパービーム16までのモーメントアームである。
【0033】
式(2)において、歩行者の頭部がボンネットフード30に衝突する角速度を小さくするには、左辺の角加速度をdω/dtを小さくすることが必要であり、そのためには右辺第1項の腰部の衝突荷重Fhip によるモーメントFhip hip と、右辺第2項の脚部の衝突荷重Fleg よるモーメントFleg leg とを小さくすることが必要である。
【0034】
このとき、腰部の衝突荷重Fhip および脚部の衝突荷重Fleg の両方を小さくできれば理想的であるが、現実的には腰部の衝突荷重Fhip および脚部の衝突荷重Fleg の和はほぼ一定であるため、腰部の衝突荷重Fhip および脚部の衝突荷重Fleg の一方を大きくして他方を小さくすることしかできない。
【0035】
そこで重心位置Gからバルクヘッドアッパーメンバ18までのモーメントアームLhip および重心位置Gからバンパービーム16までのモーメントアームLleg に着目すると、Lhip <Lleg であるため、大きい方のモーメントアームLleg に乗算される脚部の衝突荷重Fleg を小さくし、小さい方のモーメントアームLhip に乗算される腰部の衝突荷重Fhip を大きくすることで、式(2)の右辺のモーメントの総和を最小化し、左辺の歩行者の重心位置まわりの角加速度をdω/dtを最小化して頭部の角速度を減少させることができる。
【0036】
この点に関し、上記特許文献1および上記特許文献2に記載された発明は、車体が歩行者の腰部よりも先に歩行者の脚部に衝突するようになっているため、腰部の衝突荷重Fhip よりも脚部の衝突荷重Fleg の方が大きくなってしまい、式(2)の右辺のモーメントの総和が大きくなって頭部の角速度が増加する問題がある。
【0037】
一方、本実施の形態では、車両が歩行者に衝突するときにバルクヘッドアッパーメンバ18がバンパービーム16よりも前方に突出しているため、腰部の衝突荷重Fhip を脚部の衝突荷重Fleg よりも大きくし、これにより歩行者の頭部の角速度を最小限に抑え、頭部がボンネットフード30に衝突したときの衝撃を軽減することができる。
【0038】
このように、歩行者の頭部の角速度を最小限に抑えるには腰部の衝突荷重Fhip を大きくして脚部の衝突荷重Fleg を小さくすることが有効であるが、腰部の衝突荷重Fhip が過大になると歩行者の腰部に傷害が発生する可能性があるため、制限値を超えて腰部の衝突荷重Fhip を増加させることは困難である。式(1)の右辺第1項はバルクヘッドアッパーメンバ18による衝突エネルギーの吸収量であるが、その腰部の衝突荷重Fhip を大きくできない場合であっても、バルクヘッドアッパーメンバ18の変形による腰部の後方への移動距離Xhip を大きくすることで、バルクヘッドアッパーメンバ18によるエネルギー吸収量を最大限に増加させ、バンパービーム16によるエネルギー吸収量の負担分を減少させることで、歩行者の頭部の角速度を低下させることができる。
【0039】
具体的には、図5(A)に示すように、歩行者に車両の前部が衝突するとき、先ず車体前方側に突出するバルクヘッドアッパーメンバ18が歩行者の腰部に接触し、歩行者の重心位置Gの速度VP が次第に増加する。図5(B)に示す衝突初期には、バルクヘッドアッパーメンバ18が歩行者の腰部との衝突により後退して衝突エネルギーを吸収するとともに、バルクヘッドアッパーメンバ18に遅れてバンパービーム16が歩行者の脚部に接触する。
【0040】
図6(C)に示す衝突中期には、バルクヘッドアッパーメンバ18が更に後退するとともに、バンパービーム16が歩行者の脚部との衝突により後退するが、バンパービーム16が後退可能なストロークは小さく設定されているため、この衝突中期で後退が完了する。そしてバンパービーム16に脚部を前方に払われた歩行者は重心位置Gを中心に上半身が後方に回転する。このとき、腰部の衝突荷重Fhip が制限値を超えないようにバルクヘッドアッパーメンバ18の剛性を低く設定しても、腰部の後方への移動距離Xhip が大きいために腰部の衝突エネルギーを充分に吸収することができ、かつバンパービーム16の後退によっても衝突エネルギーを吸収することができる。そして腰部の衝突荷重Fhip を制限値の範囲内で最大限に確保することで、脚部の衝突荷重Fleg をできるだけ小さく抑え、歩行者の重心位置Gまわりのモーメントを小さく抑制して頭部の角速度が増加するのを防止することができる。
【0041】
図6(D)に示す衝突後期には、バンパービーム16が後退を停止してバルクヘッドアッパーメンバ18だけが後退することで残りの衝突エネルギーを吸収する。この段階で歩行者の頭部がボンネットフード30に衝突する可能性があるが、上述したように頭部の角速度は最小限に抑えられているため、頭部の傷害を軽減することができる。
【0042】
以上のように、本実施の形態によれば、バルクヘッドアッパーメンバ18は、歩行者との衝突前にはバンパービーム16よりも前方に位置し、歩行者との衝突後には衝突荷重によりバンパービーム16よりも後方に移動するので、歩行者の重心位置Gに近いバルクヘッドアッパーメンバ18に加わる衝突荷重を大きくして歩行者の重心位置Gから遠いバンパービーム16に加わる衝突荷重を小さくすることで、歩行者の上半身が後方に倒れる角速度を低減して歩行者の頭部の保護を図るとともに、バルクヘッドアッパーメンバ18の後方への変形量を充分に確保することで、歩行者の腰部に加わる衝突荷重が過大になるのを回避しながら衝突エネルギーを充分に吸収することができる。
【0043】
またバルクヘッドアッパーメンバ18はバンパービーム16よりも細く低剛性であり、かつ両端がピン21,22および長孔18aで回転可能かつ摺動可能に支持されているため、バルクヘッドアッパーメンバ18はバンパービーム16よりも小さい荷重で後方に移動可能である。これにより、バルクヘッドアッパーメンバ18の後方への移動量を増加させてエネルギー吸収量を確保しながら、バルクヘッドアッパーメンバ18から歩行者の腰部に入力する衝突荷重が過大になるのを防止することができる。
【0044】
またバルクヘッドアッパーメンバ18のエネルギー吸収量はバンパービーム16のエネルギー吸収量よりも大きいので、歩行者の重心位置Gからの距離が大きいバンパービーム16から歩行者の脚部に入力する衝突荷重を小さくし、歩行者の上体が後方に急激に倒れないようにして頭部の角速度を効果的に低減することができる。
【0045】
またバルクヘッドアッパーメンバ18およびバンパービーム16は左右両端部において支持されているので、歩行者がバルクヘッドアッパーメンバ18およびバンパービーム16の左右方向中央部に衝突した場合に容易に変形してエネルギー吸収効果が効果的に発揮される。一方、歩行者がバルクヘッドアッパーメンバ18およびバンパービーム16の左右方向中央部から左右方向にオフセットした位置に衝突した場合、バルクヘッドアッパーメンバ18およびバンパービーム16は変形し難いのでエネルギー吸収効果が低くなるが、バルクヘッドアッパーメンバ18およびバンパービーム16は左右方向中央部が車体前方に向かって凸に湾曲しているので、歩行者を衝突位置から左右方向外側に逃がして衝突荷重を低減することができる。
【0046】
またバルクヘッドアッパーメンバ18の左右方向両端部がステー14,14にピン21,22で回転可能に連結されるので、衝突荷重でバルクヘッドアッパーメンバ18が後方に変形してステー14,14との連結部に曲げ荷重が作用しても、前記曲げ荷重によるステー14,14の変形を最小限に抑えることができる。
【0047】
またバルクヘッドアッパーメンバ18の一端部が左右一方のステー14に対して長孔18aおよびピン22で摺動可能に連結されるので、衝突荷重でバルクヘッドアッパーメンバ18が後方に変形して左右のステー14,14との連結部に車体左右方向中央から外向きの荷重が作用しても、前記荷重によるステー14,14の変形を最小限に抑えることができる。
【0048】
またバルクヘッドアッパーメンバ18から後方に突設したラジエータ取付ブラケット24,24およびコンデンサ取付ブラケット25,25にラジエータ28およびコンデンサ29の上部をそれぞれ支持したので、衝突荷重でバルクヘッドアッパーメンバ18が後方に変形したときにラジエータ28およびコンデンサ29の上部をバルクヘッドアッパーメンバ18と共に後方に倒すことで、ラジエータ28およびコンデンサ29の損傷を最小限に抑えることができる。
【0049】
またバルクヘッドアッパーメンバ18の左右方向中央部にボンネットフード30の前端のストライカ31を固定するフードロック32が設けられ、かつバルクヘッドアッパーメンバ18の左右方向中央部は上下方向に延びるセンタービーム19を介してバンパービーム16の左右方向中央部に連結されるので、ボンネットフード30を強く閉じたときに、その荷重をフードロック32およびセンタービーム19を介してバンパービーム16に伝達することができる(図2参照)。
【0050】
またセンタービーム19はバンパービーム16との連結部に屈曲容易なノッチ19aを備えるとともに、長孔19bおよびピン23を介してバンパービーム16に前後摺動可能に支持されるので、バルクヘッドアッパーメンバ18だけに衝突荷重が入力する軽衝突時に、センタービーム19がノッチ19aにおいて変形し、あるいは長孔19bがピン23に対して摺動することで、バンパービーム16の変形を防止してリペアコストを軽減することができる。
【0051】
次に、図7に基づいて本発明の第2の実施の形態を説明する。
【0052】
第2の実施の形態は、腰部エネルギー吸収部材18,18を上下に2分割し、脚部エネルギー吸収部材16,16を上下に2分割したものである。このように、腰部エネルギー吸収部材18,18および脚部エネルギー吸収部材16,16を上下に2分割することで、各々の高さ、剛性、後退量等を変化させて設計自由度を高めることができる。
【0053】
以上、本発明の実施の形態を説明したが、本発明はその要旨を逸脱しない範囲で種々の設計変更を行うことが可能である。
【0054】
例えば、本発明の腰部エネルギー吸収部材は実施の形態のバルクヘッドアッパーメンバ18に限定されるものではなく、本発明の脚部エネルギー吸収部材は実施の形態のバンパービーム16に限定されるものではない。
【0055】
また実施の形態ではバルクヘッドアッパーメンバ18およびバンパービーム16を車体に固定しているが、それらの一方あるいは両方を車体に前後移動可能に設けても良い。この場合、車両が歩行者と衝突することが避けられないと判断されたとき、バルクヘッドアッパーメンバ18および/またはバンパービーム16を前方に移動させ、バルクヘッドアッパーメンバ18をバンパービーム16よりも前方に位置させれば良い。
【0056】
また実施の形態ではバルクヘッドアッパーメンバ18の右端をピン21で回転可能に支持し、左端を長孔18aおよびピン22で回転可能かつ摺動可能に支持しているが、右端および左端の支持の仕方を逆にしても良いし、左右両端を摺動可能に支持しても良い。
【0057】
また実施の形態ではバンパービーム16に対してセンタービーム19を長孔19bにより後方に摺動可能にしているが、センタービーム19に対してバンパービーム16を長孔19bにより後方に摺動可能にしても良い。このようにすれば、バンパービーム16だけに衝突荷重が入力する軽衝突時に、センタービーム19の長孔19bが摺動してバンパービーム16だけが変形することでバルクヘッドアッパーメンバ18の変形を防止し、バルクヘッドアッパーメンバ18のリペアコストを軽減することができる。
【符号の説明】
【0058】
14 ステー(車体フレーム)
16 バンパービーム(脚部エネルギー吸収部材)
18 バルクヘッドアッパーメンバ(腰部エネルギー吸収部材)
19 センタービーム(連結部材)
19a ノッチ(脆弱部)
19b 長孔(摺動部)
24 ラジエータ取付ブラケット(取付ブラケット)
25 コンデンサ取付ブラケット(取付ブラケット)
28 ラジエータ(冷却装置)
29 コンデンサ(冷却装置)
30 ボンネットフード
32 フードロック

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の車体前部に配置されて歩行者との衝突時に衝突エネルギーを吸収する車両用歩行者保護装置において、
左右方向中央部が車体前方に向かって凸に湾曲し、歩行者の腰部に衝突して衝突エネルギーを吸収する腰部エネルギー吸収部材(18)と、左右方向中央部が車体前方に向かって凸に湾曲し、歩行者の脚部に衝突して衝突エネルギーを吸収する脚部エネルギー吸収部材(16)とを備え、
前記腰部エネルギー吸収部材(18)の左右方向中央部は、歩行者との衝突前には前記脚部エネルギー吸収部材(16)の左右方向中央部よりも前方に位置し、歩行者との衝突後には衝突荷重により前記脚部エネルギー吸収部材(16)の左右方向中央部よりも後方に移動することを特徴とする車両用歩行者保護装置。
【請求項2】
前記腰部エネルギー吸収部材(18)の左右方向両端部は車体フレーム(14)に回転可能に連結されることを特徴とする、請求項1に記載の車両用歩行者保護装置。
【請求項3】
前記腰部エネルギー吸収部材(18)の左右方向両端部の少なくとも一方は、前記車体フレーム(14)に対して摺動可能に連結されることを特徴とする、請求項1または請求項2に記載の車両用歩行者保護装置。
【請求項4】
前記腰部エネルギー吸収部材(18)から後方に突設した取付ブラケット(24,25)に冷却装置(28,29)の上部を支持したことを特徴とする、請求項1〜請求項3の何れか1項に記載の車両用歩行者保護装置。
【請求項5】
前記腰部エネルギー吸収部材(18)の左右方向中央部にボンネットフード(30)の前端を固定するフードロック(32)が設けられ、かつ前記左右方向中央部は上下方向に延びる連結部材(19)を介して前記脚部エネルギー吸収部材(16)の左右方向中央部に連結されることを特徴とする、請求項1〜請求項4の何れか1項に記載の車両用歩行者保護装置。
【請求項6】
前記連結部材(19)は、前記脚部エネルギー吸収部材(16)との連結部に屈曲容易な脆弱部(19a)を備えることを特徴とする、請求項5に記載の車両用歩行者保護装置。
【請求項7】
前記連結部材(19)は、前記脚部エネルギー吸収部材(16)との連結部に該脚部エネルギー吸収部材(16)に対して前後摺動可能な摺動部(19b)を備えることを特徴とする、請求項5または請求項6に記載の車両用歩行者保護装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−218912(P2011−218912A)
【公開日】平成23年11月4日(2011.11.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−88640(P2010−88640)
【出願日】平成22年4月7日(2010.4.7)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】